マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
本戦トーナメント「俺の時代がキターーーー!!」







第119話 本戦トーナメント[完]

 

 

「そこまで!! 本戦、第1試合! 勝者! リッチー・マーセッド!!」

 

 そんな磯野の宣言が響く天空デュエル場にて2人のデュエリストの戦いが終わりを迎えた。

 

「くそぉおお! 負けちまったぁああ!!」

 

 だがその一方の城之内は膝を突きつつ天へと敗北の悔しさを吐き出していた。

 

「――でも楽しかったぜ! 俺の分まで勝ち進んでくれよな!」

 

 しかし叫んでスッキリしたのか、すぐさま立ち上がり対戦相手であったリッチーの元へと駆け寄って手を差し出す城之内。

 

 そんな城之内の姿にリッチーは肩を軽くすくめつつその手を握りながら返す。

 

「勝者の義務って奴か? まぁ頑張らせて貰うぜ」

 

 純粋にバトルシティに挑んでいた城之内とは違い、リッチーの目的はグールズの壊滅にあった為、一抹の申し訳なさを感じていたゆえに城之内の前向きなスタンスはありがたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな互いの健闘を称える両者を余所に磯野は大会進行に勤しむ。

 

「そして棄権者が3名出たことで、これにてバトルシップでの本戦は終了となります!!」

 

 しかしバトルシティ本戦トーナメントはマリク・リシド・アクターの3人が棄権した為、今や遊戯・海馬・城之内・夜行・リッチーの5人。

 

 さらに先の1戦で1人脱落した段階で既に決勝トーナメントの4人の席は埋まっている――というかギリギリである。

 

 

 そんな「大会として……どうよ?」な有様にレベッカはポツリと呟く。

 

「……本戦トーナメントが1戦で終わっちゃったわね」

 

 レベッカの声色から察せられるように些かマズイ状態だった。あれだけ色々あったにも関わらず、1戦だけでは問題しかない。

 

 そんな状況ゆえにモクバは磯野の傍に寄り、小声で尋ねる。

 

「……大丈夫なのか、磯野?」

 

「いえ、あまり大丈夫では……ですが、瀬人様のデュエルでなら十分に挽回できるかと」

 

 磯野的にも大丈夫ではなかった――だが、何の手も用意していない訳ではない。

 

 磯野は咳払いを一つ入れ、再度声を張り上げる。

 

「ゴホン、そしてここより! デュエルタワーでの決勝の舞台に立つ2人のデュエリストを決めるべく、再度アルティメット・ビンゴ・マシーンで組み合わせを決定します!!」

 

 

 磯野の取った選択は予定の前倒しである。

 

 デュエルタワーでの決勝トーナメントを決勝戦のみに当て、この場で決勝戦に上がるデュエリストを決めてしまおうとの決定だった。

 

 

「おっと、連戦は勘弁して欲しいとこだぜ」

 

「そこはクジ運次第ですね」

 

 そんなリッチーと夜行の会話を余所に、磯野はシュバッと手を上げ――

 

「カモン! アルティメット・ビンゴ・マシーン!!」

 

 その声と共に天空デュエル場の一角からゴゴゴと厳かな雰囲気を出しつつ、何時ぞやの《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》型のビンゴマシーンが姿を現した。

 

「モードォ!! チェンジッ!!」

 

 しかしその磯野の言葉と共に、アルティメット・ビンゴ・マシーンのビンゴマシーン部分が仕舞われて行き、残ったドラゴン部分が2本の足で立ち、翼を広げ、その三つ首からグワリと持ち上がる。

 

「おお、変形した!?」

 

 目を輝かせるヤロウどもを代表した本田の声のとおり、これこそがアルティメット・ビンゴ・マシーンの真の姿。

 

 通称、「バトルモード」である――海馬の「おお、これが……」な視線が誇らしい。

 

 

 しかし「ロマンなど知ったことか!」な杏子は隣の牛尾に尋ねた。

 

「あれって意味はあるの?」

 

「俺の聞いた話じゃ特に意味はねぇらしいぜ――視覚効果ってのを狙ったもんだな」

 

 杏子の問いに頬をかきながら目を逸らし、返す牛尾だが――

 

 牛尾には知らされていないが、「バトルモード」となったアルティメット・ビンゴ・マシーンは単騎で戦場を駆け巡る程のポテンシャルを秘めている――文字通り走り回るだけだが。

 

 その用途は闇マリクがアクターを倒し、さらには遊戯や海馬すら破り、誰にも止められなかった最悪の事態の際の緊急時に「闇マリクを捕らえて、そのままお空へとダイブ」する為で、そういう作戦も組まれていた。

 

 

 最終手段ってヤツである。オカルトパワーにもそう簡単にはやられない丈夫設計だ――卑劣な作戦である。誰が考えたのやら。

 

 

 そんなマル秘な事案はさておき――

 

「ではネオ・アルティメット・ビンゴ・マシーン! スタート!!」

 

 その掛け声と共に磯野の腕が振り下ろされ、ネオ・アルティメット・ビンゴ・マシーンが起動した。

 

 

 ちなみに選出方法は3つの首の内、2つの首の眼からデュエリストに光を照射する仕組みだ――ビンゴ要素皆無である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって何処ともしれぬ大空を雲に紛れながら大気を踏みしめ駆け抜ける神崎は通信機片手に通信を試みていた。

 

 それはアクターとしての仕事が終わった為、KCに良い感じなタイミングで戻る為に色々工作する要件。

 

 やがて神崎の手の中の通信機から声が届く。

 

『やぁ、神崎――君が直接連絡してきたところを見るに何か問題でも起きたのかな?』

 

 その声の主は乃亜。その声色からは何処か挑戦的な姿勢が見える。

 

「はい、ようやく時間が取れたので、現状の確認だけでも――と」

 

 まずKCの状況を確認しようとする神崎だったが、乃亜が不審気な声を上げる。

 

『そうかい――でも少し音声が……移動中かい? 音の拡散具合から察するに空の旅かな?』

 

 通信機の音声のブレのようなものを指摘する乃亜に神崎は慌てて宙を駆ける速度を落としながら、誤魔化しにかかる。

 

「え、ええ、今は雲の中を突っ切っているところです」

 

 あたかも「今は飛行機の類に乗っていますよー」と神崎はアピールする――必死か。

 

「それで其方の状況はどうなっていますか?」

 

 だがこれ以上追及されても面倒な為、本題にて話題を逸らす神崎の言葉に乃亜は気にした様子もなく返す。

 

『此方の状況? ギースの報告では洗脳された人間が次々にそのくびきから解放されているとのことだよ――アクターは仕事を果たしたようだね』

 

 バトルシップに搭乗してから僅かな時間で仕事を終えたアクターに対し、感心するように声を上げる乃亜だったが――

 

『とはいえ、本戦で始末をつけたのがマイナスかな――お陰で大瀧が大忙しさ』

 

 そもそも予選の段階で全てを終わらせる計画だったと零す乃亜。

 

 だがその言葉通りに本戦にズレ込んだ為、情報統制の為にペンギン大好きおじさんことBIG5の大瀧が海を泳ぐペンギンのような素早さで年齢を感じさせぬ程に現在進行形でフル回転していた。

 

「そうですか……では大瀧殿含めて後でお詫びをしておかないと」

 

 成果には対価を、とそれっぽいことを語る神崎を余所に乃亜は問いかける。

 

『それだけじゃないんだろ?』

 

「はい、私は少しKCに戻るのが遅れそうなので事後処理も始めておいて貰おうかと思った次第です。計画書もありますのでそれを――」

 

 乃亜に向けて本題を明かす神崎――その言葉通り神崎は直ぐに「オカルト課の責任者」としてKCに戻る訳にはいかない。どうしても確認が必要な件があった。

 

 

 やがて神崎の説明を受け、計画書を見つけた乃亜が紙をめくる音が通信機越しに聞こえるが――

 

『別件かい? まぁいいけど、計画書はこれか――ッ!』

 

 計画書をめくっていた乃亜の手が止まると共に息を呑む声が通信機越しに神崎に届く。なにかマズイことをしてしまったのかと戦々恐々する神崎を余所に乃亜は声を張る。

 

『マリク・イシュタールの立場を!? 残念だけどそれは――』

 

 今回の神崎の要件はザックリ言えば「マリクをフォローすること」――墓守の一族+遊戯と可能な限り良好な関係を結んでおきたいゆえの決定だったが、乃亜は否定的だった。

 

 

 それもその筈、「マリクを庇う」ということは「グールズの首領を庇う」と同義である。

それはグールズの被害者たちの存在を考えれば、KCにとってマイナスにしかならない。

 

 しかし神崎も何の考えもない訳ではない。ある程度の裏口くらいは用意していた。

 

「確かに難しい問題ですが、計画書に概要があります――それで、()()()()()()?」

 

『…………これか、成程――()()()()()()か』

 

 とはいえ神崎としては自身よりはるかに優秀な乃亜が「無理」と断じるのなら別の方法を模索し、それでも無理なら「しょうがない」と諦める腹積もりであった。

 

 遊戯に恩は売っておきたい神崎だが、その恩を売ったことで自身が破滅して死ぬようなことになっては意味がない。

 

「出来ないのなら、別の――」

 

 乃亜のトーンの落ちた声色から神崎は恐る恐るな内心を隠しつつ問いかけるが、そこから「方法を模索する」とは神崎は続けられなかった。

 

『いや、僕がやる』

 

 乃亜の決意に満ちた声に阻まれて。

 

 しばらく通信機から紙をめくる音や何やら機械を操作する音が鳴った後、乃亜は己の脳裏で組み上げた段取りを元に宣言する。

 

『――よしOKだ。後は大岡と大まかな話は詰めておくよ』

 

 任せてくれ、と言わんばかりの乃亜の言葉を最後に通信は切られた。

 

 

 ブツリと通話が切られた通信機を懐に仕舞いつつ、神崎は「さすが乃亜」と呑気なことを考えながら引き続き宙を蹴り、加速していく。

 

 

 この調子ならKCまであと少しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな通信を終えた乃亜はKCの一室にて受話器を置き、何処か楽し気だった。

 

「しかしこれは大きな買い物になったかもしれないね――お互いに」

 

 そんな誰に語り掛ける訳でもない独り言の軽い言葉とは裏腹に乃亜の胸中は燃えていた。

 

――このくらいは「超えて見せろ」。そう言いたいんだね、神崎……その挑発、乗ってあげるよ。

 

 この仕事を「『別の』者に任せる」との意が籠った言葉に乃亜は我慢がならぬと燃えていた。

 

 

 

 

 

 やがてそんな燃えに燃える乃亜は振り返る。

 

「――と待たせたね、ギース。要件はなんだい」

 

 乃亜が通信中であった為に待機していたギースに向けて。

 

 そうして乃亜に話を振られたギースは手に持った紙の束を乃亜のデスクに置きつつ報告する。

 

「グールズの構成員にされていた人間への諸々の聞き取りが終わった――とのことだ。其方は?」

 

 そして乃亜の通信相手が神崎であったことを察して問いかけるギースに、乃亜は肩をすくめながら返す。

 

「神崎から面倒事を言い付かったよ」

 

「面倒事?」

 

 その乃亜の顔にはヤレヤレと何処か呆れた様子すら見えた為か、ギースも愚痴くらいは、と聞く姿勢に入るが――

 

 

「ああ、とっても可哀そうな過去を持つ『グールズの首領』、マリク・イシュタールくんに僕たちが手を差し伸べて上げよう――って話さ」

 

 

 乃亜からオーバーな芝居がかった仕草で語られた言葉はギースを一瞬、固まらせる――何故、そんな話が出てくるんだ。と言わんばかりの反応だった。

 

「…………何故だ? このバトルシティでの追い込みを見るに、マリクに厳しい処罰を与えるんじゃなかったのか?」

 

 ギースはグールズの被害者の惨状に加えて、グールズの排除を願った依頼者たちの熱意と悪意を目の当たりにしている。

 

 そんな依頼者の要望ゆえにKC側はグールズには厳しい対応を取ると考えていた。バトルシティでの追い込みっぷりを見ればギースにはそうとしか考えられない。

 

 

 しかしそんなギースを乃亜は小さく笑う。

 

「フフッ、キミにはそう見えたかい?」

 

「そう言われても、私にはあの方が何を考えているかなどサッパリ分からんぞ」

 

 オカルト課における古株のギースの言葉には中々の苦悩が見えた――上司がよく分からない人などやり難いことこの上ない。

 

「そうなのかい? キミはかなりの古株だと聞いていたのだけれど、意外だね」

 

「……それで面倒事の具体的な内容は?」

 

 乃亜の面白いものを見たと言わんばかりの視線から目を逸らしつつ仕事の話題に戻すギース。

 

 

「神崎の考えは大きく5つ」

 

 そんなギースに対し、乃亜は握った右手を突き出し、その内の人差し指を立てる。

 

「1つ目は単純にグールズという組織を崩すことで被害を食い止めること――馬鹿にならない被害だからね」

 

 この考えは当然のもの――グールズを放置することなどKCには出来ないのだから。

 

 

 そして乃亜は2本目の指を上げながら続ける。

 

「2つ目は世界が手を焼いたグールズという組織をKCには容易く処理する術があることの証明――此方の力を示す目的」

 

 此方も分かり易い目的である。

 

 誰もが止められなかったグールズをKCが容易く止めた事実は良からぬことを考える人間に対して大きな牽制になるだけでなく、KCに対する信用・信頼にも繋がる。

 

 名を売る行為はいつの時代も重要だ。

 

 

 此処までは予想通りといった様相を見せるギースを見つつ乃亜は3本目の指を上げる。

 

「3つ目はグールズという組織の中で頭角を現した優秀な人材、『名持ち』の引き抜き――恩人である此方側の提案を無下には出来ないだろう」

 

 これはいつもの「人材集め」である。

 

 操られていたとはいえ、犯罪行為に手を染めてしまったグールズの構成員たちの立場は弱い。

 

 そこに恩義のあるKCから助け舟が出れば、彼らは大して疑うことなどせず乗ってくる公算が高い――何とも底意地の悪いスカウトである。

 

 

 次に乃亜は4本目の指をもったいぶるように上げる――此処からはギースが想定していない領域。

 

「4つ目は依頼者の人間性の確認と選別――『グールズの首領』という『どう扱おうが後腐れのない人間』をぶら下げて、過激な思想を持つものや此方の思惑を読めない相手を区分けするのさ」

 

 最初はマリクを含めたグールズの構成員たちに対し、過剰なレベルの人員投入を匂わせ、奥の手――ということになっているアクターまで投入することを示し、KCの圧倒的優位を演出。

 

 そんな有利な状況の時こそ人のタガは緩み、「どうせなら」と欲を見せる。

 

 それらの欲望のままに依頼者たちが要望した内容の書かれた書類の1枚をめくりながら乃亜は嗜虐的な笑みを見せた。

 

「依頼の追加要請のアレコレを見るに、かなり釣れたようだね」

 

 その書類の束は己の欲望を制御できなかった人間のブラックリストとなりえる。

 

 依頼に関しては「グールズという組織の解体」である為、要望はあくまで要望でしかない。それゆえKC側が絶対に叶えなければならない必要性など何処にもないのだ。

 

 

 やがて乃亜は最後の5本目の指を上げて語る。

 

「5つ目は墓守の一族へ借りを作り、彼らの持つ所謂オカルトの力に探りを入れること――とボクは思ったんだけど、どうやら違うらしい」

 

 しかし、乃亜はそう言いながら肩をすくめて見せる。

 

「では何だ?」

 

 乃亜の勿体ぶるかのような姿に気乗りしない様子を見せつつ問いかけるギース。

 

 

 

 

 

「オカルト案件に対する法整備」

 

 

 

 

「…………は?」

 

 だが乃亜から語られた最後の目的にギースはタップリと間を置いた後で呆けた顔を見せた。

 

「ハハハッ! そんな顔になっちゃうよね! こんなの『お化けを罰する法律を作りましょう』って言ってるようなものなんだから!」

 

 そのギースのリアクションに乃亜は満足気に笑う。大爆笑である。そんなに笑わなくても良いんじゃないかと思ってしまうような笑い方である。

 

 乃亜も神崎から詳しい説明をされていなかったら鼻で笑うか、神崎の精神状態を疑っただろうことは置いておく。

 

 

 しかし大爆笑されているギースだが、顎に手を当てて考え込む仕草からハッと顔を上げる。

 

「いや、そういうことか……サイコ・デュエリスト」

 

「おや? 察しがついたようだね」

 

 荒唐無稽な話の裏側に勘付いたギースに対し、乃亜は満足気に説明に移る。

 

「そう、君のように精霊と対話できたり、デュエルモンスターズのカードを実体化できる人間のことだね――でも少し違う」

 

「ああ、正確な定義は存在しない――今の段階では『異能を持つ者』程度の定義付けしかされていないのが実情だ」

 

 乃亜の言葉に咄嗟に訂正を入れるギースだが、乃亜の論点はそこにはない。

 

「違うよ、ギース。そっちじゃない――今回の目的はあくまで『摩訶不思議なアイテム』で実行された証明の難しい犯罪行為に対する『刑罰』を定義するだけだ」

 

 そう乃亜は返すが、指を一つ立て付け加える。

 

「ただ将来的には『不思議な力を持つ人間』に対する表の処置も進めていくんじゃないかな?」

 

「そうか……」

 

「おや? 嬉しそうだね、ギース」

 

 その過程に小さく穏やかな笑みを浮かべるギースの姿に珍しいものを見たと声を漏らす乃亜。

 

「フッ、そう見えるか」

 

「ボクはキミがそんなにも上機嫌な姿なんて初めて見たよ」

 

 オカルト課そのものへの勤続年数が短い乃亜だが、ギースの性格からこんなにも素直に「喜」の感情を表に出すとは思っていなかったらしい。

 

 

 しかし乃亜が語った過程はギースにとって何よりも喜ばしいものだった。それは――

 

「『キミは化け物じゃない――人間だ』」

 

「何だいそれ?」

 

 ギースから語られた「誰か」の言葉に疑問符を浮かべる乃亜に遠い過去を思い出しながらギースはポツリと言葉を零す。

 

「あの方が私を引き上げてくれた時の言葉だ」

 

 それは「精霊の知覚」という異なる力を持ったゆえに孤立し、疑心暗鬼から己すら見失いかけていた地獄から引き上げられた日の言葉。

 

 あのままであれば自身は精霊を憎悪していたかもしれないとギースは昔を懐かしむ。

 

「ふーん、成程ね――『オカルト』に対する定義付けはキミたちのような人間を呼び寄せる為のものでもあるのか」

 

「……もう少し言い方というものが、あるだろう」

 

 しかし乃亜の「人材集め」を示唆する発言にギースは小さく息を吐く――その言い方ではまるで「悪党」ではないかと言いたげだ。

 

 だが乃亜はそんなギースに呆れ気に返す。

 

「でも神崎の目的に『善性』を求めるだけ無駄だよ――ただ必要なときの為に『拾い上げ易くする準備』をしているだけだ」

 

「……分かっている――だが、どんな形であれ過去の私のような人間が苦難から逃れられるのなら喜ばしい限りだ」

 

 さらっと神崎を極悪人のように語る乃亜の言葉にギースは「それでも遥かにマシになる筈だ」と考えている。

 

「まぁ、神崎なら下手には扱わないか」

 

「ああ、私も微力ながら助力するさ」

 

 そしてその点に関しては乃亜も同意見だった。

 

 やがてギースの決意の言葉を最後に今後の仕事の話に戻る2人。だが乃亜の脳裏をある考えが過る。

 

 

――でも気付いているのかい、ギース? ソレは君を繋いでおく為の鎖だよ。

 

 しかし、その言葉は終ぞ乃亜の口からは語られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCの所狭しと何らかの機材が並ぶとあるフロアにて、如何にもペンギンが好きそうなおっさんの声が響く。

 

「あー、ちょっとキミ! 此処のデュエリスト紹介はもっとレッドアイズに関するドラマ性を重視して!」

 

 その正体ことBIG5の1人、ペンギン大好き大瀧は書類片手にその書類を担当した社員を呼び止め書類をペチペチ手で叩きながらグフフと指示を出す。

 

「『ライバルから受け継がれたカードが、妹のカードによって新たな姿となって兄を助ける』――これは話題性もイイですよ~! グフフ……」

 

 人事担当ゆえに多くの人間を見てきた大瀧は求められる話題に聡かった。

 

 このまま上手くことを運べば乃亜からの覚えもよくなり、「ペンギンランド2」の計画も認められるかもしれないとほくそ笑んでいたが、指示を出していた社員とは別の社員から差し出された書類に意識を戻す。

 

「えっ? なに? チェック? はいはい――あっ、キミは作業に戻りなさいね! さっきの忘れちゃダメですよ~!」

 

 手渡された書類をペラペラとめくりながら、最初の社員に向けてヒラヒラと手を振る大瀧。

 

「えー、ふむふむペガサスミニオンに関する説明は問題なしっと! 一時プロとして腕を磨くも、今はI2一筋に――あー、ダメダメ! これじゃあ、ダメ!」

 

 だが大瀧の書類をめくる手がピタリと止まる。

 

「これだとグールズ関係が匂っちゃうでしょ! 気を付けて貰わないと困るよ! バトルシティの表向きは『普通の大会』なんだから!」

 

 そしてその書類をペシペシ叩きながら、担当した社員にペンペンと苦言と呈する大瀧だったが――

 

「えっ? ならどうすれば良いって? 全くしょうがないですねー」

 

 担当の社員からの言葉に矛を収めて「ヤレヤレ」とオーバーに呆れて見せた――イラっとする仕草である。

 

「彼らはペガサス会長と強い絆があります。ですからそのペガサス会長が注目する『武藤 遊戯』の実力を直に感じにきた――」

 

 しかし大瀧から語られる内容は至って真面目そのもの。いつものペンギン狂いな姿は見られない。

 

「と、こんな感じでグールズ関係から目線を逸らす! いいですね! ほら、すぐ作業に戻った戻った!」

 

 そのBIG5としての大瀧のシュバッとした姿を見てポカンとしている社員に対し、ボサッとするなと檄を飛ばす大瀧。

 

 ペンギンだけのおっさんではないのだ。

 

 

 やがていそいそと作業に戻っていく社員を見送る大瀧の背後から声がかかった。

 

「ペンギンのおっさ――じゃなかった。大瀧のおっさん、『城之内VSリッチー』の試合データ持ってきたぞ~」

 

 その声の主はヴァロン。その手にはデュエルを纏めた書類とデュエルデータが入っている端末が握られている。

 

「ペェン!!」

 

「うぉっ!?」

 

 しかしその書類と端末は大瀧の獲物を狙うペンギンが如き動きでヴァロンの腕からひったくられた。

 

 その一連の大瀧の動きの背後にヴァロンは何故か5匹の皇帝ペンギンの姿を見たという。

 

「待ってましたよ! デュエルの結果は――」

 

 端末をせっせと起動させながらパラパラと書類をめくるが――

 

「リッチー・マーセッドが勝ったってよ」

 

「そうですか。前評判通りですね……順当過ぎて面白みがない」

 

 ヴァロンの言葉にふと動きを止め、僅かに考え込む大瀧。

 

「そこのキミ! これを頼むよ! 私は試合前のやり取りにジャイアントキリングな煽りをぶっこんで来ますので!」

 

 そしてベテランっぽい社員に書類と端末を任せ、大瀧は動き出す。

 

「あっ、大瀧のおっさん。後、アクターの奴が本戦のデュエリストを2人狩って、とんずらかまして棄権したそうだぜ」

 

 動き出す筈だったのだが、そんなヴァロンの言葉でピタリと動きを止める大瀧。

 

「なんですと!? と、言うことは――」

 

「ああ、デュエルタワーでの4人制トーナメントを取りやめて決勝の舞台にするんだと――だから後3デュエル分の情報統制を頼むって、乃亜の奴が」

 

 此処にきての追加注文である――鬼か。

 

「アクター!! あの男は急過ぎます! 此方にも段取りと言うものが――」

 

 かなりの忙しさに追われている大瀧が此処にはいないアクターに恨み言をぶつけるが――

 

「無理そうなら乃亜にそう伝えとくぜ?」

 

「いえ、乃亜様には『お任せを!』と伝えてください! 最初のデュエルさえ放送できれば後はこっちのモノです!」

 

 気を利かせたヴァロンの言葉をすぐさま断る大瀧。こんなときだからこそ自身の有能さを乃亜に見せつけておかなければならない。

 

 オカルト課の後継者と思しき乃亜に落胆されることの意味が分からぬ大瀧ではない――全ては愛するペンギンたちの為に。

 

「それで次の対戦カードは!」

 

「遊戯VS夜行だとさ」

 

 キリリと目元を引き締めながらかけられた大瀧の問いに引き気味に答えるヴァロン。

 

「グフフ……となればその次は海馬社長の試合ですか! 皆さん! 後、もう一踏ん張りですよ!!」

 

 やがてそんな気合の入った大瀧の声が一室に響き、社員たちの綺麗に揃った返事が木霊した。

 

 

 

 

「『終わった後の方が大変』か……おっと、俺も急がねぇと」

 

 そんな状況をさらに一歩引きながら見守るヴァロンはそう零しつつ、その気合に焚き付けられた様相でオカルト課へと戻っていく。

 

 

 今なら苦手な書類仕事もドンとこいとばかりな姿だった。

 

 

 

 

 なお現実はそう甘くなかったことを此処に記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルシップにてネオ・アルティメット・ビンゴマシーンによって決定された決勝トーナメントの対戦カードは――

 

「準決勝、第1試合の対戦カードは――武藤 遊戯 VS 天馬 夜行!!」

 

 その磯野の宣言に夜行は小さく笑い始めた。

 

「ふっふっふ……とうとうこの時が来たようですね!」

 

 本来の目的であったグールズの問題は既に解決してしまったが、他のペガサスミニオンとは違い夜行にはもう1つ目的があった。

 

 そして夜行はクワッと目を見開き続ける。

 

「遊戯さん! どちらがペガサス様に相応しいデュエリストか雌雄を決しようじゃないですか!!」

 

 その夜行の目的とは嫉妬――もとい、ペガサスの関心を引いている遊戯に対する宣戦布告だった。

 

「えっ!?」

 

 夜行の圧倒的な気迫が込められた、全く身に覚えがない理由に面食らう遊戯。

 

 表の遊戯こと相棒は心の中で苦笑いしつつ静観している模様。

 

 しかし夜行は止まらない。

 

「ペガサス様は仰っていました……『遊戯ボーイは素晴らしいデュエリストデース!』と!」

 

「そ、そうなのか……」

 

 意外と似ていたペガサスのモノマネに思わず感心しつつ、遊戯はこの話の肝を探るが――

 

「ですが私の方がペガサス様にとって素晴らしい存在である筈と自負しております――それを、このデュエルで証明してみせましょう!!」

 

「あ、ああ」

 

 夜行の要求はハッキリ言って「言い掛かり」以外の何物でもないが、遊戯は取り合えず了承の意を戸惑いつつ見せる。

 

 夜行が悪い人間ではないことは遊戯も分かっているが、それとこれとは別な問題があった――ヤル気に燃える夜行についていけていない。

 

 

 夜行の深すぎる愛の洗礼を初めて浴びた遊戯に対し観客席のリッチーは申し訳なさげに声をかけた。

 

「あー……夜行のことはあんまりマトモに相手しなくていいぞ。普通にデュエルすりゃコイツも満足するだろうから」

 

 そう語るリッチーの疲れた表情に全てを悟る遊戯。

 

 

 遊戯も夜行の熱意に何とか応えようと言葉を探すが――

 

 

「では準決勝、第1試合を始めさせて貰いましょう! デュエル開始ィイイイイ!!」

 

 それより早く「このままじゃ埒が明かねぇ!」とばかりに磯野が強引に試合開始を宣言。

 

 

 

「デュゥエェルゥ!!」

 

 

「…………デュエル!」

 

 夜行と遊戯の両名のデュエルは温度差の激しいスタートとなった。

 

 

 






激闘の本戦トーナメントが終わり、

決勝(で戦う2人を決める)トーナメントが今、始まる!(`・ω・´)キリッ


なお試合数(目そらし)


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