マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ねぇ、おかしくないかな?

何故、神崎の殺害を優先したパラドックスが先にペガサスを殺しているの?

何故、十代を襲ったのは《サイバー・エンド・ドラゴン》と《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》と《スターダスト・ドラゴン》だったのに、

ペガサスを襲ったのは《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》と《サイバー・エンド・ドラゴン》だったんだろう?

何故、モンスターを変えたのかな?

何故、赤き龍は三沢から教えられた大会の日時に飛んだ筈なのに、その日時に大会は始まっていないんだろう? 本当にパラドックスの行動によるズレなのかな?

何故、《サイバー・エンド・ドラゴン》が攻撃しているんだろう? 神崎とパラドックスのデュエルで攻撃――いや、融合召喚されたっけ?

ねぇ、おかしくないかな?





おかしくないよ。




第134話 戦う理由は人それぞれ

 

 

 パラドックスの5体のSinドラゴンたちの内、攻撃権が残る3体がパラドックスの怒りに呼応するように攻撃姿勢に入る中、表の遊戯は駆けながら叫ぶ。

 

「神崎さん!!」

 

「来るな、武藤くん! 早くこの場から離れるんだ! 時間は私が稼ぐ!」

 

 そう叫ぶ神崎の姿に表の遊戯の足が僅かに鈍るが――

 

「《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》! ヤツに止めをさせ! 滅びのバースト・ストリーム!!」

 

 残りライフ2000の神崎に向けて《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の白き滅びのブレスが放たれた。

 

「グッ!!」

 

 白きブレスが神崎の身を打ち据え、神崎が背後に飛ぶとあたかもブレスで吹き飛んだようにその身体を廃墟の壁へと叩きつける。

 

「これで……ッ!」

 

 壁に叩きつけられた神崎の姿に攻撃が防がれた様子がない為、確かな手応えを感じるパラドックスは幾分か溜飲を下げるが――

 

「ぐっ……2000以上の戦闘ダメージを受ける場合、そのダメージを計算前に罠カード《体力増強剤(たいりょくぞうきょうざい)スーパーZ》を……発動できる」

 

 ゆっくりと立ち上がる神崎の姿にパラドックスの視線は鋭さを増していく。

 

「……ダメージを受ける前に……私は4000のライフを……回復」

 

神崎LP:2000 → 6000 → 3000

 

 ふらつきながらも遊戯・十代・遊星の盾になる位置取りに立つ神崎の姿にパラドックスの苛立ちは募り――

 

「死にぞこないがァ!!」

 

 激昂したような声で叫ぶ。

 

 神崎が人知れず世界の脅威と戦う――そんな印象操作の為の出しに使われたのだ。パラドックスが怒りを見せても無理はない。

 

 

 だがこの場においては悪手だった。

 

 

「私が戦闘ダメージを受けたことで、墓地の……《H(ヒロイック)C(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》を……攻撃表示で特殊召喚」

 

 ふらつく神崎の前に主を守るように薙刀を構える《H(ヒロイック)C(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》。

 

H(ヒロイック)C(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》

星4 地属性 戦士族

攻1300 守1100

 

「早く……逃げるんだ……私が持ち堪えている間に……!」

 

 そう零す神崎の傷つきながらも遊戯・十代・遊星を守ろうとする姿に対して、怒りに突き動かされ怒涛の攻撃を仕掛けるパラドックスの姿は「悪役」として映える。

 

 パラドックスもその事実は頭の片隅では理解していた。だが溢れ出る怒りの感情を抑えることは出来ない。

 

 これ程の屈辱を味わったのは初めてなのだから。

 

「《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》! サウザンド・ブレードを攻撃しろ! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

 3つ首の機械竜のビーム砲が《H(ヒロイック)C(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》の薙刀を容易く砕き、貫通したビームが神崎を貫いた。

 

神崎LP:3000 → 300

 

「ぐうっ……」

 

 苦痛に耐える神崎の姿は演技ではない。実際の攻撃の余波や衝撃は着実に神崎の肉体と精神を削っている。

 

 文字通り命懸けの演技。命懸けの舞台――ゆえに遊戯たちの眼に鮮烈に映る。

 

「これで今度こそ止めだ! 《Sin レインボー・ドラゴン》でヤツにダイレクトアタック!オーバー・ザ・レインボー!!」

 

 《Sin レインボー・ドラゴン》から虹色のレーザーが神崎を貫かんと放たれるが――

 

「相手の直接攻撃時に……墓地の《虹クリボー》は特殊召喚……できる」

 

 その前を遮るように額に虹色のプレートを付けた丸い紫の球体状の《虹クリボー》が神崎を守るように虹色のレーザーに耐える。

 

《虹クリボー》

星1 光属性 悪魔族

攻 100 守 100

 

「この効果で特殊召喚された《虹クリボー》はフィールドから離れた時、除外され――」

 

「くっ、ならそのままソイツを破壊しろ! 《Sin レインボー・ドラゴン》!!」

 

 神崎の言葉を遮ったパラドックスの言葉によって《Sin レインボー・ドラゴン》から放たれる虹色のレーザーはより力強さを増し、《虹クリボー》を破壊。

 

 

 その際に発生した爆風が神崎を打ち据える。

 

 ダメージはなくとも、足で地面を削りながら両腕を交差させ、その衝撃に耐える神崎。

 

 だがその蓄積されたダメージから膝を突き、倒れそうになる神崎だったが、その背を支える人間がいた。

 

「神崎さん! 大丈夫か!」

 

 それは先の3人の内の1人、遊城 十代。

 

「キミたちこそ、無事……かい? 怪我はない……ようだね……」

 

 そんな十代に対して事前情報など無いとばかりに知らぬ人間として接する神崎。

 

「早く……この場から離れるんだ……一刻も……早く」

 

 やがて背を支えていた十代をパラドックスとは逆方向に押しつつ神崎はフラフラと立ち上がる。

 

 遊戯・十代・遊星の3人を守るような口振りで。

 

 

 その突き放すような神崎の姿に十代は声を張る。

 

「俺たちの恩人、見捨てて逃げられるかよ!」

 

 そんな十代の熱い思いだったが――

 

「何の話……だい? それに……キミは……私を知っている……のか?」

 

 神崎からすれば寝耳に水どころの話ではなかった――ただ、ある程度の予想は付くが。

 

 基本的に起こりうる問題は「早めに処理」の神崎のスタンスから未来の自身の行動であろうと。

 

 

 しかしそんな事情を知らない十代はショックを受けたような表情を見せる。

 

「え゛っ!? 俺って忘れられてる!?」

 

 意気揚々と恩人を救いに来たら、肝心の相手から「誰だ、お前は」と言われたようなものなのだから。

 

 そんな十代の背後でユベルは溜息を吐く。

 

『十代……キミが神崎と出会ったのはこの時間軸より先の未来だよ。この時代の彼が十代を知る筈がないじゃないか』

 

 そそっかしい十代の姿に「しょうがないな」と暖かい視線を向けながら語られたユベルの言葉に十代は照れながら頭をかく。

 

「おっと、そうだった!」

 

「……精霊?」

 

 その2人のやり取りに「知らない体」を崩さない神崎――ただ一方的に知っているだけで、面識は一応ないが。

 

「おう! 俺の大事なパートナーのユベルだ!! 神崎さんは俺とユベルを仲直りさせてくれたんだぜ!!」

 

『十代……未来のことをあまり話しちゃダメだって三沢にも言われただろう?』

 

「あっ、今の無し!」

 

 そんな十代とユベルのコント染みたやり取りを得て、ユベルは小さく溜息を吐き神崎に向き直る。

 

『……もう、しょうがないなぁ十代は……久しぶりだね、神崎――まぁ、さっきも言ったように会ったのは未来の君だけど』

 

 だが神崎はそのユベルの言葉に戦慄する。

 

 あの想像を絶するヤンデ――もとい、愛が深すぎるユベルを将来的に説き伏せる必要があることが確定したのだから。

 

 そんな神崎の戦慄を余所に遊星がこれ以上無理はさせないとばかりに神崎の肩を押さえながら丁寧に挨拶する。

 

「始めまして、神崎さん――貴方の話は父から聞いています」

 

「キミ……も未来から? いや、未来から……来たのなら下手に情報を……明かさない方が良い……か……早く逃げな……さい」

 

 しかし対する神崎は何だかんだで肉体的、精神的にフラフラな為、一気に話を進めるべく遊星の手を振り切って緩慢な動きで前に出るが――

 

「すみませんが、それは出来ません! 此処から先は俺たちで戦います! 構いませんか、遊戯さん! 十代さん!」

 

 その神崎の前に遊星はデュエルディスクを構えながら出て、表の遊戯と十代に確認を取るように問う。

 

 十代と表の遊戯の答えは決まり切っていた。

 

「勿論だぜ、遊星!」

 

「うん、詳しい状況は分からないけど放ってはおけないよ」

 

 そんな2人の言葉に望んだ流れに持っていけたと内心でガッツポーズを取る神崎。

 

 だが更にこの場を効果的に演出すべく遊星の隣を通り過ぎながら神崎はポツリと零す。

 

「そんな訳には……いかない……彼は……パラドックスは強大な力……を持つデュエリスト……」

 

 身体を引き摺るように前に出る神崎は命懸けで語る――何だかんだで一杯一杯である。

 

「そんな危険な相手の……矢面に身を晒すのは大人の仕事……だ」

 

 そう言ってデュエルディスクを構える神崎はパラドックスと戦う姿勢を見せるが、内心では背後の遊戯・十代・遊星の反応に戦々恐々していた。

 

 3人に「それじゃぁ任せますね」――なんて言われれば神崎は十中八九死ぬ未来しかない。いや、頑張れよ。

 

 内心の恐慌と戦う神崎。

 

『そんな身体で何が出来るのさ――キミは大人しく座っているんだね』

 

「止……せ……」

 

 だがユベルが神崎の制止を振り切り、その身体を念力で宙に浮かべ、背後にゆっくりと置く。

 

 なお神崎は「止せ」とか言っているが、その内心でもう1度ガッツポーズを取っている――ミッションコンプリートだ。

 

「そういうことだぜ、神崎さん! 俺はもう守られるだけの子供じゃない!」

 

「パラドックス! 此処からは俺たちが相手だ!!」

 

 やがて続く十代と遊星の言葉に臨戦態勢はバッチリと言わんばかりの3人。

 

 

 だがその3人に相対するパラドックスの苛立ちは頂点に達していた。

 

「何処までも……何処までもふざけた男だ!!」

 

 パラドックスからすれば、下らない三文芝居を見せられただけなのだから。

 

「良いだろう! ならばこのデュエルを引き継いで見せるがいい!!」

 

 やがて激昂と共に怒声を上げるパラドックス。

 

「待って、パラドックス!」

 

 に向けて制止の声を上げる表の遊戯。

 

「どうした武藤 遊戯! 今更怖気づいたのか!」

 

「違うよ――ただ聞いておきたいんだ。キミが何の為に戦うことを選んで神崎さんを殺そうとしているのかを」

 

 怒り心頭と言ったパラドックスに事情の説明を求める表の遊戯。

 

「ひょっとすれば話し合いで済むかもしれ――」

 

 目的次第では争うことなく解決できるかもしれないと考えての表の遊戯の姿勢だったが、パラドックスはにべもなく返す。

 

「話し合いの段階はとうに過ぎている! だが、その問いには答えよう――しかしそれにはまず私の目的から明かさなければなるまい」

 

 だが表の遊戯の真摯な姿勢に怒りを抑えてパラドックスは語りだす。

 

「私は滅亡した未来からの使者だ」

 

「滅亡した未来だって!?」

 

 語られたパラドックスの言葉に遊戯は驚きを見せる。未来は滅びに瀕しているのかと。

 

「そうだ! 私は滅亡した未来を救うべく時空を超え、最善の歴史を探し求めている!」

 

 己が大義を語るパラドックスだったが、十代は何が大義だとばかりに怒りの声を上げる。

 

「それが何故、神崎さんやペガサス会長を殺すことに繋がる!!」

 

 未来を救う為に何故、滅びに関係なさそうな人間を殺すのだと。

 

 しかし十代から零れたペガサスの名前にパラドックスは眉をひそめる。

 

「……ペガサスだと? 何故、今『ペガサス・J・クロフォード』の名が出てくる?」

 

 神崎を殺そうとしているパラドックスにとってペガサスは今の計画には関係のない人物の筈だった。

 

 だが十代は声を荒げる。

 

「とぼけるな! サイバーエンドやレッドアイズの攻撃で崩れた建物のせいでペガサス会長が死んだ現場にお前の映った映像が残っていたんだぞ!!」

 

 証拠は明確に存在するのだと。

 

 パラドックスの胸中に言い得ぬ淀みが蠢くが、全くの心当たりがない訳でもなかった。それは――

 

――どういうことだ……それは神崎 (うつほ)を殺した後に実行する計画だ……何故それが既に行われている?

 

 神崎を殺した後で実行する計画なのだから。

 

 思考に意識を回すパラドックスに遊星も糾弾するように声を張る。

 

「そうだ! それが原因で俺の時代も崩れかかっていた!」

 

 しかしパラドックスは何も返さない。

 

――未来の私が既に計画を進めていたのか? その結果として彼らが此処にいるのか?

 

 今のパラドックスにはこの違和感の正体を探ることの方が重要に思えた。

 

――だとするならば問題はない筈……いや、本当にそうなのか?

 

 纏まらないパラドックスの思考だが「何かを見落としている」ことを感じ、再度今の状況に考えを巡らせるが――

 

「パラドックス! 犠牲の先に未来なんかないよ!」

 

 そんな表の遊戯の言葉にパラドックスの意識は引き戻される。

 

「言わせておけば、破壊に犠牲か……フフッ、そうか――キミたちにはそう見えるか。だがそれは違う!」

 

 その表の遊戯の言葉はパラドックスにとって否定せねばならないものだった。

 

「正しいと思える未来は間違っていて、一見、間違っていると思える未来こそが正しい」

 

 そう、「犠牲」とはあくまで一面に過ぎない。

 

「考えてみるがいい。私が何もしていなくても既に世界は矛盾だらけではないか!」

 

 現実を知らぬ3人に残酷な世界の真理を大仰な仕草で語るパラドックス。

 

「環境破壊、世界紛争、人間同士の差別――」

 

「いや、俺の時代ではモーメントエネルギーの普及とKCとセキュリティに加え、様々な人の尽力によってそれらの問題は終息に向かっている!」

 

 だがパラドックスの説明にそれは違うと遊星は割り込む。

 

 確かにパラドックスの言う様に世界は悲しみの連鎖が広がっているが、遊星は知っている。

 

「足掻き続けた先に父さんと母さんが、みんなが掴んだその想いをそんな言葉で否定はさせない!! 人には未来を変える力があるんだ!!」

 

 そんな不条理に立ち向かう両親の背中を、その不条理を僅かでもなくそうと尽力し続けた人たちの雄姿を幼い頃から見てきたのだから――ゆえに遊星はその小さな歩みを否定させないと力強く宣言する。

 

 

 しかしパラドックスには聞き逃せない単語があった。

 

「――待て、不動 遊星」

 

「どうした、パラドックス! これでもまだ破壊や犠牲を許容す――」

 

 ゆえに待ったをかけたパラドックスだが、遊星はその内から溢れ出る熱い思いを――

 

「いま、『父』と『母』と言ったな」

 

「……? ああ」

 

 出す前に問われたパラドックスの問いかけに内心で首を傾げる――何故このタイミングでそんな質問をするのだろうか、と。

 

「貴様の両親は生きているのか?」

 

「……何を……言っているんだ?」

 

「そうか……いや、忘れて――」

 

 パラドックスの質問に対して眉をひそめる遊星の姿。

 

 親の死の問題など軽々しく聞いてはいけないと遊星の過去を知るパラドックスは自身の失言を悔やみ、話を終わらせようとするが――

 

 

「生きているに決まっているだろう!!」

 

 

「――ッ!? バ、バカな!?」

 

 無情にもあり得ない現実がパラドックスを襲う。

 

「貴様の両親はゼロリバースの時に死んでいる筈!? そして貴様だけがサテライトで生き延び――」

 

 ゼロリバース――それはモーメントが逆回転することで暴走した際のエネルギーが破壊的な衝撃波を生み、周囲を崩壊に巻き込んだ大事件。

 

 その際の地殻変動によって街は分断され、廃墟と化した地域である「サテライト」が生まれたのだ。

 

 ゼロリバースという大事件の際に遊星の両親は死亡している――これがパラドックスの知る本来の歴史。

 

 

 だが遊星は何の話だとばかりに、自身が知る歴史を語る。

 

「確かにゼロリバースは死者が………出なかったとはいえ、多くの人の心に傷跡を残した……だが『サテライト』とは何の話だ? 衛星の話なのか?」

 

 後、「サテライト」って何? と。

 

「何を……言っている……」

 

 パラドックスは突き付けられた現実を理解できない。

 

 ゼロリバースは一度起これば圧倒的な破壊の奔流を生み出す――犠牲者が0などありえない。

 

 モーメントを稼働させる為に必要な職員はかなりの数が必要であり、ゼロリバースが発生すれば全ての研究員が逃げおおせる時間など存在しないのだ。

 

 そしてゼロリバースの圧倒的な破壊の奔流に大地が耐えられる筈がない。場所が変われどサテライトが存在していなければ辻褄が合わない。

 

 つまり遊星の言った2つの事象を回避する奇跡など存在しない。そんな奇跡などなかったからこそZ-ONEは、アポリアは、アンチノミーは、パラドックスは絶望を味わったのだ。

 

「そんな……筈が……」

 

 だが遊星が嘘を吐いている様子がないことから、パラドックスは小さく現実逃避の言葉を漏らしながら眩暈と格闘する。

 

――未来が此処まで歪みを見せているとは……だが!

 

 しかし脳裏に過ったイリアステルの仲間の姿にパラドックスはクワッと目を見開いて、返す

 

「だとしても! その先に待つのが人類の滅亡という名の破滅であることに変わりはない!!」

 

 そう、そうなのだ――いくら歴史がおかしくなっていようとも、どれ程の人間が救われていようとも、肝心要の滅亡の未来の住人たるパラドックスが救われていない。

 

 よって未来の人類全てが死に絶える結末は何一つ変わっていない。

 

「その程度の変化では未来は救えぬのだよ、不動 遊星!!」

 

 つまり神崎の行動は何一つ未来の為にはなっていないのだと理論武装するパラドックス。

 

 最終的に辿る道が同じ滅亡の世界であるのなら、Z-ONEのメインプランを構築できる本来の歴史の方がリスクが格段に下がる。

 

「私には果たさねばならぬ大義があるのだ!!」

 

 自身の正当性を再確認したパラドックスは声高に叫ぶが――

 

「それが何故、神崎さんを殺す話に繋がるの?」

 

 表の遊戯の当然の疑問にようやく話が元の場所へと戻ったことで、パラドックスは説明を再開する――寄り道し過ぎたと。

 

「私は歴史を観測し、最善の歴史を探っていたが――その中で歴史を歪めている存在を見つけた」

 

「それが神崎さんなんだ……だけど、パラドックス――仮にそうだとしても、キミの行動と神崎さんの行動にそこまで違いがあるとは思えないんだけど」

 

 だが表の遊戯の語るように神崎もパラドックスもその行動はさして変わりはない。

 

 互いに「歴史に影響を与えている」だけだ――その違いが表の遊戯には分からない。

 

「違うな! 間違っているぞ、武藤 遊戯! ヤツの起こした変化は既に本来の歴史から大きく逸脱し、破滅への未来を加速させている!!」

 

 しかし「一緒にするな」とばかりに声を張るパラドックス。だが此方にも言い分があるとユベルがスッと会話に割り込んで返す。

 

『何を根拠にそんなことを言っているんだい? ボクらが関わった範囲では所謂、悪行といった行為は見たことがないけど』

 

 ユベルはそれなりに神崎の行動を見てきたが、そのどれもが「何の罪もない他者を害する」類のものはなかった。

 

 だが「良い行い」が「最良の結果」を生むとは限らない。

 

「視野が狭いと言わざるを得ないな、デュエルモンスターズの精霊よ! ヤツが行ってきた『デュエルモンスターズの発展の加速』が破滅の未来を引き寄せているのだ!!」

 

 パラドックスは神崎の人となりを一切信じていないが仮に聖人の如き善人であったとしても、どのみち与えた影響から殺す対象であることに変わりはないのだ。

 

「だったらそのことを教えてやれば良いじゃねぇか!!」

 

「無駄だよ、遊城 十代――既に手遅れなレベルで状況は悪化している……もはやあの男を歴史から消し去る以外に道はない!」

 

 十代の当然の意見も、今までのやり取りで散々歴史の歪みを見せられてきたパラドックスからすれば論外だった。この状態では細かな軌道修正はもはや不可能である。

 

「そうなんだ……」

 

「状況が理解できたようだな、武藤 遊戯――退くのなら止めはしない」

 

 理解の色を示した表の遊戯の姿に「分かってくれたか」とパラドックスは息を吐く。無用な争いはパラドックスも望む所ではない。

 

「ボクはキミの言っていることも少し分かるよ」

 

「なんだと?」

 

 しかし遊戯の「分かる」との言葉にパラドックスは眉をひそめる。

 

 絶望の未来を誰よりも知るパラドックスの前で軽々しく「分かる」などと口にする姿は看過できないようだ。

 

 だが表の遊戯は構わず続ける。

 

「ボクも少し前に似たような経験をしたから……」

 

 享受する筈だった幸福を奪われた(グールズに人生を狂わされた)被害者と、過去の悲劇によって恐慌に奔った加害者(グールズとして多くの人生を狂わせたマリク)

 

 加害者を切り捨てるべき――それが世間一般な答えなんだろう

 

 しかし、表の遊戯は「どちらも救いたい」と、そう思った――エゴだった。それは表の遊戯にも分かっている。

 

「キミは自分の大切な人や未来を守る為に行動しているだけなんだよね……でもね――」

 

 話のスケールの違いがあれど本質の部分は同じだと語る表の遊戯。

 

 ゆえに表の遊戯はパラドックスの選択にこう返す。

 

 

「誰かから奪ったり、殺したり――そんな先に得た未来なんてきっと悲しいよ」

 

 

 そんな選択しか出来ないパラドックスの環境が、

 

 世界の全てを背負おうとするパラドックスの在り方が、

 

 己の身すら顧みないパラドックスの心が、

 

 

 唯々表の遊戯には悲しく映った。

 

 

 そんな表の遊戯の視線にパラドックスは歯を食いしばる――怒りではない。

 

「悲しい……だと? そんな感情(モノ)はどうでも良い!! 世界が救われるのなら、私が幾ら血に塗れようとも後悔はない!!」

 

 それは叫びだった。決意だった。覚悟だった。

 

 悲しい叫びだった。悲しい決意だった。悲しい覚悟だった。

 

 滅んだ世界でパラドックスに出来るのはそれだけだった。

 

「だったらボクは示すよ」

 

 滅んだ世界の命運を背負うパラドックスに表の遊戯は強い視線で返す。

 

「未来の、ボクたちの可能性を他ならぬキミに!」

 

 パラドックスが全てを背負う必要はないのだと。

 

「十代くん、遊星くん――協力してくれるかな?」

 

 そう2人に問いかけた表の遊戯に返す言葉など決まっている。

 

「勿論だぜ、遊戯さん! ワクワクしてきたぜ!」

 

「見せてやりましょう、遊戯さん! 俺たちの可能性を!!」

 

 そんな十代と遊星の声に表の遊戯は闇遊戯へと人格交代し、決意に満ちた瞳で宣言する。

 

「行くぜ、パラドックス! 俺たちの全てをその眼に焼き付けな!」

 

 その闇遊戯の視線にパラドックスが返すモノなど1つだ。

 

「…………良いだろう! ならばその可能性とやらで、この絶望的な状況を覆してみるがいい!!」

 

 デュエルで雌雄を決しようと。

 

「 「 「 「 デュエル!! 」 」 」 」

 

 こうして神崎のデュエルを引き継いだ遊戯・十代・遊星のチームとパラドックスの互いの信念を賭けたデュエルが幕を上げた。

 

 

 当の神崎はそのデュエルに巻き込まれぬように極力存在感を薄めていたが。

 






相手のフィールドにはSinモンスター5体、

自軍の残りライフ300・手札1枚の状況で引き継ぎさせる神崎……いや、もうちょっと頑張れなかったのか……

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