マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
匿名希望の探偵「俺たちが参加したデュエル大会の本戦会場は空の上だってッ!?

そんな驚きを受けつつ飛行船に乗り込む俺たちだが、最後に乗り込んだ身元不明の謎の人物の姿。

俺たちはそんな謎の人物に不信感を持ちながらも、
それぞれ飛行船の中でしばしの憩いの時間を取っていた。

そんな中、飛行船に雷が落ちる。

緊急事態に慌てて事態を確かめにいった俺たちの眼に映ったのは――

雷に打たれ倒れ伏したリシドさんだった!

現場に共にいたのは件の謎の人物。

その人物はリシドさんに『神の怒りが降った』と語るが――

違う! これは神の仕業なんかじゃない! 巧妙に仕組まれた殺人トリックだ!


大自然の力すら利用した大胆不敵なこの犯行……必ず俺が解き明かして見せる!

じっちゃんの名に懸けて!」




第114話 ウルトラ上手に焼けました~!

 

 天井が開き、風が吹きすさぶリシドの一室だった個所に闇マリクとアクターが対峙し、傍ではバクラが楽し気に観戦していた。

 

 そんな中、闇マリクの先攻でデュエルは始まる。

 

「成程な、お前が噂の『役者(アクター)』か……光栄だねぇ、闇への最初の生贄がそんな大物でよぉ! 俺の先行、ドロー! ん~? コイツが気になるかァ?」

 

 カードを引いた闇マリクの隣の闇の中で浮かぶマリクの姿を顎で指し示しながらアクターに下卑た笑いを向ける闇マリク。

 

――いや、別に

 

 だがそのアクターの内心の声の通り、全く興味はなかった。既に原作からの情報で知っているのだから。

 

 しかし闇マリクは楽し気に説明を始める。

 

「フフフ……コイツは俺の主人格サマだ。この闇のゲームを特等席で眺めて貰おうと思ってねェ! といっても、まだ意識は沈んだままだがな――リシドがくたばった事実が余程ショックだったらしい」

 

 その闇マリクの言葉通り、闇に浮かぶマリクの瞳は閉じられ意識は眠っている模様。

 

 とはいえ何の反応も見せないアクターの姿に闇マリクは若干の苛立ちを見せながらデュエルに戻る。

 

「さぁて、前口上はこのくらいにしてお前にはこの世で最も恐ろしいゲームを体感させてやるぜ――この漆黒の闇は全てを塗りつぶし、お前を死へと誘う!!」

 

 周囲の闇がうごめく中で、闇マリクの最初の一手は――

 

「まずは《ニュードリュア》を召喚!」

 

 身体のいたるところに黒い輪が装着された緑のズボンの赤い肌の悪魔、《ニュードリュア》。

 

 苦し気に呻き声を上げる《ニュードリュア》の姿は身に着ける黒い輪が拘束具にも見えることも相まって囚人のようにも見えた。

 

《ニュードリュア》

星4 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

 やがて《ニュードリュア》の胸の中心、心臓部から光るラインが伸び、闇マリクの胸の中心へと繋がる。

 

「フッ、見えるか? 俺のモンスターと俺を繋ぐ光るラインが……コイツが、とびっきりの恐怖と苦痛を感じさせてくれるのさ!! 今までのデュエルとは比べ物にならない程にな!」

 

 その光るラインの正体を明かしながらアクターの反応を見やる闇マリクだが悲しい程にアクターは無反応である。

 

 しかし闇マリクのテンションは留まることを知らない。

 

「フフフ、ハハハハッ! カードを4枚セットして、魔法カード《命削りの宝札》を発動! 手札が3枚になるようにドローだ!」

 

 命を弄ぶ闇のゲームを心の底から楽しむように3枚のカードを引き、3枚のカードがギロチンにかけられた。

 

「おっと、手札が悪いな――俺はこれでターンエンドだ!! エンド時に《命削りの宝札》の効果により俺は手札を全て捨てる!」

 

 引いたカードを一切プレイせずにターンを終えた闇マリクの言葉を合図に《命削りの宝札》のギロチンが落ち、3枚のカードを刈り取り墓地に送る。

 

「さぁて、姉上サマとリシドを倒したお前のお手並み拝見、拝見」

 

 そうして3枚のカードを墓地に送った闇マリクは大仰に両の手を軽く叩きながらアクターを馬鹿にするように挑発する。何らかの反応を期待しているようだ。

 

 獲物が恐怖におののく様が見たいのだろう。

 

「私のターン、ドロー。《ゼンマイラビット》を召喚」

 

 デュエルディスクに置かれたカードから飛び出した赤と白のフレームの二足歩行のウサギ型ロボットがフィールドに着地し、窮屈だったと言わんばかりに手を上げて背伸びする。

 

《ゼンマイラビット》

星3 地属性 獣戦士族

攻1400 守 600

 

 のだが、自身の身体から伸びる光のラインを不思議そうに引っ張る《ゼンマイラビット》。危ないから止めなさい。

 

「カードを5枚セットし、ターンエンド」

 

 大きな動きもなくターンを終えたアクターに闇マリクは大袈裟に肩をすくめつつヤレヤレと首を振る。

 

「おいおい、何だァ? 攻撃しねぇのかァ? あんまり俺をガッカリさせるなよ――それとも手札事故でも起こしたのか? ハハッ!!」

 

 そう言ってアクターを嘲笑う闇マリクだが、対するアクターは文字通り何の反応も見せない。

 

 いつも通りにデュエル「のみ」に集中しているアクターにとっては闇マリクの揺さぶりは「デュエルに関係のない何か」程度の認識でしかない。

 

「――チッ、詰まらねぇな……人形野郎が……俺のターン! ドロー!!」

 

 そんなアクターの在り方に闇マリクは唾を吐きつつカードを引く。しかしその闇マリクの瞳には確かな警戒の色が見て取れた。

 

「だが俺は主人格サマのようにお前を侮りはしねぇ……あの姉上サマとリシドを殺った男だからな……最初から全開で行かせて貰うぜ!!」

 

 闇マリクにとってイシズやリシドは厄介な相手である――その2人に負けはしないと闇マリクは豪語出来ても、気の抜けないデュエルになると。

 

 そんな相手を苦も無く倒してきたように見えるアクターの存在は闇マリクから余裕を奪うには十分だった。

 

「魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地よりモンスター1体を蘇生させる!!」

 

 ゆえに闇マリクは一気にアクターを殺しにかかる――折角、表に出れたのだ。すぐさまマリクの精神の奥深くに逆戻りなど御免だと言わんばかりに。

 

 

「さぁて、俺の墓地にはどいつがいたかな? ――コイツに決めたぜ!」

 

 

 空に輝く十字架のようなアンクが輝く。

 

 

「フハハハハハ! さァ、神を見よ! 我が墓地より、舞い戻れ! 三幻神が最上位! 太陽の神! 『ラーの翼神竜』!!」

 

 やがて降り立つのは黄金の神――『ラーの翼神竜』。

 

 翼を広げながら圧倒的な威圧感を放つ姿には圧倒的な神々しさが宿る。

 

『ラーの翼神竜』

星10 神属性 幻神獣族

攻 ? 守 ?

 

「だが『ラーの翼神竜』の攻・守は召喚時に贄に捧げた(リリースした)モンスターの攻・守の合計――つまり墓地から特殊召喚された『ラーの翼神竜』の攻・守は0だ」

 

 鳥のようにいななく『ラーの翼神竜』だが、そのステータスは0――このままではデュエルにおいては何ら脅威にはならない。

 

『ラーの翼神竜』

攻 ? 守 ?

攻 0 守 0

 

「しかし『ラーの翼神竜』には主人格サマも知らない真の力があるのさ!!」

 

 当然、三幻神の中で最高位の力を持つ『ラーの翼神竜召喚』がこのままで済む訳がなかった。

 

「ヒエラティックテキストを、古代神官文字を唱えることで『ラーの翼神竜』の真の力は解放される!!」

 

 そして闇マリクは腕を交差して祈るように瞳を閉じ、ヒエラティックテキストを唱え始める。

 

 

 闇マリクの語る「ヒエラティックテキスト」はあのペガサスですら解読できなかった摩訶不思議な文字。

 

 その為、ペガサスは『ラーの翼神竜』のテキスト部分に壁画に描かれたヒエラティックテキストをそのまま記すしかなかった程だ。

 

 

 やがて闇マリクがヒエラティックテキストを唱え終えたと同時に『ラーの翼神竜』に変化が生じた。

 

「フハハハハ! 『ラーの翼神竜』の特殊能力発動!! 俺のライフを1000ポイント捧げることで、相手フィールドのモンスターを全て焼き尽くし、破壊する!!」

 

闇マリクLP:4000 → 3000

 

 闇マリクの命の炎が『ラーの翼神竜』に灯り、やがて業火となってその身を炎に包んで行き、その身を不死鳥と化す。

 

「そのモンスターがどれほどの耐性を備えていようともなァ!!」

 

 轟々と燃え盛る炎の不死鳥の姿にアクターは相も変わらずノーリアクションだが、その内心では「あっ、コレ(神の一撃)まともに喰らったら死ぬわ」な現実と闘うことで忙しかった。

 

 

 リシドの際のレプリカカードではなくオリジナルの『ラーの翼神竜』から発せられる力の波動は文字通り次元が違う。

 

 リシドを襲った神の怒りを防げたのは依り代となるカードが粗悪なコピーだったからであろうことはアクターには容易に推察できた。

 

「ん? どうした? 恐怖で声も出ないか? それともモンスターを破壊されても挽回できる――そう思っているのかァ?」

 

 そんな闇マリクの恐怖心を煽るような言葉を余所にアクターは思案する。

 

――恐らくこの()マリクのデッキは『ラーの翼神竜』を蘇生させることに特化したデッキ……

 

 それはつまり、今の闇マリクのデッキは原作のような勝敗を度外視したような「相手を痛めつける為のデッキ」ではなく、『ラーの翼神竜』の力を遺憾なく発揮して相手を叩き潰すデッキであるとアクターは予想する。

 

「ハハハ! なら愚かと評すしかねぇなァ! このデュエルは闇のデュエル!! モンスターが受ける苦痛は、プレイヤーも体感する事になるんだよ……フフフ!!」

 

 もはや頑張ってアクターの気を引く為に言葉を尽くしているような闇マリクを完全に無視しながらアクターは己のデッキをチラと見る。

 

――『ラーの翼神竜』の効果の全容はリシドが使ったレプリカカードのヒエラティックテキストで確認した……今のデッキで相性はそう悪くない筈……

 

 今のアクターのデッキはかなりの特化構築――このデッキが闇マリクに刺さらなければ待っているのは闇マリクにジワジワと嬲り殺される未来だけだ。

 

「そのモンスターとプレイヤーを繋ぐラインはその為のものだからなァ!!」

 

 アクターが何の反応を見せずともテンション高めで高らかに笑う闇マリク――ちょっとくらいリアクションして上げて……

 

 

 だが安心して欲しい、アクターの胸中は気合で隠しているものの結構いっぱいいっぱいである。

 

――しかし外から見た時と、対峙した時で神の威圧感が此処まで違うとは……膝は震えていないだろうか?

 

 そんな胸中の言葉通り、神の威光に恐怖で震えあがっていた。

 

「状況が理解できたか? 今からお前は神の裁きを受け! その精神力は灰となって燃え尽きる!! 例えお前のライフが残っていようとも、デュエルが続行できないようにしてやるよ!!」

 

 不死鳥となった『ラーの翼神竜』へと指示を出すべく大仰に手を上げ高らかに宣言する闇マリクの命を受け、不死鳥が天へと飛翔する。

 

「冥途の土産にその眼に焼き付けな! お前を死へといざなう不死鳥の舞いを!」

 

 やがて宙で反転してその炎に燃える翼を広げ、アクターのフィールドの《ゼンマイ・ラビット》を焼き尽くすべく向かう。

 

「魂の叫びを上げて焼け死になァ!!」

 

――悪いが、あんな思いは二度と御免だ。

 

 闇マリクの言葉に胸中でそう返したアクター。

 

「 ゴ ッ ド ・ フ ェ ニ ッ ク ス !!」

 

 しかし不死鳥の『ラーの翼神竜』の炎はアクターのフィールドを焼き尽くした。

 

 

「ハハハハハッ! ハーハッハッハッハー!!」

 

 轟々と燃え盛るアクターとそのフィールドの光景を見ながら狂ったように笑う闇マリクの姿を眺めていたのは闇のゲームから弾き出された後、沈黙を守っていたバクラだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間はしばし巻き戻る。

 

「ん? 今、何か変な音しなかったか?」

 

 そんな言葉と共に窓に顔を近づけ外の様子を窺う城之内。

 

「いや、僕には聞こえなかったけど……」

 

「どんな音だったの、城之内?」

 

 だが御伽の否定の声と杏子の疑問の声に窓から離れた城之内は腕を組みながら悩まし気な表情を見せる――どんな音と聞かれると表現し難いようだ。

 

「う~ん? 金属がひしゃげる音?」

 

「なんだそりゃ? さすがにねぇだろ? もし本当なら下手したらこの飛行船が墜落しかねねぇし……」

 

 何とか捻りだした城之内の言葉に本田は顔の前で手を振りながら否定する。

 

「ちょっと怖いこと言わないでよ、本田」

 

「大丈夫よ、杏子。もし、そんな事態が起きているなら緊急事態を知らせるアナウンスの一つでも鳴っている筈よ」

 

 最悪の可能性が脳裏に過ったせいか身体を軽く震わせる杏子に状況的にあり得ないと安心させるよう語る孔雀舞。

 

「……気のせいだったのか?」

 

 仲間の意見からそう首をひねる城之内に本田がからかう様に笑う。

 

「なんだ城之内――お前、ひょっとして……緊張してんのか?」

 

「そうなのかい? 城之内くんでも緊張するんだね」

 

「そりゃどういう意味だ、御伽ィ!」

 

 御伽のポロリと零れた若干失礼な言葉に城之内はふざけ半分でヘッドロックをかけるが――

 

『規定時刻が迫っております。本戦参加のデュエリストの皆さまはホールまでお越しください。繰り返します。規定時刻が――』

 

 そんな磯野のアナウンスがタイミングよく届いた。

 

「はいはい、2人ともそこまで――本戦が始まっちゃうわよ」

 

 その杏子の言葉に城之内は渋々御伽へのヘッドロックを外し、デッキとデュエルディスクを手に取るが――

 

「城之内――準備は万端?」

 

「愚問だぜ、舞! バッチリに決まってんだろ!」

 

 今の調子を問いかけた孔雀舞に城之内はデュエリストディスクを左腕に装着しながら意気揚々と返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでホールに集まったデュエリストとその関係者たち。その隅では野坂ミホと黒服の撮影スタッフたちがカメラ片手に中継している模様。そんな中で――

 

「来たな、お前ら! そして規定時刻になったから、本戦の説明を始めさせてもらうぜ!」

 

 集まったデュエリストたちに向けてやる気十分に声を張るモクバだが――

 

「待ってくれよ、モクバ! 予選を突破した奴が3人足りねぇじゃねぇか!」

 

「ナムのこと、呼んできた方が良いんじゃねぇか?」

 

 城之内はこの場に姿を見せていないナムことマリク・マリクの振りをしたリシド・アクターの3名がいない事実を問題視し、本田は友人であるナムの様子を心配する。

 

「遅れた奴に関する話もこれからするから安心するんだぜい、城之内!」

 

 しかしそんな城之内たちに対してモクバはチッチと指を振りつつ磯野を見やり――

 

「まずは本戦トーナメントの組み合わせを決める抽選の説明だ! 磯野ッ!」

 

「ハッ! ――カモン!! アルティメット・ビンゴ・マシーン!!」

 

 モクバの指示を受けた磯野が気合の入った掛け声と共に手をかざす。

 

 するとホールの一角からせり上がってきたのは丸い透明な球体の中に8つのボールが入った機械。

 

 その丸みがかった機械を三角形に覆う様に3つの白き竜の首が鎮座する。

 

 そう、そのビンゴマシーンの姿はまさに「アルティメット」の名を関する《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》そのもの――ただ、全体的にデザインは簡素だが。

 

「ふつくしい……」

 

 しかしブルーアイズ病とも評される海馬の様子を見るに琴線に触れる出来らしい。

 

 ただ、このビンゴマシーンは海馬と溝のあるBIG5の1人、《機械軍曹》の人こと大田がモクバからの要請を受けてデザイン、製造を一手に引き受けたと知ればどんな顔をするのだろうか。

 

「どうだ! これで本戦の対戦相手の組み合わせを決めるんだぜ! カ――」

 

 満足気な海馬の姿に鼻高々なモクバだったが――

 

「ビンゴ……マシーン?」

 

「センスゼロだな」

 

 そんな本田と御伽の真っ当な意見が――ゴホン、全くもってけしからん意見がモクバに突き刺さる。

 

「――カッコ良い……だろ……」

 

 モクバ的にはとてもカッコ良いビンゴマシーンだったのだが、一般的な感性の人間、もとい一部の人間にはこの良さは理解されなかったようだ。

 

「モクバ様! このビンゴマシーンはとてもカッコ良いですよ!!」

 

「ふぅん、美的感覚の乏しい輩の戯言など放っておけ、モクバ」

 

 しょげ気味なモクバに必死にフォローを入れる磯野と胸を張れと励ます海馬――おい、あんまり甘やかすような……素晴らしいデザインゆえに理解されないのは大変遺憾である。

 

「うん、そうだよね、兄サマ! 磯野! ――本戦の組み合わせはこのビンゴマシーンで随時、決めていくんだぜい!」

 

「つまり対戦相手はデュエルの直前まで分からないってことね」

 

 メンタルが復活したモクバによって再開された説明に孔雀舞は成程と相槌を打つ、

 

「その通りだぜい! そして勝ち抜いた選ばれたデュエリストだけがバトルシップが向かう先、デュエルタワーの舞台で雌雄を決するのさ!」

 

「マジかよ……」

 

 モクバの説明により、このバトルシップでのトーナメントにより参加者の数はさらに厳選されることが判明した為、城之内はゴクリと息を呑む。

 

 右を見れど左を見れど、世界で名の知れたデュエリストばかり――3名ほど今はこの場にいないが。

 

「ちなみに今、この場にいない奴はソイツの対戦カードが組まれる前にこの場にいれば大丈夫だぜい! 一応、河豚田(ふぐた)が様子を見に行っているからお前らは此処にいな! 入れ違いになっちまうからな!」

 

 そんな城之内の不安を余所にモクバの説明は佳境に入り――

 

「大まかな説明は以上だぜい! 早速! アルティメット・ビンゴ・マシーン――スタート!!」

 

 運命のトーナメントが始まる。

 

 アルティメット・ビンゴ・マシーンの中で踊る8つの球体。その球はそれぞれのデュエリストを示し、その球が《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の左右の口から1つずつ計2つがコロンと落ち、備え付けられていた受け皿に転がった。

 

 

「これにてバトルシティ本戦、第1戦の対戦カードは――」

 

 

 その2つの球が差す2人のデュエリストは――

 

 

「城之内 克也 VS リッチー・マーセッド!!」

 

 凡骨デュエリストこと城之内と、ペガサスミニオンの苦労人、リッチー。

 

 その組み合わせにレベッカは遊戯の肩に手を置きつつポツリと零す。

 

「城之内のバトルシティは終わったわね……遊戯、骨は拾って上げて」

 

 リッチーの強さはレベッカも良く知ったもの――早い話がプロの上位レベル。城之内からすれば圧倒的なまでの格上である。

 

「聞こえてるぞ、レベッカァ!!」

 

「レベッカ……『強敵だ』と注意を促すにしても言い方が……」

 

 レベッカのあんまりな言いように城之内が魂の叫びを上げるが、名もなきファラオの遊戯の言葉に城之内はハッとする。

 

 そう、これはレベッカなりのアドバイス。互いの実力差を明確に意識しておけ――そういうことなのである。

 

 レベッカの城之内を見る視線に何とも言えないものが混ざっているのもきっと意味があるのだろう……多分。

 

 「ではお二方とデュエルを直接観戦なさる皆さまは此方のエレベーターへ」

 

 やがてそんな磯野の言葉に従い、大型のエレベーターに乗った一同が辿り着いたのは――

 

 

 

 

 

 飛行船の頂上に作られたスペース。その名も――

 

「本戦はこの『天空決闘(デュエル)場』で雌雄を決して頂きます!」

 

 磯野の気合の入った掛け声が空気を震わせ、夜空に響く。

 

 

 しかしオーディエンスは磯野を気にした様子もなく――

 

「うわぁ~! いい景色ですね、玲子さん!」

 

「静香さん! あまり身を乗り出すのは――」

 

 静香が天空決闘場の端に手をかけ、夜空に浮かぶ月を指さし、それを心配性な北森があたふたする姿や――

 

「おっと、気を付けな! 今の高度は1000m――落ちたらタダじゃすまないぜ!」

 

「マジかよ!!」

 

 モクバの注意を含んだ説明に慌てて静香を止めに行く城之内の姿があったり、と皆が各々楽しんでいる状態であった。

 

 しかし磯野はめげない。

 

「ですがご安心を――万が一の事態を避ける為の様々な準備がございますので、安心してデュエルに集中なさってください」

 

 相手の会話の流れにスッと入り込みつつ、バトルシップの安全性を挟み込んでいく。

 

「ふぅん、突風吹き荒む気流の刃は体を切り裂くほどの痛みを決闘者に与えることになる――」

 

 しかしそんな海馬の言葉が城之内に向けて放たれ――

 

「――だが、凡骨デュエリストには些か過酷すぎたようだな――棄権した方が身の為だぞ」

 

「ここまで来て棄権なんかするかよ! ちょっと驚いただけだ!」

 

 城之内への挑発の炎となり城之内の怒りの導火線に火が灯った――相も変わらずの沸点の低さである。相手が海馬だから、というのもあるだろうが。

 

 

 混沌と化す天空決闘場にて若干の頭痛にさいなまれる磯野だが、大きく息を吸い何度でも声を張る。

 

「では対戦するお二方は定位置におつき下さい! その後、1回戦の開始の宣言を執り行わせて頂きます!」

 

 そんな磯野の声にオーディエンスは観客席に当たる場所へと移動し、城之内とリッチーはデュエル場に上がっていった。

 

 

 一先ず場が収まったことに安堵する磯野を見るリッチーの目がとても優し気だったのが印象的である――苦労人同士、シンパシーを感じたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 そんな優しい気持ちになったリッチーが相対するのは城之内――特に裏の事情に関係のない表の人間である。

 

「本戦の初戦が一般の参加者かよ……やりづれぇなぁ……」

 

「なんだ? この男、城之内サマが相手でビビっちまったのか!!」

 

 ゆえにそうぼやいたリッチーの姿に城之内はジャブ代わりに言葉を返すが――

 

「いや、俺は誰が相手だろうともビビりゃぁしねぇさ――バカみてぇに強い奴なんざ腐る程見てきたからな。いちいちビビってちゃあ、勝てるもんも勝てなくなっちまう」

 

 リッチーには暖簾に腕押しだ。

 

 それもその筈、リッチーの仕事現場がI2社であることを鑑みれば圧倒的な格上との遭遇や衝突は日常茶飯事。

 

 その度にいちいち気を揉んでいてはペガサスやシンディアを心配させてしまうことは自明の理――ゆえにリッチーは折れないハートを手に入れていた。

 

 

 それに加えて、夜行や月行、ときどきデプレの付いていけないテンションに慣れたリッチーにその程度の挑発は無力。

 

 ペガサスとシンディアに誕生日を盛大に祝われ、狂喜乱舞した夜行とのバトルを乗り切ったリッチーに恐れるものはない。

 

 

 そんな夜行ォ!なリッチーを余所に孔雀舞は城之内に声援代わりに注意を促す。

 

「気を付けな、城之内! ソイツはペガサスミニオン――あのペガサスに才能を見込まれてデュエルを叩きこまれた強敵よ!!」

 

「上等じゃねぇか! 相手にとって不足なしだぜ!!」

 

 相手が強者ならばより一層、燃えるだけだと意気込みを示す城之内の遥か背後で巨大な火柱がたった。

 

「……えっ?」

 

 これは城之内の熱意に反応して火柱が上がった――訳では当然ない。

 

 

 

 そんな今現在も轟々と天を焦がす勢いで燃え続ける火柱に本田のテンションは上がる。

 

「うぉおお!! なんだよ、あの炎! 天下のKCの大会だけあって、やっぱ派手だなぁ!」

 

 祭りは派手な方が良いと相場が決まっていると言わんばかりだ。

 

「では本戦の第1試合を――」

 

 ゆえに物理的に温まった会場のボルテージの流れを殺さぬように磯野が右手を掲げ、試合開始の宣言をしようとするが――

 

「待て、磯野! あんな炎の演出は予定になかったぞ! ひょっとしたらバトルシップに何か異常があったのかもしれ――」

 

「いえ、問題ありません、モクバ様」

 

 その磯野に向けてモクバは待ったをかけ、緊急事態の可能性を上げるが、磯野はその可能性をバッサリと切り捨てた。

 

 その考慮すらしていないような磯野にモクバは一瞬言葉を失うも、バトルシティを運営するものの一員として食い下がる。

 

「いや、問題ない訳ないだろう! だってあんな――」

 

「待て、モクバ――磯野……貴様、何を隠している?」

 

 しかしそんなモクバを逆に海馬が制し、磯野の前に一歩出た。

 

「何も隠してなど――」

 

「俺の目を見て同じことを言えるのか?」

 

 咄嗟に偽ろうとした磯野を海馬は鋭く見つめ、再度問いかける――虚偽は許さないと。

 

「…………あくまで一参加者である瀬人様に……お教えする訳には……いきません」

 

「ふぅん――」

 

 磯野の歯切れの悪い返答に海馬は小さく笑みを浮かべた後――

 

 

「――貴様はいつから奴の犬に成り下がった!!」

 

 磯野の襟首を吊り上げて激昂する海馬――「奴」と評した相手が誰なのかなど磯野はよく分かる。

 

「違い……ます……これも瀬人様や……モクバ様の為に……」

 

 しかし磯野は裏切りなどでは断じてないと海馬に示す。己の忠義は海馬とモクバと共にあると。

 

「ならば下らん隠し立てなどするな!! あの男の思惑程度に潰される俺ではないわ!!」

 

 だがそんな海馬の上に立つものとしての姿に磯野は己がいらぬ気を回してしまったことを恥じる。

 

 そしてゆっくりと語り始めた。

 

「瀬人様……いらぬ配慮を見せてしまい、申し訳ございません――ですが私も全てを知る訳ではないのです……」

 

 とはいえ磯野もそこまで多くの情報を持っている訳ではない。

 

「まず『バトルシップの仕掛け』の存在、

そして『バトルシップにてアクターが動く』事実、

最後に『何があっても大会を中止しない』決定」

 

 海馬の目をしっかりと見すえて磯野は嘘がないことを示す。

 

「私が知らされているのは、この三点のみ……です」

 

「成程な……グールズの首領に噂されるマインドコントロールを警戒して情報を分散させた訳か……」

 

 磯野に知らされた情報はたった3つ――しかもその情報だけでは半端な対策しか立てられないようなものばかり。

 

 だが海馬には悪辣に笑みを浮かべる神崎の姿が良く見えた――気のせいだが。

 

 

 一方の磯野と海馬の衝突にハラハラしていたモクバは「あっ」と手を叩く。

 

「つまりあの炎はアクターの仕業なのか!」

 

「いや違うぜ、副社長さんよ――あれは恐らくマリクが持つ三幻神のカード、『ラーの翼神竜』のものだ」

 

 そんなモクバの予想を違うと断じたリッチーに海馬はギロリと睨みつつ問いかける。

 

「根拠は?」

 

 しかしその問いに答えたのはリッチーではなく、夜行だった。

 

「『ラーの翼神竜』はペガサス様ですら知りえない力を持つ……そう聞き及んでいます。あれ程の余波を放つ一撃は神のカード以外、あり得ないでしょう」

 

「ふぅん、十分だ――ならば凡骨のデュエルを観戦している暇などない。行くぞ、遊戯! 最後の神のカードの所持者のデュエルをこの目で見定める!!」

 

 その夜行の言葉に我答えを得たりと海馬はあの炎の柱の元へ全速前進するが、完全に蚊帳の外だった城之内が声を上げる。

 

「ちょっと待て、海馬!! 俺には何が何だかサッパリだぞ!!」

 

「貴様如き凡骨の知能に合わせて態々説明してやる義理などないわ!!」

 

 城之内の疑問を一刀両断しつつ、『ラーの翼神竜』の元へとひた走る海馬。

 

「夜行。此処は構わねぇから『ラーの翼神竜』を見極めてこい」

 

 そんなリッチーの指示に小さく頷き海馬の後に続く夜行。

 

 

 

「誰か俺にも分かるように説明してくれよ!」

 

 目まぐるしく変わる状況に完全に置いてけぼりな城之内。

 

「えーと、あの炎が上がった先にマリクって人がいる――って話だと思うんだけど……」

 

 だがそんな城之内の救いとなったのは静香の言葉――話の内容の殆どはよく分かっていなくとも、肝心な部分は辛うじて拾っていた。

 

「何ィ!? 本当か静香!!」

 

 そう確認するように問いかける城之内にレベッカは喝を入れつつ情報をプラスする。

 

「相変わらず鈍いわね、城之内! みんなマリクの持つ『ラーの翼神竜』の力を見定めようって話よ!」

 

「そういうことか…………って俺の試合は!?」

 

 大まかな事情を把握し、納得を見せた城之内に新たに疑問が湧くが――

 

「遊戯! それとダーリン聞こえてる? 城之内には酷だけど王様の遊戯の記憶の手掛かりになるかもしれないから、私たちも行くわよ!!」

 

「…………済まない、城之内くん! 健闘を祈る!!」

 

 既にレベッカと遊戯はこの場を離れるまさにその時であった。

 

「なら俺も行くぜ! マリクにはダチを殴られた借りがあるからな!」

 

 しかし城之内はその遊戯たちの後に続くべくデュエル場から降りるが――

 

「いや、城之内……お前の試合はどうすんだよ……」

 

「棄権になっちゃうわよ?」

 

 そんな本田と杏子の呆れた視線が城之内に突き刺さる。

 

 完全に動きを止め、固まる城之内の姿を見るに何も考えていなかったようだ。

 

 

 そんな城之内を見かねてリッチーは提案する――脊髄反射で行動する城之内の姿にどこかデジャヴを感じながら。

 

「……確か城之内とか言ったな? これは提案なんだが、俺たちの試合は向こうのデュエルを見届けてからにしねぇか? まぁ無理にとは言わ――」

 

「乗ったぜ!! 本田! 海馬たちはどっちに行った!」

 

 リッチーの提案に2つ返事で了承した城之内は遊戯と共に駆け出そうとするが、今度は御伽が待ったをかけた。

 

「城之内くん、その前に磯野さんに確認した方が……」

 

 その御伽の言葉を受け、城之内たち一同の視線が磯野に注がれる。

 

 

「…………止むを得まい」

 

 そんな絞り出したかのような磯野の声が零れた。

 

 だが此処で今の今まで上の指示で大人しくしていた野坂ミホ率いる情報媒体‘sが危機的状況を語りだす。

 

「ちょちょちょ、ちょーっと待ったー! もうカメラ回っちゃってるんだけど! しかも生放送で色々問題だらけな映像を録っちゃった気がするんだけど!!」

 

 野坂ミホたち+黒服の手によって撮られた映像は火災現場もビックリな火柱に、KCの内輪もめっぽい何かに加えて、大会をほっぽり出して火柱の元へと向かうデュエリストたち。

 

 

 些か以上に問題のある映像だった――生放送であるのなら取り返しのつかないレベルだ。

 

 

 だが安心させるような言葉がモクバから届く。

 

「それは大丈夫だぜい! 実は生放送じゃないからな!」

 

「えっ、そうなのモクバくん!?」

 

 そうモクバに問いかける野坂ミホだが、磯野が説明を引き継ぎ一気に語る。

 

「グールズの活動が活発になっていた情勢から情報統制しなければならない状況も考慮し、一旦全ての情報をKCに集め、問題ないように編集する手筈になっている。多少の融通は利かなくはない」

 

 これは原作の闇マリクの闇のゲームがお茶の間には流せないことが明白の為、神崎によって予め決められていたことだった。

 

 

 ちなみに情報の出口を任されているのは乃亜+BIG5たちである。

 

 

 と、そんなことはさておき――

 

「よし! ソッチは頼んだぜ、磯野! 俺は兄サマを追う!」

 

 磯野と野坂ミホの周辺で撮影機材を持つ黒服たちに後を任せるモクバ。

 

 そんな中、磯野にリッチーは軽い口調で語る――

 

「なら俺は一応、残っとく――時間がかかるようなら大会参加者のインタビューでも何でも時間稼ぎに使ってくれて構わないぜ」

 

「じゃあ、アタシも残っておくわね。エキシビジョンマッチでも何でもドンと来なさい」

 

 そのリッチーの選択に、孔雀舞も同調を見せた。

 

「お二方……助かります」

 

 そんな2人に礼を尽くす磯野に対し、北森も手を上げる。

 

「私も牛尾さんからの指示もありますので、此処に残りますね」

 

「う~ん、じゃあ私も残ります! これでもバトルシティに携わる人間ですから! お兄ちゃん! 頑張ってね!」

 

 牛尾とのやり取りから残ることを選択した北森に静香も「KCスタッフの手伝い」の認識から同調。

 

「そうか! なら俺たちは行くぜ! 直ぐ戻ってくるからな!!」

 

 そして城之内の一声で炎の柱の元へと向かう遊戯たち――その先に待ち受けるは三幻神の最高神たる不死鳥。

 

 彼らはその大いなる力をその眼にすることになるだろう。

 

 





バトルシティ本戦、第1試合の会場に残った人

磯野・孔雀舞・リッチー・北森・静香・野坂ミホ+α(撮影スタッフ)


マリクVSアクターの元へ向かった人

牛尾・イシズ・夜行・海馬・モクバ
遊戯・城之内・本田・杏子・レベッカ・御伽


トーナメント第1試合「みんなの興味が薄いッ!(´;ω;`)ブワッ」


『ラーの翼神竜』の詳細な能力は次回に発表です。


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