マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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念の為のQ&A――
Q:オレイカルコスソルジャーの言葉ってどうなってるの?

A:基本はローマ字表記になっております。
作者の頭じゃ外国語の難しいのは無理だからな!(おい)

「会話文」などの意味を持つ言葉が右読みに――所謂「ウェルズ語」になっており、

「叫び」や「驚き」などの感情的なあまり意味を持たない言葉が左読みになっております。




前回のあらすじ
ディアバウンド+マハード「 「 主は私が守り抜いて見せる!! 」 」







第185話 ファラオの黒き盾

 

 

 王宮のテラスにて、マハードが向かった王墓の方角を眺めていた闇遊戯、シモン。そしてマハードの弟子――《ブラック・マジシャン・ガール》に似た少女、マナはポツリと零す。

 

「お師匠様大丈夫かなぁ……」

 

「王墓の結界を張り直す時は術者も無防備になる……か。確かにもしもの時を考えれば……」

 

「そうなんですよ、王子! あっ……じゃなくてファラオ!」

 

 闇遊戯が師であるマハードを己と同じように心配してくれた事実に声を弾ませるマナだったが、シモンの存在に慌てて口調を正す。

 

「なぁに、儂はおぬしら師弟とファラオとの昔からの仲は知っとる。この場くらいならば、かしこまる必要はないぞい」

 

 しかしシモンは好々爺らしく朗らかに笑って見せた。

 

 

 マハードとマナ、そしてファラオである闇遊戯は幼い頃から交流が多かった。

 

 魔術の研究に励んだり、武芸を磨いたり、と実の兄弟のように育ってきたことは先代アクナムカノン王の時代から王家に仕えてきたシモンも良く知ること。

 

 なれば、誰の目もない非公式な場にてその仲を引き裂く真似など出来よう筈もない。ゆえにシモンは二人を安心させるべく語る。

 

「それにファラオも、そう心配なされることはありません、マハードはエジプト一、いや、世界を見渡してもあそこまで優れた魔術師はおりませぬ」

 

――そう、マハードは強すぎる魔力ゆえ力の一部を封印せねばならんかった。だが全ての力を解放すれば……恐らく六神官の中でもかなう者はおらん。

 

 シモンの内と外の声の通り、マハードの魔術師の腕は一級品である。

 

 普段は他の神官との連携の為などの理由から力を押さえているが、ひとたび力を解放すれば、その実力は他の追随を許さない。

 

 原作にて、バクラが強大な力を持つ精霊獣(カー)、ディアバウンドを有しているにも拘らず「正面戦闘を避ける程」と言えばその力量が窺えるというもの。

 

 

「お師匠様、早く帰ってこないかなー」

 

 だが、小難しい話になってきたからか、弟子のマナはシモンの話を上の空で聞き流していた。

 

「随分と気が逸っているようじゃの――なにか待ちきれぬ理由でもあるのかの?」

 

「はい! この任務の後、新しい魔術を教えて貰える約束になってるんです! あっ、その時は王子も――じゃなくてファラオも一緒に教えて貰いましょうよ!」

 

「そう……だな」

 

――こんなにも俺のことを慕ってくれる人たちを、何故俺は忘れてしまったんだ……

 

 元気ハツラツな様子で予定を勝手に固めていくマナと、呆れた様子でそれを眺めるシモンの姿を余所に、闇遊戯の心は何処か己を責めるような想いに囚われ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな話題の人物はというと――

 

 バクラとの一騎打ちを画策し、王墓ではなく、修練場に足を運んでいたマハードと兵士たち一行へ谷の上から襲い掛かったオレイカルコスソルジャー軍団。

 

 最大戦力であり、この場のトップであるマハードは《デス・ドーナツ》によって動きを封じられ、その《デス・ドーナツ》の内の歯でガジガジされている。

 

「HiHiHiーッ」

 

「マハード様!!」

 

 さらに縦横無尽に動き回って自分たちを翻弄するオレイカルコスソルジャーの攻撃に兵士たちが浮足立つのも無理はない。

 

――クッ、此処で余計な魔力(ヘカ)を消費する訳には……

 

 そして相手の目的はおろか、何を目的にした一団なのかすら分からない事実にマハードが後に控えたバクラとの決戦に意識を向けるが――

 

「うぁああッ!?」

 

「マハード様、お逃げください!」

 

 瓦解し始めるも、己を案じる兵士たちの声にマハードはカッと目を見開く。

 

――迷っている場合ではない!

 

「ハァアアア!!」

 

 そして身体に魔力(ヘカ)を巡らせ、解放すれば己を拘束していた《デス・ドーナツ》が弾け飛んだ。

 

 粉々になった《デス・ドーナツ》の残骸を余所に周囲のオレイカルコスソルジャーもその衝撃に吹き飛ばされまいと、足を止める。

 

「現れよ、幻想の魔術師!! 魔導波!!」

 

 その隙を見逃すマハードではない。

 

 素早く呼び出した己が魔物(カー)である霧のような身体を持つ霊魂が黒衣を纏った幻想の魔術師を呼び出し、杖から黄色に光る魔力弾を放たせ、オレイカルコスソルジャーの1体を吹き飛ばした。

 

「GUAAAAAAー!!」

 

「受けよ、幻想の呪縛!!」

 

 そして相手に立て直す暇を与えず、マハードは幻想の魔術師に宙を飛ばせ、制空権を生かしつつ、幾人かのオレイカルコスソルジャーの胴体へ魔法陣を挟み込み、動きを封じていく。

 

「GUGAッ!?」

 

「USOYAN!?」

 

「臆するな! 敵の足は私が止める! 陣形を組み直し、各個撃破せよ!」

 

「りょ、了解です!」

 

「お前たち、マハード様に続けぇ!」

 

 そうして動きを封じられ、もがくオレイカルコスソルジャーの何体かに兵士たちが剣を槍をと攻撃を仕掛けていく。

 

「TYO、OMA!?」

 

 やがて身体の一部分とはいえ、砕かれ始めたオレイカルコスソルジャーが焦ったように、拘束されていない仲間へと助けを求めるが――

 

「幻想の魔術師! 連撃の魔導波!!」

 

「GYAAAAAAッ!!」

 

「HYOEEEEEEッ!!」

 

 マハードの操る魔物(カー)、幻想の魔術師が一瞬で彼らの背後に回り込み、その杖から連続して放たれた魔力弾が、オレイカルコスソルジャーの数を1体、また1体と減らしていく。

 

「流石、マハード様!」

 

「行ける! このまま行けるぞ!」

 

 そうして形成を押し返せたことで、士気を高めていく兵士たち。

 

「このまま一気に行きましょ――ゴガッ!?」

 

 そんな兵士たちの1人が谷の上から襲来したオレイカルコスソルジャーの1体の拳によって大地に殴り潰された。

 

「なに……が……」

 

「オォオオォオオオオォオオオォッ!!!!」

 

 やがてそのオレイカルコスソルジャーは倒れ伏した兵士を片腕で掲げ、天を裂く咆哮を響かせる。

 

 その大気を震わせる威圧的な振動に思わず兵士たちの足が止まり、視線は当然叫んでいるオレイカルコスソルジャーの1体と、その突き上げた腕にて晒された仲間の無惨な姿へと向けられる。

 

 やがて件のオレイカルコスソルジャーによって乱雑に仲間の元に放り捨てられる兵士。

 

「ぁ……ぇ……」

 

「ひっ……!」

 

 そうして仲間の足元に転がった、見るからに重症の兵士が助けを求めるようになにか呟こうとしていたが、そのあまりに凄惨な有様に他の兵士の1人の腰が引けた――と同時にその身に影がかかる。

 

「ぇ?」

 

「メリタフ」

 

 そして乱雑に振るわれた拳によって壁に叩きつけられた。

 

 

 ベキリと骨の砕ける音と共に仲間がまた一人倒れ、苦し気な呼吸音を響かせる姿は、周囲の恐怖をあおって行く。そうして兵士たちの間に動揺が広がって行く中――

 

「メスス」

 

「HYAHAHAHAHAー!!」

 

「GEHYAHIHIHIHIッ!!」

 

 そんな恐怖が潜り込んだ心の隙をつくように他のオレイカルコスソルジャーたちも、狂ったように進軍を始めた。

 

 幻想の魔術師によって身体の自由を封じられた者が、己の身体が損傷している者が、いずれもそんなことなど気にも留めずに身体の一部分でも動く限り、それを駆使して文字通り兵士たちに喰らいついていく姿はまさに狂気的。

 

「な、なんだコイツら……!?」

 

「ひっ、く、来るなッ!?」

 

「怯むな! 我らにはマハード様がおられる! 私に続けぇ!! ハァッ!」

 

 そんな相手の凶行に自軍の士気の乱れを感じた兵士の一人が、戦場の空気を変えたオレイカルコスソルジャーに向けて上段から剣を振り下ろした。

 

 だが、件のオレイカルコスソルジャーは振りかぶられた剣を半身で躱し、相手と背中合わせになるように踏み込んだ瞬間に、足をかけながらインパクトした背中越しのタックルによって、その兵士は交通事故にでもあったかのように吹き飛ぶ。

 

「カハッ!?」

 

 そうしてまた一人、兵士を行動不能にしたオレイカルコスソルジャーが、次なる獲物へ拳を振りかぶるが――

 

「魔導波!!」

 

 それよりも先に、その身に魔力弾が飛来する方が早かった。咄嗟に背後に跳んでその一撃を躱したオレイカルコスソルジャーとマハードの視線が交錯する。

 

――ヤツだけ明らかに動きが違う……指揮官か!

 

「幻想の魔術師! 全力で行くぞ! 魔力(ヘカ)解放!! ハァッ!!」

 

 その僅かな瞬間、相手の力量を把握したマハードは封じていた力を解放。

 

 それに伴い、少年のような体躯だった幻想の魔術師も、成人男性程の体躯に変化――内包する力も、見た目以上に膨らんでいく。

 

 出し惜しみしていられる状況ではない。そう判断したマハードに対し、件のリーダー格と思しきオレイカルコスソルジャーも、同調するようにマハードへ向き直り――

 

「ツモケウ ハレア」

 

「IAKUOYR!」

 

「aAReET OZUKI!!」

 

 他のオレイカルコスソルジャーに何やら指示した後、跳躍し、己を囲う兵士たちを飛び超えマハードに迫る。

 

――あちらも私に狙いを定めたか……だが!

 

「――魔導波ッ!!」

 

 しかし、一騎打ちならばマハードも望む所だと、跳躍したゆえの無防備になった滞空中のリーダー格と思しきオレイカルコスソルジャーへと魔力弾を放った。

 

 威力も速度も先程の比ではない一撃。さらに身動きの取れない空中では躱すことは困難。

 

 

 かに思われたが、右腕で壁面を殴り、めり込んだ腕を支点に更に跳躍して一回転したリーダー格のオレイカルコスソルジャーはその一撃を回避、さらにその回転の速度を緩めぬまま――

 

「なにっ!? くっ、ならば――」

 

 幻想の魔術師が杖に魔術を再チャージし始める数瞬の間に、回転の勢いを殺さずかかと落としが繰り出された。

 

 

 爆ぜた地面に、砕け散る大地。残骸の石礫が周囲に散らばるが、相手の着地点を見極めていたマハードは一足、距離を取った後だ。そして――

 

「連撃の魔導波!!」

 

 チャージの終了と共に、数発の魔力弾が放たれる。

 

 そんな弾幕の如き攻撃を前に、リーダー格はめり込んだ足を起点に、地を這うように深く身体を沈め込ませて回避しつつ、スライドするように移動し、その右の爪を沈んだ反動を利用して斬撃として繰り出した。

 

「――ッ!? 千年リングがッ!」

 

 そんな首を狙われた一撃を間一髪で回避するマハード。だが、完全に躱しきれなかったのか、首元の千年リングが紐を切られたことで宙を舞う。

 

 その宙を舞った千年リングへ一瞬意識を奪われたマハードに返されるのは、振り切った右手の勢いのままに左手を地面に置きつつ、放たれた右回し蹴り。

 

「幻想の魔術師ッ!!」

 

 マハードは咄嗟に幻想の魔術師を己が前に配置して障壁を張らせるが、その瞬間に回し蹴りを強引に下段へ変化させて地面へ叩きつけ、そこを起点に強引に回り込んだリーダー格の左の逆回し蹴りがマハードの背を打ち付けた。

 

「ぐっ!?」

 

 ミシミシと音を立てて軋む己が骨の音と共に吹き飛ぶマハードと、幻想の魔術師。そして地を這うような低い姿勢で追撃を仕掛けるリーダー格。

 

 

「――舐めるなッ! 魔導波!」

 

 だが、蹴り飛ばされたことで、互いの距離が開けた――此処はマハードの距離。

 

 ゆえに幻想の魔術師に魔力弾を放たせるが、リーダー格が回し蹴りの際に拾った左手の石がとんでもない速度で投擲されて接触し、誘爆を引き起こす。

 

 そうして爆ぜた魔力弾によって一時視界を奪われたマハードの正面――ではなく、右側面からリーダー格のタックルが直撃し、ミチミチと肉の繊維が千切れるような音の後、壁面にプレスされるマハード。

 

「ガハッ!?」

 

 壁面に大きな蜘蛛の巣上のヒビを生みながら、叩きつけられたマハードの口から空気が漏れるような苦悶の声が漏れた。

 

 己より大柄なリーダー格のオレイカルコスソルジャーの全体重が、一つの砲弾となって直撃したのだ。並の人間では即死してもおかしくはない。

 

 だが、神官として厳しい修練を潜り抜けたマハードは、途切れそうになる意識を気迫で繋ぎつつ、震える手でリーダー格の身体を掴んだ。

 

 そして更に影から伸びた何者かの腕がリーダー格の足を掴む。

 

「ンウ?」

 

「伏……兵の……シャドウグール……だ……」

 

 壁抜けの力を持つ四本脚の異形の魔物(カー)、シャドウグールによる不意打ち気味の拘束に、完全に動きを止めたリーダー格を余所にマハードは叫ぶ。

 

「私ごとやれ!! 幻想の魔術師!!」

 

 その頭上には先程爆ぜた魔力弾を目くらましにし、制空権を取った己が魔物(カー)、幻想の魔術師が天に掲げた杖に「黒い」魔力の球体を形成しており――

 

「――黒・魔・導ッ!!」

 

 黒き暴虐の一撃が三つの対象を纏めて消し去らんとする勢いで炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなマハードと、リーダー格と思しきオレイカルコスソルジャーの一戦の決着がつかんとする頃――

 

 

 闇遊戯がいるであろう記憶の世界を目指している表の遊戯たち一同は、千年パズルの内部「心の迷宮」にて足止めを受けていた。

 

 冷たい石造りの牢獄のような広大な空間に点在する前後左右に物理法則を無視して数え切れぬ程の扉の数々に本田はお手上げだと零す。

 

「此処がもう一人の遊戯の心の中……扉ばっかりだな。この中にある『真実の扉』つったって、こんなもんどうすりゃいいんだ、ボバサ?」

 

「それはボバサにも分からない。でもこの心の迷宮を突破できるのは、きっとみんなだけ」

 

「つーか、本田! こいつの言うこと丸々信じていいのかよ! 俺はまだ納得してねぇぞ!」

 

 そんな本田にボバサが知り得る情報を明かしていくが、城之内がそれに待ったをかけた。

 

「おい、城之内……今は、んなことで争ってる場合じゃねぇだろ……」

 

 石板の前でのやり取りを蒸し返すような城之内の主張に、今は闇遊戯の元へ駆けつけることを優先すべきだと返す本田だが――

 

「いーや、この際だから言ってやるぜ! 心覗き見ただの、心がなんかアレだの、言いたい放題言いやがって――確かに、俺はあの人のことそんなに知らねぇけど、それでもお前よか、信頼できらぁ!」

 

 頭を使うことが苦手な城之内は、神崎の行動方針や、目的はやっぱりよく分からなかったが、一度、時間が空いたことで冷えた頭で下した結論が「悪い人ではないと思う」だった。

 

「…………ゴメン、ボバサ言い過ぎた」

 

 そんな城之内の真っ直ぐな瞳に、ボバサはその巨漢を小さくしながら謝罪を入れる。そうして左右の指をもじもじするボバサに城之内も気勢を削がれるが――

 

「きゅ、急に素直に謝んなよ……調子狂うぜ」

 

「まぁ、ボバサを俺らの元に連れてきたのは十中八九、神崎さんだろ? なら当の本人も大して気にしてねぇんじゃねぇか?」

 

 だが、此処で本田から城之内の憤りの根本を吹き飛ばしかねない情報が明かされた。よくよく考えてみれば、論ずる意味のない話だったと。

 

「そうなのか!?」

 

「そうなの!?」

 

「いや、ボバサはともかく、城之内……お前、この旅行の話、持ってきたのが牛尾だった時点で予想つくだろ……」

 

 仲良く声を揃えて驚く城之内とボバサの姿に本田は頭痛を堪えるように頭に手を置く。

 

 立場上、神崎の部下である牛尾が持ってきた話だ。ならば神崎が無関係だと考える方がおかしいだろう、と。

 

 そして石板を管理する墓守の一族のアヌビスも神崎の関係者となれば、ボバサが石板の前に来れた段階で、ボバサの立場は他ならぬ神崎に保障されているようなものだ。

 

 そう、図的には「ボバサを信じない=神崎を信じない」――な状態である。

 

「ちょっとアンタたち、なに無駄口叩いてるの! 記憶の世界に通じるっていう真実の扉をちゃんと探しなさいよね!」

 

 そんな衝撃的な情報に目を白黒させる城之内へ、「サボっている」と判断した杏子の怒りの声が届くが――

 

「杏子! 杏子はボバサと神崎さんが――」

 

「なに? また、その話? ……確かに急に色々言われてビックリしちゃったけど、よくよく考えれば、あの海馬くんがKCの一員って認めてるんだからきっと大丈夫よ」

 

 城之内の発言を別の意味で捉えた杏子が語るように、神崎の問題点は「海馬」という苛烈な監督者がいる段階で、論ずる意味があまりないのだ。

 

 人道に外れた行いを「あの海馬が許すのか?」――これで神崎の疑念は()()晴れる。

 

「ボバサが色々言ったのだって、海馬くんが神崎さんと仲が悪いみたいにボバサとの仲が悪い――って話じゃない?」

 

 そう、闇遊戯という仲間がいなくなった状況、非現実的なオカルトの話――といった混乱を生む非日常から、一旦冷静にさえなれれば、ボバサの語った内容は「あぁ、仲悪いんだろうな」で片付けられてしまうのだ。

 

 急に世界がどうとか言われても、普通はまともに取り合えなどしない。

 

「それに此処までの道中でボバサが悪い人じゃないってのは、アンタにも分かってるでしょ?」

 

 そしてボバサの人間性も、エジプト観光にてカルトゥーシュの件も含め、色々と親身になってくれたことを鑑みれば、そう排他的になる程でもない。

 

 その交流すら疑い始めれば、彼らとのトータルの交流期間がもっと短い神崎などどうしようもない。

 

「それは……そうかもしれねぇけど! な、なら! 心読んだ話は!」

 

 やがて「あれ? 分かってなかったの俺だけ?」な様子の城之内が、錦の旗とばかりに掲げるが――

 

「それ、ボバサが答える……あの人、墓守の一族のみんなが代々三千年の間ずっと秘していたことを世界に発表してる。悪いことに使われちゃダメだからって、ボバサたち頑張ってたのに……」

 

「それって、千年アイテムの不思議な力のことよね……」

 

「まぁ、昔のマリクみてぇなヤツかもしれねぇって考えたら、放ってはおけねぇか」

 

 マリクが起こした一件が、「オカルトの危険性」を十二分に物語ってしまう。

 

 とはいえ、その件は墓守の一族の失態といえば失態だが、三千年の間であの1件だけだと考えれば、首謀者以外を責めるのも酷であろう。

 

 

 危険性を考えれば徹底して秘するべきと考える墓守と、利用できるのなら利用していくべきとオープンに考える神崎。

 

 そんな二者のスタンスを見れば、「そりゃ溝になるよな」と本田が頷く中――

 

「んなもん、実際に聞きゃぁいいじゃねぇか!!」

 

「ウソ吐かれたら? 口では何とでも言えちゃう」

 

「うっ……」

 

 城之内が掲げた最後の頼みの綱も、アッサリ両断された。人は嘘を吐く生き物である。

 

「でも、ボバサもゴメンなさいする。この試練、とっても大事なもの――だから『関係ない人、巻き込んじゃいけない』ってキツく言った……でもやっぱり言い過ぎた。ボバサ、反省」

 

 しかしボバサにも非がある。墓守の使命に気を取られるばかりに、必要な配慮を疎かにしてしまったのだ。知り合いを悪く言われれば、誰だって怒る。

 

「その辺にしとけよ、城之内――そもそも心読んだのは『シャーディー』だろ? ならボバサに当っても仕方ねぇだろ。それに記憶の世界ってのにもちゃんと案内してくれてんだし、今はそれで良しとしようぜ?」

 

 そんな中、本田は城之内を説き伏せるように語る。本田とて城之内の気持ちは理解できるが、今は闇遊戯のピンチなのだ。

 

 そしてボバサの人間性もそう悪いものではないと判断できる以上、「個人的な好悪」に基づく感情的な問題は一旦棚に上げておくべきだろう、と。

 

「あー、分かった! 分かった! ……俺もちょっと意固地になっちまって悪かったな、ボバサ」

 

「うぁ~、城之内ー! 許してくれてありがとう~! ボバサ頑張る! いっぱい頑張って、今度はちゃんと――」

 

「止めろ!? 抱えんな! こら!?」

 

 そうして一先ずの仲直りを終えたことに感極まって城之内を掲げ、喜びを身体全体で示すボバサ。

 

 年齢を考えれば、子供のように高い高いされている状態は恥ずかしいと、抵抗を見せる城之内だが、ボバサの喜びの舞いは留まることを知らない。

 

「この扉に囚われてちゃダメなのかもしれない……」

 

 そんな騒々しくなり始めた一同を余所に、今まで黙々と心の迷宮を調べていた表遊戯が合流した。

 

「遊戯! なにか分かったのか!?」

 

「分かったのか!?」

 

 語られた言葉に突破口を見つけたのだと確信した城之内とボバサが口を揃えて表の遊戯を見やる中、表の遊戯から語られるのは何時の日か彼らが交わした言葉。

 

「多分、見えるんだけど、見えないもの――なんだと思う」

 

――それに多分、神崎さんは「もう一人のボク」のことをかなり細部まで知ってる……

 

 そうして心の迷宮の突破法を導き出した表の遊戯の脳裏を占めるのは、現在の用意されたような状況から組み立てられたある仮説。

 

 

 なにせ、大会参加のお礼だと、この旅行の話を持ってきたのがデュエル協会などの人員ではなく、牛尾だったことが本田の言う様に神崎の関与を伺わせる。

 

 さらに態々己と溝のあるボバサをガイドとして起用したことからも、表の遊戯が立てた仮説が現実味を帯びていく。

 

――同じ墓守のマリクくんがもう一人のボクを狙っていた時だって、色々動いてくれていた……なら今回だけ、関わっていないと考える方が逆に不自然だ。

 

 闇遊戯の為にと、アレコレ調べていた表の遊戯が持つ「闇遊戯がいた古代三千年前のエジプト」の情報は決して多くはない。明確なものは精々、己が拘わった範疇である――

 

 千年アイテムの一つ――光のピラミッド。

 

 墓守の一族――イシュタール家の騒動。

 

 3枚の神のカード――三幻神にまつわる決戦。

 

 この3つ程度だ。しかし、その全てに神崎という男が関わっている事実は表の遊戯にも無視できない。

 

 この状況で、「記憶の世界」の一件にだけ関わっていないと考える方が還って不自然だろう。

 

――あの人は悪い人じゃない。海馬くんだって、それを分かってるから、KCにいることを許してるんだ。

 

 だが、それが悪しき目的ではないことを表の遊戯は信じていた。

 

 パラドックスから命懸けで自分たちを逃がそうとした姿が、表の遊戯に神崎を()()()()()

 

 そしてシャーディーのことも表の遊戯は信じていた。

 

 かつて己に忠言に来たその姿に、闇遊戯を案じる心に、嘘偽りがないことが感じ取れたのだ。その事実は表の遊戯にとって大きい。

 

 そう、表の遊戯の中ではシャーディーも神崎も「悪人」にカテゴリーされていない。

 

――でも……でも、あの人にはそれ以上の大きな隠し事がある……誰にも言えないような……ボバサが、ううん、シャーディーが「危うい」と感じた何かが。

 

 しかし双方に拭えぬ程の溝があることもまた事実。

 

 とはいえ、その詳細は表の遊戯にも分からない。人の心はそう容易く推し量れるものではないのだから。ゆえに今の表の遊戯は――

 

「みんなの力を貸して欲しいんだ」

 

 己が出来ることを成すことだけに注力していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その調子だ。精々俺様の為にこの迷宮の謎を解いてくれよ、ククク……

 

 その選択が邪悪な影の道案内をしているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ギリギリの戦いだった……」

 

 右半身が消し飛び、更には両足も砕けたリーダー格のオレイカルコスソルジャーの残骸を前に、肩で息をするマハード。

 

 己を囮とし、自分ごと攻撃させる自爆染みた一撃だったが、最後の最後は自身の身体を魔力(ヘカ)で覆い、即興の鎧のような防御壁を張ったことで、なんとか命を繋ぐことに成功したマハード。

 

「ぐっ……! 私の魔力(ヘカ)の限界も近いな……」

 

 しかし払った代償は安くはない。

 

 表立った外傷こそ軽微に見えるが、全身に蓄積したダメージはかなりのものであり、さらに術を行使する為の魔力(ヘカ)も余裕がなくなってきた。

 

「幹部格と思しき相手で、これ……とは、セトの忠言が身に染みるな……」

 

 やがてフラフラと立ち上がったマハードはその脳裏に過るのは「一人で戦うな」とのセトの言葉。

 

 

 魔術師であるマハードは、対人戦はともかく魔物(カー)が相手では近接戦にそう秀でている訳ではない。

 

 どちらかと言えば、後方から味方の強化や、拘束技での錯乱、もしくは砲台としての役割が適しているだろう。

 

 そう、個の力はシモンが語るように飛び抜けているマハードだが、その本領は他との連携にあるといって良い。

 

 

 今回の苦戦は、バクラとの一騎打ち前提で行動した為、「群体」の敵への警戒が疎かになったゆえに起こるべく起こったものだ。

 

「早く……皆の援護に……向かわねば……」

 

 しかし、今はないものねだりができる状態ではない。

 

 幹部格と思しき相手を降したとはいえ、雑兵のオレイカルコスソルジャーたちは一般兵士たちだけでは厳しい相手。

 

 ゆえに重くなった足取りでマハードは仲間の元へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナタッイマ」

 

 だが、そんな歩みの一歩目に己の背後から声が届くと共に、マハードは背中から蛇のように羽交い絞めにされた。

 

「――なっ!?」

 

 その主は先程倒した筈のリーダー格のオレイカルコスソルジャー。右半身が消し飛んだとは思えぬ程の怪力でマハードを締めあげていく。

 

「その傷で……まだ、生きて……!?」

 

「ダウヨ ノイカンゲ ハダラカノコ」

 

 ギリギリと締め付けられるマハードが何とか相手を振りほどこうとするが、己が背後で何か呟いたリーダー格から爆発的に暴走を始める魔力(ヘカ)の気配を感じ取り、敵の狙いを察した。

 

「なにを……まさか貴様ッ!?」

 

 だが、時すでに遅し。

 

 ピキピキとリーダー格の残った身体へヒビが広がって行き、その隙間から赤い熱気が零れていく。

 

「ンサシツュジマ ラナウヨサ」

 

 

 そんなリーダー格の最後の呟きと共に閃光が迸り、そこでマハードの意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 





遊戯王二次は多々あれど、マハードに襲撃かました(一応)正義側のものはない筈……




ご感想の返信が出来なさそうなので、いつものQ&A――

Q:神崎は何故、闇遊戯側のマハードに襲撃をかましたの?

A:このバクラとマハードの一戦を放置すると、バクラはディアバウンドの力を増大させることのできる千年リングと、倒した魔物(カー)の能力を奪うディアバウンドの力で「壁抜け」という厄介な能力を得る為です。

この際、マハードは己が魔物(カー)と同化する禁術を使い、幻想の魔術師が強化されますが、バクラ強化のマイナスが大きいと神崎は考えた為、介入しました。

やったね、マナちゃん! 師匠が帰ってくるよ!(なお状態)


Q:他と動きの違うリーダー格のオレイカルコスソルジャーって誰? 原作キャラ?

A:自立活動しているオレイカルコスソルジャーの1体を遠隔操作しているだけです。



Q:あれ? 遊戯たちの神崎への不審感は?

A:「神崎の内面に何らかの問題がある」ことの把握に留まっております。

183話の争点はそこだったのですが、作者の想定以上に、読者の皆様方からのボバサとシャーディーへの風当たりが強かった様子だった為、細かい部分の注釈を追加で入れてみました。
(カットし過ぎたゆえに勘違いさせてしまい申し訳ないです<(_ _)>)

作中で語られたように一般人目線の神崎の不審感は「海馬社長」の存在が大体晴らしてくれます。
原作でも己の理念に反せば、幹部のBIG5すら容赦なく排除する人ですし



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