マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
いやぁ、GXの三期は強敵でしたねぇ……





第158話 相手を外見で判断しちゃいけないぜ!

 

 

「おや、どうかなされましたか、我が主?」

 

 なされた報告に暫しポカンとしていた神崎だったが、シモベの不思議そうな声に慌てて己を取り繕う。

 

「……ほ、報告を続けてください」

 

「ハッ! 実はですね――」

 

 ダーツとの一戦以上に荒れまくる神崎の心を余所にシモベから語られるのは――

 

 

 

 

 

 時間は結構さかのぼり――

 

 ゼーマンたちは精霊界にて、鬱蒼と大樹が生い茂る森、《クローザー・フォレスト》を一先ずの拠点とし、現地住民の精霊とあれやこれやと取り決めをようやく交わし終え、一息ついていた。

 

「一先ずの拠点は用意できたか……これで神崎殿に良き報告が出来る」

 

「ワタシも手を貸したかいがあるというものだYO!」

 

 肩の力を抜くように大きく息を吐いた己の横で胸を張るシモベの姿に《猿魔王ゼーマン》はゴリラ顔の顎をさすりながら「フッ」と小さく笑う。

 

「うむ、そうだな。シモベ殿には色々助けられた」

 

 休養させるようにとの神崎の指示にシモベへ周辺の調査を名目にぶらぶらさせていたのだが、そんな中でさして誰の手も入っていない《クローザー・フォレスト》を見つけてきたのだ。

 

 そこに住まう精霊たちとのコンタクトも、紅蓮の悪魔スカーレッド・ノヴァの元で色々計画(悪だくみ)していただけあって、その手の計略も慣れたもの。

 

「そうでしょう。そうでしょう! ワタシにかかればこの程度――」

 

 そう自慢気に零すシモベの背後で風を切るような音と共に空に小さな狼煙が上がった。

 

「おやおや~ん? 敵襲のようですね……折角、めでたい時だというのに無粋なものです」

 

 これは《地底のアラクネー》が森とその周囲に張っていた蜘蛛の糸による警戒網に敵が接触したことを知らせる合図。

 

 さらに狼煙の種類から相手に戦闘の意思があることが示されていた。

 

「ふむ、だがこの襲撃を切り抜けられれば、この地に住まう(精霊)たちの我々への目も大きく変わるだろう。良い――と言うべきではないのだろうが、良い機会かもしれん」

 

 そうして「初仕事だな」と招かれざる来客の元に向けて《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》の背に乗って向かった《猿魔王ゼーマン》とシモベが対峙したのは――

 

 

 

 

 異形の大群だった。

 

 立ち並ぶその体色は人間らしさを持たない灰や黒などに染まり、それぞれの持つ禍々しい特徴と共にズラリと隊列を成すその姿はまさに悪魔の軍勢。

 

 やがて軍勢の只中から一体の悪魔が前に出る。

 

「我が名は《暗黒界の狂王 ブロン》!」

 

 《猿魔王ゼーマン》に向けて高らかに名乗りを上げるのは、角のようなものがいくつも生えた頭を持つ黒い外套を羽織った悪魔、《暗黒界の狂王 ブロン》。

 

 そして身体に巻き付いた鎖をジャラジャラと揺らしながら両の手を広げ、何かの儀式めいた仕草で続ける。

 

「喜ぶがいい! お前たちは大いなる(カード)――《超融合》を生み出す為の最初の贄となる栄誉を賜った!!」

 

「……ハァ? 随分と訳わかんない方々が来られましたね~」

 

 語られるのは、あまりに一方的過ぎて関係者以外よく分からない要求。シモベが呆れた様子で思わず首を捻るのも無理はない。

 

 だが、その要求が「ろくでもないこと」であることだけはヒシヒシと感じられる。

 

「我が名は《猿魔王ゼーマン》! この地にて守護者を担わせて貰っている! 其方の要件の詳細を問いたい!」

 

 しかしそんな決めつけで判断するのは『英雄的(ヒロイック)』ではないと、《猿魔王ゼーマン》は対話の姿勢を示すが――

 

「詳細だと? そのようなことをお前たちが知る必要はない! 我らが望むは汝らが贄として恐怖におののく姿のみ!」

 

 《暗黒界の狂王 ブロン》は取り合うつもりはないと暗に告げつつ、片腕を天へと振り上げる。

 

「さぁ、我が暗黒界の猛者たちよ! 此処に地獄もかくやな狂乱の宴を催そうではないか!!」

 

 やがて振り下ろされた《暗黒界の狂王 ブロン》の腕と宣言を合図に、背後に集う暗黒界の悪魔たちの軍勢は雄叫びを上げながら進軍し、駆け出していく。

 

 これから行われるのはただの蹂躙である。強者が弱者を踏み潰していくだけの理不尽極まりない運命(悲劇)

 

「衝突は避けられぬか……ならば! 此方も迎え撃とう! 今こそ、我らが力を使う時!! 来るがいい、我が軍勢――」

 

 ゆえに立ち向かうしかないと決断した《猿魔王ゼーマン》もまた、背後の森に潜ませていた兵たちに向けて声を張る。

 

 

 今こそ、守護者としての任を果たすときなのだと。

 

 

「――ジャイアント・《スケープ・ゴート》たちよ!」

 

 やがてその声が響くと共に森の中から大量に飛び出すのは丸くてドデカい羊っぽい生き物の群れ。

 

 そう、これはカードの実体化の力で弄られた(品種改良された)ことで凄まじい巨体とパワーを得た《スケープ・ゴート》である。

 

「 「 「 「 メェェエエェエェエエェエエエエエエエッ!!!! 」 」 」 」

 

 周辺の大気を震わせる程の爆音で愛らしい鳴き声を放ちつつ、

 

 悪魔の軍勢に向けて、巨体ながらもチャーミングな姿で駆ける毎に大地が揺れ動き、

 

 そんなキューティーな軍勢が森の中から次々と飛び出し、視界一杯に広がっていく姿はまさに悪夢(ファンタジー)

 

「ちょっ、何そ――」

 

 そのあまりにプリティな相手の姿に、暗黒界の軍勢に突撃の指令を降した《暗黒界の狂王 ブロン》も素っ頓狂な声で「何そいつら!?」と続け――ることはできなかった。

 

 

 そうして丸くドデカい羊っぽい生き物の群れのビッグウェーブに文字通り呑み込まれた《暗黒界の狂王 ブロン》と悪魔の軍勢らの手足が羊毛から飛び出す中、一方的過ぎる戦い……と呼べるかも分からぬ代物はあっけなく終わりを告げた。

 

 

 さぁ、羊を数える(安らかなる眠りに向かう)がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして事の顛末を語り終えたシモベは戦果を誇るように片手で天を指さす。

 

「――と言った次第であります。相手の兵は全て主のご用意した実体化兵により羊毛に絡めとられ死傷者は0! 此方の損害も皆無ですYO!」

 

初陣は圧倒的なまでの快勝を誇り、なおかつ「実体化兵」の運用も存分に熟せたゆえに得られる実りは非常に多かった一戦である。誇らし気に思いたくなる気持ちも分かるというもの。

 

「……我が主?」

 

――どうしてこうなった。

 

 だがシモベの不思議そうな視線の先で頭痛を抑えるように眉間を抑える神崎。その姿は世の理不尽を嘆くかの様だった。

 

 

 その原因は一つ。今、そこで頭痛を堪えている(神崎)のせいである。

 

 

 

 

「…………それで報告は以上ですか?」

 

「いえいえ、此処からが問題の核でして……そうして捕らえた者たちの様子が何処か不審な点が見られた為、我が主のお力添えが欲しいとのことだYO!」

 

 そんな自業自得っぷりは脇に置いておき、促されるままに説明を続けたシモベの言葉に神崎は「どんな答えが返ってきても動じないようにしよう」とフラグ満載なことを考えるも――

 

「不審な点?」

 

「はいはいはい! それなのですが、彼らの魔力(ヘカ)に淀みが見られなかったんだYO! 悪行を成すものは(バー)が穢れ、それに伴い魔力(ヘカ)に淀みが生ずるのですが――」

 

――確か古代編で盗賊王バクラやアクナディンがそんなことを言っていたような……

 

 シモベの言葉に原作知識でどうにかなりそうな問題であると、一先ず内心で胸をなでおろす。

 

「あの者たちの主義主張をそのまま信じた場合、魔力(ヘカ)にああも淀みがないのは不自然でして……」

 

「私に相手の心を探らせようと?」

 

「その通りでございます! 我が主のお手を煩わせてしまい申し訳ありませんが、我々だけでは『英雄的(ヒロイック)』であれとのご命令を完遂できなく――」

 

 そうして続くシモベの説明を聞きながら、神崎にあるのは以前から抱いていた疑問が反芻されていた。

 

 それもその筈、《暗黒界の狂王 ブロン》を含め「暗黒界」モンスターは遊戯王GXにて遊城 十代の仲間たちを次々と特殊なカード《超融合》を生み出す為の生贄にし、十代が闇落ちする切っ掛けを生み出す程に邪悪な存在として描かれている。

 

 だが、OCGによる公式情報から「見た目は怖いけど本当は優しい」と評されており、なおかつ暗黒界の通常モンスターたちのフレーバーテキスト(モンスターの説明)は邪悪とはかけ離れたものの為、神崎としてもどちらを指針とするべきか判断に困る実情があったのだ。

 

 そんな長年の疑問が氷解する機会に何の因果か立ち会うことになった事実に感慨深いものを覚える神崎はおずおずと反応を伺うシモベに快諾を返す。

 

「構いませんよ。丁度ゼーマンに一仕事頼もうと思っていましたし、すぐに向かいましょう」

 

――とはいえ、(バー)の知覚だけだと表層の感情しか見えないんだけどな。他はカードの実体化の力で強引に記憶を引き出す……くらいか。

 

 

 そうして精霊界へと続くゲートを生成しながら、シモベと共に現場へと向かう神崎だが、その心は「この状況での記憶の閲覧は原作主人公(正義側)的にはセーフなのだろうか?」と不安一杯だった。

 

 

 

 

 だが、心配はいらない。

 

 

 

 アウトなら神崎が正義の名(原作主人公’s)の下に処されるだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで《猿魔王ゼーマン》の元に合流した神崎は「ゼーマンが魔法の類を扱っているように見せる」とのプランを立てた後、《クローザー・フォレスト》にて増設した地下に設置した木製の檻、《無視加護》の前に《光学迷彩アーマー》によって姿を隠しながら立っていた。

 

 

 

 その《無視加護》の内部には「暗黒界」のモンスターたちが、黄金色に輝く手枷のモンスター《ホールディング・アームズ》によって腕が拘束された状態で項垂れている姿が見られる。

 

 やがてそんな囚われの暗黒界のモンスターたちとは別の《無視加護》に囚われた《暗黒界の狂王 ブロン》の前に立った《猿魔王ゼーマン》は威厳タップリに告げる。

 

「《暗黒界の狂王 ブロン》よ、真実を話す気になったか?」

 

「くっ、殺せ!」

 

 しかし《暗黒界の狂王 ブロン》は何も語る気はないと、《猿魔王ゼーマン》から目線を外しつつ、屈辱に耐えるように吐き捨てた。

 

 とはいえ、人間らしい特徴のない悪魔の凶悪な顔でやられても、人間的な感性からはただの怖い顔にしか見えないが。

 

「そう気を張らずとも、此方は汝らを取って食いはせぬ」

 

「我が身がどうなろうとも、何も話すつもりはない!」

 

 何だか定番すぎる流れに「何を見せられているんだろう」などと神崎が現実逃避を始める中、《猿魔王ゼーマン》がU字の先端を持つ杖「カースドニードル」を構える姿に慌てて意識を引き戻して準備に映る。

 

「そうか。では致し方ない――我が魔術により探るとしよう」

 

「――ぐっ!?」

 

 そうしてカースドニードルを掲げる《猿魔王ゼーマン》の動きに合わせて神崎がカードの実体化の力により《念導力》を発動させたことで、首を掴まれたように宙に浮かぶ《暗黒界の狂王 ブロン》。

 

「ブロン様!」

 

「ブロンさまー!」

 

 そんな見えない力によって宙吊りになったことにより、息苦しさから苦悶の声を漏らす王の姿に隣の《無視加護》の暗黒界のモンスターたちが檻を掴みながら心配気な声を上げていた。

 

 

 やがて《猿魔王ゼーマン》の背後から石板にウジャトの眼のように描かれた瞳――《真実の瞳》が現れ《暗黒界の狂王 ブロン》を射抜く。

 

 すると、地面からせり出した青い淵の儀式鏡が波紋を浮かべて波打ち、《儀水鏡との交信》を果たした後に浮かび上がるのは――

 

 

――とある王の記憶。

 

 

 

 

 

 精霊界は争いばかりだった。

 

 

 様々な勢力が「己こそが」と覇を唱え、骨肉の争いを繰り広げ、ただいたずらに血を流し続ける。

 

 

 その戦いの連鎖は留まることを知らず、日々、世界を侵食していくばかりだった。

 

 

 そんな戦乱の世に対し、暗黒界の王は苦悩する。

 

 

 

 

 

 悪魔族らしく恐ろしい外見を持つ彼ら暗黒界の者たちだが、その優しき心は各地で戦の知らせを聞く度に深い悲しみに包まれていた。

 

 

 王は自問する。

 

 

 また血が流れた。

 

 だが、戦乱は終わらない。

 

 

 この戦乱の世はいつ終わる。

 

 無論、覇の頂きに至る者が決まるまで。

 

 

 そんなものを決めてどうなる。

 

 さぁて、どうだろう? きっと気分が良くなるのさ。

 

 

 そんなことの為に血を流すのか。

 

 お前の価値基準が世の全てだとでも?

 

 

 返る言葉は無慈悲なものばかり。当然だ。

 

 

 王に世を変えるだけの覚悟も、力もないのだから。

 

 己が民を守ることにすら苦心する有様で、世界のうねりに対して何が出来ると言うのか。

 

 

 

 

 王は苦悩する。

 

 流れる血を止めることが出来ない事実に。

 

 このままでは自国どころか、この精霊界に住まう全てが死に絶えるという現実に。

 

 

 王は苦悩する。

 

 それらの問題を全て解決し得る魔法のような一手の存在に。

 

 だが、それは屍を積み上げた大罪の果てにある許されざる一手。

 

 

 語るも悍ましい闇の書物――「邪心経典」によって成される奇跡の御業。

 

 

 

 だが王は決断する。

 

 一縷の望みをかけて各勢力へ送った書状からの返答は優しき王が覚悟を決めるには十分過ぎる代物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 王は「邪心経典」を手に、狂人の仮面を被る。

 

 

 「今」を血に染めてでも――全ては「未来」の同胞(精霊)たちの為に。

 

 

 やがて同志を集めた王は宣言する。

 

「我らは今宵、悪鬼羅刹となろう!」

 

 全てを包み隠さず話し終えた王は声高に叫ぶ。

 

「数多の罪なき命を捧げ、暗黒のカードたる《超融合》を生み出すのだ!」

 

 こんな罪深き所業に皆が付き合う必要などないと。

 

「そして! その力により世界の意思を束ね! 精霊界に安寧を齎す!」

 

 そう、誰も己の行為に付き合わないで欲しい。

 

「我らが名は! 誇りは! 地に落ちるだろう!」

 

 狂った王だと追放し、新たな王を選んで欲しい。そうすれば王が突然いなくなる事態も避けられよう。

 

「だが全ては精霊界の! そこに住まう全ての者たちの未来の為に! 我らが身を供物として捧げようぞ!!」

 

 そうすれば、咎を背負うのは己一人で済む。

 

「これより、我らは討ち滅ぼされるべき絶対悪となるのだ!!」

 

 やがてそう宣言し終えた王――いや、狂王は瞳を閉じる。

 

 罵声でも何でも浴びせてくれと。そうして国から追われれば、後は計画の為に命を捨てるだけ。

 

 

 だが、同志たちからの返答は喝采だった。

 

 

 それは共に破滅の道を歩むことへの誓い。

 

 

 そんな彼らに「馬鹿者共が」と涙が零れそうになる王だが、これから成すことを考えれば涙を流す資格すらないとグッと堪え、暗雲漂う天に手を掲げると共に――

 

 

 暗黒の軍勢が雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 彼らの魂は王と共にあるのだと天に示す様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なおその覚悟諸共、速攻でドデカい《スケープ・ゴート》の群れに吹っ飛ばされたが。

 

 

 

 

 

 

 そうして《暗黒界の狂王 ブロン》の記憶を映画さながらに眺めた《猿魔王ゼーマン》はポツリと零す。

 

「――このような事情があったとはな」

 

――のっけから躓いた訳か……

 

 ついでに神崎も「GXの舞台裏にこんなことがあったのか」と内心で思いつつ、姿を消したまま感慨深く頷いていた。

 

「くっ……」

 

 なんだか、しんみりしている雰囲気だが、ゆっくりと地上に降ろされていた《暗黒界の狂王 ブロン》がその雰囲気を切り裂くように悔し気な表情から一転して声を張る。

 

「だとしても我らが罪なき命を屠ろうとした事実に変わりはない! その罪は死をもって償おうぞ!」

 

 如何なる理由があろうとも、彼らの行いは「悪」であるのだと。その罪の重さを考えれば償いの方法など「死」以外にありはしない。

 

 

「…………成程。そういう流れですな」

 

「……? どうした! 我らが――」

 

 だが、コッソリと神崎の指示を受けた《猿魔王ゼーマン》は不審気な《暗黒界の狂王 ブロン》に向けて――

 

「――フン!!」

 

「ヒデブッ!?」

 

 その顔面に拳を振りぬいた。ゴリラパンチである。

 

 その突然の拳の一撃に地面を転がる《暗黒界の狂王 ブロン》。

 

「ブロン様!?」

 

「ぐっ、その程度の拳では死にはせんぞ!!」

 

 暗黒界の同胞の一体が心配気な声を上げるが、《暗黒界の狂王 ブロン》は鋭い視線で黙らせた後に《猿魔王ゼーマン》に挑発するような声を上げるが――

 

「己が罪から目を背けるでないわ!!」

 

「なんだと? 命を以て償――」

 

「それが間違っているというのだ! 汝の死に何の意味がある!」

 

 《猿魔王ゼーマン》は《暗黒界の狂王 ブロン》の覚悟を一笑に付した。

 

 

「我らの覚悟が無意味だと言うのか!!」

 

「黙れィ!! 明確な被害にあったものがいない以上、汝の死は慰撫にすらならぬわ!!」

 

「……くっ!」

 

 己の覚悟に泥を塗られたも同然の行いに思わず叫びを上げるが、《猿魔王ゼーマン》の上げた理屈に《暗黒界の狂王 ブロン》は小さく気圧される。

 

 そう、今回の一件はザックリ言えば「なんかよく分からないスケールの大きい話をしていた暗黒界の面々がドデカい羊トークンに一瞬でぶっ飛ばされた」文字にすれば、ただそれだけ。

 

 それに対し「命で償う!!」と言われても、「お、おう」としか現地民としては返せない。

 

 ぶっちゃけた話、現地の精霊たちは《超融合》が何かも分からず、どうやって生み出されるのかもよく分かっていないのだ。

 

 《猿魔王ゼーマン》たちすら先程の記憶の閲覧によって初めて具体的な話が分かった状態である。

 

 暗黒界の計画が未遂で終わってしまった弊害が此処にきて浮上していた。

 

 此処で《猿魔王ゼーマン》が暗黒界の面々の命を取る選択をしようものなら、現地の精霊たちに恐怖心を抱かせる切っ掛けとなり、英雄的(ヒロイック)どころではない。

 

「だが、我らが決起した行為は決して許されざるものだ! 罪には罰がなければならない!」

 

 とはいえ、暗黒界の面々からすれば神崎側の事情など知らないゆえに「罪には罰が」といってはばからない。

 

 だが、そんな暗黒界の面々に向けて《猿魔王ゼーマン》は用意されたシナリオに沿ってマントを翻しながら王としての風格を見せつつ告げる。

 

「許しはせん」

 

「なんだと?」

 

 その言葉をそのまま受け取るのなら、望み通りの罰が――と取ってしまいそうだが、膝を突き、地面に伏す《暗黒界の狂王 ブロン》に目線を合わせる《猿魔王ゼーマン》の姿はとてもそうは思えない。

 

「我は現在、精霊界の争いの連鎖を止めるべく動いておる。その為の準備は着々と進めてきた――汝が矛を交えたジャイアント・《スケープ・ゴート》もその一つだ」

 

「あれ程のものが……手段の一つだと?」

 

 そんな中で続けられる《猿魔王ゼーマン》の言葉に戦慄を覚える《暗黒界の狂王 ブロン》だが、真剣な顔でゆるーい外見の羊トークンについて語り合う彼らは凄くシュールだ。

 

「そうだ。今の段階では全てを詳細にはあかせんが、この名に誓い! 無用な血など決して流させはせぬ!」

 

「まさかお前は……」

 

 そうして続いた言葉に《暗黒界の狂王 ブロン》の瞳に理解が浮かぶ。眼の前の(ゴリラ)が己に告げる残酷な(優しい)罰の正体に。

 

「理解したか? お前たちはこれから償っていくのだ!」

 

 彼ら(暗黒界)の行いは未遂に終わったとはいえ、決して許されざる行為だ。それこそ「己の命一つ」では到底償えない程に。

 

 

 なれば、こそ「死」という安易な「逃げ」を選ぶなど許さないとばかりに、悪魔(咎人)へ向けて(ゴリラ)は宣言する。

 

「このゼーマンの元で!!」

 

 己の元で千の民を、万の民を、いや、未来の民すらも――永劫に渡り救い(償い)続けるのだと。

 

 

 

 

 

 

 こうして暗黒界の面々との会合を終えた《猿魔王ゼーマン》は別室にて件の危険物こと「邪心経典」を影にムシャらせている己が主に膝をつく。

 

「あれでよろしかったでしょうか?」

 

「ええ、彼らの(バー)を見るに、自暴自棄になることもないでしょう――名演技でしたよ」

 

「お褒めに預かり恐悦至極! 私などには勿体なきお言葉!」

 

 そんなやり取りと共に影にゴクンと飲み込まれる「邪心経典」を余所に神崎へ深々とかしずく《猿魔王ゼーマン》だが、その忠誠心は神崎にとっては些か以上に重圧である。

 

「後のことはズムウォルトに任せております! それでシモベ殿が語っていた『一仕事』とは何でしょう?」

 

 そうして何を返したものかと言葉を選んでいた神崎を余所に《猿魔王ゼーマン》は件の「頼み事」に触れる。

 

 既に自身の力不足によって主にいらぬ手間をかけさせた上に、主の命をこれ以上後回しにすることなど許されないと。

 

 なお神崎的にはそう急ぐ代物でもないが、仮にそう言った所で、眼の前の忠臣が納得するとは思えない――なんとも面倒臭いゴリラだ。

 

「手を」

 

「ハッ!」

 

 命じた瞬間にすぐさま差し出された腕に神崎が手をかざせば、《猿魔王ゼーマン》の腕に摩訶不思議な文様が奔り、ブレスレットのように手首に巻き付き一回りした後、何もなかったかのようにスゥッと消える。

 

「む? これは……」

 

「今から貴方はある場所に赴き、其処に封じられている『三体の竜』の封印を解きなさい」

 

「封印を……ですか?」

 

「ええ、今の貴方の腕に仕込んだモノがあれば可能です」

 

 語られる神崎からの指令は平たく言えば何とも「おつかい」染みたもの。《猿魔王ゼーマン》が成すべきことは「行って帰ってくる」だけ――なんてことはない。

 

「そしてその三体の竜と協力関係を取り付けなさい。可能であれば担ぎ上げる神輿にするのが理想ですね」

 

 サラッと語られる神崎の無茶振り染みた指示だが、流石に手ぶらで送り出すことなどしない。そう、神崎お得意の――

 

「『封印を解いた』という『恩』があれば、そう邪険にはされないでしょう」

 

 恩義(心の鎖)による心象操作(媚び売り)である。

 

「詳しいバックボーンは此方で用意しておきました」

 

「お任せください! この大任! 完璧に遂行してみせましょう!!」

 

「期待していますよ」

 

 そうして詳細を詰めた後、とある精霊たちの隠れ里への道を次元の扉を開き繋げた神崎へと一礼し、《猿魔王ゼーマン》は突き進む。

 

 その背にはこの大任を一部の隙も無く完遂してみせるとやる気を漲らせていた。

 

 

 そんな《猿魔王ゼーマン》を見送った後、神崎もまた次元の扉をくぐって「物質次元」こと人間の世界へと戻っていった。

 

 その背はまだまだやるべき後始末が残っているゆえか何処か項垂れており、足取りも重いのは気のせいではない。

 

 

 

 

 

 

 やがて《猿魔王ゼーマン》が足を運んだのは、神聖さすら感じさせる白き神殿。

 

 その神殿の内部に安置されている三体の氷像の前まで案内したこの精霊の隠れ里の代表を務める《ブラック・マジシャン・ガール》は《猿魔王ゼーマン》へと視線を向け――

 

「此処が、伝説の三体の竜の方々が封じられている場所です……本当に封印が解けるんですか?」

 

 若干、懐疑的な視線を向ける。

 

 今回、《猿魔王ゼーマン》はこの地に封じられた三体の竜の存在を知り、自身の魔法ならば封印を解くことが出来るかもしれないと訪ねた――という設定である。

 

 当然、すんなりとは信じて貰えないとの想定から幾重ものパターンを用意してきたのだが――

 

「この封印を解けるのは『選ばれたマスターたちだけ』って伝承なんだけど……」

 

「なに、『封じる方法』がある以上、『解く方法』があるのは自明の理――確約は出来ぬが、任せて貰いたい」

 

 結構、アッサリ入れてしまったことに《猿魔王ゼーマン》も戸惑いを隠せない――《ブラック・マジシャン・ガール》ェ……

 

 とはいえ、封印自体が神の如き巨大な力によってなされている為、封印の改変どころか、封印の上から強引に破壊するなんてことも出来ない以上、警戒するだけ無駄だという面もあるのだろうが。

 

 

 やがて《ブラック・マジシャン・ガール》と精霊たちが見守る中、《猿魔王ゼーマン》がカースドニードルを構えながら傍から見れば意味不明な呪文を唱える。

 

 ちなみにヒエラティックテキストではない。本当に意味のない呪文である。そうして唱えられた呪文を余所に神崎から渡された仕掛けを起動させれば――

 

「…………何も起きないじゃないですか」

 

 傍からみれば何の変化も見られない氷の中に封じられた三体の竜の姿が残るばかり。その光景にダメで元々だったとはいえ、「ひょっとしたら」との想いがあったゆえに《ブラック・マジシャン・ガール》は大きく肩を落とす。

 

「ハァ、失敗かぁ……やっぱりマスターたちじゃないと――」

 

 だが三つの声が響く。

 

「誰だ。我らを呼ぶ声は」

 

「深く眠りし魂を」

 

「呼び覚ます者は」

 

 その英雄の資質を存分に感じさせる声に《猿魔王ゼーマン》はかしずくように己が名を叫ぶ。今こそシナリオの一つ「それっぽいことを力強く叫ぶ」を実行するときだ。

 

「我が名は『ゼーマン』――今こそ、我が魔術にて忘却されし、お三方の名! 呼び起こしましょうぞ! ハアァッ!!」

 

 ゆえに取り合えず、それっぽい気合の掛け声を入れる《猿魔王ゼーマン》。

 

 それに伴い、オレイカルコスの神の力によってかけられた封印は、同じくオレイカルコスの神の力によって今、解かれる――まごうことなきマッチポンプだ。

 

 

「 「 「 ――ッ!! 」 」 」

 

 そうして三体の竜を覆っていた氷の壁は砕け散り、緑・黒・赤の竜の姿が現れたと共にその姿を光が覆う。やがてその光が晴れた先には――

 

「我が名はティマイオス!」

 

 緑の全身鎧に身を包んだ何処か闇遊戯に似た隻眼の戦士――《伝説の騎士 ティマイオス》が、剣を天にかざし、

 

「我が名はクリティウス!」

 

 青の全身鎧に身を包んだ何処か海馬に似た戦士――《伝説の騎士 クリティウス》が、己の剣を仲間の剣と交差させ、

 

「我が名はヘルモス!」

 

 赤の全身鎧に身を包んだ何処か城之内に似た戦士――《伝説の騎士 ヘルモス》が、最後の剣を添え、

 

 

「 「 「 我らが力! 心の光と共に!! 」 」 」

 

 

 高らかにそう宣言した。

 

 学☆芸☆会――もとい遊戯・海馬・城之内と瓜二つの外見の三騎士の登場にざわめく周囲を余所に《ブラック・マジシャン・ガール》はその三つの神聖な姿に祈るように手を握る。

 

「これが伝説の三体の竜の真のお姿……」

 

 そう、これこそが名も無き竜の真の姿! 名もなき三体の竜はオレイカルコスの神の呪いによって竜の姿に封じられた上に更なる封印を重ねられていたのである!!

 

 オレイカルコスの神の力を振るう者(ダーツ)によってかけられた封印が、

 

 オレイカルコスの神の力を振るう者(神崎)によって解かれた瞬間であった。

 

 

 バレたらぶっ殺される可能性も結構ありそうな状態だが、真実は闇の中である。

 

 

 

 

「汝が我らの封を解いたようだな!」

 

「ならば、その恩に報いなければなるまい!」

 

「汝の望みを申して見せよ!」

 

 そうして伝説の騎士、ティマイオス → クリティウス → ヘルモスの順で、3人で順番に会話していく「ローテーショントーク」を巧みに扱う三騎士の姿に《猿魔王ゼーマン》は深々と頭を下げ、願い出る。

 

 彼の願いは一つのみ。

 

 

「なれば、精霊界の安寧の為にどうか力を貸していただきたい!!」

 

 

 争いなき理想の世界(神崎にとって都合の良い世界)だけだ。

 

 

 

 

 此処に「伝説の三竜」――否、「伝説の三騎士」の名の元に手を取り合った二つの勢力。

 

 

 伝説の三騎士の気高き心と大いなる力。そして《猿魔王ゼーマン》の英知に加え、数多の精霊たちが手を取り合い、その輪は広がって行く。

 

 

 

 やがて彼らはこう呼ばれるようになる。その名は――

 

 

 

 

 『三竜同盟』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくる日、童実野町の童実野高校の屋上にて、銀髪のツインテールの少女が夕焼けをジトっとした瞳で眺めていたが、やがてそのピントが虚空の方へと向き――

 

「報告。指定された歴史の歪みの観測に失敗。都度再試行を試みるも全て同様に失敗。結果から当機は改変された歴史の歪みへの耐性不足が懸念される。なお現時点での世界崩壊の予兆は未確認。よって現時間軸の安定性に問題は見られない。次に該当機からの信号は現在も捕捉不能。定時連絡が継続しているとの情報から機能停止の可能性は依然低い。その為、何らかの不測の事態により行動制限を併発する事態へ発展したと想定。最終活動地点を中心に捜索を継続。また――」

 

 何やらもの凄い勢いでぼそぼそ話し始めた。

 

 だが、此処には少女を除き、人っ子一人いはしない。

 

 そんな誰に向けて話しているか分からない有様だったが、一通り話し終えた後、返答が返ってきた様子でコクリと頷く。

 

「了解。引き続き、歴史観測並びに対象の捜索に当たる」

 

 やがて虚空を見つめていた視線が切れると、階下への扉に立てかけていた学校指定のカバンの隣の紙袋から最後の一つとなったカレーパンを取り出し頬張る。

 

「……おいしい」

 

 彼女の任務は未だ終わりを見せない。

 

 

 

 

 






これにてドーマ編は完結になります。ようやくDM編のゴールが見えてきたぜ……(汗)

ちなみに――
暗黒界の面々の裏事情は彼らのフレーバーテキストがある以上、原作GXでの凶行には最低でもこれくらいの理由はあると考えたゆえのオリジナルになります。

原作の真相は不明ですが、今作ではこんな感じで行きますので、どうかご容赦を<(_ _)>


しかし精霊界とのことで《光をもたらす者 ルシファー》のカードを見た時、ふと思う

『モ〇スト』次元も存在するのではなかろうか、と( ̄へ ̄; ムムム…

まぁ、本編が疎かになりそうなので触れないけどな!(逃げ)



最後に先んじてQ&A――

Q:最後の人って誰? オリキャラ?

A:遊戯王シリーズの原作には登場しておりませんが、とある遊戯王ゲームにて登場する人物です。

その特殊な立ち位置からの登場になりますが、詳細を語るとネタバレになりかねないので、本編にて紹介するまでどうかご勘弁を。

とはいえ、知名度的に隠せるものでもない気もしますが。

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