マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
紅蓮の悪魔のしもべが勝った場合 → 神崎の肉体をスカーレッドノヴァの贄として使用

紅蓮の悪魔のしもべが負けた場合 → 神崎の望みである「助力」の義務を主従が負う。


紅蓮の悪魔のしもべ「つまり、ワタシが負けたとしても、影に襲われるいわれなどない筈なのです!!」


助力――てだすけ。また、てだすけすること。力を貸すこと。加勢。

うん! 何も間違っていないね!( ^ ω ^ )ニッコニコ




第143話 冥界の王

 

 

「ア゛ア゛ア゛ァァア゛ア゛ア゛ッ!!」

 

 殺到する影から紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァを庇う様に身を差し出した紅蓮の悪魔のしもべだったが、地面を転がりながら叫びを上げる様子から分かるように代償は大きかった。

 

 右肩を起点に根こそぎ喰い破られたように消失した半身を残った左腕で抑えながら痛みに悶える紅蓮の悪魔のしもべはうずくまる。

 

 

 だがいつまでも痛みにうずくまっている訳にはいかないと紅蓮の悪魔のしもべは歯を食いしばりながら立ち上がり、自身の主がいる方へと叫ぶ。

 

「わ、我が主、お、お逃げください!! この男は――」

 

 しかし、そう叫ぶ中で紅蓮の悪魔のしもべは自身の背後にいた筈の主――紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァの気配が感じられないことに気付く。

 

「我が……主?」

 

 最悪の可能性が脳裏を過る中、紅蓮の悪魔のしもべはそれを振り切るかのように自身の主を今一度見やる。

 

 やがて紅蓮の悪魔のしもべが知覚した光景は――

 

 

 グシャリ、グシャリと皮と骨を砕く音が流れ、

 

 グチャリ、グチャリと血肉を咀嚼する音が響き、

 

 消え入りそうな声量で届く、紅蓮の悪魔のしもべが聞きなれた声がうめく様だった。

 

 

 紅蓮の悪魔のしもべの視界では数多の闇が、影が、我先にと奪い合うように紅蓮の悪魔スカーレットノヴァを貪り喰っている。

 

 

 そしてそんな光景を変わらぬ張り付いた笑顔で内心ドン引きしつつ見やる神崎の姿を視界に捉えた紅蓮の悪魔のしもべの動きは早かった。

 

「あ……あぁ!! お止めください、我らが盟主! 冥界の王! 貴方サマは我が主から助力を得るのではなかったのですか!!」

 

 そう語る紅蓮の悪魔のしもべは平伏し、頭を下げて自身の主の助命を願う――神崎の目的が「紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァから助力を得る」ことである以上、助命の願いは聞き入れられる公算が高い。

 

「これは申し訳ない。このように恐怖を駆り立たせるつもりはなかったのですが……」

 

「何故! 何故です! 何故こんなことを!!」

 

「こうなっては事情を説明すべきですね。ふむ、何処から話したものか……」

 

 戸惑いを隠しつつ応対する神崎に力の限り叫ぶ紅蓮の悪魔のしもべはやがて一つの可能性に行き当たる。

 

「……我らが……我らが貴方サマを裏切ったからですか!?」

 

 本来であれば冥界の王に仕える地縛神の一角である紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァが、主君である冥界の王が弱っているのをいいことに――と、牙を剥いたことに対する罰なのかと。

 

 裏切り者に相応しい末路を用意したのかと。

 

 そう考える紅蓮の悪魔のしもべは「言いだしたのは自分だ」と主を庇おうとするが――

 

 

 

「いえ、初めから『こうする』つもりでした」

 

 

 

 神崎はあっけらかんとそう言ってのける。つまり、紅蓮の悪魔の主従が忠義を示していたとしても、今の末路は変わらない現実がそこにはある。

 

「何故!」

 

 そんな現実に紅蓮の悪魔のしもべは「そんな馬鹿な話があるか」と力の限り叫ぶも――

 

 

「強くなっておきたいので」

 

 

 神崎の対応は変わらない。そして影の狂乱の宴も止まらない。

 

「強く……なる? 貴方サマはもう十分に強いでしょう!」

 

「冥界の王が強い? 可笑しなことを言いますね」

 

 だが紅蓮の悪魔のしもべが何気なく言い放った言葉に神崎の意識は初めて紅蓮の悪魔のしもべに向けられる。

 

 冥界の王――文字通り、圧倒的な力を持って世界を滅ぼす5000年周期で現れる厄災。

 

 過去に幾度となく世界に襲来し、多くの犠牲を生んできた。今の今まで辛うじて赤き竜とシグナーたちに撃退されているも、その脅威は変わらない。

 

 

 

 そう、「変わらない」のだ。

 

 

「赤き龍に負け続けている冥界の王が本当に『十分に』強いと本気で思っているのですか?」

 

 

 今の今まで赤き竜に負け続けているにも関わらず、膨大な時間があったにも関わらず、様々な力を持っているにも関わらず――

 

 

 冥界の王は過去から「何も変わっていない」。

 

「スカーレッドノヴァも『赤き龍をあと一歩のところまで追い詰めた』とのことですが、私からすれば『負けて』おいて『次は勝てる』と無条件に考えているあなた方の考えは理解の外だ」

 

 一度や二度ならまだ知らず、遥か古代から負け続けているにも関わらず未だにそんな認識を持っている冥界の王の思考回路が神崎には理解できない。

 

 実質「パラドックスに敗北している」事実に恐怖に駆られた神崎からすれば、冥界の王の何処か「呑気」ともいえる考えは「世界を滅ぼす気があるのだろうか?」と思う程だ。

 

 

「お、お待ちください! 我が主と冥界の王たる貴方サマが共に戦えば、必ずや赤き龍を――」

 

 だが、紅蓮の悪魔のしもべが「力を合わせれば」と提案するも、神崎は一段と冷えた声で返す。

 

「あなた方も冥界の王と同じですよ――今の今まで『赤き龍に負け続けている』にも関わらず打開策すら考えない相手に何を期待するというのですか?」

 

 最強の地縛神などと謳われていても、結局は一度たりとも「勝っていない」のだ――ただ彼らの勝利は「世界の滅亡」を意味する為、勝たれても困るのだが。

 

「5000年をただ漫然に過ごすとは――危機感が足りていない」

 

 そして封印されている間も何もしない。「紅蓮の悪魔のしもべ」という「自由にできる戦力」がある以上、「封印によって活動できない」と言い訳はできない。

 

 彼らが漠然と過ごした膨大な年月の間に、シグナーたちが――人間がどれほど進化したと思っているのか。

 

「次は『封印では済まない(死ぬ)』かもしれないというのに」

 

 神崎にとって、冥界の王も、紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァも、そして己自身も、等しく「敗者」でしかない。

 

 そして神崎にとって「敗北から何一つ学ぼうともしない相手」にかける期待などない――そんな余裕は神崎には残されていない。

 

 今日この瞬間にZ-ONE、アポリア、アンチノミーが3人掛かりで自身を殺しに来るかもしれない。

 

 今日この瞬間にダーツが自身を殺しに来るかもしれない。

 

 今日この瞬間に赤き竜が自身を殺しに来るかもしれない。

 

 今日この瞬間に遊戯たちが冥界の王の力を感じ取り、問答無用で自身を殺しに来るかもしれない。

 

 今の神崎はそんな可能性が脳裏を過って仕方がない。幾ら策を用意しても、安心など出来ない。

 

 

 ゆえに初めから期待していない相手に「直接的な助力など始めから求めていない」と示す神崎に紅蓮の悪魔のしもべは怒りのままに叫ぶ。

 

「――そんな我らに助力を願ったのは貴方サマでしょう!!」

 

 そもそも、そんな「期待していない相手」に助力を求めたのはお前だろう、と。

 

「ええ、あなた方には『期待していません』――だから私の『糧』になってください」

 

「……か……て……?」

 

 にこやかにそう、言い切った神崎に対し、声を失う紅蓮の悪魔のしもべ。

 

 

 そう、神崎は彼らという「個人」に期待していない――だが、その力には期待している。

 

 5D’s時代のシグナーであるジャック・アトラスに強大なパワーを授けたその「特異な力」を。

 

「我らにエサに……なれと……そう仰るのですか!!」

 

「はい」

 

「なんの為に!!」

 

 紅蓮の悪魔のしもべの叫びに神崎は淡々と返す。「強くなる為」だけでは説明不足だったようだと。

 

「もしもの為に、赤き竜の脅威に備えなければなりませんから――力を蓄えておくに越したことはない」

 

「全ては……赤き竜に……勝つ為……」

 

 その言葉通り、最悪の場合、神崎は赤き竜と殺し合わなければならない。

 

 そして「今までの冥界の王と同様に次に復活できる確証」が無い神崎にとって文字通り一発勝負――それゆえに怠けてなどいられないのだ。

 

「そう受け取って貰っても問題はないかと。私の思惑はこんなところです。ただ――」

 

 一先ず、今回の自身の目的の凡そを語り終えた神崎が紅蓮の悪魔のしもべに向けて影を伸ばす。

 

「――あなた方に理解は求めませんが」

 

 そんな突き放したような神崎の言葉と共に緩やかにうごめく影が狙うは一つ――眼前の喰い残した獲物(エサ)

 

 

 主の元に送ってやろうと言わんばかりにウジャウジャとざわめく影が紅蓮の悪魔のしもべから逃げ道を奪い、迫りゆく。

 

 

「勝て……るのですか?」

 

 

 だがそんな紅蓮の悪魔のしもべの呟きに思わず固まった神崎と同様に影はピタリと停止した。

 

「……? どうかしましたか?」

 

 明らかに先程までと様子が変わった紅蓮の悪魔のしもべの姿に伺うように問いかける神崎。

 

「此度の戦に勝てるのですか!!」

 

 その神崎に向けてクワッと目を見開いた紅蓮の悪魔のしもべは周囲に迫っていた影など気にした素振りも見せずに声を張る。

 

「我らが力を貴方サマが喰らえば、赤き竜に! シグナー共に勝てるのですか!?」

 

 紅蓮の悪魔のしもべの熱に浮かされたような声色が、表情が、仕草が、神崎には理解出来ない――どうみても、今の紅蓮の悪魔のしもべはこれから喰われる者の姿ではない。

 

 

「明言はできません。そもそも彼らとの会合はかなり先でしょうから。とはいえ、争う可能性がある以上、シグナーたちに対しても手を打つ予定ではあります」

 

 そんな戸惑いを隠す様に神崎は当面の目標を語るが、紅蓮の悪魔のしもべの陶酔するような感情は揺らがない。

 

 

 紅蓮の悪魔のしもべは神崎に光を見た。

 

 

 

 自分はただ喰われるのではない。

 

 

 自分は「勝利の為の礎」として喰われるのだと。

 

 

 そう、紅蓮の悪魔のしもべは考えた――いや、思い込んだ。

 

 それが迫る恐怖から逃げる為の感情であっても、今の紅蓮の悪魔のしもべは甘美なそれに抗う力などない。

 

「あぁ……ああ!!」

 

「何のマネですか?」

 

 やがて両の手を広げ、自ら己の身体を差し出す紅蓮の悪魔のしもべ。神崎が不審気な視線を向けるも、紅蓮の悪魔のしもべは高らかに叫ぶ。

 

「不肖ながらこの我が身! どうか、お喰らいください! それで此度の戦に勝てるのであれば、本望です!!」

 

「主を捨てると?」

 

 現在進行形で喰われている紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァに視線を向けて、そう零す神崎に紅蓮の悪魔のしもべは宣言する。

 

「いえ、違います! 我が主と共に貴方サマと一つになるのです!」

 

 自身と、その主は死ぬのではない。大いなる力の本流に戻るだけなのだと――都合のいい解釈であっても、今の紅蓮の悪魔のしもべにとってはどうでも良いことだ。

 

「冥界の王! 万歳! 我らが力を一つに束ね! 難き、難き、赤き龍を討ち果たしてくださいませ!!」

 

 自身は神の一部となれる栄誉を得られたのだから――すでにその瞳は狂信者のソレだ。

 

「貴方サマならそれが出来る!」

 

「そうですか」

 

「赤き龍に破滅を! シグナー共に災いを! 世界に呪――」

 

 そんな紅蓮の悪魔のしもべの変わり様が感情の知覚によって真実だと理解出来る神崎は紅蓮の主従を影で覆いながら内と外で小さく零す。

 

「――面倒がなくて助かります」

 

――この手の思想は相変わらずよく分からないな。

 

 狂信者の考えなど、神崎には理解の外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて神崎以外、何物もいなくなった地下神殿にて神崎は背後に声をかける。

 

「さて、何か用ですか?」

 

 そんな神崎の声に応えるように虚空から現れるのは8体のモンスターたち。

 

 その8体のモンスターの内、一歩前にいる青いマントをはためかせ、王の装いで杖を持つのは赤毛の大柄な猿のモンスター――《猿魔王ゼーマン》

 

 そして背後に控える7体のモンスターは――

 

 赤い外套に黒いローブを纏った杖を持つ魔術師風の悪魔――《漆黒のズムウォルト》

 

 十字架の如き様相の氷の身体を持つ悪魔――《氷結のフィッツジェラルド》

 

 巨大な蜘蛛の頭から伸びる布で口元を隠した女性の上半身を持つアラクネ――《地底のアラクネー》

 

 身の丈程の巨大な杖を持つ水色の長髪を二つに分けた竜の尾が伸びる女魔導士、《フォーチュンレディ・エヴァリー》

 

 顔が彫られた青い月から4つの蒼き龍の頭を伸ばす――《月影龍クイラ》

 

 空母の如き、巨体な空飛ぶ戦艦――《ダーク・フラット・トップ》

 

 体中に浮かぶ百の眼玉で視線を向けるは黒き魔龍――《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》

 

 彼らは「ダークシンクロ」と呼ばれるモンスターたち、遊星たちが使った「シンクロ」モンスターたちがレベルを足して呼び出される特性とは真逆に位置する存在。

 

 真逆との言葉通り、彼らはレベルを引いて呼び出される「ダークシンクロ」という特殊な召喚方法で呼び出される冥界の王の眷属たる精霊だ。

 

 

 

 やがて8体のモンスターたちを代表するように《猿魔王ゼーマン》が神崎に向けて宣言する。

 

「我が名はゼーマン! 一同を代表し、貴方様に今一度、忠誠を示すべく参りました!」

 

――ああ、そういえば精霊界にいた彼らへの対処は保留していたな。

 

 臣下の礼を取る《猿魔王ゼーマン》と、それに続く残りのモンスターたちを眺めながら神崎は他人事のようにそう考えていた。

 

「此度は――」

 

「前口上は必要ありませんよ。早い話が『様子見を止め、此方に従う』旨を伝えたいのでしょう?」

 

 だがいつまでもそうしている訳にはいかないと《猿魔王ゼーマン》の言葉を遮り、簡潔にそう告げる神崎――このタイミングで現れたダークシンクロたちの要件は容易に察しが付く。

 

「すぐさま貴方様の元に馳せ参じることが出来なかった御無礼をお許しください――『人』であった貴方様の価値観を測りかねておりました」

 

「そう言ったことは気になさらなくて構いませんよ――どのみち私が下す結論は変わりません」

 

 深々と首を垂れる《猿魔王ゼーマン》の言葉に神崎は興味なさそうに返す――ご機嫌取りめいたやり取りなど神崎にとってはどうでもいい。

 

 

 どのみち結果は変わらない。

 

 そして首を垂れる《猿魔王ゼーマン》たちの傍を巨大な深紅の蛇が蠢く。それが何か分からぬ彼らではない。

 

「これは……スカーレッドノヴァの力!?」

 

 先程、眼前の男に喰われた同胞の力だ。やがてその深紅の蛇の体色に黒さが混ざり始め、何処か血を思わせる赤黒さを見せる。

 

 そうして生まれた血染めの大蛇はその巨大な口を開く。

 

「蛇の頭は獲物を丸呑みに出来て便利ですね」

 

 変わらぬ笑顔でそう語る神崎の言葉がなによりの答えだった。

 

「貴方様は――」

 

「まさかとは思いますが、従う素振りを見せれば『喰われはしない』と思っていたのですか?」

 

 咄嗟に出た《猿魔王ゼーマン》の声に不思議そうに神崎は返す。今の今まで「様子見」しておいて反旗を翻した同胞の末路を知ってから「忠義を示す」などと言われて信じる馬鹿はいるまい。

 

 

 

 

 彼らの末路に変わりはない。

 

 

 

 

「いえ、貴方様に我らが力を! 我らが血肉を! 捧げさせて頂けるのであればこれ以上なき誉れ!!」

 

 しかし彼らはそれを知った上でこの場に立っていた。

 

――やけに好意的だな。

 

 その予想外の反応に内心で首を傾げる神崎は現状を正しく理解していない。

 

 《猿魔王ゼーマン》たちにとって冥界の王は自分たちが崇める神そのもの――その糧となることが、どれ程の意味を持つのかを。

 

「必ずや赤き龍に我らが神の鉄槌を!!」

 

 そしてその《猿魔王ゼーマン》の号令と共に、ダークシンクロたちは己が身を自ら大蛇の顎に捧げ、満足そうに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺り一面が闇で覆われた不可思議な世界の中にただ一つポツンと佇む十字架の前で《猿魔王ゼーマン》は目をゆっくりと開く。

 

「うっ……此処は……」

 

 周囲を見渡せば己と共に冥界の王の贄となった筈の同胞たるダークシンクロたちが《猿魔王ゼーマン》と同じように戸惑い様相を見せていた。

 

 そんな彼らに声が届く。

 

「ふむ、一先ずは成功のようですね」

 

「我らは神の糧となれた筈……貴方様は!? いえ! 我らが王の前で、このような無作法を――」

 

 すぐさま其方へと視線を向けた《猿魔王ゼーマン》たちがその声の主である神崎の姿を見るや否や、慌てて姿勢を正そうとするが――

 

「お気になさらず――此方の都合ですから。それと『神崎』で構いませんよ。便宜上、ややこしいですし」

 

 それを手で制した神崎は自身の影から泥の様にせり上がる腕を模った冥界の王の力を示しつつ自己紹介代わりににこやかに笑みを浮かべる。

 

 神崎からすれば自身の内に冥界の王を取り込んでいる為、区別をつけなければ言葉通り「ややこしい」のだろう――ただ、その内心で「主」やら「王」やらの呼び方に辟易していることもあるだろうが。

 

「で、では恐れながら、神崎殿……我らはどうなったのでしょうか?」

 

 やがてダークシンクロたちの一同の疑問を代表して《猿魔王ゼーマン》は問う。

 

 何故、自分たちはこうして生かされているのかと、「自分たちの命が冥界の王の糧となる」という話ではなかったのかと。

 

「キミたちは(ダーク)の力を失い、ただの『シンクロ』モンスターとして生まれ変わりました――あなた方が『ダークシンクロ』のままでは不都合だったので」

 

「つ、つまり……我らを……『生かした』と?」

 

「ええ、その認識で問題ありません」

 

 それに対する神崎の返答はシンプルに「必要だから」――ただそれだけの理由。

 

 パラドックスの記憶にあった「未来の街の様子」と、パラドックスと対峙する前の神崎が完全に除外していた選択肢から導き出した「今後、必要になっていくもの」――それが彼らダークシンクロモンスターたち。

 

 いや、今は「シンクロモンスター」たちと言った方が良いだろう。紅蓮の悪魔スカーレッドノヴァもその一環だ。

 

 

 そして暫くの硬直を得て、自身の置かれた状況を把握した《猿魔王ゼーマン》一同は再度姿勢を正して跪き、臣下の礼を取る。

 

「そのご慈悲、感謝の言葉もありません! そして我らがそれらに報いられるのはこの身のみ! なんなりとご命令ください!!」

 

 彼ら元ダークシンクロたちからすれば自分たちの不義を許されただけでなく、冥界の王に「必要とされている」事実に心が震えていた。とはいえ――

 

――忠誠心重いな……

 

 そんなことなど知る由もない神崎は胸中で若干引いていたが。やがて神崎はいつまでもそうしている訳にはいかないと《猿魔王ゼーマン》たちに命を出す。

 

「ではゼーマン。あなた方には精霊界にて『人助け』を命じます」

 

「ひ、人助けですか? 今や元とは言え闇の眷属であるダークシンクロたる我々に?」

 

「はい、あなた方の記憶から精霊界に争いが溢れていることは確認しております。ですので、それら諸問題を解決し、平定を目指しなさい」

 

 しかし神崎が命じたものは《猿魔王ゼーマン》たちからすれば馴染みのないもの――世界を滅ぼす冥界の王の臣下である彼らとは真逆に位置するものだった。

 

 だが神崎は《猿魔王ゼーマン》たちの戸惑いなど気にした素振りも見せず指を一つ立てて強調するように宣言する。

 

 

 

「ただし、方法は『善人を装う』こと」

 

 

 

「善……人?」

 

「そうですね……英雄的(ヒロイック)であることを意識する――今の段階はその認識で構いません」

 

 今の《猿魔王ゼーマン》たちは只々理解が追い付かない。神崎の命令はどう考えても人――シグナーたちに力を貸す赤き竜寄りの考えだ。

 

 そんなことを闇の眷属である自分たちに命じるのが腑に落ちない。そして彼らが垣間見た神崎の悍ましい人間性と合致しない。

 

「とはいえ、動くときは計画を立て書面にして此方に確認を取り、報告・連絡・相談を怠らないことを忘れずに」

 

 しかし神崎は淡々と説明を続ける。並ぶ説明のどれも大したものではない。

 

「必要なものは此方で用意しますので、好きなだけ言ってくれて構いませんよ。ただ、結果は出して貰いますが――今はこのくらいです」

 

 そう説明を終えた神崎だが、やがて思い出したように手を叩く。

 

「ああ、それと此方でも用を頼むこともあるでしょうから、常に1人は手を空けておいてください」

 

 だが、それも「連絡役」くらいのものであり、《猿魔王ゼーマン》たちの戸惑いを晴らすものではない。

 

「お、恐れながら! 恐れながらお聞きしたいことが!」

 

 ゆえに《猿魔王ゼーマン》は代表して、声を上げる――相手の機嫌を損ねれば何をされるか分からない恐怖があれど、今は自分がこれから何をさせられるのか分からない恐怖が勝っていた。

 

「そう緊張せずいくらでも聞いてくださって構いませんよ――何事にも協議は重要です」

 

「…………精霊界を平定し、何をなさるつもりですか?」

 

「この段階で貴方がたに明かしても仕様の無いことです。今は命じたことを十全にこなすことへ意識を向けなさい」

 

「で、ですが!」

 

朗らかに笑みを浮かべて質問を待つ神崎に《猿魔王ゼーマン》は目下の疑問を問うが、神崎から返ってきた返答とも言えぬ返答に再度声を上げるが――

 

「将来の展望がなければ不安ですか?」

 

「――ッ!?」

 

 自身の胸中を見切ったような神崎の言葉に《猿魔王ゼーマン》は声を失う――ただ、神崎は実際に《猿魔王ゼーマン》の感情を(バー)越しに見ている為、見えて当たり前なのだが。

 

「なら今の段階の目的を明かしましょう。それは――」

 

 そして少し勿体ぶったように神崎はゆっくりと両の手を広げて告げたのは――

 

 

「『立場を明確にする』――それだけです」

 

 

 今度は与えられた情報の範囲が広すぎて答えに困るものだった。

 

「た、立場……ですか?」

 

「はい、残りは貴方たちの宿題にします。思い思いに『この行動の意図は何なのか』と考えるように」

 

 眉間にしわを寄せ、考える素振りを見せる《猿魔王ゼーマン》と思い思いに悩む素振りを見せる元ダークシンクロたちに神崎は満足そうに視線を向ける。

 

 

 やがて神崎が小さく手を掲げて指を鳴らし宣言する。

 

「では行きなさい」

 

 その神崎の言葉と共に《猿魔王ゼーマン》たちは音もなく周囲の闇に沈み、精霊界ことデュエルモンスターズ界に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて消えていった元ダークシンクロたちの姿を見届けた後、神崎は軽く肩を回して闇の世界に脈動する黒き大地に手をかざす。

 

「さて、次か――」

 

 すると黒い大地の脈動が大きくなり、手をかざした部分から数多の闇の腕がうごめき始める。

 

 やがてその闇の腕に引き摺り出されたのは――

 

 

「――ブハアァアァアアア! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」

 

 

 赤く揺らめく炎の身体を持つ悪魔、紅蓮の悪魔のしもべが黒き大地に投げ出され、うつ伏せになりながら苦し気に呻いていた。

 

「紅蓮の悪魔のしもべ」

 

 そんな紅蓮の悪魔のしもべの頭上から響く神崎の言葉に紅蓮の悪魔のしもべはガバッと身を起こす。

 

「此処は一体!? 何故、ワタシを……いえ! それより我が主は一体どうなったのですか!?」

 

 混乱は在れど、自身の主を一番に心配する紅蓮の悪魔のしもべの姿に神崎は試す様に返す。

 

 

「私が『スカーレットノヴァ』ですよ」

 

 

 明らかに挑発を含んだ神崎の言葉に対し、ブルブルと肩を震わせる紅蓮の悪魔のしもべは自身の感情を(バー)越しに見ている神崎の視線には気付いていない。

 

 やがて紅蓮の悪魔のしもべは――

 

 

「――我が主は神と一つになる栄誉を賜れたのですね!!」

 

 感嘆の息を漏らしながら、濁った瞳でそう述べて見せた。

 

 そんな紅蓮の悪魔のしもべの姿に神崎は思わず瞳を細める。それもその筈、神崎が見た紅蓮の悪魔のしもべはの(バー)は――

 

――嘘は吐いていない……のか。相手の感情は「信仰」……感じ方は人それぞれか。

 

 神崎を好意的に捉えたもの。一波乱あると考えていた神崎からすれば酷く予想外のものだった。

 

「それで、我が神に愚かにも歯向かったこの罪深き身に一体、何用でございましょう!」

 

「……頼み事を一つ願おうかと思いましてね」

 

 戸惑う神崎を無視して片膝を突き、首を垂れる紅蓮の悪魔のしもべの姿に引き気味で神崎は返すが――

 

「不敬を働いた我が身にそのような栄誉! なんでもお申し付けください! この命に代えても完遂してみせましょう!!」

 

 紅蓮の悪魔のしもべの態度は揺るがない。

 

――相手の感情が見えれど、そこに行き着いたプロセスが良く分からないな……主が喰われて何故、そんな考えに至る。

 

 神崎の内心が全てを物語っていた――全て「演技」だと言われた方が神崎は納得できるが、得られる情報からその事実は根こそぎ否定されている。

 

 

「では紅蓮の悪魔のしもべ――ふむ、少し呼びにくいですね……」

 

 ならばともう一歩踏み込んだ対応を取る神崎。それは「名」を奪うもの――「名」というのはオカルト的には現実以上に大きな意味を持つ。

 

「ならば『シモベ』とお呼びください、我が主よ!」

 

 だが紅蓮の悪魔のしもべは迷う素振りも見せずエサを前にした子犬のような眼差しで過去の名を捨てて見せた。

 

「貴方サマの『下僕』として――是非とも、そう呼んで頂きたい!」

 

 そう続けた紅蓮の悪魔のしもべこと「シモベ」の姿に軽く眩暈を覚える神崎。だが考えるのも疲れた様子で話を進めにかかる。

 

 やがて黒き大地から黒い泥のような物体で形作られた石板が浮かび上がる。それはとある石板のレプリカ――というか、人相書きみたいなものである。

 

「この石板の捜索を貴方に命じます」

 

「これは…………かしこまりました! 必ずやこの石板、貴方サマに献上してみせましょう!!」

 

 そんな神崎からの命令にルンルンな様子でスキップでもしそうな程に軽やかに「紅蓮の悪魔のしもべ」こと「シモベ」は走り去る。

 

 そのシモベの姿に神崎は手を翻し、シモベが走り去った先に現実世界へのゲートを開いた後、思わず胸中で息を吐いた。

 

――まぁ、裏切っても問題はないように処置した以上、今は保留にしておこう。しかしこれから「しなければならないこと」が多すぎるな……頑張るしかないか。

 

 そう一人ごちた神崎もまた、この黒き世界に一つ立つ十字架に視線を向けた後、闇の中へと消えていった。

 

 






冥界の王「なんかディスられた……」

紅蓮の悪魔スカーレットノヴァ「なんかハブられた……」



そしてダークシンクロをシンクロ化――ダークシンクロだとOCGルールでは使えないので
リ・コントラクト・ユニバースするしかなかったんや!(´;ω;`)ブワッ

ダークシンクロは冥界の王が力を与えた存在でしょうし、奪うのも自在かと(多分)


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