マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
藍神ィ……お前を世界の人気者にしてやるよォ!!







第211話 天才 と 秀才

 

 

 閉鎖空間に取り込まれた神崎は、精霊の鍵を使用する遊戯へと視線を向けつつ現状を整理するように一人ごちる。

 

「精霊の鍵……確かに、それならば私から『真実』を聞き出せますね」

 

「やっぱり驚かないんですね」

 

「いえ、驚いていますよ――牛尾くんから借り受けたのですか?」

 

「――貴方は嘘ばかりだ」

 

――「驚いてる」って言ってるでしょう!?

 

 探るような口調で語る神崎を悲し気な視線で見つめる遊戯。変わらぬ笑顔で「驚いている」などと言われて信じられよう筈もない。

 

 そんな中、遊戯の背後に浮かぶ精霊の鍵によって形成された審判役こと《ブラック・マジシャン・ガール》が明るい声で元気一杯にテンション高めで、進行役を熟し始め――

 

『はいはーい! マスター! わたしの出番が来ちゃいましたよー! デュエルで勝って願いを叶えちゃいましょう! マスターにはこれからあの人にして欲しいことを決めてもらいまーす! でも難しいのは駄目ですからね! 簡単なものにしてくださーい!』

 

「ボクは、『神崎さんがボクの質問に嘘偽りなく答える』ことを願うよ」

 

 その明らかに雰囲気をぶち壊す《ブラック・マジシャン・ガール》の言動など気にも留めない遊戯は、極めて真面目な顔で返す。

 

『無理ですね! もっと簡単なお願いにしてください!』

 

「えっ?」

 

 だが、そのシリアスムーヴはかなり早い段階でつまづいた。

 

『どうしたんですか、マスター?』

 

「でも牛尾くんが『それくらいなら出来る』って――」

 

『でもマスターの願い方だと、あの人はマスターに永遠に隠し事が出来なくなっちゃいますよ? わたしにそこまでの力はありません! もっとイイ感じにお願いします! 腕の見せ所ですよ、マスター!!』

 

 空中で逆さまに己の顔を遊戯の顔に近づけ、目を覗き見ながら語る《ブラック・マジシャン・ガール》の姿に悩む遊戯。

 

 

 そしてそんな2人のやり取りに置いてけぼり状態の神崎は、内心で精霊の鍵の特性へと想いを巡らせる。

 

――そう、上級の鍵は勝負方法がデュエルに制限される上、願いの範疇も酷く制限される。

 

 いつぞやも語ったが、精霊の鍵は3種類存在する。

 

 1つ目は既に破棄されたが、神崎が使用した「最上級」の鍵――だが、今まで幾度となく使用されてきている為、語る必要もないだろう。

 

 

 2つ目が今回、遊戯に使用された「上級」の鍵――レベル5、6のモンスターが審判役として現れ、勝負方法が「デュエルに固定」され、願いも酷く制限される代物。

 

 更には燃料代わりのデュエルエナジーが尽きれば、再充填しなければ再使用ができない、などと最上級の鍵に比べて、かなりスケールダウンしている。

 

 代わりに「オレイカルコスの欠片」などの()()()()()は使用してい「ない」為、「安全性」という面では無問題だが。

 

 

 3つ目は「下級」の鍵――諸々の性能が更に低下している代物なのだが、今回は関係ない為、説明は割愛させて頂こう。

 

 

 

 だが、今の神崎には「そんなこと」よりも気になる点があった。

 

 

――しかし、このドシリアスな場面で、武藤くんが真っ先にイメージしたのが《ブラック・マジシャン・ガール》って…………いや、止そう。

 

 それは、精霊の鍵によって生成されるアバターは「使用者のイメージに大きく左右される」点にある。

 

 神崎の場合の精霊の鍵の使用は「命のかかったシリアスな場面」が大半だった為、プレッシャーや緊張感ゆえに、その精神状態に引っ張られた「おどろおどろしい化け物」が多く、口調や言動も重苦しいものが多かった。

 

 

 そして今回の遊戯の場合は、「亡きアクターの生きた軌跡を探る」「親友の恩人の秘を暴く」という中々にシリアスの場面だというのに、《ブラック・マジシャン・ガール》をイメージし、口調や言動もすこぶる明るい。

 

 

 神崎からすれば「メンタルどうなってんだ?」と思っても仕方があるまい。これが名もなきファラオの器となれるデュエリストの才覚とでも言うのか。

 

 

 未だに神崎のことを放ったらかしで「賭け金」となる願いについて青春の一ページよろしくキャピキャピ話し合っている遊戯と《ブラック・マジシャン・ガール》を眺めながら、神崎が頭痛を覚えてしまうのも無理からぬ話。

 

「では、質問回数を3回に制限してはどうでしょう?」

 

 やがて、そんな完全に蚊帳の外だった神崎の声に、《ブラック・マジシャン・ガール》は遊戯を見つめながら手をポンと叩く。

 

『それなら出来ちゃいますね! どうします、マスター? あっちの人の意見を取り入れちゃいますか?』

 

「回数をもう少し増やすことは出来る?」

 

『出来なくはないですけど……それだと「嘘偽りなく」の部分を変えなきゃ駄目ですね!』

 

 そして神崎をガン無視して遊戯と《ブラック・マジシャン・ガール》が悩む仕草を見せながら話を詰めていく中――

 

「どのくらいで影響が出始めるかな?」

 

『4回目くらいですね!!』

 

 元気よく左右の指それぞれでVの字を作って「4」を示す《ブラック・マジシャン・ガール》を余所に遊戯はチラと神崎を見やり思う。

 

――やっぱり、精霊の鍵……このアイテムに関しては、神崎さんの方が熟知している……

 

 今、遊戯が使用している精霊の鍵は、海馬の発令ありきで牛尾から借り受けたものだが、オカルト課での使用歴は驚く程少ない。

 

 そもそも所持している人間の少なさもさることながら、使用の際に様々な制約が課せられている――安く言えば「凄い緊急事態の際」くらいしか使えない。

 

 だというのに、「賭けのレート」を正確に語って見せる神崎。一体どれ程の回数、精霊の鍵を使って来たのかは語るべくもないだろう。

 

「分かった。それでお願いするよ」

 

『まっかせてください、マスター! それでそっちの人はマスターに何を願いますか?』

 

「そうですね……まぁ、此処はシンプルに当たり障りのないものにさせて頂きます。もし私が勝てば、我々は――」

 

 やがて遊戯の了承を得て、ようやく己へと話題を振った《ブラック・マジシャン・ガール》の声に、神崎は暫し考え込む仕草を見せながら、手早く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――()()()()になりましょう」

 

 

 なんでもない代物の筈にも拘わらず、どこか悍ましさを感じさせる願いを語る。

 

 

『すっごく簡単な願いですね! これで準備は整いました! デュエルの真剣勝負の始まりです! ズルはなしですよ~! デュエル開始ぃ!』

 

 

 だが、《ブラック・マジシャン・ガール》はそれを笑顔で肯定し、有無を言わさぬように右手を上げ、勝負の開始を告げるゴング代わりに振り下ろした。

 

 

「デュエル!!」

 

「デュエル」

 

 

 そうして、ひとりでに展開したデュエルディスクに導かれるように始まったデュエルの先攻は遊戯。

 

 神崎から全てを聞き出すべく、引いたカードから――

 

「ボクの先攻! ドロー! 手札を1枚墓地に捨て、《幻想の見習い魔導師》を特殊召喚!」

 

 一番槍とばかりに《ブラック・マジシャン・ガール》と瓜二つながらも、幼さの残る褐色肌の魔術師の少女が、足首まで伸びる長い銀の髪を揺らしながら現れ、

 

《幻想の見習い魔導師》 攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

「その特殊召喚時にデッキから《ブラック・マジシャン》を手札に! そして魔法カード《ルドラの魔導書》を発動! 魔法使い族――《幻想の見習い魔導師》を墓地に送って2枚ドロー!」

 

 やがて遊戯が最も信を置くしもべたる1枚をその手に手繰り寄せた《幻想の見習い魔導師》が、遊戯へ振り返り小さく手を振ってウィンクした後、光となって消えていき――

 

「此処で魔法カード《ブーギートラップ》発動! 手札を2枚捨て、墓地の罠カード1枚をセットする! この効果でセットしたカードは、即座に発動可能! 罠カード《マジシャンズ・ナビゲート》発動!」

 

 突如として現れた遊戯の背後に浮かび上がる魔法陣より、二つの影が飛び出した。

 

「手札の《ブラック・マジシャン》を特殊召喚し、更にデッキからレベル7以下の闇属性・魔法使い族1体を――《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚!! 黒魔術師の師弟、降臨!!」

 

 その影の一つは当然、黒き法衣を纏う魔術師たる《ブラック・マジシャン》が相手である神崎へ杖を向け、

 

《ブラック・マジシャン》 攻撃表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 もう一つの影たる水色の軽装の法衣を纏った少女が師と鏡合わせになるように杖を構えた。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

「そしてボクのフィールドのレベル6以上の魔法使い族2体を贄に、このカードは特殊召喚できる!!」

 

 やがて遊戯の宣言の元、魔術師の師弟が互いの杖を天にかざせば、二人の魔術師が二対の光となって天へと昇り、光が弾けると共に――

 

「師弟の力! 今、此処に一つとなり、黒き叡知を導け!! 来たれ、《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》!!」

 

 天より降り立つは《ブラック・マジシャン》が更なる修練を得た姿。

 

 外見の差異は背中のマント程度しかないが、鉤爪に捕まれたような宝玉が光る青き杖から迸る輝きと全身に漲る魔力の力強さは比べ物にならない程である。

 

黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》 攻撃表示

星9 闇属性 魔法使い族

攻3200 守2800

 

 

「まだです! 墓地の魔法カード《魂のしもべ》を除外して効果発動! ボクの墓地に魔術師の師弟がいることで2枚ドロー!」

 

 だが、まだ遊戯の進撃は終わらぬとばかりに補充された手札から浮かぶは――

 

「魔法カード《死者蘇生》! 墓地より《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》を蘇生! そして魔法カード《レベルアップ!》発動!」

 

 白きアンクが墓地より、身の丈を超える大剣を肩に担いだ剣士が白縁の紺のコートをはためかせながら現れ、大剣を振るい、周囲に突風を吹き荒れさせ――

 

《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》 攻撃表示

星5 光属性 戦士族

攻2300 守1000

 

「レベルアップ!! 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》!!」

 

 その突風が収まった先には、一回り力強く成長を果たした身で、更に巨大になった大剣を片手で軽々振り回した後、遊戯を守る盾のように大剣を構えた。

 

《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》 攻撃表示

星7 光属性 戦士族

攻2700 守1000

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 そうして1ターン目で最上級モンスター2体を難なく並べて見せた遊戯は様子見だとばかりに神崎を見やる。

 

 

遊戯 LP:4000 手札0

黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》

伏せ×1

VS

神崎 LP:4000 手札5

 

 

――タイム。

 

 

 だが、当の神崎は内心ですっごい情けないことを考えていた。残念ながらデュエルに「待った」も「引き直し」も「仕切り直し」もない。

 

 しかし、それでも神崎の脳内は「タイム」こと「ちょっと待って」を求めていた。なにせ――

 

 

 《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》は罠カードの発動を無効にし、破壊する効果を持ち、

 

 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》が存在する限り、互いの魔法カードの効果は全て無効化される

 

 さらに これ見よがしに伏せられた1枚のカード。

 

 そして神崎の手札は緑一色――魔法カードしかない。

 

 だが、神崎の調子が悪い時の緑一色と侮ることなかれ。手札としてはサーチに展開札もあり決して悪くはない。

 

 ただ、《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》により魔法カードが無効化される状況ゆえに、宝の持ち腐れ状態なだけだ。絶望的である。

 

 

「では私のターンですね」

 

――モンスターだ。壁モンスターを引く。そこから始めよう。落ち着け、カウンター罠も数枚デッキにある。確率は決して低くはない。

 

 ゆえに、そんな絶望的な状況を悟らせぬように頑張ってポーカーフェイスの笑顔を浮かべながら、デッキのカードに手をかける神崎。

 

 内心で懸命に自身を鼓舞しているが、最初から予防線を張っているところを見るに自信は皆無だ。

 

「ドロー」

 

――ドロォォォオオォォオオオォォオオォオオオオオオオオ!!!!

 

 やがて「地面から神のカードでも引くんじゃないか?」と思わせる程の気合を内に滾らせカードを引き抜いた神崎。クライマックス感が溢れているが、まだ彼の最初のターンである。

 

 そして神頼みの如き引きに天は――

 

――来たかっ!!

 

 彼に微笑んだ。

 

「スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ。モンスターをセット――残りの5枚のカードを伏せてターンエンドです」

 

 無事に壁モンスターをセットすることに成功した神崎。ついでに相手の攻撃を躊躇させる為に手札を全て伏せた。

 

「神崎さん……《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》には罠カードの効果を無効化する効果があります。このカードがある限り、貴方の罠カードは――」

 

「ええ、勿論存じております。『発動済みの永続罠やカウンター罠』は無効に出来ないことも含めて」

 

――全部ブラフの魔法カードですけどね!

 

 そんな中、告げられる遊戯の牽制するような発言にも、神崎はブラフを交えた言葉で返す。腹の探り合いに関しては、神崎に一日の長がある。

 

「なら、ボクはそのエンド時に罠カード《裁きの天秤》を発動!! ボクのフィールド・手札のカードの枚数が、貴方のフィールドのカードより少ない時、その差だけドローする!」

 

――ブラフ止めとけば良かった!!

 

 かと思ったら、そんなことはなかった。無駄にブラフを伏せたせいで、遊戯の手札補充を助ける始末。(デュエルにおける)腹の探り合いに関しては、遊戯に一日の長があった。

 

「その差は3枚! よってボクは3枚ドロー!!」

 

 やがて天に浮かんだ神々の天秤の采配により、遊戯の元に光が舞い込む。

 

 

遊戯 LP:4000 手札3

黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》

VS

神崎 LP:4000 手札0

裏守備モンスター×1

伏せ×5

 

 

 そして動きを見せぬ神崎を余所に、遊戯の猛攻が幕を開けた。

 

「ボクのターンだ! ドロー! 《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》を召喚!」

 

 やがて白い帽子と法衣に身を包んだ魔術師の少女が杖を構えながら現れ――

 

《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》 攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1000 守1000

 

「バトル! サイレント・マジシャンでセットモンスターを攻撃!」

 

 早速とばかりに杖から白い魔力を飛ばし、神崎のセットモンスターを攻撃。

 

 そして着弾し、バチッと火花を散らした後にグッタリと倒れたのは紫の毛色の毛玉《クリアクリボー》が、暫くした後、目を回してボフンと消えた。

 

《クリアクリボー》 裏側守備表示 → 表側守備表示 → 爆散

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

――セットカードを発動しない……?

 

 これ見よがしに伏せられた5枚ものセットカードが1枚も発動されない様子に疑念と警戒心を募らせる遊戯だが、怯むべきではないと果敢に攻勢を続ける。

 

「サイレント・ソードマンでダイレクトアタック!! 沈黙の剣!!」

 

 次に《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》が巨大な大剣を振りかぶり、無防備な神崎の脳天目掛けて振り下ろす。だが、此方も何の妨害もなく直撃。

 

神崎LP:4000 → 1200

 

 ソリッドビジョンと精霊の鍵の不思議空間ゆえの衝撃にワザとらしくたたらを踏んで見せる神崎を余所に、遊戯は相手の策に踏み込むつもりで追撃にでる。

 

――これでも発動しない? なら!

 

「《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》でダイレクトアタック!! セレスティアル・ブラック・バーニング!!」

 

「その直接攻撃宣言時、墓地の《クリアクリボー》を除外して効果発動。私はデッキから1枚ドロー。それがモンスターならば特殊召喚し、攻撃モンスターと戦闘させます」

 

 《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》が振り切った杖より、相手を切り裂くような魔力の斬撃が放たれるが――

 

「私が引いたのは――」

 

 その一撃に対し、つぶらな瞳に尻尾の生えた毛玉《クリボン》がその小さな身を賭して神崎に向かう魔術へと突撃した。

 

《クリボン》 攻撃表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

「それが狙いだったんですね――なら、行け! 《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》!!」

 

 だが、《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》が更に魔力を高めたことで、押し負けた《クリボン》。

 

「攻撃された《クリボン》の効果。ダメージ計算時に戦闘ダメージを0とし、相手は攻撃モンスターの攻撃力分ライフを回復――そして《クリボン》は私の手札に戻る」

 

 そして《クリボン》が神崎の手元にはじけ飛んだ瞬間に、遊戯の元に暖かな光が届いた。

 

遊戯LP:4000 → 7200

 

――それだけ?

 

 遊戯の心中の疑問も当然だ。

 

 2000ポイントの手痛いダメージに加え、遊戯のライフを凡そ倍近くにまで回復させてまで神崎が行ったのは――「遊戯の攻撃を辛くも凌ぐ」たったそれだけ。

 

 

 伏せカードを発動させる様子も見せず、盤面を覆せた訳でもない。

 

 これでは、まるで――

 

「……真面目に……! 真面目にデュエルしてください! 本気でデュエルしてください! でないと意味がない!!」

 

 ふざけているのか? そう遊戯が思うのも無理はない。遊戯の目的の一つにはデュエルで神崎という人間を計る意図もあるのだ。まともにデュエルして貰わねば困る。

 

 確かに魔法・罠を封じる盤面を敷いた遊戯だが、相手の神崎はKCの幹部であり、デュエルの様々な分野に関わっている人物だ。

 

 遊戯から見た神崎の立ち位置は、「ペガサスミニオンたち」が一番近い。社長を支える縁の下の力持ち――そんな具合だ。ゆえにデュエリストとして高い実力を有していると考えている。

 

 アテムをして強敵だったパラドックスの猛攻を反撃は出来ずとも、ギリギリのところで凌げる程度の実力はある筈なのだ。

 

 そうした思いが籠った遊戯の叫びに、神崎はスーツの埃を払うような仕草と共に申し訳なさげに返した。

 

「本気ですとも――とはいえ、才ある貴方からすれば物足りないでしょうね」

 

「貴方だって、ボクたちの為にあのパラドックスさんの猛攻を凌いでいたじゃないですか!」

 

「ああ、あの件ですか。あの時は今回と違い、彼専用に構築した守りを重視したデッキ。普段使いの今のデッキではあんな真似は出来ませんよ」

 

 その姿勢は遊戯がパラドックスの一戦を持ちだしても変わらず、神崎は互いの実力差が離れている旨を説明していく。

 

 神崎が今まで「強者」と呼ばれる相手から勝利をもぎ取ったデュエルは多少の例外はあれど大半が「まともな方法ではない」現実がそこにあるのだ。

 

「才ある者と戦う為の凡人の小細工です」

 

 そうして互いの「才能の差」を前面に押し出して語る神崎へ遊戯は強い否定と共に腕を払った。

 

「才能なんて関係ありません! デッキと向き合い共に戦えば誰だって強くなれる!!」

 

 遊戯は「デュエルは平等だ」と語る。

 

 例を上げれば、最初はルールすらおぼつかなかった城之内も、デッキと共に強くなっていった。

 

 特に城之内は遊戯の祖父である双六に弟子入りした為、切磋琢磨している様子を近くで見る機会が遊戯には多々あった。

 

 ゆえにその成長振りは良く知るものであり、更に今やプロデュエリストが目前である。

 

 それは決して「才能だけ」などではない。城之内がデッキと共に戦い抜いた結果であり、成果なのだ。

 

 

「才ある貴方が『それ』を語るとは――随分と酷い話だ」

 

「ボクたちの歩みを『才能』なんて言葉で片付けないでください!!」

 

 だが、そんな遊戯の主張へ溜息を吐きながら告げられた内容に遊戯は珍しく怒声を上げた。

 

 遊戯も、城之内も、多くのデュエルを経験した。デッキを幾度も組み直した。度重なる思考錯誤があったゆえの「今」があるのだと。

 

 彼らの実力は一朝一夕で生まれたものではない。ゆえに、その歩みを「才能のお陰」などと断ぜられて黙ってはいられない。

 

 

 

「………………貴方は『足りない』と思ったことがないんですね」

 

 

 しかし、神崎から零れた酷く冷淡な声色に、遊戯の怒りは矛先を失うようにしぼんでいく。それはその言葉には何処か悲痛さが見えたゆえ。

 

「足りない……?」

 

「プライドを投げ捨てても、周囲を切り捨てても、命を削っても、魂を捧げても――」

 

 神崎が「デュエルモンスターズ」にかけた時間や労力は他の追随を許さぬ程に重い。

 

 裏含めたKCの社員としての時間以外は全て「デュエル」にリソースを割いた。遊戯王ワールドはデュエルが何よりも大きなウェイトを占める世界なのだ。当然であろう。

 

 己が肉体強化すら突き詰めれば「デュエル」の為である。

 

 デュエリストとしての力は幾らあっても困ることはない。

 

――人間を捨ててでも。

 

「――それでも届かない、越えられない『壁』があることを知らない」

 

 だが、それだけ費やしたと言うのに、この盤面差。この実力差。

 

 神崎にとって、武藤 遊戯というデュエリストはまさに壁だった。決して超えられぬ才能と言う名の現実を突きつける無慈悲な証明書。

 

 神崎も「才能が一切ない」と言う訳ではない。多少なりとも介在していることを当人も理解している。だが、理解しているゆえに「才能の壁」を否定できない。

 

「そう、知る筈もない――貴方からすればそんな壁、ないも同然に越えていけるのだから」

 

 武藤 遊戯が、彼自身が「越えたことすら気付かぬ」程に楽々と越えていく壁が、神崎には越えられないのだから。

 

 幾ら知識や戦術眼で誤魔化そうとも、壁は眼の前に常に立ち塞がるのだと、絶望を語る神崎へ遊戯は思わず口を開く。

 

「そんなことない! 凡人でも何でも……貴方はあの絶望的な状況で《クリボン》を呼び出せた! カードの心が! カードたちが応えてくれているじゃないか!! 貴方にだって『強さ』があるのに、どうして……どうして色んなことを隠して、騙して、不意を打つみたいなやり方――」

 

 遊戯には神崎の実力が、当人がああも悲観する程に低いとは感じられなかった。

 

「カードの心? 私が……強い? ハハ、悪いがそれはあり得ませんよ――私が強ければ、貴方が言う所の『回りくどい方法』なんて取る必要はなかったんですから」

 

 だが、遊戯の主張は神崎に一笑に伏された。前提条件が既に破綻していると神崎は己を嗤う。

 

 神崎の語る強さは「比類なき力」だ。

 

 その比類なき力があったのなら、遊戯たちに縋らず、全て自分でケリを付ければ良いだけだ。

 

 圧倒的な力を持っていれば周りなど気にせず、回りくどい真似などせず、倒すべき相手を倒すだけで済んだ。

 

 遊戯たちの経験値が不足する? そんな心配などする必要はない。なにせ、己で全て片付ければ良いのだから。

 

 それでも心配ならば、その万能の強さとやらで鍛えてやればいい。

 

 

 貴方が成長する為に必要な経験だから――なんてふざけた理由で「()()()()()()()()()()」屑の所業を態々行う必要など何処にもないのだ。

 

 

 しかし、そんな幼稚な理想論は現実という名の才能の壁に阻まれた。それゆえの今である。

 

「私の強さなどキミの前ではハリボテ染みたものでしかない」

 

「どんな形であっても強さは強さだ!」

 

 だが、そんな事情を知る由もない遊戯は、才能を言い訳にするような神崎の論を認める訳にはいかない、と決意を示すように力強く宣言する。

 

「ボクは、このデュエルで! デュエルの可能性を証明して見せる!! カードを3枚セットしてターンエンド!!」

 

 

遊戯 LP:7200 手札0

黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》 《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》

伏せ×3

VS

神崎 LP:1200 手札1

伏せ×5

 

 

 決意の籠った遊戯の言葉は、神崎の中の歪んだ価値観への挑戦。デュエルへの苦悩を見せる神崎へ示せる道があると信じる真っ直ぐな心。

 

「強者の意見ですね――今の貴方の力。才なき人間がその頂きに辿り着くまでにどれ程の犠牲を払う必要があるのかご存知ですか? いえ、知らないでしょうね。知らないからそんなことが言えてしまう」

 

 しかし、神崎は頑なだった。それなりに年を重ねたゆえの凝り固まった価値観も、己が自論を後押しするが、遊戯は信じる心を諦めない。

 

「何度でも言います! 才能なんて関係ない! カードと向き合って頑張ればみんな必ず――」

 

「その通りです――その生涯の全てを捧げれば、死ぬ前にキミの足元くらいには追いすがれる()()()()()()

 

「そんなことありません!」

 

「あるんですよ。よく『才能による差などない』と言う方がおられますが、酷い話だ――数多の努力を重ねても結果の出ない人間に向かって『努力が足りない』と断ずるのですから」

 

「それは――」

 

「――『相手が自身より努力を重ねただけ』などとでも仰るつもりですか? 随分と酷いことを仰る」

 

 そうして平行線のままぶつかる互いの主張だったが、遊戯の言葉を先回りするように被せた神崎は疲れ切った様相で、この論争に一歩踏み込んでみせる。

 

 相手が自身より努力を重ねただけ――才ある者には希望に満ちた言葉だが、才なき者にとって藁にも縋る最後の頼みの綱である。「努力を重ねれば、追い付ける」と「()()()()」のだ。

 

 

 試しに例題を上げてみよう。

 

「相手より早く修練に励み、効率を突き詰め、怠けることなく己を高め続けた人間が」

 

 神崎はデュエルモンスターズが生まれた段階で可能な限りの時間を費やしてきたが、人間の頃の小細工抜きのデュエルでは「それなりに強い」程度だ。

 

 人を捨てた後も素のデュエルでは「けっこう強い」が関の山だろう。

 

「己より遅いスタートを切り、普段の生活はそのままで、程々に動いた人間に何故、追い抜かれるのでしょう?」

 

 遊戯は世界にデュエルモンスターズが広まった後でデュエルを始め、友達と楽しい学生生活を送りながら、趣味の範疇で世界最強の座――デュエルキングにまで至った。

 

 正確なデュエルキングはアテムだが、そのアテムを闘いの儀で下したことを鑑みればデュエルキングクラスと言えよう。

 

 

 その差は何だ?

 

 

 努力が足りないのか? 相手以上に努力すれば追い付けるのか?

 

 

 否。

 

 

 

 適度な心の余暇がその差を生んだのか? 己が同じことをすれば追い付けるのか?

 

 

 否。

 

 

「そ、それは……」

 

「修練を重ねて、重ねて、重ね続ける人間が誰よりも『才能の壁』を感じると言うのに」

 

 その差を「才能」と言わずして何という。

 

 才能という壁がないのなら、この残酷な現実を何と呼べばいい。

 

 そんな神崎の内なる叫びに遊戯は一瞬ばかり怯むも、此処で退けば分かり合う機会を逃しかねないと感じた己が直感のままに宣言する。

 

「――なら! 貴方の強さはどう説明するつもりですか! ハリボテだなんて言っても、貴方が言う『才能あるボク』と戦えている事実が、貴方の努力の成果を証明しているんじゃないんですか!! 『才能なんて関係ない』! その証明じゃないですか!!」

 

 それは神崎の論を一部認めつつ遊戯が導き出した答え。

 

 闘いの儀にてアテムの猛攻を遊戯が辛くも退けたように、才ある者である遊戯の猛攻を神崎が辛くも捌けている事実は、神崎の努力が実った証明なのだと。

 

 ひたむきな努力が、才能を超えることがあるのだと――そう、遊戯は主張する。

 

「違いますよ、武藤さん。私は努力を否定したい訳ではありません――効率の問題ですよ。リターンと言い換えても良い」

 

 だが、神崎の論の争点はそこではなかった。

 

「……効率?」

 

「デュエリストとして必要な肉体を手に入れる為、カードの心を理解する為、タクティクスを最大限に高める為、その他諸々に対して私が成したアプローチ、光のピラミッドの研究、魔力(ヘカ)という概念の調査、精霊の鍵の生産、数を上げればキリがない」

 

 神崎は多くの努力を積み上げてきた。

 

「そうして私が行った『努力』の中には、法に触れずとも、倫理的に忌避されかねない行いも含んでいます」

 

 だが、その中には「まともではない手法」も多々存在している。

 

 仮に遊戯に追いつけたと仮定しても、その前提があるゆえに秘匿するのだ。「人に憚られる行為を行った」自覚があるゆえに隠すのだ。

 

「……何をしたんですか?」

 

「自分の身体を弄り(改造し)ました」

 

「…………冗……談ですよね?」

 

 自分の頭に指を差す神崎へ、信じられないようなものを見る遊戯の視線が注がれる中、神崎は優し気な笑みで問う。

 

「武藤さん、貴方はその強さを得る為に何をなされましたか?」

 

 何もしていない――いや、大会やデュエルの経験という面では確かに積み上げたものはあるだろう。

 

 だが「そんなもの」は大多数の「みんな」が積み上げているのだ。

 

「私の力が貴方に届かない原因は何だとお思いですか?」

 

 

 想いの力? 

 

 

 デュエルの経験?

 

 

 結束の力とやら?

 

 

「お答えいただけませんか――では、先程なされた質問をもう一度問わせて頂きます」

 

 

 理由はどうあれ、何一つ失わなかった遊戯に神崎の力は届いてはいない。

 

 

 何故だ?

 

 

 努力が結果に結びつくのであれば、おかしな話ではないか。

 

 

 この現実は何なんだ?

 

 

 

「――才能がなんだって?」

 

 

 

 教えてくれよ、天才サマ。

 

 

 






盤面ほぼ詰んでるからって、めっちゃ喋りおる。



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