マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
本田「牛尾のヤツからマリクたちが受ける罰が分かったてよー!」

御伽「本当!? でも、これって…………彼らが出られる頃には彼ら含めて、僕たちは……」

城之内「マジかよ……なら俺ら――――スッゲー長生きしなきゃな!」

遊戯「そうだね! 健康にも気を付けなきゃ!」

杏子「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど……」





DM編 第7章 劇場版 超融合編 歪んだ世界
第125話 時間旅行に行きたいな


 

 

 バトルシティでの諸々の問題も大半が片付き、久々に纏まった時間の取れた神崎はある場所を訪れていた。それは――

 

 

『こんな山に何のようだ? この土地に大した力はないぞ――それとも山に住まう命を喰らうのか?』

 

 神崎から伸びる影――冥界の王の語るように何の変哲もない緑が生い茂る山だった。

 

「…………随分と流暢に話せるようになりましたね」

 

 対する神崎は冥界の王の過激な提案に呆れつつそう返す。

 

 今までの冥界の王は怨念に塗れていたゆえか、その言葉はどこかたどたどしかったが、今は流暢に話せていた。

 

『これ程までに長期間、現世に留まったことがないからな』

 

 その言葉通り、「冥界の王」が現世に一度現れれば「赤き龍」と世界の命運をかけて雌雄を決する戦がすぐさま始まる。

 

 そしてその戦に言葉など不要。

 

 しかし現在は神崎を騙して奪われた己の力を取り戻さなければ冥界の王は何も出来ない為、あれやこれやと「言葉」で甘言を繰り出すしかないゆえに上達せざるを得なかった。

 

 神崎は全てスルーしたが。

 

 何処か苛立ちを見せる冥界の王に神崎は今回の目的をポツリと零す。

 

「そうですか……今回の用事はただの墓参りです――両親のね」

 

 神崎の両親が死んだのは、まだ神崎が年端もいかぬ程に幼かった頃である。

 

 ゆえに頼る人がいなかった神崎が身辺を整理した際に捻出できた金額で可能だった両親の供養の方法は自然葬だった。

 

 

 その場所がこの緑生い茂る山である。

 

 墓参りと聞いた冥界の王はその影を近くの木に伸ばし、神崎と視線を合わせ囁く。

 

『ダークシグナーにしてしまえば良いだろう。再び会うことが――』

 

「無理ですね――2人は何も未練を持っていない」

 

 しかし神崎はすぐさま淡々と否定の意を示す。

 

 だが「駄目」ではなく「無理」との言葉に冥界の王は意地の悪い声を出しながら笑う。

 

『何を言う。未練がなければ()()()()()――お前の得意分野だろう?』

 

 冥界の王は強い手応えを感じていた。

 

「その気はないですよ――それに恐らく、耐えられない」

 

 否定の言葉を重ねる神崎に食い下がろうとした冥界の王だが、ふと疑問を覚える。

 

『? 魂や肉体の強度など大した問題には――』

 

 ダークシグナーとして蘇生させる過程において、魂や心、肉体の損傷は関係がない――ただ強い負の感情を内包した未練があればいいのだから。

 

 

 不思議そうな冥界の王に神崎はポツリと零す。

 

「2人は『普通』なんです。だから――」

 

 

 神崎の両親は普通の人間だった。

 

 

 精霊に関係する力を持っている訳でもなく、

 

 カードに選ばれた訳でもなく、

 

 前世に因縁がある訳でもなく――

 

 

「『ダークシグナーになった事実』に耐えられない」

 

 強き心を持っている訳でもない。

 

『なんとも弱きものだな』

 

 冥界の王は呆れたようにそう呟いた――己を喰らった男の両親ゆえにどれ程の人間かと思えば、弱いと断ずるしかない程に何もない。

 

「それが『普通』ですよ」

 

 神崎は力なくそう零すと踵を返し、来た道を引き返していく――墓参りは終わったらしい。

 

 

 そんな神崎の脳裏に『無理に子供らしく振る舞わなくていい』――そう言いながら無理をして笑みを浮かべた両親の姿が過る。

 

 

 両親からすれば『神崎 (うつほ)』は不気味な存在だった。

 

 生まれたばかりにも関わらず強い自我を持ち、学んだ訳でもないに関わらず「子供らしさを求められている」と2人の意図を理解する。

 

 唯々不気味だった――自分たちの子だと、人間だと、信じられなくなる程に。

 

 しかし、それでも親とあろうとした2人にもはや神崎は何も返せない。

 

 

 絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCのオカルト課に訪れていたモクバに指名され、アメルダは言われるがままにモクバと同じテーブルで向き合っていた。

 

「なぁアメルダ?」

 

 今の今まで言い難いそうに身をよじっていたモクバが意を決した様子で発した言葉にアメルダは「ようやくか」と息を吐く。

 

「どうかしましたか、モクバ様」

 

「アメルダは何でオカルト課に入ったんだ?」

 

 しかしモクバから問いかけられた言葉にアメルダの瞳が鋭くなる。

 

「念の為聞いておきますが、ボクらの中に『事情』がある人間が多いことを知っての問いですか?」

 

 分かり易く「怒っている」アピールをするアメルダ――軽い気持ちで問いかけたのならアメルダは立場を無視してでもモクバを叱らねばならない。

 

 

 ただでさえオカルト課は海馬に睨まれている現状、海馬の逆鱗に触れるようなマネは避けたいとアメルダは考えるが――

 

「うん、でも俺は知りたい――いや、知らなきゃならないんだ」

 

 しかしモクバの視線は真っすぐアメルダを向いていた――怯えを隠す様に膝の上に置かれた拳は握られている。

 

「理由を聞いても?」

 

 これは厄介だと思いつつアメルダは続きを促す。

 

「俺さ、KCのみんなには仲良くして欲しいんだ……でも兄サマは神崎と仲が悪いだろ?」

 

「……海馬社長が一方的に嫌っている状況ですがね」

 

 モクバから語られたのは海馬と神崎の一触即発な様相を危惧してのもの。とはいえ、神崎側が海馬に敵対する意思がこれっぽっちもない為、完全に海馬の1人相撲だが。

 

 モクバは続ける。

 

「それでさ、俺は兄サマに聞いたんだ――『何で神崎に厳しいのか』って」

 

 神崎のスタンスは常に海馬やモクバのプラスになっている――裏切る素振りなど全くない。

 

 少なくともモクバにはそう見えていた。ゆえに海馬の神崎に対する過敏なまでの対応がモクバには分からない。

 

 しかし海馬にはモクバでは見えない部分が見えていた。

 

「そしたら兄サマは言ったんだ――『お前はヤツの何を知っている?』って」

 

 それが答えだった。

 

 神崎の行動には1つだけ大きくポッカリと穴が開いている。それは「何故、海馬とモクバに味方するのか」という1点。

 

 本人に聞けば「海馬とモクバの持つ理念に感動した」といった如何にもな理由が語られるが、海馬がモクバのようにそれを素直に信じる訳がない。

 

 神崎の目的が何も()()()()()

 

 神崎が何を考えているのか()()()()()

 

 神崎と言う人間が()()()()()

 

「俺は何も答えられなかった」

 

 意気消沈した様相で零すモクバ。

 

「ボクも答えられませんけどね」

 

 しかしアメルダは無理もないと同意を示す。神崎本人が秘密主義過ぎて距離の近いオカルト課の人間でも答えられない問題である。

 

 そうフォローを入れたアメルダに対し、モクバは首を横に振る。

 

「俺さ……神崎とは仲良くやれてると思ってたけど、実は神崎のことを何にも知らなかったんだ」

 

 モクバは神崎と良好な関係を築いている自負があったが、それは何処までも空虚なものだった――「何も知らない相手と『仲良くなった気にさせられていた』だけ」だった。

 

 酷い言われようである。

 

「何にも知らない相手と仲良くなれる筈なんてないのに……」

 

 何を喜び、何に怒り、何に悲しみ、何に笑い、何を好み、何を嫌うのか、モクバは神崎を何も知らない。

 

 今の今まで何も知らないことに気付きすらしなかった。

 

 だがモクバは下を向きはしない。

 

「だからさ! 『これから知っていこう』って思ったんだ!」

 

 モクバは顔を上げる。その顔には悲観はなく、KCの副社長として前だけを向いていた。

 

 そのモクバの瞳をアメルダは真摯に見つめ返し、小さく息を吐いて納得の色を見せる。

 

「成程、だからボクのところ――いえ、ボクたちの所に来たわけですか。神崎さんが自分の事を話すとも思えませんし」

 

「ああ、そうなんだよ! 神崎に聞いてもはぐらかされて、いつの間にか別の事話してたりするし! いつの間にか世間話してそのまま別れちまうこともあるし!」

 

 アメルダの神崎に対する若干アレな言いように全面的に肯定を返すモクバ――本人が聞いたら泣くぞ。

 

「神崎さんの秘密主義は今に始まったことでもないですが、無理に問い質すのもどうかと」

 

 とはいえ、アメルダも神崎への一応のフォローは入れる――アレでも一応、上司だと。

 

「でもさ、『人となり』くらいは知っておくべきだろ! だからさ! 神崎がやってきたことから、どんな奴か知ろうと思ったんだ!」

 

 モクバの作戦は至極単純――「本人から『人となり』を掴めないなら、その行動から『人となり』を確かめる」である。

 

 既にその作戦はかなりの段階まで遂行中だ。

 

「モクバ様がオカルト課を探っているとの噂は本当でしたか……」

 

 そう、目の前のアメルダの言う通り、他のオカルト課の人間へのモクバへの聞き込みは大半が終わっていた――ただ、未だに神崎の人物像を掴めてはいないが。

 

「ああ! そうだぜい! ヴァロンや他の奴らからも話は聞かせて貰ってるぜい!

 

「!? あのヴァロンが? 意外ですね――本人は恥ずかしいからと言って話したがらないのに……」

 

 モクバから出た意外な名前に驚きを見せるアメルダ。

 

 ヴァロン自身が拳の振るう先を見失い喧嘩に明け暮れていた過去を恥じていることを知るアメルダからすれば想定外だった。

 

 しかしそれはモクバの本気度をヴァロンが認めたゆえと考えたアメルダは意を決したように口を開く。

 

「……分かりました。お話ししましょう――ですがボクの場合はあまり面白い話ではないですが」

 

「いいのか!」

 

「ええ」

 

 ようやくこぎ着けた事実に喜ぶモクバを余所にアメルダは自身が神崎と出会った過去に思いを馳せる。

 

「ボクの故郷は綺麗な町が並ぶ良いところだったんですが……突然、紛争が起こりました――いわゆる戦争ですね」

 

 アメルダから語られるのは自身の故郷を襲った突然の悲劇。

 

 その悲しみの連鎖は留まることを知らず、そこら中に広がって行く。

 

「ボクと弟は両親に守られながらも恐怖に震える日々を過ごしていました。ただ弟を、ミルコはボクが守るんだと、力もないのに息巻いていましたが」

 

 当時、ただの子供だったアメルダは無力感に苛まれる毎日だった。

 

「そんなこと言うなよ……」

 

「事実ですよ――当時のボクには何の力もなく、そして現実も知らなかった」

 

 モクバが小さく零した言葉にアメルダは首を横に振る――過去のアメルダはその自身の弱さが許せなかった。

 

 もっと己が強ければ、と思ったことは1度や2度ではない。

 

 そんなアメルダ一家を更なる悲劇が襲う。

 

「ある日、ボクたちの両親が戦火に巻き込まれたことを知って……最悪の可能性を考えが浮かんだボクは怖くて仕方がなかった」

 

 それは両親を襲った戦火の炎――紛争地帯となったアメルダの故郷では何時、誰に降りかかるともしれぬ不幸。

 

 ただ、その不幸がたまたまアメルダの両親を襲っただけのこと。

 

「ボクはミルコを連れて走りました。走って、走った先には元気な両親が『心配をかけたな』って笑いかけてくれることを願って……」

 

 しかし、その当事者であった子供の頃のアメルダは信じたくない想いと共に弟、ミルコの手を引き駆けた。

 

 駆けて、駆けて、駆けた先に幸運がある筈なのだと信じて。

 

 他ならぬアメルダ自身がその幸運を信じてはいなかったが。

 

「アメルダ……」

 

「そしてボクたちが辿り着いた場所で見たのは――」

 

 想像を超えるアメルダの過酷な過去に言葉を失うモクバだが、アメルダの語りは止まらない。

 

「もういい! もういいよ! アメルダ!」

 

 これ以上は聞いていられないとばかりに叫ぶモクバの静止の声を振り切り、語られたのは――

 

 

 

 この世の地獄のような光景。

 

 

 発生した戦闘によって崩れた建物。轟々と燃える炎。空を覆うまでの黒煙。そして――

 

 

 

 

 

「――《もけもけ》の大群でした」

 

 その地獄の中を練り歩く白い悪魔(天使族)の大群。

 

 

「もういいって言って! …………えっ?」

 

 絶叫のような声を発したモクバから酷くマヌケな声が零れた。

 

 モクバには、ちょっと何を言っているのか分からない。

 

 しかしアメルダは気にせず話を続ける――いや、ちょっと待って。

 

「大人より少し背の高い大型の《もけもけ》の大群です。その《もけもけ》たちに担がれた両親はボクたちに手を振っていました」

 

 子供の頃のアメルダの眼に映ったのはバトルシティで八面六臂の大活躍を見せたパワードスーツ・タイプ《もけもけ》の部隊。

 

 

 その《もけもけ》たちに抱えられていたアメルダの両親は健在だった――なお非現実的な出来事が起こったゆえか現実的な我が子の存在にもの凄く安堵していたが。

 

 

「えっ? ……えっ?」

 

「ボクは何が何だか分からなくなりましたが、ミルコがボクの手を引いて両親の元に駆けて行ったことだけは辛うじて覚えています」

 

 今の動揺するモクバのように当時の自身も混乱の最中にあったのだとアメルダは語る。

 

 弟、ミルコは幼かったゆえか「両親が無事」という事実をただ喜んでいたが。

 

「それからしばらくして争いはバカみたいにアッサリ終わりました」

 

 《もけもけ》たちの進撃は恐ろしいものだったとアメルダは語る。

 

 武器の1つたりとも持っていなかった《もけもけ》たち、その肉体こそが武器と言わんばかりに突貫する白い姿に相手は「バカが来た」と笑っていたが――

 

 その《もけもけ》たちは大地を風のように駆け抜け、

 

 その身体は銃弾を弾き、砲弾をぶん殴ってぶっ飛ばし、

 

 ミサイルなどの爆撃も気にせず足を進め、

 

 人質を取ろうものなら、いつの間にやら地面から飛び出した《もけもけ》に殴り飛ばされ、その後、タコ殴りにされる始末。

 

 そして抵抗する敵を1人残らずその拳で沈めていくその姿はまさに悪夢。

 

「あれは人間(もけもけ)じゃない――化け物(もけもけ)の進軍だ」

 

 返り血でその身体の所々が赤く染まった《もけもけ》たちの存在は悪魔(天使族)そのものだったとアメルダは語る。

 

「えっ? ちょっと待って!? どうしてアメルダはオカルト課に、それに神崎の影も形も――」

 

 だがようやくモクバの理解が追い付く――神崎、関係ねぇじゃねぇかと

 

「落ち着いてくださいモクバ様。神崎さんの話は此処からです」

 

「お、おう」

 

 しかしアメルダの言葉からは語られていないだけで、キチンと神崎はいたのである。

 

「その進軍の中で1人だけ《もけもけ》じゃない人がいたんです――その人はその《もけもけ》たちよりも敵を屠り、張り付けた笑顔で戦場を縦横無尽に駆けていて……後、《もけもけ》たちはその人に敬礼をしていました」

 

 神崎は突貫する《もけもけ》たちの中で先頭を突っ走っていたのである――いや、パワードスーツ(もけもけのヤツ)着ろよ。

 

 そして、その神崎は《もけもけ》の中の人との立場の関係上やたらと敬礼されていた。

 

「それが……神崎なのか?」

 

 モクバの胸中を一言で現すなら「何やってんだ、神崎」である――いや、本当に何やってんだよ。

 

「はい、当時のボクは生身で戦場に突撃していく『アレ』は悪魔なんじゃないかと思っていました」

 

 《もけもけ》に交じって敵を撲殺(不殺)していく神崎の姿は当時のアメルダには同じ人間には見えなかった――当時はデュエルエナジーのドーピングがあれど、まだ一応人間だったのだが……

 

「そうして争いが終わった後はKCの人員が復興の為に来ました――そしてある程度の《もけもけ》たちを残して、神崎さんは去って行ったんです」

 

 まさに世紀末を思わせるヒャッハー!な日々だったとアメルダは頭を押さえながら語る――自身の常識が崩壊した日でもあった。

 

 

 ちなみにアメルダの故郷では住民たちの手によって片腕を突き上げる《もけもけ》の銅像が立てられたが完全に余談である為、割愛する。

 

「でも当時のボクはその悪魔の力が欲しいと思ったんです――あの悪魔の力があれば父も母も、弟もボクが守れると考えて」

 

「それで神崎のとこに来たのか……」

 

 モクバはようやくかと息を吐く――此処でやっとアメルダと神崎が出会った。

 

 よくスカウトする神崎からではなくアメルダからの売り込みだったことが「意外だ」とモクバはふと思う。

 

「ええ、両親の反対も押し切って、ミルコの手も振り切って……今思えば、バカなことをしたと思っています」

 

 だがアメルダの選択は多くを切り捨てたものだった。

 

「当時のボクは力の意味を履き違えていました――家族を守ろうと力を求めるばかりで、逆に家族を不安にさせていたことに気付かず、自分のことばかりでした」

 

 過去の己を恥じるように語るアメルダ。

 

 当時のアメルダはやたらと里帰りさせられていたが、それを面倒だと思う程に心に余裕がなかった。

 

 あのまま行けば、道を踏み外していたかもしれないとアメルダは思う。

 

「でも、ようやく間違いに気付いたボクは、度々実家に帰って笑い話にされてます」

 

 しかし里帰りした時は暖かく迎えてくれた家族の姿を見てアメルダは自身の間違いを悟り、今はデュエリストとしての力を手にした――家族を守るための力を。

 

「お前は昔、悪魔の力を得て、《もけもけ》を従えようとしていたんだぞって」

 

 そんな両親からの茶化すような言葉が未だにアメルダにはこそばゆいが。

 

「そ、それは…………でも、良かったな」

 

 アメルダのツッコミどころ満載な過去だったが、最後は幸福を掴めたアメルダの姿にモクバは笑みを浮かべる。

 

 終わり良ければ総て良しだと――良しなんだよ。

 

「ありがとうございます。そういえば……ボクが間違いに気付いて初めて神崎さんに『アメルダ』と名乗った時に神崎さんが、らしくない疲れた顔をしていたような……」

 

 だがふと思い出したようなアメルダの言葉にモクバは食いつく――そこに神崎の本質があるような気がして。

 

「それってどんな!?」

 

「いや、なんというか……『えぇ……』って感じ――ですかね?」

 

 だが語られるのは「仕事に疲れたサラリーマン」のような言葉。

 

「? うーん、よく分かんないな……」

 

「安心してください――ボクもよく分かってません」

 

 モクバとアメルダは互いに首を傾げるが、答えはでない。

 

 

 とはいえ、実はそう難しい話ではない。

 

 アメルダを救うべく紛争地帯を巡っていた神崎からすれば「もう全部回っちゃったよ……アメルダいないよ……どうしよう――えっ、キミがアメルダ!?」といっただけのことだ。

 

 何処までも脳筋な男である。

 

 

 

 それはさておき、アメルダの過去を聞き終えたモクバだが――

 

「そんなことがあったんだな……なんだか神崎のことがもっとよく分からなくなったぜい……」

 

 結局のところは神崎の人物像を掴むには至らなかった――こんな説明で分かる訳ねぇだろ。

 

「うーん、他のヤツらからは聞いたし、残りは……ギースだな!」

 

 やがてオカルト課での最後の人間にモクバは狙いを定める――アクター? 行方が探しようがないので選択肢に存在しない。

 

「ギースはボクよりも手強いですよ?」

 

「望む所だぜい!」

 

 最後の最後に厄介そうな人間が残ったと笑うアメルダにモクバは強く拳を握って返した。

 

 

 きっと答えが得られると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの時代、どこかの国、どこかのビルの上でパラドックスは小さく舌打つ。

 

「バトルシティが開催された時代にモーメントだと? 形だけのハリボテだとしても、ふざけたマネを……」

 

 パラドックスが問題にしているのはバトルシティの決勝にて遊戯と海馬がデュエルしたデュエルタワーと呼ばれる塔の存在。

 

 

 永久的なエネルギー機関。そして塔――それは「モーメント」のひな型であることはパラドックスには直ぐに理解できた。

 

 そのエネルギー機関「モーメント」は本来であれば遥か先の未来である所謂「5D’s」の時代に生み出される技術である。

 

 そして神崎がいる時代の「DM」時代――その先の「GX」時代すら飛び越えた荒業だ。

 

 

 モーメントが人々の際限なき欲望によって暴走することで破滅の未来に繋がることを知るパラドックスからすれば破滅の未来を加速させるような神崎の行為に殺意すら覚える。

 

 しかも神崎は明らかに「イリアステル」の存在を知っている前提で動いている。

 

 つまり上述の神崎の行為は破滅の未来の事情のアレコレも知っている上でのものと考えれば自ずと答えは出る。それは――

 

「これは明らかに此方側に対する挑発――いや、招待状か」

 

 イリアステルを誘き寄せる意図がパラドックスには見えた。

 

 対話の意思を見せているとも取れなくはないが、パラドックスはその可能性を排除する。

 

 対話の意思を見せるのならもっと早くに出来た筈だと――なお実態は地盤を固めるのに忙しかったゆえの遅れだが。

 

「フッ、ちょうどいい機会だ――私の大いなる計画の過程で生まれる究極のデッキで仕留めてやるとしよう」

 

 ゆえに今のパラドックスにあるのは戦う意思のみ――「モーメント」をチラつかせる存在など放っておくには危険すぎる存在だ。

 

 Z-ONE(ゾーン)の方針とも相違はない。

 

「あらゆる時代の最強モンスターを集めたデッキでな……」

 

 仮に神崎が集めたデュエリストが立ちはだかろうとも、パラドックスにはその全てを打ち払う術がある。

 

「狙うなら邪魔になりそうな海馬 瀬人がいない時期」

 

 とはいえ、不要な争いをする気はパラドックスにはない――ゆえに確実に「神崎のみ」を殺す為の準備を頭の中で組み上げていく。

 

 そうして当初の計画を修正していくパラドックスだが、その脳裏に仲間の影がチラついた。

 

「アンチノミーには悪いが、ヤツの口車で心を乱されでもすればZ-ONEの計画に支障が出かねない」

 

 アンチノミーが願った「神崎との最後の対話の機会」をパラドックスは用意する気は始めからなかった。

 

 万が一の事態を考えればリスクは少しでも少ない方が良い――操られた仲間(アンチノミー)と争うことなどパラドックスには我慢がならない。

 

「済まないな、アンチノミー」

 

 きっと全てが終わった暁には優しいアンチノミーは烈火の如く怒るのだろうとパラドックスは息を吐く。

 

 しかしパラドックスは滅んだ世界を見て、誓ったのだ。

 

 目的の為なら、仲間を、未来を救う為なら全ての(Sin)を背負うことを。

 

「キミとの約束は守れそうにない」

 

 そんな謝罪の言葉は空に溶けるように消えていった。

 

 






「劇場版 遊戯王 ~超融合!時空を超えた絆~」編――始まります

ただ、間にいくつか挟むので、少々長くなりますが。


~原作と今作での変化――「街」編~
アメルダの故郷

過去に戦火に焼かれるも《もけもけ》たちの活躍によって平和を取り戻す。

街の中央に市民たちの手によって建てられた《もけもけ》の銅像は街のシンボルになった。

その活躍は日々語り継がれている。

さらに年に1回《もけもけ》の仮面(仮装でも可)を装着し、
街をぐるりと一回りし、順位を競う障害物競争が祭りとして開催されている。

戦火のあった過去を忘れないようにする為のものらしい。

ちなみに見事1位を獲得した人間にはその年の「もけ男(女)」の称号と、金一封が送られる。
「もけ男(女)」の称号は大変縁起が良いとされており、街のみんなの憧れなんだとか。


前回の優勝者は三連覇が確実とされていたアメルダ――ではなく、

やたらと尖ったリーゼントを持つ筋骨隆々な男が掻っ攫っていった。

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