マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
国 家 権 力 ナ ッ コ ォ !!





第174話 魂の灯火

 

 

「ぐふふふふ! いいですねぇ、いいですねぇ! こうも明け透けに公表するとは予想外でしたが、それはそれで良い絵になる!」

 

 試合会場にて、海馬との(一方的な)因縁を語るジークをモニター越しに眺めるBIG5の《ペンギン・ナイトメア》の人こと大瀧は海馬ランドUSAの情報を管理するモニタールームにて下卑た笑い声を漏らしながら、悦に入っていた。

 

「さぁさぁさぁ! 海馬ランドUSAの各地のモニターだけではなく、文字通り全世界に! この一大ニュースをお伝えし続けなさい! デュエルを穢す不届きものに『正ェ義』の鉄槌をくだすのです! ぐふふふ……!」

 

 とはいえ、部下に檄を飛ばしているように仕事の方もきっちり熟している。

 

 大瀧の役目は「偽造カードが使用された場合、その件とジークの関連性を大々的に広めること」――これにより相手を「明確な犯罪者」と定義することで各種機関への手続きをスムーズに行う手筈だった。

 

 状況如何ではアトラクションへのハッキングの件にも触れる予定ではあったが、思った以上にジークが現在進行形でアレコレ暴露してくれている為、大瀧の手腕もへったくれもない。

 

 そんな相手の愚行だが、大瀧とて一応ジークが此処まで明け透けなスタンスを示す意図は理解できる。

 

「大方、自社の力を誇示する為の捨て身の戦法でしょうが、少々はしゃぎ過ぎましたなぁ」

 

 KCのソリッドビジョンシステムが破壊されれば、諸々の罪状でジークが捕まったとしても、「KCを完全に手玉に取った力」を欲する人間は星の数ほどいる事実は無視できない。

 

 誰だって、我がとんでもなく強い海馬よりも、我の強さがまだマシな方で、なおかつ明確な手綱(犯罪歴)のついたジークの方が利用しやすかろう。

 

「ウィルスプログラムに手が出せずとも、計画の全容さえ掴んでしまえば、取れる手は幾らでもあるというもの――ぐふふ」

 

 しかし全ては皮算用。とある事情ゆえにもの凄く早い段階でジークの計画の全容が発覚したゆえに、怒涛の勢いでジークへのハシゴというハシゴが外されまくっている以上、論ずる意味すらない仮定だ。

 

 

 仮に上述に示したように「KCのソリッドビジョンシステムがおじゃんになった」としても、既に「家族の今後の安否」という首輪を獲得した以上、ジークに選択肢はないに等しい。

 

 ゆえにジークが他を頼った段階で――――いや、これ以上は止そう。

 

「ですが、そろそろ悪を挫くヒーローたちの姿をお送りしないといけませんねぇ!」

 

 どのみち意味のない仮定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は大会会場のドームにて戻り、ジークから語られたサイバーテロの情報にざわつき始める観客。

 

 詳しい状況は理解できずとも、ソリッドビジョンシステムの一大事な程度は分かる為、今後のデュエルがどうなってしまうのかと不安気な様子。

 

「直ぐにアンチウィルスプログラムを作動させろ!」

 

 だが、海馬の社員への一喝がそんな喧噪を吹き飛ばした。なんだかんだで自信に溢れる存在感のある人間の所作は良くも悪くも大衆に大きく影響を与える。

 

 

 

 

 そうして希望の象徴がデザインされていく一方で、知らぬまま引き金を引いてしまったレオンは呆然自失な様相で零す。

 

「そんな……テキストデータの書き換えだなんて……」

 

「さぁ、レオンハルト! 今こそシュレイダー家の力を示す時だ!」

 

 そんな彼の背に実の兄の煽り、鼓舞するような声が聞こえるが――

 

「ジーク!」

 

「遊戯さん……?」

 

「王様の遊戯……!」

 

「これ以上、デュエルを! デュエリストの魂を! 穢すような真似は止せ!!」

 

 観客席からデュエル場に駆け下り、表の遊戯から人格交代した闇遊戯の声が響いた。

 

 そう「もうこんなことは止めろ」との意味を含んだ発言だったが、ジークはそれを鼻で嘲笑ってみせる。

 

「デュエリストの魂だと? そんなものが何になる! デュエルなどと言っても所詮は児戯に過ぎん!」

 

「お前には分からないのか!  このトーナメントを闘ってきたデュエリストたち! 此処に集まってくれた人たち! 世界中のデュエルを愛する人々! そしてお前の為に闘おうとしていたレオンの心も! その全ての思いを穢したんだ!」

 

 未だ態度を変えぬジークに闇遊戯は熱く胸の内を明かすが、肝心要の相手の心には響かない。

 

「何を言うかと思えば……ヒーロー気取りか? 青いことだ」

 

 そう肩をすくめてみせるジークだったが、そんな彼に対してレオンが縋るように問う。

 

「兄さん、本当はボクを信じて……なかったの? だからこんな細工をしたの?」

 

「勝利をより確実なものにする為だ。お前は私の期待に充分応えているよ」

 

 しかし、弟の言葉に込められた本質の部分に気付かぬままジークは優し気な声を漏らした。

 

「チッ、くだらん真似を……」

 

――ウィルスの侵食の抑制は問題ない。今すぐソリッドビジョンシステムに深刻な影響は出んだろう。だが、肝心の完全除去には、ある条件は満たしておきたい……だが、あの小娘にそれが出来るか?

 

 そんな兄弟のやり取りを余所に小さく舌を打った海馬は、事前の準備が功を奏した現在の状況を加味し、此処から被害を最小限に抑える為の手に頭を回すが――

 

――そして……何故、この期に及んでパラディウス社は動かない。

 

 その一点が海馬には唯々不可解だった。

 

 ペガサスの場合は、今現在別の会場にいる為、モニター越しに情報を知るであろう当人のアクションは管制室辺りが纏めていることを考えれば、この場に届かないことは理解できる。

 

 だが、海馬と同じように「レオンVSレベッカ」の対戦カードを観戦しているパラディウス社の総帥ダーツが、喧嘩を売られたに等しい状況で未だ何一つ動こうとしない姿が酷く不自然だった。

 

 

 やがてダーツへと一瞬視線を向けた海馬の瞳に映る不敵な笑みを浮かべる男の姿に再度舌を打つ。

 

 

「ククク、海馬、私にはキミの考えていることが手に取るように分かる――ゆえに断言しよう! 既に手遅れだと!」

 

 そんな思考に埋没する海馬にジークの得意気な声が届いた。もはや此処から挽回する方法など存在しないと。

 

「KCの全てのプログラムが凄まじいスピードで侵食されていく。このデュエルが終わる時、海馬――キミが創り上げたデュエルモンスターズのデータも全て失われるのだ!」

 

――フフフ、パラディウス社が動く筈もない。こうも不手際を打った相手に手を差し伸べるものか。

 

 ジークからすればパラディウス社は「善悪関係なく力ある存在」を欲していると考えるゆえに、方法はどうあれ「シュレイダー社が完全にKCを手玉に取った事実」を排斥するよりも、手を取った方が旨味は多いと――そう判断するだろうと。

 

 そうしてパラディウス社の手を取れるのならば、罪状の一つや二つ、ジークにとっては必要経費でしかない。

 

 

「ごめんなさい、兄さん……やっぱりボクは兄さんには従えない」

 

 だが、此処でジークの思惑を裏切る形でレオンが動いた。

 

 人一倍デュエルを愛する心を持ち、敬意を以てデュエルモンスターズに接してきた彼にとって、兄であるジークの計画はとうてい許容できるものではなかった。

 

「ボクはデュエルモンスターズが大好きだ。それを失うくらいならボクは、ボクの手で……」

 

 ゆえにデュエルディスクにセットされた自身のデッキの上に手を置き、投了を意味する行為「サレンダー」をしようとするレオンだが――

 

「無駄だ、レオンハルト! お前がサレンダーしたところで一度発動したウィルスは止まらない。お前は私に従う他ないのだよ」

 

 ジークの声がそれを遮る。既にジークの目的は達成されている以上、デュエルの勝敗など意味はない。

 

 しかし、シュレイダー社の力を見せつける意味でも、そして海馬の屈辱に歪むであろう顔を見る為にも、ジークとしては意味などなくともデュエルを続けて貰いたい思惑があるのもまた事実。

 

「だが、唯一つ侵食を止める方法がなくはない。それはフィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》をデュエルの中で破壊すること!」

 

 ゆえに僅かばかりの可能性を示唆する。これでデュエリストお得意の「デュエリストの誇り」がある限り、デュエルの舞台からは降りはしないだろうとの確信がジークにはあった。

 

「そんな……あのカードにはあらゆる効果が効かないのに!?」

 

「どうやったってウィルスは止められないって言ってるのと同じじゃないか!」

 

 そうして杏子と御伽がほぼ実現不可能な事実を周囲の観客の声を代弁するかのように叫ぶが――

 

 

「ふぅん、安心しろ! そんな小細工を弄さずとも、アンチプログラムが全てを終わらせる!」

 

 絶対的な自負を感じさせる海馬の声がその弱音を断ち切った。

 

「フッ、どうかな? 現に今も《シュトロームベルクの金の城》はこうして発動している!それが何を意味するか分からない訳でもあるまい!」

 

 しかし、ジークもまた負けじと鼻を鳴らし、甘い見通しだと嗤う。

 

――頃合い……といったところですかね。

 

 そんな両者の眼から火花散る光景にダーツの中の人はそんな胸中の声と共にパチンと指を鳴らした。

 

「取り押さえろ」

 

「GUHEHE」

 

「くっ――だとしても、ウィルスは止まらない! 最後に笑うのは私だ!」

 

 そうして何処からともなく現れた係員に扮したオレイカルコスソルジャーの数体がジークの勝利宣言など気にした様子もなく取り押さえていく、

 

 やがてオレイカルコスソルジャーたちがジークを会場の端に追いやったことを確認したダーツはスッと立ち上がり、一台のカメラへと視線を向け――

 

「この段階で、主催者側の判断により、このデュエルの決着が如何なるものであってもレオンハルト・フォン・シュレイダーを失格処分とする」

 

 そう宣言した。だが、語られたのはそれだけであり、現在問題にされているウィルスプログラムについては触れる様子もなく踵を返そうとするダーツを海馬は呼び止める。

 

「……このまま続けさせる気か?」

 

「無論、このデュエルを即刻打ち切ることも可能だが――どうかな?」

 

 そんな試すような海馬のセリフにダーツは小さく笑みを浮かべた後、眼下で向かい合う2人のデュエリストへと声を落とした。決めるのは彼らだと。

 

 

「勿論、デュエルを続けるわ!」

 

 だが、レベッカが返す言葉など、それ一つしかない。

 

「そんな、どうして!?」

 

 レオンの戸惑うような声が響く。無理もない――カードテキストの書き換えがなされたことで、もはやまともなデュエルが望める状況ではないのだ。

 

「何故ですって? そんなの決まってるわ! デュエリストはどんな時でもデュエルから背を向けないのよ!」

 

――ダーリンだったら絶対に此処で背を向けるようなことはしないもの!

 

 しかし、当のレベッカはその内と外で「だからこそ戦うのだ」と返す。デュエリストの真価が問われるのは苦境に立った時こそ――デュエルは楽しいことばかりではない。

 

「それに『フィールドを離れない』だけのフィールド魔法で如何にかできるとは思わないでね!」

 

 ゆえに最後にやせ我慢のように小さくウィンクしながらレベッカはフィールドに手をかざす。

 

 すると《ヘクサ・トルーデ》の攻撃に倒れた《ライトパルサー・ドラゴン》の身体が光と共に輝き空へと昇り――

 

「私は破壊された《ライトパルサー・ドラゴン》の効果発動! 墓地のレベル5以上の闇属性ドラゴン族モンスター1体を復活させるわ! 来なさい! 2体目の《ダーク・ホルス・ドラゴン》!!」

 

 空ではじけた黒き炎から大鷲の特徴を持った2体目の黒きドラゴンが翼を広げた。その《ダーク・ホルス・ドラゴン》が2体並んだことで、レオンの発動した永続罠《アクアの合唱》の効果を受け、その力を高めていく。

 

《ダーク・ホルス・ドラゴン》 攻撃表示

星8 闇属性 ドラゴン族

攻3000 守1800

攻3500 守2300

 

「さぁ、まだ貴方のターンよ!」

 

 そう相手のターンを促すレベッカのフィールドには2体の《ダーク・ホルス・ドラゴン》に加え、《裏風の精霊》と《黒き森のウィッチ》の計4体が並び、

 

 対するレオンのフィールドは《鉄のハンス》と、それに付き従う3体の《鉄の騎士》に加え、永続魔法《王家の神殿》と《鉄の檻》、そして永続罠《アクアの合唱》、そして件のフィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》が立ち並ぶ。

 

 

 互いの盤面は凡そ拮抗しつつあるが、レオンの心はレベッカ程に前を向けていなかった。

 

「ボクは……ボクは、カードを1枚セットしてターンエンドです……」

 

 やがて折れそうになる心を余所に、なんとかセットカードを1枚伏せてレオンはターンを終える。やはりその姿に覇気は見られない。

 

「私のターン、ドロー! スタンバイフェイズに墓地の《堕天使マリー》の効果で私のライフを200ポイント回復!」

 

 そうして覇気の消えたレオンとは対照的に闘志を漲らせるレベッカがカードを引いた直ぐ後に白いワンピースの黒き堕天使から木漏れ日のような光が舞い、レベッカのライフを少しばかり潤した。

 

レベッカLP:2600 → 2800

 

「そして墓地の2体目の《馬頭鬼》を除外して効果発動! 墓地のアンデット族が復活よ! 戻ってきて! 《シャドウ・グール》ちゃん!! そして自身の効果でパワーアップ!!」

 

 そんなレベッカの窮地を救うべく再び影から爪を掲げながら飛び出す四脚の影の化け物が不気味な声を上げながら、幾重にも連なる赤い複眼でレオンを射抜く。

 

《シャドウ・グール》 攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻1600 守1300

攻3800

 

「バトル! 《ダーク・ホルス・ドラゴン》で《鉄の騎士》を攻撃! 《鉄の騎士》が減れば、《鉄のハンス》の攻撃力も下がるわ!」

 

 やがて《ダーク・ホルス・ドラゴン》のクチバシから迸る炎のブレスが波のように放出され、《鉄の騎士》の1体を焼き尽くさんと迫った。

 

 だが、その炎は《シュトロームベルクの金の城》の輝きの前に上空へと巻き上げられ、炎の大鷲となって《ダーク・ホルス・ドラゴン》の元へと弾き返され、己を焼く結果を生む。

 

レベッカLP:2800 → 1050

 

「どうして!?」

 

 己が炎に焼かれ、大地に落ちていく《ダーク・ホルス・ドラゴン》の姿に驚愕の声を漏らすレベッカにレオンは全てを諦めた表情で返す。

 

「……フィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》には攻撃してきた相手モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える効果があるんです……」

 

 これが《シュトロームベルクの金の城》のもう一つの効果。相手のあらゆる攻撃を跳ね返す力。その絶対防御の前ではあらゆる攻撃によるバトルダメージはまず届かない。

 

 さらにはジークのカードテキスト書き換えによって「決してフィールドを離れない」力を付与されたゆえに除去することも叶わないまさに鉄壁の城塞。

 

「もう……止めましょう。ボクたちがこれ以上デュエルしたって、なにも変えられない……」

 

 それゆえにレオンは全てを諦めた様相で俯きポツリとそう零す。

 

 実の弟であるレオンには兄であるジークの手腕は誰よりも理解しているゆえに確信があった。恐らく《シュトロームベルクの金の城》が破壊される隙など残していない筈だと。

 

「そんなことないわ! どんな困難でも、デュエルで道を切り開くのがデュエリストよ!」

 

 だが、レベッカはそんなレオンの言を一蹴する。彼女は常に見てきた。

 

 愛する人が、頼れる祖父が、いけ好かない社長が、デュエルで道を切り開いてきた姿を。

 

「私は魔法カード《貪欲な壺》を発動! 私の墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドローよ!」

 

 逆転を懸けたドローに望みをかけ、欲深い顔が浮かぶ壺がベロリと舌を伸ばし、レベッカの墓地の《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》を含めた5枚のカードを取り込みガタガタと《貪欲な壺》が揺れた後に砕け、2枚のカードがレベッカの手元に舞い込み――

 

「――来たっ! 私は今引いた永続魔法《魂吸収》を発動して、《ビッグバンガール》を召喚!」

 

 キーカードを引き切ったレベッカが永続魔法の発動と共に召喚したのは朱色のマントに橙のローブを纏った白みがかった灰のウェーブのかかった長髪を持つ女性。

 

《ビッグバンガール》 攻撃表示

星4 炎属性 炎族

攻1300 守1500

 

「そして墓地の《ADチェンジャー》を除外して効果発動! 《ビッグバンガール》を守備表示に変更するわ!」

 

 その《ビッグバンガール》は墓地から飛び出した2本の旗の誘導に従い、片膝をついて両腕を交差させ、守備姿勢を取った。

 

《ビッグバンガール》

攻撃表示 → 守備表示

 

「……? なにがしてぇんだ?」

 

「いいぞ、レベッカ! これなら!」

 

 態々表示形式を変更しただけのプレイングに疑問を持つ本田に対し、レベッカの考えを読み取ったアーサーは見出した光明に握りこぶしを作った。そう、レベッカの狙いは――

 

「此処で永続魔法《魂吸収》の効果発動! 除外されたカード1枚につき私は500のライフを回復! そして私のライフが回復したことで《ビッグバンガール》の効果発動!」

 

レベッカLP:1050 → 1550

 

 《ビッグバンガール》が木の杖をかざせば、先端の水色の水晶から炎の球体が浮かび上がる

 

「相手に500ポイントのダメージを与えるわ! これでフィニッシュよ!!」

 

「上手い! 幾ら戦闘で無敵の効果を持っていても、効果ダメージなら防ぎようがない!」

 

 御伽の声が説明するように効果ダメージによるバーン。フィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》の効果で攻撃によるダメージが与えられないのなら、他の方法でダメージを与えれば良い。

 

「うぉっしゃー! いけぇっー! レベッカぁー!」

 

 やがて城之内の気合の籠った声援を背に《ビッグバンガール》の杖から放たれた炎の球が立ち並ぶレオンのモンスターの頭上を通り抜け、《シュトロームベルクの金の城》の結界も越えてレオンに直撃。

 

 

 このデュエルの最後としては何ともあっけのない幕引きとなった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオンLP:400 → 3400 → 2900

 

 かに思えたが、レオンのライフは未だ健在。

 

「どうして!?」

 

「ボクは永続罠《女神の加護》を発動しました……これでボクのライフは3000回復します……」

 

 そんな現実に思わず漏らした杏子の声に応えるようにレオンが視線を俯けたまま返す。その背には身を纏うドレスと同じ緑の長髪をたなびかせる女神が杖から癒しの波動を放っていた。

 

「……隙が無いの」

 

 やがて女神の姿が消えていく中、双六はポツリとそう呟く。

 

 双六には《シュトロームベルクの金の城》の効果を前にレベッカがどう動くかを読み切り、恐らく最初のターンで引いていた守りの一手を仕込んでいたレオンの読みの深さが垣間見える。

 

 デュエルを愛し、敬意を払うレオンの姿は双六にとっても、多くのデュエリストにとっても好ましいものである筈だというのに、こんな騒動に巻き込まれてしまったレオンの姿が双六には唯々不憫だった。

 

「もう……止めましょう。このウィルスだって、KCやI2社の人たちが何とかしてくれる筈です……ボクたちに出来ることなんて……」

 

 だが、そのデュエルへの強い想いがレオンを苦悩させる。

 

 事態の悪化を避ける為にも、余計なことはするべきではないと――他ならぬ自身が「余計なこと」を成したゆえの現在があるゆえにレオンは顔を俯かせたままだ。

 

「なら、どうしてリバースカードを発動させたの? 何も変えられないなら、このデュエルの勝敗だってどうでもいい筈よ」

 

「それは……」

 

 しかし、レベッカの言葉にレオンは思わず顔を上げる。

 

 全てを諦めたのなら、リバースカードを発動させる意味どころか、前のターンにカードを伏せる必要すらない。

 

 何もしないまま敗北することだって出来た。

 

 自ら負けに行くことだって出来た。

 

 

 だが、レオンは「それ」をしなかった。出来なかった。

 

 

「貴方は最後まで戦うことを選んだ。何もしないなんて許せなかったのよ」

 

 

 何故なら、彼は――

 

 

「他ならぬ貴方自身のデュエリストの魂が!!」

 

 デュエリストなのだから。

 

 

「私はこれでターンエンドよ!」

 

 そう語り終え、ターンを終えたレベッカの姿にレオンの瞳は前を向き、今己と戦っているデュエリストの姿を映す。彼女の瞳には一点の曇りもなかった。

 

「ボクの……デュエリストの魂……」

 

 自分の口から思わず零れた呟きがレオンの心に波紋のように広がって行く。

 

「なにが魂だ! 耳を貸すなレオン! すでにウィルスは止められない! 奴らが何をしようとも無駄だ!」

 

「ッ! ボ、ボクのターン、ドロー……このスタンバイフェイズにフィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》の維持コストとして、ボクのデッキの上から10枚のカードを除外します」

 

 だが、耳に響いた拘束されているジークの声にハッとしたレオンは一先ずの効果処理として、《シュトロームベルクの金の城》の維持コストを払うべく、デッキに手をかけた。

 

「……あれ? 除外できない……?」

 

 しかし、レオンがデッキに手をかけた段階でアラートが鳴り、代わりに《シュトロームベルクの金の城》から漏れ出た輝きがレベッカのデッキトップに渦巻いていく。

 

「えっ? 私のデッキが……?」

 

「ハハハ! 《シュトロームベルクの金の城》の維持コストは相手プレイヤーが支払わねばならないのだよ!」

 

「くっ……! でもカードが10枚除外されたことで永続魔法《魂吸収》の効果でその枚数×500のライフを回復! そしてライフが回復したことで《ビッグバンガール》の効果でダメージを与えるわ!」

 

 そんな二人の疑問を氷解させるジークの叫びを余所に、一先ずはその除外を利用し、《ビッグバンガール》から放たれた火の球がレオンを襲うが――

 

レベッカLP:1550 → 6550

 

レオンLP:2900 → 2400

 

 ライフ差を離せようとも、今後は「レベッカの残りデッキ」という問題が浮上する。

 

 ただでさえ、デッキのカードを多量に墓地に送るレベッカのデュエルスタイルゆえに減りがちなデッキから毎ターン10枚裏側表示で除外するとなれば、デッキ切れまで秒読みだろう。

 

 思わぬ制限時間をかせられたレベッカの姿に、双六と闇遊戯はジークへと厳しい視線を向ける。

 

「カードテキストをそこまで書き換えておったとは……」

 

「何処までデュエリストの魂を汚せば気が済むんだ!!」

 

 本来自身が払うべき維持コストを無条件で相手プレイヤーに押し付けるという「コストの概念」を無視した有様に怒りを見せる二人の姿をジークは鼻で嗤う。

 

「くだらないな! 誇りなど勝利の前では霞む程度のものでしかない! さぁ、レオンハルト! シュレイダー家の栄光は間近だ!」

 

 ジークからすれば、この勝負など所詮は児戯に、デモンストレーションに過ぎない。彼からすれば「ウィルスの起動」という目的は既に達成済みなのだ。ゆえにこのデュエルの勝敗など「レオンが勝った方が気分が良い」程度の意味しかない。

 

 

「ボクは……」

 

 だが、デュエルの手が止まったレオンは動く様子がない。そんなレオンに更なる発破をかけようとするジークよりも、咄嗟に声をかけようとした闇遊戯よりも先に檀上のダーツの声が落ちた。

 

「どうした、レオンハルト・フォン・シュレイダー。キミのターンだが?」

 

「ボクは……ボクは……」

 

 そんな主催者の1人の声にレオンは思わず目じりに涙を浮かべながら目線を上げ、絞り出したかのような震える声で問う。

 

「デュエルしていいんですか……?」

 

 今回の騒動の引き金を引いてしまったのはレオンだ。

 

 さらにこの事件の発端は彼の過失によるものも少なからず存在する。

 

 何故なら、彼がキチンとカードテキストを確認していれば防げた事態なのだから。

 

 その事実がある限り、知らなかったでは済まされない。

 

 尊敬する兄の言葉を盲目的に受け取り、兄であるジークの凶行を止める機会を見過ごしてしまった事実もまたレオンの中で重くのしかかる。

 

 ゆえにデュエルが大好きなレオンは、つい自他に問うてしまう――「そんな己がデュエルをして良いのだろうか」と。

 

 

 

 その問いに返す言葉もまた一つだった。

 

「構わないとも」

 

 なんともあっけらかんとしたダーツの声が響く。

 

「知らずのこととはいえ、キミも後になんらかの処罰は避けられまい」

 

 淀みなく語られる内容は現実を坦々と表していて、

 

「だが、この瞬間において、『デュエルの権利』を有しているものは我々主催者でなければ、観客でもない」

 

 しかし、何処か有無を言わせぬ力強さを見せつつ、

 

「それを有する存在は唯一つ」

 

 薄っすらと笑みを浮かべてダーツは嘘塗れの口で述べて見せる。

 

「キミたちデュエリストだけだ」

 

 それこそが真理だと。

 

 

「レオンハルト・フォン・シュレイダー――キミはその魂の赴くままに進むと良い」

 

 

 そうして最後にそう締めくくったダーツの突き放すような、はたまた背を押すような言葉がレオンの瞳を僅かに揺らした。

 

 

 

――フハハハッ! あのパラディウス社が静観を宣言するとは!

 

「さぁ、レオンハルト! 後はお前の勝利を以て幕を引くがいい! 父上と母上もそれを望んでいることだろう!」

 

「ボクは…………ボクは……!」

 

 そんなレオンを余所にダーツの「不干渉」とも取れる発言に内外ともにジークは高揚感を覚えながら、計画の完遂を急かすが、レオンの反応は芳しくない。

 

「聞いているのか、レオンハルト! お前にはシュレイダー家の――」

 

「――兄さんは黙ってて!!」

 

「レ、レオンハルト……?」

 

 ゆえに再度発破をかけようとしたジークだが、その声は他ならぬレオンにかきけされた。そして涙を袖で乱暴に拭ったレオンはフィールドに向けて手をかざす。

 

「ボクはこのスタンバイフェイズに永続魔法《鉄の檻》を破壊して、墓地に送った《ダーク・シムルグ》を特殊召喚します!」

 

 それを合図に砕け散った《鉄の檻》から解き放たれた黒き大鷲《ダーク・シムルグ》がレベッカのフィールドではなく、レオンのフィールドで大翼を広げていなないた。

 

《ダーク・シムルグ》 攻撃表示

星7 闇属性 鳥獣族

攻2700 守1000

 

「そうこなくっちゃ! 私は墓地から《ネクロ・ガードナー》3枚と《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》2枚を除外して、それぞれの効果で相手の攻撃を1度ずつ防ぐわ!」

 

 だが、そんな大鷲のいななきに対抗するように墓地から歌舞伎役者のような風貌の白髪の戦士が、大きな肩のアーマーで三角錐のサイコロと共にレベッカの周囲を固めていく。

 

「そしてカードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》の効果により私のライフが回復し、《ビッグバンガール》の効果が貴方を襲う!」

 

 これにより5枚のカードが除外されたことで、永続魔法《魂吸収》の効果により5回の回復がなされる。

 

 さすれば当然、《ビッグバンガール》の周囲に浮かぶ5個の火の球が示すように、効果が5回発動され、500×5の2500のダメージを与える。

 

 そう、レベッカは残りライフ2400のレオンがメインフェイズ1で動く前に、このスタンバイフェイズで仕留める心算だった。

 

「させません! ボクは墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外して、このターン受ける効果ダメージを半減させます!」

 

「でも新たにカードが除外されたことで、永続魔法《魂吸収》と《ビッグバンガール》のコンボが追加!」

 

 だが、墓地のカードをチェーンしたことで、レオンの前に網目状のゴムの壁が浮かび上がった。

 

 それにより、《ビッグバンガール》から射出された1つばかり数を増やした火の玉の半分はボヨーンと弾かれ、空へと消える前に、飛来した火の玉に驚く《ダーク・シムルグ》の脇を通り過ぎていく。

 

レベッカLP:6550 → → → 9550

 

レオンLP:2400 → → → 900

 

「でもボクのライフを削り切るには至りません!」

 

 間一髪のところで窮地を脱したレオンがレベッカの出方を窺うが、動きがないことを確認し、これ以上、好きなタイミングで除外できるカードがないと判断。

 

 ゆえに此処ぞとばかりに手札の1枚のカードを切る。

 

「そしてボクは自分フィールドの全てのモンスターをリリースして、このカードを特殊召喚します!!」

 

 やがて《鉄のハンス》と、3体の《鉄の騎士》に加え、《鉄の檻》によって懐柔した《ダーク・シムルグ》の5体ものモンスターを贄に呼び出されるはフィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》よりも巨大な悪魔。

 

「現れろ! 空にそびえる悪魔の城! 《真魔獣 ガーゼット》!! このカードの攻撃力はリリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計です!!」

 

 二本の足で大地を揺るがしながら歩み出るは、四本腕に巨大な翼を広げた異形の悪魔。その蒼い身体は骸骨のような外骨格に覆われ、手足と翼は獣染みた体毛で覆われている。

 

《真魔獣 ガーゼット》

星8 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

攻9000

 

「攻撃力9000!?」

 

「だとしても、私が発動した《ネクロ・ガードナー》と《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》の効果がある限り、その攻撃が届くことはないわ!」

 

 レベッカの《シャドウ・グール》すらも易々と超えていく攻撃力に観客の驚きの声が響くが、対するレベッカは動じない。

 

「更にボクはフィールド魔法《シュトロームベルクの金の城》の効果でデッキから《怪鳥グライフ》を特殊召喚!」

 

 しかし、それはレオンも想定内だと《シュトロームベルクの金の城》から新たな仲間――深紅の身体を持つ怪鳥が音もなく降り立った。

 

《怪鳥グライフ》 攻撃表示

星4 風属性 鳥獣族

攻1500 守1500

 

「特殊召喚された《怪鳥グライフ》の効果発動! 相手の魔法・罠ゾーンのカード1枚を破壊します! 永続魔法《魂吸収》を破壊!」

 

 そして《怪鳥グライフ》が口から怪音波を放ち、レベッカのフィールドを荒らしていく。

 

 モンスターの総数を減らしてまで《真魔獣 ガーゼット》を呼んだのは、《怪鳥グライフ》の効果を使う為に自身のフィールドに空きを作る為――これでレベッカのコンボは途切れた。

 

「さらにカードをセット! そして永続魔法《王家の神殿》の効果で今セットした罠カードを発動! 永続罠《リビングデッドの呼び声》!」

 

 だがレオンの猛攻はまだ終わりではない。次に黄金に輝く神殿が光を放ち――

 

「墓地からモンスター1体を復活させます! 蘇れ! 《ヘクサ・トルーデ》!!」

 

 吹き荒れる風を右腕で振って晴らしながら、ドレスを翻した藍色のウェーブがかった長髪の魔女が悠然と降り立った。

 

《ヘクサ・トルーデ》 攻撃表示

星8 闇属性 魔法使い族

攻2600 守2100

 

「そして《ヘクサ・トルーデ》の効果で《ビッグバンガール》を破壊! デスティニー・クラッシュ!!」

 

 やがて《ヘクサ・トルーデ》が右腕を振ると共に放たれた風の斬撃が《ビッグバンガール》が盾のように構えた杖を所持者諸共両断し、消滅していく。

 

 これでレオンへの効果ダメージの心配は消えた。

 

「バトル! 《怪鳥グライフ》で攻撃! 《ネクロ・ガードナー》と《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》で防げるのは発動された後の最初の攻撃だけです!」

 

 空中に羽ばたいた《怪鳥グライフ》が《黒き森のウィッチ》へとその足の爪を向けるが、我先にと幾重にも折り重なった《ネクロ・ガードナー》と《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》が割って入ったことで事なきを得る。

 

 これにより結果的にレベッカの防御カードを無駄打ちさせたレオンが次なる攻勢に出るが――

 

「そして《ヘクサ・トルーデ》で――」

 

「させないわ! 墓地の《超電磁タートル》を除外して効果発動! バトルフェイズを強制終了させる!」

 

 何処からともなく襲来したマシンボディを輝かせる亀がUFOのように高速回転することで生じた磁力が行く手を遮るようにスパークした。

 

 たたらを踏む《ヘクサ・トルーデ》と、腕を振りかぶったまま固まる《真魔獣 ガーゼット》。

 

「くっ! だとしても、これで貴方のコンボは崩れました! ボクはこれでターンエンド!!」

 

 そうして千載一遇の機会を逃してしまったレオンだが、レベッカの厄介な効果ダメージのコンボは完全に崩せた為、一矢報いたといえよう。

 

 《シャドウ・グール》などの高い攻撃力を持つモンスターも《シュトロームベルクの金の城》の前では意味を成さない。

 

 

 ゆえに出方を伺うように相手の動きを待つレオンに対し、レベッカは勢いよくデッキからカードを引き抜いた。

 

「私のターン! ドロー!! スタンバイフェイズに《堕天使マリー》の効果でライフを回復!」

 

「だとしても、《ビッグバンガール》がいない今、回復からの効果ダメージは望めません!」

 

レベッカLP:9550 → 9750

 

 このデュエル馴染みの光景になった黒い堕天使の祝福が光となってレベッカに降り注ぐが、レオンの言う様に狙いであった《ビッグバンガール》が破壊された為、コンボはなされない。

 

 だが、レベッカは既に下準備を整えていた。

 

「そうね――だけど、奥の手は最後まで取っておくものよ!!」

 

 今までその札を切る機会がなかった訳ではない。だが、切らなかったゆえにレオンの、そしてジークの想定の外を行ける。

 

「私は墓地の《黒き森のウィッチ》、《マジック・リサイクラー》、《ティンダングル・エンジェル》の3体のモンスターを除外して、墓地からモンスターを呼び覚ますわ!! 現れなさい――」

 

 そうしてレベッカが腕を突き出して宣言すれば、その背後の大地がひび割れ、火山の噴火のようにマグマが噴出。

 

 

「全てを焼き尽くす炎星!」

 

 

 そのマグマの中から、土色の甲殻を持つ巨大な竜の顎が浮かび上がる。やがて、咆哮と共にその身体を震わせ、マグマを吹き飛ばしながら姿を見せるのは――

 

 

「――《The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》!!」

 

 巨大な竜の頭だけが浮かぶ中、その頭頂部から黒い装甲を纏った魔人の上半身が這い出、その心臓部の赤いコアが脈動すると共に竜の頭が大口を開け、生誕の雄叫びを轟かせた。

 

The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》 攻撃表示

星8 炎属性 炎族

攻2600 守2200

 

「プラネット……シリーズ……!?」

 

 この大会中にも響 紅葉が使用したレアカード群「プラネットシリーズ」の新たな1枚に思わず目を輝かせたレオンを余所に御伽が「だとしても」と悲痛な声を漏らす。

 

「だけど、どんな攻撃も《シュトロームベルクの金の城》の前じゃ……!」

 

「いや、あのカードには!」

 

 しかしコレクターとしてカードに詳しいアーサーは知っていた。あのカードが持つその(効果)を。

 

「《The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》の効果発動!」

 

 レベッカの声を合図に自軍の《裏風の精霊》、《黒き森のウィッチ》、《ダーク・ホルス・ドラゴン》、そして《シャドウ・グール》が火柱となって昇って行く。

 

「メインフェイズ1に、このカード以外のモンスター全てを墓地に送って、その数×500のダメージを与えるわ!!」

 

 そうして昇った炎は《The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》の身体となった竜の頭の背面から四方に伸びる四本の角へと集い、角が赤く熱を発するにつれ、竜の頭の顎から大炎が渦巻き――

 

「――S y r t i s(シリティス) M a j o r(メジャー)!!」

 

 

 世界を燃やし尽くす大炎のブレスとなって放たれた。

 

 

 その炎はレオンのモンスターを狙うことなく、《シュトロームベルクの金の城》の魔力をも避け、レオンを包み込むように猛り迫る。

 

 

「…………負けちゃった……な」

 

――ごめんね。ボクのデッキ……

 

 やがてそんなレオンの呟きと共に、彼は炎の海に呑まれた。

 

 

レオンLP:900 → → 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、効果宣言の際に腕を突き出したまま固まるレベッカはハッとした様相で冷や汗を流しながらポツリと零す。

 

「…………あっ、《シュトロームベルクの金の城》破壊するの忘れてた」

 

 

 ジークの逆転サヨナラホームランだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、これがワクチンプログラムってことでいいんすかい?」

 

 そうしてレオンとレベッカのデュエルが終える少し前、シュレイダーの屋敷にて捜査員がアレコレと動き回る中、牛尾はなにやら端末片手にシュレイダー家の使用人のメイドの1人に問いかけを投げかけるが、当の相手は何も語る様子はない。

 

 頑なな相手の姿勢に困ったように頭をかく牛尾だが――

 

「もう、この際だから正直に話しちまった方が後々――」

 

「牛尾、裏が取れたぞ。乃亜が言うには、それはダミーで此方が本物――おっと、その様子を見るに本物のようだな」

 

 合流したギースの掌に収まった端末に使用人の顔色が変わり、咄嗟に手を伸ばしたが、その手は空を切った。

 

 使用人の反応に対して確証を得た顔のギースに牛尾は思わずゲンナリした顔を見せる。

 

「ハッタリっすか……意地の悪いこって」

 

「いや、最終確認だ。乃亜の言を信じていない訳ではないんだがな」

 

 やがてそんな言葉と共に捜査員の代表と思しき人間へと報告に向かったギースを背に牛尾は思う。

 

 デュエルの実力だけみれば、自身の方が上手だが、こういった面はまだまだ敵いそうにないと牛尾は小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 






Q:レオンの童話デッキに童話要素皆無の《真魔獣 ガーゼット》!?

A:《シュトロームベルクの金の城》がない構築だと、《鉄の騎士》並べても《鉄のハンス》がパワーアップしないので、もう一手欲しくなる時が多かったんや……


Q:ジーク、「ワクチンプログラム」作ってたんだ……

A:原作では不明ですが、自社にウィルスが流れた場合を考えれば存在するかと。




~今作でのレベッカデッキ改~
レベッカの初期メンバーの《シャドウ・グール》をリストラせず、
なおかつデッキ変更後の「キュアバーン」も盛り込んみ、
そこに宝石(かどうはともかく)ドラゴン要素も盛り込んだレベッカ全乗せデッキ。

魔法・罠カードは《貪欲な壺》と《ビッグバンガール》の為の《魂吸収》くらいしか入っていない。

とにかく《魔導雑貨商人》がリバースしないと始まらないデッキ。

基本的に墓地リソースからの自力・他力で復活できる面々で戦っていく。
ゆえに《カオス・ネクロマンサー》がリストラ――《馬頭鬼》で蘇生できるのが《シャドウ・グール》の強味やでぇ……

なお、墓地リソースが減る度に《シャドウ・グール》が弱体化していくが、当人の上り幅が100な為、下がり幅も100である――つまり、あんまり気にならない。





更に漫画版GXの使用者、オブライエンの「ヴォルカニック」デッキには合わないので使用者を探していたプラネットシリーズの1枚、《The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》が

今作のレベッカデッキと高相性だったのも相まって天才少女のネームバリューならば名前負けしないと判断し投入。

その射出効果を阻害しないようにする為に「フィールドから離れた際に除外される」類のモンスターは採用していない。ごめんよ、《異次元エスパー・スター・ロビン》……キミもリストラいおん(獅子)だ。

The blazing MARS(ザ・ブレイジング・マーズ)》により、墓地の光・闇属性の数をコントロールできるので、《カオス・ソルジャー -宵闇(よいやみ)の使者-》が呼び出しやすくなる点もグッド

《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》で良くない? と思われるかもしれないが、其方と違い墓地をドバっと除外出来る為、《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》の火力アップに単発で大きく貢献してくれる――切り札感のない用途で済まぬ……


最後に――
今後もプラネットシリーズが漫画版GXでの使用者とは別のデュエリストのデッキに投入されることもありますので、どうかご容赦を<(_ _)>

漫画版GXとアニメ版GXのデッキの違いから合わない人が結構多いですし……(ヨハンなどを見つつ)


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