マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

190 / 289

前回のあらすじ
やめろっと言われてももう遅いッ!
やめろっと言われてももう遅いッ!!

2回言ったのは意味がある!





第190話 神官サマ死す

 

 

「止めろぉおおおおおおおおぉおおおお!!」

 

「さぁ、ゲームエンドだッ!!」

 

 闇遊戯の絶望の叫びの只中、己が勝利を確信したバクラの頬を風が撫でる。

 

――風?

 

 そんな風に僅かに意識が向いた途端に風は荒々しさを増して吹き荒れ、巨大な竜巻となって対峙する彼らの間に吹き荒れた。

 

「――竜巻!? 馬鹿な、こんな場所で!? 一体誰がッ!?」

 

 暴風を巻き散らす巨大な竜巻を前に、腕で顔を守りながら視線を向けるバクラの瞳の先には、竜巻の内側で力を行使しているであろう鳥を思わせる深緑の鎧の姿が見える。

 

――あれは《風帝家臣ガルーム》? いや、《風帝ライザー》ッ!?

 

 しかしその身を成長させたように体躯が伸び、全身の鎧は帝王に相応しき重厚なものへと変化し、濃緑のマントをはためかせながら膨れ上がった魔力の気配にマハードは禁術の行使を切り上げ、足を止めた。

 

「ファラオ! 彼らと共に私の後ろにッ!!」

 

 そしてマハードがファラオと人質だった兄弟を己の背に保護した瞬間に、竜巻から全方位に向けて数多の風の刃が降り注ぐ。

 

 

 その風刃は密かに新たな人質を物色していた有翼賢者ファルコスを両断し、

 

 闇遊戯の首元の千年パズルを吹き飛ばし、それにともない維持できなくなったオシリスの天空竜が消えていき、

 

 ステルス状態だったディアバウンドが弾幕の如き風を躱しきれず被弾し、

 

 吹き飛ばされまいと、踏ん張りながら風の刃を懸命に躱していたバクラの頬を切り裂いた。

 

 

 そんな無差別に周囲を切り裂く風刃の奔流にバクラは苛立ち気に建物の影に身を隠す。

 

「クソッ! ディアバウンド! 俺様を守れ!!」

 

――クッ、滅茶苦茶だ! 姿を消そうが、人質がいようがお構いなしかよ! これじゃあディアバウンドが遊戯に近づけねぇ!

 

 そうして呼び戻したディアバウンドに己を守らせるバクラだが、旗色は悪い。

 

 お膳立てした何もかもを無差別に破壊する《風帝ライザー》の行動は極めて厄介だった。

 

 バクラが人質を取ろうとも、無視して攻撃してくることは明白で、尚且つこの嵐の如き暴風の只中で「人を拐う」ことを行える程に自在に動けるバクラの手駒はディアバウンドしかいない。

 

 だが、人質の確保にディアバウンドを動かせば、今度はバクラが暴風の脅威に晒される――手詰まりだ。

 

――人質が機能しなくなった以上、深追いは禁物。チッ、石像共も最低限の仕事は果たしただろう。

 

「退くぞ、ディアバウンド!!」

 

 ゆえに引き時を見誤らず撤退を選択したバクラは、竜巻の混乱に紛れ、ステルス状態のディアバウンドに抱えられながら、足早に去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 やがてバクラが去った後も暫く続いた風の暴威が空の雨雲を全て吹き飛ばし終えた頃、巨大な竜巻は終息していき、そこから巨大な深緑の鎧が大地に降り立つ。

 

「風……帝……?」

 

 その姿は闇遊戯も良く知るもの。《風帝ライザー》――デュエルモンスターズのカードの1枚。何もそれ自体はおかしくない。

 

 ペガサスは古代エジプトの石板にインスピレーションを受け、カードを世に送り出したのだ。この記憶の世界に元となった魔物(カー)がいても不思議ではない。

 

 

 やがて深緑の巨躯が糸がほどけるように解けていき、内より成人男性程の体躯の《風帝家臣ガルーム》が闇遊戯の前で膝をつく。

 

 そして差し出された《風帝家臣ガルーム》の手には、先程の風で飛んだ千年パズルが月の光に照らされていた。

 

「千年パズルを……だが、お前は……一体――」

 

 差し出された千年パズルを受け取った闇遊戯が、何かを言うよりも早く再び発生した突風が、闇遊戯たちの目を眩ませる。

 

「――くっ!?」

 

 やがて風が収まった先には既に《風帝家臣ガルーム》の姿はない。文字通り風のように現れ、消えた魔物(カー)の謎は深まるばかりだ。

 

「消え……た」

 

――アイツは一体……

 

「ご、ご無事ですか……ファラオ」

 

 そして闇遊戯は此処までのやり取りに何処か既視感を覚えながら呆然と呟くが、隣で零れたマハードの弱々しい声にハッと我に返る。

 

「マハード! 今、助ける!」

 

――分からないことだらけだが、今は後だ! とにかくこの場を制することに集中しろ!

 

「で、ですが、現在は街の各地で石像の軍団が暴れて――」

 

「最後の神を呼ぶ!」

 

 そう、マハードの重症に加え、王宮が襲撃されているとの話に留まらず、街全域にも賊がいるかもしれない等々、バクラが撤退したとしても未だ予断を許さない状態だ。

 

 ゆえに疲弊した己の身体に鞭を打ち、残りの魔力を振り絞る闇遊戯。

 

――だが、三幻神の最高位……魔力(ヘカ)の消費もより大きくなる……持ってくれ、俺の身体ッ!

 

「この国を! これ以上、お前たちの好きにはさせない!! 現れよ!!」

 

「千年錐が輝いて……!」

 

 魔力が足りぬなどと弱音など吐いていられない。そうして気力を振り絞った闇遊戯の覚悟に呼応したかのように光を放つ千年パズルの輝きと共に――

 

「――ラーの翼神竜!!」

 

 夜空に太陽が昇った。

 

 やがてその太陽――球体上のスフィアモードのラーの翼神竜は、音を立てて展開しながら巨大なグリフォンにも似た黄金の身体、バトルモードへと移行していく。

 

 そしてラーの翼神竜が翼を広げ、いななくと共に夜と昼を入れ替えたように夜空は青空へと変貌を遂げた。

 

「真夜中にも拘わらず空が……これが第三の神――太陽の神、ラーの翼神竜……!」

 

「太陽神よ! 我が魔力(ヘカ)を糧に、今こそこの地を浄化の炎で包み、邪を払え!!」

 

 その圧倒的な神の威容に感嘆の声を漏らすマハードを余所に、闇遊戯はバトルモードのラーの翼神竜を己が炎で全身を包ませ、巨大な不死鳥の如き姿――フェニックスモードへと移行させた。

 

「ゴ ッ ド フ ェ ニ ッ ク ス !!」

 

 やがて空に炎の不死鳥が舞い上がり、王宮を含めた街全域に浄化の炎を振りまいていく。

 

 その炎に触れたオレイカルコスソルジャーの身体は崩れるように砂となって消え、

 

 襲撃によって王宮に上がっていた火の手も、不死鳥の炎に呑まれて収まって行き、

 

 神官や、兵士、町人に触れれば、その傷を瞬く間に癒した。

 

「私の傷が癒えていく……なんという暖かな炎、これが最高位の神の持つ力……」

 

 死に瀕する程の重症だったマハードは、完治こそしなかったものの目に見えて活力を取り戻していく己の身体に、神の力へと畏敬の念を抱く。

 

 

 凡その常識など歯牙にもかけぬ、まさに「神」の力。

 

 

 だが、不死鳥として空を舞っていたラーの翼神竜が闇遊戯の元へと戻り、役目を終えたとばかりにその姿を炎へと散らした後、空に夜が戻る中、闇遊戯は崩れ落ちるように倒れた。

 

「!? ファラオ! しっかりなさってください!」

 

「少し……休む……」

 

 辛うじて地面に突っ伏す前にマハードが抱えたものの、見るからに疲労困憊な闇遊戯の姿にマハードは最悪の可能性が脳裏を過るが、最後に呟いた闇遊戯の言葉に安堵の息を吐く。

 

「はい、どうかごゆるりと」

 

 やがて気を失うように眠りに落ちた闇遊戯を抱え、人質の兄弟たちを守るように周囲を警戒していたマハードに、兵士たちを引き連れたカリムとアイシスが合流。

 

 そしてマハードの前に膝をつく兵士が緊張感からか大きくなった声で伝令を飛ばす。

 

「シャダ様の命を受け、カリム様とアイシス様と合流した後、ファラオの援護に参りました! 王宮は健在! 負傷者こそ多数でましたが、死者は出ず! 直ぐに受け入れが――」

 

「静かにせよ、今ファラオはお休みだ」

 

 だが、咎めるようなマハードの声に兵は慌てて深々と頭を垂れた。

 

「こ、これはとんだ無礼を!!」

 

「むっ? よもやあの時の……いや、今はそれどころではないな。ファラオを頼んだ。私はこの場を収める」

 

「ですがマハード様も負傷して――」

 

「良い、先程の神の炎で傷もあらかた癒えた。今はこの混乱を鎮めることを優先せねばならん」

 

 しかし、その頭を垂れた兵士に見覚えがあったことも相まって、ファラオを任せたマハードはまだ完治していない傷を推して心配気な声を漏らす兵を制しつつ、立ち上がるが――

 

「なりません、マハード。貴方の傷はわたくしが癒します。それまでお待ちなさい」

 

「アイシス、世話をかける――ではファラオを頼んだぞ」

 

「ハッ! その御身! 不肖ながら王宮まで送り届けさせて頂きます!!」

 

 アイシスの治療を受けることになったマハードは、兵に抱えられたファラオを見送った後、最低限の治療を終えた途端に、この場の収束へと取り掛かる。

 

「カリム! 手を貸してくれ!」

 

 未だ混乱から立ち戻らぬ街、壊れた家屋、不安を募らせる民、そして失われた千年アイテム。

 

 問題は山積みであったが、今だけは誰一人の犠牲もでなかった事実に、マハードの心は少しばかりほころんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《コピーキャット》――千年()()()を運んでおけ」

 

「GYOINI」

 

「急げ! ファラオの御身を丁重にお運びする準備を整えよ!!」

 

 兵士たちの喧噪の最中、ファラオを抱えた兵とすれ違った、《光学迷彩アーマー》を装備した1体のオレイカルコスソルジャーが走り去る。

 

 

 

 

 これにて一件落着だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が戻った街の最中、黒いローブを纏った男がポツリと零す。

 

「ほう、名もなきファラオは生き残ったか」

 

「AGATANAEZAN UGUGUG!?」

 

 その男の手に頭を握られたオレイカルコスソルジャーの身体がボロボロと崩れていき、男の掌にオレイカルコスの欠片が浮かんだ。

 

「しかしこの状況、恐らく此処は『記憶の世界』――コレの様子から察するに()()の私の計画は失敗に終わったのか」

 

 考えを纏めるような男の独り言に応える者はいない。

 

「よもや、名もなきファラオでも、三竜に選ばれし者でもなく、このような凡庸な心の闇しか持たぬ者に敗れるとは……一万年を超える長きを生きようとも、世とは分からぬものだ」

 

 だが、男の黒いローブから覗くオッドアイの瞳には何処か愉しそうな色が見えた。

 

「さて、敗者復活戦と行こう」

 

 誰にもあずかり知らぬ最大のイレギュラーが動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バクラとの激闘から夜が明け、闇遊戯が見た夢にて過去に己が父、アクナムカノンが黄金のマスクをした精霊と思しき存在へ我が子への守護を祈っていたビジョンを垣間見ることで失われた記憶が僅かに戻ったのも束の間――

 

 目が覚めた闇遊戯には問題が山積みであった。シンプルにバクラの襲撃の後始末に留まらず、戦闘前に見つけていた表の遊戯たちが残していたメモの情報もまた闇遊戯を悩ませる。

 

――恐らくボバサの手引きでこの世界に来た相棒たちの残した俺以外が知覚できなかったメモ……

 

 なにせ、三幻神を持つ己すらあわや死にかけた記憶の世界に、それらの加護のなさそうな表の遊戯たちが来たのだ。単純に心配である。だが、得られた情報が興味深かったのもまた事実。

 

――俺の名前が重要な意味を持つとのメッセージだったが、王宮の者にいくら聞いても調べさせても判明しなかった以上、その可能性は高い。

 

 そうして頭を回していた闇遊戯の元に、神官たちが並び立ち、代表してセトが膝をついて首を垂れる。

 

「この度はファラオのお手を煩わせてしまうだけに留まらず、千年アイテムすら失う始末! 面目次第もありません!!」

 

「いや、よもや奴らとバクラが結託染みた真似までするとは、俺も考えてもいなかった」

 

 それはセトが自己判断で千年ロッドと千年錠を放棄するような真似をしてしまった件だが、闇遊戯は不問に付す。

 

 報告を聞く限り、大量の犠牲者が出てもおかしくはなかった状態にも拘わらず、死者を0で収めたセトとシャダの働きにケチなど付けられよう筈もなかった。

 

 しかし当のセトは納得できない様子。

 

「しかし――」

 

「これは俺が眼の前の戦いにばかり気を取られていたせいでもある。それを棚に上げてみんなを糾弾など出来る筈がない」

 

「ファラオ……」

 

 だが、闇遊戯の自罰するような発言にセトは矛先を失う。

 

 実際問題、バクラの襲撃の際に闇遊戯は王宮の守りなど一切考えておらず、「バクラを倒せば全てが終わる」と考え、突発的に動いた。

 

 王宮に陣取り、神官たちと連携していれば、あのような窮地に陥らなかった可能性も十分ある。

 

「そしてセト、シャダ――そんな苦しい中で民たちを守り抜いてくれて、ありがとう」

 

「勿体なきお言葉!」

 

 やがてアクナディンが未だ全快しておらず、この場の神官に欠けがあることも相まって、セトへの処罰をこの場では流しつつ、他の神官たちが次々に報告を読み上げていく。

 

 

 そうした中で話題に上がったのは、神官たちの中でシャダが読み上げた風と共に現れた正体不明の乱入者の話。

 

「ファラオがご覧になられた『風帝』の魔物(カー)は我が国のウェジュの神殿には該当するものはなく、恐らく何者かの心に潜む魔物(カー)かと思われます。マハード、其方はどう見る?」

 

「あくまで私見ですが、ファラオの危機を見て、無自覚に魔物(カー)を扱ったのかもしれません――ファラオ、なにかお心当たりは?」

 

「風……まさか……いや、なんでもない」

 

 やがて魔術師としての見解を述べたマハードからなされた問いかけに、闇遊戯の脳裏に過ったのは風と共に去って行ったデュエリストの姿。だが、飛躍し過ぎた考えだと頭を振った。

 

 

 そして神官たちが一通り、報告を終えた頃、闇遊戯の傍に控えていた双六似の神官シモンがポツリと零す。

 

「しかし、これで残るはファラオの千年錐とアクナディン殿の千年眼のみ……か」

 

「全ての責は我らにあります」

 

「いや、オヌシらを責めている訳ではない。街の全域に戦力を広げられる程に敵戦力が強大であったことを見抜けなんだ我ら皆の責」

 

 その言葉にすぐさま頭を垂れたセトを手で制したシモンは、再度、言い含めるようにこの場の雰囲気を緩めつつ、私見を述べる。

 

「どのようにあれだけの数を用意したのか不明だが、千年アイテムの力が無関係ではないじゃろう――じゃが反面、あの石像共の動きを見るに、三幻神に恐れをなしているとのバクラの話も丸っきり嘘という訳でもあるまい」

 

 そうして情報を整理したシモンは闇遊戯へと向き直り――

 

「ファラオ、此処は王宮にて籠城の構えが堅実かと」

 

 そう進言した。それに伴い神官たちの注目も闇遊戯に集まる。

 

 

 この進言は、バクラを探し出し仕留めるのではなく、王宮にて万全の態勢を整えて、迎撃に当るとの方針。

 

 なにせ、純粋なディアハならば闇遊戯とマハードの連携でバクラを終始圧倒していたのだ。ならば後は此度のような人質などの小細工を他の神官たちで防ぐスタンスの方が確実性も高い。

 

 石像たちも、残りの二つの千年アイテムを得る為に、必ず行動を起こす。ゆえの待ちの姿勢。

 

「そうか。セト、お前はどうみる?」

 

「私もシモン様と同意見です。バクラと石像共の目的であろう『冥界の石板』とやらにはファラオの千年錐とアクナディン様の千年眼は必須――民への警護も私の新たに組織する部隊が完備されれば、手も足りるかと」

 

「そう……だな。シモンの案で行こう」

 

 そうしてセトに助言を求めつつ、僅かに思案を見せた後の闇遊戯の決定にマハードは来たるべく決戦に静かに闘志を燃やす。

 

「奴らがファラオの御身を狙った時こそが、最終決戦の時となるのだな」

 

「その通りだ。マハード、その時はなにを置いてもファラオの御身を優先しろ」

 

「無論だ」

 

 やがてセトの念押しするような忠言に強気な笑みで返したマハードの姿に、神官たちも信頼の眼差しを向ける中、慌ただしく一人の兵が現れ、膝をつく。

 

「伝令! ご報告致します!! アクナディン様が目を覚まされました!!」

 

「おお、朗報であるな」

 

 それは一体感を高めていく神官団にとってまさに自分たちの結束を後押しする天啓にも思えた。

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は王宮内の隠し通路の只中へ、トラゴエディアは部屋の一つ一つを慎重に物色していた。

 

「ふむ、此処もハズレか」

 

 だが、目的の獲物は見つけられなかったのか小さく息を吐いた途端、脳裏に聞きなれた声が響く。

 

『トラゴエディア、例の物は見つかりましたか?』

 

「そう焦るな。オレも詳しく知っている訳ではないが、アレはアクナディンにとって重要な物――容易く見つかりはせんだろうよ」

 

 協力者の神崎の急かすような物言いに肩をすくめて呆れて見せるトラゴエディア。

 

 神崎がトラゴエディアの復讐の舞台を整える対価として頼み出たのは、彼の盗賊としてのキャリアを活かした――早い話が「盗み」だ。

 

 だが、目的の代物は容易く見つかるものではない。いや、容易く見つけられる代物ではないゆえに専門家(盗みのプロ)に依頼したと言うべきか。

 

「しかしアクナディンへの復讐は何時だ? アヌビスの奴がそろそろ我慢の限界だぞ」

 

 そんな依頼の最中、世間話でもするように隠し通路の地図の概要を己に教えてくれた「もう一人」の協力者アヌビスの精神状態を茶化して吹聴するトラゴエディアだが――

 

『だからです。舞台の開演が直ですので、早急に見つけて貰わないと会場に遅れてしまいますよ』

 

「それでエサをぶら下げているつもりか? ククク、だが乗ってやろう――少々騒がしくしてもかまわんな?」

 

 神崎から軽く返ってきた言葉の内容に、トラゴエディアの頬はつい裂けるように笑みを浮かべてしまう。「()る気になってしまうじゃないか」と。

 

 仕事後の愉しみを夢想し、トラゴエディアのモチベーションは高まって行く。

 

『構います。此方にも段取りがありますので――ただ、問題ないタイミングだけはお教えしておきますね』

 

「フフフ、お前のそうした気の利く部分は好ましいよ」

 

 釘を刺しつつも、多少の無茶を聞いてくれる協力者(神崎)との奇妙な関係はトラゴエディアにとって不思議と心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台はアクナディンの私室に戻り、バクラから受けた負傷の為、ベッドに横になっていたアクナディンはセトと共に来訪したファラオに対し、痛む身体を起こして頭を下げる。

 

「この度はバクラに不覚を取り、申し訳ございません、ファラオ」

 

「いや、楽にしてくれて構わない。それに不覚を取ってなお千年眼を守り切ったんだ。この場にお前を責めるものなどいない」

 

「寛大なお心、感謝します」

 

 だが、アクナディンの肩に手を置いた闇遊戯は労いの言葉も早々に腰を上げた。

 

 なにせ、闇遊戯の立場が立場、ファラオの前では横になることすらはばかられるだろう。それでは怪我の治りが遅くなるばかりだ。

 

「……少し早いが失礼する。俺がいては気を張ってしまうだろう? 今はゆっくり休んでくれ」 

 

「感謝の言葉もありません」

 

 そんな闇遊戯の気づかいに再度頭を下げて見送ったアクナディンだが、闇遊戯と護衛のマハードがこの場を立ち去り、セトも続こうとした段階で顔を上げる。

 

「待て、セト。お前に話がある――魔物(カー)狩りはどうなっておる? 目ぼしいものは見つかったか?」

 

「……いえ、未だバクラのディアバウンドに匹敵する力を持つものは見つかっておりません。ですが此度の損失と、ご報告した『風帝』の話からも私の策が間違っているとは――」

 

 告げられた内容から、引き留めた理由を察したセトが己の計画の正当性を訴えるが――

 

「皆まで言うな、分かっている――セト、此度はお前に見せたいものがあるのだ。ついて参れ」

 

 ベッドからゆっくりと立ち上がったアクナディンが淀んだ色を見せる瞳で返した言葉はセトが思ってもみなかったものだった。

 

「ですが、まだお休みになられた方が……」

 

「何を言う。賊を神の力で倒したとはいえ、それは極一部であろう? であれば、このような一大事にゆっくり休んでなどいられん」

 

「……そういうことでしたら」

 

 アクナディンの急な心変わりにセトは困惑しつつ、相手の身体の不調を心配するが、アクナディンの執念染みた熱意に引かれ、案内されるがままに隠し通路を通り、王宮の地下深くへと歩を進めていく。

 

 

 

 そしてセトが辿り着いたのは――

 

「これは……」

 

「此処は地下闘技場だ」

 

 石造りの地下闘技場。

 

 部屋の中央に底すら見えぬ程に深い大穴が広がり、その大穴の上につるされた幾つもの板切れの内の3つに、それぞれみすぼらしい恰好の囚人の男が並ぶ。

 

 そしてその背後には三本角の巨人に、巨躯を持つ人型ミミズの怪物、そして棘のような足が幾つも並ぶ巨大な芋虫の化生――三者三様の化け物、魔物(カー)の姿。

 

「アクナディン様、これは一体なにを……」

 

「見ていれば分かる」

 

 観戦席のように用意された椅子の一つに腰掛けたアクナディンへ怪訝な声を漏らすセトだが、アクナディンの忠実な部下である小柄な老人に促されるままもう一方の席へ着く。

 

「死にたくないなら戦え! 相手の息の根を止めねば生き残れはせんぞ!!」

 

「うわぁ~!!」

 

「やってやる! やってやる!!」

 

「くっそー!!」

 

 途端に響いたアクナディンの声に、三人の囚人たちは己の魔物(カー)を用い、他者の魔物(カー)を殺さんと、争い始めた。

 

 互いの爪で、牙で、傷つけ合い「己が生き残るのだ」と争う3人の囚人の姿にセトは義憤から席から立ちつつ声を荒げる。

 

「ご乱心めされたか、アクナディン様! 囚人同士を無益に戦わすなど言語道断!」

 

「静まれ、セト! これがお前の求めていたものであろう! しかとその眼に焼きつけよ!」

 

 だが、セトの言をアクナディンが怒声で掻き消した瞬間に闘技場にて大きな動きが見られた。

 

 それは棘のような足を幾つも持つ芋虫の化生が、巨躯を持つ人型のミミズの化け物を食い殺した途端に、その身体を一回りも二回りも増大させ、身に秘めた魔力(ヘカ)も増大を見せる。

 

魔物(カー)が成長した!?」

 

 己の魔物(カー)が殺され、死亡した囚人の命を喰らうかのように力を高めた魔物(カー)の姿に驚くセトへアクナディンは満足気に語り始める。

 

「セトよ、魔物(カー)を強力にするもの……それは宿主の命への執着心――死への強い恐怖」

 

 今でこそ強大な姿を見せる囚人たちの魔物(カー)だが、最初は体躯も小さく、弱い力しか持たない代物だった。

 

 だが、囚人同士を争わせ、魔物(カー)を潰し合わせ、人の命の執着・死の恐怖といった心の闇を増幅し続けた結果、彼らの魔物(カー)は神官たちのそれに匹敵しうる可能性すらあるものへと化けたのだ。

 

「死にたくないという強い思いを増幅させることで、より強力な魔物(カー)を生み出すことが出来るのだ!」

 

 アクナディンが宣言するように、死への恐怖は人を生存へと駆り立てる。

 

 生き残る為に、様々な枷を外し、躊躇いを振り切り、生存の意思「のみ」が膨れ上がり、際限なく力を追い求めていく。

 

 その狂気は心を苛み、魔物(カー)すら歪め、闇に堕ちてもなお留まることを知らぬ深淵への道。

 

 そう、この外法は文字通り、人の心を削って行われる諸刃の剣の如き代物。払う代償は計り知れない。

 

「まさか、私が集めた囚人以外の者たちも――」

 

「其方はまだ手をつけてはおらん。お前が直々に手掛けた新たな組織――セト、お前の好きなようにするが良い」

 

 そんな外法の「魔物(カー)持ちを争わせる」方法に最悪の可能性が脳裏を過ったセトへ、アクナディンは真摯な瞳を向ける。

 

 アクナディンのセトを想う気持ちに偽りはない。ゆえにセトの瞳は迷いで揺れる。

 

「次はお前だ~ッ!」

 

「嫌だ! オレは死にたくねぇ~!」

 

 一方で駆り立てられた恐怖に禍々しく変貌していく魔物(カー)、そして殺し合う残った二人の囚人。

 

 所詮は罪を犯した者――だが、だとしてもこの仕打ちが許される訳がない。そんな想いと、千年アイテムを失う結果になった先日の一戦での力不足を嘆いた想いがセトの中でせめぎ合う。

 

「セトよ、お前はシャダに語ってみせたのだろう? 『ファラオに頼らぬ力が必要だ』と」

 

「それは……そうですが」

 

 そんな迷いの中、告げられた己を闇へと誘うようなアクナディンの声に拳を握りつつ、力なく返すセト。

 

「そのファラオは此度も危うくその命を散らせるところだった」

 

「ですから、その為にファラオをお守りする力を――」

 

 そう、だからこそセトは悩んでいるのだ。

 

 おびただしいまでの数の暴力を誇る石像の軍団。

 

 ファラオの三幻神にすら匹敵しうる強大な力を持つバクラの精霊獣(カー)、ディアバウンド。

 

 それに対し、王宮側の戦力は圧倒的に足りていない。今のままでは王宮の精鋭たる神官たちが、ファラオの足を引っ張るだけの現実が突きつけられている。

 

 籠城の方針を推したのも、その戦力比ゆえだ。「城攻めには三倍の兵力が必要」とはよく言ったもの。

 

 しかし、それでも兵力の不安が残るゆえに、アクナディンの提案を前にセトは悩むのだ。

 

「それだけでは駄目だ! 真に必要なのは万が一にファラオが倒れた時の新たなるファラオ!!」

 

「新たなる……ファラオ……?」

 

「ファラオは三幻神を操る選ばれしファラオであった……だが、その心は酷く脆い」

 

 だが此処で立ち上がり己の両肩を掴んだアクナディンからの押し通すかの声に顔を上げたセトは一歩後退る。だがアクナディンの弁は続き、熱は収まりを見せない。

 

「あのような見え透いた策に嵌まり、千載一遇の好機を逃す体たらく。その結果、多くの千年アイテムを失う結末を生んだ――あの者に王の器はない」

 

 そのアクナディンの瞳にかつてはあった筈のファラオへの忠誠は見当たらず。

 

 神官になりたての過去のセトを鍛えた際に見えた、尊敬していた師としての面影すら感じさせない。

 

「ゆえにセトよ! 神をも越える力を手に入れよ!」

 

 野望に魅入られ、私欲に狂った色しか、その瞳には窺えなかった。

 

「こうして囚人共を糧に育てに育てた魔物(カー)をお前の魔物(カー)――デュオスに喰わせ、何物をも打ち砕く絶対の力を手にするのだ!!」

 

「アクナディン様……」

 

――これがあの商人の言っていた我らの内の脅威だとでも言うのか……!

 

 ゆえにセトの脳裏に過るのはゼーマンの忠言。

 

 アクナディンだけでなく、魔物(カー)の喰い合いを実行し、力に魅入られた己が「内の脅威」になってしまうのではないかと――そんなIFが脳裏を過る。

 

「その時こそ王座はお前を迎え入れる!」

 

「お……お待ちください。ファラオが未だ健在であろう時に……」

 

「ファラオなど、どうでも良い! 万が一を考えるのだ。その時、誰が後を継ぐ? 分からぬのか、セト――お前だ!」

 

 信頼していた恩師の変貌に思わず目を逸らしたセトだが、それにより突き出した己の腕に見えたキサラの贈り物たるミサンガの存在に、セトの頭は一気に晴れた。

 

「アクナディン様! ファラオの優しきお心ゆえに心配なさるお気持ちは理解できますが、ファラオに取って代わろうなどと、些か以上に度が過ぎております!」

 

 王位を神官が掠め取ろうなど、不敬どころの話ではない。冗談であっても誰かの耳に入ろうものなら極刑ものであろう。

 

「そして外法に手を染めるなど! 『後ろめたき行為は心に恐れを生み、恐れはいずれ人を闇へといざなう』――そう指南してくださったのは貴方ではないですか!! 一時の感情に身を任せ、悪しき前例を生む訳にはいきませぬ!!」

 

 更にこのような外法を以て、優しき世界をもたらせば、キサラはきっと悲しみにくれるだろう。ゆえにセトはアクナディンの提案を完全に拒絶した。

 

「そもそも神ではなきこの身にファラオが務まる訳がありますまい。先程までのお言葉は私の胸に仕舞っておきますゆえ、どうか頭を冷や――」

 

「何を言う! お前こそがファラオに相応しいのだ! お前こそが現ファラオを退け、真のファラオになるのだ!」

 

 そうして、恩師でもあるアクナディンに、この計画を諦めさせる為にも、強く否定の言葉を示すセトだが、アクナディンは懸命に引き留める言葉を並べていく。

 

「そう、お前は神の! 王家の血を――」

 

 アクナディンとて何のプランもなく、こんなクーデター染みたことを働いてはいないのだ。

 

 ゆえにアクナディンは計画の概要を最後まで話せば、勝機は十二分にあることを理解してくれると信じて疑わない。

 

 いや、実際セトが首を縦に振れば、計画を阻む障害は精々がマハードくらいだろう。

 

 

 

 

 

「それはファラオへの叛意と受け取ってよろしいですね」

 

 

 

 

 だが、何事も計画通りにいかないのが世の常。

 

 いつの間にやらこの場にいた己の部下ではない兵が剣を向ける姿に苛立つようにアクナディンは怒気を強める。

 

「誰だ、貴様は……どうやって此処に入った!」

 

 この地下闘技場は隠し通路の奥の奥にある極一部の人間しか知らぬ場所。神官は勿論のこと一兵士が容易く来れる場所ではない。

 

 しかし剣を構えた兵はアクナディンの言葉など意に介さず意気揚々と宣言する。

 

「ファラオへの数々の叛意あるお言葉! 並びに非道の数々! しかとこの目と耳で捉えました! もはや、言い逃れは出来ませぬ!!」

 

「貴様如き一兵卒に何が出来る!!」

 

 そうして罪の糾弾を行う兵士だが、アクナディンが投げ捨てた言葉のように、神官ですらない一兵士の口封じなど容易いこともまた事実。

 

 アクナディンの地位があれば兵士の一人程度が死んだところで何とでも処理できようことは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクナディン様、よもやこのような非道を……」

 

「アクナディン……どうしてなんだ……!」

 

「マハード? それにファラオまでも!?」

 

 

 でもエジプト一の魔術師でもある神官(マハード)に加え、ファラオ(闇遊戯)が相手じゃ、それは(内密に口封じは)無理だよね。

 






アクナディン様を現行犯逮捕や!!

神官サマ(社会的に)死す!!(タイトル回収感)



~今作でのディアハ面でのラーの翼神竜の扱い~

Q:ディアハ的に「ラーの翼神竜」って消費魔力(ヘカ)が多いの?

A:「ラーの翼神竜」になんらかの制限がなければ、原作の一戦で「ディアバウンドのステルス能力が判明した段階で何故、呼び出さないの?」という疑問が生じる為、

今作では――
「ラーの翼神竜」の効果にライフコストを払う者が多いことも相まって「絶対体な力を持つ反面、消費も大きい」とさせて頂きました。

原作でも、初召喚は表の遊戯たちからの魔力(ヘカ)を借りていましたし……(目泳ぎ)


Q:回復能力は?

A:原作でも《融合解除》で回復する効果があったので、不死鳥的な側面からも癒す力はあるかと――あったらいいな(おい)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。