マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
魔法・罠が封じられようとも、即座にモンスター効果で突破――出来なかった時点で

「神崎=アクター」の説得力が皆無になっちゃってるんだよ、神崎ェ……







第212話 光 と 影

 

 

 

『才能がなんだって?』

 

 遊戯はその問いかけに、答えられなかった。

 

 デュエルの腕を磨く為に、これ程までに身を削った相手を知らなかった遊戯にはなんと返して良いのか分からない。

 

 デュエルにおいて「背中を追う」経験はあれど、「超えられない」と感じた壁を知らぬ遊戯が、挫折の何を語れるのか。

 

「それでも、ボクは……ボクは……!!」

 

 だが、それでも遊戯は「デュエルの可能性」を否定したくはなかった。

 

 

 

遊戯 LP:7200 手札0

黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》 《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》

伏せ×3

VS

神崎 LP:1200 手札1

伏せ×5

 

 

 

――……精神的なアドバンテージは何とか確保できたか。

 

「デュエルに戻りましょうか――私のターン、ドロー」

 

 己への不甲斐なさに涙をこらえる遊戯を余所に、人間の屑の代表みたいなことを考えながら神崎はカードを引く。

 

 神崎とて、こんな真似は本意ではない。だが、敗北した際の「虚偽を許さぬ3度の質問」が、そんな真似をしなければならない程に致命的だった。

 

 例えば、「己が成した悪事を洗いざらい白状しろ」などと質問され、「ダーツを倒す為に、その奥さんを人間爆弾にしたよ☆」なんて答える羽目になれば、遊戯の信頼は地に落ちるどころか、精霊パワーの後押しによる討滅の可能性すらある。

 

 ゆえに神崎は負けられない。そうして精神的に弱りに弱った遊戯を狩るべく、神崎は動き出す。というか、このドローで打開策を引いてなければ死ぬ。

 

「スタンバイフェイズを経て、メインフェイズ1へ」

 

 その神崎の決意を示すように遊戯のフィールドの大地から噴出したマグマが《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》と《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》を呑み込み、溶岩の化け物へと変貌。

 

 

 やがて檻の中に遊戯を閉じ込めた後、更に自由を奪うようにその檻をマグマの身体でホールドをかけた。

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》 攻撃表示

星8 炎属性 悪魔族

攻3000 守2500

 

「貴方の《黒の(マジック・)魔法神官(ハイエロファント・オブ・ブラック)》と《サイレント・ソードマンLV(レベル)7》をリリースし、私の《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を貴方のフィールドへ特殊召喚させて頂きました」

 

 切り札格のモンスターを2体も失い、更には無効化によるロックを崩された遊戯だが、先の動揺から復帰して言葉なく静かに神崎を見やる視線に隙はない。

 

「セットされた魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《クリボン》を墓地に送り、デッキからレベル1――《ミスティック・パイパー》を特殊召喚」

 

 そんな視線に晒されつつも神崎は淡々と前のターン無駄に伏せたカードを発動させ、デッキより、道化の笛吹きたる《ミスティック・パイパー》を呼び出し――

 

《ミスティック・パイパー》 守備表示

星1 闇属性 魔法使い族

攻 0 守 0

 

「《ミスティック・パイパー》の効果。自身をリリースし、1枚ドロー。それがレベル1モンスターならば、もう1枚ドローします――引いたのはレベル1《アンクリボー》。よってもう1枚ドロー」

 

 いつもより幾分か低音の笛の音が響き渡る中、《ミスティック・パイパー》によって、増えた己の手札ではなく神崎は再びセットされたカードへ手をかざす。

 

「セットされた速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動。デッキから《クリボー》を特殊召喚」

 

 さすれば笛の音に誘われ、黒い毛玉が小さな手足を伸ばしながら珍しく体毛を逆立てながら威嚇して見せつつ現れた。

 

《クリボー》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「セットされた速攻魔法《エネミー・コントローラー》を発動。私のモンスター1体――《クリボー》をリリースし、相手モンスター1体――《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》のコントロールをターンの終わりまで得ます」

 

 のだが、早々に《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》に繋がれたコントローラーのボタンをポチポチ押す係となり戦線離脱。

 

「バトルフェイズ。《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》で《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》を攻撃」

 

 そして今は亡き(墓地へ行った)《クリボー》に操られた《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の口から巨大な炎の砲弾が小さな白き魔術師に向けて放たれた。

 

「そうはさせない! 永続罠《ディメンション・ゲート》発動! ボクのモンスター1体を除外する! 《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》を除外!」

 

――《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を除外しなかった所を見るに、速攻魔法《サイレント・バーニング》狙いか。あやかろう。

 

「攻撃は続行。《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》で直接攻撃します」

 

 テレポートするように消えた《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》を素通りした炎の砲弾は、神崎の推理を余所に遊戯へと着弾。

 

 轟々と燃え滾る炎が遊戯を焼いていく。

 

「でも罠カード《パワー・ウォール》の効果で、ボクへのダメージは0! そして受ける筈だったダメージ500につき1枚――計6枚のカードをデッキから墓地へ!」

 

 筈だったが、遊戯の前に浮かぶ幾つものカードの壁が炎を遮り、遊戯のライフを削る火の粉一つたりとも通しはしない。

 

――墓地肥やしも込みか。儀式魔法に、罠カード《妖怪のいたずら》が墓地に落ちたとなると、残りのセットカードは恐らく……《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の維持は望めないな。

 

「セットされた2枚目の速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動。デッキから《ハネクリボー》を特殊召喚」

 

 遊戯の今後の動きを手探りながらに把握しながら、再び笛の音が響けば今度は天使の羽の生えた毛玉が遊戯を見下ろすように空より現れた。

 

《ハネクリボー》 攻撃表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

「《ハネクリボー》で直接攻撃」

 

 そしてそのまま急降下し、小さな足で遊戯をキックする《ハネクリボー》。

 

遊戯LP:7200 → 6900

 

――予想通り永続罠《ディメンション・ゲート》の効果は発動されない……か。

 

「私はこれでターンエンドです。このエンド時に《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》のコントロールは武藤さんに戻ります」

 

 なんとか遊戯の盤面を荒らせた神崎だが、未だ安心するには至らない。《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の檻に再び閉じ込められた遊戯の瞳に陰りは何一つ見られないのだから。

 

 

遊戯 LP:6900 手札0

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

永続罠《ディメンション・ゲート》 伏せ×1

VS

神崎 LP:1200 手札2

《ハネクリボー》

伏せ×1

 

 

「ボクのターン! ドロー!」

 

「貴方のスタンバイフェイズに《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の効果により、1000ポイントのダメージを受けて貰います」

 

――墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》は使う様子はない……此方のセットカードを待っていると考えるのが自然だが、どう動く?

 

 遊戯がカードを引いて早々にその身を閉じ込める檻の中に《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》のマグマの表皮が流れ落ち、遊戯のライフを削っていく。

 

遊戯LP:6900 → 5900

 

「ボクは魔法カード《マジック・プランター》発動! 永続罠――《ディメンション・ゲート》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 だが、そんなダメージなど無視して遊戯はデュエルを通じて神崎を見定めるべくカードを引き込んだ。

 

「そして墓地に送られた永続罠《ディメンション・ゲート》の効果! このカードで除外したモンスターをボクのフィールドに特殊召喚する! 戻ってきて、サイレント・マジシャン!!」

 

 さらに異次元より帰還する白き魔術師の少女が降り立ったと同時に、遊戯の意図を汲んだように小さく頷く。

 

《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》 攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1000 守1000

 

「バトル!!」

 

「――そのバトルフェイズ開始時に、速攻魔法《進化する翼》を2枚の手札を捨て発動。私の《ハネクリボー》をリリースし、デッキより《ハネクリボーLV(レベル)10》を特殊召喚」

 

 しかし、その戦意は竜の形をした鎧を身に纏った巨大になった天使の翼を広げる《ハネクリボー》こと《ハネクリボーLV(レベル)10》に阻まれる。

 

《ハネクリボーLV(レベル)10》 守備表示

星10 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

「《ハネクリボーLV(レベル)10》の効果――バトルフェイズに自身をリリースすることで、相手フィールドの全ての表側モンスターを破壊し、その攻撃力を合計したダメージを与えます」

 

 そして《ハネクリボーLV(レベル)10》の己が身を光と化した閃光が遊戯のフィールドの《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》と《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を消し飛ばさんと降り注ぐ。

 

 この一撃によって発生するダメージは4000――現在の遊戯のライフ5900を削り切れはしないが、無視するには大きいダメージ量だ。

 

「それは通さない! 速攻魔法《サイレント・バーニング》を発動! バトルフェイズ、『サイレント・マジシャン』が存在し、ボクの手札の方が多い時! 互いは手札が6枚になるようドロー!」

 

 だが、そんな閃光が降り注ぐ中、両の手を広げた《サイレント・マジシャンLV(レベル)4》の内よりもたらされた輝きが互いの手札に注がれ――

 

「さらにチェーンして罠カード《緊急儀式術》発動! 墓地の《カオスの儀式》を除外し、この瞬間に儀式召喚する!!」

 

 遊戯のフィールドに天より剣と盾が地面に突き刺さり、炎と共に陣を描く。

 

「まだです! チェーンして墓地の罠カード《妖怪のいたずら》を除外して効果発動! ラヴァ・ゴーレムのレベルを1つ下げる!!」

 

 だけに留まらず、着物の女性が《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を強引に陣へと押し込み――

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

星8 → 星7

 

「ラヴァ・ゴーレムと、サイレント・マジシャンでカオスフィールドを構築!! 儀式召喚! 混沌より舞い降りろ! 《カオス・ソルジャー》!!」

 

 遊戯のフィールドの全てを捧げ、金の装飾が奔る藍色の鎧を纏った究極の剣士が《ハネクリボーLV(レベル)10》の一撃を受け止めんと剣を振り切った。

 

《カオス・ソルジャー》 攻撃表示

星8 地属性 戦士族

攻3000 守2500

 

「ですが《サイレント・バーニング》により互いに手札が6枚となれど――《ハネクリボーLV(レベル)10》による破壊は防げない。3000ポイントのダメージを受けて貰います」

 

「残念ですけど、墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外して、このターン受ける効果ダメージを半減させて貰いました」

 

 そうして、《カオス・ソルジャー》の身を賭した剣の一閃により、大きく勢いを削がれた《ハネクリボーLV(レベル)10》の閃光が遊戯を貫く。

 

遊戯LP:5900 → 4400

 

 そんな中、速攻魔法《サイレント・バーニング》によって互いに6枚に増えた手札を眺めた神崎は、一息つくように言葉を零した。

 

「ですが、これで仕切り直しですね」

 

 ライフ以外は、盤面も手札も互いに同数。立ち上がり不安定だった神崎からすれば、上出来の着地地点であろう。

 

 

 

 

 

 

 

「手札から速攻魔法《ライバル・アライバル》発動! その効果により、ボクはこの瞬間、通常召喚する!」

 

 かと思いきや、バトルフェイズ中に遊戯の手札より、二つの影が踊り出る。

 

「来い、《ゴールド・ガジェット》!! そして《ゴールド・ガジェット》の効果により、手札のレベル4の機械族――《グリーン・ガジェット》を特殊召喚!」

 

 その一つは黄金の球体――が回転しながら飛来して空中で展開し、手足を広げて大地に膝をついて着地する。

 

《ゴールド・ガジェット》 攻撃表示

星4 地属性 機械族

攻1700 守 800

 

 更に、その隣に並ぶように跳躍しつつ手足を広げ、同じように膝をついて緑の歯車ボディのロボットが着地した。

 

《グリーン・ガジェット》 攻撃表示

星4 地属性 機械族

攻1400 守 600

 

「特殊召喚された《グリーン・ガジェット》の効果! デッキから《レッド・ガジェット》を手札に!」

 

「バトルフェイズに呼び出されたモンスターには――」

 

「攻撃権利が残っている!! 行けっ、《ゴールド・ガジェット》!!」

 

 そしてサーチ効果で手札を増やした遊戯の声に、《ゴールド・ガジェット》は腕をグルグル回しながらがら空きのフィールドを飛び抜けて神崎へと迫る。

 

「その攻撃宣言時に手札の《EM(エンタメイト)クリボーダー》の効果発動。このカードを手札から特殊召喚」

 

 が、神崎に激突する直前に手札から飛び出したボーダー柄のナイトキャップを被った毛玉が飛び出し――

 

EM(エンタメイト)クリボーダー》 攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻300 守200

 

「なら、そのまま攻撃だ!」

 

 互いの頭が激突。

 

「ですが自身の効果で特殊召喚された《EM(エンタメイト)クリボーダー》の戦闘で受けるダメージは回復へと変換されます」

 

「でも破壊はさせて貰います!」

 

 競り勝った《ゴールド・ガジェット》が遊戯のフィールドに着地し、力こぶを作る中、力負けして弾き飛ばされた《EM(エンタメイト)クリボーダー》は流れ星のようにお空に消えていった。

 

 天にキラリと輝く星になった《EM(エンタメイト)クリボーダー》の命の輝きがライフを癒す。

 

神崎LP:1200 → 2600

 

「まだだ! 《グリーン・ガジェット》でダイレクトアタック!!」

 

 しかし、まだ遊戯の攻撃は終わりではないとばかりに、跳躍した《グリーン・ガジェット》の右拳が神崎へとヒット。

 

神崎LP:2600 → 1200

 

 これにて《EM(エンタメイト)クリボーダー》が回復してくれたライフも無為に帰したと言えよう。

 

 だが、そんな《グリーン・ガジェット》の右拳を黒い腕が掴んだ。

 

「――ッ!?」

 

「私が戦闘ダメージを受けた時、手札のこのカードは特殊召喚できます」

 

 やがて神崎の手札より這い出た黒い腕の持ち主の全容が、神崎のフィールドにて明かされる。

 

「《トラゴエディア》を特殊召喚。このカードの攻守は私の手札×600ポイントです」

 

 その姿は蜘蛛の脚部を持つ悪魔。

 

 かつては憎悪と怒りに満ちた形相を浮かべていた顔に愉し気に歪んだ悍ましい表情を浮かべながら神崎を守るように腕と背に生えた棘を広げて立ち塞がった。

 

《トラゴエディア》 攻撃表示

星10 闇属性 悪魔族

攻 ? 守 ?

攻2400 守2400

 

――見たことのないモンスターだ……

 

「……ボクはバトルを終了し、墓地の速攻魔法《サイレント・バーニング》を除外して、デッキから『サイレント・マジシャン』1体を手札に」

 

 やがて《トラゴエディア》を警戒する遊戯はデッキに残る『サイレント・マジシャン』――《サイレント・マジシャンLV(レベル)8》を手札に加えつつ、手札の増強に動く。

 

 今まで「クリボー」や、それらとコンボするようなカードしか使っていない神崎が、クリボーたちと無縁なモンスターを呼び出したのだ。警戒して当然だろう。

 

「墓地の2枚目の魔法カード《魂のしもべ》を除外して2枚ドロー!」

 

 ゆえに墓地の魔術師の師弟の力も借りて増えた手札により――

 

「此処で魔法カード《レベル調整》を発動! 相手に2枚ドローさせる代わりに墓地の『LV(レベル)』モンスター1体――《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》を特殊召喚!」

 

 攻撃力が若干頼りない2体のガジェットたちの間に、紺色のコートの戦士が最初のターン振りに現れ、大剣を杖のように地面に突き刺し、神崎を見やった。

 

《サイレント・ソードマン LV(レベル)5(ファイブ)》 攻撃表示

星5 光属性 戦士族

攻2300 守1000

 

「最後にボクはカードを2枚セットして、ターンエンドです!」

 

 

遊戯 LP:4400 手札4

《ゴールド・ガジェット》 《グリーン・ガジェット》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》

伏せ×2

VS

神崎 LP:1200 手札6

《トラゴエディア》

 

 

 そうして互いの盤面がイーブンに戻ったと神崎が思ったのも束の間、あっという間に形勢は遊戯に傾きを見せた。

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを経て、メインフェイズ1へ」

 

 更に今の遊戯に神崎の精神攻撃の陰りは全く見られなかったが、神崎は怯むことなくカードを引き、反撃に移る。

 

「魔法カード《簡易融合(インスタントフュージョン)》を1000のライフを払い発動。エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いで特殊召喚します」

 

神崎LP:1200 → 200

 

 やがてフィールドに落ちたカップ麺より煙と共に現れるのは――

 

「《サウザンド・アイズ・サクリファイス》を融合召喚」

 

 ウジャドの眼球を伸ばす独楽のような身体に大翼を広げる異形の魔物――その全身から覗く数多の眼球は獲物を探すようにギョロギョロとうごめく。

 

《サウザンド・アイズ・サクリファイス》 攻撃表示

星1 闇属性 魔法使い族

攻 0 守 0

 

「《サウザンド・アイズ・サクリファイス》の効果を――」

 

「させません! 《サウザンド・アイズ・サクリファイス》の特殊召喚時に、永続罠《連撃の帝王》を発動! 相手のメインフェイズにボクはアドバンス召喚する!!」

 

 《ゴールド・ガジェット》を見やる《サウザンド・アイズ・サクリファイス》を余所に、《グリーン・ガジェット》が仲間の手を握りながら――

 

「ボクは《ゴールド・ガジェット》と《グリーン・ガジェット》をリリースしてアドバンス召喚!!」

 

 天へと跳躍。空に突如として浮かんだ巨大な黒き門へと消えていく。

 

「黒金の暴竜よ! 現世の狭間を閉ざす鎖錠を破り、我が敵に滅びをもたらせ! 現れろ! 《破滅竜ガンドラX(クロス)》!」

 

 さすれば天に浮かぶ黒き門を砕き、空より黒き破壊をもたらす竜が、雄叫びと共に降り立ち、全身の赤い宝玉を輝かせた。

 

《破滅竜ガンドラX(クロス)》 攻撃表示

星8 闇属性 ドラゴン族

攻 0 守 0

 

「召喚した《破滅竜ガンドラX(クロス)》の効果! 相手フィールドの全ての――」

 

「手札から《ジャンクリボー》を捨て効果発動。相手が発動した私に効果ダメージを与える効果の発動を無効とし、破壊します」

 

 そして《破滅竜ガンドラX(クロス)》の輝く宝玉が全てを薙ぎ払わんとするが、その宝玉の一つが鉄球の身体を持つクリボー、《ジャンクリボー》の突進により破壊され、バランスの崩れたエネルギーが暴発。

 

 《破滅竜ガンドラX(クロス)》は己が力によって破滅し、立ち昇る爆炎の中で身体を崩壊させていく。

 

「くっ、ガンドラが!?」

 

「《融合呪印生物‐闇》を通常召喚」

 

 そんな爆炎が立ち込める最中、フィールドに人の脳に似た外観に触手の生えた鉱物らしきモンスターが現れた。

 

《融合呪印生物‐闇》 攻撃表示

星3 闇属性 岩石族

攻1000 守1600

 

 

「《融合呪印生物‐闇》の効果発動。闇属性の融合モンスターの融合素材となる自身を含めたモンスター一組をリリースすることで、エクストラデッキから対象モンスターを特殊召喚します」

 

 そして《融合呪印生物‐闇》が《サウザンド・アイズ・サクリファイス》に絡みつき、歪な繭を形成していく。やがて繭を引き裂きながら奇怪な叫び声を上げるのはドラゴン――

 

「融合モンスター《サウザンド・アイズ・サクリファイス》と闇属性モンスター《融合呪印生物‐闇》をリリースして《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》を特殊召喚」

 

 かと思いきや、その身体は植物の茎であり、頭部も昆虫を思わせる異形な様相を見せる――まさに魔龍が毒々しい紫の欲膜を広げ、身体の節々から異音と毒煙を吐き出しながら現れた。

 

捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》 攻撃表示

星8 闇属性 植物族

攻2700 守1900

 

 

「神崎……さん……?」

 

 明らかに神崎のデュエルの変化量が無視できない程に大きくなりつつあった。

 

 笑顔の仮面を脱ぎ捨てたかのように、おどろおどろしい異形のモンスターを従える神崎の姿が遊戯の視界に広がる。

 

 もはや今の遊戯には、クリボーたちで戦っていた神崎は何処へ行ってしまったのかと思う程に相手のデッキが別物に見えた。

 

「《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》の効果。1ターンに1度、相手モンスター1体に捕食カウンターを1つ置く――対象は《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》へ」

 

 そんな最中、《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》の翼の先の花のつぼみから一つの種が《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》に飛来し、その身体から小さな芽がピョコリと生えた。

 

《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》

捕食カウンター:0 → 1

星5 → 星1

 

「レベルが?」

 

「捕食カウンターが置かれたモンスターのレベルは1になり、《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》がいる限り、その相手モンスターの効果は無効化されます――が、今回はあまり関係ありませんね」

 

 異形の竜への警戒の色を強める遊戯を余所に、いつもと変わらぬ調子でデュエルを続ける神崎は《トラゴエディア》へと僅かに視線を向けた後、手札の1枚へと手を伸ばす。

 

「《トラゴエディア》の効果――相手モンスターと同じレベルの手札のモンスターを墓地に送り、そのコントロールを得ます」

 

 さすれば《トラゴエディア》の口より瘴気が放たれ、遊戯のフィールドの――

 

「レベル1の《サクリボー》を墓地に送り、レベル1となった《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》のコントロールを得る」

 

 大剣を振って抵抗を見せる《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》に纏わりつき、その瞳から生気が失われると同時に神崎のフィールドへ歩き出し、己が愛剣を主であった遊戯へと向けた。

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地の《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》、《クリボン》、《ハネクリボーLV(レベル)10》、《ミスティック・パイパー》、《融合呪印生物‐闇》の計5枚のモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー」

 

 やがて欲深き壺からの施しにより、その壺の身を砕けさせれば――

 

「これで私の手札は4枚。よって《トラゴエディア》の攻守は2400ポイント」

 

 手札が増えたことで己が力の高まりを感じた《トラゴエディア》は遊戯を見下ろし、嗜虐的な笑みを見せた。

 

《トラゴエディア》

攻2400 守2400

 

「バトルフェイズへ。《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》で直接攻撃」

 

 そして《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》の口から毒液のブレスが放たれ、遊戯に迫る中、神崎の思考は別の場所に向けられていた。

 

――墓地の《クリアクリボー》で防いでくるのならば攻・守どちらか2700以上が必要。該当しそうなカードは《聖戦士カオス・ソルジャー》か、戦闘耐性持ちの《マシュマロン》あたりだが……

 

「そのダイレクトアタック時に墓地の《クリアクリボー》を除外し1枚ドロー! 更に墓地の《超電磁タートル》を除外してバトルフェイズを強制終了させる!!」

 

 しかし、そんな神崎の予想を裏切り、遊戯の墓地より飛来した機械仕掛けの亀が磁力によって、攻撃を己へと全て引き寄せ、攻撃の一切を遊戯の元へは通さない。

 

――此処で《超電磁タートル》を使って来たか。罠カード《パワー・ウォール》の際に生まれた墓地アドバンテージはこれで消費された。

 

 だが、神崎からすれば厄介な防御手段を温存されずに済んだ事実の方がやや大きい。

 

「ではメインフェイズ2へ。《トラゴエディア》と《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》を守備表示に変更」

 

 やがて不満気に棒立ちのまま変わらぬ様子の《トラゴエディア》と、

 

《トラゴエディア》 攻撃表示 → 守備表示

攻2400 → 守2400

 

 操られたままに神崎を守るような位置取りで、大剣を盾のように構えさせられる《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》。

 

《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》 攻撃表示 → 守備表示

攻2300 → 守1000

 

「カードを3枚セットし、ターンエンドです」

 

「待ってください! そのエンド時に永続罠《リターン・オブ・ザ・ワールド》発動! デッキから儀式モンスター1体を除外します!」

 

 そうして反撃もそこそこに早々と守備固めをしてターンを終えた神崎の声に被せて遊戯が天に手をかざせば、デッキから1枚のカードが空に浮かんだ魔法陣に溶けていく。

 

 

遊戯 LP:4400 手札4

永続罠《連撃の帝王》 永続罠《リターン・オブ・ザ・ワールド》

VS

神崎 LP:200 手札1

《トラゴエディア》 《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》 《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》(捕食カウンター×1)

伏せ×3

 

 

 急激に在り方を変えた神崎のデュエルだったが、それでも遊戯の元へは未だまともな攻撃は通らない。互いの差が埋まらない。埋められない。

 

「ボクのターン! ドロー!  ボクは魔法カード《マジック・プランター》を発動! 永続罠――《連撃の帝王》を墓地に送り、2枚ドロー!!」

 

 そうして互いに致命的な意識のズレは縮まることがないまま、手札を補充した遊戯は1枚のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「さらに永続魔法《黒の魔導陣》を発動! デッキの上の3枚のカードの内の――《千本(サウザンド)ナイフ》を手札に!」

 

 やがて遊戯の足元に魔法陣が組まれて行く中――

 

「此処で魔法カード《手札抹殺》発動! 互いに手札を全て捨て、その枚数分ドローする!」

 

「私はチェーンして手札の《増殖するG》を捨て効果発動――このターン、相手が特殊召喚した際に1枚ドローします。これで私の手札は0」

 

 ダメ押しとばかりに更なるドローしようとした遊戯の視界にモヤで隠されているにも拘わらず嫌悪感溢れる害虫の姿が映った。

 

「……つまりボクだけが新たにカードをドローする」

 

「武藤くんが特殊召喚して頂けるのならば、私もドローできますがね」

 

 かくして手札が0となった神崎が魔法カード《手札抹殺》の効果を受けないまま遊戯は新たに引いた手札を前に思案する。

 

 相手にドローを許してでも攻勢に出るべきか、攻めを1ターン先送りにするか――だが、遊戯の逡巡は一瞬だった。

 

「フィールド魔法《混沌の場(カオス・フィールド)》発動! 発動時、デッキから『暗黒騎士ガイア』1枚――《覚醒の暗黒騎士ガイア》を手札に!」

 

 デュエルの可能性を示す、と誓っておいて退く選択などありはしないのだと、遊戯の背に広がる光のゲートから手札を通じ――

 

「そしてこのカードは相手モンスターの方が多い時、リリースなしで召喚できる! 頼んだよ、《覚醒の暗黒騎士ガイア》!!」

 

 漆黒の名馬を走らせる二双の突撃槍を持った騎士が、主君の元に駆け付けた。

 

《覚醒の暗黒騎士ガイア》 攻撃表示

星7 闇属性 戦士族

攻2300 守2100

 

「魔法カード《思い出のブランコ》を発動! 墓地より通常モンスター1体を復活させる! 舞い戻れ、《ブラック・マジシャン》!!」

 

 更にそんな騎士の隣には、最も頼りになるであろう黒き法衣を纏った魔術師も隊列に加わり――

 

《ブラック・マジシャン》 攻撃表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

「《増殖するG》の効果で1枚ドロー」

 

「そして《ブラック・マジシャン》が特殊召喚されたことで、永続魔法《黒の魔導陣》の効果! 相手フィールドのカード1枚を除外する! 狙いは――《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》!!」

 

 害虫が羽ばたく最中、速攻とばかりに《ブラック・マジシャン》から放たれた黒き魔術が《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》を穿つ。

 

「その効果にチェーンして永続罠《闇の増産工場》を発動。その効果により《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》を墓地へ送り、私は1枚ドローします――墓地の罠カード《マジシャンズ・ナビゲート》の効果を使用しますか?」

 

「ボクは……発動しません」

 

「では1枚ドロー。そして対象を失った永続魔法《黒の魔導陣》の効果は不発に終わります」

 

 前に、《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》は自らの毒液を被り、己が命を手札へ変えながらドロドロとその身体を溶けさせながら消えていった。

 

「だけど、フィールドからモンスターが墓地に送られたことでフィールド魔法《混沌の場(カオス・フィールド)》に魔力カウンターを1つ置く!」

 

混沌の場(カオス・フィールド)》魔力カウンター:0 → 1

 

「バトル!! 《覚醒の暗黒騎士ガイア》で《トラゴエディア》を攻撃!」

 

 そして攻・守が1200まで下がった《トラゴエディア》へと馬を駆けさせていく《覚醒の暗黒騎士ガイア》の突撃槍が蜘蛛の悪魔の身体を貫かんと迫るが、そこに割り込む影が一つ。

 

「速攻魔法《エネミー・コントローラー》を発動。《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》をリリースし、《ブラック・マジシャン》のコントロールを得ます」

 

「そうはさせない! 墓地の罠カード《マジシャンズ・ナビゲート》を除外し効果発動!フィールドの魔法・罠カード1枚の効果をターンの終わりまで無効化する!!」

 

 《サイレント・ソードマンLV(レベル)5》が《覚醒の暗黒騎士ガイア》の頭上を飛び越えて大剣を振りかぶっていたが、その身は《ブラック・マジシャン》の放った魔力の弾丸に撃ち抜かれ、爆炎と共に消えていく。

 

混沌の場(カオス・フィールド)》魔力カウンター:1 → 2

 

「駆け抜けろ、暗黒騎士ガイア! 螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)!!」

 

 そうして生じた爆炎の加速を得た《覚醒の暗黒騎士ガイア》の突撃槍に《トラゴエディア》が串刺しにされたことで倒れ、神崎のフィールドの守り手は再び0へと戻った。

 

「トラゴエディア、撃破!!」

 

混沌の場(カオス・フィールド)》魔力カウンター:2 → 3

 

 

 これにて神崎を助ける者は、もはや存在しない。

 

「とどめです! 行けっ! 《ブラック・マジシャン》!」

 

「その攻撃宣言時、墓地の《クリボーン》を除外し効果発動。墓地より『クリボー』モンスターを任意の数、特殊召喚します」

 

 かと思いきや《ブラック・マジシャン》が神崎へと杖を向けた瞬間に、黒のヴェールを被った白い毛玉こと《クリボーン》の祈りにより、神崎を守るように5体のクリボーたちが立ちはだかる。

 

 それはこのデュエルでクリボーの中で最初に呼び出された《クリボー》であり、

 

《クリボー》 守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 《進化する翼》とのコンボで反撃の狼煙を上げた《ハネクリボー》であり、

 

《ハネクリボー》 守備表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

 手札が後1枚欲しかった局面で、手札増強を間接的に果たしてくれた《サクリボー》であり、

 

《サクリボー》 守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 反撃の狼煙直後に死にかけた神崎のライフを救った《EM(エンタメイト)クリボーダー》であり、

 

EM(エンタメイト)クリボーダー》 守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 《破滅竜ガンドラX(クロス)》の強力な効果を挫いた《ジャンクリボー》であった。

 

《ジャンクリボー》 守備表示

星1 地属性 機械族

攻 300 守 200

 

 

 このデュエルの中で幾度となく神崎へのとどめを防いできたカードたち。

 

 

 遊戯の行いを止めるように何度も立ち塞がったクリボーたちの姿に、遊戯の口から思わず言葉が零れた。

 

 

「やっぱり……やっぱり、そうだったんですね……」

 

 

 それは何処か確信を持ったような言葉。いや、このデュエル中に遊戯が漫然と感じていた感覚が、言語化できる程に明確さを持ったというべきか。

 

「今度は一体なんのお話でしょう?」

 

「貴方はもうカードの心を理解している! カードたちも貴方のことを認めている! だからカードたちは――」

 

 

 カードの心――それはデュエリストにとって切っても切れない縁深くも曖昧な事象。

 

 

「また、その話ですか。貴方がどうお思いになろうとも、私の『引き』という結果が出ている以上、もはや論じる余地のない話ですよ」

 

 

 しかし、遊戯から繰り出される主張に神崎は溜息まじりに返す。もう聞き飽きたフレーズだと。

 

 

 

 

「――貴方に戦って欲しくなかったんだ!!」

 

 

 

 

 

 だが、その言葉に神崎の動きがピタリと止まった。

 

 普段から並べたてる虚実交えた言葉も鳴りを潜め、その瞳も今までとは毛色の違う動揺で揺れ、彼の中で今迄の不可解さが次々と繋がり始める。

 

「貴方は『デュエルで戦う』ことに強い忌避感を持ってる!」

 

 とはいえ、遊戯とて全容を把握している訳ではない。

 

 

 彼が「何故」デュエルで戦うことを忌避しているかは分かってはいないのだ。

 

 

 この世界の森羅万象全ての存在にとってデュエルで、カードで戦うことは当然の行為――忌避感を覚えるものではない。

 

 

 そんな中で戦う意思のないものをどうしてデュエリストと評せるだろうか?

 

 否、評せない。そんな人間をこの世界では「デュエリスト」と評することは出来ない。

 

 彼ら(デュエリスト)は「戦う意思を持つ者」なのだから。

 

 

 神崎には「それ」がなかった。

 

 

 この世界は 神崎の大切なもので 殺し合いをする世界だった。

 

 

 デュエルは勝って楽しい、負けて悔しいでいい。決して人生などを乗せるものではなかった。

 

 

 ゆえに理解できない。

 

 

 ゆえに相いれない。

 

 

 ダーツとのデュエルで語られた点を遊戯はようやく紐解いた。

 

 

 

 

 

 

 更にその先にあった「()()()()()()」――そんな彼の想いすらも、デュエルで読み取って見せた。

 

 

 そう、遊戯はようやく何も語らぬ神崎の影に手が届いたのだ。

 

 

「だからカード(精霊)たちは貴方と共に歩まないことを決めたんだ!」

 

 

 遊戯が涙交じりに叫び、伝える。

 

 

 神崎はデュエルに優れた適性がない人間がいればデュエル以外の業務を与える――その道を辿ったギースの姿を彼ら(カードたち)は知っていた。

 

 神崎にデュエルの適性がなければ自然とデュエルから離れるだろうと思ったゆえの結果(ドロー力)

 

 

「それで貴方に嫌われたとしても、憎まれたとしても、拒絶されたとしても――それでも!!」

 

 

 カード(自分たち)を手に取らなくなるかもしれない。

 

 

 カード(自分たち)を捨ててしまうかもしれない。

 

 

 カード(自分たち)に関わらなくなるかもしれない。

 

 

 誰だってそうだろう。己の努力が碌に形にならないものへ熱意を持ち続けることは困難だ。

 

 

 でも彼ら(カードたち)はそれで良かった。

 

 

 その望みはただ一つ。

 

 

 

「――貴方を戦いの場から遠ざけたかったんだ!」

 

 

 

 

 

 もうみんな(誰か)の為に戦わないで(傷つかないで)

 





カードたちはずっと神崎の味方






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