マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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ジークVSラフェール 後編+αです。



前回のあらすじ
OCG化されていない「バックアップ・ガードナー」の扱いはラフェールのデッキにいるけど、OCG化されるまでは今作で召喚されない仕様だよ!(シュレディンガーの猫感)

精霊としての描写もOCG化されるまでは勘弁な!


後、《ガーディアン・バオウ》や《ガーディアン・トライス》などの他の「ガーディアン」をラフェールは使わないの?

――ってお声が多かったですが、他のガーディアンは、実のところラフェールは原作でも使用しておらず、デッキにも投入されていないんだぜ!(なので出番はないです)




第170話 終幕の光

 

 

 上司との人生相談もどきを終え、「城之内に謝ってくる」と駆けて行った竜崎の背を見送った神崎は通信が入った端末へと話し相手を移す。

 

「どうかしましたか、大田さん」

 

『おお、ようやく繋がったか! 朗報だぞ。時限式のウィルスを発見した――凡その除去も済んどるぞ』

 

――早ッ!? この段階で一番の問題が解決するとは……ん? いや、待て「時限式」?

 

 電話の主たるBIG5の《機械軍曹》の人こと大田から告げられた朗報に一瞬肩の力を抜こうとした神崎だが、聞き逃せなかった一点へと確認の意味も込めて話題を移す。

 

「どういったものだったんですか?」

 

『うーむ、専門的なアレコレを取っ払って言えば、海馬ランドUSAのアトラクションを誤作動させる為のもんじゃな』

 

「それだけでしたか?」

 

――あー、そちらか…………なら、まだ警戒は必須だろう。原作でもスキャンして見つからなかった代物だ。

 

 だが、大田からの説明に原作での城之内VSジークの試合でアトラクションを暴走させた代物だと把握した神崎は、未だジークの脅威が健在であることに気を張った。

 

 神崎の策――海馬にジークの試合を見せる――は、海馬の反応が薄い以上、失敗と言わざるを得ないだろう。

 

 ゆえにラフェールが相手ではジークは敗退すると考える神崎は、ウィルスの起動が止められなかった時の対処へと頭を回すが――

 

『その口ぶり……やはりか』

 

――ん?

 

『お前の懸念通り、今までの細かい牽制で色々カモフラージュしとったようだが、相手のド本命を見つけた。見つけたんだが……』

 

――見つけたの!? この段階で!?

 

 BIG5の《機械軍曹》の人こと大田の神妙な発言に神崎はその心の中で驚天動地な具合に驚く。

 

 大田の優秀さは知ってはいたが、海馬が見つけられなかったものを見つけられるとは予想していなかったのだろう。

 

 とはいえ、実際はBIG5の《機械軍曹》の人こと大田だけの力と言うよりは、元、軍事工場であるアルカトラズが丸々健在な為、KCの諸々のスペックが引き上げられている影響が大きいが。

 

「除去は難しいと?」

 

『…………うむ、ハッキリ言ってコイツを作ったヤツは天才の類だ。儂らの手に負えるもんではない――被害を抑える……くらいなら焼け石に水程度のことは出来るが……』

 

しかし、それでもなお全てを引っ繰り返すには至らない。BIG5の《機械軍曹》の人こと大田の悔し気に歯噛みするような声が事態の深刻さを伺わせる。

 

――うーん、無理なのか。原作でも海馬がメインシステムを破棄するレベルの代物だからな……

 

「海馬社長のお力ならば?」

 

『海馬なら…………どうだろうな。此処までシステムに食い込んどると、除去した時にどうなるかすら分からん』

 

 やがて神崎が一縷の望みを賭けるような提案にもBIG5の《機械軍曹》の人こと大田は通信機越しに首を振りつつ、無念さを感じさせる大きな溜息を吐く。

 

『それに儂から連絡を入れた時に海馬本人が、サブプログラムに手を加えるとの方針を固めおったから、ヤツでさえ限られた時間で事に当たるには割に合わんと判断したのだろう』

 

 当然のことであるが、BIG5の《機械軍曹》の人こと大田とて海馬にイラッとした気を向けつつも既に報告は済ませている。

 

 それらを含めて「破棄」を決断したのだと。「除去に手間取っている間にウィルスを起動させられ、全システムがおじゃんになりました」な最悪な事態は避けねばならない。

 

 それは神崎も理解できる。というか、専門的過ぎる分野の為、その手のノウハウがない神崎には「任せる」以外の選択肢がないが。だが――

 

――流石は原作で唯一、特殊能力を用いずカードを書き換えた男だけはある。だけど、これだけの能力があるのに何故サイバーテロに走るかなぁ。

 

 ジークの復讐計画が理解できなかった。

 

 KCの専門家たちを唸らせる代物を作れる癖に、破滅一択の計画を推し進める相手の精神性は文字通り「何をしでかすか分からない」恐怖がある。

 

 普通に真っ当な仕事をしてI2社に売り込みをかけた方が、遥かに海馬がライバル視するであろうことは明白だ。そうして別分野にて苦渋を味わわせた方が建設的である。

 

 他にも――例えば、「海馬ランド」の隣に「シュレイダーランド」でも建てれば海馬と思う存分バチバチと競えるだろう。勝敗も入場者数や満足度辺りに設定すればハッキリと分かり易い。

 

 

 そうして詮無きことを考えていた神崎の沈黙を「不安」と受け取ったBIG5の《機械軍曹》の人こと大田が、安心材料となるものを並べていく。

 

『基盤となるもんも貰っとるから心配はいらん。しかし、こんなものをポンと用意できる辺りヤツもまた傑物なのだと思いしらされる――流石は剛三郎の最高傑作よ』

 

「私に出来ることはありますか?」

 

『いやいや、お前に機械周りのことなど期待しとら――いや、そうだな。コイツを仕掛けた本人なら解除法を持っとるかもしれん。毒は解毒剤と共に使うもんだからな』

 

――除去プログラムがあったとしても、一度ウィルスに侵食されたメインプログラムが無事な保証はない。むしろ相手の性格から考えれば、素直に元に戻すとも思えない。

 

 もたらされた情報に色々と頭を回す神崎だが、良い案は出ない。しかし、此処でそうして考えを巡らせていた神崎にBIG5の大田は思わず問う。

 

 それは何だかんだで、剛三郎の魔の手から逃れ切った男なら、抜け道の一つでも見つけてくれるかの期待だったが――

 

『何か良い案でも思いついたか?』

 

「いえ、相手が思い留まってくれることを願うしか」

 

――今動こうにも、証拠がない。そして情に訴えて通じる相手でもない。

 

 だが、やはりと言うべきか良い案は浮かばない。平和的な解決の糸口さえも見つからなかった。

 

 しかし「願う」との言葉を聞いたBIG5の大田は過去を振り返るようにポツリと零し、最後に告げる。

 

『願う……か。神崎………………いらぬ節介かもしれんが、あまり剛三郎時代のような振る舞いは控えておけよ――今は海馬のヤツがとやかく煩いからな』

 

「……? ええ、そうですね」

 

 そんな神崎からすれば意図の見えない忠告を最後に通信はプツリ途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうした件の騒動の首謀者であるジークのデュエルは、というと――

 

 

 ラフェールの初撃を危なげなく捌き切ったジークは肩をすくめて余裕を見せつつ「ガーディアン」カードを視界に収め、呆れたような声を漏らす。

 

「よもやそんなカードで、この私を相手に大口を叩いていたとはな――私のターン、ドロー。ほう」

 

 やがて引いたカードに満足気な笑みを浮かべた後、フィールドの三女神を指さした。

 

「まずは永続魔法《女神スクルドの託宣》! 《女神ヴェルダンディの導き》! 《女神ウルドの裁断》! の三女神の力によりキミのデッキの上からカードを3枚選び、1枚をセットさせ、それを除外す――」

 

 そうすると前のターンの焼き増しのように三女神たちの杖が輝き、ラフェールのデッキの上から3枚のカードを磔とせんと動くが――

 

――くっ、また魔法カードばかり……!

 

 モンスターの除外に関する効果を持つワルキューレたちの力を活用する為のキーとなるカードは見当たらない。

 

 更に面倒なことに、ラフェールの魔法・罠ゾーンが5枚とも埋まっている為、フィールドにセットさせて除外することも叶わぬ事実に苦虫を噛み潰したような顔を見せるジーク。

 

「その顔を見るに、未来は余程悪かったようだな」

 

「減らず口を――最初のカードを2番目にして他はそのままデッキに戻せ! 《女神ヴェルダンディの導き》と《女神ウルドの裁断》の効果は発動しない」

 

「フッ、その様子を見るに私のデッキの上は魔法か罠カードという訳か。さて、装備魔法《重力の斧-グラール》が存在する限り、表示形式の変更は叶わない――どう動く?」

 

「ふん、私がその程度のカードに対し、守りを固めるとでも?」

 

 望むカードが除外できなかったとはいえ、アドバンテージを着実に広げ、調子を上げていくジークからすれば、ラフェールの問いかけなど取り合うに値しない。

 

「フィアットの効果発動。自身以外のワルキューレの数――3枚をデッキの上から確認し、その中から通常罠――《ゲットライド》を手札に加え、残りを墓地へ!」

 

 デッキのエンジンたる白馬が三度ジークの元へ駆け寄れば、当然とばかりに1枚のカードがその手に舞い込む。

 

「そして永続罠《闇の増産工場》の効果によりセクストを墓地へ送り、1枚ドロー!」

 

 お次はジークの声に今まで守備表示で攻撃する必要もなかった為、仔馬の毛並みを撫でつつ戯れていた《ワルキューレ・セクスト》が慌てた様子で帰り支度した後、消えていった。

 

「此処で魔法カード《魔法石の採掘》を発動! 手札の2枚――永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》と、罠カード《フライアのリンゴ》を墓地に送り、墓地の魔法カードを手札に加える!」

 

 最後に淡い桃色の魔法の鉱石が大地よりせり上がり、砕け散った中から――

 

「さぁ、我が手札に舞い戻り、再びその力を行使せよ! 魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》発動!!」

 

 天上からのロードが開かれ、2体のワルキューレが白馬を走らせフィールド内に現れる。

 

「天上より舞い降り、レクイエムを奏でよ! ワルキューレたち!!」

 

 片方は黄緑の長髪を揺らすワルキューレが白馬をいななかせ、

 

《ワルキューレ・アルテスト》 攻撃表示

星6 光属性 天使族

攻1600 守1800

 

 他のワルキューレにはない黄金の兜に土色のアーマー、そして大盾と、装備品からすら位の違いを見せる《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》と同じく最上級レベルのワルキューレが馬上より3体のガーディアンたちを見下ろす。

 

《ワルキューレ・エルダ》 攻撃表示

星8 光属性 天使族

攻2000 守2200

 

「『ワルキューレ』カードによって特殊召喚された《ワルキューレ・エルダ》がいる限り、キミのモンスターの攻撃力は1000ダウン!」

 

 そんな《ワルキューレ・エルダ》の眼光から垣間見えるプレッシャーに身体を緊張感で強張らせるガーディアンたち。

 

《ガーディアン・エルマ》

攻1800 → 攻 800

 

《ガーディアン・ケースト》

攻1000 → 攻 0

 

《ガーディアン・グラール》

攻2500 → 攻1500

 

「これでカビの生えたガーディアンどもは雑魚同然だ」

 

 ジークが嘲笑するように攻撃力の数値は酷く頼りないものだ。しかし、ガーディアンたちの瞳の闘志は陰る様子すら見られない。

 

「更に《ワルキューレ・アルテスト》が魔法カードの効果で手札から特殊召喚された場合、墓地の速攻魔法《時の女神の悪戯》を手札に戻す!」

 

 しかしそんな彼らへ追い打ちをかけるように黄緑色の長髪を揺らしながら掲げた剣の先にフィールドの永続魔法《女神スクルドの託宣》の青いツインテールの女神がパチンと指を鳴らせば、時の力が舞い戻る。

 

 そう、またもジークの手の内にある《時の女神の悪戯》のカードの存在。

 

「この意味が分からぬキミではあるまい」

 

「見事なハンドコントロールだな。此処からの攻防が楽しみだよ」

 

 その脅威は数多のデュエリストたちの身に刻まれているが、この場のラフェールには動揺や緊張は見られず、平静そのもの。

 

「いちいち癪に障る男だ――バトル! ヴリュンヒルデで《ガーディアン・グラール》を攻撃!」

 

 未だこゆるぎもしない相手へ目にもの見せてくれると言い放ったジークの宣言に、白馬を力強く跳躍させ、揺れる青い長髪と共に《ガーディアン・グラール》の脳天に剣を振り下ろす《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》。

 

「させんよ。墓地の罠カード《仁王立ち》を除外し、効果発動! このターン、キミは私が選択したモンスターにしか攻撃できない! 私が選ぶのは――」

 

 だが、両者の間に割って入る影が一つ。それは――

 

「――《ガーディアン・ケースト》!!」

 

「使えないモンスターを囮に、このターンを凌ぐ気か! ならば、ヴリュンヒルデよ!そいつを斬り伏せろ!」

 

 青い人魚――《ガーディアン・ケースト》が両の手で輪を作るように構え、戦乙女の剣劇に備える。だが、その攻撃力は現在「 0 」。3000越えの剣の前では塵芥に等しい。

 

「囮? 私は彼らを蔑ろにし、墓地に置くような真似などしない――《ガーディアン・ケースト》! 潔白の怒涛!」

 

「ヴリュンヒルデの剣が!?」

 

 だが、振り下ろされた《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の剣は《ガーディアン・ケースト》の両の掌から生じた激流の壁が弾き、宙を舞った後にはるか後方の大地に突き刺さった。

 

 その濁流の如き水の壁を前に武器を失った《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》は白馬の手綱を引き、距離を取らせる。

 

「貴様、何をした……!」

 

「悪いが《ガーディアン・ケースト》は相手モンスターから攻撃対象にされない効果がある。戦乙女との剣舞のお誘いは遠慮させて貰おうか」

 

 やがて苛立ち気な声を漏らすジークの元に戻った《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》は地面に突き刺さった己の剣を馬上から手を伸ばし引き抜く。

 

 そんな姿を視界に収めながらラフェールは己がカードの効果を語る中、実況席のペガサスは熱のこもった声を放つ。

 

「Oh! 攻撃対象にされないモンスターへ攻撃を強要されては、攻撃することは出来まセーン」

 

「でも、シュレイダーさんの手札にはあのカードがあるわ!」

 

 だが、シンディアの言う様にジークの真骨頂は此処からだ。己にとって不都合な結末など時を操る女神の前では如何様にも出来る程度の代物でしかない。

 

「それこそ無駄だというもの! 時の女神に愛された私にそんな小細工は通用しない!」

 

 そして発動されるは当然――

 

「速攻魔法《時の女神の悪戯》を発動! 次のターンのバトルフェイズへスキップする!これで罠カード《仁王立ち》の効果は消えた!!」

 

 時の女神の力によって周囲に時計のオブジェクトが浮かび、時を加速させる。これで魔法カード《Walkuren(ワルキューレン) Ritt(リット)》のデメリットの踏み倒しだけでなく、ラフェールを守っていた罠カード《仁王立ち》の盾すら消える。

 

 《ガーディアン・ケースト》は攻撃対象にされないが、逆を言えば相手の直接攻撃を防ぐことは出来ない。そして残りの2体のガーディアンの攻撃力では戦乙女の進撃を止めるには力不足。

 

「行けっ、ヴリュンヒルデ! 今度こそ《ガーディアン・グラール》を打ち倒すのだ!!」

 

 ゆえに次こそは、と剣を横なぎに構えた《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》が白馬を突進させた。

 

 

 

 

「かかったな――速攻魔法《旗鼓堂々》発動! 墓地の装備魔法を装備可能なモンスターに装備させる! 私は装備魔法《魔導師の力》をグラールに装備!」

 

 しかし、一陣の風が吹き荒れたと共に、力の奔流となってフィールドを駆け巡る。

 

「これにより私の魔法・罠ゾーンのカードの数×500ポイント、ステータスがアップ!」

 

「貴様の魔法・罠ゾーンには4枚のカードが……!」

 

「その通り、よって2000ポイントの強化!」

 

 すると《ガーディアン・グラール》の全身に赤い闘気が脈々と溢れ出し、その力を増大させていく。やがてそのエネルギーを右手に集中させ――

 

《ガーディアン・グラール》

攻1500 守1000

攻3500 守3000

 

「ヴリュンヒルデの効果は相手の攻撃宣言時のみ! 迎撃しろ、グラール! 英断の突撃!!」

 

 手刀として放たれた後、《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の剣を両断。返す《ガーディアン・グラール》の左拳がその盾を砕く。

 

「ぐっ!? 私のヴリュンヒルデを……!!」

 

 その衝撃により白馬諸共吹き飛ばされ、大地を転がった《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》が悔し気に地面を握るが、最後は力尽きたように消えていった。

 

ジークLP:2500 → 2300

 

 己が切り札でありエースでもある攻防一体の力を持つ戦乙女を失ったジークは心中穏やかでない。

 

 攻撃力が大幅に上がった《ガーディアン・グラール》の存在から、このターンでの決着は望めないが、僅かでもラフェールが後生大事にしているカードと共にライフへ傷を負わせるべくジークは憤りを晴らすように決断する。

 

「ならば、エルダで《ガーディアン・エルマ》を攻撃だ! ヴリュンヒルデの無念はキミの同胞の命であがなって貰おう!」

 

 そうしてジークは《ワルキューレ・エルダ》を進軍させ、攻撃力が800にまで弱った《ガーディアン・エルマ》を撃ち狙った。

 

 馬の蹄で大地を揺らし、茶の大盾と共に振りかぶられた剣が《ガーディアン・エルマ》を頭上から両断するように放たれる。

 

「甘い! 罠カード《アームズ・コール》! この効果により私はデッキの装備魔法をフィールドのモンスターに装備する! 装備魔法《月鏡の盾》を受け取れ、エルマ!!」

 

 だが、その剣撃はいつの間にか《ガーディアン・エルマ》の手の中にあった鏡の盾を両断するだけに留まり、当の目標は間一髪とばかりに僅かに後方へと弾き飛ばされていた。

 

「装備魔法《月鏡の盾》の効果により、このカードを装備したエルマはバトルする相手モンスターの攻撃力+100になる!!」

 

 しかし、追撃に移ろうとした《ワルキューレ・エルダ》の頭上からパキンと音が鳴ると、頭上から両断されたように真っ二つに割れた兜が地面に音を立てて転がる。

 

 そんな《ワルキューレ・エルダ》が最後に見たのは自身が両断した鏡の盾に左右に分かれて映る己の姿だった。

 

「おのれ、エルダまでも……!」

 

ジークLP:2300 → 2200

 

「そしてキミの《ワルキューレ・エルダ》がフィールドを離れたことで、私のガーディアンたちの攻撃力は戻る――少々私を侮り過ぎたようだな」

 

 かくして最上級ワルキューレを2体失ったジークが苛立ち気な声を漏らす中、ラフェールの宣言を皮切りにガーディアンたちは《ワルキューレ・エルダ》のプレッシャーから解放されたことを示すように肩を動かし、腕を回し、身体の調子を確かめていた。

 

《ガーディアン・エルマ》

攻 800 → 攻1800

 

《ガーディアン・ケースト》

攻 0 → 攻1000

 

《ガーディアン・グラール》

攻3500 → 攻4500

 

 

 これで互いのモンスターは3体と同数。だが、そんな最中、実況席にて芝居がかった声が響く。

 

「あの男、上手いな」

 

「それってどういうこ――? 貴方は?」

 

「俺はシーダー。シーダー・ミール――しがない(トーナメントに敗退した)デュエリスト……さ!」

 

 そんないつの間にやらいた相手に不思議そうな顔を見せるシンディアに対し、キリッとキメ顔を作りつつ、名乗るのはカードプロフェッサーの一人、シーダー・ミール。

 

 

 突如としてマイクとパイプ椅子片手に現れたデュエリストにペガサスも側に置いていた黒服の老執事、クロケッツへと確認を取る。

 

「Mr.クロケッツ、彼は?」

 

「KCにてトーメントに敗退した腕の立つデュエリストを解説役として派遣しているとのことです。大瀧様からそのようなご連絡が」

 

「オオタキ……?」

 

「ペンギンの人です」

 

「Oh! あの人デスネ!」

 

 やがて凡その事情を把握したペガサスがポンと手を叩くのを余所に自前のパイプ椅子にサッと座ったシーダーが眼前の己を降した相手について語りだす。

 

「あの盤面、先に装備カードによる迎撃を行えば、時の女神様のお力にあやかれた――何故『そう』しなかったと思――う!」

 

「確かに……どうしてなのかしら……」

 

 これは最初の攻撃で《旗鼓堂々》を発動していれば、やがて発動されるであろう《時の女神の悪戯》の効果でエンド時に自壊を回避することが出来た――というもの。

 

 だが、ラフェールが「何故それをしなかったのか」と問われれば、今のシンディアには納得のいく答えは出ない。

 

 しかし、実態はさして難しいものではないとペガサスは語る。

 

「シンディア――それは恐らくMr.ジークに《時の女神の悪戯》のカードを使わせる為デース。最初にグラールとエルマを強化しては、残りのワルキューレで突破できマセーン」

 

「あっ、本当ね! 追撃できないならターンを飛ばす必要がなくなるわ」

 

「それだけじゃない……ぜ! あの貴族様も、相手の罠は承知の上で踏み込んだのさ。《ワルキューレ・エルダ》の維持を狙いつつ、厄介そうなリバースカードを使わせる為に……な!」

 

 蓋を開けてみれば大したことのない答えではあるが、その過程こそが、読み合いこそが重要であるのだ。

 

「Yes! 2体の最上級ワルキューレを失ったのは確かに痛手デース。ですが展開能力に優れたワルキューレの性質に加え、Mr.ジークの潤沢な手札の前では守りのカードを削られたMr.ラフェールの損失も無視できまセーン!」

 

「あんなに短い間にそんな攻防があったなんて……2人とも凄い人たちなのね」

 

 そんなシーダーとペガサスの解説に感嘆の息を漏らすシンディアを余所に眼前のデュエルにおける天秤が傾き始める。

 

 

――だが、これでヤツはリバースカードを使いきった! その僅かな手札で私のワルキューレの進軍をいつまでも阻めると思わぬことだ。

 

「ふん、この程度でいい気になられては困るな。私の本当の力はこれからだ! バトルを終了し、女神コンボを発動!」

 

 ジークの内と外の声の通り、互いの手札の差は歴然――手札の数が可能性の数とまで言われるデュエルにおいて、この差は決して無視できるものではない。

 

 ゆえにラフェールの未来の手札となる筈だったカードを削り、勝利をより引き寄せるように三女神の力によって浮かび上がる3枚のカード。

 

――チッ、未だモンスターが1枚も出ないとは……!! これではモンスター除外からなるワルキューレの効果が使えない。なれば!

 

「順序を逆にして戻せ! そして魔法カードを宣言し、フィールドにセットさせた魔法カード《一時休戦》を宣言し、除外!!」

 

 だが、それらはまたもや魔法カードばかり。アテが外れたと1枚のカードを差し示し、三女神の力で消し去ったジークが打つ次なる手は――

 

「フィアットの効果! フィールドのワルキューレの数だけデッキの上を確認し、その中の魔法カード《終幕の光》を手札に加え、残りを墓地に送る!」

 

 このデュエル中に何度も発動されたなんだかお疲れ気味な《ワルキューレ・フィアット》の力により、ジークの手札に次のターンの備えが舞い込む。

 

「さらに永続罠《闇の増産工場》の効果も発動! もはや不要となったフィアットを墓地に送り更に1枚ドロー!」

 

「不要……だと?」

 

 やがて《ワルキューレ・フィアット》が一度背伸びした後でフィールドから消えていく際に発したジークの発言にラフェールはピクリと反応を見せる。

 

 それは唯の言葉の綾なのか、それとも――

 

「どうした――よもやキミも『カードへのリスペクト』だなんだと語る気か? 私にとってはカードなど道具に過ぎない」

 

 その答えは、ジークが前の一戦で戦った鮫島のことをあげつらいつつ、馬鹿馬鹿しいと肩をすくめる姿が全てを物語っているだろう。

 

「むしろ『たかがカードゲーム』に『魂』だの『相棒』だのと入れ込む方が理解できないな」

 

「私とてその考え方自体を否定する気はない。カードを道具のように扱う担い手もいる」

 

 やがて吐き捨てるように言い放ったジークだが、ラフェールは一定の理解を示した。

 

 何故なら、彼は知っている。文字通り、カードに何の愛着も向けず、力以外の全てを削ぎ落したようなデュエリストの存在を。

 

「だが生憎と、道具を蔑ろにする優れた担い手は見たことがない」

 

「ならば、光栄に思うがいい――私がその1人ということだ!」

 

 それゆえに苦言を呈するラフェールにジークは絶対の自負を返して見せた。勝利者こそが真理を語れるのだと。

 

「速攻魔法《非常食》を発動! 自身の魔法・罠ゾーンのカード――三枚の女神カードを墓地に送り、その分×1000のライフを回復する!」

 

 此処でラフェールに対し、三女神の除外が効果的に働いていないと判断したジークは別の手を打つべく魔法・罠ゾーンのカードを除けにかかる。

 

 それに対し、三女神たちもウィンク、お辞儀、軽く手を振るなど思い思いの別れの挨拶と共に煙のように消えていく。

 

ジークLP:2200 → 5200

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

「そのエンド時に速攻魔法《旗鼓堂々》の効果で装備された装備魔法《魔導師の力》は破壊され、グラールのステータスが元に戻る」

 

 そして豊富な手札から2枚のカードを選び取り、伏せたジークの宣言を合図に《ガーディアン・グラール》の身体を覆っていたオーラが消えていった。

 

《ガーディアン・グラール》

攻4500 守3000

攻2500 守1000

 

 

「私のターン、永続魔法《守護神の宝札》により2枚ドロー!」

 

 やがてジークの2枚のセットカードへ意識を向けたラフェールは引いたカードに目を向けた後、墓地を示す様に大地へと手を向け宣言する。

 

「此処で墓地の魔法カード《汎神の帝王》を除外し、その効果でデッキから3枚のカードを選択――さぁ、再び1枚を選んでもらおうか」

 

「ならば速攻魔法《帝王の烈旋》を加えるがいい!」

 

「手札に加えた速攻魔法《帝王の烈旋》を墓地に送り、魔法カード《汎神の帝王》で2枚ドロー!」

 

 そうして宙に浮かんだ3枚のカードの内、ジークが選んだ1枚がラフェールの手札に加わった先から墓地に送られ、新たな手札となって舞い込んだ。

 

「バトルだ! 《ガーディアン・エルマ》でアルテストを攻撃!」

 

 しかし特に動きを見せずにラフェールは《ガーディアン・エルマ》に短剣を構えさせ、馬上の《ワルキューレ・アルテスト》を仕留めるべく跳躍。

 

「これ以上の勝手は許さん! リバースカードオープン! 永続罠《ローゲの焔》!」

 

「エルマの攻撃が!?」

 

 だが、その空中からの剣の舞は大地よりせり上がった炎の壁によって阻まれてしまい、《ガーディアン・エルマ》は近づくことすら叶わない。

 

「我がワルキューレが、この神の炎と共にある限り、弱者は――攻撃力2000以下の貴様のモンスターは攻撃できない!」

 

「ならば行けっ! 《ガーディアン・グラール》!!」

 

 その炎の壁を突破できるのは強者のみ。ゆえに強靭な恐竜の肉体持つ《ガーディアン・グラール》が腕を顔の前で交差させ突撃し、強引に炎の壁をぶち破った。

 

「さらに速攻魔法《移り気な仕立て屋》を発動! フィールドの装備魔法を別の対象へ移し替える! エルマに装備された装備魔法《重力の斧-グラール》をグラールに装備させる!」

 

 さらに《ガーディアン・エルマ》から放り投げられた宙を舞う愛用の斧を止まることなく手に取り――

 

《ガーディアン・グラール》

攻2500 → 攻3000

 

「アルテストを打ち倒せ、グラール!! 英断の斬撃!!」

 

 突進の勢いを殺さず放たれた横なぎに振るわれた斧の一撃が白馬諸共《ワルキューレ・アルテスト》を切り飛ばした。

 

ジークLP:5200 → 3800

 

「チィッ! だが、それ以上の攻撃は永続罠《ローゲの焔》によって阻まれる!」

 

 しかし、他に弱者を阻む炎の壁を突破できるものはラフェールのフィールドにはいない為、追撃は叶わない。

 

「ならば、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

「ふん、そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》の効果でフィールドに最後に残った《ワルキューレ・ツヴァイト》を墓地に送り1枚ドロー!」

 

 互いに決定打を許さぬ状況が続く中、着実に手札を増やしていくジークは必要なパーツが揃ったとデッキに手をかける。

 

「そして私のターン! ドロー!」

 

 だが、そうして引いたカードにピタリと動きを止めたジーク。しかし、それは引きが悪かった訳ではない。

 

「フハハハハハ! やはり運命の女神は私に微笑んだようだ!」

 

 むしろ勝利の鐘を鳴らす最高の引きと言える代物だった。

 

「私はフィールドの表側の魔法・罠カード――永続罠《ローゲの焔》を墓地に送り、手札からこのカードを特殊召喚する! 輪廻より舞い降りろ! 《ワルキューレ・シグルーン》!!」

 

 やがて蹄の音を響かせフィールドに駆け付けた白馬の背にあるのは黒い長髪と藍のマントを揺らす黄金の兜をつけた重厚な紫の鎧に身を纏う年増――ゲフンゲフン、大人の魅力あふれるワルキューレが槍を天にかざす。

 

《ワルキューレ・シグルーン》 攻撃表示

星9 光属性 天使族

攻2200 守2400

 

「更にシグルーンの効果発動! 自身の召喚・特殊召喚時、墓地のレベル8以下のワルキューレ1体を蘇生させる! 舞い戻れ、ヴリュンヒルデ!! 自身の効果によりパワーアップ」

 

 さすれば天に向けた槍より一筋のイカズチが落ち、スパークが消えた後には死の国より舞い戻った《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》がリベンジを誓う様に剣を《ガーディアン・グラール》に向けながら青い長髪をたなびかせていた。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》 攻撃表示

星7 光属性 天使族

攻1800 守2000

攻3300

 

 その攻撃力は3300――装備魔法《魔導士の力》を失った《ガーディアン・グラール》では僅かに届かない。

 

「これでキミのグラールも敵ではない」

 

「だとしても、そう容易く突破させるつもりはないよ」

 

「ふん、減らず口もそこまでだ。このカードがキミを終幕へと導く――魔法カード《終幕の光》を発動!」

 

 だが、それでも動じぬラフェールに目にもの見せてやるとジークが1枚のカードを天にかざせば、空よりオーロラがカーテンのようにたなびき――

 

「このカードは払ったライフ1000ポイントにつき、墓地より1体のワルキューレを蘇生させるカード。そして蘇生させた数だけ相手は攻撃力2000以下のモンスターを蘇生できるが――」

 

 ジークのライフを光に変えて、光の道を生み出し、そのロードを白馬が駆け抜ける。

 

「生憎と私の墓地にモンスターは存在しない」

 

「――そう! よって私のみが恩恵を受ける! ライフを3000払い、墓地より3体のワルキューレを蘇生させる! さぁ、今こそ終局を告げる時だ、ワルキューレたちよ!!」

 

ジークLP:3800 → 800

 

 そうして現れるのはこのデュエル中、今のところ良いとこなしの桃色の髪を揺らすワルキューレに、

 

《ワルキューレ・ツヴァイト》 攻撃表示

星5 光属性 天使族

攻1600 守1600

 

 《月鏡の盾》によって己が攻撃を弾き返された怒りを示すように白馬の足を力強く大地に降ろさせる茶の装備に身を固めた白髪のワルキューレ。

 

《ワルキューレ・エルダ》 攻撃表示

星8 光属性 天使族

攻2000 守2200

 

 そして白馬と滑車を繋いだ戦車――チャリオットに武骨な灰の兜で目元まで隠したワルキューレが立ち並ぶ。

 

戦乙女の戦車(ワルキューレ・チャリオット)》 攻撃表示

星3 風属性 天使族

攻 500 守1000

 

「特殊召喚されたツヴァイトの効果発動! 相手モンスター1体を破壊する! 《ガーディアン・エルマ》には今度こそ消えて貰おう!!」

 

 やがて今度こそはと《ガーディアン・エルマ》へと剣を振りかぶる《ワルキューレ・ツヴァイト》。

 

「させん! リバースカードオープン! 速攻魔法《我が身を盾に》! ライフを1500払い、モンスターを破壊するカードの効果を無効にし、破壊する!! ぬぅううッ!」

 

ラフェールLP:4000 → 2500

 

「ならば、チェーンして永続罠《闇の増産工場》の効果でツヴァイトを墓地に送り、1枚ドロー!」

 

 しかし、その剣は《ガーディアン・エルマ》ではなく、ラフェールを切り裂くに留まり、またもや良いとこなしで墓地へと舞い戻って行く《ワルキューレ・ツヴァイト》。

 

 

「だが、これで《ガーディアン・エルマ》の破壊は免れた……」

 

「モンスターを守れてご満悦のようだな――ならば、その望みをかなえてやろう」

 

「……なんだと?」

 

 そうして己がカードを守り切ったラフェールに対し、ジークは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「そんな骨董品共の盾として朽ちる栄誉を与えてやるというのだ。このカードでな! 魔法カード《天馬の翼》発動!!」

 

 ジークが放つ次なる一手は文字通り、ラフェール「のみ」を打ち倒すもの。

 

「私の墓地にユニオンモンスターが存在するとき、このターン、私が選んだワルキューレたちは与えるダメージが半減する代わりにダイレクトアタックすることが可能となる!!」

 

 周囲に白い鳥の羽根が舞い始める中、ジークはフィールドの全てのワルキューレに号令をかけるように宣言する。

 

「私の墓地には『ワルキューレ』として扱うユニオンモンスター、《運命の戦車(フォーチュン・チャリオット)》がいる!」

 

 すると、宙を舞っていた羽根が白馬たちの背に集まり――

 

「もう理解できただろう。ご自慢の骨董品共の盾として消えるがいい!」

 

 白馬たちの背に翼を生成し、その身を白馬からペガサスへと変貌させていった。

 

「最後にユニオンモンスター《戦乙女の戦車(ワルキューレ・チャリオット)》を《ワルキューレ・シグルーン》に装備――ユニオンさせ、バトル!!」

 

 だが、その内の1体の白馬――否、ペガサスを2頭編成に変え、3体のモンスターでこのデュエルを終局に導く。

 

「3体のワルキューレでダイレクトアタック!! この一斉攻撃で終わりだ!!」

 

 やがて大地を駆けていた白馬たちは、空を駆けるペガサスとして、眼下のガーディアンたちを無視してラフェールに向けて殺到する。

 

 その3つの刃はたとえ与えるダメージが半減するものであっても、ラフェールのライフを削るには十分な一撃、いや、三撃となろう。

 

 

 

 だが、そんな空を駆けるペガサスたちの進軍は突如として現れた水の壁に阻まれる。

 

「――これはっ!?」

 

「私は墓地の2枚目の罠カード《仁王立ち》を除外し、効果を発動させて貰った。これで再び《ガーディアン・ケースト》の力がワルキューレたちを阻む」

 

――くっ、あんな骨董品の如きカードに一度ならず二度までも……!

 

 ラフェールの声に内心で忌々し気な声を漏らすジークと同じように空に立つペガサスの馬上から《ガーディアン・ケースト》へと視線を降ろすワルキューレたち。

 

 彼女たちの攻撃は未だに届かない。

 

「だが、《戦乙女の戦車(ワルキューレ・チャリオット)》を装備したモンスターが攻撃宣言した為、その攻撃力を500アップする」

 

 そんな中、下がった士気を盛り返すように槍を掲げて力を示す《ワルキューレ・シグルーン》。

 

《ワルキューレ・シグルーン》

攻2200 → 攻2700

 

「その程度の足掻きなど所詮はその場しのぎ――バトルは終了だ! カードを2枚セットし、ターンエンド!!」

 

 やがて空中から己が元へとワルキューレたちが戻ったと共に2枚のカードをセットするジーク。だが、その闘志に陰りはない。

 

――もはやヤツの墓地に攻撃を防ぐカードはない! 次のターンのワルキューレたちが貴様を葬る!

 

「次のターンも、ワルキューレの剣から逃げ続けられるとは思わないことだ」

 

 何故なら、このターンの攻防により、手札、フィールドのアドバンテージをジークは得ている。ライフアドバンテージの方も幾らでも都合をつける算段がジークにはあった。

 

 そう、着実に両者の実力の差が盤面に答えとして出ているのだ。

 

 此処からはターンが進めば進む程にその差は顕著になっていくだろう。

 

「私のターン、永続魔法《守護神の宝札》によって2枚ドロー!」

 

 そんな盤面上は追い詰められつつあるラフェールだが、引いたカードの1枚を視界に収めた後、フッと笑みを浮かべる。

 

「――来たか。私の墓地にモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる! 来たれ、我が翼!」

 

 やがて空の太陽を指さしラフェールが宣言すると共に、空より白い羽が舞い散り――

 

「――《ガーディアン・エアトス》!!」

 

 フワリとその白い翼で降り立ったネイティブアメリカン風の民族衣装に鳥の被り物を被った《ガーディアン・エアトス》がゆっくりと閉じられた瞳を開いた。

 

《ガーディアン・エアトス》 攻撃表示

星8 風属性 天使族

攻2500 守2000

 

「八星モンスター……多少はみれるカードを持っていたか――だが、モンスターが増えたことでヴリュンヒルデはパワーアップ!」

 

 その幻想的な面持ちに「ほう」と感心するような声を漏らすジークだが、自身のワルキューレたちに比べれば大したことはないと、その力を誇るように宣言する。

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》

攻3300 → 攻3800

 

「此処で装備魔法《女神の聖剣-エアトス》をエアトスに装備! これにより攻撃力が500上昇!」

 

 そんな《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》との攻撃力の差を埋めるべく、天より舞い降りるのは神聖さすら感じる一振りの剣。

 

 大地に突き刺さったそれを引き抜いた《ガーディアン・エアトス》はスッと剣を一振りすれば――

 

《ガーディアン・エアトス》

攻2500 → 攻3000

 

「そしてリバースカードオープン! 罠カード《力の集約》! フィールドの装備カードを全て私が選択したカードに集約し、装備させる!」

 

 《ガーディアン・グラール》の持つ斧が、《ガーディアン・エルマ》の持つ鏡の盾が所有者の手から離れ、宙に浮かぶ。

 

「私が選ぶのは《ガーディアン・エアトス》!」

 

 そして《ガーディアン・エアトス》の元へと集うが、《ガーディアン・エアトス》は手に取ることはなく、翼を広げて剣を天上に掲げた。

 

《ガーディアン・エアトス》

攻3000 → 攻3500

 

「そしてエアトスの効果発動! 自身に装備された装備カードを1枚墓地に送るごとに相手の墓地のカードを3枚まで除外し、その枚数×500ポイントこのターン攻撃力をアップさせる!」

 

 すると、《重力の斧―グラール》と《月鏡の盾》は光の粒子となってジークのデュエルディスクへと向かう。

 

「装備魔法《月鏡の盾》と装備魔法《重力の斧-グラール》を墓地に送り、キミの墓地から6体のワルキューレたちを除外! さぁ、ヴァルハラへ旅立つがいい! 聖剣のソウル!!」

 

 その光によってジークの墓地に眠るワルキューレたちが《ガーディアン・エアトス》の剣に導かれるように除外されて行き、その残り火の光が剣に収束されていく。

 

《ガーディアン・エアトス》

攻3500 → 攻3000 → 攻6000

 

「そして墓地に送られた装備カード《月鏡の盾》の効果により、500ライフを払い、このカードをデッキの上に戻させて貰おう」

 

ラフェールLP:2500 → 2000

 

 そうして攻撃力6000となった《ガーディアン・エアトス》に対し、残りライフ800のジークは不敵な笑みを返す。

 

「攻撃力を上げてきたか。だが、その程度は想定内だ! 永続罠《闇の増産工場》の効果発動! エルダを墓地に送り、1枚ドロー!」

 

 やがて手札補充の為に《ワルキューレ・エルダ》が消えていく中、フィールドのモンスターをあえて減らす選択を取ったジークは意気揚々と語る。

 

「これでキミが攻撃できるワルキューレの攻撃力の最低値は更新された。最初のバトルの時のような雑魚狙いは叶わぬと知れ!」

 

「……ならば此処で魔法カード《拘束解放波》を発動! 装備カード《女神の聖剣-エアトス》を破壊することで、フィールドのセットカードを全て破壊させて貰おうか!」

 

 明らかにリバースカードに罠があると匂わせるジークに対し、ラフェールはその挑戦に乗るように1枚のカードを発動させる。

 

 すると《ガーディアン・エアトス》の剣は光と共に弾け、その破片がジークのセットカードに降り注ぐが――

 

「私のセットカードを警戒したようだが――甘い!」

 

 それすらもジークの想定内。

 

「チェーンして罠カード《ゲットライド!》を発動! さらにチェーンして速攻魔法《非常食》をフィールドの魔法・罠カードゾーンのカードを3枚墓地に送って発動だ!」

 

 セットされたカードは全てフリーチェーンのカード。そう、これではラフェールは除去札を無駄打ちしたに等しい。

 

「これにより、速攻魔法《非常食》の効果によって罠カード《ゲットライド!》、永続罠《闇の増産工場》、装備カード扱いの《戦乙女の戦車(ワルキューレ・チャリオット)》の3枚を墓地に送ったことで3000のライフを回復!」

 

ジークLP:800 → 3800

 

 そうして大きくライフを盛り返したジーク。

 

「そして罠カード《ゲットライド》の効果で墓地のユニオンモンスター《運命の戦車(フォーチュン・チャリオット)》をシグルーンに装備!」

 

 墓地に送られたユニオンカードも、時が巻き戻ったかのようにフィールドに戻っており、ラフェールが除去カードを発動する前の状況と何も変わりない。

 

「これでキミの発動した魔法カード《拘束解放波》は不発に終わった」

 

 そうしてライフの回復、相手の除去カードの無駄打ち、更には《ガーディアン・エアトス》の効果による攻撃力の上昇も妨害したジークは得意気に語り始める。

 

 

 確かに圧倒的な攻撃力を得た《ガーディアン・エアトス》は脅威ではあるが、その攻撃力はこのターンの終わりと共に失われ、

 

「そして《ガーディアン・エアトス》でどちらのワルキューレを攻撃しようとも、私のライフは残る」

 

 《ワルキューレ・シグルーン》と《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》――そのどちらを攻撃しようとも、ジークの回復したライフを削り切るには至らない。

 

「攻撃力を一点に集中させ過ぎたようだな」

 

 さすれば当然、次のターンのジークのワルキューレたちの進軍を上昇した攻撃力を失った《ガーディアン・エアトス》含めたガーディアンたちに止める手立てはないだろう。

 

 

 そう、此処から誇り高き戦士が、仲間を一人一人失っていき、やがて最後は地に這いつくばる末路を辿るのだ。

 

 

 と、ジークが自身満々に語っているが、実際のところラフェールとしてもピンチではある。

 

 

 ラフェールのデッキはモンスターの数が酷く少ない為、1体失うだけでも大打撃だ。ゆえにジークの考えはまるっきり絵空事という訳でもない。

 

 

 

 

《ガーディアン・エアトス》

攻6000 → 攻5500 → 攻8500

 

「――なにッ!?」

 

 次のターンがあればの話だが。

 

「装備魔法《女神の聖剣-エアトス》の効果だ。このカードがフィールドから墓地に送られた時、エアトスの攻撃力を除外されたモンスターの数×500アップさせる」

 

「こ、これでは……!」

 

 砕けた筈の光り輝く剣を手に、爛々と輝く翼を広げ、天に佇む《ガーディアン・エアトス》の姿を見上げたジークは思わず一歩後退る。

 

 ジークからすれば、眼前の天使はまさに己のライフと言う名の命を刈り取る神――絶対者でしかない。

 

「バトルだ! エアトスでシグルーンを攻撃!」

 

 やがて天上より振り下ろされる光の刃が迫る中、思わずと言った具合にジークは手を突き出し、宣言する。

 

「くっ、 ヴリュンヒルデの効果発動! 相手の攻撃宣言時、守備力を1000下げることで、このターン、ワルキューレは戦闘破壊されない!」

 

 すると、その破壊の一撃の前に《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》が盾を構え、立ちはだかり、《ワルキューレ・シグルーン》の身を守らんとするが――

 

《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》

守2000 → 守1000

 

 その行為に意味はない。

 

 結局のところ戦闘ダメージを防げないのだから――だが、そんなジークの無意味な行為にラフェールは何処か嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。

 

「勝敗が決しようとも、最後まで全力を尽くすか――その意気や良し!!」

 

 正直な話、ラフェールにはジークの在り方を理解は出来ようとも、受け入れることはできない。だが、この瞬間だけは別だった。

 

「エアトス! かの闘志に私たちも応えよう! フォビデン・ゴスペル!!」

 

「迎え撃て、戦乙女たちよ!!」

 

 天より極光の斬撃が振り下ろされる中、砕け散った盾を余所に2体のワルキューレが槍と剣でその破壊の一撃を受け止める。

 

 そうしてワルキューレたちがギリギリで弾いた極光だが、その行き着く先は――

 

「互いに相容れぬ私たちだったが――」

 

 ラフェールの何処か誇らし気な視線がジークへ向かう。

 

 傍若無人を絵にかいたようなジークだったが、彼が思わず最後にとった無意味な行動の根底にあるのは――

 

 

「――キミのワルキューレを思う気持ちだけは、私もよく知るものだったよ」

 

 

 せめて己が大事にするカードは、ワルキューレたちだけは守ろうとする一人のデュエリストの姿だったのだから。

 

「ぐぅあぁぁああぁあああ!!」

 

ジークLP:3800 → → 0

 

 やがて極光がジークを呑み込んだ。

 

 

 

 






《ガーディアン・エアトス》の効果で装備魔法《女神の聖剣-エアトス》を墓地に送るとタイミング逃すのなんでなのK〇NAMIさんェ……




Q:工場長が語っていた「アトラクションを誤作動させるプログラム」って?

A:原作アニメにて城之内VSジークの対戦時に発生していたものです。今作では様々な要因から、問題発生前に見つかりました。


Q:ジークの本命のプログラムってそんなに凄いものなの?

A:あの海馬が「そんなプログラムなど俺の手で粉砕してやったわ!」ではなく、

核となる要因を遊戯が破壊した後で、サブで維持してから再起動をかけての「メインプログラムの修復」だったので、かなりの代物だと思われます。


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