前回のあらすじ
「失ったものは決して戻りません。そこから目を背け、その恐れに囚われれば、己が掌にあるものすら取り零すことになる」
シン様のありがたいお言葉や――聞いとるか、神崎?
第207話 最後の希望
KCのデュエル場にて、ジーク・ロイドは膝をつき、項垂れていた。
ジークLP:4000 → 0
己のライフが0であることを示す音が、自身のデュエルディスクから鳴り響く中、己を見下ろす相手を見上げるジーク。手も足も出なかった。
「こ、これがカードの貴公子の実力か……!」
「ふぅん、詰まらんな」
その視線の先にあった冷たい視線に対し、敗北感に項垂れるジークを余所に海馬は己の右腕についた腕輪へとチラと視線を向けた後、ジークへの興味を失ったように踵を返し立ち去って行く。
「磯野、進捗状況はどうだ」
「ハッ! エネルギー総量に関しては問題ありません! 他の目ぼしいデュエリストですが――」
やがて歩を進める海馬に並んだ磯野に己の計画の状況を問うが――
「構わん。これ以上、質を落とせば純度が落ちるどころか、張り合いすらなくなる」
とある一室に入ったと共に磯野の言を断ち切った海馬は、背後に立つ磯野を余所に天を貫かんばかりにそびえ立つオベリスクの如き塔を見やった。
――あの闘いの儀から1年、ついに此処まで漕ぎ着けた。
此処に至るまでに海馬が払った労力は並大抵のものではない。
だが、それを苦だなどとは海馬は欠片も思ってはいなかった。
――待っていろ……
その全ては己が果たすべきたった一つの野望の為。
その全ては己の望みであるたった一つを叶える為。
その全ては己が相まみえるべき、たった一人の為。
――
その瞳は唯一人を見据えていた。
童実野町の童実野高校にて、卒業を間近に控えた遊戯たちは残り少ない学生ライフを満喫していた。
そんな学園ライフのお昼時、屋上にて友人たちと共に弁当やらパンやらを並べ昼食の一時を過ごしていた遊戯へ、城之内は己の手の中の1枚のカードをグッと眼前に押し出す。
「遊戯! これを見てみろよ!!」
「う、うん、プロデュエリストのライセンスだよね」
「そーなんだよ! やっとプロテスト受かってよー!」
城之内の手に握られていたのは「プロライセンス」――所謂「プロデュエリストの証」。とはいえ引き気味な遊戯の表情から察せられるに――
「もう朝から何十回も聞いたぜ……」
本田が言う様に、この話題は朝からウンザリする程、城之内の口から語られたものだった。最初の頃は我がことのように喜んだとはいえ、流石にこうも間を置かずに繰り返されれば辟易することだろう。
「ばっか、よーやく! これで俺の進路が決まったんだぞ! 100回は聞いてくれ!」
「つっても、ランクは一番下のヤツなんだろ? スポンサーもいないんじゃ殆ど決まってねぇも同然じゃねぇか」
それに加え城之内の「進路が決まった」との主張も本田の言う様に「レーサーを目指す男が免許を取った」くらいの立ち位置である。先は未だに長い。
だが、そんな友人の声に城之内は指をそれらしく振りながら胸を張って返す。
「ちっちっち、甘いな本田! 卒業したら直ぐ、渡米して大会出まくって! 稼いだ賞金を遠征費とかに当てて城之内伝説を打ち立てんだよ!! 渡米する為の金も、バイト代で溜まったからな!!」
これが城之内の進路――出たとこ勝負どころではないが、デュエルの腕に自信があるのならば不可能とは言い切れないのが、また反応に困る。
その道中は過去「バンデット」と呼ばれたデュエリストの歩みに似ているが、果たして偶然なのか。
つまるところ、プロライセンスがあれば参加できる大会の幅も大きく広がり、各デュエルリーグの参入もスムーズに行えるゆえの荒業。だというのに――
「なのに、今の今までライセンス取れてなかったのね……」
「牛尾と、蛭谷とで机とにらめっこしてた期間が長かったからなぁ……」
杏子と本田の呆れ気味の視線が雄弁に語るように、卒業を目前に控えた今日この日までプロライセンスの入手が成せていなかったのは、如何なものか。
その事実に御伽は不思議そうな表情を見せる。
「えっ? 一番下のライセンスの取得にはデュエルの実力を示す以外は、一般常識とか、礼儀やマナー的な心得くらいでそんなに難しくなかったと思うんだけど……」
「城之内、まさかアンタ――そのレベルにずっと受からなかったの?」
なにせ、城之内がようやく取得したプロライセンスは一番下の比較的簡易のもの――入手難易度もそこまで高くはない。城之内の実力を鑑みれば直ぐに受かっていないのは不自然だ。
ゆえに一同の疑問を代弁するような杏子の声に、城之内は痛いところを突かれたと若干声を荒げる。
「う、うるせぇ! 一般常識の中には『平均的な最低限の学力』が必要だったんだよ!!」
「最低限すらなかったのね……」
「まぁ、城之内のヤツは、今まで勉学とは無縁だったからな……」
そう、杏子と本田の懸念通り、今迄、勉学を疎かにしていたツケが城之内を苦しめたのだ。
デュエル方面の試験は、持ち前の実力で容易に突破できたゆえに、「筆記で落ちる人はそこまでいない」と言われるデュエル以外の部分を何度も落ちまくった城之内は、ある種の有名人である。
関係者に「あの人、また来たよ……今度こそ受かってくれよ」と物言わぬ視線を幾度も浴びる程だった。ちなみに城之内の筆記突破の際はスタンディングオベーションがなされたが余談である。
「遊戯は――」
「あっ、ごめん、杏子。ちょっと電話が来ちゃって!」
そうして城之内の奮闘の話題を遊戯に振る杏子だが、当の遊戯はスマホ片手に両手を合わせて小さく謝罪した後に席を外した。
「遊戯……」
「ん~、ここんとこ、遊戯のヤツ忙しそうだよなぁ……」
思わず伸びた手が空を切る杏子の横で城之内は、最近の遊戯の動向に意識を向ける。「付き合いが悪くなった」とは言わないが、闘いの儀を終えた後から、どうにも遊戯はアレコレと動いている様子が見える。
「プロ目指すお前みてぇに、遊戯も『ゲームデザイナー』目指して頑張ってんだよ」
「でも、それって遊戯のお爺さんのお店を手伝いながら、って話じゃなかった?」
本田の予想も、杏子を納得させるには至らないが――
「大会に作品をエントリーさせるなら、あのくらいは普通だよ?」
「おっ、流石『
既にゲームデザイナーとして学生ながらに精力的に活動する御伽の主張を受け、その背中を本田が豪快に笑いながらバシバシと叩く光景に、一先ずの納得がなされた。
「そう……なのかしら」
「つーか、獏良のヤツ、遅っせぇなぁ……またファンの奴らにでも捕まってんのか?」
そんな中、城之内がいつものメンバーの中の1人、獏良 了が未だに合流しない事実に気を向ける。最初はトイレにでも行ったのかと思っていたが、流石にこうも遅いと心配になろう。
そんな「獏良くんはトイレなんかいかないもん!」なんてことを言われかねない城之内を余所に――
「あっ、グラウンド! 獏良くんと――ミホ? 何か話してるわね……」
ふと視線を屋上の下に向けた杏子が指差した学校内のグランドにて件の人物は発見された。
ただ、その周囲にはまばらながら人が集まっており、その中心にいる獏良を指さし何やら話しながらデュエルディスクを装着する野坂ミホの姿が見える。
やがて審判を務めていると思しきレインが何時もの無表情ながらにキビキビした動きでフラッグを振り下ろし、デュエルが開始された。
とはいえ、杏子からすれば「どういう……ことだ……?」な光景だったが。
「アレは多分、今流行りの『LOVEデュエル』じゃないかな?」
「…………ラブ……なに?」
そんな不思議な光景に理解を見せた御伽の発言に、杏子は頭痛を堪えるように頭を押さえた。なんにでもデュエルが絡むな――と。
「『LOVEデュエル』――好きな相手にデュエルで思いの丈をぶつけるんだよ。告白の新しい形だね」
LOVEデュエル――それは本来であれば遊戯王GXの時間軸で披露される愛の儀式。
まさに青春の中で進化したデュエル……そこに情熱をかけ、提唱した恋の伝道師たるデュエリスト、ン~
閑話休題。
「勝ったら、付き合うのか?」
「ハハ、違う違う。あくまで告白の一環だから、勝ち負けは関係ないよ。手紙で告白するみたいに、デュエルで告白するだけさ」
とはいえ、城之内の疑問に御伽が軽い調子で答えたように、特に強制力のあるものではない。愛とは何者にも縛られぬ自由な存在なのだ。
「ミホちゃん、遂に…………いや、俺はキミを応援するぜ!! 頑張れー!!」
かくして、かつての想い人の恋のアタックを応援し始めた本田だが、顔色を悪くしながらピタリと止まり、振り返り叫びながら縋る。
「――ハッ!? おい、城之内! ……いや、やっぱ御伽! 二人のライフは両方とも2000になっちまったけど、デュエルはどっちが優勢なんだ!?」
この中で一番デュエルに詳しそうな(遊戯は電話中でいないので)御伽に縋る本田。応援する身では、勝負の途中経過は気になるところ。
「俺に聞けよ!!」
「えーと、獏良くんのフィールドは儀式召喚した《
城之内の魂の叫びを余所に、御伽が現在までのデュエルの情報を振り返るが――
「セットカードが多いのが気になるけど、野坂さんも前のターンで展開は終えているし、まだどっちが優勢って状況じゃないかな」
「そ、そうかー」
デュエルが始まった序盤も序盤ゆえに、勝敗の天秤が明確には傾いていなかった。
「だから俺に聞けって、本田!!」
「あっ、ミホが動くみたいよ」
「ホントか!? 行っけー、ミホちゃーん!!」
「おい、本田! 俺に――」
やがてLOVEデュエルの愛の脈動が一際大きくなったとギャラリーがザワザワし始める中、叫ぶ城之内を余所に、一同は身を乗り出しながらグラウンドで行われるデュエルを注視する。そこには――
野坂ミホ LP:2000 手札5
《氷結界の水影》 《氷結界の御庭番》 《氷結界の術師》
永続魔法《水神の護符》 伏せ×2
VS
獏良 了 LP:2000 手札3
《
伏せ×5
ご機嫌な具合の野坂ミホが手札の1枚のマイフェイバリットカードをデュエルディスクに叩きつけていた。
「ヴァニティくんを召喚! そして罠カード《メタバース》発動! デッキのフィールド魔法《湿地草原》を発動しちゃうから! これで、レベル2以下の水属性・水族のみんなは攻撃力が1200もパワーアップ!」
フィールドに広がる湿地地帯に降り立つのは、黒髪ながらも何処か獏良と似た髪型をした紺の道着を纏った鋭い視線の青年が足元の水場に波紋から力を受けつつ、指を二本立て印を組み、
《リチュア・ヴァニティ》 攻撃表示
星2 水属性 水族
攻1000 守 800
↓
攻2200
さらに前のターンからフィールドに居た紫の忍び装束で口元が隠されながらも凛々しい面構えが隠しきれぬ青年が、一本に結んだ金の髪を揺らし、
《氷結界の水影》
攻1200 → 攻2400
肩の出た装束に身を包む幼さの残る甘いマスクこと顔立ちをした白髪の少年が2本の剣を左右に携え、長い青のマフラーが風にたなびき、
《氷結界の御庭番》
攻100 → 攻1300
茶のヘルメットを被ったワイルド感タップリの僧が、氷結の如き錫杖を振り上げた。
《氷結界の術者》
攻1300 → 攻2500
「これで前のターンに、魔法カード《同胞の絆》で呼び出したカードも含めて4体のイケメ――モンスターが勢ぞろい!」
それら見目麗しい青年たちは、まさに野坂ミホの命に従う騎士団――騎士っぽいのいないけど――の如く、そして主の剣となる。更に――
「さらに魔法カード《アクア・ジェット》を発動! 水族の御庭番くんの攻撃力を1000アップ!」
2つのジェットエンジンがついたサーフボードのような翼が空に駆ける中、その翼の上に《氷結界の御庭番》は左右の剣を羽に見立てて跳躍した後、器用に飛び乗った。
《氷結界の御庭番》
攻1300 → 攻2300
「でたわ! ミホのマジックコンボよ!!」
「《アクア・ジェット》で吹っ飛ばして行く気ね!」
「みんなGOODスマイルだわ!」
やがてギャラリーの獏良のファンがなにやらよく分からない声援を送る中、野坂ミホは獏良を指さし宣言する。
「バトル! 水影くんは氷結界の仲間がいる時、ダイレクトアタックできる! 獏良くんに届け、わたしの想い!! 行って、
その声に従い《氷結界の水影》がうねった波の上を奔りながら、宙を舞い空より獏良に向けて水飛沫を上げながら駆け、クナイを放った。
「水影さんの攻撃力は2400! これを通せば、獏良くんは!!」
「待つのよ! 獏良くんだって、永遠に独り身な訳がないわ! でも私たちも良く知っているミホなら! ミホならまだ!」
「そうよ! どこの誰とも知れぬ相手にキャプチャーオン! されるくらいなら、いっそ――」
「いや、別にデュエル勝っても交際OKするかは獏良次第だろ?」
「部外者は黙ってて!!」
この攻撃が通れば当然獏良のライフが0になる。恋の運命がかかった一撃を前に絶叫するような獏良のファンの声が響く中、冷静に突っ込みを入れる部外者の牛尾の発言は封殺され――
「なら、罠カード《攻撃の無敵化》を発動するね。これで僕はこのターン、戦闘ダメージを受けないよ」
「だったら、こう! 罠カード《アサルト・スピリット》を発動! 自分が攻撃するダメージ計算時、手札の攻撃力1000以下のモンスターを墓地に送って、その攻撃力分だけ水影くんをパワーアップ!!」
獏良が窮地を脱する為に発動させたリバースカードによって放たれたクナイは光の壁に遮られるが、《氷結界の水影》の背後より、援護に来たるは――
「ダメージが発生しないのに、攻撃力を上げる!?」
「ミホ、一体なにを考えているの!?」
「わたしが墓地に送るのは――攻撃力1000の《ソニック・ウォリアー》!」
緑の装甲に覆われた機械仕掛けの戦士。
だが、この《ソニック・ウォーリアー》――ただの戦士ではない。野坂ミホがイケメンカードじゃないにも拘わらず、長らく共に歩んできたカード。
さらに将来的に幾度となく伝説の蟹頭のデュエリストを救う――予定があるかもしれないカード。
「あ、あれは!? ミホが使い続けてきたカード!」
「どんなにレベルが低くても、どんなに攻撃力が低くても――」
「――ミホのデュエルをずっと支えてきた仲間よ!」
まさに伝説のチームのラストランを思わせる粋な演出に獏良のファンたちも熱く拳を握る。
そんな伝説(予定)の《ソニック・ウォリアー》が空に飛行機雲を描いて消えていった姿に、《氷結界の水影》は追加のクナイを放った。
まぁ、罠カード《攻撃の無敵化》によって生まれた光の壁に阻まれるのだが。
《氷結界の水影》
攻2400 → 攻3400
「そして《ソニック・ウォリアー》が墓地に送られたことで、効果発動! フィールドのレベル2以下――わたしのイケメ……カードたち全ての攻撃力が500ポイントアップ!!」
だが、その闘志までもが弾かれる訳ではない。《ソニック・ウォリアー》が空に描いた熱意に後押しされるように、水もしたたる美男子たちの気力を満ちさせていく。
《リチュア・ヴァニティ》
攻2200 → 攻2700
《氷結界の水影》
攻3400 → 攻3900
《氷結界の御庭番》
攻2300 → 攻2800
《氷結界の術者》
攻2500 → 攻3000
「でも罠カード《攻撃の無敵化》でダメージはないよー」
「は~、次のターンに備えて攻撃力上げといたか」
「ミホ、本気なのね……本気で獏良くんのハートをゲットだぜしちゃう気なのね……」
「たとえ火の中、水の中であろうとも勝利を掴み取らんという意思が鋼の輝きを見せているわ!!」
「(此処までくれば)行くっきゃないわ! やるっきゃないわ!!」
間の抜けた声を漏らす獏良に対し、野坂ミホの狙いを察する牛尾、謎のテンションの獏良のファンたち。
「でも、まだ私の攻撃は止まらないから! ヴァニティくんで《
その声援に後押しされるように《リチュア・ヴァニティ》が印を組んだ指を天にかざせば、湿地地帯から水がうねりを上げて、丸く赤い帽子から橙色の長髪がのぞき、白い法衣に青いケープを纏った女性《
「うーん、なら僕は永続罠《憑依解放》を発動するね。これで僕の霊使いたちは戦闘では破壊されないよ」
「でもでも、《
やがて獏良が発動されたカードを素通りして、鉄砲水の如き水撃が《
「ドリアードが破壊されちゃったから、永続罠《憑依解放》の効果でデッキから守備力1500の魔法使い族――《水霊使いエリア》を裏側守備表示でセットだよ!」
しかし、そうして増水した水が引いた後には、新たな裏守備表示のカードが浮かび上がる。
「きゅうしょにあたった~!!」
「効果は抜群よ!!」
「これで獏良くんもメロメロ状態になった筈!!」
「いや、デュエルに、んな処理ねぇよ」
そんな最中、ミホのLOVEアタックが通った事実に拳を握る一同。呆れ顔の牛尾。無言で旗をパタパタしてバトルフェイズの終了を周囲に知らせるレイン。
「これ以上の攻撃はできないけど、次のターン、水影くんでダイレクトアタックすれば良いだけだし、私はカードを2枚セットしてターンエンド! 絶好調ー!」
「そのエンド時に罠カード《憑依連携》を発動するね! 手札・墓地から守備力1500の魔法使い族を攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚! 僕は《風霊使いウィン》を蘇生!」
そうして、ルンルンでピースし、ターンを終えた野坂ミホに水を差すように、獏良は緑の髪をポニーテールにして結った土色のコートを羽織った少女が、身の丈程の杖と共に相棒の小さなドラゴンを引き連れ、フィールドの仲間の霊使いの元に駆け付ける。
《風霊使いウィン》 攻撃表示
星3 風属性 魔法使い族
攻 500 守1500
「この時、僕のフィールドの属性が2種類以上の時、相手の表側のカード1枚を破壊できるよ――僕は永続魔法《水神の護符》を破壊!」
やがて獏良のフィールドの赤い長髪をざばらに伸ばした小さな狐を連れた霊使いの少女《火霊使いヒータ》と、
角と羽の生えた小さなビーバーを連れた茶色のショートカットに眼鏡が特徴の霊使いの少女《地霊使いアウス》が互いに杖を交差させれば、大地から飛び出たマグマの槍が野坂ミホのフィールドのカードの1枚を貫いた。
「うっ……ターンの終わりに罠カード《アサルト・スピリッツ》の効果が切れて水影くんの攻撃力は戻っちゃう」
己のモンスターたちの効果破壊を守るカードが消えたことに心配気な声を漏らす野坂ミホ。
《氷結界の水影》
攻3900 → 攻2900
野坂ミホ LP:2000 手札1
《リチュア・ヴァニティ》 《氷結界の水影》 《氷結界の御庭番》 《氷結界の術師》
通常罠《アサルト・スピリッツ》 伏せ×2
フィールド魔法《湿地草原》
VS
獏良 了 LP:2000 手札3
《火霊使いヒータ》 《地霊使いアウス》 《風霊使いウィン》 《水霊使いエリア》(裏守備)
永続罠《憑依解放》 伏せ×2
だが、互いの盤面の枚数は凡そ互角とはいえ、獏良のモンスターでは些か火力不足だった。
「僕のターン、ドロー! 魔法カード《死者蘇生》で《
そうした獏良の不利を覆すべく駆けつけるのは、先程、川流れした《
やがてボードから跳躍し、教え子の如き霊使いたちの元に降り立ち、歓迎を受けた。
《
星3 光属性 魔法使い族
攻1200 守1400
「そして罠カード《風林火山》を発動!」
そんな最中、此処で獏良は一発逆転をかけたカードを発動させる。
「風・地・炎・水属性のモンスターがいる時、『2枚ドロー』『相手の手札2枚破壊』『相手フィールドの魔法・罠全て破壊』『相手のモンスター全て破壊』の内の1つを選べるんだ」
「えっ!? でも獏良くんのフィールドには水属性がいないよ!? だって、《水霊使いエリア》リバースしてないもん! も~う、獏良くんったら、慌てん坊さん♪」
「《
「なにそれ、ズルい!?」
《
――なーんちゃって、モンスターが破壊されても罠カード《激流蘇生》があるから、平気だしー! しかも効果ダメージも与えちゃうから獏良くんのライフも――
なにせ、モンスターを守る術は用意されており、なおかつ、このデュエルに幕を引くカードを潜ませている。
霊使いたちの攻撃力が500と貧弱な以上、獏良は野坂ミホのモンスターをなんとしても除去しなければならない。
「僕は……そうだなー、魔法・罠カードの破壊を選ぶね!」
なんて予想を立てていた野坂ミホの考えは、他ならぬ獏良から否定された。
かくして《
「!? ちょ、ちょ~と待った~! (獏良くんへの)想いは断ち切らせない!」
その予想外の事態を脱するべく野坂ミホは慌てて伏せカードを発動させる。
「罠カード《海竜神の加護》! これで、このターン私の水属性レベル3以下のモンスターは破壊されないから!」
「でも、フィールド魔法《湿地草原》含めて破壊されるから、野坂さんのモンスターの攻撃力は下がるよ」
「でもでも、大丈夫! 《ソニック・ウォリアー》の効果の分のパワーアップは残るし、獏良くんのモンスターの攻撃力はどれも低いもん!」
かくして、己が仕込んだ罠もろとも湿地地帯が消えたことで、周囲に元のグラウンドが戻り、野坂ミホのモンスターたちが攻撃力を大きく落とすが、その有利は崩れない。
《リチュア・ヴァニティ》
攻2700 → 攻1500
《氷結界の水影》
攻2900 → 攻1700
《氷結界の御庭番》
攻2800 → 攻1600
《氷結界の術者》
攻3000 → 攻1800
「獏良くんが《
なにせ、野坂ミホが従えるモンスターたちは、獏良の攻撃を制限し、
「同じように『霊使い』たちを『憑依解放』に進化させても、御庭番くんがいるから、『モンスター効果の対象にはならない』から!」
獏良のデッキの切り札格たちの効果すらも弾く。
「来てる! 来てるよ、勝負の流れが! 私の方に来てる!!」
そう、デュエルの勝敗の行方を計る天秤は、既に傾き始めていたのだ。
「ミホ! 此処までくればトコトン応援するわ!」
「私たちのモヤモヤした気持ちを霧払いして!」
「OK! (私たちの応援が)一緒なら負けないわ!!」
――すっげー、フラグ立ててんな……
そうして勝利を間近にした野坂ミホの熱意に引き寄せられるように、獏良ファンの人たちも変なテンションで声援を送る。
「なら僕は罠カード《闇よりの罠》を発動するね。僕のライフが3000以下の時、ライフを1000払って除外した墓地の罠カードの効果を発動できるんだ――僕は墓地の《風林火山》を除外して、効果発動!」
獏良LP:2000 → 1000
しかし、此処で獏良は更なる一手を打った。《
「で、でもでもでも! 罠カード《海竜神の加護》の効果で、私の子たちは破壊されな――」
「2枚ドローする効果を選ぶね」
「な、なーんだ! ただの手札の補充かー!」
だが、その輝きは野坂ミホのフィールドではなく、獏良の手元に集まった。盤面を覆す一手ではないことに安堵の息を漏らす野坂ミホ。
「《水霊使いエリア》を反転召喚。それと墓地の罠カード《憑依連携》を除外して、墓地の『憑依』永続魔法――《憑依覚醒》をセット」
かくして増えた手札を余所に、水色の長い髪を揺らす霊使いの少女が相棒の緑の小さな二足歩行のトカゲを引き連れ現れ、仲間の霊使いと共にハイタッチを交わしていく。
《水霊使いエリア》 裏守備表示 → 攻撃表示
星3 水属性 魔法使い族
攻500 守1500
「そして今引いた分も合わせて永続魔法《憑依覚醒》を3枚発動。これで僕の全てのモンスターの攻撃力は 4 5 0 0 アップするよ」
そんな微笑ましい光景の最中、突如として《
《
攻1200 → 攻5700
《水霊使いエリア》+《風霊使いウィン》+《火霊使いヒータ》+《地霊使いアウス》
攻 500 → 攻 5 0 0 0
「ぇ?」
野坂ミホから呆けた声が漏れる。
先程まで攻撃力500しかなかった少女たちが、突如として攻撃力5000という「白き伝説の竜が三体融合した究極の姿」すら殴り飛ばせる化け物染みた攻撃力を得た光景が広がっているのだ。無理もない。
「――4500アップ!? なんで!? 1体じゃなくて全部!? ズルくない!?」
「あはは……属性1体につき300が3枚だから、そんなにズルくないと思うけど……」
そう、これは属性5×300の1500の攻撃力アップを与えるカードが3枚の計算――カード一つ一つの上り幅は、そう理不尽なものではない。
「獏良くんの気持ちが大き過ぎよ!?」
「全力フルパワーでアローラだわ!?」
「なかなか、なかなか、なかなか、なかなか、大変な状況よ!?」
「いや、セットカードもねぇし、こりゃ決まっただろ」
獏良のファンたちが驚く最中、決着だと頷く牛尾を余所に、獏良は気の抜けた声を上げつつ手を上げ――
「じゃぁ、バトルだね。破壊はできないけど、ダメージは通るから――みんなで《リチュア・ヴァニティ》に攻撃~!」
その身に宿った溢れんばかりの力のままにヒャッハーな具合で《リチュア・ヴァニティ》の頭上に跳躍した4人の霊使いの少女たち。
やがて4人の少女たちは息を揃えて《リチュア・ヴァニティ》の頭上に4つの杖を叩き下ろした途端、轟音と共に巨大な爆発を引き起こした。
「ヴァ、ヴァニティくーん!!」
その凄まじい衝撃の余波を堪える野坂ミホの悲痛な叫びが響くが、土煙が収まった先に生まれていたクレーターの中で、なんか何処かで見たことがあるポーズで倒れた《リチュア・ヴァニティ》の姿が全てを物語っていた。
野坂ミホLP:2000 → → 0
勝利に喜びハイタッチして手を取りあう霊使いたちを獏良と共に微笑ましく眺める《
「決着……勝者……童実野
かくしてレインの宣言の元、LOVEデュエルは決着を迎え、ナイスなデュエルにエン
やがてグラウンドの面々が解散していく光景を屋上で見送る城之内たちに、電話から戻った遊戯が声をかける。
「ゴメン、みんな! あれ? なんの騒ぎ?」
「おっ、遊戯も戻ったか! いやさぁ、獏良のヤツとミホちゃんがデュエルしててよ!」
「さっきまでグラウンドで何か話してたみたいなんだけど……」
「今は、もう解散し終えちゃったみたいだね」
本田と杏子、そして御伽から遊戯が事情を聞き終える中――
「みんなー、遅くなってごめーん!」
「獏良くん!」
先程まで眼下にてデュエルしていた獏良が遅れて屋上での昼食タイムに合流した。
そんな獏良を出迎えた城之内は相手の肩に手を力強く置きながら親指を立てる。
「デュエル見てたぜ、獏良! お前、中々やるじゃねぇか!」
「プロになった城之内くんにそう言って貰えると自信つくなぁ……ありがとう!」
「だろだろ! ふっふっふ、お前も俺のプロの証、ライセンスを見たいだ――」
「あ゛ん゛ず゛ー゛! 負げぢゃっだぁ゛ー!」
だが、そんな2人のやり取りの脇を通り、突き抜けて駆けた野坂ミホのタックルが杏子に直撃した。
「ぅ゛ッ!? ……よしよし――負けた場合は……どうなるの?」
「さっきも言ったように、本当に何もないかな」
――なら、どうしてデュエルするの……
そうして己が胸でさめざめと泣く友人を慰める杏子が、御伽へと疑問を投げかけるが、返る言葉は「何故」としか思えないような内容ばかり。
「ミホちゃん! 見てたぜ、獏良への熱い想いの籠ったデュエルを!!」
「あっ、うん、ありがと本田くん」
「いや~、俺に出来たのは応援くらいだからよ~」
――本田、気付いて。凄い軽く返されてるわよ……
本田も、野坂ミホを慰めるべく言葉を尽くすも、当人からの扱いは杏子の胸中が示す様に雑だった。
本田自身は照れたように鼻をかいてやり切った感を出していたが、その辺は置いておいた野坂ミホは力強く杏子へと視線を向ける。
「でもでも! 聞いて、杏子! 獏良くんから『まずはお友だちから』って返事くれたんだー!」
――ミホ……それ、やんわり断られてない?
「そうなんだ――獏良くんもおめでとう!」
「うん、友達が増えて僕も嬉しいよ!」
そんな杏子の懸念を余所に、額縁通りに言葉を受け取った遊戯と獏良が「友達増えた!」で喜びあっていたが、真相は闇の中である。
やがて時は放課後にまで進み、学生たちも帰路につく頃、「用事があるから」と別行動になった御伽と野坂ミホを余所に、遊戯たち一同は駄弁りながら寄り道を楽しみながら歩を進めていた。
そんな中で、城之内が進路も決まったゆえにノビノビしながら声を漏らす。
「いやー、こんな日も後ちょっとだと思うと、寂しくなるな!」
その言葉通り、こうして毎日、遊戯たち一同が集まる機会は直になくなる。それぞれが己の道を歩んでいくことになるのだから。
「なんだかあっという間だったわよね」
「だな。ペガサス島も、バトルシティも、ワールドグランプリも、エジプトの旅も、そん時は、んなこと考えもしなかったってのに、不思議な話だぜ」
そうして杏子たちが想いを馳せるのは、全てが過ぎ去った時の只中。注釈するような本田の言葉を借りれば「当時」はてんやわんやしていたのが今では嘘のよう。
「思い返せば、バトルシティの時は大変だったなぁ……」
そんな中、ポロリと零した城之内の何気ない発言に、遊戯はふと思い出した。
「そういえば城之内くん、KCからお詫びって話はどうなったの?」
「そうだぜ、城之内。親父さんの更生プログラムだっけか? アレ、みんなで頼んだだろ?」
それはバトルシティの時に城之内がグールズの襲撃を受けた際のこと――それ自体は色々あって大事には至らなかったが、此度の主題はその際に送られた、「巻き込まれた面々へのお詫び」の件。
内実は、本田が言う様に巻き込まれた「皆へ」のお詫びを「纏め」て「城之内の家庭環境の改善」に充てられたのだが――
「………………言わねぇと駄目か?」
件の中心人物である城之内の歯切れはスゴイ悪かった。
「言いたくないなら、ボクは構わないけど……」
その親友の姿に、不安気な視線を見せつつ追及の矛を収める遊戯だが、親友を心配させる訳にもいかぬと城之内は意を決したように語り始める。
「…………すっげぇー、キラキラした目で俺に過去を懺悔してくんだ……こう言っちゃなんだが、逆に怖ぇ」
なにせ、城之内が「血のつながりすら恥」とまで思っていた相手が知らぬ間に「頭の中身、入れ替えられたの?」と思う程の豹変を見せたのだ。普通に怖い。
「ん? この前、家行った時は『出稼ぎみたいなもんに行った』って言ってなかったか?」
「あー、おう、『急に心入れ替えたなんて言っても信じられねぇ』って話になったら、『会わねぇようにする』って話になって、それっきりだ」
そう言えば、と本田が最近の城之内家を思い起こす姿に、城之内はサラッとヘビーな話を返す。
「ちょっと城之内……大丈夫なの、それ?」
「仕事場の同僚の人から時折、連絡と預かった仕送りが来っから問題ねぇよ。それに俺も『親父、親父』って歳でもねぇからな」
思わず心配になる杏子だが、城之内とて、若くして酸いも甘いも知った身――互いに「再出発できたのなら」――と、必要最低限以外は干渉する気はなかった。
酒に溺れ、暴力と管を撒くだけの迷惑極まりない男と、
なんか不気味な程にキレイキレイな心を得た無害で償いの気持ちと勤労意欲に溢れる男。
どちらが「マシ」かと問われれば答えは一つだろう。
「やめやめ! この手の湿っぽい話は終わり!」
やがて城之内は詰まらない話は終わりだとばかりに強引に話題転換を図るが――
「話は変わるけどよ! 俺らで卒業旅行ってもんに――」
「おっと、ようやく来たか」
「モクバくん?」
一同の進む先にて現れた白いスーツに身を包み仁王立ちするモクバによって、彼らの語らいは終わりを告げる。
「兄サマがお前らに用があるんだ。悪いけど一緒に来てもらうぜい!」
かくしてモクバの要請を受け、遊戯たち一同は事情もそこそこに有無も言わせぬ様子でKCに向かうことになった。
多くの機材や研究員が立ち並ぶ広い一室にて、部屋の中心にそびえ立つ巨大なオベリスクの前で腕を組んで立つ海馬が、閉じていた瞳を開きながら言葉を零した。
「来たか、器の遊戯」
その声が示すように、海馬の背後にはモクバに連れられた遊戯たち一同が周辺の機材の山へと目を運びながら到着したところである。
そうして遊戯たち一同を代表して城之内が口火を切った。
「海馬、俺らに用ってなんだ?」
「黙れ、凡骨。所詮、貴様など数合わせに過ぎん――隅の方で大人しくしていろ」
「なっ!? お前が呼んだんだろうが!!」
だが、その発言は海馬によって雑に払われた。怒りを見せる城之内を余所に「いつものことだ」とばかりに杏子を含めた他の面々は周囲へと話題を移す。
「このガラスの向こうにあるオレンジ色のってなんなのかしら?」
「ジュースみたいで美味しそうだなー」
「いや、んな訳ねぇだろ――おっ、あっちの方にいんの、バトルシティん時の研究者のじいさんじゃねぇか」
そして獏良と本田のゆるいやり取りの中、海馬が用がある人物であろう遊戯が前に出た。
「海馬くん、
「どこぞの凡骨と違って察しがいいな」
「この――」
「まぁまぁ、落ち着けよ、城之内。話の腰折ってもしょうがねぇだろ?」
そうして繰り出される海馬節に苛立ちを募らせる城之内を本田が諫めつつ、海馬は今回の要件について話し始める。
「あの闘いの儀――俺の公算では万が一にも貴様に勝ち目はなかった」
「うん、あの勝利は、いくつもの奇跡が重なって生まれた――」
「くだらん謙遜はよせ。それは
切っ掛けは「闘いの儀」だった。
海馬の予想ではアテムに遊戯は勝てない筈だった。
しかし、その海馬の予想を覆し、遊戯はギリギリのところでアテムから勝利を勝ち取り、アテムは冥界に旅立つこととなる。
それが全ての始まりだった。
海馬が「宿命のライバル」と認めたデュエリストが、己が引導を渡す筈だったデュエリストの喪失。
だが、失ったばかりではない。
「貴様という
海馬の言う様に、アテムと遊戯の一戦は彼に「可能性」をもたらした。「世界には、未来には、アテムを越え得るデュエリストがいるのではないのだろうか?」――そんな
「貴様のように、ヤツを越え得るデュエリストを求めて」
「海馬くん……」
現に「武藤 遊戯」というデュエリストはそれを証明してくれた。海馬の予想を覆し、アテムを倒すという結果を添えて。
ゆえに海馬はその
アテムとのデュエルをも越え得る充足感を導いてくれるのだと。
「だが、そんなものは
しかし、その想いは裏切られた。
「海馬くん……?」
「俺はこの1年、世界を巡り『強者』と騙るデュエリストたちを狩り続けた。世界とやらが、この俺の渇きを満たすやもしれぬと」
キース・ハワード、ラフェール、アメルダ、ヴァロン、海馬 乃亜、佐藤 浩二、響 みどり、響 紅葉、北森 玲子、マイコ・カトウ、シーダー・ミール、ウィラー・メット、デシューツ・ルー、ティラ・ムーク、ペガサス・J・クロフォード、天馬 月行、天馬 夜行、リッチー・マーセッド、デプレ・スコット、レベッカ・ホプキンス、孔雀舞、闇のプレイヤーキラー、パンドラ、大下 幸之助、大門 小五郎、ジーク・ロイド、レオン・ウィルソン――
倒した名は、もはや数え切れぬ程。
海馬は闘いの儀を終えてから1年、そんな夥しい程のデュエリストと戦い抜いた。強者と呼ばれる全てを蹴散らしてきた。
「『強者』はいた――『デュエリスト』という点でヤツに並びうる存在も確かにあった」
強いデュエリスト――海馬をして、そうカテゴリーできる相手はごく少数であるがいた。アテムに匹敵し得ると言える程の実力者となればかなり絞られるが、0ではなかった。
アテムとのデュエルを思わせる程の緊張感を感じる程の相手も数人程度はいた。
将来的に、磨けば光るであろうデュエリストも、いなくはなかった。
「だが、俺の血潮を滾らせる
しかし、その全てが海馬の想定を超える輝きを見せてはくれなかった。かつてのアテムとの戦いに感じた高揚感を終ぞ超えることはなかったのである。
一度でも負ければ、諦めもついたやもしれぬというのに、その海馬の願いは他ならぬ「世界の可能性」とやらに否定された。
その絶望は如何なるものか。
「海馬、お前……」
「やはり俺を満たすべき相手はヤツを措いて他ならない。俺は――」
思わず零れた城之内の呟きを余所に、海馬は宣言する。やはり自身を満たすのは――
「――今、此処に! 王の魂との会合を果たす!!」
アテムにおいて他ならないのだと。
それを邪魔するのであれば、冥界の扉だろうが、地獄の門だろうが、こじ開ける――そんな覚悟が海馬の瞳には宿っていた。
そして、アテムと再会したいのは遊戯たちも同じ。互いの利益は一致している。
「海馬くん……悪いけど幾らキミの頼みでも、それは聞けないよ」
「ふぅん、貴様ならそう言うであろうことは想定済みだ」
かに思えたが、海馬の予想通り、「否」を突きつけた遊戯の姿に海馬は獰猛な笑みを浮かべる。
先程、「海馬は世界中の猛者と戦い抜いた」――そんなニュアンスの言葉を告げたが、それは正確ではない。
後一人、試していない。
「この俺を止めたくば――」
最強のデュエリストであるアテムを降した、最強のデュエリストの腕前を――
「――デュエルで止めて見せるがいい!!」
試していない。
やがて海馬の闘志に呼応するように展開されるデュエルディスク。
「……分かったよ。ボクは――」
そして今の海馬に遊戯が返せるのは一つしかない。
「――ボクの全てを賭けて、キミを止める!!」
「 「 デュエル!! 」 」
最強を望む闘いが今、此処に幕を開く。
藍神の妨害がないのでスムーズに進むぅー!
~今作の野坂ミホのデッキ~
野坂ミホのフェイバリットカードを考えた際に、野坂ミホの「獏良くん、大好き!」な在り方が離れなかった為、
「獏良くん似のイケメンカードにしよう!」と《リチュア・ヴァニティ》をチョイス。名前も「ヴァニティ」と「ばくら」――似てる!!(ガバ理論)
その《リチュア・ヴァニティ》メインで戦えるように構築した結果。一般的な【湿地草原ビート】に落ち着いた。
一番の特色として、野坂ミホの面食いな側面から、
モンスターの採用基準に「イケメンであること」を重視(さよなら、髭なおっさんの《氷結界の伝道師》……)
他の特徴としては、打点底上げの為に、《ソニック・ウォーリアー》を《戦士の生還》などで繰り返し手札に揃えて、
罠カード《アサルト・スピリッツ》等により墓地に送って全体強化を重ね掛けするくらいか。
~今作の獏良のデッキ~
オカルトデッキにすべきか悩んだが、DMの決闘の王国編にてのバクラVS闇遊戯の際に
魔法カード《心変わり》に獏良の魂が封印されており、紆余曲折あって《ハイ・プリーテス》に乗り移ったことから――
色違い元である《ドリアード》のリメイクカードである《
実は《
更には全ての「霊術」罠カードに対応しているんだ!!(なお闇)
まさに霊使いの申し子!! 使い魔の権化! ――ということで、最近ストラクが出来た【霊使い】に。
とはいえ、やることは《
「憑依装着」や「憑依覚醒」形態を交えて、
永続魔法《憑依覚醒》で1500パワーアップしつつ、罠カード《風林火山》でオラァ!
するデッキ――
コントロール奪取効果は基本無視して、
フィールド魔法《大霊術-「一輪」》で相手のモンスター効果を牽制しながら、
永続罠《憑依解放》によって戦闘耐性を得た霊使いたちで殴りかかるコンセプト。
永続魔法《憑依覚醒》を重ね掛けすれば、霊使いの打点が恐ろしいことになるぜ!!
やはり力こそパワー!!
獏良 了らしさは……ポワポワしている彼なら、霊使いたちと並んでいても違和感は少なそうなので、そのアレよ(目泳ぎ)