マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
今日からお前が新しい冥界の王だ。





第203話 次なる領域

 

 

 謎の青年が引き連れる少年少女たちと神崎が邂逅を果たした中、此処で時計の針を少し戻させて頂こう。

 

 

 闘いの儀を終え、遊戯たち共々日本に帰国したばかりの海馬はKCの社長室にて巨大なガラス窓から童実野町を見下ろし、ポツリと零す。

 

遊戯(アテム)が負けた……………………………………か」

 

 それは闘いの儀にてアテムが遊戯に敗北し、冥界へと去った事象が、海馬の中でようやく受け止められた瞬間だった。

 

――俺が引導を渡す筈だった(デュエリスト)が勝ち逃げなど……

 

 だが、受け止めたからといって、受け入れられるかはまた別の話。海馬の胸中で苛立ちの芽が確かに芽生える。

 

 しかし、そんな中で闘いの儀でのアテムと遊戯のデュエルや、仲間たちのやり取りを得て満足気に還って行ったアテムの姿とやり取りが脳裏を過った。

 

 そうして己の脳裏を奔った一連の情報を処理した海馬は――

 

――いや……そうだったな。少々癪ではあるがヤツの言に乗るのもまた一興。

 

「やり残したことが出来た」

 

 己がロード()に欠かせぬ要素を補完するべく、動き出す。

 

「磯野、ヤツを――神崎を呼べ」

 

「瀬人様、それがどうにも彼は欠勤しているようでして……」

 

「なんだと?」

 

 だが、側近の磯野から返ってきた思わぬ返答に眉を上げる。

 

 なにせ海馬の知る神崎は、無遅刻無欠勤――とまではいかないが、ワーカーホリック気味な者の為、業務に関わらぬ欠勤とは無縁の人物だ。

 

 ゆえに訝しむ海馬に促されるままに磯野は説明を続ける。

 

「どうやら仕事先でトラブルにあったとの……その……話だそうで……」

 

「はっきりせん物言いだな」

 

「はっ、それがどうにも書類一式届いただけの状態であり……未だ当人との連絡は付かず、詳細の方も不明です。どうなさいますか?」

 

「ふぅん、放っておけ――ヤツならば自力で如何にかするだろう。出来ないと言うのなら、その程度の男だったという話だ」

 

 やがて何だか事件性を窺わせる状態ゆえに磯野が懸念するが、それは海馬によって即座に切って捨てられた。KCの社風は結果主義――己が失態を拭えぬ弱卒など不要。

 

「りょ、了承致しました」

 

――瀬人様も厳しい目を向けつつも、神崎殿を買っておられるのだな……

 

 そんな海馬の突き放すような物言いを「突き放しても問題ない」との信頼と受け取った磯野は微笑ましいものを感じるが――

 

「なんだ? 言いたいことがあるのなら、言ってみろ、磯野」

 

 そうした心中を見抜いたような言が磯野に突き刺さった。

 

「な、なんでもござい――いえ、この際ですから申しておきます。私はてっきり瀬人様が神崎殿を嫌って……いえ、対立のスタンスを取っておられるのかと……」

 

「俺がそんな狭量な男に見えたか?」

 

「い、いえ、そのようなつもりは――」

 

「ふぅん、ヤツのやり口が気に食わんのは事実だ。だがヤツがKCの益になり、害にならん限り、騒ぎ立てる気もない」

 

 思わず取り繕おうとした磯野が意を決して絞り出した主張を鼻で嗤って見せる海馬。

 

 

 海馬とて、神崎の「プライドなんてドブに捨てるぜ!」な在り方に思う所がない訳ではないが、安く言えば「KCの為に頑張って結果を出している社員」である以上、KCの一員である事実を否定する気はない。

 

 そして何より本来であれば左遷同然の扱いになる筈だったBIG5たちを、上手い具合に海馬と共同戦線が張れる程に歩調を合わせた事実は無視できなかった。

 

 たとえそれが、ゴマを擦りまくったゆえの結果であろうとも――いや、海馬が「絶対にしない」手段ゆえに捨て置けはしない。

 

「アレもまた俺にはない力ではある」

 

「瀬人様……」

 

 そうして清濁併せ吞みつつ日々一回りも二回りも邁進する海馬を眩しいものでも見るようにサングラスの位置を直す磯野。

 

「無駄話も此処までだ。磯野――超神秘科学体系研究機関異次元時空専門課局長を呼び出せ」

 

「…………ぇ?」

 

 だが、海馬の新たな要請にその動きはピタリと止まった。まさに「えっ? なんだって?」な具合だ。

 

「超神秘科学体系研究機関異次元時空専門課局長だ――三度目はないぞ」

 

 それはメッチャ目が滑る情報の羅列だった。磯野の場合は耳だろうが。

 

 しかし、磯野とてKCの黒服の中の精鋭の1人。発言の中から己の知識と結び、そしてつなぎ合わせ答えを手繰り寄せてみせる。

 

――超神秘科学……駄目だ。覚えきれない。しかし「神秘科学」は確かオカルト課の初期名称だった筈、そして「異次元」は……そうか!!

 

「あっ、オカルト課のツバインシュタイン博士のことですね。承知しました。今すぐ手配します」

 

 そう、「超神秘科学体系研究機関異次元時空専門課局長」とは――(ごくまれに呼ぶ海馬以外)誰も呼ばぬツバインシュタイン博士の肩書である。

 

――流石、瀬人様。神崎殿から上がってくる「訳の分からない研究」をしている面々及び、その研究内容を全て把握しておられたとは……

 

 やがて足早に社長室を後にし、オカルト課へとコンタクトを取る磯野の胸中には海馬への尊敬が高まっていた。

 

 

 アレらを全て完璧に把握しているのは、恐らく海馬くらいのものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって双六が経営する「亀のゲーム屋」にて、日も暮れたゆえに店仕舞いを終えた双六が茶で一息ついた頃、既に帰宅していた遊戯がおずおずと声をかける。

 

「じいちゃん、今ちょっと良い?」

 

「どうした、遊戯?」

 

「じいちゃんって、昔は世界中色々回ったんだよね。その…………裏側とかもさ」

 

「おぉ!! また儂の冒険譚を聞きたくなったのか!! そうか、そうか!」

 

 そしてかわいい孫の「過去の武勇伝を聞かせて」といったニュアンスを含んだお願いに、双六は遊戯の両肩に手をバシバシ軽く叩きながら破顔した。

 

 祖父(おじいちゃん)冥利に尽きるのだろう。

 

「い、いや、あのね、じいちゃん! そうじゃなくって――ちょっと知りたいことがあるんだ」

 

「なんじゃ、急にかしこまって……」

 

「実は――――」

 

 だが、遊戯が主題とするのは祖父の冒険譚そのものではなく、世界中を回った双六の膨大な生の知識だった。

 

 やがて、遊戯から大まかな事情を聞き終えた双六は、「裏側」の話ゆえに安易に教えて良いものかと暫し悩み込む素振りを見せた後――

 

「あぁ、それなら知っとるぞい。今ではそんな風に呼ばれとるんじゃの」

 

 真っ直ぐ己を見つめる只ならぬ事情を垣間見せる孫の姿を信じ、知る限りの情報を明かすことを決めた。

 

「知ってるの!?」

 

「知ってるも何も、裏でそやつを知らねばモグリ扱いじゃぞい――しかし表に全くと言っていい程、出てこんというのに……どうやって知ったんじゃ?」

 

「それは、その、大会の時とかに……あはは」

 

 とはいえ、凄く軽い感じの双六に半信半疑の様子を見せる遊戯だが、逆に情報の出処を問われるも、明かせる事情でもないゆえに曖昧に笑いながら誤魔化す。

 

「ふむ、確かにワールドグランプリならば確実に話題に出るの」

 

「それで、どんな人なの?」

 

「うーむ、なんと言うべきか……一口に言ってしまえば――」

 

 やがて納得を見せる双六から、遊戯が手始めとして相手の人物像を問えば――

 

「『傭兵』かの」

 

「傭……兵……?」

 

――デュエリストじゃ……ないの?

 

 己の予想に反した答えが返って来たことに遊戯は内外ともに戸惑いを見せる。

 

 遊戯の認識は「デュエリストとして名の知れている相手」だったゆえに、「傭兵」などと物騒な響きがいまいちピンとこない。

 

「まぁ、傭兵というには語弊があるかもしれんが……一番近いのがそれかの。もっと詳しい話が知りたいのなら、アーサーや御伽のヤツ――あっ、龍児くんの父親の方じゃぞ?――にも連絡しといてやろうか?」

 

 そんな孫の反応に双六は求められている情報との差異を感じ、昔馴染みの友人たちを頼る選択肢を開示した。

 

「うん、お願い! それでじいちゃんは――」

 

「焦るな、焦るな。ちゃんと話すぞい。儂は一度、そやつと会ったことがあるんじゃ――まぁ、向こうは覚えとらんじゃろがな」

 

 そして急かすように頷いた遊戯に双六は、過去の己が引退を決定づけることとなった出来事へ記憶を巡らせる。

 

「とはいえ、正直、気持ちの良い話ではないが、それでも構わんか?」

 

 だが最後に再度、忠告するような双六の言葉へ、遊戯は真っ直ぐな瞳で肯定を返した。

 

 

 

 そして語られるは、古代アトランティスの伝説に記された幻の緋色の石を巡る冒険譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして此処で時計の針を元に戻すべく進め――

 

 

 冥界の王との殺し合いを終えて、ついでに生死の境をかなりの期間さまよった神崎の前に立つ少年少女たちへと向けて、神崎は一先ず「一般人目線」で対応する。

 

「あなた方が何者かは存じ上げませんが、此処は関係者以外立ち入り禁止区域になります。崩落の危険性もありますので、退避を――」

 

「わたしたちは『プラナ』――シン様の意思を継ぐもの」

 

 だが、そんな神崎の定型文を遮るように肩の出た朱色のワンピースに身を包む黒い長髪の少女が前に出た。

 

「これはご丁寧に」

 

――……全く分からない。わたし『たち』との言から『プラナ』は……組織名? で、『シン様』がトップなのかな?

 

 しかし、少女の発言の内容を神崎はあんまり理解できていない。固有名称ばかりで「それ」が「誰」「何」を差しているのかが全くもって理解できなかった。

 

――彼らの存在は私の原作知識にないが、明らかにキャラが立っている……原作キャラだと考えるべきだろう。

 

 とはいえ、分かることもある。それは彼らが原作にて重要な立ち位置を持つであろう存在であること。

 

 普通の人間は胸元にアンク型のブローチらしきものなど付けはしないし、髪にシルバーならぬゴールドを巻きはしない。

 

――イリアステルのような未来技術は見当たらない以上、DMに関連する人物だと思うが……よもや新しい劇場版でも放映されたのか? だとするのなら……くっ、超見てぇ!!

 

 そしてアンク型は、同じ形状の千年錠を意識させる為、古代エジプト関連の人間であることは明白だった。

 

 やがて自身の中の雑念を余所に、立ち位置を探るように頭を下げて神崎は礼を示す。

 

「それで『プラナ』の皆さんは――いえ、まずは自己紹介から始めましょうか。私は『神崎 (うつほ)』、KCに勤めております。どうぞ、名刺です」

 

「――近づくな!!」

 

 だが、差し出された名刺を手渡そうとした神崎が動き出す前に、その歩みは青年の方に咎められた。

 

 それはプラナたちが、神崎と対話の意思を見せないものかと思えば――

 

 

「わたしは『セラ』、彼は『ディーヴァ』です」

 

「セラ!!」

 

 少女――セラによって、青年の名前がディーヴァであることが判明。

 

 こうして自己紹介を無事に終えた両者――まだ自己紹介しか終わっていないが。

 

 とはいえ、プラナ側もコミュニケーションを取る姿勢が見えたことは神崎としても朗報であろう。

 

 なお、咎めるような声を発するディーヴァの存在から、一枚岩ではないことが伺えるが。

 

「早速ですが、神崎さん――貴方は千年アイテムをどうするおつもりですか?」

 

――青年の方が代表かと思ったが、少女の方が代表なのか……

 

 やがて投げかけられた少女セラの問答に、神崎は若干ズレたことを考えながらも、如何に返答するかを悩むが――

 

 

――さて、どう答える? ……いや、相手の目的が不明な以上、変に取り繕って勘違いを生む方が悪手か。今回は間違いなく『善行』なんだ。真っ直ぐ勝負で行こう。

 

 

 今回は、100人に聞いても99人は「イイね!」することである為、正直に行くことにした神崎。

 

 真っ直ぐストレート勝負である。

 

 

「破壊します」

 

「貴様ッ!!」

 

 だが、怒りのままに叫ぶ青年ディーヴァの様子を見るに、結果はデッドボール――1人の方だった。

 

――えっ、駄目なの!?

 

 これには思わず神崎も内心で困惑顔である。なんだったら遊戯たちに伝えてもオールOKだと思っていただけに、異文化コミュニケーションの難解さに頭を痛めていた。

 

「……それはどういった目的で?」

 

「この千年アイテムという遺物は、人の心を操る力を持つゆえ、悪用の危険が非常に高い代物です。さらに、荒唐無稽に聞こえてしまうやもしれませんが、異界の邪神の復活の触媒にすら成りうる」

 

 ゆえに詳細を問うたセラに、一先ず己の考えをそのまま返す。

 

「後のことを考えれば、破壊しておかねばなりません」

 

 そう、今回のことは神崎にしては珍しく、ぐうの音も出ない善行だった。

 

――何故だ? 今回は武藤くんどころか海馬社長にすら明かしても問題ないくらいの明確な善側のスタンスなのに!? なにを見落としたんだ……?

 

 ゆえに神崎は理解できない。

 

 プラナである彼らが悪党に分類されるのであれば、話は別であろうが、今のところそんな素振りは見えないことも、ますます神崎の混乱を加速させる。

 

「セラ! もう、こんな男と問答する必要はない! ボクたちの力で、ヤツをこの次元から消し去――」

 

「それは全ての千年アイテムを――ですか?」

 

「セラッ!!」

 

「ええ、全てになります」

 

 怒り心頭で怒声を上げるディーヴァに対し、事実確認をするように機械的に対応していくセラへと神崎は嘘偽りなく答えるが――

 

「シン様は仰っていました。7つの千年アイテムの内、3つは正義、3つは邪悪な意思が宿り、最後の1つにはその両方が封じられている、と」

 

――原作知識にもその手の話は確かにあったが……

 

 此処でセラから「プラナ」と「シン様」の目的が語られた。

 

 何処か雲行きが変わったことを感じ取る神崎を余所に、セラは淡々と続ける。

 

「千年パズルから王の魂が解放された時、善悪の均衡を保つかの宝物は『善』に調和され、次元上昇により人類の救済がなされます」

 

――は、はぁ、成程……分からん。

 

 しかし、些か以上に専門的過ぎる話に、神崎の理解は謎の関西弁が出てくる程に追い付かなかった。急に「人類の救済」とか言われても困るだろう。

 

 

「ゆえに、全てを無に帰す貴方をわたしたちは許す訳にはいきません――ディーヴァ」

 

 

 そして神崎からすればよく分からないままに、なんか敵対が決まった。

 

 

「セラ、やっと分かってくれたんだね!」

 

「はい、あの者の行いを見過ごす訳にはいきません」

 

「ああ、その通りさ! この神聖なる場所を荒らして掘り起こしたあの男に千年アイテムを破壊させる訳にはいかない!」

 

 さらに先程まで揉めていたのが嘘のようにセラが己の主張を受け入れてくれたことも相まって、ディーヴァは意気揚々な具合で、神崎に手を向ける。

 

 さすれば、その掌から黄金に輝く立方体が無より現れ、不可思議な文様を浮かべながら輝きを放ち始めた。

 

「さぁ、低次元に消え去るがいい!!」

 

 途端に、ディーヴァやセラを含めた「プラナ」の少年少女の額に見える黄金の逆三角が瞳と共に怪しく光り、情報が伝達されるような光の筋がこの地下神殿の空間上をあちらこちらと巡り始める。

 

 

 そんな摩訶不思議でありながらもどこか幻想的な光景に、周囲へと視線を奔らせながら警戒しつつも臨戦態勢を取り始める神崎

 

――なにこれ!? 仕方がない。身体は本調子とは言い難いが、此処は意識だけでも刈り取って………………何も起きないな。

 

 だが、幻想的な光景が広がるばかりで、特に神崎の身に影響を与えることはなかった。

 

 綺麗な光景を見せる友好の証――などではないだろう。

 

「そんな……!?」

 

「我らのプラナーズマインドが通じない!?」

 

 セラと、プラナの少年少女たちの一団の中のどこか蟹っぽい頭をしたわし鼻の青年『マニ』が驚愕の声を漏らすが、神崎からすれば、驚きたいのは己の方だろう。

 

 

――彼らは一体、何がしたいんだろう……

 

 

「狼狽えるな、セラ! マニ! もう1度だ!!」

 

「よく分かりませんが――」

 

――攻撃されているのは分かった。

 

 やがて自然体のままに足に力を込めた神崎は――

 

「少し眠っていて貰いますね」

 

 そんな言葉と共に、再び「低次元」に送らんと力を行使するディーヴァたちの視界から消え去った。

 

「消え――」

 

「後ろだ、ディーヴァ!!」

 

 だが、先行したマニとセラから他のプラナたちと共に離れた場所にいたマニの絶叫が木霊する。

 

「後ろがどう――」

 

 その声に、咄嗟に振り返ったディーヴァの視界に映るのは拳。

 

 低い姿勢で踏み込んだ神崎の上半身ごとねじ込むように放たれている弧を描いて迫る右拳。

 

 

 それを知覚した途端、ディーヴァの瞳が映す世界が目に見えて遅くなった。その何もかもが遅い世界では――

 

 

 迫る拳を躱させる為にディーヴァの腕を引こうと手を伸ばすセラの姿が、

 

 声を大にしてディーヴァに危険を伝えるマニの姿が、

 

 訪れるであろう惨劇に目を背ける仲間の姿が、

 

 己に迫る拳さえもが、緩慢な速度で動く反面、ディーヴァの脳内は自身の身体とは真逆に思考が加速し続ける。

 

 これを喰らった場合、己がどうなるのか――その末路を悟ったゆえに

 

 

――強……! 速……避……無理! 受け止める……無事!? できる!? 否……

 

 

 そうして加速する思考の最中、様々な対処法が次々と脳裏を過っていく。

 

 だが、己の左腕を挟むように回された神崎の左手がディーヴァのベルトを掴む感触に、上体を逸らして威力を逃がすことすら叶わなくなったディーヴァの脳裏を過るのは――

 

 

 孤児として幼少時にセラと共に奴隷同然の扱いを受けた日々。

 

 その絶望の只中から助けてくれたシン様との出会いの日。

 

 己を含めたプラナーズマインドを持つ者たちとシン様の教えを受けた日々。

 

 その幸福だった日々を欲深き者によって終わらされた絶望の日。

 

 復讐を胸に誓い、時を待つ日々。

 

 そして「千年アイテムの破壊」などとふざけたことを実行せんとする者との対峙。

 

 

――死

 

 

 そう、これはディーヴァの走馬灯。

 

 

 死の恐怖に囚われた彼の脳が解決手段を探るべく見せた過去の記憶。

 

 だが、彼の経験から、この場を脱する妙案は浮かばず、最後に過ったのが――

 

――助けて、シン様ッ!!

 

 シン様へと助けを願う胸中の声。

 

 そんな心の内の願いに応えるように量子キューブが光を放った。

 

――この反応は……拙い!!

 

 そしてその光に晒された神崎は、己が身を貫く鈍痛に全力で飛び退いた。

 

「うわぁあぁ!! ぐっ……うぅ……」

 

 やがて量子キューブの力と、キャンセルされた拳撃の余波が周囲に広がる中、苦悶の声と共に地面を転がるディーヴァの元へ、セラが焦ったように駆けつける。

 

「兄さん!! 大丈夫!? 怪我は!?」

 

「……うぅ……大丈夫だ、セラ……量子キューブが、シン様が守ってくれた……」

 

 そうして心配気に己の様子を見るセラへ、手を借りながらゆっくり上体を起こすディーヴァは安心させるように無事を伝える中、地下神殿の天井からガン逃げした人物の声が届いた。

 

「――驚いたな。未確認な千年アイテムが未だ残されていたとは」

 

 足の指の力で天井に逆さまに立ち、驚きのあまりつい敬語を忘れた神崎にプラナたちの視線が向くが、当人は量子キューブの力をモロに受けた煙を上げている右手の様子を確認するのに忙しかった。

 

――此方が受けたダメージが思ったよりも大きい。かなり身体が弱っているな……いや、あの力に触れて生き残れただけ御の字だ。

 

 右拳を握り開きしながら自身の状態を再度確認していく神崎は、己が受けた力の正体に当りをつける。なにせ、つい先日似たような状況だったのだ。神崎でも流石に気付く。

 

――そしてアレも間違いなく千年アイテム……材料と製法を鑑みるに、『シン様』とやらが作ったのなら、限りなく『黒』だが……

 

 やがて天井から音もなく地上に降り立った神崎へ、化け物でも見るかのような視線を向けたディーヴァはセラの助けを借りて、立ち上がりながら己の甘さを恥じる。

 

「常人のおよそ7倍の意識波動――プラナーズマインドを持つボクらを相手に、こうも立ち回るとは……どうやらボクたちは、キミを侮り過ぎていたようだ」

 

 そうして量子キューブがディーヴァの左腕に装着され――

 

「キミを、ボクたちの領域に招待するよ」

 

 細かなキューブに展開した量子キューブが変形した姿はまさに「デュエルディスク」。

 

「今からこのフィールドは次元の狭間にその場所を――移す!!」

 

――空間が!?

 

 さらに上書きされるように地下神殿一帯がプラナの力に包まれる中、ディーヴァとセラは顔を見合わせて頷きあった後、宣言する。

 

「 「 次元領域デュエル!! 」 」

 

「次元領域デュエル!?」

 

――なにそれ!?

 

 そうして、オウム返しのように復唱した神崎からすれば、なんかよく分からないデュエルが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 そんな具合で、神崎からすれば、訳の分からぬままに幕を開けた「次元領域デュエル」なるデュエルに「まぁ、闇のゲームでしょ」との浅い理解で臨んだ神崎は先攻を得つつ、カードを引く。

 

「…………では私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ」

 

 当然、デッキを変える暇などなかったゆえに――

 

「手札のモンスター《クリボーン》を墓地に送り、魔法カード《ワン・フォーワン》を発動します。デッキからレベル1のモンスターである《ミスティック・パイパー》を特殊召喚」

 

 先程と同じ『クリボーデッキ』から、毎度のことながら笛の演奏を鳴らす《ミスティック・パイパー》がステップと共に現れた。

 

《ミスティック・パイパー》 攻撃表示

星1 光属性 魔法使い族

攻0( 0 ) 守 0

 

 はいはい、いつもの、いつもの。

 

「《ミスティック・パイパー》の効果を発動。自身をリリースし、私はデッキからカードを1枚ドロー――レベル1《クリボン》だったので、追加でもう1枚ドロー」

 

 そして《ミスティック・パイパー》がいつものように光となって消えていながら神崎の手中に舞い込む中――

 

「手札から《クリボン》を召喚」

 

 その光の一部が弾け、赤いリボンのついた尻尾が伸びる毛玉こと《クリボン》が長いまつげでウィンクしつつ現れた。

 

《クリボン》 攻撃表示

星1 光属性 天使族

攻0 (300) 守 200

 

 だが、その攻撃力は何故か下がっている。

 

「……? 攻撃力0? お二人のどちらかのカード効果ですか?」

 

 ゆえに相手が手札から何らかの効果を発動したと踏んだ神崎が、不思議そうな瞳で振り返る《クリボン》に見られつつ、ディーヴァたちへと視線を向けた。

 

「フッ、早速ボクたちの『次元領域デュエル』の洗礼を浴びたようだね」

 

 するとディーヴァは罠にかかった獲物を見るような笑みを浮かべながら得意気に語る。

 

「というと?」

 

「次元領域デュエルでは、呼び出されるモンスターは全て『次元召喚』扱いとなる。そして、その攻撃力を決めるのは――」

 

 そう、《クリボン》の攻撃力が0になっているのは、「次元領域デュエル」の特殊ルールによるもの。

 

「――デュエリストの気力!!」

 

「気力!?」

 

――気力!? えっ!? 気力!? ……気力!? 気力ってあの『気力』!?

 

 しかし、そんな特殊ルールの説明に対し、内と外で素っ頓狂な声を漏らす神崎。

 

 

 気力――つまるところ「デュエリストの気合で攻撃力を決めるぜ!」というトンデモなルール。

 

 そう、気力を込めていないゆえに《クリボン》の攻撃力は上がっていないのだ。ゆえに気力さえ込めれば、攻撃力は上がる。

 

 とはいえ、元々の最大値――今回の場合は《クリボン》の本来の攻撃力300以上は上がらないが。

 

 

「さぁ、モンスターに気力を込めるといい! キミの実力、見せて貰おうか!」

 

「……ふぅ」

 

 やがてディーヴァに促されるままに、小さく息を吐き、精神を集中させていく神崎。そして――

 

「ハァァァァァァァァァアアァァアアァアアァアァアァアアァアアアア!!!!」

 

『クリィイイイィィィイイイイィィィボォォオオォォォン!!!!』

 

 《クリボン》と一緒に、平静なる心を保ちつつも、闘争心を引き出し、それを気力と化していく。

 

 その気迫と闘志ゆえか、神崎の足元を起点に周囲に揺れと風が吹き荒れ、それにより髪が逆立って、なんか髪が金色に光りそうな雰囲気を漂わせた。

 

 やがて己の両の拳を左右の腰のあたりで握る姿勢で、佇む神崎の身体から物言わぬ圧力が迸る中、足元に立つ《クリボン》も得意気に声を漏らす。

 

 

『クリリッ!』

 

 

《クリボン》

攻 0 → 攻 3

 

 やだ、神崎の気力、低すぎ……!?

 

 

 

 






劇場版DSODの原作知識を持たないゆえに
「シン様」こと「シャーディー・シン」の真実に辿り着けそうにない神崎。

そして次元領域デュエルは神崎には難しかった……デュエリストの気力と無縁だからね(無慈悲)


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