マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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ネタバレを恐れるなッ!――ってばっちゃが言ってた



前回のあらすじ
次元(を渡り集まった原作主人公にパラドックスを)斬(り捨てて貰う) VS 罪―Sin


神崎の過去の一端? あーはいはい、あれね――えっ? 分かっていますよ。あれでしょ、あれ。



第133話 歪んだ世界

 

 

 怒りに彩られた瞳で今にも倒れそうな神崎を射抜くパラドックスの背後に翼を広げる5体の強力なドラゴンたち。

 

 

 ()()()()()がどちらに駆け寄るかなど自明の理だった。

 

「神崎さん!!」

 

 その悲痛な遊戯の叫びが木霊する。

 

 

 だが何故、遊戯・十代・遊星の本来であれば異なる時間軸に存在する3人が同じ時間軸に存在するのかを説明せねばなるまい。

 

 

 それには時計の針を神崎がデュエルを始める前まで戻す必要がある。

 

 

 いや、この場合は時計の針を「()()()」と言った方が正確かもしれない。

 

 

 

 

 今現在のDMの時代より先の時代、GX時代を越えた時代にて、ヴェネツィアのサンマルコ広場で暴れる2体のドラゴンの姿があった。

 

 その2体のドラゴンは神崎とのデュエルにてパラドックスが使用していたモンスター《サイバー・エンド・ドラゴン》と《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》。

 

 そんな2体のドラゴンが暴れ、美しい街並みを炎が猛る地獄へと変えながら1人佇むのはパラドックス。

 

「ふむ、サイバーエンドを含め、必要なカードは手に入った――後は計画を進めるのみ」

 

 そう一人ごちるパラドックスは仮面の奥で覚悟の火を灯す。

 

「待てッ!」

 

遊城(ゆうき) 十代(じゅうだい)

 

 だが突如として乱入した()と赤の入り混じった上着を羽織った何処かクラゲのような髪型の青年が駆けつける。

 

 その正体はパラドックスが呟いた通り、遊戯王GXの主人公、「遊城(ゆうき) 十代(じゅうだい)」。

 

「カイザーと、ヨハンのカード! 返してもらうぜ!」

 

 十代の言葉通り、パラドックスの背後に浮かぶ2体のドラゴンは十代の先輩こと丸藤 亮――通称、カイザーの相棒たるカード《サイバー・エンド・ドラゴン》と友人ヨハンの切り札《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》をパラドックスが奪ったもの。

 

 

 そんな仲間の奪われたカードを取り戻すべく、パラドックスに対峙する十代だが――

 

「フッ、悪いがキミに構っている暇はない」

 

 パラドックスはこれが答えと言わんばかりに《サイバー・エンド・ドラゴン》へ指示を出し、その3つ首から十代に向けてブレスが放たれた。

 

「うぉっ――と!! 危ねぇ、危ねぇ!」

 

 しかし十代は咄嗟に横に飛び《サイバー・エンド・ドラゴン》の3つのブレスを回避する。

 

 だがその回避した先で十代が目にしたのは《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》が口に虹色のブレスをチャージしている姿。

 

「やべっ!?」

 

 ピンチだと冷や汗を流す十代に構わず、《Sin レインボー・ドラゴン》から虹色のビームの如きブレスが放たれた。

 

 

 しかしそのブレスは十代の少し前で不自然に拡散し、十代の身には届かない。

 

『怪我はないかい十代』

 

 ブレスを止めたのは左右の眼が緑と橙であり、額に赤い三つ目の眼を持つ紫と黒の肌を持つ翼の生えた人型の精霊、《ユベル》。

 

 その左右に青色と灰色で違う髪を揺らしながら十代を心配気に振り返るが、十代に目立った怪我はない。

 

「助かったぜ、ユベル! お前こそ大丈夫か!」

 

『おいおい、ボクの力を忘れたのかい? このくらいの攻撃どうってことないさ』

 

 十代が己の身を案じてくれた事実を嬉しく思いながらも強気に笑みを浮かべるユベル。

 

 《ユベル》のカードはその効果の中に「戦闘では破壊されない」力を持つ、ゆえに大丈夫だと語るユベルだが――

 

「だからって痛くない訳じゃないだろ!」

 

『十代……』

 

 十代の心配気な表情にユベルはウットリとした表情で愛する十代の名を零すが、そんな2人だけの空間を切り裂くように《サイバー・エンド・ドラゴン》のブレスが再度放たれた。

 

 

 そのブレスが着弾した先は全てが消し飛んでおり、跡形もない。

 

 

 しかし頭上から声が響く。

 

『おっと、空気の読めないドラゴンだ――でもカイザーも恋愛事には鈍かったし、そういうところはよく似ているじゃないか』

 

 その先には十代の両脇を抱えて空を飛ぶユベルの姿。

 

 やがて十分に距離を取ってからユベルは名残惜しそうに十代を地上に降ろし、状況を確認するように語り掛ける。

 

『十代、2人のカードを奪ったのは彼の仕業みたいだね――デッキから途方もないエネルギーを感じる。油断できない強敵だ』

 

 だがそんな2人に向けて新たな脅威が迫る。

 

「なんだ、この白いドラゴンは!?」

 

 その脅威は白と淡い水色のスリムな身体を持った正体不明のドラゴン。

 

 その正体不明のドラゴンが十代の逃げ場を塞ぐように空を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時代は移り変わる。

 

 GX時代よりもさらに先の5D’s時代の展望台のような個所にて、災害でもあったかのように所々崩れたネオ童実野シティを眺める蟹のような髪型をした男がこの世を憂うかのような面持ちでいた。

 

 男の名は遊戯王5D’sの主人公、「不動(ふどう) 遊星(ゆうせい)」。そんな遊星の背後から2人の人影が近づく。

 

「此処にいたのか」

 

「探したぜ、遊星」

 

「ジャック、クロウ」

 

 遊星の元に向かう2人は――

 

 白いコートをはためかせる長身の逆立てた金髪の男、ジャック・アトラスと、

 

 ベストから肩を出した、バンダナで橙色の髪を箒のように上げている男、クロウ・ホーガン。

 

 そんな2人の内、クロウは遊星の隣に並び街の様子を眺めながらポツリと零す。

 

「しっかし、街は復興で色々大変そうだな」

 

 そしてそれに続く形で並んだジャックは握った己の拳を視界に入れながら街が破壊された原因に向けて苦悩の声を漏らす。

 

「『機皇帝』……恐るべき相手だった……」

 

「ああ、俺たちの力がまるで通じなかった……赤き龍の力――《セイヴァー・スター・ドラゴン》がなければ、どうなっていたか正直分からない」

 

 ジャックの言葉に遊星は服の腕をまくり、右腕の()()()のような痣を見ながら零す。

 

 

 機皇帝――それは巨大なロボットのようなモンスター群。

 

 共通効果として「シンクロモンスター」を装備カードとして吸収し、その力を攻撃力として奪う効果を持つカード。

 

 その効果はシンクロモンスターを主軸にして戦う遊星の時代のデュエリストたちにとって大きな脅威だった。

 

 さらに脅威はそれだけではなく、ソリッドビジョンである筈の攻撃が実際の衝撃となってデュエリストと周囲に降り注ぎ、ネオ童実野シティは大きな打撃を受けている。

 

 

 辛うじて遊星たちが機皇帝を撃退し、死者や重傷者こそ出なかったものの破壊の傷跡が残る街を見た遊星は無力感に苛まれていた。

 

「此処まで被害の出た街を見て俺は思う――『このままでいいのか』と」

 

 遊星には確信がある――この一件はまだ何も終わっていないのだと。

 

 しかしそんな焦る遊星に向けてクロウが大きく息を吐いた。

 

「ハァ、遊星……お前は一人で背負いこみすぎなんだよ。機皇帝を止めた功労者ってことで休暇貰えたんだから今は身体を休めるのが先決だろ?」

 

 機皇帝との熾烈を極めるデュエルを乗り越えたばかりだというのに、我が身を顧みないような遊星に苦言を漏らすクロウ。

 

 その苦言にジャックも同調する。

 

「クロウの言う通りだ。まずはいざという時の為に万全のコンディションを整えておくことを考えるべきだろう」

 

「だが、ヤツら(機皇帝)はモーメントに導かれるように現れた……父さんの作ったモーメントから」

 

 しかし遊星はジッとしていると余計に考えてしまう。

 

 機皇帝の目的は分からず、突然発生したと言わんばかりの現れ方。さらにはI2社に問い合わせても全くの未知のカードを使っていた事実。

 

 謎ばかりだ。

 

 

 なまじ専門的な知識に深い理解がある遊星は考え続けるが、デュエル一辺倒のジャックはスパッと言い放つ。

 

「だとしても、セキュリティからの機皇帝の残骸の調査結果が出るまではどうにも出来んだろう! お前が気を揉んでもどうしようもあるまい!」

 

 難しいことは分かる人間に任せておけとバッサリと遊星の悩みを両断するジャックの姿にクロウはジャックの背を叩く。

 

「偶には良い事いうじゃねぇか!」

 

「なにを!?」

 

 基本的に俺様全開のジャックのいたわりの言葉に意外だと笑うクロウにジャックは噛みつくが――

 

「遊星、デュエルに行こうぜ! 街のみんなもお前の顔を見りゃあ安心できるだろうからよ」

 

 それをスルリと躱したクロウはDホイールを指さし、バイクに乗って行うデュエル――ライディングデュエルを提案する。

 

「フッ、そうだな――こんなときこそデュエルだ」

 

「スカッとしようぜ」

 

「ああ!」

 

 首を縦にふるジャックに親指を立てるクロウ――その2人の仲間の姿に遊星は嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 風を切ってデュエルを行えるバイク――D・ホイールをハイウェイで走らせる3人。

 

 その中の赤い流線形のD・ホイール「遊星号」に乗る遊星は力強く宣言する。

 

「俺はどんなことがあっても、この街を守ってみせる!」

 

 風を切ってD・ホイールを走らせたゆえか遊星の気分も上向いていた。

 

 

 しかしそんな遊星たちの背後から白を基調としたカラーリングの直列3輪の巨大なバイク――D・ホイールが迫る。

 

 

 そのD・ホイールが遊星を挑発するように迫る姿からジャックは1つの大きなタイヤの中央に操縦席を取り付けたD・ホイール「ホイール・オブ・フォーチュン」を巧みに操縦し、背後を振り返る。

 

「俺たちに勝負を挑むとはいい度胸だ」

 

 ネオ童実野シティにてかなり名が売れている遊星たち相手に臆さず挑戦を挑んできた相手の闘志を称えるように笑みを浮かべるジャック。

 

 だがそんなジャックに並走する後輪側部に翼がついたD・ホイール「ブラックバード」を操るクロウが遊星に向けて親指を立てる。

 

「お前をご指名のようだぜ、遊星!」

 

「なら受けて立つ! ライディングデュエル! アクセラレーション!!」

 

 やがて遊星のその言葉を合図に白い巨大なD・ホイールに乗るパラドックスとのデュエルが幕を開けた。

 

――不動 遊星とクロウ・ホーガンの顔にマーカー(前科者の証)がない?

 

 そんなパラドックスの不信感だけを置き去りにしながら。

 

 

 

 

 そしてデュエルが始まり、遊星のフィールドに橙色のアーマーを装着した眼鏡をかけたロボットの戦士が遊星のD・ホイールと並走するように宙を飛び――

 

《ジャンク・シンクロン》

星3 闇属性 戦士族

攻1300 守 500

 

 その隣を青い装甲の機械仕掛けの戦士が背中のブースターを吹かせながら遊星の隣を飛ぶ。

 

《ジャンク・ウォリアー》

星5 闇属性 戦士族

攻2300 守1300

 

「レベル3のチューナーモンスター、《ジャンク・シンクロン》にレベル5、《ジャンク・ウォリアー》をチューニング!!」

 

 やがて《ジャンク・シンクロン》が3つの光の輪になり、《ジャンク・ウォリアー》が5つの光る星となる。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ!」

 

 そこから3つの光の輪を潜った5つの光る星は輝きを増し――

 

「シンクロ召喚! 飛翔せよ! 《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

 遊星の相棒たる水色のラインが奔る白い身体のドラゴン、《スターダスト・ドラゴン》が翼を広げ、D・ホイールに跨る遊星の隣で羽ばたいた。

 

《スターダスト・ドラゴン》

星8 風属性 ドラゴン族

攻2500 守2000

 

 しかしその瞬間、パラドックスの手から1枚のカードが示される。そのカードは――

 

「なにッ!? 白紙のカードだと?」

 

 驚きの声を上げる遊星の言う通り、白紙のカード。

 

 そしてその白紙のカードから大量のカードが《スターダスト・ドラゴン》を捕らえる網のように展開され、白紙のカードに引きずり込んでいく。

 

 やがて白紙のカードに《スターダスト・ドラゴン》が封じ込められ、遊星の《スターダスト・ドラゴン》のカードが逆に白紙になっていた。

 

 

 そんなまるで意味の分からない状況に観客としてD・ホイールで並走していたジャックはあり得ないものを見たように呟く。

 

「バカな、《スターダスト・ドラゴン》が……」

 

「不動 遊星――お前のスターダストは頂いていく」

 

 しかしその下手人、パラドックスは気に留めた様子もなく、《スターダスト・ドラゴン》を封じ込めたカードを懐に仕舞い、この場を後にする。

 

 

 

 

 

 いや、後にする筈だった。

 

「そうはさせられねぇなァ!!」

 

 そんな声と共に白と青を基調としたD・ホイールが上側の道路から飛び出し、パラドックスに襲い掛かる。

 

「貴様は!?」

 

 そのD・ホイールに描かれた死神のマークと「Satisfaction(サティスファクション)」の文字がギラリと鈍く光る。

 

 そのD・ホイールに乗るのは――

 

「ヒャーッハッハッハッハッハッ!! 人様のカードを奪うような輩を逃がす訳にはいかねぇぜ!!」

 

 エキサイティングな様相で笑い声を上げる短く切りそろえた水色の髪に赤いシャツを着た青年が、腕を通しただけのセキュリティの革ジャンを風で揺らしながらパラドックスに追走。

 

鬼柳(きりゅう)……京介(きょうすけ)……!? 何故、貴様が此処に!?」

 

 パラドックスの言葉通り、その男の名は「鬼柳(きりゅう) 京介(きょうすけ)」。

 

 もの凄く悪役風に笑う鬼柳だが、その実態はかつて存在した伝説の自警団「チーム・サティスファクション」のリーダーを務めたナイスガイである。

 

 

 仮面の奥で驚愕に目を見開くパラドックスにD・ホイールで並走する鬼柳は裂けたような笑みを浮かべ言い放つ。

 

「何故って? そんなもん決まってるじゃねぇか――お前みてぇな奴を取っちめる為さ!!」

 

 やがて遊星に向けて手を掲げて「任せろ」と合図を送り、自身のD・ホイールのあるボタンに手をかける鬼柳。

 

「遊星、待ってな! 今お前のカードを取り返してやるからよォ! 『スピード・ワールド2』セットオ――」

 

「やはり歴史の歪みがアポリアの報告以上に大きくなっているようだな――貴様の相手をしている時間は残されてはいない!!」

 

 だが鬼柳がそのボタンを押す前に、そう小さく呟いたパラドックスはD・ホイールを急加速させた。

 

「なんて加速だ!?」

 

「逃がすかよォオオオオオ!!」

 

 

 既存のD・ホイールを大きく凌駕した加速に驚く遊星だが、鬼柳は怒声と共に追い掛ける。

 

 しかし終ぞパラドックスに追いつくことはなかった。

 

 この後、ネオ童実野シティ中を走り回り、パラドックスを探す鬼柳の姿があったのだが余談である。

 

 

 

 

 

 パラドックスの追跡を鬼柳に任せてきた遊星・ジャック・クロウは別方面からパラドックスの正体や目的を探るべくセキュリティを訪れていた。

 

 そして幾人の人間が集まる中の1人、牛尾が代表して現在の状況を一言でまとめる。

 

「――んで、その白い仮面の男はお前さんの《スターダスト・ドラゴン》を奪って何処かに消えちまった、と」

 

「ああ、ヤツは俺の名を知っていた……」

 

「あんまりそれはアテにはならねぇな――お前さんは相応に有名だ」

 

 遊星の呟きを若干の呆れを見せつつ流す牛尾。

 

――遊戯もそうだったが、強ぇヤツは自分の存在のデカさに疎いのかねぇ……

 

 そんなことを考えつつ牛尾は現在分かっている情報を並べていく。

 

「現場の報告から精霊の類の仕業じゃねぇってことらしい」

 

 その牛尾の説明を付けたす様に緑の髪を頭の上でツーサイドアップにした少女、「龍可(るか)」が手を上げ続く。

 

「私も《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》にお願いして色々調べて貰ったけど、悪い気配は感じないって言ってたわ」

 

 精霊を知覚し、会話することの出来る龍可を守護する大きな力を持つ精霊、《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》の太鼓判だと語る龍可。

 

 そんな龍可の隣で頭の後ろで手を組む緑の髪を頭の後ろで1本に纏めた少年、龍可の兄、「龍亞(るあ)」がぶー垂れたように零す。

 

「俺も精霊が見えたらなー」

 

 龍可が心配だからと精霊の協力を得た捜査に同行した龍亞だが、精霊が見えない龍亞には唯々仲間である遊星たちの力になれなかったことがご不満のようだ。

 

「ありがとう、龍可。それに龍亞も態々済まない」

 

 そんな龍可と龍亞に遊星は近づいてしゃがみ、その両手を2人の頭に乗せ感謝の意を示す。

 

「ううん、みんな(精霊たち)が頑張っただけで、私は何も……」

 

「へへっ、良いって良いって! 龍可だけじゃ心配だし!」

 

 恥ずかしがって謙遜する龍可と照れを隠す様に笑みを浮かべる龍亞を余所にクロウが腕を組んで悩まし気に言葉を零す。

 

「でもよ、牛尾。これじゃぁ手詰まりじゃねぇか」

 

「そうでもねぇさ」

 

 しかし何やら牛尾にはアテがある様子。

 

「遊星!」

 

「おっと、来なすった」

 

 新たな来訪者に牛尾は待ち人来たれりとばかりに声の方を向き、一同もそれに倣う。

 

 その視線の先にいたのはデュエルアカデミアの赤いブレザーの制服と長い赤髪を筒状の髪留めのようなもので纏めた女性、「十六夜(いざよい) アキ」。

 

「これ! ディヴァインからの調査報告書!」

 

 そのアキの手の書類の束が遊星の手元に渡り、周囲の人間が遊星の後ろで共に資料を眺めていた。

 

「ディヴァイン先生が関わってるってことは――」

 

 そんな中で龍可が精霊の力を師事した赤毛の前髪で顔の右半分が隠れたおじさんこと「ディヴァイン」の仕事から今回の事件の手掛かりに辿り着く。

 

「おうよ、遊星の《スターダスト・ドラゴン》を奪ったのはサイコ・デュエリスト方面の可能性が高い」

 

 龍可の考えを肯定する牛尾――恐らく科学的にサイコ・デュエリストの力を再現したものではないか、と推察されていた。

 

 

 ちなみに。ディヴァインもデュエルモンスターズのカードを実体化させる力を持つ「サイコ・デュエリスト」――龍可も毛色は違えど異能の力を持つディヴァインに色々教わっている。

 

 

「んで、こっちも見てみな」

 

「なんだ、この写真は?」

 

 牛尾の端末から差し出された写真データを受け取ったジャックは首を傾げるが、龍亞が端末を指さし、声を張る。

 

「あー! これ俺、知ってる! 授業で見た! 世界で1枚しかないスッゲーカードの……『究極の宝石のなんとかドラゴン』!」

 

「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》でしょ……確か『ヨハン・アンデルセン』さんのカードって話だった筈……」

 

「ああ、それ! そのドラゴン!」

 

 龍可の補足に首を縦に振る龍亞の姿に牛尾を見ながらジャックは咆える。

 

「こんな昔の記事がどうした、牛尾!」

 

 消えたパラドックスを探さなければならない状況下で過去の記録を持ち出している場合ではないと憤慨するジャック――仲間の一大事ゆえに悠長にはしていられないと焦っているようだ。

 

「焦んなよ、ジャック。続きを見てみな」

 

「この記事は!? 《スターダスト・ドラゴン》とあの仮面の男が!?」

 

 しかし牛尾に促されて写真データの先の記事を読み進めた先にはパラドックスの姿が――同じ仮面と同じ衣服と《スターダスト・ドラゴン》の姿に間違いないとパラドックスを見た一同は声を揃えた。

 

「おうよ。お前さんから連絡が入った後でセキュリティとKCのログを探ったときに聞いた特徴と一致した人間を見つけてな――結果、案の定よ」

 

 そんな一同に牛尾は厄介なことになったと頭をかく。

 

「つまり――」

 

「そうだ。やっこさんは時間をさかのぼれる――タイムトラベラーってとこだな」

 

 息を呑む遊星に牛尾が荒唐無稽な結論を出すも、これだけ情報が出揃ってしまえば信じるしかない。

 

「街に崩壊の兆しも出てるらしい――遊星、行けるか?」

 

「ああ、勿論だ!」

 

 牛尾の確認するような言葉に力強く返す遊星。すると――

 

「背中に赤き龍の痣が!?」

 

「遊星のDホイールが光っているわ!」

 

 クロウとジャックの言葉通り。遊星の背中に蛇のような長い身体を持つ赤き龍の痣が浮かび上がり、外に停車しておいた遊星のD・ホイールが赤く輝く。

 

「赤き龍もやる気みてぇだな」

 

 牛尾のそんな呟きを余所に旅立ちの準備を整えた遊星は、次々と仲間から激励を受け、D・ホイールに跨り――

 

「よっしゃ! 行ってこい、遊星!」

 

「ああ、行ってくる! 赤き龍よ! 俺をスターダストのもとに連れて行ってくれ!」

 

 牛尾の最後の言葉を合図に赤き龍の力を受けた遊星のD・ホイールは時間の壁を突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は十代たちの時代へと戻る。

 

 十代を追い詰める正体不明のドラゴン――遊星の《スターダスト・ドラゴン》。

 

「なんだ、この白いドラゴンは!?」

 

『危ない、十代!』

 

 《スターダスト・ドラゴン》のブレスを受け止めるユベルだが背後から襲来する《サイバー・エンド・ドラゴン》のブレスが十代に迫る。

 

「《ハネクリボー》!!」

 

『クリリッ!!』

 

 だが十代の声と共に呼び出された天使の羽の生えた《クリボー》こと《ハネクリボー》がそのブレスを逸らすが、更に襲い掛かる《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》が十代を攻撃しようとブレスをチャージしていた。

 

「あ、やべ」

 

 なんとも緊張感のない十代の声と共に放たれる《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》のブレス。

 

『十代ッ!!』

 

『クリリッ!!』

 

 2体のドラゴンの攻撃をそれぞれ受け止めるユベルと《ハネクリボー》から悲痛な声が漏れるが。

 

「頼むぜ、《E・HERO(エレメンタルヒーロー)――」

 

 だがその僅かな瞬間に1枚のカードを持った十代の左右の瞳がユベルと同じようにオッドアイの輝きに満たされ――

 

 

 迫る《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》のブレスに盾になるように割り込んできた巨大な赤き龍の身体が十代を守った。

 

「へっ?」

 

 呆けた声を上げながらオッドアイに輝く瞳をいつもの茶色がかった瞳に戻す十代。

 

「チッ、もう追って来たか」

 

 その赤き龍の姿に心当たりしかないパラドックスは踵を返す。

 

「大丈夫ですか、十代さん!」

 

 そしてD・ホイールに跨った遊星がヘルメットを外しながら十代に駆け寄った。

 

「誰だか分かんねぇけど、ありがとな! 助かったぜ! 《ハネクリボー》もさっきはサンキュー!」

 

『クリィ……!』

 

 十代に感謝を送られた遊星と《ハネクリボー》は何処か照れくさそうに対応していたが、そんな3人にユベルが割り込む。

 

『十代、ヤツがいない』

 

「あれ!? いつの間に!?」

 

 パラドックスへの警戒を続けていたユベルだったが、どうやら既にこの場から立ち去った後のようだった。

 

『気付いていなかったのかい……しょうがないなぁ。なら一先ず彼と情報交換しようか――彼からも大きな力を感じる。今回の事件と無関係ってことはないだろうさ』

 

 十代を呆れ顔で眺めるユベルの言葉に早速とばかりに十代が遊星に再度向かい合う。

 

「それもそうか! 俺は『遊城 十代』! こっちはユベルとハネクリボー! 2人ともカードの精霊なんだ! 精霊ってのは、えーと、神秘なんとか――」

 

 自己紹介とパートナーと相棒の精霊を紹介する十代だが、精霊の説明に四苦八苦するが――

 

「俺は『不動 遊星』です。遊星で構いません。それにデュエルモンスターズの精霊の存在は俺も知っています。見える仲間がいるので」

 

 遊星が助け舟を出すように名乗ったことで十代は小さく息を吐く――小難しいことは苦手なようだ。

 

「おっ、そっか! 話が早くて助かるぜ! お前の頭の後ろに隠れているのはお前の精霊か?」

 

 だが十代が遊星の頭の後ろ辺りに視線を向けながら返した言葉に遊星は小さく頷く。

 

「はい、《ジャンクリボー》です――といっても俺には精霊は見えないので、いつも何処にいるかは分からないんですが……」

 

 そう自信なさげに語る遊星――精霊が見えない遊星にとって精霊との関係は一方的なものになりがちな為に「精霊に見放されないか」と、その顔には何処か不安が見える。

 

 

 そんな遊星を小さくユベルは笑う。

 

『そんなに心配することはないよ――仕草からして君の頭の上がお気に入りらしい』

 

 ユベルの眼から見ても遊星と《ジャンクリボー》の関係は良好のようだ。

 

「そうなんですか? ありがとうございます――それにユベルさんは精霊が見えない俺にも見えるとは……かなり力のある精霊なんですね」

 

「へへっ、まぁな!」

 

 続く遊星の言葉にユベルではなく十代が照れる――パートナーを褒められれば自分も嬉しい模様。

 

 そんな十代の気持ちを嬉しく思うユベルはその十代の姿をいつまでも眺めて居たいと思うも、今は非常時だと話を進めにかかる。

 

『それで、キミから感じられる力の正体は?』

 

 緊迫した様相で問われたユベルの言葉に腕まくりをしながら遊星は腕を見せる。

 

「この痣の力――赤き龍の力です」

 

『さっきの赤いドラゴンか……』

 

 その遊星の腕には赤いラインで竜の「頭」が浮かび上がっていた。

 

「つまりキミもデュエルモンスターズに選ばれたデュエリストって訳だ」

 

 その赤き竜の痣に対し、そう零す十代。

 

 そして、3人はそこから詳しい話を進め――

 

 

「へ~、遊星は未来からタイムスリップしてきたのか!」

 

「その通りです。信じて貰えないと思いますが……」

 

 遊星が未来の人間であることを知る十代。信じて貰えるか心配気な遊星だったが十代は疑う素振りも見せず笑顔を見せる。

 

「いや、俺は信じるぜ。時を超えるなんて無茶苦茶ワクワクする話じゃないか!」

 

 しかし急に遊星の背後に視線を向けた十代は目を輝かせながら遊星に問いかける。

 

「――ってことはあのバイクが未来のデュエルディスクなのか?」

 

「あっ、はい」

 

「うぉー! カッコいいー!」

 

 D・ホイールに向けて駆け出し、あれやこれやと眺めていく十代。何とも楽しそうだ。

 

『……十代』

 

 そんな子供心を忘れない十代のあどけない姿をユベルはいつまでも眺めて居たいが、何度も言う様に今は緊急時である。

 

 心を鬼にして十代に苦言を呈するユベル。

 

「おっと、わりぃわりぃ」

 

 恥ずかしい所を見せてしまったと照れながら謝る十代は「何処まで話したか」と思案し――

 

「俺はさっきのアイツに仲間のカードが奪われちまって、ソイツを取り戻そうとしてたんだ」

 

 現状の確認を行う。

 

「俺も同じです十代さん。俺の大切なカード、《スターダスト・ドラゴン》を奪われました」

 

「そうか! なら一緒にアイツから取り返そうぜ!」

 

「はい!」

 

 2人の目的はほぼ同じだ。奪われたカードを取り戻す――後、ついでにパラドックスをぶっ飛ばす。

 

 方針が決まった2人だが水を差すようにユベルが小さく零す。

 

『盛り上がっているところ悪いけど、相手が何処にいるか分からないよ』

 

「お前こそ忘れたのかよ、ユベル! 俺には頼りになる仲間がいるんだぜ!」

 

 だが問題はないと十代はショルダーバッグの中から小型のPCを取り出し、何やら操作。すると――

 

「おーい、三沢ー!」

 

『そろそろ連絡が来ると思っていたよ、十代――何か困りごとなんだろう?』

 

 PCはテレビ電話に早変わり、その画面には白衣を纏ったオールバックの青年、「三沢(みさわ) 大地(だいち)」が映っていた。

 

「おう! コイツのこと調べて欲しいんだ!」

 

 そんな三沢に対し、十代は似顔絵を提示するが――

 

『済まないが、その画力……いや、独創的な表現法では厳しいと言わざるを得ないな……ユベルの方に――』

 

 十代の下手な――ゴホン、前衛的過ぎる美術センスあふれる似顔絵に三沢は近くにいるであろうユベルに懐からだしたモノクルをかけながら返すが――

 

「ならこれでどうですか?」

 

 割り込んだ遊星がPCを操作し、三沢の元にこれまでのデータを送る。

 

『キミは?』

 

「俺は『不動 遊星』です! あの三沢 大地さんとお話出来るなんて、俺たちD・ホイーラーにとって――」

 

 知らぬ顔だと疑問符を浮かべる三沢だったが、興奮した様相で語る遊星の言葉に三沢は声を荒げた。

 

『十代! 済まないが、代わってくれ!!』

 

「えっ!?」

 

 十代の知る三沢は早々に声を荒げる人間ではないことを知るゆえに「何か事情があるのだろう」と、驚きのあまり固まる遊星を脇にどけて十代が対応するが――

 

「どうしたんだよ、三沢。そんな怒ることじゃ――」

 

『彼は未来から来た――違うか?』

 

 三沢は今回の一件の核心を突く。

 

「相変わらず、スゲーな! 何で分かったんだ!」

 

 デュエルの学校、デュエルアカデミアにいた頃から、三沢の聡明さを知る十代は感嘆の声を上げつつ問いかける。

 

『後ろに停まっている赤いバイク、デュエルディスクが取り付けられている――あれはまだ構想段階のものだ。今、現存している筈がない』

 

 そんな驚きを見せる十代に毒気を抜かれたような顔をしながらタネを明かす三沢だったが、ユベルが待ったをかけた。

 

『その理屈だと、他に別の人間が作った可能性もあるように思えるけど?』

 

 それだけでは理由として弱い、と。

 

 しかし三沢は首を横に振りながら返す。

 

『かもしれない。だが今の時代に「D・ホイーラー」なんて職業は存在しない――つまり「俺たち」とは評せない筈だ』

 

「おお~!」

 

 まるでドラマの探偵のようだと十代が感嘆の声を漏らす姿を三沢は照れ臭そうに見ながら先を続ける。

 

『彼が未来の人間である以上、今の時代の人間との接触は最低限にするべきだ――そういう訳で済まない、不動 遊星くん』

 

「いえ、俺は一目会えただけで!」

 

 頭を下げる三沢の姿に遊星は慌てて手を振るが、その間にユベルが再度割り込む。

 

『相変わらず頭の回転が速いね――で、どうなんだい』

 

 そんなユベルの言葉に三沢はキーボードと思しきものに奔らせていた指を止めながら返す。

 

『今、調べ終わったところだ。その仮面の男が確認できた場所はこの大会だな――正確な時間と座標を送っておいたが、相手の介入によってズレが生じる可能性は十分にある。気を付けろ、十代』

 

「助かったぜ、三沢! ――ってペガサス会長が死亡!?」

 

 三沢から送られてきたデータに親指を立てる十代だったが、記事の内容に驚き口をあんぐり開ける、

 

 送られたデータの記事にはペガサスがとある大会にて《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》と《サイバー・エンド・ドラゴン》が放ったブレスによって死亡したとのもの。

 

 その現場にて撮られた写真には白い仮面の男が写っている――十代と遊星はパラドックスと相違ないと顔を見合わせる。

 

 そんな世界的に一大事な事件であるが、十代はそんな事件など知らない。つまり一連の事件は繋がっている可能性が高い。

 

『ああ、にわかには信じ難いが……これが写真に写る仮面の仕業と考えれば、由々しき事態だ』

 

「ならグズグズしてられねぇな! ちょっと過去に行ってくるぜ、三沢! 後で土産を持って行くからな!」

 

 三沢の声に十代は先を急ぐように立ち上がりながらショルダーバッグを三沢に見せて、そう返す。

 

『随分と気の早い話だな……だが楽しみに待つとしよう』

 

「じゃぁ、またな!」

 

『ああ』

 

 自信満々な十代の姿に変わらないなと小さく笑った三沢とのやり取りを得て、通信を終えた十代。

 

「よっしゃ! 行こうぜ、遊星!」

 

 その十代の言葉を合図に遊星と共にD・ホイールに跨り、赤き龍の力を借りて一同は時間をさかのぼって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時代はDMの時代に舞い戻る。

 

 童実野町に、カバン一杯に詰めこんだ本を両手にせっせと自宅まで歩を進める表の遊戯の姿があった。

 

 そんな中、名もなきファラオの遊戯こと、所謂「闇遊戯」がその胸中にて零す。

 

――相棒、さすがに借り過ぎじゃないか?

 

 図書館にて無料だからと本を借り過ぎたのではないかと――だが表の遊戯は否定する。

 

「そんなことないよ――キミがいた古代エジプトの時代は謎が多いんだ! エジプトに向かう前にしっかり調べておかないと!」

 

 表の遊戯が借りた大量の本は全て古代エジプトに関する歴史や神話などが書かれたものに加え、信憑性に疑問が浮かぶゴシップ染みたものまである。

 

 そんな本の山に闇遊戯は表の遊戯の胸中で息を吐く。

 

――まぁ、北森の話じゃイシズたち墓守の一族の元に向かえるのは大分先になるらしいからな……

 

「うん! だから今の内に色々知っておきたいんだ!」

 

 エジプトに向かうまでの時間的余裕がかなり空いた為、「予習」とばかりに表の遊戯は手あたり次第に闇遊戯のルーツを探ろうとしているようだ。

 

――マリクたちに聞くのはどうだ?

 

「それはボクも考えたんだけど、どの国に収監されるかも内緒って話らしいし、実際に会うにも刑期が長すぎて、待ってたらボクがお爺さんになっちゃうよ」

 

 闇遊戯からの提案だが、表の遊戯は残念そうに否定する。マリクたちの刑期は膨大な年月だと。

 

――そうだったな……さすがに俺にもそこまでの時間は残されちゃいない……

 

「でも安心して、もう一人のボク! この本の此処のページにあるようにキミが帰る『冥界』って所はいわゆる人が死んだ後に行く世界らしいんだ!」

 

 カバンの中から1冊の本を取り出し、ページを開く表の遊戯。

 

 その本の中身を信じるならば、いずれ来る闇遊戯との別れはあくまで「一時的」の可能性もあり、また冥界で再会できるかもしれないと目を輝かせる表の遊戯。

 

「だからボクの人生が終わった後、しっかりマリクくんたちとの話を伝えて上げるからね!」

 

――随分と気の長い話だな……だが相棒、ありがとう。

 

 なんの確証もない話だが、「いつかまた会えるかもしれない」との表の遊戯の言葉は闇遊戯の中で「希望」として残る。

 

 表の遊戯の心遣いが闇遊戯には唯々嬉しかった。

 

「お礼にはまだ早いよ、もう一人のボク! キミがキチンと冥界に帰れるかどうかはまだ分からないんだ……それにもしかしたら、ずっと一緒にいられる方法だって――」

 

 しかしそんな表の遊戯の言葉に闇遊戯は切って捨てるように返す。

 

――それは無理だと言った筈だぜ、相棒? 俺は既に死んだ人間なんだ。本来であればこの世界にいることすら許されない可能性だってある。

 

「それは……そうだけど……」

 

 死者は現世に留まってはならないとの闇遊戯の言葉に表の遊戯は悔し気に拳を握る――表の遊戯の中で一番の友との別れはまだ受け入れがたいものだった。

 

――だから相棒、残りの時間を目一杯楽しもう。その思い出があれば、俺はいつまでだって冥界でお前を待っていられる……

 

「もう一人のボク……」

 

 だが闇遊戯の労わるような言葉に表の遊戯は嬉しそうにも、寂しそうにも見える表情を浮かべるが――

 

 

 

「遊戯さん!」

 

「うわっと!? ……え~と、キミは?」

 

 そんな第三者の声に表の遊戯はビクリと背を伸ばしながら驚き、自身の名を呼んだ相手と追従するもう1人に恐る恐る問いかけた。

 

「俺は『遊城 十代』って言います!」

 

「俺は『不動 遊星』です。遊星で構いません!」

 

「十代くんに、遊星くん?」

 

 それぞれ名乗りを上げた十代と遊星だが表の遊戯に面識はない。

 

 何のようだろうと首を傾げる表の遊戯に十代は1枚の紙を手に要件を語る。

 

「信じられないかもしれませんが、俺たちは未来から来ました! この記事を見てください!」

 

 いきなりぶっ飛んだことを言い出した十代の姿に戸惑う遊戯だが、一応、手渡された紙を見て――

 

「これは、デュエル大会の記事? でも日付が未来だ……えっ、ペガサス会長が死亡!?」

 

 そこに書かれていた事実に目を見開く。本当であれば一大事だ。

 

 そんな驚きの只中にいる表の遊戯に遊星は説明を引き継ぐ。

 

「はい! 今から少し先の未来で開かれる大会でペガサス会長が亡くなられてしまうんです! ペガサス会長がいなくなればデュエルモンスターズの歴史……いや、世界の歴史までもが大きく変わってしまいます!」

 

「えっ!? えっ!?」

 

 未だに事態が呑み込めない遊戯に十代は頭を下げ、遊星もそれに続く。

 

「一緒に戦ってください! 遊戯さん!」

 

「お願いします!!」

 

 2人の真摯な姿勢に戸惑う表の遊戯だったが、ふと闇遊戯がポツリと零す。

 

――この2人が嘘を吐いているようには見えないぜ。それに2人からなにか不思議な力を感じる……

 

 十代も遊星も嘘を言っている様子はなく、この手の荒唐無稽な話に全く縁がなかった訳ではないだろうと。

 

 その闇遊戯の言葉にアクターと闇マリクの闇のゲームが脳裏に過った表の遊戯は覚悟を決め表情になり――

 

「うん、ボクで良ければ協力するよ! でもどうやって……」

 

 十代と遊星の頼みを快諾する。とはいえ、未来を変える方法など知る由もない表の遊戯。

 

 だが頭を上げた十代は当てがあると拳を握る。

 

「今から未来に行って、その大会を中止にするんです! 大会が中止になればこの事件は起きない筈です!」

 

 相も変わらず「未来に行く」というぶっ飛んだ解決手段を提示する十代だが、闇遊戯はふと表の遊戯に零す。

 

――ならKCに連絡すれば早いんじゃないか?

 

 ペガサスが死んだ大会がKC主催であるのなら、KCに事情を話せば簡単に大会を中止にできると。

 

「そうか! じゃぁKCに電話してみるよ!」

 

 それだ! とばかりにバトルシティにて城之内たちの一件を受けて仲間と共に最近買った携帯電話を片手に番号をプッシュする表の遊戯。

 

「あっ! 未来の情報なので、あの、えーと」

 

「知らせる人は最低限にするんだね! 任せて!」

 

 十代の注釈にも表の遊戯は小さく頷いて電話のコール音に耳を澄ませる。やがて通話が繋がり――

 

「……あっ、もしもし」

 

『おや、どなたかな?』

 

 表の遊戯が知らない人が電話に出た。

 

「えっ、神崎さんじゃない!? えーと、ボクは武藤 遊戯と申し――」

 

『ああ、キミか。ボクは海馬 乃亜――神崎の代理だよ。今、彼は留守でね』

 

 神崎の電話にかけた筈にも拘わらず電話口に出たのは少年のような声の相手だったゆえに慌てて名乗る表の遊戯に乃亜は軽い調子で返す。

 

『だけど神崎から大まかな話は聞いているから安心してくれ、何か頼み事なんだろう? 何でも言ってくれて構わない。デュエルキングの頼みを無下にするようなマネはしないさ』

 

「なら、えーと……KCで開催される大会なんですけど――」

 

 乃亜の「海馬」の苗字に警戒心を解いた表の遊戯は要件を説明し始め、やがて説明を終えたが、対する乃亜の反応は――

 

『……この大会を? そもそも一体どこから……』

 

 何らかの不可解さを感じているようなものだった。

 

「あの、出来ますか?」

 

『……あ、ああ、任せてくれ直ぐに取り掛かろう』

 

 無理ならば構わないと返そうとする表の遊戯に乃亜は快諾する。

 

「無理を言って本当に済みません! この埋め合わせは――」

 

 どこか難色を示していたことから無理を言ってしまったのではと慌てて電話口で頭を下げる表の遊戯に乃亜は小さく笑う。

 

『おっと、安易にそんなことを言うのはお勧めしないな――だけど気持ちだけは受け取っておくよ。それじゃあ早速、取り掛からさせて貰うとしよう』

 

「本当にありがとうございます!」

 

 そんな乃亜の冗談めかした言葉に再度感謝の念を伝えた表の遊戯の頭が下がると共に通信はプツリと切れた。

 

「これで大丈夫の筈だけど……」

 

 携帯電話を仕舞いながら表の遊戯は自信なさげに呟くが、十代は強く拳を握る。

 

「おっしゃあ! これで後は待つだけだな!」

 

『そうだね。これで相手側からボクたちへなんらかの動きを見せる筈だ』

 

「そこを叩きましょう!」

 

 十代の言葉に同意を見せるユベルと、方針を決めた遊星の言葉が並び、何処か拠点とするべき場所を決めようとする一同。

 

 

 だがそんな一同に遠くから謎の轟音が響く。

 

「えっ!?」

 

「何だ!?」

 

「なんて衝撃だ!?」

 

 遊戯・十代・遊星がその轟音の後に響いた衝撃に身構える中、ユベルが空を指さし、声を張る。

 

『十代! あれ!』

 

 その指の遥か先には――

 

「《サイバー・エンド・ドラゴン》!? カイザーのドラゴンだ!」

 

 3つ首の機械のドラゴンたる《サイバー・エンド・ドラゴン》「だけ」が宙に浮かび、3つの口からブレスを何処かへ向けて放っている姿があった。

 

「きっとあの場所にヤツが!!」

 

 明らかに戦闘中を思わせるその姿に遊星は全てを察し、表の遊戯は誰よりも先に駆け出し、振り返りながら十代と遊星に向けて声を張る。

 

「行こう! 十代くん! 遊星くん!」

 

 既に事件は起こっており、ノンビリしている時間などはないのだと。

 

 

 やがて走るよりも、遊星のバイクに乗った方が早いとの言葉にD・ホイールに3人乗りし、その頃には姿を消した《サイバー・エンド・ドラゴン》が居た場所へとD・ホイールは走り出した。

 

 






いる筈の誰かがいない。いない筈の誰かいる――まるで間違い探しやな、パラドックス!(煽り)


なお此処までやっても未だに滅びの未来は回避できていない模様(白目)


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