マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
究極の闇のゲーム「なんか異物が混じった気がするけど……名もなきファラオは参加できたから――ヨシ!」





第184話 ファンタジー舐めんな

 

 

 銃弾が飛んできた方向へディアバウンドを盾として配置しながら、バクラは撃たれた右肩を押さえつつ近場の岩陰に無事な右足で跳びつつ身を隠す。

 

「チッ、見晴らしは悪くねぇってのに、狙撃手の影も形も見当たらねぇ……」

 

 銃弾を生身で弾くディアバウンドを余所に撃たれた左ふくらはぎを布で乱暴に縛りながら強引に止血したバクラは腕の金属のバングルを鏡面に見立てながら様子を窺った。

 

 出来れば肉にめり込んだ銃弾も抜いておきたかったが、相手がその時間を許すとは思えない。

 

――右肩が痛むが腕はなんとか動く、左足の方は……ディアバウンドに俺様自身を運ばせりゃ良いとして……

 

「ディアバウンド! 撃ってきた方向に螺旋波動を撃ちまくれ!!」

 

 そうして状況を手早く把握したバクラは銃弾が飛んできた方向へとディアバウンドに螺旋波動を放たせた。

 

 砂の大地を抉るように螺旋の衝撃波がうねり、破壊の軌跡を描いていくばかりか、留まることなく連発される連撃が周囲の地形に破壊の傷跡を生み出していく。

 

 それらの攻撃は狙いをつけて放たれている訳ではないが、狙撃手に当らずとも、神官の魔物(カー)すら蹴散らす一撃は牽制以上の意味を与える。

 

 こうも猛攻が続けば人という小さい的に狙いをつけている暇などないだろう。

 

 

 

 そう考えていたバクラが潜む岩陰の頭上、遥か上空から巨大な槍が、バクラが身を隠す岩場に着弾したと同時に火炎が爆ぜた。

 

「―――グッ!? クソッ、狙撃は囮かよッ!!」

 

 大槍が地面に刺さった段階で身を翻していたバクラは爆発に直撃することこそなかったが、躱しきれずに焼け爛れた左足を押さえながら毒づく。

 

 これでは自力での歩行はかなりの期間、絶望的だ。今後の予定が大きく狂う。そうして左足に奔る激痛に耐えるバクラの正面から飛来した銃弾が、己の右わき腹をかすめた。

 

――なっ!?

 

 砂漠広がる見晴らしのいい場所で、真正面から飛来した銃弾を放った狙撃手の姿は、遮蔽物がないにも拘らず一切窺えない。

 

 まるで無から飛び出してきた有様の銃弾に己の判断が過ちだったと判断したバクラは声を荒げる。

 

「ディアバウンド! 俺様を抱えて走れ!!」

 

 その声に従い、バクラを覆う様に抱え、砂漠を走りだしたディアバウンド。その間も断続的に狙撃が続くが、全てディアバウンドの表皮に弾かれる。

 

 そうして即興の安全地帯を作ったバクラが移動し続けているにも拘らず、全方位から放たれる狙撃の檻に対して、此処までの攻防における違和感の正体を感じ取った。

 

――囲まれてやがるのか……いや、この魔力(ヘカ)は……!

 

「上だ、ディアバウンド! 螺旋波動!!」

 

 魔物(カー)を、精霊獣(カー)を操るものとして魔力(ヘカ)の流れを感じ取ったバクラの指示により、ディアバウンドは上空を薙ぐように螺旋波動を打ち放った。

 

 

 周囲を捻じ切りながら空間を薙ぐディアバウンドの一撃により空気の流れが歪んだことで、《光学迷彩アーマー》のステルスが一時的に弱まり、空に隠れた影の正体が姿を現す。

 

 

 それは真っ黒な影で生み出されたコウモリ――《ヴァンパイアの使い魔》が、螺旋波動を《ミスト・ボディ》によって身体を煙に変えながら躱し、細い尾の先に小さな《異次元トンネル-ミラーゲート-》の欠片をぶら下げていた。

 

「ハッ、成程な。こいつで…………ッ!?」

 

 相手の狙撃のカラクリを看破したバクラだが、闇夜を覆う程に広がるおびただしい数の《ヴァンパイアの使い魔》の群れに言葉を失う。

 

 そう、《ヴァンパイアの使い魔》は群体としてのモンスター。一面の夜空の全てが相手の眼であり、相手の牙であり、相手の罠である現実。

 

 やがて歪んだ空気の流れが戻って行くにつれ《光学迷彩アーマー》のステルスが力を戻し、その姿を闇に潜めてゆく空一面の《ヴァンパイアの使い魔》たちが「キキキ」と嘲笑うが如き耳障りな音を木霊させる中――

 

 

 夜空を舞う《ヴァンパイアの使い魔》の尾に括りつけた《異次元トンネル-ミラーゲート-》のそれぞれの欠片から(退魔)の弾丸が、雨の如く降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてバクラに向けて放たれた銃弾の雨がディアバウンドの表皮によって防がれている光景を、突貫で作った何処かの地下深くに潜む一団が眺めていた。

 

「気付かれたか――が、此方の全容が把握された訳ではなさそうだ」

 

 そこで横たわる《マテリアルドラゴン》の隣に立つ神崎は《夜霧のスナイパー》を各々構えるオレイカルコスソルジャーたちの背後で《封神鏡》に映し出されたバクラの姿を眺めつつ、ひとりごちる。

 

 そんな中、オレイカルコスソルジャーたちが《夜霧のスナイパー》のライフルの引き金を引くが、その銃口の先はバクラではなく、様々な角度からバクラを映した《異次元トンネル-ミラーゲート-》に向けられていた。

 

 

 やがて《異次元トンネル-ミラーゲート-》の幾枚かを通し、通常ならばあり得ない軌道を描いた銃弾がバクラに迫るが、やはりディアバウンドの剛腕により容易く弾かれる。

 

 今現在、バクラに襲いかかっている銃弾や大槍、爆薬の類は全て《異次元トンネル-ミラーゲート-》を入り口とし、出口に当る鏡面を管理する《ヴァンパイアの使い魔》によって送り届けられている。

 

 簡単に言えば、放たれた弾丸を空間転移して相手に届ける「テレポートショット」とでも言うべき代物だ。

 

 バクラの周囲には倒されても影響の少ない《ヴァンパイアの使い魔》の群れしか飛んでいない。

 

 とはいえ装備魔法《光学迷彩アーマー》により、ステルス状態が維持され、更に装備魔法《ミスト・ボディ》によって身体を煙のように変化させ、攻撃と言う攻撃を回避してくるので、一匹一匹倒す労力は計り知れないが。

 

「IAZNEK UOYSIAT」

 

「AKUSAMIKIH?」

 

 そうして現状に対して狙撃手が報告をいれ、他のオレイカルコスソルジャーの1体が《城壁壊しの大槍》に《鎖付き爆弾》を取り付け終えたものを《弩弓部隊》の巨大なバリスタにセットする手を止めつつ神崎に何やら忠言した。

 

「このまま続けてください。距離さえ保てば、今の彼はそう脅威じゃない」

 

「IAKUOYR!」

 

 オレイカルコスソルジャーの意味不明言語を棄却し、攻撃続行を指示する神崎だが、「脅威ではない」との言葉程に楽観視できる状況ではないこともまた事実。

 

――とはいえ、警戒すべき『ディアバウンド』、『逆刻の砂時計』、『定刻の砂時計』の3つは未だ健在だが……

 

 

 バクラの精霊獣(カー)――ディアバウンド。

 

 元々の戦闘能力が、神官たちの魔物(カー)を上回る程に強大であり、更には殺した魔物(カー)の能力を奪う力を持つ、まさに文字通り際限なく強くなっていく厄介なモンスター。

 

 加えて、まだバクラ自身が把握していない力に、この究極の闇のゲームの内の時間を巻き戻す、逆刻の砂時計。己が許可したもの以外を停止させる定刻の砂時計――限定的にとはいえ「時」を操る神の如き力。

 

 この3つのワイルドカードをバクラは有しているのだ。

 

 

 現状、銃弾の類はバクラしか負傷させておらず、ディアバウンドには傷一つ付けられてはいないことからも、その強力さが窺えるというもの。下手にモンスターをけしかけるなど相手に塩を送る行為に他ならない。

 

「AHIESUUYS ON NESUKAS?」

 

「このままで問題ありませんよ。彼の精霊獣(カー)、ディアバウンドは確かに並の魔物(カー)の追随を許さぬ程に強力な力を持ちますが、攻撃手段が近・中距離しかない今なら、距離さえ保てば嬲れます」

 

 やがて届いたオレイカルコスソルジャーの要請を神崎は断ちつつ、現状維持に努める。

 

 そう、バクラの持ち札の脅威は未だ健在。ゆえに絶対に近づかない。バクラのディアバウンドは確かに強大だが、究極の闇のゲームの開始時は中近距離射程の「螺旋波動」以外の攻撃手段を持たないのだ。

 

 原作であれば海馬とデュエルし、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を《ディアバウンド・カーネル》で破壊することで「滅びのバースト・ストリーム」も習得させていたが、今回は海馬とのデュエルがおじゃんになった為、心配無用である。

 

 海馬がKCに留まるスケジュールを急な要件をぶっこみ外した甲斐があるというもの。

 

 

――この交戦で最低でもどちらかの砂時計は使わせておきたい。

 

「此方の魔力(ヘカ)の供給ラインも問題ないようですし、息切れは相手の方が早いでしょう」

 

 ゆえに神崎は相手が攻撃不可能な距離から、バクラに致命傷を与えない程度に負傷させ続けていく。思わず「時が戻れば」と願わずにはいられない程に。

 

「捕捉は視覚・熱源・魔力(ヘカ)感知と足に打ち込んだマーカーで徹底。余計なことを考えさせない為にも、攻撃は途切れさせないように」

 

「IAKUOYR!」

 

 形成された監視網からバクラが抜け出す方法は一つを除き、まず不可能だ。

 

 空間転移による攻撃の仕掛けがバレたとしても、《ヴァンパイアの使い魔》たちが持ち運べる程度の《異次元トンネル-ミラーゲート-》の欠片ではディアバウンドはおろかバクラすら通れず、螺旋波動による攻撃も中継点で散らせば、神崎の元までは届かない。

 

 

 そうして《封神鏡》に映る破壊を振りまくディアバウンドの姿を眺める神崎だったが、その頭の中にゼーマンの声が響いた。

 

『神崎殿、対象の人物との接触に成功しました』

 

「そうですか。では其方は次のステップに進めてください。此方はもう少しかかりそうです」

 

『御意に』

 

 そうして言葉短いやり取りを終えた神崎が、《封神鏡》を見やればバクラが新たな動きを見せていた。

 

 

 

 

 

 

――チッ、転移系の魔術で弾丸を飛ばしてやがんのか……! 

 

「ディアバウンド!!」

 

 バクラの声に対し、降り注ぐ銃弾の雨に身体を盾にしながら、地を這うように飛行していたディアバウンドは砂地へ螺旋波動を拡散させながら放ち、奔った衝撃が周囲に巨大な砂煙を起こした。

 

 そうして砂煙に紛れて相手の視界を塞ぎ、目に見えて落ちた狙撃の精度によって、一時、銃弾の雨から逃れたバクラは姿の見えぬ敵へと頭を回す。

 

――取り敢えず、この砂煙で狙撃の精度は落とせる。そしてこれだけ俺様狙いを徹底するってことは、相手にディアバウンドを真正面から倒す力がねぇ証拠。

 

 相手が「狙撃」という「距離を取る」手段を取ったということは、「近づかれたくない」ことの証明に他ならない。

 

 更に銃弾の類はディアバウンドを一切傷つけておらず、相手の火力不足は明白。

 

――だが、転移の魔術の連発に、雑魚とは言えあれだけの数の魔物(カー)、銃弾だってタダじゃねぇ。息切れは相手の方が早い筈だ。しかし「銃弾」か……招かれざる客がいるらしいな。

 

 そして攻略の糸口を見つけたバクラが、三千年前のエジプト時代に「銃弾で狙撃される」事実から、敵の姿を見定める前に、ズシャッと周囲の砂漠に何やら落下した音が響いた。

 

 その音の正体を探るべくバクラが足元を眺めるが――

 

「あ?」

 

 それより先に砂漠一面に転がった無数の手榴弾――《パイナップル爆弾(ボム)》が同時にカチリと音を立て、全ての爆発が一体となって炸裂した。

 

 

 

 ディアバウンドが起こした砂煙の内側が爆心地となって、周囲に熱波を引き起こす。

 

 

 砂煙による目くらましは悪手だった。なにせ「自分は砂煙の中に潜んでいます」と宣伝しているようなものだ。

 

 なれば「砂煙全域を吹き飛ばしちゃおうぜ!」となるのは自明の理。

 

「クソッ!? なんでもありかよ!!」

 

 しかし、バクラは健在だった。

 

 咄嗟にディアバウンドを甲羅のように己に覆わせることで熱波や鉄片を防いでいた。だが、衝撃までは完全に防げない。

 

――拙い、今ので右肩の出血が酷くなりやがったッ! 意識が朦朧とする……足の方もこれ以上、無茶すりゃ今後動かなくなるかもしれねぇ……クッ、仕方がねぇな。

 

「ディアバウンド!」

 

 右肩からドクドクと流れ出す血に、撤退を判断するバクラ。

 

 

 ゆえに再度ディアバウンドに足元へと螺旋波動を放たせて砂煙を引き起こし、焼き増しのように敵方から再び投下された大量の《パイナップル爆弾(ボム)》が砂煙を消し飛ばすが、今度はバクラの姿は見えない。

 

 

 それもその筈、彼らがいるのは砂地を潜った地下。

 

 空からの狙撃は砂とディアバウンドの身体に阻まれ、バクラには届かない。

 

――あまり深くは潜れねぇが、このまま地中を進んで狙撃から逃れつつ撤退……水? まさかッ!!

 

 しかし、相手がそのまますんなり逃がしてくれる筈もなかった。

 

 ディアバウンドが掘った穴から地中の砂ごとバクラを溺死させるべく《激流葬》によって大量の海水が濁流となって襲い掛かる。

 

 逃げ場は他ならぬ己が塞いでしまった。

 

「ディアバウンド! 螺旋波動!!」

 

 ならばと即興の出口を砂と海水を蹴散らしながら螺旋波動で作り出し、地上へと強引に脱出するバクラだが、視界に広がったのは赤い世界。

 

 

 夜空を舞う《ヴァンパイアの使い魔》の群れから雨霰と飛来する《火竜の火炎弾》が、《火炎地獄》が、《火の粉》が、砂漠を焼き尽くし、この地を地獄とでも言うべき光景へと変貌させている。

 

「なんだ……こ、グッ!?」

 

 まさに火の海。息を吸うだけでも肺の焼ける感覚がバクラを襲う。

 

 

――このまま蒸し焼きにする気か!?

 

 バクラが少しばかり地中を移動していた合間の出来事。地中の移動で足が鈍ったことで用意できた即興の灼熱地獄。

 

 視界が及ぶ範囲は火の波が立ち昇り、人間の体力ではそう保たない。

 

 熱気に脳がオーバーヒートし、立ち眩むバクラを狙う狙撃。しかし主の危機にその銃弾はディアバウンドによって弾かれる。だが、それだけだ。

 

 追い詰められた現状にバクラは熱気で焼きつく脳を働かせるが、逆転の秘策は浮かばない。

 

 

 狙撃を無視して強引に突破しようにも、立ち昇る熱気はディアバウンドに抱えられようとも防げない。

 

 この熱気の中、自身がどのくらい意識を保っていられるか、分からない。

 

 そして厄介な火の海が何処まで続いているかも分からない。

 

 

――拙い、このままじゃ……どうする? この火の海から逃げるか? いや、狙撃を掻い潜りながら進めるのか? 拙い、拙い、拙い、拙い、拙いッ!!

 

 そして、なにより相手の底が分からない。

 

 相手が後どれだけ手を残しているのか分からないのが一番の問題だった。

 

 言ってしまえば、バクラの残りの全ての力を振り絞り、火の海から逃げ切れたとしても、相手に迎撃の余力があれば、その時点でバクラは詰む。

 

 ゆえにバクラは己に残った力で「捕捉すら出来ない相手」に最低でも撤退を決断させなければならない――どうしろと言うのだ。

 

 

 

 だが、そのとき不思議なことが起こった。

 

 

 立ち昇る炎が巻き戻るように消えていき、地上に出ていた筈の己が地中に戻り、そして爆撃される前の砂煙の只中に戻り、そしてそしてな具合に、時が逆再生を始めていく。

 

「……? 何……だ? 一体、何が起こってやがる……!?」

 

 

 

 彼は知らぬ間に鬼札を切ってしまった。

 

 

 

「どうなって……」

 

 やがて呆けた声を漏らすバクラは馬を休ませるべく馬上から、降りようとするが脳裏を過った直感に従い、身を捻って飛んだ――と同時に左足が着く筈だった砂地に銃弾がめり込む。

 

「――ディアバウンドッ!!」

 

――俺様の足を狙った狙撃ッ! なら次は――

 

 そうして現状を正確に把握したバクラは時が戻ったアドバンテージを十二分に生かし、右肩への狙撃もディアバウンドに弾かせた。

 

――やっぱりな、時間が戻ってやがる……理由は分からねぇが、この場から一気に離脱する方が先決だ!

 

 やがてディアバウンドに己を守るように抱えさせたバクラは近場の適当な村へ向かうべく己が精霊獣(カー)に宙を奔らせる。

 

 

 相手がバクラと闇遊戯がディアハしたタイミングでもなく、王宮からの追手がいたタイミングでもなく、周囲に誰もいなくなった段階で仕掛けてきたのは、バクラが散々煮え湯を飲まされた無差別範囲攻撃の為であることは明白。

 

 それは同時に相手は「民衆ごと攻撃することは出来ない」ことの証明にもなる。

 

 

 ゆえに空からの銃弾の雨にも足を止めず、近場の村へとディアバウンドに宙を奔らせるバクラだが、その行く手を遮るように砂地からせり上がった巨大な茨の壁――《棘の壁(ソーン・ウォール)》が、閉じ込めるように周囲に現れる。

 

――チッ、向こう側も時間が巻き戻ったことに気付きやがったか。だが、こんな壁がディアバウンドの障害になると思うなよ!!

 

「一点突破で砕け、ディアバウンド!!」

 

 だが、ディアバウンドの膂力の前には「一撃」で砕け散る程度のものでしかない。

 

 そうして《棘の壁(ソーン・ウォール)》を殴り砕いたディアバウンドと、バクラ。だが、その一瞬ばかり鈍った移動速度に狙いを定めるように夜空がチカリと光を放ったかと思えば――

 

 

 

 

 

 

 空から降り注いだ極光が主従を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 《封神鏡》をモニター代わりに衛星軌道上の《サテライト・キャノン》から落とされた科学的な破壊の光から、バクラに覆いかぶさることで主を一身に守るように極光を受け止めるディアバウンドを眺める神崎はオレイカルコスソルジャーに指示を出す。

 

「1体目の《サテライト・キャノン》の掃射が終わる前に、2体目の《サテライト・キャノン》を発射するように。3体目も同様でお願いします。掃射を終えた先から再充填も忘れないように」

 

 バクラの奥の手の一つ『逆刻の砂時計』の使用を確認した神崎は、当初の想定よりも魔力(ヘカ)のプールが確保できた為、予定を繰り上げて、もう一つの目的に乗り出した。

 

「此処で『停刻の砂時計』も使い切らせましょう」

 

「AYSSAH AYS2IAD!」

 

「ISIAK NETUUJIAS NAH1IAD!」

 

「ESAWA NUJUOYS YAS3IAD!!」

 

そうして1体目の《サテライト・キャノン》の極光を受け止めるディアバウンドの余波から少しずつ体力を奪われ続けているバクラに、2体目の《サテライト・キャノン》から極光が放たれた。

 

そして2発目の着弾が確認された段階で、1体目の《サテライト・キャノン》は再チャージを始めていく。ついでに3体目の《サテライト・キャノン》がバクラに狙いを定めている。

 

「そのまま継続して掃射を続行――相手の(バー)魔力(ヘカ)はどうですか? 此処で死なれると困ります」

 

「USAMIROETTIK OW IRAW3」

 

「3割ですか……なら続けてください」

 

「AYSSAH AYS3IAD!」

 

「ISIAK NETUUJIAS 2IAD!」

 

「UOYRNAK NETUUJIAS 1IAD!」

 

 やがてオレイカルコスソルジャーからの報告を受けつつ、バクラを殺さないように3体の《サテライト・キャノン》で代わる代わる撃ちまくらせる神崎。

 

「IESUOY UUYKOH ON AKEH!」

 

魔力(ヘカ)の補給ですね。了解しました――魔力(ヘカ)の補給ラインは問題ないようなので、足りない場合は遠慮せず言ってください」

 

――しかし、これだけの攻撃を受けて殆ど傷を負わないディアバウンド凄いな……

 

 ときおり、オレイカルコスソルジャーと握手しながら魔力(ヘカ)を託す中、ディアバウンドの頑強さに舌を巻きつつ、眺めている内に――

 

 

 世界の時が暫しの間、停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間は少しばかり進み――

 

 停刻の砂時計によって己以外の時間が停止したことで、《サテライト・キャノン》三人衆の連撃から逃れることに成功したバクラは何処かのオアシスで疲労困憊の身体を休めていた。

 

「クソが……俺様たち以外の招かれざる客ってヤツがいるみてぇだな」

 

 夜通し移動した為、今は太陽が昇っている時間帯だが、一眠りするように木陰に寝そべったバクラは舌を打つ。だが、その内は何処までも冷静だった。

 

「巻き戻った時間に、止まった時間……相手の狙いは『それ』を起こさせること――そう考えて問題ねぇ筈だ」

 

 先の攻防での相手の狙いも既に看破している。

 

 そして逆刻の砂時計によって時が巻き戻ったことで、足と肩の負傷は帳消しになった為、多少のダメージを除けば、ほぼ無傷と言って良い。

 

 だが、失ったものはあまりに多すぎた。

 

「どうやら俺様は知らぬ間に下手を打たされちまったようだな……こいつは早いとこ究極の闇のゲームの全容を把握しないと厄介そうだ」

 

 だとしても、バクラはただでは転ばない。お陰で究極の闇のゲームの(キー)も、おぼろげながら掴めてきた。

 

「しかし、あの狙撃者は深追いもせず、未だに追撃もしてこねぇ……用心深いのか、それとも俺様を舐めてやがるのか、もしくは俺様に何かをさせてぇのか」

 

 とはいえ、バクラにも解せない部分は残る。それは「相手の対応が中途半端過ぎる」一点。

 

 殺す気ならば、ファラオとの共闘も含め、幾らでも手があったことは明白。

 

「なんにせよ、あの時に俺様を仕留めておかなかったことを後悔させてやるぜ、ククク……」

 

 しかし今のバクラには「相手は今の段階では己を殺せない」情報だけで十分だった。そこから相手の狙いを紐解けば、十二分に活用は可能だ。

 

 誇りなどとは無縁のバクラには相手の戦力すらも利用する強かさがある。

 

「まずは戦力強化だ。適当な村でも襲って、ディアバウンドに人間共の邪念を取り込ませて貰うぜ」

 

――そうすりゃ、目当ての多くの邪念を宿す千年リングの所持者も釣れるだろうよ。

 

 そうして次なる目標を定めたバクラだが、そのまえに今は疲弊した己の身体を休めるべく、木陰にて暫しの休眠を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処でまたまた時間はそこそこ進み、バクラが手頃な村々を襲撃し終えた情報が王宮に伝わり始めた頃――

 

 黒い長髪の神官の男、マハードと、その部下たちは、バクラによって暴かれた先代のファラオ、アクナムカノンの王墓に結界を張るべく、王家の谷を目指していた。

 

 そんなマハードの脳裏に浮かぶのは同僚である二人の神官の姿。

 

『もし、バクラが現れてもお前一人で立ち向かおうとするな――お前如きがかなう相手ではない』

 

 海馬似の神官セトの忠告はマハードも理解している。

 

 だが、バクラによって村々が襲われ、民が傷ついている現実に、正義感の強いマハードは黙ってなどいられなかった。

 

『それでも……最後に勝利するのは貴方です』

 

 マハードが王宮を発つ前に告げられたイシズ似の女神官アイシスの言葉が過る。

 

 己の行動を「未来を予知する」千年タウクで見通した彼女の「決心は変わらないのか」との言葉を振り切ってマハードは此処にいる。

 

 アイシスが他の神官に忠言していれば、マハードの行動を止めることが出来たことは明白だが、彼女はマハードの勝利を信じ、沈黙を選んだ。

 

 

 

「王家の谷は左の道の筈じゃ……」

 

「黙って歩け! 我らはマハード様についていけばよい!」

 

 やがて曲がり角にさしかかり不審がる部下を叱責する部隊長のやり取りを余所にマハードたちは「修練場」へと歩を進める。

 

 そこがバクラとの決戦の地。バクラが己の邪念を孕んだ千年リングを最優先で狙うことは所持者であるマハードが誰よりも理解している。それゆえの今回の策。

 

『マハードに赤い血が流れているように俺にも赤い血が流れている。そこに一体何の違いがある――同じじゃないか』

 

 かつて若かりし王子だった頃の闇遊戯は、毒蛇に噛まれた己を介抱した際に、そう告げたことをマハードは忘れない。その時、マハードは幼き背中に王の資質を見たのだ。

 

『いずれ、皆が身分など関係なく自由に暮らせる世界が来る。俺が絶対にして見せる』

 

―――王子が言われた新たなる世界。理想に未だ遠くとも、きっと貴方なら実現できることでしょう。

 

 己に告げた優しき願いの為、マハードはバクラを討たねばならない。ディアバウンドの圧倒的な力に対抗できるのは、神を除けばエジプト一の魔術師と呼ばれたマハードくらいなものだ。

 

――さぁ来い、バクラ。私が持つ魔力(ヘカ)を最大限解放して挑もう! たとえ禁断の奥義を用いてでもお前を討つ!

 

 

 ゆえに、禁じ手すら使う覚悟を持ったマハードの頭上からバクラ――

 

 

 

 ではなく、複数のオレイカルコスソルジャーが現れた。

 

「HeHe……」

 

「IYaッHoooooo~~~~!!」

 

 そのオレイカルコスソルジャーの内の2体が左右を持って運ぶのは、ドーナツ状の黄色い悪魔《デス・ドーナツ》。

 

――来たか、バクラ…………ではない!?

 

「I I I I I I I I I YAッ!」

 

 そうして予想だにせぬ襲撃者に一瞬反応が遅れたマハードに《デス・ドーナツ》が頭上から被せられ、その胴体に装着。これによりマハードは両手の自由を奪われた。

 

「何者だ、お前たち!」

 

「KiKi i i i i i」

 

 マハードの問いかけなど意に介さぬオレイカルコスソルジャーはマハードに装着された《デス・ドーナツ》の上から殴る蹴るの暴行を加え始め、他の兵にも残りのオレイカルコスソルジャーが奇声と共に拳を振るう。

 

 その知性の欠片もない行動からは、問答無用だとの意思表示が窺えた。

 

 

 






ディアハって、たーのしー!




Q:定刻の砂時計による時間停止って、永続的に続くものじゃないの?

A:永続的に効果が続くものなら、原作のバクラが「大邪神ゾークの復活の直前」まで出し惜しみする必要性が見いだせない為、なんらかの制限があるものだと思われます。

ゆえに今作では「一定時間、停止させる」ものと判断させて頂きました。



Q:マハード!?

A:なんという卑劣な!

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