マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
攻撃力……たったの3か――ゴミめ。








第204話 次元領域デュエル

 

 

『クリリッ!』

 

《クリボン》

攻 0(300) → 攻 3

 

 自信満々な様子の《クリボン》を余所に、次元領域デュエルの肝である「デュエリストの気力」のアレ具合が、この場の一同に晒される。

 

――3!? 300じゃなくて、30じゃなくて3!?

 

 そうして、攻撃力……たった「 3 」か――ゴミめ。と言わんばかりの結果に、内心の動揺がフィーバーする神崎だが、そこは何とか表に出さず、平静を装う中――

 

「……自ら意識領域を下げ、思考周波数をコントロールしているようですね」

 

「買い被り過ぎだよ、セラ。この男にそこまでの意識操作ができるとは思えない」

 

 セラとディーヴァは、それぞれ神崎の気力から、相手の実力を見定めていく。

 

――彼らがなに言っているのか……分からない。

 

「お見通しでしたか――カードを2枚セットしてターンエンド」

 

 とはいえ、神崎からすれば専門用語が多すぎて理解の外の為、伝家の宝刀――それっぽいこと言って誤魔化す――しながら、ターンを終えた。

 

 

「ボクのターン、ドロー! メインフェイズ1開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動! エクストラデッキのカードを6枚裏側で除外し、2枚ドロー!!」

 

 そしてそんな神崎の醜態を余所にディーヴァは、千年アイテムを破壊する不届き者を罰するべく量子キューブが変形した立方体が並ぶデュエルディスク風のものからカードを引く。

 

「ボクの力を分からせて上げる」

 

 やがて手札のカードの1枚を神崎に指差すように向けた後、デュエルディスクに変形した量子キューブに差し込まれた。

 

「手札から魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札のモンスター1体を墓地に送り、デッキより、レベル1――《方界(いん)ヴィジャム》を特殊召喚!!」

 

 すると虚空に浮かんだ一つ目を起点に、細かなキューブが終結していけば、翼の生えた紺色の卵のような身体を持つ《方界(いん)ヴィジャム》が現れる。

 

 その後、頭上から触手を伸ばし、その先に浮かぶもう一つの瞳が神崎を射抜いた。

 

《方界(いん)ヴィジャム》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

「そして攻撃力1500以下の《方界(いん)ヴィジャム》の特殊召喚に対し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキ・手札・墓地から可能な限り同名モンスターを呼び出す!」

 

 さらにその《方界(いん)ヴィジャム》の身体がボコボコと膨らんでいき――

 

「ではその効果にチェーンして速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動します。これにより――」

 

「何をしようと無駄だ! デッキより来たれ、2体の《方界(いん)ヴィジャム》!!

 

 膨らんだ先から新たな2体の《方界(いん)ヴィジャム》となって分裂。

 

《方界(いん)ヴィジャム》×2 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

 しかし分裂ならば十八番だとばかりに、神崎のフィールドに彼のフェイバリットカード黒い毛玉こと《クリボー》が3体、宙に浮かぶ。

 

《クリボー》×3 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 0(300) 守 200

攻 1

 

「《クリボー》だと?」

 

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》で特殊召喚された《クリボー》に対し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》の相手へ及ぼす効果から、同名カードを特殊召喚させて頂きました」

 

 神崎のデッキに《クリボン》は1体しかいないゆえに、速攻魔法《地獄の暴走召喚》の恩恵に与るべく呼び出された《クリボー》たち。

 

 だが、その攻撃力は次元領域デュエルによって、神崎の気力分しか上がらない――たった「 1 」しか上がらない。

 

「……ふん、その程度は通してあげるよ――ボクはフィールドの『方界(ほうかい)』モンスター、《方界(いん)ヴィジャム》1体を墓地に送り、手札から《方界帝ゲイラ・ガイル》を次元召喚!!」

 

 そうして凄まじい貧弱さを見せる《クリボー》たちを余所に、《方界(いん)ヴィジャム》の1体がキューブに分解されながら再構築されて行く。

 

 その後、緑を基調とした球体上の身体から剥がれ落ちる4対の翼と尾を広げた。

 

《方界帝ゲイラ・ガイル》 攻撃表示

星2 風属性 天使族

攻 0 守 0

 

――また攻撃力0のモンスター? 気力とやらは活用しないのか?

 

 そんな中、脅威的な視力でディーヴァが使用したカードのテキストを見やり、相手の動きから次元領域デュエルの攻略法を探っていく神崎。

 

「自身の効果で特殊召喚された《方界帝ゲイラ・ガイル》の攻撃力は800アップ! そして手札から特殊召喚されていれば、キミのライフに800のダメージを与える!!」

 

 やがて、そんな相手の視線に気付く様子もないディーヴァの声に、《方界帝ゲイラ・ガイル》は球体上の胴体が、巨大な口となって開かれ、そこから緋色のレーザーが神崎を穿った。

 

《方界帝ゲイラ・ガイル》

攻 0 → 攻 800

 

神崎LP:4000 → 3200

 

――結構、痛い……次元領域デュエルが闇のデュエルの一種であることは確定か。

 

「成程。貴方のデッキは次元領域デュエルの影響を受けないことに特化したデッキ」

 

「フッ、流石に気付いたようだね。ボクの『方界(ほうかい)』たちは元々の攻撃力が0――次元召喚しようともステータスに影響はない。そして呼び出された段階で自身の効果で攻撃力を上げる!!」

 

 相手の初撃を己の腕を払って仕切り直した神崎に告げられるのは、ディーヴァの絶対的な優位。

 

 そうした最中に、次元領域デュエルを探っていく神崎は、わざとらしく沈痛な表情を浮かべ、己の不利を演出――不利なのは事実だが――していく。

 

「次元領域デュエルでのデメリットを負うのは実質、私のみですか……」

 

――あちらのセラさん?も次元領域デュエルに適したデッキの筈……厄介だ。

 

「今更気付いても遅いよ! 本来ならば方界帝はバトルの度に分離・合体を繰り返し、新たな姿に変化していくが、キミにその時間を与えるつもりはない!」

 

 そんな神崎の「追い込まれていますアピール」をまともに受け取った素直な良い子のディーヴァは次なる手札に手をかけた。

 

「2体の《方界(いん)ヴィジャム》を墓地に送り、次元召喚!! 来たれ、《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》!! 自身の効果で攻撃力を1600アップ!」

 

 やがて2体の《方界(いん)ヴィジャム》がキューブに分解されながら混ざり合うように繋がっていけば、持ち手の長い独楽のような体躯を持つ方界帝と化し、頭上の瞳がギョロギョロと動く。

 

 そして8本の触手の先のブレードが神崎に狙いを定め――

 

《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》 攻撃表示

星3 炎属性 天使族

攻 0 守 0

攻1600

 

「更に手札から呼び出されたことで、キミにもう一度800のダメージだ!!」

 

 うねりながら迫る《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》のブレードの斬撃を受け、一歩後退って見せる神崎。

 

神崎LP:3200 → 2400

 

 しかし、まだディーヴァの猛攻は終わらない。

 

「まだだよ! 《流星方界器(りゅうせいほうかいき)デューザ》を通常召喚! 召喚時デッキから『方界』カード1枚を墓地に送る! 永続魔法《方界(カルマ)》を墓地へ!」

 

 大地を砕きながら黒い球体が飛び立ち、その身から二本のアームと灰の頭が浮かび上がると同時に、その身体に赤い翼のような文様が浮かんだ。

 

流星方界器(りゅうせいほうかいき)デューザ》 攻撃表示

星4 光属性 機械族

攻0(1600) 守1600

 

 だが、今呼び出された《流星方界器デューザ》は、今までの方界たちと違い、素の攻撃力が0ではない。

 

――元々の攻撃力が0ではない。だが、気力で上げる気も見えない以上、これは……

 

「そして墓地の永続魔法《方界(カルマ)》を除外し、デッキから『方界』カード1枚を手札に加える!! 此処で、ゲイラ・ガイル! ヴァルカン・ドラグニー! デューザ! この3体の方界たちを墓地へ送り、次元召喚!!」

 

 そう、神崎が予想したようにこれは贄。

 

 ディーヴァの緑の翼、赤き触手、黒い剛腕を持つ三体の方界たちが溶け合うようにその身体をキューブと化し、混ざり合っていく。

 

「紡ぎし光よ! 漆黒の闇よ! 世界をあるべき姿に戻すべく、新たなる未来の扉を開け!」

 

 やがて、ディーヴァの背後で白き巨躯が形成されて行き、脚部に紺色の球体上の《方界(いん)ヴィジャム》が浮かび上がり――

 

 

「――出でよ、《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》!!」

 

 紺色の卵状の《方界(いん)ヴィジャム》が脚部となり身体を支え、巨大な腕を誇る白き超帝が、胴体に奔った光の文様から雄叫びを上げた。

 

《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》 攻撃表示

星4 光属性 天使族

攻 0 守 0

攻2400

 

「自身の効果で攻撃力2400アップした《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》の力により、更なるダメージを受けるがいい!!」

 

 そして《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》の胸部が開いた先から砲台が現れ、神崎に照準を合わせた後、光線が放たれる。

 

「くっ……!」

 

神崎LP:2400 → 1600

 

「バトルロイヤルルールでは全てのプレイヤーは最初のターン攻撃できない――命拾いしたね。ボクはこれでターンエンド!」

 

「そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》を発動。私の手札かフィールドからモンスター1体を墓地に送り1枚ドローします。フィールドの《クリボー》の1体を墓地に送り、1枚ドロー」

 

 ディーヴァがターンを終えた瞬間に光線を防ぐ為に構えた腕を解いた神崎は、フィールドの《クリボー》の1体を指させば、ベルトコンベアーに乗せられた《クリボー》が1体、どこともしれぬ工場へと飛ばされ、代金代わりのドローが舞い込む。

 

 

 そうして「バトルロイヤルルール」――つまり2人以上の複数人のデュエルの最後のプレイヤーであるセラが、独りでに宙に浮かぶどこか大剣にも見えるデュエルディスクからカードを引き抜いた。

 

「わたしのターンです! ドロー! メインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動! エクストラデッキのカードを裏側で6枚除外し、2枚ドロー!」

 

 欲深な顔の彫られた壺がいつものようにぶっ壊れる中、セラのデッキの正体が明かされる。

 

「そして速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動し、4体の『羊トークン』を特殊召喚します!」

 

 ことはなく、丸い4匹の羊が何処からともなく現れ、「メェー」と小さく鳴いた。

 

『羊トークン』×4 守備表示

星1 地属性 獣族

攻 0 守 0

 

「私はカードを2枚セットしてターンエンドです」

 

「そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》の効果を発動し、フィールドの《クリボー》の1体を墓地に送り、1枚ドローです」

 

 トークンを呼び出しただけでターンを終えたセラに、警戒の色を見せる神崎は、一先ず《クリボー》をベルトコンベアーに流しながらカードを引く。

 

――さて、ディーヴァくんの方のデッキは凡そ判明したが、未だ動きを見せないセラさんのデッキは未知数。

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ――そして永続罠《闇の増産工場》により、フィールドの最後の《クリボー》を墓地に送り、1枚ドロー」

 

 やがて最後の《クリボー》もベルトコンベアーに乗せられ、さよならを果たした後、《クリボン》だけが残ったフィールドを余所に、手札を確認した神崎は――

 

――少し揺さぶってみるか。

 

「ディーヴァくんの《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》と、セラさんの『羊トークン』の1体をリリースして――ディーヴァくんのフィールドに《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を特殊召喚」

 

 兄妹のモンスターを1体ずつ大地より噴き出したマグマに呑み込ませた後、ディーヴァを鉄檻に閉じ込めた。

 

 その檻を首からぶら下げるマグマの塊の化け物は、己から滴り落ちるマグマが地面を焦がす度に小さく反応するディーヴァを愉し気に見やる。

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》 攻撃表示

星8 炎属性 悪魔族

攻 0(3000) 守2500

攻6

 

 端的にいって絵面が凄い悪い状況だが、呼び出された《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の攻撃力は常時とは異なり貧弱そのものである。

 

「……くっ!」

 

「やはり私のモンスターである以上、貴方の気力は影響しないようですね」

 

 そうして次元領域デュエルの内実を把握しつつある神崎の気勢を削ぐべく、苛立ち気な声を漏らしていたディーヴァは檻の中で、マグマに呑まれた己がしもべに向けて手をかざした。

 

「だとしても! インディオラ・デス・ボルトが相手によって墓地に送られた時、墓地より3体の『方界』を復活させ、デッキ・墓地から新たな『方界』カードを手札に加える!」

 

 途端にマグマの中から3つの影が飛び出し――

 

「分離し、甦れ! 2体のヴィジャム!! 《流星方界器デューザ》! そしてデューザの効果でデッキから2枚目の永続魔法《方界(カルマ)》を墓地へ!」

 

 紺色の卵状の《方界(いん)ヴィジャム》が翼を広げて宙に浮かび、

 

《方界(いん)ヴィジャム》×2 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

 黒い球体上の身体から二本の腕を大地に叩きつけた《流星方界器デューザ》も、それに続く。

 

《流星方界器デューザ》 攻撃表示

星4 光属性 機械族

攻0(1600) 守1600

 

「……ぐっ……」

 

 だが、此処でエース格と思しき《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》を失ったディーヴァが檻の中で顔に手を当て、ふらつく様子を見せた。

 

「おや、顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」

 

――流石に妹を檻にいれるよりかは、と思って兄の方に呼び出したが……

 

「デュエルを続けてください」

 

 そうしてディーヴァの身を案じる言葉を発する神崎だが、デュエルの進行を促すセラの声に遮られ、小さく手を上げた後に手札の1枚をデュエルディスクに置く。

 

「これは失礼。私の墓地に闇属性モンスターが3体存在する為、手札から《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚できます」

 

 やがて大地を砕き現れたのは黒き魔龍。その二足は大地を揺らし、背中と肩から伸びた斧染みた刃が軋りを上げ、尾の先のスパイクが威嚇するように地面に叩きつけられた。

 

《ダーク・アームド・ドラゴン》 攻撃表示

星7 闇属性 ドラゴン族

攻0(2800) 守1000

攻 5

 

――上がらないか。とはいえ、除去要員だから構わないんだが。

 

 そんな強そうなドラゴンなのだが、相変わらず当人の気力不足から、その攻撃力は貧弱そのもの。とはいえ、その強力な効果は健在である為、問題はない。

 

「させません! その特殊召喚時、罠カード《ダブルマジックアームバインド》を発動! わたしのフィールドのモンスター2体――『羊トークン』2体をリリースし、相手モンスター2体を自分エンドフェイズまでコントロールを得る!」

 

 かに思われたが、セラのフィールドから二体の丸羊がマジックアームを伸ばせば――

 

「わたしが選ぶのは貴方の《ダーク・アームド・ドラゴン》と、ディーヴァの《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》!」

 

 神崎のフィールドの黒き魔竜が剛腕をバタバタして抵抗するも、抵抗虚しく連れていかれてしまうと同時にディーヴァも《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》がドナドナされたことで檻から解放され、膝をつく。

 

――ダ、ダムドが!! 珍しく手札に来たのに!!

 

「これは困った――《クリボン》を守備表示に変更し、カードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 そして強力モンスターをむざむざ奪われた神崎が内心で沈痛な声を漏らすも、表面上はおどけたように困った振りを見せながら、足元の《クリボン》を丸まらせながらターンを終えた。

 

《クリボン》 守備表示

攻2 → 守200

 

 バトルロイヤルルールにより、ようやく攻撃権が解放された初のターンだと言うのに、神崎は碌に動けていなかった。せっかくの強力モンスターも奪われる始末でいいところがない。

 

 

 そうして次なるディーヴァのターンとなったが、《溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム》の檻から解放された後から膝をついたままのディーヴァは動きを見せなかった。

 

「ディーヴァ、大丈夫?」

 

「……問題ない。ボクのターン、ドロー! メインフェイズ1開始時に2枚目の魔法カード《強欲で金満な壺》を発動し、エクストラを6枚裏側除外! 2枚ドロー! 更に墓地の永続魔法《方界(カルマ)》を除外し、『方界』カードをデッキから手札に!」

 

 心配気なセラの声が届く中、ゆっくりと立ち上がったディーヴァが一気に手札を増強させる中、サーチした1枚のカードを天にかざし――

 

「そして2体のヴィジャムとデューザの計3体の方界たちを統合し、次元召喚!!」

 

 それを合図とするようにディーヴァの三体の方界たちがキューブ状に分解されながら混ざり合う。

 

「紡ぎし闇よ! 純白の光よ! 世界を高次へ導くべく、新たなる次元の道を拓け!!」

 

 やがて深緑の球体から巨大な塔のような突起が伸びる中、球体の身体が開くと共に――

 

「――出でよ、《方界超獣バスター・ガンダイル》!!」

 

 横に3つ連なった球体からそれぞれ黄金の塔が伸びる異形が埋まれ、左右の球体の先から外に広がるように鍵爪が翼のように伸びた。

 

《方界超獣バスター・ガンダイル》 攻撃表示

星4 光属性 獣族

攻 0 守 0

攻3000

 

「バスター・ガンダイルが自身の効果で攻撃力を3000上げるが――まだだ! 魔法カード《方界波動》発動! 相手モンスター1体の攻撃力を半減させ、僕の『方界』モンスターの攻撃力を2倍に!! セラ! 力を借りるよ! 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の攻撃力を半減!!」

 

 さらに《方界超獣バスター・ガンダイル》から伸びた触手がセラのフィールドに移っていた《溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム》を貫き、脈動する度にマグマの身体の体積が小さくなっていく。

 

《溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム》

攻 6 → 攻 3

 

《方界超獣バスター・ガンダイル》

攻3000 → 攻6000

 

「バトル!! 《方界超獣バスター・ガンダイル》は3回攻撃が可能! 今度こそ次元の狭間に消えるがいいッ!!」

 

 やがてマグマからなる炎迸る身体となった《方界超獣バスター・ガンダイル》の中心の球体から大口が開かれ、灼熱のレーザーが放たれんとするが――

 

「相手の攻撃宣言時、手札の《クリボール》の効果発動。攻撃モンスターを守備表示に変更します」

 

 その前に球体状のクリボーこと《クリボール》の捨て身のタックルによって、身体を回転させられながら地に落ちる《方界超獣バスター・ガンダイル》。

 

《方界超獣バスター・ガンダイル》 攻撃表示 → 守備表示

攻3000 → 守 0

 

「くっ……! 往生際の悪い――ボクは墓地の魔法カード《方界波動》の効果発動! 墓地のこのカードと『方界』モンスターを任意の数除外し、その分だけフィールドのモンスターに『方界カウンター』を乗せ、アンディメンション化させる!!」

 

 こうして、神崎のしぶとさの洗礼を浴びるディーヴァが指を差せば――

 

「ボクは《方界超帝インディオラ・デス・ボルト》を除外し、セラのフィールドの《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》に方界カウンターを乗せ、アンディメンション化!」

 

 その先にいた《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の身体は色を失うように石化されていき、かつてのマグマの魔人を思わせる姿は鳴りを潜めた。

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》方界カウンター:0 → 1

 

「アンディメンション化されたモンスターは、攻撃はおろか、効果も無効化された――ボクはカードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 かくして、攻撃力6000の三回攻撃という超ド級モンスターを繰り出したディーヴァだったが、その攻めは思う様に通らない。

 

 なにせ、単体のモンスターを強化して戦うディーヴァのスタイルは、神崎のデッキの中核を成す防御性能が高いクリボーたちとすこぶる相性が悪いのだ。

 

 冥界の王のように、複数の大型を展開して攻め切った方が、リソースが削り易く神崎の痛手となるが、分離・合体の過程を踏むディーヴァのデッキにそれを求めるのは厳しいだろう。

 

 ゆえにセラは、その穴を埋めるべく手札の2枚のカードに目を落としながら、デッキに手をかける。

 

「わたしのターン、ドロー! このスタンバイフェイズに本来ならば《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の効果によりダメージが発生しますが――」

 

「アンディメンション化されたモンスターの効果は無効化されている!」

 

 そして神崎の厄介な置き土産である《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》もディーヴァの打った手により、無力化されていることから、勝負の流れ自体は未だ彼ら兄妹の中にあった。

 

「だとしてもかえって的になってしまう現実に変わりありません」

 

――攻撃する手段が此方にはないですけどね。

 

 とはいえ、神崎の言うように、セラが奪った2体のモンスターは神崎の貧弱な気力から攻撃力も雀の涙ほどしかない。

 

 このまま放置するのは悪手であろう。だが、そんなことはセラも承知の上。いや、セラのデッキを前にすれば何の障害にもならない。

 

「承知の上です――手札より永続魔法《幻界突破》を2枚発動! このカードはわたしのフィールドのドラゴン族モンスターをリリースし、同じレベルの幻竜族モンスターをデッキから特殊召喚します」

 

 なにせセラのデッキは、相手が気力を尽くして攻撃力を高めたモンスターを奪い、完全に己のしもべと化すもの。

 

「ですが、《ダーク・アームド・ドラゴン》はともかく、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》は悪魔族」

 

――成程。此方のデッキも凡そ型が見えてきたな。

 

「承知の上と言った筈です! 永続罠《DNA改造手術》を発動! これにより、フィールドの全てのモンスターはわたしが宣言した種族になります――勿論、ドラゴン族を宣言!」

 

 ドラゴン族でなければならない縛りも、緑の手術衣を着た謎の悪魔のドクターが散布したフィールドを満たせば――

 

 丸い羊の身体から尾と翼が生えた後、龍の頭を伸ばし、

 

『羊トークン』

獣族 → ドラゴン族

 

 マグマの魔人が、マグマの竜となってセラの頭上でとぐろを巻き、

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

悪魔族 → ドラゴン族

 

 3つの球体が横に繋がる異形の両サイドからドラゴンの翼が生え、

 

《方界超獣バスター・ガンダイル》

獣族 → ドラゴン族

 

 真ん丸の毛玉から竜の翼が生えた。

 

《クリボン》

天使族 → ドラゴン族

 

 

「2枚の永続魔法《幻界突破》の効果で《ダーク・アームド・ドラゴン》と《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を次元シフト!!」

 

 やがてセラに奪われた神崎のモンスターたちから俗世への執着が薄まったことで、天へと昇っていくモンスターたちの身体が透き通るように透明になって行き――

 

「次元召喚! 高次の世界より帰還せよ! 《メタファイズ・アームド・ドラゴン》!! 《獄落鳥》!!」

 

 黒き魔龍の身体は浄化されるように白く、いや透き通る身体と化していく。

 

 やがてセラのフィールドにて、肉体はそのままに邪念が消え失せ、神聖な聖竜として咆哮を上げた。

 

《メタファイズ・アームド・ドラゴン》 攻撃表示

星7 光属性 幻竜族 → ドラゴン族

攻0(2700) 守1000

攻2700

 

 さらにマグマの巨人から、マグマの竜へと華麗なる転身を遂げていた《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》は、その身体を覆う炎が弾けると共に、内より鳥と見まがう竜が飛翔し、天を舞う。

 

 緑と赤の二色の羽根が舞う中、白き背羽根と黄金の尾が宙に幻想的な光景を生み出す。

 

《獄落鳥》 攻撃表示

星8 闇属性 幻竜族 → ドラゴン族

攻0(2700) 守1500

攻2700

 

――攻撃力最大とは……気力の違いが身に染みる。

 

 そうして呼び出されたセラの2体のモンスターの攻撃力は最大値。

 

 その貧弱な気力では出せぬ、攻撃力MAXの姿に神崎が内で一人ごちるなか――

 

「バトルフェイズ! 《メタファイズ・アームド・ドラゴン》で《クリボン》を攻撃!」

 

 透んだ身体を持つ幻竜の剛腕が居合いのように構えられる。だが、狙う竜の翼で体を覆う《クリボン》は守備表示。

 

「ですが、《クリボン》は守備表示。ダメージは発生しません」

 

「そうはいきません! 次元領域デュエルでは、モンスター同士のバトルダメージは発生せず、破壊されたモンスターの表示形式に即したフィールドでのステータス分のダメージを受けます!」

 

 神崎の言う様にダメージが発生しない――かと思ったら、そんなことはなかった。

 

 次元領域デュエルは普通のデュエルとは一味も二味も違うのだ。

 

「つまり、私は《クリボン》の守備力分のダメージを!?」

 

――!? なら《クリボン》は攻撃表示にしていた方が良かった!?

 

「アームド・パニッシュメント!!」

 

 そうして抜き放たれた《メタファイズ・アームド・ドラゴン》の剛腕から放たれた真空波によって吹き飛ばされた《クリボン》が神崎の腹筋に直撃しなら砕け散った。

 

「ぐぅっ!?」

 

神崎LP:1600 → 1400

 

 次元領域デュエルのルール説明を求めなかったゆえに、弊害が神崎を襲う。

 

――成程、ディーヴァくんがやけに攻撃力0を攻撃表示で特殊召喚していたのには、そんなカラクリが……

 

「そして永続魔法《幻界突破》によって呼び出されたモンスターがバトルで相手モンスターを破壊した時! そのカードはデッキに戻ります!」

 

 砕け散った《クリボン》が光となって己のデュエルディスクに吸い込まれて行く中、次元領域デュエルに考えを巡らせる神崎へ、セラは攻撃の手を休めることはない。

 

「これでとどめです! 《獄落鳥》でダイレクトアタック!」

 

 がら空きの神崎のフィールドを悠然と翼を広げながら残りライフ1400の神崎をクチバシで貫かんとする《獄落鳥》。

 

――直接攻撃は通常のデュエルと同じなのか!?

 

「では、その攻撃宣言時、私は墓地の《クリボーン》を除外し、効果を発動。さらに手札の《クリボール》をチェーンして発動し、《クリボール》自身を墓地に送り、《獄落鳥》を守備表示に」

 

 だが、そのクチバシを通り抜け、先のターンの焼き増しのようにまた《クリボール》の球体ボディが相手の額に激突。

 

 それゆえか、《獄落鳥》は目を回しながらフラフラと元の場所へと不時着していった。

 

《獄落鳥》 攻撃表示 → 守備表示

攻2700 → 守1500

 

「そして最後に《クリボーン》の効果で、墓地から『クリボー』モンスターを任意の数だけ特殊召喚します」

 

 そんな《獄落鳥》をいつの間にか神崎の周囲に浮かぶ《クリボー》たちが手を振り、見送っていく。

 

《クリボー》×3 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻0(300) 守200

攻 3

 

《クリボール》×2 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻0(300) 守200

攻 4

 

「防がれましたか……わたしはカードを2枚セットしてターンエンドです」

 

「そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》の効果を発動です。フィールドの《クリボール》を墓地に送り、1ドロー」

 

 こうしてなんとかディーヴァとセラの攻撃を防いだ神崎は手を振る《クリボール》とお別れしながら手札を増やしつつ、己のターンにどう動くべきかについて頭を回す。

 

 なにせ、今回のデュエルはいつものような「相手をぶっ飛ばす」ことに主眼を置いていない。

 

――さて、手札は潤沢だが、次元領域デュエルで負けた場合、どうなるのかが問題だ。彼らを害する行いをする訳にもいかない以上、引き分けがベスト……

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ」

 

――とはいえ、私にとって「引き分け狙い」なんて器用な真似はおろか、下手をすると此方が負けかねない現実が辛い。

 

 そうして思案を巡らせる神崎の目的はあくまで平和的解決――プラナたちが悪党であれば話は簡単だったのだが、そうでない以上、問答無用でぶっ飛ばせば角が立つ。

 

 具体的には遊戯たちの不興を買う事態になりかねない。

 

 だとしても、気を抜こうものなら神崎が死にかねない具合な為、なんとも困った状況だった。

 

 

 

「おいおい、なんだ」

 

 

 だが、そんな困った状況を更にかき乱しかねない声が響く。

 

「オレを抜きにして愉しそうに遊んでいるとは――つれないじゃないか」

 

 その人物の正体はトラゴエディア。さらっと次元領域デュエルの舞台に観戦ムードで入り込みつつ、ディーヴァとセラを見やり愉し気に表情を歪ませた。

 

――トラゴエディア? 何故、此処に……儀式が終わるまで立ち入らないように話した筈。

 

「……待機との指示を出した筈ですが?」

 

「そう邪険にするな。ガキの集まりとはいえ、数が数だ。手を貸そうと思ったのさ」

 

 そうして混迷さが加速していく状況に神崎が疲れた様子で真意を問うが、当の本人はどこ吹く風だ。肩をすくめながら語られた内容に、殊勝な想いなど欠片も感じさせないのは気のせいではあるまい。

 

「貴方は先程の……」

 

「……ほう、大方、千年アイテムの処遇をかけたデュエルといったところか」

 

 そんな最中、乱入者へと視線を向けるセラのことなど、意に介す様子もないトラゴエディアは現状を把握した後、馬鹿にするように大きく息を吐く。

 

()()()()()の為に、御大層なことだ」

 

「千年アイテムを『こんなもの』……だと?」

 

 しかし、放たれた言葉へピクリと眉をひそめたディーヴァの姿に、トラゴエディアは面白いものを見たと邪悪な笑みを見せた。

 

「何だ? まさか貴様らも『こんなもの』を神聖だのなんだの崇めている連中か?」

 

「取り消せ!! これはシン様が崇高な目的の為に! 穢れた世界からの次元シフトを成す為に――」

 

「ククク、フフフ……ハハハハハハハ! こいつは傑作だ! こいつらは何も知らんのか! 千年アイテムが何で出来ているかも、どんな目的で生み出されたのかも!」

 

 そうして挑発されるがままに、ディーヴァは己が正当性を訴えるが、トラゴエディアはその姿を前に腹を抱えん勢いで嗤う。

 

「憐れよなぁ、ペテン師に騙され、今や鉄砲玉か」

 

 やがて「馬鹿なガキだ」とばかりに見下すトラゴエディアの視線は、ディーヴァにとって許容できないものだった。

 

 それを許せば、彼の恩人である「シン様」のことすら貶めることになると。

 

「シン様を侮辱するな!!」

 

「ならシン様とやらの何を知っている? 救って貰ったのか? 利用しようとしただけじゃないのか? この一大事にソイツは何をしている?」

 

 だが、そんなディーヴァの激昂をトラゴエディアはせせら笑いながら逃げ場を塞ぐように、問い詰めていく。

 

 仲間のピンチに姿すら現さない相手を信用するなど馬鹿の所業だと。

 

「貴様らが鉄火場にいるというのに、ソイツは何処に隠れているんだ?」

 

「シン様は死んだ! 殺されたんだ!! お前たちのような欲に穢れたものに! バクラに!!」

 

 しかし、そうしたトラゴエディアの難癖などにディーヴァは惑わされない。シン様がこの場にいない? 当然だ、なにせ、当の昔に亡くなっているのだから。

 

 ゆえに、シン様の想いを受け継いだ自分たちが、その意志を継ぎ、欲に塗れた世界からの別離を果たすのだと、その為に神崎を倒すのだと。

 

「クックック、ならばなおのこと命を狙う道理はないだろう――そのバクラならソイツが殺したよ」

 

「なん……だと……?」

 

「仇を討って貰えてよかったなぁ」

 

 だが、ディーヴァの恩人であるシン様を殺したバクラは、プラナ的には思いっきり欲に塗れたアウト人物によって仇討が果たされていた。

 

 しかし、ディーヴァは惑わされないとばかりに、檄を飛ばす。

 

「嘘を吐くな! バクラは未だ童実野町にいることは分かっている!!」

 

「それは宿主の獏良 了くんです」

 

 そんな両者のやり取りの最中、千年リングの内に潜んでいた邪悪な人格であるバクラと、宿主である獏良 了を混同するディーヴァの言に、此処で神崎が割り込みながら会話のテーブルに乗った。

 

「千年パズルに王の魂が眠っていたように、千年リングには『大邪神ゾーク』の魂が眠っていた――彼はそれに乗っ取られただけになります」

 

「そん……な……」

 

 そうして明かされた情報に信じられない様子のセラだったが、此処でギャラリーのプラナたちの中から怒声が響く。

 

 

「信じられるものか!!」

 

 

「マニ……?」

 

「お前たちの言葉が真実である証拠が何処にある!」

 

 それは幼子ばかりが目立ったプラナの一団の中の大柄の青年の1人――若干、蟹っぽい髪型をしたワシ鼻の褐色肌の――マニが、仲間であるディーヴァたちも見たことがない程に怒りを見せていた。

 

 プラナの中でも最年長と思しきマニは、シン様との関わった期間が長い部類ゆえに、「恩人が殺された」事実にかなりの割り切れぬ想いを抱いていたことは明白。

 

 

 そうして次元領域デュエルが完全に中断されつつ、場の空気に不穏なものが巡る様子を何とも愉しそうな様子で見やるトラゴエディアが茶化した様子で零す。

 

「痛いところを突かれたな、神崎」

 

――悪魔の証明染みてるな……

 

「『シン様』という方の『死』の真実に一番近いのは当時、現場にいたあなた方です」

 

 やがて、段階を踏むように神崎が語り始めるが、正直な話、神崎は『シン様』が『どういう人物なのか?』すら分かっていない。

 

 バクラが害した相手を全て把握している訳でもない以上、知る由のない話だ。

 

 だが、「シン様」が何処の誰であろうとも、神崎が知る「原作知識」という情報は「獏良 了」が善良な人間であることを確約してくれている。

 

「ゆえに問います――獏良 了くんは、初めからシン様を害そうとしていましたか? 人が変わったように口調が荒くなったことは? シン様を殺したタイミングは何時ですか?」

 

 それゆえに、神崎が行うのは情報のすり合わせ――それは、なにも神崎自身が情報を精査する必要はない。

 

 プラナたちの中で行われれば良い。その切っ掛けを与える事こそが神崎の仕事。

 

「千年リングに宿る意思に関して信じられないのであれば、名も無き王の器であった武藤 遊戯くんに問うてください――彼の言葉であるのなら、信じるに値するでしょう?」

 

 そうして、この世界における絶対的な指標を並べ、あげつらいながら問うのだ。

 

「あなた方の恩ある相手――『シン様』を殺したのは一体、『誰』だったのか、今一度よく考えてみてください」

 

 

 彼らの中の真実を。

 

 

 やがて、シン様の死の現場にいた面々が過去の記憶を巡る中、マニが何かに気付いたように顔を上げ、仲間に確認を取っていく。

 

 

 暫くして、互いに無言で顔を見合わせたプラナたちから戸惑いの感情が見える中、トラゴエディアがポツリと呟いた。

 

「思い当たる節があるようだな」

 

 その声にピクリと反応を見せたセラは、一同を代表するように質問を投げかける。

 

「先程、トラゴエディアさんが語った、千年アイテムが『何で出来ているか』『何の為に生み出されたのか』――その答えを貴方は知っているのですか?」

 

 それは神崎側の真意を再度確かめるかのような発言だったが――

 

「セラ! こんな奴らの言葉を信じるのか!」

 

「待て、ディーヴァ。シン様が亡くなられたのは獏良 了が千年リングを身に着けた後だ――その時の彼は態度を豹変させ、『住み心地の良い宿主を見つけた』とも言っていた」

 

 此処で自分たちプラナ以外に心許さないディーヴァが「相手の口車に乗るな」とばかりに叫ぶが、それを制したマニが「シン様が死んだ当時の状況」を語る。

 

 千年アイテムを求めた獏良の父が、千年リングに適合できなかったゆえに死亡した事実から、当時幼かった獏良 了が凶行に走ったとプラナたちは考えていた。

 

 だが、新たにもたらされた情報を加味すると、闇人格「バクラ」の存在を否定できない。

 

「千年リングが此処にある以上、シン様の仇討も既に終わっている……ことになる」

 

 こうしてプラナたちが、過去の幼き心のままに下した結論に、疑念の種から芽が出ていく。

 

 なれば、後は水をやるだけ。

 

「厳密には、大邪神ゾークは、名もなきファラオと武藤くんたちによって討滅されています――私が直接滅した訳ではありません」

 

――おぉ、話し合いで終息しそうな雰囲気。

 

 やがて注釈を織り交ぜ、疑念の芽に水を注ぐ神崎は、この次元領域デュエルを無事に脱することが出来ると希望を持つが――

 

「だとしても、奴らが千年アイテムを破壊しようとしている事実に変わりはない!!」

 

――やっぱり其処に戻って来るか……

 

 ディーヴァが言う様に「シン様の仇は誰よ、問題」が解決しようとも、「千年アイテムぶっ壊すの許せねぇ!」問題が残っている。

 

 プラナの目的である穢れた世界からの脱却――次元シフトに千年アイテムが必要不可欠である以上、避けては通れない問題であった。

 

 だが、そんな不穏な空気が戻る中、マニが切り出す。

 

「……其方が千年アイテムを破壊しようと思った理由を問いたい。最初の説明は本質の部分ではないのだろう?」

 

「マニ! キミまでこんな奴らの言葉に耳を貸すのか!!」

 

「だが、彼らの言い分は筋が通っている!! 万が一仇でない者を手にかければディーヴァ! キミとて高次の次元に至れなくなる可能性があるんだぞ!!」

 

 なおも強硬な姿勢を崩さないディーヴァだが、プラナである彼らにとって負の感情に呑まれれば、彼らが語る理想郷への切符を失いかねない。

 

 それはマニとしても、避けたいところだった。仲間を失う辛さは、シン様の死の際に痛い程味わったゆえに繰り返したくないのだろう。

 

 

 そうしてプラナたちの絶対的かに思われた繋がりがかき乱される光景をトラゴエディアが面白い見世物だと嗤う。

 

「ククク、仲間割れか? 高次の存在とやらが聞いて呆れるな」

 

「トラゴエディア、煽るような発言は慎んでください」

 

「お前は、相変わらず妙なところで甘いな」

 

 とはいえ、神崎の珍しく強い口調にオーバーに手を上げて見せるトラゴエディアに反省の色は皆無だ。そんな享楽家の姿勢に、諦めの視線を向けた神崎は、プラナたちへの説得に戻る。

 

「私が知る限りの千年アイテムの製造は、古代三千年前のエジプトで侵略者を退ける為に生み出されています――言ってしまえば軍事目的。次元シフトと言った目的はありませんでした」

 

「その情報元は何処ですか?」

 

 そうしてセラに促されるままに情報を開示していく神崎だが、それらは情報元が真っ当なものに制限していた。神崎を「欲に塗れた」と評した相手の言葉から、「欲に塗れていない相手」の言葉なら信じられるだろうと。

 

「アーサー・ホプキンス教授からです。彼の人柄を知って頂ければ、信頼できる情報であるとあなた方にも納得して頂けると思います」

 

「……では材料は? あなた方はその『材料』を問題視しているようですが」

 

「……えぇ、そうなります」

 

 だが、核となる情報を問うたセラに、返答の歯切れが悪くなった神崎をトラゴエディアは顎でしゃくるような仕草を見せながら、軽く告げる。

 

「なんだ、神崎。さっさと教えてやればいいだろう」

 

「子供に聞かせるような話じゃありませんよ――なので、あなた方の中の年長者と思しきマニさんにお教えします」

 

「気遣いは不要だ。皆に聞かせて貰って構わない」

 

 やがて体格から年齢を判断した神崎を余所に、指名されたマニはプラナ全員が共有すべき情報だと判断するが、神崎からすれば「そうすべきでない情報である」為、再度念を押す。

 

「その判断を貴方に委ねると言っているんですよ」

 

「やはり、答えられないようだな!」

 

「ククク、さっさと教えてやればいいだろう。千年アイテムの材料は『生き――」

 

 だが、この期に及んで言葉を濁す神崎へ不信感の籠った声を上げるディーヴァだが、笑いを堪えながら第三者の立ち位置であるトラゴエディアが答えようとした最中に、その動きが不自然な程にピタリと止まった。

 

「――……!! ァ、ェ……ぐっ、くくく、『行動の制限』か。貴様の命を狙っているこのガキどもがそんなに大事か?」

 

「言ったでしょう? 子供に聞かせるような話ではないと。では、マニさん――これを」

 

 やがて停止した世界から今しがた自由を取り戻したような様子を見せるトラゴエディアを余所に神崎は名刺にペンを奔らせマニへとカードならぬ名刺手裏剣を放つ。

 

「……名刺?」

 

 そうして己の足元に突き刺さった名刺を拾ったマニが不思議そうな眼差しを向けるが――

 

「裏面を見て下さい」

 

「裏? …………そんな……だが、いや、しかし……」

 

 名刺の裏に端的に描かれた情報に、マニの瞳は大きく見開かれ、動揺に揺れ動く中、その心の隙間を縫う様に神崎の声が届く。

 

「信じる、信じないはあなた方に任せます。ですが情報が情報だけに、伝達する相手には気を配って頂きたい」

 

「マニ、一体なんだったのですか?」

 

「隠す必要はない、マニ! どうせ嘘に決まっている!!」

 

 そして目に見えて動揺するマニの姿に、セラとディーヴァがそれぞれ別ベクトルでマニを心配するような言葉を投げかけた。

 

 

 さらに周囲のプラナの少年少女たちも固唾を呑んで視線を向ける中、マニは暫し瞳を閉じた後――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『生きた人間』だ」

 

 残酷な現実がひも解かれた。

 

 

 






欲深き人間たちを贄にして生み出したアイテムで、穢れた世界から次元シフトする

――って、凄く皮肉が効いていると思う今日この頃。


そして――
revil様より支援絵を頂きました。うれしい(語彙消失)

https://img.syosetu.org/img/user/317191/68877.png
GX時代より若めなギース・ハントと、笑顔の神崎のイラスト
――これストーリー後半で裏切るヤツやん(謎の関西弁)
今作のタイトルが遊戯王風ロゴになっている細やかな演出が光ります。

https://img.syosetu.org/img/user/317191/68880.png
そして此方は、今は亡き(おい)冥界の王の「腕」使用時の開眼Ver神崎のイラスト
――強そう(小並感)
でも、この「腕」で書類仕事しているであろう神崎ェ……



先んじてQ&A――

Q:セラの剣のようなデュエルディスクって?

A:原作の遊戯王DSODの読み切り版にて、未知のデュエリスト(セラのアバター)が使用していたもの
今作では、プラナたちの不思議ぱわぁーで出来ている設定。

セラがKCの市販品のデュエルディスクを持っているのは流石に変ですし(汗)



~今作のディーヴァのデッキは原作同様の「方界デッキ」である為、割愛~

~今作のセラのデッキ~

相手モンスターを奪って、永続罠《DNA改造手術》で「お前、ドラゴン(族)だな?」してからの
永続魔法《幻界突破》で「次元シフト!(幻竜族化)」するデッキ。

遊戯王アプリ、デュエルリンクスにて、幻竜族の《メタファイズ・アームド・ドラゴン》を使用していたゆえのチョイス。(他のセイクリッド? 知らぬ)

次元領域デュエルにて――
相手が「ハァァアアアア!!」と気合を入れて攻撃力を最高値にしたモンスターを奪うことで、有利を取る。
(劇場版ではバンバン遊戯と社長がフルパワー出していましたが、「普通は出ない」そうなので)

奪ったモンスターがどんなレベルでも永続魔法《幻界突破》が対応できるように多用なレベルのモンスターを投入している為、

原作特別読み切りで使用した《流星方界器デューザ》の効果も活用できる。
目指せ、原作再現、攻撃力8800P(パルス)!!(なお難易度)




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