マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
表の遊戯+闇遊戯「 「 キミの名は!! 」 」

杏子「タイム――ちょっと待って、私が贈ったカルトゥーシュは? ねぇ?」

カルトゥーシュ「空気を呼んでアテムの名が贈られた時に刻まれておいたぜ☆」





第196話 神の道理

 

 

 乱戦の只中、突如として降臨した光の創造神ホルアクティの力により、大邪神ゾーク・ネクロファデスが討滅され、地縛神やゼーマンを含めた精霊たちも礼すら受け取ることなく立ち去った後、闇遊戯はマハードたちへ、元の世界へ帰ることを告げる。

 

 その際にシモンから、セトが王家の血を引いていることが明かされたことで、玉座を空にする心配もなくなり、「恐れ多い」との反応を見せたセトを説得して一先ずの収束を見せた記憶の世界の旅路。

 

 

 それらを背に王宮から去った闇遊戯は表の遊戯たちと共に、光の創造神ホルアクティの前に立つ。元の世界に帰る時が来たのだ。

 

 そんな中、光の創造神ホルアクティは闇遊戯たちへと声を落とす。

 

「三千年前、貴方一人の力ではゾークを倒すことは出来ず、自らと共にゾークたちを封印する道を選びました。しかしゾークが再び蘇った今回、貴方には貴方を守る友が……貴方を支える仲間がいた」

 

 それはホルアクティから贈る皆への最後の言葉。

 

「それが唯一ゾークを葬り去る力だったのです」

 

 ゾークを討滅したのはホルアクティの力だが、その力を引き寄せたのは他ならぬ闇遊戯たちの心の力なのだと。

 

「一人の力では不可能なことも、みんなの力が合わされば可能になる」

 

 そうして結束の力の重要性を説くホルアクティ。

 

 世界の闇はなにもゾークだけではない。脅威たる存在は、姿が違えど確実に残っているのだ。

 

 直に闇遊戯が冥界に帰る以上、三幻神を束ねなければ降臨できぬ、ホルアクティの力に頼ることは出来ない。

 

「元の世界でも、その心を忘れないでください」

 

「あぁ! 元の世界に戻ってもアイツらのことを忘れはしない!!」

 

「うん、みんなとの想いはずっとボクたちの中に息づいているよ!!」

 

 だが闇遊戯と表の遊戯を含め、この一同には釈迦に説法だろう。

 

 彼らの心は、常に心の光と共にあるのだ。

 

 

 そうして告げられた最後の言葉を胸に、ホルアクティの力で空へと浮かび上がった闇遊戯たち一同は空へと消え、元の世界へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな遊戯たち一同を見送ったシャーディーの視線は、眼の前の誰もおらぬ場へと向けられていた。

 

 その場に、少し前までいたのは神崎。

 

――神崎は……光の創造神の力の前に消えた……か。ファラオが邪の道へ行く可能性は万が一もなくなった。だが……

 

 しかし件の神崎は、シャーディーの心中の通り、光の創造神ホルアクティが放ったゾークを討滅する光によって、ゾークと同じようにその身を消失させた。

 

 その意味するところなど一つしかない。

 

 それはシャーディーにとって喜ばしいことの筈だが、その表情は優れなかった。

 

――これで良かったのだろうか? あの者とて運命に翻弄された一人。彼が足掻いたゆえの働きかけに対し、有無を言わせぬ此度の所業が果たして正し……

 

 シャーディーとて神崎が内に秘めた「原作知識」の危険性は十二分に理解しているが、それでも彼が信奉する神の決断は些か性急なものに思える。

 

「ハサン――いえ、シャーディーと呼ぶべきでしょうか。貴方もよく奮闘しました」

 

 だが、そんなシャーディーの思考を打ち切るように響いたホルアクティの声に、シャーディーは跪いて首を垂れた。

 

「ハッ、我が役目もこれで果たされました」

 

――いや、光の創造神の、神の決定に異を唱えるなど……違うな。どのみち死した命は戻らない。この問答は私が罪の意識から逃れようとしたゆえのもの。

 

 そうして首を垂れるシャーディーの内に秘めるは罪悪感。既に神の裁きが振り下ろされた以上、今のシャーディーにできるのは神崎の死を悼むことだけ。

 

――役目を終えたものが、これ以上、物質次元に留まるべきではない。

 

「もはや力残らぬこの身ゆえ、一足先にファラオをお待ちすることにします」

 

「安らかな最後を」

 

 やがてシャーディーの義理立ても兼ねた決断により、その身体は光の粒子となって消えていき、還るべき場所へと旅立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな光景を祈りと共に見届けたホルアクティは広大な砂漠へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ出て来ては?」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな短い言葉を合図に砂漠の黒い砂粒の一つがうごめき始め、脈動しながら夥しい数の小さな黒い蛇がうごめき、球体を形成したかと思えば、そこから人間の腕が伸びた。

 

 

 黒蛇病カウンター:

9y847y023(大量にいっぱい)~~~~3q90う89w3@1

9y847y023(山ほど沢山)~~~~3q90う89w3@2

 

 

神崎LP:0.0000000000001 → → → → → → → → → → → → → →

 

 やがて小さな黒い球体から腕の先が這い出していき――

 

 

神崎LP:→ 420h2kp9qjhpぁr3(いっぱい沢山)~~~~93ppwk9jh292qh

 

 

 スーツ姿の神崎が完全に出てきた途端に、黒い球体は色を失いながら砕けた。

 

 

「酷いですね……私諸共、攻撃するなんて」

 

「やはり生きていたのですね」

 

「ええ、なんとか」

 

――諸共殺す気だったの!?

 

 そしてホルアクティに軽口を零す神崎だが、返って来た言葉に表層は平静を取り繕いつつも、内の動揺は抑えきれていない。

 

 大邪神ゾーク・ネクロファデスの討滅の為に「味方」として色々頑張ってきただけに、即殺されるとは思っていなかったらしい。

 

 その為、神崎は大慌てな脳内をフル回転させつつ、命乞いする方向へ移行する。

 

「それで何のごようでしょうか? 出来れば仕事が残っているので早く彼らのように元の世界まで送って頂きたいのですが」

 

「いいえ、貴方は元の世界に戻る必要はありません」

 

 だが、一方のホルアクティの声色は、遊戯たちと相対していた時の慈悲深さは伺えず、平坦そのもの。

 

「まもなく、役目を終えたこの世界は消える――いえ、閉じる」

 

「つまり『ゲームが終わればお片付け』といった具合ですか」

 

 そうして告げられるホルアクティの言葉に、神崎は嫌な予感がヒシヒシと感じられていたが、上手い具合に命乞うべく相手の反応を探っていくも――

 

「それで戻る必要がないとは? この世界が閉じた時に元の世界へ戻っているということでしょうか?」

 

「貴方はこの世界と共に消えるのです」

 

「成程」

 

――此方を殺しに来ている……のか?

 

 遠回しに「殺す」とのニュアンスが感じられるホルアクティに、一拍言葉が止まる神崎だが、やがて正義側の神様の善性に縋るように声を発した。

 

「それは私に『死ね』と言っていると受け取っても?」

 

「神崎 (うつほ)――名を持たぬ者」

 

「おや、神様に名を覚えて頂けるとは光栄ですね」

 

――会話のキャッチボールしてくれないかな……

 

 しかし、ホルアクティから告げられる言葉は一方的なもので、神崎と「会話」している装いは感じられない。

 

 そんな神託を送る神のような――いや、神として、ホルアクティは語り続ける。

 

「貴方の魂は既に破綻しています」

 

 告げられたのは、今の今まで多種多様な相手から散々な評価を受けてきた神崎が初めて耳にするニュアンス――「破綻」

 

「ゆえに殺す、と……見逃しては貰えませんか? 勿論、タダとは言いません。今まで以上に人助けに尽力していきま――」

 

「貴方が何を語ろうとも、答えは変わりません」

 

「何故でしょう? 私は悪行の類に手を染めてはいない筈ですが?」

 

――こういう時の為に手段を選んできたんだ。躊躇って貰わないと困る。

 

 それに対し、良くない流れを感じ取った神崎は段取りを飛ばして本格的に命乞いを始めるが――

 

「貴方の内に眠る存在を、私が知らぬとでもお思いですか?」

 

 痛い腹を突かれた。

 

 とはいえ神崎は焦らず返す。

 

「あれらは消えても問題なかったでしょう? ただ破壊を振りまく邪悪な権化とでも言うべき存在なのですから」

 

 それは神崎も理解しているウィークポイントだ。ゆえに、それなりの理由も用意されている。世界の破壊者を放置しておく道理はない筈だと。

 

「それゆえです」

 

「それゆえ?」

 

「貴方は器として完成しつつある――ゆえにこの世にあってはならないのです」

 

 しかし、会話しているようで会話が成立していないようなホルアクティの頂上の視点から放たれる主張に神崎はついていけない。

 

 相手の姿が見えてこない。

 

「貴方はこの世の邪を詰めた器」

 

 だが、ホルアクティはそんな神崎を気にした様子もなく語る。

 

「決して交わることのなかったものたちを繋げてしまう忌むべき存在」

 

 そうして続いた神崎 (うつほ)という「個」への明確な拒絶に、当の本人は慌てたように割り込んだが――

 

「では、その辺りの点に関する問題解消のプランを提示しましょう。それで――」

 

「私に助命を求めても無駄です」

 

「――と、言うと?」

 

「もはや、この身に貴方を助けるどころか、元の世界への道を開くだけの力すら残っておりません」

 

 此処にいて命乞いの大前提を覆された神崎に返せる言葉などない。

 

 ホルアクティの動じぬ姿勢は、神崎としても厄介だった。箸にも棒にも掛からない在り方は、説得の余地すら見いだせない。

 

――嘘……かどうかは分からないが。ゾークを滅した程の力は残っていない……のか?

 

「つまり、態々私へ確実な死を伝えに来たわけですか。良いご趣味で」

 

 ゆえに大仰に手を広げながら嫌味を込めた言葉で強引に相手のリアクションを探っていく神崎。何らかの取っ掛かりを見つけなければ話し合う所ではない。

 

「祈る時すら奪うつもりはありません」

 

「祈り……ですか。生憎と神様に祈るのは止めてしまいまして」

 

 だというのに、ホルアクティの「祈り」との言葉に、逆に神崎の方がピクリと一瞬表情を固める――も、すぐさま取り繕いながら返す。

 

「なにせ、あなた方(カミサマ)()()()()()しか救ってくれませんから」

 

 三幻神の奇跡たるホルアクティの力は遊戯たちだけに、

 

 宇宙より来たる奇跡の力は十代たちだけに、

 

 赤き龍の奇跡たる力は赤き痣を持つ遊星たちだけに、

 

 そう、奇跡(カミサマの力)選ばれたもの(原作主人公)にしか授けられない。

 

 

 奇跡(カミサマの力)選ばれぬものたち(神崎の両親)を救いはしない。

 

 どれだけ祈ろうとも、救ってはくれないのだ。救ってはくれなかったのだ。

 

「祈りとは、救いとは、皆が平等に自らの手で掴み取るもの――我々の力など、その背を少しばかり押しているだけに過ぎません」

 

 そんな中、繰り出されるホルアクティの論に内心で黒い感情を漂わせる神崎。

 

――Z-ONEを助けなかった相手の言葉を……いや、所詮はシナリオの都合か。

 

 選ばれた者(遊星)の声に応えた、カミサマ(赤き龍)選ばれぬ者(Z-ONE)の声に何一つ応えないカミサマ(赤き龍)――その違いは何だ?

 

 

 選ばれぬ者(Z-ONE)が足掻きに足掻いて掴んだ奇跡(時械神)の力も、選ばれた者ではないゆえか、彼の救いたいものは何一つ救ってなどくれなかった。

 

 

「素晴らしいお考えですね」

 

 

「私には貴方の内の狂気を祓うことが出来なかった」

 

 やがて告げられる神崎の揺さぶり目的の声など意に介することなく独り言のように並べていくホルアクティの言葉。

 

――成程。殺す気で攻撃したのではなく、ゾークを討滅しつつ、私を浄化しようとした訳か……死にかけたけど。

 

「つまり、私に問題があると……分かりました。では、その問題点の改善を……いえ、此処で論じるべきなのは、いや、違いますね。何というべきでしょうか。困ったな、言葉が出てこない…………………………………………………………………………」

 

 

 此処にきてホルアクティの行動の真意が発覚したが、そこは神崎としても己の問題として把握している。だが、把握していたとしても、それに手を加えることを良しとするかは別だった。

 

 

 今の神崎には、もはやどのようにホルアクティを説き伏せればよいのか分からなくなっていた。

 

 

 何を告げればよいのか、何を訴えればよいのか、何も言葉が出てこない。

 

 

 

「…………助けて下さい」

 

 

 

 そんな中、思わずポツリと零れた神崎の本心に――

 

「せめて安らかな最後を祈ります」

 

 対するホルアクティは告げるべきことを終えたように、その姿が透明になって行き、やがて露と消える。

 

 

 そうして残るのは元の世界に帰れぬ神崎と、遥か遠方でゾークを退けたことに喜ぶ王宮の面々だけ。

 

 

「……………………………………………まぁ、そうだよな」

 

 暫くしてポツリと零した神崎は諦めたように小さく息を吐く。

 

 神崎とて、己のように邪悪を喰い尽くしているような相手がいれば始末に動く。当然の判断だ。なにせ「危ない」から――今回の件も「それ」の己の番が回ってきたに過ぎない。

 

「しかし自分が言いたいことだけ並べて消えていった感じだ……神様相手に話が合うはずもないか」

 

 やがて頭に手を当てながら青空へと目線を上げた神崎は力なく呟く。

 

「……参ったな」

 

 

 

 そんな神崎の影がうごめき冥界の王の声が響くが――

 

「このまま死ぬ気もあるまい――どうする?」

 

「実力行使」

 

 そんな短いやり取り後、すぐさま影から噴出した闇が神崎を呑み込みつつ、宙へと集まっていく。

 

 

 そして、いつもは崩壊を繰り返す不出来な人型擬きだった冥界の王の身体が、初めて指向性を持って流動を始めた。

 

 

 

 生物の胚子のような、はたまた昆虫の蛹のような生物的な不気味なフォルムを浮かべながら、背のアンバランスな程に巨大過ぎる二対が天を覆い、世界に夜をもたらす。

 

 

 やがてガラスをひっかくような不協和音を天へと轟かせながら、頭部らしき部分の前方にエネルギーが集い、黒い球体が形成されて行く。

 

 そんな突如として生じた異形の姿に、その内包する魔力(ヘカ)の邪悪さと巨大さから王宮の神官団はざわめき始めた。やがて――

 

「なんだ……あれは……」

 

「シャダ! 皆を集めよ!! すぐさま迎撃の準備に移れ!!」

 

「行くぞ、セト! ファラオが! 皆が! 守り切ったこの国を――」

 

 王位を任された神官セトの覚悟も、マハードの切なる願いも、神官たちの決死の想いも、一つになった民の心も――

 

 

 

 

 全てが消し飛んだ。

 

 

 

 

 砂の城にトンネルでも通すように、抉れて消えた国の跡地。人はおろか、この場に国が栄えていたことすら感じさせぬ程に砂漠が広がる。

 

 遅れて壁になにかがぶつかるような衝撃音が響き、途端に世界全体が揺れ動いた。

 

 

「なんだ」

 

 そうして全てが砂へと還った光景を余所に声が響く。

 

 

「存外脆いな」

 

 それは何の機微もない()だった。

 

 

 

 

 

 

 

 世界に昏き夜が広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 記憶の世界にて、目に映る全てを消し飛ばしていく化け物を、神崎が用意していた拠点の一つで眺めるトラゴエディアはクツクツと嗤い声を漏らす。

 

「ククク、平穏とやらの為に駆けずり回った男の末路がアレか……とんだ喜劇だな」

 

 平穏を願う癖に、それを脅かす(破壊する)才に満ち溢れ、

 

 ならば、と己が願い(平穏)を脅かす邪悪へとその力を向け、あらゆる手段を用いて排し、

 

 時に邪を喰らうことすら躊躇せず、貪欲なまでに平穏を求めた者は、

 

 

 案の定、その悪辣な側面から、カミサマに見捨てられた。

 

 

 なにせ、平穏を願った者は、その平穏を脅かしうる存在へと成り果てたのだ。なれば、これは至極当然の末路であろう。

 

 そう、彼が狩ってきた邪なる者たちと同じように、己が狩られる番が回ってきたのだ。

 

 

 その絶望は如何なものか。

 

 

 

 

 空を舞った白き龍が撃ち滅ぼされ、

 

 その化身たる者の故郷が消えていき、

 

 人間が、命が、文明が、星の営みが、

 

 全てが消えていく。

 

 

 トラゴエディアが見やる《封神鏡》の鏡面には、全てが無に帰した世界が広がりつつあった。

 

 

 

 

「例の彼は?」

 

「シモベとやらが確保している。だが、今さらアレがいたところでな――当のアイツがあのザマだ」

 

 そんな中、隣に響いた聞きなれた声に、何時ものように返すトラゴエディアだが、もはや策をどうこう述べていられる状況ではない。

 

「? そうですか。まぁ、確実性はないかもしれませんね」

 

「フッ、神崎 (うつほ)……か。その末路はありふれたものだったが――死にぞこなったオレの最後の遊び相手にはちょうど良いだろう」

 

 そうして拠点から外に続くゲートの一つに足を踏み入れ、トラゴエディアは破壊の権化の前に向かうべく一歩踏み出す。協力者という浅い縁だが、通すべき筋はあるだろう、と。

 

「流石にアレと戦うことと貴方の未練は関係ないと思いますが……」

 

「そう言うな、神崎。オレは最後の最後まで愉しみの中で……ん?」

 

 だが、己を呼び止める声に振り返ったトラゴエディアはピタリと動きを止めた。視線の先にはいる筈のない人物がいる。

 

「どうかしましたか?」

 

「……!? ……二ッ!? 二人!?」

 

「初撃以降は遠隔操作ですよ」

 

 驚愕におののくトラゴエディアに、神崎は何時もの作り物の笑顔で淡々と語る。

 

「光の創造神様が此方に介入可能か否かの判別の為です。此処は『記憶の世界』で彼らの命は三千年前にとうに絶えていますが、仮初の存在でも殺される人間の姿に黙っていられるタイプではないでしょう?」

 

 シンプルに踏み絵だった。

 

 光の創造神ホルアクティは無辜の民に対しては慈悲深い存在だ。相手が究極の闇のゲームの盤上の「仮初の生命」であっても「黙ってみていられる訳がない」ことは明白。

 

 とはいえ、神崎としては「黙ってみているしかない」有様であるのなら、それでもいい。それは「神崎の動きに手出しできない」証明になる。

 

 ゆえに殺す。

 

 光の創造神ホルアクティの力が本当に尽きたのかを確かめる為に。

 

 

 

 そんなだから、見捨てられるのだと思うが、言わないお約束である。

 

「アレはこの世界が終わるまで命という命を奪っていきます。早い話が陽動ですね」

 

「陽動……? オレは貴様がてっきり――」

 

 だが、未だ戸惑いから覚めぬトラゴエディアに反し――

 

 

「世界に絶望して破壊衝動に身を任せた?」

 

 

 空中に浮かべた《ディメンション・ゲート》へと己の影を伸ばす神崎は興味なさげだった。

 

 絶望に呑まれたものの末路としての一例を上げてみせるが、神崎からすれば絶望は過去(幼少時)にし尽くしたものでしかない。

 

「……ああ。違うのか?」

 

「違います。元から私の精神性が創造神様に受け入れて頂けるとは思っていませんし」

 

 そうして影越しに冥界の王の力を行使する神崎にトラゴエディアは困惑の声を漏らす。

 

 ホルアクティに出口を閉じられたのだ。自分たちに待つのは、記憶の世界と心中する道しかない。

 

「だが、この世界は閉じるのだろう? なら――」

 

「……あの、元からこの究極の闇のゲームに入り込む予定だった訳ですから、出る方法も用意しているに決まっているでしょう?」

 

「……そう言われれば、そうだな」

 

 だが、困った様子でメッチャシンプルな答えを返す神崎の姿にトラゴエディアは何時もの調子を取り戻した。

 

 イレギュラーによって強引に記憶の世界に引き摺り込まれた神崎だが、そもそも記憶の世界に密入国するつもりだったのだ。なれば密出国する手筈もあって然りである。

 

「あっ、これも駄目か……困ったな。肉体ごと送られた弊害が此処に来て……こっちも……無理か」

 

 しかし此処で影が弾かれ、《ディメンション・ゲート》の異次元への道が、積み木が崩れるように消えていく。

 

 更に拠点に残しておいた《異次元トンネル-ミラーゲート-》の鏡の入り口もピシリとひび割れたと同時に砕け散った。

 

「……おい、大丈夫なのか?」

 

「あまり大丈夫ではありませんね。次に成功率が高いのは……気が進まないなぁ」

 

 雲行きが怪しくなってきた中、顎に手を当て思案した神崎は、己の影に冥界の王の力を流し込み、カードを何枚か落とした後――

 

「シモベ」

 

「はいはい、此処に!」

 

 布団に筒巻きにした人間を抱えたシモベが影より来たり、膝をつく。

 

「例の彼は?」

 

「無論確保しております――オラァ!! 主がご用があるとのことです! とっと起きるんだYO!!」

 

 やがて筒巻きにされた人物がシモベにより蹴っ飛ばされて転がった結果、布団から解放された人物――バクラが地面に転がった。

 

「……ぁ? 此処は……いや、俺様は確か遊戯の王墓の出口で張ってた筈……」

 

 お忘れの方もいるやもしれぬゆえに説明すれば、このバクラは闇遊戯の失われた名を得るべく王墓へと向かっていたバクラである。

 

 

 そうして意識が戻ったばかりゆえか、拘束された腕を気にしつつ眠気眼に座すバクラへ、神崎は膝をつき目線を合わせた。

 

「ご気分は如何です?」

 

「……あぁ、そうだったな。けしかけた死霊兵が変な壺に喰われたと思えば、テメェに横っ面をぶん殴られたんだった」

 

 やがて神崎の顔を見たバクラの意識が戻っていく。

 

 ちなみに、話題に出た不滅の死霊兵を喰った変な壺は『心鎮壷(シン・ツェン・フー)』と呼ばれる魂を食する闇の一品――遊戯のクラスメイト、井守くんの魂が喰われたヤツである。

 

 過去に「息子が倒れた!?」と依頼を受け、消化される前に井森くんの魂を解放したは良いが、壺を閉じるには別の魂が必要だった為、一時的に保管し、この度、死霊兵の魂を喰わせて壺を閉じたのだ。

 

 その後、死霊兵をけしかけたゆえに「デュエルする意思なし」と判断されたバクラは普通に神崎に殴られた。

 

「それで俺様に何のようだ?」

 

 そんな経緯を得て、この場で頬の痛みを鬱陶し気にするバクラが告げた問いかけに――

 

「まず端的に状況を説明します」

 

「あァ?」

 

「この世界はもうじき閉じます。閉じれば我々は全滅――我々は貴方とリンクしている獏良 了の繋がりを利用し、脱出するつもりですが、それには貴方の協力が必要不可欠です」

 

 矢継ぎ早に言葉を並べていく神崎。対するバクラは瞳に鋭さを見せながら頭を回す。

 

「協力の対価も可能な限り用意しますが、どうでしょう?」

 

「あぁ、そうかい。なら大邪神ゾークの復活――はちと厳しいか。代用品でも用意してくれ」

 

「了承しかねます。他の望みはありませんか?」

 

「おいおい、テメェは俺様の力が必要なんだろ? 立場ってもんを――」

 

「私は貴方に頼らない別の方法でも構わないんですよ?」

 

「だが、俺様が協力した方が生存率が高い――違うか?」

 

 そうして並ぶ数多の情報から大まかな現状を把握したバクラは、取引の主導権を握るべく、相手のウィークポイントを突きつつ己に有利に働く情報を積み上げていく。

 

 囚われの身であろうが、思わぬ形で舞い込んだチャンスをバクラは逃しなどしない。

 

 相手の神崎からのっぴきならない事情も見える以上、勝算は十二分にある。

 

 

 そんな中、バクラの強かさの窺える表情に対し、神崎は降参するように小さく両手を上げた。

 

「これはお手上げですね。交渉決裂です」

 

「まぁ、俺様も鬼じゃねぇさ。此処はデュエルで白黒つけようぜ?」

 

「お断りします。言ったでしょう? 『交渉決裂だ』と」

 

 ゆえに此処だと妥協点を提示したバクラを余所に神崎は立ち上がり、話を打ち切ってみせる。

 

 原作でも、表+闇遊戯の双方を後一歩まで追い詰める程にバクラの実力は高いのだ。神崎にとってバクラの「デュエル」との提案は妥協点になり得ない。

 

 渡らなくてもいい危険な橋を渡る気など神崎には毛頭ないのだ。

 

「おいおい、尻尾巻いて逃げるのか?」

 

「ええ、貴方のデュエルの腕は十分承知していますから」

 

 そうして完全にバクラから目線を切った神崎は踵を返して背を向け、この場に戻っていたゼーマンへと指示を出す。

 

「ゼーマン、ブロンへの呼びかけを」

 

「ハッ、直ちに」

 

 やがて1枚のカードから発動された大地に空いた大穴――《異次元の落とし穴》に向かってゼーマンは杖を突き、念じ始める。

 

 こうしてバクラを利用した現実世界へ向かう方針ではなく、精霊世界に道を開く方向にシフトした神崎たちを見たバクラは諦めるように舌を打つ。

 

「チッ、仕様がねぇな」

 

「おや、考え直してくれましたか?」

 

 そんなバクラの心情の変化を感じ取ったのか、首を其方へと向ける神崎に、バクラは小さく笑みを浮かべた。

 

 このまま失意の只中で終わるよりは、再起の機会を掴むべく動くべき――

 

「ククク、そうやって俺様の命を握ってみせれば、そいつらみてぇに尻尾振るとでも思ったのか? くだらねぇ」

 

 そんな甘えた決断をバクラが下す訳がなかった。

 

 バクラには、時に泥をすすってでも生き延びんとする強かさがある。何度、地べたを這いずることになろうとも再び立ち上がる気概がある。

 

 だが一方で、気に入らない勝ち方を選ぶくらいなら敗北を受け入れる矜持も有しているのだ。

 

 そこには譲歩できる範囲が確かにあれど、譲れぬ最後の一線は決して越えぬ。

 

 バクラは――いや、大邪神ゾーク・ネクロファデスは世界に破滅をもたらす邪神。誰かの下に首を垂れることなど決してない。

 

 己を曲げた先にあるものなど、眼前にいる者たちのような妥協に甘える末路が広がるだけだ。

 

「フフフ……大邪神ゾーク・ネクロファデスは、俺様は、不滅なのさ。世界に闇がある限りな」

 

 ゆえに強気な笑みを浮かべて「なにもお前に頼らずとも次を狙う術があるのだ」と嗤うバクラに、神崎は何処か遠くを見るような目で零す。

 

「完全に不滅なモノなんて、ありはしませんよ」

 

「かもしれねぇな――だが俺様の、ゾークの意識は此処にちゃんとある。それが何を意味するか、分からねぇテメェじゃねぇだろ?」

 

「ええ、存じております」

 

 バクラの主張は丸っきりハッタリという訳ではない。

 

 原作では、表の遊戯とのデュエルによって消える筈のバクラの魂の欠片が「今」此処に存在している意味は、神崎にとってもよく知ったものだろう。

 

 ゆえに己のスーツの内ポケットに手を入れた神崎だが、その段階でゼーマンの苦心するような声が届く。

 

「神崎殿、ゲートの準備が整いました。とはいえ、不安定ですので精霊界のどの座標に跳ぶかは……」

 

「ククク、だってよ――どうする?」

 

「流石に私とて後続の憂いを断つ手段は用意していますよ」

 

 次元の歪みのせいか床から壁に移動した不安定な精霊界へのゲートへ視線を向けたバクラの嘲るような声に対し、神崎が内ポケットから取り出したのは、ガラスケースに入れられた1枚のカード。

 

 そのカードのテキスト欄には訳も分からぬ文字が並び、カードイラストは――

 

「『ラーの翼神竜』のカード……!」

 

 バクラが零すように黄金の翼竜――『ラーの翼神竜』が描かれている。だが勿論、本物(オリジナル)ではない。

 

「レプリカです。I2社で研究用に残しておきたいとの要望から、安全確認を頼まれまして――()()()()を探していたところなんです」

 

 これはマリクがコピーした1枚の中でもっとも完成度が高い一品であり、将来的に「遊☆戯☆王GX」にてI2社が研究用に管理するものだ。

 

 とはいえ、神崎は「これ」を後の世に残すつもりはない。

 

 

 此処で話は変わるが――いや、戻るが、「オシリスの天空竜の攻撃でバクラの意思を殺せる」事実は原作にて証明されている。後は簡単だ。

 

「レプリカで俺を殺せるとでも?」

 

「レプリカであっても、使用者への神の裁きは本物ですよ。それにこうしてタップリと魔力(ヘカ)を、いえ、ライフを注いで暴走させてやれば――」

 

 そして神崎の言を先回りするようにバクラは挑発するが、神崎は気にする素振りを見せない。「それら」の疑問点はツバインシュタイン博士によって当に「解明済み」だ。

 

 やがて神崎のライフこと魔力(ヘカ)が注がれた光のピラミッドのシステムを応用したガラスケースの内側のレプリカの『ラーの翼神竜』のカードは怒りを示すように猛々しい炎を迸らせていく。

 

 この調子ではガラスケースの方も長くは保ちそうにない。

 

 そうして神の裁きを目前にするバクラは狂ったようにゲラゲラと嗤い始める。

 

「ヒャハハハハハ! 成程な! 初めから俺様を生かして帰すつもりなんざなかった訳か! イイ性格してやがるぜ! ハハハ!!」

 

 やはり己の選択は間違っていなかったと。なにせ、頭を垂れた先にあったのは己の首を刈り取るギロチン台である。

 

 こんな在り方で正義側をほざく相手の二枚舌っぷりは滑稽で仕方がない。

 

「協力の対価がもう少しまともであれば、『コレ』を使う必要はなかったんですがね」

 

「生憎だが、俺様はテメェの下につく気はねぇ――神の裁きだろうが、なんだろうが耐えきってやるよ!」

 

 そして軽く肩をすくめながら放たれる神崎の最後の申し入れも、バクラは袖にして返す。もはやバクラに眼前の相手の言葉を何一つ信じる気はなかった。無理も無かろう。

 

「では――」

 

 ゆえに取引を諦めた様子の神崎が精霊界へのゲートを潜る姿に向けてバクラは――

 

 

「――精々、束の間の平穏を楽しむんだなァ!!」

 

「――ごきげんよう」

 

 呪いの言葉を送り、対する神崎は別れの言葉を贈った。

 

 そして神崎がゲートを潜り終える寸前で神崎の右手を覆った《ロケットハンド》の機械の右拳がガラスケースを手に射出される。

 

 当然、《ロケットハンド》は己の行き先であるバクラの胸を穿ち、砕けたガラスケースから零れ落ちたレプリカの『ラーの翼神竜』のカードによる神の裁きの炎がバクラを包み込んだ。

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 

 神の炎に焼かれるバクラの――いや、ゾークの嗤い声は崩壊する記憶の世界に響き渡る。

 

 

 

 その叫びは、世界が潰えるまで続いた。

 

 

 





フランツ「許された」


「問われるだろうな」との話を先んじてQ&A――
Q:ホルアクティ様、酷くね?

A: 今まで神崎が行ってきた「危ないから処理する」が、今回は神崎に降りかかってきただけなので、神崎は文句言える立場じゃないです。

ぶっ殺せば将来的な憂いの8割方が一気に晴れるので、
神崎だって、そんなやつ(神崎みたいなの)がいたら確殺するだろうから。

逆に生かすと暴走の危険が大きいですし。

失敗したとはいえ、浄化を働きかけてくれたホルアクティ様の方が温情あるくらいです。


――と、逸れた話もそこそこに、これにて「記憶編」完結でございます。

次の闘いの儀編とDSOD編に少し触れてDM編もゴールになります。


その為、DM編の終わりに此処までお付き合い頂いた読者の皆様方への感謝の意も込めて
ご希望のお話があれば――とアンケートを実施したいと思います。

詳しくは活動報告に記入しましたので、其方を参照願います。


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