マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

139 / 289


前回のあらすじ
和気藹々と希望を胸にそれぞれの時代、生活に戻る遊戯・十代・遊星。そして意識を取り戻したギース。

そんな彼らを余所に神崎 (うつほ)は最後の一線を越える。


手段など選んではいられない。






ゆえに神崎はマッスル以外の方法を取り始める。




第139話 パラドックス

 

 

 身体の節々から煙を上げ、大地に倒れて瞳を閉じるパラドックスには焦燥感とそこはかとない充足感が満ちていた。

 

 

 焦燥感の正体は明白である。それは「神崎 (うつほ)を殺せなかった」こと。

 

 そして充足感の正体は遊戯・十代・遊星――彼ら3人の力なら滅びの未来を退けることが出来るかもしれない、との思い。

 

 

 そうして来たる「二度目の死」を待つことしか出来ないパラドックスだったが、その意識はいつまでも沈むことなくただあり続ける。

 

 

 さすがに不審に思ったパラドックスが最後の力を振り絞り立ち上がろうとするが、その身体はピクリとも動かない。

 

 やがて瞳をゆっくりと開いたパラドックスの視線が捉えたものは「闇」。

 

 

 己の身体を雁字搦めに捕らえる闇が何処までも広がる異常な光景だった。

 

 

 

 

 

 これが「罪人が辿り着く地獄なのか」と呆然と闇を見やるパラドックスに声が届いた。

 

「良かった――無事、命を繋げたようだ」

 

 その声にパラドックスの淀んでいた意識は急激に覚醒していくが、その身体はやはりピクリとも動かない。そして辛うじて動く瞳を向けた先には――

 

「かん……ざき……うつ……ほ……」

 

「いや、良かった。本当に良かった」

 

 パラドックスの怨敵たる神崎の姿――そこへ向けて恨めし気に名を零すパラドックスだが、対する神崎には変わらぬ笑みが浮かぶばかり。

 

――此処は……ヤツの持つとの情報があった闇のアイテムの力……か?

 

 ゆえにパラドックスは今の自身を取り撒く状態をそう考察しつつ神崎を睨む。

 

「貴様………今度は何を企んでいる!」

 

「先程の勝負はうやむやになってしまったでしょう? 早い話が再戦ですよ」

 

 ボロボロの身体に鞭打ちながらパラドックスは叫ぶが、神崎の対応は変わらない。

 

 さらに今のSinモンスターの大半を失った己に対して「再戦」との言葉を吐く、神崎の姿にパラドックスは白々しさすら覚える。だが――

 

「ほざけ……あれは私の敗北だ。デュエリストの誇りも理解せぬ貴様に、とやかく言われる筋合いは……ない」

 

 デュエリストとしてデュエルの引継ぎを了承し、敗れたパラドックスは己の敗北を誤魔化しはしない。

 

「おかしなことを言う――貴方が私を『デュエリストではない』と評したのではないですか」

 

「だとしても、私は『デュエリスト』だ」

 

 神崎がそう苦笑を浮かべるも、パラドックスは「デュエリスト」として数々の非道を行ってきたが、最後の一線だけは己がデュエリストの矜持に賭けて越える気はないと断ずる。

 

 その瞳には強い意思が見えた。

 

「そうですか――貴方が納得しているのならこれ以上は言えませんね」

 

 そんなパラドックスの瞳を羨ましそうに眺めた神崎は小さく息を吐き気持ちを切り替える。

 

「ですが、私は貴方と話がしたい」

 

「話だと? 私に貴様と話すことなど何一つない――私が仲間の情報を売るとでも思っているのか?」

 

 そうして「対話」を提案した神崎だが、対するパラドックスはデュエルに負けた己の身ならまだしも、仲間を売る真似などしないと神崎を睨むが――

 

「ふむ、そうですか……ですが今回は『会話』である必要はありません。ただ私の話を聞いてくれるだけでいい」

 

 神崎の目的に「パラドックスの言葉」は不要であった――それを「対話」と言えるのかは甚だ疑問ではあるが。

 

 そんな提案に疑惑に満ちた視線を向けるパラドックスの警戒心が上がり、拒絶的な雰囲気が漂い始めた事実に神崎はもう一度息を吐く。

 

「これは頑なですね……では緊張をほぐして頂く為にも、まずは貴方が興味のありそうなことでも話すとしましょう」

 

「貴様が何を語ろうとも――」

 

「あなた方の障害である私の情報は少しでも多い方が良いのでは?」

 

 

「くっ……」

 

 神崎の言葉など聞きたくもないパラドックスだが、イリアステルの仲間の名前を出されると口をつぐむしかない。

 

 とはいえ、この状況から逃れられる術を今のパラドックスは持っていない為、その情報を伝える方法が今はないが。

 

 

 そんなパラドックスを余所に神崎は考える素振りを見せた後、一人納得したようにごちる。

 

「ではそうですね……一先ずは今回の目的に関して」

 

「……目的だと? そんなもの、私を退けるこ――」

 

「『確認』――今回の目的の全てはそこにあります」

 

 パラドックスの言葉を遮るように語られた神崎の目的に「パラドックス」のパの字も出てこない。

 

 ゆえに訝し気な表情を見せる中、神崎は流れるように説明を続ける。

 

「貴方がギースとデュエルし、私の前に現れデュエルを始めた段階で私の目的の8割方は既にクリアされていました」

 

「何を言っている……私がギース・ハントと交戦したのはイレギュラーだった筈だ!」

 

 だが神崎の説明にパラドックスは「そんな筈はない」と否定の声を上げる。

 

 パラドックスが偶発的に遭遇したギースとデュエルをしただけで「神崎の目的が8割も完遂される」事態に繋がる筈がないと。

 

「はい、イレギュラーです――あの日に彼に休暇を与えたのは本当に偶然です」

 

 しかし神崎はこの周辺一帯を覆っている闇の拘束の中で前に出ようとするパラドックスへとにこやかに返す――全ては偶然であると。

 

 

「ですが此処最近の仕事は全て童実野町から離れるようなものは指示していない。さらに僅か1日の休日で遠出するタイプでもない」

 

 偶然、今日この日がギースの休日だった。

 

 偶然、ギースは童実野町に留まった。

 

 偶然、童実野町に来たパラドックスのデッキからよからぬ気配を感じたギースがその現場へと向かった。

 

 偶然、その下手人であるパラドックスはギースの恩人である神崎の殺害を企てていた。

 

 

 全ては偶然でしかない。

 

「つまり貴方が童実野町にSinカードと共に来た段階でギースとの衝突は避けられない」

 

「ならば何故、ギース・ハントをけしかけた! もっと実力の高いデュエリストを――」

 

 だが「必然でもあった」と語る神崎にパラドックスは声を張り上げる。だとするのならば完全な迎撃態勢を敷けた筈だと。

 

 始めから遊戯たちを呼んでおけば、神崎が死にかけることもなかったのだから。

 

 

「万が一にも貴方(パラドックス)を倒して貰っては困るからですよ」

 

 しかし神崎はうっすらと笑みを浮かべながらそう零す――今回の神崎にとって「パラドックスを退ける」はあくまで副次的な作用しか持っていない。

 

(ギース)の実力なら程よくデュエルが長引き、情報を引き出した後で()()()()()()()()()

 

 ゆえに神崎は「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」としてギースを差し向けた。

 

 己のデュエルの実力に関してギースが苦悩していることを知った上で。

 

「貴様は……貴様は己を慕うものすら捨て駒にしたというのか!!」

 

 その事実はパラドックスの怒りを駆り立てるには十分だった。

 

 パラドックスはギースのデュエルの実力を唾棄しはしたが、それは「敵対する関係」だったゆえだ――しかし神崎は己の部下という立場を持つ者に向けてそれを決行した。

 

 それは人として決して褒められた行為ではない。

 

 

 だが神崎の笑みは崩れない。

 

「それに関しては見解の相違です。誇り高いデュエリストである貴方なら歴史の歪みの被害者であるギースを処理することはないと確信していました――ゆえに捨ててはいない」

 

 とはいえ、神崎側にも言い分はある。

 

 原作から神崎が知りうるパラドックスの性格から、むやみやたらに人類救済と全く関係のない相手を害する男ではないと確証があったゆえだと。

 

「詭弁だ!」

 

「ですが事実、(ギース)は生き残りました」

 

「こんな無意味な行為をなんのために!」

 

 しかしだからといって看過できる問題ではないと怒りを見せるパラドックス――己の仲間すら切り捨てる神崎の在り方はパラドックスにとって理解の外だ。

 

 だが最後にそう叫んだパラドックスに神崎は指を一つ立て、自身の「目的」を順番に明かしていく。

 

「私の実力を測る為――の前準備です。実は私はスランプというヤツでして、貴方という圧倒的強者とのデュエルなら何かが掴めるかもしれないと思ったんですが……」

 

 一つは自身のデュエルの実力の「確認」。

 

「そうは上手くいかないようで――とはいえ得られたものも多かったですが」

 

 しかしその結果は危うく死にかけた程に散々であった。だがリスクに見合うリターンはあったと神崎は零す。

 

「『ドロー力』というものがどういうものか、その確証を得られました」

 

 これが二つ目の目的である「ドロー力の性質」の「確認」。

 

「ドロー力はそのデュエリストの引きの強さに影響する――だけではなく、突き詰めれば相手の引きの強弱にすら影響を与えうる」

 

「くだらない仮説だな」

 

 神崎の説明にパラドックスは唾を吐く。

 

 デュエリストのドロー力をそんな「イカサマ」めいたものだと評されたくはないのだろう。

 

 とはいえ、神崎はドロー力を「勝負の流れを引き寄せる力」に近いものだと考えていたが、態々教えるような真似はせず、デッキケースからデッキを取り出し、カードを扇子のように広げる。

 

「私のデッキを見て貰えば分かるかと」

 

「……なんだ、これは? バランスが――」

 

「はい、仰られる通り――このデッキの大半は相手の魔法・罠カードを除去するカード」

 

 あり得ないものでも見たかのように呆然と呟くパラドックスの言葉を示す様に今回使用した神崎のデッキは大半が魔法・罠を除去するカードだ。

 

 しかし実際の神崎とデュエルしたパラドックスはその異質さが誰よりも理解出来る。理解出来てしまう。

 

 神崎が使用したカードとデッキに残っていたカード、そして今判明した魔法・罠カードを除去するカードの枚数を計算すればその異質さは明らかだ。

 

「普通なら貴方のデッキの中核をなすフィールド魔法《Sin(シン) World(ワールド)》もしくは永続罠《スキルドレイン》を除去し、早急に貴方を無力化できる『筈だった』」

 

 瞳を揺らすパラドックスを余所に神崎は説明を続ける。

 

 パラドックスのデッキのカウンター罠の守りも、墓地で発動する《ギャラクシー・サイクロン》の効果は防ぐことが出来ない為、十分以上に可能性があった。

 

「モンスターの除外を狙っていたのはあくまで『できれば』の範囲を逸脱しない」

 

 神崎が使った除外効果を持つモンスターは高火力を持つパラドックスのSinモンスターの攻撃を躊躇わせる為のもの――デッキの主軸と言う程でもない。

 

 しかしパラドックスは理解出来なかった。

 

 

「何故、このデッキで『それ』が出来ない!?」

 

 

 パラドックスの主観では、デュエル中に神崎は最低でも魔法・罠の除去カードの4、5枚を引き込んでいただろうと考察するが、そうはならなかった。

 

 もし引き込んでいればパラドックスは苦戦を強いられただろう。いや、強いられていなければ『おかしい』。

 

「耳の痛い話です……が、それに関しては貴方が教えてくれた通りです――『私がデュエリストではない』ことが答えなのかと」

 

 そんなパラドックスの視線に神崎は申し訳なさげに視線を逸らす――自分でも此処まで酷いとは思っていなかったらしい。

 

 これがイレギュラーながら発生した三つ目の確認――バトルシティにてマイコ・カトウが言い淀んだ言葉の真意の「確認」。

 

「そんなことの為に命を懸けたのか!?」

 

 だがそんな神崎にパラドックスが戸惑いに満ちた声を上げる――早い話が「自分の力量を測る為に命を懸けた」のだから。もっと他の方法があるだろうに。

 

「命は懸けたつもりはありません――死ぬ前に増援も手配していました」

 

 しかし対する神崎は首を小さく横に振って否定を見せる――そんなことに「自身の大事な命を懸けはしない」と。

 

 つまり助かる当てがあった。当然それは遊戯・十代・遊星の事であろうことはパラドックスにも理解できる。つまり――

 

「やはりペガサス・J・クロフォードを殺害したのは貴様か!」

 

 遊戯・十代・遊星がパラドックスを追ってくる切っ掛けになった「ペガサス・J・クロフォードの死亡」は神崎によってもたらされたものを意味する。

 

 己の感じた違和感はこれだったのだと。

 

「殺害はしていませんよ」

 

「だが偽の情報を流したとしても、I2社の会長という地位にある男の生存を完璧に隠蔽することなど不可能だ!」

 

 そんな神崎の軽い否定も、パラドックスを惑わすには至らない。ペガサスの知名度と影響度を考えればこの世から抹消する以外に「完全な隠蔽」は不可能だ。

 

 ペガサスミニオンが血眼になって探すことは容易に想像できる――優秀な彼らならこの世の何処にいても必ずや探し出すだろう。

 

 そう、この世にいれば必ず見つかるのだ。

 

 

 

 

「『精霊(デュエルモンスターズ)界』に隔離しました」

 

 

 なら、この(世界)から別の(世界)へと物理的に移動させればいい。

 

「……なん……だと?」

 

 掟破りな方法に言葉を声を失うパラドックスに注釈するように神崎は語る。

 

「既に解放していますが、一時ご夫婦二人で精霊界に隔離しただけです。怪我の一つも負っていませんよ。今頃は『同じ夢を見た』と笑い合っていることかと」

 

 ことこの世界(遊戯王ワールド)において、世界は「唯一無二では『ない』」――なら後は簡単だ。

 

 冥界の王の力である『カードの実体化』を用いてペガサスたちを監視し、必要なタイミングで精霊界に引き摺り込む――文字にすれば、たったそれだけ。

 

「この(世界)にいない――そういう意味では間違いではないですね」

 

 神崎が『実体化させたカード』の力で元の世界に戻さねば、ペガサスとシンディアが「この(世界)」に戻ることはない。

 

 ゆえに偽造した死亡記事の信憑性が跳ね上がる。

 

 

 これが四つ目の確認――神崎がどの程度まで意図的に歴史改変を行えるかの「確認」。

 

 結果は上々だ。

 

「だとしても、彼らが確実に来るとの確証はなかった筈だ!」

 

 とはいえ、パラドックスがそう叫ぶように神崎にも確証はなかった。

 

「はい、それに関しては否定できません――ですが問題視もしておりません」

 

 だが神崎からすれば「成功すれば儲けもの」程度の認識だ。

 

「武藤 遊戯だけは確実におびき出す算段が此方にはありました。後は芋づる式で仲間を呼び、多少の違いはあれど似たような状況になります」

 

 なにせ、この時代には「武藤 遊戯」とその仲間という最高クラスのジョーカー(切り札)が存在するのだから。

 

 これが五つ目の確認――遊戯たちと神崎との関係性の「確認」。

 

 これには印象操作の点もあった。結果は言わずもがなである。

 

 

 

「くっ……私が――」

 

 やがて神崎の企みを完全に見抜くことが出来なかったと歯を食いしばるパラドックス――いや、こんな勢い任せな作戦を何の情報もなく初見で見抜くのは無理難題だと思うが。

 

「『一人で来るべきではなかった?』 それは違いますよ、パラドックス」

 

 しかし神崎はパラドックスの言葉を先回りしつつ、その選択を評価する。

 

「貴方の判断は間違っていない――理想を言えば協力関係を築いて頂ければ此方としても幸いでしたが、私の存在はイリアステルの中では受けいれられないことを考えれば無理はありません」

 

 パラドックスが一人で来たお陰で、イリアステルは最低限のダメージで済んだのだ。

 

「もしも2人以上で動き、2 VS 1の状況になれば貴方たちの中に過度の余裕が生まれる――ゆえに私が望む話し合いの余地が発生したでしょう」

 

 神崎のデュエルの実力はイリアステルの視点から見れば「どうにかなるレベル」でしかない。

 

 そんな格下相手に「慢心するな」という方が無理な話だ――神崎は知らないが、対話を望んでいたアンチノミーなど鴨が葱を背負って来るようなものだろう。

 

「であれば、方針の違いから内部衝突だってあり得た」

 

 もし二人以上で来ればイリアステルの結束にヒビが入っていたかもしれない。というか、神崎が意地でも入れに動く。

 

 途中参戦するであろう遊戯・十代・遊星たちのデュエルがより苛烈を極め、双方に甚大な被害が出ていたかもしれない。

 

 リスクを上げれば数えきれない程だ。

 

 しかし「デュエリストとしては微妙」な神崎はイリアステルが総出でかかる問題ではなかったことが明暗を分けた。

 

 これが六つ目の確認――そしてイリアステル側が「神崎 (うつほ)」という存在の情報をどれだけ持っているかの「確認」。

 

 

 そして神崎は締めの部分を返す。パラドックスのミスは突き詰めれば一つしかないのだと。

 

「貴方のミスはただ一つ――『デュエルしたこと』」

 

 ただ、それだけなのだと。

 

「貴方はギースとデュエルすべきではなかった。

 

私ともデュエルすべきではなかった。

 

そして彼ら3人ともデュエルすべきではなかった。ただ――」

 

 そうすれば、パラドックスは大小あれど無事に情報を持ち帰れた。

 

 

 

「――『デュエリスト』である貴方にその選択が取れるとも思えませんが」

 

 

 

 とはいえ、この世界(遊戯王ワールド)の人間にその選択はあまりに酷なものだが。

 

 

 その誇り(デュエリストであること)を捨てられる人間はそういない。

 

 

 

 言葉を失うパラドックスに神崎はニッコリと笑みを浮かべ次なる目的を果たす。

 

「そろそろ落ち着いてきたようなので、本題に入らせて頂きましょうか」

 

「本題……だと?」

 

「私が考えた『未来救済の計画(プラン)』のご説明です」

 

 訝しむパラドックスに語られたのはイリアステルが欲する「未来救済」を成す為の計画(プラン)の説明。

 

 神崎側とて「滅びの未来」について全く考えていない訳ではないのだと。中身はその脳筋っぷりが発揮されているだろうが、言わない約束で願いたい。

 

 

 これが七つ目の確認――自身の計画がイリアステルにどう映るかの「確認」。

 

 

 

 そうして「神崎式! 未来救済プラン!」が手早く説明されたが――

 

「――以上になります。どうでしょう? 完璧とは言いませんが、それなりに自信を持って勧められる計画になりますが」

 

「これが……計画……だと?」

 

 にこやかに振る舞う神崎とは違い、パラドックスは頭を垂れ、闇に囚われた身体をわなわなと震えさせる。

 

「今までの貴様の行動は全てその為に……」

 

 語られた「滅亡の未来を救済する計画」を聞き、パラドックスの脳裏に自ずと今までの神崎の行動の全てが線となって繋がっていく――いや、あんまり繋がらないと思う。

 

 

「是非とも、未来救済を掲げる貴方がたのご意見を――」

 

 そうして自身の計画がイリアステルとの「友好の架け橋になれば」と考える神崎は営業スマイル全開で、その商品(プラン)を勧めるが――

 

「ふざけるな! そんなことをすれば今度こそ未来は! 世界は終わる! 出来る筈がない!!」

 

 パラドックスは勢いよく顔を上げ、身体が闇に拘束されたことなど気にも留めないように食って掛かるも、その身体は自由にはならない。

 

 解けぬ拘束に苛立ちを覚えながらもパラドックスが叫ぶのは「神崎の計画の否定」――こんな悍ましい計画を見逃す訳にはいかないと。

 

「はい、計画の『完璧な成功』が難しいことは事実です。ですが――」

 

「その計画が実行されれば世界規模でどれ程の犠牲が生まれ得ると思っている! もはや計画とすら評せない! そんなものはただの博打――いや虐殺だ!!」

 

 しかし神崎は気にした様子もなく計画の利点を語るが、パラドックスが問題視しているのは利点云々の問題ではないのだ。

 

 成功しようが失敗しようが世界規模で夥しい数の死者を生むだけの計画に意味など見いだせない。

 

「それに関しては貴方も言っていたじゃないですか――」

 

 だがパラドックスが「虐殺」と評する計画に微笑んで見せる。

 

 

 

「――『些細』な犠牲ですよ」

 

 

 

 神崎の計画は「破滅の未来」をほぼ確実に回避できる目算がある。

 

 どのみちイリアステルの語る「滅びの未来」ではZ-ONE「1人」しか生き残れないのだ――なれば「世界」と「人類という種」を救えるのならこの程度の犠牲は「些細」でしかない。

 

 

 しかしパラドックスは断固として否を唱える。

 

「些細だと? 仮に成功したとしても暴走するモーメントの問題は何一つ解決しない計画になんの意味がある!」

 

 パラドックスがそう語るように神崎が語った「計画」には「モーメント問題の解決」はまったく組み込まれていない――完全にほったらかしである。

 

 さらに問題点はそれだけではない。

 

「そして失敗した際に発生し得る夥しいまでの死者を考えれば一考の余地すら介在しない計画だ!」

 

 神崎の計画が失敗した段階で、世界規模で数えきれない程の犠牲者が出る――早い話が「取り返しがつかない程に世界が大打撃を受ける」のだ。

 

 これでは「人類が滅ぶ原因が変わるだけ」の結果しか生まない。そう、パラドックスが考えるのも当然だ。

 

 

 

 

「この計画に『失敗』は介在しませんよ?」

 

 

 しかし神崎は「あり得ない事象」をさも当然のように返す。

 

 成功確率が100%でないにも関わらず「失敗しない」計画――純然たる「矛盾」がそこにはあった。

 

「貴様は……一体なにを――」

 

 そんな神崎の姿に呆然と呟くパラドックス。相手の言葉への理解を脳が拒む。

 

「この計画の良いところは『成功しなくとも』、『失敗しない』点――ノーリスク・ハイリターンな面が自慢です」

 

 商品のおすすめポイントでも語るような神崎の姿に、パラドックスは初めて眼前の男に恐怖を覚えた。

 

 唯々、歪だった。

 

 何を言っているのかマトモに理解できない。

 

 完全に「矛盾」している主張を是と返す男の姿が不気味でならない。

 

 

 辛うじてパラドックスに理解が及んだことは、眼前の「人の形をしたナニカ」は迷うことなくその狂気の計画を実行に移すであろうことだけ――止めなければならない。

 

「成功しないにも関わらず『失敗しない』……だと? 何をバカなことを言っている! そんなものはあり得ない! この計画は破棄すべきだ!」

 

 パラドックスは眼前の存在を止めなければならない。ただその一念だけで懇願するように声を上げるも――

 

「一見すると矛盾しているように思えますが――」

 

 対する神崎の通販番組でお得ポイントを挙げるような様子は崩れない。その光景にパラドックスは力の限り叫ぶ。

 

「無駄な死に何の意味がある!」

 

「その死が『無駄』であることに意味があります」

 

 叫ぶが、叫べば叫ぶ程に返ってくる神崎の言葉は正気の沙汰とは思えない。

 

 

 しかし神崎は知っていた「人間という生物が救い難い程に『愚か』」である現実を――他ならぬ自身が「その愚かな人間」である自負が神崎にはあるゆえに悲しい程に良く分かる。

 

 

 そんな愚かな人間は「自分だけは大丈夫」だと心の何処かで思ってしまうことを――神崎も未だにそう信じている。いや、信じなければ己を保てない。

 

 

 ゆえに滅亡の未来を覆すには原作で結果的にZ-ONEがその立場を担ったように「痛みを伴う教訓」が必要だった。

 

 

 愚者にも分かり易く、効果的に、無視できない程、徹底的に演出しなければならない。

 

 

 そう、今回の一件で判明した神崎が歪めた未来の世界には原作以上の「脅威」が必要だった。

 

 

 そんなことを意気揚々と並べる神崎の姿にパラドックスはポツリと零す。

 

「――狂っている」

 

 それは拒絶の言葉。

 

 パラドックスには神崎が理解できない。理解したくもない。

 

「やはり貴様はこの世に存在するべきではなかった!!」

 

 こんな人間がこの世に存在してはならない――その一念がパラドックスの中に渦巻き、叫びとして発される。

 

 

 虐殺という行為に享楽を求めているのなら唾吐くだけだ。

 

 滅亡の未来に正気を失ったのなら憐れむだけだ。

 

 狂人の類であれば現実を叩きこむだけだ。

 

 

 だが眼前の男は本気で「虐殺の先に滅亡の未来を回避できる」と信じている。

 

 

 イリアステルが計画する「都市」を破壊する計画ではなく、「人」を虐殺する計画が未来を救うのだと。

 

 

 そんなものを認める訳にはいかないと拒絶の意を示すパラドックスに神崎は朗らかに笑みを浮かべる。

 

「いらぬ犠牲が許せませんか――優しい方ですね」

 

 神崎の視界にはパラドックスの感情が良く見える。

 

 何処の誰とも知れぬ人間の生き死に強い忌避感が見える――神崎にはないものだ。

 

 とはいえ、同時に「潔癖すぎる」とも神崎は感じていた。不必要な犠牲など、この世界にすら溢れかえっているというのに。

 

 しかし神崎はそのパラドックスの姿を眩しくも思えていた。

 

「平和な世ではさぞ名のあるデュエリストだったのでしょう」

 

 きっと「滅亡の未来」なんてモノがなければパラドックスは非道を行う必要などなく、真っすぐ進み、誰からも「真のデュエリスト」と評される存在になれたのだろうと。

 

 それは神崎には叶わぬ願い。

 

「今更貴様が何を語ろうともッ――ッ!?」

 

 だがその神崎の言葉を「ご機嫌取り」と取ったパラドックスは更なる否定の言葉を述べようとするが、その口は周囲からせり上がった闇に覆われる。

 

 そうして周囲の闇がパラドックスを包んでいく中、神崎は大仰に礼を取った。

 

「忌憚のないご意見、大変ありがとうございます」

 

 とはいえ、肝心のパラドックスは口をふさがれ言葉を出せない。だがその胸中で気付く。

 

――ッ!? この力は!?

 

 神崎が力を行使したゆえか、その力がどういったものなのかを。

 

「私の計画はあなた方(イリアステル)には受け入れ難いもののようですね――ですが、それを知ることが出来ただけで今回の会合は大変、有意義なものでした」

 

 そうして感謝を示す神崎を余所にパラドックスは戸惑いの声を内心で叫ぶ。

 

――何故この力が! デュエリストでもない貴様の身に宿っている!?

 

 だがその声は誰にも届かない。

 

「貴方の貴重なご意見は計画の修正の為に大いに活用させて頂きます」

 

 もはや神崎の言葉などパラドックスの耳には届いていない。

 

――貴様が! 何故、「お前」がこの時代から動き出している!?

 

 パラドックスには眼前の存在が、この時代では「封印されている筈」の存在が活動していることの方が重要だった。

 

「とはいえ、このまま貴方を帰す訳にも行きませんので、しばしお休みください。では――」

 

 パラドックスの身体を闇に沈めながらそう語る神崎。

 

 これが急遽、決定した八つ目の確認――真のデュエリストを理解する為にどうすれば良いのかの「確認」。

 

 きっとこれで理解できる筈だと、神崎の口は裂けるような笑みを浮かべる。

 

 

 

「――さようなら、パラドックス」

 

 

 

――冥界の王ッ!!

 

 闇に沈んで行ったパラドックスの胸中の声は終ぞ、誰にも届くことはなかった。

 

 

 







冥界の王「いや、我の意思じゃないから」


これにて劇場版 超融合編 完結

「並行世界では?」との声が多かったですが、
今作では原作を倣い「未来は分岐しない」とのことを此処に記しておこうと思います<(_ _)> ペコリ



しかし次の幕間を挟んでアレコレでもうすぐDM編も終わり……いや、まだ結構あったわ(汗)

先は長いですね(白目)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。