マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
崇光なる宣告者(アルティメット・デクレアラー)「誰も『ダーツに呼び出された』俺のこと話題にすら上げてなかったーッ!!」

E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ネオス「(肩ポンしつつ)本編出れただけマシ」




第151話 神の証明

 

 

「随分と情熱的な申し出ですね」

 

 ダーツからの唐突な勧誘に思わずといった具合に冗談めかしてそう返す神崎。なにせ相手が相手だけにその手を取る訳にもいかない。

 

 もしもその手を取れば「遊戯たちと明確に敵対する」という破滅の道を歩むことになるのだから。

 

「それに値するモノがキミにはある――キミの集めたデュエリストたちは誰もが強き魂を持っているのだから。本当によく集めたものだ」

 

 だからと言ってダーツもそう容易く諦めるには神崎の持つ立場は惜しかった。

 

 オカルト課にはダーツが狙っていたヴァロンやアメルダだけでなく、彼らと同等、あるいは凌駕するかもしれない程の実力を持つデュエリストたちが多数在籍している。

 

 今現在、強力な配下を持たぬダーツからすれば是が非でも手にしておきたい。

 

「彼らはやがて復活する伝説の龍に選ばれたデュエリストたちを倒しうる手駒として相応しい」

 

 何しろダーツの野望を阻まんとする伝説の三体の竜に選ばれたデュエリストたちを退けるには並のデュエリストでは力不足だ。

 

 ダーツのデュエルの実力が幾ら高いとはいえ、多勢に無勢に加えて選ばれし3人のデュエリストの結束の力を侮るなど出来ない。

 

 過去の一戦の際もダーツの父と娘と伝説の三体の竜と精霊たちによる結束の力によって防がれたのだから。

 

「キミの命令にもよく従う――私にとって理想的で強力な手駒に成り得る」

 

 ゆえにダーツが現在抱えている諸々の問題を一挙に解決できる立場にいる神崎は理想的な存在だ。

 

 

 些か都合が良すぎる程に。

 

 

 そう手放しに称賛を送るダーツだが対する神崎は先に説明した事情がある為、当然乗り気ではない。

 

「世界を滅ぼさんとする貴方の提案へ了承を返すとでも?」

 

「無論対価は用意してあるとも、それが最初に告げた『安寧』だ」

 

 そうして拒絶の意思を見せる神崎だが、対するダーツは被せるように相手の心に一手打つ。

 

「私は人々の欲望に醜く歪んだ今の世界を破壊し、新たな世界を創造する」

 

 語られるのはダーツの目的である「世界と人類の再生」。これこそがオレイカルコスの神から降った啓示により辿り着いた計画。

 

「その際に心の闇に打ち勝つことのできる完璧な人間――そう、欲望を持たない新人類を生み出し、私自ら彼らを束ねる」

 

 心の闇を克服できず、自身の住まう星すら破滅させようとする現在の人間に見切りをつけて世界をリセットし、異物を排除した後に新たな人類を生み出す必要があるのだと。

 

「そして永遠の平和が、安寧が保たれるのだ」

 

 さすれば、この星に蔓延る問題は全て解決され、恒久的な平和と安寧が約束される。これがダーツの――と言うよりは、オレイカルコスの神の言い分。

 

「キミにはその新たな世界で好きに過ごして貰って構わない。世界に問題がなければ、アレコレと動く必要もない筈だ――大人しく隠居でも何でもすると良い」

 

 心の闇を持たない完全な人類ならば、この星を壊すこともなく世界が滅ぶような問題も起きはしないのだと。

 

 仮にその平和な世界が文字通り実現すれば、ダーツの言う通り神崎は世界の片隅であろうがひっそりと暮らすであろう。

 

「双方の希望が叶う理想的な契約だろう?」

 

 そう、この契約は互いの望みを最大限叶える理想的なものだ。互いにWin-Winの関係が約束されている。

 

「そう上手くいくとは思えませんね」

 

「ほう?」

 

 たった一つの問題(遊戯たちと戦うこと)を除けば。

 

 神崎にとってそこが一番のネックだった。ならその問題さえ解決できれば乗りそうな有様だが、それは一先ず脇に置いておき――

 

 何故なら、バトルシティやパラドックスのデュエルで遊戯のデュエルキングたる実力を散々見た後からすれば無理ゲーだと悟らざるを得ない。

 

 あんなデュエリストとしての実力が化け物染みている相手にどうやれば勝てるかなど神崎には皆目見当もつかない――身体ばかり化け物になっても悲しいことにデュエルにおいて殆ど意味はないのだ。

 

 

 世の中にはどうにもならないこともある。

 

 時に諦めも肝心だ。

 

 相応の妥協も必要であろう。

 

 

 なので、死にたくない神崎は断る材料を並べ始める。神崎としても此処で荒事に発展するのは好ましくない為、良い感じにこの会談をスルーしたい腹積もりがあった――出来るかどうかは別だが。

 

「額面通りに受け取れば確かに魅力的な提案ですが、提案したのが一度『失敗した』貴方というのが不安材料だ」

 

「フッ、私の過去も調査済みという訳か」

 

 原作知識から神崎が知りうるダーツの過去に起こった一件をやり玉に上げ、その方法では「そもそも世界が救えない」方向へと論点をズラそうとするが――

 

「確かに――古代アトランティスの王としての私は民たちの心の闇を御せず、その心を腐らせてしまった」

 

 対するダーツはどこ吹く風といった具合に堪えた様子はない。

 

 確かに神崎が話題へ上げた通り、ダーツは過去に一度治世に失敗している。

 

 

 件の場所はダーツの故郷であった「聖なる水の都、アトランティス」――素晴らしい都市()()()

 

 今の世界とは異なり、精霊たちと共存が成されており、自然と人が調和した理想郷と呼べる美しい世界()()()

 

 しかし永遠の理想郷など存在しないとばかりに――

 

「オレイカルコスの神から授けられた『欠片』を奇跡の物質と疑わず、神が人類を試していることを見抜けなかった」

 

 突如として発生した「オレイカルコスの欠片」が全てを狂わせる。

 

 そのあらゆる分野に応用可能な万能の物質と言うべき存在により、アトランティスは高度な発展を遂げた――その代償として支払ったものの大きさに気付かずに。

 

「私は民の心が腐って行くことを止められなかった」

 

 そうして利便性を突き詰めていった人々は、それらと引き換えに大地や自然に加え、精霊との関係・恩恵を忘れ、その心を欲望で染めていった。

 

 醜く肥大した心の闇が行き着く先などいつの世もさして変わりはしない。

 

「そしてキミも知っての通り、私は――民だけに留まらず、父と娘、そして妻に至るまでこの手にかける結果を生んだ」

 

 それは滅び。

 

 人々がオレイカルコスの欠片の代償により醜い化け物へと姿を変え、それらの異変に対してオレイカルコスの力を捨てることを提言したダーツの父と娘の声も既に手遅れ。

 

 ダーツはオレイカルコスの神の啓示に従い、父たちと殺し合う道を取った。

 

 

 そうして瞳に影を見せるダーツに神崎は「手痛い思いをしたのならオレイカルコスの力なんて捨てない?」とオレイカルコスの欠片を散々利用した癖に内心でのたまいつつ、やんわりとした口調で返そうとするが――

 

「でしたら、私が貴方の提案に乗れないことも――」

 

「――だが、それがどうしたというのだ」

 

 ダーツは狂信すら感じさせる瞳で神崎を射抜く。

 

 そんな狂気の色の見える瞳に神崎は気圧されるも、いつものように表面上だけでも努めて冷静に問う。内心は知らん。

 

「……と、言うと?」

 

「かつて『アトランティスの王』だった私は既にいない」

 

 そう、国を、民を、家族を、それら全てを失ったダーツにも失った引き換えと言わんばかりに得たものがある。それが――

 

「私は『オレイカルコス』の――『神』の声を聞き、神の使徒として生まれ変わったのだ」

 

 神からの啓示。

 

 神からの使命。

 

 神からの助力。

 

 

 そう、オレイカルコスの神の使徒として生まれ変わったのだと。

 

 

 そんな狂信者らしい主張を見せるダーツに神崎は「胡散臭い事この上ない」とブーメランな考えを持ちつつ、此処からどう話を運べば自分は逃げ切れるのかと思考を巡らせ、一先ず無難に返すが――

 

「だから『過去の失敗は関係ない』と?」

 

「そうは言わない――かつての私の行いは確かにキミの言う『失敗』だ。それは変わらない」

 

「では『その失敗を糧にした』と?」

 

「ああ、そう受け取ってくれて構わない」

 

 だがダーツの主張を聞けば聞くほど、神崎は内心で頭を押さえる。会話になっている気がしないと――そもそも説得が不可能だと受け入れるべきだと思うが。

 

 やがてこの期に及んで逃げの一手を探す神崎の内心を余所にダーツの話は続く。

 

「私はこの星を蝕む人間を浄化しなければならない。今の人間の心は時と共に闇に呑まれ、欲望に支配されてしまう失敗作なのだから」

 

 ダーツの語るようにこの世界こと「星」は滅びの危機に晒されている。それはパラドックスの語ったような「未来のエネルギー機関であるモーメントの暴走」が原因――であるだけでは留まらない。

 

 人間たちが「自分たちの暮らしの為に」と我が物顔で世界を開拓する中で環境を破壊し、汚染し、星への迫害をし続けた弊害が確実に蓄積しているのだ。

 

「世界の裏側を見てきたキミなら分かる筈だ。『人間』など守るに値しない存在だということに」

 

 そして大地と精霊の恩恵を忘れた人間たちの愚行はそれだけには留まらない。守る価値すら存在しないと考えてしまう程に愚かだ。

 

「その眼で見続けてきただろう? 世に蔓延る『不条理』を、『不平等』を、腐る程に」

 

 彼らは自分たちと同じ人間でさえ、迫害の対象である。そこに「仲間意識」などといったものは介在しない。

 

「無辜の民を食い物にする下衆、人の命を財に変える外道、他者の足を引っ張るしか能のない無能、不平不満を述べるばかりの恥知らず――例を挙げれば際限がない」

 

 戦争・差別・貧困・飢餓――世界の影に少しばかり目を向ければ、思わず目を背けてしまうような惨状が数多く広がっている。

 

「既に人の心は手の施しようがない程に腐り果てている」

 

 既に世界には驕り高ぶった人間たちの醜く肥大化した欲望――心の闇に侵食されているのだ。

 

「そうして人々の心の闇を放置し続けてきた結果が、今の世界だ――誰かが手を打たなければならない」

 

 ダーツは自身の計画を進めながらも、その人類の愚行を一万年の長き時に渡って見てきたが、その問題が解決されることは遂になかった。

 

「だから全てをリセットすると」

 

「そうだ。これ以上、この美しい星を穢すことなどあってはならない」

 

 それゆえに事を起こすのだと語るダーツに神崎は静かに返すが――

 

 

「極端ですね」

 

 そんな言葉が神崎から零れる。

 

 それは思わず零れた嘘偽らざる本音。常日頃から「どう動くべきか」と考えるあまり言葉に虚実を織り交ぜがちな神崎らしくないものでもあった。

 

「ほう?」

 

 そうして珍しく表層に漏れ出た相手のらしからぬ感情の変化を感じ取ったダーツがその瞳に興味の色を深めていく中、神崎の語りは続く。

 

「確かに人には『負の側面』が多いですが、だからといって全てを一緒くたに判断するのは『極端』と言わざるを得ない」

 

 それは神崎なりの譲れない一線のようなものだった。

 

 ダーツのような主張は彼の前世――に限らず古今東西、物語中の一つのテーマとしてはよくあるものである。

 

「よくある話ですよ」

 

 そう、よくある話だ。

 

 

 

「『世界に絶望した』などと言う癖に、その絶望の根源は『世界の一部分』でしかない」

 

 

 どれだけの不幸な出来事があったとしても、その原因が世界の全てである例などそう多くはない。

 

 今回の場合は「人の欲望こと心の闇」に人間が囚われ、愚行に奔ることが問題だが、世界中の全ての人間がダーツの語るような「醜い人間」だという訳では当然ない。

 

 

 確かに世界には心の闇に囚われた欲深き人間もいるだろう。その数は多いのかもしれない。

 

 だが、人間の中にも他者を慈しむことができる温かな心を持つ人間も少数であっても確実に存在し、

 

 そうした温かな心を今の段階では持っていなくとも将来的に獲得する可能性を持った人間や、善と悪の狭間に揺れる人間に加え、欲望に囚われつつもそこから抜け出したいと願っている人間など、人の心は千差万別である。

 

「それに加えて『問題のある部分』ではなく、『世界の全てを纏めて』――なんて、『横着』が過ぎる」

 

 だというのに、それら全ての人間を「結局は同じ」と扱うダーツの主張は神崎からすれば理解の外だ。

 

 しかしその神崎の言葉をダーツは「甘い」と断ずる。そんな考えは所詮、理想論に過ぎないのだと。

 

「分かっていないな、神崎 (うつほ)。既にそんな綺麗事など言っていられぬ程にこの星は危機に瀕している。なればこそ多少の犠牲が生まれようとも最短で事を成さねばならない――それが分からぬキミではあるまい」

 

 星が滅べば当然のことながら、そこに住まう全てが死に絶える――であるならば、確実性を取ろうとするのは自明の理であると。

 

 所謂100を生かす為に1を切り捨てる。つまりはそんな理屈。

 

 この世界においても当たり前に行われている残酷な現実。

 

 

 

「――ただ『面倒』なだけでしょう?」

 

 

 しかし神崎はそんな現実にこそ抗うべきだと考える。何故なら「それ」は「切り捨てる側の理屈」でしかない。「切り捨てられる側」の立場を良く知る神崎からすれば到底許容できなかった。

 

「私も色々と手広くやらせて頂いていますが、確かに問題を一つ一つ解決していく作業は気が遠くなる程に面倒です」

 

 国や人種――いや、人間である以上、一人一人の主義や嗜好は当然のことだが異なる。

 

 にも関わらず、それらを全て無視して「世界全てを同じように」などの乱暴なやり方は基本的に脳筋な解決手段ばかりの神崎でも好まない。

 

 商売人としての矜持――と言う程でもないが、神崎とて「お客様」には可能な限り最大限満足して頂けるように、相手によって「提供する商品(幸福)」は細かく変えている。

 

 どれほど優れた「商品(幸福)」であっても万人が満足する訳ではないとよく知っているからだ。

 

 

 とはいえ、その結果として横っ面を殴り飛ばす(もけもけで進撃する)ような事態に陥ることもある為、神崎のやり方が乱暴ではないと言えるのかは甚だ疑問ではあるが。

 

「ですが、だからといってその『面倒』を放り投げてしまえば――そんなもの、ただ楽な方へ逃げているだけでしかない。そんなことが――」

 

 安易に犠牲を許容することは神崎にとっては許されざる行為だった。何故なら、それを認めてしまえば彼が最も大切に――

 

「だが、この方法が最も効果的だ」

 

 逸れかけた神崎の意識がそんなダーツの言葉によって引き戻される。

 

 そうして生まれた僅かな間に、知らず知らずの内に綻び始めていた自身の仮面を再構築し、神崎はいつもと変わらぬ笑みを貼り付けて応対する。

 

「……そうやって何もかも一緒くたにするのは、さぞ楽でしょうね。何も考えなくていいんですから」

 

 心が腐り果てている人間が存在するから全ての人類を殺すなど、極悪非道の犯罪者と、生まれたばかりの無垢な赤子を同列に扱うに等しい。

 

 子を思いやれる親と、誰一人思いやれぬ人間を同列に扱うに等しい。

 

 

 そんなことが許されていいわけがない――それが神崎の中に燻る残照染みた想い。

 

 

 しかしダーツは視野が狭いとばかりに小さく嗤う。

 

「フッ、だとしても心の闇を克服できぬ失敗作である彼らを放置することは出来ない――これは天命なのだよ」

 

 ダーツは星の浄化の為に妻を、娘を、父を、と肉親であっても関係なく事を成してきたのだ。星が滅べば文字通り全てが滅びてしまうのだからと。

 

 そこまで何もかも振り切った相手がその程度の言葉で止まる筈もない。

 

「その失敗作の人間が大人しく死んでくれるとでも?」

 

「確かに今の人類は過去の我が父のように抗うだろう――伝説の竜たちも選ばれし勇士を定め、牙を剥く」

 

 そうして神崎の言葉など意に介さず、ダーツの――いや、オレイカルコスの神の過激な思想が継続して並べられていく中、懸念事項であるかつて父と娘に味方した伝説の三体の竜の存在に警戒を見せるが――

 

 

「しかし些末事だ」

 

 

 今のダーツにはそれら全てを「些末事」と切って捨てられるだけの確信があった。

 

「キミの協力が得られれば、付随する問題は全てクリアされる。そう、私の計画はより盤石なものとなるのだ」

 

 今回の契約が成されれば、伝説の三体の竜すら恐れるに足りぬ程にダーツの陣営は強固になるのだと。

 

「世界中から集めた『強き魂を持つデュエリスト』たちと――」

 

 それはオカルト課に集められた才あるデュエリストたちによる「戦力補充」と――

 

 

 

「――キミの持つ『知識』があれば」

 

 

 神崎が持つ――いや、「知る」とある情報があれば。

 

 

 そんなダーツの言葉に神崎は常に浮かべている笑みの中の瞳を僅かに揺らす。そこには知られてはならない部分まで知られてしまったゆえの動揺がヒシヒシと感じられた。

 

 その神崎の僅かな表情の変化を見逃さず、ダーツは畳みかけるように続ける。

 

「最近まで1つばかり分からなかったことがある――それは何故、キミは世界の綻びに対して、過剰なまでの対応を取るのか」

 

 それは神崎の「行動基準」――何を以て世界の安寧の為に奔走しているのかについて。

 

 ダーツとて神崎が博愛精神で動いているなどとは思っていない。

 

 当然、そこには「神崎なりの目的」が介在している。

 

 

 それは皆さんご存知の通りだろうが、ダーツはそれを知る由もない――が既に鍵となる情報を手にしていた。

 

「だがある人物の存在がその疑問を氷解させてくれたよ」

 

 そう、全て――とはいかずとも証拠はある程度、ダーツの中に揃っているのだ。

 

「未来からの使者、パラドックス」

 

 その証拠の一つはイリアステル滅四星が一人、逆刹のパラドックスの存在。

 

 

 パラドックスと神崎……というよりは遊戯たちの一戦は神崎が精霊の鍵による閉鎖空間を使用しなかったゆえにダーツからすれば探ることはさして難しくはない。

 

 

 つまり、あの時に神崎がとった策から、遊戯たちの実力に至るまで何もかもの情報が筒抜けだったに等しい。勿論、神崎の微妙過ぎるドロー力もだ。

 

 

 そして厄介なことにパラドックスが語った「未来の情報」もその中には含まれている。

 

「何故、未来の人間がこの時代に来たと思う?」

 

「…………観光ですかね」

 

 にも関わらずワザとらしく問いかけたダーツに対し、まさか見られていたとは思ってもいなかった神崎は内心で動揺のカーニバルがパレードインする中、冗談交じりに苦しい答えを返すが――

 

「惚けなくても構わない。答えはシンプルだ――彼の言っていたように我々がいるこの星の未来は破滅に瀕している」

 

 さすがにそんな答えではダーツ以前に誰も誤魔化せないだろう。

 

「ゆえに未来から訪れた彼らが過去の改竄を行い滅びの未来を回避しようとしている訳だ」

 

 というより、先も言ったように実際にオレイカルコスの力の一つである千里眼にてパラドックスとの一戦をリアルタイムで見ていたダーツからすれば真偽を確めるまでもないことだった。

 

 そうして何処か掌で神崎を弄ぶような口調のダーツだが、此処で声のトーンを僅かに落とす。

 

「だが滅びの未来があるということは、私の行った計画は名もなきファラオに防がれ、失敗に終わったということだろう」

 

――『自分が未来を救うのに失敗した』とは考え……ないんだろうな。

 

 相手の主張に内心で思わずそうツッコム神崎を余所に話は続いていく。

 

「ゆえに私はアプローチを変える必要があった。三銃士では不足だったのだろうと」

 

 ダーツの今現在の状況を鑑みて、想定される大きな敗因は「戦力不足」であろうと。

 

 幾らダーツが超常的な能力を持ち、加えて圧倒的なまでのデュエルの実力を有していても数の力を侮ることはできない。さらに相手の質も高いとなれば尚更である。

 

「そしておあつらえ向きな人間がいた――それがキミだよ、神崎 (うつほ)

 

 さらに皮肉にもその「戦力不足」を引き起こした原因がその問題を解決する鍵となっていた。充実し過ぎておつりがくる程に「おあつらえ向き」だった。

 

「キミが集めた人員はハッキリ言って『過剰』なレベルだ。一企業が集めるレベルを大きく逸脱している」

 

 なにせ神崎が集めたデュエリストたちはその誰もが原作にて一線級の実力者であり、普通の企業ならば一人二人いれば戦力的には十分以上なレベルである。

 

「だが、キミはまだ満足していない」

 

 しかし、その十分以上を大きく逸脱する程のデュエリストを集めても神崎は未だに優れたデュエリストを探し、求め続けている。

 

 そう、神崎の認識からすれば今のままでは「戦力不足」なのだ。未だ目標とするレベルには程遠い。

 

「当然だろう――いずれ滅びの未来が訪れるのだから、備えは多い方が良い」

 

 それもその筈、見据えているのは「滅びの未来」に対処する為の戦力。一企業が対峙する問題でもないと思うが、KCこと海馬社長の元ならばノープロブレムである。

 

「そう、キミは滅びの未来に立ち向かう『戦士』を育てる必要があった――大量に」

 

――これは……拙いな。

 

 そんな誰も信じないであろう神崎の主目的の凡そ全てがダーツに見抜かれている事実に内心で冷や汗ダラッダラな神崎だが、未だダーツの追及の手は衰えない。

 

「しかし、そう考えたとき当然の疑問が浮かぶ」

 

 

 だがダーツの言う通り、今までの仮定を証明する為には「一つの大きな疑問」が立ちはだかる。

 

 

「――『何故、滅びの未来を知っているのか』という疑問が」

 

 

 それは神崎が持つ情報の出処だった。

 

「始めはパラドックスのように『未来の知識を有している』と考えていた。だが実際は違う」

 

 普通に考えればパラドックスのような「未来の住人」と考えるのが自然だろう――が、ダーツはそれを否定する。

 

 何故なら、もし神崎が未来の住人が先の世の歴史を利用したとするのなら――

 

「『未来の知識を有している』割にはキミの行動は何処か、そう――杜撰(ずさん)だ」

 

 

 神崎の行動は「雑過ぎる」と言わざるを得ない。未来の知識と未来の技術があれば普通に考えて、もっと上手くやれる筈だと。

 

「貴方のように才有る方から見れば、凡夫である私の行動など滑稽なものでしょう」

 

――杜撰(ずさん)で……すみません……

 

 そうして自身の脳筋な解決手段ばかり取る面を上げられ、神崎は思わずといった具合に内心でその肩を落とす。

 

 それについては神崎も申し訳なさで一杯だが、そもそも土台である前世が普通の人だった神崎には無茶な話でもある。

 

 イリアステルのような緻密な計画を以て活動するだけのスペックは神崎にはない。解決策を山のように用意して片っ端から試し、ごり押していくしかない。その為にデュエルマッスルを鍛えていくしかなかったのだ。

 

「そう自身を卑下することはない。キミに大きな落ち度はなかった」

 

――それはない。

 

 謙遜するような――その内心は凹んでいるが――神崎の声にダーツはフォローする言葉を投げかけるが、対する神崎は胸中にて即座に否定する。

 

 落ち度があったからこそ、瀬人とモクバの実の両親を救えず、マリクたちの問題に手が届かなかった為、被害を食い止められず、エスパー絽場と兄弟たちの問題に手が回らず、パラドックスを凶行に走らせないだけの「未来救済プラン」を用意できなかった。

 

 後、現在シュレイダー社ことジークに対する働きかけの雲行きが凄く怪しい。

 

 そういった「助けられなかった人間」が存在する以上、「落ち度がない」など神崎には口が裂けても言えはしない。

 

 

 そんな神崎の内心など知らずダーツは己の仮説を述べる。こう考えれば全てがストンと納得できると。

 

「ただ、未来の知識を『十全に得ている』人間の行動では『ない』というだけだ――そして私は一つの仮説を立てた」

 

 それは本来のダーツが知ることが出来ない。いや、そもそも考慮に上げることすらない「視点」。

 

 

 

 

「キミは『酷く限定的』な未来の知識を有している」

 

 

 それは平面の向こう側の情報。

 

 それは(原作者)によって紡がれた物語(ストーリー)

 

 それは神崎が――いや、『転生者(異物)』が知り得る知識。

 

 

 

「そう、まるで――」

 

 

 それは「この世界(遊戯王ワールド)の住人」に決して知られてはならなかった。

 

 

 

 

 

「――誰かの人生を傍から眺めただけのように」

 

 

 そんなこの世界(遊戯王ワールド)の人間が知り得る筈のない確信に迫ったダーツの言葉に神崎は常日頃浮かべていた温和な笑みは消え、その瞳がスッと細められる。

 

 

 

「キミは一体、『誰』の人生を眺めたのかな?」

 

 やがて最後にそう告げたダーツに対して神崎はゆっくりと席を立ちあがり、背を向け――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――其処まで辿り着いたのはキミが初めてだよ」

 

 

 全力で誤魔化しにかかった。

 

 

 

 

 

 いや、無理やろ。

 

 

 






神崎の迂闊な行動から「原作」こと神の存在を感じ始めるダーツ。


さすがダーツ様や!

次はダーツ様の高度なデュエルスフィンクスが火を噴くで!



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