マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
獣神機王(じゅうしんきおう)バルバロス Ur(ウル)「あ、あれは《ダークファミリア》! 遊戯さんを支え続けてきたカード!!」

ダークファミリア「( ・´ー・`)ドヤァ・・・」

エクゾディア「誰だお前!?」




第121話 龍穿つ魔弾

 

 

「そこまで!! 準決勝、第1試合! 勝者――武藤 遊戯ィ!!」

 

 デュエルの終了と共に消えていくエクゾディアを余所に磯野の宣言が響く。

 

 そしてエクゾディアの放った炎が渦巻く火柱も消え、その中から膝を突いた夜行が見えた。

 

「申し訳ありません、ペガサス様ァアアアアアア!!」

 

 夜行はそのまま蹲ったまま、絶叫のような叫び声をあげてポロポロと涙を零す。

 

 

 今の夜行の胸中に渦巻く感情は自身に対する不甲斐なさ――遊戯の狙いを見抜くことが出来なかった己を恥じる感情。

 

 結果論ではあるが、遊戯が繰り出した無限ループに入る前の「予兆」があった筈だと夜行は考えているようだ。

 

「やはり私は! 私などでは! ペガサス様のお力になることなど――」

 

「そんなことはないぜ、夜行!」

 

 己を責める夜行の肩に遊戯は軽く手を置く。

 

「お前のデュエルは見事だったぜ! コンビネーションも戦略も! タクティクスもだ!」

 

 その遊戯の言葉通り、夜行の実力は、その牙は、確実に遊戯の喉元寸前に届いていた。

 

「俺も一手たりとも間違えることの出来ないデュエルだった!」

 

 紙一重の勝負だったと語る遊戯は世界の広さを如実に感じていた。

 

「俺はお前と戦えたことを誇りに思うぜ!! だからお前も下を向かず、胸を張るべきだ!」

 

 ゆえに遊戯はそんな実力者である夜行が俯く姿を見たくないばかりに目を合わせる。

 

 

 そんな遊戯の真っ直ぐな瞳を見た夜行はクワッと目を見開き、すぐさま立ち上がって遊戯の手を握り、ブンブン振る。

 

「…………武藤 遊戯! これが! これこそが! ペガサス様がお認めになった『心』なのですね!」

 

 感動する夜行の言葉に対し、何も返せない遊戯。

 

 それもその筈、どちらかと言えば小柄な遊戯を長身な夜行が振り回しているような状況なのだから。

 

 

 しかし大会を進行させねばならぬ磯野はいそいそとその謎の触れ合いに介入しようとするが――

 

「あ、あの、そろそろ……あの! 済みませんが!」

 

 磯野の声は全く夜行に届いていない。そして遊戯はされるがままで、どうすることも出来ない。

 

 

 夜行のI2社での高いポストゆえに強硬策に出られない磯野を見かねたリッチーがデュエル場に上がり夜行の肩を掴む。

 

「おーし、そろそろ終わりにしときな――どうみても磯野さんが困ってるだろー」

 

「リッチー! やはり武藤 遊戯を見定めたペガサス様の目に狂いは――」

 

「次は俺のデュエルだなー!」

 

 夜行の平たく言えば「遊戯イイ人!」な主張を封殺しつつデュエル場から追い出したリッチーは磯野の方をチラッチラッと見やる。

 

 

 そのリッチーの視線の意図を察した磯野は、対面に立つ海馬がデュエルの準備を終えていることを確認し、ビシッと腕を掲げた。

 

「では次の試合に移らせて頂きます! 準決勝、第2試合! リッチー・マーセッドVS海馬 瀬人の試合を開始します!! デュエル開始ィイイイイ!!」

 

 

 これ以上バトルシティを滞らせてはいけないと、頑張る磯野の声を合図にこのバトルシップ最後のデュエルが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 童実野町から少し距離のある人里離れた何処かのとある焼き肉屋にて、カードプロフェッサーたちは打ち上げに興じていた。

 

 その店の貸し切られたフロアにてワイワイ騒ぐ中、

 

 バンパイア大好きっ娘ことティラ・ムークとミリタリー大好き男ことカーク・ディクソンはデュエルディスクに取り付けられた「デュエルディスク改造セット」を見せびらかしている模様。

 

 それを見たこの場の最年少クラマス・オースラーは感嘆の声を上げる。

 

「おおー! なんかカッケーじゃんソレ!!」

 

「そうでしょう! そうでしょう! この優美さ――」

 

 そう言いながらティラ・ムークがコウモリの翼のように装飾されたデュエルディスクを見せつけるようにテンション高めにポーズを取るが――

 

「だッハッハッハ! よりによって『今』買ったのかよ、バカだなぁ! デュエルディスク周りのモンはもう少しすりゃぁ安くなるだろうに」

 

 その姿を、ターバンを巻いたお金に煩いメンド・シーノが買い物下手だと爆笑していた。

 

「!? 待ってください! どういうことですか!」

 

 それに対し、軍隊風のポーズを取ろうとしていたカーク・ディクソンが詰め寄る姿にメンド・シーノは上機嫌に語る。

 

「んなもん決まってんだろ――KCのターゲット層はガキだろ? だったらデュエルディスク含めて、そいつらの手が届くくらいの値段になるくれぇ想像できんだろうが!」

 

「おお~頭いいな! でもデュエルディスクがガキの小遣いで買える程、安くなんのか?」

 

 しかし割り込むクラマス・オースラーが当然の疑問を上げる。

 

 その言葉通り、デュエルディスクは最先端技術の塊である――普通に考えれば子供が手軽に買えるような値段で販売すればたちまち赤字になりかねない。

 

 

 だがメンド・シーノはチッチと指を振りながら、もっと視野を広く持てとばかりにニヒルに笑う。

 

「分かってねぇな~お前は! ちっと値の張るモンは、ガキの親に誕生日プレゼントか何かで買わせるようにすりゃぁ良いんだよ」

 

「成程なー! 家族をターゲットにしてんのか!」

 

 子が買えないのなら親に買わせれば良い、の理論にクラマス・オースラーは年相応の感嘆の息を吐く。

 

「このバトルシティはあくまで宣伝なんだよ――購買意欲ってのを煽ってんのさ」

 

 説明を続けるメンド・シーノの言葉通り、このバトルシティでは至るところでソリッドビジョンのデュエルが行われ、KCの情報発信も相まって多くの関心を集めている。

 

 

「くっ……つまり今は最も値段が高い時期という訳ですか……」

 

「私たちが買ったコレもその時には安くなる公算が高いってことね……」

 

 そんなデュエルディスクの裏事情という訳でもない事情にカーク・ディクソンはガックリと膝を突き、ティラ・ムークも痛い出費になったと意気消沈する。

 

 

 だがそんな落ち込みを見せる2人のデュエリストの傍を強大なプレッシャーを放つ車椅子が横切る。

 

 しかし変わらず膝を突く2人。

 

 そんな中、肉を華麗に焼いていた「ハイテクマリオネット使い」のシーダー・ミールから肉を強奪していた長いパーマのかかった髪の男、カードプロフェッサーの纏め役、デシューツ・ルーは確認するように呟く。

 

「カ、カトウの婆さんだよな?」

 

 いつもの厳しくも優しい温和な老婆の姿はそこにはない。そこにいるのはまさに一匹の獣。

 

「今回の依頼はかなり大口だった――だから休みを貰うよ。無期限で」

 

 無期限の休みとの発言に周囲がざわめき立つ。それもその筈、それではまるで――

 

「ソレは引退するってことでいいの~?」

 

 周囲が聞けなかった問いを超能力者ことピート・コパーマインがいつもの軽い調子で尋ねるが、マイコ・カトウに揺らぎはない。

 

「そんなつもりはないよ――で、どっちなんだい?」

 

 詳しい内容は語らず、是が非かだけ問うマイコ・カトウの姿勢に周囲の視線が今度は纏め役のデシューツ・ルーに向くが――

 

 その両者の間に肉を焼きながら割り込む影が1つ。

 

「おっと、これは無視できんな! 休暇の話は問題ないとしても、仲間なら理由(わけ)くらい話すのが筋ってものじゃあないか!」

 

 肉を焼きながらそう返すのはいつも自分の世界全開のシーダー・ミール。だが今はそんな素振りを見せず、強い視線でマイコ・カトウを射抜く。

 

 しかしマイコ・カトウは休暇の許可は取ったとばかりに車椅子の向きを変え、店の出口へと向かうが、部屋の扉をくぐる前に立ち止まりポツリと零した。

 

「休暇の理由は大したものじゃないさ」

 

 やがて僅かにマイコ・カトウは振り返るとポツリと呟く。

 

 

 

 

 

「少しばかり武者修行の旅に出ようと思ってね」

 

 

 その瞳には溢れんばかりの闘志が宿っていた。

 

 

 

 

 マイコ・カトウが立ち去った後、重苦しい空気から脱するように息を吐く逆立てた髪の男、ウィラー・メットはマイコ・カトウの豹変の実態を知りそうな人間を見やる。

 

「テッド――何があった?」

 

 虚偽は許さないとばかりに問いかけるウィラー・メットだが、未だに継続して肉を焼いていたシーダー・ミールはまたも割り込む。

 

「肉でも食べて落ち着きな! どんなときでも『己を失わない』――それが男の美学だぜ!」

 

 そんないつも通りなシーダー・ミールの姿に、冷静さを取り戻した一同が差し出された皿に盛られた肉を食べる中でテッド・バニアスが切り出す。

 

「いや、俺もよく分からねぇんだけどよ――なんか元気がなかったから気晴らしになるかと思ってバトルシティのトーナメントの中継を見てたんだ」

 

 テッド・バニアス自身、マイコ・カトウがあれ程までに豹変した理由は分かっていない。

 

「んでバトルシップでのデュエルが終わってから急に――って感じだ」

 

 まさに唐突に起こったと語るテッド・バニアスに超能力者ことピート・コパーマインは変わらず軽い調子で流す。

 

「にゃはは~昔の血が騒いだってやつかもねー! 昔はブイブイ言わせてた時期があったらしいし~」

 

 今でこそ温和な老婆なマイコ・カトウだが、そのデュエリストの闘志は一級品。その昔は世界各地で大会を荒らしまわっていた過去があるとか、ないとか。

 

 そんな言葉に事態が深刻ではないことが分かればそれでいいとメンド・シーノは肉を頬張りつつ一同に告げる。

 

「なんだ。そんなことかよ! 気ィ張って損した! ほらドンドン食おうぜ、元取るまでは帰らねぇからな!」

 

 その言葉から察せられるようにカードプロフェッサーたちが注文したのは所謂「食べ放題」のメニュー。

 

 ゆえにメンド・シーノは元を食べきるまで帰らない鉄の意思と鋼の覚悟を持っていた。

 

 

 そうしてカードプロフェッサーたちはワイワイと騒ぎに戻る――打ち上げは騒いでなんぼだと言わんばかりに。

 

 

 

 ちなみに、彼らがマイコ・カトウの分の支払いの件に思い至るのはしばらく時間がかかるとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わってバトルシップでは《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》がリッチーに白銀のブレスを放つ。

 

リッチーLP:1000 → 0

 

「そこまで!  準決勝、第2試合! リッチー・マーセッドVS海馬 瀬人の試合は決着です!! 勝者、海馬 瀬人ッ!!」

 

 そんな磯野の声が響いた。

 

 

 立ち尽くすリッチーを余所に額の汗を拭う海馬。それもその筈、海馬のライフは残り僅か200――ギリギリの攻防だったと息を吐きポツリと零す。

 

「見事だったと褒めてやろう――貴様とのデュエル、楽しませて貰ったぞ……」

 

「そうかい。だが生憎と俺は負けて楽しいとは思えないタチでね」

 

 しかし対するリッチーの視線は鋭い。敗北は力不足の証――つまり敬愛するペガサス会長の力になれない可能性をはらんでいる。

 

 やがて背を向けデュエル場から降りるリッチーだが、ふとその足を止め、海馬に視線だけを向け――

 

 

「次はこうはいかねぇ」

 

 

 闘争心を剥き出しに海馬にぶつけた。

 

「ふぅん、それは此方のセリフだ――次は完膚なきまでに叩き潰してやる」

 

「ならアンタの言う『戦いのロード』って奴が交わるのを楽しみにしておくよ」

 

 海馬の返答にデュエル場から降りて返したリッチーはふと息を吐く。

 

――あー、やっぱ悔しいなー

 

 リッチーは胸中でそう零すが夜行の姿を視界に入れ、I2社に戻る準備を勘定し始める――目を輝かせる夜行はあまり頼れそうになかった。

 

 

 

 

 

 そして「これにてデュエルタワーでデュエルキングの座を駆けて雌雄を決する選ばれしデュエリストが決まった」とカメラにそれっぽく語る野坂ミホを尻目に磯野は宣言する。

 

「決勝の舞台であるデュエルタワーで対戦するデュエリストが決定したことで本日のバトルシティにおける各種トーナメントの日程を終了します」

 

 色々と長かったバトルシップの騒動もこれにて終了。

 

「なおデュエルタワーへの到着は明朝を予定しております。それまでは皆様方、ご自由にお過ごしください」

 

 磯野から説明された今後の予定を最後に一同の張り詰めていた気は緩んでいく。

 

 

 

 そんな中で杏子が遊戯にポツリと零す。

 

「――って言われても遊戯も、もう一人の遊戯も今日は疲れたんじゃない?」

 

「ああ、さすがに色々あったからな」

 

 杏子の言葉にそう返す遊戯は、もう1人の表の遊戯へと人格交代するが、そんな中で城之内が軽く伸びをしながら息を吐く

 

「まぁ、ちっとばかし早いけど寝ちまおうぜ――俺はもうクタクタだよ」

 

 激戦に次ぐ激戦――といって城之内は1試合のみだが、予選での疲れも溜まっている様子。

 

「うん、じゃあみんな! また明日!」

 

 それゆえに表の遊戯のそんな言葉を合図に一同は与えられたそれぞれの部屋に向かった。

 

 ようやくの休息の時間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更ける中、KCにて念の為にと周辺の見回りをしていたギースだったが、怖気の奔る気配に振り返る。

 

「誰だ!!」

 

 そのギースの声と共に懐中電灯を向けた先にはアクターの姿。

 

 だがそのアクターの様子にいつも以上に得体が知れない様を感じ取ったギースは一歩後退る。

 

「お前は……アクター……なのか?」

 

 確認するように問いかけるギースだが、アクターがどう返答してもギースに確認の術はない。

 

 やがて物言わぬアクターからなにやら投げ渡されたものをキャッチするギース。

 

「これは報告に有った千年タウクと、精霊の鍵まで……」

 

 こんな重要なもん投げんじゃねぇ、と思いつつも投げ渡されたものを確認するギースだったが、そこにアクターの声が届く。

 

「神崎 (うつほ)に伝えろ」

 

 

 それは頼み事――と言うよりも命令に近い。メッセンジャーを務めろと。

 

 

 しかしギースはアクターから発せられる圧力が一段上がったのを感じ、意を決する。

 

 

 一瞬が永遠に感じるような時間が流れる。

 

 

 

「『次はない』」

 

 

 

 そんな重苦しい空気の中で放たれたその言葉と共にアクターは夜の闇に溶けるように消えていった。

 

 

 圧し潰されそうなプレッシャーから解き放たれ、息を吐くギースはメッセージの意味を思案するが、その全容は見えない――恐らく分かる者しか分からないような暗号染みたものなのだと。

 

 

 

 だが案ずることはない。

 

 

 

 

 ただの引退宣言である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、飛行中のバトルシップにて朝早くに牛尾から呼び出された表の遊戯は牛尾の立ち合いのもとマリクたちから墓守の一族が守り通してきた碑文を受け取った。

 

 そして深々と頭を下げるマリクたちを置いて部屋を出た遊戯の隣に立つ牛尾は軽く頭を下げる。

 

「朝っぱらから済まねぇな、遊戯――向こうに到着した後、アイツらは直ぐに移送しなきゃならなくてよ」

 

「ううん、こっちこそ無理言っちゃったみたいでごめんね」

 

 しかし遊戯は「此方こそ」と申し無さげにするが、それに対して牛尾は「自分が言い出したことだ」と軽く返し――

 

「いや、構わねぇよ……んで、もう1人のお前さんの記憶は戻ったのか?」

 

 確信に迫る牛尾。

 

「全部の記憶が戻った訳じゃないって――記憶の石板、7つの千年アイテム、そして三幻神のカード。それに……」

 

 だが対する表の遊戯の返答は要領を得ない。

 

「マリクの背中の碑文から、もう1人のボクが感じ取ったビジョン……」

 

「にわかには信じられねぇ話だが、アクターのデュエルの時のアレを見せられちゃなぁ」

 

 遊戯はその身に感じた不思議な体験を零すも、牛尾からすれば否定こそしないが「よく分からない」としか返せない。

 

 

 そんな様相で頭をガシガシかく牛尾を遊戯は小さく笑いつつ、果たすべきシンプルな事柄を上げる。

 

「だからまず海馬君の『オベリスクの巨神兵』と優勝者に渡される『ラーの翼神竜』を集めなきゃね!」

 

 3枚の神のカードを揃える事こそが、名もなきファラオの記憶を呼び覚ますピースとなる。

 

――そうだな。そうすればシャーディーが持っていた千年アイテムも合わせて全ての条件が揃う。

 

 遊戯の背後で幽霊のように浮かぶ名もなきファラオの遊戯の声に表の遊戯は遠くを見つめる。

 

「その全てが終われば、その時はきっと――」

 

 その瞳はやがて来る別れを見据えていた。

 

――相棒……

 

 そんな表の遊戯の姿にかける言葉が見つからない名もなきファラオの遊戯だったが、その間を通るようにアナウンスが流れる。

 

『決勝の舞台、デュエルタワーに到着いたします。デュエリストの皆さんはデッキに集合して下さい。繰り返しま――』

 

 その磯野から告げられたアナウンスに遊戯の意識は引き戻された。

 

「あっ、もう行かなくちゃ!」

 

「おう、頑張ってきな。俺らはアイツらと一緒にいなきゃなんねぇから応援に行けねぇのが残念だぜ」

 

 その言葉通り牛尾にはマリクたち墓守の一族を見張る必要がある――ただ全てを受け入れた今のマリクたち相手では形骸的なものだが。

 

「うん、頑張ってくるよ! 牛尾くん!」

 

 そんな遊戯の言葉を最後に、デュエリストたちの戦いの地はバトルシップからデュエルタワーに移行する。

 

 

 このバトルシティでの最後のデュエルの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなバトルシップを降りた一同を出迎えたのは2人。1人は茶色の髪の角刈りのおじさん。

 

「ようこそ、デュエリストたち! ワシの誇る一大工場――通称、『アルカトラズ』へ!!」

 

 その正体は――

 

「ワシは『大田 宗一郎』! 此処の工場長だ!」

 

 BIG5の《機械軍曹》の人こと工場長、大田 宗一郎。

 

 

 そしてもう1人は何時もニコニコ営業スマイルが染みついた――

 

「此処からデュエルタワーへの案内をさせて頂く、神崎 (うつほ)と申します――そして暫くぶりです、海馬社長」

 

 オカルト課のトップ、神崎である。

 

 アクターとしてKCに戻り、ギースに色々託した後、夜を徹してお空を全力ダッシュして此処「アルカトラズ」まで来た次第だった。

 

 

 何やってんだ、と思われるかもしれないが、時間的に移動不可能な距離を無理やり移動することでアクターの正体を隠す涙ぐましい努力である。

 

 

「神崎ッ!? 何故、貴様がここに!」

 

 しかし、裏事情を知らない海馬からすれば遊戯とのデュエルが迫り、上機嫌だった気分に水を差す存在でしかない。

 

 だが海馬の不機嫌そうな顔にも嫌な顔一つせずに対応する神崎――悲しい事にセメント対応に慣れているのだろう。

 

「此方に用事があったので、寄らせて頂きました」

 

 その神崎の言葉に嘘はない。可及的速やかに済ませておく要件があった。

 

 

「此処っていったい何処なんですか?」

 

 そんな静香の疑問に神崎は出迎えの1人として職務を全うする。

 

「此処は『アルカトラズ島』と呼ばれる人工島です。此処で日夜、様々な技術を――」

 

「ふぅん、昔は軍事産業の中枢だった場所だ」

 

 しかし海馬からマイナス過ぎる経歴が明かされる。海馬は剛三郎が犯した過ちを隠す気はない――それを含めて今のKCがあるのだと。

 

「――『今』はデュエルディスクなどのデュエル製品をメインに取り扱っております」

 

 とはいえ醜聞が悪すぎる過去である為、耳障りの良い言葉で流す神崎だったが、遊戯は一際目立つ天高くそびえ立つ塔らしきものを指さす。

 

「あのデュエルタワーはどういうものなんですか?」

 

 さすがに「デュエルする為だけに建てた」筈がないだろうと思う遊戯だが、KCのトップである海馬の存在を考えると、あり得ない選択肢ではないのが恐ろしい。

 

 しかしその問いに答えたのは神崎ではなく、BIG5の《機械軍曹》の人こと大田が遊戯に向けてグイッと迫りつつニッと笑みを浮かべる。

 

「フフフ、気になるかね?」

 

「う、うん」

 

 かなりの圧ゆえにたじろぐ遊戯を余所にBIG5の《機械軍曹》の人こと大田は大仰に手を広げながら饒舌に語りだす――よくぞ聞いてくれた、と。

 

「あの塔は新しいエネルギー機関でな! 永久的なエネルギーを約束し! 世界中のエネルギー問題を全て解決出来る程の可能性を秘めた代物だ!!」

 

 語られた内容は中々にトンでもないものだった。しかも何処かで聞いたことのあるような内容である。

 

「おおッ! よく分かんねぇけどスゲェな!」

 

 だがそんなことは知らない城之内は「超技術」程度の認識だ――他の面々も大体同じ印象を持ったようである。

 

 そんな賞賛の眼差しに「ハッハッハッハ」と笑うBIG5の《機械軍曹》の人こと大田。

 

「まだ研究段階で実現の目途は立っていませんが」

 

 しかしそんな神崎の追加説明に野坂ミホは目を輝かせる。

 

「研究中のスゴイ技術……」

 

 もの凄くお金の匂いがする情報だが、KCと事を構える程ではないと思うので探るようなことは止めときなさい。

 

 

 人工島の工場という見慣れぬ風景ゆえに張り詰めていた緊張感が緩んだのを感じ取った《機械軍曹》の人こと大田は手を叩き注目を集める。

 

「さて雑談もこの辺りにして早速、このバトルシティを締めくくる決勝の舞台! デュエルタワーに案内しようじゃないか! 付いてきたまえ!!」

 

「おーし、みんなこっちだぜい!」

 

 先頭を行く《機械軍曹》の人こと大田にモクバが続きながら、他の人間にも続くように促すなかで神崎はモクバのすぐあとに続いた海馬に向けて頭を下げる。

 

「ではご健闘をお祈りしております、海馬社長」

 

「ふぅん、貴様に祈られる筋合いはないわ!!」

 

 相変わらずの海馬の敵対心を受けつつ遊戯たちが通り過ぎ、野坂ミホ率いる撮影スタッフも通り過ぎ、ツバインシュタイン博士が通り――

 

「ツバインシュタイン博士――貴方は此方です」

 

 過ぎるのを防ぐべくツバインシュタイン博士の首根っこを掴む神崎。

 

「ハハハ……バレていましたか……」

 

 そう軽く笑いながらもツバインシュタイン博士の歩む足取りは止まらない。ただ神崎に掴まれているせいで、前には進めていないが。

 

「…………ツバインシュタイン博士、グールズの被害者たちの件がありますので、先にKCに戻って頂きます――もう十分堪能したでしょう?」

 

 決定事項であることを強調する神崎の言葉にツバインシュタイン博士は足を止め、頭を掻きつつもう逃げないことをアピールしながら観念したように零す。

 

「お見通しでしたか」

 

 しかし神崎が手を離した瞬間にデュエルタワーに走り去ろうとするツバインシュタイン博士。

 

「隠す気すらなかったでしょう……後、これを」

 

 の進行方向に素早く移動した神崎が書類を手渡す。というかツバインシュタイン博士の顔に叩きつけた。おい、もっと老人を労われ。

 

「これは?」

 

「今後の予定です」

 

 顔面に書類の束を叩きつけられたにも関わず平気な顔で書類をパラパラめくるツバインシュタイン博士に短く答えた神崎。

 

 書類の束の分厚さからツバインシュタイン博士の仕事はかなり溜まっている模様。

 

「ではイシュタール家の方々と先に戻って頂きます――よろしいですね?」

 

 そして神崎はツバインシュタイン博士の肩に手を置きながら、念を押す。ギリギリと掴まれる老人の肩が唯々心配だ。

 

「……はい」

 

 しばらくして、観念したかのようなツバインシュタイン博士のそんな呟きが漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして神崎が乗ってきたことになっている――というか、抱えて持ってきた中型ヘリに乗り込んだツバインシュタイン博士は壁で仕切られた先に隔離されている墓守の一族に対し、恨めし気に視線を送る。

 

 グールズの騒ぎがなければ千年パズルを持つ遊戯のデュエルをもっと観察することが出来たと思う反面、今回の事件があったからこそ光のピラミッドのデータが取れた事実。

 

 

 その二律背反にツバインシュタイン博士は何とも言えぬ表情を見せながら神崎から受け取った書類をパラパラ眺めていた。

 

 

 そんなKCに向かう中型ヘリの中で牛尾は脱力しつつ一人ごちる。

 

「あー、これでやっと終わりか……何だかドッと疲れたぜ……」

 

 マリクたちの護送の為に同乗している牛尾だが、マリクがもう問題を起こさないと確信しているゆえか緊張感は皆無である。

 

 そんな牛尾に同じ理由で同乗している北森が別行動の旨を伝えた後に静香から手渡された電話番号が書かれた紙を仕舞いつつ返す。

 

「今回は色々大変でしたね、牛尾さん――そういえば、博士は熱心に何を見ているんですか?」

 

 しかし先程まで書類をペラペラとめくっていたツバインシュタイン博士の動きが止まったことに注視する北森。

 

「北森さんに後、牛尾くんも――見ちゃいけませんよ」

 

 様子を窺う牛尾と北森の姿に気付き慌てて書類を隠す仕草を見せつつ茶目っ気タップリに舌を出すツバインシュタイン博士。

 

「……ヘイヘイ、分かってますよ」

 

「あっ、済みません!」

 

 呆れ顔の牛尾と慌てて視線を逸らす北森。

 

 

 だがツバインシュタイン博士は考えを纏めるように独り言を呟く。

 

「しかし……あれ程までに苛烈に対応していたのに、この変わり様は…………ん? ひょっとすると、このバトルシティの目的は――」

 

 そしてツバインシュタイン博士の脳裏に過ったのは――

 

――武藤くんに貸しを作ること『だけ』を目的に?

 

 このバトルシティ中に起きた事件が全てそれだけを目的にして対処されたと内心で結論付けるツバインシュタイン博士。

 

 他の全ては副次的なものでしかないとの仮説。

 

――優しい彼は『悲しい過去を持つ相手』を見捨てられないと考えたゆえのストーリー……

 

 そう考えると全てが繋がるとツバインシュタイン博士の思考は加速する――いや、繋がらないから。

 

――Mr.神崎でしか『助けられない』状況にマリクくんを追いやり救うことで、武藤くんから見れば『友達を救って貰った恩人』になる。印象操作でしょうか?

 

 そこまで考え終えたツバインシュタイン博士は小さく息を吐いた。

 

「……うーむ、読めませんね」

 

「何の話っすか?」

 

 相槌代わりに問いかける牛尾の言葉にツバインシュタイン博士はいつものヤツだと返す。

 

「いえいえ、今回の騒動も大多数にとって問題のない結果に落ち着くのだろうな、とね」

 

 オカルト課での「いつもの」――それは大半の人間が妥協できる範囲で平和に終わらせる結果。

 

 しかし北森は疑問を呈する。

 

「墓守の一族のみなさんもですか?」

 

 グールズの首領であるマリクの罪状からなる憎しみの連鎖はどうなるのだろう、と。

 

「ええ、恐らくね」

 

 だがツバインシュタイン博士は明言を避け、そう短く返した後で書類に目を戻す。

 

 

――フフッ、『千年パズル』を持つ彼に一体、どんな秘密が隠されているんでしょうかねぇ

 

 今のツバインシュタイン博士の胸中には次の面白そうな研究素体(おもちゃ)に対する期待感で一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな件の遊戯は名もなきファラオとしての遊戯と人格交代し、デュエルタワーの頂上にて海馬と対峙していた。

 

「お仲間との下らんやり取りは終わったか?」

 

 遊戯と仲間たちのやり取りをデュエル場から眺めていた海馬はつまらなそうにそう語るが――

 

「海馬……お前は、また1人で戦うのか?」

 

 遊戯からすればその言葉は少し物悲しいものだった――デュエリストキングダムでのデュエルでは海馬の心を揺さぶることが出来なかったのかと。

 

「ふぅん、またその話か」

 

 しかし海馬の対応は変わらない。

 

「俺は仲間の力などに頼る気はない――俺の戦いのロードに俺以外の力は不要だ!」

 

「海馬ッ!」

 

 己の力以外は不純物だと断じる海馬の姿に遊戯は声を荒げるが、海馬は意に介さず続ける。

 

「俺は誰の力も『借り』はしない。だが――」

 

 静かに瞳を閉じた海馬は先の言葉を続けると共にその瞳を見開く。

 

「俺の力になりたくば、俺の背に付いてくるがいい! いや、隣に立って見せるがいい! 追い越してみるがいい!」

 

 借り物の力など不要と断ずる海馬。

 

「俺の糧、足り得る力を示してみるがいい!!」

 

 相手の強さを己の糧とする方が海馬の性に合っていた。

 

「その全ての力を『俺の力』としてくれるわ!」

 

「海馬……」

 

 このバトルシティでも幾人もの強者の力を己が糧としてきた海馬の言葉に遊戯は返す言葉を失う。

 

 これこそが遊戯が示した「結束の力」に対する海馬なりの答えなのだと感じ取ったゆえに。

 

「下らん繰り言もこれで終わりだ」

 

 海馬の在り方を受け入れた遊戯に海馬は饒舌に語る。

 

「後は貴様のデュエルで語るがいい! そして今こそ神を従えたデュエリストが激突するときだ!」

 

 待ちに待った最高の舞台――そして最強の宿敵。

 

「勝者が三幻神の全てと『決闘王(デュエルキング)』の称号を手にし、デュエリストの頂点に君臨する!」

 

 海馬の闘争心は際限がなく昂っていく。

 

「その頂きに立ち! 俺は全てを超越するのだ!」

 

 誰の思惑にも縛られない力を示すような海馬の宣言に遊戯が返す答えは1つ。

 

「なら行くぜ、海馬!!」

 

 デュエルディスクの展開――デュエルの意思のみ。

 

 

 互いのデュエルディスクが展開したのを確認した磯野は腕を天に掲げ、力の限り宣言する。

 

「ただいまより、バトルシティ決勝戦! 海馬 瀬人VS武藤 遊戯のデュエルを開始する!」

 

 この場に立ち会えた幸福を噛み締めながら振り下ろされた磯野の腕と共に――

 

「デュエル開始ィイイイイ!!」

 

 決戦の火蓋が落とされた。

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 今、運命に導かれた2人のデュエリストが雌雄を決す。

 

 






リッチー「出番が丸ごとカット……だと!?」


い、いや~「リッチー VS 海馬」は熱戦でしたねぇ(目そらし)


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