マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
クロノス「デュエルとーは希望と光に満ち溢れたものであーり、苦痛と闇を与えるものではないノーネ!」

神崎「しかし現実問題としてデュエルで苦痛と闇を与える輩がいる……ならば、それらを全て排除すれば、デュエルは希望と光に満ちたものに戻るのでは?」

某狸型ロボット「いや、その理屈はおかしい」





第155話 欲

 

 

「詰まらない話を聞かせてしまいましたね。そろそろデュエルに戻りましょうか」

 

「……成程な。それがお前の心の闇か」

 

 自身の「生きる目的」を語った神崎がカードに目を戻す中、ダーツは吐き捨てるように呟く。

 

「――やはり醜い」

 

 ダーツから見た神崎の在り方は唯々歪で醜かった。「親孝行」と評しているが、その実態は酷く歪んだもの。

 

「簒奪者として生きることを彼らが望むと思っているのか?」

 

 そう、両親の想いに沿わない形で行使されている。

 

「今のお前の有様を見れば、彼らが嘆き悲しむことは明白だ」

 

 彼らが今の神崎を見れば、ダーツの語るように悲しみに暮れることだろう――とはいえ、唯の人間でしかない二人が現世に舞い戻る術を持つとも思えないが。

 

「そう、お前という『個』は既に破綻している。どうしようもない程にな」

 

 神崎の両親が願った我が子への最後の想いが果たされることはない。

 

「お前が『彼らの為に』と、うそぶくのなら、既にその価値は存在しない。彼らの願いゆえ? 滑稽だな。その最後の願いを踏みにじったのは他ならぬお前だろう!」

 

 それは他ならぬ神崎自身がその願いを歪んだ形で認識しているからだ。

 

 そんなダーツの糾弾染みた声に神崎は自覚しつつも何処かズレた言葉を返す。

 

「そうですね。私と言う個人にさしたる『価値』はないと思います」

 

 その言葉通り、神崎という「個人」に価値はない。

 

「ただ、私がどれ程無価値な人間であっても、貴方がどれ程の決意を持って動いていようとも――」

 

 生きるべきは「神崎 (うつほ)」でなければならない。ゆえに――

 

「――貴方を生かしておく理由になるのでしょうか?」

 

 神崎は――いや、「彼」は「神崎 (うつほ)」を害する全てを排除しなければならない。

 

 それがどれ程までに強大な相手であろうとも。

 

 そうやって「彼」は「神崎 (うつほ)」の生存に必要な為の全て(世界)を維持しなければならない。

 

 何故なら、「生きろ」と願われたのだから、彼は「生かさなければ」ならない。

 

 ゆえに話は終わりだと言わんばかりに神崎はデュエルを続行させる。

 

「2体のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した為、永続魔法《冥界の宝札》の効果で2枚ドロー。これで私の手札は8枚――よって《トラゴエディア》の攻撃力は更に上昇」

 

 一気に増えた手札によってその身に益々力を漲らせ、《トラゴエディア》の瞳に生気が戻って行く。

 

《トラゴエディア》

攻4100 守3600

攻5300 守4800

 

「ではバトルフェイズへ。ご存知かもしれませんが、《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》は相手プレイヤーへの直接攻撃が可能です」

 

 だが、そうして《蛇神ゲー》を超える攻撃力を得た《トラゴエディア》ではなく、《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》による攻撃を選ぶ神崎。

 

 その声に呼応するように《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》が拳を振りかぶり、ダーツの頭上に大きな影が落ちる中――

 

「当然、直接攻撃します。Ccapac(コカパク) Apu(アプ)で攻撃」

 

 ダーツを圧殺せんと、その巨大な拳がギロチンよろしく振り下ろされた。

 

「させん! 永続罠《スピリットバリア》を発動! その効果により私に戦闘ダメージはない!!」

 

 しかし、ダーツが発動させた2枚目の《スピリットバリア》によってその拳は阻まれ、ぶつかり合ったエネルギーが逃げ場を求めるように周囲へと吹き荒れる。

 

「……くっ!? ――攻撃順を違えたな!」

 

「《トラゴエディア》で《蛇神ゲー》を攻撃」

 

 そんな中での衝撃に腕で顔を覆うダーツを余所に、スーツを傍と揺らす神崎は気にした様子もなく、追撃に移る。

 

 そして《トラゴエディア》の口から放たれた炎が周囲に吹き荒れる風に煽られ、業火と化しながら《蛇神ゲー》を焼き尽くさんと包み込んだ。

 

「だが、安心するがいい――どちらを選ぼうともお前の運命は変わらない!」

 

 とはいえ、ダーツが声を張るように、その炎は《蛇神ゲー》を焼き尽くすには至らない。

 

「墓地の永続魔法《幻影死槍(ファントム・デススピア)》を除外することで闇属性モンスターである《蛇神ゲー》は破壊されぬ!」

 

 己が身を焼く炎を脱皮することで躱した《蛇神ゲー》の身体は文字通り、傷一つない。

 

 そう、未だ神崎の攻撃はダーツの奥の手たる《蛇神ゲー》に届いてはいなかった。

 

「そうですか――私はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行。カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

 しかしそんな絶望的な状況の中でもダーツとの問答を完全に放棄したような神崎の姿勢は変わらない。

 

 その心の内には眼前の存在を排除しなければならない――ただそれだけの意思が鋭さを増していく。

 

「どこまでも簒奪者であることから逃れられないか……!」

 

 だがダーツの瞳には今の神崎の姿がそう映ってしまっても無理はない。それ程までに今までの神崎に確かにあった「己の在り方」に対する葛藤が垣間見えないのだから。

 

「ならば私が引導を渡そう! 私のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズに自身の効果で墓地の《死霊王ドーハスーラ》を守備表示で特殊召喚。オレイカルコスの力により攻撃力が上昇」

 

 見飽きた風景と化した死霊の王が現世に舞い戻る光景を余所に――

 

《死霊王ドーハスーラ》

星8 闇属性 アンデット族

攻2800 守2000

攻3300

 

「幾ら壁となるモンスターを増やしたところで、所詮は焼け石に水――この一撃で死ぬがいい!!  バトル!」

 

 ダーツは勝負を終わらせるべく《蛇神ゲー》へと指示を出す。

 

「ですが《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》は攻撃対象に選択できません」

 

 地縛神の効果と《オレイカルコスの結界》によって今のダーツには《蛇神ゲー》の攻撃力の勝る《トラゴエディア》しか攻撃できない。

 

 そして《トラゴエディア》の攻撃力は「元々の攻撃力」ではないゆえに《Sin(シン) トゥルース・ドラゴン》の時のように攻撃力を映しとる(奪いとる)ことも出来ない。

 

「ならば《トラゴエディア》を攻撃するまでのこと! その効果が無効化されれば攻撃力は0にまで落ちる!」

 

 だが、《蛇神ゲー》の効果によって《トラゴエディア》の効果を無効にしてしまえば済む話だ。

 

「インフィニティ――」

 

 そうして《蛇神ゲー》の口元で破壊のブレスがチャージされていく。迎え撃つ《トラゴエディア》の力も今の状態では役に立たない。

 

 

 《蛇神ゲー》の攻撃の前ではあらゆるモンスターの力が無力と化す。

 

 

「バトルフェイズに永続罠《連撃の帝王》を発動。その効果により相手のメインフェイズ、及びバトルフェイズにアドバンス召喚を行います」

 

 攻撃できればの話だが。

 

 神崎が発動した永続罠の効果によって手札の1枚のカードがデュエルディスクへと向かう。

 

「私は守備表示の《死霊王ドーハスーラ》と《トラゴエディア》をリリースし、《闇黒(あんこく)の魔王ディアボロス》をアドバンス召喚。そしてオレイカルコスの力を得る」

 

 やがて《蛇神ゲー》の矛先を奪うようにリリースされた2体の贄が闇と化す中、その闇から鎖が引きちぎれる音が響くと共に黒き魔龍が大地を踏みしめながら翼を広げて雄叫びを放つ。

 

 そして額にオレイカルコスの文様が浮かぶと同時に身体の節々で赤い光が零れた。

 

闇黒(あんこく)の魔王ディアボロス》

星8 闇属性 ドラゴン族

攻3000 守2000

攻3500

 

「……くっ!」

 

 その黒き龍の出現と同時に《蛇神ゲー》が攻撃姿勢を解いた姿にダーツは忌々し気に舌を打つ。

 

 新たなモンスターの召喚により神崎のモンスターの数が減少――つまり変化したゆえに「通常」ならば追撃するか否かを選択できるが――

 

「これで今の私のフィールドには攻撃力3500のモンスターが2体のみ――よってフィールド魔法《オレイカルコスの結界》の効果により貴方は攻撃することができない」

 

 発動された《オレイカルコスの結界》の「最も攻撃力の低いモンスターを相手は攻撃できない」の効果により制限がかかる。

 

 これは「プレイヤー(デュエリスト)」そのものに制限をかける効果ゆえ、例え「神の耐性」を持っていようとも覆すことは叶わない。

 

 

 つまり攻撃権利を実質失った状態だが、ダーツを止めるには至らない。その程度で打つ手をなくすようなデュエリストではないのだ。

 

「フッ、心の闇が深いだけはある――私はカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

 ゆえにそんな軽口を叩きながらダーツはターンを終えた。

 

 確かに《オレイカルコスの結界》は使用者の心の闇が大きければ大きい程にその邪悪な力を高めていくとはいえ、神崎の心の闇をかなりの精度で把握しているダーツからすれば、今の相手の状態は己の想定を超えるものではないのだろう。

 

 

 だがダーツは明確に意識しておくべきだった。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 神崎の手がダーツの背に届きつつある現実を。

 

「スタンバイフェイズに自身の効果で墓地の《死霊王ドーハスーラ》を守備表示で特殊召喚」

 

 やがて自身の最上級モンスターが多い偏った手札を眺める神崎を余所に、数えるのも億劫になる程に蘇生される《死霊王ドーハスーラ》。これによって《オレイカルコスの結界》による攻撃ロックが解除される。

 

 とはいえ、ダーツのターンが回るまでにフィールドから離せば気にならない程度のことだが。

 

《死霊王ドーハスーラ》

星8 闇属性 アンデット族

攻2800 守2000

攻3300

 

 そう、着々と手札及びフィールドのアドバンテージは広がっている。

 

 それはターンを跨げば跨ぐ程に広がっていくだろう。

 

「この瞬間、罠カード《バトルマニア》を発動!」

 

 だが「次のターンなど与えるつもりなどない」と言わんばかりにダーツは最後のリバースカードを発動させた。

 

「これにより今のお前のフィールドの表側のモンスターは攻撃表示となり、このターン、必ず攻撃しなければならず、表示形式の変更もできない!」

 

 その効果により、殺気立っていく《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》と《暗黒の魔王ディアボロス》。

 

 ついでにこのターン、守備表示で呼び出された《死霊王ドーハスーラ》も攻撃表示になりながらその列に加わった。

 

《死霊王ドーハスーラ》

守2000 → 攻3300

 

 勝ち目のない勝負を強要されるモンスターを余所に神崎は手札に目を落とす。

 

「メインフェイズへ――魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地の5枚のカードをデッキに戻し2枚ドロー」

 

 一瞬の思考の後、発動された壺の欲深い顔が高笑いを上げながら砕け散る中、神崎はペラペラになった残り僅かなデッキを見つつダーツの唯一の不確定要素である最後の手札を見やる。

 

 神崎の知るカードプールでは脅威となる可能性は低いが、それでも「もしも」があるのがデュエルの世界。

 

「此処で《闇黒の魔王ディアボロス》の効果を発動。自分フィールドの闇属性モンスターである――《死霊王ドーハスーラ》をリリースすることで、相手は手札を1枚選び……といっても1枚だけですが、デッキの一番上か下に戻さなければなりません」

 

 ゆえに一つ一つ確実に削って行く。

 

 《暗黒の魔王ディアボロス》が放った鎖によってリリースされた《死霊王ドーハスーラ》の魂が抽出され、その魂が怨嗟の声と弾丸のように放たれ、ダーツの手札の1枚を打ち抜いた。

 

「……私はこのカードをデッキの一番下に戻す」

 

――クッ、《蛇神ゲー》の身代わりとなる《ガード・ヘッジ》を失ったか……

 

 やがて自分モンスターの戦闘破壊の身代わりとなるカードを自身のデッキの下にダーツが戻す中、神崎は勝負を詰めにかかる。

 

「魔法カード《死者蘇生》を発動。その効果で墓地の《トラゴエディア》を特殊召喚。自身の効果とフィールド魔法《オレイカルコスの結界》によりステータスが上昇」

 

 そうして蘇るは悲劇の魔物たる《トラゴエディア》。

 

 その身体に再びオレイカルコスの力が満ちる中、意識が覚醒していくかのように身体を覆う憎悪からなる闇は濃くなっていく。

 

《トラゴエディア》

星10 闇属性 悪魔族

攻 ? 守 ?

攻4800 守4800

攻5300

 

「バトルフェイズへ――《トラゴエディア》で《蛇神ゲー》を攻撃」

 

「まだだ! 墓地の2枚目の永続魔法《幻影死槍(ファントム・デススピア)》を除外することで《蛇神ゲー》の破壊は免れる!」

 

 僅かに攻撃力を上回った《トラゴエディア》の怨嗟の炎も《蛇神ゲー》を焼き尽くすには至らず、ダーツのライフも永続罠《スピリットバリア》により影響はない。

 

 

 よって此処から辿る道は最後に残った《暗黒の魔王ディアボロス》が《蛇神ゲー》に勝ち目のない勝負を強要され、残り25ポイントの神崎のライフを消し飛ばすのみ。

 

「これで終幕と――」

 

「――速攻魔法《デーモンとの駆け引き》を発動。手札より《バーサーク・デッド・ドラゴン》を特殊召喚」

 

 

 だが、未だ幕は降りず、脚本は僅かに毛色を変えていく。

 

 

 そして自身のフィールドのレベル8以上のモンスターが墓地に送られた「死」を感じ取り、空から舞い降りるのは不死者の如き骨と皮だけの竜。

 

《バーサーク・デッド・ドラゴン》

星8 闇属性 アンデット族

攻3500 守 0

攻4000

 

 そうして腐臭と腐肉を巻き散らしながらオレイカルコスの文様を光らせ、唸り声を上げる姿は生者への憎悪が感じられた。

 

「《バーサーク・デッド・ドラゴン》で《蛇神ゲー》を追撃」

 

 そんな負の感情に促されるままに眼前の《蛇神ゲー》へと襲い掛かる《バーサーク・デッド・ドラゴン》。

 

 それは《蛇神ゲー》との攻撃力の差から生じる迎撃によりその身が削られるようとも止まることはない。

 

「ダメージステップ時にリバースカードを発動。速攻魔法《アンデット・ストラグル》」

 

 だが、死者は道連れを求めるのが世の理。

 

「《バーサーク・デッド・ドラゴン》の攻撃力が1000上昇。自身の効果でセットされた速攻魔法《アンデット・ストラグル》はフィールドを離れる際に除外されます」

 

 《バーサーク・デッド・ドラゴン》もその例にもれず、内から滲み出た力のままに獲物に喰らいつく悍ましき怨嗟に対して、抗う様に身をよじる《蛇神ゲー》。

 

《バーサーク・デッド・ドラゴン》

攻4000 → 攻5000

 

 そんな互いを喰らい合う光景が暫し広がっていたが、さして長くは続かず共にその命を散らす結果に終わることはある種の必然だったのかもしれない。

 

「《蛇神ゲー》が……!」

 

 己の奥の手たる神の化身が血溜まりに沈み、その身体が崩れていく様に思わずといった具合に零すダーツ。

 

 

 ダーツは明確に意識しておくべきだった。

 

 

 確かに神崎はデュエリストとしては不適格であり、素の実力もさほど高くない。

 

 その実力差を鑑みれば、相応の余裕を持って対峙することも間違ってはおらず、

 

 勝利以外を求める寄り道も悪くはないだろう。

 

 

 だが「侮る」ことだけは避けるべきだった。

 

 

 相手を侮った者が辿る先など、歴史(先人)がその身をもって証明しているだろうに。

 

 

 

 ダーツは明確に意識しておくべきだった。

 

 

 己の敗北(最悪)の可能性を。

 

 

「さてと」

 

 《蛇神ゲー》を最後にようやく倒せたと息を吐いた神崎は未だ攻撃権利が残っている《暗黒の魔王ディアボロス》と《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》に視線を向ける。

 

 とはいえ、既に神崎に選択肢は存在しない。何故なら、ダーツの発動した罠カード《バトルマニア》の効果によって「戦闘を強制されている」のだから。

 

 

「では――」

 

 

「――神崎ッ!!」

 

 

攻撃(殺れ)

 

 

 やがて相手の名を忌々しく叫ぶダーツへ神崎は何時もの笑顔でそう告げた。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 

 振り下ろされるは神の一撃。

 

 

ダーツLP:5000 → 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《地縛神Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》と《暗黒の魔王ディアボロス》の攻撃によってライフを失ったダーツが倒れ伏す中、《オレイカルコスの結界》がダーツの周囲に収束していき、その魂を奪う。

 

 やがて神崎に1枚のカードがもたらされ、それを手に取った神崎は興味深そうに呟いた。

 

「これが『魂の封印』……こんな1枚のカードに魂が保管できるとは、どうなっているんでしょう?」

 

 カードの表裏をまじまじと眺めていた神崎だったが、何かを思い出したように冥界の王の力を行使して自身の影を伸ばす。

 

「とはいえ、研究させる訳にもいきませんし……ああ、その前に(肉体)は壊しておかないと」

 

 その影はプレス機のアームのように成型され、そこにズラリと並んだ刃が魂の抜けたダーツの(肉体)に叩きつけられ、地面とサンドしながらギャリギャリと高速回転を始めた。

 

 とはいえ、血飛沫や肉片が飛び散るスプラッターなことは起こらない。

 

 何故なら、ダーツは過去に既に肉体を失っており、今やその身体は水晶のような謎物質で仮初の代物を用意して代用している状態なのだ。

 

 なので、血飛沫や肉片の代わりに水晶の欠片のようなものが飛び散り、それが地縛神召喚の際に空いた天井の大穴から差し込む陽光に反射し淡く光る光景はなんだか幻想的だ――行っていることはホラー映画さながらだが。

 

「《蛇神ゲー》はともかく、《オレイカルコス・シュノロス》はかなりデッキを選ぶなぁ……」

 

 しかし神崎は気にした様子もなく影を伸ばして回収していた戦利品(ダーツのカード)を物色していた――ダーツに「簒奪者」と揶揄されるだけはある。

 

 

 

 

 そうして手にしたカードの使い道を考えていた神崎だが、その頭上にて巨大な影が蠢く。

 

「ああ、そう来ましたか」

 

 だが、神崎は原作知識から知る情報より驚くこともなく手元のカードをデッキケースに仕舞い込みつつ、空を見上げた先には――

 

「復活に不足した魂を『これ(ダーツの魂)』が補ったという訳ですか。しかし――」

 

 海中から突如として現れ、空中都市さながら空に浮かぶダーツの故郷であり既に滅びを迎えた古代の都、アトランティス。

 

 そしてそんな空中都市を背に宙に漂う深い紫の体色の長大な巨躯を誇る竜の姿をしたオレイカルコスの神。

 

 本来であれば伝説の三竜に選ばれた強き魂を含む多くの強者の魂が復活に必要であるが――

 

「不完全な復活のようですね」

 

 そのオレイカルコスの神の身体の所々が腐食している様子を見るに、復活の為の贄となる魂が不足した状態にも関わらず、ダーツの魂を以て強引に復活させたのであろうと、神崎は当たりを付けた。

 

 そんな神崎の予想を肯定するかのようにオレイカルコスの神の額にて神と一体化するように佇むダーツは忌々し気に声を落とす。

 

「神崎……貴様だけは此処で確実に仕留めさせて貰おう――お前の知識が魅力的に映っていた私はどうやら腑抜けていたらしい……」

 

 これは魂をオレイカルコスの神の元に送られ、尚且つ仮初の肉体を神崎に粉微塵に破壊されたダーツに残された最後の手段。

 

 文字通り、己の魂を賭けた最後の一手。

 

 原作知識(神の視点の知識)は魅力的ではあったが、それ以上に神崎という存在を脅威と判断したゆえの決断。

 

 ダーツが初めて神崎を「対等な相手()」と認めた瞬間でもあった。

 

「そうでしょうか? 私のような凡庸な人間が此処まで来れたのも、その知識のお陰ですので欲することにそう間違いはないかと」

 

 にも拘わらず、神崎は先程までのダーツの行動方針を肯定する。

 

 マッスル以外のスペックが微妙な神崎がこれまで何とかやってこれたのは原作知識のお陰である以上、その有用性は明白である――なれば、それを確保しようと思うことは必然であろうと。

 

「私はまだ終われぬ……世界を人間の心の闇から――欲望から救わねばならない!!」

 

 だが、オレイカルコスの神による精神の侵食が加速しているダーツは相手の言葉など気にも留めずに決意を固めるように叫ぶ。

 

 時間はそう残されてはいない。

 

「私はそうは思わないですけどね」

 

「……なんだと?」

 

 しかし、ポツリと零した神崎の言葉にダーツはピクリと反応した――いや、反応したのはオレイカルコスの神の意思によるものなのかもしれない。

 

「『欲望』は人の原動力です」

 

 そんな相手の反応に「時間稼ぎになるかもしれない」とダーツの興味を引くような言葉を選びながら神崎は続ける。

 

「それは世界へ広がり、星の縛りも超え、未来を突き進む為の力です」

 

 欲望とは悪い印象を持たれがちだが、人間の大きな原動力となる側面も持つ感情だ。

 

 より強く、より先へ、より上へ――そうした先人たちの欲望が今の世界を形作っている。

 

 そう、人の世界は、文化は、欲望によって発展してきたと言っても過言ではないのだと。

 

「フフフ……貴様はついぞ『愛』を理解出来なかったようだな」

 

 しかし、そう語った神崎をダーツは嗤う。

 

 欲望こそ人の原動力であるのなら、神崎の両親が幼かった神崎を助けた行為()の否定だと。

 

 あれだけ大事に語っていた二人を否定する神崎の物言いがダーツには滑稽でならない。

 

「『愛』……ですか、皆さんよく言いますよね。『愛』、『結束』、『絆』――それらは素晴らしいものだと声高に。ですが――」

 

 だが神崎の本意はそこにはない。

 

 述べたのは「愛」や「結束」などのプラスに位置する感情の否定ではなく――

 

「――それも突き詰めれば欲望の一種でしょう?」

 

 それらの根源が欲望であるとの暴論だった。

 

 

 神崎は仕事柄、「言葉」というものを信用していない。

 

 言葉など、如何様にも装飾でき、心地の良い響きで本質を隠し、誤魔化すことが出来るものだと――とはいえ、それは神崎もよくやっていることだったりする。おい。

 

「愛する者を守りたいと願う『欲』」

 

 愛を語ったその言葉に一片たりとも欲望が介在しないと言い切れるだろうか?

 

 愛するあの人に自分を見て貰いたい、笑っていて欲しい、幸せにしたい――それは優しい欲望(願い)だ。

 

「誰かと共にありたいと願う『欲』」

 

 結束を、絆を語ったその言葉に一片たりとも欲望が介在しないと言い切れるだろうか?

 

 対等でありたい。切磋琢磨できる関係でありたい。あの背中に追いつきたい――それは尊い欲望(願い)だ。

 

「『意志』とは、『願い』とは、『想い』とは、『欲』――つまるところ『欲望』に辿り着く。結局は全て同じなんですよ」

 

 繰り返すが、欲望とは悪い印象を持たれがちだ。

 

 他者の物を欲し(奪い)害し(殺し)――と、そんな負の側面のイメージがなされがちだろう。

 

 だが、欲望は「望み、欲する」ことでしかない。

 

 上述したような正の側面を持った感情もまた「望み、欲する」ことで生じる欲望でしかないと。

 

「とはいえ、そんな欲望も『用法・用量を守って正しく』扱わなければ、貴方が語った『滅び』の結果を生む訳ですが」

 

「……れ」

 

 そして「人間から欲望(願い)を切り離すことが出来ない。いや、するべきではない」――と、用意した論を述べる神崎にダーツは小さく呟く中、神崎は説明の締めの部分に入る。

 

「人を愛することも、貴方が願う世界の救済も、全ては『欲』によって形成されているものに過ぎません」

 

 人間が欲望を失う時、それは「願いを失う」時とも言える。

 

 それは果たして人間なのだろうか?

 

「……まれ」

 

「『心の闇に、欲望に囚われない完璧な新人類』――それを『人』と評せるかはともかく、どのみち貴方には手の届かない代物だと思いますよ」

 

 何の望みも持たず、唯々健やかに生きている「だけ」の存在を人間と呼んでしまってよいのだろうか?

 

 いや、そもそも、そんな生物として破綻した存在をどう生みだすというのか。

 

 果たして、「それ」は新たな理想郷とやらで、地球の、星の、世界の、守り手としてあれるのだろうか。

 

 それは理想(願い)を持つダーツが理解できる存在なのだろうか。

 

「――『願いに殉ずる(欲に塗れた)』貴方に生み出せるとは思えません」

 

「黙れぇええええええええ!!」

 

 返答はオレイカルコスの神の龍の顎から放たれたブレス(叫び)だった。

 

 

 

 魔物へと変貌した妻をその手で殺し、

 

 父と娘と殺し合い、

 

 そして故郷すら失ったダーツに唯一残されたのは「神から賜った使命」だけだった。

 

 

 

 だが、突き付けられたのは唯一残された使命が、実現不可能――いや、実現した瞬間にダーツの望みが叶わない結果が待つ。

 

 その事実をダーツは許容できない。

 

 そんな暴論に心の何処かで腑に落ちてしまった事実も、己の感情の大きな発露を後押しする。

 

 

 

 何故なら、今のダーツにはもはや「神から賜った使命(呪い)」しかないのだから。

 

 

 そうして遥か上空から落ちた神の鉄槌を、影から伸ばした冥界の王の腕を盾に防ぐ神崎は「ダーツの感情」が乗った叫びに平坦な声を漏らす。

 

「それが貴方の欲望(心の闇)ですか――意外と人間味が残っていたんですね」

 

 原作知識によるダーツの精神状態はオレイカルコスの神の洗礼を浴びたことで、神の思想に染まりきった忠実な使徒としての印象が強かったが、こうして個人的な感情を爆発させている姿はまさしく「人間」だった。

 

「お前は此処で……! 此処で……!!」

 

「おや、此処に来て初めて意見が合いました――私も同意見です」

 

 オレイカルコスの神のブレスを冥界の王の腕で弾いた神崎はダーツの敵意に同意する。

 

 此処からはデュエルを終えた後のお約束たる最後の足掻き(リアルファイト)

 

 

「ええ、ここからはデュエル(誇りある仕合)とは無縁の古来より存在する最も原始的で野蛮な問題解決手段」

 

 

 そう、デュエリストの適性もなく、原作知識がなければ会社員としても微妙な神崎の持つ数少ない強味が活きる時。

 

 

「そう純粋な――」

 

 

 そんな何処までも凡庸な神崎にもただ一つだけ才能と呼べる代物があった。そう――

 

 

 

 

 

 

「殺し合いだ」

 

 

 殺し合いの(己が嫌う行為を成す)才能が。

 

 

 







神崎に戦い(殺し合い)の才能なければ鉄骨(事故)か、殺し屋(ヒットマン)か、KU☆MA(クマ)で死んでた。

 

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