マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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アテム VS 遊戯 後編です。
此方も前編と同じく手札増強などのデュエル描写をカットしております。


前回のあらすじ
オシリスの天空竜「召雷弾、利用されてドジったぁ……!」

オベリスクの巨神兵「ソウルエナジーMAX、利用されてドジったぁ……!」

ラーの翼神竜「ライフ分離能力で攻撃力0を晒して、ドジったぁ……!」






第199話 最後の願い

 

 

 三幻神を遊戯に打ち破られようとも追撃を軽く躱し、己が最も信頼する魔術師の師弟を呼び出したアテムは、攻撃力5000オーバーが並ぶ遊戯の布陣を打ち破るべく1枚のカードを引き抜いた。

 

「行くぜ、相棒!! 魔術師の師弟が揃っている時! コイツを発動できる! 俺は速攻魔法《黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)》を発動!」

 

 高い攻撃力――力だけでは、己は捉えられぬと示すように魔術師の師弟が互いの杖を交錯。

 

「これにより、相棒のフィールドの全てのカードは破壊される!!」

 

 そしてみるみる内に杖の先に強大な魔力が集まって行き――

 

「受けろ、相棒! 《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》の結束の一撃!! 黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)!!」

 

 振り切られた杖から放たれた巨大な黒い魔力が、遊戯のフィールドに着弾した途端、黒い波動を周囲に奔らせ、

 

 《電磁石の戦士(エレクトロマグネット・ウォリアー・)α(アルファ)》を

 

 《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》を

 

 《カオス・ソルジャー》を一瞬の内に破壊していき、その余波は遊戯の頼みの綱である2枚のセットカードすらも呑み込んだ。

 

 

 

 攻撃力5000近いモンスターたちなど意に介さず、一瞬で盤面を覆したアテムの姿に、モクバが一歩後退り思わず零す。

 

「遊戯のモンスターが一瞬で……!」

 

「これでまたアテムくんが一気に有利になった!」

 

「いや、まだじゃ」

 

 そんな中、御伽が戦況を語るが、即座にそれは双六によって否定された。

 

 

 その双六の視線の先には、黒と金で彩られた雄々しい鎧の絵札の三騎士の頂点たる黒い長髪を持つ戦士が剣を手に、魔術師の師弟の前に立ちはだかった。

 

《アルカナ ナイトジョーカー》 攻撃表示

星9 光属性 戦士族

攻3800 守2500

 

 

「いつの間に遊戯君のフィールドに《アルカナ ナイトジョーカー》が!?」

 

「もう一人のボク――キミが破壊した罠カード《やぶ蛇》の効果でエクストラデッキからモンスター1体を、《アルカナ ナイトジョーカー》を呼ばせて貰ったよ!!」

 

 驚く獏良を余所に、遊戯は静かにアテムを見据えて語る。まだ終わる気はないと。

 

「そして破壊されたもう一方の罠カード《運命の発掘》の効果でボクは墓地の同名カード分3枚ドロー!」

 

「上手いぞい、遊戯! アテムの除去を逆手に取りおったか!!」

 

 そうして、手札3枚と攻撃力3800のモンスターを補充した孫の雄姿を喜ぶ双六。

 

「なら、魔法カード《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動し、墓地の《暗黒騎士ガイア》と《カース・オブ・ドラゴン》を除外し、次元融合!!」

 

 だが、デュエルキングはそんなことで怯みはしないとばかりに、馬のいななきと竜の咆哮が異次元より響き渡り――

 

「融合召喚!! 空より舞い降りろ、天を駆ける戦士! 《竜騎士ガイア》!!」

 

 空中から棘の生えた身体を持つ土色のドラゴン、《カース・オブ・ドラゴン》に馬から乗り換えた二双の突撃槍を持つ騎士が飛び乗り、宙に悠然と浮かぶ。

 

《竜騎士ガイア》 攻撃表示

星7 風属性 ドラゴン族

攻2600 守2100

 

「此処で魔法カード《黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)》を発動! 俺の《ブラック・マジシャン》の攻撃力はこのターン、互いのフィールド・墓地の《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力の合計分アップする!」

 

 そんな最中、《ブラック・マジシャン》と背中合わせに立った《ブラック・マジシャン・ガール》が互いに魔力を高めていけば――

 

「よって《ブラック・マジシャン》の攻撃力は――」

 

 《ブラック・マジシャン》の内の魔力は爆発的に高まり、その身体からは紫色のオーラが立ち昇る。

 

《ブラック・マジシャン》

攻2500 → 攻4500

 

「4500!? 遊戯の《アルカナ ナイトジョーカー》の攻撃力を超えた!?」

 

「そして永続魔法《螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)》を発動し、バトル!!」

 

 焦った様子の本田の声を余所に、遊戯のフィールドへ一番槍を務めるのはやはり、このカード。

 

「行け、《ブラック・マジシャン》!! 《ブラック・マジシャン・ガール》の力と共に、《アルカナ ナイトジョーカー》を打ち抜け!!」

 

『今こそ我らの力を活かす時だ、マナ!』

 

『勿論です、お師匠様! 王子に良いとこ見せちゃいましょう!』

 

 最も信頼を置く黒き魔術師が、弟子と共に杖の先に巨大な魔力を迸らせ――

 

『 『 ブラック・ツイン・バースト!! 』 』

 

 放たれた黒き暴虐の一撃に対し、《アルカナ ナイトジョーカー》が剣を振り下ろし切り裂かんとするが、留まることのない破壊の奔流にピシリと剣にヒビが入った瞬間に、拮抗は崩れ、絵札の頂点たる戦士は黒き魔力に呑まれて行った。

 

「くっ! 《アルカナ ナイトジョーカー》!!」

 

遊戯LP:2000 → 1300

 

「続いて《ブラック・マジシャン・ガール》でダイレクトアタック!!」

 

『次は私の攻撃ですよ!!』

 

 そして遊戯が息つく暇もなく、目の前で杖を振りかぶった《ブラック・マジシャン・ガール》の姿が遊戯の視界に入ったが――

 

「させないよ! ボクは墓地の《クリアクリボー》を除外して効果発動! デッキから1枚ドローし、それがモンスターカードなら、そのモンスターを特殊召喚し、バトルさせる!!」

 

 振りぬかれた杖は薄い紫の毛玉《クリアクリボー》を二つに割り、中から飛び出したのは、可愛らしい目口がついた赤いマシュマロなのかマカロンなのか判断に困る謎物質。

 

《マシュマカロン》 守備表示

星1 光属性 天使族

攻 200 守 200

 

「だが、《ブラック・マジシャン・ガール》の敵じゃないぜ! ブラック・バーニング!!」

 

 杖にへばりついた《マシュマカロン》を杖をぶん回して取ろうとする《ブラック・マジシャン・ガール》だったが、アテムの声に杖から炎を放ったことで、杖からベロリと落ちる《マシュマカロン》。

 

「破壊された《マシュマカロン》の効果発動! デッキ・手札・墓地から自身以外の《マシュマカロン》を2体まで特殊召喚する! 分裂しろ《マシュマカロン》!!」

 

 だが地面に落ちた《マシュマカロン》はドロドロに溶けた先から2つに分かれて再生。遊戯のフィールドで元気そうにピョンピョンと跳ねていた。

 

《マシュマカロン》×2 守備表示

星1 光属性 天使族

攻 200 守 200

 

「なら、《竜騎士ガイア》で追撃だ!」

 

 そうしてピョンピョン飛び跳ねる《マシュマカロン》を天から襲来する《竜騎士ガイア》の突撃槍が狙うが、モクバは拳を握りながら安堵の声を漏らす。

 

「よし! 遊戯の《マシュマカロン》は守備表示だぜい! このターンはしのげる!」

 

「いや、そうはいかんぞい、モクバ君。永続魔法《螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)》により《竜騎士ガイア》は守備力を超えた分だけ、ダメージを与えるんじゃ」

 

「なっ!? 200対2600なんて、殆どダイレクトアタックと変わらねぇじゃねぇか!?」

 

 だが、双六からの注釈に、慌てた様子でモクバが遊戯を見やれば――

 

「行け、《竜騎士ガイア》!! 螺旋槍殺(スパイラル・シェイバ)ァアァアァ!!」

 

「それは通さないよ! 墓地の《超電磁タートル》を除外して効果発動! バトルフェイズを強制終了させる!!」

 

 《竜騎士ガイア》の突撃槍が、亀ロボットこと《超電磁タートル》の磁力の力により、反発させられ弾かれた。

 

 

 やがてアテムがリバースカードをセットする最中、モンスター同士の攻防を見守っていた杏子が悲し気に呟く。

 

「《竜騎士ガイア》に《アルカナ ナイトジョーカー》……どちらも遊戯を支え、共に戦ってきたモンスターたち」

 

 今までは頼りになる仲間として共に戦ってきたモンスターが、今は互いに敵として立ちはだかる現実。

 

 それは闘いの儀にて、アテムと遊戯が闘う宿命を共に背負うようにも見える。

 

「ああ、アイツらだけじゃねぇ三幻神に立ち向かったヤツら(モンスターたち)だって、ピンチの度に2人の遊戯を救ってきたモンスターたちだ」

 

「それが今こうして敵味方で闘うことになるなんて……」

 

「2人が闘うことで本当に辛いのはモンスターたちなのかもしれねぇな」

 

 城之内の呟きに対し、沈痛な面持ちの杏子の言を引き継ぐように語った本田の言葉が、今の状況を端的に示しているようにも思えた。

 

 

 

 だが、そんなギャラリーの想いを余所に、ターンを終えたアテムの声が響く。

 

「我が最強のしもべ――《ブラック・マジシャン》を倒さない限り、お前に勝利はないぜ、相棒!」

 

「ボクのターン、ドロー!! まずボクは――」

 

 それに応えるようにカードを引いた遊戯は手札補充を済ませた後、1枚のカードを手に取って、己のフィールドを指さす。

 

「行くよ、もう一人のボク! ボクは2体の《マシュマカロン》をリリースし、《破壊竜ガンドラ》をアドバンス召喚!!」

 

 やがて2体の《マシュマカロン》が赤き輝きを放った後、その輝きの中から赤い球体が全身に埋め込まれた黒きドラゴンが翼を広げ、雄叫びを上げた。

 

《破壊竜ガンドラ》 攻撃表示

星8 闇属性 ドラゴン族

攻 0 守 0

 

「遊戯が、こんなおっかなさそうなカードを使うなんて……!」

 

「成程な、あのタイミングで《超電磁タートル》の効果を使ったのはコイツを呼び出す為か」

 

 それに対し、城之内が優しい遊戯らしからぬ《破壊竜ガンドラ》の出現に驚く最中、アテムは遊戯があえて《マシュマカロン》を破壊してから《超電磁タートル》を発動させた一手に感嘆の声を漏らす。

 

「《破壊竜ガンドラ》は召喚したターンしかフィールドに留まれないモンスターだけど――ボクのライフを半分払うことで、フィールド全てのカードを破壊し、除外することが出来る!」

 

遊戯LP:1300 → 650

 

 そしてアテムとの決別を示すように《破壊竜ガンドラ》の身体中の赤い球体が光線のような赤い光を放ち――

 

「デストロイ・ギガ・レイズ!!」

 

 その赤き破壊の光が互いのフィールドの全てのカードを打ち抜いた。

 

 これで互いのフィールドのカードは全て除外され、当然アテムのエースたる《ブラック・マジシャン》も仲間と共に異次元へと消える。

 

「罠カード《ブラック・イリュージョン》を発動!!」

 

 かに思えたが、アテムは遊戯の一歩先を行く。

 

「これにより、俺のフィールドの攻撃力2000以上の闇属性・魔法使い族は、このターン、バトルでは破壊されず、相手の効果も受けない!」

 

 魔術師の師弟を守るように宙に浮かぶ「BM」と書かれた盾が《破壊竜ガンドラ》の赤い破壊の光線を遮っていた。

 

 

 これにより、アテムのフィールドで除外されるのは、《竜騎士ガイア》と永続魔法《螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)》に加え、2枚の永続魔法《冥界の宝札》、そして罠カード《ブラック・イリュージョン》の計5枚のみ。

 

「くっ、ガンドラの攻撃力は、除外したカードの数×300上がる……!」

 

 一見すると多くのカードが除外されたようにも思えるが、永続魔法《冥界の宝札》などは役目を終え、魔法・罠ゾーンを圧迫していた現実を鑑みれば、アテムの益に働いたといっても過言ではない。

 

《破壊竜ガンドラ》

攻 0 → 攻1500

 

「……だとしても!! 魔法カード《融合派兵》発動! ボクのエクストラデッキの《デーモンの顕現》を公開し、その融合素材である《デーモンの召喚》を特殊召喚!!」

 

 《破壊竜ガンドラ》の除去が半端に終わった中、一矢報いらんと遊戯がデュエルディスクにカードを差し込めば、天から骨の翼を広げたむき出しの筋肉に骨を埋め込んだような悪魔がゆっくりと地上に降り立った。

 

《デーモンの召喚》 攻撃表示

星6 闇属性 悪魔族

攻2500 守1200

 

「バトル!! 《デーモンの召喚》で《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃!! 魔 降 雷!!」

 

 やがてその悪魔――《デーモンの召喚》の身体から迸った紫電が《ブラック・マジシャン・ガール》に放たれる。

 

「だが、罠カード《ブラック・イリュージョン》の効果により破壊はされないぜ」

 

「でもダメージは受けて貰うよ!!」

 

アテムLP:2500 → 2000

 

 しかし、その稲妻は魔術師の師弟の前に浮かぶ「BK」と書かれた盾が弾きアテムのライフを僅かばかり削るのみ。

 

「今のガンドラの攻撃力じゃ攻撃は出来ない。カードを3枚セットしてターン……エンド。ターンの終わりに《破壊竜ガンドラ》は墓地に……送られる」

 

 やがて《破壊竜ガンドラ》がその短い一生を終える中、未だアテムの想定を上回れない遊戯は小さく歯噛みしつつターンを終えた。

 

「なら、俺のターンだ! ドロー!!」

 

 だとしてもアテムは一切の手抜かりなくカードを引き、手札を整えた後に情けなど見せない攻勢に移る。

 

「俺は魔法カード《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスター――《ホーリー・エルフ》と《砦を守る翼竜》を墓地に送り、レベル8の儀式モンスターを儀式召喚!!」

 

 やがて大地に描かれた緑の魔法陣から同色の光が立ち昇り、空に暗雲をもたらしたと思えば空から黒き稲妻が落ち――

 

「混沌の力を今こそ示せ!《マジシャン・オブ・ブラックカオス》!!」

 

 魔法陣の只中から、拘束具のような法衣に身を包んだ、2本の角のような帽子を付けた黒髪の魔術師が、一歩前に歩み出て魔術師の師弟の列に並んだ。

 

《マジシャン・オブ・ブラックカオス》 攻撃表示

星8 闇属性 魔法使い族

攻2800 守2600

 

「バトル!! 《マジシャン・オブ・ブラックカオス》で《デーモンの召喚》を攻撃! 滅びの呪文! デス・アルテマ!!」

 

 そして3体の魔術師による一斉攻撃が遊戯に襲い掛かり、一番槍の《マジシャン・オブ・ブラックカオス》の杖から黒き討滅の一撃が、《デーモンの召喚》が放ったイカヅチごと当人を削り飛ばす。

 

「《デーモンの召喚》!!」

 

遊戯LP:650 → 350

 

「さぁ、これで相棒のフィールドに壁となるモンスターはいない! 《ブラック・マジシャン》!! ダイレクトアタックだ!!」

 

 そうして開けた遊戯のフィールドより、デュエリストを直接狙うように《ブラック・マジシャン》の杖が向けられ、黒い魔力がチャージされていくが――

 

「それは通さないよ! 罠カード《破壊剣の追憶》発動! ボクの手札の『破壊剣』カード《破壊剣士の伴竜》を捨て、デッキから『バスター・ブレイダー』モンスターを特殊召喚する!!」

 

 遊戯の手札から墓地へと飛び出した小さな白いドラゴンの(ヒナ)の愛らしい鳴き声に誘われ――

 

「頼んだよ! 竜破壊の剣士! 《バスター・ブレイダー》!! キミのフィールド・墓地のドラゴン族は1体! よって攻撃力は500ポイントアップ!!」

 

 ドラゴンの専門家こと、藍色の鎧とマスクで全身を覆った巨大な大剣を持つ竜狩りの戦士が遊戯を守るように《ブラック・マジシャン》の前に立ちはだかる。

 

 やがてアテムの墓地の《砦を守る翼竜》の気配を感じ取ったのか、その大剣が獲物を求めるように強く脈動した。

 

《バスター・ブレイダー》  攻撃表示

星7 地属性 戦士族

攻2600 守2300

攻3100

 

「よっしゃぁ! これでアテムのモンスターじゃ、《バスター・ブレイダー》を突破できねぇぜ!!」

 

「攻撃続行だ、《ブラック・マジシャン》!!」

 

「なに考えてんだ、アテムのヤツ! 攻撃力は負けてるんだぜい!?」

 

 力強い本田の声など意に介さない遊戯の指示に《ブラック・マジシャン》が杖を振りかぶる中、モクバが意図が読めないと声を漏らすが、他ならぬ遊戯にはアテムの真意が理解できた。

 

――いや、もう一人のボクには《ブラック・マジシャン》を援護する用意があるんだ。でも!

 

「――そうはさせないよ!! ボクはその攻撃宣言時、速攻魔法《破壊剣士融合》を発動!!」

 

 シンプルに《ブラック・マジシャン》の攻撃力を上げる、《バスター・ブレイダー》の攻撃力を下げる――そのどちらであっても、遊戯は対応する準備があった。

 

 ゆえに己が大剣を《ブラック・マジシャン》の杖と交錯するように放つ《バスター・ブレイダー》。

 

「《バスター・ブレイダー》を融合素材とするモンスターを融合召喚する!! ボクの《バスター・ブレイダー》とキミの《ブラック・マジシャン》を融合!!」

 

「読んでいたぜ、相棒! 俺は速攻魔法《黒魔術の秘儀》を発動!」

 

 だが、その遊戯の想定の上をアテムは行く。

 

「強化するカードじゃない!?」

 

「俺のフィールドの魔術師の師弟を融合する! 俺は《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》を融合!」

 

 《バスター・ブレイダー》の剣が《ブラック・マジシャン》の杖と交錯する前に、《ブラック・マジシャン・ガール》の杖と交錯し、互いの杖を通じて力が混ざり合うように一つとなっていく。

 

「融合召喚! 今こそ結束の力を見せろ! 《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!!」

 

 やがて空に浮かぶ渦へと飛び込んだ魔術師の師弟は、互いの法衣に魔力のラインを流し、より魔術師として洗練された姿へと昇華されたことで伸びた師弟の黄金の長髪がたなびく。

 

《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》 攻撃表示

星8 闇属性 魔法使い族

攻2800 守2300

 

 ゆえに《バスター・ブレイダー》の剣は空を切った。

 

「相棒、お前の4枚の手札の中に融合素材となれるカードがあれば速攻魔法《破壊剣士融合》の効果は適用されるが――」

 

「……っ! 今のボクの手札に《バスター・ブレイダー》と融合できるカードは……ない……!」

 

 その空を切った竜破壊の剣と交わるものもなく――

 

「なら、速攻魔法《破壊剣士融合》は不発に終わるぜ!」

 

「でも、ボクの《バスター・ブレイダー》の方が攻撃力は上!!」

 

「そいつはどうかな! 墓地の罠カード《ブレイクスルー・スキル》を除外し、効果発動!これで相棒の《バスター・ブレイダー》の効果をこのターン無効だ!」

 

 そうして無防備になった《バスター・ブレイダー》の足元に《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》が放った魔法陣から鎖が飛び出し、竜破壊の力を封じて行く。

 

《バスター・ブレイダー》

攻3100 → 攻2600

 

――くっ、ボクのリバースカードを使()()()()()()

 

「《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の攻撃!! ブラック・バースト・マジック!!」

 

 そんな動きを封じられた《バスター・ブレイダー》に向けられた師弟の二対の杖から、赤と黒の魔力が放たれ、竜破壊の剣士が消し飛ばされた際の余波が遊戯を苛む。

 

遊戯LP:350 → 150

 

「うぅわぁっ!?」

 

「俺はカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 やがて《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果も活用し、迎撃のセットカードを幾重にも揃えたアテム。

 

 

 厚いアテムとの実力差に本田と御伽が後ろ向きな声を漏らすが――

 

「《バスター・ブレイダー》でも駄目なのか……!」

 

「遊戯くんも必死に食らいついているけど……もう」

 

「まだだ! 負けんな、遊戯!」

 

 城之内の声援に背を押され、遊戯はデッキからカードを引き、そこから補充した手札の内容に暫しの逡巡を見せた後、手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

「ボクは魔法カード《レベル調整》を発動! キミが2枚ドローする代わりにボクの墓地の『LV(レベル)』を持つモンスター1体を、召喚条件を無視して復活させる!!」

 

 遊戯の手元から転げ落ちたサイコロが「 5 」の数字で止まれば、そのサイコロが砕けた先から――

 

「出番だよ! 《サイレント・ソードマン LV(レベル)5(ファイブ)》!!」

 

 白い縁のある紺色のコートに身を包む、身の丈を優に超える大剣を肩に担いだ剣士が現れた。

 

《サイレント・ソードマン LV(レベル)5(ファイブ)》 攻撃表示

星5 光属性 戦士族

攻2300 守1000

 

「そして魔法カード《レベルアップ!》を発動! ボクのフィールドの『LV(レベル)』を持つモンスター1体を墓地に送り、そこに記されたモンスターを召喚条件を無視してデッキから特殊召喚!」

 

 やがてその剣士が大剣を天に掲げたと思えば、空に向けて円を描くように大剣を動かし、そこから落ちた光がその身体を包み込む。

 

「サイレント・ソードマン! レベルアップ!! 《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》!!」

 

 そうして剣士は一回り大きくなった体格で、紺のコートを揺らしながら、一段とサイズを増した大剣をアテムへと向けた。

 

《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》 攻撃表示

星7 光属性 戦士族

攻2800 守1000

 

「此処で手札から《サイレント・マジシャン LV(レベル)4(フォー)》を通常召喚!」

 

 白い帽子を目元まで深く被った紺のインナーに白い法衣を纏った魔術師の少女がその体躯相応に小さい杖を手に、同じ「サイレント――沈黙」の名を持つ剣士の隣に立つ。

 

《サイレント・マジシャン LV(レベル)4(フォー)》 攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1000 守1000

 

「そして魔法使い族である《サイレント・マジシャン LV(レベル)4(フォー)》をリリース! 手札から舞い降りろ! 《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》!!」

 

 しかしすぐさまその身体を光が包み、光が晴れた先からは大きく成長した一人の魔術師の女性が凛と佇んだ。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》 攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1000 守1000

 

「その攻撃力は手札の数×500アップ! ボクの手札は5枚! よって――」

 

 元と変わらぬように見えた魔力も、遊戯の手札が力となり、その数値はアテムのフィールドの全ての魔術師を凌ぐものである。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻1000 → 攻3500

 

「バトルだ!! サイレント・マジシャンで《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を攻撃!! サイレント・バーニング!!」

 

 ゆえに、毎ターンアテムに手札及びセットカードを補充し続ける魔術師の師弟へと杖から光弾を放った《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》。

 

 だが、その一撃は師弟を庇うように前に出た《マジシャン・オブ・ブラックカオス》が突き出した腕から生じた魔法の障壁が受け止めた。

 

「なっ!? 《マジシャン・オブ・ブラックカオス》が!?」

 

「悪いが、相棒――俺は墓地の罠カード《仁王立ち》を除外することで、このターン俺が選択したモンスターである《マジシャン・オブ・ブラックカオス》にしか攻撃はできない」

 

 しかし、相手の光弾の威力を打ち消しきれなかった《マジシャン・オブ・ブラックカオス》の障壁が砕けたと同時にその身は貫かれ、やがて光の粒子となって消えていった。

 

アテムLP:2000 → 1300

 

 

 そうして遊戯の攻撃を最低限の損失で抑えたアテム。最低でも《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を破壊しておきたかった遊戯からすれば手痛い計算違いだ。

 

「………………ボクはカードを3枚セットして、ターンエンドだ」

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻3500 → 攻2000

 

 それゆえか、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の攻撃力を下げるリスクを負った遊戯へギャラリーのモクバは焦った声を漏らす。

 

「あぁ!? 3枚も伏せちゃサイレント・マジシャンの攻撃力が下がっちまうぜい!? あれじゃぁアテムの攻撃を受けちまったら……」

 

「ふぅん、ラストアタックと言ったところか――ヤツのデッキに《ブラック・マジシャン》を倒せる力はこれを逃せば、もはやない」

 

――最後の綱である前のターンから温存された物を含め、合計5枚のセットカード……だが、遊戯(アテム)とて《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果も活用し、4枚ものセットカードを有している。

 

 そんな中、現状を誰よりも正確に把握する海馬は、両者の盤面に加え、デッキ枚数を見やる。

 

 その互いに大きく目減りしたデッキには、既に大きく状況を覆すカードは殆どない。

 

――此処で勝負が動く。

 

 ゆえに、この盤面を制した者が、勝負の流れを一気に引き寄せることは明白であった。

 

 

 そうしてアテムはその流れを引き寄せるようにカードを引き、すぐさまデュエルディスクに叩きつけた。

 

「俺のターン、ドロー!! 《マジシャンズ・ロッド》を召喚! そして召喚時に効果発動! デッキから《ブラック・マジシャン》のカード名が記された魔法・罠カード1枚を手札に加える! 俺は永続魔法《黒の魔導陣》を手札に!」

 

 そして霧の如き身体を揺らしながら浮かぶのは、何処か《ブラック・マジシャン》の姿に似た霊体のような存在が、唯一、実体として存在する杖をかざしアテムのデッキから光を手札に届ける。

 

《マジシャンズ・ロッド》 攻撃表示

星3 闇属性 魔法使い族

攻1600 守 100

 

「そして永続魔法《黒の魔導陣》を発動!」

 

 やがて直ぐさまその光は、黒き魔法陣となってアテムのフィールドを駆け巡るが、その光は《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》の大剣の一振りが掻き消した。

 

「無駄だよ、もう一人のボク! 《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》がいる限り、フィールドの魔法カードの効果は全て無効化される!!」

 

「だが発動は無効化されず、永続魔法《黒の魔導陣》はフィールドに残るぜ!」

 

 しかし魔法陣そのものが消えた訳ではない。

 

「くっ…………だったら! 《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の効果! 1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にし、破壊する!!」

 

 かと思われれば《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》が地面を杖でコツン小突けばガラスが砕ける音と共に、魔法陣は砕け散った。

 

 そんな無効化される永続魔法を、1ターンに1度に限定される効果を使ってまで破壊した遊戯の意図を読み取ったアテムは挑発的な笑みと共に攻めに動く。

 

「成程な――なら行くぜ、相棒!! バトルだ!! ブラック・マジシャンズで、サイレント・マジシャンを攻撃!!」

 

 そうして2000の攻撃力を晒す《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》へ魔術師の師弟が息を合わせて杖を向けるが――

 

「罠カード《弩弓(どきゅう)部隊》を発動!! ボクのフィールドのモンスター1体を――《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》をリリースし、キミのフィールドのカード1枚! ブラック・マジシャンズを破壊する!!」

 

 いつの間にやら、その側面から《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》が大剣を振り被っており、今まさに解き放たれんとしている沈黙の剣に師弟が出来ることは唯一つ。

 

――やはり自ら魔法封じの効果を手放したか!

 

「だが、その効果に対して《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果発動! 俺はデッキからカードを1枚ドローし、魔法・罠ならフィールドにセットできる! カードをセット!」

 

 主であるアテムに僅かばかりの援護を行うこと。

 

 やがて振り切られた《サイレント・ソードマン LV(レベル)7(セブン)》の大剣と、強引に照準を合わせ直した《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の魔力弾が互いに着弾し、両者は相打ちの形を取った。

 

「そして破壊された《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果により、墓地より、舞い戻れ! 魔術師の師弟よ!!」

 

 だが、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》としての師弟の装備が身代わりになるかのように砕け散って行く。

 

 やがてアテムのフィールドに佇むのは相棒たる黒き魔術師と、

 

《ブラック・マジシャン》 攻撃表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 その弟子たる水色の法衣を纏った少女が並んだ。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

攻2300

 

 そうしてアテムが最も信を置く魔術師たちの再演に対し、遊戯は「此処だ」とばかりに2枚目のセットカードを発動させた。

 

「この時を待っていたよ! 罠カード《ストレートフラッシュ》!! キミの魔法・罠ゾーンが全て埋まっている時! その魔法・罠ゾーンのカードを全て破壊する!!」

 

 そうして一陣の風が斬撃のように横一文字に吹き荒れ、アテムのフィールドにズラリと並んだセットカードのことごとくを破壊していく。

 

「アテムくんのセットカードが剥がされた!」

 

「だが! セットされた永続罠《ミラーフォース・ランチャー》が相手の効果で破壊された時、墓地のこのカードと、デッキ・墓地から罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》をセットする!!」

 

 しかし、ギャラリーの御伽の声に反して、アテムがフィールドに手をかざした部分に、2枚のセットカードが浮かび上がり、その守りを決して途切れされない。

 

「そして《ブラック・マジシャン》でサイレント・マジシャンを攻撃!!」

 

 そう、守りが途切れぬゆえに果敢の攻勢に出られるのだと、黒き魔術師が、白き魔術師へと黒き魔力が迸る杖を向け、その後に弟子も続くが――

 

「させないよ――永続罠《センサー万別》発動! このカードが存在する限り、互いのフィールドに同じ種族は1体しか存在できなくなる!! 2体以上存在する場合は、プレイヤーが墓地に()()()()()()()()()()!!」

 

 そのタイミングで赤い蛍光ランプの光がアテムのフィールドを照らし出す。

 

 それに対し、動きを止めた《ブラック・マジシャン》を余所に海馬は驚きの声を漏らす。

 

「これは――神すら抗えぬ、プレイヤーへ墓地送りを強制する効果!」

 

「神を攻略する為のカードをこのタイミングで!?」

 

 続いた獏良の声が示すように、3体の神が並ぶときに発動していれば、無条件で2体の神を除去できるカードだった――神出現の際に引けなかったカードが此処にきて活きるとは何と皮肉なことか。

 

 

 そうして《ブラック・マジシャン》、《ブラック・マジシャン・ガール》、《マジシャンズ・ロッド》の3体とも「魔法使い族」である為、どれか1体以外は墓地に送らねばならぬアテムだが、答えは1つしかなかった。

 

「なら、俺は《ブラック・マジシャン》を残し、攻撃続行!!」

 

 サポートカードを多く擁する《ブラック・マジシャン》が杖に蓄積されていた黒い魔力の球体を放った。

 

 

――今だ!!

 

「これがボクのラストアタックだ!! 速攻魔法《サイレント・バーニング》!!」

 

 だが、対する《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》が迎撃にと杖に灯る小さな白き輝きが――

 

「バトルフェイズにボクの手札がキミよりも多い場合、お互いは手札が6枚になるようにドローする!!」

 

 アテムの1枚の手札と、遊戯の2枚の手札が、それぞれ6枚に増えると同時に――

 

「そしてボクの手札が増えたことで、サイレント・マジシャンはパワーアップ!!」

 

 小さな白き光は、巨大な白き力の奔流となって、《ブラック・マジシャン》へ向けて放たれた。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻2000 → 攻4000

 

 《ブラック・マジシャン》の放った一撃をみるみる内に呑み込み突き進む白き一撃が、アテムへと迫っていくが――

 

「1500のダメージを受けて、アテムくんの1300のライフは!」

 

「だが、詰めが甘いぜ、相棒! 俺は速攻魔法《バーニングマジック》に対し、速攻魔法《黒魔導強化(マジック・エクスパンド)》を発動していた!」

 

 《ブラック・マジシャン》の隣で、墓地へ送られたゆえか半透明に映る《ブラック・マジシャン・ガール》が援護するように杖を構えていた。

 

「これにより、《ブラック・マジシャン》の攻撃力は1000ポイントアップ!!」

 

『お師匠様! 援護します!』

 

『ああ!』

 

 やがて弟子と共に再び魔力を振り絞って威力を上乗せした黒き一撃が、白き奔流を僅かに減衰させる。

 

《ブラック・マジシャン》

攻2500 → 攻3500

 

アテムLP:1300 → 800

 

 そんな最後の願いを込めた迎撃により、《ブラック・マジシャン》が倒れた後も、アテムのライフは僅かばかり残った。

 

 

「防がれた!」

 

「じゃがアテムは《ブラック・マジシャン》たちを失ったぞい! フィールドにサイレント・マジシャンを残す遊戯がやや有利じゃ!」

 

 そしてホプキンス教授と双六の声を余所にアテムは6枚に増えた手札を視界に入れ、静かに語り始める。

 

「相棒――お前の逆転のカード、速攻魔法《サイレント・バーニング》は俺に更なる逆転……このデュエルに決着をつけるべきカードを導いてくれたぜ」

 

 最も信頼する《ブラック・マジシャン》を失ったアテムだが、魔術師の師弟が残した僅かな猶予がアテムに最後の一手を授けていた。

 

「俺はバトルを終了し、魔法カード《ブーギートラップ》を発動! 手札を2枚捨て、自分の墓地の罠カードを1枚、自分フィールドにセットする――この効果でセットしたカードはこのターンでも発動が可能だ」

 

 やがてフィールドにセットされた正体不明の罠カードの中身が、アテムの最後の一手が、すぐさま明かされる。

 

「俺の墓地に5体以上モンスターがいるときコイツが発動できるぜ! 罠カード《補充要員》を発動! 俺の墓地に存在する効果モンスター以外の攻撃力1500以下のモンスターを3体まで手札に加える!」

 

 それは唯の墓地のカードを回収カード。だが、回収されるのは――

 

「俺が手札に加えるのは、この3枚!!」

 

 《封印されし者の右腕》・《封印されし者の右足》・《封印されし者の左足》の3枚。手札補充などでは断じてない。ゆえに海馬の瞳は驚愕で大きく見開かれる。

 

「まさか!」

 

「これが俺のラストアタックだ! 俺は魔法カード《死者転生》を発動! 手札を1枚墓地に送り、墓地のモンスター1体を手札に加える! 俺が手札に加えるのは――」

 

 そして遊戯の合計4枚となった手札に、最後の1枚が加えられ――

 

 

「――《封印されしエクゾディア》!!」

 

 

 此処に(いにしえ)の魔神の封印がひも解かれる。

 

 

「此処でエクゾディアが出てくるだと!?」

 

「今、此処に! 5つの封が解かれる!!」

 

 拳を握る城之内の興奮するような声を余所に、アテムの宣言の元、彼の背後にて空間が歪み、

 

 

「来たれ! 召喚神!!!」

 

 

 やがて己を封じる鎖を引き千切りながら、土色の巨人の如き神がアテムの背後に悠然と現れた。

 

 

「――エクゾディア!!」

 

 

 そして両の手に怒りの業火が迸る中、アテムは遊戯へと視線を向ける。

 

 

――相棒……俺の勝ちだ

 

 

 これにて、闘いの儀は完了され、三千年に渡る長き因縁に終止符を打つ。

 

 

 

――分かっていたよ、もう一人のボク……

 

 

 そして、それは他ならぬ遊戯も理屈ではなく心で理解していた。

 

 

――ボクがキミならやはり神を呼んだ……

 

 

 アテムの全てを。

 

「ボクは今、最後のリバースカードの封印を解く!」

 

 やがて、遊戯のフィールドに最後に遺された1枚のセットカードが発動され――

 

 

「罠カード《ファイナル・ギアス》!!」

 

 

「ファイナル……ギアス……!?」

 

「元々のレベルが7以上のモンスターが……互いのフィールドから墓地に送られたターンに発動……できる」

 

 アテムの声に、遊戯は零れ落ちそうになる涙を必死にこらえながら語る。

 

「互いの墓地のカードを全て除外し、除外した中で最もレベルが高い魔法使い族モンスターを僕のフィールドに特殊召喚する……けど、《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》は……自身の効果以外じゃ……特殊召喚できない……」

 

 

 

「……だが、対象を失った俺の《死者転生》は不発に終わる」

 

 そして周囲に次元を歪ませるかの如き突風が吹き荒れる中、アテムは今までの闘争心溢れる表情を崩し、小さく優し気な笑みを浮かべた。

 

 

 やがてアテムの背後のエクゾディアが煙のように消えていく中、杏子、城之内、本田がポツリと零す。

 

「エクゾディアが……消滅していくわ……」

 

「遊戯だって墓地のカードはアドバンテージになっていたってのに……」

 

「それを自分から封印しちまうようなカードを……」

 

 そんなアテムと遊戯に最も近しい友たちへ向け、ホプキンス教授は静かに私見を述べた。

 

「これは遊戯くんなりのメッセージなのかもしれないね。『死者の魂が現世に留まってはならない』――そんな想いを込めた冥界へと旅立つファラオへの魂の引導……」

 

「別れの決意を込めた切り札だったんじゃな……」

 

 どこか悲し気な双六が追従するように、遊戯はこの別れを覚悟していたのだと。

 

 

――相棒は俺の切り札を読んでいた……

 

 

 そしてそんなギャラリーの考察は、アテムも理解していた。

 

 

――俺を……

 

 

 そう、アテムの後を追いかけていた遊戯はもういない。

 

 

――超えたんだ……

 

 

 今の遊戯はアテムの手を離れ、一人で立って歩み始めたのだと。

 

 

 

 

 そうして決定的な別れを確信したギャラリーは現実を明確化するように零す。

 

「アテムくんのフィールドに壁となるモンスターはいない……!」

 

「手札には、もうエクゾディアパーツしか残ってねぇ……」

 

 御伽と城之内が語るように、既に通常召喚もし終えた以上、アテムに出来るのはターンを終えるだけ。

 

「でもアテムには罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》が残ってるわ!」

 

「無駄じゃ、《沈黙の魔術師‐サイレント・マジシャン》が相手の効果で破壊された時、デッキより、『サイレント・マジシャン』モンスターを呼ぶことが出来るぞい」

 

「つまり、どちらにせよサイレント・マジシャンの直接攻撃で勝負は決まる……」

 

 杏子の一縷の望みをかけたような声も、双六とホプキンス教授の解説に掻き消される。

 

 

「さぁ、来い! 相棒!!」

 

「サイレント・マジシャンで……ダイレクトアタック!!」

 

 そしてアテムの声に、カードをドローした遊戯が《沈黙の魔術師‐サイレント・マジシャン》を攻撃させ、

 

 

 罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》によって破壊されるが、光の先から《沈黙の魔術師‐サイレント・マジシャン》と瓜二つな《サイレント・マジシャン LV(レベル)8(エイト)》が現れ――

 

 

《サイレント・マジシャン LV(レベル)8(エイト)》 攻撃表示

星8 光属性 魔法使い族

攻3500 守1000

 

 

 その杖から、アテムへと終局を誘う光が、

 

 

「俺の負けだ」

 

 

 別れを告げる白き光がおくられた。

 

 

「――相棒」

 

 

 

 アテムLP:800 → 0

 

 

 

 

 

 

 






次回、さよなら は 言わない



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