マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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ジークVSラフェール 前編+αです。


前回のあらすじ
リスペクトデュエル「『その態度は対戦相手に失礼だし、良くないよ』って注意したら、『勝者である私を称えろ』と訳わかんないこと言われたでござる」





第169話 強さとは

 

 

 互いのデュエルディスクが先攻後攻の運命を占うかのようにほのかに明滅を終えると、決定権を得たランプが灯ったのはジーク。選ぶのは当然――

 

「選択権は此方か――なら私は後攻を選択する。さぁ、カードを引くがいい。最初で最後のターンとならぬよう祈りながらな」

 

 そんな挑発的な言葉の後、5枚の手札を揃えたジークの姿に来賓席なのか実況席なのか解釈に困る席からワクワクを抑えられないペガサスの遠足前の子供のような声が響く。

 

「Oh! Mr.ジークフリードのデッキはワルキューレたちの一斉召喚からの速攻が強力デース! これは最初から目が離せマセーン!」

 

「つまり、最初に攻撃できる後攻を選んだのね」

 

「Yes! Mr.ラフェールが攻撃できない最初のターンにどこまで守りを固められるかが重要になりマース!」

 

 そのペガサスの様相に対し、クスクスと微笑ましそうにシンディアが接する中、ラフェールはこのデュエルの始まりを告げる鐘を響かせるようにカードを引く。

 

「私の先行、ドロー! 私は永続魔法《守護神の宝札》を発動! これにより手札を5枚捨て、新たに2枚ドロー! そしてこのカードが存在する限り、私の通常ドローは2枚になる!」

 

 そして発動されたカードにより青い長髪の女神の涙がラフェールの手札を洗い流し、やがてその場に留まった。

 

 これにより、女神の涙の奇跡たる永続魔法《守護神の宝札》がある限り、毎ターンその恩恵に与れる――だが、5枚あった手札が今や2枚。少々心もとない。

 

「良いカードは引けたかね?」

 

「さてな。デュエルは水物――終わってみるまで『何がベストだったか』など分からないものだ」

 

 ゆえにジークから軽口が飛んでくるも、暖簾に腕押しとばかりにラフェールには届かない。

 

「フッ、弱者の理論だな。真の強者は一挙手一投足の全てが完璧であるというのに」

 

「それは是非ともお目にかかりたいな」

 

 むしろ今のラフェールには此処までのデュエルで名立たる相手を降してきたジークへの興味の方が大きい。デュエリストは常に好敵手を求めるもの――それはラフェールも例外ではなかった。

 

「私はモンスターをセットし、魔法カード《命削りの宝札》を発動! 手札が3枚になるようドローだ! そして引いた3枚のカードを全てセットしてターンエンド」

 

 そして当然とばかりに魔法カード《命削りの宝札》のエンド時に手札を捨てるデメリットを回避したラフェールの盤面は2枚の手札から繰り出されたハンデなど感じさせない。

 

 

「ならば、とくと見るがいい。真の強者のデュエルを! 私のターン、ドロー!」

 

 だが、どんな布陣であれ、今のジークは突破する自信があった。それもその筈――

 

「完璧な手札だ。やはり私は運命の女神に愛されている」

 

 自身の6枚の手札が示すのはまさに勝利への天啓。圧倒的な即効性とパワーに優れたものだ。

 

「《ワルキューレ・ドリット》を通常召喚!」

 

 やがて一番槍を務めるのは白馬に乗ったかなり軽装な鎧を纏った赤毛の短髪の赤毛のワルキューレ。逸る気持ちを示す様に盾を構え、右手の剣を天に掲げた。

 

《ワルキューレ・ドリット》 攻撃表示

星4 光属性 天使族

攻1000守1600

 

「召喚された《ワルキューレ・ドリット》の効果でデッキから『ワルキューレ』カード――魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》を手札に加え、すぐさま発動!」

 

 そして《ワルキューレ・ドリッド》が掲げた剣が向けられた天より花吹雪と共に舞い降りるのは――

 

「手札から可能な限り、『ワルキューレ』たちを特殊召喚する! 天空に座す光の軌跡と共に舞い降りろ! ヴァルハラの乙女たちよ!!」

 

 白い仔馬と共に駆ける小型の盾を身に着けた茶の髪の見習いと思しきワルキューレに加え、

 

《ワルキューレ・セクスト》 守備表示

星1 光属性 天使族

攻 0 守2000

 

 緑の髪を後ろで纏めたワルキューレの少女が、その背丈と同程度の成長途中の馬と共にかけ、

 

《ワルキューレ・フィアット》 攻撃表示

星3 光属性 天使族

攻1400 守1400

 

 最後に成体の白馬にまたがる桃色の長髪のワルキューレが隊列を整えるように馬を止めた。

 

《ワルキューレ・ツヴァイト》 攻撃表示

星5 光属性 天使族

攻1600 守1600

 

「そして特殊召喚された《ワルキューレ・セクスト》と、《ワルキューレ・ツヴァイト》の効果発動!」

 

 そうして周囲に舞う花吹雪を余所に4体のワルキューレたちが二手に分かれ――

 

「セクストの効果でデッキから新たな『ワルキューレ』を特殊召喚し、ツヴァイトの効果で相手モンスター1体を破壊する! セットモンスターには消えて貰おう!」

 

 花吹雪がラフェールのセットモンスターを消し飛ばすかのように荒れ狂う。

 

「そしてセクストの効果で呼び出すワルキューレは我がデッキの象徴たる戦乙女! 《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》!!」

 

 やがて天より4体のワルキューレの中央に降り立つのは白馬にまたがり青い長髪をたなびかせるワルキューレ。

 

 他のワルキューレにはない額から上を覆う兜の姿が、位の違いを示すかのようにキラリと輝いた。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》 攻撃表示

星7 光属性 天使族

攻1800 守2000

 

「これでキミの盾となるモンスターはいなくなった――このワルキューレたちの攻撃で終局といこう!」

 

 花吹雪が収まる中、まだ1ターン目にも拘らず5体のワルキューレを展開したジークは自身のフィールドに立ち並ぶワルキューレたちを誇るように笑みを浮かべる。

 

「それはどうかな?」

 

 だが、ラフェールのフィールドには未だセットモンスターの存在を示す裏側表示のカードのソリッドビジョンが浮かんだままであった。

 

 そう、《ワルキューレ・ツヴァイト》の破壊効果は届いていない。

 

「ほう、この程度は防いでくるか」

 

「私はワルキューレたちの効果にチェーンして墓地の罠カード《スキル・プリズナー》を除外し、効果を発動させて貰った。これによりこのターン、私の選択したカードへのモンスター効果は無効化される」

 

 花吹雪を遮るように薄っすらと浮かぶ半透明な壁はこのターンのラフェールのセットモンスターを守り続ける。

 

「ふん、だが所詮は小細工に過ぎない――相手フィールドのモンスターの数だけヴリュンヒルデの攻撃力は500アップする」

 

 しかしジークの「小細工」との言葉通り、過信は出来ない。この壁――罠カード《スキル・プリズナー》は相手の攻撃に対しては一切の無力なのだから。

 

 天上の輝きを増す《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の剣の前では無いも同然である。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》

攻1800 → 攻2300

 

「だが、此処で私は《ワルキューレ・フィアット》の効果を発動! このカード以外の『ワルキューレ』たちの数だけデッキからカードをめくり、その中から魔法カードか罠カードを手札に加え、残りを墓地に送る!」

 

 ジークの声に《ワルキューレ・フィアット》が緑のポニーテールを揺らしながら指笛を吹けば、白馬がグルリとジークの周りを奔り――

 

「なければめくったカードは全てデッキに戻すが、勝利の女神に愛された私に失敗などない! 4枚のカードをめくり――魔法カード《魔法石の採掘》を手札に! 他は墓地に送る!」

 

 戻ってきた白馬のたてがみに添えられたカードが《ワルキューレ・フィアット》越しにジークに受け渡された。

 

「壁となるモンスターを守れてご満悦のようだが、キミに次のターンなどない!」

 

 しかし、折角手にしたカードをジークが使うことなく宣言する。このデュエルを長引かせる気はないと。

 

「バトル! 4体のワルキューレたちによって天に召されるがいい!!」

 

 そして守備表示の《ワルキューレ・セクスト》が自身の仔馬が飛び出さないように「どうどう」する中、4体のワルキューレたちが愛馬と共に剣を構え、走り出す。

 

 

 狙うはセットモンスターを破壊した後の本丸たる敵将の首。

 

 

「私はその攻撃に対し、永続罠《アストラルバリア》を発動! 私のモンスターへの相手の攻撃をダイレクトアタックとして受ける!!」

 

 だが、セットモンスターを貫く筈だった剣は他ならぬ敵将に向かう。

 

「フハハハ! 何を伏せているのかと思えば、そんなカードか! ならば壁モンスターを守り、誇りとやらと共に散れ!!」

 

 やがて4体のワルキューレたちの馬上からの剣撃がラフェールの身体を打ち据えた。

 

 

 語るまでもなく、ワルキューレたちの攻撃力の合計は4000を超える。

 

 

 

 

 

 

ラフェールLP:4000

 

 しかしラフェールのライフに変動はない。

 

「リバースカードでダメージを防いだか。誇りとやらの為に難儀なことだ」

 

 そしてジークもそれに対し、動揺することはない。「次代の全米チャンプ」、「生まれが早ければキースの代わりに玉座に座していた男」とまで言われた相手がこの程度の攻撃で終わるとは思っていない。

 

「ご名答――私はもう一枚のリバースカード、永続罠《スピリットバリア》を発動させて貰った。これにより私のフィールドにモンスターがいる限り、私への戦闘ダメージは0となる」

 

「これならば少しは楽しめそうだ――ツヴァイトが戦闘を行ったダメージ計算後に墓地の永続魔法カードを回収できる。永続魔法《女神スクルドの託宣》を手札に」

 

 だが、ジークとて「ヨーロッパ無敗の貴公子」と呼ばれた男。実質的なヨーロッパチャンプといっても過言ではない。

 

 桃色の髪を揺らしながら馬をジークに寄せ、盾から光が零れジークの手札を潤す光景に、ラフェールは相手の次の手を測るように言葉を投げかける。

 

「魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》による速攻は強力だが、力あるカードにはリスクも伴う――このターンの終わりにワルキューレたちにはご退場願おうか」

 

「その程度のリスクなど想定済みだとも、バトルフェイズ終了時に速攻魔法《時の女神の悪戯》を発動!」

 

 そうして魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》によるデメリットの時が、そのターンのエンドフェイズが近づく中、天より淡い光が灯る。

 

「私のフィールドのモンスターが『ワルキューレ』のみの場合、このカードを墓地に送ることで、次の私のターンのバトルフェイズ開始時までターンをスキップする」

 

 やがて青いツインテールの白いロングドレスに黄色いショールをアクセントに沿えた時の女神が茶目っ気タップリにウィンクしながら赤い宝玉の輝く杖を一振りする。

 

 すると周囲に時計のオブジェクトが大量に浮かび上がり、チクタクと時を刻み始めた。

 

「……これが噂のカードか」

 

「そうだ。これこそが、この私に相応しい時を操り、運命すら己がままとする力」

 

 文字通り、相手の時を飛ばすことで何もさせることなく、次のターンのバトルフェイズ開始時へと至ったと共に、周囲の時計のオブジェクトは煙のように消えていく。

 

「これで魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》を発動したターンの終わりは既に過去となった――よってデメリットも発生しない」

 

 そんな中、小さく手を振って「バイバイ」と消えていった時の女神の加護を誇るように揃って剣を掲げるワルキューレたち。

 

 これでジークの言う様にエンド時にフィールドを離れることもない。そのデメリットが発動する「ターンの終わり」は訪れることなく過去となった。

 

「だが、手札及びフィールドの状況に変化がない以上、追撃も出来ない筈だ」

 

「だったら何だと言うのかね? 状況に変化がないことで困るのはキミの方だろう」

 

 しかしラフェールの言う様に永続罠《スピリットバリア》と《アストラルバリア》のコンボがある限り、ジークの攻撃は届かない。

 

 だが、ジークからすればそんなことは些事だった。

 

「たった1枚の壁モンスターしかないキミと、5体のワルキューレたちを従える私。どちらが優勢かなど火を見るよりも明らかだ」

 

 手札及びフィールドアドバンテージは圧倒的にジークが握っている。だが、ジークとて相手を嘲笑することはあれど過度な慢心はない。

 

「しかし、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすもの……手を緩める気はない。ツヴァイトで攻撃!」

 

「永続罠《アストラルバリア》と永続罠《スピリットバリア》の効果により、その攻撃は実質的に無効化させて貰おう」

 

 再び、先程の光景の焼き増しのように桃色の長髪をたなびかせながら白馬を操る《ワルキューレ・ツヴァイト》の剣撃が2枚のバリアに守られたラフェールに弾かれる。

 

「だとしても戦闘が発生したことで、ツヴァイトの効果により、墓地の永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を手札に加える――どうやらハンドアドバンテージの差も広がってきたようだな」

 

 だが、先程の焼き増しであるのなら、ジークの手札が潤うのもまた道理。着実に、そして確実にアドバンテージの差は現れていた。

 

「此処でバトルを終了し、永続魔法《女神スクルドの託宣》を発動――発動時、私のフィールドのモンスターが『ワルキューレ』のみの場合、デッキから永続魔法《女神ヴェルダンディの導き》を手札に加える」

 

 やがてジークが繰り出す次なる手である青い髪のツインテールの女神――先程の時の女神の人、というか神が、天上からフワリとロングドレスを揺らしながら現れ、

 

「そして永続魔法《女神ヴェルダンディの導き》を発動――このカードも発動時、私のモンスターが『ワルキューレ』のみの場合、デッキから永続魔法《女神ウルドの裁断》を手札に」

 

 そしてすぐさま隣に水色のフリルが揺れる青いロングドレスの桃色の長髪の女神が緑の宝玉の輝く杖と共に現れ、

 

「最後に永続魔法《女神ウルドの裁断》も発動――これで女神ウルドの加護により、私の『ワルキューレ』たちは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない」

 

 最後に薄桃色のロングドレスの金髪のショートカットの女神が青い宝玉が光る杖を手に並んだ。

 

 

 たった1枚のカードから2枚のカードを展開したジークのフィールドは溢れんばかりに聖なる乙女たちが立ち並ぶ。単純な数の合計は8――孔雀舞のデュエルと何だか似たような状態だ。

 

「まさに鉄壁の守りと言う訳か……」

 

「フッ、違うな――守るだけではない。今こそ三女神たちの力を見せてやろう」

 

 しかし美麗なる薔薇には棘がつきもの。

 

「永続魔法《女神スクルドの託宣》の効果発動! 相手のデッキの上から3枚のカードを確認し、好きな順番でデッキの上に戻す!」

 

 青いツインテールの女神が赤い宝玉を輝かせながら杖を掲げ、

 

「さらに永続魔法《女神ヴェルダンディの導き》により相手のデッキの一番上のカードの種類を宣言し、的中した場合は互いに確認した後に相手フィールドにセット!」

 

 桃色の長髪の女神が緑の宝玉が光る杖をクロスさせ、その輝きを増し、

 

「そして永続魔法《女神ウルドの裁断》によりフィールドにセットされたカード名を宣言し、的中した場合はそのカードを除外する!」

 

 最後に金色のショートカットの女神が青い宝玉の杖で止めとばかりに交錯されれば――

 

「女神ヴェルダンディとウルドの効果でカードの種類を間違えた場合は相手に手札を補充、自身のフィールドのカードを除外せねばならないが、三女神が揃った状況では意味のない仮定だ」

 

 ラフェールのデッキがひとりでに光を放ち、3枚のカードがジークにだけ見えるように空に磔にされたように浮かぶ。

 

 磔との言葉は比喩ではない。この3枚のカードの内の1枚は女神の力を以て天に召されるのだから。

 

「さぁ、永続魔法《女神スクルドの託宣》でデッキの上のカード3枚を見せて貰おうか」

 

「まさにこのデュエルの行く末――未来を己が手で定めるコンボ……!」

 

「その通り、これでキミのキーカードを――」

 

――さ、三枚とも魔法カードだとぉ!?

 

 だが、警戒を見せるラフェールを余所にジークへともたらされた未来の選択肢は物凄く偏っていた。更に3枚の内の1枚はなんかヤバいカードに見える。

 

 しかしジークは心の内の動揺を一瞬で消し去り、不敵な笑みを浮かべた。

 

――いや、こういう時もある。フッ、モンスターがデッキの底に尻尾を巻いて逃げたと言った所か、壁モンスターの工面すら苦労しそうな有様だな。

 

「……3枚の内の3枚目のカードを一番上にし、他はそのままに変更! そして永続魔法《女神ヴェルダンディの導き》により宣言するのは魔法カード!」

 

「私のデッキトップは魔法カード《サンダー・ボルト》だ。フィールドにセットされる」

 

 そうして現在はデッキに1枚のみ投入可能な制限カードだが、一時期禁止カードにすら指定されていた程の強力カードがラフェールのフィールドにセットされる光景にワルキューレたちも思わずジークをチラ見した。

 

 喰らえば一溜まりもないだろう。

 

「そして永続魔法《女神ウルドの裁断》で今セットされたカードに対し、魔法カード《サンダー・ボルト》を宣言し、除外だ」

 

 しかし魔法カード《サンダー・ボルト》がゴロゴロと雨雲模様な音を漏らしつつ天へと送られ除外されたことでワルキューレたちは間一髪だったと額の汗を拭う。気分は爆弾処理班だ。

 

「此処でフィアットの効果発動。この効果は1ターンに1度のみ発動可能なものだが、速攻魔法《時の女神の悪戯》によって既に次のターンとなっている」

 

 そうして安堵の息を漏らすワルキューレたちだが、ジークの声に慌てて緩んだ気を引き締め、《ワルキューレ・フィアット》が再び緑のポニーテールを揺らしながら指笛を吹く。

 

「よって、このカード以外のワルキューレの数――4枚のカードをデッキの上からめくり、その中から魔法カード・罠カードのいずれかを手札に加え、残りを墓地へ!」

 

 やがて馬がクルリと周囲を回り、やがてジークに届いた光が新たな手札となった。

 

「罠カード《フライアのリンゴ》を手札に加え、残りを墓地へ送る。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

「そのエンドフェイズに永続罠《星遺物の傀儡》を発動。その効果により、裏側守備表示のモンスターを攻撃表示にする――私は裏側守備表示の《ガーディアン・エルマ》を攻撃表示に」

 

 盤石の布陣だと自信たっぷりにターンを終えたジークに対し、ラフェールは此処ぞとばかりに攻勢に移るべく動き出す。

 

 ラフェールの一番槍として現れるのは蝶を思わせる踊り子のような衣装を纏った赤毛の女性、《ガーディアン・エルマ》がフワリとフィールドに降り立った、

 

《ガーディアン・エルマ》 裏側守備表示 → 攻撃表示

星3 風属性 天使族

攻1300 守1200

 

 

「《ガーディアン・エルマ》……だと?」

 

 そうして呼び出されたモンスターの姿にジークは信じられないようなものを見る目でラフェールと《ガーディアン・エルマ》を見やりぽつりと零す。

 

 そのカードを使うデュエリストの存在など、ジークにとって理解しがたいものだった。

 

 

 そこに「感心」や「感嘆」などはない。あるのは嘲笑のみ。

 

「ククク、ハハハ、フハハハハハッ! よもやこの大舞台にも拘らずそんなカードを使っているとはな! 噂には聞いていたが実際に目の当たりにすると何とも愚かしい」

 

 ゆえに嗤う。愉し気に、まるで愉快なものでも見るように嘲笑う。

 

「そうおかしなことでもないさ。キミが『ワルキューレ』たちと共にあるように、私もこのカードたちと共にあることを誓った――ただ、それだけの話だろう?」

 

「フフフ、私のワルキューレたちとそのカードが同列だと? 面白いジョークだ。コメディアンの方が向いているんじゃないかね?」

 

 ラフェールが何を語ろうとも、ジークの愉し気な嘲笑が止むことはない。

 

 このデュエルキングを、世界最強のデュエリストを決める舞台で、「そんな」カードを使ってデュエルしている人間の存在など滑稽以外の何物でもなかった。

 

 

 そうして嗤いに嗤うジークの姿を不思議そうに眺める実況席のシンディア。

 

「ペガサス、あのカードって何か問題があるの?」

 

「あれは『ガーディアン』シリーズの1枚デース。一部の例外を除き、対応する装備魔法がフィールドに存在する時に初めて表側で呼び出すことが出来るカードなのデスガ……」

 

 そんなふと零れた疑問にペガサスは神妙な顔でジークが嘲笑う理由を語る。

 

 ペガサスとて、そのカードに対して嘲笑うジークの姿に共感は出来ないが、一定の理解は示せる現実がそこにはある。

 

「あの《ガーディアン・エルマ》に対応する装備カード――《蝶の短剣-エルマ》は公式試合では使用できない『禁止カード』になっていマース」

 

 そう、《ガーディアン・エルマ》はその固有能力も語られた実情により使えず、付随するデメリットも他の形で利用することがほぼ不可能なカード。

 

 つまり、《ガーディアン・エルマ》は「普通に召喚することすら手間がかかる上に、手間に見合った効果もステータスもないカード」なのだ。

 

 ジークでなくとも「普通に召喚できて、似たような属性・種族・ステータスのカード使った方が良くない?」と思ってしまっても無理からぬ話だ。だが――

 

 

 

「あのカードが普通に召喚するのも大変だったなんて……そんな扱いの難しいカードで今まで戦ってきたラフェールさんはとってもすごい人ね!」

 

「Yes! より強力なカードが次々と台頭していく中で、あのカード群をああも愛用してくれていることは、デュエルモンスターズを世に送り出した者として、とても喜ばしいことデース!」

 

 説明を受けたシンディアは微妙に本筋からズレた感想を抱きつつ称賛を送る姿に、ペガサスも我がことのように喜色を見せた。

 

 カードの強さなど関係なく、好きなカードでデュエルを楽しむラフェールの在り方はデュエルモンスターズの創造主冥利に尽きるのだろう。

 

 

 

「フフフ……余程カードに困っているのなら、私から強力なカードの1枚でもプレゼントしてあげようか?」

 

 とはいえ、ジークからすれば「弱いカードに固執する愚か者」でしかないのだが。そして冗談めかして馬鹿にするように提案するジークの言葉にラフェールは怒りを抱くことなく静かに返答する。

 

「カードの強弱など評する者の価値観の一つでしかない。それでもなお強弱を語るのであれば、デュエリストの腕の良し悪しがあるだけだと思うがね」

 

 カードの強弱は誰が決める? カードがひとりでに喋りだすのか? 否、それは使用者が勝手に判断するものでしかない。

 

 どれだけ「強い」と評されるカードを使おうとも、負け続きのデュエリストが「強い」と語って誰が信じようか。

 

 ゆえにどうしても論じたいのですあれば「扱う者の腕」こそ主題にすべきだと語るラフェール。

 

「くだらない屁理屈だな――そんなカードで私に勝てるとでも?」

 

「それはデュエルが終わる時に自ずと分かることだ。私のターン、永続魔法《守護神の宝札》の効果で通常ドローを2枚に! ドロー!」

 

 しかしジークの心にそんな言葉は響かない。とはいえ、響かなくともラフェールのやることは変わらないとデッキから2枚のカードを引く。

 

 彼がやるべきことなど決まっている――目の前のデュエル一つ一つに全霊を込める。ただそれだけ。

 

「魔法カード《マジック・プランター》を発動! 私のフィールドの永続罠――《アストラルバリア》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 そうしてフィールドの守りのカードが砕け散る中、ひいた2枚の内には――

 

「そしてモンスターを裏側守備表示でセットし、永続罠《星遺物の傀儡》の効果で表側攻撃表示にする! 《ガーディアン・ケースト》!!」

 

 大地より流水が噴き出すと共に、緑の流れるような長髪を持つ黄色いワンピースを纏った人魚が現れ、空中にてフヨフヨと浮かぶ。

 

《ガーディアン・ケースト》 裏側守備表示 → 攻撃表示

星4 水属性 海竜族

攻1000 守1800

 

「また、観賞用に過ぎない骨董品のガーディアンシリーズか」

 

 呆れたようにジークがそう零すが、この《ガーディアン・ケースト》に対応する装備カードが禁止カードに定められている訳でもない為、活用法は十分にある方だ。

 

「さらに2枚目の《マジック・プランター》を発動! 永続罠《星遺物の傀儡》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 そして活用できるだけの腕がラフェールにはある。やがて再び更なるカードをドローしたラフェールは手札の2枚を抜き取った。

 

「此処でカードを1枚セットし、装備魔法《重力の斧-グラール》を《ガーディアン・エルマ》に装備! 攻撃力が500ポイントアップ!」

 

 そうして残った最後の1枚の手札がセットされるすぐ隣の大地から、せり上がるように現れた両刃の大きな斧。

 

 その大斧を《ガーディアン・エルマ》はその細腕でなんとか持ち上げるが、明らかにサイズが合っていない。だが当然である。

 

《ガーディアン・エルマ》

攻1300 → 攻1800

 

「フィールドに《重力の斧-グラール》が存在し、手札が自身だけの時! 手札より《ガーディアン・グラール》を特殊召喚する!!」

 

 何故なら、その斧は恐竜の頭を持つ恐竜人間とでも言うべき大男が持つべき代物。

 

 フィールドで力強く声を上げた《ガーディアン・グラール》の黄色いベストから覗く腕は筋骨隆々でなんとも力強い。

 

《ガーディアン・グラール》 攻撃表示

星5 地属性 恐竜族

攻2500 守1000

 

「まだだ! 墓地の魔法カード《汎神の帝王》を除外し、デッキから『帝王』魔法・罠カード3枚を相手に見せ、相手が選んだカードを手札に加え、残りはデッキに戻す!」

 

「ならば魔法カード《帝王の凍気》を手札に加えろ」

 

 3体のガーディアンたちを展開したラフェールだが、未だその歩みが緩む様子はない。宙に浮かぶ3枚のカードの内、ジークが指差した1枚を引き抜くように手札に加え――

 

「此処で、このターンにセットした魔法カード《汎神の帝王》を発動し、手札の『帝王』カード――《帝王の凍気》を墓地に送って新たに2枚ドロー!」

 

 すぐさま己が手札を増強していく。かれこれこのターン、3度目のドローだ。

 

「そして3枚目の魔法カード《マジック・プランター》を発動!永続罠《スピリットバリア》を墓地に送り、2枚ドロー!!」

 

「キミの守りの要だった永続罠《スピリットバリア》と《アストラルバリア》をどけてしまって良かったのかね?」

 

 そうして4度目のドローを行ったラフェールに待ちくたびれたように肩をすくめながらジークが一人ごちる。

 

 永続罠《スピリットバリア》と《アストラルバリア》のコンボによる攻撃封殺をワルキューレたちの剣の前で、己から捨てるなど愚の骨頂でしかないと。

 

 しかしラフェールは不敵に笑って見せた。

 

「無論だ――バトルといこう!」

 

「だがキミのモンスターが3体に増えたことで、ヴリュンヒルデの攻撃力は更に上昇!」

 

 やがて3体のガーディアンで攻勢に移るラフェールだが、そんな敵対者たちを阻むように馬上の《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の剣が輝きを増していく。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》

攻2300 → 攻3300

 

 今、ラフェールのフィールドでもっとも攻撃力が高い《ガーディアン・グラール》の攻撃力は2500――突破は叶わない。

 

「ならば《ガーディアン・エルマ》で《ワルキューレ・ドリッド》を攻撃! 情熱の雷鳴!!」

 

「無駄だ! 永続罠《闇の増産工場》を発動! 1ターンに1度、自身のフィールドか手札のモンスター1体を墓地に送ってカードを1枚ドローする!」

 

 ゆえに斧を地面に打ち付け、大地に雷撃を奔らせる《ガーディアン・エルマ》だが、狙っていた筈のワルキューレの赤髪の少女の姿は既にない。

 

「ドリッドを墓地に送り、ドロー! これで攻撃対象は失われた」

 

 それもその筈、ベルトコンベアから射出されたはんぺん状の謎生物の背に《ワルキューレ・ドリッド》は乗り、一足先にヴァルハラこと墓地へと送られた。白馬もその後を追う。

 

「ならば《ワルキューレ・フィアット》へ攻撃対象を変更!!」

 

「無駄だと言っただろう! 既に相手の攻撃宣言をトリガーに発動されたヴリュンヒルデの効果により、自身の守備力を1000下げることで、このターン私のワルキューレたちは戦闘で破壊されない!」

 

 だが攻撃を止めはしないと、地面の斧で大地を抉るように引き抜き、岩のつぶてを飛ばした《ガーディアン・エルマ》。

 

 しかし、その岩のつぶては間に割って入った《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の盾に阻まれ、目標には届かない。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》

守2000 → 守1000

 

「だが、ダメージは受けて貰おう」

 

「この程度のダメージ、どうということはない」

 

 とはいえ、つぶてを飛ばした際の突風は確かにジークの身とライフを削って行く。

 

ジークLP:4000 → 3600

 

「ならば《ガーディアン・グラール》でもう一度、《ワルキューレ・フィアット》を攻撃させて貰おう! 英断の突撃!!」

 

「ぐっ……!」

 

 そうして堪えた様子を見せないジークを余所に、恐竜の力強さのままにショルダータックルをかました《ガーディアン・グラール》に盾の半分を砕かれながらも《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》は倒れない。

 

 そのまさに戦乙女な姿に、その背後で両の手を胸の前で握り、熱っぽい視線を向ける《ワルキューレ・フィアット》。

 

「フッ、これで攻撃は終わりかね?」

 

ジークLP:3600 → 2500

 

「そんなところだ。バトルを終了し、私はカードを3枚セットしてターンエンド」

 

 ライフ差が生まれようとも余裕を崩さないジークに対し、ラフェールも軽口を叩いて見せる。

 

 

 これにて互いに最初の攻撃を交えた二人。

 

 一方のラフェールは扱いの難しい「ガーディアン」シリーズを巧みに指揮し、

 

 もう一方のジークもまた立ち並ぶワルキューレたちは殆ど健在。

 

 

 双方がジャブを交わした程度の攻防だが、未だ互いの底は見えぬまま。

 

 

 だが、此処から二人のデュエルは次なる局面を見せていく――そんな予感が会場中を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会場の熱気を余所に、海馬ランドUSAの関係者側に宛がわれた一室でテーブルを挟み向かい合う様に椅子に腰を落とす竜崎。

 

 彼の視線は対面するニコニコと人の良い笑顔を浮かべる神崎に向けられているが、その視線を己の膝の上の拳に向けた竜崎は絞り出すようにポツリと零す。

 

「ワイは……ラフェールハンや遊戯みたいに強うなれますか? 追い付けるんでっか?」

 

「何時の日か追い付けますよ」

 

 

 縋るような竜崎の言葉に対し、あっけらかんと返してみせる神崎。だが、今の竜崎はそう言われて「そうですね」と信じられるような精神状態はしていない。

 

 

 そんな無責任さすら感じさせる言葉を求めているのではないと竜崎は心の内から再燃した憤りと共に勢いよく席を立つ。

 

 

「――などという、聞こえの良い言葉を求めてはいないことは私も理解しておりますから、極めて現実的な話をしましょう」

 

「……た、頼んます」

 

 いや、立とうとしたが、その動きの初動に被せるように告げられた神崎の言葉に一先ず椅子に座り直す。

 

 そうして姿勢を戻す己が「聞く態勢」が出来るまで笑顔で待つ神崎の回りくどさすら感じる在り方は今の竜崎にとって妙に居心地が悪く感じた。

 

「可能性という曖昧な尺度で論じるならば『不可能ではない』のでしょう。ただ、それに至るまでの道筋を考えれば、とてもではありませんが割に合わないと思われます」

 

「割に合わん……ですか」

 

「ええ。竜崎くんが文字通り、これからの人生を全て『デュエルの為だけに』消費することで追い付ける『可能性』が『現実的』になります」

 

 やがて語られたのは「極めて現実的」との言葉に違わず中々に無情なもの。

 

 ラフェールとのデュエルで感覚的に感じた「差」をこうして言葉として理路整然と並べられ、竜崎は己の心が折れそうになるのを自覚する。

 

「ワイの人生かければ……」

 

「オススメは出来ませんけどね」

 

 しかし心の内で奮起し、決心を固めようとする竜崎の意思をくじくように神崎は言葉を被せる。

 

 正直な話、この選択は修羅の道どころではない。

 

 遊戯たちはそんな苦労――いや、苦行などせずともその頂きに至れることを考えれば、竜崎が強さを得て遊戯たちに並べたところで、何になるというのか。

 

 その選択はきっと竜崎を不幸にする。一時の感情で進んで良い道ではない。

 

「私は『才能なんてない』とは言いません。『差』が生まれる以上、なんらかの要因はある筈です。それを一緒くたに『キミの頑張りが足りないんだ』なんて言葉で片付けたくない」

 

 そして神崎は知っている。「オカルト課に所属してから」という期間でだが、竜崎が時に苦心し、一歩一歩前に進んできた姿を。

 

「竜崎くんが頑張っていたのは私も知っていますから」

 

 それを見た上で、彼が重ねた多くの努力を、創意工夫を、修練を『頑張りが足りないんだ』なんて安い言葉で他ならぬ己に、竜崎自身に、否定して欲しくないと神崎は考える。

 

 

「やったら、『割に合わん』って、デュエルキングは諦めろ言うんですか!」

 

 だが、テーブルへと怒りのままに拳を落とし、椅子を倒しながら立ち上がった竜崎からすれば納得できる筈もない。

 

 見上げた先の壁の高さを、分厚さを知ったのだ。それらと比べれば己が怠けていたようにしか考えられない。いや、心の奥底にチラつく「追い付けないと認めたくない」といった感情の発露なのかもしれない。

 

 

 そうして怒髪天を衝く竜崎だが、対する神崎は暖簾に腕押しとばかりに堪えたようすはなく、唯々坦々と問う。

 

「キミはデュエルキングになりたいんですか?」

 

「そんなんデュエリストやったら当たり前や!」

 

「デュエルを始めたばかりの時も?」

 

「当たり前や言うとるやろ! その為にどうしたらエエかを悩んどるんやろうが!!」

 

 分かり切ったことを繰り返し問う神崎の何時もと変わらぬ姿に怒りのままに怒鳴り声を上げる竜崎。

 

 

「当時に『デュエルキング』なんて称号はありませんよ」

 

 だが、神崎が坦々と語る事実に冷や水を浴びせられたように一気に怒りの矛先を見失う。

 

「――えっ? あ……いや、それは……そうですけども」

 

「では改めて問います」

 

 そうして混乱冷めやらぬ竜崎に対し、逃げ場を塞ぐように神崎は問う。

 

「貴方の夢はなん(は何になりたい)ですか?」

 

「ワイの……夢……?」

 

「ええ、夢です。キミにもある筈だ」

 

 そうしてゆっくりと席を立った神崎は続け、

 

「『デュエルキング』などという称号ではなく」

 

 静かに竜崎へ歩を進めながら、

 

「己が成したいと願った想いが」

 

 そして竜崎の背後越しに話し、

 

「こうありたいと目指した理想が」

 

 竜崎の両の肩にそっと手を添えて語る。

 

「キミの中にも確かにあった筈だ」

 

「ワイの……夢……」

 

「ええ、『夢』です」

 

 やがて添えられた手によって両肩を上から押され、椅子にドサリと腰を落とした竜崎が呆然と呟く。彼には現実が見えていなかった。

 

 ただ漠然と「強く」なろうとしても、方向性を見失いあらぬ力を得るだけだ。ゆえの目的。ゆえの道標。

 

 

 そして過去に想いを馳せる竜崎の脳裏に映ったのは――

 

 

『ワイの恐竜カードは最強や!』

 

 そんな原点。

 

 なんてことのないものだ。「恐竜カードがカッコイイ!」――それらでデュエルするのが楽しかった。

 

 そうして竜崎の心から怒りや困惑が消えたことを(バー)越しに感知した神崎は何時の間にやら元の席に座りつつ、和やかに語る。

 

 

 

 

「キミはその年では――いえ、それを差し引いても十分に強い。そろそろ力を『どう扱うべきか』を考える時期ではないでしょうか?」

 

 実際問題、竜崎の実力はかなり極まっている。

 

 辛うじてとは言え、城之内に勝てたこともそうだが、ラフェールに「認められる」デュエリストである事実がプロであっても、そこで経験を積んでいけば十分やっていけるだろう。

 

「確かにデュエルキングは素晴らしい称号なのかもしれません。ですが、キミが抱いた夢とて勝るとも劣らない素晴らしいモノの筈だ」

 

 だからこそ、視野を狭めるようなことは避けるべきだった。

 

「今一度思い出してみてください」

 

 ゆえに神崎は竜崎の心に楔を打ち付けるべく、言葉を投げかける。

 

「名誉や称号、肩書などに惑わされず、ありのままの己が何を望んだのかを」

 

「それは……それは…………」

 

 デュエルキングは称号でしかない。

 

 色々と便宜が図れる立場ではあるのだろうが、逆を言ってしまえば「それだけだ」――デュエルキングの称号を以て『何を成したいのか』。それは『デュエルキング』とは大抵の場合、密接な関係はないだろう。

 

 現デュエルキングである遊戯でさえ「ゲームデザイナー」というデュエルキングとは関係のない夢を持っている。

 

「どうなんやろ?」

 

 しかし、竜崎は己の夢が答えられなかった。

 

 それが「今まで明確な目標もなく過ごしてきた」ように思えたゆえか、妙な気恥しさを覚えた竜崎は取り繕うように神崎に向けて待ったをかけるように掌を向ける。

 

「い、いや、ワイかて真面目に考えたんですよ!? でも、なんていうか、こう、上手い具合に言葉にできひんくて……ちょっとアレで……アレなんですよ!」

 

「つまり『デュエルキング』ではなかったと?」

 

「あー、いや、うん。そう言われるとそうなんやけど、別に目指してないって訳でもなくて……」

 

 神崎の確認するような声にも竜崎は明確な答えが返せない。今までそこまで先の話を考えてこなかったのだ。返せる筈もない。

 

 そんな竜崎に神崎は逃げ道を用意するかのように告げる。

 

「何も『デュエルキングになるのを諦めろ』と言う話ではありませんよ。単純に自分の夢に加えて、デュエルキングにもなりたい――それでも構わないんです」

 

 夢は「一つ」でなければならないルールはない。当たり前の話だが、沢山あっても構わないのだ。

 

「デュエルキングの称号が持つ意味はあくまで世界で一番デュエルが強い『だけ』なんですから」

 

 デュエルキングを目標に掲げる人間が勘違いしがちだが、デュエルキングになったとして、あるのは「今日からキミがデュエルキングだ! スゲー!」だけだ。

 

 その際に色々特権もあるだろうが、そんなものは他の強いデュエリスト――例えば、プロデュリストも似たようなものを享受している。

 

 本当の意味で得られるのは「名誉」だけしかない。大変名誉な話だが、「それ」しかないのだ。

 

「ですので、デュエルキングは『ついで』でいいんですよ、『ついで』で」

 

「いや、『ついで』って……」

 

 そうして神崎のあんまりな言い様に頭をかく竜崎の肩から力が抜けていった。

 

「確かにデュエルキングになれるか――ってことばっかり考えてたけど、デュエルキングになって『何するか』ちゅーことは考えたことなかったなぁ……」

 

 やがてアチャーと言った具合で額を抑えながらウンウン唸る竜崎。彼は此処に来て初めて将来の展望が、目標の類がかなり不明瞭である事実を把握する。

 

 そんな竜崎に投げかけられるのは――

 

「結論を急かす気はありませんから、ゆっくり悩んでくださって問題ありませんよ。答えに詰まるようなら、他の皆さんに相談してみるのも良いかもしれません」

 

「他の人……でっか?」

 

「はい、ヴァロンくんは孤児院経営の為に色々勉強していますし、響さんは教師を目指しているそうです。他の皆さんも各々に目指す先を定めておられますよ」

 

 手を緩めない神崎の追撃の提案。竜崎の周囲の人間を例に挙げながら想定していた方向へと話を持って行く。此処から竜崎が「闇落ち」などという面倒なことをされても困るのだ。

 

「へぇ~、みんな色々考えてはるんやなぁ……」

 

 暫くして憑き物が落ちたように感嘆の声を漏らす竜崎。その顔を見た限り、先程までの悩みは既に吹き飛んでいるように思える。

 

「ええ、力とは目的の為にある――私はそう思っています。目標を『明確に』定めた人間の爆発力は侮れませんよ」

 

 そして念入りに竜崎の(バー)を確認し、問題ないと判断した神崎は話を締めにかかる。後は本人の意思が固まり次第、環境を整えるだけだと。

 

「ですから、力も『目的のついで』くらいに考えた方が良い。力『だけ』に囚われた者の末路なんて、何時の時代もさして変わりませんから」

 

「力に囚われたもん……か」

 

 しかし、そんな最後の最後に気の抜けた神崎が思わず零した言葉に対し、竜崎の脳裏に過った姿が誰だったかなど、神崎は知る由もあるまい。

 

 

 

 

 悩めるデュエリストの迷いが晴れたのなら、そんなことは些事である。

 

 

 

 






竜崎、騙されちゃいけない――神崎は論点ズラしただけだぞ



~今作のジークのデッキ紹介~
原作で使用されたカードが海の向こうにて再現され、来日したので、普通の「ワルキューレデッキ」です。

ただジークの性格的に「醜い(外見)のカード」は使用しなさそうだったので
壺カードなどを使用していない縛りがあります――手札都合が面倒ゥ!

ちなみに、「ワルキューレ」カードは作中にて「とても珍しいカード」とのことだったので
ジークのデッキには全て1種類1枚ずつです。なので、《魔法石の採掘》などのサルベージ手段を色々盛り込んでおります。

基本的に大量展開からのダイレクトアタックか、《時の女神の悪戯》による連撃でワンショットキルを狙うスタイル。


~今作のラフェールデッキ~
此方も原作で使用されたモンスターが9割方OCG化されているので、結構普通の原作同様の「ガーディアン+装備ビート」デッキ。

作中で語られた諸事情によりどうにもならない《ガーディアン・エルマ》を永続罠《聖遺物の傀儡》で強引に並べるのが特徴。

他は「帝王」シリーズでドローブーストしたり、《ガーディアン・グラール》を強引にアドバンス召喚するサポートする程度。


ぶっちゃけ、普通の下級モンスターに装備カード装備した方が遥かに楽なのは内緒な!


なお、エクストラデッキも0枚で、メインデッキにモンスターが4体しか入っていない狂気の構築である――並のデュエリストでは絶対に事故る(迫真)


そしてこのデッキの5体目のモンスターになる「バックアップ・ガードナー」のOCG化まだかなぁ……(遠い目)

今なら――
装備魔法及び「ガーディアン」サーチ・サルベージや、
装備カードの付け替え、
対応する装備カードがフィールドにある時、召喚制限無視して「ガーディアン」モンスターをリクルート!

エクストラ縛りさえつけて置けば、これくらい許される筈……筈!(*’ω’*)


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