前回のあらすじ
モクバ「ごめんな、カイバーマン……俺がちゃんとしてればクリボー達みたいに活躍させて上げられたのに……」
カイバーマン「フハハハハハハハ!!」
ギース「我々が手を差し伸べる側になればいい!(なお当の本人のデュエルの実力は並)」
パラドックス「その程度の力で世界を救えると思うなッ!! 力なき理想に意味はない!!」
肉塊「この世界では実は我々は双子だったんだよ!!(なお生まれたのは1人)」
神崎「な、なんだってー!?」
といった三者三様の発見がありました(小並感)
白い巨大なバイクが変形して宙に浮かび、その上でデュエルディスクから5枚の初期手札を引いたパラドックスを地上から見上げる神崎はこのままデュエルを続ければ首が痛くなりそうだと場違いなことを考えていた。
そこに先程パラドックスから語られた自身の過去を気にした様子はない。
そんな緊張感のない神崎を余所に先攻のパラドックスはデッキに手をかける。
「私の先攻だ。ドロー! まずはフィールド魔法――罪深き世界、《
やがて1枚の手札が発動され、互いのデュエリストを怪しげな光を放つビル群が覆っていく。
「私のデッキはあらゆる時代から最強カードを集めた別次元の領域。その力の前に消えるがいい!」
そう高らかに語るパラドックスを余所に、神崎はフィールド魔法《
弱点を突くデッキが武器の神崎にとって、事前情報に誤りがない事実は非常に重要だ。
「私はエクストラデッキから『シンクロモンスター』である《スターダスト・ドラゴン》を除外することで、手札のこのカードを特殊召喚する!」
パラドックスの言葉と共に白い流線型のドラゴンがフィールドに降り立つ。
「現れろ、《
だがその白いドラゴンに黒と白の鎧のような装甲が翼と身体、そして膝に装着され、左右が黒と白で別れた仮面が装着された。
《
星8 闇属性 ドラゴン族
攻2500 守2000
これが、元となるモンスターをSin化させて戦うパラドックスの戦術の真骨頂。
「シンクロモンスター?」
神崎はシンクロの事実など知らない様相でとぼけつつ、パラドックスの「Sin」カードがOCG準拠であることを確信する。
――ギースのデュエルの記録と同じく効果はOCG版か。つまり「Sinモンスター」はフィールドに1体しか表側表示で存在できない……嬉しい結果だ。
パラドックスのカードパワーの低下に、幾分か戦いやすくなったと内心で息を吐く神崎。
「ふっ、直に死ぬ貴様は知らなくていいことだ」
シンクロを知らぬ神崎に対して、説明する義理はないと突っぱねるパラドックスを余所に神崎はポツリと零す。
「そうですか……しかし、大した消費もなくいきなり攻撃力2500のモンスターが呼び出されるとは……」
あくまで「知らない体」を崩さない神崎。
それで相手が自身を侮ってくれるなら御の字だと。
「フッ、これこそが対となるモンスターを糧に呼び出される『
そのパラドックスの言葉に《
「とはいえ、基本的には『
そう語り終えたパラドックスに「教えてくれるんだ」などと考える神崎を余所にパラドックスは己の手札全てをデュエルディスクにセットする。
「私は残りの手札4枚を全て伏せ、ターンエンド――さぁ、貴様の最期のデュエルを精々楽しむがいい」
手札の全てを使って神崎を殺しにかかるパラドックスの姿に神崎は警戒心と共に緊張しつつ、デッキからカードを引きぬく。
「ではそうさせて貰うよ――私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」
フェイズ確認を行いながら手札を眺める神崎だが、今の手札にパラドックスの4枚のリバースカードを除去する術はない。
「魔法カード《成金ゴブリン》を発動。私は手札を1枚ドローし、キミは1000のライフを回復する」
リッチな装いのゴブリンが神崎とパラドックスに金貨を落とす。
それは神崎には新たなカードとなり、パラドックスにはライフを癒す光となる。
パラドックスLP:4000 → 5000
そして神崎は引いたカードをそのままデュエルディスクに置き――
「相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札の《
神崎の声に空から大地に着地するのは藍色の全身甲冑で身を覆ったハルバードを持つ戦士。
その《
《
星4 地属性 戦士族
攻1800 守 200
「さらに《異次元の女戦士》を通常召喚」
そんな《
その光輝く剣を低く構えて、攻撃に備える。
《異次元の女戦士》
星4 光属性 戦士族
攻1500 守1600
「バトルフェイズへ。《異次元の女戦士》で《Sin スターダスト・ドラゴン》を攻撃します」
攻撃力の差などお構いなしに《異次元の女戦士》は光る剣を《Sin スターダスト・ドラゴン》に向けて投擲しようとするが――
「ふっ、効果による除外が狙いか――なら罠カード発動!」
《異次元の女戦士》のバトルしたモンスターを自身と共に除外する効果を知るパラドックスは待ったをかける。
――さすがにそうすんなり通してはくれないか。
神崎は胸中で相手の罠の傾向をしれれば御の字とばかりにパラドックスの発動する罠カードを見守るが――
「《マジカルシルクハット》!!」
――《マジカルシルクハット》!?
発動されたカードは些か神崎の予想を裏切るもの――なんともパラドックスらしくないカードだ。
――いや、Sinモンスターを複数体並べる為なら理解できる。ギースとのデュエルで見せた《スキルドレイン》はこの為の採用と考えるのが自然か。
しかし意外性を除けば神崎にも何故そのカードが採用されたのかは理解できた。
「私はその効果でデッキの魔法・罠カードをモンスター扱いでフィールドに2枚セットし、《Sin スターダスト・ドラゴン》を裏側守備表示にして3枚の位置をシャッフル!!」
《Sin スターダスト・ドラゴン》の姿がシルクハットに隠され、そのシルクハットが3つに増えて忙しくフィールドを動き回る。
――シルクハットになる前に一瞬見えたカードは《呪われた棺》と《
《マジカルシルクハット》の効果によってモンスター扱いとなった魔法・罠カードからパラドックスのデッキの方向性を探っていく神崎。
――となれば速攻魔法をサーチする《
今現在の仮説は何とも強引なデッキというイメージだが、それを成すのがパラドックス程のデュエリストなら唯々脅威だ。
光剣を振りかぶったまま攻撃するか否かの決断を待つ《異次元の女戦士》を尻目に神崎は――
――動けるうちに1体でも多く除去すべきか。
攻撃の続行を選択する。
「《異次元の女戦士》で中央のセットモンスターに攻撃」
神崎の声に全身のバネを使いシルクハットの1つに向けて《異次元の女戦士》は光剣を投擲した。
貫かれるシルクハットが煙のように消えていく。その中身は――
「攻撃したか――だが、その選択は大いなる間違いだ! 貴様が破壊し墓地に送った《
何やら暴走しかけな魔法の機械に光剣が突き刺さり、止めとなったようで爆発四散。
しかし破壊されたときこそ本骨頂と言わんばかりに機械の破片の一つがパラドックスの手元に飛んでいく。
「私はデッキから速攻魔法《手札断殺》を手札に加える!」
そのカードは互いのプレイヤーの手札交換を可能とするカード。
――デッキの全容が見えてきたな……Sinモンスターが並ぶのも面倒だ。多少のダメージは必要経費と割り切ろう。
パラドックスの使用した《
「《
ハルバードを地面に突き刺し、それを足場として跳躍した《
真っ二つに切り裂かれたシルクハットの中身は――
「残念だったな――其方もハズレだ」
《Sin スターダスト・ドラゴン》ではなく、古代の王が眠る黄金の棺――罠カード《呪われた棺》。
《Sin スターダスト・ドラゴン》には届かないとパラドックスはニヤリと笑う。
「そうでもないさ」
だが宙で身体を捻った《
パラドックスLP:5000 → 3200
「ぐっ!! 貫通効果か……」
「ご名答。《
実際のダメージとなって襲う衝撃に苦痛の声を上げるパラドックスの言葉を肯定する神崎はそれだけではないと続ける。
「そして戦闘ダメージを与えた《
地面に膝を突きながら着地した《
「私は《
やがて神崎の手札に馳せ参じたのは銀と白の武者鎧に身を包んだ薙刀を持った戦士。しかしその背には薙刀だけに留まらず、数多の刃のある武器を背負っていた。
「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ――魔法カード《一時休戦》を発動し、互いに1枚ドロー。そして次のターンの終わりまであらゆるダメージが0に」
そんな手札の質の向上と、守りの為に発動したカードに対し、パラドックスのリバースカードは牙を剥く。
「貴様がドローフェイズ以外でドローしたことで、私は永続罠《便乗》を発動する。これ以降、貴様がドローフェイズ以外でドローする度に私は2枚のカードをドローする――精々、気を付けることだ」
パラドックスに発動された永続罠《便乗》を視界に収めつつ、神崎は内心で息を吐く。
――此方の1ターン目でこれか……早めに除去したいが、今の手札に除去札は…………ない。
神崎は己のドロー力の低さを補うべくドローカードを豊富に採用する傾向がある為、神崎のドローに反応してパラドックスの手札を増やす永続罠《便乗》は厄介なことこの上なかった。
とはいえ、ギースのデュエル記録からパラドックスが《便乗》を使うと知っていても、ドローカードを大して減らさない辺りに手札事故を恐れる神崎の臆病さが見える。
「……カードを4枚セットしてターンエンドです」
《
――歴代主人公3人を同時に相手取る程の実力を持つパラドックス相手に出し惜しみは自殺行為……とはいえ、何処まで食い下がれるか……
相手は今まで以上の難敵。本来であれば神崎が挑むべきではない程に実力差が離れている相手だ。
しかし神崎は戦わねばならない。それは世界の為――ではない。
先の世界の危機に己が生き残れるだけの強さを手に入れる為に。
そんな神崎の秘めた意思を感じたのかパラドックスの瞳に鋭さが増す。
「ならば私のターン! そしてドローフェイズにフィールド魔法《
周囲の怪しげな光を放つビル群が揺らめく。
「通常ドローを行う代わりに私のデッキの『Sin』と名の付くカード3枚を選択し、貴様はその3枚の内の1枚をランダムに選ぶ――そして選んだカードを私の手札に加え、残りをデッキに戻してシャッフルする」
その宣言と共にパラドックスのデッキから3枚の「Sin」カードが飛び出し、パラドックスの背後にソリッドビジョンとして浮かぶ。
「私はこの3枚の『Sin』カードを選ぶ――さぁ、貴様も選ぶがいい! 運命の選択を!」
「では真ん中のカードを」
大して悩む素振りも見せず選んだ神崎――とはいえ、どのみち3枚とも全てSinモンスター。何が呼ばれるか程度の違いしかない。
「私はデッキの《
空から裏側守備表示の《Sin スターダスト・ドラゴン》の隣に舞うのは黒き竜、《
やがて先のターンと同じように黒と白の装甲と仮面が取り付けられ、Sin化されていく。
《
星7 闇属性 ドラゴン族
攻2400 守2000
その悲痛な声を上げる黒き竜の姿を視界に収める神崎にはその《
精霊の知覚による思わぬ恩恵だが、神崎にはその意をくみ取ってやることは出来ない。
「ではその特殊召喚に対して罠カード《奈落の落とし穴》を発動します。効果により召喚・反転召喚・特殊召喚したモンスターを破壊し、除外です」
ゆえにせめて不本意な形で使われることを止めるべく、リバースカードを発動する。
奈落への穴が開き、緑の体色の亡者が腕を伸ばす。
「させん! カウンター罠《魔宮の賄賂》! 相手の発動した魔法・罠カードを無効にして破壊!! そして貴様は1枚カードをドローする――さぁ、遠慮せずに引くがいい!」
だがその腕は御代官が投げ打った小判に弾かれ、空を切った。
「……ドロー」
「そして貴様がドローフェイズ以外でドローしたことで永続罠《便乗》の効果で私は2枚のカードを新たにドロー!!」
そして小判が神崎のドローとなった瞬間にパラドックスのドローブースト、永続罠《便乗》の効果によりパラドックスの手札が一気に増える。
「さらに手札から速攻魔法《手札断殺》を発動! 互いは手札を2枚捨て、新たに2枚のカードをドロー!」
2枚のカードを捨て、新たに2枚ドローするパラドックスに倣い、神崎も折角舞い込んだ魔法・罠を除去するカードを墓地に送る羽目になりつつ、手札を交換するが――
「これにより貴様がドローフェイズ以外でドローしたことで永続罠《便乗》の効果が発動し、私は更に2枚ドロー!」
当然、永続罠《便乗》の効果でパラドックスの手札は増強される――マズい流れだ。
「行けっ! 《
《
だが《
「攻撃宣言時に永続罠《死力のタッグ・チェンジ》を発動します」
「そのカードで後続に繋ごうと言うのか!」
神崎の発動したカードにそう予測を立てるパラドックスだが、神崎は更なるリバースカードを発動させる。
「いえ、保険です――チェーンして罠カード《次元幽閉》を発動。攻撃モンスターを除外します」
黒き炎の砲弾を《
「だが甘い! チェーンしてリバースカードオープン! 速攻魔法《
しかしそれよりも先に太陽の光が遮られ、モンスターたちの警戒心を煽る。
「これによりフィールドの全てのモンスターは裏側守備表示に! よって貴様の《次元幽閉》は対象を失い不発だ!!」
やがてパラドックスの《
神崎の《
「そしてバトルを終了し、魔法カード《一時休戦》を発動! 互いは1枚ドローし、次のターンのエンドフェイズまでお互いはあらゆるダメージを受けない!」
パラドックスの怒涛のドローブーストは留まることを知らない。神崎もカードを1枚引く。
「貴様が新たにドローしたことで、永続罠《便乗》の効果が再び発動! 私は更に2枚ドロー!!」
神崎の側も手札の質を上げることは出来ているが、この状況を大きく打開する一手は舞い込まない。
確率の上では何枚か舞い込んでも良さそうではあるが、パラドックスとの実力の差がそれを阻害するかの如く、偏りが激しい。
そして当然、対するパラドックスの手札は言わずもがなである。
「此処で私はエクストラデッキの融合モンスター《サイバー・エンド・ドラゴン》を除外し、手札の《
裏側守備表示のモンスターたちの中に凱旋するのは銀に光る装甲を持つ機械のドラゴン。
その3つ首はそれぞれ違う形をしており、巨大な翼は突風を巻き起こす。
やがて《サイバー・エンド・ドラゴン》は他のSinモンスターと同じように黒と白の装甲が翼に付けられ、3つの頭それぞれに左右に白と黒に別れた仮面が装着された。
《
星10 闇属性 機械族
攻4000 守2800
「その特殊召喚に対し、2枚目の罠カード《奈落の落とし穴》を発動します。そのモンスターを破壊し、除外し――」
しかし再び奈落の穴から緑の亡者の腕が道連れを求めるように腕を伸ばすが――
「無駄だ! その効果にチェーンして手札から速攻魔法《月の書》を発動! これで《
月の魔力によって影へと潜った――裏側守備表示となった《
「またもや不発だ――残念だったな」
そう挑発気に神崎を見下ろすパラドックス。
「これはお手上げですね」
しかし神崎は乾いた笑いを返すことしか出来ない――全て躱されるとは思っていなかったようだ。
1つくらいは当たって欲しかったのだろう。
「その余裕もいつまで続くかな? 私はデッキの《
だがパラドックスは手を緩めるような真似はせず、《
《
星8 闇属性 ドラゴン族
攻3000 守2500
次々と呼び出されて行くSinモンスターに神崎は内心で驚愕を見せる。
――3枚が裏側守備表示とはいえ、Sinモンスターが4体揃うとはな……
フィールドに1体しか存在できないデメリットを持つというのに、4体も並ぶのはどういう了見だと。
だとしても、Sinモンスターがいるときには同じSinモンスターは反転召喚すら出来ない為、今現在そこまでの脅威はないが。
「カードを3枚セットし、ターンエンドだ!! そしてこのエンド時に発動済みの速攻魔法《
万全の耐性を常に維持し、ターンを終えたパラドックス。だが僅かながらに神崎には希望がある。
「さらに貴様はその数だけドローできるが――」
「表側になったモンスターは2枚――よって2枚ドローさせて頂きます。そして私がドローしたことで其方のフィールドの永続罠《便乗》の効果で貴方は更に2枚ドローできると」
パラドックスの発動した《
とはいえ、そのドローはパラドックスの手札増強に繋がるのだが。
「その通りだ! 永続罠《便乗》の効果で2枚ドロー!」
あれだけのカードを使ったパラドックスの手札が全く減る様子を見せない様に神崎は内心で焦りを募らせる。
一体、己はどこまで戦えるのかと。
「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」
しかし神崎はそんな考えをおくびにも出さず、変わらぬ態度でカードをドローする。
――とはいえ、相手の此方にドローさせるカードのお陰で手札の数は良し。数だけだが。
内心に焦りがあれど、手札は決して悪くない。良くもないが、悪くないだけで神崎にとっては大躍進である。
「《黒き森のウィッチ》を通常召喚」
紫の長髪を揺らしながら黒いローブに身を包む額の第三の眼のみを見開く魔術師がゆっくりと歩み出る。
《黒き森のウィッチ》
星4 闇属性 魔法使い族
攻1100 守1200
「《
ハルバードと光剣をそれぞれ構える戦士たち。
その瞳には例え強大な力を持つドラゴンたちが相手であっても怯まぬ闘志があった。
「バトルフェイズに移行させて貰うよ。そして《異次元の女戦士》で裏側守備表示の《Sin スターダスト・ドラゴン》を攻撃」
地を這うように駆け抜ける《異次元の女戦士》の光剣が裏側守備表示の《Sin スターダスト・ドラゴン》に迫るが――
「先程と同じ狙いか――だが既に手遅れだ! 永続罠《スキルドレイン》発動! 発動時にライフを1000払い、このカードが存在する限り、フィールドのモンスターの効果は無効となる!!」
パラドックスLP:3200 → 2200
ガクリと《異次元の女戦士》から力が抜ける――効果が封じられたゆえにこれでは《Sin スターダスト・ドラゴン》に光剣は届かない。
「これで貴様のモンスターの効果は発動することすら出来ん!!」
「さらに『Sinモンスター』のデメリットも無効にできると」
「その通りだ!」
パラドックスの言葉を肯定するように《異次元の女戦士》の光剣は《Sin スターダスト・ドラゴン》の身体に弾かれ、宙を舞い逆に神崎を襲った。
《
星8 闇属性 ドラゴン族
攻2500 守2000
「ですが貴方の発動した魔法カード《一時休戦》の効果によって私もこのターンの終わりまではダメージを受けません」
だがその光剣は見えない壁に弾かれて再度宙を舞い《異次元の女戦士》の手元に戻っていった。
――これ以上の攻撃は逆効果か……
これ以上の攻撃はSinモンスターの展開を助けるだけだと判断した神崎は残りの手札を見やる――これで何処まで相手の喉元に迫れるかと。
「私はバトルフェイズを終了し、カードを4枚セットしてターンエンドです」
出し惜しみなしに全てのカードを伏せた神崎。しかしその胸中には焦燥感が広がり続けている。
神崎にはパラドックスの底が見えない。
「私のターンだ! ドローフェイズにフィールド魔法《
Sinモンスターのデメリット効果など気にした様子もなくデッキを回し続けるパラドックス。
「通常ドローの代わりに3枚の『Sin』カードを私が選択し、その内の1枚をランダムに貴様が選ぶがいい!」
新たに表示される3枚のカードだが、神崎にはどれを選んでも結果が変わるようには思えなかった。
「では右端のカードを」
「そして私は――」
カードを手札に加えたパラドックスの動きに躊躇いはない。
デッキが十全に力を発揮しているのが神崎には見て取れた。
「お待ちを、貴方のドローフェイズに永続罠《暴君の威圧》を私のフィールドの《黒き森のウィッチ》をリリースして発動。これで私のモンスターは《暴君の威圧》以外の罠の効果を受けません」
しかし神崎も指をくわえて見ている訳にはいかない。
裸の王様に飛び蹴りをかまし、玉座に座った《黒き森のウィッチ》が消えていくと共に力を取り戻す《
「フィールドから《黒き森のウィッチ》が墓地に送られたことで、その効果によりデッキから守備力1500以下のモンスター1体――《異次元の戦士》を手札に」
その2人の戦士の姿を見届けた《黒き森のウィッチ》は1枚のカードを神崎に投げ渡し、王者の如く華麗に立ち去っていった。
「もっともこの効果で手札に加えたカード及び同名カードはこのターン使用できませんが」
神崎の狙いは手札に戦士族を加えることではない。
「フッ、私の永続罠《スキルドレイン》を躱すカードか――なら魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いは手札を全て捨て、捨てた分ドローする!」
パラドックスが発動するであろう、手札交換カードの恩恵を活用する為だ。
手札の《異次元の戦士》を墓地に送りつつ、新たにカードを手札に加える神崎だが劇的に状況を逆転するカードではなかった模様。
「そして貴様がドローしたことで永続罠《便乗》の効果により新たに2枚ドロー!」
しかし対するパラドックスのドローブーストに神崎のような心配事など通用しない。
「私は2枚目の魔法カード《暗黒界の取引》を発動! 互いは1枚ドローし、手札を1枚捨てる! そして私は永続罠《便乗》の効果で更に2枚ドロー!」
再び手札交換を繋げ、手札増強を図っていくパラドックスは引いた手札の1枚を見やりニヤリと笑う。
「此処で2枚目の速攻魔法《
発動された2枚目の《
――このタイミングで? 《死力のタッグ・チェンジ》の追加展開の効果を嫌ったのか? いや、まさか……
一見すれば複数表側表示で並べることが難しいSinモンスターを2体並べた成果をふいにするようなものだが、神崎の背に嫌な汗が流れる。
Sinモンスターの同族が居る際に反転召喚すら行えないデメリットは《スキルドレイン》によって効果を無効化されていても「なくならない」。
しかしその前提を覆す方法は存在する。
「私はデッキの《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外することで手札の《
虹色の輝きを放つ強大な力を感じさせる白きドラゴンが蛇のような長大な身体をしならせながら天使のような白い羽を羽ばたかせ、首元の7色に別れる宝玉を煌かせる。
だがそんな輝きも白き羽は白と黒の装甲に覆われ、黒と白の仮面がその顔を覆ってSin化させられる。
《
星10 闇属性 ドラゴン族
攻4000 守 0
「さぁ、今こそ揃うがいい! 罠カード《砂漠の光》を発動!! 私のフィールドのモンスターを全て表側守備表示にする!!」
隠れていた太陽が顔を出すと共に、パラドックスのSinモンスターたちは己が楔を解き放ち、今フィールドに並び立つ。
紅き瞳を持つ黒き竜が、
《
星7 闇属性 ドラゴン族
攻2400 守2000
星屑の輝きを持つドラゴンが、
《
星8 闇属性 ドラゴン族
攻2500 守2000
青い瞳を持つ白き竜が、
《
星8 闇属性 ドラゴン族
攻3000 守2500
3つ首の巨大な機械竜が、
《
星10 闇属性 機械族
攻4000 守2800
5体のSin化したドラゴンたちがパラドックスのフィールドにて翼を丸め、守備表示で佇む。
「そして墓地の《
すぐさま5体のSinモンスターたちが翼を広げ、咆哮を放つ。
《
《
《
《
《
圧倒的な盤面に神崎は言葉が出ないが、頭を回すことだけは止めはしない。
――フィールドに1体しか存在できないSinモンスターが5体も並ぶとは……
例え、それが無意味な感嘆の声を上げることであっても、考えることを止めた先にあるのは敗北という名の「死」だけだ。
「バトルだ!!」
パラドックスの宣言に5体の罪深きドラゴンたちが神崎を殺さんと、牙を剥いた。
彼我の戦力差の隔たりは大きい。
5体のOCGのSinモンスターを並べることが出来て満足だぜ……
ちなみに神崎のデッキは戦士族に寄せた「次元斬」――強そうな名前ですが、火力勝負は苦手。
除去主体で戦うデッキ。
ちなみに対パラドックス用にと魔法・罠を除去するカードが沢山入っているが未だに手札に残らない。