マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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決着






第200話 さよなら は 言わない

 

 

 遊戯の勝利で終わった闘いの儀――だが、涙を流しながら膝をつく遊戯と、両の足でしっかりと立つアテムの姿を見比べれば、多くが逆の印象を受けることだろう。

 

「立て。勝者が跪いてどうするんだ? 俺がお前なら涙は見せないぜ」

 

 そんな遊戯を見かねて、歩み寄って肩に手を置くアテムの声に遊戯は涙を堪えようとしながら思いの丈を零していく。

 

「ボ、ボクは弱虫だから……ボクにとってキミはずっと目標だった……キミみたいに強くなりたくて……ずっと……」

 

「お前は弱虫なんかじゃない。ずっと誰にも負けない強さを持っていたじゃないか。『やさしさ』って強さを」

 

 しかし、そんな遊戯の言葉を膝立ちで目線を合わせたアテムが否定した。

 

「俺はお前から教わったんだ、相棒」

 

 アテムは多くのものを遊戯から貰っていたのだと。

 

「もう一人のボク……」

 

「もう俺はもう一人のお前じゃない。そしてお前は誰でもないお前自身! 武藤 遊戯と言う名の、この世でたった一つの存在なんだ!」

 

「うん!」

 

 やがて立ち上がり、アテムが差し出す手を取った遊戯が涙を拭って立ち上がる中、壁画に描かれていたウジャトの瞳が輝きを放ち始めた。

 

「扉の目が光ってるぜい……!?」

 

「闘いの儀によってファラオの魂の真実を――――いや、別れの時が来たようだね」

 

 モクバの声に、説明を入れるホプキンス教授がアテムへ視線を向け、この闘いの儀の本懐を遂げる最後の行程を示す。

 

「ウジャト眼に王の名を!」

 

「我が名は――」

 

 そしてウジャドの瞳の前に立った遊戯が閉じた瞳の裏で今までの日々に想いを馳せた数瞬後――

 

「アテム!!」

 

 見開いたアテムの瞳と共に宣言された王の名が、ウジャトの瞳が描かれた冥界の門を開き、王の魂をその先の光へと誘うのだ。

 

 

 やがて歩を進めようとしたアテムの背に、思わずと言った具合で駆けつけた本田が叫ぶ。

 

「遊戯! ホントに行っちまうのかよ! あの世になんて行かなくていいんじゃねぇかな――っていうか、行くな!!」

 

 零れる涙を掌で強引に抑えながら、引き留める本田。「あの世に行かなくていい」なんてことはないなど、本田とて理解している。だが、理屈と感情は別だった。

 

 そうした想いに追従するように杏子も別れから目を逸らすように瞑った瞳で涙と言葉を零す。

 

「アテム……その光の向こうに貴方にとって帰るべき場所がある。それは分かってる……分かってるつもり――でも! その光は私たちにとって貴方との別れの境界線でしかないわ!!」

 

 

 幾ら「ファラオを冥界に送る儀式」などと必要性を説かれても、杏子からすれば「仲間との別れの儀式」でしかない。

 

 

 冥界の門も、そこから零れる光も、全てが手招きする死神の鎌にしか思えない。

 

 

 

「違ぇ!!」

 

 

 しかし城之内の叫びがそんな二人の発言を吹き飛ばした。

 

「……城之内?」

 

「……城之内くん?」

 

 杏子と、アテムの戸惑う声を余所に、城之内は拳を握りながら語る――いや、示す。

 

「俺に難しいことは分かんねぇけど、『冥界』ってのは『死んだ奴がいく場所』ってことだろ!!」

 

 城之内の頭はお世辞にもよくない。

 

 ホプキンス教授が「闘いの儀」に関して嚙み砕いて説明してくれたが、半分も伝わっていないだろう――だが、そんな城之内だからこそ細かな理屈を排した結論に至った。

 

「だからさ!! 俺が高校出て、プロになって! 山ほどデュエルして! んで、ヨボヨボのじいさんになって、笑って大往生した時! また! また――」

 

 牛尾は言った「いつかは絶対に別れは来る」と。

 

 つまり、いつか城之内も「この世と別れる時がくる(肉体的な死を迎える)」のだ。

 

 そう、城之内もいつかは――

 

 

「――会えるよな!!」

 

 

 冥界へと還る(アテムの元に行く)のだ。

 

「だからよ! そんときの俺は竜崎を倒して! キースも倒して! スゲェデュエリストになってるだろうからよ!!」

 

 ゆえにこれが今生の別れなどでは断じてないと城之内は叫ぶ。

 

 精一杯生きた先に、自分たちは――

 

「そんときは、俺と……俺とデュエルしようぜ、アテム――いいや、遊戯!!」

 

 再会するのだと。

 

「城之内くん……」

 

 涙を堪えながら届けられた城之内の想いにアテムが小さく友の名を呟く中、本田も顔を上げて続く。

 

「城之内の言う通りだ! 俺も……なんか! なんか分かんねぇけどスゲェことするから! 楽しみに……楽しみにしてくれよな、遊戯ッ!」

 

「本田くん……」

 

 とはいえ、今後の人生こと進路が「家業を継ぐ」以外なにもない本田の未来予想図は漠然としていたが、伝えたいことはアテムにも分かった。

 

 これは「別れ」ではなく、「再会」の約束。

 

「遊戯! 私もアメリカでダンサーになって……夢を……夢を叶えたら……」

 

 やがて杏子も、城之内の自論に背を押され、思いの丈を解き放つ。

 

「あの時、伝えられなかった……とても大事なことを……伝えたいから……」

 

 それは、闘いの儀の前夜に伝えられなかった秘めたる想い。

 

「――待ってて、遊戯!」

 

「ああ、待ってるぜ、杏子」

 

 

 そして最後に、遊戯が涙が零れるままに、己が願う未来を語る。

 

「ボクも……ゲームデザイナーになって……沢山ゲームを作るよ……! だから……だから、またみんなで……」

 

「ありがとう、相棒」

 

 

 やがて仲間の想いを胸に、冥界の扉へと歩を進めるアテム。

 

「決して忘れないよ、キミとの約束!」

 

 だが、その背へ遊戯の決意の言葉が届いた。

 

 

 人は、死へと歩み続ける存在である。

 

 そうした恐怖すべき目に見えた別れに対し、目には見えない想いで再会の約束を誓い恐怖を打ち祓った一同。

 

 見えるんだけど、見えないもの――彼らの心は次元が隔てようともピースの輪で繋がっているのだ。

 

 

 そんな仲間からのメッセージに、アテムは右手を広げた後、親指を立てる。

 

 それに応えるように遊戯たちも親指を立てて見送る中、冥界の扉の先に輝く光の中で出迎えた神官たちの元へ旅立つアテム。

 

 

 やがて役目を終えたように冥界の扉は音を立てて閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、冥界の扉が閉じた矢先に、地下神殿全体が揺れ動く。そう、これは――

 

「地震……!?」

 

「みんな! 早く脱出を! 役目を終えたこの遺跡は崩れるんだ!!」

 

「大丈夫じゃ! 落ち着いて走れば十分に間に合うぞい!!」

 

 ホプキンス教授と双六が示すように、お約束とばかりに自壊し始める地下神殿。

 

「落ち着けるか、こんなもん!!」

 

 最後の最後は、締まらぬ城之内の焦った声と共に、地下神殿の外へと一同は走り出した。

 

 

 

 

 やがて思ったよりも余裕をもって脱出した一同。

 

「なんもかも瓦礫の底かよ……」

 

 しかし外で待機していた牛尾が零したように、千年アイテムにまつわる全てが瓦礫の中に埋まり、もう二度と冥界の扉が開かれることはないことは明白。

 

「遊戯」

 

「城之内くん?」

 

「帰ろ……いや、進もうぜ」

 

 そんな中、暫し地下神殿へと視線を向けていた遊戯の肩に手を置いた城之内は、ニッと笑みを浮かべて親指を立てつつ告げる。

 

「スゲェ進みまくって! アイツが腰抜かす程に土産話を山ほど用意してやろうぜ!!」

 

「……うん!」

 

 こうして、特別なファラオの物語は終わりを告げる。

 

 

 だが、これは同時に始まりでもあった。

 

 

 

 

 特別なファラオの物語ではない、誰もが持つ己が(ロード)を進むそれぞれの物語の始まり。

 

 

 

 そう、「武藤 遊戯」の物語は始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊界にて、昏き闇が広がる只中、黒き装甲を持つ数多の二足の異形たちが、それぞれ様々な昆虫に似た体躯を震わせ、大地に立つ。

 

 彼らは「インヴェルズ」――(いにしえ)の時代、世界の破壊と破滅に満ちた混沌なる世界として支配するべく戦乱を開いた「ヴェルズ」によって生まれた邪なる精霊。

 

 

 その(いにしえ)の戦乱は、星の騎士団「セイクリッド」たちと、彼らが生み出した自立型機動兵器「ヴァイロン」によって「インヴェルズ」たちが敗北し、深淵なる地へ封印された。

 

 

 だが、彼らインヴェルズは死してなどいない。

 

 精霊界に蔓延る戦乱の火種と、なんかやたらと邪悪な邪念を迸らせるなんかによって、この時、封印から解き放たれたのだ。

 

 

 復讐の刻が来たれり。

 

 

 嘗て敗れた相手であるセイクリッド並びにヴァイロンたちを喰らう為の力を蓄えるべく、彼らは動き出す。

 

 

 そう、長きに渡る封印から、彼らは飢えていた。

 

 

 そんな最中、カミキリムシの特徴を色濃く残す巨大なインヴェルズ――《インヴェルズ・ホーン》が狂ったように暴れ出す。

 

「!イナライ !イナライ !イナライウモ !ンネャジ !ンネャジ」

 

「遠慮せずにどんどん食べて下さいねー」

 

 そこでは異音染みた声を漏らす昆虫人と言うべき身体の丁度口元部分を、神崎に押さえられて地面に組み伏せられる《インヴェルズ・ホーン》。

 

 そして神崎の掌にある緑色の石から黒いヘドロっぽいなにかが際限なく湧き出ていた。

 

――いやー、 彼 ら (ヴェルズとインヴェルズ)は人の邪念が好物らしいから、オレイカルコスの神が嫌悪する人間の邪念を処理できて助かるー

 

 その黒いヘドロの正体は神崎の胸中が示すように、「人の邪念」――オレイカルコスの神が、常に晒される人の暗き部分。

 

 そんな具合でインヴェルズたちの好物?である邪念が溢れんばかりに注入され、胃袋が破れるんじゃないかと思うくらいに膨れる《インヴェルズ・ホーン》の腹を見るに、彼らもご飯を沢山食べれて幸せなことだろう。

 

 なにせ、大量の好物?を得られ、喜びが隠せないのか、必死さすら見える様子で狂喜乱舞な具合に《インヴェルズ・ホーン》は暴れているのだから――とはいえ、押さえつける神崎の腕はビクともしないが。

 

 

 そう、彼らは飢えてい「た」――過去形である。

 

「!エベヤ」

 

「!エベヤ」

 

 そしてその周囲にて、身体を震わせながら右往左往するインヴェルズたち――きっと食事の順番が待ちきれずソワソワしているのだろう。

 

「!ロゲニ」

 

「!ルテレマコカ !ダリム」

 

「――ケスタ !ッマシ !セワコ」

 

 やがて幾ら騒いでも外の迷惑にならないように張られた黒い壁をガンガン叩きだすインヴェルズたち――の1体が影の腕に引き寄せられ、邪念のフルコースへ招待される。

 

「!ロレクカ ニカコド」

 

「!ニコド」

 

「!コソア」

 

 やがてワサワサと動いていた小柄なインヴェルズたちが、指さす先には――

 

 先程、暴食の限りを尽くしていた《インヴェルズ・ホーン》と一緒に横たわる巨大な体躯を持つ《インヴェルズ・グレズ》のヘラクレスオオカブトのような身体があった。

 

 その《インヴェルズ・グレズ》も満腹さを示す膨れた腹でグッタリと横たわり、死体と見まがうようにグッスリ眠った様子が見える。幸せそうで何よりだ。

 

 その先に腰掛けたインヴェルズたち――「かくれんぼ」だろうか?

 

「!タレラメコジト」

 

 だが、途端に寝返りを打ったのか、姿勢が変わった《インヴェルズ・グレズ》の巨体に挟まれた小柄なインヴェルズ。

 

「――ケスタ」

 

 を助けるように引き寄せる黒い影の腕。仲間に手を伸ばすインヴェルズだが――

 

「!セナハ」「!ナルヨ」「!ナルク」

 

 きっと先に美食を味わうゆえか、羨ましそうな視線を向ける仲間に見送られ、インヴェルズがまた一体、邪念のフルコースを食していった。

 

 やがて、そんな同胞たちを見て、多分、羨ましさに駆られたインヴェルズたちが、昆虫の特徴を色濃く持つ身体ゆえの棘や爪を剥き出しにし、闘争本能を昂らせるように叫ぶ。

 

「!セロコ ヲツヤ」

 

「!バレナクナイ ガツイア!」

 

 彼らの間に奔る剣呑な雰囲気を鑑みれば――きっと、順番待ちで揉めているのだろう。

 

「!タケマ スレグ」

 

「!イナテカ レオ」

 

 だが、序列を重んじるインヴェルズたちが、彼らの中で最もレベルの高い《インヴェルズ・グレズ》が倒れ――もとい寝ている姿を指さす。

 

 ざわつく一同。多分、順番を守るべき派と、気にしない派が睨み合っているのだろう。

 

「!ケキ ナンミ」

 

 しかし此処でノコギリクワガタの特徴を持ったインヴェルズ――《インヴェルズ・ギラファ》が同胞たちの心を一つにすべく声を上げた。

 

「!?ァフラギ」

 

「!!ダンルセワア ヲラカチ デナンミ」

 

「……ァフラギ」

 

 右腕のキャノン砲を神崎へと構え、皆を先導するように前に出た《インヴェルズ・ギラファ》は――

 

「――ンクヅツ ニレオ アサ」

 

「!タレラヤ ガ ァフラギ」

 

 神崎へと駆け出した途端、影の腕に掴まれ、邪念のフルコースにご招待された。

 

「……ダイマシオ ウモ」

 

 そんな《インヴェルズ・ギラファ》の去り際の宣言に諦めるように膝をつくインヴェルズたち――きっと、《インヴェルズ・ギラファ》の説得により、順番を守ることにしたのだろう。

 

 

 やがて、そんなインヴェルズたちを余所に神崎の脳内でトラゴエディアの声が響く。

 

『おい、神崎。奴らは日本に帰って行ったぞ。それと予定通り、モクバへ「墓守の使命が終わったゆえに世界を見て回る」との旨を伝えて、辞する手続きを済ませた』

 

 

「!!ールレボオ ニ ンネャジ……ンネャジ !!ールレボオ」

 

「!!タッイ トコイマウ マイ」

 

「!!ヨイナ ャジイアバ ナンソ」

 

『アヌビスの件は、度々貴様がアヌビスとして顔を出せば、一先ず問題ないだろう』

 

「そうですか。では地下神殿の方で落ち合いましょう。此方も手早く片付けるので」

 

 そうして美食にテンションが上がったゆえか騒がしいインヴェルズたちのやり取りを余所にトラゴエディアからの報告を聞き終えた神崎は、撤収するべく《インヴェルズ・ギラファ》をお休みゾーンへと寝かせ――

 

 

 神崎の影が数多の蛇のように唸りを上げて周辺全てのインヴェルズたちを捕らえ、口元にオレイカルコスの欠片がセットされた。

 

 

 

 

 お腹いっぱいお食べ。

 

 

 

 

 

 

「ゼーマン、これから暗黒界の面々側の新しい仲間を連れて行きますので、保護を頼みます。後、彼らは寄生対象が必要なようなので、精霊の細胞から培養した肉片でも上げてください」

 

『承知! お任せください!』

 

――いやー、オレイカルコスの神の機嫌がすこぶるよくなった。WINWINの理想的な関係だな。

 

 やがてゼーマンの元にお腹いっぱいになったゆえにお眠な具合のインヴェルズたちが空母の如き巨大な戦艦である《ダーク・フラット・トップ》に載せられ出荷されていく。

 

 

 そして彼らを見送った神崎は、足早に元の世界こと物質次元へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 そんな闇の軍勢の不思議な食事風景を、空より観察していたインヴェルズたちの観測者である白き機械「ヴァイロン」たちは機械の目をチカチカと困ったように点滅させながら互いに顔を見合わせていた。

 

 

 

 彼らヴァイロンは自立型機動兵器――つまり機械ゆえに表情は窺えない。

 

 

 だが、なんというか、もの凄く判断に困っていることだけは見て取れた。

 

 

 

 精霊界の未来は一体どこへ向かっているのだろうか?

 

 

 

 それは神も匙を投げていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処でところ変わって、物質次元こと人間の世界に舞台を移す。

 

 そこはエジプトにある地下遺跡――ついさっきまで闘いの儀でアテムと遊戯がぶつかり合っていた場所にて、崩落した地下神殿内部の瓦礫の撤去作業を素手で行っている男がいた。

 

「よい――――しょー」

 

 というか、気の抜けた声を漏らすのは案の定、神崎。

 

 そうして神崎は発掘した瓦礫を冥界の王の力を使って伸ばした影で掴み、パズルのように組み合わせながら《魔法都市エンディミオン》にある「ウィッチクラフト」なる工房からゼーマンが仕入れたセメントのような接着剤っぽい何かで繋ぎ合わせていく。

 

 そんな日曜大工感の溢れる光景が暫し続いた後――

 

「整理整頓はこんなものか」

 

 

 なんということでしょう。

 

 

 瓦礫に埋もれた岩盤地帯でしかなかった場所が、かつての地下神殿としての姿を取り戻しているではありませんか。

 

 砕け切ったパーツもホプキンス教授印の修繕技術本の手引きにより、文字通り元通り。

 

 さらには三千年の風化すらも精霊界印の製品の助けにより、殆ど感じさせません。

 

 

 此処に、地下神殿は匠(ではない人)の技により、時計の針を巻き戻したように華麗に復活を果たしました。

 

 

 腕で額の汗を拭う神崎のやり遂げた感のある顔からは、なんとも言えぬ満足感が見て取れます。

 

 

 ですが、匠(ではない人)は更に隠し味として――

 

 

「えーと、これですね。触っても……大丈夫か」

 

「我を毒見役にするな」

 

 7つの千年アイテムを冥界の王の腕でツンツンと触った後、地下神殿の床に描いた六芒星の頂点に千年パズル以外の千年アイテムを並べていく神崎。

 

「そう言わないでください。流石にバラバラになった千年パズルを組み直すには、直接触れる必要がありますので」

 

「だが、千年パズルは選ばれた者にしか組み上げることは叶わん。あの器にでも組み立てさせるのか?」

 

 そして影の腕の上でバラバラになった千年パズルの1つのピースを手に取った神崎へ冥界の王の苦言に――

 

 

「パズルには必勝法があるんですよ――端から全てのピースを試せばいい」

 

 

 神崎は脳筋な考えを返した。

 

 

「阿呆か貴様……一体どれほどの時間がかかると思っているのだ」

 

 そんな神崎に呆れた声を零す冥界の王。

 

 それもその筈、千年パズルは一般的なパズルとは難易度が異次元であり、ピースをはめ込んだ後で回転させる、押し込む――等々、とにかく行程が多いのだ。

 

 それらを全て試すなど、宇宙ステーションの無重力化で全速前進し続けるような男が作った超高性能AIによる緻密な計算の元でなければ、まず不可能だろう。

 

「? 工程自体を早めれば問題ないでしょう?」

 

 だが、彼にはそんな不可能を可能とするマッスルがあった。

 

「何を言って――」

 

 やがて神崎の腕がブレたかと思った瞬間に、空中でひとりでに浮かぶ千年パズルのピースたちが全方位からタコ殴りにあう様にパズルのピース同士でぶつかり合う。

 

 

 そう! 半端なマッスルで普通の速度で行うから時間がかかるのだ!!

 

 

 そう! ピースを一つ一つ試すから時間がかかるのだ!

 

 

 ゆえに! 脅威的なマッスルにより、とんでもない速度で、全てのパターンを並行して総当たりすれば良い!!

 

 

 そんなことをすれば本来ならば、ピースが木端微塵に砕けるが、千年パズルのピースは高度な不思議パワーにより、破損することがない!

 

 

 それゆえに可能となった荒業! 否、マッスル!!

 

 

 そうしてぶつかり合う中で、早送りのように組み上げられていく千年パズルが「殺せ……!! いっそ殺せ……!!」と言っているように見えるのは果たして気のせいなのか。

 

 

 それに加え、このような力技は本来であれば王の魂が弾くのだが、既にそれが冥界へ旅立った以上、栓なき話だ。

 

 

「よし、完成」

 

 

 やがて一瞬にして完成した千年パズルを満足気に眺める神崎を余所に、冥界の王は頭痛を堪えるように零す。

 

 

「……役目を終えた千年アイテムを揃えて、今度は何をするつもりだ?」

 

「破壊して処分するだけですよ」

 

「愚かだな。貴様と言えども、千年アイテムを破壊することは叶わん」

 

 だが神崎の返答を鼻で嗤った。なにせ、先程も語ったように千年アイテムは高度な不思議パワーで出来ているのだから。

 

 具体的には三千年経過しても経年劣化が一切ないレベルのオーパーツである。こればかりはマッスルでもどうにもならない。

 

「手引書があるので問題ないですよ」

 

「手引書?」

 

 

「これです。『千年秘術書』――の写し」

 

 

 だが、メッチャシンプルな回答が神崎から成された。

 

 社畜にとって、マニュアルこそ正義であると。

 

「……!? 貴様、それを何処で!?」

 

 冥界の王が驚くのも無理はない。

 

 マニュアルこと「千年秘術書」――それは千年アイテムの「製法」を含め、数々の闇の儀式を記した書物。

 

 そこには当然、「千年アイテムの壊し方」が記されていてもおかしくはない。

 

 だが、冥界の王が驚いているのはそこではなかった。

 

 なにせ、その書物は現代では所在どころか存在すらも確認されておらず、恐らく三千年前の神官セト辺りが「危険だから」と処分したのではないかと思われる程に、見つかっていないのだ。

 

 

 ゆえに神崎はこう考えた。

 

 

――? あっ、そう言えば、冥界の王には説明していなかったか。

 

「私がなんの為に記憶の世界に行ったと思っているんですか?」

 

「大邪神ゾーク・ネクロファデスを始末する為であろう!」

 

「そちらはサブです――メインは此方。トラゴエディアに盗んできて貰ったのを写しました」

 

 なら、現存する時代からパクッて(コピーして)くれば良いんじゃね? と――発想が盗人のそれである。

 

「残った千年アイテムが悪用されても危ないですから、処分できるときに処分しておかないと」

 

――トラゴエディアに見張りをして貰っている間に済ませてしまおう。

 

 そうして六芒星の中心に千年パズルと光のピラミッドをひし形になるように置いた神崎は千年秘術書(写し)をパラパラとめくり、千年アイテム破壊の儀の行程を確認していく。

 

 解読法も記憶の世界のアクナディンの頭から頂戴した為か、冥界の王の知識も合わさり何とかなっている様子。

 

 

 やがてまじないやら、なんやらが進められていく中、冥界の王がポツリと零した。

 

「相変わらずの破天荒さだな――まぁ、良い。手間が省けた」

 

「手間?」

 

「聞こえるか? この男は、貴様らを間違いなく()す」

 

 そして神崎の反応など無視して落ちる冥界の王の声に、何処からかカタカタと金属が揺れる音が響く。

 

「なにを言って――」

 

消え(死に)たくなくば」

 

 

 そんな中、戸惑う神崎を余所に告げられた冥界の王の言葉に――

 

 

「我が声に応えよ」

 

 

 光のピラミッドを筆頭に、7つの千年アイテムがひとりでに浮かび上がった。

 

 

――千年アイテムが!?

 

 やがて光のピラミッドを含めた計8つの千年アイテムが、宿主を求めるように神崎の――いや、その背後に浮かぶ影へと吸い寄せられる中、咄嗟に腕で弾こうとした神崎だが――

 

「覚醒した千年アイテムに適合者でない貴様が触れる気か?」

 

「――ッ!?」

 

 そんな冥界の王の声に弾かれたように跳び退き、壁に垂直に立つ神崎の瞳に映るのは、まさに生命の誕生と言うべき光景。

 

 

 

 神崎から剥がれ落ちるように切り離された人間の影が8つの千年アイテムを取り込みながらボコボコと脈動を始め、段々と人型を形作っていく。

 

 

 やがて顔のない影の顔の左目辺りに埋め込まれた千年眼の瞳が神崎を射抜く中、心臓の辺りに縦に並んだ光のピラミッドと千年パズルが怪しく光を零した。

 

 

 そうして身体に取り付けられた合計8つの千年アイテムを埋め込んだ黒き影から冥界の王の声が響く。

 

 

「ようやく隙を見せたな」

 

 

 その声は、どこか愉悦染みた感情が見え、どこか確信めいた自信に溢れ、どこか眼前の相手と似た雰囲気を伺わせる。

 

 

「一応、聞いておきましょうか」

 

 

 そんな相手、冥界の王に対し、神崎は垂直に立っていた壁の上から床に向けて歩を進めながら、いつもの作り物の笑顔で問いかける。

 

 

「なんの真似です?」

 

 

 そうして地上に降りたと同時に投げかけられた端的な言葉に反し、その裏には虚偽を許さぬ雰囲気が見えた。

 

 

「戯けたことを」

 

 

 しかし一方の冥界の王は、手にした身体で呆れたような所作を見せながら呆れたように息を吐いてみせる。

 

「既に告げた筈だ。我は考えていた――と」

 

 この段階で、そんな問いかけなど意味を持たないことは明白だと。そう、状況は誰の目にも明らかであった。

 

 だというのに、神崎はとぼけたように再度問う。

 

「おや、その答えは教えて貰っていなかったと思いますが」

 

「知れたこと」

 

 

 そんな神崎へ向けて、右腕を振り上げた冥界の王の腕から脈動しながら影がせり出し、黒いデュエルディスクを生成していく中――

 

 

「貴様を殺す方法だ」

 

 

 互いの関係性に、決定的な亀裂が奔った。

 

 

 

 






闘いの儀編、第二幕――開演


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