マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
海馬・遊戯・孔雀舞「 「 「 ライディングデュエル! アクセラレーション!! 」 」 」




第106話 そりゃそうなるわな

 

 KCに急停車しつつあるバイクから直ぐさま飛び降りた遊戯はバイクを停車させた背後の海馬へと問いかけながら受付へと駆け出す。

 

「海馬! 城之内くんの居場所を探すにはどうすれば良い!!」

 

 だが海馬が言葉を返すよりも先に遊戯の前に人影が現れた。

 

「おっと、武藤くんか」

 

 その人影は駆ける遊戯の両肩を抑え、遊戯を静止させる。その遊戯よりも頭一つ背の高い赤髪の男は――

 

「アンタは確か牛尾の上司の! 頼む! 城之内くんが!!」

 

 ギース・ハント――レベッカとの一件で顔を合わせた程度だが、遊戯の既知の相手。

 

「ああ、その件か。それなら――」

 

「あっ、ダーリン!! ――ってもう一人の方か……」

 

 遊戯の問いかけにギースが口を開く前に遊戯の特徴的な頭を視界に入れたレベッカの声が響く。

 

「レベッカ?」

 

「でも此処でダーリン……今は遊戯だけど……に会えるなんてやっぱり私たち、運命の赤い糸で結ばれ――」

 

 何故KCにレベッカがいるのかと疑問を浮かべる遊戯を余所にレベッカは愛しの人と――今の人格は違うが――会えた運命に酔いしれる。

 

 だが遊戯の背後から若干遅れてKCに到着した孔雀舞が険しい表情で声を張る。

 

「後にしなさい! 緊急事態なのよ!!」

 

「そうなんだ、レベッカ!! 今は城之内くんが!!」

 

「えっ? 城之内がどうかしたの?」

 

 今は子供の相手をしている暇はないのだ、と言わんばかりの形相の孔雀舞に遊戯も城之内に危険が迫っていることを手早く話そうとするが、レベッカには遊戯の危機感は伝わっていない。

 

「グールズの奴らに狙われて――」

 

 

 

 

 

 

此処(KC)で食事中みたいだったけど」

 

「――危険なんだ!!」

 

 だが遊戯が事情を説明し終える前に語られたレベッカの言葉に遊戯の頭は真っ白になる――聞いていた話と違うと。

 

「…………えっ?」

 

「どうしたの、遊戯?」

 

 そんな遊戯に首を傾げつつ心配気に窺うレベッカ。言葉を失っている孔雀舞。そして背後で苛立ち気に静観する海馬。

 

 

 何処か痛々しい沈黙が流れる。

 

「…………詳しい経緯は私が説明しよう」

 

「……頼む、ギースさん」

 

 だがその沈黙はギースによって打ち破られ、遊戯も何が何だか分からない状況に粛々と願い出た。

 

 

 

 

 

 

 やがてギースの説明に安堵の表情を浮かべていく遊戯。

 

「――と言う訳だ。天馬くんたちにもこの情報は伝達してある。そして助けが遅くなって本当に申し訳ない」

 

 そして説明を終えたギースは静かに頭を下げる――此方(KC)の不手際だったと。

 

「いや、俺は城之内くんが無事ならそれで」

 

「ふぅん、凡骨の分際で随分と場を引っかき回してくれたものだ」

 

「全く心配させるんだから……」

 

 安堵の溜息を吐く遊戯に、苛立ち気な海馬、額に手を当て呆れ顔の孔雀舞といった具合に三者三様の反応を見せつつ、頭を上げたギースの案内で城之内がいる食堂へと向かう一同。

 

 

 

 

 

 そこにあったのは――

 

「おお、遊戯! ――と海馬……それに舞も! お前らもKCでメシ食いに来たのか! ここの食堂のメシは美味くてなぁ……牛尾のヤツこんな美味いもん食ってんのかよ……」

 

 牛丼をかっ込みつつ、その味に舌つづみを打つ城之内の姿。遊戯に気付き手を振るも牛丼を食す手は止まらない。

 

 その城之内の姿を呆れ顔で見つつ同席する本田と御伽。

 

 そんな変わらぬ仲間たちの姿に肩の力を抜きつつ歩み寄る遊戯。そして城之内の隣に力が抜けたように腰掛けるが――

 

「いや、俺は城之内くんがグールズに狙われる話を聞いて――ッ! 蛭谷!? 何故貴様が此処に!!」 

 

 城之内の向こう側にいた蛭谷にようやく気付いた遊戯は警戒からか飛びのくように立ちあがる。

 

 その後、蛭谷の目的を探るように強く睨む遊戯。対する蛭谷は粛々と遊戯の視線を受けとめていた。

 

「待ってくれ、遊戯! 今回はコイツのお陰で俺たちは助かったんだ!」

 

 だが城之内がそんな蛭谷を庇う様に牛丼を置きつつ遊戯の前に立ち塞がり、ギースが知らないことになっているゆえに遊戯には説明されていなかった事の顛末を語り始めた。

 

 

「――ってことがあってだな!」

 

 語り終えた城之内の姿に庇って貰えた事実が嬉しいのか小さく笑い遊戯に手を差し出す蛭谷。

 

「フフ……久しぶりだな、遊戯」

 

「俺はお前を許した訳じゃない……」

 

 だが遊戯はその蛭谷の手を取りはしない――遊戯からすれば、かつて蛭谷が城之内にした仕打ちを考えれば、素直に手を取り合うことは出来なかった。

 

 しかし蛭谷は自身の手を引っ込めつつその掌を見てポツリと零す。

 

「なぁに、初めから許して貰おうなんて考えちゃいねぇさ。俺は行動で示し続ける――それしか出来ねぇからな……」

 

「そうか……なら俺からお前に言うことはないぜ」

 

 そんな真っ直ぐな蛭谷の姿に矛先を収める遊戯。

 

 

 両者の間に何とも言えぬ空気が溝となるが、そんな空気を入れ替えるように手を叩くレベッカの姿に一同の視線が集中する。

 

「――で話は終わったの? だったらダーリンの方に替わって頂戴! 久しぶりに話したいもの!」

 

 そのレベッカの提案に遊戯は内心でもう一人の表の遊戯へと意識を向け――

 

「――っと、そういえばレベッカはどうしてKCに? まさかグールズの被害に――」

 

 表の遊戯と入れ替わり、レベッカへと問いかけるが――

 

「ダーリン!」

 

 レベッカはそんな遊戯の言葉を遮るように首元に飛びつき、爛々と笑顔で語りだす。

 

「ダーリンも知っての通り、おじいちゃんのブルーアイズのことで海馬とデュエルするのはちゃんと終わったんだけど――」

 

 そう言葉を区切りつつ、海馬のぞんざいな対応を思い出し「キッ」と海馬を睨むレベッカだったが、すぐさま遊戯へと機嫌よく視線を戻し、続きを話す。

 

「――私……ダーリンの応援がしたくって……だからKCの本部で確認したら、本戦の出場者がOKすれば本戦の場所に案内してくれるって話になったの!」

 

 この取り決めはバトルシティにて遊戯たちのいつものメンバーが本戦の会場であるバトルシップに乗るであろうことは分かっているゆえに神崎がねじ込んだ処置である。

 

 一応、KCとしても個人を贔屓するような真似は避けねばならない――建前は大事なのだ。

 

「だから此処でダーリンの予選突破の報告を待ってたのよ! ダーリンなら余裕でしょ!」

 

「そうだったんだ……」

 

 遊戯ならば予選を突破できると信じきったレベッカのキラキラとした真っ直ぐな瞳に若干、気圧され気味な遊戯。

 

 だが、レベッカの説明を聞いていた城之内が今、思いついたと手を叩く。

 

「そうだ! 折角だし――蛭谷、オメェも俺の応援に来いよ!」

 

 蛭谷に対する溝が遊戯から感じられたゆえの城之内の提案だったが――

 

「ありがたい申し出だが、パスだ――先約があってな」

 

 蛭谷は嘘を交えつつ、きっぱりと断る。

 

 蛭谷はこれ以上、遊戯たちの間に踏み込むつもりはなかった――今の自分にそんな資格などないのだと。

 

「そうか……ならしょうがねぇか……」

 

「そうしょげるな、城之内。本戦の様子はテレビ中継される――お前の活躍はしっかりと眺めさせて貰うさ」

 

 少し肩を落とす城之内の姿に申し訳なさげにフォローを入れる蛭谷だったが、城之内は立ち上がり力こぶを作りながら豪語する。

 

「へっ、なら俺のデュエリストレベルマックスな実力を見せつけてやるぜ!!」

 

 

 城之内なりの「気にするな」との返答に蛭谷は小さく嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 そんなこんなで話が纏まったと城之内は拳を打ち鳴らす。

 

「うっし、腹も膨れたことだし、いっちょ本戦会場へ向かうか!」

 

「ならアタシの車で――って全員は無理ね……」

 

 口火を切った城之内にそう提案する孔雀舞だったが、一同の人数は孔雀舞を含めて7人――少々人数オーバーだ。

 

「なら此方(KC)で一台車を回そう」

 

「ふぅん、なら俺は其方に乗らせて貰おう――凡骨と同じ車内では煩くて敵わんからな」

 

 そんな困り顔の孔雀舞にギースは連絡を入れながら気を利かせ、海馬はその提案に乗りつつ城之内に向けて鼻を鳴らす。

 

 海馬のあからさまな挑発に城之内が怒りを示す前に孔雀舞がズイッと前に出て城之内を引きつつ――

 

「なら城之内はアタシと一緒ね!!」

 

 決定事項だと有無を言わせず城之内に圧をかける――肝心の城之内が引き気味に戸惑っているのは見ないでやってください。

 

「じゃあ、ダーリンは私と一緒よ!」

 

 そんな「このビッグウェーブに乗るっきゃねぇ!」な心持でレベッカも遊戯の腕を取り――

 

「そんじゃぁ、俺は城之内と一緒に舞の車に同乗させて貰うぜ――頑張りな、遊戯ー」

 

 ニヤニヤしつつ外堀を埋める本田。

 

「ほ、本田君!」

 

「成程、じゃぁ僕も城之内君たちにご同行させて貰うよ」

 

 遊戯の反応を見て全てを察した御伽もその後に続き――

 

 

「行くぞ、遊戯!」

 

 

 そんなライバルである遊戯との語らいの場にどこか機嫌の良さそうな海馬の相変わらずな言葉と姿に遊戯は肩をガクッと落とした――よっ、色男!

 

 

 

 

 

 しかし若干の上方修正がかかった海馬の機嫌も――

 

「さぁ、乗ってください! レッツゴーですぞ!」

 

 海馬の前に止まった車の運転席に座るハイテンションな老人の姿に一気に下降する。

 

「何故、貴様が此処にいる……」

 

「海馬くんの知り合いなの?」

 

 ウッキウキな老人に鋭い視線を向ける海馬におずおずと遊戯は尋ねるが――

 

「ダーリン! この人、天才物理学者のアルベルト・ツバインシュタインよ! 人類最高峰の頭脳を持つなんて言われる程の有名人!」

 

 それよりもレベッカが答える方が早い――飛び級で大学まで駆け上がった天才少女たるレベッカには良く聞く名前だった。

 

 しかし遊戯には当然の疑問が浮かぶ。

 

「でも何でそんなスゴイ人が運転手を?」

 

 そう、それ程の学者が何故遊戯たちの運転手を買って出たのかだ。その遊戯の当然の疑問にツバインシュタイン博士はウキウキと楽し気に返す。

 

「なぁに、数多の凄腕デュエリストが集う本戦での試合をこの目でぜひ見たかったものでね!!」

 

 嘘ではない。ツバインシュタイン博士もデュエリストであるので興味がない訳ではない。ゆえに嘘ではないのだが……

 

 

 ツバインシュタイン博士にとっての一番のメインイベントは千年アイテムの所持者同士が行う「ミレニアムバトル」見たさである。

 

 

 ブレーキ! カムバーック!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな騒がしくも楽し気な遊戯たちを見送ったギースに見計らったように通信が入る。

 

『現在の状況は?』

 

 そんな必要最低限の言葉の主はアクター。

 

「アクター……貴様、今の今まで何をしていた」

 

 剣呑な気配が籠った声で返すギース――その声色は一段と冷たい。

 

 

 それもその筈、今の今までアクターが勝手気ままに行動しても大して咎められていなかったのは常に任務を問題なく処理してきた実績があったゆえ。

 

 しかし今回はマリクを捕らえる千載一遇の機会を逃しただけでなく、一歩間違えれば未来ある青年たち――城之内たちの未来が閉ざされる可能性もあった。

 

 さすがのギースも今回ばかりは怒り心頭といった様子だ。

 

 

 そんなギースのいつもらしからぬ声に背筋を凍らせつつ アクターは過去に思考を傾ける。

 

 

 

 

 時間は遡り、パントマイマーこと人形を操っている為に足が止まっているマリクを捜索していたアクターだったが――

 

 『オシリスの天空竜』が《バスター・ブレイダー》によって切り伏せられたことを遠目に確認する――三幻神の巨体ゆえに遠目からでもデュエルの大雑把な様子はアクターの超人的な視力も相まって見て取れた。

 

 ゆえに時間切れだとアクターは城之内がいる水族館へ向かうべく、振り返るが――

 

「お初にお目にかかります、アクター」

 

 振り返った先に立ちはだかるように立っていたイシズが視界に入る。

 

 アクターも足音から何者かが近づいてきていることを察していたが、イシズの存在は予想外だったのか言葉が出てこない様子。

 

 

(わたくし)は『イシズ・イシュタール』。誠に申し訳ありませんが――」

 

 

 そんな言葉の出ないアクターを余所にそう瞳を閉じて名乗るイシズだったが、その瞳はゆっくりと開かれ――

 

 

「――貴方には此処で消えて貰います」

 

 

 決死の覚悟が籠ったイシズの瞳がアクターを射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 だが対するアクターはそれどころではない。

 

 アクターこと神崎にとってイシズ・イシュタールは千年タウクの未来予知の力を加味しても、若干20歳でエジプト考古局局長にまで上り詰めた人物。

 

 端的に言って自身よりもイシズには余程『先』が見えている認識が神崎にはあった。

 

 

 ゆえに神崎には分からない。

 

 

 何故イシズがアクターと一戦交えようとしているのかが皆目見当がつかなかった。

 

 

 ドクター・コレクターの一戦で語られたようにアクターには「1人のデュエリスト」としての性質しか持っていない。

 

 ゆえに仮にアクターを止めてもグールズへの、マリクへの追い込みが止むことは絶対にない。他の人間が送り込まれるだけだ。

 

 その為、イシズの立場をもってすれば他に取れる手段など、いくらでもあると考えられることも相まってイシズの狙いが読めない神崎。

 

 

 しかし、イシズにも言い分はある。

 

 イシズは千年タウクの力によって見た未来を指標として行動方針を決めているのだが、神崎、そしてアクターの未来はイシズにハッキリとは見えてはいない。

 

 それもその筈、千年タウクの力で「明確に」未来を見ることの出来る存在は、千年アイテムなどのオカルト的な対抗手段を『持たない』人間に限られる。

 

 

 つまり千年アイテムの亜種、『光のピラミッド』の所持者になってしまったアクターこと神崎の未来をイシズは『正確に』知ることは出来ないのだ。

 

 

 ゆえにイシズはマリクを救う未来を確固としたものとする為、不確定要素(アクター)を排除するべくこの場に立っていた。

 

 

 そうとは知らず、内心で「ナンデ!?」などと頭を巡らせるのに忙しいアクターはイシズに対して何も言葉を返さない――もう少しだけ立ち直るのに待って上げて欲しい。

 

 

 しかし先手は譲らないとばかりにイシズはデュエルディスクを構え、そこから射出されるのは――

 

「これはデュエルアンカー。貴方も知っての通りコレ(デュエルアンカー)はデュエルしなければ決して外れることはありません」

 

 そう、お馴染みの「デュエルアンカー」――鎖状の物体がイシズとアクターのデュエルディスクに繋がれた。

 

 その鎖は「逃がしはしない」とのイシズの鉄の意思と鋼の覚悟を感じさせる。

 

 

 

 

 

 しかし「ガシャン」という音と共に両断されるデュエルアンカーが地面を転がる。

 

 接続されたデュエルアンカーを混乱したまま握ってしまったアクターが砕いてしまった模様。

 

 デュエルアンカーに不手際はない――人間レベルの力なら問題なく仕事を果たせたのだから。

 

 

 だがイシズからすれば早くも想定外の事態である――自身が辛うじて見た「望む未来」のレールに乗せる為にも是が非でもアクターとデュエルしなければならないのだから。

 

「…………とはいえ、こんなものなど無くとも、デュエリストである貴方が挑まれたデュエルから逃げるような真似はなさらないでしょう――無粋でしたね」

 

 砕けたデュエルアンカーを視界から外し、それっぽい言葉を並べるイシズ。

 

 

――の横を素通りするアクター。

 

 

 残念ながらアクターにデュエリストの規範を問うだけ無駄である。

 

 

 

 だがイシズはめげない。

 

 弟、マリクの未来がかかっているのだから。ゆえに最後の手段に打って出る――早ぇな。

 

「…………お待ちなさい。(わたくし)コレ(千年タウク)を使わせるおつも――」

 

 それは千年アイテムの力で行われる「闇のゲーム」。

 

 やがてイシズが首元の千年タウクに両の手を合わせ、力を込め――

 

「起動」

 

――る前にアクターの右腕が横に上げられ、背中越しに言葉が届く方が早かった。

 

 アクターの右手の甲から「精霊の鍵」が浮かび上がり、閉鎖空間を生み出す。

 

 

 そしてアクターとイシズを見下ろすのは角のようなものが頭に生えた黒い闇の塊のような巨人――否、怨霊。

 

 その正体は最上級モンスター、《闇より出でし絶望》。

 

 

 そんな《闇より出でし絶望》の姿にイシズは己が立ち向かうべき、「絶望という名の未来」を強く意識する。

 

 

 なお実際はイシズが原作にて言っていた『私が立ち向かうのは……一点の光さえ失われた絶望という名の未来!』との言葉の『絶望』との言葉からアクターによって連想された安易なチョイスだが。

 

 

 

 そんな両者の温度差のある思考を余所に互いの頭に直接響くような《闇より出でし絶望》の声が木霊する。

 

――問う。如何に争い、何を望む。

 

 問いかけられたのはアクター。「勝負の方法」か「賭けるものの大きさ」を問われている。

 

 しかしアクターの言葉は決まっていた。

 

「勝負方法はデュエル。追加条件に『千年アイテムの使用禁止』を定める」

 

 イシズが納得しそうな勝負方法を――ついでに千年タウクの未来予知も封じることも忘れない。

 

――問う。異論は?

 

 《闇より出でし絶望》の問いかけにイシズはチラと周囲を見回し答える。

 

「これが貴方の持つ闇のアイテムですか…………勝負の方法に異論ありません」

 

 そのイシズの言葉に《闇より出でし絶望》はギョロリと前に出つつイシズを見やり、更に問いかける。

 

――問う。汝が望むは?

 

「では(わたくし)の望みは貴方が――いえ、貴方がたがマリクから、墓守の一族から手を引くことです」

 

 《闇より出でし絶望》が頭上に来たことで影に覆われながらイシズが提案した賭けの対象だが――

 

――不許可。賭けることが出来るのは「相手」の範囲。

 

 そう「選び直せ」と返す《闇より出でし絶望》にイシズは僅かに思案する。

 

「ではアクター。貴方の(わたくし)たち墓守の一族への一切の手出しを禁じます」

 

――了承。

 

 そう伝え終えた《闇より出でし絶望》を余所に「一切の手出しの禁止」についてアクターは思案する。

 

 次にグールズ対策、ひいてはマリクを潰しに動くのは誰だろう、とつい考えていた――ある程度の倫理観を持った人間であることを願うアクター。

 

 

 そんなアクターの意識を引き戻す様に《闇より出でし絶望》の声が届く。

 

――問う。汝が望むは?

 

「イシズ・イシュタールが持つ全ての千年アイテム」

 

――不許可。イシズ・イシュタールが持つのは「千年タウク」のみ、他の所持者が持つ千年アイテムを賭けの対象にすることは出来ない。

 

 間髪入れずに返答したアクターにすぐさま無理だと示す《闇より出でし絶望》。

 

「千年タウク」

 

――了承。

 

 原作通りの千年アイテムで助かったと安堵しつつ「じゃあ」と修正したアクターに問題ないことを示す《闇より出でし絶望》。

 

 

 だが納得できないと声を上げるものもいた――この場には後1人しかいないが。

 

「――お待ちなさい。明らかに賭けるものが釣り合っていないではありませんか」

 

 その声の主は当然イシズ。

 

 賭けられた「個人の行動の制限」と「オーパーツである千年アイテム」は釣り合いが取れていないとの主張。

 

――肯定。釣り合いは取れていない。

 

 そのイシズの主張を後押しする《闇より出でし絶望》の声が響き、《闇より出でし絶望》は再度問いかけた。

 

――ゆえに再度問う。汝が望むは?

 

 

 

 

 アクターに。

 

「――ッ! 何故!!」

 

 この場で初めてイシズは声を荒げた。

 

 だがアクターも「それは此方が聞きたい」――そんな言葉を呑み込むのに必死だった。

 

 

 精霊の鍵は「公平」を突き詰めた人造の闇のアイテムである。

 

 そこに贔屓もなければ、慈悲もないプログラムに等しい存在――それこそが《闇より出でし絶望》の、カードの精霊の「形をしたモノ」の正体。

 

 使用者であるアクターこと神崎が死ぬような取り立てすら、精霊の鍵は何の感情もなく行う。

 

 

 しかしアクターこと神崎は長年「精霊の鍵」と共にあった経験から、今までにないイレギュラーな状況に一つの仮説を立てる。

 

――「人」と「物」で価値基準が違うのか?

 

 そう考えたアクターはその仮説を証明すべく提案する。

 

「今バトルシティ終了までイシズ・イシュタールが此方の邪魔をしないこと」

 

 これで互いの賭けの釣り合いは凡そ取れる筈だと。

 

 

――了承。三度問う。汝が望むは?

 

 しかし返ってきた《闇より出でし絶望》にアクターは内心で冷や汗を流す。

 

――えっ、ナニコレ怖い……

 

 仮説は間違っていたようだ。アクターの胸中に言い得ぬ恐怖が浮かぶ。

 

「ない」

 

 そんな恐怖を隠したアクターの声を余所に《闇より出でし絶望》は大仰に両の手を開き宣言する。

 

――了承。勝負開始。

 

 《闇より出でし絶望》の合図に互いのデュエリストはデッキをセットし、デュエルディスクを展開した。

 

 

 残された最愛の家族を救うべくイシズ・イシュタールが舞台に上がる。

 

 

 






個人(冥界の王)


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