マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
エ ク ゾ ー ド ・ ナ ッ コ ォ オ !!








第172話 社会人流究極奥義

 

 

 

「戦乱の世を子の代に継がせぬ為だ」

 

 

 世間から「死の商人」などと揶揄されている事実に対し、どう考えているかを問うた我々取材班に海馬 剛三郎はそう決意に満ちた瞳で語った。

 

 

 武力――つまり戦争によって、戦争をなくす。

 

 そんな何処か矛盾を抱えた剛三郎氏の主張だが、現在に至るまで人類が目を背けて来た問題に真正面から対峙した男の覚悟は本物だった。

 

 しかし、人の業は容易くは覆らない。現実はあまりに残酷だった。

 

「兵器も所詮は道具に過ぎない。なれば問題とすべきは扱う側の人間の方だ」

 

 だが、そんな中でそう語るのはKCにて数々の兵器を売りさばいてきた剛三郎氏の右腕たる大門 小五郎――彼もまた同じ理想を掲げた男。そんな二人が袂を連ねるのは必然だったのかもしれない。

 

「乱世は英雄を求めているのですよ。誰かが前に立ち導かねばならない――とはいえ、『誰か』などと他力本願な考えでは改革は果たせませんがねぇ」

 

 そしてKCの顧問弁護士たる大岡 筑前は二人の理想に明確なビジョンを与えた。立ち向かうべき壁に蟻の一穴が垣間見えた瞬間である。

 

「技術は人と共にある――儂は常々そうあるべきだと思っとるよ」

 

 そうして連なった男たちの意思を現実に落とし込むのは技術畑を一手に引き受ける工場長、大田宗一郎。彼の語る理念は愚直なまでに真っ直ぐだった。ゆえにブレない。

 

「人類はペンギンちゃんの家族想いっぷりを見習うべきですぞ!」

 

 皆とはかなり毛色が違うも、大瀧 修三の個人的な好みはさておき、平和を願うその熱意だけは本物だった。 

 

「『勝利は多兵に存す』ともいう。その理想を荒唐無稽だと笑い飛ばすのは少々惜しい」

 

 最後にそう語るのは「妖怪」とすら揶揄される老獪さを持つ企業買収のスペシャリスト、大下 幸之助。戦争という巨大ビジネスに立ち向かうとなれば、これ程頼もしい男もいまい。

 

 

 

 かくして、死の商人と揶揄されてきたKCによる人類から戦争を買い取りに動く一大プロジェクトが動き始めた。

 

 

 

 そしてその音頭を取る剛三郎氏は「祝福の夜明け」と呼ばれる日まで戦い続ける。

 

 だが、その夜明けに彼の姿はなかった。

 

 彼もまた「戦争」を成したもの――如何なる理由があれど、その咎が消えることはない。

 

 KCを義息子である海馬 瀬人に託した後、全ての責を負い表舞台から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな具合で悠然な大陸の生命を感じさせる情熱的なBGMに、計画的にクロスされた当時の声とナレーションが響く中、最後を飾るスタッフロールが流れていく様子をレインは何時もの無表情っぷりを更に際立たせながら眺めていた。

 

――私は…………何を見せられているのだろう……

 

 KCの(歪められた)歴史である。

 

 レインの「KCの歴史が知りたい」との声を受け、ツバインシュタイン博士が気を利かせて施設周りの見学を早々に終わらせたゆえの現在。

 

 そう、今レインはKCの歴史を纏められた映像を巨大スクリーンにて視聴中であった。

 

 何故こんなものがあるんだ……と困惑される方もいるだろう。しかし、これも原作改変もとい歴史改変を受けて動くであろうイリアステルに対するかく乱を目的にしたちゃんとしたものなのだ。

 

 後、BIG5たちが自分たちの偉業を懐かしむ為にも利用されている。

 

 

 そうして思わぬ形で得られた情報だが、改変された歴史の歪みへの耐性不足を抱えるレインには少々受け止められていなかった。

 

 BIG5たちなど本来の歴史では海馬にリストラされてそのままフェードアウトした人たちに過ぎない。

 

 早い話が今見ている映像は、彼女からすれば「よく分からないおっさんたちの活躍映像」に過ぎないのだ。

 

 多分に脚色されたストーリーと随所随所に挟まれるドラマパートに対し、そこそこの面白さを感じてしまうのが、なんか悔しい。

 

 

 

 

 そうして何とも言えぬ満足感と、胸中が色んな意味でいっぱいいっぱいのレインに無情の宣告を告げるかの如くスクリーンに再びおっさんが映る。

 

『私はね――ペンギンちゃんの愛らしさを通じて、自然の美しさを、尊さを、知って貰いたいのですよ』

 

『そう語る大瀧 修三の顔には文明に溺れ、自然を尊ぶことを忘れた現代社会を憂う色が見えた』

 

――……第二部……続く……の?

 

 続くよ。

 

 

 

 

 

 

 そんな具合でレインが映画鑑賞に勤しむ中、時間をワールドグランプリの初日が終わる少し前に戻せば、フリーフォールが上下する横で当然とばかりに二人のデュエリストがしのぎを削っていた。

 

 

 

 その一人は頬のこけたやせ型の長身の白い肌の男――クロノス・デ・メディチが金髪のおかっぱ頭を揺らしながら出方を伺う様に対戦相手を指さし、声を張る。

 

「ワタクシの《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》を前ーに、アナタがどう動くのか見物なノーネ!」

 

 そんな彼のフィールドには自身のエースたる《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が融合進化した馬の脚部に巨人の身体の付いたケンタウロスのような特徴を持つ歯車仕掛けの機械巨人が佇む。

 

 大地を踏みしめ、巨大な右腕を構える姿は見る者に圧倒的な威容を示していた。

 

古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》 攻撃表示

星10 地属性 機械族

攻4400 守3400

 

「ご希望とあらば、お見せしましょう! スタンバイフェイズに永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果発動です!」

 

 それに立ち向かうは軍服にヘルメットまで装着した眼鏡の青年、カードプロフェッサーの1人、カーク・ディクソンがモンスターのいない自身のフィールドへと手を突き出しながら宣言する。

 

「エクストラデッキから融合モンスター《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を見せ、《サイバー・ドラゴン》を含む機械族モンスターを任意の数、墓地に送らせて頂きます!」

 

 すると、彼のデッキから数多の機械の兵隊たちが異次元のゲートを通じ、墓地へ送られて行き――

 

「そして魔法カード《死者蘇生》発動! 今こそ出陣の時! 来るのです! 《督戦官コヴィントン》!」

 

 その中から、縦に長い帽子のような頭部を持つ赤いカラーリングの指揮官型マシンが現れ、胸に手をおき、敬礼した。

 

《督戦官コヴィントン》 守備表示

星4 地属性 機械族

攻1000 守 600

 

 

「指揮官サマのご登場という訳デスーネ……しかーし! 兵がいなければ指揮能力も意味を成さないノーネ!」

 

「ふっ、それはどうでしょう――《ファントム・オブ・カオス》を召喚! その効果で墓地の《マシンナーズ・フォース》を除外し、その姿をこのターン、写しとらせて頂くであります!」

 

 クロノスの焚きつけるような言葉に応え、カーク・ディクソンが繰り出すのは大地をうごめく姿なき影のモンスター、《ファントム・オブ・カオス》。

 

 だが、その実体なき影はボコボコと盛り上がって行き、身体の中央で狙撃銃を構え、型から巨大なアームを伸ばし、腰元のアームからナイフが伸びる巨大なマシーンへと変貌していく。

 

《ファントム・オブ・カオス》 → 《マシンナーズ・フォース》 攻撃表示

星4 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

攻4600

 

「にゃにゃ!? 攻撃力4600ゥー!? ワタクシの《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》の攻撃力を超えーた!? で、でも《ファントム・オブ・カオス》はバトルダメージを与えられないモンスターなノーネ!」

 

「そんな心配はご無用です! 《マシンナーズ・フォース》の効果発動! このカードをリリースし、墓地のソルジャー、スナイパー、ディフェンダーを呼び戻します!」

 

 1ターン限定とはいえ、ポンと出てきた攻撃力4600のモンスターに大仰に驚くクロノスだが、此処からだとカーク・ディクソンは腕を天に掲げ、宣言する。

 

 そうして真っ黒な《マシンナーズ・フォース》の姿をした影の中から這い出るのは――

 

「兵を集うのもまた指揮官の務め!! 分離し、今こそ集うのです、マシンナーズよ!!」

 

 近接用ナイフを右アームに装着した、緑の装甲を持つ人型戦闘マシンが左アームをナイフに沿えた構えを見せ、

 

《マシンナーズ・ソルジャー》 攻撃表示

星4 地属性 機械族

攻1600 守1500

 

 土色の装甲を持つ人型戦闘マシンが狙撃銃を右肩に担ぎつつ、隊列に加わり、

 

《マシンナーズ・スナイパー》 攻撃表示

星4 地属性 機械族

攻1800 守 800

 

 戦車を思わせるフォルムをした藍色の装甲を持つ重歩兵マシンが両肩の四連キャノン砲を構えた。

 

《マシンナーズ・ディフェンダー》 守備表示

星4 地属性 機械族

攻1200 守1800

 

「この布陣ゥーは!? ま、拙いノーネ!?」

 

「そして《督戦官コヴィントン》の力により――」

 

 クロノスの《督戦官コヴィントン》が号令をかければ、3体のマシンナーズたちが、空中に跳躍し、合体シークエンスに移行。

 

 

「――三 体 合 体 !!」

 

 

 空中で三体のマシンがガコン、ガコンと音を立てながら変形し、ジャキーン、ジャキーンとドッキングしていく光景はまさにロマンの塊。

 

「デッキより降臨せよ! 機甲部隊の軍神! 《マシンナーズ・フォース》!!」

 

 やがて何故かピカーと光った後、大地を砕きながら着地するのは、先程の《ファントム・オブ・カオス》が写しとった姿と全く同じ、巨大な戦闘マシーンが降り立った。

 

 だが、その装甲の色は先程の黒ではなく、緑、土色、藍色の装甲がメタリックに光る。

 

《マシンナーズ・フォース》 攻撃表示

星10 地属性 機械族

攻4600 守4100

 

「これで全ての枷は解き放たれました! バトル!! 私のライフ1000を動力に突き進むのですッ! 《マシンナーズ・フォース》!!」

 

 カーク・ディクソンLP:5000 → 4000

 

「ならば迎え撃つノーネ! 《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》!!」

 

 そうして《マシンナーズ・フォース》の肩から伸びたアームと《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》の巨腕がぶつかり、組み合って手四つ力比べと洒落込み大地が力の逃げ場を求めるようにミシミシと音を立てる。

 

 だが、互いにこのままでは埒が明かないと、示し合わせたように同時に頭突きをぶちかまし、金属がぶつかり合う音を周囲に響かせながら互いの距離が開けた後、互いに右腕を振りかぶり――

 

「マシンナックル!!」

 

「アルティメットェ・メガ・パウンドゥッ!」

 

 二つの拳が激突した。その地点を起点に突風が舞う。

 

 

 

 そうして二体の巨大マシンが轟音を響かせながら殴り合う光景を少し離れた場所にて缶コーヒー片手にベンチに腰かけながら観戦するのはBIG5の《深海の戦士》の人こと大下。

 

 やがてなんとなしに自身の近くの柱に向けて声を零す。

 

「盛況だな」

 

「それは何よりです。これならば海馬社長にもご満足して頂ける結果が得られるかと――それで何を掴んだのですか?」

 

 その柱の影から振り向くことなく言葉を返すのは如何にも「予定をチェックしています」とばかりに手元の手帳をパラパラとめくる神崎の姿。

 

 BIG5の《深海の戦士》の人こと大下からの呼び出しに応じたものの、人気がまばらなものの開けた場所だったゆえに「おっさん二人が並んで座る」という悪目立ちしそうな行為を避けた為、こうしてスパイ映画っぽいことをしている有様だ。

 

 

 しかし、大下は気にした様子もなく、視界の先で殴り負けた《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》が地面を削りながら倒れ伏す姿に「ほぅ」と小さく息を漏らす。

 

「大下さん?」

 

 神崎の声など聞こえていないかの様相だが、《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》の効果で蘇生された歯車仕掛けの巨人たる《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が罠カード《競闘-クロス・ディメンション》の効果で一時的に除外されている光景を見収めた後に肩をすくめて見せる。

 

「そう急くこともないだろう。このデュエルの行く末を眺めてからでも遅くはあるまい」

 

「私のような若輩の身では、そのような余裕など、とてもとても……」

 

 だが、ビビりな神崎からすれば怪しまれる行動は可能な限り控えておきたいゆえにすぐさま本題に入ろうとするも、対する大下は大きく溜息を吐く。

 

「時は金なり――か、相変わらずの仕事人間だな。大瀧ほどとは言わんが、キミも少しは羽目を外したらどうかね」

 

「羽目を外すとすれば、この大会を無事終えた後かと」

 

「やれやれ、キミの『遊び』への無頓着さは玉に瑕だよ、全く――では本題に入ろうか」

 

 だが、やがて根負けしたように残った缶コーヒーを一息に飲み干した大下は視界に映る罠カード《競闘-クロス・ディメンション》による除外から帰還したことで攻撃力が倍化された《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が怨敵である《マシンナーズ・フォース》をクロスカウンターで殴り飛ばす光景を尻目に自身の伝手で探り、調べた内容を並べ始める。

 

「色々探ってみたが当初の想定通り、KCに怨みを持つ者の犯行だろう――が、その中で大きく動ける連中の大半はキミの『土産』が利いている。腹が膨れている内は大人しい筈だ」

 

 そうして語られるのは今回のクラッキング騒ぎの犯人像の絞り込み。

 

 KCに恨みを持つものは数あれど、実行に移すとなると越えるべきハードルはそれなりに多い。

 

 そして実行に移したが最後、海馬の在り方からKCを潰す気で動かねば逆に潰される可能性を多分に含んでいるのは明白。

 

 そんなリスクを負うくらいなら一応の表面上は平和的なスタンスを取る神崎などからアプローチした方が余程建設的だろう。

 

「それに時間不足とはいえ、海馬に二の足を踏ませたとなれば、数は更に限られる」

 

 そうして数を絞った中で、「ソリッドビジョンシステム」を組み上げた海馬の頭脳に比肩しうるとなれば、更に数は絞られる。

 

「秘密結社イリアステルや、パラディウス社を隠れ蓑にしたドーマの介入も考えたが、それにしては打つ手打つ手に個人的な感情が強すぎる」

 

 可能性の一つとしては超巨大組織による物量押しが考えられるが、大下はそれを否定する。これは極めて個人的な「復讐」だと。

 

 なれば、海馬に比肩しうる「個人」の範囲ならば――

 

「現実的な可能性を述べるのなら、I2社の双星と名高い天馬兄弟」

 

 I2社の天才兄弟の二人。遊戯王RでもKCのネットワークを完全掌握する程の手腕の持ち主だ。

 

「血気盛んに多方面へ手を伸ばす万丈目グループの万丈目兄弟――おっと、今は三兄弟だったか」

 

 此方は畑違いではあるものの、政界、経済界に強い影響力を持ちつつある2人。なお3人目である末っ子は未だひな鳥未満な為、それは脇に置いておこう。

 

「後は経営が傾き気味なシュレイダー社の舵を取る実質的トップのジークフリート・フォン・シュレイダー。軍事産業からアミューズメント産業へ転身を図ったが今のところ順調とは言えんだろうからな」

 

 過去の剛三郎時代にシュレイダー家の神童だの秘蔵っ子だのと噂されていたと大下は思い起こす。とはいえ、今現在はそこまで名は聞かないが。

 

「他は北欧の小国ミズガルズ王国も怪しいと言えば怪しいところだ。KCが軍事から撤退したことで技術提供の話が水泡と帰したことは面白くあるまい」

 

 此方は王家の発言力が非常に大きい一例だ。「個人的感情で大きく動ける相手」とも言える。

 

「残るは影丸……はないな。あの老人が求めるのはKCのアミューズメント部門ではなく、キミの持つ医療部門の方だ。こんな回りくどい真似はしないだろう」

 

 そうして語り切った大下を余所に眼前のデュエルは永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果で呼び出された《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の効果で連鎖的に空っぽになったカーク・ディクソンのフィールドが物寂しい有様だ。

 

「まぁ、こんなところだ」

 

「大下さんはどうみますか?」

 

「質問を返して悪いが、キミの方はどうみるね?」

 

 下手人の正体がジークと知っていても、そのまま言葉にする訳にも行かない神崎はカモフラージュの為の手帳めくりの手を止めてそれとなく問うが、丸々打ち返された言葉に僅かに返答に詰まる。

 

「……シュレイダー社が怪しいかと」

 

――シモベの目撃情報から、ジークだと分かってはいるのだけれども。

 

 とはいえ、情報元を明かせない以上、結論ありきの答えをあたかも感覚派っぽく返すしかない神崎。こういうところが誤解の元である。

 

「だろうな。ペガサス・J・クロフォードがキミに疑念を抱いているようだが、恋人の恩人である事実がある限り、こういった強硬手段には踏み切らんだろう」

 

 その答えに満足気な表情を見せる大下は軽い調子で語る。

 

「万丈目グループの現当主もあの兄弟の手綱を握れぬ程には耄碌していまい――そしてミズガルズ王国のトップは無類のデュエル好きとくれば、こんな真似はしまい」

 

「では、その心は? 消去法という訳でもないのでしょう?」

 

「無論だとも」

 

 やがて空っぽのフィールドから魔法カード《晴天の霹靂》によって突如現れた2体目の《マシンナーズ・フォース》が《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》へ逆襲のマシンナックルをぶっ放したタイミングで大下の手によりベンチの上に封筒が置かれた。

 

 

 その瞬間に神崎の手元がブレ、何時の間にやらその手元に収まっていた封筒の中身の資料をパラパラとめくれば――

 

「これは……ジーク・ロイドとレオン・ウィルソン名義の大会出場記録?」

 

「シュレイダー家の兄弟は偽名を使いお忍びで大会に参加する趣味があったようだ」

 

 神崎の言葉を肯定するように大下の注釈が入る。

 

「そして今回もまた何時ものように偽名でのエントリーを狙ったようだ……が、パラディウス社が直々に招待状を送ったお陰で無為に帰したがね。だが、キャンセル料とてタダではないだろうさ」

 

 神崎がダーツを演じ、パラディウス社名義で招待状を送ったゆえに行われていなかったと判断した裏工作の痕跡を大下は入手していた。

 

 とはいえ、これだけではサイバー攻撃との関連性を直接結びつけるには弱い。

 

「彼ら兄弟は傾く自社の絶好の売名チャンスを不意にしようとした――実に怪しいじゃないか」

 

 しかし、疑う材料としては申し分なかった。だが、此処で神崎はガクリと脱力するように力なく零す。

 

「初めから絞りこんでいたと……意地が悪いですね」

 

「なに、忌憚のないキミの意見を聞いておきたかったのだよ」

 

 大下は初めから「ジークが怪しい」と当たりを付けていたにも拘らず、神崎への報告の際に余分な情報を混ぜ込みつつ試すような真似をしたのだ。肩も落ちよう――当人はどこ吹く風だが。

 

「シュレイダー社は十中八九黒だろう。叩けば埃が出る筈だ――とはいえ、此方にもそれなりのリスクはあるがね」

 

「なら――」

 

 やがて神崎から一つの提案がなされる。とはいえ、その内容は――

 

 

 《マシンナーズ・フォース》の拳を墓地の罠カード《競闘-クロス・ディメンション》を除外することで大地を削りながらギリギリで耐え、膝をついた《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が残った力を振り絞って立ち上がる駆動音に掻き消され、大下以外には聞こえていない。

 

 

「――と、こういったものはどうでしょう? お願いできますか?」

 

「ふむ、それならば此方の被害は最小限に抑えられる……か。大岡の手回しが活きるな。私から伝えておこう――キミはどうするね?」

 

 神崎の願い出に顎に手を当て考える素振りを見せた大下はBIG5の《ジャッジマン》の人こと大岡へのコンタクトを予定に組み込み確認を取る。

 

 この策に対し、当人はどの立ち位置で動く気なのかと。

 

「私は……最後の悪足掻きの準備をしようかと」

 

 しかし、神崎から零れた「悪足掻き」とのフレーズに大下は呆れたように鼻を鳴らす。

 

「フッ、相変わらずの平和主義か。仮にもテロリズムの一線を越えた相手にする提案とも思えないがね」

 

「ですが、取返しの付かない一線はまだ越えていない。銭勘定でギリギリなんとかなる範囲です」

 

 大下が言外に「キミの悪い癖だ」と語るが、対する神崎はそのスタンスを崩すつもりはなかった。

 

 今の段階で終息することが出来れば、バトルシティのような取りこぼしは最小限に抑えられるだろうと。

 

「大団円を迎えられるのなら、其方の方がいいでしょう? では、これで」

 

 そんなガラでもない甘っちょろい理想論をうそぶいた後、神崎はこの場を後にする。

 

 最後にベンチ越しにすれ違ったその背を見送った大下はその背中が見えなくなった段階で小さく息を吐いた。

 

「賽は投げられた――と言った所か」

 

 そう何処か感慨深げな大下を余所に、眼前のデュエルは速攻魔法《星遺物を巡る戦い》によって一時的に除外から帰還した《マシンナーズ・フォース》と罠カード《死魂融合(ネクロ・フュージョン)》によって融合され、瓦礫を押しのけ転生した《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》が再び殴り合う。

 

 

 

 それは今回の一件も、彼らのようにどちらかが倒れるまで終わらないのだと示している様にも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………下見は……済んだ」

 

 此処で舞台はKCに戻り、熱いおっさん推しの自伝映像をこれでもかと言う程に見せられたレインはらしからぬ程に重くなった足取りで帰路についていた。

 

 夕焼けに鳴くカラスの声がなんともいえぬ雰囲気を醸し出す。

 

 

 なにせ、当初の目的であったKCの歴史から内部情報を探る策はあまり芳しくなかったのだから。

 

 だが、収穫がなかった訳でもない。菓子類以外でレインが一番目を引いたのはツバインシュタイン博士の案内で足早に済ませた施設周りの見学の際に通った通路の一つ。

 

 

 その周辺施設の作りを鑑みて僅かに見えた立地の不自然さ。

 

 そして壁しかない筈の場所にて、肉眼では殆ど分からない程に僅かに擦り減った床――まるで定期的に誰かが壁の前で足踏みしたかのように見えた床への違和感。

 

 

「後は……あの人の……モーメントの反応が……手掛かりが、見つかれば……」

 

――みんな……一緒に……

 

 か細い希望の糸を掴んだレインが見定めるのはかつての光景。

 

 

 

 

 全ては自分たちの創造主たるZ-ONEの為に、レインは戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてワールドグランプリの初日の行程が完全に終え、夜も更けた頃――管制室と思しきモニターが立ち並ぶ部屋にて、海馬は一人、モニターに向けて簡潔に告げる。

 

「俺だ。手を貸せ」

 

『それが人にものを頼む態度かな、瀬人?』

 

 そのモニターから音声のみが響き、呆れた様子を感じさせる声の主は乃亜。

 

 他の業務の合間だったとはいえ、自身が見つけられなかった代物を見つけてみせたBIG5の《機械軍曹》の人こと大田からの報告を受けた海馬の脳裏に真っ先に映ったのはジーク――ではなく、乃亜だった。入れ知恵したのだろうと。

 

 受話器越しにも分かる不遜な態度を見るに当たりのようだ。不慮の事故さえなければKCを継いでいたと評される乃亜ならば、この程度は当然のように熟すことは明白。

 

 だが、下手人への反撃に対して朗報がないとなれば、海馬とて現状を打破する手を打たねばならない。

 

 ゆえの「手を貸せ」との言葉だったが、乃亜の反応は芳しくなかった。しかし、海馬とて想定の範囲である。

 

「ふぅん、良いのか? このままKCを虚仮にされたままで――貴様も手を焼いているのだろう?」

 

『そのセリフ、そっくりそのまま返したいところだけど、確かにこのままじゃ面白くないね』

 

 現在、後手に回っている事実が、後れを取っている事実が、海馬と乃亜――水と油な二人を掛け合わせる。

 

『いいだろう。一時休戦と行こうじゃないか』

 

 それは犬猿の仲だった海馬義兄弟が轡を並べた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間はグルッと巡り、ワールドグランプリ二日目。海馬ランドUSAにマイク越しの声が響く。

 

「さぁ、さぁ、さぁ! 本日もデュエル日和の晴天模様! なればワールドグランプリ二日目!! デュエリストたちだけではなく、私たちも負けじと! ドンドン盛り上げて行きましょー!!」

 

 

 

 そんな野坂ミホの放送をBGMにブルーアイズ像の前でポツンと立つ城之内へと駆け寄る人物からの声が響く。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「よぉ、静香! 牛尾から聞いたぜ! 昨日の1回戦、惜しかったんだってな! 後、応援行けなくて悪い……」

 

「ううん、お兄ちゃんも試合があったんだからしょうがないよ。それに応援に行けなかったのは私も同じだから……」

 

 その声の主は城之内の妹、静香。初日は彼女も試合があった為、互いに応援に行くことが出来なかった二人だ。

 

 ゆえに二日目からは一緒に試合観戦しようとの話になり、待ち合わせしていたのである。

 

「…………あー、そうだな! なら、この話は止め止め! 北森――さんも静香のことありがとな!」

 

 そうして暗い話題を一蹴した城之内は静香を此処まで送り届けた北森に礼を言うが――

 

「い、いえ! このくらい、な、なんてことないです! ――あぁっ、もうこんな時間!? 早く会場に行かないと……! それでは静香さん、城之内さん、大会中は色々催しものがあるとのことなので、楽しんでいってください! で、では!」

 

 当の北森はアワアワと距離感に戸惑った後、慌ただしい様子で最後にペコリと一礼して足早に去って行った。

 

「おう! ――って、行っちまったな。なんか用事があったんなら悪いことしちまったかな……」

 

「確か、同僚のみどりさんの応援に行くって言ってたよ。私も一人で大丈夫って言ったんだけど、心配だからって送って貰えたの」

 

 その背を見送った城之内が、つい話し込んでしまった件を申し訳なさそうに後頭部をかくが、静香からの情報に首を傾げる。覚えのない名だと。

 

「みどり……さん? 同僚ってことはKCのヤツだよな?」

 

「うん、私の師匠の一人だよ、お兄ちゃん! とってもデュエルが強いの!」

 

「へー、そうなのか! なら、遊戯たちともその内デュエルするかもな! そん時は両方応援させて貰うぜ!」

 

 やがてそんな具合に静香とたわいのない話をしながら、遊戯たちの元へと歩を進める城之内。

 

 その談笑はレベッカの第一試合が始まっている光景をモニターで見つけ、大慌てするまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして平和な様相を漂わせながら始まったワールドグランプリ二日目だが、その平穏を崩すように己の計画を押し進めるジークは弟であるレオンハルト――レオンの元に歩を進めていた。

 

 

「――ぐふぉあっ!?」

 

 だが、そんなジークに対し、少女漫画でよくありそうな曲がり角での接触事故が襲い掛かる。

 

 くの字に身体を曲げた後に己の持ち物を巻き散らしながら膝をつくジークに対し、声と共に手が差し伸べられた。

 

「おっと、大丈夫ですか? 躱しきれず申し訳ない……」

 

「気を付けたまえ――貴様は!!」

 

 ダメージが膝に来たのか咄嗟に立てないジークに申し訳なさそうに差し伸べられた手の持ち主は案の定、神崎。

 

 彼の身体能力ならこの程度の接触事故を躱すことなど造作もないことを考えれば、意図的にぶつかったであろうことは明白だ。

 

「これはシュレイダーさん、お久しぶりです。前日の試合は残念でしたね」

 

「黙れ! 貴様のような臆病者に労われてなるものか!」

 

 にも拘らず白々しくとぼけてみせる神崎だが、対するジークは嫌な顔を見たと差し出された手を振り払う。

 

 そんな辛辣な対応にたじろいで見せた神崎は代わりとばかりに接触事故の際に散らばったジークの薔薇やカードなどを拾っていくが――

 

「これはお手厳しい――これで全部……ですね。おや? このカード……テキストがおかしいですよ?」

 

 そうして拾い終えたジークの持ち物を手渡す際にあたかも偶然目に入ったかのように1枚のカードに話題を移す。

 

 それは黄金の城が描かれたカード。だが、そのテキスト欄にはあり得ない文字が見えた。

 

「グールズ騒ぎの影響で出回った偽造カードの回収もまだ完全には済んでおりませんし、こういった大会の際は気を付けないといけませんね」

 

「余計な世話だ!」

 

 ゆえにそのカードを「偽造カード」であり、なおかつ「偽物を掴まされた」と定義づけて忠告染みた言葉を混ぜた神崎だが、ジークは語気を荒げながら件のカード諸共ふんだくる。

 

「これは失礼。既にご存知のことでしたか」

 

「ふん! 悪いが先を急いでいるものでね。これで失礼させて貰おう!」

 

「少々お待ちください、シュレイダーさん。実は貴方に折り入ってお頼みしたいことがあるのですが……」

 

「……急になんだね?」

 

 訝しむジークに対し、神崎は努めて温和な様相を見せつつ本題をポツリと零す。

 

「止めにしませんか」

 

「一体なんの話かな?」

 

 だが、その発言は文字通り「どうとでも取れるもの」だ。ジークの瞳に警戒の色が宿る中、神崎は言葉を選んだ事実を隠すように笑顔で人差し指を立てて返す。

 

「このワールドグランプリで起きた騒動の件です」

 

「大会での情報開示の中にせせこましく小さく混ぜ込んだ件のことかね」

 

「人聞きの悪い――あれは色々と立て込んだゆえですよ。しかし、そんな小さな案件だというのによく覚えておられましたね」

 

 言外に「疑っている」と評する神崎だが、ジークは揺るがない。

 

――それで揺さぶりのつもりか? つくづく底の浅い男だ。

 

「なに、この失敗の許されない催しとくれば、そのような不祥事など海馬の影に隠れる臆病者ならば揉み消すと思っていただけに印象に残っただけだとも」

 

 内と外とで嘲笑を見せつつ、挑発的にジークは己が身の潔白を示して見せる。

 

「まるで犯人扱いするような真似は止して貰いたい。それとも私が下手人だとでも言う証拠でもあるのかね?」

 

――ある訳がない。ネットワークに私へと繋がる痕跡を残すようなヘマはしていないのだから。

 

 そう、ジークの語るように表に出てくるような証拠はないのだ。どれ程までに相手を下手人だと結論付けても、明確な証拠がなければ所詮、唯の言いがかりに過ぎない。

 

 

「……では仮定の話になりますが、このままでは双方ともただでは済みません」

 

 ゆえに方針を変えた神崎の姿をジークは内心で嘲笑う。

 

――やはりハッタリか。この程度で私の影を踏めると思っているのか? 愚かな。

 

 そんなジークの内の嘲笑を余所に神崎から提案されるのは――

 

「ですので、此処で手打ちといきませんか? 此方も相応のものをご用意します」

 

 停戦の申し出である。何処からか取り出した書類に並ぶ儲け話を土産に今回の事件を強引に終わらせたいのだろう。

 

「争わずに済む道があるのなら、穏便に済ませることが出来るなら、私は其方の道を選びたい」

 

「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい――仮に私が下手人ならば、そんな腰抜けの理屈でなびきはしないがね」

 

 しかし、続いた神崎の提案はジークの言う様に「馬鹿馬鹿しい」限りだ。

 

 ハッキリ言って悪手以外のなにものでもないだろう。テロに対し、要求を呑むという行為がどんな意味を持つかなど論ずるに値しないまでに明確である。

 

「どうか、お願いします」

 

 しかし愚かなままに深々と頭を下げた神崎に返すジークの言葉など一つしかない。

 

「くだらない――時間の無駄だったな」

 

 ゆえにそんな失笑交じりの言葉と共にこの場を足早に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてジークがいなくなった後、下げた頭をゆっくりと上げた神崎は困ったように小さく息を吐く。

 

「…………無理だったか」

 

――海馬社長以外は基本眼中にない人だからな……とはいえ、彼の計画は万が一にでも成功されるとデュエルモンスターズが根底から瓦解しかねない可能性もある。

 

 この一手を打った当人も実を結ぶ可能性は低いと考えていた為か、あまり堪えた様子はない。

 

 そもそも、いくら海馬が擁するKCに勤めているとはいえ、大した接点もない神崎が頭を下げたところでジークが止まる筈もない。

 

 ジークを止めたいのならば、海馬が「お前の勝ちだ、ジーク――どうか慈悲をくれ」と頭を下げるくらいしないと無理だろう。つまりは実質不可能だ。

 

 

――仕方がない。やれるだけのことはやっておこう。

 

 ゆえに失敗は失敗だと、切り替えた神崎は携帯電話片手に番号をプッシュ。

 

 

「あっ、大下さんですか? はい、例の件なんですが――――はい、予定の変更は――ええ、特になく――」

 

 頼れるKCの幹部メンバー、BIG5に連絡を入れたかと思えば――

 

「お久しぶりです、万丈目様。今回お電話させて頂いたのは念の為にお耳に入れておきたいことが――」

 

 返す刀で新たな番号をプッシュし、電話越しにペコペコと頭を下げる神崎。

 

「ご無沙汰しております、ガラム様――――あの会合の件でしたら、ご安心を。穏便にことは終えましたので――全くです。まさかかのドーマに目を付けられるとは思っても―――いえ、今回は少々お騒がせしてしまうかもしれないと、ご連絡させて――」

 

 そしてまた別の番号へと連絡をかけ、またも平謝り。

 

「ご――――これは……アナシス様も変わらずご健在のようでなによ――――」

 

 電話をかける度に謝っている神崎の謝罪ロードは止まらない。

 

「ようやく繋がりました。実は少々―――――」

 

 そうして代わる代わる様々な相手に謝り倒す神崎。次なる一手の全容は窺えないが、どうやら大人の絆パワーで立ち向かう――訳ではなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎のザルな追及を余裕を持って回避したジークは第二試合の前にデッキを確認していた弟レオンの背に声をかける。

 

「レオンハルト」

 

「あっ、兄さん!」

 

 尊敬する兄の姿にデッキに向けていた視線を上げ、嬉しそうに駆け寄るレオンの頭をジークはそっと撫でながら語る。

 

「よく初戦を突破したな、レオンハルト……信じていたよ。流石我がシュレイダー家の一員だ――父上と母上も喜んでいる」

 

「父さんと母さんが!?」

 

「勿論だとも。そして次なる戦いに赴くお前に、この兄からのプレゼントだ」

 

「ボクの為に……ありがとう、兄さん!」

 

 やがてジークから手渡された黄金の城が描かれた1枚のカードを大事そうに受け取ったレオンは優秀な兄と家族から期待されている事実に高揚感を覚えつつ、カードに視線を落とす。

 

「こんなカード見たことない……」

 

「お前の為に手に入れたのだよ――レオンハルト、そのカードを引いた時は遠慮なく使うのだ。きっと勝利の女神がお前に微笑むことだろう」

 

「はい!」

 

 みたこともない珍しいカードであれば、入手に多大な労力がかかるだろうことはレオンにも分かる。

 

 ゆえにそこまでしてくれた兄の贈り物をデッキに入れない選択肢はレオンにはなかった。

 

「ボク、兄さんの分まで頑張るよ!」

 

「お前の勝利を信じているよ」

 

 そうして兄の期待を背に、会場へと駆けて行ったレオンと、それを見送ったジーク。

 

 

 

 そんなレオンを会場で待ち受ける対戦相手はレベッカ。観客席の表の遊戯の姿に大きく手を振った後、レベッカはレオンに対峙する。

 

「やる気十分って感じね!」

 

「はい、今日は負けられない理由が一つ増えました!」

 

 一見するだけで、気力に満ち溢れたレオンのコンディションはバッチリであろうことは明白。だが――

 

「負けられないのは私も同じよ!」

 

 対するレベッカも大切な人たちの前で情けないデュエルは見せられない。

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 そうして二人の天才児の闘志が揺るがぬままに、戦いの火蓋は落とされた。

 

 

 

 

 だが、そんな光景を眺めるジークはほくそ笑む。

 

「対戦相手はアメリカが生んだ天才少女――現デュエルキングに比べ、ネームバリューは遥かに劣るが、仕方あるまい」

 

 何故なら、ジークのKC転覆を成す為の究極の一手は既に放たれた。

 

「フフフ、デュエルの勝敗などどうでもいい。最後に私が勝利者となりさえすれば、何の問題もない」

 

 もはやジークが何もせずとも、砂の城が崩れるが如く、破壊の流れは止まることはない。

 

「ククク、ハハハッ! 見ているがいい、海馬! キミの築き上げてきたものが崩れる瞬間を!!」

 

 そう、全ては己が掌の上だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――其方の捜査局へ情報提供したくお電話させて頂きました――――はい、その事件です。お伝えしたいのは――――」

 






もしもしポリスメン?



Q:原作では決勝――というか、KCグランプリに優勝して遊戯とデュエルすることになってからジークはレオンにカードを渡していたのに、何故このタイミングになったの?

A:今作ではジーク自身が大会序盤で敗北したので、レオンが最後まで勝ち抜けるとは信じ切れなかったゆえに、早めに仕掛けました。神崎とのやり取りのせいで1回戦は逃しましたが。


BIG5の《深海の戦士》の人こと大下が観戦していた――
~今作のカーク・ディクソンのデッキ~
彼の切り札たる《マシンナーズ・フォース》を呼び出すことに全力を賭したデッキ。

合体前マシンナーズの属性・種族・レベルが揃っているので魔法カード《同胞の絆》で強引に並べて、次のターンで合体だ! えっ? 次のターンまで生き残れない?

でも大丈夫! みんな大好き永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》からの《キメラテック・オーバー・ドラゴン》チラ見せを交えて一式墓地に揃えてしまえば

《ファントム・オブ・カオス》さんのお力で《マシンナーズ・フォース》の名称をコピー!

生き残った《督戦官コヴィントン》の効果で
からの~分離! からの再合体!! 《リミッター解除》の自壊回避に再分離! からの再々合体! からのエンド時に爆散する《督戦官コヴィントン》!

巨大ロボの合体・分離シークエンスは最高に熱いぜ!

えっ? 《督戦官コヴィントン》すら生き残らねぇよ、って?

でも大丈夫! そんな状況ならが魔法カード《青天の霹靂》の発動条件を満たせるぞ! これで召喚条件無視して《マシンナーズ・フォース》が降☆臨!

相手のエンド時にデッキに戻るのデメリットも速攻魔法《星遺物を巡る戦い》で一時的に除外して踏み倒すんだ!

さぁ、今こそ究極嫁すら超えた4600ポイントの脅威の攻撃力を叩きつけてやれ!!( ´∀`)bグッ!

でもライフ4000環境だと《マシンナーズ・フォース》の攻撃時のライフコスト1000が辛い……(´;ω;`)ブワッ


ちなみに――
クロノス先生のデッキはかなり普通の「古代の機械(アンティーク・ギア)」なので割愛。積極的に融合していく軸なのが特徴といえば特徴。


巨大ロボのぶつかり合いは最高だぜ!( ´∀`)bグッ!



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