前回のあらすじ
アクナディン「なんかよく分からんが、我が息子セトがファラオになったのでヨシ!(なお在任期間)」
第197話 もう一人のボクェ……
記憶の世界に閉じ込められた神崎たちは、強引に勝手口を増設し、精霊界に向けて異次元のゲートへと飛び込んだが――
そこは身体がバラバラになりかねない激流の如き次元の奔流の只中。その流れにあらがう様に力任せに突き進む神崎だが、次第にその意識が遠のいていく。
やがてその背を何処かへと引き摺り込むように、不気味な程に白い腕が伸びた。
「アンクリ~」
異次元の渦の只中にいた筈の神崎は、得もいえぬ息苦しさにその意識を覚醒させた。
そんな神崎たちが現在いる場所は湿原が広がる平原の只中。
息苦しいのは無理もない。なにせ、現在の神崎は湿原に頭から突っ込み、胴体まで埋まり、足だけが見える――俗にいう「犬神家」状態なのだ。
湿原に、社畜・ゴリラ・盗賊のおっさん・炎の悪魔――が突き刺さっている光景は何ともカオスである。
そんな突き刺さった社畜こと神崎が、マッスル任せに犬神家状態から脱出し、まずゴリラを引き抜く。
「――座標は!!」
「ハッ! 此処は噂に聞くミストバレーの大湿原のようです!!」
そして引き抜かれたゴリラことゼーマンが湿原に放り出されながら周囲の地形を確認して報告するが、既に神崎は盗賊のおっさんを引き抜きつつゼーマンへ詳細を問うていた。
「何処だ!?」
「そう焦るな神崎。一先ず窮地は脱したんだろう? 現地の情報を集めてじっくり確認すれば良い話だ」
引き抜かれた盗賊のおっさんことトラゴエディアがいつになく焦りを見せる神崎へ呆れた声を漏らすが、当の神崎は炎の悪魔ことシモベを引き抜きながら危機的な現状を語る。
「アヌビスの代役がいる! あまり悠長にしている時間はないんだ!」
「貴様は何時も忙しそうだな……」
「我が主! この場は未だ三騎士共めの手が伸びておらぬゆえに、敵地同然! すぐさま場所を移すべきかと!」
そうして神崎に足を持たれ、俗に言う「獲ったどー!」状態のシモベが忠言を入れるが――
「ダンネャジ」
「我が主、危ない――ぶげへッ!?」
神崎の足元から響いた邪悪な声に神崎を庇うように動く――前に、シモベの身体は離れた場所に放り投げられた。湿原に顔を突っ伏すシモベ。
「ダンネャジ」「ダンネャジ」「セコヨ」「ノンゲンニ」「ンネャジ」「エバウ」「ヨセトテカ」「ロココノフ」「テベス」「セクツイバウ」「ダキトノツカッフ」
やがて数多の声を響かせながら神崎の足元より噴出する黒い霧のような影は、その身体に纏わりついていき、どんどんと神崎を呑み込んでいく。
「こっちで対応する!! 皆は物質次元へのゲートの固定を急いでくれ!! 繋ぎ終えても私が戻らなければ、代役は頼む、トラゴエディア!」
そんな異常事態の最中でも、相変わらず社畜感溢れるスタンスでゼーマンたちへと指示を飛ばした神崎は、あっという間に黒き闇の中に呑まれて消えていった。
そんなこんなで霧のような黒き影に呑まれた神崎は、上下左右も曖昧な昏き世界にて辿り着き、周囲の泥によって、奈落へと沈められていく。
やがて全方位から響き渡る、怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみ、怒り、不安、焦燥、恐怖、無念、嫌悪、憎悪、悲哀、諦念、絶望といった、ありとあらゆる邪念が世の破滅を願うように叫びを上げ続けた。
そうして邪念を、負の感情を、心の闇を、糧として、神崎を苛みながら泥が全身を包み込んでゆく。
その行く先は奈落の底。邪念の意思との統合。破滅の先兵としての恭順。
「邪魔!!」
なのだが、電車に乗り遅れるサラリーマン感溢れる神崎のタックルが、邪念の泥を弾き飛ばした。
今の神崎に何時もの余裕はない。これ程の邪念を前に――等という理由ではなく、かつてない程の大仕事に穴を空けそうな現実を前に余裕など生まれよう筈がない。
今は成仏したアヌビスの代役を埋めることこそが何より優先される。
なにせ、この後に控えているのは「闘いの儀」――そう、遊戯たちにとって最も重要な局面だ。
それに加え、闇遊戯は今が「冥界に
ゆえに闘いの儀を行う場への
そう、とにかく神崎は急いでいるのだ。
「すまないが、今とても急いでいるんだ! 話なら要点を纏めて簡潔に頼む!!」
ゆえに漠然とした終末論に付き合っている時間はない。
だが、自分たちの侵食を弾き飛ばした神崎の姿に、周囲の泥のような闇は出方を窺う様に口を開く。
「ルメトモ」「ヲンエウユシ」「ツメハ」「イカハ」「ンネヤジルナウコウス」「ノズルエヴンイ」「イシマタノラレワ」「ルナクアヤジ」「テシニイスンユジ」
「破壊に破滅に終焉――成程、分かった!」
そうしてうごめく闇たちが明確な意思を告げる中、浸食された影響か意思疎通を完了させた神崎は、急ぎで話し合いのテーブルを用意。
「私たちの目的はぶつかり合うようだ! ゆえに妥協点を探ろう! 破壊する部分、破滅させる対象、終焉の期間、要相談だ!」
やがて結構、物騒な話し合いが開始されるかと思いきや――
「キミたちは何処までなら妥協――」
「セラタモ ヲンエウュシ ニヨ ダノスタハ ヲツカッフ イラク ヲンネャジ ノノモノコ ヨチタズルェヴンイ ニビラナ ズルェヴ ルタイライカ ガワ ケユ ルジイメ ガンジリオ ズルェヴンイ」
周囲の泥のような闇の中から、なんか親玉っぽい角の生えた悪魔の顔のような青紫の邪念の集合体の宣言と共に、周囲の邪悪な闇たちも、身体を鋭利な形に変貌させながら襲い掛かった。
「それが答えか」
そんな相手のシンプルな返答に、スーツを脱ぎ捨てネクタイを外した神崎の首筋や腕から痣のような血管が浮き上がると共に、その心臓がけたたましく脈動を始めた。
此処に、捕食者たちの戦いが始まる。
物質次元へのゲートを生成するゼーマンたちを余所に湿原の只中にて、大地から噴き出した黒い邪念に神崎が呑み込まれたと思えば、咀嚼するかのような脈動と共に段々と黒い邪念が、その体積を減らしていく。
「喰ってる……喰ってやがりますよ……!?」
引き気味なシモベの言葉通り、邪念の只中で喰い合いが行われていることは明白であり、その凄惨さすら感じさせる光景は、見る者に嫌悪感を湧き上がらせる。
そんな最中、やがて黒い邪念がペキペキと色を失っていき、積もった塵のように灰色へ化した瞬間に人間の腕が飛び出した。
そして脆く儚い砂上の楼閣のように崩れた邪念だった塵を余所に、肩に乗せたスーツを着直しながら歩み出る神崎にゼーマンが膝をつく。
「お、お帰りで……」
「ゼーマン! どのくらい時間をロスした!?」
「わ、僅かな時間でした。恐らく精神世界のように時間が圧縮された場だったのでしょう」
「そうか! ならゼーマン! キミは暗黒界の皆と合流し、見目好く人当たりの良いメンバーを連れて、この地の者と会合を!」
だが、ドン引き一歩手前なゼーマンの様子も気にする余裕もないやり取りを経て、神崎はシモベの前の物質次元のゲートへ歩を進めるが、ピタリと足を止め――
「なにやら邪悪な類が封印されていたようだから、それを祓いに来たと――いや、台本の類は後に用意する! メンバーの選別後と、出発・到着前に連絡を頼む!」
若干、修正しつつ、計画を棚上げする神崎。焦りの只中で計画を立てることは悪手であると。なお平時に立てた計画が完璧なのかと問われれば、泳いだ目線と共に沈黙を返す他ないが。
「ハッ、ではバーガンディ殿を筆頭にメンバーを選別しておきます」
「我が主! ゲートの準備が万端ですぞ! ご武運お祈りしてります!」
「ああ、ありがとう!」
やがてゼーマンが自分たちの拠点である森が広がる《クローザー・フォレスト》へ向かう準備へ移行する中、シモベに促されるままに、物質次元へのゲートに手をかけ――
「トラゴエディア!」
「全く、せわしない奴だ」
トラゴエディアを引き連れた神崎は、物質次元こと人間の世界へ大急ぎで向かっていった。
ファラオであるアテムと、神官セトのディアハを描いた古代エジプトの石板の前で倒れていた遊戯たち一同は、夢現な様子で起き上がるが――
「此処は……」
「記憶の石板……元の世界に戻ったのね」
「そうだ! もう一人の遊戯――じゃなくて、えーと、アテムは!?」
杏子の声に、現状を把握した一同を代弁するように城之内が叫ぶが――
「ちょっと待ってて――――」
「みんな、ありがとう――みんなや、精霊たちの助けがなければ、俺は闇のゲームに勝つことができなかったかもしれない」
表の遊戯から、闇遊戯に――いや、アテムに人格交代した後に告げられた言葉に城之内はその背を軽く叩く。
「なに水くせぇこといってんだよ! 俺たちはいつだって一緒だろ?」
「そうだぜ、お前は俺たちの大切な仲間――」
そして本田もアテムの肩に手を回しながら再会を喜ぼうとするが、その前にコンコンと扉からノックの音が響いた。
「お時間です」
「……タイミング悪ぃなぁ」
やがて開いた扉から、此処まで遊戯たちを案内した厳つい目元以外を布で隠したガタイの良い大男の墓守の一族が一礼と共に発した声に、肩を組んだ遊戯の隣でピタリと固まる本田だったが――
「あれ? そういや、ボバサは?」
此処で、周囲にボバサの姿がないことに気付く。あの巨漢ではさして物のないこの部屋では隠れようもない。
「使命を果たした彼のものは、帰るべき場所に帰られました」
「なんだよ、挨拶もなしかよ――ちょっと寂しいぜ」
そんな中、続いた墓守の一族の大男の言葉に、ボバサと良くも悪くもぶつかり合うことが多かった城之内が頭をかきながら肩を落とした。
「アンタは何処行ったか知って……って、言う気はねぇか」
「此方へ、皆様のご友人の方々がお待ちになっております」
「ご友人?」
やがて詳細を問おうとして本田が言葉を引っ込めた余所に、ボバサが「ファラオに」と置いていったとされる三つの千年アイテムを回収したアテム。
そして墓守の一族の大男の案内の元、不思議そうな顔を見せるアテムを先頭に、一同は管理施設内の一般に開放されているエリアへと進んでいく。
そこには――
「おーい、遊戯~!」
「遊戯くーん!」
「爺さん!? それに御伽も!?」
遊戯の祖父、双六と、友人である御伽がそれぞれ手を振っていた。
「――受け取れ、遊戯ィ!!」
が、それよりも先にアテムの元に飛来した物体を受け止めれば、そこには――
「海馬ッ!? それに千年ロッド!?」
「ふぅん、凡その話は聞いた――貴様に必要なのだろう? こんな骨董品くれてやるわ」
「アヌビスもケチだよな! 俺たちを遊戯んとこに案内してくれないなんてよ!!」
「これに関しては、誰であっても同じ対応です」
海馬兄弟の姿が立ち並ぶ。そしてアテムたちを先導していた墓守の一族の大男へと苦言を漏らすモクバの姿にアテムはピクリと反応を見せた。
「アヌ……ビス?」
――あのモクバの態度……コイツはアクターと無関係なのか?
ゴツイ墓守の一族の名を、今ようやく把握したアテムがアヌビスとモクバとの距離感から、誰とも関わらなかったとされるアクターとの関連する可能性を排していく中――
「えっ? 遊戯は知らなかったのか?」
「いえ、此方が名乗らなかったのです。我はあくまで『墓守の一族』として、この場にいる身――名という『個』を示す必要はありませぬ」
「アクター……いや、他の一族もそうなのか?」
モクバを相手にしていたアヌビスへアテムは、そう問いかけた。己が知っておかねばならない問題だと。
「いいえ、細かな方針は一族ごとに特色がございます。我らに縦も、横の繋がりもありません。あるのは『役目に殉じる』ことのみ」
だが、アヌビスからは望む答えは得られない。
墓守の一族のそれぞれは、全ての一族が共倒れになることを避けるべく、小分けに与えられた役目に殉じることで――と、アヌビスが色々明かしているが、これはあくまで「アヌビス用に設定された情報」でしかない。早い話が嘘だ。
ゆえに、アヌビスの返答からアテムが幾ら考えようとも、アクターの全容を知ることはできない。
――アクターはマリクとも、アヌビスとも、ボバサとも違う墓守の一族だったのか……?
「そう……か。アヌビスだったよな? 今まで墓守として――」
「皆まで言わずとも構いません。ファラオの使命を果たす御役目を無事成すことこそが我らの本懐ゆえに」
だが、口から出まかせを述べる相手に礼を告げようとしたアテムへ「そもそも礼を言われることなど何もない」とばかりに「ファラオに尽くすのは当然のこと」だと語るアヌビスの姿に城之内は思わず零す。
「ボバサと違ってかったいヤツだな……」
陽気で気ままなボバサとは正反対だと。
墓守の一族ごとの方針の違いゆえかもしれないとアテムが考える最中、海馬のインパクトから目に入らなかったテーブルに所せましと広げられた料理にがっつく影の主が食事の手を止めた。
「もぐもぐ……あっ、遊戯くん、むしゃむしゃ……」
「獏良も来ていたのか!?」
「うん、なんだか千年リングが必要なんだって、もぐもぐ……あっ、はいコレ」
「あ、ああ。そ、そんなに食べて大丈夫なのか?」
「うん! 今はなんだかとっても身体が軽いんだ! それにご飯も美味しく感じるし……なんでだろう? むぐむぐ」
いや、やっぱり食事の手を止めることなく、アッサリと千年リングをアテムに渡しながら、食事を続ける獏良。その姿は
その晴れやかさに、若干ベタつく千年リングをハンカチで拭うアテムの顔には安堵が見える。彼もまた、ようやく解放されたのだと。
そうして各々自由気ままな様相だが、アテム一同からすれば、未だ分からないことがあった。
「でも、どうしてみんなが……」
それは、どうしてこのタイミングで仲間たちが揃ったのかという点である。
「それに関しては私が説明しよう」
「ホプキンス教授!?」
「冥界の神殿に安置された冥界の石板にはこう記されているんだ」
しかし、此処で何処からともなく現れたホプキンス教授が、明らかに用意していた感のあるホワイトボードに記入された簡易的な図へ教鞭を差し、手短に説明していく。
「『冥界の扉を開くには石板に7つの千年アイテムを収め、最後の鍵としてファラオの名を示せ』とね」
そうしてホワイトボード上の「冥界」の2文字の周囲に「天国」「あの世」「死者の国」と分かり易いワードに変換された図へ、城之内たちが首を捻る最中、ホプキンス教授はアテムへ視線を戻すも――
「そこで遊戯くん――いや、ファラオの魂と言うべきか――が、その試練を乗り越えた時、その魂を冥界に返す儀式を行う必要があるんだ」
「ああ、分かってる」
それは究極の闇のゲームをクリアし、記憶が完全に戻ったアテムとて重々承知のことだった。
だが、ホワイトボードの前で悩まし気な様相の城之内が、アヌビスへ向けて零す。
「でも何でホプキンス教授なんだ? 墓守の一族のお前が案内してくれれば良いじゃねぇか」
「ちょっと城之内!」
「はは、構わないよ。私もそれが筋だと思うしね。だが、今回は彼から依頼されて私が案内することになったんだ」
若干双方に失礼な発言ゆえに咎める杏子だが、ホプキンス教授は気にした様子もない。
「道は違えど、一族の者が罪を犯したのです。同胞の罪は我らが罪――ファラオの御身を送る只中に罪人が紛れ込むなどあってはなりません」
「アヌビス……」
更にアヌビスから語られた「自分たちが関わるべきではない」理由を聞けば、アテムには返す言葉が出なかった。
やがて若干しんみりとし始めた空気を変えるように本田がポンと手を叩く。
「成程な、今回はホプキンス教授が仕事で来てる訳だからレベッカの姿がねぇのか」
「ああ、あの子も来たがったんだけどね。今回ばかりは遠慮して貰ったよ」
「儂は遊戯の保護者として此処におるんじゃ。もう一人の遊戯も儂の大事な孫じゃからの」
「僕は空港で右往左往していた遊戯くんのお爺さんの姿を見かけてね」
そうしてホプキンス教授に続くように、双六と御伽が自分たちの内情を明かす。
そう、此処に集ったのは7つの千年アイテムを持つ者たち、とその関係者。後+α。
そしてファラオを冥界へ送る儀式場への案内人――の代理。
全てが揃いつつある今、別れの時は目前に迫っていた。
「では、そろそろ――船
やがて神崎が用意しておいた船に案内するアヌビスの背にモクバの声がかかる。
「あのさぁ、アヌビス。お前……そんなヤツだったか?」
モクバの知るアヌビスは、もっと「俺様感」のある人物だった筈だと。今のように畏まった側面は、モクバには少々違和感が強い。だが――
「お戯れを。今は墓守の一族の一人として王の前にある身。普段のような振る舞いは出来ませぬ」
「……まぁ、そう言われるとそうだよな」
アヌビスから告げられた至極真っ当な理由に、大いに納得させられたモクバは、先を進む海馬の元へと駆けていった。
――ま、間に合ってよかった……ギリギリだった……
アヌビスに化けていた神崎の心中の安堵の声を残して。
やがてアヌビスに見送られ、最後の船旅となった遊戯たち。
そうして日も暮れてきた頃 船の甲板にて運河を眺める遊戯たち一同の間に奔る重苦しい空気を割くように城之内が努めて明るく声を張る。
「いやー、牛尾が船の免許持ってたなんて驚きだよな、遊戯!」
「そうだね」
「こう、船旅ってのも悪くねぇよな!」
「うん」
しかしアテムから人格交代していた船の手すりに腕を乗せた遊戯の気は晴れない。そんな中、城之内は小さく息を吐いた後、遊戯と同じように手すりに身を預け――
「……なぁ、遊戯。俺の一生の願い、聞いてくれるか?」
「えっ?」
「千年アイテム、この川に捨てちまおうぜ」
「城之内くん……」
告げられた一生の「願い」に遊戯は言葉を詰まらせる。
「……いや、悪ぃ。駄目だな、俺――ホプキンス教授から、今じゃねぇと『成仏できなくなっちまう』って話聞いたってのに、自分のことばっかで……」
城之内とて、自分が願ってはならぬことを願っている自覚はあった。船内でもホプキンス教授により、座学の類が苦手な城之内にも分かり易く現状が示されている。
だが「それでも」と思わず出てきてしまった願い。それを悔いる城之内に、遊戯は小さく横に首を振って返した。
「ううん、ボクもそうだよ。今でも『他に方法があるのかもしれない』って心のどこかで考えてる」
「そうよね。だって、こんなに急だもの……もうちょっとみんなで一緒に……せめてあと一日だけでも……」
「城之内の気持ちは、みんな一緒なんだよな……気持ちよく送り出してやりてぇのに、土壇場に来ちまうと尻込みしちまう」
もうすぐそこまで来たアテムの別れの時に、遊戯や城之内と同じく、杏子と本田もやり切れぬ思いを感じているのだ。
どうにか折り合いをつけねばならない感情を、なんとか飲み干そうとする遊戯たち。
「別にそれでいいじゃねぇか」
だが、背後から響いた声に、城之内はハッとした様子で振り返りつつ、ばつが悪そうに返す。
「牛尾? 運転はいいのかよ」
「磯野さんと交代してきた――ある程度は自動操縦できるとはいえ、俺1人で付きっ切りって訳じゃねぇよ」
「それで牛尾くん、『別にいい』って?」
「まぁ、そうだなぁ……」
やがて一同の苦悩を否定した牛尾の言葉の真意を遊戯が問い質すが――
「大事なヤツとの別れは、誰だって辛いもんだ――だがよぉ、忘れてねぇか?」
なにも牛尾は、彼らの想いを否定している訳ではない。
「この別れは、もう一人の遊戯……アテムだって辛いんだぜ?」
辛いのはみんな一緒なのだと。
最後の別れ――それが辛いのは牛尾も分かる。いや、牛尾よりも遥かに付き合いが長かった遊戯たちは、牛尾のソレとは比べ物にならないだろう。
「だってのに、アテム含めてお前らみんなして、その想いにフタして無理やり笑ってお別れ会……なんざ、どっちもシンドイだけじゃねぇか」
しかし、それだからこそ己の想いを誤魔化した別れなど、唯の悲劇であろう。
「お前らだって永遠に一緒にいられる訳じゃねぇ。いつか絶対に別れは来る」
別れは誰にだって平等に訪れる。それは決して避けられないものだ。
「なら、ピーピー泣こうが、思いっきり叫ぼうが、ありったけ想いぶつけ合う方がイイんじゃねぇか?」
であるのなら、気心が知れた親友たちの別れを前に、己の感情を誤魔化した最後など後悔しか残るまい。
「
「牛尾くん……」
「へへっ、らしくねぇこと言っちまったかな」
そうして自論を語り終えた牛尾は、向けられる遊戯たちの視線に照れくさそうに鼻をかく。
そんな中、少し上向いた気持ちで拳を握った城之内は、決心するように零すが――
「そうだよな。俺たちで精一杯、アテムをデュエルで冥界に送って…………アテムに誰が勝てるんだ?」
ホプキンス教授の説明から「アテムを冥界に送るにはデュエルで倒す必要がある」と説明を受けていたが、今の今まで「別れ」の方にばかり気がいっていた一同は根本的な問題にぶち当たった。
「まぁ、順当にいきゃあ社長かねぇ?」
「いや、やっぱ此処は――」
「なんだよ、城之内。お前がやんのか?」
牛尾が零した声に反応する城之内を覗き込む本田だが――
「遊戯、本当なら親友の俺が送ってやりてぇ――だけど、多分……いや、今の俺じゃ無理だ。悔しいけど俺が一番よく分かってる」
悔し気に拳を握った城之内は遊戯の肩に手を置き宣言する。KCグランプリならぬワールドグランプリで己の実力不足は痛感しているゆえに託す。
「だから、遊戯。お前に任せる。いや、
アテムを送ってやれるのは、文字通り「一心同体」の間柄であった遊戯を措いて他にはいないと。
だが、此処で今まで沈黙を守っていた御伽が驚きの声を漏らした。
「遊戯くんが……!? 無茶だよ!!」
「いや、遊戯の実力は俺が一番よく分かってる! ……俺が一回も勝ったことないからな」
御伽視点の遊戯は、そこまで強者には映ってはいない――だが、城之内からすれば並び立ちたいライバルの1人である。
これ以上の人選などない確信が城之内にはあった。
「ふぅん、実にくだらんやり取りだな」
しかし、そんな一同に更なる乱入者――海馬兄弟が現れた。
「なんだよ、海馬。てっきり俺はお前が名乗り出るもんだと思ってたぜ」
「『くだらん』と言った筈だ――俺と
アテムの宿命のライバルを自称する海馬であれば、アテムとの最後のデュエルの機会をふいにすることはないと思っていた城之内だが、こう見えて海馬は決戦の舞台にはこだわるタイプである。
三千年前の宿命だか儀式だかに「勝手をされる」のは我慢がならない。
「それに加え、どいつもこいつも前提をはき違えたやり取りばかり」
さらに海馬からすれば、これはアテムとの「最後のデュエルの機会」などでは断じてない。
「お前たちの誰が挑もうとも、どのみち
アテムの力は他ならぬ海馬が一番認めている。ゆえに、もはや「今の」アテムを倒せるのは己をおいて他にはいないという絶対の自負があった。
「俺が
ゆえに海馬が整えた完璧な舞台で、完全な勝利を掴む。
「その結末は変わらん」
それこそが海馬のロード。ゆえに、「闘いの儀」など海馬からすれば「アテムの実力を見る」以外はどうでも良かった。
「この場など所詮は貴様らのくだらん思い出作り――好きにするが良い」
「こ、こいつは……!!」
「海馬君――ありがとう」
そんな海馬の不遜な俺様具合に頬をヒクつかせる城之内を余所に、遊戯は真っ直ぐに礼を告げる。
海馬の性格的に、本当は浴びる程にアテムとデュエルがしたい筈なのだ。
しかし、その想いを一時留め、「思い出作り」などと憎まれ口を零しながらも己に譲ってくれたことなど、アテムの傍で海馬という人間を見続けてきた遊戯によく分かっていた。
「ふぅん、感謝するのなら精々、
やがて踵を返しながら、そう告げた海馬の歩みを最後に、この場の一同は各々の部屋に戻り、就寝につく。
明日の朝、到着したその時こそが、別れの時なのだと。
そうして自室に割り振られた部屋に戻った遊戯の背後でアテムはポツリと零す。
『相棒、俺はお前がデッキを組み終わるまで心の奥底に……』
それは「闘いの儀」へ向けたデッキ構築を知ってしまわぬゆえに、今のように表層に出ないようにアテムは動こうとしたが――
「ううん、大丈夫だよ」
『相棒?』
「実は、もうボクが組むデッキは決まってるんだ」
それはいらぬ心配だった。既に遊戯の脳内にはアテムを倒す為のデッキは構築されている。
「ボクはずっとキミのデュエルを傍で見てきた……だから」
『無意識に考えていたか、俺というデュエリストを倒す方法を』
遊戯とてデュエリストなのだ。アテム程の実力者を前にして、
「うん、だから――」
『奇遇だな。俺も、お前とのデュエルを心のどこかで待ち望んでいた』
「ふふっ、そっか」
そして、それはアテムも同じ――いや、アテムだからこそ、己にはない強さを持つ遊戯とのデュエルは常に脳裏を占めていた。
そう、互いに、互いを倒すデッキは、とうに組み終えている。後は戦いの火蓋が落ちるのを待つのみ。
「なら、お願いがあるんだ。杏子と話をしてあげて――どんな話でも良いんだ。最後に出来るだけ沢山の……」
ゆえに、遊戯はアテムの最後の時間を杏子の秘めた想いの為に、託すことを願いでるが――
『そう……か。分かった。だが、俺も一つだけお前に「だけ」話しておく……いや、頼みたいことがある』
「もう一人のボク?」
アテムもまた、遊戯に、いや、遊戯にしか頼めない願いがあった。
『俺の最後の心残りの話だ』
やがてアテムから語られた話を聞き終えた遊戯と人格交代したアテムは、杏子に割り振られた一室へと歩を進めていく。
乙女の秘めた想いが行き着く先は果たして――
明朝、目的地に到着した船から降りた一同は「闘いの儀」の舞台である地下神殿へと降り、冥界の石板が安置された場所に勢揃いする。
そして冥界の石板に7つの千年アイテムを収め、ウジャトの瞳が描かれた冥界の扉の前に立った遊戯。すると――
「扉の目が光ったぞ!」
「あのウジャトの瞳が闘いの儀による魂の真実を見極めるんだ」
驚く本田に、儀式の詳細を語るホプキンス教授。やがてウジャトの瞳から輝く光が遊戯を照らしていき、その影を二つに分かつ。
「見て! 遊戯の影が!」
「遊戯くんが2人に!?」
そして杏子と獏良の声が示すように、遊戯が二人に――遊戯とアテムに別れ、互いは示し合わせたように左右に分かれて歩を進めた。
「くるのか……2人のデュエルが……!」
「よっしゃ! 最後のデュエル! 2人とも目一杯に応援してやろうぜ!!」
それは御伽の言う様にデュエルする為の立ち位置。ゆえに城之内も気合を入れて声援を送る。
やがて向かい合ったアテムは遊戯へ視線を向けていた。
――相棒、よくぞこの闘いを受けてくれた……礼を言うぜ。だが、俺もデュエリスト!
それは今までのような「相棒」としてではなく一人の「デュエリスト」としての闘志溢れる瞳。
――目の前に立ちはだかる者は全力で倒す! それが俺のプライド!
――もう一人のボク……ボクが強くならなければキミはずっとボクの心の中から自由になることは出来ない。
そんなアテムの闘志に晒される遊戯は、スッと視線を合わせる。もう、賽は投げられたのだと。
――だから……キミを倒す!
「行くぜ、相棒!」
「行くよ、もう一人のボク!!」
同じ景色を見続けた2人が、今ここに互いに別の
「 「 デュエル!! 」 」
やがて先攻後攻の選択権を得た遊戯は先攻を選択。
「ボクの先攻! ドロー! 手札から魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いの手札を全て捨て、捨てた枚数ドローする!!」
「フッ、なら俺はこの5枚のカードを捨てるぜ」
そして万全の体勢を整えるべく手札を整えようとした遊戯だが、アテムが公開情報である捨てる手札を明かしたことで、その動きはピタリと止まる。やがてホプキンス教授と双六が驚愕の声を漏らした。
「そんな馬鹿なッ!?」
「エクゾディア……じゃと……!?」
「待って、最後の1パーツがないわ!」
「いや、手札の《黒き森のウィッチ》の効果があれば……」
「遊戯くんが魔法カード《手札抹殺》を使わなければ……いや、ひょっとしたらアテムくんが先攻を取っていれば……勝負は一瞬で……」
杏子の言に付け足された城之内と御伽の注釈が、遊戯とアテム、二人の間に広がる実力差を物語っている。
そんな驚愕におののく一同に反し、海馬は――
――いいぞ、これでこそデュエルキング! 我が宿命のライバル! 貴様の一挙手一投足、打つ手全てが俺を高揚させる!! とはいえ、その
得もいえぬ高揚感に包まれていた。それはアテムが冥界には帰らず、現世に残る確信を得たゆえか。
――神くらいは引きずり出して欲しいものだな。
そして遊戯へと試すような視線を向ける海馬に、当の遊戯は新たに引いた5枚のカードの1枚に指を走らせる。
「ボクは《グリーン・ガジェット》を召喚! そして召喚に成功した時、効果発動! デッキから《レッド・ガジェット》を手札に加える!」
歯車の身体を持った緑のロボットが、小さい手足を目一杯伸ばして、拳を掲げる。そのステータスは決して高くはないが、次々と仲間を呼ぶその力は侮れない。
《グリーン・ガジェット》 攻撃表示
星4 地属性 機械族
攻1400 守 600
「此処で墓地の《ADチェンジャー》を除外し、《グリーン・ガジェット》を守備表示に変更! さらに2000のライフを払い魔法カード《同胞の絆》を発動!!」
しかし呼ばれて早々に短い腕を交差させ、しゃがむ《グリーン・ガジェット》の両隣には――
《グリーン・ガジェット》 攻撃表示 → 守備表示
攻1400 → 守 600
遊戯LP:4000 → 2000
「その効果で、ボクが選択した《グリーン・ガジェット》と同じレベル・属性・種族の同名以外のモンスターを2体特殊召喚する!」
2つの歯車が回転しながら降り立った。
「頼んだよ! 《レッド・ガジェット》! 《イエロー・ガジェット》! そしてレッド、イエローの特殊召喚成功時に、デッキから、《イエロー・ガジェット》と、《グリーン・ガジェット》を手札に加える!」
それは同じような歯車の身体を持つも、ボディカラーは赤いロボットが、遊戯を守るように小さくしゃがみこみ、
《レッド・ガジェット》 守備表示
星4 地属性 機械族
攻1300 守1500
さらに同タイプの歯車の身体を持つ黄色のロボットもその隊列に加わった。
《イエロー・ガジェット》 守備表示
星4 地属性 機械族
攻1200 守1200
「カードを2枚セットし、最後にボクは魔法カード《光の護封剣》を発動! これで3ターンの間、キミは攻撃できない!! ターンエンドだ!!」
やがてアテムのフィールドに降り注いだ数多の光の剣が突き刺さり、その
これにて、3体の守備モンスターに加え、攻撃封じの魔法、そして2枚のセットカードの布陣を敷いた遊戯。
更にはサーチ効果を駆使し、手札の消費は最低限に抑え、二の矢の準備も抜かりはない。
「守りを固めたか、相棒――だが、その程度の壁じゃ俺の攻撃は防げないぜ!!」
それはアテムの言う様に、及第点の守りと言えよう。だが「及第点」では駄目だ。
「俺のターン、ドロー! 魔法カード《トライワイトゾーン》を発動!! 墓地に眠るレベル2以下の通常モンスターを3体蘇生する! 甦れ、封印されし者たち!!」
そうしてアテムのフィールドに呼び出されるのは、宙に浮かぶ鎖につながれた右腕。
《封印されし者の右腕》 守備表示
星1 闇属性 魔法使い族
攻200 守300
自立する鎖につながれた右足。
《封印されし者の右足》 守備表示
星1 闇属性 魔法使い族
攻200 守300
そして同じく立つ鎖でつながれた左足。
《封印されし者の左足》 守備表示
星1 闇属性 魔法使い族
攻200 守300
「エクゾディアパーツを!?」
「そして魔法カード《ルドラの魔導書》発動! 魔法使い族《封印されし者の右腕》を墓地に送って2枚ドロー! 装備魔法《ワンダー・ワンド》を発動! 《封印されし者の右足》に装備! 効果により墓地に送って2枚ドロー! 魔法カード《馬の骨の対価》発動! 通常モンスター《封印されし者の左足》を墓地に送り2枚ドロー!!」
獏良の声を余所に、アテムが連続で発動したカードによって一気に消えていったエクゾディアパーツたちが、アテムの手札を爆発的に増やす。
そして、それは同時に――
「一気に手札を増やした!」
「やっぱりアテムくんが先攻だったら、1ターンでエクゾディアが揃っていた……」
驚く本田を余所に御伽が零すように、アテムは1ターンで5枚のエクゾディアパーツを揃えることが可能であったことが伺える。
先攻後攻の選択の段階で既に首の皮一枚の事態が過ぎ去っていたのだ。
「本気なのね……アテム……」
「ふぅん、何を馬鹿なことを――まだこれからだ」
ゆえに杏子はアテムの全力の姿勢に迷うように呟くが、海馬から見れば、アテムの力はまだまだ序の口でしかない。
「2枚目の魔法カード《トライワイトゾーン》発動! 再び舞い戻れ、封印されし者たち!!」
それを示すように増加し手札から先程と同じ光景が繰り返される。
《封印されし者の右腕》右足》左足》 計3体 守備表示
星1 闇属性 魔法使い族
攻200 守300
「まだ手札を補充する気か!?」
「いや、違うぞい。これは贄!」
そしてアーサーの予想を短く断じた双六の声が意味することなど一つしかない。
「まさかッ!?」
「永続魔法《冥界の宝札》を発動し、エクゾディアパーツ3体を
そしてモクバの信じられないような表情を置き去りにしながら3種のエクゾディアパーツが天へと上り――
「現れよ! 天空の神!!」
地下神殿の天井から雲を割くように降り立つのは赤き長大なる龍。
「――『オシリスの天空竜』!!」
天空の神、『オシリスの天空竜』がアテムの背後で翼を広げ、長大な身体でとぐろを巻いた。
『オシリスの天空竜』 攻撃表示
星10 神属性 幻神獣族
攻 ? 守 ?
そんな三幻神の一角が放つ強大なプレッシャーに、モクバが小さく後退る。
「嘘……だろ……1ターン目で……神が!?」
「そしてアドバンス召喚に成功したことで、永続魔法《冥界の宝札》で2枚ドロー! 更に速攻魔法《魂のしもべ》を発動! 魔法カード《賢者の宝石》をデッキトップに! そしてチェーン3に速攻魔法《サモン・チェーン》を発動! これで俺はこのターン、3度の通常召喚が可能になる!」
だが、チェーンして連続で発動されたカードの効果の聞き逃せぬ単語に、此処に来て初めて海馬の瞳は大きく見開かれた。
「3度の召喚……まさか!?」
「さらに2枚目の永続魔法《冥界の宝札》を発動し、そして3枚目の魔法カード《トライワイトゾーン》発動! 三度来たれ、封印されし者たち!!」
そして再び並ぶ3種のエクゾディアパーツ――いや、「贄」と言うべきか。
《封印されし者の右腕》右足》左足》 計3体 守備表示
星1 闇属性 魔法使い族
攻200 守300
「3体のエクゾディアの力を
エクゾディアパーツが大地に沈むように消えた先から奔る亀裂より、地を揺らしながら現れるのは――
「来たれ、破壊の神!!」
剛腕を唸らせ、大地を踏みしめ立つ蒼き巨神。
「――『オベリスクの巨神兵』!!」
破壊の神、『オベリスクの巨神兵』が両拳を握りしめながら、雄叫びと共に現れ、空気を震わせる。
『オベリスクの巨神兵』 攻撃表示
星10 神属性 幻神獣族
攻4000 守4000
「アドバンス召喚の成功により、2枚の永続魔法《冥界の宝札》の効果で合計4枚ドロー!!」
こうして1ターンで2体の神を呼び出したアテムだが、補充した手札に手をかける様子を見るに、まだ終わる気はない。
「そして手札を1枚捨て、《THE トリッキー》を特殊召喚!!」
アテムの手札から小さな煙幕が弾けたと共に、「?」が描かれたマスクと、衣装に身を包んだ道化師がマントを使って優雅に一礼しながら現れ――
《THE トリッキー》 攻撃表示
星5 風属性 魔法使い族
攻2000 守1200
「さらに速攻魔法《トリッキーズ・マジック4》を発動! 《THE トリッキー》をリリースし、相棒! お前のフィールドのモンスターの数まで『トリッキートークン』を特殊召喚!!」
そこからマントでクルリと己を包み込んだ《THE トリッキー》の身体はマントの内側に消えていき、もう1回転したマントから3体の《THE トリッキー》が――『トリッキートークン』が先の焼き増しのようにマントを使って優雅に一礼した。
『トリッキートークン』×3 守備表示
星5 風属性 魔法使い族
攻2000 守1200
「此処で3度目の通常召喚だ!! 3体の『トリッキートークン』を
そして揃った3体の贄、『トリッキートークン』たちが3つの火柱となって立ち昇り――
「こんなことが……」
「降臨せよ、三幻神が最高位! 太陽神!」
天に巨大な炎を――いや、太陽を形成。そして太陽のコロナが収まると同時に黄金の球体が浮かび上がったと思えば――
「――『ラーの翼神竜』!!」
音を立てて展開した黄金の球体から、黄金の翼竜が『ラーの翼神竜』が翼を広げ、生誕のいななきを上げる。
『ラーの翼神竜』 攻撃表示
星10 神属性 幻神獣族
攻 ? 守 ?
「アドバンス召喚の成功により2枚の永続魔法《冥界の宝札》で4枚ドロー! そして『ラーの翼神竜』の攻・守は贄に捧げたモンスターのそれぞれの数値を合計したものとなる!!」
生命を育む太陽の光を持つ神たる『ラーの翼神竜』の威容がフィールドにたなびく中、遊戯は思わずデュエルディスクを盾のように顔の前に構えた。
『ラーの翼神竜』
攻 ? 守 ?
↓
攻6000 守3600
アテムの1ターン目にも拘わらず、3体の神が、三幻神が、フィールドに揃った。
それに加え、3体の贄という重い召喚条件を持つ三幻神を全て呼び出したにも拘わらず未だ潤沢なアテムの手札。
「神の前に小細工は通用しない! 魔法カード《光の護封剣》の守りは無意味!!」
アテムの宣言通り、神の凱旋を前に行く手を遮る魔法カード《光の護封剣》が、なんの壁にもならず、遊戯を守る三体のガジェットたちも神の
「行くぜ、相棒! 俺の全力を受けな!!」
今、三千年の錬磨を遂げ、おさめどころがない程となった
闘いの儀「王様、冥界に帰る気ある?(フィールドに揃った三幻神を見つつ)」