マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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マナ「さぁ、お師匠(マハード)サマの大活躍ですよ!(先制フラグ)」




前回のあらすじ
ディアハが開始されます。一般市民はただちに退避してください。繰り返します。ディアハが開始されます。一般市民は――





第188話 天空の神

 

 

 バクラと闇遊戯の馬上の戦いが始まる前に、此処で舞台は究極の闇のゲームの盤上から、現代へ戻る。

 

 

 そしてアメリカのI2社の会議室にて、巨大なスクリーンに向けて夜行が、ペガサス含めたペガサスミニオンたちと海馬兄弟を交えて、なにやら論じていた。

 

「学園システムは三つの階級を用意し、それぞれ待遇に差を設けることで競争心を煽り――」

 

「待つのデース、夜行ボーイ。それでは下の階級にいる者たちが可哀想なことになってしまいマース」

 

「会長、お言葉ですが『デュエルエリート』を育成するにあたって、足切りは避けては通れません」

 

「……海馬ボーイ、これでは生徒が、強さのみを追い求めてしまいかねまセーン」

 

 ペガサスが今回の話――デュエルの学び舎こと「デュエルアカデミア」を持ち込んだ海馬に苦言を呈するが――

 

「安心しろ。貴様が心配する精神面の成長を促す用意は出来ている。あるデュエル流派の教えが、貴様の眼鏡に叶う筈だ」

 

 それは海馬が先んじて用意しておいた書類の束がペガサスの元へとMr.クロケッツを通じて届けられたことで矛先を失う。

 

 なにせ、その中身はペガサスが望む「デュエリストの心」を重んじる内容なのだ。

 

「Oh! これは! それに彼はワールドグランプリでMr.シュレイダーに諦めず教えを説いた……成程、これならば……では夜行ボーイ、続きを」

 

「ハッ。そして階級の上下の条件として――」

 

 そうして喜色の声を漏らし、顔をほころばせるペガサスは先を促し、進行役を買って出た夜行もペガサスに注目されたことでルンルンになりながら話を進めていった。

 

 そんな中、黙して難しい顔をする海馬を、モクバは下からのぞき込む。

 

「どうしたの、兄サマ?」

 

「……なんでもない」

 

 だが海馬は空返事を返した後、デュエルディスク及びデッキ、そして千年ロッドの入った足元のジュラルミンケースへ視線を向けた後、己が脳裏に神の啓示とばかりに突如として奔った情報へと意識が向いていた。

 

――遊戯と『オシリスの天空竜』に加え、あれは……《ブラック・マジシャン》の姿。それにあの街並みには見覚えがある。

 

「……オカルトグッズが見せた幻か……だが何故だ? 牛尾の話では、遊戯は凡骨共と観光に行ったとの話だった筈……」

 

 バトルシティ以来の己が嫌うオカルト紛いの出来事に、考えを纏めるように呟く海馬。だが、「馬鹿げた話だ」と一方的な否定はしない。

 

 今の海馬は「オカルト」に対して、「未だ科学で証明できない分野」――そう考えている。

 

 なにせ身近にオカルトへ科学的なアプローチを試みているものがいるのだ。その成果も通達されている以上、全面否定はできない。

 

「磯野、ヤツの動きは?」

 

「ハッ! エジプトにてオカルト案件の依頼があったとの話です」

 

「遊戯のエジプト旅行に合わせて……か。偶然と片付けるにはきな臭い」

 

 やがて磯野からオカルト課の動向を聞き出した海馬は、すぐさま席を立ちペガサスへと視線を向けた。

 

「ペガサス、今回はあくまで情報共有だ。アカデミアに関する要望があるのなら、纏めておけ」

 

 そう短く告げて、ジュラルミンケース片手に相手の返事を聞くつもりもないかのように踵を返す海馬をペガサスは呼び止める。

 

「海馬ボーイ、そう急ぐことはありまセーン! そうデース! シンディアも呼んじゃいマース!」

 

 だが、その内容は「仕事にかこつけてシンディアとイチャつきたい」願望が透けて見えたゆえかどうかは分からないが、海馬の足を止めるには至らない。

 

「行くぞ、モクバ」

 

「あっ、兄サマ! 俺、もうちょっとペガサス会長たちと話していっていいかな? 後で追いかける……から」

 

 しかし、モクバの足は止まった。そうして恐る恐る返答を待つモクバへ――

 

「……そうか――なら、()()()

 

 すれ違いながらかけられた言葉にモクバは破顔する。

 

「!? うん! 任せてよ!!」

 

「磯野、お前はモクバについてやれ」

 

「ハッ! 瀬人様はどちらに?」

 

「なに、少し人に会いに……な」

 

 そうして浮足立つモクバを磯野に任せた海馬はブルーアイズジェットへと向かいながら、己が脳裏に奔った下らぬビジョンを否定するべく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は究極の闇のゲームの盤上に戻り――

 

 

 馬を走らせ駆けるバクラと、それを追う闇遊戯とマハードたちが街道を突き抜け、民たちを避け、黒いローブの人物とすれ違い、王宮からかなり離れた頃、馬上のバクラは背後へ向き直りながら宣言した。

 

「さぁて、ここらをテメェらの墓場にしてやるか――ディアバウンド!!」

 

「なら迎え撃つ! 行くぞ、オシリス!!」

 

 そしてバクラの背後から現れた黒く邪悪に変貌を遂げたディアバウンドの姿に、闇遊戯は頭上を舞う赤き竜、オシリスの天空竜で相手の攻撃に構えるが――

 

「やれ、螺旋波動!!」

 

 ディアバウンドの腕から放たれた螺旋波動は、闇遊戯とはまるで見当違いな方角へと放たれた。その先にあるのは――

 

「何処を狙って……街を!?」

 

「さぁ、民衆共! ファラオのお通りだ! ハハハハハ!」

 

 民が住まう街々。当然、ディアバウンドの放った攻撃は無情にも民衆たちへと着弾。

 

「――魔導波!!」

 

 する前に、襲来した青い魔力球がその一撃とぶつかり合い、掻き消された。

 

「なっ!? ディアバウンドの攻撃が!?」

 

「バクラ! これ以上、貴様の好きにはさせん!」

 

 驚きに目を見開くバクラの視線の先にいるのは幻想の魔術師を操るマハードの姿。そんな思わぬ横やりにバクラは軽く舌打ちするも、嘲笑を以て返す。

 

「チッ、誰かと思えば、千年リングを奪われた負け犬様じゃねぇか。生憎だが千年アイテムを失ったテメェに用はねぇんだよ!」

 

「貴様にはなくとも、私にはある! ファラオに牙剥くお前を許す訳にはいかない!!」

 

「ククク、随分と粋がるじゃねぇか。だが、此処が俺様にとってとてつもなく有利な場所であることには変わりねぇ――ディアバウンド! 手あたり次第に街をぶっ壊せ! 手が回らなくなる程になァ!!」

 

 挑発目的のバクラの声にも動じぬマハードへと向けられるのは、両の手を広げたディアバウンドが縦横無尽に街へと攻撃を放つ無差別攻撃の一手。

 

「頼む、オシリス!!」

 

 それに対し、闇遊戯は街とディアバウンドの間にオシリスの天空竜を配置し、盾とする。だが、神が受けるダメージが闇遊戯にフィードバックすることを考えれば悪手というほかない。

 

「フフフフ……街の奴らの盾になる気か? だが、一体何時まで耐えられ――」

 

「千本刃!!」

 

 だが、街中にバラまかれたディアバウンドの攻撃はマハードが操る幻想の魔術師から放たれた数え切れぬ程に射出されたナイフによって誘爆させられ、その全てが宙で弾けた。

 

「馬鹿なっ!? ディアバウンドの全ての攻撃を捌いた……だと……!?」

 

「バクラよ、お前のディアバウンドが力を上げたように、私も修練を積み魔力(ヘカ)の能力を高めたのだ」

 

 よもや全て防がれるとは思ってもみなかったバクラは、油断も慢心も捨てた瞳のマハードへと今度は忌々し気な視線を向ける。バクラの中で、マハードが「目障りな駒」から、「厄介な敵」へと評価が変わった瞬間だった。

 

 そうして先の敗北から一回りも二回りも成長を遂げたマハードの姿は、闇遊戯にとってもこれ以上ない程に頼もしいもの。

 

「ファラオ! 街の守りはお任せください! この命に代えても民へ手出しはさせません!!」

 

「助かるぜ、マハード!」

 

「ククク、そうかよ――だが、単純なパワーはディアバウンドが上だ! 螺旋波動!!」

 

「なら、その力! 俺が受け持つまで! オシリス! 超電導波サンダー・フォースッ!!」

 

 やがてオシリスの天空竜の口から放たれた雷撃の砲撃染みた一撃と、ディアバウンドの螺旋を描きながら迫る衝撃が真正面からぶつかり合う。

 

 生じた衝撃が、周囲の空間を軋ませていくが、やがてオシリスの天空竜の雷撃が打ち勝ち、空気を裂きながら迫る雷撃が直撃したディアバウンドは大きく吹き飛び、地面を削りながら転がった。

 

「チィッ!!」

 

――クッ、ディアバウンドが力を上げたとはいえ、神に真正面から挑むにはまだキツイか……!

 

「諦めろ、バクラ! もうお前に勝ち目はない!」

 

 ディアバウンド越しに受けたダメージに顔を歪ませて馬を止めたバクラに、闇遊戯は馬の足を止めながら馬上から投降を勧めるが――

 

「なら、こうだ」

 

 いつの間にか闇遊戯の背後にいたディアバウンドがその爪を闇遊戯へと振り下ろした。

 

「ッ!? 魔防壁!!」

 

 だが、その爪の一撃は魔法陣の壁に阻まれつつも振り切られたが、魔法陣を砕く一瞬の隙に飛びのいた闇遊戯には届かなかった。

 

「ご無事ですか、ファラオ!!」

 

「ああ、なんとかな」

 

「チッ、神官様のお陰で命拾いしたな、遊戯ィ――だが、いつまで保つかねぇ」

 

 傍へ寄るマハードへ己が無事を伝える闇遊戯の横で、ディアバウンドの身体は闇に解けるように消えていく。

 

「ステルス能力……」

 

「そうさ! 死霊共を取り込んだディアバウンドは新たな能力を得てんだよ! 周囲の闇に同化した不可視の攻撃を何時まで防げるかな?」

 

 バクラによって明かされたディアバウンドの能力に対し、厄介だと警戒心を募らせる闇遊戯だが、マハードは合理的に宙の幻想の魔術師の杖をバクラに向けさせる。

 

「ならバクラ! 直接お前を狙うまでだ!!」

 

「浅いんだよォ! ディアバウンド!!」

 

「クッ、街へ!? 魔導波!!」

 

 だが、その前に何もない空間から放たれた螺旋波動が街へと降り注ぐ光景に、幻想の魔術師の攻撃は其方への対処に当てられた。

 

 そうしてディアバウンドの攻撃に右往左往する相手へと優越感を覚えつつ、バクラは嗤う。

 

「ククククク、王様よぉ……ゲームはとっくに難易度を増してるんだぜ? 俺様には幾らでも選択肢がある。テメェらを狙うか、街を狙うか、それとも魔物(カー)を狙うか」

 

 そう、この場はバクラにとって敵地であっても、己の優位性を十二分に確保できるフィールド。

 

「対するテメェらはその全てを守らなきゃならねぇ――大変だなぁ、正義の味方ってのもよぉ」

 

 この場には闇遊戯が、マハードが守りたい対象があまりにも多すぎた。ディアバウンドが適当に暴れるだけで、闇遊戯たちはその対処に手を回さなければならない。

 

 ゆえに此処は多少の民衆を見捨ててでもバクラを早急に倒す非情とも取れる選択こそが求められるが――

 

「マハード、守りは頼む!!」

 

「お任せを!!」

 

 闇遊戯はマハードへ短くそう告げながら、オシリスの天空竜を街の空へと飛び立たせた。

 

「ククク、千年リングすら守り切れなかった負け犬様に守り切れるのかねぇ?」

 

――チッ、欠片も疑ってねぇ目しやがって……

 

 その闇遊戯の行動の意図を理解し、内面を隠しながらも強気に振る舞うバクラに闇遊戯は力強く宣言する。

 

「さぁ、かかってこい、バクラ! 俺は逃げも隠れもしない! こんな馬鹿げてるゲームも此処で終わりだ!!」

 

 それは一対一の誘い――己と民衆の守りはマハードに全て任せ、バクラにのみへ集中するとの宣言。

 

 これではバクラが下手に街を狙えば、その背をオシリスの天空竜の一撃で狙い打たれるだろう。

 

 しかしその反面、マハードが守り切れなければ民の犠牲は計り知れぬものとなる――だが闇遊戯の瞳にはマハードへの信があるのみ。

 

「ハッ、天空の神お得意の空中戦がお望みか――なら、乗ってやるよ! 毒牙連撃波!!」

 

 それゆえか、その誘いに乗ったバクラはディアバウンドの姿をオシリスの天空竜の正面に配置しながら、ステルス状態を維持した蛇の下半身を闇遊戯の背後に伸ばしたのち、牙を剥きながらその背を不意撃った。

 

「暗黒魔連弾!!」

 

 だが、その蛇の顎は幻想の魔術師の杖から放たれた魔力弾の弾幕に遮られる結果となる。

 

「ケッ、邪魔臭ぇ神官サマだ」

 

「無駄だぜ、バクラ! もうお前の好きにはさせないといった筈だ!」

 

「ククク、なら天を操る神サマに、闇を操るディアバウンドの恐ろしさをタップリ教えてやるぜ!!」

 

 不意打ちの失敗に舌を打つバクラだが闇遊戯の声にも動じることはなく、ディアバウンドを闇へと紛れさせ、その全身をステルス状態へと移行。

 

 一対一ならば勝てると考えている闇遊戯の思惑など、バクラからすれば浅慮でしかなかった。

 

「くっ、またしても姿が!」

 

「問題ない! マハードは民たちの守りに集中してくれ!!」

 

「螺旋波動!!」

 

 姿の消えたディアバウンドを懸命に探るマハードと闇遊戯を余所に、オシリスの天空竜の背後から放たれたディアバウンドの一撃が神の身を削り、闇遊戯へダメージを与えていく。

 

「ぐぁッ!? オシリス! サンダー・フォース!!」

 

 とはいえ、闇遊戯もタダではやられまいと受けた攻撃から場所を割りだし反撃するが、オシリスの天空竜が放った雷撃は宙を素通りするだけで何も捉えはしない。

 

「遅い遅い! テメェの攻撃じゃ闇に紛れたディアバウンドは捉えられねぇよ!!」

 

「ならば、バクラへ攻撃せよ! 幻想の魔術師!!」

 

「だから遅ぇんだよ!」

 

 咄嗟に放ったマハードの一撃も、何時の間にか移動していたディアバウンドに阻まれ、掻き消される。

 

「クッ、また闇に紛れた……!」

 

「ハハハハハ! まだまだ奥の手はあったが、それを使うまでもなかったなぁ!!」

 

 そして再び姿を闇へと消したディアバウンドの行方を捜すマハードの姿へとバクラは嘲笑を向ける。このままでは闇遊戯たちのジリ貧だろう。

 

 さすれば着実にダメージが重なって行き、天空の神が地に落ちるのも時間の問題だ。

 

「このままなぶり殺しにしてやるよ!」

 

「出でよ、新たな魔物(カー)!!」

 

 だが、バクラの勝利宣言染みた言葉に対し、闇遊戯のディアディアンクに新たな魔物(カー)の文様が浮かび上がり、黒い小さな影がバクラへと向かって突っ込んでいくが――

 

「今更なにを呼ぼうが俺様のディアバウンドの敵じゃねぇ!」

 

 闇より現れたディアバウンドの爪によって、アッサリとその魔物(カー)は両断された。

 

「クリー!」

 

「クリリー!」

 

「クリリッ!」

 

 と共に、その数を爆発的に増やしていく。やがて空一面に広がるのは小さな黒い毛玉のような魔物(カー)、クリボー。

 

 ディアバウンドが空に無数に浮かぶクリボーの一体に不意に接触した途端、小さな爆発が生じる。

 

「なんだ、コイツらは!? グッ!?」

 

「機雷化と増殖能力を持った魔物(カー)――クリボーさ!」

 

 そう、これこそが闇遊戯のディアバウンドのステルス能力攻略の一手。

 

「成程な、機雷化の力で闇に紛れたディアバウンドの居場所を割り出そうって訳か」

 

 バクラにも察しがついたように、クリボーが爆ぜた場所こそが、ディアバウンドの位置。見えなくなっていても、攻撃が当たらない訳ではない。

 

 これでステルス能力は攻略されたも同然だ。

 

「だが、所詮はくだらねぇ小細工! これだけ隙間があればディアバウンドは自在に移動できる」

 

 かに思えたが、バクラの言う様に如何に空一面をクリボーの大群がいるとはいえ、一切の隙間がない訳ではない。

 

 この程度では、空を縦横無尽に移動できるディアバウンドからすれば、ザル以下の包囲網である。

 

「所詮は浅知恵……なぶり殺しは止めだ。さっさと死にな、遊戯! 生と死の狭間の世界を永遠に彷徨え!」

 

「何勘違いしてるんだ? 俺の一手はまだ終わっちゃいないぜ!」

 

 とはいえ、小細工と馬鹿にしつつも、これ以上余計な考えを出される前に、しっかり勝負を決めにかかるバクラだが、既に闇遊戯の仕込みは終えていたと天に指差す。

 

 新たな魔物(カー)――モンスター(カード)が呼び出されたことで、オシリスの天空竜の第二の口が開き、そこから球体上のイカズチが顔を覗かせた。

 

「オシリスの第二の口が……!?」

 

「新たに呼ばれた魔物(カー)の存在が、オシリスのもう一つの力を呼び起こす――召・雷・弾!!」

 

 その球体上のイカズチの狙いはディアバウンド――ではなく、空一面を覆いつくさんとする数多のクリボーたち。

 

 数多のクリボーの数だけオシリスの天空竜の第二の口から放たれた球体上のイカズチ、召雷弾がクリボーたちを屠って行く。

 

「馬鹿が! テメェの魔物をテメェで潰してりゃ世話な――空が……!?」

 

 そして空一面にクリボーたちの断末魔が響く中、召雷弾によるイカズチが迸り――

 

「オシリスのイカズチによって照らされた空に、お前のディアバウンドが隠れる闇はない!!」

 

 夜空に雷撃の明かりが一時ばかり灯った。

 

 その輝きにより、一時ばかり闇を奪われたディアバウンドのステルス状態が解除され、その姿が露わとなっていく。

 

「こんな……こんな方法で……!!」

 

「マハード!!」

 

「しまっ――」

 

 そして姿を露わにしたディアバウンドの背後にはマハードが操る幻想の魔術師が杖を構えており――

 

――何時の間にッ!?

 

「我が全ての魔力(ヘカ)を此処に!!」

 

 ディアバウンドへ向けた杖から幹部格のオレイカルコスソルジャーすら屠った時よりも、更に磨きをかけた黒き暴虐の一撃が――

 

「 黒 ・ 魔 ・ 導 ! !」

 

 放たれた。

 

 

 空に眩き黒い奔流が迸る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったか!!」

 

 やがてマハードの魔物(カー)、幻想の魔術師の渾身の一撃によって空に咲いた紅蓮の花に勝利を確信するように拳を握る闇遊戯。

 

 

 そうして空の爆炎が晴れていった先から力なく落下していくのは、球体上の身体に小さな翼の生えた魔物(カー)、イル・シユウの姿。

 

 

 マハードの瞳がゆっくりと見開かれて行き、驚愕の色を覗かせる。

 

「――なぁんてな」

 

「ディアバウンドではない……だと!?」

 

 やがてそんな周囲の反応を愉しむようなバクラの声を合図にイル・シユウの背後から現れるのは無傷のディアバウンドの姿。

 

「ククク……残念だったなぁ、王様よぉ。今、テメェらは千載一遇の機会を逃したぜ――同じ手が二度通じるとは思わねぇこった」

 

 そう、完全に捉えたかと思われたマハードの一撃だが、バクラは念の為にと同行させていた別の魔物(カー)を犠牲にすることで、ディアバウンドへの直撃を防いでいた。

 

 そして空から雷撃の輝きが消え失せ、闇が戻ることでディアバウンドもその姿を闇へと紛れさせていく。

 

 バクラの言う様にまさに千載一遇の機会を逃した現実にマハードは沈痛な面持ちで悔し気にギリッと歯を食いしばった。

 

「くっ、申し訳ありません、ファラオ……!」

 

「そいつはどうかな!!」

 

「ケッ、負け惜しみ…………ん?」

 

 だが、闇遊戯の顔に陰りはない。その姿へ挑発を織り交ぜつつ不審気に思うバクラだが、その頬を空から飛来した一筋の雫が濡らした。

 

 その出処に思わず空を見上げたバクラの視界には、夜空に暗雲が立ち込め、ゴロゴロと空模様が変貌していく。そして落ちるは――

 

「雨……!? まさか!!」

 

 雨。

 

 降り注ぐ雨が、建物に弾かれつつも、街全域を覆っていく。そしてそれは空に浮かぶオシリスの天空竜も然り。

 

「なにもお前のディアバウンドは存在そのものが消えている訳じゃない。あくまで『見えなくなっている』だけだ!」

 

 闇に紛れたディアバウンドも然り。

 

「雨でディアバウンドの姿を……!!」

 

 闇にステルスし、実質的な透明になったディアバウンドの身体を雨が伝い、その姿を暴き出していく。

 

「さっきの雷撃と爆発は空を照らす為ではなく、雨雲を呼ぶ為に……!!」

 

「お前のディアバウンドが闇を操るのなら、俺のオシリスは天を操る! 全ての(そら)はオシリスの元にあると思え!!」

 

 そう、バクラの推察通り、先のオシリスの天空竜の行動すべてが、この雨雲を呼ぶ為のもの。

 

 空に手を掲げる闇遊戯の姿に、オシリスの天空竜も応えるように咆哮を轟かせる。

 

「クッ……本命の一手って訳か」

 

「確かにこの闇のゲームへの理解はお前の方が深い……だが、俺にはお前にはないものがある!」

 

 バクラの打つ手は闇遊戯にとってどれも厄介だ。だが、闇遊戯にとって厄介な相手は慣れたもの。

 

「多くの戦友(とも)との戦いの記憶(デュエリスト同士の軌跡)が!!」

 

 (闇遊戯)決闘王(デュエルキング)――全てのデュエリストの頂点に立つ存在。

 

 その頂きに立つまでに戦った相手とて、一筋縄ではいかない相手ばかりだった。

 

「その力――そう簡単には砕けないぜ!!」

 

 それらを思えば、バクラとて「その中の一人」でしかない。

 

 

 これにてステルス能力は今度こそ完全に封じた。

 

 術者や民への攻撃もマハードが捌き、

 

 ディアバウンドの強大な力はオシリスの天空竜が砕く。

 

 

「くっ……」

 

「ファラオ! 此処で彼奴との因縁に終止符を!」

 

「無論だ! さぁ、バクラ! 今こそ決着をつけるぞ!」

 

 そしてバクラに残されたのは小細工抜きの神との一騎打ちのみ。

 

 マハードと闇遊戯が詰めに入る中、バクラはギリリと苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながらディアディアンクに鳥の文様を浮かばせつつ、やぶれかぶれな様相で叫んだ。

 

「くっ……だが、まだ俺様の負けじゃねぇ! ディアバウンド! 最大火力で王様をぶっ殺しな!」

 

「迎え撃て、オシリス!!」

 

 やがて闇を従えた魔獣が両腕を突き出して破壊の奔流を腕の先に形成し、対する天を駆る神竜がその口元にイカズチを迸らせ――

 

「螺 旋 波 動!!」

 

「超電導波! サンダー・フォース!!」

 

 両者の声と共に解き放たれた二つの力がぶつかり合う。

 

 その衝突の拮抗により、周囲に破壊的な突風が吹き荒れるが、やはり力の差は覆らぬとばかり、オシリスの天空竜の雷撃がジリジリと敵の一撃を喰い破って行く。

 

 

 やがて糸がプツンと途切れたように雷撃によって破壊の奔流は掻き消され、神の一撃がディアバウンドの身を打ち抜いた。

 

 

「ぐぁあああああああッ!!」

 

 その衝撃により吹き飛ぶディアバウンドと、ダメージのフィードバックにより馬から転げ落ちるバクラ。

 

 そうして雨に濡れた地面に転がり泥に汚れたバクラを馬上から見下ろす闇遊戯は止めを刺すべく腕を突き出し、オシリスの天空竜へと命じた。

 

「これで終わりだ、バクラ!!」

 

 やがて再びオシリスの天空竜の口元にイカズチが迸り始め解き放たれんとするが、そのタイミングでバクラの背後からハヤブサの頭を持つ白き衣を纏った魔物(カー)が広げた翼を折りたたみながらバクラの背後に降り立った。

 

「――待て、オシリス!!」

 

 その魔物(カー)、有翼賢者ファルコスの姿に闇遊戯は腕をオシリスの天空竜の射線にかざしながら叫ぶ。

 

 やがて攻撃姿勢を解いたオシリスの天空竜の姿にバクラはクツクツと嗤った。

 

「グッ……ククク――ファルコス、良い仕事だ」

 

 そのバクラの声に対し、魔物(カー)、有翼賢者ファルコスは腕の中に抱きかかえている何処かモクバに似た意識のない少年の細い首に指先の爪をそっと添える。

 

 そう、これは――

 

「バクラ、貴様ッ!!」

 

「ハハハハハハッ! 攻撃できねぇよなぁ、できねぇよなぁ!!」

 

「人質とは卑劣な!!」

 

――この為にあえて神の一撃を受け、己とディアバウンドすら囮に……!

 

 マハードの内と外の声が示すように人質。

 

 神の一撃がぶつかり合う最中、呼び出した新たな魔物(カー)に適当な街の住人を拐わせたのだ。マハードの注意がディアバウンドの最後に向いた一瞬の隙を狙った一手。

 

「くっ……往生際が悪いぜ、バクラ!!」

 

「へッ、俺様とて気に入らねぇ手ではあるが、こっちも大事な詰めの部分でな――下手を打つ訳にはいかねぇのさ」

 

 闇遊戯の声を余所に、バクラは空の雨雲の様子を見ながら、神官たちの伏兵を危惧して周囲に気を配る。

 

 当人の言う様に、こういった手はバクラとて気に入らない勝ち方に類される行為ではあるが、今回ばかりはそうも言っていられない実情があった。

 

 ただでさえイレギュラーによって敵味方が増え、混沌としつつある状況の中で見つけた光明を基に立てた策が、最高の形――からは幾分か落ちたものの綺麗に嵌まったのだ。

 

 この機を逃せば、挽回の可能性は限りなく低くなる。ゆえにバクラは此処で何が何でも「勝ち」にいかねばならなかった。

 

「だが、そのようなもの所詮は時間稼ぎにしかならぬ手! 無駄な抵抗は止めろ!!」

 

「ククク、無駄だァ? 相変わらず状況の見えてねぇヤツだ」

 

「なんだと?」

 

 そんな中で繰り出されたマハードの言を鼻で嗤うバクラだが、これには闇遊戯も不審がる。

 

 なにせ、この状況は時間をかければかける程にバクラが不利になる状況だ。

 

 王宮から闇遊戯を援護するべく増援が来るであろうことも明白であり、

 

 更には夜が明け、闇がなくなればディアバウンドのステルス能力も使えなくなる。

 

 それらをバクラも知っているからこそ、「夜襲」という短期決戦に臨んだ筈だ。

 

 だというのに、バクラの瞳には己が勝利を見定めた色が見える。闇遊戯にはそれがハッタリの類には思えなかった。

 

――クッ、なんだ。俺には何かを見落としている気がしてならない……俺は何を見落としている?

 

 闇遊戯が記憶を洗い、バクラの狙いを看破しようとするが――

 

 

「時間は俺様の味方なんだよ!!」

 

 

 それよりも先に、確信を秘めたバクラの叫びと共に王宮がある方角にて火の手が上がった。

 

 

 






オシリスの天空竜「ドジリスとは言わせないッ!」



いつものQ&A――

Q:雷撃と爆発で雨雲って呼べるの?

A:神の力を疑うのですか?(by天空竜)


Q:人質になったモクバっぽい古代エジプト人って誰? 今作オリジナルキャラ?

A:アニメ版にて登場した原作キャラです。

大邪神ゾークが放った炎で兄共々焼き殺され、それをモクバと重ねて見た海馬社長がガチギレアルティメット融合アタックを大邪神ゾークにかます際に登場していました。

やったね! 出番だよ!(なお)


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