マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

18 / 289
今回はデュエルはお休みです

前回のあらすじ
圧倒的っ……! 圧倒的輝きっ……! これが全米チャンプッ……!



第18話 デュエリストメンタル

 

 激闘の末、敗北した孔雀舞に城之内たちは彼女の実力を知るがゆえに言葉をこぼす。

 

「あの舞がこうも一方的に……」

 

「舞さんが1回戦負けだなんて……」

 

 組み合わせの不幸である。

 

「舞も善戦したが、キースの実力はそれを遥かに上回っていた。そんな相手と城之内君は次の試合で戦うことになる……悲観してばかりはいられないぜ! 城之内君!」

 

 だがもう一人の遊戯にはそんな動揺はなく、やはりという思いが強かった。それは孔雀舞を軽んじたものではなく、キースの全米チャンプという実力を感じ取ってのものだ。

 

「おう! 舞のカタキは俺がとってやるぜ!」

 

「だが相手はチャンピオン様となりゃ……こりゃ城之内の大会もここまでだな」

 

「テメェ本田ァ! そんなもんやってみなくちゃわかんねぇ……だろうが……」

 

 本田の呟きも素人目にもわかる全米チャンプの実力を感じ取ったものであり、さらにこの大会で成長している城之内は本田以上にその実力を感じ取り言葉尻が小さくなる。

 

 

「なにしけたツラしてんだい城之内ッ!」

 

 デュエルを終えた孔雀舞が観客席の遊戯たちの元へ顔を出す。だが城之内は浮かない顔だ。

 

「舞、デュエル残念だったな――どこまでやれるか解らねぇが、カタキは俺がとってやるぜ……」

 

 城之内の励ましの言葉に少し気分が良くなる孔雀舞だったが続く覇気のない言葉にその気分は吹き飛び、怒りをあらわにする。

 

「自惚れるんじゃないよ城之内! アタシの負けはアタシ自身で取り戻す! アンタはアンタのデュエルをしな!」

 

 言葉と共に城之内の頬に平手打ちを加える孔雀舞、その怒りは自身が認めたデュエリストの情けない姿を鼓舞するための一撃であった。

 

「仲間だからカタキを取ろうって気概は認めるけど…そんな意思の欠片もないなあなあな気持ちなら迷惑よっ!」

 

 突き放すように言い放った孔雀舞の言葉に城之内の目に光が戻る。

 

「――ああ! 目が覚めたぜ舞! 俺は俺のデュエルで戦う! 他の誰でもねぇ! 俺の意思で!」

 

「なら好きになさい……負けんじゃないよ!」

 

 城之内の背中を叩きながら活を入れる孔雀舞。

 

 そんな兄に妹、静香は1枚のカードを差し出す。

 

「あっ! そうだお兄ちゃん、このカード受け取って!」

 

「ん? このカードは…。」

 

「お兄ちゃんがデュエルの大会に出るって聞いて私もデュエルの勉強してきたの! このカードならきっとお兄ちゃんの力になってくれると思うから……」

 

 そのカードは城之内にとってタイムリーなカードであった。

 

「そうか! ありがとよ、静香! 大事に使わせてもらうぜ!」

 

 家族の絆に涙ぐみながら本田は城之内と肩を組み、声援を送る。

 

「これで負けられねぇ理由が一つ増えちまったな! 勝てよ! 城之内!」

 

「おうよ! 静香の想いも合わせて百人力だぜ!」

 

 

 そんな城之内たちの盛り上がりを余所に獏良は呟く。

 

「城之内君の試合は遊戯君の試合と海馬君の試合の後なんだけどなぁ……」

 

 そんな獏良の呟きは誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「すごいデュエルだったね兄サマ……」

 

 凄腕同士のデュエリストの対戦を見終わりモクバは感嘆する。だが兄たる海馬の主な思考は今この場にいない男へと向けられていた。

 

「ふぅん、さすがは全米チャンプといったところか……向こうのブロックで勝ち上がるのは恐らく奴だろう。遊戯を倒し全米チャンプを打ち倒し、デュエルモンスターズの創始者を倒す――これが奴の用意したレールというわけか」

 

 海馬は《青眼の白龍》の正式な所持者となるための条件を思い出す。それは海馬瀬人が世界一のデュエリストになること、ただそれのみ。

 

 そしてこの大会には用意されたかのようにその条件を達成するためのエサが散りばめられている。

 

 海馬瀬人に勝利した宿命のライバル――武藤遊戯。

 

 デュエルモンスターズの本場での現チャンピオン――キース・ハワード。

 

 デュエルモンスターズに最も詳しいと言える創造主――ペガサス・J・クロフォード。

 

 全てに勝利出来れば世界の大半の人間が思うであろう、最も強いデュエリストだと。

 

 

 海馬は自身をすら掌の上でもてあそぶ男に怒りを覚えつつも闘争心を露わにしながら一人足りない獲物に狙いを定める。

 

「この大会で全てを薙ぎ倒した後は貴様が後生大事に抱えている奴を引きずり出してやるとしよう」

 

 神崎が負けられないデュエルの際に呼びつける男――謎のデュエリスト(笑)――を倒すことを思い描き神崎の思惑を超えようと誓う海馬。

 

 

 だがこの大会には神崎にとって海馬の遊戯との再戦の機会を設ける以上の目的はなく、

 

 全ては海馬の思い過ごしでしかないのだが神崎が正直に話しても「ふぅん次は何を企んでいる」と返されるのがオチであろう――現実って悲しいね。

 

 

 そんな目に見えぬ攻防など知る由もないモクバは首を傾げるばかりだ。

 

「……レールがどうかしたの兄サマ?」

 

「何でもない。行くぞモクバ! 次の遊戯のデュエルは間近で見ておきたい」

 

「うん!」

 

 そして兄弟仲良くデュエルの見やすい場所へと歩いて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 城之内たちの声援を受けデュエルの舞台に試作型デュエルディスクを受け取りに来た遊戯だが先客がいた。

 

「コイツにモンスターカードをこうセットして投げるんじゃな!」

 

「いえ違います梶木様、そこは魔法・罠カードを置くための場所になります。モンスターカードを置く場所はコチラになります」

 

 Mr.クロケッツから試作型デュエルディスクの説明を受けるボサボサの頭をバンダナで上げ、半被のようなもの着た男、梶木漁太。

 

 そしてそんな彼を相手にMr.クロケッツは「さっき説明したでしょ」感が溢れ出ている。

 

 

 ちなみにペガサス城に半ズボンタイプの海パン一つで訪れた猛者であるがペガサスが迎える前にMr.クロケッツの手回しにより急遽半被のようなものを着せられた経緯がある。

 

 梶木本人は気に入っているようだ。

 

 大会ルールでは特に服装に規定はないために起こった喜劇であった。

 

 

 説明を受けていた梶木は遊戯の存在に気付き、語らう。

 

「おう! オメェがあの海馬を倒したって遊戯か! ワシは梶木漁太! お前に海の恐ろしさを教えてやるぜよ!」

 

 キメ顔で言い放たれた言葉だが試作型デュエルディスクのデッキを収納する部分とカードを置く部分を繋ぐケーブルが体中に絡まっており、懸命に解こうとするMr.クロケッツの姿が哀愁を誘う。

 

 遊戯は全てを見なかったことにしてその闘志に応えた。

 

「ああ! 全力で戦おうぜ!」

 

 だがMr.クロケッツはそんな遊戯に申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「申し訳ありません武藤様。現在、梶木様があの状態なので試合の方はもうしばらくお待ちください……」

 

「……かまわないぜ」

 

 その言葉に「では……」とその場を後にし、近くにいた同僚に「神崎殿を呼べ!」と言いつけ再び仁王立ちする梶木の元へと戻る。

 

 製作者の海馬ではなく神崎を呼ぶのは大会参加者である海馬の立場を尊重したものであろう。

 

 しばらくして、神崎が機材をもって駆け付けると梶木がカメラにかじり付いて誰かにメッセージを送っていた。

 

「見とるかぁ! 親父! ベスト8まで来たぜよ! 後、親父を助けてくれた親父曰く『真の海の男』さんも見とるかぁ! 直接、礼も聞かずに行っちまったって親父が悔やんどったんで親父に代わりワシからも礼を言わせてくれー!」

 

 そんな惨状を見て相変わらずの笑みを浮かべつつ、梶木の中で梶木の父を救った男である神崎の存在が異次元に飛躍しているのを感じとり内心苦笑いする。

 

 

 

 神崎は過去に思いをはせる。

 

 その過去の修行の帰りに梶木の父を救った神崎だがその時期は色々と立て込んでいたため、梶木の父と話すことはできなかったのである。

 

 そしてギースから梶木親子が礼がしたいことを聞き、会いに行った神崎だが梶木家の前で梶木親子の会話を聞き立ち止まる。

 

「親父! 親父を助けてくれた『真の海の男』さんってどんな奴なんじゃ! 親父よりスゴイ奴なのか!」

 

「いや、顔を見たわけじゃねぇが――俺がなすすべもなく呑まれちまった海を難なく泳ぎ切った男だ、きっと『海に生き、海に還る』ような『海に愛された男』に違いねぇ」

 

 ハードルが上がる。

 

「うぉおおおぉ! スゴイのう! ワシもいつかそんな男になれるかのう? 親父!」

 

「少なくともまだ半人前のオメェじゃ無理だろうよ! 俺もあの域まで行けるのかどうか見当もつかねぇ……」

 

「なに弱気になっとるんじゃ親父! 『挑む前から諦める男がいるか!』って親父も言っとったじゃろ!」

 

 どんどんハードルが上がる。

 

「ハハッ! 言うようになったじゃねぇか! ならどっちが先に『真の海の男』になれるか勝負といくかぁ!」

 

「おう!」

 

 

 

 ――入れるかぁっ!

 

 神崎はこの時、心の中で叫んだ。

 

 

 梶木親子に会うのが遅くなってしまったゆえに、2人の間で命の恩人たる神崎の存在のハードルが上がりに上がりまくっていた。

 

 実際の神崎は海に生きてなどおらず、基本KC――つまり陸にいることが多い。

 

 だがそのことを梶木親子に伝えるのは「サンタクロースを信じる子供」の夢を壊してしまうような残酷さを感じ、真実を伝えることははばかられた。

 

 ゆえに当時の神崎は手紙を届けるだけに留め、梶木親子の夢を守る選択をしたのである。

 

 

 

――話は戻る。

 

 その選択の結果があの梶木だ。

 

 だが何時までも梶木をそのまましておくわけにはいかないため、遊戯に会釈してからカメラから離れさせ作業に取り掛かる。

 

 

 その間、2人のデュエリストの間には気まずい空気などはなく互いの目を見て闘志を高め合っていた――鋼のメンタルである。

 

 

 その後、ケーブルから解放された梶木に神崎が漁業関係の言葉を交えた試作型デュエルディスクの説明に何故か納得しすぐさま使い方をマスターする。

 

 神崎自身はもはや自分でも何を言っているのか解らない状態ではあったが梶木本人が納得しているのでとりあえずは良しとした――Mr.クロケッツの信じられないものを見る目が神崎には堪えた。

 

 

 そしてやっと2人のデュエリストが向かい合いMr.クロケッツの試合開始の宣言と共にデュエルが始まる。

 

「第3試合、武藤遊戯VS梶木漁太の試合を始めさせていただきます。それでは…デュエル開始ッ!!」

 

「行くぜよ! 遊戯!」

 

「ああ、かかってきな!」

 

「「デュエルッ!!」」

 




「真の海の男」とは
嵐であろうとも己の身一つで乗り越えていく存在。


それにしても
梶木の一人称を調べたら「俺」やったり「ワシ」やったり
安定しなさすぎぃいいいいいいいいいいいいっ!!

今作では「ワシ」に統一します

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。