マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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おい、デュエルしろよ(先制攻撃)



前回のあらすじ
ただの殴り合い(リアルファイト)でしたら少々自信がございます




第156話 ※原作は「カードゲーム世界」です。

 

 

 オレイカルコスの神と一体化したダーツの放ったブレスを受け止めていた冥界の王の闇が蠢く腕を払いブレスを逸らした神崎は、海へと手を向けた後に指を上へかざしつつポツリと返す。

 

「《ポセイドン・ウェーブ》」

 

 その瞬間、周囲の海から海水が意思を持ったかの如く巨大な手の形を幾重にも形成し、ダーツを捕らえんと殺到した。

 

「その程度ッ!!」

 

 それに対して雄叫びと共にダーツが迎撃に再びブレスをチャージする中――

 

「《体温の上昇》・《剣闘獣の底力》・《燃える闘志》・《バーバリアン・レイジ》・《ライジング・エナジー》」

 

 神崎は自身に対してカードの実体化の力を使用し、身体能力を引き上げていく――その結果、身体を覆う熱により煙が漏れる中、グッと足に力を込める仕草を取る。

 

 そして宙で《ポセイドン・ウェーブ》によって生み出された水の腕がオレイカルコスの神のブレスによってはじけ飛んだ瞬間に神崎は地を砕き蹴ってダーツ目指して駆けた。

 

「《超音速波(ソニック・ブーム)》」

 

 というか、跳んだ――いや、「飛んだ」と言うべきかもしれない。それを証明するように軽い掛け声に似合わず宙に踊りでた神崎の速度は異常の一言。

 

 カードの実体化の力と冥界の王の力、そしてマッスルをフル活用しているとはいえ、遅れて響く空気が破裂するかのような音は端的にいってエグイ。

 

「――なっ!?」

 

 そうして夥しい程の海水を目くらましに弾丸もかくやな勢いで爆風を切り裂きながら飛んでくる人……いや、人型の存在にオレイカルコスの神の長大な竜の如き身体の額から生えるダーツの瞳はありえないものを見るかのように見開かれる――回避は間に合いそうにない。

 

「《魂の一撃》」

 

 そんなダーツの驚愕の表情を余所に宙で蹴りの姿勢に入った神崎はカードの実体化の力もプラスしつつ、発生させた熱を集めたゆえに真っ赤に燃え滾った右足をオレイカルコスの神に向けて蹴り抜いた。

 

「――グッ!!」

 

 生じた轟音と共に空に突き上げられ、雲の上に吹き飛んだダーツだが、すぐさま体勢を立て直して眼下の神崎へと視線を向けようとする瞬きの間に――

 

「《緊急テレポート》」

 

 神崎はダーツの背後へ短距離転移し、拳を振りかぶっていた。

 

「《強制進化》」

 

 やがて神崎が振りかぶった己の右腕から骨が飛び出し、外骨格のように右腕を覆わせた後に――

 

「《ハーフ・カウンター》+《渾身の一撃》」

 

 ダーツが振り返るよりも早く神崎の拳が振りぬかれた。

 

 

 

 

 一瞬の無音と共にオレイカルコスの神の巨体が吹き飛ぶ中、遅れて轟音が響く最中ですら吹き飛ぶ勢いを止められないダーツ。

 

「《突進》+《シールドバッシュ》」

 

「――舐めるなァ!!」

 

 そして追撃をかけようとする神崎だが、ダーツがオレイカルコスの神のブレスを放って強引に吹き飛ぶ己を止めながら、首を回してそのままブレスを迎撃へと向ける姿に僅かに速度を落とす。

 

「《魔法の筒(マジック・シリンダー)》」

 

 そうして落とした速度の中、空中に実体化させた赤い二つの筒をブレーキ代わりに蹴飛ばし、相手のブレスの直線状に設置。

 

 やがてオレイカルコスの神のブレスが《魔法の筒(マジック・シリンダー)》に吸い込まれて行くが、もう一つの筒へとエネルギーが移動することはなく、限界を迎えたように爆ぜた。

 

「辛うじて躱したか――だが、次はそうはいくまい!!」

 

 《魔法の筒(マジック・シリンダー)》が爆ぜた横から、そう語ったダーツから放たれたのは水色の刃状の物体。それも十や二十ではない程の数が放たれており、弾幕さながらの様相である。

 

 夥しい程の数の暴力――これらを一つ一つ殴り飛ばすのは難しいだろう。

 

「《仕込みマシンガン》・《地獄の扉越し銃》・《スパークガン》・《インフェルニティガン》・《ブレイズ・キャノン》・《波動キャノン》・《全弾発射(フルバースト)》」

 

 だが、弾幕が相手なら弾幕だと言わんばかりに空を飛びつつ距離を保ちながら実体化される重火器の数々が火を噴き、弾丸に砲弾、果てはミサイルまで雨霰と打ち込まれていく。そんな飛び道具の撃ち合いへと舞台を移す中――

 

「《ディメンション・ゲート》。《ロケット・ハ――」

 

 神崎はダーツの死角へと空間の歪曲によりゲートを開き、そこへとアーマーを装備した拳を差し込もうとするが、それよりも早く、その繋がったゲートからダーツが放った黒い触手が神崎を呑み込むようになだれ込んで来た。

 

「――《拡散する波動》」

 

 そうして右腕を呑み込み、身体へと迫る触手に対して神崎は左の指から無数の斬撃を放ち、自身の右腕諸共ダーツが放った触手を切断しながら、ゲートから距離を取った後に閉じる。

 

 

 

 右腕を肩口まで失った神崎が冥界の王の力にてヘドロのような物体を以て右腕を再生させる中、奪われた腕はオレイカルコスの神の身体にズブズブと沈み込んでいた。

 

 それは冥界の王の力の極一部分が贄となったに等しい。それにより幾分かオレイカルコスの神の身体が持ち直す。

 

「贄が……贄が足りぬ……」

 

 しかし、そう零すダーツの言う通り、それでも完全なる復活には至らない。

 

 数多の強き魂を喰らい復活した本来の歴史(原作)と比べ、今回の復活には強き魂が全くといって足りていない。

 

「この身が朽ちる前に、貴様を神の贄として喰らい尽くしてやろう!!」

 

 ゆえに足りない分を埋めるべく神崎の――その内に秘められた冥界の王の力を奪わんと雄叫びと共に迫った。

 

「冥界の王」

 

 だが、神崎が伸ばした左手からヘドロのような闇が大量に噴出されると共に数多の生物を辛うじて人型に押し留めたような闇の化け物がダーツに向けて飛びつき、その血肉に喰らいつく。

 

「愚策だな! 己から喰われに来るとは!」

 

 とはいえ、この場合はダーツの言う様に愚策と評する他ない。これでは冥界の王の力をオレイカルコスの神に献上するようなものだ。

 

 当然、醜悪な人型の闇の塊から冥界の王の力を奪うべく牙を立てるダーツ。これ程の巨体を取り込めば神の完全復活も夢ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「《不運の爆弾》・《仕込み爆弾》・《パイナップル爆弾》・《鎖付き爆弾》・《時限カラクリ爆弾》・《古代の機械爆弾(アンティーク・ギアボム)》・《生贄の抱く爆弾》・《ボム・ガード》・《パルス・ボム》・《セメタリー・ボム》・《トロイボム》・《万能地雷グレイモヤ》・《グレイモヤ不発弾》・《爆導索》・《導爆線》」

 

 かに思われたが、そんな醜悪な人型の闇の塊の装甲は非常に薄くハリボテ同然であり、さらにその中身にはタップリ詰め込まれた爆弾の数々がひしめき合っている。

 

 そう、これは某忍者ご用達のいわゆる人間(卑劣)爆弾である。

 

「――くっ!?」

 

 その今にも爆発しそうな火薬庫同然の冥界の王(ハリボテ)からダーツは距離を取ろうとするが――

 

「《闇の呪縛》」

 

 その冥界の王(ハリボテ)から数多の鎖が伸び、ダーツことオレイカルコスの神の身体を「一緒にフィーバー(爆死)しようぜ」と言わんばかりに縛る。

 

「この程度の鎖で――」

 

 だがその鎖は縛られた時点でギチギチと限界を示す様に今にも千切れそうな嫌な音を立てていたが――

 

「《ポイズン・チェーン》、《パラライズ・チェーン》、《連鎖解呪(チェーン・ディスペル)》、《連鎖破壊(チェーン・デストラクション)》、《連鎖除外(チェーン・ロスト)》、《デモンズ・チェーン》」

 

「――チィッ!?」

 

 追加に追加を重ねた大量の鎖がダーツことオレイカルコスの神の巨大な竜のような身体をくまなく拘束していき――

 

「《サンダー・ボルト》」

 

 そうして数多の爆弾とダーツの距離が最大限縮まった瞬間を見計らったように天からイカヅチが起爆の合図を示すように落ち、空に紅蓮の華を咲かせた。

 

 

 

 その爆発により大気が熱風となって周囲を奔っている中で煙も収まっていくが、その先には未だ健在のオレイカルコスの神の姿。

 

 とはいえ、その身体は焼け爛れたようにボロボロであり、更には鎖が爆発の衝撃で散弾と化したのか、身体の所々に抉れた傷跡が目立つ。

 

「フフフ……存外やるようだな――だが無駄だ」

 

 しかしダーツの余裕は崩れず、「無駄」と評したことを示すようにオレイカルコスの神の傷が逆再生されるように元の形へと戻っていく。

 

「確かに今回の我が神の復活は非常に不完全な状態だ――そう長く維持は出来ないだろう」

 

 そのダーツの言葉の通り、強き魂を贄に復活するオレイカルコスの神への生贄が原作のように足りてはいない。

 

 現在はダーツの魂で強引に保たせているとしても、限界はある。

 

「しかしお前がいくら攻撃しようとも、『それ』自体が我らの神の身を討つことに繋がることはない」

 

 だがダーツには、オレイカルコスの神には、圧倒的なアドバンテージが存在する。

 

「何故なら、この神の力の源である捕らえられた魂たちの心の闇がある限り、我が神の力は早々尽きはせぬ」

 

 それが「心の闇」を己が力に変える能力。

 

「私の限界を待っているのだとすれば無駄なこと。お前になら聞こえるだろう――我が神の中に渦巻く声が」

 

 完全な復活には足りていないとはいえ、オレイカルコスの神はかなりの魂を贄としてその身に内包している。ダーツが遥か1万年前から集めてきた魂が、だ。

 

「彼らの心の闇が尽きぬ限り、我が神も永遠を得るのだ」

 

 オレイカルコスの神に囚われた魂が存在する限り、心の闇も無限に等しく供給され続け、疑似的に無尽蔵の力を得られるのだ。

 

 それさえあれば、不完全な復活による身体の崩壊を誤魔化す程度のことは容易に可能。

 

「今の人間に心の闇を完全に克服することが不可能である以上、お前に勝機はない」

 

 原作では遊戯たちの言葉により、囚われた魂が心の闇に一時的に打ち勝てたことで覆すことが出来たが、彼らの心に響く言葉を持たない神崎ではその方法も取れない。

 

「そして私の限界より、お前の限界が来る方が遥かに早い――後、どれだけその力を振るえる?」

 

 それに加えて回復手段のあるダーツと、デュエルエナジーを大量に摂取したとはいえ、限界が存在する神崎の方が我慢比べにおいてかなり分が悪いだろう。

 

「この期に及んで何も語らぬとは……先程の飛ばしていたご自慢の軽口はどうした?」

 

 挑発するように神崎の出方を窺うダーツに神崎はなんら言葉を返さない。

 

 

 

「《地縛神の咆哮》」

 

「地縛神……だと? そんなものが何処に――」

 

 だが、ポツリと神崎がそう宣言すると共に――

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

「■■ォ■■■■■■■オォ■■■ッ!!」

 

「■■■■ャ■■■■■ァ■■■■ッ!!」

 

「■■■■■ゥ■■■■■■■■ッ!!」

 

「■ィ■■■■■■■■ィ■■■■■ッ!!」

 

 ダーツの、オレイカルコスの神の内部から肉を、骨を、皮を引き千切りながらフクロウ男こと巨人、コンドル、ハチドリ、シャチ、クモの地縛神がそれぞれ宙に飛び出した。

 

「なにっ!?」

 

「《魂の解放》」

 

 突然の事態に驚愕するダーツを余所に青く文字通り透き通った身体を持つ妖精を思わせる女性が合図代わりに手をかざす。

 

 するとハチドリを模した《地縛神 Aslla(アスラ) piscu(ピスク)》とコンドルを模した《地縛神 Wiraqocha(ウィラコチャ)Rasca(ラスカ)》が翼を広げながら、そのクチバシを大きく開き、

 

 

 蜘蛛を模した《地縛神 Uru(ウル)》と、フクロウ男こと巨人を模した《地縛神 Ccapac(コカパク) Apu(アプ)》が瞳から涙が零れるように、

 

 シャチを模した《地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア)》が大口を開け、

 

 そうしてそれぞれの個所からオレイカルコスの神に囚われていた魂が解放されていく幻想的な光景の中でダーツは全てを悟る。

 

「グッ!? ググ……オ……貴様ッ! 魂を……神の贄を……!」

 

――あの時、取り込んだ腕に仕掛けを……

 

 ダーツが気付いた通り、神崎は始めから囚われていた魂への「心の闇の克服」などは期待していなかった。ゆえにこう考えた「ダーツが利用できない状況にすればよい」と。

 

 

 それが「地縛神たちに囚われていた魂を取ってこさせる」なんとも無茶苦茶なもの――過去修業中に「よく分からない(食べられるか不明な)ものを食べて死にかけた」男らしい作戦だ。

 

 経験に学んだ愚者っぷりだが、結果的に強靭な胃袋を得ているところを見るに、転んでもただでは起きない男である。

 

 

 やがて地縛神たちが役目を終えたと消えていく中、ダーツは今までとは大きく毛色の違う苦悶の声を漏らす。

 

「グ……グ、グガグ……」

 

 オレイカルコスの神が復活する為の贄たる魂を全て――いや、ダーツを残し根こそぎ奪われたことから、神の長大な竜の身体から黒い煙が立ち昇り、その身体が崩壊を始めていた。

 

 

 ただでさえ不完全な復活だったにも関わらず、無理やり維持する為のエネルギー源を失ったダーツにオレイカルコスの神の急激な崩壊を止める事は出来ない。

 

「もう……止めませんか?」

 

 此処で今の今までカードの実体化の力の行使以外で言葉を発しなかった神崎が此処に来て初めてそう零す。

 

「私を……! 私を……!!」

 

 戦局が大きく傾いたゆえに勝敗は決したと評する如き提案に対し、その神崎の瞳に映る感情を読み取ったダーツの返答は――

 

 

 

 

「――私を憐れむなッ!!」

 

 

 

 開かれたオレイカルコスの神の顎だった。

 

 そうして崩壊を始めた身体を強引に抑えながら雄叫びと共にブレスを放つが、その動きは先程と比べて緩慢で、精細さを欠いている。明らかにこれ以上の戦闘を行える状態ではない。

 

 そうして空中で立つ己へと迫るブレスを神崎は――

 

 

 

 

 

 片腕を振るい、弾き飛ばした。

 

 

 

 弾かれたブレスは海面に叩きつけられ、巨大な水柱を上げる。

 

「……なん……だと……!?」

 

「……まだ()りますか?」

 

 ダーツが信じられない様子で呆然と零す中、神崎は再度終戦を投げかける。これ以上の戦闘に意味はない、と。

 

 

 だが、ダーツはもはや止まれる筈もない。

 

「……当然……だ! ……私は……私は! 神の使命を! 世界を! 救――」

 

「《鎖付きブーメラン》」

 

 その宣言を最後まで聞くことなく神崎は《鎖付きブーメラン》を投擲し、相手の首に巻き付かせた途端に一気に自身へと引き寄せる。

 

「――ぐっ!?」

 

 それにより強引に引き寄せられる中で、ダーツは再びブレスをチャージするも神崎はその竜の下顎を蹴り飛ばし、強引に口を閉じさせた神崎はゼロ距離になったオレイカルコスの神の身体に向けて――

 

「《連撃の帝王》+《カウンターマシンガンパンチ》」

 

 力の限り、連撃を放った。

 

 その拳撃の嵐により吹き飛ばされる――ことは《鎖付きブーメラン》によって縫い付けられている為になく、唯々サンドバッグのように殴られ続けるダーツ。オレイカルコスの神による捕食も拳の雨に遮られ届かない。

 

 やがてその連撃はオレイカルコスの神の肉体の治癒能力を超え、その先から皮を裂き、血が噴き出し、肉が削れ、身体の芯が抉られていき、流れるように冥界の王に捕食されていく。

 

――拙い……! このままでは……

 

 神の血に塗れながらも殴ることを止めない神崎にダーツは危惧を覚えるが――

 

 その危惧より先に「パキン」と《鎖付きブーメラン》の鎖が砕け、互いの位置を固定していた存在の喪失から、拳撃の衝撃を止めるものがなくなった途端に放たれた神崎の回し蹴りを受けて、一気に叩き落されるダーツ。

 

 その下には己の故郷たる古代アトランティスの都。このままではかつての故郷に叩きつけられるだろう。

 

 

「《伝説の剣》・《闇の破神剣》・《執念の剣》・《稲妻の剣》・《竜殺しの剣》・《魂喰らいの魔刀》・《神剣-フェニックスブレード》・《孤毒の剣》・《サイコ・ソード》・《サイコ・ブレイド》・《サクリファイス・ソード》・《ライトロード・レイピア》・《沈黙の剣》・《聖剣アロンダイト》・《聖剣ガラティーン》・《聖剣カリバーン》・《蝶の短剣-エルマ》・《破邪の大剣-バオウ》・《女神の聖剣-エアトス》・――」

 

 だがその前に神崎が空中に浮かべに浮かべた数多の剣が――

 

「《アース・グラビティ》+《重力砲(グラヴィティ・ブラスター)》+《鈍重》+《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》」

 

 カードの実体化の力によって発生した超重力によって――

 

 

 剣の雨となってダーツに降り注ぐ。

 

 

 

 

 爆発的な加速を得て、ダーツを貫きながら眼下の古代アトランティスの都にその竜の如き長大なオレイカルコスの神の身体が縫い付けられていく。

 

「ぐぬぉおおおおオおオ―――――」

 

 それはダーツが古代アトランティスの都に叩きつけられた後も続き、己が身を貫く剣撃の落下の際の轟音が声なき叫びすら掻き消す規模だ。

 

 

「《破天荒な風》・《ストライク・ショット》・《突進》+《崩界の守護竜》」

 

 そうして古代アトランティスの都に重力と剣で縫い付けられつつあるダーツを蹴り殺さんと、神崎は自身の身体に生じた炎を風で煽り、威力と速度を最大限に高めて己を砲弾と化した。

 

 

 遅れた轟音を余所に古代アトランティスの都に囚われたオレイカルコスの神に着弾した神崎という砲弾。

 

 その衝撃により破壊の傷跡が痛々しい古代アトランティスの都から神崎はめり込んだ足を引き抜き、潰れたオレイカルコスの神の「身体」に視線を向ける。これにて終局。

 

 

 

 

 

 

「――最後に気を緩めたな!!」

 

 とはならず、一瞬逸れた意識を縫うように神崎の視界の外から、オレイカルコスの神の「頭部」だけのダーツが大きく牙を開き、神崎に喰らいつかんと迫る。

 

 

 オレイカルコスの神の頭部以外の身体を囮とし、それを隠れ蓑にした上での奇襲は「相手が動けない」との先入観を持っていた神崎の虚を突く。

 

 完全に背後を取られた状態ゆえに神崎の迎撃にはワンアクション必要だが、その一瞬がこの場においては致命的だった。

 

 神崎の心臓に神の牙が迫る。

 

「《痛恨の訴え》」

 

「遅い――」

 

 その前に神崎の影から放り投げられ、竜の顎に放り込まれた栗色の長髪を揺らす女性の姿にダーツは目を奪われる。

 

 ダーツがその姿を忘れる訳がない。かつて、オレイカルコスの力によって化け物の姿となったゆえにダーツ自身が切り殺した――

 

「――イオ……レ」

 

 愛した妻「イオレ」の存在にダーツの瞳が、心が、大きく揺れ動く。

 

――人質か……!! だが無駄だ! 私が使命を違えることはない!

 

 しかし、大局を違うことはない。彼は、ダーツは世界救済の為にオレイカルコスの神が掲げた理想にのみ準じると決めたのだ。

 

 この顎が妻を穿つことになろうとも、返す牙で神崎の心臓から冥界の王の力を喰らう――そうすればダーツの勝ち。この千載一遇の機会を人質の身可愛さにふいにすることなどしない。

 

 

 人質程度で己が止まると判断した相手の愚かさをその身をもって知らしめてやろうとダーツは一瞬の逡巡を振り切って牙を剥く。

 

 

 

 だが神崎の意図は少し違う。

 

 

 

「《不死式冥界砲》」

 

 そう、神崎はダーツからその一瞬の時間を引き出せれば十分だった。それが躊躇であろうが、逡巡であろうが、一切関係がない。

 

 そんなダーツの一瞬の意識の空白の隙を縫い、己の左腕を亡者が寄り集まったような醜悪な外装の大砲へと変貌させ、怨念の如き砲弾が生成される。

 

 当然、それは「イオレ諸共」ダーツを打ち抜かんとする魔の砲弾。

 

 放たれた精神を掻き毟るような歪な悲鳴にも似た音と共に飛来する怨嗟の一撃がやけにダーツにはスローに映った。

 

 だが、ダーツは焦らない。先の神崎の一手を逆手に取るようにイオレを盾にその場の回避を試みる。

 

 

 人間の身体とはいえ、極一瞬であれば肉壁としては機能する筈だと。

 

 そうしてその一撃を紙一重で躱しながら突き進めば十分に状況の挽回は可能。

 

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「――イオレッ!!」

 

 

 だがダーツの身体はその意に反してイオレを庇うように抱き留め、その破壊の奔流を一身にその背で受け止めた。

 

 オッドアイの片側の目が元の色を取り戻しつつ、残り僅かなオレイカルコスの神の力が大きく目減りするのを感じるダーツの胸中は混乱の極みにあった。無理もない。

 

――何をしている。何をしている! 何をしている!!

 

 ダーツには今の己の非合理な行動の意味が分からない。

 

 

 どう考えてもダーツはイオレを見捨てるべきだった。

 

 折角の千載一遇の機会をふいにしてまで、己は何をやっているのだと。

 

 理解できない。己に残されたオレイカルコスの神の力が僅かであることは分かり切っている筈であろう。

 

 理解できない。オレイカルコスの神の身体の大半を囮にした以上、後はないことは明白であろう。

 

 

――私は一体、何をしている!!

 

 ダーツは己の不合理極まりない行動が理解できなかった。

 

 

 そんなダーツの胸中にて反芻される問いに答えるとするのなら、古代アトランティスの都から弾き飛ばされたことで、破壊の奔流から逃れ落下する中で真っ先に行った――

 

「良かった……」

 

 オレイカルコスの神の身体ではなく、その頭部から伸びた己の身体でイオレを抱き留めた際に漏らしたダーツの言葉と安堵した表情が全てを物語っている。そう――

 

 

 愛する妻を二度殺すような真似が彼には耐えられなかった――そう答える他ない、

 

 

 それは「(欲望)」と呼ばれるものだ。

 

 眠ったように動かないイオレの頬を優しくそっと撫でたダーツはオレイカルコスの神の神託により、瞳がオッドアイに戻る中、上空にいるであろう神崎の襲来へと備える。

 

 

 

 結果的に大打撃を受けたダーツだが、未だその瞳に絶望は見えない。

 

 勝機がないのなら、手繰り寄せれば良いと数多の策を立てていくダーツ。

 

 神崎から未だに迎撃がない以上、相手の限界も近い筈だと。

 

 

 そう、ダーツの勝機は僅かながらも未だ残っていた。

 

 

 無茶をしたゆえに朦朧とする意識を立て直すダーツだったが、ふいにその手を『誰か』が掴む。

 

 そして『その誰か』は繋ぎとめるようにダーツの身体を強く抱く。今のダーツの傍にいるのはただ一人。

 

「イオレ!? 何を――」

 

 ダーツの困惑する声に何も語らず瞳を開いたイオレの眼は黒く染まっていた――それはダークシグナーの証。

 

 彼女の背後から噴出した闇が全身に緑の文様を浮かべる巨大なトカゲの姿をした地縛神を形成していく。

 

 その地縛神の名は《地縛神(じばくしん)Ccarayhua(コカライア)》。

 

 

 そして夫、ダーツを決して離さないようにその夫と一体化したオレイカルコスの頭部を抱きかかえた。

 

 

 本来の歴史(原作)では家族を失った運命を呪い、闇に堕ちた女性と共にあった地縛神。

 

 そう、(欲望)ゆえに闇に堕ちた者の象徴ともいえる。

 

 

 

 これにてダーツの最後の勝機は潰えた。

 

 

「イオレ! 操られているのか!」

 

 愛する妻の凶行に当然そう考えるダーツ。神崎がなにかしたのだろうと――あながち間違いではない。

 

 しかしイオレの瞳は慈愛に満ちたものであり、操られている様子などは全く見られない。

 

 

 その瞳に困惑の色も強めるダーツ。だがその瞳の中に僅かに見える悲哀の感情が今のダーツには見えない。

 

 それこそが彼女の「未練」であるというのに。

 

 

 

 やがて《地縛神(じばくしん)Ccarayhua(コカライア)》の両の手によって拘束され、天に捧げられているダーツに影がかかる。

 

 それはダーツが自切したオレイカルコスの神の残骸を平らげた後に神崎が生み出した剣山のような牙が並ぶ巨大な闇の大口。

 

 

 

 

 自分たちに迫るその牙の意味が理解できないダーツではない。

 

 

 ダーツが此処からの立て直しを思考するが、もはやどう足掻こうとも詰みの状況であることの証明にしかならない。

 

 

 決して勝算の低い勝負ではなかった筈にも拘わらずの結果に「何故」との思いにダーツは駆られる。だが理屈は至ってシンプルだ。

 

 

 そう、単純な理屈だ――「心の闇に打ち勝ち続けるには人の心はあまりに弱く、儚い」と、そうダーツが語った「人の弱さ」が勝機を奪った。

 

 

 ただ、それだけの話。

 

 

 愛する妻を二度、その手にかける決断が取れなかった。

 

 過去の己の罪の意識から逃れることが出来なかった。

 

 彼は()()()()()()()()()()

 

 彼は()()()()()()()()

 

 

 ダーツとイオレ、愛し合った二人を纏めて食い千切らんと並ぶ牙が迫るが、もはやダーツにはどうすることも出来ない。

 

 それを成す為の時間は愛する妻の為に使ってしまった。

 

 いや、使わされてしまった。

 

 ダーツの内に心の闇が一段と強まる。だがもはや今のダーツに出来るのは――

 

 

「かんざきうつほぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

 

 怨嗟を込めて叫ぶだけだった。

 

 

 

 

 空に無慈悲な音が響く。

 

 

 






たんとおたべ






頂いたご感想に中々返事を送れない為、恐らく疑問に思われるであろうことを先んじてQ&A――

Q:丸々一話使ってリアルファイト……だと!?

A:趣味に奔――ゴホン、原作では不完全な復活にも関わらず、真なるファラオの宣言の元で放たれた三幻神の三位一体の攻撃で辛うじて倒せたオレイカルコスの神が、

今作ではそれ以上に不完全な復活だったとはいえ「万全ではない冥界の王パンチ」で倒せるとは思えなかった為、しっかり目の攻防の描写が必要と感じたゆえです(目そらし)


Q:なら、この一戦を見るに、オレイカルコスの神より、冥界の王の方が強いの?

A:原作では「どちらが強い」と言った話は不明ですが、今作では互いが万全の状態なら大体同じくらいの力であると想定しております。

ですが、今回の場合――

デュエルに敗北した上に、非情に不完全な状態で無理やり復活したオレイカルコスの神(しかも戦闘中にエネルギー源を失う)と、

最近大きなダメージを受けたとはいえ、新鮮なデュエルエナジーをたらふく摂取し続けた冥界の王。

この両者の状態の違いを考えれば、この一戦においてのパワーバランス的にはこんな感じかと判断しました。


Q:カードの実体化の力って此処まで出来るの?

A:5D’sの「ファイアーボールおじさん」こと「ディヴァイン」が規模は違えど似たようなことをしていたので、冥界の王クラスの力があれば可能であると判断しました。

今作では「ヒロイン」や「相棒」などと茶化されている冥界の王ですが、原作の発言から単騎で世界を滅ぼせるポテンシャルを持っていることは明白な為、この程度は十分可能かと思われます。


Q:もしダーツが躊躇なくイオレ諸共神崎を食い千切ろうとしていたらどうなっていたの?

A:イオレの意思で地縛神パンチが炸裂します。


Q:なら、そのイオレが裏切ったら?

A:卑劣(人間)爆弾が炸裂します。




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