マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
見損なったぜ、神崎!(今更感)






第176話 同窓会

 

 

 偶然が重なったことでバクラとトラゴエディアの両者に見つからずに済んだレインは機材の影で息を潜め、事の成り行きを見守っていた。

 

 そんな視線を余所にバクラはトラゴエディアと名乗った男の出現に僅かに逡巡するも、彼が持つ「盗賊王バクラ」の記憶にはない。だが、今問題にすべきはそんな部分ではなかった。

 

「トラゴエディア……ねぇ」

 

「バクラ、だったな。貴様の目的はなんだ? 要件次第なら、乗ってやってもいい」

 

 不審気なバクラに対し、トラゴエディアは久しい同郷相手ゆえか前のめりになりつつ会話を愉しまんとするが――

 

「そいつを寄越しな」

 

「そう邪険にするな、『要件次第』と言っただろう? 貴様の方が面白そうなら、幾らでも応えてやるとも」

 

 目的の光のピラミッド以外眼中にない様子のバクラにトラゴエディアは小さく溜息を吐きながら、肩をすくめてみせた。

 

 しかし当のバクラはそんなトラゴエディアの応対に興味は見せず、その心中で相手を推し量る。

 

――こいつと、こいつを送り込んだヤツとは「主従」……じゃなさそうだ。なら、あくまで「協力関係」にあるだけ……か? 何処まで話す。こいつは俺様の計画にどう影響を与える?

 

「…………つまらんな」

 

「あァ?」

 

 だが、トラゴエディアから零れた失望の色を含んだ声にバクラは苛立ち気に眉を上げた。

 

「貴様の腹の内は分かる。あくまでオレを部外者として体よく使い潰したいのだろう――つまらんなァ……」

 

 そんなバクラを余所にトラゴエディアの落胆は留まらない。折角愉しい気分で復活したにも拘らず、遊び相手が明後日の方向を向いていれば気勢が削がれるというもの。

 

「貴様の考えは堅実過ぎて、オレには些か以上に刺激が足りん」

 

「つまり、俺様の話には乗れねぇって言いたい訳か?」

 

「思えば、アイツはいつでもオレを愉しませてくれた――最初の会合の破天荒振りも、今では愉快だったと笑いが止まらんよ! あの時はひりつくような緊張感があった……愉しかったなァ」

 

 それゆえかバクラの問いかけも無視したようにトラゴエディアは昔を懐かしむ。自身を復活させた男は良い悪い両方の意味を含めて予想を裏切ってくれる稀有な相手だったと。

 

 その際に、今後の主導権を決めるデュエルにて想定外のイレギュラーが発生した為、今の今まで休眠状態だったトラゴエディアだが、その程度で同盟の約束を反故にする気はなかった。

 

「そして今、オレを復活させたこの瞬間も、こんな面白そうなオモチャをくれた――更に遊び相手も用意してくれるときた」

 

 なにせ、復活して早々に退屈を嫌う己へ愉し気なレクリエーションを用意してくれるのだから。ゆえに1枚のカードをヒラヒラと揺らすトラゴエディアは今一度バクラに視線を合わせ――

 

「そんな愉快な相手を裏切るなら、次なるパートナーにそれ相応のモノを願うのに不思議はあるまい」

 

 試すような言葉を投げかける。退屈させるなと。

 

「くだらねぇ」

 

「くだらないか」

 

 だがバクラの返答は辛辣だった。とはいえ、対するトラゴエディアも堪えた様子はない。

 

「まぁ、同郷のよしみだ。大目にみて堅実な貴様に合わせてやろう――貴様はオレに何をくれる?」

 

 やがて値踏みするようなトラゴエディアの視線が自身に突き刺さるが、当のバクラは相手の真意を測りかねていた。相手の目的が見えない。

 

――こいつ、何が目的だ? 「復活させられた」って話がある以上、命握られてるだろうに、裏切る素振りに迷いがねぇ。

 

「そう警戒するな。オレとしても、アイツと殺し合うのも一興なんだ――二度目となれば、遊びの延長とはいかんだろう。今度は何が飛び出すか愉しみで仕方がない、ククク……」

 

 しかしそんなバクラの内心を見抜いたようにトラゴエディアはくつくつと嗤う。そこには文字通り、自分自身すらも遊び道具に過ぎない歪な精神性がありありと見える。

 

「さぁ、後は追加の対価だ。貴様にはこのくらいシンプルな方が良かろう」

 

「ケッ、ならテメェの飼い主は何をくれたんだ?」

 

 そうして話の主導権を握り続けるトラゴエディアに対し、バクラは吐き捨てるように問う。くだらないやり取りだと。

 

 

「神官の魂」

 

 

 だが、トラゴエディアから出た言葉にピクリと動きを止めた。

 

「……どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ。アイツはオレに神官アクナディンの魂を好きにしていい、とな――もっとも後払いになってしまったが」

 

「ハッ、そんな口約束、信じてんのかよ?」

 

――此処には役者(アクター)とか言うヒーロー気取りのヤツがいる筈だ……マリクにさえ、身体張った奴がそんな真似許すとは思えねぇ。

 

 しかし続いたトラゴエディアの言葉にバクラは呆れた声を漏らす。どう考えても相手が約束を守るとは思えない。

 

 トラゴエディアの飼い主が誰かはバクラにも知れないが、アクターがバトルシティで光のピラミッドを所持していた事実を把握している以上、ギリギリとはいえ善側の人間であると認識している為だ。

 

「アイツは契約を違えるようなことはせんさ。善悪の線引きはしても、区分はしないヤツだからな」

 

 だが、トラゴエディアはバクラのそんな認識を嗤う。

 

「考えてもみろ――『目的の為に必要だから』とオレのような人間を呼び戻すヤツがまともな神経をしていると思うか? だからオレには確信がある」

 

 あれ程までに破綻した人間性を持つ相手を知らぬ若人へ「勿体ない」と嗤う。

 

「アクナディンの魂なんぞ、ヤツにとって『どうでもよいもの』だろうからな」

 

「成程な」

 

「おお、貴様にも――」

 

「やっぱテメェは此処で死んどけ」

 

 しかし、それらを踏まえたバクラはトラゴエディアの排除を決める。

 

 正直な話、バクラは「盗賊王バクラ」程に神官たちへの復讐に執心していない。

 

 己が真に優先すべき「大邪神ゾーク・ネクロファデスの復活」という目的がある以上、「神官への復讐を企てつつも、自分が愉しむことを最優先に考える」トラゴエディアの在り方は土壇場で邪魔になりかねないと判断した結果だった。

 

 

「…………ククク、残念だ――だが、生き残ったオレたちが殺し合うのも、また一興」

 

 そんなバクラに対し、「残念」との言葉程に落胆を見せない様子でトラゴエディアは愉快気に笑みを浮かべ、腕から黒く細身のデュエルディスクが肉を押しのけ生やしていき、光のピラミッドを台座に戻しながらデッキを装着。

 

「丁度新しいオモチャの具合も確かめたかったところだ」

 

「だったら、そのオモチャもついでに俺様が頂いていくとするぜ!」

 

「そうか、そうか――なら、存分に死合おうか!」

 

 やがてバクラが市販品のデュエルディスクを腰から取り出し腕にデッキと共に装着したことを確認した後――

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 

 二つの悪意がぶつかり合った。

 

 

 

 そして先攻・後攻の選択権を得たバクラは当然とばかりにデッキからカードを引き抜く。

 

「俺様の先攻! ドローカード!! まずはこいつだ――魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いは手札を全て捨て、その枚数分ドローする! 俺様は新たに5枚のカードをドロー!」

 

「ククク、さて貴様の手札は良くなったか?」

 

 初手からの手札交換に対し、煽るようなトラゴエディアの声が響くが、バクラのデッキはオカルトが、不死性がテーマのデッキ――墓地にカードを送ることこそがその狙い。

 

「ほざいてな! 墓地の《ヘルウェイ・パトロール》を除外して、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスターを特殊召喚するぜ! 来なッ! 《死霊伯爵》!!」

 

 ゆえに墓地からバイクのエンジン音が響くと共に、不死者よろしく大地から剣を持った腕を突き出し、這い出たノースリーブの赤いスーツを纏った皮膚を剥がされたゾンビさながらの外見の《死霊伯爵》が襟を正した後、腰から剣を引き抜く。

 

《死霊伯爵》 攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻2000 守 700

 

「お次はコイツだ! 墓地の3体の悪魔族モンスターを除外して手札から特殊召喚! 来たれ、死の世界の支配者! 《ダーク・ネクロフィア》!!」

 

 やがてそんな《死霊伯爵》が大仰な礼をすればそのエスコートを合図に、その先に噴出した闇から歩み出るのは髪のない女性のマネキンに歯車仕掛けを組み込んだ悪魔。

 

 その手に抱かれた壊れた赤子の人形がカタカタと音を立てて嗤う。

 

《ダーク・ネクロフィア》 攻撃表示

星8 闇属性 悪魔族

攻2200 守2800

 

「まだだ! 除外された3体の悪魔族をデッキに戻すことでコイツは手札から特殊召喚できる――出でよ、反魂の統率者! 《カース・ネクロフィア》!!」

 

 更に《ダーク・ネクロフィア》の影から、影の主と瓜二つな外見を持つ悪魔が浮かび上がった。だが、その身体は《ダーク・ネクロフィア》とは違い、身体の所々が煙のように揺らめいている。

 

《カース・ネクロフィア》 攻撃表示

星8 闇属性 悪魔族

攻2800 守2200

 

「此処で魔法カード《アドバンスドロー》を発動! 俺様のフィールドにいるレベル8以上のモンスター1体をリリースし、2枚ドローさせて貰うぜ! 《カース・ネクロフィア》をリリース!」

 

 そしてその煙のように揺れ動く《カース・ネクロフィア》の身体が露と消えた途端、バクラの手札に還元され――

 

「カードを2枚セットして、最後にコイツだ――《クリバンデット》召喚!」

 

 2枚のリバースカードとなった。ついでとばかりに呼び出された眼帯を付けた黒い毛玉も小さな手足を伸ばしつつ短剣を構える。

 

《クリバンデット》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

「俺様はこれでターンエンド! そしてこの瞬間、《クリバンデット》自身をリリースし、効果発動! デッキの上から5枚のカードの内、魔法・罠カード1枚を手札に加え、残りを墓地へ!」

 

 だが《クリバンデット》はすぐさま煙と共にドロンと消え、ヒラヒラと5枚のカードが宙を舞い――

 

「罠カード《メタバース》を手札に――さぁ、テメェのターンだ」

 

 その内の1枚がバクラの手元に、他4枚が地面へと落ち、影の中へ消えていった。

 

「フフフ、そう急くな。オレのターン、ドロー! メインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動! エクストラデッキのカードを6枚除外し、2枚ドローする!」

 

 早々に勝負を終わらせようと切り札格の八星モンスターを呼び出したバクラに対し、トラゴエディアはゆっくりとカードを引き、自身とシンクロするようにニヤケ面を浮かべる壺が爆散する中――

 

「……悪くない。オレは《剛鬼スープレックス》を通常召喚! そしてスープレックスの効果で手札の剛鬼1体――《剛鬼ハッグベア》を特殊召喚!」

 

 引いたカードを早速とばかりにデュエルディスクに叩きつけ、飛び出すのは青い竜を思わせるコスチュームのレスラーが、長い白髪を歌舞伎役者のように揺らし現れ、

 

《剛鬼スープレックス》 攻撃表示

星4 地属性 戦士族

攻1800 守 0

 

 その《剛鬼スープレックス》の背後からクマの毛皮を被った大柄なレスラーが腕を仁王立ちするクマのように突き出し――

 

《剛鬼ハッグベア》 攻撃表示

星6 地属性 戦士族

功2400 守 0

 

「剛鬼の効果で特殊召喚されたハッグベアの効果発動! 相手モンスター1体の攻撃力を半減させる! オレが選ぶのは《ダーク・ネクロフィア》!!」

 

 突き出した腕を砲塔にするように雄叫びを放った《剛鬼ハッグベア》の一撃に《ダーク・ネクロフィア》は頭痛を堪えるようにうずくまりながら耳を塞いだ。

 

《ダーク・ネクロフィア》

攻2200 → 攻1100

 

「まだだ! 此処で魔法カード《蛮族の供宴Lv5》を発動! 墓地からレベル5の戦士族モンスター2体――《剛鬼ライジングスコーピオ》2体を蘇生! だが、この効果で蘇生したモンスターの効果は無効化され、このターン攻撃できん」

 

 そんな雄叫びを上げる《剛鬼ハッグベア》の隣にサソリを思わせる赤いアーマーを纏った筋肉質なレスラー2体が互いの拳をぶつけながら並ぶ。

 

《剛鬼ライジングスコーピオ》×2 攻撃表示

星5 地属性 戦士族

功2300 守 0

 

「そして魔法カード《剛鬼フェイスターン》を発動! フィールドの剛鬼――《剛鬼ライジングスコーピオ》を破壊し、墓地の剛鬼1体を蘇生する! 舞い戻れ、《剛鬼ツイストコブラ》!!」

 

 だが、その内の1体がフェイスマスクと共にアーマーを脱ぎ捨てれば赤いサソリから、もみあげと腰から蛇が伸びる緑のアーマーを纏ったレスラーに早変わり。

 

《剛鬼ツイストコブラ》 攻撃表示

星3 地属性 戦士族

攻1600 守 0

 

「そして《剛鬼ライジングスコーピオ》がフィールドから墓地に送られたことで、デッキから『剛鬼』カード1枚を手札に加える――オレは《剛鬼アイアン・クロー》を手札に」

 

 そうして補充され潤沢さを増すトラゴエディアの手札を余所に、フィールドに立ち並ぶ総勢4体――攻撃が可能なのは3体だが――の剛鬼がバクラのフィールドの2体の悪魔たちを挑発するように自身の両拳をぶつけた。

 

「さて、バトルといくか。《剛鬼ツイストコブラ》で《ダーク・ネクロフィア》を! 《剛鬼ハッグベア》で《死霊伯爵》を攻撃!!」

 

 やがて《剛鬼ツイストコブラ》のドロップキックが未だに耳を押さえている《ダーク・ネクロフィア》を蹴り飛ばし、

 

 《剛鬼ハッグベア》のタックルが《死霊伯爵》の振るった剣を己の石頭で砕きながら炸裂し、《死霊伯爵》の方はきりもみ回転しながら吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!? 中々やるじゃねぇか……」

 

バクラLP:4000 → 3500 → 3100

 

 そんな2体の悪魔たちが吹き飛ばされた衝撃を受け、顔を腕で覆うバクラだが、トラゴエディアは此処からが本番だと嗜虐的な笑みを浮かべながら腕を突き出す。

 

「なぁに軽いジャブ程度だ――――が、何時までその余裕が持つか見物だな。《剛鬼スープレックス》でダイレクトアタック!!」

 

「させるかよ! 永続罠《ウィジャ盤》と永続罠《死の宣告》を発動!」

 

 そうしてバクラに向けて青い拳を振り上げた《剛鬼スープレックス》が迫るが、バクラもただでは通さない。その背後にアルファベットが記された巨大な盤が浮かび上がる。

 

「そして永続罠《死の宣告》の効果で表側の《ウィジャ盤》及び『死のメッセージカード』の数だけ、墓地及び除外された俺様のカードの中から、悪魔族モンスターを手札に加える!」

 

 すると地面から全てを呪うような叫びと共に怨霊がバクラの手元に集まれば――

 

「俺様が手札に加えるのは――《抹殺の邪悪霊(ダーク・スピリット)》! そして相手が攻撃したダメージステップ時に手札のコイツを墓地に送ることで効果発動!」

 

 その手札から、すぐさま獲物を求めるように剣と盾を生やした怨霊が《剛鬼スープレックス》に襲い掛かる。

 

「俺様の墓地からレベル8の悪魔族1体を効果を無効にして復活させ、そいつとバトルさせる! さぁ、《カース・ネクロフィア》! 地獄から舞い戻り、そいつを八つ裂きにしろ!」

 

 そして迫る怨霊、《抹殺の邪悪霊(ダーク・スピリット)》を《剛鬼スープレックス》は殴り抜くが手応えはなく霧のように霧散し、眼前にいるのは先程同胞が屠った悪魔と似た姿をした片割れ。

 

《カース・ネクロフィア》 攻撃表示

星8 闇属性 悪魔族

攻2800 守2200

 

 やがて己を上回る力を持つ《カース・ネクロフィア》の瞳が赤い光を放ち、霧を貫く怪光線となって放たれ《剛鬼スープレックス》を打ち抜いた。

 

 

 霧が晴れた先に浮かぶ《剛鬼スープレックス》の亡骸――ではなく、胴体を覆っていたアーマー。

 

「――なにっ!? ぐぁッ!?」

 

 そして驚きの声を漏らすバクラ諸共、宙に躍り出ていた《剛鬼スープレックス》から振り下ろされるかかと落としが《カース・ネクロフィア》を叩き伏せた。

 

バクラLP:3100 → 1700

 

「悪いが、《剛鬼ツイストコブラ》の効果を使わせて貰った。これで《剛鬼ハッグベア》をリリースし、その攻撃力分、スープレックスはターンの終わりまでパワーを増す」

 

 生じた衝撃に苦悶の声を漏らすバクラを余所にトラゴエディアの宣言を終えると共に再び宙を舞った《剛鬼スープレックス》がジャンプ台を果たした《剛鬼ツイストコブラ》と《剛鬼ハッグベア》の繋がれた腕に着地する。

 

《剛鬼スープレックス》

攻1800 → 4200

 

「チッ、くだらねぇ小細工を……」

 

「ククク、良い余興だろう? 墓地に送られたハッグベアの効果で『剛鬼』カードを手札に」

 

 悪魔の亡骸が消えた後に《剛鬼ハッグベア》がデッキの仲間とハイタッチを躱して消えていく。

 

「楽しいバトルも終わりだが、次のターンに備えておくか――オレは魔法カード《剛鬼再戦》を発動。墓地の『剛鬼』2体を守備表示で復活させる。《剛鬼ヘッドバット》と《剛鬼ガッツ》を蘇生だ」

 

 やがて守りを固めるトラゴエディアを守護するように頭に翼の意匠をあしらった紫のアーマーを纏ったレスラーが腕を交差させ膝をつき、

 

《剛鬼ヘッドバット》 守備表示

星2 地属性 戦士族

攻800 守 0

 

 黒いアーマーに身を包んだ頭からメラメラと炎を漏らす赤い肌のレスラーがそれに並ぶ。

 

《剛鬼ガッツ》 守備表示

星1 地属性 戦士族

攻800 守 0

 

「そして《剛鬼ガッツ》の効果発動。1ターンに1度、オレのフィールド全ての剛鬼の攻撃力を200アップさせる」

 

 だが、その《剛鬼ガッツ》がガッツポーズしながら声を張れば頭の炎が一層強まり、他の4体の剛鬼たちの頭からも同じような炎が彼ら闘志の如く猛った。

 

《剛鬼スープレックス》

攻4200 → 攻4400

 

《剛鬼ツイストコブラ》

攻1600 → 攻1800

 

《剛鬼ライジングスコーピオ》

攻2300 → 攻2500

 

《剛鬼ヘッドバット》

攻800 → 攻1000

 

《剛鬼ガッツ》

攻800 → 攻1000

 

「最後に永続魔法《補充部隊》とリバースカードを1枚セットし、ターンエンドだ。ターンの終わりにツイストコブラの効果で上昇したスープレックスの攻撃力は元に戻る」

 

 そうして《剛鬼スープレックス》の身体から力が霧散していく中でターンを終えようとしたトラゴエディアだが――

 

《剛鬼スープレックス》

攻4400 → 攻2000

 

「待ちな、そのエンド時に俺様の永続罠《ウィジャ盤》の効果が適用される! 相手のエンドフェイズ毎に俺様のデッキから『死のメッセージカード』が魔法・罠ゾーンに置かれるのさ――まず1枚目! 《死のメッセージ「E」》!」

 

 それを遮るようにバクラの背後のアルファベットが記された巨大な盤《ウィジャ盤》のリングがひとりでに動き始め「 E 」の文字を囲う。

 

「この《ウィジャ盤》を含めた『死のメッセージ』が5枚揃ったとき! 俺様は問答無用でデュエルに勝利するって寸法よ! ハハハハハッ!」

 

 するとその「 E 」の文字が何処からか現れた怨霊によって空に浮かべられ、いつの間にか浮かんでいた「 D 」の文字の隣に位置取った。

 

 これは愉快気なバクラが語ったように死のカウントダウン。そのカウントは――

 

「D、E、A、T、H――DEATH……『死』か」

 

 トラゴエディアが呟いた通り5つ。現在2つが浮かんだ為、残りは3つ。少しばかり先の話だが、油断していればすぐに辿り着く程度の短さだ。

 

「だが、貴様のモンスターは0――そんな悠長に構える時間が残されているかな?」

 

「ククク……まだ気付いてねぇらしいな――テメェは俺様の罠にかかったんだよ!」

 

 しかし、バクラのフィールドのモンスターは0な為に余裕を見せるようにトラゴエディアが不敵な笑みを浮かべるが、その姿をバクラは指さし嘲笑う。既に仕込みは完了しているのだと。

 

「俺様はエンド時に《ダーク・ネクロフィア》の効果発動! コイツが相手によって破壊された時、呪いの人形をフィールドに残すのさ!」

 

 そのバクラの指の先にて地面に転がる《ダーク・ネクロフィア》が倒れた際に残された壊れた不気味な人形が突如としてカタカタと動き出し、目玉をギョロギョロと動かしながら浮かび上がった。

 

「つまり《ダーク・ネクロフィア》がテメェのモンスターの装備カードとなり、俺様の忠実なしもべに早変わりって寸法よ…………その面倒な《剛鬼ツイストコブラ》は頂くぜ!」

 

 やがてその人形は《剛鬼ツイストコブラ》の手の中に納まり、人形を抱えた《剛鬼ツイストコブラ》はフラフラとバクラのフィールドへ向かっていく。

 

「更に《カース・ネクロフィア》の効果発動! モンスターゾーンで相手に破壊されたコイツはそのターンのエンド時に復活!」

 

 そんな《剛鬼ツイストコブラ》を出迎えるようにバクラの影の中から《カース・ネクロフィア》が両の手を広げていた。

 

《カース・ネクロフィア》 攻撃表示

星8 闇属性 悪魔族

攻2800 守2200

 

「そして俺様の魔法・罠ゾーンの表側のカードの数だけ、テメェのフィールドのカードを破壊する! 俺様のフィールドには4枚のカード!」

 

 そうして己が軍門に下った《剛鬼ツイストコブラ》を余所に《カース・ネクロフィア》が空に浮かぶ死をもたらす文字盤へと手をかざせば――

 

「これでテメェの守備モンスター2体に加え、永続魔法《補充部隊》とセットカードはお陀仏だ!」

 

 4体の怨霊が金切声のような叫びを上げながら、トラゴエディアのフィールドを蹂躙していく。

 

 それにより守備表示だった《剛鬼ヘッドバット》と《剛鬼ガッツ》が魔法・罠ゾーンのカードと共に怨霊の渦に呑まれ消えていった。

 

 その光景に対し、戦闘で破壊されない効果を持つ《剛鬼ガッツ》が除去されたのは痛手だとトラゴエディアは舌を打つ。

 

「チッ……だが、破壊された2体の剛鬼のそれぞれの効果でデッキから『剛鬼』カードを2枚手札に加える」

 

「ヒャハハハハ! 随分物寂しいフィールドになっちまったじゃねぇか! 盗みの腕は俺様が上だったみてぇだなぁ」

 

 これでライフはトラゴエディアがリードしているものの、フィールドの差はバクラが語るように歴然。

 

 文字通り、剛鬼モンスター2体だけのトラゴエディアに対し、バクラはモンスターこそ同数だが、魔法・罠ゾーンのカードは4枚と潤沢だ。

 

「フッ、これなら愉しめそうだ」

 

「なら存分に愉しみな――テメェの地獄は此処からだ。俺様のターン、ドローカード!」

 

――さて、これでアイツのデッキのネタは割れた。なら後は何処から崩すかだ。

 

 強がりにしか聞こえぬトラゴエディアの言を嘲笑ったバクラだが、その内心は蛇のように慎重だ。

 

「俺様は墓地の魔法カード《ダーク・オカルティズム》を除外して効果発動! 墓地の『死のメッセージ』カードを任意の数デッキの一番下に置き、その枚数分ドローするぜ」

 

 そして墓地から怨霊の歓喜の叫びが木霊が、バクラのデッキにその身を糧に灯火を与えていく。

 

「俺様は3枚の『メッセージカード』を戻し、3枚ドロー!」

 

 引いた3枚のカードを視界に収めたバクラはダメ押しを求めるように動いた。

 

「此処で永続罠《死の宣告》の効果だ! 《ウィジャ盤》と『死のメッセージカード』は2枚! よって墓地から悪魔族の《死霊伯爵》と《抹殺の邪悪霊(ダーク・スピリット)》を手札に!」

 

 そんなバクラの手札に舞い戻った2体の悪魔は――

 

「そして魔法カード《手札断殺》を発動! 互いに手札を2枚捨て、新たに2枚ドローだ!」

 

 片側が他のカードと共に墓地へと送り返され、対価にと得られたカードをバクラは指で挟みつつ隣のカードをデュエルディスクに叩きつけた。

 

「俺様は今ドローした《ヘルウェイ・パトロール》を召喚!」

 

 それは最初のターンに自身の効果で除外された黒いライダースーツに身を包んだ悪魔のバイク乗り。

 

《ヘルウェイ・パトロール》 攻撃表示

星4 闇属性 悪魔族

攻1600 守1200

 

「そして魔法カード《トランスターン》を発動! 《ヘルウェイ・パトロール》を墓地に送り、デッキから同じ属性・種族でレベルが1つ高いモンスターを呼び出すぜ!」

 

 そんな《ヘルウェイ・パトロール》の身体がボコボコと脈動し、その肉と皮を突き破るように現れるのは――

 

「さぁ、出番だ! ディアバウンド!!」

 

 白い大蛇の頭が揺れる下半身に石像彫刻染みた人の上半身を持った何処か神聖さすら感じさせる白き悪魔が背中の小ぶりな4枚の羽を広げた。

 

 その姿は今までのバクラが繰り出してきた悪魔たちとは大きくことなる雰囲気を感じさせる。

 

《ディアバウンド・カーネル》  攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1800 守1200

 

「最後に墓地の《ヘルウェイ・パトロール》を除外して、手札の攻撃力2000以下の悪魔族――《地獄詩人ヘルポエマー》を特殊召喚!」

 

 だが、そんな空気を切り裂くように最初のターンと同様に響いたエンジン音と共に宙から地面に突き刺さった十字架からうめき声が漏れる。

 

 それは十字架に磔にされたゾンビのような悪魔が縛り付けられた罪過に苦しむようにも見えた。

 

《地獄詩人ヘルポエマー》 攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻2000 守1400

 

 そうして2体の悪魔を追加で呼び出し、合計4体となった己が軍勢でバクラは攻勢に転じ――

 

「バトルといくぜ!! 《カース・ネクロフィア》! スープレックスを攻撃! 呪霊殺!!」

 

 最初の獲物である《剛鬼スープレックス》へと《カース・ネクロフィア》が手をかざせば、何処からともなく現れた怨霊が仲間を求めるように迫り、《剛鬼スープレックス》の身体を穿ち、消し飛ばしていく。

 

 苦悶の声を漏らし倒れた《剛鬼スープレックス》の余波がトラゴエディアに突き刺さるが、その顔には不敵な笑みが浮かべられていた。

 

トラゴエディアLP:4000 → 3200

 

「ククク、かかったな――オレがバトルダメージを負ったことで手札のしもべの効果が発動する!」

 

 やがてトラゴエディアの手札の1枚から暗い光が漏れ、トラゴエディア自身の身体を覆っていく。

 

「この身に宿れ! 我が憎悪の化身! 《トラゴエディア》!!」

 

 そして蜘蛛の足を持つ異形の悪魔へと己の身体を変質させたトラゴエディアが、《トラゴエディア》としてフィールドに降り立った。

 

《トラゴエディア》 守備表示

星10 闇属性 悪魔族

攻 ? 守 ?

 

「更にスープレックスが墓地に送られたことで、新たな剛鬼カードをサーチ――そして《トラゴエディア》のステータスはオレの手札の枚数×600ポイント!」

 

 その身をモンスターと化したことで、外されたデュエルディスクと手札のカードが宙に浮かぶ中、己の身に力が漲って行くのを感じるトラゴエディア。

 

《トラゴエディア》 守備表示

攻 ? 守 ?

攻2400 守2400

 

 そうして自身の身体を魔物(カー)へと変貌させたトラゴエディアの姿にバクラは合点がいったと、その胸中で納得を見せる。

 

――魔物(カー)との同化……成程な、こうやって生き延びた訳か。

 

「ケッ、往生際の悪い奴だ」

 

「ククク、そう焦るな。愉しい時間はまだまだこれからなんだ」

 

「ほざけ! 俺様に老いぼれの暇つぶしに付きやってやる時間はねぇんだよ! ディアバウンド! ライジングスコーピオをぶちのめしな!」

 

 主の命に両の手を突き出し、その掌にてエネルギーを回転させていく《ディアバウンド・カーネル》。

 

「タダでは通してやれんなぁ――オレは墓地の《天融星(てんゆうせい)カイキ》の効果を発動! オレのフィールドに元々の攻撃力と異なるレベル5以上の戦士族がいるとき、自身を蘇生する!」

 

 だが、その一撃が放たれる前に鬼の顔のような鎧を纏った戦士が二つの(こん)を携え、現れた。

 

天融星(てんゆうせい)カイキ》 守備表示

星5 光属性 戦士族

攻1000 守2100

 

 しかし、それが《ディアバウンド・カーネル》の攻撃を遮ることはない。

 

「だからどうしたよ!」

 

「こうするのさ! 特殊召喚された《天融星(てんゆうせい)カイキ》の効果により、ライフを500払うことで戦士族モンスターを融合召喚する!」

 

 ゆえに出方を窺うように挑発するバクラにトラゴエディアは天に腕をかざせば――

 

トラゴエディアLP:3200 → 2700

 

「オレはレベル5以上の戦士族2体――ライジングスコーピオと《天融星(てんゆうせい)カイキ》で融合!」

 

 その腕の先に《剛鬼ライジングスコーピオ》と《天融星(てんゆうせい)カイキ》が跳躍し、その空中に渦が形成されて行き、2体のモンスターを呑み込んでいく。

 

「融合召喚! 弱肉強食を是とせよ! 《覇勝星イダテン》!」

 

 やがて渦から降り立った巨大な中華風の鎧武者がマントを揺らしながら槍を構えて攻撃に備えた。

 

《覇勝星イダテン》 守備表示

星10 光属性 戦士族

攻3000 守2200

 

「融合召喚された《覇勝星イダテン》の効果でデッキからレベル5の戦士族――《ターレット・ウォリアー》を手札に加え、墓地に送られたライジングスコーピオの効果でデッキから剛鬼カードを更に手札に!」

 

 そうして2体のモンスターの効果で手札を補充しつつ、己が魔物(カー)の力を増大させるトラゴエディア。

 

《トラゴエディア》

攻2400 守2400

攻3600 守3600

 

「これで貴様のディアバウンドではオレのしもべを突破できまい」

 

「そいつはどうかな? ディアバウンドは攻撃する度に攻撃力を600ポイント上昇させていく――俺様の《カース・ネクロフィア》の効果にびびって守備表示で呼んだのが仇になったなぁ」

 

「なら攻撃してくるがいい、フフフ……」

 

 守備力より攻撃力の高いモンスターが守備表示で呼び出され、どう見ても攻撃を誘っているトラゴエディアの姿にバクラは乗ってやるとばかりに手札の1枚に手をかける。

 

「ケッ、俺様は手札から《ジュラゲド》を特殊召喚させて貰うぜ。こいつはバトルフェイズに特殊召喚できるモンスター、その際にライフを1000回復するオマケつきでな」

 

 そうしてバクラが繰り出すのは足の無い青い二本角の悪魔。

 

《ジュラゲド》 守備表示

星4 闇属性 悪魔族

攻1700 守1300

 

バクラLP:1700 → 2700

 

「さぁ、攻撃続行だ! ディアバウンド! 《覇勝星イダテン》をぶっ潰せ! そしてディアバウンドは攻撃する度にその攻撃力を600ポイント高めていく!」

 

 《ジュラゲド》は自身をリリースすることでモンスター1体の攻撃力を1000上げる効果を持つ。

 

《ディアバウンド・カーネル》

攻1800 → 攻2400

 

「消えな! 螺旋波動!!」

 

 これに《ディアバウンド・カーネル》の効果を合わせれば大抵のカードを屠れる数値になる。

 

 それゆえに《ジュラゲド》の効果のタイミングを計るバクラの横で《ディアバウンド・カーネル》からビーム砲が如き一撃が「螺旋」との言葉通りに回転し、貫通力を高めながら《覇勝星イダテン》へと迫る。だが――

 

「通さんよ――《覇勝星イダテン》の効果発動! 自身のレベル以下のモンスターとバトルする際、相手モンスターの攻撃力をダメージ計算時のみ0にする!!」

 

 《覇勝星イダテン》の槍がその螺旋波動を一刀の元に大地に叩きつけ、叩きつけた衝撃がそのまま《ディアバウンド・カーネル》に返された。

 

「チッ、させるかよ! ディアバウンドの効果発動! 相手モンスター1体の攻撃力をターンの終わりまでディアバウンドの攻撃力分下げ、自身を除外する! ドップラー・ファントム!!」

 

 しかしその衝撃は《ディアバウンド・カーネル》が身体を透明化し、姿を消したことで空を切り、バクラの横を素通りしていく。

 

「ククク、逃げ足は速いようだな」

 

「ハッ、口の減らねぇ奴だ。俺様はカードを1枚セットしてターンエンド。エンド時にテメェのモンスターの攻撃力は元に戻る」

 

 あわや2000越えの大ダメージを回避したバクラに今までの挑発をそのまま返すトラゴエディアだが、対するバクラは動じたようすもなく鼻で嗤ってみせた後、1枚のカードをこれ見よがしにセットしてターンを終えた。

 

 

 これでバクラのフィールドは次のスタンバイフェイズに帰還する《ディアバウンド・カーネル》を合わせれば5体のモンスターが並ぶ。

 

 しかしトラゴエディアも2体と数は劣るものの攻撃力3000のモンスターを従えている。まだまだ勝負は分からない。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「待ちな! そのスタンバイフェイズに俺様のディアバウンドが帰還するぜ!」

 

 ゆえに愉しくなってきたと新たにデッキからカードを空中に浮かべたトラゴエディアだが、その出鼻をくじくようにバクラの《ディアバウンド・カーネル》がその白き身体を伺わせる。

 

《ディアバウンド・カーネル》 攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1800 守1200

 

「ならばメインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動! エクストラデッキの6枚のカードを除外し、新たに2枚ドローだ!」

 

「良いカードは引けたかよ」

 

 最初のターンの意趣返しと逆に問いかけたバクラだが、トラゴエディアは実に愉し気だ。

 

「まだまだお愉しみはこれからだというのに、そうはしゃぐな」

 

「ほざけ、テメェのモンスターじゃ俺様の布陣は突破できねぇぜ」

 

――そして俺様のフィールドには既に……ククク、さぁ、存分に攻撃してきな……

 

 明らかに罠を匂わせるバクラの姿にトラゴエディアは喜んで乗って見せると手札の中の1枚のカードに視線を落とした。

 

「フッ、急く展開がお望みなら合わせてやるとしよう。オレはフィールド魔法《剛鬼死闘(デスマッチ)》を発動! そしてこのカードにカウンターを3つ置く」

 

 そしてその隣のカードを発動させ、周囲が金網に塞がれた巨大なリングが形成されて行く。

 

カウンター:0 → 3

 

「此処で魔法カード《剛鬼再戦》を発動! 墓地から2体の剛鬼――《剛鬼スープレックス》と《剛鬼ガッツ》を守備表示で復活! 更に手札の剛鬼を捨て、《剛鬼ヘッドバット》を自身の効果で特殊召喚!」

 

 そうして息切れを見せぬ程に最初のターンの焼き増しの如く――

 

 青い竜を思わせる衣装のレスラー《剛鬼スープレックス》が、

 

《剛鬼スープレックス》 守備表示

星4 地属性 戦士族

攻1800 守 0

 

 燃える闘志をそのまま頭上で燃やすレスラー《剛鬼ガッツ》が、

 

《剛鬼ガッツ》 守備表示

星1 地属性 戦士族

攻800 守 0

 

 翼を思わせる意匠が見える紫のマスクを被ったレスラー《剛鬼ヘッドバット》が立ち並ぶ。

 

《剛鬼ヘッドバット》 守備表示

星2 地属性 戦士族

攻800 守 0

 

「そして自身の効果で特殊召喚された《剛鬼ヘッドバット》の効果により、剛鬼1体の攻撃力をエンド時まで800アップさせる――が、関係ない」

 

 やがて《剛鬼スープレックス》の元へ力を託すべく歩み寄る《剛鬼ヘッドバット》だが、その歩みは腕に何やら文様を光らせるトラゴエディアの腕の一振りが遮った。

 

「オレは《剛鬼スープレックス》と《剛鬼ヘッドバット》の2体をリリースし、アドバンス召喚!!」

 

 するとその腕の文様の詳細が段々と明瞭に映る中、2体の剛鬼が大地から噴き出た紫色の光に呑まれ――

 

 

「さぁ、今こそ地獄の門を開け! 我が憎悪を存分と糧にしろ!」

 

 

 その妖しき光はトラゴエディアの宣言と共に空へと軌跡を描く。

 

 

「大地に縛られし、邪なる神よ! 復活の雄叫びを上げよ!」

 

 

 そして空に浮かび上がり、大地に照射されるのは巨大な蜘蛛の地上絵が描かれ――

 

 

 

「――《地縛神 Uru(ウル)》!!」

 

 

 

『■■ィ■■■ァ■■■■■■シャ■■■■■ォ■■ィ■■ッ!!』

 

 その只中から闇色の巨大な蜘蛛の化け物が蜘蛛の巣代わりの金網に八本の足を降ろしつつ、体中に奔る赤いラインを鈍く輝かせながら、金属擦れ合うような不協和音染みた咆哮を轟かせた。

 

《地縛神 Uru(ウル)》 攻撃表示

星10 闇属性 昆虫族

攻3000 守3000

 

「フハハハハハハハハハハハハッ! アハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 地縛神の一柱を呼び出し、圧倒的な力の奔流の只中にいるトラゴエディアは狂ったように高笑いを上げる。

 

 この力があれば、世界すらも玩具に過ぎないとばかりに愉快だと笑い続ける。

 

「ぐっ……なんだ、そのカードは……!」

 

「最高の気分だ! アイツには驚かされてばかりだな! 退屈しなくてすむよ、フフフ……!」

 

 そんな力の奔流に吹き飛ばされぬよう踏ん張るバクラも知らぬ力にトラゴエディアは終始ご機嫌だ。

 

「デカブツだせて、ご満悦みてぇだな……だが、その程度じゃ俺様のディアバウンドの力でお陀仏だぜ」

 

「ククク、急く展開が好みだったな――墓地に送られた2体の剛鬼の効果で2枚の剛鬼カードをサーチ」

 

 だが、やがて響いたバクラの声に遊び相手の存在を思い出したトラゴエディアは手にしたおもちゃの具合を早速確かめたいと無邪気な子供のような様相で腕を天に掲げた。

 

「さぁて面白いものを見せてやろう! 《地縛神 Uru(ウル)》の効果! 自軍のモンスター1体を贄に相手モンスター1体のコントロールをエンド時まで得る!」

 

 やがて《地縛神 Uru(ウル)》の蜘蛛の足の一本が自軍の《剛鬼ガッツ》を貫き、もがく《剛鬼ガッツ》を器用に口元に運び捕食。肉の潰れる音が響いた後、《剛鬼ガッツ》の断末魔が響く。

 

「《剛鬼ガッツ》を贄に捧げ、《カース・ネクロフィア》を頂こうか!!」

 

 そうして捕食した養分を糧に《地縛神 Uru(ウル)》は口から蜘蛛の糸を吐き出し、《カース・ネクロフィア》を絡めとり、勢いよく引けば《カース・ネクロフィア》の身体はトラゴエディアのフィールドに投げ出された。

 

「更に《トラゴエディア》の効果発動! 相手モンスター1体と同じレベルのカードを手札から捨てることで、そのコントロールを奪う! 返して貰うぞ、オレのしもべを!!」

 

 そして最後のダメ押しとばかりに《トラゴエディア》の口から放たれた瘴気が《剛鬼ツイストコブラ》の身を穿ち、呪いの上書きとばかりに再洗脳された身がトラゴエディアのフィールドにフラフラと戻った。

 

「さぁて、オレのフィールドも随分と賑やかになったものだ――盗みの腕はオレの方が上だったようだな」

 

 これにてフィールドの差は覆ったとトラゴエディアは語る。

 

 バクラのフィールドに3体のモンスターがいれども、そのステータスは高いとは言えず、

 

 一方のトラゴエディアのフィールドには5体のモンスター。しかもそのうち3体は攻撃力3000越えの超大型となれば、差は歴然。

 

「貴様の《抹殺の邪悪霊(ダーク・スピリット)》は 墓地に八星の悪魔族モンスターがいなければ効果は発動できない」

 

「クッ……」

 

 トラゴエディアが愉快気に説明するように、追い詰められつつある現実が迫る中で、バクラは此処にきて初めて顔を歪めた。

 

「更にオレの手札は墓地に送られたスープレックスのサーチも合わせて6枚、《トラゴエディア》の攻撃力は3600と十分だ。守備モンスターを全て攻撃表示に変更し――」

 

 更には相手の手札も剛鬼カードが多いものの潤沢。トラゴエディアの軍勢も獲物を前に殺気立つように闘志を漲らせていく。

 

《トラゴエディア》 守備表示 → 攻撃表示

攻 ? 守 ?

攻3600 守3600

 

《覇勝星イダテン》

守備表示 → 攻撃表示

 

「煩いぞ、今良いところなんだ――貴様の望み通り、早々に終わらせてやろう! バトル!!」

 

 ゆえにこれで終局だとトラゴエディアは我慢しきれぬとばかりに手にした新しいオモチャ――《地縛神 Uru(ウル)》の具合を確かめる。

 

「《地縛神 Uru(ウル)》は相手にモンスターがいようとも直接攻撃できる!! さぁ、この攻撃を受けるが――」

 

 やがて闇色の巨大な蜘蛛の化け物が有象無象を飛び越えてバクラ本人を貫かんと足の一本を振り上げるが――

 

――かかったな、馬鹿が!

 

 その攻撃でさえ、多少のイレギュラーがあれどもバクラの想定内だった。

 

 獲物が罠にかかったと、リバースカードに手をかざそうとするバクラだが、その瞬間にジリリとけたたましい警報音がこの空間に響き渡った。

 

 さらに追い打ちとばかりに周囲の壁がゴウンゴウンと音を立てて隔壁が侵入者を閉じ込めんと駆動する。

 

「…………チッ、邪魔が入りやがったか」

 

 そうした周囲の変化に舌打ち交じりにリバースカードにかざしていた手を収めたバクラは「これ以上のデュエルは望めない」と脱出の算段へと思考をシフト。

 

 だが、方針が固まる前に魔物(カー)としての姿から人の姿に戻ったトラゴエディアの挑発気な声が響く。

 

「やれやれだ……お互い面倒事は困る身――この勝負は次に預けておくとしよう。尻尾を巻いて早々に立ち去ると良い、ククク……」

 

「相変わらず口の減らねぇ野郎だ……が、俺様にも都合がある。今日のところは引き分けってことにしておいてやるぜ」

 

 そんな表に易々とは出れぬトラゴエディアの事情ゆえの停戦の申し出に同意したバクラはデュエルディスクを待機状態へと移行させながら張り合うような言葉を並べ――

 

――ハッ、命拾いしたのは果たしてどっちだろうなぁ。

 

 やがてそんなバクラの内の声と共に、周囲の隔壁が完全に閉まり切る寸前にバクラは滑り込むようにこの空間から脱した。

 

 そんな相手の姿を見送ったトラゴエディアはデュエルディスクとデッキを仕舞い込みほくそ笑む。

 

「フフフ、楽しい時間もこれまでか。さて――」

 

 中断してしまったとはいえ、中々に愉しい時間だったと。だが、それゆえに許容できないものもある。

 

 バクラがこの場を去った後でタイミングよく止まった警報が、己の愉しみを邪魔した下手人の存在の何よりの証明。

 

 さらに背後に新たに生じた気配に「どんな弁解を見せるのか」とトラゴエディアが振り返った先には――

 

 

「――折角の語らいを邪魔するとはどういう要件だ?」

 

 

 

 

「目覚めの気分はどうですか、トラゴエディア?」

 

 

 悪びれた様子もない何時もの張り付けた笑みを感じさせる己の共犯者(神崎)の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 






ダーツの中の人が神崎だと、一体いつから錯覚していた?




~今作のバクラデッキ~
悪魔族の4・5・8レベルを主軸にしたデッキ。アンデット族はさよなライオン。

バクラを象徴するカード《ダーク・ネクロフィア》と《ディアバウンド・カーネル》を中心に添え、《ウィジャ盤》コンボを組み込んだもの。

バクラの使用カードに《ディアバウンド・カーネル》や《死霊伯爵》といった「レベル5の攻撃力2000以下」のカードが複数あった為、同条件の《地獄詩人ヘルポエマー》などで選択肢を増やしつつ《ヘルウェイ・パトロール》+《トランスターン》で展開。

レベル8悪魔族はその過程で召喚条件が整う《ダーク・ネクロフィア》と《カース・ネクロフィア》の2組のみ。それらを抹殺or怨念の邪悪霊(ダーク・スピリット)で繰り返し、展開していく。

余談だが、闇マリクが使用したレベル8の悪魔族、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を追加すれば、同じく闇マリクが使用した《地獄詩人ヘルポエマー》の存在もあって、

「闇マリクと闇バクラはズッ友だよ!」デッキに早変わりする――(精神的に)まさにDEATH☆GAME!┌(┌^o^)┐デス・ゲームォ…

抹殺or怨念の邪悪霊(ダーク・スピリット)で蘇生した《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の効果は無効化される為、自身がラヴァ・ゴーレムに焼かれることもない――使用者二人は仲悪いのに、カード間の相性が良いのなんで……(困惑)




~今作のトラゴエディアのデッキ改~
新入り剛鬼、《剛鬼ガッツ》や《剛鬼アイアン・クロー》のバンプアップ要素が増えたことで

前回のトラ剛鬼に《天融星カイキ》を追加し、勝鬨ギミック(融合ギミック)を搭載したことで攻撃能力がパワーアップ! レベル5戦士要素も、ちょっぴり追加!

下級剛鬼を《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》に
上級剛鬼を《覇勝星イダテン》に融合だ! もう一度融合すれば《覇道星シュラ》も呼べるぞ!

そして《覇勝星イダテン》ならば《ハネクリボー LV9》が来ても安心だ!

《覇道星シュラ》がいれば、《トラゴエディア》が手札不足で攻撃力が下がっても、持ち前のレベルの高さを生かし活躍できるぜ!

《地縛神 Uru(ウル)》の採用は《トラゴエディア》が蜘蛛っぽい外見ゆえ(一応、コントロール奪取のリリースコストが賄いやすい、との理由もありますが)



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