前回のあらすじ
三幻神の2体の攻撃がぶつかり合う爆心地にいる
磯野「――ッ!!(バカな!? ソリッドビジョンでこれ程の衝撃が発生することはない筈ッ!!)」
精霊としての格が高いモンスター同士の激突(片方1万オーバーの攻撃力持ち)の爆心地にいる
磯野「――ッ!!(何という眩しさッ! だが瀬人様のデュエルを見届けねばッ! このサングラスは伊達ではないッ!!)」
《
だが視界が晴れた先にはフィールド上に唯一佇む《
フィールドのどこにも《
そう、この勝負は――
「よっしゃぁ! 遊戯が勝った!」
城之内はそう叫びながら遊戯の元に駆け出し――
「さすがだぜ、遊戯!」
「遊戯~!」
本田と杏子も城之内の後に続き、残りの面々もその後に続いていく。
その先の遊戯は駆け寄る仲間の方に向き、ポツリと零す。
「みんな……」
遊戯LP:450 → 0
だがその遊戯のライフは0。
「な、なんで遊戯くんのライフが……」
そんな訳の分からない状況に一同を代表したような御伽の声が虚しく響くが、海馬がギリッと歯を食いしばりながら答える。
「俺は貴様のカウンター罠《神の宣告》に対し、手札のカウンター罠《レッド・リブート》をライフを半分払うことで『手札から』発動した……」
海馬LP:2000 → 1000 → 0
その海馬の説明にレベッカはすぐさま理解を示す。
「つまりカウンター罠《神の宣告》は無効化され、罠カード《破壊
「……ってことは――」
そんな城之内の呟きを肯定するように大会進行を任されている磯野が声を張る。
「互いのライフポイントが同時に0になった為、この勝負は『引き分け』となります!!」
決勝戦の舞台でまさかの引き分けにざわめく周囲を黙らせるように磯野は続ける。
「そして引き分けの場合はこの後、エキストラデュエルを行いその上で勝敗を決定し――」
「再度、デュエルだと? そんな半端な決着など俺は認めん!!」
しかし磯野の進行を海馬は遮る――海馬にとって遊戯との決着は完璧なものでなければならない。
「い、いえ、ですが瀬人様! これはバトルシティの規定に――」
「貴様との決着をつけるにはこのバトルシティすら狭すぎたようだな!!」
頑張って説得しようとする磯野を尻目にどんどん話を進めていく海馬。
「今しばらく貴様に勝利を預けておいてやるわ!! 行くぞ、モクバ!」
そして海馬の手から投げ渡された『オベリスクの巨神兵』のカードを受け取った遊戯が返答する前にモクバを引き連れ、デュエルタワーの頂上から海馬は姿を消した。
磯野が伸ばした手だけが虚しく空を切る。
「…………では今バトルシティを制し、デュエルキングの称号を得たのは――」
しかし磯野は大会進行の職務を全うしなければならない。
「武藤 遊戯ィイイイイ!!」
その磯野の宣言と共に何だかんだで紆余曲折あったものの名誉ある称号を得た遊戯を励ます様に祝う城之内たちにもみくちゃにされる遊戯の姿。
こうしてバトルシティはなんとも言えぬ形で幕を閉じた。
ちなみに『ラーの翼神竜』はその後、牛尾から預かっていた磯野が遊戯に手渡したそうです。
やがてデュエルタワーの頂上から降りエントランスに到着した一同。だが名もなきファラオとしての遊戯は握りしめた自身の拳を眺めつつ想いに耽る。
――引き分け……か
その胸中に合ったのは先のデュエルの結果。
あの時、遊戯は今持ちうる最大の一撃を叩きつけ、海馬を引き離した――いや、引き離したつもりだった。
だが結果は海馬が遊戯の想定を上回り、引き分けの結果を生んだ。
引き分け。イーブン。対等――の筈だ。
しかし遊戯の心にあるのは拭えぬある感覚。その感覚は――
「そういえば遊戯、肝心の記憶はどうなったの?」
その感覚の正体に没頭する遊戯の意識を引き戻したのは何気ない杏子の疑問だった。遊戯は拳をほどき、顔を上げる。
「それなら三枚の神のカードと、マリクに見せて貰った背の碑文のお陰で大まかなことは分かったぜ」
その遊戯の言葉通り、失われた記憶を呼び起こす為に必要なピースは全て揃った。残りの条件は石板の元へ向かうのみ。
別れは刻一刻と近づいている。だが重くなる空気を払拭させるように城之内は宣言する。
「そうか、なら帰ろうぜ! 俺たちの童実野町へ!」
別れまでの時間が分からずとも、自分たちの故郷たる町で精一杯想い出を作ろうと。
しかし名もなきファラオとしての遊戯から表の遊戯へと人格交代した遊戯が待ったをかける。
「あっ、ちょっと待って城之内くん!」
その遊戯の視界にはバトルシップに乗り込む夜行やリッチーを見送る神崎の姿。
やがて神崎の元まで駆け寄った遊戯は意を決した様子で語りだす。
「すみません、神崎さん!」
「おや? どうかしましたか、武藤くん」
急接近してきた遊戯に対し、すぐさま営業スマイルで対応する神崎は内心で気が気ではない。
一応、神崎はバトルシティでの失敗の経験を活かし、冥界の王としての気配をキチンと隠しているが、遊戯相手では問答無用で見抜かれかねないと強く警戒している。
「あの……お願いがあって……」
だが遊戯の要件は「お願い」――遊戯が言い難そうにしていることから神崎自身が心配しているような事態はないと警戒心を一段階下げる。
――「相談」ではなく「お願い」である以上、ある程度その内容は想像が付くが……
「……此処では話し難いことのようですね――此方で一室ご用意しましょうか?」
「じゃぁお願いします……」
「では、手短に済みそうな話でもなさそうですし、武藤くんの帰りも此方で用意させて頂きますが――」
さすがに遊戯の為だけにバトルシップの出発を遅らせる訳にはいかない為、帰りの手配の段取りを頭の中で組み立てる神崎。
「はい! じゃあ友達にそう伝えてきます!」
そんな神崎を余所にもう1度勢いよく頭を下げた遊戯は城之内達の元へと駆け出していった。
やがて戻って来た遊戯を応接室に案内しようとする神崎。
「お待たせしちゃってすみません!」
「いえ、構わないですよ。それと――」
軽く会釈した遊戯の言葉を神崎は軽く流しつつ、物陰へと声をかける。
「――其方のお嬢さんも一緒に来られますか?」
「えっ? ――レベッカ!」
神崎の言葉に振りかえった遊戯が見たのは揺れる長い金髪の少女、遊戯に恋慕の感情を向けるレベッカ。
「ならお言葉に甘えて同席させて貰うわね」
そんなレベッカの声に神崎は快く了承を返した。
そんなこんなで応接室で応対した神崎に対して、遊戯から語られたのは大きく分けて2つ。
1つはパンドラの妻、カトリーヌに関すること――早い話がパンドラの周辺の問題の解決。
もう1つはマリクの過去の一件から何とか情状酌量の余地が貰えたら、といった願い。
思った以上に大したことではなかった為、神崎は内心で安堵しつつ努めて笑顔で対応する。
「そう言ったお話であれば、構いませんよ」
「本当ですか!」
「ええ、私もそのような話を聞かされては思う所がない訳ではありません」
顔に喜色を浮かべる遊戯に神崎は此処ぞとばかりに味方アピール。
「無罪――は無理ですが、可能な限り便宜を図るようにお願いしてみます」
「ありがとうございます!!」
遊戯の喜びようを見るに大分イイ感じに神崎は味方アピールできているようだ。
「ちょっと待って、ダーリン」
しかし一段と声色を低くしたレベッカが割って入る。
「レベッカ?」
いつもらしからぬレベッカの鋭い瞳に首を傾げる遊戯だが、構わずレベッカは神崎に向き直る。
「何でそこまで二つ返事でOKが出せるの?」
「あのような話を聞いて何も感じない人間などいま――」
雲行きが怪しくなってきた事態を感じ取った神崎はレベッカに対する警戒度を一気に引き上げるが――
「違うわ。今回の話は取り方によってはグールズの首領の味方をするって話に聞こえなくもない――それってKCにとってリスクしかない筈よ?」
まるで尋問するかのようなレベッカの問答に神崎は内心でドン引く。年端も行かぬ少女が出していい顔ではない。
「なのに、KCの一介の幹部でしかない貴方がどうしてそこまで断言できるの?」
そう、レベッカの言う通りぱっと見の神崎の立ち位置は「KCの幹部の1人」である。
神崎は気にせずガンガン動きまくっているが、本来であればそう好き勝手は出来ない。
過去の剛三郎と今の海馬が放任主義・結果主義なきらいがあるゆえに問題視されていないだけだ。
「それもダーリンに何の対価も求めずに――本当に動く気があるの?」
「神崎さん……?」
レベッカから上げられる不審な点の怒涛のピックアップに神崎を見る遊戯の瞳に懐疑的なものが混ざる。
ただ遊戯の願いを聞いただけで何故こんな状態になっているのか内心で頭を抱えたい神崎だったが、そうする訳にもいかない為に少々手を変える方へ舵を切る。
「……では、此処からの話はご内密にお願いします――実は私は様々な方々から訳あって依頼を受けている立場なんです」
神崎から明かされた新たな情報にレベッカは考え込みながら返す。
「その依頼が?」
「ええ、『グールズ』という組織への対処です――ですので、ある程度は私に裁量権が委ねられている状態になります」
それに対し、神崎は真摯に返す――神崎は基本、取引事で嘘を吐かない。それが疑念に繋がると経験則で知っているからだ。
「ならなおの事、その『依頼者』たちが望む結果を提供するべきじゃないの?」
薄く笑うレベッカの言葉に神崎はニッコリと笑みを浮かべ――
「それが『ろくでもない』ことでも?」
毒を垂らす。
「そんなに酷い……望みなの?」
レベッカの声が此処で初めて揺れる。
レベッカは薄汚れた汚い世界があると「知識」では知っていても、実物を目にすることはない。
祖父のアーサーがかわいい孫には見せたくないと遠ざけてきた。
だが人は己が欲望の為なら容易く化生に落ちる――神崎はその事実を嫌と言うほど見てきている。
「彼らは『メンツ』を重んじますからね――『コケにされた』と感じた以上、二度と同じことが起こらないように『見せしめ』に相応以上の罰を与えかねません」
その神崎の言葉に嘘はない――事実を以て隠したい本質を覆っているだけだ。
「そんなことって……!」
そんな遊戯が義憤にかられたように漏らした声に神崎は同調する。
「ええ、私『も』貴方がたと同じく、そんなことは許容できません」
此処ぞとばかりに語られる神崎の聞こえの良い言葉は遊戯の身体を満たしていく。
「ですので武藤くんの願いは、願われなくても初めから此方で対処する予定があった話になります」
神崎の口から語られる言葉は真っすぐで、とても正しいことのように思える。
「それに対して、武藤くんから何かを要求するのはお門違いというものでしょう?」
最後にニッコリ笑顔を浮かべて語り終えた神崎にレベッカは返す言葉を失う――神崎の話に一応の筋は通っているゆえに。
「…………そう……なの……」
「ご納得して頂けましたか、ホプキンスさん?」
そう確認するように問いかける神崎の姿に遊戯はレベッカに視線を向ける。
「レベッカ?」
遊戯からすれば「お願いする」立場の自身たちがあらぬ「嫌疑」をかけた状態だ。
「ええ、そういうことなら……」
それをレベッカも理解しているゆえに一先ず納得の姿勢を見せるが――
「でも、何だか申し訳ないわね……コッチからお願いしたのに……」
「確かに、そうだよね」
今度はしおらしく返すレベッカに遊戯も申し訳なさげに続く。
神崎は一難去ってまた一難とばかりに内心で冷や汗を流す。未だに神崎に対するレベッカからの疑惑は晴れていないようだ。
「そうですか……なら、お二方は将来の夢はお持ちですか?」
唐突に話題を変えた神崎に遊戯たちは疑問を浮かべるも――
「ボクはゲームデザイナーを!」
「私はおじいちゃんみたいに考古学者の仕事を」
遊戯とレベッカは素直に答える。先程の負い目が後を引いているようだ。
「なら、お二方がその夢を叶えた暁には、是非ともKCを御贔屓にして頂く――それが対価と言うのはどうでしょうか?」
神崎から提案された対価と呼べないような対価だが、その提案には優しさが詰まっていた――というか無理やり詰め込んである。
「そんなことで良ければ!」
「……構わないわよ」
その優しい対価に対しての2人の温度差のある言葉を最後にこの会合の場は一先ずの幕を下ろす。
しかしレベッカが神崎を見る視線には最後まで疑念の色が消える事はなかった。
神崎と別れ、応接室からエントランスと思しき場所に向かった遊戯とレベッカに声がかかる。
「おっ、遊戯ー! 話は終わったのかー?」
その声の主は城之内。その傍には杏子や本田、御伽に静香の計5名の姿が見られた。
「城之内くん! みんな! どうして――」
「なに水くせぇこと言ってんだよ。お前を置いて先に帰っちまう訳ねぇだろ」
驚く遊戯に対し、鼻をかきながらそう語る城之内。さらにその隣の本田は空を見ながら呆れたように続く。
「海馬とモクバはブルーアイズの形をしたジェット機に乗ってすっと飛んで行っちまったけどな」
あれは一体何だったのか、と未だに現実感のない本田の姿に遊戯はクスクスと笑う。いつもの日常が戻って来たことが嬉しいようだ。
「だけどバクラくんにミホと舞さん。それとペガサスミニオンの2人は用事があるから先に帰っちゃったけどね」
「俺らは暇だから良いんだよ!」
杏子の説明でこの場にいない人間の経緯を理解する遊戯だが、そんな遊戯とグッと肩を組んだ城之内が意気揚々と顎を尖らせる。
城之内とじゃれ合う遊戯だったが御伽がふと問う。
「それで遊戯くん、帰りはどうするって話なんだい?」
「神崎さんは此処での仕事が終わったらKCに向かうらしくて、それに同乗させて貰うって話だったけど……」
遊戯から語られる童実野町に帰る手段に納得を見せる一同だったが――
「それなりに時間がかかるらしいわよ」
「え゛っ」
レベッカからの追加情報に城之内のテンションが露骨に下がる。
「マジか~待ち時間暇だよな……ここ何もねぇし」
そう本田が語る通り、此処は人工島の上に立つ工場地帯。居住区にでも足を運ばない限り辺りには工場しかない。
とはいえ、遊戯たちは居住区への立ち入りを許可された訳でもないので、そもそも行けないが。
しかしそんな暇を持て余している一同に救世主が現る。
「暇を持て余しているようだね、若人よ!!」
「アンタは!? ――誰だ?」
だがテンション高めで現れた角刈りのおっさんは城之内の良く知らない人――であっても、取り合えずリアクション良く反応する城之内はきっといい子だ。
そんな中で御伽は記憶を掘り起こす。
「確かバトルシップから降りた時に出迎えてくれた人だった筈……」
しかし名前が出てこない――名乗った後で遊戯と海馬の怒涛のデュエルがあった為、吹き飛んでいてもおかしくはない。
この場の誰もが「このおっさん、誰?」な状態にも関わらずおっさんはめげない。
「ならば再度名乗ろう! 儂の名前は『大田 宗一郎』! このKCの工場、アルカトラズの工場長だ!!」
「お、おう」
キリリと再度名乗ったテンション高めなBIG5の《機械軍曹》の人こと大田の姿に引き気味の城之内。相手に年相応の落ち着きが欲しいところだ。
「諸君らを儂の工場に招待しようじゃないか! なに遠慮せんで構わんぞ! なにせ――」
とはいえ、BIG5の《機械軍曹》の人こと大田とていつもこのテンションな訳ではない。
今日この日はBIG5の《機械軍曹》の人こと大田にとって痛快な出来事があったのだ。そう――
「――海馬……社長が悔しがる痛快な姿も見れたことだからな! はっはっは!」
かなり嫌っている海馬のグヌヌな姿を最前線で見れたのだから――自分とこの社長だろうに。
「海馬とは仲が悪いの?」
レベッカから零れた当然の疑問にBIG5の《機械軍曹》の人こと大田は過去の出来事を思い出し憤慨しながら返す。
「悪いも何も、奴は儂が心血を注いできた大切な工場を爆破しろなどと言ってきた男――儂とは相容れん!!」
剛三郎と海馬が社長の席を懸けてぶつかった際に、海馬に味方したにも関わらずの仕打ちだった為、未だに根に持っているようだ。
ただ海馬の言い分としても軍事産業から撤退する旨を強くアピールする為の側面があるのだが。
「神崎の協力もあって、何とか工場は守り通せたが、儂は奴があの事について頭を下げるまで絶対に許すつもりはない!」
「子供染みた理由ね……」
過去の海馬とのやり取りを思い出し、プンスカ怒るBIG5の《機械軍曹》の人こと大田を見て、大人のすることではないと冷めた目で呟くレベッカ。
しかし実家が工場である本田はふと思ったことをそのまま零す。
「でも此処でデュエルディスクとか作ってるんだろ? なら海馬の仕事を手伝ってるのと同じじゃねぇか」
KCに所属している以上、海馬の部下として命令は聞かねばならない筈だと――本当だよ。
だがBIG5の《機械軍曹》の人こと大田は頑として首を振る。
「
子供か。
そんな子供染みた理屈を振りかざすBIG5の《機械軍曹》の人こと大田の姿に杏子は思わず零す。
「この人、KCの幹部……よね?」
遊戯たち一同からアレな視線を向けられているBIG5の《機械軍曹》の人こと大田だが、個人としてのスペックは普通に高い。
超巨大企業であるKCの前社長、剛三郎の徹底した実力主義の中を生き抜き、当時に主産業であった軍事産業を任され、「工場長」などと呼ばれる程の男である。
過去のビジネスは死の商人と揶揄されかねないが、技術やノウハウなどは未だ健在だ。
「フハハハ! さぁ、こっちだ! ついてきたまえ!!」
そんなことはさておき、テンションが昂るままに駆け出したBIG5の《機械軍曹》の人こと大田に、遊戯たち一同も他にすることもないので追従する。
やがて辿り着いたのは――
「まずは此処! KCと言えばソリッドビジョン!」
ソリッドビジョンの動きを確認する為に大きめのスペースが作られた場所。
「ソリッドビジョンを活用した様々な研究が此処で実践されているのだ!!」
「んで、何するんだ?」
一気に説明を終えたBIG5の《機械軍曹》の人こと大田に城之内がそう零すが――
その城之内の足元をこげ茶の毛色の小型犬が通り過ぎる。
「おっ、犬じゃねぇか。何でこんなとこに? おー、よしよし。こっちに――えっ?」
唐突に表れた小型犬に本田は自身もブランキーと名付けた大きめの犬を飼っていることも相まって癒されようと背中を撫でようとするが――
小型犬は本田の胴体に飛び込み、本田の身体を『貫通』。
本田ァ!!
「すり抜けた……だと!?」
しかし本田の身体に怪我はない。当然である。
「フフフ……既に始まっているのだよ! 儂らが心血を注いだ技術の披露は!!」
何故ならその小型犬はBIG5の《機械軍曹》の人こと大田の言う通り――
「これぞソリッドビジョンの行動をラジコンで動かすように出来る――操縦システム(仮)!!」
ソリッドビジョンなのだから――だがその小型犬の動きはまさに本物と見間違う程。
「(仮)なんだ……」
技術云々よりもネーミングの問題に目が行く遊戯。しかしBIG5の《機械軍曹》の人こと大田側にも言い分はある。
「一応は『立体映像操作機能』という名称がある――だがもっとカッコ良い呼び名にするつもりだ! 未だに決まってないがな!」
自身が手塩にかけて生み出したものにはロマン溢れる名前が欲しいという言い分が。
「これで何が出来るんだ? ソリッドビジョンと同じようなもんだろ?」
そんな城之内のもっともな意見に《機械軍曹》の人こと大田はキリッと返す。
「フッ、素人意見だな!」
「いや、素人に決まっているでしょ」
レベッカの鋭いツッコミが《機械軍曹》の人こと大田を襲う。
だが小型犬は何処からかペンとパネルを取り出し、両の前足でペンを器用に掴み、パネルに『こんにちは』と書いた後、前足でスタンプを押したパネルに前足をかけてこの場の一同に示す。
「こんにちは~!」
小型犬に向けて挨拶を返す静香を余所に《機械軍曹》の人こと大田は自慢気に語る。
「そう! 愛らしくコミュニケーションを取る姿は病院でのアニマルセラピーに最適!!」
この「立体映像操作機能(仮)」には小型犬が普通は出来ないような動きを本物の犬の様々な動きをベースに自然な形で行わせることが出来る。
そしてそれは小型犬だけに限らず様々なものが投影可能だ。《機械軍曹》の人こと大田は説明を続ける。
「さらに人が入れない場所であっても座標さえ示せれば『ソリッドビジョン』は問題なく存在できる!」
その言葉通り、ソリッドビジョンに実体はなく、障害物は障害になりえない。
「例えば! 外から救助できない場合に避難誘導を担うことだって出来る! とはいえ、こっちは試験的な導入だがな!」
上述の使い方が確立されれば避難誘導だけでなく、災害現場でどう動けばいいのかの指南や、孤立した人間に対しての心の支えになる可能性もあるのだ。
《機械軍曹》の人こと大田に対する評価が若干上昇する遊戯たち一同の中でレベッカが声を漏らす。
「へ~他には何かあるの?」
「後は映画やドラマなどの演出が分かりやすいな――こっちは既に広く導入されとる」
此方はさっきと打って変わって身近な一例――とはいえ、知名度はあまり高くないが。
「これは人以外の役には確かに便利だね」
感嘆の声を上げる御伽に気を良くしたのか、《機械軍曹》の人こと大田のテンションは留まることを知らない。
「フフッ! まだまだあるぞ!」
その言葉と共に指をパチンと鳴らした《機械軍曹》の人こと大田の仕草を合図に城之内に異変が起こる。
「お、おい! 城之内! お前の服装!」
本田が目を見開きながら城之内の身体を指さす。そこにあったのは――
「城之内くん、それって!!」
驚く遊戯が目にしたのはTシャツとジーンズのラフな服装だった城之内の服装が青い衣に赤い鎧と兜、そして背中には真っ赤な大剣が備わった戦士風の姿になっていた。これはまさに――
「おわっ!? 《炎の剣士》じゃねぇか!!」
そう、城之内の相棒たるカード《炎の剣士》が身に纏う装備と瓜二つ。驚きを見せる城之内の動きに合わせて腰布がゆらりと揺れる――まるで本物のように。
遊戯たち一同の驚く姿に満足気な《機械軍曹》の人こと大田は高笑いしながら答える。
「これぞソリッドビジョンを活用し、対象と合わせた動きを取らせることで可能となる――変身システム(仮)!!」
「おぉー! これも映画とかで使われてんのか!」
最初の乗り気ではなかった姿はどこへやら、ブンブン身体を動かす城之内が興奮した様相で楽しんでいる模様。
「その通りだ! 後はミュージカルや演劇などの演出にも使われておるぞ!」
「それって『ブラック・マジシャンガール 賢者の宝石』にもですか!?」
《機械軍曹》の人こと大田の「ミュージカル」との言葉に杏子も続いてグワッと食いつく。
「ああ、勿論だとも!」
「でもこれって意味あんのか? 始めから全部ソリッドビジョンでやれば良いじゃねぇか」
しかし本田から語られる当然の疑問に《機械軍曹》の人こと大田は小さく笑う。
「フッ、素人意見だな!」
「だから素人だって」
《機械軍曹》の人こと大田の言葉にレベッカが再びツッコミを入れるも無視しつつ説明が続く。
「ソリッドビジョンはあくまで機械で動きの表層を再現したものに過ぎん――つまり人が持つ、心の機敏ゆえの『感情の籠った動き』までは再現できんのだ」
出来る事、出来ないことの線引きをしていく《機械軍曹》の人こと大田は最後に今までのテンションを何処かに置いてきたように零す。
「技術は人と共にあるのだよ」
それが《機械軍曹》の人こと大田の持つ信念だった。
「おぉ~なんかプロフェッショナルっぽい」
「いや、一応プロフェッショナルだろ」
その言葉に感嘆の声を上げる城之内とツッコミを入れる本田。一応じゃないから。
しばらくそれらソリッドビジョンを活用した技術を堪能した一同は《機械軍曹》の人こと大田によって次の施設の元へと案内される――静香さん、小型犬との戯れは此処までです。
「次は此方だ!」
そして案内されたのは何やら1つのデュエルディスクを加工している現場。
「これは……デュエルディスク? でも形が違うな……」
御伽が考えに耽る中、《機械軍曹》の人こと大田は声を張る。
「特注のデュエルディスクだ! 通常タイプのデュエルディスクとは違い、世界で1つだけのデュエルディスクを生み出すことが出来る!」
その言葉通り、加工されているデュエルディスクは遊戯たちが持つものとは大きく違い、流線形の形をしており、白くコーティングされるようだ。
「値段は馬鹿みたいに張るがな!!」
「あちらはペガサス会長が直々にブルーアイズをモデルにデザインされたものです」
大きく笑う《機械軍曹》の人こと大田の言葉に続くように追記された説明と共に足音が響く。
「あっ、神崎さん」
そう遊戯が反応するように一同に合流したのは神崎。一仕事終えてきたようだ。
「お待たせして申し訳ありません。そして大田殿もご無理を言ってしまい――」
「なぁに、構わんぞ――話にもあった見学のテストにもなるからな!」
ペコリと頭を下げる神崎を豪快に笑い飛ばす《機械軍曹》の人こと大田。
「ああ、だから急に工場長が私たちの所に来たのね」
事の真相を理解したレベッカの言葉に神崎はニッコリ返す。
「はい、ただお待たせしてしまうのも忍びなかったもので」
「つーか、ブルーアイズって……海馬の趣味全開じゃ――まさか!?」
だがその隙に城之内が真実に辿り着いてしまった――恐ろしく勘の良い男だ。
「海馬社長の要請によってお創りしたものになります」
しかし相変わらず平静に返す神崎は一応、とばかりに一同に伝える。
「此方の要件は済みましたので、今すぐにでも童実野町に向かえますが――」
とはいえ、一同の視線がその答えを何よりも物語っていた。
「――最後まで見学していかれますか?」
「おう!」
ゆえに一同が望む問いを返した神崎に城之内が代表して親指を立てた。
実家が工場の本田はデュエルディスクが形を変えていく姿に釘付けである。将来、実家を継ぐ予定の本田にとって勉強になるのだろう。
「へ~あれが海馬のデュエルディスクになんのか……」
「あの
《機械軍曹》の人こと大田から語られる制作秘話というか愚痴だったが、ならばと本田は振り返りつつ問う。
「飛んでったブルーアイズジェットもおっさんが作ったのか?」
《
此処の工場長である《機械軍曹》の人こと大田が無関係とは思えないと考えたゆえの問いかけだったが、《機械軍曹》の人こと大田は胸を張って返す。
「勿論だとも! アレは儂が直々にプロジェクトを率いて完成させたものだ!」
「仲が悪い割に、結構、頼み事を聞いてるのね……」
呆れ顔でそう呟くレベッカの言う通り、なんだかんだでKC内の仕事は回っていた。
「『ふぅん、無理なら無理と言えばいいだろうに』などとふざけたことを抜かしおったのでな! ヤツの想像を超える代物を生み出してやったわ!」
海馬に屈し、頼み事を聞いたわけではない、と当時の状況を熱く語る《機械軍曹》の人こと大田だが――
「究極的なまでに機能美と造形美を追求した機体を前に言葉を失った
「完全に売り言葉に買い言葉だね……」
そう零す御伽の言葉通り、完全に子供のやり取りを思わせる。
「ちょろいおっさんだなぁ……」
そんな城之内の呟きに遊戯たち一同は何とも言えぬ空気になっていた――でも何だかんだで優秀な人だから……
その後――
《もけもけ》型のパワードスーツの性能実験がまるで拷問部屋のようだと眺めたり、
ソリッドビジョンを利用したゲームマシンの研究風景を眺め――
現実世界の街並みを再現し、疑似的に世界中の何処であっても走れるレースマシンや、
ゾンビ映画の世界に放り込まれたような体感型ガンシューティングに、
空手家風モンスター、《カラテマン》と人間が疑似的に戦う格闘ゲーム等々、
そんな様々なアトラクション――もとい最新技術を見て、感じて、体験していく遊戯たち。
だったのだが、ふと本田が疑問を零す。
「つーか思ったんだけどよ……なんでこんな海のど真ん中で工場建てたんだ? 不便だろ?」
日夜、あらゆる物資が行きかう工場において流通の重要性は町工場のせがれでもある本田は理解している。
その理由は軍事産業で後ろ暗いことをしているから――などは既に過去の理由。
「それは――」
「待て、神崎! ――フッフッフ……よくぞ聞いてくれた! 少し待て……よし!!」
キチンとした理由の一部を明かそうとする神崎だが《機械軍曹》の人こと大田が待ったをかけ、意味深に笑う――楽しそうなことで。
『これよりソリッドビジョンの誤作動を想定した訓練を行います。これは訓練です。繰り返しま――』
不審がる遊戯たち一同に届いたのは意味深なアナウンス。
「おっ!? 何が始まるんだ!?」
そんなワクワクする城之内に――
「影?」
杏子が零したように影が差す。今の天気は雲一つない快晴の為、このように影が差す筈もない。
ゆえに視線を上げた一同の視界に映ったのは――
『グリ゛ィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!!』
山のように巨大な毛玉がもの凄く野太い声をうるさい程に上げていた。
だがこれは、地球の怒りを受け、巨大化した精霊などではないので安心して欲しい――ソリッドビジョンである。
「デカッ!?」
「うるさっ!?」
城之内と本田の当然のリアクションを余所に静香は首を傾げながら毛玉の正体を零す。
「あれって《クリボー》……ですよね?」
だがそれどころではない一同――うるさいからね。
「成程ー! 此処は色々実験するのがメインって訳ねー!」
耳を押さえながらレベッカがたどり着いた真実に《機械軍曹》の人こと大田は満足気に耳を塞ぎながら返す。
「その通りだー! 量産などは別の工場でやっとるー! つまり此処はこういった事故があった際に、余所に迷惑が掛からんようにする為なのだー!」
だが超巨大な《クリボー》がうるさすぎてその説明が遊戯たち一同にキチンと入ってきているようには見えないが……
やがて超巨大な《クリボー》のソリッドビジョンによる音テロは終わりを告げ、一同の耳がキーンとなる中で《機械軍曹》の人こと大田は遊戯たち一同に振り返って笑う。
「――と、まぁ色々回ったが社会見学くらいにはなっただろう?」
「おう、中々楽しかったぜ!」
《機械軍曹》の人こと大田に笑い返し、礼を言う城之内。
そして《機械軍曹》の人こと大田が立ち止まった最後の見学場所は――
「最後にお土産も用意しているぞ!」
お土産コーナーというか、というよりは製品置き場のような所。
「マジかよ、太っ腹だな!」
「これはどんな製品なんですか?」
喜びに拳を握る本田に対し、杏子は大きめのケースに積まれた部品のようなものを手に取って問いかけた。
「デュエルディスクカバーです」
「デュエルディスクの改造は値が張るからな、大衆向けに作ったものだ――1パーツやろう。好きなデザインのモノを持っていくといい」
神崎から説明を引き継いだ《機械軍曹》の人こと大田の声に喜色を上げる遊戯たち一同。
「おぉー! いいのか!」
「ええ、お二方のような有名デュエリストにご使用して頂ければ、それだけで宣伝になりますので」
だが城之内の言葉に返した神崎の言葉は中々にアレだった。それは――
「うぁ~汚い大人の事情じゃねぇか……」
そう本田が語るように遊戯と城之内の知名度の利用を狙ったものなのだから――もうちょっと隠す努力をして欲しいものだ。
「僕たちも貰っていいんですか?」
そんな御伽の「自分たちは有名なデュエリストでない」ゆえの声にも《機械軍曹》の人こと大田は明るく返す。
「構わんぞ――種類はあれど、デッキ装着部分のパーツしか置いていないがな」
「他の部分にも、つけるパーツがあるんですか?」
「デュエルディスクのカードを置く部分に取り付けるものや、腕に巻く部分に取り付けるものもある。ちなみにこれの付け方は『こう』だ」
静香の疑問の声に《機械軍曹》の人こと大田は何処からか取り出したデュエルディスクで実演して見せる――そのデュエルディスクには全てのパーツが装着されていた。
「そんなに種類あんのに、なんでお土産用はコレだけなんだ?」
パーツの種類の多さを見た本田の当然の疑問が浮かぶが――
「他の子のを無理やり取っちまう子がいるかもしれん――その点、同じ部位のパーツなら複数持っておっても意味はないからな」
《機械軍曹》の人こと大田から語られるのは余所からの「見学」の話も出ているゆえのもの――子供を引き連れ社会見学なんて話もある為だ。
「本来は他の部位のパーツも使いオリジナリティを目指すものですので、この1つを手にしたことで他の部位のパーツに目を向けて貰えれば――と」
「へぇ~成程、だから付けた時に一番目立つ部分をチョイスしたって訳ね……」
説明を引き継いだ神崎の言葉にレベッカはテディベアのマークのついたパーツ片手に納得の色を見せる。
そう、早い話が――
「汚ねぇ! 大人って汚ねぇ!」
その城之内の言葉が全てを物語っていた――他の人が使っていると自分も欲しくなるのが人の性ってヤツなのだ。
「ならいらんか?」
しかし、そんな茶目っ気タップリにかけられた《機械軍曹》の人こと大田の声に――
「いえ、いります!」
城之内は食い気味に返した――こうして青年は大人へと成長していくのである。えっ、違う?
そんなこんなで楽しい工場見学も終え、更にはお土産もゲットした遊戯たち一同は神崎の案内の元で再び空の旅を経て、童実野町に帰って行った。
光のピラミッド「三幻神(2体)+強力な精霊(2体)の力、ウマウマ」