マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
神崎式の未来救済プラン!

完璧に成功させれば、犠牲はなく、みんな幸せハッピー!
滅亡の未来を覆し、なおかつ理想の未来を享受することが出来るよ!

完璧じゃなくとも一定のラインをクリアすれば一先ずは成功!
犠牲は出るけど、滅亡の未来を覆し、明るい未来を享受することが出来るよ!

その一定のラインを下回った場合は成功とは言い難いかな? でも失敗って訳でもないんだ!
世界中でとんでもないレベルの犠牲が出るけど、滅亡の未来を覆し、傷つきながらも未来を享受することが出来るよ!


でもパラドックスのお気には召さなかったみたい――なんでだろうね?(濁った眼)
(なお成功率は上から「奇跡」、「ミラクル」、「そりゃそうなる」の模様)





DM編 第8章 幕間 二つの顔
第140話 力が欲しいか?


 

 

 あくる日、表の遊戯は神崎に会う為にKCのオカルト課を訪れていた。

 

 だがKCの受付の職員から「仕事でKCを出ているので戻るのに時間がかかる」と言われた為、促されるままにオカルト課の応接室にて待機している。

 

 

 そしてそんな表の遊戯の元に眼鏡の人物が訪れる。その正体は――

 

「あっ、羽蛾くん! あれ? でもオカルト課の受付の人って北森さんじゃ――」

 

 表の遊戯が語るようにオカルト課の所属となっていた羽蛾の姿。

 

 KCの受付の人間が「神崎が来ればオカルト課の受付の人間が知らせる」との言葉からてっきり北森が来ると思っていた遊戯からすれば意外な人物だった。

 

 そんな言葉に羽蛾はばつが悪そうに視線を逸らしながら表の遊戯が座る向かい側のソファに腰掛ける。

 

「あの人はバトルシティでの働きが認められて、他の業務も積極的に任されることになるって話だ」

 

 苦虫を嚙み潰したようにそう返す羽蛾には後悔の表情が見て取れる。

 

「『昇進した』ってこと?」

 

「大体はそんな感じだよ。くっ、俺だって――」

 

 表の遊戯が博物館の展示の後処理を任されていた北森のことを思い出しつつそう零す声に羽蛾は嫉妬を見せるが――

 

「ならどうして羽蛾くんがボクの所に?」

 

 表の遊戯には「羽蛾が此処に来た理由」が読めない。羽蛾はどう考えても「受付」なんてタイプではない。

 

「ん? ああ、遊戯が相手なら『顔見知りの方が良いだろう』ってことで手の空いてる俺に話が回って来たんだよ」

 

 その表の遊戯の考えは間違っていなかった。今回、表の遊戯の元に羽蛾が遣わされたのは「ただ待つのも暇であろう」との配慮である。

 

 ゆえに羽蛾は表の遊戯の機嫌を取るようにデッキ片手に提案する。

 

「ただ待つのも暇だろ? 俺とデュエルでもするか?」

 

「うーん、今日は止めとくよ」

 

「ヒョヒョ、なら俺のリニューアルしたデッキを見せてやるよ!」

 

 拒否を示した表の遊戯の姿に羽蛾は「ならば次の矢だ」とばかりにテーブルに自身のデッキを広げるが――

 

「どうかしたの、羽蛾くん? なんだからしくないよ?」

 

 そんな羽蛾の姿は表の遊戯には何処か不審に見えた。今の気遣いを全面に押し出す姿は自信家な羽蛾「らしく」ない。

 

「う、うるさい! 暇してるお前の相手をするように――いや、なんでもない!!」

 

「何かあったの? ボクで良ければ話を聞くけど……」

 

「ぐっ……分かったよ。暇つぶしにはなるだろうから話してやる。実は――」

 

 図星を突かれたゆえに取り乱す羽蛾を心配そうな視線を向ける遊戯の姿に羽蛾は己の失敗談を静かに語りだす。

 

 バトルシティでは周囲に迷惑をかけ、散々な結果だったのだと。

 

 

 やがておおよそを語り終えた羽蛾に遊戯は優し気な口調で零す。

 

「そうなんだ……バトルシティで失敗しちゃったから、次は失敗しないように気を張っているんだね……」

 

「笑いたきゃ、笑えよ! 大口叩いといて足引っ張っただけだって!!」

 

 情けなさを誤魔化すように叫ぶ羽蛾だが、遊戯は小さく横に首を振る。

 

「頑張ってる羽蛾くんを笑いなんてしないよ」

 

「ッ!? ……その……ありがとよ」

 

 羽蛾を真摯に見つめる遊戯の視線に嘘や誤魔化すような色は一切ない。それゆえに羽蛾は顔を背けつつか細い声で礼を告げる。

 

「うん、どういたしまして! そうだ! ボクも羽蛾くんのデッキ調整、手伝うよ!」

 

「べ、別にそこまで――いや、ほらよ」

 

 礼を受け取りつつそう提案する遊戯の姿に羽蛾は一瞬ためらいを見せるも、テーブルに半端に広げていたデッキを良く見えるように配置する。

 

 その羽蛾のデッキは――

 

「……レベルの高いモンスターばかりなんだね。展開用のカードはこれとかかな?」

 

 レベルの高いモンスターが多く、パッと見ではバランスが悪いように見える。

 

 だが遊戯にはそのデッキに羽蛾の苦心した証が感じ取れ、自ずとどういったデッキなのかを理解し始めていた。

 

「……そうだよ。下級モンスターは最低限にしてある。そのカードや、魔法カードでの展開をメインの形にする予定だ」

 

「このカードってこっちのカードとのコンボ用?」

 

「ああ……それでこのカードでリカバリーを狙うつもりだけど――」

 

 自身の問いかけに答えた羽蛾の姿に遊戯は考える素振りを見せた後、テーブルに広げられた1枚のカードを手に取り提案する。

 

「じゃあこのカードはもう少し枚数を減らした方が良いんじゃない?」

 

「そうか……でも、このカードは他のカードとの繋ぎになるんだ。ほら、そっちのカードとか」

 

「でもそれだとそのカードは使い難くなるかも」

 

 だが納得を見せつつも他のカードとのシナジーを示す羽蛾に、遊戯は別のカードを手に取り、そう零すが――

 

「こ、このカードだけは入れときたいんだよ!! 使い難くてもな!」

 

 羽蛾は慌てた様子でそのカードを遊戯の手から回収し、譲れないラインを示す。使い難くても自分にとっては大切なカードなのだと。

 

「じゃあ、デッキの全体から見直そう!」

 

 そんな羽蛾の姿に何処か嬉しそうに笑う遊戯の言葉を皮切りに羽蛾のデッキ調整は進んでいく。

 

 

 

 やがて広げたカードから取捨選択され、一纏めにされたデッキを見て遊戯が達成感に満ちた息を吐く。

 

「こんな感じかな?」

 

「ヒョヒョー! 一先ず完成だぁー!」

 

 そうして完成した新たなデッキを手にはしゃぐ羽蛾。

 

 デッキ調整の最中のやり取りのお陰か当初よりもかなり遊戯との壁がなくなったように見える。

 

 それはカードと言葉を交えれば、人との心の距離が縮まることを示すようだ。

 

 

「おや、楽しそうですね」

 

 

 しかし2人にそんな声がかかる。

 

「ヒョッ!? か、神崎さん!?」

 

 大して大きくもない声ではあったが、羽蛾はビックリしたように姿勢を正して立ち上がり、ギギギと油の切れた機械のように神崎へと首を向けた。

 

「お待たせして申し訳ない、武藤くん」

 

「いえ、羽蛾くんとデッキを見てたら直ぐだったので……」

 

 そんな羽蛾を余所に謝罪を見せた神崎に遊戯は困ったような表情を見せながら「気にしていない」と返す。

 

 その遊戯の姿にオーバーに安堵した様相を見せた神崎は次に羽蛾に向き直る。

 

「それは良かった――羽蛾くんも無理を言ってしまい申し訳ありません」

 

「い、いえ! と、当然の事をしたまでで!? そ、それじゃあ、し、失礼します!!」

 

 しかし対する羽蛾は壊れたロボットのようにカクカクした動きで一礼した後、必死な様相でこの場を後にすべく駆け出していった。

 

――そう必死に逃げなくても……

 

 そんな羽蛾の姿に思わず内心で神崎はそう零してしまう程である。

 

「はい、助かりました――と、では行きましょうか、武藤くん」

 

 とはいえ、今は客人である遊戯を放っておく訳にもいかないと、そう零しながら神崎は遊戯を自身の仕事部屋の一室まで案内するのだった。

 

 

 

 

 

 やがて神崎の仕事部屋に舞台を移し、ソファに座って向き合った2人。そんな中でまずは神崎が口火を切る。

 

「それで、今回はどういったご用件で?」

 

「あの……神崎さん……今日って忙しかったんですか?」

 

「お待たせしてしまった件は――」

 

 遊戯の質問に「客人を待たせてしまった事実」を再度詫びを入れようとした神崎だったが――

 

「い、いえ、違うんです! ボクが急に来ちゃったから……その」

 

 慌てて手を振りながら遊戯は「自分たちが悪いのだ」と零し、遊戯の内のもう一つの人格、闇遊戯も胸中で呟く。

 

――相棒、アポイントメントでも取っておけば良かったな。

 

「……アポイントメントを取っておかなかったボクの責任ですし、その」

 

「成程、急な来訪を気にしていらしたんですね」

 

 そんな遊戯の姿に神崎は先程の問いの意図を理解しつつ、肝心の要件もそう大事ではなさそうだと判断する。

 

「は、はい……お仕事の邪魔して……すみません」

 

「構わないですよ。武藤くんの要件を優先するのは当然ですから」

 

 そう、神崎にとって遊戯の要件はかなりの重要度を持つ。もしも遊戯の身に問題が起きれば大邪神ゾークに対抗する術を一つ失うのだから――酷い理由だ。

 

「そ、そんなボクなんか――」

 

 そんな神崎の「大企業の幹部」という肩書ゆえに遊戯は「一介の高校生」である自身にそこまでの価値はないと返そうとするが――

 

「自分を卑下してはいけません――『キング・オブ・デュエリスト』こと『決闘王(デュエルキング)』であるキミの一挙手一投足に世界の関心があるといっても過言ではありません」

 

「えぇっ!? そんな大袈裟な!?」

 

 神崎だけでなく、他の人間にとっても、遊戯の持つ『決闘王(デュエルキング)』の肩書の方が『大企業の幹部』など霞むレベルの意味を持つ。

 

 とはいえ、いまいち納得がいかない様子を見せる遊戯。現実感が湧かないのだろう。

 

「本当に大袈裟だと思いますか?」

 

「えーと……そう言えば『未来から来た』って言ってた十代くんや遊星くんもボクのことを凄い人を見るような目だった気が……」

 

 しかし神崎の言葉に遊戯は記憶を巡らせれば、思い当たる節は幾分以上に思いつく。そういえばサインを強請られたことなど一度や二度ではなかったと。

 

 そんな降って湧いた注目に戸惑う遊戯に対し、神崎は善意の第三者を装いにこやかに迫る。

 

「ご自身の自己評価が低いようですね。ですが、武藤くんは自身が周囲に与える影響は意識しておいた方が良いかと――でないと、良いように利用されてしまいますよ」

 

「り、利用だなんて、ボクはただ――」

 

「私が武藤くんの要件を優先したのは何故だと思っていますか?」

 

「……ボクがデュエルキングだから?」

 

 自身の言葉を遮るように問いかけた神崎の姿に遊戯はポツリとそう返す――半分正解だ。

 

「はい、私の対応も下心ありきなので、武藤くんが気になさることはありません――『汚い大人だな』とでも思って貰えれば」

 

 とはいえ、神崎はもう半分を語る気などなく、「優しい遊戯」に効果のありそうな言葉を選び並べていく。

 

「そんなことないですよ!? 神崎さんには色々助けて貰って――ってそうだ! アクターさん!」

 

「おや、どうかなされましたか?」

 

 ようやく出てきた本題に聞く姿勢を見せる神崎。やがて遊戯は考えを纏めながらポツリポツリと今回の要件を語り始める。

 

「えーと、今日神崎さんに会いに来たのはパラドックスさんがあの後どうなったか気になったのと……」

 

 まずは最初に零れた「アクター」ではなく、パラドックスの一件に対する遊戯の疑問に神崎は用意しておいた答えを返す。

 

「彼に関しては武藤くんが去った後に牛尾くんたちに調べて貰ったのですが、どうにも姿が見えず痕跡すら見つからなかったようで――ひょっとすれば未来に帰ったのかもしれません」

 

 遊戯たちが立ち去った後、「一仕事」してから牛尾たちを現場に引き寄せた神崎は情報を取捨選択しながら遊戯に告げていく。

 

「武藤くんとのデュエルでなにか掴んだようでしたから」

 

「そうだったんですね――良かったぁ……」

 

 最後にそう締めくくった神崎の言葉に安堵の色を見せる遊戯――遊戯の中では『パラドックスは自身の時代に戻って滅びの未来に対する新たなアプローチを探している』のだろう。

 

 

 神崎は「嘘は吐いていない」――ただ牛尾たちが「何も見つけられなかった」事実を示しつつ、「それらしい可能性」を示唆しただけだ。

 

「ええ、私の殺害も諦めたようなので、枕を高くして眠ることが出来そうです。それで他の要件の方は?」

 

 ゆえに話は終わりだと別の話題にシフトさせようとする神崎に遊戯はハッとした表情を見せつつ、慌てて次の要件を話し始める――神崎も忙しい身だろうと。

 

「あっ、はい。他はもう1人のボクのことで相談したかったのもあるんですけど、それとアクターさんにキチンとしたお礼をしようと思って――」

 

 次の要件は「アクター」に対してのもの。

 

「その件は誠に残念ですが、既にKCから離れております――退職という奴です。今現在、何処にいるかは此方では把握しておりません」

 

 とはいえ、神崎はこれに関して「遊戯たちに情報を開示する気はない」為、表向きの答えを返す。

 

「えっ!? そうなんですか!? 何で――って聞いても大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ――と言っても私も詳しく知る訳ではありませんが……バトルシティの件で色々と思う所があったのでしょう」

 

「そう……だったんですか……」

 

 遊戯の追及にも「人間関係が希薄であるアクター」の考えを知る術などない為、「感謝を実際に会って告げたい」程度の執着では神崎の「知らない」との言葉に遊戯は返す言葉を持たない。

 

 

 恩人に直接お礼が言えず残念そうな遊戯。

 

「それで『相談』というのは?」

 

「それなんですけど……えっと、その」

 

 しかし神崎の言葉に意識を引き戻され、話そうとするが、どうにも言葉が出ない様子。

 

――相棒、此処からは俺が変わろう。俺の問題だからな。

 

――うん……

 

 だがその胸中での闇遊戯の言葉に遊戯は小さく頷き、人格交代する。

 

「――神崎。アンタに聞いておきたいことがあるんだ。アンタは俺『たち』のことについて何処まで知ってる?」

 

「おや、急にどうしまし――」

 

 やがて「名もなきファラオ」として神崎に対峙する闇遊戯に対し、「遊戯の雰囲気が変わった」ことを不思議そうな顔で眺める神崎だったが――

 

「とぼけないでくれ、俺も相棒が信じようとするアンタを疑うようなことはしたくない……俺にアンタを信じさせてくれ」

 

 闇遊戯は惑わされない。

 

 バトルシティで「光のピラミッド」を持つアクターの存在を知り、なおかつそのアクターが千年パズルについて詳しく知っている事実。

 

 そしてアクターをバトルシティに差し向けたのが神崎であろうことはKCの部外者である闇遊戯にも分かる。

 

 よって千年アイテムに詳しいであろう神崎は「名もなきファラオ」としての遊戯を知っている可能性がかなり高いのだ――ゆえに闇遊戯は追及の手を緩める訳にはいかない。

 

 そんな確信に満ちた眼を向ける闇遊戯の姿に神崎は小さく笑みを浮かべると観念した様子で返す。

 

「成程、そういうことでしたら――私は武藤くんの内に古代エジプトの王の一人であった魂が宿っている事実までは把握しています」

 

「……そうか。他には?」

 

 しかし闇遊戯の追及の手は止まらない。マリク以外で碌な情報が掴めなかった自身の出自に関する手掛かりが掴めるかもしれないとの思いもあってか、闇遊戯は矢継ぎ早に言葉を並べる。

 

「アクターが持っていた千年アイテムは? アクターが使った不可思議な力は? アンタがパラドックスに狙われたのは何故だ?」

 

 闇遊戯からすれば「神崎 (うつほ)」という人間の周囲には謎が多すぎた。

 

「相棒には悪いが俺はアンタのことが……少し信用できない。海馬が強い警戒を見せるアンタの周囲には疑うに値する材料が多すぎる」

 

 親友である城之内の恩人の立場を持つ神崎を疑ってしまう自身を悔やむように闇遊戯は沈痛な面持ちでそう呟いた。

 

 

 闇遊戯からの疑惑を向けられる――そんな大ピンチの事態だったが、神崎の余裕はギリギリ崩れない。ギリギリなのかよ。

 

――疑われてはいるが、「信じたい」と思われているなら問題はないか。

 

 神崎には冥界の王の力による(バー)の知覚から相手の感情をダイレクトに知ることが出来る。

 

 ゆえに今の闇遊戯の精神状態であれば今までのピンチに比べればまだマシな部類である為、神崎は柔らかな表情を見せつつポツリと返す。

 

「私の仕事がどういったものか、ご存知ですか?」

 

「なんの話を……いや、医療関係くらいしか知らない」

 

 明らかに話題を変えた神崎の姿に「誤魔化すつもりなのか」と考えた遊戯だが、真摯に闇遊戯を見つめる神崎の視線に矛先を収め、一先ずの問いかけに返答する。

 

 その闇遊戯の認識は大体の人間が持っているソレだ。

 

 

「実はその医療は『副産物』に過ぎません。私の仕事――いえ、神秘科学体系専門機関ことオカルト課の業務を簡単に評するのなら――」

 

 しかし「ソレ」は正しくもあり、見当違いでもある。神崎の仕事を言葉にするのならば――

 

 

 

「『魔法』を扱う便利屋です」

 

 

 

 魔法使い――そんなファンタジー感溢れる答えが最も相応しいだろう。

 

 

「魔法?」

 

 だが対する闇遊戯からすれば全くイメージに合致しない。

 

 一般的に連想される「魔法使い」は黒いローブに身を纏い、箒に乗って空を飛び、杖を振って魔法を行使する――そんなイメージだ。

 

 とはいえ、所属する牛尾を含めて「普通の会社員」にしか見えないオカルト課の人間とは対極に感じるのも無理はない。

 

 

 しかし神崎は3枚のカードを何処からか取り出しテーブルの上に1枚ずつ並べながら語る。

 

「カードの精霊――ご存知ですよね。ならこう考えたことはありませんか?」

 

 神崎は語る――夢物語のように。

 

「カードの精霊の力を借り受けることが出来れば、あらゆる病を癒す万能薬に成り得るかもしれない」

 

 そして最初にテーブルに置かれたカードは白衣に身を纏った天使のイラストが描かれた罠カード《白衣の天使》。

 

 

 神崎は明かす――夢物語ではないのだと。

 

「荒廃した大地に緑豊かな自然を取り戻すことが出来るかもしれない」

 

 次のカードは植物が活力を漲らせるようにうねるイラストが描かれた速攻魔法《狂植物の氾濫》。

 

 

 神崎は示す――そんな夢物語は実現可能なのだと。

 

「汚染された区域を、汚染される前の状態に戻せるかもしれない」

 

 最後に並べられたのは石に厳かな神を思わせる存在を掘ったモニュメントが描かれた永続魔法《水神の護符》。

 

 

 普通に考えれば「とんだロマンチストだな」と一笑に付す話であろう。

 

「そんなことが……可能なの……か?」

 

 だが闇遊戯はそうは出来なかった。彼は知っている――その「魔法」の正体を。

 

 そんな闇遊戯に対し――

 

「可能です――と言いたい所ですが、今現在の段階ではごく一部しか実現できてはいません」

 

 神崎はそう言いながら力なく笑みを浮かべた。全てが上手くいっている訳ではないのだと。

 

 ただ冥界の王の力をフルパワーで発揮すればどうにかなるかもしれないが、赤き龍に見つかり、ぶっ殺される可能性がある以上、神崎にその選択肢はないも同然だが。

 

「成程な……その一部を医療技術と称して扱っている訳か」

 

「はい、ですが海馬社長はそういった『オカルトの類』を毛嫌いしていらっしゃるので、私の仕事は酷く嫌がられるものなのかと」

 

 そうして神崎への理解を示し、「疑惑」を薄める闇遊戯の姿に神崎は内心で安堵しつつ海馬に睨まれている理由の「一部」をさも全てのように上げて置く。

 

 

「海馬らしいな……それでアクターが持っていた千年アイテムは?」

 

 闇遊戯は「オカルトグッズ」と鼻で笑う海馬の姿を幻視しつつ、明らかに神崎に対して警戒心を下げながらの問いかけに神崎は「ここだ」とばかりに畳みかける。

 

「其方の件ですが、あれは『光のピラミッド』――厳密には千年アイテムでは『なく』亜種に当るものとのことです。貴方が感じた不可解な力はこれによるものでしょう」

 

 全ての疑惑や違和感を「光のピラミッド」に押し付ける神崎。あながち間違っていないゆえに性質が悪い。

 

「『魔法』の研究の為に『いわくつきの品』を世界から集める過程で手にし、色々調査はしたのですが、あまり多くは分かっておりません。精々が使い方くらいです」

 

 そうして自身への疑惑を余所へと向けていく――そういうことするから海馬に疑われるのに……

 

「そしてどうにも使用者を選ぶようで、今は封印――との名目で研究室にて精査中です」

 

「そうか……ならパラドックスに狙われていたのは何故だ? アイツの発言からアンタは意図的にデュエルモンスターズの発展を加速させているらしいが……」

 

 やがて一先ずの納得の色を見せた闇遊戯は次の疑問である「パラドックスが神崎を殺そうとした理由」に移る。

 

 闇遊戯にはパラドックスから語られ、デュエルで互いを確かめ合ったその事実が嘘とは思えない。とはいえ、神崎が「滅亡の未来」を望んでいるとも思えない。

 

 それゆえの問い。

 

「それが何とも言い難く――心当たり程度で構いませんか?」

 

「ああ、構わない」

 

 しかし神崎は困ったような――いや、実際に困っているのだが――笑みを浮かべながら「心当たり」と注釈した。

 

 何故なら神崎の行動の大半が「遊戯たちと敵対しない」をモットーにしている為、過激な手段は使えども最終的には「善寄り」に傾くようになっている。

 

 ゆえに神崎側の心当たりは一つしかない。

 

「先程『魔法』と評したこれらの力ですが、夢のような技術――ではあっても、問題があります」

 

「問題?」

 

「まず、この手の力は下手に表に出せば、迫害の対象になります――『魔女狩り』をイメージして貰えれば分かり易いかと」

 

 闇遊戯にオカルト課の、精霊の力を利用した技術――魔法の問題点を語って行く神崎。

 

 この問題はギースの幼少期の一件のように、未だに根深いものだ。

 

「そして悪用を考えれば際限がない」

 

「つまりパラドックスはその『オカルトの力』を表で使うアンタが目障りだった?」

 

「恐らくは」

 

 合点がいった様子の闇遊戯に神崎は肯定を返す。

 

 純粋な「デュエルモンスターズの発展」はペガサスが精力的に活動したものであり、その結果はシンディアの生存ゆえに起こったものである為、神崎が直接的に発展に寄与している訳ではない。

 

「彼の言葉を借りるなら、私の行動が未来に与える影響が未知数だった為に放ってはおけなかったのでしょう。これが『発展の加速』を意味するのだと思われます」

 

 とはいえ、突き詰めれば「シンディアの生存」を担った神崎が原因だ――この辺りが神崎を狙うパラドックスの理由なのだが、そんなことは知らぬといった風に神崎は闇遊戯に対してとぼけて見せる。

 

「デュエルモンスターズの発展の加速……か……」

 

 だが今の闇遊戯は得られた情報を噛み砕くのに忙しく、神崎の様子は気にも留めていない――疑惑が薄れたゆえだった。

 

 そんな中で神崎は己の立場を明確にする意味も込めて宣言する。

 

「それでも私は『魔法』の研究を止める気はありません。グールズのように『力』を悪用する人間に対しての盾にも矛にも、そして薬にも成り得ます」

 

「だがマリクは――」

 

「KCでもっとこの技術が詳細に扱えていたら、グールズの事件はより早急に解決できていたかもしれないと思えばなおのことです」

 

 マリクの話題に咄嗟に庇う声を上げようとした闇遊戯を封殺するように神崎は畳みかける。

 

「早期解決が叶っていれば被害に遭われた方々を減らせただけでなく、マリク・イシュタールくん自身も、あれ程までに罪を重ねる前に手が打てたかもしれません」

 

「それは……そうだが……」

 

 神崎の言葉に否定する材料を失う闇遊戯。実際イシズの邪魔がなければ早い段階でグールズの騒動は終息し、マリクも今のような超長期刑ではなく、もっとマシな刑に落ち着いていただろう。

 

 神崎が自身に対する評判を正しく把握していれば避けられた問題ではあるが。

 

「私はこの技術の運用を急がねばならないと強く実感します――ただ、焦ってことを成せば碌な結果を生まないのは自明の理……ですので慎重な協議が必要ですが」

 

「だが……」

 

 そして繰り出される神崎の「未来を憂いています」といった主張に闇遊戯はパラドックスの最後の言葉が頭から離れない――「必ず後悔する」との言葉が。

 

「武藤くんのご心配も理解しております――確かに扱いを誤れば危険な力ではあるのでしょう。ですが人にはそれを律する心があると私は信じております」

 

 だが自身の瞳を真っ直ぐと見つめながら語る神崎の姿を疑うことも闇遊戯には出来ない。

 

「そして、それを手助けするのが、法であり、社会規範であると」

 

「そうか……済まなかった。こんな形で疑うような真似をして……」

 

 ゆえに大きく息を吐いた後、闇遊戯は小さく頭を下げる。ガッツリ疑いの視線を向けたことを悔いているようだ――まぁ、悔いる必要がないくらい神崎の腹の内は真っ黒なのだが。

 

「いえ、仕事柄、誤解されることには慣れておりますので」

 

 しかしそんなことはおくびにも出さずに穏やかな笑みを以て接する神崎の姿に闇遊戯から表の遊戯に人格交代しながら2人は胸中で言葉を交わす。

 

――だから言ったでしょ、もう一人のボク? 気にし過ぎだって。

 

――ああ……そうだったな……

 

 親友、城之内の恩人は「悪人」ではない事実を再確認できたことを喜ぶように表の遊戯は別れの挨拶を交わす。

 

「今日は忙しい所、ありがとうございます!」

 

「いえ、このくらいならいつでも頼って頂いて構いませんよ――ですが、次からは此方の頼み事も聞いて貰えると幸いです」

 

「あー、はい! なんでも――じゃなくて、ボクに出来る範囲なら!」

 

「はい、その時はよろしくお願いします」

 

「じゃあ、お仕事頑張ってください!」

 

 そうしてサラッと願望を漏らしつつ神崎は帰路に就く遊戯を見送った後、「仕事」に移る。

 

 

 

 ()()()()()()()理想の未来の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かのある国の大地の下にて岩盤が轟音と共に爆ぜ、その先に地下空間を拡張し、地下深くへの道がかなり強引に作られて行く。

 

 その無茶苦茶っぷりは周囲が崩落しそうな勢いだが、地下で破壊活動に勤しむ神崎の影から伸びる冥界の王の力を利用した黒い腕がせっせと地下空間を整備している様子から安全管理はなされているようだ。

 

 そんな便利アイテム扱いにも慣れた様子に神崎の影から声が響く。

 

『まさかヤツの手を借りる事になろうとは……』

 

 その声の主は「冥界の王」――素手で岩盤を砕く神崎の姿を現実感なく眺める姿に何処か哀愁が漂うのは気のせいではあるまい。

 

「パラドックスの記憶を見た限り、『今までのやり方』では未来に私の居場所がないようですからね。ある程度の軌道修正は必要かと」

 

『貴様の計画とやらを変更するのか? あのパラドックスという男の「記憶」を見た限りでは未来は崩壊した建物が散乱する滅びた街が広がっていた』

 

 返ってくるとは思ってもみなかった神崎の返答に冥界の王は甘言など用いず普通に問いかける――まずは信頼関係を築くことにしたようだ。

 

『あの様子を見るに、貴様の計画は成功していないように見えるが』

 

 そう冥界の王が言う様に神崎の「世界中の人間を巻き込んだ未来救済の計画」はパラドックスの記憶では「成功」したとは思えない。

 

 しかし神崎は否を返す。

 

「いえ、計画の根本を変える気はありませんよ。私が考えた中であの計画が一番『被害が少ない』――それに街の様子だけで計画の成否を問うのは不可能です」

 

 パラドックスの記憶だけでは「成否の確認」には不十分だと。

 

 だが冥界の王は「被害が少ない」との言葉が引っ掛かった――パラドックスが「虐殺」と評する計画にも関わらず「被害が少ない」とはどういうことだと。

 

『? 何故だ? 都市一つを潰すイリアステルとやらの計画に対し、貴様の計画は世界中の人間を虐殺――』

 

 普通に考えて、「都市一つ」と「世界全て」では前者の方が圧倒的に被害は小さい筈だ。

 

「おっと、おしゃべりは此処までのようです――目的地まで掘り進めました」

 

 しかし神崎は地下を掘り進む手を止めたと共に話を打ち切る。まずは今の目的を果たすことが重要だと。

 

『ふむ、ようやくか』

 

「交渉事は此方で行いますので、貴方は表に出ないように」

 

『元より貴様に手を貸すつもりはない。我の力も勝手に使っているだけだろうに』

 

「そうですか――ただ、こういったことは第一印象が大事ですので念押しさせて貰います」

 

 そんな冥界の王のやり取りを最後に神崎は冥界の王の意識を自身の内の深くに沈めていく。余計な事を言われたくないのだろう。

 

『……全くもって忌々しい』

 

 とはいえ、そんな好き勝手を許している現状は冥界の王としても不服で仕方がなかったが。

 

 

 

 

 

 

 そうして地下深くに潜っていった神崎の視界に入ったのは巨大な地下神殿。そこには何らかの存在を模した石像が祀られるように祭壇に鎮座する。その祭壇の前には――

 

「おや?」

 

 そう小さく零す人影が映る。

 

「おやおやおやーん? どなたかと思えば、冥界の王サマじゃあーりませんか!」

 

 だがその人影は「人」ではない。

 

 燃え盛る火の玉の頭に、真っ赤に燃える炎の身体から伸びる細い手足に悪魔の尾を持つ「炎の悪魔」とでも呼ぶべき存在は芝居がかった仕草で神崎――ではなく、冥界の王を出迎える。

 

「このようなところまで遠路はるばると! 主に代わってこのワタシ、『紅蓮の悪魔のしもべ』が精一杯のおもてなしをさせて頂きますよ! アハハハハッ!」

 

 

 そう言いながら両の手を広げて高らかに笑い声をあげる紅蓮の悪魔のしもべの姿に神崎は覚悟を決めるように前に出た。

 

 

 






スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン「嫌な予感がする……」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス「こっちに……早くこっちに来るんだ……」

N(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン「ワクワク……ワクワク……!」

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