マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
本田「城之内……デュエルロボは、あいつは……恐ろしいカードを持っている……」

(城之内が対戦した)( ◇ ◇)(デュエルロボ)「今こそ驕り腐った人間共に天誅を下せ! 天を穿つ光の嵐! 魔法発動! 《 ラ イ ト ニ ン グ ・ ス ト ー ム 》!!」

城之内「エスパー絽場が言っていた恐ろしいカードはコイツのことだったのか!」

ミラフォ「参加資格獲得の試験デッキは情報アドバンテージの観点から、同じものは存在しません」





第163話 決戦の地へ

 

 

 囚人たちのサバイバルトーナメントは苛烈を極めながらも一人、また一人と数を減らしながら続いていき、敗退したものは眼前に広がる勝ち残った囚人たちの潰し合いにヒートアップしていく。

 

 

 だが、そんな楽しい時間も最後まで勝ち残った二人の囚人のデュエルが佳境に入れば、勝利の女神が何方に微笑むのかと固唾を呑んで見守り始めた。

 

 

 

 しかし、その互いのフィールドの差は歴然。

 

「この瞬間、《黒魔導師クラン》の効果発動! キミのモンスターの数×300ポイントのダメージを与える!!」

 

 頭頂部が寂しくとも周囲と髭がもっさりヘアーのドクターコレクターのフィールドには黒いゴスロリチックな服装の小さな少女が鞭で威嚇するように地面を叩く《黒魔導師クラン》のみ。

 

《黒魔導師クラン》 攻撃表示

闇属性 魔法使い族

攻1200 守 0

 

 対する目つきの悪い長髪の男――百野(ももの) 真澄(ますみ)のフィールドは3体のモンスターの姿が立ち並ぶ。

 

 

 幾重にも積み重なった骨の集合体の鬼である《龍骨鬼》が、《黒魔導師クラン》が打ち鳴らした鞭の音にサッと百野への道を開くように脇に退き、

 

《龍骨鬼》 攻撃表示

星6 闇属性 アンデット族

攻2400 守2000

 

 皮膚を剥したような骨と黒い腐肉がむき出しの《ゴブリンゾンビ》がそれに追従した。

 

《ゴブリンゾンビ》 攻撃表示

星4 闇属性 アンデット族

攻1100 守1050

 

 そんな二体のモンスターの様子を百野の後ろで佇むヤギの角を持つ死人のような青白い肌の死神を思わせるドレスを纏った《死の(ジェネレイド)ヘル》が憐れみの視線で見下ろしていた。

 

《死の(ジェネレイド)ヘル》 守備表示

星9 闇属性 アンデット族

攻 800 守2800

 

 ドクターコレクターの魔法使いたちを「魔法使い族を破壊する効果」を持つ《龍骨鬼》やコントロールを奪う《パペット・プラント》で削ってきた百野だが、その表情は苦虫を嚙み潰したように険しい。それもその筈――

 

 

「馬鹿な……この私が……こんな……アイドルカードに固執するような男に……!!」

 

 既に百野のライフは500しか残っていない。そして《黒魔導師クラン》の効果によって生じる900ポイントのダメージを防ぐ手立てがない。

 

 

 100のデッキを持つ男と呼ばれ、その中から最適なアンチデッキを用意し、勝利を重ねてきた百野からすれば、アイドルカード――所謂、自身の好みに走ったドクターコレクターにこうも翻弄される事実は、これ以上ない程に屈辱だった。

 

「さぁ、行くんだクラン! お仕置き(ご褒美)の時間だ!!」

 

「くっそぉおおおおおッ!!」

 

 やがて百野の身体へ《黒魔導師クラン》の振るう鞭が襲いかかり、何処かの業界ではご褒美なのだろうが、百野からすれば唯々屈辱的な一撃がその身を打ち据えた。

 

百野LP:500 → 0

 

 

 そうしてデュエルの終了と共にソリッドビジョンが消えていく中、長い髪が地面につくほどに項垂れる百野にドクターコレクターは伸びたあご髭をさすりながら得意気に零す。

 

「100のデッキを持つと評されたキミも、私のデッキには対応できなかったようだね」

 

「私のアンチデッキは完璧だった筈だ!」

 

 百野はドクターコレクターの趣味全開のデッキから「魔法使い族に偏っている」という性質を見抜き、魔法使い族メタデッキで挑んだが、それが全ての間違いだった。

 

「策に溺れたな。愛なきデュエルで私を屠れるなどとは思わんことだ」

 

 ドクターコレクターの新たなデッキはビートダウン(攻撃主体)コントロール(行動阻害)ロック(行動制限)――そのいずれも加味された「明確な弱点を極力排除したデッキ」……悪く言えばごちゃまぜのデッキ。

 

 そう、アクターとのデュエルで自身のカードを守り切れなかったことを悔やみに悔やんだゆえに「次こそは守り切ってみせる」と再構築された――

 

 まさに愛するアイドルカードに全てをかけた男の叡知の詰まったデッキ!

 

「くっ、こんなふざけた男に……!!」

 

 とはいえ、地面へと悔し気に拳を落とした百野からすれば、眼前のむさいおっさんのキャピキャピ全開な趣味など理解しようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて百野が独房に戻された後、この監獄でのサバイバルトーナメントデュエルを生き残ったドクターコレクターが別室に案内されれば、その勝利を祝う様に軽く拍手しながらダーツが歩み寄る。

 

「おめでとう。見事なデュエルだったよ」

 

――よもや彼が早々に敗退するとは……とはいえ、罪悪感と迷いを抱えたまま勝ち抜けるものでもないか。

 

 だが、その胸中では優勝候補筆頭だった罠使いの男が敗れた事実に意識が向いていたが。

 

「止してくれないかね。私は見え透いた世辞など求めていない」

 

「これは手厳しいな。ならば実りのある話をしよう。これで晴れてキミも参加権利を得たも同然な訳だが、参加する上で条件――いや、約束事がある」

 

 そんなダーツの胸中を読んだようなドクターコレクターの声に、ならばと早々に話を進めていくが――

 

「ふっ、あの大会に挑めるのなら大抵の条件は呑も――」

 

 

「キミはデュエルキングにはなれない」

 

 

 些か以上に聞き逃せない単語がドクターコレクターに届いた。

 

「……詳細は話してくれるんだろうね?」

 

「何、簡単な話だ」

 

 此処に来て初めて眉をひそめ顔を歪めたドクターコレクターの胸中を評するのなら「騙したのか」といったところか。

 

 だが、ダーツからすればそんな気は毛ほどもない。詳細を話す前に囚人側が勝手に盛り上がっただけである。ゆえに悪びれた様子もなくダーツが語るのは――

 

「キミが大会を勝ち進み続けたある段階で『不正があった』旨が明かされる」

 

「成程ね。囚人が脱獄し、不正に大会に参加し、イカサマでもしていたと言い張る訳か――断れば?」

 

「キミは参加権を得ながらも『犯罪者がこの大会に参加すべきではない』とその権利を破棄した扱いになる」

 

 デュエリストにとって夢の舞台に上がる代償に卑怯者の謗りを受け入れるか、

 

 夢の舞台を英断を以て諦め、デュエリストの誇りと矜持を守るか、

 

 その二択。

 

「……飴か、鞭か、悩みどころだね」

 

「フッ、感じ方は人それぞれだろう。さて――」

 

 ドクターコレクターにとってどちらが「飴」か「鞭」かは定かではないが、ダーツは決断を急かすように再度問う。

 

「デュエリストとしてこれ以上ない程の不名誉を受けるか」

 

 もっとも――

 

「我が身可愛さにデュエリストの誇りを捨てるか」

 

 犯罪者に態々「飴」を用意してやる義理もないが。

 

「どちらでも好きな方を選ぶと良い」

 

 用意したのはガス抜きの場(監獄内でのデュエル)と鞭である。いや、咎か。

 

――どうする。

 

 だが、ドクターコレクターが思い悩むのはその二択に関してではない。

 

 そう、彼は名誉を求めている訳ではないのだ。誇りも「罪人」である以上、論ずる立場にいない。彼の懸念はただ一つ。

 

――私がデュエルキングに近づき邪魔になれば、彼は現れるだろうか。

 

 脳裏に過るは己を終わらせたデュエリスト(アクター)の姿。

 

 

 光有る場所に、表の世界には決して現れず、粛々と闇に生きることを選んだ虚構(裏世界)頂き(王者)

 

 

 犯罪者がデュエルキングの称号を手にすれば、きっとアクターが処理に動くと考え、参加を狙ったドクターコレクターだが、ドーマが提示した条件で己の願いが叶うのか。その一点が問題だった。

 

――相手はドーマのトップ。刺客は最上の者を用意することは明白。となれば必然的に声がかかり易いのは……

 

 だが、そこまで思案した段階でドクターコレクターは思考を打ち切る。

 

――いや、来なければ刺客の全てを返り討ちにしていけば、何時かはヤツが動く。

 

「…………良いだろう。どの道、あの時に終わる筈だったこの身。悪魔に売り渡そうとも惜しくはない」

 

 来ないのならば、向こうから来ざるを得ない状況を作ればいいのだと。

 

「豪胆なことだ」

 

 そんなやり取りを得て、デュエルロボへと挑みに行く闘志に満ちたドクターコレクターを見送ったダーツ。

 

――やっぱり参加するのか……まぁ、二、三戦すれば敗退していくだろうから、そこまで気を張ることでもないか。

 

 だが、その内心では中々に酷いことを考えていた。

 

 

 とはいえ、ダーツの中の人の神崎からすれば、ドクターコレクターは「十分な事前準備が行えなかった『アクター()程度』に負ける存在」という認識が強い為に仕方のない側面もある。

 

 神崎がデュエリストに求める水準がヤベェの(遊戯クラス)であるゆえの弊害であろう。

 

 

 ドクターコレクターの明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで月日はサラッと流れ、ワールドグランプリの開催間近に迫った空に星空が輝く夜、海馬はKCの屋上にて腕を組みつつ形状記憶コートをはためかせながら仁王立ちしていた。

 

 なにやってんだ、海馬――と思われるかもしれないが、海馬とてこの状況は不本意なものである。

 

「ふぅん、会合の場としては不適切極まりないな」

 

 なにせ、こんな場所を待ち合わせ場所に指定されたのだから。

 

――神崎……あの男とて、この状況で俺をたばかろうとは考えんだろう……

 

 しんしんと輝く月夜の元、雲一つなく、ヘリの一つも飛んでいない空を眺めながら海馬は心の内でひとりごちる。

 

 

 そう、海馬は神崎経由でアクターとの会合をセッティングしたのだ。

 

 なお神崎からは「アクターは辞職しました」との説明を受けたが、そんなもので納得する海馬ではない。どうせ神崎ならば後々利用すべく連絡手段は確保している筈だと詰め寄ったゆえに今の状況がある。

 

「つまり始めからこの俺を待たせる腹積もりだったとは……良い度胸だな、アクター」

 

 しかし未だにヘリの一つも見えなければ、アクターの到着に時間がかかることは明白。

 

 待たされるのは嫌いな方である海馬からすれば中々に苛立ちもしよう。自身が無理を通した状況でなければ、踵を返すところだ。

 

 そして海馬の胸中にて、このままアクターが来なかったら、神崎をどうしてやろうかと考え始めた頃――

 

「要件は何だ」

 

 その海馬の少し離れた後方から声が響いた。

 

「――ッ! 貴様……何時からそこにいた」

 

 そこにいたのは何処からともなく現れたアクター。

 

 黒い衣服が風に揺れ、なんかコートがカッコよくはためく姿は、相変わらず威圧感タップリだ。

 

「その問いが要件か」

 

 海馬の驚愕の声に対し、アクターは短く返すが、その内心では「呼び出しておいて驚くのかよ」などと益体もないことを考えていた。

 

 

 とはいえ、海馬が驚くのも無理はない。屋上に通じる階段の類は押さえ、空への警戒も怠っていなかった中で背後を取られれば「驚くな」と言う方が無茶であろう。

 

 

「ふぅん、そんな訳がないだろう」

 

 だが海馬はそんな内の動揺を一瞬で消し去り、不敵に笑みを浮かべる。

 

 海馬の要件はただ一つ。裏世界の王者と揶揄される程のデュエリストが――

 

「アクター、ワールドグランプリに参加しろ。貴様程のデュエリストが埋もれたままというのは我慢がならん」

 

「断る」

 

 速攻で断られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。ならば良い」

 

 しかし海馬の精神は揺るがぬままにアクターを見据えていた。

 

「要件は終いだ。何処へなりとも行くがいい」

 

 そうして暫し視線を交錯させた――といっても、アクターはフルフェイス越しだが――後、僅かに瞳を閉じた海馬は踵を返してこの場を後にする。

 

 いや、しようとした。

 

「俺がすんなりと引いたのがそんなに意外か?」

 

 海馬の足を止めたのは、要件が済めば風のように消えると思っていたアクターが未だにその場を動いていなかったゆえ。

 

 それゆえに思い当たる節を並べた海馬だが、アクターからの返答はなく、その場に佇んだままだ。なおアクターの内心でコクコクと頷いているが余談である。

 

「動かないところを見るに図星か」

 

 そんな相手の胸中など知らず小さく息を吐く海馬――とはいえ、バトルシティでの一件を思えば、そう思われても無理はない。

 

「貴様が頑なに表舞台に上がることを拒み、裏の世界に留まる理由など、先を望む(全速前進する)俺には知ったことではない」

 

 やがて振り返りつつ、語り始めるのは海馬の美学の問題。

 

「だが、デュエリストにはデュエリストの数だけ、それぞれロード()があることも真理」

 

 海馬は己がロードを何より重要視する。己が突き進む先、その先にこそ自身が求めるものがあるのだと。

 

「モクバにも、遊戯にも、……凡骨(城之内)にも、無論BIG5の老いぼれ共にも、そして…………あの(神崎)にも――俺には少々気に食わん(ロード)だがな」

 

 しかしデュエリストの数だけ(ロード)があることも海馬は当然理解している。

 

「その幾重ものロード()は時に交錯し、時に並び立ち、時に反発する」

 

 いや、数えきれぬ程の(ロード)の存在こそが海馬を駆り立てるのだ。

 

 

 闇遊戯と激しくぶつかり合う闘争(デュエル)による充足感。

 

 モクバと肩を並べ、己が夢を追い求め、叶えること(世界海馬ランド計画の実現)へと突き進む一体感。

 

 パラディウス社をいつの日かKCが追い抜き、凌駕した瞬間に訪れるであろう達成感。

 

 

「だが何処まで行こうとも、己のロード()は己だけのものだ。そこには己が意思だけが介在する」

 

 そのどれもが海馬一人のロード()では満たされぬもの。

 

「俺とて貴様のロード()を捻じ曲げてことを成そうなどとは思わん。そんなものに意味はない」

 

 ゆえに海馬には他者のロード()へ最低限のリスペクトが存在する。

 

 それは海馬が普段から凡骨だ何だと評している城之内であっても、「無駄な足掻きだ」と返すことはあれど「無駄だから止めろ」とは強制しない。

 

「貴様と俺のロード()は終ぞ交わることはなかった。ただ、それだけの話だ」

 

 それ(他者のロード)を強制し、捻じ曲げることを許容してしまえば、眼前に広がるのは何処まで行っても己の想像を超えない「つまらない世界」だけだ。

 

 ゆえに裏切者感溢れる神崎ですら、海馬はリスペ――放置する。己が喉元に牙を突き立てんとするのならば返り討ちにするまでだ、と。

 

「少し喋り過ぎたか……」

 

 そうして己がロード()への想いを語り切った海馬は思わぬ程に胸の内を晒す結果に、小さく舌を打つ。何の反応も返さないアクターでは語り損に感じよう。

 

「邪魔をしたな」

 

 やがて今度こそ踵を返し、立ち去る海馬。

 

 しかし、その心に僅かばかりの失意の影が落ちた気がしたのは果たして、気のせいだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海馬 瀬人」

 

「――なんだ?」

 

 だが、その海馬の背をアクターから思わずと言った具合に零れた言葉が止める。

 

 これ以上、何を論ずるのかと顔だけ振り向く海馬に暫しの沈黙と共に告げられたのは――

 

 

 

 

「デュエルは楽しいか?」

 

 

 

 海馬が想定すらしていなかった言葉。だが、それに返す言葉など海馬は一つしか持ち合わせていない。

 

 

「ふぅん、愚問だな」

 

 

 是以外に返す言葉があるものかと。

 

 

「そうか」

 

 その言葉を最後に吹き荒れた突風に海馬の眼がくらんだ僅かな瞬間にアクターの姿はかき消えていた。

 

 

 

 

 かくしてデュエリストと、デュエリストになれなかった者の(ロード)は交わることなく、その会合(接近)を終える。

 

 

 今後も様々な(ロード)と共にその生涯を突き進む海馬に対し、

 

 (アクター)(ロード)は何処かもの寂しさを感じるものとなるだろう。

 

 

 だが、いつの日かそんな彼に並び立つ(ロード)を持つ者が現れるかもしれない。

 

 数えきれない人の数だけ(ロード)は存在するのだから。

 

 

 

 

 

 それこそが、きっと彼の救いになることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 またまた別の日、KCのオカルト課のロビーにて牛尾はワールドグランプリの開催地であるアメリカに出発する前にツバインシュタイン博士に個人的に頼んでいた要件に関して念押ししていた。

 

「つーわけで博士――後日、俺の知り合いが見学に来ますんで、案内頼みます」

 

 それはレインのKC見学の話。牛尾とて頼まれた自身が案内するのが筋だとは思ったのだが――

 

「ええ、了解しました。しかし……ワールドグランプリの真っただ中に見学に来るとは変わった方ですな」

 

 レインが、牛尾が外せない用事(ワールドグランプリの参加)のある日時を指定した為、ツバインシュタイン博士に頼む他ない状況になったゆえだった。

 

 

 牛尾も他の日時ならば幾らでも――と何度も提案したが、レインは頑なだった。

 

 

 ワールドグランプリ程の大きな大会ならば普通は現地まで行かなかったとしても、テレビ観戦などで共に盛り上がるもの。

 

 にも拘らず、その最中を態々指定して会社見学を要望する人間などツバインシュタイン博士にすら「変り者」と揶揄されても仕方がない。

 

 

「まぁ、良くも悪くもマイペースなヤツなんで、お祭り騒ぎを前に『はしゃぐ』タイプじゃないんすよ」

 

 しかし自身の後輩をマッドな変人と同列に扱われてはあんまりだ、と牛尾はフォローを入れるが――

 

「それに『変り者』ってんなら、博士だってそうでしょうに」

 

「変り者であることは否定しませんが、私とて一人のデュエリストですぞ――まぁ、参加資格は少々逃してしまったとしても、テレビ中継くらいは見ますよ」

 

 僅かに眉をひそめて肩をすくめてみせたツバインシュタイン博士の言い分に牛尾も小さく乾いた声を漏らす。相手の普段を知るだけに急に常識人振られても反応に困るのだろう。

 

「そうっすか……ああ、それと変なとこ案内しねぇでくだせぇよ。唯でさえオカルト課は変なもんが多いんすから」

 

「おっと、心外ですな。流石に私とて機密に関わるような場所は見せませんぞ」

 

 ゆえに釘差しのやり取りを最後に空港へと向かうべく踵を返した牛尾と、見送りがてらに手を振ったツバインシュタイン博士。

 

 

 だが、そんなツバインシュタイン博士の見送りを受けた牛尾は思う。分野は違えども同じ所属なのだから「変なものが多い」ことは否定して欲しかった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワールドグランプリの開催地、アメリカにまでやってきた遊戯・城之内・杏子・本田、そして保護者の双六は出迎えてくれた双六の親友アーサーと、その孫レベッカの案内の元で海馬ランドUSAに訪れていた。

 

 そこはKCが生み出した夢の国。ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車などの定番は当たり前、文字通りありとあらゆるアトラクションを網羅した遊園地。

 

 後日、ワールドグランプリの会場となる決戦の地である。

 

「ハハッ!」

 

 そこでメタリックな兎――《ゼンマイラビット》の着ぐるみが風船片手に手を振る姿を余所にレベッカは遊戯の手を引き、快活に声を張る。

 

「此処が海馬ランドUSAよ! アトラクションの数と規模じゃ世界一なんだって、ダーリン!」

 

「おもしろそうね! 遊戯も――」

 

「今度、二人でデートに来ようね!」

 

 だが自身のことなどそっちのけで遊戯をエスコートするレベッカの姿に杏子は僅かに頬を引きつらせるが、此処は年上の余裕を見せるべきだと小さく息を吐く。そう、優先すべきは友情だと。

 

「……い、今は先のことより、みんなで楽しみましょ! ねぇ、城之内や本田もそう思――」

 

「うわっ! やっぱりある!」

 

「むっちゃ動いてんな……あの工場長のおっさんの仕事か?」

 

 だが、話題を振った城之内も本田も海馬ランド名物である《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の銅像が自分たちの動きに合わせて獲物を狙うように台座の上で姿勢を変える姿に夢中であった。

 

 ブルーアイズ好き(海馬)の心を放さない憎い演出(ファンサービス)である。

 

「ハハ……レベッカが済まないね。あの子もみんなとの再会を楽しみにしていたんだ」

 

 ゆえに何とも言えない苛立ちと、もどかしさを抱えていた杏子だったが、申し訳なさそうなアーサーの声に矛先を失う。

 

「そうじゃな。今日は主催者側が用意した参加者が大会前に英気を養う一日――色々下調べしてくれとった二人のナビは心強いぞい」

 

「そうだぜ、杏子。大会参加者と同伴一名は好きなだけ遊んで良いんだからよ! 絶叫マシン乗りまくろうぜ! なぁ、本田!」

 

「おう! ――って、そろそろ聞いときたいんだが……」

 

 そうして杏子含めた一同は気持ちを切り替え――ようとするが、本田には少々気になることがあった。それは――

 

 

「ハハッ! キング ハ 1人、コノ ボク ダ!」

 

 

「アレってなんなんだ?」

 

 風船片手に人差し指で天を差す《ゼンマイラビット》の着ぐるみの姿。

 

 日本の海馬ランドにはこんなロボ兎はいなかった筈だと《ゼンマイラビット》の着ぐるみを指さす本田にアーサーは朗らかに告げる。

 

「あれは海馬ランドUSA発祥のNEW(新たな)マスコットキャラクター『ラッビー』くんだね。『(キング)』と呼ばれる程にデュエルが得意なんだ」

 

 そう、これはアメリカに海馬ランドを設立する際に「日本と同じでは芸がない」と主に日本で活動する海馬の眼を盗――んだ訳ではないが、BIG5たちが各々の手を加えた影響ゆえ。

 

 このラッビーくんもその一つである。

 

「えっ? 『ミッ――」

 

「『ラッビー』くんだ。良いね? 間違えてはいけないよ」

 

「お、おう」

 

「その誕生にはペガサス会長が直々に関わったのも相まって、カイバーマンに次ぐ人気者でね」

 

 城之内の言い間違いを珍しく厳しい声色で修正したアーサーはやがてそんな険しさなどなかったように説明を続ける横で――

 

「風船 ガ ホシイカ~イ? ナラ競争ダ~!」

 

 子供の風船欲しさと遊んで欲しさが混ざった「まてー!」との声を背に大地を駆けるラッビーくん――結構早い。

 

「追ワレルッテノ ハ 気分ガ イイ……ボク ガ キング ナノダト 実感デキル……」

 

 そうして怪我をさせないように子供を引き付けつつ、尚且つ決して追い付かせない華麗なダッシュを見せながら、「こいつ(ラッビーくん)風船を渡す気あるの?」と思える言葉を優越感交じりに零すラッビー。

 

 カイバーマンといい、もけもけ軍団といい、海馬ランドには一風変わったやつ(イロモノ)が多い。だが、これは仕方のないことなのだ。

 

「なんであんな性格なんだよ……」

 

「カイバーマンの濃過ぎ――インパクトに負けない為らしいよ」

 

 そう、思わず零れた本田の呟きに返されたアーサーの説明が全てを物語っていた。

 

 最初のインパクト(カイバーマン)に負けないような、そして埋もれないような――圧倒的な個性(キャラ)の強さが必要なのだ。3000打点くらいのパワーが。

 

 

 

 

 

 

 

 かくして張り切るレベッカの案内の元、一同が案内されたのは海馬ランドUSA内のドームの一つ。その内部には――

 

「ダーリン! 此処が私のオススメよ! やっぱりデュエリストなら一度は此処に来ておかないと!」

 

「ここは……」

 

 巨大なデュエルリングが鎮座し、その一方に少年が、もう一方にはモノアイを光らせるワールドグランプリ参加券獲得試験でおなじみデュエルロボが設置されていた。

 

「デュエルロボとの対戦が可能なデュエル場よ! 参加資格取得の時とは違って、レベル変更が可能だから最高レベルを試せるわ! とんでもなく強いのよ!」

 

「へぇー、凄いところなのね」

 

 感嘆の声を漏らし興味津々な遊戯に確かな手応えを感じるレベッカ。そして取り合えず置いていかれないように相槌を打つ杏子。

 

 そう、此処はデュエリストたちの修練場とも言うべき場所。誰もが思ったことがある筈だ――世界的な実力を持った相手とデュエルしてみたいと。

 

 此処は間接的にそれを叶えてくれるデュエリストにとっての夢の場所。

 

「どのくらい強いんだ?」

 

「名のあるプロでも勝つのが難しいくらいだよ。だから、ほら――最高レベルに勝った時には賞品が出る」

 

「ふむ、丁度あの少年も最高レベル……の2段下のレベル10に挑んでおるようじゃの」

 

 興味あり気な城之内の声にアーサーと双六が視線を向ければ、その先には某小さくなった名探偵のような服装の前髪を中央で分けた茶髪の少年が蝶ネクタイの位置を直した後でデッキ片手にデュエルリングへと歩を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時と舞台は少々様変わりし、ヨーロッパのシュレイダー家の執務室にて何故かバスローブ姿のジークがノートパソコンの前で不敵な表情を見せていた。

 

「初代デュエルキング武藤遊戯に、この男は……フッ、おもしろい」

 

 その視線の先の画面にはハッキングした監視カメラの映像が流れており、ジークの語るように遊戯と何やら話している大柄の男の姿が見える。

 

「まさかこの場にこれ程のデュエリストが二人も居合わせるとは、運命のいたずらか、女神の気まぐれか。フフフ……本当の幕が上がるまでのよい余興になる」

 

 やがて愉快気に何処からか取り出した一輪の薔薇の香りを楽しむように顔の前で揺らしたジークはキーボードを片手でタップすると――

 

「まずは、ほんの挨拶代わりだ」

 

――海馬 瀬人。この程度はクリアして欲しいものだ。

 

 その瞬間、ノートパソコンの画面に慌ただしく文字列が奔る中、ジークは己がライバルと見定めた海馬がどう反応するかを思い描き、薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

 






(ノ∀`)アチャー



Q:リシドが負けたってことはドクターコレクターより弱いってこと?

A:単純な実力云々だけではなく、リシドの罪悪感などからなる精神状態が芳しくなかったなどの副次的な要因で惜しくも敗退してしまった状態です。

早い話が、運命力の低下による敗北。



~今作オリジナル(マスコット)キャラ紹介~
ラッビーくん

BIG5が発案した海馬ランドUSA発祥のNEWヒーロー。
なおその誕生にはペガサス会長が手ずから関わっている。

正義感が強いが、普段は紳士的でありつつも何処かお茶目で陽気な性格。

デュエルの時は普段らしからぬ熱い側面も垣間見せる。

特技はデュエル。(キング)と評される程にデュエルが得意。エースは《ラビ―ドラゴン》。


打倒カイバーマンを掲げているが、彼のエースカード《ラビ―ドラゴン》ではどう足掻いても攻撃力が50ポイント届かない。でも守備力は勝っている(負けず嫌い)

モデルは某有名なネズ――ペガサス会長の愛読するコミックのキャラクター、ファニーラビットだよ! ハハッ!ʅ(´◓౪◔`)ʃ



~一瞬だけ出てきた人物紹介~
百野 真澄(ももの ますみ)
特別読み切り編で登場――本編とは関係ないが、遊戯王Rにて掲載されている。

ロン毛の眼つきの悪い男。100のデッキを所持している。

カードショップを潰す為、デュエルでレアカードのアンティと売上金を頂戴する「ストア・ブレーカー」と呼ばれるグループのリーダー。(仲間は舎弟と思しき2人のみ)

戦術は100のデッキの中から相手の苦手なデッキをぶつけるもの。三沢のデュエルスタイルに近い。

原作では双六の店を狙った際に色々あって闇遊戯と三幻神を賭けてデュエルした。結果は言わずもがな闇遊戯の勝利に終わる。

そのデュエルの際に《テュアラティン》を使用。遊戯のデッキを「闇属性」と判断したゆえの属性メタチョイスらしいが、闇遊戯の闇鍋デッキに対してあまり意味がないと思うのは作者だけなのか……


~今作では~
「ストア・ブレイカー」の行為が普通に犯罪行為な為、国家権力(お巡りさん)に逮捕される。

デュエル犯罪に対する部署が出来たばかりということも相まって、百野からすれば「全く知らない相手」をメタれる訳もなく、プレイングで食い下がるも、運悪くデッキ相性が悪かった為、敗北。

作者もそのデュエルを描写しようか考えるも「モブポリスVSマイナーキャラ」の対戦カードが誰得過ぎたのでカット。

今回は「ワールドグランプリ」の参加権利を賭けて囚人たちがデュエルを勝ち抜くも、ドクターコレクターのデッキ愛の前に敗北。



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