マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
百済木さん「藍神(ディーヴァ)ェ……お前(恩人の死から幼き心のままに仲間を守らねばと賢明に強くあろうと背伸びして、やっと高次の次元に至れる時が来たと思えば、変なヤツからその土台を崩しかねない発言をされ、シン様を信じたいのに疑ってしまう弱い己を強い言葉で誤魔化して、シン様を失った後に唯一残った仲間との絆を守ろうと必死に足掻く、まるで主人と死に別れた子犬が雨の中で濡れながら涙を誤魔化すようなその姿は)ホント可愛いなァ……」






第205話 暗闇の中で

 

 

「……『生きた人間』だ」

 

「生きた……人……間……?」

 

 

 マニからもたらされた情報に、プラナたちのざわめく声が漏れ出始める。

 

 それはある種の疑念染みたもの――彼らの内では、己が信じた者が音を立てて崩れるかどうかの瀬戸際だった。

 

 

 だが、そんなものはディーヴァの耳には届かない。

 

 

 いや、届いてはいるのだろう。ただ、()()()()()()()()だけで。

 

 

 マニが叫ぶように、神崎へ何か問うている姿がディーヴァには何処か遠くのものに思える。

 

 

 セラが何か話しているが、その声もやはりディーヴァには届かない。

 

 

 そんなディーヴァに過去の光景が蘇る。シン様の最後の言葉が、その胸で反芻される。

 

『安心しなさい。みんな同じ場所で会えるから。貴方には……貴方に相応しい次元が待っている』

 

 シン様は奴隷同然だったディーヴァを救ってくれた。己と妹のセラを救ってくれた。

 

 

 シン様は慈悲深く、それでいてディーヴァたちを家族同然に愛してくれた。同じ境遇の仲間たちと巡り合わせてくれた。正しき世界へ導いてくれた。

 

 

 あの人の言うことを聞いていれば、仲間と共にいられる。高次の次元で永遠に、理想郷で永遠にあの暖かさを享受できる。

 

 

 だというのに、シン様の教えを否定する者が現れた。

 

 

 欲に塗れ、虚を述べる口が、空っぽの言葉が、仲間たちを惑わせる。

 

 

 美しき宝物の黄金の輝きが、人の命によって生み出された――そんな嘘を並べたてて。

 

 

「貴方の言が真実であると証明できますか?」

 

「此処に製法を記した書があります。実際に試せば証明できますが……私がするつもりがない以上、証明は不可能です」

 

 探るような縋るようなセラの声に、欲深き者が虚ろを述べる。

 

「ですので、逆に問います」

 

 ディーヴァたちの結束を崩さんと、欲深き者が仲間を惑わせる。

 

「あなた方は千年アイテムの何を知っていますか?」

 

 だが、プラナたちは知らない。

 

 欲深き者が放つ言葉の真偽を図る材料がない。その秤であった「シン様」がいないのだ。彼らの心に迷いが生まれるのは必然だった。

 

 

 千年アイテムの素材は? 製造方法は? どれだけの犠牲の上に成り立ったものだ?

 

 

 彼らは何も知らない。そしてディーヴァもまた何も知らない。

 

 いや、知る必要などないのだ。

 

「信じない……信じない!! キミたちの言葉など信じない!!」

 

 ディーヴァは、自分たちは、シン様の教えだけを信じる。

 

 そうしていれば、高次の次元に至れるのだ。過去の辛い思いを二度と味わわずに済むのだ。

 

「ディーヴァ……」

 

 

「ボクたちこそが選ばれた存在――プラナ!」

 

 

 余計なものを見るな。欲深き者の虚言を聞くな、シン様を疑うような言葉を放つな。

 

 自分たちは、自分たちで完結した高次の存在なのだから。

 

 他には何もいらない。

 

「この穢れた世界も人間さえも捨て去り、新たな次元に行くんだ!!」

 

 そんなディーヴァの身を裂くような叫びに、意思に、量子キューブが応えるように妖しき光を放つ。

 

「量子キューブが!?」

 

 異変に反応するマニを含め、プラナたちは知らぬが、千年アイテムは使用者の願いを叶える。

 

 

 友達が欲しいと願った遊戯に、生涯の友――アテムを導き、

 

 原作にて、死した愛する恋人と再会を願ったペガサスに、一瞬の再会を許し、

 

 一族の柵からの解放を願ったマリクに、一族の要となっていたアテムの殺害を助力し、

 

 マリクを助けたいと願ったイシズに、マリクが、弟が助かる未来を見せた。

 

 

 そう、量子キューブも、この千年アイテムも、使用者の願いを叶えんと妖しき光を放つ。

 

 

 ディーヴァの、彼の望みは、己が信ずるものたち――プラナたちを理想郷に導くこと。

 

 

 違う。

 

 

 今、ディーヴァが望んだのは排斥。

 

 眼前の存在の排除。

 

 己が信じる理想を美しいままにする為の排他。

 

 

 残酷な現実などいらない。

 

 

 美しい思い出があればいい。

 

 

 その願いは叶えられるだろう。

 

 

 

 

 歪んだ形で。

 

 

 

 

 やがて量子キューブから津波のように噴出した黒い粒子がディーヴァの身体を瞬く間に呑み込んでいく――願いを叶えてやろう、と言わんばかりに。

 

 だが、その黒き激流に恐怖を抱いたディーヴァは思わず叫んだ。

 

「――助けて、セラ! 助けて、シャーディー様!」

 

 己が血を分けた家族を、己の全てを救ってくれた恩人を。

 

「――兄さん!!」

 

 咄嗟に手を伸ばしたセラの手も、僅かに届かず黒き粒子に呑まれたディーヴァ。

 

 そしてそんな超展開に反応できていなかった神崎は、ディーヴァの最後の言にハッとする。

 

――シャーディー様!? えっ!? まさか「シン様」はシャーディーのこと……!?

 

 今更、『シン様』こと『シャーディー・シン』の正体を知った神崎は、怒涛の情報量に混乱する頭を強引に冷やし、ディーヴァの元へ一瞬で距離を詰めた後、ディーヴァが呑まれた黒い粒子の渦に躊躇なく腕を突っ込んだ。

 

――くっ、手ごたえがない! 雲でも掴んでいる感触……! 後、何か皮膚を刺すような感覚が!?

 

「トラゴエディア! これが何か分かりますか!!」

 

「さぁな、千年アイテムは良くも悪くも染まり易い。あのガキが言っていた『プラナーズマインド』とやらが乱れたことで、邪念に呑まれた――そんなところじゃないか?」

 

 己が身体を黒い粒子が侵食する中、渦の中にいるであろうディーヴァを手探りで探る神崎に告げられるトラゴエディアの説明は漠然としたもの。

 

――確定情報はなし……か!

 

 復讐の為にと、三千年前のエジプトにて神官たちから千年アイテムの情報を盗んでいたトラゴエディアにすら分からぬ事態。

 

 更に神崎が持つ「アヌビスから奪った知識」でも、量子キューブの存在は未知だった――情報が圧倒的に足りない。

 

「セラさん! マニさん! アレもあなた方が言うところの救済とやらですか!?」

 

「い、いえ、量子キューブの力は穢れた世界からの次元シフト――選ばれた民だけが理想郷に渡る為のものの筈……」

 

「シン様からも、このようになるなどとは……」

 

 そうして得体の知れない黒い渦に躊躇なく腕を突っ込んだ神崎へ、戸惑う様子で返答するセラとマニ。

 

 ディーヴァの身に起こった状況を誰一人として理解できていなかった。そして神崎の手には相変わらず何の手応えもない。

 

「つまり、これは暴走し――ッ!?」

 

 だが、突如として黒い粒子の渦が弾けたと共に神崎は吹き飛ばされる。

 

 そうして宙から着地した神崎の足が地面を削りながら元の立ち位置に戻った後、ディーヴァがいる筈の方向へと視線を向けた先に見えたのは――

 

「そうだ――次元領域とは純粋なるもの」

 

 黒い外皮で全身を覆われ、獣のような足で大地に立ち、腕の量子キューブが変形したデュエルディスクが心臓部に移動したディーヴァ()()()なにかが異形の姿で現れた。

 

 やがて白く染まった髪から覗く、顔の上半分が幾つもの朱色のキューブを歪に積み上げた宙に浮かぶ2つの目玉が神崎を射抜く。

 

「ディーヴァくん……では、なさそうですね」

 

「あのガキが、随分と様変わりしたな」

 

 そんな異形と化したディーヴァの視線に神崎とトラゴエディアが別ベクトルの反応を見せる中、ディーヴァは心臓部に埋め込まれたような量子キューブが変形したデュエルディスクに手を当てつつ語り始める。

 

「見るがいい。この醜く美しい姿を――次元領域に美しき不純物が一滴でも混じった結果がコレだ」

 

 そして朱色のキューブが連なったような尾と、藍色のキューブが集合して出来たような翼を怒髪冠を衝くように天へと向けながら、ディーヴァは宣言した。

 

「さぁ、今こそ行こう、新たな次元へと!! 暗黒の次元へと!!」

 

 次元領域デュエルは此処で終わりだと。

 

「――暗黒次元領域デュエルの始まりだ!!」

 

 そして周囲に黒い粒子――「暗黒粒子」がばら撒かれ、周辺の全てを侵食するようにあらゆる対象に付着し、僅かずつながらも崩壊させていく。

 

――暗黒次元領域デュエル!? なにそれ!? というか、さっきの黒いのが広がって!?

 

 己の皮膚に触れた暗黒粒子から、「これ」が「どういったものか」を凡そ把握した神崎は、地下神殿の入り口付近へ向けて叫ぶ、

 

「――トラゴエディア!!」

 

「やれやれ、人使いの荒いヤツだ――――《地縛神 Uru(ウル)》」

 

 やがて肩をすくめるトラゴエディアは懐から1枚のカードを取り出し、右腕の蜘蛛の痣を示せば、地下神殿が大きく揺れ、天井に巨大な蜘蛛の地上絵の全容の一部を垣間見せた。

 

「地震……!?」

 

「これでその黒いのが外に広がるのは防げるだろう。オレたちも出られんがな」

 

「助かります――このデュエルの間、保てば構いませんよ」

 

 大地の揺れにふらつく仲間に手を貸すマニを余所に、神崎は短くトラゴエディアに礼を告げる。

 

 これは、地上に《地縛神 Uru(ウル)》の地上絵を発動させることで、暗黒粒子が広範囲に散布されないように、地上絵内部に留める為のもの。

 

「未だ事情は呑み込めませんが、彼がデュエルに戻る意思は理解できました――ならば、やることは一つです」

 

 こうして異形の姿となり、暗黒粒子をばら撒く存在となったディーヴァを余所に、「次元領域デュエル」ならぬ「暗黒次元領域デュエル」に戻った神崎は、問題解決の為に手札の1枚のカードを引き抜きつつ思案する。

 

――シン様がシャーディーならば、この場にいない理由も説明がつく。恐らく原作知識を彼に露見させた私のせいだ。

 

 それは記憶編で確かに生存が確定していたシャーディーがこの場にいない理由。だが、それは既に論じるまでもなく明白だった。

 

 なにせシャーディー自身から「原作知識の漏洩は非常に危険」だと聞き及んでおり、アテムとの接触すら最低限に留めていた姿を見れば、プラナたちに会いに行けないことなど自明の理。

 

――私の軽率な行動が、彼らから恩人との再会を奪った……

 

 そう、全ては神崎が発端となった――訳では実はない。

 

 劇場版の情報を鑑みれば、あんまり関係なかったりすることが分かるが、神崎が知らぬ以上、意味のない話だ。

 

 そうして勘違った罪悪感の只中に埋もれる神崎は、己が何を成すべきかを定め動き出す。

 

――ディーヴァくんの様子が明らかにおかしいが、こういう時は相手のエースモンスターを破壊すれば良いと相場が決まっている!!

 

「速攻魔法《機雷化》を発動! フィールドの《クリボー》及び『クリボートークン』を全て破壊し、破壊した枚数だけ相手フィールドのカードを破壊します!」

 

 ゆえに3体の《クリボー》たちがピューと飛んだ後、ディーヴァとセラのモンスターたちにしがみ付き――

 

「私は破壊された3体の《クリボー》の数――《方界超獣バスター・ガンダイル》、《メタファイズ・アームド・ドラゴン》、《獄落鳥》を破壊!」

 

 自爆。その衝撃によって土煙が舞う中、煙が晴れた先からがら空きになったセラのフィールドと元に戻ったディーヴァの姿が――

 

――どうだ!?

 

「破壊されたバスター・ガンダイルの効果! 墓地の方界モンスター3体に分離! 戻れ、ゲイラ・ガイル! ヴァルカン・ドラグニー! デューザ! そしてデューザの効果でデッキから3枚目の永続魔法《方界(カルマ)》を墓地へ!」

 

 残念ながら存在せず。変わらず異形の姿でモンスターを操り、己がしもべを呼び出すディーヴァは健在だった。

 

 そんな中、深緑の球体が翼を広げ、

 

《方界帝ゲイラ・ガイル》 攻撃表示

星1 風属性 天使族 → ドラゴン族

攻 0 守 0

 

 赤き球体が触手をしならせ、

 

《ヴァルカン・ドラグニー》 攻撃表示

星1 炎属性 天使族 → ドラゴン族

攻 0 守 0

 

 黒き球体が、剛腕を伸ばす。

 

《流星方界器デューザ》 攻撃表示

星4 光属性 機械族 → ドラゴン族

攻0(1600) 守1600

攻0

 

――戦闘で破壊されない《方界(いん)ヴィジャム》を呼ばない?

 

「そしてバスター・ガンダイルの更なる効果により、デッキより『方界』カードを手札に!!」

 

 だが、先程までとは違う戦法を取り始めたディーヴァが天にかざした手へ闇が集まり、1枚の嫌な雰囲気のするカードが形どられ手札に加わる姿に、神崎は暫しの思案を巡らせる。

 

――しかもエースモンスターを破壊しても駄目……か。どうするべきだ?

 

「悩む程でもあるまい。『ああ』なることを選んだのは他ならぬアイツだ――何時ものように潰して終いでいいだろう? 迷う必要が何処にある」

 

「こう見えて、いつも迷っているんですけどね――魔法カード《貪欲な壺》を発動し、墓地の3体の《クリボー》と《クリボール》、《ダーク・アームド・ドラゴン》をデッキに戻し2枚ドロー」

 

 しかし、そんな思案を見透かしたように物騒な提案をするトラゴエディアの発言を余所に神崎は欲深き顔の壺をぶっ壊しながら、新たなカードを迷いを振り切るように引き抜いた。

 

「さらに魔法カード《手札抹殺》を発動。全てのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分、新たにドロー。此処で私は《クリボーン》を通常召喚」

 

 そうして手札が一新された中、神崎の手札から白き毛玉のクリボーである《クリボーン》が紺のヴェールを被りながら祈るように小さな手を握る。

 

《クリボーン》 攻撃表示

星1 光属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 2

 

「バトルフェイズへ、《クリボール》で《流星方界器デューザ》を攻撃」

 

 やがて残った1体の《クリボール》が《流星方界器デューザ》に向かって体当たりする中、相手の黒い球体状の身体がキューブに分解されるように砕け散った。

 

「だが、攻撃力が0となっている以上、次元領域デュエルではダメージが発生しない!」

 

――《流星方界器デューザ》の効果を狙う様子を見せない……いや、済んだ話だ。

 

「《クリボーン》で《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》を攻撃」

 

 しかし次元領域デュエルの特性によりディーヴァにダメージは通らない中、相手の動きを注視しつつも追撃として《クリボーン》が頭の紺のヴェールを揺らしながら体当たりを敢行するが――

 

「それは通さない! 速攻魔法《月の書》! モンスター1体を裏守備表示にする!」

 

「チェーンして永続罠《闇の増産工場》の効果により、私のフィールドの《クリボーン》を墓地に送り、1枚ドロー」

 

 空から注いだ月の光に、眠気に襲われた《クリボーン》がフラフラと失速していく中、地面にポトリと落ちる前にベルトコンベアーに乗せられ、ドナドナされる。

 

「さらにチェーンが組まれたことにより、手札から《ハネクリボー LV(レベル)9》を自身の効果で特殊召喚」

 

 そして、そのベルトコンベアーの行き着く先から《クリボーン》とハイタッチを交わしながら、一本角の深紅の兜と、巨大な爪が伸びる赤い籠手を着けた《ハネクリボー》が飛び出した。

 

 その威容はまさに大幅パワーアップならぬレベルアップを果たした姿と言えよう。

 

《ハネクリボー LV(レベル)9》 攻撃表示

星9 光属性 天使族 → ドラゴン族

攻? 守?

 

「《ハネクリボー LV(レベル)9》の攻守は相手墓地の魔法カード×500と『なる』――あなた方の墓地の魔法カードの合計は6枚」

 

――ゆえに次元領域デュエルの影響を受けない……筈!

 

 そうして今までの神崎の気力の微妙さゆえのしょっぱい攻撃力とは一線を画す力に「クィイイイ!」と力強い雄叫びを上げる《ハネクリボー LV(レベル)9》

 

《ハネクリボー LV(レベル)9》

攻 ? 守 ?

攻3000 守3000

 

――よし!

 

「《ハネクリボー LV(レベル)9》で《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》を攻撃します」

 

 やがて久しいまともな攻撃力で《ハネクリボー LV(レベル)9》が《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》から放たれたしなる触手の先の斧を、籠手の爪で弾きながら直進し、敵を真っ二つにせんと巨大な爪を振り上げた。

 

「させません! その攻撃宣言時に罠カード《好敵手(とも)の記憶》を発動! 攻撃モンスターの攻撃力分のダメージをわたしが受ける代わりに、そのモンスターをゲームから除外します!」

 

セラLP:4000 → 1000

 

 だが、そうした《ハネクリボー LV(レベル)9》の姿は映像がプツンと途切れるように消え去り、眼前の敵を見失った《方界帝ヴァルカン・ドラグニー》の触手だけが向かう先を探す様にユラユラと動くだけ。

 

「…………私はバトルフェイズを終了し、カードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 こうしてまたまた碌な攻撃が通らぬままにターンを終えることになった神崎は次のターンプレイヤーのディーヴァを警戒するように見やる。

 

 そんな最中にセラが異形と化したディーヴァへ縋るように叫んだ。

 

「兄さん! どうしてしまったの! その姿は一体――」

 

()のターン、ドロー! 墓地の永続魔法《方界(カルマ)》を除外し、デッキから『方界』カードを手札に!!」

 

 しかし、そんなセラの声を無視してディーヴァは心臓部からデュエルテーブルのように伸びる量子キューブが変形したデュエルディスクからカードを引き抜く。そこに妹であるセラの叫びが届いている様子はない。

 

「さらに魔法カード《極超辰醒(きょくちょうしんせい)》を発動! 手札及びフィールドから『通常召喚できない』モンスターを2体――ゲイラ・ガイルとヴァルカン・ドラグニーを裏側で除外し、2枚ドロー!」

 

 そうして引いたカードが天へとかざされ、天上より降り注いだ極光がディーヴァ自身のフィールドを焼き焦がし、その熱量が手札へと集っていく。

 

「さらに魔法カード《悪夢再び》を発動! 墓地より守備力0の闇属性モンスターを2体手札に加える!!」

 

 やがてその熱に巻き付くように大地から伸びた黒き闇がディーヴァの手元に集まり――

 

「さぁ、今こそ見せよう、俺の力を!! 手札の『方界』カードを3種――《方界縁起》《方界獣ダーク・ガネックス》《方界獣ブレード・ガルーディア》を公開し、このカードたちを特殊召喚!!」

 

 異形と化したディーヴァの尾の先から力が流し込まれるように多量のキューブが連なり、重なり、纏まり、伸びていく。

 

「闇! 闇! 闇! 光を喰らい世を眩ませ! 現れよ! 《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》!!」

 

 そしてディーヴァの背後には、立方体の只中に浮かぶ紫色の球体の左右から同色の腕の生えた異形――《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》が、指先代わりのブレードで空を切る中、肩口と掌に浮かぶ眼球をギョロギョロと動かした。

 

 さらにその《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の左右を挟むように、2体の同じく透明な立方体に浮かぶ紫色の球体から三本の黄金の蛇のように長い腕が伸び、鍵爪の手についたそれぞれの眼球が神崎を見やる。

 

《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》×3 攻撃表示

星10 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(3000) 守 0

攻3000

 

 同種のモンスターでありながら、異なる姿を見せる3体の大型モンスターの出現に対し、冷静にディーヴァのデュエルディスク上のカードテキストを超視力で確認した神崎の内心は大いに動揺に揺れる。

 

――エンド時に3000効果ダメージ持ちが3体!? いや、相手も引き分けは望んでいない以上、バトルが終われば、方界獣たちが呼び出されるか。

 

 なにせ、《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》は――

 

 自身の攻撃力以下のモンスター効果が効かない → 大半のクリボーたちの効果封殺。

 

 エンド時に互いに3000ダメージ → 神崎のライフ残り1400しかない。

 

 モンスター戦闘破壊時に追加攻撃 → クリボーたちを幾ら呼ぼうが焼き払ってくる。

 

 と、まさに今の神崎をぶっ殺しにきている効果なのだ。

 

「バトル!! 《クリボーン》を蹴散らし、クリムゾン・ノヴァたちの攻撃が貴様を襲う!!」

 

「ですが次元領域デュエルのお陰で、私のダメージは2ポイント!!」

 

 そうして中央の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の伸びしなる腕が放たれ、《クリボーン》を弾き飛ばし、そのまま神崎を薙ぐように吹き飛ばす。

 

神崎LP:1400 → 1398

 

 かと思いきや、《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の腕が神崎の右肩に叩きつけられた段階で止まった。相手のマッスルが抜けなかったらしい。

 

 だが、身体がダメージ分だけ暗黒粒子に侵食されていく神崎の様子にディーヴァは得意気に語る。

 

「ククク、このデュエルは、もはや今までの次元領域デュエルとは別物――ライフが減る度に、お前たちの身体は暗黒粒子に喰われてゆく!!」

 

――2ポイントでこれ!?

 

「最後はどうなるのか………問うのは野暮でしょうね」

 

 たった2ポイントのダメージで、神崎の身体のかなりの部分を暗黒粒子の侵食が進んでいく中、「敗北した場合はどうなるか」を神崎が問おうとするが、聞くまでもない事実であろう。

 

 ゆえに返答代わりに中央の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》はもう一方の手を振り上げ、神崎の頭蓋を割らん勢いで振り下ろす。

 

「知りたければ、己が身で確かめてみるがいい!! バトルで相手モンスターを破壊したクリムゾン・ノヴァはもう一度だけ続けて攻撃できる!! ダイレクトアタックだ!!」

 

「墓地の《クリアクリボー》の効果発動! デッキから1枚ドローし、それがモンスターカードなら特殊召喚し、バトルさせる!! ――私が引いたのは《クリボー》!!」

 

 だが、その神崎の頭上に跳び出した紫色の毛玉《クリアクリボー》が一瞬で真っ二つにされ、その中から黒い毛玉《クリボー》が飛び出すも、やっぱり一瞬で真っ二つにされた。

 

《クリボー》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 7

 

 

 その《クリボー》の死を伝えるような爆発が、《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の振り下ろした一撃を僅かに逸らし、神崎の頭蓋ではなく大地が割れる。

 

「だとしても残りのクリムゾン・ノヴァの攻撃は防げまい!!」

 

 そうしてギリギリ躱した神崎へ追撃を宣言するディーヴァだが、彼らの頭上から毛玉が5つばかり落ちてきた。

 

『クリボートークン』×5 守備表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 4

 

「なにっ!?」

 

「特殊召喚した《クリボー》に対し、速攻魔法《増殖》を発動させて貰いました――これにより、3体の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の連続攻撃は私にまで届かない!」

 

 そう、1体目の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の2回目の攻撃は未だ終わってはいない。

 

 神崎を守るべく現れた《クリボー》が破壊される前に『クリボートークン』として5体に分裂し、地面をボヨンボヨン跳ねた後で宙に浮かんでいるのだ。

 

 そして、これは同時に《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》たちの追加攻撃効果を加味しても、ダイレクトアタックは通らないことを意味している。

 

「ならばクリムゾン・ノヴァの2回目の攻撃と、残り2体のクリムゾン・ノヴァによる5連撃を受けるがいい!!」

 

 だとしても、暗黒次元領域デュエルの「特殊ルール」によるダメージは防げないと、3体の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》の5つの腕が、引け腰の5体の『クリボートークン』をそれぞれ貫いた。

 

 それにより、爆散した5体の『クリボートークン』たちの衝撃が神崎を襲い、暗黒粒子が更にその身を蝕む。

 

神崎LP:1398 → 398

 

「ですが、これで――」

 

「罠カード《方界合神》発動!! 3体のクリムゾン・ノヴァを此処に束ねる!!」

 

 だが、「防ぎ切った」と安心する神崎を余所に、異形と化したディーヴァの尾から大量のキューブが噴き出し、3体の《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》たちを覆いながら細かなキューブへと分解していき――

 

「邪悪なる意識よ、集え! 世界を光なき絶望へと導く為に、今こそ漆黒の闇から降臨せよ! 次元融合召喚!! 来たれ、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》!!」

 

 分解され、再結合したキューブは、ディーヴァの尾を脚部とした全身の関節部に眼球がうごめく深紅の巨体の化生と化し、王冠の如き目鼻のない顔が獲物である神崎を見下ろした。

 

《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》 攻撃表示

星10 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(4500) 守3000

攻4500

 

――攻撃時、此方のライフを半減する2回攻撃の効果持ちのモンスター!?

 

「行け! クリムゾン・ノヴァ・トリニティ!! そして邪神の攻めに伴う生贄が必要となる――その贄は貴様の命だ!!」

 

 やがて獲物の命を刈り取るべく、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の全身の眼球が赤く光を見せたと同時に、神崎目掛けて赤き光線が放たれ、獲物の命を削る。

 

「くっ……!?」

 

神崎LP:398 → 199

 

 しかし、それは《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の攻撃ではない。本当の攻撃は此処からだ。

 

「ですが、その攻撃宣言時、墓地の《クリボーン》を除外し、墓地より『クリボー』たちを特殊召喚!!」

 

 だが、その前に神崎を守るように毛玉軍団ことクリボーたちが、墓地の《クリボーン》の祈りに応え集う。

 

 とはいえ、通常タイプの毛玉こと《クリボー》も、

 

《クリボー》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 4

 

 《クリボー》に天使の翼が生えた《ハネクリボー》も、

 

《ハネクリボー》 攻撃表示

星1 光属性 天使族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 3

 

 鉄球の身体とネジの尾を持つ《ジャンクリボー》も、

 

《ジャンクリボー》 攻撃表示

星1 地属性 機械族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 8

 

 背中にウジャトの瞳が張り付いた毛玉こと《サクリボー》も、

 

《サクリボー》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(300) 守200

攻 9

 

 額に虹色のプレートのある何処か魚のようなヒレがある《虹クリボー》も、その攻撃力はどれも神崎の気力では何時も以上に貧弱だ。

 

《虹クリボー》 攻撃表示

星1 光属性 天使族 → ドラゴン族

攻 0(100) 守100

攻 6

 

 しかし貧弱ゆえに暗黒次元領域デュエルではダメージが抑えられるメリットもある。

 

「ならば最も攻撃力が上がった《サクリボー》を蹴散らせ!!」

 

 やがて深紅の巨体から左右2本ずつ伸びる鍵爪のついた腕と、腰元に浮かぶ透明な立方体に浮かぶ球体の左右から伸びるブレードのついた触手が、驚きに毛を逆立たせる《サクリボー》に殺到。

 

 案の定、耐えきることなど出来はせず、《サクリボー》は木端微塵に爆散。

 

「ぐっ!?」

 

神崎LP:199 → 190

 

「そしてトリニティは2回攻撃が可能!! もう一度、邪神の裁きを受けるがいい!!」

 

 そうしてディーヴァの追撃を示す様に《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の全身の眼球が赤い輝きを見せ、先程と同様に数多のビームが放たれ、唸る鍵爪が襲来した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは速攻魔法《エネミー・コントローラー》を発動! 《羊トークン》をリリースしてクリムゾン・ノヴァ・トリニティのコントロールをターンの終わりまで得ます!」

 

 だが、ビームが放たれる前に、その射線上へとゲームのコントローラーに繋がれた丸っこい羊こと《羊トークン》が飛び出す。

 

 そんな己の邪魔をする乱入者に苛立ちを見せるディーヴァ。

 

「セラ……!!」

 

「もうやめて、兄さん!! 今の兄さんは本当にシン様の為にデュエルしているの? わたしには破壊を楽しんでいるようにしか見えない!」

 

 しかし、それでもセラは問わずにはいられなかった。ディーヴァが異形と化した原因は不明だが、ディーヴァの仲間想いな面は何も変わっていないと信じて叫ぶ。

 

「今回の件も、わたしたちに全ての教えを託す前にシン様が亡くなられた可能性も――」 

 

「――戯言を! もはやお前が何をしようとも無駄だ! トリニティは相手の効果の対象にならない!!」

 

 だが、その声はディーヴァに届かず、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》へと向かった速攻魔法《エネミー・コントローラー》の力も弾かれ、丸い羊は宙を舞う。

 

「なっ!? くっ……では《ジャンクリボー》のコントロールを得ます……!」

 

「邪魔をするというのなら、お前も俺の敵だ! セラ! 行け、トリニティ!!」

 

 やがて弾かれたセラの一手は神崎の守り手を1体減らす結果に留まらず、さらにディーヴァの障害と判断されたことで《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の眼が向けられ、その身を瞳から放たれた光線がセラを貫いた。

 

 

 

 

 

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》 攻撃表示

星8 炎属性 悪魔族 → ドラゴン族

攻 0(3000) 守2500

攻 12

 

 かに見えたが、セラの身を守るようにマグマの魔人が立ちはだかり、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の光線を遮る。

 

「ラヴァ……ゴーレム?」

 

「相手の攻撃宣言時に手札の《アンクリボー》を捨てることで、互いの墓地の中から自身以外を1体、特殊召喚する」

 

神崎LP:190 → 95

 

 状況の読めぬセラを余所に、神崎の手札から黄金のアンクと小さな翼を持つ紫色の丸い球体《アンクリボー》がライフの半減した神崎を二度見した後、セラと《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》にサムズアップした後、消えていく。

 

 そんな中、ライフが100を切った神崎を()()()()()()ディーヴァは嗤う。

 

「ハハハハハハハ! そうも死に急ぐか! ならば半端に気力を上げたことを後悔するがいい!!」

 

 今まで一桁の攻撃力しか出せなかったゆえに、辛くもライフを繋いできた男が、己を殺しに来た相手の為に、態々手札を使ってまで二桁の攻撃力を持つモンスターを呼び出したのだ。

 

 神崎の気力次第の仮定の話だが、攻撃力が95を超えていれば、残りライフが尽きるリスクを負う無駄な行動を()()()()()()ディーヴァは愚かだと嘲笑う。

 

「――やれ! クリムゾン・ノヴァ・トリニティ!!」

 

 ゆえにその愚かさを打ち抜くように放たれた《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の鍵爪とブレードのついた4本の触手が《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を切り刻み、飛び散ったマグマが神崎の身を削る。

 

神崎LP:95 → 83

 

 もはや神崎の残りライフは83――失ったライフにより、その身の殆どは暗黒粒子に苛まれていく。

 

 だが、暗黒粒子の黒に呑まれつつある姿で立つ神崎の瞳は、異形の奥にいるであろうディーヴァを見定めていた。

 

「そこまで暗黒粒子に苛まれた身で未だ立つか――カードを1枚セットしてターンエンド!!」

 

「そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》の効果を適用。フィールドの《虹クリボー》を墓地に送り、1枚ドロー。そして速攻魔法《エネミー・コントローラー》によってコントロールの移った《ジャンクリボー》が私のフィールドに戻る」

 

 しかし、その視線に気づいた様子もないディーヴァを余所に、《虹クリボー》が光と消えて神崎の手札を潤すが――次のターンプレイヤーであるセラは沈痛な表情を見せた。

 

「兄さん……そのエンド時に罠カード《好敵手(とも)の記憶》で除外したカードをわたしのフィールドに特殊召喚します」

 

 そうして静かに覚悟を決める様子を見せるセラの元に降り立つ赤い鎧を纏った毛玉こと《ハネクリボー LV(レベル)9》。

 

 だが、己の背後の主が神崎でないことに気付き、視線がセラと神崎の間をせわしなく動く。

 

《ハネクリボー LV(レベル)9》 攻撃表示

攻 ? 守 ?

攻4000 守4000

 

「こうなってしまった以上、ディーヴァは……兄は……! わたしが止めます――わたしのターン、ドロー! 《流星方界器デューザ》を次元召喚!!」

 

 やがてディーヴァの、兄の暴走を止めるべく呼び出されたのはディーヴァも使用した「方界」モンスターの1体。

 

 黒き球体状のボディから伸びる腕から、使用者の気迫を受け取るように左右の拳を握った。

 

 とはいえ、今まで「幻竜族」を繰り出していたセラのデッキに「機械族」はシナジーが薄いように思える。

 

《流星方界器デューザ》 攻撃表示

星4 光属性 機械族 → ドラゴン族

攻0(1600) 守1600

攻1600

 

「此処で永続魔法《幻界突破》の効果により、ドラゴン族となった《ハネクリボー LV(レベル)9》をリリースし、次元シフト!!」

 

 そして、なんだかんだで気合を入れていた《ハネクリボー LV(レベル)9》が光と共にその姿を昇華させて現れるのは――

 

「デッキより次元召喚! 《真竜凰マリアムネ》!!」

 

 赤い2本の角とたなびく黄金のたてがみが見える羽毛で覆われた体躯を持つ鳥の如き竜。

 

 羽根を舞わせながらが四対の翼を広げ、鳥の如き四足の足で立つその姿は神秘的そのもの。

 

《真竜凰マリアムネ》 攻撃表示

星9 風属性 幻竜族 → ドラゴン族

攻0(2700) 守2100

攻2700

 

「更に魔法カード《アドバンスドロー》発動! 自分フィールドのレベル8以上のモンスター1体――《真竜凰マリアムネ》をリリースし、2枚ドロー!」

 

 だが、その《真竜凰マリアムネ》の神々しき姿は、すぐさま露と消え、セラの手札へと変換される。

 

「まだです! 魔法カード《隣の芝刈り》を発動! 自分のデッキが相手のデッキより多い時! その枚数が同じになるように自分のデッキの上からカードを墓地に送ります!!」

 

 そうして最上級モンスターを失ってまでセラが行ったのはカードを墓地へ送ること。

 

「わたしのデッキのカードを、兄さんのデッキと同じ枚数になるまで墓地へ!!」

 

 かなりの枚数セラのデッキからカードが墓地に送られたが、セラのデッキは「相手モンスターを奪い永続魔法《幻界突破》で完全に己が僕と化すもの」だ。

 

 ゆえに多量のカードを墓地に送る旨味は殆どない。

 

「デューザの効果! モンスターがわたしの墓地に送られたターンに自身の攻撃力を墓地のモンスターの種類×200! ターンの終わりまでアップする!!」

 

 だが、幻竜族が主体のセラのデッキで異彩を放つ機械族の《流星方界器デューザ》は、その限りではなかった。

 

 本来であれば、永続魔法《幻界突破》で多くのモンスターを呼び出した後の終盤の一手となるものを今この瞬間に、強引に発揮させたのだ。

 

「だとしても、クリムゾン・ノヴァを越えるには15枚以上のカードが必要になる……果たして、そう上手くいくかな?」

 

「わたしの墓地に存在するモンスターの種類は14枚!! よってデューザの攻撃力は2800ポイントアップ!!」

 

 しかし異形と化したディーヴァの懸念に導かれるように、墓地に送られたカードの念を取り込み、巨大化する《流星方界器デューザ》の攻撃力は、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》に僅かに届かない。

 

《流星方界器デューザ》

攻1600 → 攻4400

 

「残念だったな、後1枚多ければトリニティを超えられたというのに」

 

「バトルフェイズ!!」

 

「血迷ったか、セラ!」

 

 だが、それでも《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》へと指を差し、《流星方界器デューザ》に攻撃姿勢を取らせるセラ。

 

 そして信じられない様子を見せるディーヴァに対し、セラは手札の最後の1枚のカードを明かす。

 

「兄さん、もう終わりにしましょう……」

 

「速攻魔法《才呼粉身(さいこふんしん)》……だと……!?」

 

 それはバトルフェイズ時に、己のモンスター1体の攻撃力分のライフを失うことで、そのモンスターの攻撃力を倍化する効果を持つカード。

 

「……確かに、そのカードを使えばデューザは攻撃力8800P(ポイント)になろう――だが、それを発動することが『どういう意味を』持つかは理解している筈だ」

 

 当然、今の《流星方界器デューザ》の攻撃力が倍になれば、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》を倒せ、暗黒次元領域デュエルの特殊ルールにより、攻撃力分のダメージ4500を受け、ディーヴァの敗北となろう。

 

 しかし、残りライフが1000しかないセラのライフはその前に全て失われ、通常のデュエルでは攻撃そのものが届かない。

 

 幾ら「暗黒次元デュエル」という特殊な状況下の中であっても、無謀と評さざるを得ない賭け――だが、成功しても己が身の安否が不明な「それ」にセラは全てを賭けた。

 

「兄さん、貴方を一人逝かせはしません。わたしも……共に」

 

 それは兄を、ディーヴァを、仲間を、止める。ただそれだけの為。

 

「それが貴方を止めることが叶わなかったわたしの……」

 

 唯一の肉親であったにも拘わらず、ディーヴァの心の闇の深さに気付けず、今回のような「暴走」という結果に繋げてしまった贖罪。

 

「……マニ、後のことは頼みます」

 

「セラ……」

 

 やがて、他の仲間のことをマニに願い、覚悟を決めるように静かに閉じられたセラの瞳が――

 

「デューザで攻撃!! 方界遠心拳(ブースト・ナックル)!! そして手札から速攻魔法《才呼粉身》を――」

 

「その攻撃宣言時、手札から《クリボール》の効果を発動」

 

「だが、甘いな、セラ!! 罠カード《方界縁起》を――――」

 

 見開かれると共に、巨大化した体躯で剛腕を振るった《流星方界器デューザ》の拳が、横から飛んできた《クリボール》に激突し、軌道が逸れて地面を砕いた。

 

《流星方界器デューザ》攻撃表示 → 守備表示

攻4400 → 守1600

 

「 「 発ど――――ぇ? 」 」

 

 そして手札及びリバースカードを発動させようとしていたセラとディーヴァの動きがピタリと止まる。

 

 そうしてポカンとした表情を見せる両者の姿は、兄妹ゆえかどことなく似た雰囲気を感じさせた。

 

「《クリボール》の効果で《流星方界器デューザ》は守備表示となりました。ですので、速攻魔法《才呼粉身》を発動する必要はありません」

 

「ど、どうして……」

 

「ターンはどうなさいますか?」

 

「………………ターン、エンド……です」

 

 やがて我に返り、訳を問いただそうとするセラの言をスルーする神崎にデュエルの続行を促され、ターンが渡ろうとするが、一拍遅れて我に返ったディーヴァが怒声を上げる。

 

「――貴様、何の真似だ!!」

 

「そのエンド時に永続罠《闇の増産工場》により、《ジャンクリボー》を墓地に送り1枚ドロー。そして私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ」

 

 まるで二人を「助けた」ような神崎の行為の真意を確かめるディーヴァを余所に、淡々と手札を補充し、神崎はデュエルを進めていく。

 

「手札のモンスター1体を捨て、罠カード《共闘》を発動。フィールドのモンスター1体を、捨てたモンスター1体――《爆走特急ロケット・アロー》の攻守とエンド時まで同じにします」

 

 すると、彼のフェイバリットカードである《クリボー》が突如として《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》を見下ろす程に巨大化し、「グリ゛ィイ゛ィイ゛ィ!!」と野太い声を上げた。

 

《クリボー》

攻 3 守 200

攻5000 守 0

 

 これも「攻守を固定化する効果」の為、次元領域デュエルにおける「気力の可否」は影響しない。

 

「魔法カード《強制転移》を発動。互いのプレイヤーは自分フィールドのモンスター1体を選び、コントロールを入れ替えます」

 

 さらにダメ押しとばかりに、己のモンスターを対価に相手のモンスターを奪う。

 

 今の神崎のフィールドには、おあつらえ向きな対価――攻撃力が一桁代の《ハネクリボー》がおり、そして相手のフィールドには――

 

「バトルロイヤルルールな為、プレイヤーは此方で選ばせて貰います――ではディーヴァくんに私の《ハネクリボー》のコントロールを」

 

「俺のフィールドにはトリニティが1体だけ……!」

 

 強力な効果を持った《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》()()がいる。

 

 よって、他に差し出すモンスターがいない以上、魔法カード《強制転移》を躱すことは叶わない。

 

「くっ!? だが、ただでは通さない! 罠カード《方界縁起》を発動! 己のフィールド『方界』モンスターの数までモンスターに『方界カウンター』を乗せ、アンディメンション化させる!!」

 

 しかし、最後の足掻きとばかりに《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》から咆哮が放たれ、それを受けた巨大化した《クリボー》を石化させていく。

 

『グリ゛リ゛ッ!?』

 

《クリボー》の方界カウンター:0 → 1

 

「これで貴様の《クリボー》が攻撃することは叶わない!! 先に魔法カード《強制転移》を発動しなかったプレイミスを嘆くの――」

 

「チェーンして速攻魔法《バーサーカークラッシュ》を発動。墓地のモンスター1体を除外し、私の《ハネクリボー》の攻守をエンド時まで同じにします――墓地の《爆走特急ロケット・アロー》を除外」

 

 だが、此処でディーヴァの元に飛び立った《ハネクリボー》の天使の翼が、巨大な大翼と化し、神々しい光を迸らせる。

 

《ハネクリボー》

攻 2 守 200

攻5000 守 0

 

「な、なんの真似だッ!?」

 

 そんな中、ディーヴァは「理解できない」とばかりに苛立ちの声を上げた。

 

 態々ディーヴァへ送る《ハネクリボー》の攻撃力を上げた神崎の行動の真意が彼には読めない。

 

「さぁ、此方へ」

 

『クリー!』

 

 だが、そんなディーヴァの疑問はディーヴァの元へ《ハネクリボー》が届いた途端に、奇怪な叫び声を上げた《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》の苦し気な様子が返答となった。

 

「い、一体なにが……!?」

 

 更に異形と化したディーヴァの身体にも、《ハネクリボー》が放つ光が奔って行き――

 

「来い」

 

「なにが起こっ――」

 

 そんな短い神崎の声に、逃げ場を求めるように《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》とディーヴァの異形の身体は砕け散り、神崎へと殺到した。

 

 

 そして、その内より()()()()()()()()()()が宙に投げだされる。

 

「兄さん!!」

 

「ディーヴァ!!」

 

 しかしセラの呼びかけにも、意識がないのか反応を見せず、無防備に落下するディーヴァ。

 

 だが、その身体を滑り込みながらマニが間一髪のところで受け止めた。

 

 

 

 そんなプラナたちの様子を余所にトラゴエディアが神崎の姿を嗤う。

 

「フッ、随分と色男になったじゃないか」

 

「褒め言葉にしては笑えませんね」

 

 今の神崎の身体は、ディーヴァの異形部分と《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》が複雑に混ざり合ったような歪な姿。

 

 身体のあらゆる個所にキューブや、触手、ブレード、肥大化した肉、甲殻、果ては眼球が混ざり合って飛び出し、とても見れたものではない。

 

 当人の言う様に「笑えない」姿だ。

 

 しかしそんな共犯者の様子をトラゴエディアは面白おかしく根掘り葉掘り問う。

 

「具合はどうだ?」

 

「良さそうに見えますか?」

 

「ククク、実のところはオレには分からんからなぁ」

 

 そんな共犯者とのやり取りに、身体に幾重にも飛び出た眼球の内の神崎の瞳がトラゴエディアに呆れた視線を向けた後に、諦めたように小さく溜息を吐き、己が成すべきことへと神崎は意識を戻す。

 

「……バトルフェイズへ、《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》で攻撃するのは――」

 

 それは、己が身に引き寄せたディーヴァを狂わせた部分であろう全てを消し去ること。

 

 

 たとえ、己の身を賭すことになったとしても――だ。

 

 

 それが、シャーディーの在り方を歪めてしまったゆえに現在プラナたちの問題を生じさせてしまったと勝手に勘違いして考えている神崎なりの筋の通し方だった。

 

 

 

「ハネクリボー」

 

 やがて身投げする神崎に抗い最後の抵抗を見せた異形部分が《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》をけしかけ、《ハネクリボー》を貫かんと眼球から放たれる光線と、触手の先のブレードが四方八方から逃げ場を塞ぐように迫る。

 

『クリー!!』

 

 だが、巨大な大翼を広げる《ハネクリボー》の輝きが《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》を異形部分諸共、撃ち抜き、

 

ディーヴァLP:4000 → 2000

 

 ついでに「それら」と一体化していた神崎も撃ち抜いた。

 

 

神崎LP:83 → 0

 

 

 

 地下神殿内に眩いまでの光の奔流が迸る。

 

 

 

 






少々寄り道してしまいましたが、次回で「闘いの儀編」はラストになります。

同時にアンケート期間も終了しますので、悪しからず。



Q:どうして神崎は自滅特攻したの?

A:神崎には劇場版マハードのようにディーヴァの「暴走を併発させている(多分邪念?)()()を打ち抜くことが出来ない為、

「相手を殺す」か「自分が死にそうになる」かしか選択肢がなく、殺す訳にもいかないので、後者を選んだ状態になります。


Q:神崎は何故シャーディーに「命賭けてまで」「筋を通した」の?

A:本編でも触れたように、今回のプラナたちの行いが「シャーディーに原作知識を露呈させてしまったゆえに起こったこと」であると神崎が勘違いして認識している為です。

「原作知識を知った後、アテムの接触を最低限にしていた」事実から、「プラナたちと合流できなくなったのでは?」とか神崎は考えているので、命賭けてでも筋を通そうとしました(なお真相)

本当は全然関係ないですけど、「劇場版DSODの原作知識」が「ない」ので知る由がない状態です。


Q:《暗黒方界邪神クリムゾン・ノヴァ・トリニティ》のコントロールを奪うと、
奪った相手に異形部分が移って、ディーヴァは元に戻るの?

原作の劇場版の情報だけでは「不明」としか言えません。

ですが劇場版の描写を見るに、異形化したディーヴァの尾?の先から暗黒方界モンスターたちが出てきていたので、

ディーヴァの異形化と暗黒方界たちは無関係ではないと推察しました。


所謂「闇マリクと融合した『ラーの翼神竜』を倒せば、マリク助かる論」です。


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