マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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諸々が何とも言えぬ有様で遊戯王VRAINSが終わってしまった……(´;ω;`)ブワッ

くっ、このモヤモヤは今作でのVRAINS編で晴らすしかねぇ!!(なお現在DM編)




前回のあらすじ
おそろしく速いフラグ回収、オレでなきゃ見逃しちゃうね






第161話 視線

 

 

 KCグランプリの情報が世界を駆け巡り、参加者が続々と名乗りを上げる中、運営側の企業のトップ3に入るI2社でもまた、デュエリストたちの闘志が燃え盛っていた。

 

 

「聞きましたか、リッチー! 世界一を決める大会ですよ!」

 

 そんな燃え盛っている代表の夜行が休憩室に駆けつけたと共に出た声から、何時ものメンバーでだべっていたリッチーは最後のメンバーが揃ったと夜行に着席を促しつつ返す。

 

「ああ、聞いてるぜ。海馬の奴が参加しねぇのが残念だな――リベンジの機会はまた今度だ」

 

 そうして着席した遠足前の子供のような状態の夜行に、月行は落ち着かせるような声色で先を促すが――

 

「そうですね。私もリベンジの機会を逃してしまいました。それで夜行、その大会がどうしたのですか?」

 

「我々ペガサスミニオンで上位を独占すべきではないですか!?」

 

「いや、無茶言うなよ」

 

 そんな夜行から飛び出した提案は無謀なものだった。思わずリッチーが素でツッコんでしまうのも無理はない。

 

 世界各国から最強との呼び声が高いデュエリストが集まる中で、上位を独占できると思う程、リッチーは自分たちの力量を過信はしていないのだ。

 

 だが、そんなリッチーの「夜行の何時もの悪い病気か……」との視線が向けられる中、ハッとしたデプレが夜行を援護する。

 

「……確かに……参加できない……ペガサス様が……軽んじられることなど……あってはならない……」

 

「そうだろう、デプレ! それに参加資格が得られなかったシンディア様の仇討にもなる!」

 

 そう、ペガサスは企業のトップとして海馬と同じような理由で参加できない為、他の参加者に「逃げた」などと思われるかもしれない――それが夜行の心配だった。

 

 それに加え、シンディアが大会の参加規程を満たせなかったのは他の参加者がとんでもなく多かったゆえ――という、強引な理論武装。

 

「いや、仇じゃねぇだろ」

 

 だが、リッチーのツッコミの通り、仇ではない。他の参加者からすれば逆恨みですらない何かである。

 

「くっ、惜しくも参加できなかったシンディア様がお心を痛めておられると思うと……!」

 

「いや、シンディア様は悔しがっちゃいたが、特に落ち込んではいなかっただろ」

 

 しかしリッチーのツッコミなど意に介さないとばかりに夜行のシリアス顔が響き――

 

「……俺たちの力は……ペガサス様と……シンディア様の力……」

 

「確かにそうですね。我々が上位を独占すればそれはペガサス様とシンディア様が独占したに等しい」

 

 デプレと月行もシリアス顔で追従する。これには夜行も我が意を得たりと力強く宣言する。

 

「ええ、そうですとも! 今こそ、ペガサスミニオンの力を結集し、その力を示すべき時です!!」

 

「くっ、ツッコミが追い付かねぇ!!」

 

 

 そうしてI2社ではデュエリストのボルテージが一人を置き去りにしながら跳ね上がっていく。

 

 そんなI2社では優れたツッコミスキルを有する人材を求めております。というか、リッチーが求めております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな具合に熱気沸き立つデュエリストたちへの舞台作りの為にパラディウス社ではオレイカルコスソルジャーたちが頑張っていた。

 

「UGOGOGO! GUGIGI!」

 

「GUGAGAGE、GOGIGOGO」

 

「Amazing blackness」

 

「UGEGE、GOGUGIGA!」

 

 パソコンでカタカタと何やら入力する者、書類を作成し、然るべき手続きを踏む者、大会の運営に関わる全ての会社の進捗状況をチェックする者、それをホワイトボードに書き出し、要点を纏める者、そこから規定される問題点と改善策を上げる者、etc.etc――

 

 この場を見渡す限り、ウジャウジャと言うべき程の数のオレイカルコスソルジャーたちが労働に汗――は流れないが――流していた。

 

 

 そうしてオレイカルコスソルジャーたちの働く土壌を整えたダーツの姿をした神崎は一息入れるようにため息交じりに零す。

 

「…………これでパラディウス社の方は一先ず問題ないか」

 

――此方の手も空いた。これならアヌビスの方もKCからエジプトに飛ばす話を進めて問題ないだろう。

 

 今にも倒れそうな程に項垂れている神崎だが、パラディウス社における「問題」を強引に片付けたとしてもKCの幹部としての仕事が残っている為、ダーツの姿から元の神崎自身の姿に戻しつつ、頭の中で今後の予定を立て始める。

 

 

 だが、そんな神崎の影が蠢き、平面の世界から抜け出たように顔を出す冥界の王が声をかけた。

 

『働き手である人間どもを締め出して良かったのか?』

 

 そう、冥界の王が言ったように今現在のパラディウス社に「人間の社員」はいないと断じて良い程に少数だ。それもその筈、神崎がダーツの姿で何かと理由を付けて外に出したゆえ。

 

 冥界の王に「人間の仕事のいろは」は分からないが、オレイカルコスソルジャーがひしめき合うが如く仕事をしている光景が最適解だとは思えない。

 

「ええ、構いません。いや、むしろ彼ら(人間たち)には転職・転勤・寿退社――理由はなんであれ、とにかくパラディウス社から距離を取って貰った方が良い」

 

 しかし将来的にパラディウス社を畳むつもりである神崎からすれば最適解とは言えずとも、そこそこの結果は生める公算だった。

 

『だが手が足りぬと嘆いた癖に、仕事を増やし、更には人手を減らすとは……相変わらず何を考えているか分からん奴だな』

 

「別に大した考えでもありませんよ。単にこれだけ大きな大会ならば、パラディウス社の規模から考えて、各企業や諸々に人員を向かわせる必要がある」

 

 だとしても冥界の王は「忙しい癖に膨大な仕事を増やした」件が唯々疑問な様子。ゆえに神崎はパラディウス社の屋上に向かう最中に自分なりの考えを語って見せる。

 

「そこを全面に押し出して、外への対応を人間に、内での通常業務をオレイカルコスソルジャーが対応すれば、直接対峙することでの人間との意思疎通に苦心することもない」

 

 とはいえ、デュエルマッスル以外はボチボチスペックな神崎の考えなど、そう大層なものではない。

 

 問題を生んでいた要員である2つの存在を強引に引き離しただけである。

 

「仕事が増えたからと言って、必ずしも全社員が忙しくなる訳じゃないのが面白いところだ」

 

 単純な話、仕事が2倍に増えたとしても、優秀な人材が5倍、10倍と増えれば、さしたる忙しさは感じないだろう――ただ、マンパワーのこれ以上ない程の無駄使いだが。

 

 

 神崎がパラディウス社の職務で苦心していたのは「人間とオレイカルコスソルジャーの間の意思疎通」一点のみ。

 

 そして海馬の持ち込んだKCグランプリ――今はワールドグランプリだが――の発案はパラディウス社から人間の社員を外へ向かわせる絶好の機会であった。

 

 将来的にパラディウス社を解体する上での人間の社員のその後も、今回の一件が大いにプラスに働き、そうして意思疎通の問題が解消されれば、オレイカルコスソルジャーの数の力が暴威を振るう。

 

 外の対応に当たる「普通の社員」へのやり取りは、会社にいないことを理由に文書で成せば問題なく、その圧倒的なまでの数によって生まれる多くの「成果」は栄転と称して人間をパラディウス社から遠ざけることも買って出る。

 

 それゆえ一石二鳥、三鳥――と上手くいくかはさておきお得な作戦だ。

 

 

 やがて神崎はパラディウス社の屋上に立ち、カードの実体化の力によって発動されたコウモリのような影がひしめく大きな布――《遮攻カーテン》を纏いつつ、夜の闇に紛れていく中、冥界の王はつまらなそうに言葉を落とす。

 

『やはり、くだらんな。有象無象にあれやこれやと、物好きなことだ』

 

 そんなどこか侮蔑を孕んだ言葉を余所に屋上から空へと跳躍した神崎が雲を突き抜けたと同時に身に纏った《遮攻カーテン》が風で翼のようにはためく中、さして気にした様子もなく返す。

 

「そんな有象無象の中に、貴方を幾度となく退けてきたシグナー(選ばれた者)たちがいたのでは?」

 

『…………相も変わらず口が減らん奴だ』

 

 そうして空を駆ける彼らを月の光だけが映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルシティの熱も収まりを見せ、海外で空に巨大なネッシーが飛び立っていった等といったゴシップニュースも陰りを見せた頃、童実野高校の教室にて遊戯は自身の机に置かれた手紙を視界に収めつつ、うんうんと唸っていた。

 

「う~ん、どうしよう……」

 

――あまり深く考える必要はないんじゃないか、相棒。

 

「でも海外だし、今はキミのことを調べることの方が先決だよ」

 

 そんな遊戯の心の内の闇遊戯が軽く返すが、遊戯の悩みは未だ晴れない。今、なにより優先すべきことがある事実が遊戯の苦悩を加速させる。

 

 

 

「どうしたんだ、遊戯? そんな難しい顔してよ」

 

 だが、そんな悩める遊戯の背に聞きなれた声が響いた。

 

「あっ、城之内くん。それにみんな」

 

 遊戯の背にいたのは城之内、本田、杏子の何時もの面々。何やら深刻そうな遊戯を見かねて力になりにきたようだ。

 

 そんな頼れる友人たちの姿に遊戯はポツリと己の悩みを零す。

 

「実はデュエルの大会の招待状が届いたんだけど、参加するかどうか迷ってて……」

 

「ん~? なんだよ、参加すりゃぁいいじゃねぇか?」

 

「でも開催地が海外なんだ」

 

「そっかぁ……海外だとちょっと気後れしちゃうわよね」

 

 そうして相槌を打った城之内と杏子と共に遊戯の悩みにどうしたものかと思案を巡らせるが――

 

「ん? んんんッ!? 遊戯! その大会、ひょっとしてこれのことじゃねぇか!?」

 

 何かに気が付いた本田が慌てた様子でデュエル雑誌を広げながらとある記事を指さす。

 

「ちょっと本田! アンタまた学校に雑誌なんか持ってきて……没収されても知らないわよ?」

 

「なんだ? 俺にも見せてくれよ――なになに……KCにI2社――とパラディウス社? は知らねぇけど、海馬とペガサス会長含め、えー、世界中が……此処はいいや」

 

 だが杏子の呆れ顔の注意も意に介さず、本田から雑誌をサッと手にした城之内が件の記事を音読していくと――

 

「えーと……全人類の中から最強……世界一を決める大会、ワールドグランプリ!?」

 

 中々に無視できない情報が舞い込む。

 

「真のデュエルキングを決める戦い!? 世界中のプロに留まらず、各国のチャンプが参加表明――って、キースも参加すんのかよ!?」

 

 そして興奮冷めやらぬ顔の城之内は皆に見えるように机に雑誌を開いておきつつ遊戯に詰め寄った。

 

「こんなもん参加するに決まってんじゃねぇか!」

 

 そもそも悩む必要がないだろう――それが城之内の結論である。デュエリストなら参加して当然ではないかと。だが、遊戯は小さく首を振る。

 

「でも、今はもう一人のボクのことに集中したいんだ」

 

「まぁ、城之内のやる気は置いておいてよ――そもそもの話、現デュエルキングのお前に『参加しない』選択肢があんのか?」

 

「? ボクは別に参加しなくても構わないけど」

 

「いや、そういうことじゃなくてだな……」

 

 闇遊戯の記憶の件を優先したいと語る遊戯に本田が「デュエルキング」の立場云々から踏み込むが、遊戯はいまいち理解に乏しい模様。

 

「確かに、あの海馬くんが許すとは思えないわね……」

 

「そ・ん・な・こ・と・よ・り!」

 

 そんな中、遊戯の悩みの解消の為に考えを巡らせる面々の間を断つように城之内が堪え切れない想いを零す。

 

「急になんだよ、城之内」

 

「――なんで俺には招待状が来てねぇんだよ!? バトルシティでベスト8にまで残った男、城之内サマに!」

 

「ベスト8止まりだからじゃない? アンタ、リッチーって人にかなり力負けしてたでしょ」

 

 そうして本田に先を促されるままに飛び出した城之内の魂の叫びだったが、杏子にバッサリと両断された。

 

「でも俺だってあの後、色んな大会で武者修行したんだぜ!? なぁ、本田!」

 

「つっても、何処も町内大会レベルの小せぇ大会ばっかだったしなぁ……」

 

 しかし「自分とて強くなった」とグイグイ行く城之内に反し、蛭谷と共に武者修行に付き合った本田からすれば些か「名を上げる」という観点からみれば不十分にも思えた。

 

 

 そもそも招待状が来るのは「プロ」レベルのデュエリストである。幾ら城之内の成長速度に目覚ましいものがあれど、アマチュアの身ではそう言った話は余程の話題性がなければ縁遠いと言わざるを得ない。

 

 

 だとしても、「はい、そうですか」と諦めるような男、城之内ではない。何事にも裏道や抜け道の類はある筈だと決意を新たに頭を回す。

 

「ぐっ……! ……こうなったら、俺もその大会に出るぜ!」

 

「あのねぇ……招待状も持ってないのにどうすんのよ……」

 

「そこは何とかすんだよ!」

 

「『何とか』って?」

 

「んぬぬ……そうだな。あー、あれだ、あれ! 参加者とっ捕まえてデュエルするとかよ!」

 

「それ、下手したら警察沙汰になるわよ……」

 

 そうして頭を回す城之内だが、その全ては杏子によってむべもなく一蹴された。流石に勢いしかないようなプランでは協力しようもない。

 

 頭痛を堪えるような杏子の仕草に呆れが見えるのは気のせいではあるまい。

 

 

「それならいい方法があるよ」

 

 だが、そんな一同の背後に救世主が現れる。その正体は――

 

「御伽!? 久しぶりじゃねぇか! ゲーム開発のなんかはもういいのか?」

 

 城之内が語るように御伽の姿。

 

 彼は自身が制作したゲーム「D(ダンジョン)D(ダイス)M(モンスターズ)」を世に広げるべく、一時的に休学していた頼りになる――かどうかはさておき――仲間の一人が舞い戻った瞬間であった。

 

 そんな御伽は城之内の悩みに光明を見出す情報を送るが――

 

「ああ、今は丁度フリーでね。それと静香ちゃんに城之内くんのこと頼まれちゃったし、良い機会だと思ってさ」

 

「んだとォ!? なんでオメェの口から静香ちゃんの名前が!?」

 

 城之内ではなく、関係のない本田が釣れた。

 

「あれ? 知らないの? この大会、『理論上は誰でも参加できる』んだよ?」

 

「マジかよ!? ……理論上?」

 

「この大会のコンセプトは『全人類の中から最強デュエリストを決める』――だから、僕たちみたいなプロデュエリストじゃない、一般の人間にも戸口は開かれているって寸法さ」

 

「でも『理論上』ってことはなにか条件があるのよね?」

 

 しかし、そんな本田(恋のライバル)の追及を華麗に躱した御伽の説明にパァッと顔を明るくしていく城之内だが、杏子の問いかけに難しい顔になった。

 

 あまり頭を使うことは城之内の得意分野ではないゆえに――だが、答えはシンプルである。

 

「勿論だよ。招待状を持たない人が参加するには各種施設で試練を突破する必要があるんだ」

 

「おお!」

 

「……!? まさかお前が静香ちゃんと会ったのって――」

 

 御伽の説明に手ごたえを感じる親友、城之内のことなど忘れてしまった様子の本田がグイッと前に出つつ予想したように――

 

「うん、その試練の時に偶然一緒になってね。勿論、僕も静香ちゃんも突破したよ――相手はかなり手強かったね。勝てたのは運が良かったよ」

 

 城之内の妹、静香と御伽が偶然出会ったのは一般参加者へ向けての戸口にてであった。

 

 その事実に、恋のレースに出遅れたことを知った本田の焦りが加速する。ゆえにその差を埋めるべく、城之内以上に話題に喰いつくが――

 

「くっ、出遅れたじゃねぇか!? おい、御伽! その各種施設って何処だ!」

 

「国際デュエル協会管轄の――いや、こっちより海馬ランドとかの方が僕たちには身近かな? そこで主催者側が用意したデュエルロボをデュエルで倒せば晴れて参加資格がゲットできるって仕組みだよ」

 

 余裕の表情の御伽から語られるのは何とも身近な場所。KC本社のある童実野町の人間であればかなり手軽だ。

 

「だったら、城之内くんなら大丈夫だね! じいちゃんも太鼓判を押してたし!」

 

「だよな! よっしゃぁ! 今日の放課後はみんなで海馬ランドに殴り込み――」

 

 となれば「今日の予定は決まった」と遊戯は小さく手を叩き、力強く握りこぶしを作った城之内も気合タップリに宣言――

 

 

 

「武藤 遊戯……」

 

「――だうぉおわっ!?」

 

 しようとした矢先に、城之内の背後からかけられた言葉の主の気配の「け」の字も感じなかった城之内は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

 やがて心臓を抑えながら息を整える幽霊の類が本当に駄目な城之内に代わり、遊戯が応対する。

 

「えっと……どうかしたの?」

 

 しかし件の音もなく現れた銀髪のツインテールの少女はジトーと暫く遊戯に視線を向け続けた後、遊戯が気まずさから視線を逸らそうとしたタイミングで視線を教室の出口へ向けてポツリと告げる。

 

「……お客さん」

 

 その少女の視線の動きにつられるよう視線を動かした遊戯たち一同の眼に映ったのは――

 

「お客さん? ――牛尾くん!」

 

 軽く手を振っている牛尾の姿であった。

 

「あっ、どうもありが――って、行っちゃった」

 

 そうして伝言役を買って出ていた少女にお礼を告げようとする遊戯だが、既に件の少女は自席に戻っており、相も変わらず虚空を眺めている。

 

「なんだよ、脅かせやがって……しっかし、無愛想なヤツだなぁ――つーか、アイツ誰だったっけ?」

 

「ちょっと城之内、クラスメイトくらい覚えときなさいよ」

 

「いや、つっても全然印象に残ってなかったからよ……」

 

 やがて驚きから立ち直った城之内が件の少女について思い出そうとするも、いまいち印象に残っていない様子。

 

「確か、あの子は『レイン(めぐみ)』さんだよ。定期テストで『平均点ピッタリ取り過ぎだ』って一時期カンニング疑惑で騒がれていた子だね」

 

「あ~、牛尾が奔走してたアレか」

 

 しかし御伽の説明に顎に手を当てていた城之内は思い出したと手をポンと叩き、納得すると同時に牛尾が合流したことで、件の少女の話題は終息し――

 

「よう、久しぶりだな遊戯」

 

「うん、久しぶり。ところで今日はどうしたの?」

 

「まぁ、此処じゃなんだから、面貸してくれや」

 

 一同の話題は牛尾の要件にシフトしたものの、その内実は教室で話す訳にはいかない模様。

 

 

 

 

 

 ゆえに御伽をハブり――もとい遠慮して貰いつつ、童実野高校の屋上に場所を移した一同。そんな中、早速とばかりに牛尾が要件を切り出した。

 

「もう招待状は届いてるだろ? そのワールドグランプリの件でちょっとな」

 

「うん、でも参加するかは迷ってて……」

 

「参加してくれ」

 

「えっ?」

 

「悪ぃがこいつは『お願い』じゃねぇんだ――『強制』……いや、『義務』って言いかえてもいい」

 

「でも、ボクは――」

 

「スマン。お前さんに拒否権はねぇんだ」

 

 しかし矢継ぎ早に繰り出される牛尾の言葉は何処か有無を言わせない様相を感じさせ、遊戯も思わず後退る。

 

「おい、牛尾! 急になんだよ! 確かにスゲェ大会だけどよ。だからって遊戯の意思、無視して無理やり参加させるようなモンじゃねぇだろ!」

 

「そうだぜ、牛尾。らしくねぇじゃねぇか」

 

 だがそんな遊戯の肩に手を当てつつ、城之内と本田が援護に回り、場の雰囲気に剣呑なものが見え始めるも――

 

「ちょっと待ちなさいよ、二人とも。怒るのは分かるけど、まずは牛尾くんの事情を聞いてからでも遅くはないでしょ?」

 

「そうだね。牛尾くんはどうして急にこんな話を? 了承できるかは分からないけど、出来る限り力になるよ?」

 

「助かる」

 

 杏子が間を取り持ったことで遊戯の気持ちにもワンクッション置けたことで、一先ず場が荒れることは回避された。

 

――ちっとばかし急ぎ過ぎたか……でも事が事だからなぁ。そもそも、なんで俺にお鉢が回ってくんだよ……

 

 やがてそんな内心と共に頭を軽くかいた牛尾はこんな重大な件を年若い自身に任せた上司に恨みがましい感情を向けつつ順序立てて説明を始める。

 

「まず、お前さんはデュエルキングだ」

 

「う、うん……でも、それはもう一人のボクが勝ち取ったもので――」

 

「まぁ、そうなんだが――世間様には、その辺りのこたぁ関係ねぇんだ」

 

「うーん、確かにそうよね。私たちはある程度事情を知っているから大丈夫だけど、他の人は簡単に信じられないでしょうし……」

 

 そう、最後に杏子が零した(オカルト関連)が問題だった。

 

 確かにバトルシティの中で激戦を潜り抜け、デュエルキングの称号を得たのは「名もなきファラオの魂」――所謂、闇遊戯だが、その身体は「遊戯」のものだ。

 

「『戦わない』なんてことが許されねぇ立場にある」

 

 ゆえに「遊戯」には牛尾が評したように「デュエルキングとして生きること」が「強制」される立場にある。

 

 そう、真のデュエルキングを証明する大会であるワールドグランプリに「参加しない」という選択肢はそもそも存在しない。

 

 とはいえ、誇りを捨てて、無理を通せばその道から抜け出すことは可能だろう。とはいえ、一人のデュエリストとして遊戯にそんな選択が取れるとは思えないが。

 

「そういう事情があるなら、参加するのは構わないけど……」

 

「安心しな。手間取らせる分、ちゃんと報酬はある。取り合えずコレは挨拶代わりだそうだ」

 

 やがておずおずと参加の旨を伝えた遊戯に牛尾が差し出したのは一枚の紙。

 

「これって……」

 

「なんだ、この紙切れ? 遊戯、ちょっと見せてくれよ」

 

「うん、良いよ、本田くん」

 

 その紙を何処か不思議そうに眺める遊戯から、本田がその紙の正体を確かめるように一同の元に晒せば――

 

「紙? ……小切手よね? 初めて見た」

 

「デュエル協会から、お前さんにだ」

 

 その正体はアッサリと判明した。小切手ことマネーである。

 

「おいおい、めちゃくちゃ0が並んでんじゃねぇか!? しかも円じゃねぇぞ!? ドルだ!」

 

「ドル!? ドル…………ドルだと、どうなるんだ?」

 

 しかし記された金額が問題だった。本田のたまげたリアクションに対して、反射的に反応した城之内だったが、いまいち驚く材料が分かっておらず牛尾に縋るような視線を向ける。

 

「……相場が違ぇから、『円』表記より高ぇ金額になる」

 

「おいおい、だったらペガサス島での大会の時よりスゲェじゃねぇか! 優勝したら、こんな貰えんのかよ!?」

 

「いや、『参加したら』だ」

 

「へっ?」

 

 サラッと語られた牛尾の説明に城之内もようやく理解が及び、及び過ぎて今度は目が点になった。本田もあまりの事態にポカンと口を開けている。

 

 そこにあるのは参加権を求める城之内との圧倒的な対応の差……! 格差……! 格差社会……!

 

「予選で負けようが、参加するだけで『遊戯』はこんだけの金が手に入る」

 

「ゆ、ゆ、優勝した場合……は?」

 

「ほれ」

 

 更に恐る恐ると言った具合に情報を求めた本田に示される牛尾の手元の端末のモニターには優勝者に贈られる莫大な賞金と、様々な副賞が立ち並ぶ。

 

 それらは「こんなに貰ってどうすんだ?」と思ってしまう程の代物。だが当然である。デュエルが全てに関わる世界において、世界最強デュエリストの座に付随する名誉が安い訳がないのだ。

 

「ゆ、遊戯……か、返す。こ、こんなモン持ってたら、正直生きた心地がしねぇ……」

 

 やがて本田は自身が軽く持っていた物の恐ろしさに震えた手で小切手を遊戯に返す。破れでもしたら弁償の事態に――などと天元突破した心配が恐怖を駆り立てていた。

 

「うん――後、牛尾くん、これ返すね」

 

 だが、遊戯はそれ(小切手)をアッサリ牛尾に返す。

 

「ん? どうした? ソイツはお前さんの好きに――」

 

「大会には参加するよ。でも悪いけど、これをデュエル協会の人に返しておいて欲しいんだ」

 

「そうか……お前さんらしいな」

 

 牛尾も僅かに突っ返そうとするも、遊戯の言葉に多くを語らず引き取った――が、まだこれで終わりではない。

 

「――つってもタダって訳にはいかねぇ。こっちにもつまんねぇメンツの問題もあるんだわ」

 

「でも、ボクは――」

 

「分かってる。分かってる。つーわけで、こっちだ」

 

 小切手の代わりに差し出された物はまたしても紙――だが、今度は4枚ある。

 

 それを受け取った遊戯が内容を確認すれば、そこにあるのは――

 

「エジプト旅行の手配?」

 

「北森の嬢ちゃんから聞いたんだが、墓守の一族が管理してい『た』古代エジプトの石板に用があるんだろ?」

 

 旅行券の存在。神崎の仕込みだ。

 

「4人分となると、飛行機代だって馬鹿にはならねぇ筈だ。それにガイドやら、文化遺産の開示の許可やら色々入用になる――コイツはその辺の諸々の手配だな。お前らも行くんだろ?」

 

「当ったり前じゃねぇか! もう一人の遊戯のことなんだぜ! 行くに決まってんだろ!」

 

「まぁ、つーわけでだ。コイツは俺らからのお節介ってことで受け取っちゃくれねぇか?」

 

 牛尾の問いかけに即答する城之内の姿を余所に困り顔で頼む牛尾の姿と、自身の手元のチケットを交互に見やった遊戯。

 

――まあ、それくらいなら良いんじゃないか、相棒。これ以上、牛尾を困らせる訳にもいかないだろ?

 

「うーん……分かったよ」

 

 だが、その心の内の闇遊戯の言葉に困ったように頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして遊戯たちへの野暮用を片付けた牛尾は一同と別れ、童実野高校を後にしようとするが、その背に声がかかる。

 

「牛尾 哲」

 

「おん? どうしたよ、レイン――またテストで変なことでもやらかしたか?」

 

 その正体であるレイン恵ことレインの姿に牛尾は茶化す様に先を促すが――

 

「――話がある」

 

「……只事じゃねぇみてぇだな」

 

 レインの何時もの無機質な視線ではなく、しっかりと牛尾を見据える眼光に牛尾は内心で小さく覚悟を決めた。

 

 

 






~入りきらなかった人物紹介~

レイン(めぐみ)
ゲーム、遊戯王タッグフォースシリーズに登場。

外見はシリーズ事に微妙に異なるが、現在は「銀髪ツインテールのジト目」で固定されている。

冷静で口数少ない女学生であり、居住地、経歴なども一切不明の謎多き人物。なお猫好き。

学内での成績や体力測定などは全て平均値ピッタリを取るという離れ業をこなす。

――と色々細かな人物像はあるものの、ゲーム内での立ち位置は所謂「モブキャラ」。

此処からはゲーム版のネタバレになってしまうのであしからず。








――にも関わらず、「イリアステルが未来から送り込んだデュエルロイド(ロボット)」というトンでもない背景を持つ。


その主な役割は身体の限界が近いZ-ONEの目となり耳となること。

TFSPではDM時代にて登場する為、恐らく歴史の特異点(原作主人公)たちを影ながら観測・監視していたと思われる。


今作では――

その重要過ぎる立ち位置から色々出番を控えている者たち(ネオスとか)を押しのけ登場。

上述した通り、原作主人公である武藤 遊戯をクラスメイトの立場から観測・監視している。

――ものの、神崎が歴史改変のアレコレの波が大きすぎたゆえに現在の歴史を正確に観測できていない為、本来の歴史との齟齬が把握できていない。
(5D’sにて三長官に疑問を持っていなかったセキュリティ職員と同様の状態)

童実野高校では他者との関わりを最低限に留め、目立たぬように任務に準じていたが、平均値ピッタリの点数を取り続けたゆえにカンニングを疑われ、逆に目立ってしまう結果を生んだ。ポンコツェ……

なお牛尾との関係性はその一件の際に牛尾がお節介を焼いたことから生まれたもの。





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