マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ゴースト骨塚「なんでオレの出番はカット続きなんだゾ……迷宮兄弟なんて2話でフル構成だったのに……」

ダイナソー竜崎「実は此処でワイがバクラって兄ちゃんとデュエルする流れもあったらしいで……無くなったけどな……」




DM編 第6章 バトルシティ 本戦 罪と罰
第110話 強き想い


 

 

 本戦会場に最後に到着したアクターは一斉に自身を捉えた周囲の視線に内心で居心地の悪さを感じていたが、その傍から見れば緊張感が漂う空気など気にしない海馬の声が届いた。

 

「ふぅん、随分と遅かったではないか……だが、残念ながら既に貴様の席は――」

 

「今、8名のデュエリストが揃った!」

 

 その海馬の声を遮るように我に返って慌てて宣言した磯野の声が響き、「今」揃ったとの言葉に海馬はスッと振り返る。

 

「……なんだと?」

 

 既にこの場には8名のデュエリストが揃っていた筈だと。

 

「い、いえ……彼は本戦突破者、第1号です……」

 

 海馬から発せられる物言わぬ圧力に押されながらも緊張した声色で返す磯野。騙すつもりはなかったとは言え、そう取られてもおかしくない状況に冷や汗をかく。

 

「なっ!? 舞は違うのか!?」

 

 だがその城之内の驚きの声が場の空気を一変させる――そっと溜息を吐く磯野。

 

「アタシは負けちゃってね――アンタたちの手前、中々言い出せなくって……」

 

 そうしおらしく語る孔雀舞。

 

 城之内たちが本戦会場に到着してから、次から次へと人が行き来したゆえに孔雀舞は完全に言い出すタイミングを逃していた。

 

 そんな孔雀舞に杏子は神妙な表情で返す。

 

「舞さんを倒すなんて一体……」

 

「あそこにいる緑の長髪のデュエリスト……天馬 夜行よ」

 

 視線を向けつつそう返した孔雀舞に本田は言葉を零す。

 

「そんなに強そうには見えねぇけどな……」

 

 その本田の視線の先の夜行はリッチーやデプレに小突かれ、月行に何やらお説教のようなものをされている姿。

 

 孔雀舞の実力を知る本田からすれば、何とも言えないのだろう。

 

 しかしそんな本田に双六は喝を入れように間に入る。

 

「何を言うとる、本田――彼はあのペガサス会長に『ラフ・ダイアモンド』――『可能性の塊』と呼ばれとる程のデュエリストじゃぞ!」

 

「マジかよ、爺さん!?」

 

 そんな大物だったとは知らずに驚く本田の声を切っ掛けにざわつき始める城之内たち。

 

 

 

 

 

「選ばれし8名のデュエリストに告げるぜい! まずは本戦会場のご登場だ!!」

 

 だが大会の流れから脱線している今の状況を断ち切るように天を指さしたモクバの声が響く。

 

 モクバの指さす空を見上げた一同の視界に入るのは――

 

「あれは……飛行船?」

 

 その御伽の呟きを肯定するようにモクバが胸を張る。

 

「そうさ! あれこそが本戦会場の舞台! 名付けて『バトルシップ』!! 決勝トーナメントは高度千メートル上空で行われるんだぜい!!」

 

 

 

 やがてKCのドームに着陸した飛行船の扉が開き、階段が現れた。

 

「デュエリスト、並びに同伴者の皆さま! どうぞお乗りください! お部屋の方は本戦参加者の方々に個室がありますので!」

 

 その階段へ手を向けながらこの場の全ての人間にこの後の流れを説明する為、声を張る磯野。

 

「本戦の開始時刻に関しては皆さまのしばしの休息の後、アナウンスでお知らせします。その際はホールまで足をお運びください!! 本戦の概要もその場で説明する流れになっております!」

 

 そして磯野から本戦参加者はカードキーを受け取り、一同はバトルシップに乗り込んでいく。その先頭は他の人間に目もくれずスタスタと飛行船に乗り込むリシド。

 

 

「それじゃあ、遊戯。城之内。頑張るんじゃぞ~!」

 

 そんな双六の見送りの声に遊戯の横に並びながらそう語る城之内。

 

「勿論だぜ、爺さん! 遊戯も行こうぜ!」

 

「俺らは城之内の部屋に厄介になるとすっか」

 

「そうね、遊戯の邪魔しちゃ悪いし」

 

 本田と杏子はその城之内の背に続く。

 

「じゃぁ、僕も」

 

「アタシもね」

 

 さらに御伽と孔雀舞もその流れに続くが――

 

「ばっきゃろー! そんなに大勢入れる訳ねぇだろ!」

 

 この時点で与えられた個室には城之内を含め、5人が入る計算だ――1人部屋であることを考えれば、かなり手狭になりそうな予感である。

 

「あっ、じゃぁ私は玲子さんと一緒にいます! だからお兄ちゃん頑張ってね!」

 

 そんな気を利かせた静香の声に城之内の動きはしばし固まり――

 

「……えっ!? い、いや静香――」

 

 再起動する前に静香は城之内たちへ手を振りつつ北森たちの方へと駆けていった。城之内の伸ばした腕が虚しく空を切る。

 

 その城之内の姿にレベッカが呆れ顔だ。

 

「あーあ、行っちゃった――城之内は乙女心が分かってないわね!」

 

「なぁに、お前みたいなお子様に――」

 

 レベッカの弁に握りこぶしを作りながら言い返そうとする城之内だが――

 

「ダーリン!! 私、ダーリンの部屋に行ってもいいかしら! どうしても話したいことがあるの!」

 

「えっ……それは別に構わないけど……」

 

 既にレベッカは遊戯の元へと馳せ参じている。そのレベッカの目が語っていた――「お子様はどちらかしら」と。

 

 城之内は謎の敗北感にさいなまれる。

 

 だがそんな城之内を押しのけつつ杏子がレベッカにモノ申す――城之内? 今はそっとしておいて上げて下さい。

 

「ちょっとレベッカ、遊戯の邪魔になっちゃうでしょ!」

 

「そんなことないわ――『プ ロ デ ュ エ リ ス ト』である私の意見はきっとダーリンの役に立つ筈よ! ねー、ダーリン? じゃぁ、行きましょ!」

 

 しかしレベッカは杏子の追及を華麗に?避け、遊戯の手を引きつつバトルシップの中へと消えていった。

 

 

 そんな一同のやり取りを後ろから見ていたバクラは猫を被りつつポツリと零す。

 

「ボクはどうすれば……」

 

「ばーくらクンは私と行こっ!」

 

 そう零したバクラの背後から野坂ミホが顔を出す――所謂スタッフルームへのお誘いだ。

 

「いや、オメェは仕事があんだろ」

 

 だがそんな野坂ミホの下心丸出しの提案は牛尾によって一刀両断された。

 

「え~! 牛尾くんのケチ!!」

 

「へいへい、俺はケチな男ですよ――ほれ、行った行った」

 

 ぶーたれた野坂ミホに牛尾は手で先を急がせる。段取りやら何やらで忙しい筈だろうと。

 

 やがて諦めたのか「こ~の、中間管理職!」と牛尾に突き刺さる捨て台詞を吐きながら野坂ミホは去って行く。

 

「ならボクの部屋へどうぞ――城之内くんの部屋はさすがに一杯だろうしね」

 

 強かにダメージを受けた牛尾を余所にそう提案したナムにバクラは追従した。

 

 

 

 

 

「ではリッチー、夜行! 我々は一足先にI2社に帰りますので! 夜行はあまり羽目を外さないように! 朗報を待っていますよ!」

 

「……リッチー……夜行の手綱を……しっかりと……な……」

 

 そんな月行とデプレのあんまりな言いように夜行は肩を落としつつ、零す。

 

「いや、兄さん、デプレ……私を何だと――」

 

「任せとけ! 夜行はキチンとグールズの首領にけしかけとくからな!」

 

「リッチー!?」

 

 だが背後から夜行に突き刺さったリッチーの言葉に、夜行の悲痛な声が木霊した。

 

 

 

 

 

「玲子さん! 私……玲子さんのお部屋にお邪魔しちゃダメ……ですか?」

 

 はにかみながら恐る恐るといった様相で北森に願い出る静香の姿に当の北森は目を泳がせながら返す。

 

「え~と、すみません、静香さん……私はこの方(イシズ)を見張っていないとダメなので……その」

 

 虚ろな瞳と能面のような表情で佇むイシズをバトルシップに乗せつつ、見張ることが北森と牛尾に課せられた新たな任務ゆえに断ろうとするが――

 

「そう……です……か」

 

 目に見えて気落ちしていく静香の姿に北森の声は小さくなる。

 

 友人である静香のそんな姿に助けるを求めるように牛尾へと目線を送る北森の姿に溜息を一つ吐いた牛尾は頭をかきながら返す。

 

「まぁ、いいんじゃねぇか? 俺も待機しとくから1人くらい増えても大丈夫だろ――後、ツバインシュタイン博士……頼むから大人しくしといてくだせぇよ?」

 

 当初の予定にはなかった人員、ツバインシュタイン博士の増援?もある為、それくらいは問題ないと判断する牛尾だが勝手に同行したツバインシュタイン博士へと釘を差すことは忘れない。

 

 牛尾の言葉で明るくなった静香の顔を余所に眼を泳がせながらツバインシュタイン博士はボソリと答える。

 

「……………善処します」

 

――あっ、大人しくする気ねぇな……アメルダをKCに帰しちまったのは失敗だったかねぇ……

 

 そう内心で考えた牛尾は面倒事にならないことを祈りつつ、他の人間と共にバトルシップへと歩を進めた――深く考えたくなかっただけかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一同の騒がしくとも楽し気な飛行船へ乗り込む姿を余所に、最後に一人寂しくアクターも彼らの後に続いた。

 

 同行人? いる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空へと飛び立ったバトルシップ。そしてそのバトルシップの城之内に宛がわれた一室に集まった城之内・本田・杏子・御伽・孔雀舞の5名。

 

 そしてその1人、本田が窓に顔を近づけながら声を上げる。

 

「おおっ! 良い夜景だな! ――でも、どうせなら静香ちゃんと見たかったぜ……」

 

 そう落ち込む本田に御伽は肩をすくめつつ返す。

 

「まぁ、大人数だから遠慮させちゃったかもね……友達も一緒みたいだったし」

 

「振られちゃったわね、城之内」

 

 そんな茶化し半分な杏子の言葉に城之内は首を横に振りながら元気よく返す。

 

「よせやい、杏子! いいことじゃねぇか! 最近まで病室ばっかりだった静香に外でダチが出来たんだからよ!」

 

 そう、城之内は兄として妹、静香の交友関係が広がったことが嬉しかった――若干の強がりもあるが。

 

「『北森 玲子』ちゃん、だったよね? 良い子そうだし、城之内君も兄としては安心じゃないかな?」

 

 そんな強がる城之内の背を押す様に御伽も同調するが、杏子は「うーん」と唸りながらポツリと零す。

 

「まぁ、良い子ではあるんだけど……」

 

 杏子は知っている。あの大人しそうな姿の奥に隠されたマッスルを――だがそれをそのまま伝えて良いものかと悩む杏子。

 

「どうしたよ、杏子。一緒にいたとき何かあったの――」

 

「へぇ、あの子が『北森 玲子』なのね」

 

 杏子に問いかけようとした城之内の言葉を遮るように孔雀舞が思い出したようにポツリと零す。

 

「玲子ちゃんがどうかしたんですか、舞さん?」

 

 まさか「あのマッスルを知っているのか!」との思いを込めた杏子の言葉――知っているのなら説明を丸投げ、もとい任せようと杏子は考えるが――

 

「アンタたち『企業デュエリスト』って、知って……知らないわよね」

 

 だが孔雀舞から出てきた言葉は杏子も知らないものだった。

 

「おう!」

 

 周囲の気持ちを代弁するかのような城之内の潔い返事が木霊する。

 

 だが小さく手を上げながら御伽が一歩前に出た。

 

「僕は話くらいなら父さんから聞いたことあるよ――確か、企業間での取り決めの際の『デュエル三本勝負』を請け負うデュエリストのことだった筈だけど」

 

 

 ちなみに「デュエルモンスターズ」が生まれた当初は「一本勝負」であったり、「二本勝負」であったりと企業や組織によってマチマチだったのだが、何だかんだの駆け引きを経て「三本勝負」に落ち着いた裏側がある。

 

 

「マイナーな職業なのに博識ね、御伽」

 

「い、いや~それ程でも」

 

 孔雀舞の感心するような声に頬をかきながら御伽は照れる――美人に褒められ、満更でもないらしい。

 

 そんな御伽を余所に杏子は話を戻す。

 

「それで『企業デュエリスト』がどうかしたの、舞さん?」

 

「その中で『北森 玲子』って言えばかなり名の通ったデュエリストよ――あんな大人しそうな子だとは思わなかったけど」

 

 意外そうに語る孔雀舞だが、本田は懐疑的な声を漏らす。

 

「そんなにスゲェのか? 言っちゃあ悪いが、俺の目にはあんまり強そうな感じはしなかったんだが……」

 

 本田が知る「強いデュエリスト」は大半が強者の風格らしきものを纏っている。あの静香でさえ、それらしいものは本田にも見て取れたが北森にはそれが見られない。

 

 それゆえの本田の言葉だったが、孔雀舞は溜息を一つ入れた後、本田に苦言を呈する。

 

「本田、デュエリストを見た目で判断するのは二流のすること――それにあの子は巷じゃ『イージス』なんて呼ばれる程よ?」

 

 最近デュエリストデビューしたばかりの本田には耳の痛い話。

 

 声を詰まらせる本田を押しのけるように城之内が前に出る。ある種の強者の証である「名持ち」の事実が城之内の琴線に触れたようだ。

 

 なお本人にその話をすれば注目されることに慣れていないゆえにブンブンと首を横に振り否定する。一種の恥ずかしさもあるのだろう。

 

「――ってことは『名持ち』か!? いや、それより『イージス』って何だ?」

 

 だが肝心の「名」の意味が分からない。そんな城之内に呆れつつも御伽が助け舟を出す。

 

「城之内君……確か神話の女神様の盾か何かだったと思うけど……」

 

「防御に重きを置いたデュエルスタイルらしいわ――もっとも詳しいことはアタシにも分からないけどね。企業デュエリストの情報は他よりも秘匿されることが多いから」

 

 御伽の言葉に付け足すように続けた孔雀舞の最後の言葉に本田は深く頷きながら納得を見せる。

 

「あー、成程な。デュエルして自分たちで得た情報がライバル会社みてぇなモンに利用されちゃ勿体ねぇもんな」

 

 

 それこそが「企業デュエリスト」があまり知られていない実情。

 

 とはいえ、人の口に戸は立てられぬ為、不確かな情報が飛び交っている世界だ。

 

 

「へー、よく分かんねぇけど、そんな強ぇデュエリストならいつかデュエルしてみたいもんだな!」

 

 その詳細の理解を放棄した城之内の姿に孔雀舞はクスクスと笑う。

 

「フフッ、でもアンタの目指す『プロデュエリスト』とは対極の世界よ?」

 

 まず対戦の機会に巡り合うことはないことは誰の目にも明らかだった。

 

 

 そんな何処か真っ直ぐな城之内の姿に孔雀舞はこのバトルシティでの敗北を思い出し、ウカウカしていられない、と気を引き締める。

 

 

 その肝心要の夜行とのやり取りは孔雀舞が己を高める為の挑戦だった――あの名高きペガサスミニオンとのデュエルは得るものは多い筈だと。

 

 だが夜行は孔雀舞とのデュエルを拒否した。

 

 夜行からすれば一般の参加者ではなく、グールズをターゲットとしているゆえの拒否だったが、孔雀舞がそれを知る由はない。ゆえに――

 

『ペガサスミニオンともあろうデュエリストが挑まれた勝負から背を向けるのかしら? それとも「ソレ」がペガサス・J・クロフォードの教えなの?』

 

 孔雀舞なりの、いや、デュエリストによくある軽い挑発だった。

 

 普通のデュエリストなら「安い挑発だ……だが良いだろう、乗ってやる!デュエルだ!」となるのだが、相手が悪かった。

 

 

 月行なら事情を説明し、孔雀舞に納得を求めただろう。

 

 リッチーなら苛立ちつつも、努めて冷静に対応しただろう

 

 デプレなら人を射殺しそうな視線を向けた後、舌打ちと共に去っていくだろう。

 

 

 だが今回、孔雀舞が挑発したのは、ことペガサスの事となると暴走しがちな、行き過ぎた親愛を持つ――

 

 

 夜行だった。

 

 

 

 

『貴様ァ……ペガサス様に対して……!! 覚悟して貰いますよ!!』

 

 怒りのままに全力で潰しにかかった夜行のデュエルに孔雀舞は何も出来なかった。

 

『今の私は……阿修羅すら凌駕する存在だ!!』

 

 怒りに呑まれたように見えても、そのタクティクスに一部の隙も無く。

 

『やれっ! バルバロス!! 全て! 根こそぎ! 叩き潰せ!!』

 

 ペガサスに認められた才を余すことなく磨き上げたその牙の苛烈さは他の追随を許さない。

 

『ゴォッドォ! トルネェエエドォ! シェイパァアアアア!!』

 

 いや、やっぱり孔雀舞が色々とついていけなかったのが原因かもしれない。

 

『全てはペガサス様の為にィイイイイ!!』

 

 うるせぇよ。

 

 

 だが孔雀舞の敗北も無理からぬ話である。何故なら――

 

 こんなの……もとい、暴走しがちな夜行だが、そのデュエルの実力は遊戯王Rの作中にて扱いの難しい三邪神を自由自在に活用し、三幻神を持つ遊戯をギリギリのところまで追い詰める程の実力を秘めているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊戯に与えられた一室にて、向かい合う様に座る遊戯とレベッカ。

 

 てっきり表の遊戯に用があると考えていた遊戯の予想を裏切り、レベッカは名もなきファラオとしての遊戯へと向かい合っていた。

 

「それでレベッカ……何の話なんだ? やはり相棒に代わった方が――」

 

 いつもの快活な表情は影を潜め、神妙な面持ちで遊戯を見やるレベッカに遊戯は表の遊戯へと人格交代しようとするが――

 

「ううん、今回は王様の遊戯に話があるの。このままでもダーリンに聞こえているんでしょ? だったら、ダーリンはそのまま聞いてて」

 

 レベッカはそれを拒否。そして意を決した様相でレベッカは声を張る。

 

 

 

「『アクターとはデュエルしない』って約束して! アイツだけは本当に危ないの!」

 

 

 

「ヤツのことを知っているのか!!」

 

 意外な名前が出てきたゆえか、バトルシティでの接触からずっと気にかかっていた名ゆえか遊戯は思わず身構える。

 

 しかし対するレベッカは首を横に振りながら返した。

 

「いいえ、私だってそんなに詳しい訳じゃないわ……でもずっと昔からいるデュエリストだから、おじいちゃんに話を聞いたり、私なりに色々調べてみたの……」

 

 レベッカはいわゆる天才児――数多ある噂の中から信憑性のあるものを抜き出し、アクターが「どういった存在」なのかをかなりの精度で探り当てていた。

 

「アイツはデュエル界の裏側の番人よ! 邪魔な相手を消す為だけに存在しているデュエリスト……アイツとデュエルした人はみんな表から姿を消しているわ!」

 

 

 アクターの表の仕事は3人制の企業デュエルでの最後の3人目――いわゆる門番としての姿。

 

 そしてアクターの裏の仕事はレベッカの言う通り、色々と「邪魔」になったデュエリストをデュエルで処理することだ。

 

 

 デュエルで目に余る犯罪行為を行う人間・団体が主なターゲットである為、対象が表から姿を消すのはあまりおかしな話ではない。

 

 

「だがレベッカ……この大会は俺の記憶の――」

 

 アクターの危険性を知らされつつも遊戯は言葉を濁す――このバトルシティは失われた記憶を取り戻せるかもしれないチャンスなのだ。

 

 表の遊戯もそんな遊戯の為に共に戦うと誓っている。であれば、今の遊戯に出来るのはベストを尽くすことだけだった。

 

 

「だとしてもよ! 貴方の身体はダーリンのモノなのよ! 軽く扱わないで!」

 

 だがレベッカがテーブルに掌を叩きつけながら立ち上がり、遊戯に詰め寄りながら声を張る。

 

 万が一の事態があった際に一番不利益を被るのは今を生きる表の遊戯なのだから。

 

「貴方の失った記憶の事なら、おじいちゃんも調べるのを手伝ってくれるって約束してくれたから! それにダーリンは神崎って人と知り合いなんでしょ?」

 

 さらにレベッカは言葉を続ける。

 

 目の前のファラオとしての遊戯に、そしてその心の内にいるレベッカが愛する表の遊戯へと向けて。

 

「聞いた名だったから、あの後で調べてみたんだけど、かなり手広くやっている人みたい……」

 

 レベッカとて代案はキッチリと用意していた。

 

 表の遊戯が大切にするファラオとしての遊戯をレベッカが蔑ろにしたくはないゆえに。

 

「それにオカルト方面にも詳しい噂もあるから、王様の遊戯の過去を探る手掛かりを持っていても不思議じゃないわ!」

 

 他にも道があるのだから、無理をして危険な道を選ぶ必要はないと語るレベッカ。

 

「だがこれは俺たちの問題――」

 

 しかし遊戯も快諾は出来ない。何故ならアクターはその神崎が擁するオカルト課に所属しているのだから。

 

 だがレベッカはなおも前に出る。

 

「ダーリンは優しいから、危険だと知っても王様の遊戯の手助けをするだろうけど、だからって――」

 

 

 そして遊戯の瞳を真っ直ぐに見据えて言い放つ。

 

 

 

「――貴方(王様の遊戯)ダーリン(表の遊戯)の優しさに甘えるようなことはしないで!!」

 

 

 

 レベッカの偽らざる気持ちだった。

 

「レベッカ……」

 

「もっとダーリンのことを大事にして! グールズに狙われて危ない目にも遭ったんでしょ!」

 

 危険な目に遭えば現実にダメージを受けるのは表の遊戯の肉体なのだ。ファラオとしての遊戯はあくまで精神的な存在でしかない。

 

「それは……」

 

「私だってKCから事情の説明は受けたんだから!」

 

 表の遊戯を危険に晒している現実に言葉を詰まらせる遊戯にレベッカは蚊帳の外は御免だと返す。

 

 愛する人である表の遊戯の危機になるのであれば、レベッカは、それが表の遊戯の親友たるファラオとしての遊戯であっても許しはしない。

 

「約束して、遊戯! ダーリンに誓って、安易に危ないことはしないって!!」

 

 そう涙ながらに遊戯に訴えるレベッカの姿に遊戯は静かに瞳を宙へと向け、表の遊戯とアイコンタクトした後、レベッカの方へ視線を戻し、返す。

 

「……そうだな、レベッカ。俺は少し焦っていたみたいだ――約束しよう、『安易に危険な状況に身を投じることはしない』と、相棒に誓って!」

 

「遊戯!」

 

 力強く宣言した遊戯にレベッカの緊迫した様相は取れ、ほころぶが遊戯は最後に待ったをかける。

 

「だが、これだけは言わせてくれ。もしも相棒や城之内くんたちが危険な目に遭いそうな時は迷わず俺は戦う――それが例えどれ程の危機をはらんでいても!」

 

「そっちの方は問題ないわ! その時は私も手を貸して上げる!!」

 

 遊戯の宣言に涙を拭った後で拳を握り返すレベッカ。

 

 レベッカとしても表の遊戯は大切だが、それ以外全てを切り捨てるような真似など望んではいない。

 

 レベッカが愛する表の遊戯は仲間を見捨てるような人間ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリクに与えられた一室の扉がその一室の住人の手で開かれ、その開いた扉に招かれるようにアクターは歩を進める。

 

 その一室は照明の1つも点けられておらず、周囲を一見しても常人には人の姿は見当たらない。だが声が響く。

 

「残念ながら此処にマリク様はいらっしゃらない」

 

 その声の主は一室の奥の壁にもたれ掛かっていたリシド。そのグールズの構成員の証である黒いローブが迷彩服の役割を果たしていたようだ。

 

 

 マリクの部屋にリシドがいる訳は、アクターの存在から警戒したリシドがマリクに警告したゆえだった。

 

 イシズの首元にない千年タウクとデュエル界の裏側の処刑人――その2つが何を意味するか分からないマリクとリシドではない。

 

 

 その為、マリクとリシドは互いの部屋を交換し、万が一アクターが襲撃して来た際は迎撃するようにマリクからリシドは命じられている。

 

 ふたを開けてみればシンプルなトリックだが、シンプルゆえに対策は難しい。

 

 

 内心で「やっちまった」と頭を回すアクターを余所にリシドは語る。

 

「一応、尋ねておこう――其方の目的は何だ、アクター」

 

 警戒を強めつつ油断なくアクターを射抜くリシドの言葉だが、アクターは「表の人格のマリクを倒しにくれば、そこにいたのはリシドだった」という訳の分からない状況をどうにかすべく考えを纏めるのに忙しい。

 

 その為、リシドの問いにキッチリとした返答をする余裕はなかった。

 

 

「その問いかけに意味はあるのか?」

 

 

 ゆえに質問を質問で返し時間を稼ぐアクター。ただ、この状況ではアクターの目的は分かり切っている為、あまり時間は稼げそうにないが。

 

「…………愚問であったな、だが此方から1つ提案させて貰いたい。マリク様を見逃して欲しい。無論タダでとは言わぬ」

 

 しかしリシドはそんなアクターに対して、対話の姿勢を見せる。

 

「全てが終わった暁には、私がグールズの首領、マリクとして全ての罪を背負おう――この命、如何様にして貰っても構わぬ」

 

 リシドの提案は自己犠牲溢れたもの――マリクの為ならば自身の命すら惜しくはないと、その眼が言葉以上に雄弁に語っている。

 

 

 まさに死を覚悟した人間の眼。その覚悟に偽りがないことがアクターにはよく()()()――(バー)は嘘を吐けない。

 

「その覚悟に意味はない」

 

 だがリシドの覚悟を秘めた言葉にアクターは淡々と無意味だと断じる。

 

――どう考えてもマリクが納得するとは思えないのだが……

 

 そう考えつつアクターは己の異変に気付く。この場をどうにかする段取りを考えるのはどうしたのだと。

 

 しかしアクターが思考を再開する前に己が覚悟を無意味と断じられたリシドはポツリと零す。

 

「……意味はない、か……」

 

 リシドの言葉にアクターは胸中で返す。

 

――そうだ。意味はない。他者の為以前に己の命を投げ出すなど……違う……そうじゃない。今はこの場でどう動くべきかを――

 

 アクターは考えが纏まらない己の思考に見切りをつけて扉に向けて移動するが、その背を追うようにリシドの声が届いた。

 

「だとしても私はあの日、誓ったのだ――マリク様の味方であり続けると! マリク様のあの日の闇を払拭できるのならば、私は鬼にでもなろう!!」

 

 そのリシドの覚悟と共に射出されるデュエルアンカーがアクターのデュエルディスクに接続される。

 

「ゆえにお前をこのまま行かせる訳にはいかん!!」

 

 そのリシドの闘志を示す様にデッキがセットされたデュエルディスクが展開していく。

 

 だがアクターは扉付近の壁に手を置き、背中越しにリシドを見やり宣言する。

 

 

「勘違いするな」

 

 

 

 そしてアクターが壁を力強く押すと同時にその部分の壁が四角形状に凹み、次に扉が閉まりロックされ、部屋全体が大きく揺れた。

 

「此方も、この場での決着に異論はない」

 

 そう言って振り返ったアクターの姿を余所に部屋の天井が開き上昇し始め、デュエル場が形成される。

 

「これは……この飛行船自体が、我らを捕らえる為の罠だったという訳か……」

 

 そのリシドの言葉通り、このバトルシップの内部には様々な仕掛けが施されている。

 

 その全てが周囲を下手に巻き込まぬようマリクとリシド、場合によってはイシズを処理するべく盛り込まれたものだ。

 

「起動」

 

 デッキをデュエルディスクへ装着し、片腕を横に突き出してデュエルディスクを展開しながら精霊の鍵を起動するアクター。

 

 

 そのアクターの姿にリシドは決意をもって5枚の初期手札を引いて声を張る。

 

「デュエル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそんなリシドの声はアクターには届かなかった。またしても、それどころではなかった。

 

――「精霊の鍵」が起動しない?

 

 自身の手の甲へと視線を向けながらそう胸中で一人ごちるアクター。

 

 

 緊急事態である。だが始められたデュエルは止まらない。

 

 

 

 

 決して

 

 






本戦にて決着をつける(本戦トーナメントに参加するとは言っていない)


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