マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ギース「動くな」

パラドックス「非番といった風貌だな……(何故エコバックを置いてこなかった……)」



モクバ「俺のデュエルが受けられねぇのかってっばよ!(背伸び)」

神崎「(これが噂のデュエルパワハラか……)」





第128話 フェイバリット カード

 

 

 デュエルが始まりモクバの先攻であることを確認した神崎は内心で思案する。

 

――このデュエルはどういった結末に持って行くべきか……

 

 普通に考えれば「モクバが気持ちよくデュエルする」が目標であろう――「なんで俺に気持ちよくデュエルさせねぇんだ!」な状態は避けねばならないと思われた。

 

 

 相手がモクバであればその心配は不要に思われるが……

 

 しかし神崎はこのデュエルの方針を考える己の姿に息を吐く。

 

――世界の危機も、命の危機も何もないデュエルにそんな考えを巡らせる自分が嫌になる。

 

 そんな軽い自己嫌悪に陥っていた。

 

 遊び(デュエル)に此処まで神経を使わなければならない状況とその状況に慣れ切った己の姿に神崎の気分が滅入る。

 

 

 だがそんな神崎の状態など気にした様子もなく、モクバは元気いっぱいにデッキに手をかける。

 

「俺のターン、ドロー! やったあッ! 最強カードを引いたぜい!」

 

――最強カード?

 

 モクバの喜ぶ顔を尻目に当然の疑問を浮かべる神崎。

 

 どんな強力なカードがモクバのフィールドに呼び出されるのかと警戒心を上げるが――

 

 

「俺は《正義の味方 カイバーマン》を通常召喚!!」

 

 モクバの宣言と共にフィールドに現れるのは橙色の長髪を棚引かせながら《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を模したマスクを装着している白いコートの男が高笑いを上げる。

 

《正義の味方 カイバーマン》

星3 光属性 戦士族

攻 200 守 700

 

 というか、完全に海馬社長であ――いや、正義の味方の正体を暴こうとは野暮な話。

 

「最高にカッコイイモンスターだぜい!!」

 

 腕を突き上げ、決めポーズを決める《正義の味方 カイバーマン》のソリッドビジョンにモクバは大喜びだ。

 

 しかし相対する神崎からすればそれどころではない。

 

――《正義の味方 カイバーマン》!?

 

 神崎が胸中で驚くように《正義の味方 カイバーマン》は自身をリリースすることで手札の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を特殊召喚する効果を持つカードである。

 

 だが肝心の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》は世界に4枚しか存在しておらず、その3枚を海馬が所持。残り1枚を神崎が保管している。

 

 つまりモクバのデッキにはそのいずれかの《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》が存在することに――

 

 

「さらに装備魔法《ライトイレイザー》をカイバーマンに装備!!」

 

 《正義の味方 カイバーマン》の元に現れ、その右腕に握られたナックルガードのような装備の水晶から青白い光のブレードが伸びる。

 

「コイツは光属性・戦士族のみ装備できるカードだ! まさにカイバーマンの為にあるようなカードだぜい!」

 

 モクバの声に呼応するように《正義の味方 カイバーマン》が宙に向けて《ライトイレイザー》を振るう度に「ブォーン」と独特な音が響く。

 

「そして永続魔法《レベル制限B地区》を発動しておくぜい! これでレベル4以上のモンスターは全て守備表示になる!」

 

 モクバの背後に石像に挟まれた「B」のマークが祭られたような近未来的な街並みと神殿が広がって行く。

 

 その神々しさはレベル4以上のモンスターであれば思わず跪き守備表示になってしまいそうだ。

 

 ただレベル3である《正義の味方 カイバーマン》は変わらず《ライトイレイザー》を振るい「ブォンブォン」言わせているが。

 

「後はカードを2枚セットしてターンエンドだぜい! さぁ、神崎! どっからでもかかってきな!!」

 

 自身満々にターンを終えたモクバの姿に合わせて《正義の味方 カイバーマン》は声高に笑う。

 

 

 そんなモクバと《正義の味方 カイバーマン》を余所に神崎が当初抱いていた驚きは収まりつつあった。

 

――《正義の味方 カイバーマン》には面食らったものの、分かり易いデッキだな。

 

 そう胸中で零す神崎の言う通り、このモクバのデッキには《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》は存在しない。

 

 海馬から託された1枚や、幻の5枚目などといったものはなかったのだ――良かった。良かった。

 

 そう、モクバのデッキは――

 

――《レベル制限B地区》で相手モンスターを守備表示に変更し、《ライトイレイザー》で除外。さしずめ《正義の味方 カイバーマン》で戦うデッキといった所か……

 

 神崎が内心で考えるように《正義の味方 カイバーマン》で戦うデッキ。

 

 デッキ構成にモクバのブラコンっぷりが垣間――いや、普通に見える。

 

「では私のターンですね。ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」

 

 にこやかにカードを引き、丁寧にフェイズを進める神崎は自身がKCに登録しているデッキをそのまま使用してしまったことを悔やむ。それもその筈――

 

――しかしデッキの相性が悪いな……此方のデッキに《レベル制限B地区》はあまり意味がない。

 

 そう、KCに登録されている神崎のデッキはモクバのデッキのロックを普通にすり抜けられるデッキだった。

 

「私は速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動します。この効果で私はデッキから《クリボー》か《ハネクリボー》を1体、手札に加えるか特殊召喚します」

 

 長さの異なる木の管が並んだ楽器が安らかな音色を奏でる。

 

「私は《クリボー》を攻撃表示で特殊召喚」

 

 その音色に誘われた《クリボー》が神崎のフィールドにちょこんと降り立った。

 

 小さな手でボクサーのようにシャドーを取る姿から察せられるように攻撃表示である。

 

《クリボー》

星1 闇属性 悪魔族

攻300 守200

 

 その姿を「ふぅん」と笑う《正義の味方 カイバーマン》を余所にモクバは己が良く知るカードの思わぬ登場に面食らう。

 

「ク、《クリボー》!? 何やってんだ、神崎! ソイツは手札にいてこそ効果を発揮するモンスターだぜい!?」

 

 そう、モクバの言う通り《クリボー》は戦闘ダメージが発生する際に「手札から捨てる」ことでダメージを0にする効果を持っている。

 

 フィールドにいてはその効果を活用することは出来ない。

 

 

 しかし神崎側にも事情がある。

 

「いえ、今このカードしか攻撃できそうなカードがなくて……」

 

 現在、神崎の手札にアタッカーになりえるカードがなかったのだ。

 

 《クリボー》の攻撃力は300と決して高くはないが、《正義の味方 カイバーマン》の攻撃力は200――つまり問題なく戦闘破壊を狙える。

 

「そ、そうなのか?」

 

 神崎の手札事故を心配した様相のモクバを余所にデュエルは続き――

 

「ええ、他はこのカードくらいです――《ミスティック・パイパー》を召喚」

 

 ステップを踏みながら赤い外套を揺らすのは軽快な笛の音を鳴らす《ミスティック・パイパー》。

 

《ミスティック・パイパー》

星1 光属性 魔法使い族

攻 0 守 0

 

「そして《ミスティック・パイパー》の効果を発動します。自身をリリースして私はデッキからカードを1枚ドロー。それがレベル1のモンスターだった場合はもう1枚ドローできます」

 

 笛の演奏も佳境に入ってきた辺りで光となって消えていく《ミスティック・パイパー》。

 

「私が引いたのは――おや、これは運がいい。レベル1の《クリアクリボー》です。よってもう1枚ドロー、と」

 

 その光が導いたのは《クリボー》の2Pカラーこと紫がかった毛色の《クリアクリボー》。

 

 もう1枚カードを引いた神崎は1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「さらに魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札のモンスター《クリアクリボー》を捨て、手札・デッキからレベル1のモンスター1体を特殊召喚します」

 

 パッカリと真っ二つになった《クリアクリボー》の中から飛びだすのは――

 

「私はデッキからレベル1の《クリボン》を特殊召喚」

 

 長いまつげに細長い尻尾が伸びる《クリボー》の仲間の《クリボン》。

 

 その名の由来であろう赤いリボンが尻尾の先に蝶々結びされていた。

 

《クリボン》

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

「レ、レベルの低いモンスターばっかりだぜい……」

 

 モクバがそう零す様に神崎から繰り出されるモンスターはどれもレベルの低いモンスター。

 

――これじゃあ《レベル制限B地区》の意味がないぜい……レベルの高いモンスターを呼ばないかな?

 

 これではモクバが内心で考えるように永続魔法《レベル制限B地区》が無意味のカード――死に札と化している。

 

 

 上級・最上級モンスターが呼び出されないだろうかとのモクバの期待を裏切り神崎が発動したのは――

 

「此処でフィールド魔法《心眼の祭殿》と永続魔法《ウィルスメール》を発動」

 

 赤き杖を祭った神殿――フィールド魔法《心眼の祭殿》が神崎の背後にそびえ立つ。

 

「そして永続魔法《ウィルスメール》の効果――1ターンに1度、自身のフィールドのレベル4以下のモンスター1体に直接攻撃の権利を与えます」

 

 さらにドクロのマークで封蝋された手紙がヒラヒラと落ち――

 

「効果の対象に《クリボー》を選択――とはいえ、バトルの終わりに墓地に送られるデメリットを負いますが」

 

 《クリボー》の背に張り付けられた。

 

「ではバトルフェイズへ。《クリボン》で《正義の味方 カイバーマン》を攻撃」

 

 《クリボン》が尻尾を揺らしながらとっとこ走り、《ライトイレイザー》を持つ《正義の味方 カイバーマン》に突撃していく。

 

 絵面的には返り討ちに合いそうだが攻撃力は辛うじて《クリボン》が勝っている為、問題はない――「このままなら」との注釈が付くが。

 

「させないぜい! ダメージステップ時に、永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》を発動! コイツは発動時に選んだモンスター1体の攻撃力を800アップさせるカード!」

 

 空から《正義の味方 カイバーマン》の足元に突き刺さったのは紫のクリスタルのような刀身を持った怨霊が憑いた魔剣。

 

――永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》……成程、そういうデッキか。

 

 その永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》の発動に神崎はモクバのデッキ構成の大半を理解する。

 

 とはいえ、神崎は今動くことが出来ない為、「あっ」と己の末路を悟った《クリボン》を見ても何も出来ないが。

 

「俺は当然、《正義の味方 カイバーマン》をパワーアップだ!」

 

 呪われし魔剣であろうとも知ったことか、とその手に取って二刀流の構えを見せる《正義の味方 カイバーマン》。

 

《正義の味方 カイバーマン》

攻 200 → 攻1000

 

「しかも《正義の味方 カイバーマン》が破壊されるときは永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》を代わりに破壊して身代わりに出来るぜい!」

 

 永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》も《正義の味方 カイバーマン》を所持者として認めたように脈動した。

 

「これで《クリボン》はどうやったって、装備魔法《ライトイレイザー》で除外だ! ぶった切れー! カイバーマン!!」

 

 そのモクバの声援を受け、可愛いらしい毛玉モンスター《クリボン》に《幻影剣(ファントム・ソード)》を突き刺し、もう一方の《ライトイレイザー》で《クリボン》を真っ二つに焼き切る《正義の味方 カイバーマン》。

 

 正義って何だろう。

 

 やがて《クリボン》の断末魔と共に斬撃の衝撃が神崎を打ち据えた。

 

神崎LP:4000 → 3000

 

――さすがにそう簡単には通らないか……

 

 手痛い反撃を受けた神崎だがモクバのデッキをより正確に知ることが出来たのならば僥倖と判断するが――

 

「1000のダメージ!? なんで!?」

 

 本来発生する戦闘ダメージ700よりも300程多いダメージを受けた神崎の姿にモクバの驚きの声が上がる。

 

 一応、モクバも観戦した遊戯と月行のデュエルにて使用されたカードだが、モクバは覚えていなかったらしい。

 

「フィールド魔法《心眼の祭殿》の効果です――このカードが存在する限り互いが受ける戦闘ダメージは一律1000になります」

 

「へー成程な! そのカードでダメージを増やそうとしたんだろうが、逆効果だった訳だな!」

 

 神崎の説明に納得の色を見せるモクバ。

 

 攻撃力の低い『クリボー』たちならではの戦い方なのだろうと首をうんうんと縦に振りつつモクバは元気よく語る。

 

「さらに装備魔法《ライトイレイザー》を装備したカイバーマンと戦った相手はダメージステップ終了時にゲームから除外されるぜ!」

 

 そのモクバの言葉通りに真っ二つになって地面に転がる《クリボン》の身体は崩れるように消えていく。その瞳は神崎をじっと見つめていた――威力偵察に使われたゆえに思う所があるのだろう。

 

 しかしその犠牲は無駄ではない。お陰でモクバの最後のセットカードの正体に当たりが付いたのだから。

 

「永続魔法《ウィルスメール》の効果を受けた《クリボー》でモクバ様を直接攻撃します」

 

 ドクロマークの印が付いた手紙片手に空高く浮かび、《正義の味方 カイバーマン》の二刀流の剣の間合いの外からモクバに向けて突進する《クリボー》。

 

「うわっ!?」

 

 その《クリボー》の突進は見た目のショボさとは裏腹にフィールド魔法《心眼の祭殿》の力によってモクバに確かなダメージを与える。

 

モクバLP:4000 → 3000

 

「でも、永続魔法《ウィルスメール》の効果を受けた《クリボー》はバトルフェイズの終わりに墓地に送られちまうんだよな! だったら神崎のフィールドはこれでガラ空きだぜ!」

 

 そのモクバの言葉通り、《クリボー》の背中に張り付いた《ウィルスメール》はジリジリと煙を上げ始める――今にも爆発しそうだ。

 

「ええ、このままならそうなりますね――私はバトルフェイズを終える前に速攻魔法《増殖》を発動」

 

 しかし神崎がカードを発動したと共に《クリボー》は爆ぜ、辺りに煙が立ち込める。これは《クリボー》が爆死した訳では当然ない。

 

「このカードはフィールドの《クリボー》を1体リリースし、自身のフィールドに可能な限り『クリボートークン』を守備表示で特殊召喚します」

 

 《クリボー》の分裂能力が発揮されたゆえのもの。やがて煙が晴れた先には――

 

「5体の『クリボートークン』を特殊召喚」

 

 5体の《クリボー》こと『クリボートークン』が「どんなもんだ」と鼻を鳴らしていた。

 

『クリボートークン』×5

星1 闇属性 悪魔族

攻300 守200

 

「墓地に送られる前に躱したのか!?」

 

「はい、その通りです――バトルを終了し、メインフェイズ2へ。カードを1枚セット。ターンエンドです」

 

 5体の『クリボートークン』で守りを固めた神崎は最後の手札を伏せてターンを終えるが――

 

「よーし、じゃぁ俺のターン――の前に神崎のエンドフェイズ時にコイツを発動だ! 永続罠《(あけ)(よい)の逆転》!」

 

 モクバが待ったをかけた。

 

「コイツの効果で1ターンに1度、俺の手札の『光属性』か『闇属性』の戦士族モンスター1体を墓地に送って、デッキから同じレベルで反対の属性のモンスター1体を手札に加えるぜい!」

 

 光と闇がモクバの足元から溢れ、2体の戦士を象っていく。

 

「俺は手札のレベル3の『闇属性』の戦士族、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》を墓地に送って、デッキから同じレベル3で反対の属性の『光属性』の戦士族、《カオスエンドマスター》を手札に加える!」

 

 黒いボロボロのローブの残骸と赤いストールのような布切れが鬼火を浮かべながら一人でに動く《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》。

 

 そして上述した姿とは対照的な白き衣を纏った天使の翼を広げる戦士、《カオスエンドマスター》。

 

 その2体のモンスターがモクバの手札から入れ替わるように交錯した。

 

「そして今度こそ、俺のターンだぜい! ドロー!」

 

 手札を入れ替えたモクバは順調な立ち上がりだと意気揚々とターンを進める。

 

「まずは墓地の《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》の効果発動! 墓地のコイツを除外してデッキからコイツ以外の『幻影騎士団(ファントム・ナイツ)』カードを手札に加える!」

 

 先程、墓地に送られた《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》がボロ切れとなったローブからモクバに向けて何かを手渡そうとした瞬間に神崎の声が届く。

 

「ではその効果にチェーンして速攻魔法《相乗り》を発動します」

 

 そしてモクバの隣に悪魔の運転する屋根のない車が停車した。その車の運転席には額に「1」の数字が書かれた紫の体色の悪魔がおり、手招きしている。

 

「このターン、モクバ様がドロー以外の方法でデッキ・墓地からカードを手札に加える度に私はデッキから1枚ドローします」

 

「うぇっ!? そんな!?」

 

 神崎の説明にモクバは素っ頓狂な声を上げる――それもその筈、モクバはこのターン大量にカードをサーチする予定だ。

 

 それが神崎のドローの手助けになってしまう事実にモクバは面倒なことになったと内心で頭を抱える。

 

「……じゃぁ、俺はデッキから《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》を手札に加えるぜい……」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》からモクバに手渡されたのは古びたブーツ。

 

 やがてそのブーツからボコボコと鬼火が溢れ、ボロ切れを纏った幻影の戦士となる。

 

「速攻魔法《相乗り》の効果でカードを1枚ドロー」

 

 役目は終わったとばかりに《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》は停車していた車の後部座席に乗り込んだ。

 

 此処から更にサーチするか否かをモクバは僅かに思案するも――

 

「此処で永続罠《(あけ)(よい)の逆転》の効果を使うぜ!」

 

 自身の手札をより充実させるべくサーチの続行を選択。

 

「今手札に加えたレベル3の『闇属性』の戦士族、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》を墓地に送って、デッキから同じレベル3で反対の属性の『光属性』の戦士族、《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》を手札に加える!」

 

 そして《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》が墓地へと飛び出し、その姿と交錯するように青いコートでその身を覆った少年剣士がモクバの手札に飛び込み――

 

「速攻魔法《相乗り》の効果でカードを1枚ドロー」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》も停車している屋根のない車に乗車した――まさに《相乗り》状態。

 

「うぐぐ……なら《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》を召喚だぜ!」

 

 増えていく神崎の手札に危機感を覚えつつ召喚されたのは先程モクバが手札に加えた白い縁の深い青色のコートを纏った少年剣士。

 

 その少年剣士の小柄な体躯の半分以上ある巨大な剣を肩に担ぎ、《正義の味方 カイバーマン》の隣に降り立った。

 

《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》

星3 光属性 戦士族

攻1000 守1000

 

 そんな《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》の姿にふぅん、と鼻を鳴らす《正義の味方 カイバーマン》の姿を余所に神崎はモクバのデッキへの考察を続ける。

 

――攻撃力の高い《カオスエンドマスター》ではなく、《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》を召喚したとなると……あのカードか。

 

 《カオスエンドマスター》を召喚しなかったモクバの選択から自ずと手札の1枚に想像が付く。

 

「バトルだぜい! カイバーマン! サイレント・ソードマン! 神崎の5体の『クリボートークン』の内の2体に攻撃だ! 行っけー!」

 

 しかし、神崎にデッキを探られているとは夢にも思っていないモクバは『クリボートークン』を少しでも減らすべく果敢に攻める。

 

 2体の戦士――いや、正義の味方によって切り伏せられる2体の『クリボートークン』の姿と断末魔に残った3体の『クリボトークン』は身を寄せ合い身体を恐怖で震わせていた。

 

「よっし、これで2体減った! バトルを終了するぜい!」

 

 モクバのバトル終了の宣言に露骨に安堵の息を吐く3体の『クリボートークン』。

 

「そして墓地の《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》を除外して効果発動! デッキから『ファントム』魔法・罠カード1枚を手札に加えるぜい!」

 

 相乗りした車から《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》はモクバに1枚のカードを飛ばす。

 

「俺は罠カード《幻影翼(ファントム・ウィング)》を手札に!」

 

「速攻魔法《相乗り》の効果でカードを1枚ドロー」

 

 その《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》が《相乗り》する車がエンジン音を響かせる。

 

 その度に増えていく神崎の手札に焦りを募らせるモクバ。

 

「うっ、なら魔法カード《マジック・プランター》を発動だ! 永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》を墓地に送って2枚ドロー!」

 

 《正義の味方 カイバーマン》が持つ紫の水晶のような剣、永続罠《幻影剣(ファントム・ソード)》が砕け散り、その欠片がモクバの手元に集まっていった。

 

「《正義の味方 カイバーマン》の攻撃力は元に戻るぜい」

 

 剣を1本失った《正義の味方 カイバーマン》だが、変わらず《ライトイレイザー》をブォンブォンさせている。

 

《正義の味方 カイバーマン》

攻1000 → 攻200

 

「俺は最後にカードを2枚セットしてターンエンドだぜい!」

 

 ターンの終わりと共に悪魔の運転する車に《相乗り》したモンスターが走り去っていく。

 

 《正義の味方 カイバーマン》の攻撃力を下げてでも次のターンに備えたモクバ――

 

 ゆえにキッチリと迎撃の準備は出来ているとばかりに「へへん」と鼻を鳴らす。

 

 

 とはいえ、神崎からすればモクバの動きは素直過ぎる為、狙いが筒抜けだが。

 

「私のターン、ドロー」

 

「待ちな、神崎! そのドローフェイズに、俺は永続罠《(あけ)(よい)の逆転》の効果を使うぜ!」

 

 神崎がドローフェイズですぐさま動いたモクバは手札の1枚のカードを墓地に送る。

 

「手札のレベル3の『光属性』の戦士族、《カオスエンドマスター》を墓地に送って、デッキから同じレベル3で反対の属性の『闇属性』の戦士族、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》を手札に加える!」

 

 それは前のターンに手札に加えていた《カオスエンドマスター》。

 

 やがて《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》がボロボロローブを揺らしながらモクバの手札に吸い込まれて行く、

 

「ではスタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」

 

 そんなモクバのモンスターたちの動きを眺めつつ神崎は自身の手札に再度視線を向け――

 

――セットカードの1枚は《幻影翼(ファントム・ウィング)》で確定。さて、どう躱すか……

 

 モクバの布陣を崩す方法に思案を巡らせる。

 

――此処は思い切って動くか。

 

 だが神崎の今の手札で取れる手はそう多くなかった。

 

「速攻魔法《機雷化》を発動。私のフィールドの《クリボー》及び『クリボートークン』を全て破壊。その後、破壊した後と同じ数まで相手フィールドのカードを破壊します」

 

 自分たちの末路を宣告された3体の『クリボートークン』がギョッとした表情で神崎の方を振り返るが――

 

「へっへーん、でも罠カード《幻影翼(ファントム・ウィング)》があれば俺のモンスター1体は破壊できねぇぜい!」

 

 そんなモクバの声に意識を向けた神崎にはその『クリボートークン』たちの視線は届いていない――時には諦めも肝心だ。

 

「さぁ、神崎はどのカードを破壊するんだ?」

 

 そう言いながら神崎の動きを待つモクバだが、神崎も過去に通った「初心者あるある」に言葉を濁す――ハッキリ言うべきなのか否かと。

 

「…………モクバ様。速攻魔法《機雷化》が破壊対象を決めるのは、効果の適用がなされた後ですので、今このタイミングでチェーンしなければモクバ様のモンスターは破壊されてしまいますが」

 

 そうおずおずと速攻魔法《機雷化》の「対象に取らない」特性を説明していく神崎。

 

 これはザックリ言えば「カードの発動時に選択するか、効果の適用時に選択するか」の違いである――大変ややこしい。

 

 早い話が、今モクバがカードを発動しなければ大事な《正義の味方 カイバーマン》が爆散するという話だ。

 

「…………えぇっ!? えっと、じゃぁチェーンして罠カード《幻影翼(ファントム・ウィング)》を《正義の味方 カイバーマン》を対象にして発動して――」

 

 しばしの沈黙の後、理解に至ったモクバは慌てて《正義の味方 カイバーマン》を守るべくセットカードを発動させる。

 

「もう1回、チェーンして速攻魔法《イージーチューニング》を墓地のチューナーモンスター《カオスエンドマスター》を除外して、《正義の味方 カイバーマン》を対象に発動するぜい!」

 

 さらにどうせ破壊されてしまうのならと、最後のセットカードも発動させた――しかしそれによって神崎がブラフを踏む心配がなくなったが。

 

「チェーンの逆処理だから……速攻魔法《イージーチューニング》の効果からだ! 除外したチューナーモンスター《カオスエンドマスター》の元々の攻撃力――1500分、《正義の味方 カイバーマン》の攻撃力をアップ!」

 

 そのモクバの声に《正義の味方 カイバーマン》に向けて天へと消えていく《カオスエンドマスター》から光が降り注ぐ。

 

 やがてその光を浴びた《正義の味方 カイバーマン》は白いオーラを滾らせながら溢れ出る力に高笑う。

 

《正義の味方 カイバーマン》

攻200 → 攻1700

 

「次は――罠カード《幻影翼(ファントム・ウィング)》の効果だな! これで《正義の味方 カイバーマン》の攻撃力は500アップし、このターンの間だけ、戦闘・効果で1度だけ破壊されないぜい!」

 

 さらに影から飛翔した黒い翼が《正義の味方 カイバーマン》の背に装着され、漆黒の翼を広げ、空を舞う《正義の味方 カイバーマン》――すごく強そう。

 

《正義の味方 カイバーマン》

攻1700 → 攻2200

 

「では速攻魔法《機雷化》の効果で私のフィールドの3体の『クリボートークン』を破壊し、破壊した数――3枚、モクバ様のフィールドのカードを破壊させて頂きます」

 

 3体の『クリボートークン』が覚悟を決めたのかキッと目を鋭くし、モクバのフィールドへと駆け、ターゲットにしがみ付く。

 

「《サイレント・ソードマン LV(レベル)3》・装備魔法《ライトイレイザー》・永続魔法《レベル制限B地区》を破壊」

 

 やがてターゲットにしがみ付いた『クリボートークン』は爆発し、

 

 モクバの背後の神殿を砕き、

 

 少年剣士とあの世へのランデブーを敢行し、

 

 《正義の味方 カイバーマン》が持つ光の剣を破壊した。

 

「うわっ!? くっそー! サイレント・ソードマンが!?」

 

 咄嗟に《ライトイレイザー》を離し、爆発の衝撃を避けてモクバと同じように顔を覆う《正義の味方 カイバーマン》。

 

 そんな中でモクバは思案する。

 

――てっきり永続罠《(あけ)(よい)の逆転》を破壊すると思ってたのに想定外だぜい……でも何でだろう?

 

 神崎のデッキの動きはクリボーたち低レベルモンスターを主軸にしたものの為、永続魔法《レベル制限B地区》は破壊する旨味があまりないカードだ。

 

 それに対し、永続罠《(あけ)(よい)の逆転》はモクバの手札を充実させうるカード。

 

 にも拘らず前者を破壊した神崎の動きに疑問を浮かべるモクバだが、神崎の動きは淀みない。

 

「《ジャンクリボー》を通常召喚します」

 

 次なる『クリボー』一族は金属の球体に青い前後に並ぶ2本角と尖った2本の足、そしてネジのような尻尾を持ち、頭から奔る黄色いラインが右目を通っていた。

 

 その身体は今までの毛玉のようなクリボーとは違い、金属質な身体を持っている。

 

 しかし、その瞳は強い意志を感じさせるように鋭い――世界でも救いそうだ。

 

《ジャンクリボー》

星1 地属性 機械族

攻 300 守 200

 

「そして永続魔法《ウィルスメール》の効果を攻撃表示の《ジャンクリボー》に与え、直接攻撃権を付与」

 

 《ジャンクリボー》の背中にドクロのメールが張り付き――

 

「バトルフェイズへ。《ジャンクリボー》でモクバ様に直接攻撃です」

 

 やがてスピードの先を超え、光をも超えた速度を出した風にモクバに激突する《ジャンクリボー》。

 

 これこそがスピードの極地。

 

「うわわっ!」

 

モクバLP:3000 → 2000

 

「これでバトルフェイズは終了です。そしてこの瞬間に永続魔法《ウィルスメール》の効果を受けた《ジャンクリボー》は墓地に送られます」

 

 風となった《ジャンクリボー》は身体が崩れるも、満足気な表情で消えていった。

 

「メインフェイズ2へ移行して――カードを2枚セットしてターンエンドです」

 

 変わらず笑顔でターンを終えた神崎と、警戒を強めるモクバ。

 

 そしてそれに合わせるようにフィールドの《正義の味方 カイバーマン》と墓地のクリボー軍団の闘志が激しくぶつかり合う。

 

 まさに互いに譲らぬ壮絶なバトルはまだまだ始まったばかりである。

 

 






今作のモクバデッキは――

「兄サマ――もといカイバーマンは最強なんだぜい!」デッキ

コンセプトは《正義の味方 カイバーマン》でひたすら殴る。

早い話が「光・闇属性が多めのレベル3戦士族ロックビート」

とはいえ、永続罠《(あけ)(よい)の逆転》と「幻影騎士団(ファントム・ナイツ)」での手札交換は光属性・戦士族であれば何でもいいので、

《正義の味方 カイバーマン》じゃない基礎火力高めのモンスターの方が動き易(此処からは血で汚れていて読めない)



神崎のKC登録デッキは見ての通り、「クリボー軍団デッキ」

コンセプトはモクバのデッキと似ており、
オールスターな「クリボー軍団」でひたすら素材など甘えと言わんばかりに戦う

厳密には『クリボー』ではない《クリボン》・《クリボルト》・《クリフォトン》なども採用するのが愛。
(なお現段階では《クリボルト》・《クリフォトン》などは入手出来ていない模様)

なお遊戯王ワールドにおける《クリフォトン》の入手難度(白目)


最終的には《リンクリボー》を含む全クリボーをデッキに投入し、真のオールスターとなるべく
頑張ってVRAINS編まで生き延びるんだ、神崎!

えっ? 《屋根裏の物の怪》? ――ヤツはクリボーではない(無言の腹パン)



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