マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
親方! 空からペンギンが!!




第165話 終わりの始まり

 

 

 ペンギン伯爵の永続魔法《水舞台(アクアリウム・ステージ)》を利用した疑似的な戦闘耐性にリックは攻めあぐねている。

 

 しかし一方のペンギン伯爵はリックの永続魔法《平和の使者》により、攻撃できない点を《カタパルト・タートル》によって補っていた。

 

「うーむ、互いに防御寄りのデッキだね。だが、ペンギン伯爵の《カタパルト・タートル》の存在があの少年には痛いところだ」

 

「そうじゃな。早いとこ除去カードを引くか、デッキに戦闘以外でライフを削る術があると良いんじゃが……」

 

 やがて完全に観戦モードに移行した老人二人。

 

 そして周囲の少年少女もペンギン伯爵を応援したり、少年リックを応援したりと、先程までの停電騒ぎなど忘れてしまったように眼の前のデュエルに熱中している。

 

 

 

 

 だが、リックのライフは残り後850にまで減少し、もはや風前の灯火。

 

 このままでは毎ターン維持コストとしてライフを100払う必要がある今までリックを守ってきた永続魔法《平和の使者》の維持もままならない。

 

「うぅ……もうダメだ……」

 

 そんな絶体絶命のピンチに心が折れそうになるも辛うじてドローし、メインフェイズ1に移行したリックだが、その心には諦めの色が淀んでいた。

 

 

 しかし、そんなリックにラフェールの声が届く。

 

「リック、手札とフィールド、そして墓地を見渡してみるんだ。そこには可能性が眠っている」

 

「……可能性?」

 

「ああ、キミのカードたちも最後まで戦う意志を見せているよ」

 

 そう、ラフェールには既にリック少年の勝利の道筋が見えていた。後は「それ」にリックが気付くか否か。カードたちも、その瞬間を今か今かと心待ちにしていることだろう。

 

「ボクのドラゴンたちが……あっ!」

 

 そうして今、引いたカードに目を向けたリックが気付いたその一手に一か八かだと勝負に出た。

 

「ボクは《スピリット・ドラゴン》を召喚!」

 

 青い外殻を持った蛇のように長いドラゴンが頭の横から伸びる翼を広げ、いななく。

 

《スピリット・ドラゴン》 攻撃表示

星4 風属性 ドラゴン族

攻1000 守1000

 

「バトル! 《スピリット・ドラゴン》で《ペンギン・ナイトメア》を攻撃! そしてその瞬間、効果発動! ボクの手札のドラゴン族を捨てることで、《スピリット・ドラゴン》の攻撃力・守備力は1000アップする!」

 

 《スピリット・ドラゴン》が翼を広げて、甲高い声を漏らせば――

 

「ボクは《プチリュウ》・《ベビードラゴン》・《暗黒の竜王(ドラゴン)》・《カース・オブ・ドラゴン》の4枚のドラゴンを捨て、この効果を4回発動! これで4000ポイントのパワーアップだ!!」

 

 手札のドラゴンが自身を霊――スピリットに変換され、勝利の為にと《スピリット・ドラゴン》に溶け込むように一体となっていき、その身体が淡い光を灯す。

 

《スピリット・ドラゴン》 攻撃表示

攻1000 守1000

攻5000 守5000

 

 一気に5000ものパワーを得た この攻撃が通り、「戦闘ダメージ」を与えることができれば、残りライフ2000のペンギン伯爵を倒せるだろう。だが――

 

「おっと、忘れたのですか、私のフィールドの永続罠《スピリットバリア》の存在を!」

 

 ペンギン伯爵のフィールドに永続罠《スピリットバリア》が存在する限り、ペンギンたちがフィールドに存在する限り、ペンギン伯爵に戦闘ダメージは与えられない。

 

「ボクが手札からカードを捨てたことで、永続罠《強制接収》の効果でペンギン伯爵には手札を捨てて貰うよ!」

 

「ほほう、狙いは手札破壊でしたか……ですが少々遅かったようですな。既に私のフィールドは盤石ですぞ!」

 

「それはどうかな! 此処で永続罠《魔力の棘》の効果だ! 相手が手札からカードを捨てる度に500ポイントのダメージを与える!」

 

 だが、リックの狙いはその先にこそあった。そう、これにて勝利の方程式は整った。

 

 やがて氷の大地をスレスレでグライドするように飛行して《スピリット・ドラゴン》がペンギンたちに迫り――

 

「ボクは《スピリット・ドラゴン》の効果で4枚捨てたから、それをトリガーに永続罠《強制撤収》でペンギン伯爵の4枚の手札を墓地へ!」

 

「ペェン!? しまったぁ!?」

 

「これで永続罠《魔力の棘》の効果で合計2000のダメージ! ボクの勝ちだ!!」

 

「ぬわぁあぁああああぁああっ!?」

 

 やがて《スピリット・ドラゴン》が通り過ぎた際に生じた突風によって宙に舞い上がったフィールドと手札のペンギンたちが、ペンギン伯爵に激突していった。

 

ペンギン伯爵LP:2000 → → 0

 

 

 

 

 

 

 

 そのデュエルの一部始終をヨーロッパのシュレイダー家の執務室にて眺めていたジークは吐き捨てるように零す。

 

「よもやハッキングを受けたデュエルリングを破壊するとは……品のないことだ」

 

 自身のハッキングに対し、海馬がどんな知略を巡らせてくるのかと楽しみにしていたジーク。

 

 だが蓋を開ければ、問題の対処に動いたのはジークが精神的な疲労で倒れた父に代わり暫定的な代表を務めるシュレイダー社に手を出そうとする目障りな神崎であったこと、

 

 更には解決手段が知性の欠片すら感じられない「野蛮」と称する他ないものだったこと、

 

 他にも理由は多々あるがジークの挨拶代わりの一手は満足のいくものではないゆえの苛立ち。

 

――ふん、よくも海馬はあんな男を傍に置いておけるものだ。あまり失望させないで欲しいな。

 

「折角の余興が台無し――ん? ほう、此方を突きとめようとするか。しかしこの手口は海馬……ではないな。多少は腕に覚えがあるようだが――」

 

 だが、目の前のノートパソコンに外部からのサイバー攻撃――いや、反撃というべきか――がなされたことを瞬時に把握したジークはそんな苛立ちを脇に置き、すぐさまコンソールに指を奔らせた。

 

 

 そうして電子上の戦いがなされるが、全てはジークの手の中と言わんばかりに撃退されていく。

 

 自信家な面がありありと見えるジークだが、その自信を持つだけの腕は十二分にあるのだ。ただ――

 

 

 

 

『我が主! 見えておりますか? この男と、この男が使う「ぱそこん」とやらを見ていろとのことでしたが、何やら数字が山のように動きまわっておりますぞ!?』

 

「この程度で私の元に辿り着けるなどとは思わないことだ」

 

『この男も何やら悪い顔をしておりますが、この「ぱそこん」とやらはワタシには何がなんだか分からないんですYO! ――えっ? 分からなくても良いから見ておけ? 了解だYO!』

 

 ジークの背後でテンション高めに炎の身体を揺らしながら事の成り行きを見守るシモベの存在――オカルト的な存在――には、これっぽっちも気付いていなかった。

 

「――たわいない」

 

『ん~? 数字が収まりましたね……全く面妖な……』

 

「フッ、少々予定からは外れたが、挨拶代わりの一手はまた別に用意するとしよう」

 

 そうしてゆっくりと席を立ったジークはワールドグランプリの前夜祭への準備に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 状況証拠は押さえられたが、物的証拠はまだない! だから早いとこ復讐は諦めるんだ、ジーク!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は海馬ランドUSAに戻り――

 

「ハハッ! ウケトルガイイ!」

 

「わーい!」

 

「つぎ、わたしー!」

 

「キング ノ ファンサービス ハ、エンターテインメント デ ナケレバ ナラナイ!」

 

 デュエルリングのあるドームからハッキングによるトラブルなどなかったとばかりに少年少女たちにカードパックをプレゼントする《ゼンマイラビット》の着ぐるみ――ラッビーの姿があった。

 

 その隣にはカードパックの入ったカゴを持つペンギン伯爵の姿もある。

 

「神崎さん……あれって……」

 

「此処に来る道中で『今回の騒動用に』と買っておいたカードパックです。皆さんもどうぞ」

 

 ふと遊戯が零した疑問に営業スマイルたっぷりで返す神崎。これはどうみても――

 

「これで有耶無耶にする魂胆か……」

 

「これが大人のやり口か……!」

 

 本田と城之内の言う様に「ハッキング騒ぎなんてなかった――いいね?」な具合でこの場の表面上は終わらせようとする考えが透けてみえる。

 

 だが、「トラブルに巻き込まれ、怖い思いをした」より「イベントの演出でドキドキしたけど、最後は楽しかった」の方が良いことは城之内たちとて分かる為、ほじくり返す気もない。

 

 それに加え――

 

「アーサー、何が出た?」

 

「おいおい、双六。そんなケチ臭いこと言わずに『せーの』で見せあおうじゃないか」

 

「うむ、そうじゃな!」

 

「 「 せーの! 」 」

 

「ぬ!? そのカードは!? 《さまようミイラ》!?」

 

「そう言えばキミのデッキは地属性のリバースデッキだったな。なら、そっちのカードと交換でどうだい?」

 

 追及する立場にいる大人――というか老人二人が、袖の下に一喜一憂していた。そして互いにカードをトレードし、ムフフとほくそ笑む。

 

「よし! このカード、《竜魔導の守護者》で私のデッキは更に柔軟性を増す――双六、敵に塩を送る結果になってしまったね」

 

 そう語るアーサーのデッキ――《キャノン・ソルジャー》の効果で《黒き森のウィッチ》をリリースして次弾を用意するスタイルは新たなステージを迎える。

 

「ふっ、それはどうじゃろうな。儂とて――」

 

 ゆえに友であり、ライバルでもあるアーサーと双六がバチバチと火花を散らすが――

 

「ねぇ、おじいさん! そのカードとボクのカード、トレードしようよ!」

 

「こら、ジュリアン!」

 

「ほっほ、いや構わんぞい。トレードはデュエリストの交流じゃ」

 

「わたしのカードも!」

 

「僕も!」

 

「おっと、順番だよ」

 

 段々と双六とアーサーの周りに少年少女が集まり、次々とトレードの願いが交わされる様はどこかお祭りのようだ。

 

 

 そこには子供心を忘れない老人たちの姿がある。とはいえ、遊戯たちからすれば、もう少しの間だけでも大人な部分を見ていたかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして一騒ぎが収まった後、海馬ランドUSAを思う存分楽しんだ遊戯たちは、「デュエルキングのエスコート」として遣わされたモクバの案内の元、前夜祭の会場に訪れていた。

 

「うわ~人がいっぱいだ」

 

――でも……

 

 そう、感嘆する声を漏らす遊戯だが、その内心にて陰りを見せる。それもその筈――

 

 

 

 

「デュエルキング様のご登場か」「まだ子供じゃないか」「いやいや、デュエルに年は関係ありませんぞ」「闘志の欠片もない顔だねぇ」「可愛らしい顔してるじゃないか」「デュエルの時には人が変わるって噂ですぜい」「ふぅん、ようやくお出ましか」「あれがデュエルキングねぇ……」「我が弟もいずれはあの領域に至って貰いたいものだ」「何を言う兄者! アイツは最初に覚えた言葉が『ドロー』だったデュエルの申し子だぞ」「フッ、そうだったな」「スンゴイ覇気をビンビン感じるノーネ」「世間を知らないガキだろう?」「お友達ごっこが楽しい年頃さ」「無知であればこそ都合が良いじゃないか」「金のなる木……か」「だが、キース・ハワードに負けたのだろう?」「なに、あの年でベテランクラスと考えれば将来性は十分以上だろう」「デュエル界での影響力は無視できない程だ」「孫娘でもけしかけてみるかね」「止せ止せ、海馬の眼がある」「あの青二才が……!」「その青二才を侮って痛い目を見たのは何方だったかな?」「私を下に見るのはよせ!」「そういえばKCがアレ(ドーマ)に目を付けられたんだろう?」「先んじてデュエルキングにすり寄ったゆえだとか」「それだけの理由で?」「確かに、キースすら無視したアレが何故、今になって……」「アクターに逃げられたからじゃないか?」「あぁ、それで」「彼は良くも悪くもバランサーでしたからなぁ」「あの若造の……確かロードでしたかな?」「それ、それ、ロード、ロード」「ロード途切れちゃったねぇ」「傲慢なのは彼の方だったな」「彼はもう終わりですね」「明日は我が身ですな」「くわばらくわばら」「どうした相棒?」『クリィ……』「変な気配がする? じゃあ後で神崎さ――」『クリリッ!』「相変わらず苦手なんだな……なら姉さんに相談してみるよ」「表の王者様のお手並みは如何ほどでしょうな」「いずれわかるさ。いずれな」「価値の有無はこの大会の結果如何でしょうよ」「運だけの男ではないと期待しましょう」「でも唾を付ける程度はしておきたいわね」「今はまだ私が動く時ではない」「お友達へのご挨拶くらいなら」「将を射んとする者はまず馬を、と言いますし」「姑息な手を……!」「それの何がいけないのかな?」「『馬』ねぇ、金魚のフンの間違いじゃないかい?」「馬でもフンでも構わないさ」「そうそう」「利用価値の有無が問題さね」「首輪になりそうなのは誰かねぇ」「おいたも程々にされたら?」「そうですなぁ」「墓守のお嬢さんの二の舞は……ねぇ」「ククク、あれの末路は嗤えましたなぁ」「家族も忠臣も一族の誇りも根こそぎですから」「同情するぜ!」「いやぁ、あれだけでは我らの気は済みませんぞ」「同感ですな」「イラッとくるぜ!」「それはもう」「出た死人の数を考えれば甘い、甘い」「よくもまぁあの程度で済んだものだ」「それっておかしくないかな?」「確かにおかしいですな」「噂では決闘王様のお慈悲があったとか」「優しい人のようデアール」「『優しい』ねぇ」「お友達が死んでも同じ言葉が吐けるのかなぁ?」「フッ、無自覚な悪か」「何を仰る」「善悪などどうにでも出来ましょう」「好きにさせて置けばいい」「それもそうですなぁ」「一番の問題は誰が王冠を管理するのか」「これこれ、人聞きの悪い」「猫を被るでない」「始まりが嘘だろうと、辿る結果は同じだろう」「いやいや、耳障りは重要ですぞ」「世間体は必要ですからなぁ」「いや、待て――今の段階であの男を引き込みアイツの師とすれば……!」「ッ!? 流石は兄者! それならば――」

 

 

――これは視線が痛いよ。

 

 この場の誰もがデュエルキングに向けて値踏みするように視線を向け、遊戯に聞こえぬ声量でヒソヒソ話している。

 

 とはいえ、おおっぴらにジロジロみるのではなく隠すようなものだが、人数が人数である為、気休めにもならない状態だ。

 

 だが、そんな視線など慣れたように気にしないモクバは遊戯に会場の趣旨を明かす。

 

「此処は参加者の集まる前夜祭の会場の一つだぜい――こういった場所が他にもいくつもあるんだ!」

 

「こんなドでけぇドームにいるヤツ、全員が!?」

 

「多分、私たちみたいな人もいるでしょ?」

 

「それに世界中が注目してるからマスコミも大勢いるぜい!」

 

 驚く本田に杏子がモクバの説明から周囲を見わたせば――

 

「あっ、ミホもいる。インタビューしてるのは……御伽く――」

 

「ギースさんと、神崎さんも向こうにいるね。仕事中かな?」

 

「キースはいねぇか?」

 

「パッと見た感じじゃ見当たらねぇな。静香ちゃんもいねぇし……あっ、御伽だ」

 

 そうして周囲の見知った顔を探し始める遊戯たち――それは、大会にてライバルになるかもしれない存在を見定めるデュエリストの本能ゆえか。

 

 そんな中、遊戯は前回見た時よりかなり収まった火傷の痕のある顔の赤いタキシードの男に駆け寄った。

 

「あっ、パンドラさん!」

 

「これは武藤 遊戯。あの時の御恩はなんと言えば――」

 

「いいんです、気にしないでください。ボクが勝手にしただけですから……」

 

「……感謝の言葉もありません」

 

 その火傷顔の男は「パンドラ」。かつてマリクに洗脳され、グールズにて捨て駒として扱われていた悲劇のマジシャン。

 

 そのパンドラが恩人だと深々と頭を下げる姿に遊戯は慌てた様子で身体の前で手を振り、「なんでもない」と返す。そう、遊戯は感謝を強請りにきた訳ではない。

 

 遊戯の要件は再会を喜ぶことと、パンドラのその後が気掛かりだったゆえ。

 

「そうだ! カトリーヌさんとは会えたんですか?」

 

「まだ手紙のやり取りだけです。この大会での私の姿をカトリーヌに見定めて貰おうと――何時までもKCのお世話になる訳にもいきませんから」

 

「えっ? パンドラさんって今KCにいるんですか?」

 

「ええ、ですがカトリーヌとの件が終われば結果はどうであれ、マジシャンとして再び世界を渡っていきたいと考えております」

 

「そうですか……頑張ってくださいね!」

 

「はい、貴方から受けた恩も必ずお返ししますので……」

 

「そ、そこまで気にしなく――」

 

 徹頭徹尾、己が受けた恩義を如何にして返すかと神妙なパンドラを、遊戯はどうしたものかと考えるが――

 

 

「 「 久しいな、遊戯殿! 」 」

 

 そんな遊戯に中華服を着たスキンヘッドの兄弟が鏡合わせのポーズと共に現れる。

 

「迷宮兄弟さん!」

 

 彼らは迷宮兄弟。バトルシティにて遊戯の窮地に馳せ参じたタッグ戦に秀でたデュエリストだ。

 

 そして額に「迷」の文字が書かれた、橙色の中華服を着た迷宮兄弟の兄が腕を組みつつ、チラと城之内に視線を向けた後、遊戯へと向き直る。

 

「その様子を見るに友の危機には間に合ったようだな」

 

「はい! あの時は助けて貰って、ありがとうございます!」

 

 あの時、感謝を伝えることが出来なかったと、元気よく礼を述べる遊戯に額に「宮」の文字が書かれた緑色の中華服の迷宮兄弟の弟が兄に目配せしながら返す。

 

「いやいや、我らは依頼のままに動いただけに過ぎん――なぁ、兄者」

 

「如何にも、既に依頼主から報酬を受け取った身――オヌシの感謝はありがたく貰い受けるが、それ以上は受け取れぬ」

 

「そんな……」

 

 なにやら先程の遊戯とパンドラのやり取りを焼き増ししたような光景が広がる中、迷宮兄弟の兄が手をポンと叩きながら提案した。

 

「ふむ、遊戯殿の気が済まぬというのなら……此度の大会で相まみえた時、全力でぶつかり合う――それを礼として受け取ろうではないか」

 

「おお、名案であるな、兄者!」

 

 そんな兄の提案に迷宮兄弟の弟もオーバーに同意して見せる。そんな迷宮兄弟の姿に遊戯は自身とパンドラのやり取りを見て、助け舟を出しにきたことは容易に想像できる。なれば、返す言葉は一つしかない。

 

「……はい、その時は全力を尽くしましょう! ……そうだ! パンドラさんもそれがボクへのお返しってことにしませんか?」

 

「そのような……いえ、此処はお言葉に甘えさせて貰います」

 

 やがて僅かに逡巡を見せたパンドラだが、根負けしたように遊戯の言葉を受け止めた。

 

 

 かくしてビシッと動きをシンクロさせながら去って行った迷宮兄弟と、最後に小さく会釈して場を離れたパンドラを見送った遊戯に、城之内はビュッフェ形式で振る舞われた料理を皿に山盛り乗せながら問う。

 

「アイツら……ムグムグ……知り合いみてぇだったが、誰だ?」

 

「バトルシティの時にお世話になった人たちだよ」

 

「へぇー、そうなのか」

 

 なのだが、バトルシティにて城之内が巻き込まれた騒動の関係者だというのに、当人は完全に他人事だった。

 

 とはいえ、本人のあずかり知らぬ場での面々であれば、仕方のない話だろう。

 

「城之内~!」

 

 そうして見知らぬ顔ばかりの会合だったが、自身を呼ぶ聞きなれた声に城之内の意識は其方へ大きく向かう。

 

「おおっ、舞じゃねぇか! やっぱお前も来るよな!」

 

「あったりまえじゃないの――バトルシティのリベンジを果たさせて貰うわ!」

 

 そうして合流した孔雀舞とハイタッチしつつ、再会を喜ぶが――

 

「あ~っ!」

 

 その二人の横を黄色いチャイナドレスを着た髪を二つのお団子頭にした「The 中華」な女性が通り過ぎ、遊戯の元へ詰め寄った。

 

「ユウギ ムトウね?」

 

「は、はい……」

 

「やっぱり! うれし~い! お会いしたかったわ~!」

 

 グイグイと迫られ引き気味の遊戯の両手を包むように握り、一方的に親睦を深めようとするチャイナドレスの女性はやがて更に顔を近づけウィンクしながら名乗る。

 

「私、ヴィヴィアン・ウォン。よろしくね?」

 

 彼女、「ヴィヴィアン・ウォン」は中国出身の拳法家であり、同時にデュエリストでもある女性だ。さしずめ拳法デュエリストと言った所か。

 

 風の噂(御伽の情報)では華麗なタクティクスでアジアの大会を総ナメにした――といった前評判を持ち「九龍(クーロン)の熱き花」こと「アジアのデュエルクィーン」と称される程のデュエリストである。

 

 なお、「デュエルクィーン」と言ってもデュエルは男女差のない競技の為、特にデュエルキングと関係する訳ではない。「強い女性デュエリスト」くらいの意味である。

 

 

 そんな具合で顔を近づけウィンクするヴィヴィアンの姿に思わず遊戯も赤面――こうもアグレッシブにアプローチする「年上」の女性への免疫がないのだろう。

 

「アナタみたいな有名なデュエリストにお目にかかれてうれしいわ。この大会ではライバルだけどプライベートでは仲良くしてね~」

 

「 「 お~っ! 」 」

 

 さらに遊戯へ送られた熱いハグに黄色い声を上げる城之内と本田。一方で――

 

「ちょっとアナタ! 私のダーリンに――」

 

「あら……あれは海馬社長! ステキ~!!」

 

 レベッカが怒りの声を上げようとするが、それよりもヴィヴィアンが海馬の方へと駆けて行く方が早かった。

 

「何あれ……」

 

 嵐のような行動力に思わず杏子がそう零すのも無理からぬ話だろう。

 

「……世界は広いな、城之内」

 

「……そうだな、本田」

 

 やがて未だに顔を赤くしている遊戯を余所に本田と城之内が羨ましそうな声を漏らすが――

 

「鼻の下、伸ばしてんじゃないわよ」

 

「痛ェ!?」

 

 諫めるように城之内の頬をつねる孔雀舞によって一先ずはこの場の騒動は終着を見せた。

 

 

 

 

「舞さーん!」

 

「ゲッ……!?」

 

 かに思われたが、白いタキシードの長身のアメリカンな伊達男が孔雀舞に駆け寄る姿にレベッカは女性にあるまじき声を漏らす。

 

「ちょっといきなり…………誰?」

 

「お久しぶりです、舞さん。約束通り貴方を迎えに来ました」

 

 サッと孔雀舞の手を取り、己の顔すら覚えられていない事実など気にも留めずに伊達男――ハリウッドスターある「ジョン・クロード・マグナム」はキザなセリフを並べて見せる。

 

 ここで孔雀舞と同様に「この人、誰?」と思った方もいよう。だが、実は今作でもバトルシティにてちょびっと登場している。

 

 そう、マグナムをゲンナリした表情で見やるレベッカが予選にて対戦した忍者デッキの男だ。

 

 原作でもパズルカードを5枚集める程の実力があり、実際のデュエルの腕も孔雀舞を追い詰めたりと中々のもの。

 

 ゆえにワールドグランプリの参加券をギリギリもぎ取れたのだが――

 

「……人違いじゃないの?」

 

「ノォー! 舞さん、私との約束、忘れてしまったのですか!?」

 

 当のマグナムはデュエルキングの称号ではなく、孔雀舞にご執心だった――ある意味スゴイのではないだろうか。

 

 やがて暑苦しい程に真っ直ぐ見つめるマグナムの視線に孔雀舞が過去の記憶を巡らせる。眼前の男がこうまで言うのだ。何らかの因縁があることは明白であろう。

 

「約束? ……約束……約束!? ひょっとしてアタシがディーラーやってた時の――」

 

そういうジョーク(プロポーズ)はデュエルに勝ってからにして欲しいわね』

 

 思い出されるのは過去に己が口にした言葉。

 

 それは嘗て、孔雀舞が豪華客船にてディーラーを務めていた時、マグナムをデュエルであしらった後にそのデュエルを切っ掛けに惚れ込んだマグナムが孔雀舞へと婚約指輪と共に送ったプロポーズへの返事。

 

「Yes! この大会でアナタにデュエルに勝って結婚をOKして頂きます――100万年も待たせませんよ?」

 

「あぁ、そういうこともあったような……」

 

 だからこそ「デュエルの腕を磨いたのだ」とウィンクしながら言外に語るマグナムだが、孔雀舞の様子から彼女にとって彼が有象無象の一人に過ぎなかった様子がありありと見える。悲しい話だ。

 

「今更なかったことに――ってのは可哀想だし……いいわ。その勝負受けて上げる」

 

「オー! 本当ですか!?」

 

「じゃが、大会の規模を考えれば、二人が戦う機会すら怪しくはないかの?」

 

 それゆえなのかマグナムの挑戦を受け取った孔雀舞だが、言葉を挟んだ双六の言う様にワールドグランプリの膨大な参加者の中から特定の人物と早期にデュエルできる確率など語るまでもないだろう。

 

 しかし、そんなものはマグナムにとって何の問題もない。

 

「それはノープロブレム! 私がこの大会で優勝し、デュエルキングとなれば、それは舞さんに勝ったに等しい――そうでしょう?」

 

「確かに、理屈の上ではそうなるわね……」

 

 世界最強の称号、「デュエルキング=孔雀舞より強いデュエリスト」の愛の超理論の前では些細な問題だ。

 

 そんな具合で、完全にデュエルキングの称号を「ついで」扱いしている有様だが、「愛する人の為にデュエルキングになる」――そう文字にすると、なんだか素敵に見えてしまうのは愛が成せる奇跡なのか。

 

「おい、急に誰だテメェ! 優勝は俺たちだって狙ってるんだぜ!」

 

 ただ、その辺の事情を一切把握していない人間からすれば、唯の「デュエルキングを甘くみるような言葉」でしかないゆえに城之内は噛みつくようにマグナムに詰め寄った。

 

「ソーリー、すまなかったね、ボーイ――待ち焦がれた麗しの華の前で少々舞い上がってしまったんだ」

 

「…………ん? あっ……! あ~!? ジョン・クロード・マグナム!? うぉ、本物だ! ハロー、ハウ、ドゥ、ユー、ドゥー」

 

 詰め寄ったのだが、相手の正体が自身が大ファンのB級映画「忍者ヒーロー」シリーズの主演を務める男だと気づき、手をシャツで拭いて綺麗にした後に握手を求める。

 

「ミーはユーの『忍者ヒーロー』シリーズのベリーベリーファンで……」

 

「おっとそうだったのかい、嬉しいね。お詫びと言っては何だが、サインの一つでも――」

 

「グッド! グッド! ベリーグッド!」

 

 これには身構えていたマグナムも肩の力を抜き、何処からか取り出したサイン色紙にペンを奔らせた。そんな姿に城之内も大満足の模様。

 

「城之内……お前、恋敵相手になにやってんだよ……」

 

 ただ、そんな本田の呟きが、遊戯たち一同の心の内を代弁していた。彼には、城之内には恋の駆け引きは少々早かったようだ。

 

 

 そんなマグナムが、サインをプレゼントする姿に、「今なら」と水色のシャツにセーターと半ズボンの少年が勇気を出して遊戯の名を呼ぶ。

 

「遊戯さん!」

 

「あっ、キミは確かデュエルロボの時の……」

 

「はい! 『レオンハルト・フォン・シュレイダー』っていいます。『レオン』って呼んでください! 後……サインいいですか?」

 

 そうして自己紹介の後におずおずとサイン色紙を両手で差し出す肩口程に伸びた紫の髪を後ろで縛った少年、レオン・ウィルソン。

 

 その正体は「シュレイダー」の名から分かるように「ジークフリード・フォン・シュレイダー」の弟だ。遊戯の大ファンでもある。

 

 ちなみに「デュエルロボ撲殺事件――海馬ランドUSAに響くペンギン伯爵の叫び」に巻き込まれつつも、リックを応援していたが、余談である。

 

 

 今の今まで、憧れの遊戯と話しかけるタイミングを見計らっていたレオンだが――

 

 

 次代の全米チャンプと呼ばれるラフェールや、

 

 突如として起こった停電騒ぎ(知らぬ間に兄が起こしたサイバーテロ)

 

 果てはペンギン伯爵の登場(その火消し)に、

 

 なんかKCのお偉いさん(神崎)

 

 パンドラや迷宮兄弟の存在(インパクトの強い人たち)と、

 

 あれやこれやと状況が目まぐるしく変化した為、今の今まで話かけることが出来なかったのだ。

 

 

「うん、構わないよ」

 

――サインも手馴れてきたな、相棒。

 

――よしてよ、もう一人のボクまで……

 

 やがて快くサインを書く遊戯と、それを茶化す闇遊戯を余所にレオンは幸せの絶頂にいるかのように楽し気だった。

 

 

 

 

 

 かくしてデュエリストたちや、関係者の様々な思惑や目標を渦巻かせる中、そのピリピリと闘志が響き合う空気に満足気な海馬が、磯野の耳打ちに水を差されたかのように返す。

 

「一名遅れているだと? 規定時刻にまで到着しなければ失格にしろ」

 

「はっ」

 

 それは参加者の一人が未だ、いくつかある前夜祭の会場の何処にも姿を現していないゆえ。その為、磯野に最悪の場合を告げるが――

 

「失礼、ジークフリード・フォン・シュレイダーだ。ご招待ありがとう。そして久しいな、ミスター海馬」

 

 その遅れていた参加者、ジークフリード・フォン・シュレイダーことジークが赤いバラを片手にさっそうと登場し、海馬と視線を合わせる。

 

――フフフ、海馬。ようやく私たちが相まみえるときが来た。その号砲代わりにこうして直接キミに挨拶するのも悪くない。

 

 その心には「遂にこの時が来た」と闘志を露わにしていたが、その横で――

 

『我が主~! 貴方のシモベめが戻りましたよ~!』

 

 ジークについてきていたこの場の大半の人間に知覚されることのない炎の悪魔、「シモベ」が「万丈目帝国」などと言う謎の野望に耳を傾ける神崎の元に駆け寄っていた。

 

「……揃ったのなら前夜祭開始の宣言をしろ、磯野」

 

――あの男、俺を知っているような口ぶりだったが……誰だ?

 

 そんなこんなで海馬の疑問を余所にワールドグランプリの前夜祭は幕を上げ、お祭り騒ぎの始まりを告げる。

 

 

 多くの思惑、闘志、運命が交錯する中でデュエリストたちは果たして何を得るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオン、手遅れになる前に早く兄をぶっ飛ばすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前夜祭が海馬のマイクパフォーマンスなどで盛り上がる中、その喧噪から離れたバルコニーらしき場所にて神崎は小型の端末にて通話していた。

 

『神崎、時限式ウィルスとのことだが、本当にあるのか?』

 

 その通話相手はBIG5の《機械軍曹》の人こと大田であり、内容は今後ジークが起こすであろうハッキングなどのサイバー攻撃への対処。

 

 神崎が原作でのジークの動きを知るとはいえ、既に本来の歴史から歪みが見えている以上、ジークが同じように動くとは限らない。それゆえなのだが――

 

「なければそれに越したことはないんですけどね」

 

『いや、他ならぬお前が言うんだ。あるんだろう』

 

「この手の問題は昔から皆さんに任せっきりで……私にも何か手伝えればとは思うのですが」

 

 結果の方はあまり芳しくない。BIG5の《機械軍曹》の人こと大田の信頼の声にも神崎は力なく返す他ない。

 

 それもその筈、神崎には冥界の王の力を利用できようが、深い専門的な知識と感覚が必要な部門については文字通り無力なのだ。

 

 初回のサイバー攻撃の際はスピード解決の為にデュエルリングを物理破壊したが、そこには力技で解決する他なかった側面も少なからず存在する。

 

『そう心配するな。今のところ下手人の方が一枚上手だが、逆を言えば、KCから一枚上手を取れるヤツは限られとる』

 

 そんな何処か言葉に陰りが見えた神崎にBIG5の《機械軍曹》の人こと大田が朗報……とまではいかずとも、良い知らせを送りつつ――

 

『だから大下のヤツにそっちを当たるように頼んでおいた。ヤツの人脈なら何か見つけてくるだろう』

 

 頼りの同僚――BIG5の《深海の戦士》の人こと大下が突破口になるとの言葉に神崎は声を取り繕いつつ冗談めかして返す。

 

「なら、私はパラディウス社に泣きついておきます」

 

『ハハハ、そりゃぁ良い! とはいえ、パラディウス社も恥を晒しかねん状況ではそう大きくは動かんと思うぞ』

 

「駄目なら駄目で他のアテを頼ることにしますよ」

 

『そうか。まぁ、儂も出来れば海馬のヤツにも協力を頼みたいところだ。ヤツの腕は確かなことは儂も認めとる――しかし立場上、今、そこから離れる訳にもいかんのがなぁ』

 

 そうして結構、天才に類されるジークの八つ当――もとい、野望を挫く為、おっさんたちは日夜頑張り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで太陽がぐるっと日時を回し、今やワールドグランプリの開始を告げる開会式が海馬ランドUSAのドームにて行われていた。

 

 そんな中、檀上に立ったモクバがマイクスタンドの前に立ち、各種アトラクションに散らされた多くの参加者に向けて宣言する。

 

「これより真のデュエルキングを決める大会――ワールドグランプリを開催するぜい!」

 

 すると会場のモニターにトーナメント表の略図がいくつも現れ――

 

「今大会のルールはいたってシンプル! 世界中から選りすぐられたデュエリストが各ブロックに分かれトーナメントを闘い、各ブロックごとを勝ち抜いたデュエリストたちで再度トーナメントを組み、最後の一人になるまでデュエルする!」

 

 前夜祭にて説明されたワールドグランプリのルールが世界中の観客に向けて簡易的に説明された。

 

「そして最後に勝ち残ったデュエリストこそが、真のデュエルキングだ!!」

 

 だが、その内実はデュエリストたちが闘志をぶつけ合い、最後に残った1人が王の座に至る。たったそれだけ。

 

 あまりのシンプルさゆえに一切の誤魔化しが通用しない。くじ運で勝ち上がろうにも、層の厚さがその運否天賦を敗者として地に墜とす。

 

 そう、ワールドグランプリにおいて二番手、三番手など意味はない。

 

 頂点以外の全てが敗者――残酷なまでに決闘王(デュエルキング)とそれ以外を分かつ為の舞台。

 

 

 

 その事実を言われずとも感じ取る各種アトラクションに散らされたデュエリストたちが息を呑む中、開会式はつつがなく進行され――

 

 

「――社、代表によるお言葉が――」

 

 所謂、最後のお偉方のお話も淀みなく続き――

 

「続いて――」

 

 

 

 やがて檀上に立った海馬の姿に会場のボルテージは一段上がる。

 

「諸君! 有象無象がデュエルキングの称号に不平不満を並べているようだが――」

 

 そして海馬がマイク片手に挑発するような言葉を並べ――

 

「――喜ぶがいい! 今、此処に! その舞台を用意してやったぞ!」

 

 大仰に空いた拳を握った後、海馬ランドUSAに集った強者共を一喝した。

 

「プロもアマも、表も裏も、名有りも名無しも、このワールドグランプリにおいては全て平等! それは現デュエルキングであっても例外ではない!!」

 

 そうして語られる内容は一見すれば全世界の人間に発信しているように感じられるが、その一方で誰か一人を狙い打ちしたかのようにも見える。

 

「この場に現れぬ者が王者の席に至れるとは思わんことだ!」

 

「お前は参加してねぇじゃねぇかー!」

 

 その海馬の主張に偶々このドームにて待機するように言われた城之内の声が何処かのマイクで拾われたのか檀上の海馬に届く程に響く。

 

「ふぅん、喚くな凡骨。この大会を運営する俺が参加すれば公平性が保てんことが理解出来んようだな」

 

 だが、そんな城之内のもっともな主張など海馬には想定の範囲内だ。理屈的な返答は勿論のこと――

 

「ゆえに遊戯! この俺のデュエリストとしてのプライド! 今、この時ばかりはお前に預けるぞ!」

 

 モニター越しに己がライバルに向けて指を差す海馬の姿を見れば、デュエリストとしての返答が意味することなど明白。

 

 そう、これは遊戯と海馬のデュエルを見ても、己こそがデュエルキングに相応しいなどと勘違いした者たちへの海馬なりの宣戦布告。

 

「分かったか!」

 

 海馬は遊戯に負けたのではない。

 

「文字通り、全人類がたった1つの王者の席を奪い合う! まさにデュエリストのプライドを賭けた生き残りのゲーム!」

 

 海馬は遊戯に「だけ」負けたのだと。

 

「一切の言い訳の余地も介在しない、真の最強が今ここに決定する!!」

 

 そんな演説するかの如く放たれる海馬の言葉は大きな熱力を持つ。

 

「その雄姿を眺めるがいい!!」

 

 かくして相変わらずの海馬節で締められた宣言に会場のボルテージは一段と高まった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、未だ開会式は終わらない。

 

 世界中を巻き込んだ大会に、デュエルモンスターズの生みの親、ペガサス・J・クロフォードの言葉を抜きに始めることなどあってはならないだろう。

 

「海馬ボーイの熱い宣言、見事デシタ」

 

 何時もの朗らかさを感じるペガサスの声が海馬とは真逆な様子で周囲に静かに広がる。

 

「ですが、参加できない代わりに、己がライバルに全てを託す――イイですね。という訳で、Hey、キース! ワタシのデュエリストのプライドは貴方に預けマース!」

 

 のだが、ウィンクしつつ茶目っ気タップリにモニター越しにキースに向けて両の人差し指を差すが――

 

「ペガサス様~! 私に預けてはくれないのですかー!」

 

「そういうことは、ワタシに勝ってから言いなサーイ!」

 

 城之内と同じく、偶々この会場にいた夜行の声を都合よくマイクが拾って響くも、冗談めかして笑うペガサスに一蹴された。

 

「しかし参加資格を得る為の試練によって多くのデュエリストがふるいにかけられたというのに、この参加者の数!」

 

 そうして視界一杯に広がるデュエリストや、観客の姿を見やるペガサスは感慨にふけつつ、喜色を見せる。

 

「これ程までにデュエルを愛する者たちがいると言う事実は、デュエルモンスターズを世に送り出したものとして、これ以上ない喜びデース!!」

 

 始まりは第三者からのお世辞にも褒められない謀略によるものだった。

 

「多くを送ることは出来ませんが、皆さんの健闘をお祈りシマース!」

 

 だが、我が子同然のデュエルモンスターズが世界で愛されている事実はペガサスにとって福音に他ならない。

 

 

 

 この愛の力がくだらぬ策略を打ち破ってくれるのだとペガサスは心の内でヒシヒシと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 そしていよいよ最後、世界最大規模の企業、パラディウス社の総帥ダーツの言葉がトリを飾る。中の人は緊張のあまり死にそうだ。

 

「さて、本日はお日柄も良く――などと言った話など、キミたちデュエリストにとっていい加減に退屈なことだろう」

 

 だが、ご自慢の面の皮の厚さで平静を装い用意してきた台本通りに語る。

 

 とはいえ、海馬とペガサスの後に話すことなど、中の人的にもない。というか、霞む。

 

「ゆえに手短に行こう」

 

 それゆえに望まれるのは火蓋を切ることのみ。

 

「舞台は整った」

 

 求められるのは爆発力。圧倒的なパワー。唯一の得意分野だ。

 

 

「今こそ、己こそが最強だと証明して見せるがいい!」

 

 

 此処までの静かなトーンなど忘れたように力強く宣言し――

 

「以上をもって開会の宣言とする!」

 

 そしてすぐさま大仰に両の手を広げ、力の限りダーツは声を張る。

 

 

 

 

「――さぁ、戦え! デュエリストたちよ!!」

 

 

 

 その言葉を合図にデュエリストの雄叫びが響き渡った。

 

 

 

 






なんとか「KCグランプリ」ならぬ「ワールドグランプリ」開催に漕ぎ着けました。

大会編ですが、テンポよく進められるよう頑張りたいです(小並感)


Q:あれ? 原作ではレオンハルトって『レオン・ウィルソン』の偽名で参加してなかったっけ?

A:レオンもまた数多くの大会で結果を出しているデュエリストの為、普通に招待状が届いたんだよハルトォオオオオオオオ!!

偽名で参加されると、余計なトラブルの元だからね!

レオンの詳しい紹介は再登場までお待ちを。





~今作での少年リックのデッキ~
永続魔法《平和の使者》で相手の攻撃を制限しつつ、自分は永続魔法《絶対魔法禁止区域》により通常モンスターのドラゴンで一方的にぶん殴るAiちゃん風デッキ(違)

キーパーツは回収しやすい通常モンスターをコストに手札交換をガンガン使って集めていこう!

その過程で永続罠《強制撤収》を発動できれば相手の手札も破壊できちまうんだ!(なお除去)

奥の手として《スピリット・ドラゴン》の効果で発動済みの永続罠《強制撤収》の効果を適用し、永続罠《魔力の棘》でバーンすることも可能。

これで相手の手札に《クリボー》のような手札誘発があっても、《スピリット・ドラゴン》の攻撃によるダメージは防げないぜ!

なお綺麗に決まることはほぼなく、魔法・罠ゾーンの圧迫感がスゴイ。





~BIG5の《ペンギン・ナイトメア》こと大瀧さんのデッキ~

基本的によくある「ペンギン」デッキ。
魔法カード《トランスターン》で《大皇帝ペンギン》を呼んで展開するオーソドックスな構築。
ただDM時代にはエクストラ枠の候補が不足している為、火力不足の他、多くの問題を抱えている。

だが持ち前の展開能力に加え、永続魔法《水舞台(アクアリウム・ステージ)》のお陰で場持ちはいいので、余ったペンギンは《カタパルト・タートル》で射出しよう。

相手が水属性デッキなら? ペンギンちゃんは仲間(水属性)とは争はない主義だから……(目そらし)

魔法カード《同胞の絆》と魔法カード《スター・チェンジャー》のコンボで超大量展開だぜ!――なお、ない方が安定する。


アニメで使用していたとはいえ、ペンギン大好きおじさんが愛するペンギンを《カタパルト・タートル》で射出するのは如何なものかと思ったが

アニメの乃亜編でも「ペンギン魚雷」なる似たようなモンスターを使っていたので、気にしちゃいけない。


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