マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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パラドックスVS 遊戯・十代・遊星 戦――中編です。



前回のあらすじ
E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス》……貴方はもう過労死しそうになるまで頑張らなくていいの……


後のことは《ユベル》と《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》に任せて
N(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン》たちとゆっくりとお休みなさい……




――永遠にねぇ!!



第136話 罪ヲ背負イシ者

 

 

 がら空きになったフィールドを眺めつつパラドックスは過去、いや、未来に想いをはせる。

 

 

 イリアステルの本拠地であるアーククレイドルにて瞳を閉じるZ-ONEを視界に捉えたパラドックスは年齢ゆえにガタがき始めた身体でZ-ONEに近づく。

 

「どうした、Z-ONE? なにをしている?」

 

 そのパラドックスの老いを感じさせるしゃがれた声にZ-ONEは瞳を開いて返す。

 

「犠牲にしてしまった者たちへの『祈り』でしょうか……いや、ただの自己満足ですね」

 

 Z-ONEは今現在の滅びた世界を救うべく歴史改変を行った結果、死んだ人間へと想いを馳せていた。

 

 直接的ではないとはいえ、手を汚した側が何をしているのだろうとZ-ONEは自嘲気に息を吐く。

 

「だが歴史改変の結果、この滅亡した未来に僅かだが改善が見られる。彼らの犠牲は無駄ではない――この方法に問題はない筈だ」

 

「問題のない犠牲など存在するのでしょうか?」

 

 しかし歴史改変の成果は着実に出ていると返したパラドックスにZ-ONEは視線を合わせる。その瞳には何処か濁った色が見え始めていた。

 

「迷っているのか、Z-ONE?」

 

「いえ、迷いは最初の歴史改変の犠牲の際に振り切りました」

 

 心配気にZ-ONEの様子を窺うパラドックスにZ-ONEは小さく首を振り、やがて崩壊した世界へと視線を移しながら続ける。

 

「きっと、私はこの滅亡した未来を救った時、その時は歴史を歪めた大罪人として処されるのでしょう」

 

「だとしても我々が足掻かねばこのまま世界が滅ぶだけだ」

 

「そうですね……ですが例え、良き未来をもたらす為であっても過去の改変を許容すれば、悪用を始める人間が生まれることは必至」

 

 真っ直ぐに現実を見やるパラドックスの言葉にZ-ONEは話を変えるように「歴史改変」の危険性を上げていく。

 

 

「全てが終わった暁に我々の元に残るのはその罪科だけです」

 

 

 やがてZ-ONEが零した言葉はイリアステルという存在が「悪」ではないかという証明――血に塗れた手で救われた未来を掴んだとしてもZ-ONEに、彼らに未来はない。

 

 

 何処かZ-ONEはパラドックスたちを計画から遠ざけようとしているようにも感じられる。

 

 しかしパラドックスはなおのこと、と一歩前に出て返す。

 

「フッ、安心しろZ-ONE。例えどれ程の大罪であっても私たちで背負っていけばいい――私も含め、アポリアも、アンチノミーもそこまで軟ではない」

 

「――頼もしい限りですね」

 

 Z-ONEの憂いに「当時」のパラドックスはそう返した。自分たちの末路が地獄であっても4人でならきっと乗り越えていける、と。

 

 

 だが当の本人であるパラドックスはZ-ONEを置いてこの世を去った。

 

 時間移動すら可能にするイリアステルの科学力でも人の身に流れる時を留めておくことは出来ない。

 

 アポリアも、アンチノミーも、Z-ONEを置いてこの世を去ってしまった。

 

 全ての重責をZ-ONEに背負わせたまま。

 

 

 ゆえに冥府から機械の身体で全盛期の状態で舞い戻ったパラドックスはもう二度と、約束を違えないと誓う。

 

 

 

 やがて意識をデュエルに引き戻したパラドックスはフィールドにモンスターがいなくなった状況など気にした様子もなく不敵に笑い、デッキに手をかける。

 

「フッ、Sin化したモンスターを退けたか……ならばキミたちには私の真なる力をお見せしよう! 私のターン、ドロォオオオ!!」

 

 パラドックスの扱うSinモンスターたちは彼があらゆる時代から集めたカードをSin化させたものだ。

 

 だが「Sin」とはそもそも何なのか――それをこのターンでパラドックスは披露すべくカードを発動させる。

 

「まずは魔法カード《マジック・プランター》を発動! こいつはもう必要ない――永続罠《スキルドレイン》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 Sinモンスターを複数並べる上で必要不可欠な《スキルドレイン》を捨てるパラドックス。

 

「此処でリバースカード発動! 2枚目の罠カード《貪欲な瓶》を発動! 墓地のカードを5枚デッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 さらに瓶に5枚のカードを詰め、必要なカードをデッキに戻し――

 

「さらに速攻魔法《大慾な壺》を発動! 除外されたカードを3枚デッキに戻し、1枚ドローする――除外された《スターダスト・ドラゴン》・《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》・《レインボー・ドラゴン》をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

 壺の効果のドローで手札に引ききる。

 

 ここぞとばかりに手札を増やすパラドックスの姿が、嵐の前の静けさのように感じられた。

 

「魔法カード《暗黒界の取引》を発動。全てのプレイヤーはカードを1枚ドローし、手札を1枚捨てる!」

 

 最後に手札の質を高めるべくカードを使うが、引いたカードにパラドックスの動きが止まった。

 

――此処でこのカードか……

 

 引いたカードをそのまま捨てたパラドックスは目を見開き高らかに宣言する。

 

「そして魔法カード《死者転生》を発動! 手札を1枚墓地に送り、墓地のモンスター1体、《Sin 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を手札に戻す!」

 

 パラドックスの手札に引き寄せられるSinに囚われた黒き竜。

 

 これで再び《Sin 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の特殊召喚条件を満たしたが――

 

「準備は整った――私はチューナーモンスター、《Sin(シン) パラレルギア》を召喚!」

 

 パラドックスの狙いは別にある。

 

 黄土色の歯車の頭と棒状の手足を持つ今までのSinドラゴンとは一線を画すモンスターがパラドックスの元に降り立った。

 

Sin(シン) パラレルギア》

星2 闇属性 機械族

攻 0 守 0

 

「チューナーだと!?」

 

「――ってことは遊星みたいにシンクロ召喚ってヤツをするのか!?」

 

 闇遊戯と十代がパラドックスの狙いに気付くが――

 

「さらに私は墓地の罠カード《妖怪のいたずら》を除外し、効果発動! フィールドのモンスター1体のレベルを1つ下げる! 《Sin パラレルギア》のレベルをダウン!」

 

 着物の女性に小突かれ、頭の歯車の回転が鈍って行く《Sin パラレルギア》。

 

《Sin パラレルギア》

星2 → 星1

 

「だがシンクロ召喚にはフィールドにチューナー以外のモンスターが必要な筈だ!!」

 

 遊星の言う通り基本的にシンクロ召喚はフィールドのモンスターを素材として行う召喚法である。

 

 しかしいつの世にも例外はある。

 

「私のデッキにそんな常識は通用しない! 《Sin パラレルギア》を素材にシンクロ召喚とするとき、手札の『Sinモンスター』1体を素材とする!!」

 

「手札のモンスターをシンクロ素材にするだと!?」

 

 そんなトリッキーなシンクロ方法に驚愕の面持ちを見せる遊星を余所にパラドックスは宣言する。

 

「私は手札のレベル7《Sin 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》に、フィールドのレベル1となった《Sin パラレルギア》をチューニング!!」

 

 1つの光の輪を7つの星が潜り抜けていき――

 

「感動の再会と行こうじゃないか――シンクロ召喚!! 飛翔せよ! 《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

 星屑のきらめきと共に翼を羽ばたかせるのは遊星の相棒たるカード、《スターダスト・ドラゴン》。

 

 その白と水色の身体を宙を舞わせ、悲しむようにいななく。

 

《スターダスト・ドラゴン》

星8 風属性 ドラゴン族

攻2500 守2000

 

「俺の《スターダスト・ドラゴン》をッ!!」

 

「まだ終わらんよ、此処からが本番だ! 魔法カード《死者蘇生》を発動! 蘇れ、《Sin パラレルギア》!」

 

 沈痛な面持ちの遊星を余所に再びパラドックスの元に舞い戻る《Sin パラレルギア》はやる気を漲らせるように頭のギアを回す。

 

《Sin パラレルギア》

星2 闇属性 機械族

攻 0 守 0

 

「そして手札の2枚目のレベル8《Sin 青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に、フィールドのレベル2の《Sin パラレルギア》をチューニング!!」

 

 やがて2つの光の輪となった《Sin パラレルギア》を8つの星が潜り抜けていき、眩いばかりの光を放つ。

 

「次元の裂け目から生まれし闇よ! 時を越えた舞台に破滅の幕を引け!」

 

 やがて光から伸びるのは巨大な白い骨格を持った大きな黒い翼。

 

「シンクロ召喚! 《Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》!」

 

 やがて獅子のようなたてがみを持つ灰色の龍の顎が唸り声をあげながら巨大な翼を羽ばたかせ、突風を起こす。

 

Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》――パラドックスと似た「パラドクス」の名を持つ魔龍。

 

 これこそがパラドックスのSinの力の象徴。Sinの力の根源。

 

Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》

星10 闇属性 ドラゴン族

攻4000 守4000

 

 その圧倒的な威圧感に3人は声を失うが――

 

「『パラドクス』――つまりこのカードこそパラドックスのエースモンスター……」

 

 そう評する闇遊戯の言葉が全てを物語っていた。

 

 そんな中、パラドックスは遊星を指さし、声を張る。

 

「不動 遊星――キミの言う可能性など破滅の未来の前では塵芥に等しいことを教えてやろう!」

 

 更なる絶望を味わわせてやろうと。

 

 そのパラドックスの意思に呼応するように《Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》が咆哮を上げ空気を震わせる。

 

「シンクロ召喚に成功した《Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》の効果発動! 自分または相手の墓地のシンクロモンスター1体を私のフィールドに特殊召喚する!」

 

 やがて足元に広がった影のような丸い円に《Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》はその尾を差し込み――

 

「可能性とやらを従えろ! 《Sin(シン) パラドクス・ドラゴン》! 《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》を私のフィールドに特殊召喚!!」

 

 尾で絡めとった墓地のドラゴンがパラドックスのフィールドに引き摺り出された。

 

 そのドラゴンは《スターダスト・ドラゴン》と瓜二つの遊星が示した「可能性」こと《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》。

 

閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》

星8 光属性 ドラゴン族

攻2500 守2000

 

「《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》まで……!!」

 

 自身のドラゴンが2体も奪われたことに悔しさのあまり拳を握る遊星。

 

 だがパラドックスの猛攻は止まらない。

 

「そして此処で速攻魔法《サイクロン》を発動! 永続罠《暴君の威圧》を破壊! これでキミたちのモンスターは私の罠カードから逃れることは出来ない!」

 

 一陣の竜巻が遊星たちを守っていた神崎の残したカードを破壊する。

 

 それによりパラドックスの放つ罠カードから3人のモンスターが逃れる術は失われた。

 

「さらに永続罠《召喚制限(しょうかんせいげん)猛突(もうとつ)するモンスター》を発動! これで特殊召喚されたモンスターは全て攻撃表示となり、必ずバトルしなければならない! これで容易く壁となる守備表示モンスターを揃えることは叶わん!」

 

 特殊召喚しなければその効果を躱すことが出来るが、パラドックスを相手にモンスターの展開を押さえる行為はハイリスクだ。

 

「さぁ、バトルと行こう! 《Sin パラドクス・ドラゴン》! 《ジャンク・ウォリアー》を破壊しろ!!」

 

 《Sin パラドクス・ドラゴン》から放たれたブレスに拳をぶつけ合わせて耐える《ジャンク・ウォリアー》。

 

 だが僅かな攻撃力の差にジリジリと追い込まれて行き、耐えられないと悟った《ジャンク・ウォリアー》は己が身を盾に3人への衝撃を最小限に抑えた。

 

「だが《一時休戦》の効果でダメージはない! 済まねぇ、遊星! お前のモンスターを守れなかった!!」

 

「気にしないでください、十代さん!」

 

 仲間のモンスターを守れなかったことを悔やむ十代だが守るべき相手を守り通した《ジャンク・ウォリアー》を誇るように遊星は返す。

 

 しかしそんな友情を崩すかのようにパラドックスの追撃が迫る。

 

「いつまでその余裕が続くかな? 《スターダスト・ドラゴン》! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》を攻撃! シューティング・ソニック!!」

 

 それは奪われた仲間のドラゴンによって放たれる裏切りのブレス。

 

 そのブレスに対し、右腕の竜の顎から炎を噴き出し対抗する《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》だったが、最後は力負けしたように消し飛ばされた。

 

 しかしヒーローが倒れようとも、その意思は受け継がれる。

 

「融合召喚された《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》が破壊されたことで永続魔法《ブランチ》の効果が発動するぜ!」

 

 散っていった《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》の素材――力となっていたヒーローが地上に影を落としながら空より舞い降りる。

 

「《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》の融合素材となったモンスター1体を復活させる! 甦れ! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン》!!」

 

 その正体は緑の体躯を持つ鳥の翼が生えた風のヒーロー。腕に装着された鳥の爪のような武器を前方に突き出し、臨戦態勢を取った。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン》

星3 風属性 戦士族

攻1000 守1000

 

「まだだ! さらに罠カード《ヒーロー・シグナル》も発動! コイツは俺のモンスターが戦闘で破壊され、墓地に送られた時に手札・デッキからレベル4以下の『 E・HERO(エレメンタルヒーロー)』を特殊召喚する!」

 

 更にヒーローが敗れるピンチとなれば新たなヒーローが助けに来るのがお約束とばかりに空に浮かぶ「 E 」の文字から飛び立つ影が1つ。

 

「頼むぜ! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン》!!」

 

 深い青のヒーロースーツに水色のアーマーを付け、水の入ったタンクを2つ背負った水を操るヒーローが、腕に装着された発射口を天に掲げつつ降り立つ。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン》

星4 水属性 戦士族

攻 800 守1200

 

 パラドックスの永続罠《召喚制限-猛突(もうとつ)するモンスター》の存在から攻撃表示で呼び出された新たな2体のヒーロー。

 

 これで十代のフィールドにはヒーローが3体。数の上ではパラドックスのモンスターと互角。

 

「壁モンスターを増やしたか……だが大した攻撃力ではない! 《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》でスパークマンを攻撃! 流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!」

 

 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》目掛けて発射される星屑のブレスに掌からイカズチを出して対抗するが、ブレスの勢いが収まる気配など無い。

 

 そしてブレスの渦に呑まれ苦悶の声を上げる《E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》。

 

 だがその《E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》の背を支えるものがいた。

 

「俺は速攻魔法《瞬間融合》を発動! 今、この瞬間に俺は自分フィールドのモンスターで融合召喚を行う!!」

 

 それは《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン》と《E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン》の姿。

 

 そこには互いの苦楽を共に分かち合うヒーローの結束があった。

 

「フェザーマン! バブルマン! スパークマンの3体でトリプル融合!!」

 

 やがてその結束はヒーローに新たな力をもたらす。輝きと共に3体のヒーローの力が1つに結集していき――

 

「風を呼び! 雨を呼び! 雷を呼ぶ暴風となれ! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター》!!」

 

 星屑のブレスを打ち消しながら飛翔する青い影は緑の鳥の翼をその背に広げる新たなヒーローの勇姿。

 

 その左腕には手甲に付けられた鍵爪が光り、右腕には腕と一体化した巨大な銃が音を立て、エネルギーを充填し、目元を隠すバイザーが煌く。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター》

星8 風属性 戦士族

攻2800 守2800

 

「此処に来てテンペスターだと!?」

 

「さらに、お前のモンスターはお前自身が発動した永続罠《召喚制限-猛突(もうとつ)するモンスター》で攻撃しなきゃならいないぜ!」

 

 相手のターンにも関わらず3体融合を決めて見せた十代に驚愕を見せるパラドックスだが、十代の声を聞き、この機を逃さないと《E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター》が右腕の銃身を《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》へと向ける。

 

「《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》をぶっ飛ばせ、テンペスター! カオス・テンペストォ!!」

 

 望む所だとばかりに再度放たれた《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》のブレス。

 

 だが《E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター》の右腕の銃から放たれた3つの属性エネルギーを込めた弾丸はそのブレスを容易く打ち抜き、《閃珖竜(せんこうりゅう)スターダスト》を貫かんと迫る。

 

「だが甘い! 私は《閃珖竜 スターダスト》の効果を使い、自身を選択! それにより、このターン一度だけ破壊されない! 波動音壁(ソニック・バリア)!!」

 

 だが初見の《閃珖竜 スターダスト》の効果を使いこなすパラドックスの前にはその一撃は届かない。

 

 空を舞う《閃珖竜 スターダスト》の姿は健在だ。

 

「くっそー! 躱されちまったか……遊星のモンスターは強いな!」

 

 悠然と宙を舞う2体の遊星のドラゴンの姿を眩しそうに見つめる十代――シンクロモンスターに興味津々である。

 

「くっ、モンスターを残す結果となったか……カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス》を所持していない十代といえども、その実力に陰りはないと考察するパラドックスは警戒心を高めながらターンを終えた。

 

「そのエンド時に速攻魔法《瞬間融合》で融合召喚したテンペスターは破壊されちまう……だけど永続魔法《ブランチ》の効果で融合素材となった――スパークマンが復活だ!」

 

 その瞬間、《E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター》が負傷した身体で無理に融合した弊害か、身体が粒子となって消えていく。

 

 しかしその粒子の消えた先から《E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》が降り立った。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》

星4 光属性 戦士族

攻1600 守1400

 

「すみません、遊戯さん! モンスターを残すので精一杯でした!」

 

 パラドックスとの攻防によって次のターンへの余力を残せなかったと意気消沈する十代だが、闇遊戯は親指を立てて賞賛する。

 

「いや、キミのお陰でかなり手札が潤った――感謝するぜ! 俺のターンだ! ドロー!!」

 

 十代や遊星のお陰でプレイヤー全体がドローするカードが多く発動された為、遊戯の初期手札は8枚と破格の枚数。

 

 だが十代はそれだけでは申し訳ないとばかりに宣言する。

 

「この遊戯さんのスタンバイフェイズで俺の発動した永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の1度目のスタンバイフェイズだ!!」

 

「特殊ルールの特性を利用したか……」

 

 そう零すパラドックスの言葉通り、3人のデュエリストを1人として扱っているこの特殊なデュエルの状況において、この手のフェイズを参照する効果の扱いは難しい。

 

「俺のエクストラデッキの融合モンスター1体を公開し、その融合素材モンスターをデッキから墓地に送る!」

 

 しかし活用すれば自身のターンが回っていなくとも効果的に動くことが出来る。

 

「俺は融合モンスター《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロイド・シャーマン》を公開し、その融合素材の《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン》と《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン》を墓地に送る!」

 

 やがて十代の宣言を聞き、浅黒い肌の歌舞伎役者のようなヒーローの姿がチラと見えた後、ジャングルの王者を思わせるワイルドな出で立ちの無骨な大剣を背にしたヒーローが十代のデッキから墓地へ送られる。

 

 そして赤い体躯に肩と腕に土色のアーマーを付け、数珠を身体に巻き付けたヒーローがその後を追った。

 

「やるな、十代! 俺も負けてられないぜ!」

 

 特殊ルールを上手く活用した十代の姿に闘志を燃やす闇遊戯は剣と杖が交錯するマークが見えるカバーが付いたデュエルディスクに手をかけ、宣言する。

 

「まずはコイツを受けな、パラドックス! 墓地の魔法カード《ギャラクシー・サイクロン》を除外し、効果発動! フィールドの表側の魔法・罠カードを1枚破壊する!」

 

 すると遊戯のデュエルディスクの墓地ゾーンから白い竜巻が発生し始めた。

 

 

――神崎 (うつほ)が墓地に送っていたカードか!

 

 そのパラドックスの予想通り、最後に引き当てた頼みの綱だった除去カード。

 

 これでSinモンスターのデメリットを誘発させる狙いだったのだが、引き継いだ遊星や十代がSinモンスターの効果を知らなかったゆえに今の今まで放置されていたカードだ。

 

「永続罠《召喚制限-猛突(もうとつ)するモンスター》を破壊!」

 

「そうはさせん! 《閃珖竜 スターダスト》の効果! フィールドの表側のカードに1度の破壊耐性を付与す――」

 

遊戯の宣言に当然、破壊されるカードを守る選択を決断したパラドックスだったが、ふと脳裏に不安が過る。

 

――本当に永続罠《召喚制限-猛突(もうとつ)するモンスター》を守っていいのか?

 

 今の今まで使用されていなかったカードが急に使用された事実にパラドックスは頭をフル回転させ――

 

――《閃珖竜 スターダスト》の効果はこのデュエルで何度も使用された。武藤 遊戯が知らない筈がない……これは罠!!

 

「フィールド魔法《Sin(シン) World(ワールド)》に耐性を付与する! 波動音壁(ソニック・バリア)!!」

 

 パラドックスは自身のデッキの中核となるカードを守ることを選んだ。《閃珖竜 スターダスト》から放たれた光が周囲を彩る。

 

 そんな姿に闇遊戯は己の仮説が正しかったことを確信する。

 

――神崎の墓地には《ギャラクシー・サイクロン》を含め、魔法・罠カードを除去するカードが多かった……そしてヤツの反応。

 

 遊星や十代がパラドックスの気を引いている間、素早く神崎の墓地を確認していた闇遊戯の中にあった仮説。それは――

 

「やはりお前の『Sinモンスター』はそのフィールド魔法が大事なようだな」

 

 Sinモンスターの特性――所謂デメリット効果の実態。

 

「その通りだ――このフィールド魔法を失ったとき、私の『Sinモンスター』たちは自壊する」

 

 よくぞ見抜いたと闇遊戯に賞賛を送るパラドックスだが――

 

「だが武藤 遊戯。ヤツの残したカードを頼ったということはキミの手札に除去カードはそう残ってはいまい。破壊するには一度の破壊耐性に《スターダスト・ドラゴン》の破壊無効化の力も超えねばならない!」

 

 見抜かれたとしても、その弱点を突くのはそう容易くはないとパラドックスは返す。

 

「ふっ、安心しな――今の俺の手札にフィールド魔法を除去するカードはないぜ」

 

「なんだと?」

 

 だが始めから闇遊戯の狙いにSinモンスターの弱点を突く――などは存在しない。

 

「これでお前を守っていた遊星の《閃珖竜 スターダスト》の効果はこのターンは使えない!」

 

「其方が狙いか!?」

 

 その真の狙いは《閃珖竜 スターダスト》が持つ毎ターン、仲間を守る効果を無駄打ちさせること。

 

 これでパラドックスのモンスターに破壊耐性が付与されることはない。

 

「早速、十代が残してくれたヒーローの力を借りるぜ! スパークマンをリリースし、アドバンス召喚!!!」

 

 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン》が光のスポットライトとなるべく空へと跳躍し、命の灯火を光とする。

 

「来い! 《ブラック・マジシャン・ガール》!!」

 

 その光から躍り出たのは水色とピンクを基調にした軽やかな法衣を身に纏う魔術師の少女。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

「そして魔法カード《賢者の宝石》を発動! 俺のフィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》が存在するとき、手札・デッキから師たる《ブラック・マジシャン》を呼び出すぜ!」

 

 さらに《ブラック・マジシャン・ガール》が地面に描いた魔法陣から浮かび上がった赤い宝石が砕け――

 

「並び立て! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

2人の遊戯の頼れる黒き魔術師たる《ブラック・マジシャン》が《ブラック・マジシャン・ガール》の隣に浮かぶ。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

「ブラマジきた~!!」

 

 デュエルキングの相棒たるカードの出現にテンションを高める十代。だがそんな中で――

 

『お師匠様。なんだかすっごく強そうな敵なんですけど』

 

《ブラック・マジシャン・ガール》はソリッドビジョンと関係なくしゃべる。所謂「精霊」というヤツだ。

 

 そのカードの精霊たる《ブラック・マジシャン・ガール》は《Sin パラドクス・ドラゴン》の圧倒的な威圧感に気後れしている模様。

 

『臆するな』

 

 だが師匠たる《ブラック・マジシャン》は動じた様子を見せず、不肖の弟子に苦言を呈する――主たる遊戯の前で狼狽えるんじゃない、と。

 

 

 地面に膝を突き、腕を交差しながらまだまだ未熟な弟子に頭を痛める《ブラック・マジシャン》。

 

『――と言うか、お師匠様! 何で守備表示なんですか!!』

 

 その姿に弟子たる《ブラック・マジシャン・ガール》の鋭いツッコミが炸裂した。

 

 弟子が攻撃表示で臨戦態勢を取っているというのに、師匠が何故、守備姿勢なのだと。

 

『臆するな』

 

『お師匠様!?』

 

 しかしキリリとした表情で先と同じ言葉を返す師匠の言葉に弟子たる《ブラック・マジシャン・ガール》が素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。

 

 

 だが師たる《ブラック・マジシャン》は信じているのだ――己の主たる2人の遊戯を。

 

「さらに速攻魔法《スター・チェンジャー》を発動! モンスター1体のレベルを1つ上げる! 《ブラック・マジシャン・ガール》のレベルがアップ!!」

 

 こなくそーとばかりに杖を突き上げる《ブラック・マジシャン・ガール》――いいぞ、その調子だ。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

星6 → 星7

 

「さらにライフを1000払い、魔法カード《拡散する波動》を発動!」

 

遊戯・十代・遊星LP:1500 → 500

 

 天に突き上げた《ブラック・マジシャン・ガール》の杖の先端の周囲を回るように魔力が満ち溢れる。

 

「これで俺のレベル7以上の魔法使いモンスター1体――《ブラック・マジシャン・ガール》は相手フィールドのモンスター全てに攻撃が可能だ!!」

 

 その杖に宿る魔力に《ブラック・マジシャン・ガール》は「これなら」と喜色の表情を見せる――が、師匠の《ブラック・マジシャン》がその弟子の姿に頭を押さえていた。

 

「だがその攻撃力では私の《Sin パラドクス・ドラゴン》はおろか、2体のスターダストの攻撃力にすら届かない!」

 

 そう、パラドックスの言う通り、攻撃力が足りないのである。

 

 その本人的には衝撃の事実に《ブラック・マジシャン・ガール》は闇遊戯を慌てて見やる。

 

 だが安心して欲しい。デュエルキングが何の考えもない筈がない。

 

「それはどうかな? まずは装備魔法《ワンショット・ワンド》を《ブラック・マジシャン・ガール》に装備し、攻撃力800ポイントアップ!!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の杖の先が三日月のような形に変化し、月の魔力がその身に宿る。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻2000 → 攻2800

 

「さらに魔法カード《一騎加勢(いっきかせい)》を発動! モンスター1体の攻撃力をターンの終わりまで1500ポイントアップする!!」

 

 守備姿勢からスクッと立ち上がり加勢の意思を見せる《ブラック・マジシャン》の姿に《ブラック・マジシャン・ガール》は「おぉっ!」と視線を向けた。

 

「師弟の力を合わせろ! 《ブラック・マジシャン》! 《ブラック・マジシャン・ガール》!!」

 

 やがて互いの持つ杖を交錯した魔術師師弟の力は限界を超え、高まっていき――

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻2800 → 攻4300

 

 《Sin パラドクス・ドラゴン》の攻撃力を超える程の数値となった。

 

 攻撃力4000オーバーに全体攻撃能力を持った《ブラック・マジシャン・ガール》は自信タップリな様相だ。

 

 そんな状況で遊星はポツリと零す。

 

「遊戯さん――俺に構わずスターダストたちを破壊してくれ!」

 

 苦渋に満ちた表情の遊星の言葉に闇遊戯は小さく頷き――

 

「装備魔法《リボーンリボン》を《スターダスト・ドラゴン》に装備! そしてバトルだ!」

 

 バトルフェイズへと移行する。

 

 その主の言葉に《ブラック・マジシャン》は《ブラック・マジシャン・ガール》へと視線を向け――

 

『いくぞ!』

 

『はい、お師匠様!』

 

 2人の魔術師の力を合わせた強大な魔力の球体が形成されて行き――

 

『 『 ブラック・ツイン・バースト!! 』 』

 

 無数の魔力の刃となって弾けた。

 

 空を舞って魔力の刃を躱し、ブレスで攻撃を相殺する3体のドラゴンだが、無限とも思える物量の魔力の刃の雨の前に全てのドラゴンたちが切り裂かれた。

 

 周囲をその攻撃の余波が爆風となって襲う。

 

「スターダスト諸共、《Sin パラドクス・ドラゴン》を破壊したか……だが発動しておいた罠カード《攻撃の無敵化》の効果により私はこのターン戦闘ダメージを受けない」

 

 しかしパラドックスを守るように広がる障壁によりライフにダメージはない。

 

「なら装備魔法《ワンショット・ワンド》の効果でこのカードを破壊し、カードを1枚ドローするぜ」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の杖から魔力が零れ、闇遊戯の手札を繋ぐ、

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻4300 → 攻3500

 

 元の形に戻った杖を残念そうに眺める《ブラック・マジシャン・ガール》を余所にダメージを防ぎ切ったパラドックスへ闇遊戯は警戒を強めるが――

 

「これでお前の頼みの切り札は消えたぜ!」

 

 だとしても、その十代の言葉が示す様に、再びモンスターを全て失ったパラドックスが再度自軍を立て直すには相応の手間がかかる。

 

 

 普通のデュエリストが相手なら。

 

 

「フッ、一見正しいように見えた今の攻撃――――だがそれは、大いなる間違い!!」

 

 遊戯・十代・遊星が相対しているのはそんな「普通」の人間が届き得ぬ頂きに存在するパラドックス。

 

 己のエースたる《Sin パラドクス・ドラゴン》が敗れることも織り込み済みだと天に左利き用のデュエルディスクを装着した腕を掲げ、宣言する。

 

「私の『Sinモンスター』が破壊された瞬間! 我が身を生贄とし、ライフを半分払うことで墓地から究極の(シン)を呼び覚ます!!」

 

 デュエルディスクの墓地ゾーンから黒い闇が這い出し、パラドックスの命たるライフを喰らっていく。

 

パラドックスLP:4700 → 2350

 

――Z-ONE。もうキミが罪を背負う必要などない……その(Sin)を受け止めるのが(Sin)だ。その為のSin()だ。

 

 パラドックスは守らなければならない嘗ての約束を胸に己が身を捧げる。

 

「う、おぉおおおおぉおおおッ!! キミ達はこの私自らの手で葬ってやる……!!」

 

 やがてその闇がパラドックスのD・ホイールとパラドックス自身を覆い、巨大な繭のように肥大化。

 

 そしてその闇の繭にヒビが入り、砕け散った際に周囲一帯を闇の暴風と言うべき衝撃が襲う。

 

「我が身に宿るがいい! 罪背負いし、黄金の翼!! 《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》!!」

 

 その衝撃に遊戯・十代・遊星の3人がそれぞれ腕で顔を覆う。やがてその暴風たる衝撃が晴れた先に佇むのは巨大な黄金のドラゴン。

 

 その巨体は先の巨大な《Sin パラドクス・ドラゴン》よりもさらに上。

 

 そして左右に伸びる翼はその身体よりなお巨大なものだった。

 

Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》

星12 闇属性 ドラゴン族

攻5000 守5000

 

 そんな《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》の額からパラドックスの上半身が一体化した状態で存在する。

 

 まさに一心同体の様相である。その姿は――

 

「自分の姿をモンスターに変えやがった!?」

 

 そう十代が評するのも無理はない。

 

「コイツがヤツの本当の切り札……」

 

「これ程の力を持っていながら、何故デュエリストたちからカードを奪ったんだ!!」

 

 警戒を見せる遊戯の姿を余所に遊星は叫ぶ――パラドックスのデュエリストの実力を肌で感じるゆえにカードを奪う必要性が理解できない。

 

 そんなことをしなくとも、パラドックスは十分過ぎる程の力を持っていた筈だと。

 

 だがパラドックスは「それでいいのだ」と笑う。

 

「フハハハハッ! 言いたいことはそれだけか! なら好きなだけ(そし)るがいい、(ののし)るがいい!」

 

――その全ての(Sin)は私が背負う!! Sin()の化身となろうとも!!

 

 パラドックスはイリアステルの罪の象徴としての己を望む。

 

 破滅の未来を回避し、人類を救った暁にZ-ONEも共に救う為に。

 

 

 イリアステルの全ての(Sin)を背負う覚悟を持ったパラドックスはデュエルへと意識を戻し、遊戯を指さし返す。

 

「そして武藤 遊戯! キミが発動した魔法カード《拡散する波動》の効果で《ブラック・マジシャン・ガール》は我が《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》を攻撃しなければならない!!」

 

 そのパラドックスの言葉に引き寄せられるように《ブラック・マジシャン・ガール》は《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》に引き寄せられていく。

 

『わわわ!?』

 

 そんな慌てた声を漏らす《ブラック・マジシャン・ガール》を待つのは《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》の顎が開きエネルギーが充填され、今放たれんとするブレス。

 

 

 やがて放たれた破滅のブレスに《ブラック・マジシャン・ガール》はギュッと目を閉じた。

 

「墓地のモンスター《タスケルトン》を除外し、効果発動! モンスター1体の攻撃を無効にする! 俺は《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃を無効!!」

 

 だがそのブレスと競り合うように黒い子ブタがその身を盾とする。

 

 闇遊戯から《ブラック・マジシャン》に託され、その手から投擲されたものだ。

 

 やがて《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》のブレスを天へと弾くと同時にその身を覆う肉が消し飛ぶ《タスケルトン》。

 

『た、助かった~』

 

 安堵の息を吐く《ブラック・マジシャン・ガール》の前に骨格標本のようになった《タスケルトン》が転がり、ビクッとする弟子の姿に平常心が足りないと呆れた様相で見守る《ブラック・マジシャン》。

 

「上手く躱したか……」

 

 そう小さく零すパラドックスを余所に――

 

「さっすが遊戯さんだぜ!」

 

「これがデュエルキング……!!」

 

 突発的なピンチを鮮やかに回避した遊戯の姿に十代と遊星は感嘆の声を漏らす。

 

 そんな2人の姿を余所に闇遊戯はデュエルへ意識を引き戻す。

 

「俺はバトルを終了し、カードを2枚セットしてターンエンド!! この瞬間に魔法カード《一騎加勢(いっきかせい)》の効果が終了し、《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力が元に戻るぜ」

 

 溢れんばかりの魔力を迸らせていた杖から魔力が抜けていく様子に残念そうな声を漏らす《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻3500 → 攻2000

 

 パラドックスの真なる切札たる《 Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》の出現に、3人が引き戻した状況は一気に巻き返された。

 

 

 だが闇遊戯たちに対抗手段がない訳ではない。

 

 

 3人を守るように白と水色の体表のドラゴンが羽ばたき、星屑のような煌きを見せる。そのドラゴンは――

 

《スターダスト・ドラゴン》

星8 風属性 ドラゴン族

攻2500 守2000

 

「スターダスト? 何故、俺たちのフィールドに……」

 

 パラドックスに奪われていた筈の遊星の相棒たるドラゴン《スターダスト・ドラゴン》。

 

 相棒の帰還だというにも関わらず呆然した様子の遊星に闇遊戯は語る。

 

「このエンド時に装備魔法《リボーンリボン》の効果が適用されたのさ」

 

 それはバトルの前に発動されていた装備魔法の効果。

 

「このカードを装備したモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた場合、そのターンのエンドフェイズに俺たちのフィールドに特殊召喚できる――キミの大切なカードなんだろ?」

 

 そう、遊戯の本当の目的は遊星の大切なカードを取り戻すこと。

 

 デュエリストにとってデッキのカードは仲間と同義。闇遊戯もデュエリストの一人として奪われたまま放っておくことなど出来ない。

 

「スゲェ! 遊戯さん! 遊星のカードを取り返した!」

 

 自身に出来なかったことを事も無げにやってのけたデュエルキングの姿に舞い上がる十代。

 

「ありがとうございます! 遊戯さん!」

 

 尊敬の視線と共に感謝を送る遊星。

 

 

 だがパラドックスからそんな3人を冷たく見下ろす。

 

「ふっ、スターダストを取り戻したか……だが、もはやキミがスターダストを手にしたとしても、この絶望的な状況に変わりはない! 私のターン! ドロー!!」

 

 圧倒的な攻撃力と強力無比な効果を持つ《Sin トゥルース・ドラゴン》が存在する限り、いくらモンスターを並べようとも無意味だと。

 

「バトル! 《Sin トゥルース・ドラゴン》よ! 《スターダスト・ドラゴン》を攻撃!! これで残りライフ500のキミたちは終わりだ!!」

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》の顎が再び音を立てて開き、破滅のブレスが自由を取り戻した《スターダスト・ドラゴン》に迫る。

 

「遊星のカードをこれ以上、お前の好きにはさせないぜ! 罠カード《亜空間物質転送装置》を発動!」

 

 だが闇遊戯の宣言と共に、そのブレスに晒される筈だった《スターダスト・ドラゴン》の身体は捻じれたようにその姿を歪めると同時に消失した。

 

 対象を失ったことで《Sin トゥルース・ドラゴン》のブレスが素通りし、闇遊戯の背後に着弾し、炎を上げる。

 

「その効果により俺たちのフィールドのモンスター1体をターンの終わりまで除外する! 除外された《スターダスト・ドラゴン》にお前の攻撃は届かないぜ!」

 

 そんな炎が猛る中、遊戯の声が木霊するが――

 

「なら《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃するまでだ!!」

 

 どのみち結果は変わらないとパラドックスは己と一体化した《Sin トゥルース・ドラゴン》に再度攻撃を敢行させる。

 

「これで私の勝ちだ。消え去れ、遊戯! 十代! 遊星!」

 

 破滅のブレスに身を晒され、悲痛な叫びと共にその身を散らす《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

 

 やがて巨大な爆発が発生する中、パラドックスは勝利を確信する。闇遊戯の最後のリバースカードも発動された様子はない。

 

「さらばだ。歴戦のデュエリストたちよ」

 

 これでようやく歴史を歪みに歪ませた神崎を殺しにいけると、名立たるデュエリストたちに別れの言葉を送るパラドックス。

 

 

 未来が救われた暁には彼ら3人もまた救われるだろうと未来に想いをはせながら。

 

 

 

 

 

 

遊戯・十代・遊星LP:500

 

 だが爆炎が晴れた先には辛うじて立つ3人の姿が残る。

 

「なんだと!?」

 

「相手の攻撃によって戦闘ダメージを受けるダメージ計算時にコイツを発動させて貰ったぜ! 罠カード《パワー・ウォール》をな!!」

 

 驚愕に目を見開くパラドックスに闇遊戯は最後のリバースカードを発動させていたことを語る。

 

「その効果で受けるダメージが0になるように500ダメージにつき1枚、デッキトップからカードを墓地に送る! ダメージは3000! よって6枚墓地に!!」

 

 そしてデッキの上からカードを6枚墓地に送る闇遊戯にパラドックスは追い打ちをかける。

 

「悪足掻きを! この瞬間、《Sin トゥルース・ドラゴン》の効果が発動される!」

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》がその巨大な黄金の翼を羽ばたかせると共に黒き疾風が吹き荒れ――

 

「《Sin トゥルース・ドラゴン》が戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!!」

 

 その風は無数の黒い針のように姿を変え、3人のフィールドのモンスターに殺到する。

 

「消えるがいい! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 それら全てに貫かれる《ブラック・マジシャン》が苦悶の声を上げた後に倒れる姿に十代は悲痛な声を上げる。

 

「遊戯さんの《ブラック・マジシャン》が!!」

 

「だとしてもこのターンは凌げました!」

 

 しかしその犠牲は無駄にはしないと拳を握る遊星にパラドックスは小さく笑みを浮かべ――

 

「それはどうかな?」

 

 手札の1枚のカードを発動させる。

 

「私は手札から速攻魔法《旗鼓堂々(きこどうどう)》を発動! 墓地の装備カード1枚をフィールドのモンスター1体に装備する!」

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》の雄叫びが空気を震わせる中、装備されたのは――

 

「私は《閃光の双剣-トライス》を《Sin トゥルース・ドラゴン》に装備! これにより攻撃力が500下がるが、2回攻撃が可能になる!!」

 

 2本の剣――その二振りの剣を喰らった《Sin トゥルース・ドラゴン》の身体に剣の特性が引き継がれて行く。

 

《Sin トゥルース・ドラゴン》

攻5000 → 攻4500

 

「もはや、キミたちを守るカードはない! 《Sin トゥルース・ドラゴン》でダイレクトアタック!!」

 

 連撃能力を得た《Sin トゥルース・ドラゴン》がブレスを再チャージする中、パラドックスは声を張る。

 

「遊星! 人には未来を変える力があると言ったな! キミはこの絶望から何を変えられると言うのだ!?」

 

 遊戯・十代・遊星たちですら変えられない絶望が存在するのだと語るパラドックス。

 

 そんなパラドックスの言葉に遊星は弱々しく零す。

 

「くっ……ダメなのか……俺たちの未来は……破滅」

 

 既にモンスターもおらず、リバースカードも存在ない絶望的な状況に遊星の心に揺らぎが見えた。

 

 

 

 だが闇遊戯が力強い口調で語る。

 

「顔を上げろ、遊星――デュエルはまだ終わっちゃいない」

 

 十代が楽しそうに返す。

 

「そうだぜ、遊星! デュエルは最後の最後まで楽しむもんだ!!」

 

 ユベルが愛おしさを込めて零す。

 

『そうだよ、遊星――ボクの十代がこんな絶望なんかに負けやしないさ』

 

 

 彼らの瞳に「諦め」なんてものは欠片も映ってはいなかった。

 

「遊戯さん……十代さん……ユベルさん……」

 

 遊星の顔に活力が戻る。

 

 そして《Sin トゥルース・ドラゴン》のブレスが放たれる中、十代は闇遊戯に振り向き――

 

「――ってことで、遊戯さん! 貴方のカードを使わせて貰います!」

 

「ああ!」

 

「ダイレクトアタック宣言時に墓地の《クリアクリボー》を除外して効果発動! 俺はデッキから1枚ドロー! それがモンスターカードだった時には特殊召喚し、そのモンスターとバトルさせる!!」

 

 墓地から飛び出た毛玉こと《クリアクリボー》の身体がパカリと開く。

 

「ふっ、果たしてそう都合よくモンスターを引き当てることが出来るかな?」

 

「へへっ、でも引いたら面白れぇよな――――ドロー!!」

 

 パラドックスの挑発染みた言葉に十代は楽しそうに笑いデッキからカードを引く。引き当てたカードは――

 

 

 

 

『やっとボクの出番のようだね』

 

 パートナーたる精霊が宿るカード《ユベル》が翼を広げ、愛する十代を守るべく立ち塞がる。

 

《ユベル》

星10 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

「バカな! 《Sin トゥルース・ドラゴン》の攻撃を全て躱しただと!?」

 

 壁モンスターが現れたことで《Sin トゥルース・ドラゴン》は十代たちには届かない。

 

 この土壇場にて《ユベル》を引ききった十代のドロー力に驚愕するパラドックスだが――

 

「躱すだけじゃないぜ! 《ユベル》は戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも0に!」

 

 ()()()()の《ユベル》は《Sin トゥルース・ドラゴン》のブレスをこともなげに受けて止め――

 

「そして相手に攻撃された場合はダメージ計算前に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージをお前に与えるぜ!!」

 

 十代の声に倣うように《Sin トゥルース・ドラゴン》の圧倒的な攻撃力を利用し、反撃に転じる《ユベル》。

 

『今までの痛みを返して上げるよ』

 

 やがてブレスを掻き消した《ユベル》はそうポツリと零し、十代と視線を合わせ――

 

「 『 ナイトメア・ペイン!! 」 』

 

 その足元から《Sin トゥルース・ドラゴン》の力を存分に吸い上げた植物のツタのようなものがパラドックスに向けて放たれた。

 

「チィッ!!」

 

 その一撃によってパラドックスと一体化している《Sin トゥルース・ドラゴン》の巨体が揺れ動く。

 

 

 4500もの効果ダメージに2350のライフのパラドックスは耐えられない。

 

 

パラドックスLP:2350

 

 だがパラドックスにダメージはなかった。

 

『無傷?』

 

「私は罠カード《ホーリーライフバリアー》を発動していた――その効果により手札を1枚捨て、発動ターンに私が受ける全てのダメージは0!」

 

 訝し気に首を傾げるユベルにパラドックスはリバースカードを指し示す。

 

 まだデュエルは終わりではないと。

 

「《ユベル》の一撃すら躱すなんて……」

 

「だがヤツの手札はこれで0――早々動くことは出来ない筈だ」

 

 悔し気な声を漏らす十代に闇遊戯は毅然とした態度で返す。まだ挽回は可能だと。

 

「くっ……だが手札が心許ないのはキミたちも同じこと――私はこれでターンエンド!」

 

 アドバンテージの差がジワジワと狭まって行く状況に焦りを見せるパラドックス。

 

「そのエンドフェイズに罠カード《亜空間物質転送装置》で除外した遊星のスターダストが帰還するぜ!」

 

 そんな中、遊戯の呼びかけに応じて遊星の相棒たる流線形のドラゴンが異次元より舞い降りる。

 

《スターダスト・ドラゴン》

星8 風属性 ドラゴン族

攻2500 守2000

 

「此方もこのエンド時に速攻魔法《旗鼓堂々(きこどうどう)》の効果で装備された《閃光の双剣-トライス》は破壊される」

 

 ターンの終わりと同時に《Sin トゥルース・ドラゴン》からガラスの砕けたような音が響き、その力が元に戻って行く。

 

《Sin トゥルース・ドラゴン》

攻4500 → 攻5000

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》の圧倒的な姿に遊戯・十代・遊星は苦戦を強いられていた。

 

 

 






バトルロイヤルルールの特殊ルールに関しては、深く考えないでください(懇願)


ちなみに十代のデッキは「初期融合HERO(ヒーロー)に《ユベル》投入デッキ」です。

属性HERO(ヒーロー)や『M・HERO(マスクヒーロー)』なんておらんかったんや……
(属性HERO(ヒーロー)は漫画版GXに出た響 紅葉の方がやっぱりしっくりきますし)


その内実は《ブランチ》でHERO(ヒーロー)融合体の素材を繋ぎ、そこから再び融合召喚を狙うことが主戦術になっております。

つまり倒れた仲間の意思を継ぐHERO(ヒーロー)たちってことさ!(☆ゝω・)b⌒☆

《ユベル》は手札コストにして墓地に送り、蘇生して効果を狙おう!(目そらし)


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