マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
もけもけ「トラゴエディア? ヤツは“不運(ハードラック)”と“(ダンス)”っちまったんだよ……」



《トラゴエディア》――ラテン語で「悲劇」を意味する(wiki参照)

悲しい……事件だったね(´・ω・`)ショボーン




第146話 悲劇の魔物

 

 

 腕を振りかぶった神崎の姿に不完全に復活させられたトラゴエディアは壁となっている陣を力強く叩き宣言する。

 

「――待て!! キサマの要求を呑もう!!」

 

 石板を粉微塵に――砂になるレベルに砕かれ、さらには緑化して土となれば、それは「石板」としてのアイデンティティーすら失いかねない。

 

 徹底し過ぎである。

 

 過去、とあるイレギュラー(進撃のもけもけ)によって手痛い仕打ちを受けたトラゴエディアはこれ以上の面倒は御免だ。

 

「おや、それは良かった」

 

 しかし対する神崎はアッサリと振りかぶった腕を止め、紳士的な振る舞いを見せる――もの凄く今更だ。

 

 その変わり様にトラゴエディアは訝しむも、また石板を砕きにかかれても困ると対話に移る。

 

「……随分とアッサリだな……助力とは具体的に何だ?」

 

「世界を脅かす存在の――いや、貴方相手に飾った言葉は不要ですね」

 

 そんなトラゴエディアの心配を余所に神崎は至って普通に話し合う――人質(石板)をチラつかせるようなこともしない。

 

「私にとって『邪魔な存在』を排除する際の助力を願えればと」

 

 話す内容も物騒さは在れど、特におかしな点も見られない。ゆえにトラゴエディアは内心で安堵しつつ一手打つ。

 

「ふむ……オレへの他のメリットは? まさか復活の手伝いだけとは言うまい」

 

 これで神崎側が何一つメリットを提示しないのであれば、トラゴエディアとて石板を砕かれる覚悟をせねばならない――譲れない一線を示すトラゴエディア。

 

 

 

 

「では貴方の故郷、クル・エルナ村の『住人の虐殺』を指示した王家の人間の魂を差し上げましょう」

 

 

 

 

「――ッ!? 何故その真相を知っている……」

 

 しかし神崎の提案にトラゴエディアは直ぐさま食いつくも、当然の疑問に神崎への警戒度を「いきなり石板を砕きにかかるヤベー奴」からワンランクアップさせる。

 

 その返答代わりに神崎はトラゴエディアの眼の前に光のピラミッドをぶら下げて見せた。

 

「千年アイテム!! ……いや、オレの知っているものと違う……そいつは?」

 

「これは千年アイテムの亜種に該当するものです――これを調べた際に色々分かったもので」

 

「誰だ! 誰があの惨劇を――」

 

 それに対し、すぐさまそれが千年アイテムの一種であることを見抜くトラゴエディアに神崎は真実を僅かに織り交ぜつつ返すが、肝心のトラゴエディアの興味は既に下手人に向かっている。

 

「当時の王、アクナムカノンに仕えた六神官の1人、王の双子の弟、アクナディンです」

 

 アヌビスの時と同じように相変わらずやり玉に上げられるアクナディン――余罪が多すぎである。

 

「……証拠はあるんだろうな?」

 

「千年パズルの中に彼の(バー)が存在し、クル・エルナ村の亡霊に憑りつかれていることを『この目』で確認しました」

 

 やがてトラゴエディアの望むままに真実を告げた神崎。情報の真偽を問われても、実際に目の当たりにした以上、偽る必要もない。

 

 バトルシティでコソコソ2人の遊戯の(バー)を測定した甲斐があったというものだ。

 

 

 その答えにトラゴエディアは満足気に笑う。

 

「ククク……中々面白いことになっているようだな……良い退屈凌ぎになりそうだ」

 

「それでは――」

 

「だがオレがただ助力するだけでは面白味がない――待て、振り上げた腕を戻せ」

 

 しかし僅かにしぶった様子を見せたトラゴエディアにすぐさま神崎は石板に腕を振り上げる――これ以上、譲歩するつもりはないとの分かり易いアピールである。

 

 とはいえ、その暴挙を止めるトラゴエディアもこれ以上、メリットを望んではいない。ゆえに今から始めるのはただの「退屈凌ぎ」。

 

 長年封印されてきたトラゴエディアは酷く退屈を嫌うのだ。

 

「ここはディアハといこうじゃないか――なぁに安心するがいい。勝とうが負けようがキサマの話には乗ってやる。これから始めるのは『お遊び』に過ぎん。だが『お遊び』にもスパイス(刺激)は必要だ」

 

 そしてトラゴエディアは陣の中で大仰に手を広げながらルールを告げる。

 

「オレが勝てば報酬は前払いだ――オレの要件を最優先しろ」

 

「私が勝てば報酬が後払いになり、貴方の要件は後回しでも構わないと?」

 

「そう言うことだ」

 

 その告げられたルールに「お遊び」との意味を把握する神崎にトラゴエディアは満足気に頷く。

 

「ですが今の時代に『ディアハ』は残っておりません」

 

「そのくらいの情報は持っている。今の時代の『デュエル』といったな? それで構わん――この時代のそれ(ディアハ)にも興味がある」

 

 そうして自然な流れでデュエルに移行するトラゴエディアがいる陣の中に神崎はなにかを放り投げる。

 

「ではその不完全な身体では不便でしょう? これをお使いください」

 

 それは脈動する肉の塊。そう――

 

「『あの魔物(カー)』に奪われたオレの心臓か……準備の良いことだ」

 

 トラゴエディアの力の源たる心臓を返却する――落としたらどうするつもりだったんだ。

 

「復活の用意は済んだ上でお呼びしましたから」

 

「ククク……虫ケラ(人間)にしては面白い男だ」

 

 やがてトラゴエディアを閉じ込めていた陣が神崎を呑み込むように広がっていき、デュエルフィールドと化す中、トラゴエディアの手元に一人でにカードが浮かび上がり、デッキが構築されていく。

 

「ではデュエルといこうじゃないか」

 

 そして腕から生えた何処か生物的なデュエルディスクを構えたトラゴエディアはそう告げつつ獰猛に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今後の主導権を賭けたデュエルが幕を開き、先行を得た神崎は微妙な自身の手札に視線を奔らせつつカードを1枚ドローする。

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に――《ミスティック・パイパー》を召喚」

 

 そしてすぐさま召喚された軽快な笛の演奏を鳴らす《ミスティック・パイパー》が軽くステップを刻む。

 

《ミスティック・パイパー》

星1 光属性 魔法使い族

攻 0 守 0

 

「その効果により自身をリリースし、《ミスティック・パイパー》の効果を発動。私はデッキからカードを1枚ドロー。それがレベル1のモンスターだった場合は追加でもう1枚ドローできます」

 

 光となって消えた《ミスティック・パイパー》を余所に笛の演奏の音色だけが空気を震わせた。

 

「引いたのはレベル1の《サクリボー》――よって、もう1枚ドロー」

 

 その音色に引き寄せられた背中にウジャドの眼を持つ《クリボー》――《サクリボー》が神崎目掛けて両手足を広げ、飛びつく。

 

「此処で魔法カード《一時休戦》を発動。互いにカードを1枚ドロー。そして次の相手ターン終了まで一切のダメージは発生しません」

 

 やがて神崎の身体をよじ登り手札に加わる《サクリボー》を余所に発動された《一時休戦》によって次のターンまでの猶予を得た神崎は引いたカードをすぐさま発動させる。

 

「さらに魔法カード《手札抹殺》を発動。お互いは手札を全て捨て、捨てた枚数だけドローします。私は6枚捨てて、新たに6枚ドロー」

 

「オレも6枚捨てて、6枚ドローだ」

 

 互いに初期手札を超えたカードを一気に墓地へ送り、手札を一新させる両者。《サクリボー》もその流れに攫われ墓地に送られる。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドです」

 

 しかし神崎はモンスターの一つも残さず、ターンを終えた。リバースカードがあるとはいえ、少々物寂しいフィールドだ。

 

 

 そんな神崎のフィールドの有様にトラゴエディアも小さく息を吐いた後、ボヤいて見せる。

 

「ほう、魔法カード《一時休戦》によってダメージを受けないとはいえ、モンスターすら呼ばんとはな」

 

 退屈を嫌うトラゴエディアからすれば神崎のデュエルはハッキリ言ってつまらない。

 

「全く、折角の余興だというのに……少しは楽しませて欲しいものだ。オレのターン、ドロー!」

 

 ようやく長きに渡る封印が解かれた今のトラゴエディアは享楽的な想いがその身を突き動かす――退屈させるなと。

 

「メインフェイズ1の開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動する。オレはエクストラデッキのカードを6枚裏側で除外し、デッキから新たに2枚ドローだ」

 

 緑の欲深い顔と黄金の下卑た顔を見せる壺を砕き、新たに2枚のカードを引いたトラゴエディアは引いたカードを見てニヤリと笑みを深める。

 

「このターン、オレはドローすることが許されなくなるが大した問題ではない」

 

 2枚ものカードをほぼ消費無しでドローできる《強欲で金満な壺》だが、当然、それ相応のデメリットはあった――しかしトラゴエディアのデッキの前では大した意味は持たない。

 

「まずはコイツだ――魔法カード《蛮族の狂宴LV(レベル)5》を発動。オレの墓地のレベル5の戦士族モンスターを2体特殊召喚する。来い! 2体の《剛鬼(ごうき)ライジングスコーピオ》! 2体とも守備表示だ」

 

 トラゴエディアの呼び声に従い空から大地に降り立ったのはサソリを思わせる姿の赤いアーマーを身に纏ったレスラーが2体。

 

 それぞれ挑発気にサソリの尾を地面に叩きつけながら腕を交差させ守備姿勢を取る。

 

剛鬼(ごうき)ライジングスコーピオ》×2

星5 地属性 戦士族

攻2300 守 0

 

「そして魔法カード《トランスターン》を発動する。フィールドのモンスター1体を墓地に送り、属性・種族が同じでレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚だ」

 

 だが1体の《剛鬼(ごうき)ライジングスコーピオ》が自身のアーマーの肩部分に手をかけ、その赤いサソリのアーマーを脱ぎ捨てた後には――

 

「オレは《剛鬼(ごうき)ライジングスコーピオ》を墓地に送り、レベルの一つ高い《剛鬼ハッグベア》を守備表示でデッキから呼び出すとしよう」

 

 クマの毛皮を被った大柄なレスラーが野性の獣の如き雄叫びと共に現れた。

 

 だが、ひとしきり叫んだ後で、いそいそと腕を交差し、守備表示になる。

 

《剛鬼ハッグベア》

星6 地属性 戦士族

攻2400 守 0

 

 

 そうして展開を続けるトラゴエディアのプレイングに神崎はふと思う。

 

――守備表示? 先程の魔法カード《蛮族の狂宴LV(レベル)5》でも守備表示だった……何故だ? 様子見にしてはあからさまだが……

 

 先程から攻撃力が高く、守備力が低いモンスターを展開しているにも関わらず、全て守備表示で呼び出すトラゴエディアの動きに神崎は疑問を持つが、トラゴエディアの動きは止まらない。

 

「この瞬間、墓地に送られた《剛鬼ライジングスコーピオ》の効果発動! このカードがフィールドから墓地に送られた場合、デッキから同名カード以外の『剛鬼』カード1枚を手札に加える」

 

 墓地に散っていった《剛鬼ライジングスコーピオ》の忘れ形見とばかりにデッキから1枚のカードがトラゴエディアの手元に加わる。

 

「オレは魔法カード《剛鬼再戦(ごうきさいせん)》を手札に加えさせて貰おう」

 

 これぞ「剛鬼」たちの最大の特徴――次々に仲間を手札に呼び込み、常に戦線を維持させる継続戦闘能力。

 

 同名効果は1ターンに1度しか使えない制約を負うが、逆を言えば別の「剛鬼」の効果を使えばその問題も殆ど気にはならない。

 

「そしてすぐさま魔法カード《剛鬼再戦(ごうきさいせん)》を発動だ。墓地のレベルの異なる『剛鬼』モンスター2体を守備表示で蘇生する。選ぶのは――」

 

 次にデュエルという名のリングに降り立つのは――

 

「レベル1《剛鬼マンジロック》! レベル2《剛鬼ヘッドバット》!!」

 

 青いタコの被りものをした細見のレスラー《剛鬼マンジロック》。その身体には吸盤を思わせる丸いペイントが見られる。

 

《剛鬼マンジロック》

星1 地属性 戦士族

攻 0 守 0

 

 そして翼を思わせるマスクをつけた紫色のアーマーを身に纏ったレスラー《剛鬼ヘッドバット》。

 

《剛鬼ヘッドバット》

星2 地属性 戦士族

攻 800 守 0

 

「そして永続魔法《エクトプラズマー》と、同じく永続魔法《無限の手札》を発動し、カードを2枚セット――まずはこんなものでターンを終えさせて貰おう」

 

 一通りポージングを取り終えた《剛鬼マンジロック》と《剛鬼ヘッドバット》がそれぞれ守備姿勢を取る中、2枚の永続魔法と2枚のセットカードでフィールドを整えターンを終えるトラゴエディア。

 

 だがただターンを終えた訳ではない。

 

「エンド時に永続魔法《エクトプラズマー》の効果でオレのフィールドの《剛鬼マンジロック》をリリースし、元々の攻撃力の半分のダメージをキサマに与えるが――」

 

 永続魔法《エクトプラズマー》の効果により、《剛鬼マンジロック》が神崎に向けて突撃するが、《一時休戦》のバリアに激突し、神崎には届かない。

 

「とはいえ、《剛鬼マンジロック》の元々の攻撃力も0では発生するダメージも0。しかも魔法カード《一時休戦》の効果によってダメージがない以上、どちらにせよ意味はないがな」

 

 《一時休戦》のバリアにパンチやキックを繰り出す《剛鬼マンジロック》だが、やがて疲れたように息を切らせながら踵を返し、トラゴエディアの手にタッチをかけて墓地に帰って行く。

 

「だが墓地に送られた《剛鬼マンジロック》の効果により、デッキから自身以外の『剛鬼』カードをサーチ――オレは2枚目の魔法カード《剛鬼再戦》を手札に加える」

 

 そうして次のターンの布石を整えたトラゴエディア。だが、その瞬間、神崎の声が響いた。

 

「ではそのエンド時、速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動します。効果によりデッキから《クリボー》を特殊召喚」

 

 笛の音と共に小さな手足を目一杯広げて、ファイティングポーズを取る《クリボー》。

 

 しかし、「剛鬼」たちの眼力に身体を震わせると、ササッと神崎の背後に隠れ、背中越しに剛鬼たちの様子を伺っていた。

 

《クリボー》

星1 闇属性 悪魔族

攻300 守200

 

「さらに速攻魔法《増殖》を発動。自身のフィールドの《クリボー》をリリースし、私のフィールドに可能な限り『クリボートークン』を守備表示で特殊召喚します」

 

 やがて発動されたカードによって神崎の背に隠れる《クリボー》が文字通り《増殖》――5体の『クリボートークン』となって剛鬼たちの様子を神崎の背中越しに伺う。

 

 数が増えたゆえか、背中からはみ出ている個体もいるが、本人は気付いていないようだ。

 

『クリボートークン』×5

星1 闇属性 悪魔族

攻300 守200

 

 剛鬼たちの「なんだアイツら……」な視線を余所に神崎はトラゴエディアのデッキを見定めていく。

 

――『剛鬼』……確か悪用されそうなサーチ能力に長けたテーマだったな……

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを――」

 

「待って貰おうか――そのスタンバイフェイズに永続罠《デビリアン・ソング》を発動する。これでキサマのフィールドのモンスターのレベルは1つ下がる」

 

 だが神崎のフェイズ進行に割り込むように発動されたトラゴエディアのカード――永続罠《デビリアン・ソング》によって茶の長髪を揺らす黒く細い身体を持つドレスを纏った亡霊のあの世に引き込まれそうな歌声が響き渡る。

 

 その死の歌声に神崎の背後で身体を益々恐怖で震わせる『クリボートークン』たち。

 

 これにより彼らは星を奪われ、レベルが1つ下がるのだが『クリボートークン』の元々のレベルは1である為、これ以上レベルが下がることはない。

 

 何!? レベル1からレベルを1引けば、レベル0になるのではないのか!? なんてことはないのだ。

 

「では改めてスタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」

 

――ああ、成程……此方モンスターのレベルに合わせて剛鬼をサーチし、《トラゴエディア》のコントロールを奪う効果に繋げるのか……

 

 改めてフェイズを進めた神崎はトラゴエディアのデッキの凡そを把握するが、どう動くか考えを巡らせていた。

 

――さて、守備力0のモンスターか……誘っているのか?

 

 そんな謎のDホイーラーみたいなことを考える神崎。

 

 剛鬼は守備力が0のモンスター群。普通に考えれば攻撃表示で呼び出されそうなものだが、トラゴエディアのフィールドの3体の剛鬼は全て守備表示――明らかに罠が見える。

 

 しかし神崎には罠であっても突き進まねばならない理由があった。

 

 それは「デュエリスト」として確かな己を手に入れる為。

 

――手札を補充するこの機会を見逃せば、『剛鬼』の展開力の前に押し切られかねない。なら選択肢は一つだ。

 

 などではなく。今の微妙な手札を改善しないと結構ピンチだからだ。

 

「フィールド魔法《心眼の祭殿》を発動し、さらに5体の『クリボートークン』を全て攻撃表示に」

 

 赤き杖を祭った神殿がそびえ立つ中、恐る恐る神崎の背中からフィールドに戻って行く『クリボートークン』。

 

 剛鬼たちの強面な視線に時折身体を震わせるが、視線を逸らしてくれた剛鬼たちの姿に安堵の息を漏らし、『クリボートークン』は短い手をボクサーの如く前に突き出しながら攻撃姿勢を取る。

 

『クリボートークン』

守200 → 攻300

 

「バトルフェイズへ――3体の『クリボートークン』で3体の剛鬼モンスターそれぞれに攻撃」

 

 やがて誰が剛鬼の元に飛び込んでいくのか押し付け合っていた『クリボートークン』の内の3体が覚悟を決めたように《剛鬼ヘッドバット》、《剛鬼ライジングスコーピオ》、《剛鬼ハッグベア》に向けて両腕をクルクル回しながら突っ込んでいく。

 

「その攻撃宣言時、私は手札から速攻魔法《相乗り》を発動。このターン、相手がドロー以外でデッキ・墓地からカードを手札に加える度に此方は1枚ドローする」

 

 剛鬼のサーチ効果を当てにしてドローを狙う神崎。

 

「ならばダメージ計算時、罠カード《アルケミー・サイクル》を発動だ! 自分フィールドの全ての表側表示モンスターの攻撃力は0となり、そのモンスターが破壊される度にオレはカードを1枚ドローする!!」

 

 しかしトラゴエディアもまた、手札増強の手段として神崎の攻撃を利用する。

 

 そうして力を失った守備表示の3体の剛鬼の腹筋に激突した3体の『クリボートークン』は回した腕でポカポカと叩いていく。だが剛鬼たちの腹筋はビクともしない。

 

《剛鬼ヘッドバット》

攻800 → 攻 0

 

《剛鬼ライジングスコーピオ》

攻2300 → 攻 0

 

《剛鬼ハッグベア》

攻2400 → 攻 0

 

 しかし、しばらくしてオーバーなリアクションと共に吹っ飛んでくれる3体の剛鬼――それは彼らのレスラーとしての本能ゆえなのか。

 

「オレのフィールドは空になったが、罠カード《アルケミー・サイクル》の効果で3枚のドローに加え、フィールドから墓地に送られた3体の『剛鬼』モンスターのそれぞれの効果で、デッキから『剛鬼』カードをサーチ!」

 

 そんな自発的に吹き飛んでくれた剛鬼たちはプレイヤーたるトラゴエディアの手札を潤していく。

 

「《剛鬼マンジロック》、《剛鬼スープレックス》、《剛鬼フェイスターン》の3枚を手札に!」

 

 やがて諸々の効果によってトラゴエディアの手札は3枚から一気に9枚にまで膨れ上がる。

 

「これで手札は潤沢だ」

 

「此方も発動した速攻魔法《相乗り》の効果で3枚ドロー」

 

 余程良いカードでも引いたのか、トラゴエディアは満足気だ。一方の神崎は相変わらずポーカーフェイスだと言わんばかりの笑み一択だが、内心は引いたカードに安心していたりする。

 

「4体目の『クリボートークン』で直接攻撃――発生する戦闘ダメージはフィールド魔法《心眼の祭殿》の効果により一律1000に」

 

 そして追撃として弾丸のような速度で腕をクルクル回しながら突撃する『クリボートークン』。

 

「グッ!」

 

 そのローリングパンチにポカポカと殴られたトラゴエディアのライフは思っていた以上にゴッソリ減る。一応闇のゲームである為、それなりに身体的ダメージを負った模様。

 

トラゴエディアLP:4000 → 3000

 

 そんな『クリボートークン』のパンチを受けたトラゴエディアは小さく笑い始める――殴られるのが好きとかではない。

 

「ククク……だが、オレが戦闘ダメージを受けたことで手札からこのカードを特殊召喚する!」

 

 そう、その『クリボートークン』の攻撃は世にも恐ろしいモンスターを呼び出す引き金となってしまったのだ。

 

 やがてトラゴエディア自身の身体から瘴気のようなものが漏れ始め――

 

「今こそ見せてやろう! オレの憎悪の象徴たる魔物(カー)の姿を!! 我が身に宿れ! 《トラゴエディア》!!」

 

 その瘴気は人間の形をしていたトラゴエディアを呑み込んでいき、その身に宿った魔物(カー)へと変貌を遂げる。

 

 それは憎悪と怒りに満ちた異形の様相を浮かべる蜘蛛の脚部を持つ悪魔――悲劇の魔物(カー)、《トラゴエディア》。

 

《トラゴエディア》

星10 闇属性 悪魔族

攻 ? 守 ?

 

「このオレ――《トラゴエディア》の攻撃力・守備力はオレの手札の枚数×600ポイントアップ!! 今の手札は8枚! よってそのパワーは4800!!」

 

 魔物(カー)の姿と変わった際に宙に浮かんだ自身の手札を示す様にそう声を張るトラゴエディア。

 

 その身体から発せられる闇のオーラは毒々しく禍々しい。

 

《トラゴエディア》

攻 ? 守 ?

攻4800 守4800

 

 そんなデュエリストとモンスターが文字通りフュージョンし、恐ろしい姿へと変貌を遂げた光景に攻撃権利の残った最後の『クリボートークン』が目に涙を浮かべながら神崎を振り返る。

 

 まさか攻撃指示がでるのではないのかと――ちなみに残りの一仕事終えた4体の『クリボートークン』は神崎の背中に隠れていた。

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ――カードを3枚セットしてターンエンドです」

 

 ターンを終えた神崎の姿に安堵の息を漏らす『クリボートークン』。だが甘い。

 

「そのエンド時に永続魔法《エクトプラズマー》の効果でキサマは自身のモンスター1体をリリースしなければならない――とはいえ、どれを選んでも変わらんがな」

 

「ええ、そうですね――『クリボートークン』の1体をリリースし、その元々の攻撃力の半分である150ポイントのダメージを貴方に与えます」

 

 安心したのも束の間、その1体の『クリボートークン』に告げられた宣言に、『クリボートークン』は「こなくそー」と言わんばかりにクリクリ言いながら、トラゴエディアに向けて突撃し、爆散。

 

 そして空のお星さまとなった。残った4体の『クリボートークン』が仲間の奮闘に敬礼を向ける。

 

トラゴエディアLP:3000 → 2850

 

「ふっ、この程度では羽虫も殺せんぞ」

 

 だが与えたダメージはたった150。トラゴエディアが『クリボートークン』がぶつかった個所をポリポリとかいて見せるように、さしてダメージは受けていない。

 

 

 トラゴエディアが発動した永続魔法《エクトプラズマー》の存在から互いのデッキ内のカードの素のステータスによる差が出始めていた。

 

 






トラゴエディアのデッキは――

「トラゴう鬼(剛鬼)」――「『剛鬼』に《トラゴエディア》が出張しただけじゃん」などと言ってはならない(; ̄3 ̄)~♪

サーチに長けた「剛鬼」で相手フィールドのモンスターと同じレベルの剛鬼をサーチして《トラゴエディア》のコントロール奪取効果を活用だ!(ランクとリンク? 知らん)

「剛鬼」の手札補充能力は《トラゴエディア》のステータスアップにも貢献するぞ!
(ぶっちゃけ「剛鬼」主軸でエクストラを活用して戦った方が強いけどな!!)

剛鬼は1~12の全レベル体を網羅してくれる! ――そう思っていた時期もありました。
(そうすれば永続罠《デビリアン・ソング》のお世話になることもなかったのに……)

いや、まだ遅くない! レベル12のゴッド剛鬼の可能性はある!!(と良いな!)

剛鬼サーチ効果に対し、「魔妖」風に「剛鬼しかエクストラから特殊召喚できない」とか
「剛鬼カードの効果しか発動できない」とか付ければワンチャンある!(と良いな!)

まだ希望は残されている!!(と良いな!)

なお使い手のGO鬼塚の現在は…………(´;ω;`)ブワッ
カリスマデュエリストだった頃のお前はもっと輝いていたぞ!(チーム満足感)



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