マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
青コーナーのチャレンジャー、『クリボー』!

迎え撃つ、赤コーナーのチャンプは『剛鬼』!

……絵面が完全な弱い者いじめだわ!(´;ω;`)ブワッ




第147話 揺るがぬゆるさ

 

 

 神崎がターンを終えたことを見届けたトラゴエディアは本当の攻撃を見せてやるとばかりに異形となった腕でカードを引き抜く。

 

「さて、オレのターンだ。ドロー!! メインフェイズ1の開始時に2枚目の魔法カード《強欲で金満な壺》を発動する――オレはエクストラデッキの6枚のカードをランダムに除外し、デッキから2枚のカードをドロー!」

 

 先のターンの焼き増しとばかりに現れる《強欲で金満な壺》は、やはりいつもの流れと言わんばかりに爆散し、トラゴエディアの元に2枚のカードをもたらす。

 

「オレは《剛鬼スープレックス》を通常召喚! そして召喚時効果発動!」

 

 そしてトラゴエディアが増援として放つは青いアーマーに身を纏った白髪の髪を揺らすレスラー《剛鬼スープレックス》。

 

 その両の手の鍵爪を竜の顎のように構える姿は、腰から伸びる竜の尾の存在も相まってまさにドラゴン――というには若干、無理があるか。

 

《剛鬼スープレックス》

星4 地属性 戦士族

攻1800 守 0

 

「《剛鬼スープレックス》は召喚時、手札から『剛鬼』モンスター1体を特殊召喚することができる! 来い! 《剛鬼ツイストコブラ》!」

 

 やがてそんな竜の構えを見せる《剛鬼スープレックス》の隣にヌルリと降り立つのは緑の蛇を思わせるアーマーを身に纏ったレスラー《剛鬼ツイストコブラ》。

 

 もみあげからと腰から2本ずつ伸びる蛇の頭のような意匠が獲物を探るように動き、さらに臀部から伸びる蛇の尻尾がピシャンと地面に打ち付けられた。

 

《剛鬼ツイストコブラ》

星3 地属性 戦士族

攻1600 守 0

 

「2枚目の魔法カード《剛鬼再戦》を発動! 再び甦れ、レベル1《剛鬼マンジロック》! レベル2《剛鬼ヘッドバット》!!」

 

 続いて前のターンと同じ面々がフィールドに腕を交差しながら降り立ち、タコの被り物と紫のアーマーを纏ったレスラーが並び立つ。

 

《剛鬼ヘッドバット》

星2 地属性 戦士族

攻 800 守 0

 

《剛鬼マンジロック》

星1 地属性 戦士族

攻 0 守 0

 

「さらに魔法カード《剛鬼フェイスターン》を発動! オレのフィールドの『剛鬼』カード1枚を破壊し、墓地の『剛鬼』モンスター1体を蘇生!」

 

 そして《剛鬼マンジロック》がタコの衣装を脱ぎ去り、天へと跳躍する。

 

「そのカードにチェーンし、2枚目の速攻魔法《相乗り》を発動。効果の説明は不要ですね?」

 

「ふっ、構わんさ――魔法カード《剛鬼フェイスターン》の効果により《剛鬼マンジロック》を破壊し、墓地の《剛鬼ハッグベア》が復活!!」

 

 やがて神崎の発動したカードなど気にもせずに降り立ったのはクマの毛皮を纏った大柄なレスラー《剛鬼ハッグベア》が今度こそは暴れてやるとばかりに両の手を広げ天に向けて雄叫びを放つ。

 

《剛鬼ハッグベア》

星6 地属性 戦士族

攻2400 守 0

 

「そして《剛鬼マンジロック》が墓地に送られたことで自身以外の剛鬼カード――フィールド魔法《剛鬼死闘(デスマッチ)》を手札に!!」

 

「速攻魔法《相乗り》の効果でドロー」

 

「さらに召喚または『剛鬼』カードの効果で特殊召喚された《剛鬼ハッグベア》はその瞬間、相手フィールドのモンスター1体の攻撃力をターンの終わりまで半分にする! 『クリボートークン』1体の攻撃力を半減!」

 

 互いに手札を補充する中で放たれる《剛鬼ハッグベア》の獣の如き咆哮が『クリボートークン』の1体を狙い撃つ。

 

 その咆哮により身体を恐怖におののく『クリボートークン』の身体は増々震え、既に涙目である――頑張れ。

 

『クリボートークン』の1体

攻300 → 攻撃150

 

「此処でフィールド魔法《剛鬼死闘(デスマッチ)》を発動! 新たなフィールド魔法が発動されたことでキサマが発動したフィールド魔法《心眼の祭殿》は破壊される!」

 

 だがトラゴエディアの攻めの手は止まらない。フィールドの《心眼の祭殿》を押しのけ、四方を金網に塞がれたリングが2人のデュエリストを迎え入れるように現れた。

 

「フィールド魔法《剛鬼死闘(デスマッチ)》の発動時にこのカードにカウンターを3つ置く!」

 

 自分たちのホームだと拳を突き上げる剛鬼たちを余所に、不安げに周囲をキョロキョロと見回す『クリボートークン』。

 

 そんな金網リングの天井には3つの赤いランプが灯っていた。

 

カウンター:0 → 3

 

 

「バトルといこう。今のオレの手札は7枚――よってオレ自身、《トラゴエディア》の攻撃力は4200となる。これで弱体化した『クリボートークン』を攻撃すれば終局だ」

 

 やがてショータイムだとばかりにバトルフェイズへ移行し、特設リングからゴングが鳴るが肝心のトラゴエディアは退屈そうにそう零す。

 

「詰まらん余興だったな……まぁ、いい。次に期待するとしよう」

 

 そうして腕の一本を『クリボートークン』に向けて振り上げるトラゴエディア。

 

 やがて眼前のガクガクと膝を震わせている『クリボートークン』にトラゴエディアの腕が振り下ろされた。

 

 

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動。その効果により今度は《ハネクリボー》を特殊召喚」

 

 だがそんな震える『クリボートークン』を白馬に乗った王子様よろしく抱えて宙を飛ぶ《ハネクリボー》。

 

 何処からともなく現れたその姿に、振り下ろされたトラゴエディアの腕の一本は地面を砕くに終わる。

 

《ハネクリボー》

星1 光属性 天使族

攻300 守200

 

「このタイミングでそのカードをオレの前に呼ぶとは……最後の挑発のつもりか?」

 

 しかしトラゴエディアの言う様に。攻撃対象を選び直すだけでは結局は弱体化した『クリボートークン』を再度攻撃されるだけであり、敗北は変わらない。

 

 ゆえにトラゴエディアの心臓を奪い封印した《ハネクリボー》を見せつける為に呼び出したのかと忌々し気に神崎を見やるトラゴエディア。

 

 だが神崎にそんな意図はない。

 

「いえ、必要だからです――速攻魔法《進化する翼》を発動」

 

 ただのデュエルの流れの一環である。

 

「自身のフィールドの《ハネクリボー》と手札の2枚を墓地に送り、デッキから《ハネクリボー LV(レベル)10》を特殊召喚します」

 

 やがて光り輝く《ハネクリボー》の全身から光が晴れた先には、白き巨大な翼を羽ばたかせる黄金の竜の手足にガッチリとホールドされた《ハネクリボー》の姿が。

 

 これぞ《ハネクリボー》が進化した姿――《ハネクリボー LV(レベル)10》。

 

 永続罠《デビリアン・ソング》の効果でレベルが1つ下がっていてもレベル10なのだ。

 

《ハネクリボー LV(レベル)10》

星10 → 星9

光属性 天使族

攻300 守200

 

 攻撃力・守備力は変わらないものの、その内包する力は『クリボートークン』たちが目を輝かせる程に別次元。

 

「《ハネクリボー LV(レベル)10》の効果を発動。相手のバトルフェイズに自身をリリースすることで相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊」

 

 白き巨大な翼を広げ、エネルギーを解き放つ《ハネクリボー LV(レベル)10》の極光は《トラゴエディア》だけでなく、3体の攻撃表示の剛鬼たちにも降り注ぐ。

 

「そして破壊されたモンスターの元々の攻撃力の合計のダメージを与えます」

 

「なにっ!?」

 

 今のトラゴエディアの残りライフは2850――このままでは考えるまでもなくライフが消し飛ぶ。

 

 そんな極光を受けて膝を突く剛鬼たちと、その巨体から煙を出しながら苦し気な表情を見せるトラゴエディア。

 

「攻撃力の合計は――」

 

「させん! オレにダメージを与える効果が発動したとき、手札の《剛鬼マンジロック》を捨てることで、その効果で受けるダメージを半減する!」

 

 しかしその極光の中で力を振り絞るようにカードを切るトラゴエディアの声に従い、手札から青いタコの被りものをした《剛鬼マンジロック》が両手を広げ、その身を賭してダメージを軽減する。

 

 トラゴエディアはまだ止まらない。

 

「さらにチェーンして《剛鬼ツイストコブラ》の効果を発動! フィールドの剛鬼モンスターをリリースし、フィールドの剛鬼モンスターの攻撃力をその数値分アップ!」

 

 《剛鬼ツイストコブラ》の腰にゆれる2つの蛇の頭が味方の2体の剛鬼にそれぞれ伸びていく。

 

「オレは《剛鬼ハッグベア》をリリースし、《剛鬼スープレックス》の攻撃力をアップだ!!」

 

 やがて《剛鬼ハッグベア》のクマの毛皮に噛みついた蛇の頭が、《剛鬼スープレックス》の鍵爪の付いた腕に巻き付いた蛇の頭へと力を流していく。

 

《剛鬼スープレックス》

攻1800 → 攻3200

 

「まだだ! さらにチェーンして速攻魔法《禁じられた聖衣》を我が身たる《トラゴエディア》を対象に発動! このターン、攻撃力を600下げる代わりにカード効果で破壊されなくなる!!」

 

 さらにトラゴエディア自身を守るように白いオーラが立ち込めた。

 

《トラゴエディア》

攻4200 守4200

攻3000 守3000

攻2400

 

 そのトラゴエディアの最後の動きを合図としたかのように、チェーンの逆順処理が成され――

 

「ではチェーンの逆順処理により《ハネクリボー LV(レベル)10》の効果が最後に適用され――」

 

 最後に発動されるのは《ハネクリボー LV(レベル)10》がその身を捧げた全エネルギーがトラゴエディアを仕留めんと眩い輝きを放った。

 

「2体のモンスターを破壊し、その『元々』の攻撃力の合計3400ポイントのダメージの半分である1700ポイントのダメージを受けて貰います」

 

 その一撃を受け、文字通り光となって消し飛ぶ《剛鬼スープレックス》と《剛鬼ツイストコブラ》の元々の力の分だけ発生した余波がトラゴエディアを切り裂いていく。

 

「ガァアアアアァアアアアッ!!」

 

トラゴエディアLP:2850 → 1150

 

 苦悶の声を上げて、膝を突くトラゴエディア。己が身は《禁じられた聖衣》によって破壊されなかったとしても、《ハネクリボー》の持つ「邪を祓う力」は確実にトラゴエディアの身を削っている。

 

「だが……墓地に送られた3体の剛鬼の効果によって自身以外の剛鬼カードをそれぞれサーチ……だ」

 

 だとしても――いや、だからこそトラゴエディアは楽し気に裂けたような笑みを浮かべる――やっと面白くなってきたと。

 

「デッキから《剛鬼マンジロック》、《剛鬼スープレックス》、《剛鬼フェイスターン》の3枚を手札に……」

 

「では此方も速攻魔法《相乗り》の効果で3枚ドローさせて頂きます」

 

 トラゴエディアの手札補充に便乗しっぱなしの神崎を余所に、トラゴエディアは小さく笑い声を上げ始める。

 

「ククク……やってくれたな。だが今のオレの手札は8枚だ。よって《トラゴエディア》の攻撃力は――」

 

 《ハネクリボー LV(レベル)10》の一撃を防ぐ為に消費された筈のトラゴエディアの手札も剛鬼たちの効果により補充され、その闇の力に陰りはない。

 

 いや、むしろ僅かだが増している。

 

《トラゴエディア》

攻2400 守3000

攻4200 守4800

 

「モンスターの数こそ減ったが、キサマに止めを刺すには十分だ! 次はどう止める!」

 

 そう試すような物言いでトラゴエディアは、大口を開きながら灼熱の炎を口元に零れさせ――

 

「オレの憎悪の化身たる魔物(カー)の! オレ自身の復讐の念をその身で受けてみるがいい!! 今度こそ弱体化した『クリボートークン』諸共、キサマを叩き潰してやろう!!」

 

 やがて放たれた灼熱の息吹が弱体化した『クリボートークン』と神崎を襲う。

 

 その灼熱の息吹の熱さに転げまわる『クリボートークン』。

 

 だが神崎の方は――

 

「ダメージ計算時、手札の《クリボー》を捨てることで、この戦闘で発生するダメージを0に」

 

 2体目の《クリボー》の力によって守られていた。

 

 メラメラと身体を炎で燃やす『クリボートークン』の恨めし気な視線が神崎を射抜く。だがしばらくして仕事を終えた《クリボー》に肩をポンと叩かれ、大人しくフィールドから消えていった。

 

「ほう……これも防いだか。ならバトルを終え、魔法カード《蛮族の狂宴LV(レベル)5》を発動! 俺の墓地のレベル5の戦士族モンスターを2体まで特殊召喚だ! 来い、2体の《剛鬼ライジングスコーピオ》!」

 

 そしてトラゴエディア以外いなくなったフィールドにピッタリと揃った動きで現れるのはサソリアーマーでお馴染みの《剛鬼ライジングスコーピオ》が2体。

 

 やがてトラゴエディアを中央に沿え、鏡合わせのように作る力こぶは逞しい。

 

《剛鬼ライジングスコーピオ》×2

星5 地属性 戦士族

攻2300 守 0

 

「エンド時に永続魔法《エクトプラズマー》の効果でオレのフィールドの《剛鬼ライジングスコーピオ》をリリースし、元々の攻撃力の半分のダメージをキサマに与える!」

 

 そしてそんな《剛鬼ライジングスコーピオ》の1体がもう1体へとアイコンタクトを送った後、コクリと頷いて神崎に突撃のドロップキック。

 

神崎LP:4000 → 2850

 

「ぐっ……!?」

 

――結構効くな……

 

 そのドロップキックから発生した闇のデュエル特有のリアルダメージの思わぬ量に内と外で声を漏らす神崎。

 

「フフフ、良い顔だ」

 

 そんな神崎の反応に愉快気に笑うトラゴエディア――リアクションの少ない神崎の反応が見れて満足気だ。

 

「さらに墓地に送られた《剛鬼ライジングスコーピオ》の効果により、デッキから自身以外の『剛鬼』カードをサーチする。オレは3枚目の魔法カード《剛鬼再戦》を手札に」

 

「速攻魔法《相乗り》の効果でドロー」

 

 相手の手札補充に合わせてカードを引く神崎の手札はかなり補充されているが。対するトラゴエディアは気にした様子もない。

 

 トラゴエディアにとって何処までいっても「退屈しのぎ」でしかない為、神崎のような恐怖心とは無縁ゆえの余裕だった。

 

「エンド時に手札が6枚以上あるが、永続魔法《無限の手札》の効果により互いに手札制限はない。ターンエンド――エンド時に《禁じられた聖衣》の効果も消える」

 

 やがてトラゴエディアを守っていた白いオーラが立ち消え、代わりに邪悪なるオーラがその異形の悪魔となっているトラゴエディアを毒々しく輝かせる。

 

《トラゴエディア》

攻4200 守4800

攻4800 守4800

 

 しかしそのトラゴエディアの身体には先程の《ハネクリボー LV 10》のダメージが傷跡として残っていた。

 

「フフ……まさかソイツ(ハネクリボー)に再び苦汁を飲まされるとはな……おもしろい! おもしろいぞ! さぁ、次はどう動く!!」

 

 だがそんな己の天敵による致命的なダメージも今のトラゴエディアにとっては己の退屈を紛らわせるアクセントでしかない。

 

 自身の命すら退屈しのぎの為のおもちゃでしかないトラゴエディアの在り方はひたすらに破滅的だった。

 

 

「……私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に」

 

 そしてそんなトラゴエディアの考えは神崎とは相いれない。

 

 先のターンの永続魔法《エクトプラズマー》のダメージを受けて、身体の調子を確かめるように動かす神崎は大幅に増えた手札の中から3枚を扇のように広げ、発動させる。

 

「魔法カード《ワンチャン!?》を発動。自身のフィールドにレベル1モンスターが存在する場合、デッキからレベル1モンスターを手札に」

 

 1枚目のカードの効果により子犬の鳴き声が響く――その声に周囲をキョロキョロし始める『クリボートークン』。

 

「チェーンして速攻魔法《月の書》を発動。《剛鬼ライジングスコーピオ》を裏守備表示に」

 

 次の2枚目のカードによって空から月のマークが浮かぶ青い書物が《剛鬼ライジングスコーピオ》の元に舞い降りる。

 

「チェーンが発生したことで手札の《ハネクリボー LV(レベル)9》の効果を発動――チェーンの逆順処理へ移行。まず《ハネクリボー LV(レベル)9》の効果により、自身を特殊召喚」

 

 そして3枚目のカードによって再び現れた《ハネクリボー》が跳躍すると共に何処からともなく赤いアーマーが《ハネクリボー》の元に集う――そう、合体シークエンスである。

 

 やがて一本角が雄々しい深紅の兜が装着され、背中を覆うように鎧がドッキングし、そこから巨大化した《ハネクリボー》の翼が広がる。

 

 さらに赤い籠手――というよりサブアームが小さな手に装着され、獣の如き爪が振るわれた。

 

《ハネクリボー LV(レベル)9》

星9 → 星8

光属性 天使族

攻 ? 守 ?

 

 まさに獣の如き力を得た《ハネクリボー》こと、《ハネクリボー LV(レベル)9》――永続罠《デビリアン・ソング》でレベルが下がっても気にならない。

 

「チェーンの逆順処理により《剛鬼ライジングスコーピオ》は裏守備表示になり、デッキからレベル1の《金華猫》を手札に」

 

 そしてチェーンの逆順処理が進み、《月の書》を枕にゴロリと寝転がって裏側守備表示となる《剛鬼ライジングスコーピオ》。シエスタ(昼寝)の時間である。

 

 最後に子犬の声の先から神崎の手札に飛び込んだのは白い子猫――どこから声を出していたんだ。

 

「そして《ハネクリボー LV(レベル)9》の攻守は相手墓地の魔法カードの数×500ポイント――よって、攻守は5000」

 

 そんなことはさておきとばかりに宣言した神崎の声にやる気を漲らせ、天に爪を掲げる《ハネクリボー LV(レベル)9》。

 

 トラゴエディアが大量に発動した10枚分の魔法カードが《ハネクリボー LV(レベル)9》の力となる。

 

《ハネクリボー LV(レベル)9》

攻 ? 守 ?

攻5000 守5000

 

「とはいえ、このカードが表側でフィールドに存在する限り、互いの魔法カードは墓地には送られることなく除外されるので、これ以上ステータスが上がることはありません」

 

「ふっ、よく言う――攻撃力5000もあれば十分だろうに」

 

 神崎の事務的な説明にトラゴエディアは皮肉気にニヤリと笑みを浮かべる。

 

 トラゴエディアの現在の攻撃力は4800。僅かばかりではあるが越えているのだ――あまり意味のない過程だろうと。

 

「どうでしょうね。バトルフェイズへ――《ハネクリボー LV(レベル)9》で《トラゴエディア》を攻撃」

 

 そうとぼけるように返しつつ零した神崎の攻撃宣言に《ハネクリボー LV(レベル)9》は籠手から伸びる爪で地面を削りながらトラゴエディアに迫る。

 

 トラゴエディアもただではやられまいと無数の蜘蛛の如き手足を振るが、《ハネクリボー LV(レベル)9》を覆う赤い兜と鎧に弾かれ、振り切られた爪にその身を切り裂かれた。

 

「グッ、またしても……!!」

 

 その斬撃により魔物(カー)としての姿が、まるで外装が剥がれるように霧散し、人の姿に戻ったトラゴエディアの足が地面を削る。

 

トラゴエディアLP:1150 → 950

 

 自身の現身たる魔物(カー)を消し飛ばされつつも苦悶の表情を見せ、楽し気に笑うトラゴエディア。

 

「2体の《クリボートークン》で守備表示の剛鬼2体を攻撃」

 

 だが神崎は気にした様子もなく攻撃を続行。

 

 2体の『クリボートークン』の頭突きが《剛鬼ヘッドバット》と《剛鬼ライジングスコーピオ》を襲った。

 

 頭の痛みにうずくまりながら消えていく2体の剛鬼と完全に目を回している2体の『クリボートークン』の姿が何処か緊迫感がないのは気のせいではあるまい。

 

「だが墓地に送られた《剛鬼ヘッドバット》と《剛鬼ライジングスコーピオ》の効果でデッキから剛鬼カード――《剛鬼ハッグベア》と《剛鬼ヘッドバット》をサーチ!」

 

 しかしタダでは終わらないと、剛鬼カードの効果で手札を絶やさないトラゴエディア。とはいえ、今やそのフィールドはガラ空きだ。

 

「では最後の『クリボートークン』で直接攻撃させて頂きます」

 

 そんなつゆ払いの済んだヴィクトリーロードを神崎の声に従い、ピューと飛んでいく『クリボートークン』はやがてトラゴエディアと曲がり角でぶつかる二人のように何処かラブコメチックに激突した。

 

「チィッ!!」

 

トラゴエディアLP:950 → 650

 

 ぶつかった際の衝撃で神崎のフィールドにバウンドしながら転がる『クリボートークン』を余所に発生した小さなダメージに舌を打つトラゴエディア。

 

 いくら享楽を求めるトラゴエディアも、かつて自身の心臓を封印した《ハネクリボー》の姿に似た『クリボートークン』には煮え切らぬ感情が眠っているようだ。

 

「随分と好き勝手やってくれたな……」

 

 というよりも、このデュエル中、相手の神崎が殆ど「クリボー」ばかり繰り出している状況にさすがに苛立ちを覚えてきたというべきか。

 

 どうみても煽っているようにしか見えない――ただ神崎には「勝ち負けが関係ないのなら、自分の好きなデッキを使おう」程度の浅い考えしかないが。

 

 

 ただ彼のデッキに眠る《ハネクリボー》たちがそう思っているかは定かではない。

 

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動します――デッキから《ハネクリボー》を特殊召喚」

 

 そんな思いがあったのかは分からないが、金網リングの鉄柱に小さな手を掲げて立つのはレベル9でもレベル10でもない通常状態の《ハネクリボー》。

 

 その小さな羽を広げ、眼下を威圧するかのように「クリー」と叫ぶ。今デュエルで2度目の降臨だ。

 

《ハネクリボー》

星1 光属性 天使族

攻300 守200

 

「追撃にソイツを選ぶとはな……忌々しい魔物(カー)だ! だが、その攻撃力では永続魔法《エクトプラズマー》のダメージと合計しても、オレの残りライフを削り切れまい」

 

 追撃に、と現れたかつて自身の心臓を封じたモンスターと同じカード《ハネクリボー》に憎悪の籠った視線を向けるトラゴエディアの言う様に《ハネクリボー》の攻撃力は僅か300。

 

 永続魔法《エクトプラズマー》で現在の攻撃力が5000の《ハネクリボー LV(レベル)9》を射出しても、攻撃力分のダメージは墓地の数値を参照する為、元々が「?」の《ハネクリボー LV(レベル)9》では与えるダメージは「0」だ。

 

 ゆえにダメージを与えられるのは300の攻撃力を持つクリボーたちだけ――その半分の150が精々である。

 

 それではトラゴエディアの残りライフが650と僅かであっても削り切れない。そして――

 

――手札には《剛鬼マンジロック》もいる。多少攻撃力が上がろうが問題など――

 

 トラゴエディアの胸中の声が示すように手札には戦闘・効果ダメージを1度だけ半減させる効果を持つ《剛鬼マンジロック》がいる。

 

「《ハネクリボー》で直接攻撃」

 

 しかし、そう考えるトラゴエディアに対し、神崎の攻撃宣言を受けた《ハネクリボー》は鉄柱の上で左右のお手々を見せつけるように掲げる。

 

 そう、これは「二刀流」! これにより《ハネクリボー》本来の攻撃力300にプラス300を加え、600になる――気がする。

 

 

 そんな《ハネクリボー》の唐突な仕草を前にしてもトラゴエディアの余裕は揺るがない。

 

「ダメージ計算時、速攻魔法《バーサーカークラッシュ》を発動。自身の墓地のモンスターを除外し、ターンの終わりまで自身の《ハネクリボー》1体の攻守を写し取ります」

 

 余裕があるトラゴエディアは神崎が発動させたカードにも動じない。何故なら神崎の使用したカードは――

 

「ハッ、だがキサマの墓地のモンスターはどれもステータスの低いものばかり――ッ!?」

 

 だが、その余裕ゆえにトラゴエディアは《ハネクリボー》が羽をパタパタさせながら、いつもの2倍の跳躍をしている姿を見て、ハッと気付く。

 

 このデュエル中、トラゴエディアが神崎のカードを把握できない時があったと。

 

「まさか最初のターンに!?」

 

「墓地の《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を除外し、攻守をコピー」

 

 そのトラゴエディアの言葉を肯定するようにデュエルを続ける神崎。

 

 いつもより2倍の高さに飛び立った《ハネクリボー》がさらに普段の2.5倍の回転を自身の身体にかけ、限界を超えた《ハネクリボー》の姿が真っ赤に燃える。

 

 

 今や、《ハネクリボー》の攻撃力は伝説の白き竜にすら届きうる力。

 

《ハネクリボー》

攻 300 守 200

攻3000 守2500

 

 

 その攻撃力の前では《剛鬼マンジロック》の効果で戦闘ダメージを半減しても防ぎきれない。

 

「グッ……何処までもその魔物(カー)でオレを仕留めたいよ――」

 

 炎の矢となった《ハネクリボー》の小さな左右のお手々が眼前に迫る中、トラゴエディアがこのデュエルでの神崎の目的を察する――今度こそ確実にトラゴエディアを消し去るべく《ハネクリボー》を繰り出したのだと。

 

 

 

 だが、既に遅い――――というか、そんな目的はない。

 

「――ォオオオオァアアアアアア!!」

 

 トラゴエディアの闇の力によって辛うじて顕在できていた仮の身体が《ハネクリボー》の一撃により大穴が開き、その身体を溶岩の悪魔の炎が包んだ。

 

トラゴエディアLP:650 → 0

 

 

 

 

 

 闇のデュエルが終わり、敗者であるトラゴエディアはその身に受けた甚大なダメージに膝を突く。

 

「グッ……此処までか……」

 

 やがて限界を知らせるように煙を出す身体で倒れたトラゴエディアだったが、楽し気に神崎に視線を向けた。

 

「ククッ……だが中々楽しかったぞ……」

 

「困りましたね……まさか私の持つ《ハネクリボー》でこのような状態になるとは想定外でした」

 

 自身の死を前にしてもそう享楽に身を捧げるトラゴエディアの姿を余所に神崎は想定外の事態に考え込む仕草を見せる。

 

 古代エジプトの神官たちですら辛うじて石板に封印するのがやっとだったトラゴエディア。

 

 そんなトラゴエディアに漫画版GXにて引導を渡したのは「マアトの羽」の力を託された《光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)》と《ハネクリボー》の力を合わせたモンスターである《マアト》の一撃。

 

 そのクラスの一撃でなければトラゴエディアの怨念を打ち破ることは出来ない――何度も言うが、そこいらの精霊やデュエリスト、サイコパワーで対処できるものではないのだ。

 

 そして神崎の持つ精霊も宿っていない普通のカードである《ハネクリボー》にそんな力など宿ってはいない筈だった――ゆえに余計に訝しむように考え込む。

 

 この事態を引き起こした原因が今の神崎には分からない。

 

「フッ、世界などそんなものだ――全くもってままならん」

 

 しかしそんな満足気なトラゴエディアの言葉が神崎の思考を絶つ。

 

 そう、トラゴエディアは不満がゼロな訳ではないが、ある程度は満足していた。

 

 このままではその存在は保てずに消えるだけだが、もう一度、封印されて狂いそうになる程の退屈な日々を過ごすことに比べればまだマシだと。

 

 最後に多少の不満があれど、正義だなんだと喚くような相手とは真逆な、それなりに面白い相手ともデュエルできた――その事実もトラゴエディアの最後を彩る花となる。

 

 

 しかしそんなトラゴエディアに影がかかる。

 

「満足そうなところ申し訳ないですが、今から貴方をソコ(消滅)から引き上げます。ただ確実に出来る保証はないので、最初に遺言を――なにか言い残すことはありませんか?」

 

「フフッ、なんだそれは……仮にオレが世界の破壊を願ったらどうするつもりだ?」

 

 その影の正体である神崎の影から伸びる冥界の王の力がトゴエディアの身体に空いた風穴の心臓からチラと覗く車輪のような文様が刻まれた14面体の物体に接続されるのを余所にトラゴエディアはおどけるように返すが――

 

 

「貴方が復讐以外を願うのですか?」

 

 

「ククク……フハハハハハハハッ! そうだな! 全くその通りだ! 奴らを、アクナディンを地獄に落とす以外は願わんな!」

 

 神崎の返答に満足そうに笑う。しかし――

 

「だがそれは『オレ』の復讐だ――キサマに丸投げするものではない」

 

 トラゴエディアは「見くびるな」と神崎を睨んで見せる。復讐は己が手で下してこそなのだと。

 

「そうですか……ではどうしますか? あまり時間は残されてはいません」

 

「ああ、そうだったな。遺言か……ならキサマに最後の言葉でも残してやろう」

 

「構いませんよ。あまり無茶を言われると困りますが」

 

「フフフ……なぁに、そんな大したものではない。ただの問いかけに過ぎんさ」

 

 そして変わらぬ神崎の対応にトラゴエディアは悪戯を思いついた子供――にしては邪悪に笑いながら最後に告げる。

 

 

 

 

 

 

「――人間のフリは楽しいか?」

 

 

 

 

 

 そう告げたトラゴエディアは愉快そうに神崎の反応を眺めるが、神崎は何時もの笑みで表情を隠して返す。

 

 

「変わった遺言ですね」

 

 

 そして闇が全てを呑み込んだ。

 

 

 

 






トラゴエディアの心臓に仕込んだものはなーんだ♪(顔芸)






~お知らせ~

今作の更新をお休みさせて頂く旨を此処にお伝えしたいと思います。
詳しい経緯は活動報告の方に記しておきました。
このような結果となってしまい申し訳ないです。

今まで応援、本当にありがとうございました<(_ _)> ペコリ


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