マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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IF話が終わった? なに勘違いしてるんだ――俺のバトルフェイズは此処からだぜ!

ドロー(IF話)!! モンスターカード(第二段、投稿)!!


「イリアステルの面々と早期合流+和解」

「レイン恵の活動」

「神崎の所業が明るみになる」

「神崎が遊戯たちに受け入れられる」


などのリクエストを纏めさせて頂きました。





第217話 IF話 レイン恵 は ちょーゆーしゅー

 

 

 突然だが、レインは神崎の行動によって変化した歴史を観測できるようになった!!

 

 何故? ――とお思いになられるかもしれないが、その説明をするには、今の銀河の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ。

 

 だが今回のIF編は1話で纏める必要がある為、時が惜しい。皆もいずれ分かる時が来る――そう、信ずることにしよう。

 

 

 

「BIG5が…………失脚していない…………報告」

 

 ゆえに早速とばかりに密告――もとい報告。

 

 だが、返答は現状維持。些細な変化だが、海馬 瀬人の人間性ゆえに歴史に与える影響は軽微だと判断された。

 

 しかし超優秀なレインは、更なる情報を獲得。それは――

 

「KCの……幹部が一人……増えている……報告」

 

 本来の歴史に存在しないイレギュラー。

 

 これにはZ-ONEも看過できぬと歴史の歪みの原因と判断され、処理するか否かが話し合われたが、「新しい希望かもしれない」とのアンチノミーの懇願も相まって様子を見ることとなった。

 

 

 だが超優秀なレインは、Z-ONEを後押しできるような情報を入手。流石はレイン――タイトルの「超優秀」の触れ込み通りの活躍である。

 

決闘者の王国(デュエリストキングダム)にて武藤 遊戯がキース・ハワードに敗北」

 

 結果、対象の殺害が決定された。

 

 悲しいことだが、同時に仕方のないことでもある。未来の為に死んでくれ、神崎。

 

 

 しかし、その死は無駄にはならない。

 

 何故なら殺害タイミングであるKCのデュエルイベントにて、パラドックスの操るSinドラゴンたちによって殺害され、KCのソリッドビジョンの問題性を示唆。

 

 それにより、人々のソリッドビジョンシステムへの不信感を高め、廃れさせることで、デュエルの発展を阻害。

 

 結果、シンクロの発展の抑制を成すことで、滅びの未来を回避する――という計画に組み込まれるのだ。

 

 

 完璧な計画だ。立案に超優秀なレインも参加しただけはある。だが、レインの超優秀っぷりは更に一歩先を行く。

 

「アクターなるデュエリストの存在を確認――要警戒」

 

 そう、神崎なる男は、名称不明の(巷では「アクター」などと呼ばれている)凄腕のデュエリストを擁しているのだ。そんな超強い配下と思しき存在の情報を既に入手していた超優秀なレイン。

 

 

 これにはZ-ONEにも「流石です、(超優秀な)レイン」との言葉を頂き、レインも何処となくご満悦な表情である。表情の変化が微細すぎて分かり難いが、詮無きことだ。

 

 

 

 そして作戦実行日。超優秀なレインは万が一にサポート役に回れつつ、かつ作戦の邪魔にならず、なおかつ進捗状況が見渡せる海馬ランドの大展望台に来ていた。

 

 流石は超優秀なレイン。場所取りもマーベラスである。現地の屋台も美味しいものを販売している――パーフェクトだ。

 

 

 

 こうして、超優秀なレインの高性能マシンアイには、実行役のパラドックスの華麗なる仕事っぷりが映ることとなろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町一つが燃え盛る地獄絵図が広がる。

 

 

 巨大なドラゴンが神崎に蹴り飛ばされ、KCの社員と思しき人間が怒声と共に避難を呼びかけていた。

 

 

 そんな中、空を舞う《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》が大口を広げ、その内に形成した黒き球体状の炎が瓦礫と負傷者が広がる地上へと放たれる。

 

 その寸前で子供を抱えた神崎が跳躍して下顎を蹴り飛ばし、黒き炎は暴発。

 

 それにより怯んだ《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》を余所に神崎は抱えた子供を地上で避難を指示しているギースへ放り投げる。

 

「ギース! 恐らく狙いは私です! 貴方は即座に撤退を!!」

 

 そして大声で現状を告げながら、神崎は空を蹴って《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》に跳び蹴りをかましながら地上に叩きつけた。

 

 

「神崎さん! 残りの逃げ遅れ! 確保完了しました!」

 

「行くぞ、牛尾! 指定ポイントに向かう!」

 

 

 牛尾の報告に小さく手を上げて返事をした神崎を余所にギースたちが立ち去って行く中、《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》の喉を手刀で突き、ブレスを放つ為の器官をねじり潰した神崎。

 

 

 だが、その背後より、三つ首の機械竜である《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》の3つの口から三筋のレーザーが撤退するギースと牛尾の方に放たれ――

 

 

 るも、その三筋のレーザーは、神崎が地面をひっくり返した際に生じた土砂によって阻まれ、その土砂の雪崩に《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》は埋もれていく。

 

そして同時に相手の視界を奪った神崎は、《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に乗るパラドックスへと跳躍し、強襲をかけた。

 

 

 

 しかし土砂の中から尾を伸ばした《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》によって、身体を機械の尾に巻き取られ、捕らえられた神崎の眼前に《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》の三つの顎が大口を開き――

 

 

 至近距離から三筋のレーザーが放たれる――と同時に、いつの間にやらベキベキと膨らんでいた神崎の肺から莫大な空気が、口から音圧と空圧となって放たれた。

 

 

 そうしてぶつかり合った三筋のレーザーと音圧と空圧によって、局地的な突風が起こる中、爆心地にいた《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》が瓦礫の山に轟音と共に落下。

 

 

 だが、間髪入れずに神崎の頭上からエンジン音を響かせたパラドックスのDホイールが、「休む間を与えぬ」とばかりに激突するも、宙に立つ神崎は高速で動くDホイールのタイヤを握力で強引に止め、搭乗者であるパラドックスへ拳を振るった。

 

 

 

 やがてDホイールが木端微塵になった拳と、そして神崎の肩口を切り裂いたパラドックスの放った銃弾というにはあまりに歪な一撃が交錯。

 

「チッ、浅い」

 

 この神崎の身体を裂いた攻撃――これはプラシドが持つ「剣で次元を裂いて移動する」システムを兵器転用したものである。

 

 平たく言えば空間を削る弾丸のようなものだ。

 

 しかし、切り裂いた肩口周辺の肉がせり上がり、治っていく光景にパラドックスは内心で苛立ちを見せる。

 

――仮にも次元を切り裂く銃弾を、生身で受けて何故、生きている?

 

 本来であれば着弾した周囲ごと空間を抉る代物だ。肩に当れば、その周辺――つまり頭部・心臓などの重要器官を含めて、抉り取る。

 

 

 だというのに、肩口が切れた程度の傷。さらに即座に塞がっていく理不尽。

 

 

――やはり此処で確実に殺しておかねばならない!

 

 そんな一瞬の間に、頭をフル回転させ、そう結論を下したパラドックスは飛び乗った《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》へと指示を出す。

 

「やれ! Sinブルーアイズ!! 滅びのバースト・ストリーム!!」

 

 やがて《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》から放たれた白き滅びのブレスと、神崎が両手を合わせた後、上下に開いた形で空間を押し出すように腕を突き出し、放った空気の砲弾がぶつかり合い、周囲に破壊の奔流をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ぇ?」

 

 

 人間を1人殺すだけの簡単な計画の筈だった。難しいのは如何に最小限の犠牲で人々にソリッドビジョンシステムへの不信感を植え付けられるか――その点の筈だった。

 

 だというのに、レインが見つめる先にはパラドックスが従える3体のSinドラゴンたちが、たった1人の人間相手に押されている現実が広がっている。

 

 

 そしてレインの脳裏に過るのは最悪の可能性。ゆえに、その悪夢を振り切るべく、頬を両手でパンと叩いたレインはご自慢の頭脳で打開策を導き出す。

 

――対象は人的被害を抑えようとしている。なら逃げ遅れた人間を見つければ保護に動くことは明白。

 

 

 そう、こんな想定外な時を見越して超優秀なレインは待機していたのだ。

 

 出来ればパラドックスと通信し、作戦を伝えておきたかったが、戦闘の最中ゆえか通信が繋がらぬゆえに、レインは己が成すべきことを成す。

 

 

 今成すべきは、導き出した一手で現状を打破すべく、すぐさま行動を開始すること――その一点。

 

 

 

 

 

 そしてすぐさま現場に急行したレインは土砂の上でゴロゴロ転がり、「この騒動に巻き込まれ、逃げ遅れた一般人」の様相を整えた後、戦闘の余波が届く範囲の場所の瓦礫の間に潜み、時を待つ。

 

 

 決して「分かり易く助けを求める」ことをしてはいけない。あくまで「逃げ遅れ、自力で脱出困難な程に疲弊した相手」を「偶然見つけた」と思わせなければならないのだから。

 

 

 そうしてパラドックスの猛攻を捌く神崎が潜むレインに反応し、パラドックスと距離を取るような立ち回りに変化したことに、レインは確かな手応えを持つ。

 

 

――かかった。

 

 

 やがて多少の負傷を無視し、レインの保護に意識を割き始めた神崎。

 

 その動きの変化と、レインの存在を察知したパラドックスも、此度の援護の意図を察したように、己への防御を捨てた苛烈な攻撃を神崎へと繰り出していく。

 

 

 

 

 レインの計略通りに負傷を重ねる神崎の姿に、作戦の成功を確信するレイン。救助された後も「パニックに陥った」振りをして、最大限の妨害を行う手筈を頭の中で組み立てていくが――

 

――あれ?

 

 此処でレインは違和感を覚えた。

 

 瓦礫に挟まれ動けない――という体をとったレインに対し、神崎は瓦礫をどけるような場所取りもせず真っ直ぐ突っ込んできている。

 

 

――どうして……

 

 

 今の神崎の目的は、逃げ遅れたと思しきレインを避難させることの筈だ。

 

 だというのに、レインが把握する範囲の神崎の動きにその気配が欠片も見えない。

 

 

 そして何より不思議でならないことがある。

 

 

――拳を振りかぶっているの?

 

 

 やがて肉を穿つ音と、金属がひしゃげる異音が響き、レインの思考はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 散らばる肉片こと人工筋肉、剝き出しのモーメント、ブラリと垂れ下がった骨格代わりの金属片、血液代わりのオイル――デュエルロイドを構築する命が零れ落ちていく。

 

 

「な……んで、どう……して」

 

 

 レインの前で、()()()()()()()()が零れ落ちていく。そして一度、途切れた思考は纏まらず、感情の波ばかりが此処ぞとばかりに揺れ動く。

 

 

 腹を貫通した神崎の腕から飛び散った、パラドックスの血で汚れたレインの頬を涙がつたった。

 

 

「私……より、貴方が…………なんで、パラドックス……どうして……!!」

 

 レインが、どれだけ優秀であろうとも、その身は「替えの利く駒」でしかない。

 

 生前からZ-ONEの友として、類まれなる頭脳と力で、死の間際まで支え続けたパラドックスの方が、「替えの利かない存在」の筈なのに。

 

 

 どうしてレインの眼の前で、神崎の腕にパラドックスが貫かれているのか。

 

「だって、貴方の方が……!! あの人の助けに――」

 

「当然ですよ、レイン恵さん」

 

 そんな疑問は、思わぬ相手――何時ものように笑顔を浮かべる神崎から明かされた。

 

――ッ! 私の……ことを……知っている……?

 

「彼らにとって貴方は特別な存在だ」

 

 そう、神崎は知っている。原作知識によって、彼らの関係性を知っている。

 

「例えば、貴方が誰かに恋をして、その出会いにより、彼らの悲願だった計画を妨害し始めたとしても、彼らは貴方を殺さない――それ程までに貴方は愛されている」

 

 それは「TFシリーズ」と呼ばれる遊戯王のゲームでのシナリオの一つ。

 

 

 そこで、レイン恵は許されざる大罪を犯す。

 

 ゲームプレイヤーにあたる所謂「コナミ君」とやらの間に芽生えた友情か、それとも恋慕かは定かではないが、その想いに突き動かされ、あろうことかZ-ONEの計画を妨害し始めるのだ。

 

 それも別の計画を示す訳でもなく、「可能性」なんて曖昧な理屈で。

 

 Z-ONEがどれ程の苦悩を以て決断したのかすら忘れて。

 

 

 たかが「一端末」風情が。

 

 

 この裏切りは、「資格なき者がシグナーとなった」程の「証明」を以て計画の中止を訴えた原作のアポリアですら許されなかった程の蛮行だ。

 

 

 だというのに、あろうことか一端末でしかない彼女は許された。

 

 動力源を止められた? それを治すことの出来る相手の元に送っておいて? 見逃したと同義であろう。

 

 

「貴……様、どこま……で知って――」

 

「そう心配なさらずとも、貴方が思っているより浅い知識ですよ」

 

 やがて腹を貫かれたパラドックスが、息も絶え絶えに零すが、神崎とて全容を正確に把握している訳ではない。

 

 精々、「レインは裏切っても許される」程度の「なにか」がZ-ONEたちの間にある――それだけだ。だが、それだけで十分だった。

 

 

「私の……せい?」

 

 それだけあれば、「レインを攻撃すれば、パラドックスが何を置いても庇う」ことが分かるのだから。

 

 そうしてパラドックスが腹を貫かれた原因を呆然とした様子で理解し始めたレインへ神崎は笑顔で優しい声色で返す。

 

「いいえ、違います。原因は私にある。なにせ――」

 

「――Sinレッドアイズ!!」

 

 だが、その先が語られる前に、レインの身体は《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》に抱えられ、天高く飛び去って行った。

 

「待っ――――」

 

 レインが何かを叫んでいたが、《Sin真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》が一気に戦線から飛び立った際に生まれた風と距離ゆえにパラドックスに届くことはない。

 

 

 

 

 

 やがてレインがこの時代から消えたことを把握したパラドックスは、腹に刺さった神崎の腕を力の限り掴みながら痛みを堪えながらも苛立たし気に呟いた。

 

「追う素振り……すら見せんとは、随分と……余裕だな」

 

「ええ、メッセンジャーは必要でしょう?」

 

「聞きしに勝るふざけた男だ……だが!!」

 

 しかし、そうあっけらかんと返す神崎の姿に、パラドックスは己が体内に仕込んだ自爆装置を作動させ、それによりモーメントの暴走を誘発させることで、自身諸共神崎を消し飛ばす。

 

 ゼロリバース――とまではいかずとも、パラドックスの見立てでは神崎を殺す程度なら十二分に可能だ。

 

――すまない、Z-ONE……またキミを置いていくことになる。

 

 やがて迫る最後に()()己が道半ばで倒れてしまうことに対し、Z-ONEへ謝罪を送りつつ、眼前の脅威と道連れする選択をとったパラドックス。

 

 

 しかし、一向に来るべき時が来ない事実を不審に思うパラドックスの意識を縫う様に――

 

「探し物はこれですか?」

 

「――ッ!?」

 

 神崎の影から伸びた腕がなんらかの機械の部品をつまんでいる光景にパラドックスは息を呑んだ。

 

 相手は、自分たち「デュエルロイド」の内部構造をそこまで入手していたのかと。

 

「『これ』が何かは存じ上げませんが、ずっと気になされていましたよね――分かるんですよ、そういうの」

 

 しかし神崎にそこまでの知識はない。正直な話、神崎はパラドックスから千切り取ったものが「何なのか」すら理解していない。

 

 だが、「相手の奥の手」だとは漠然と理解していた。無駄に闘いに明け暮れたことで身についた性のようなものである。

 

「貴方は私とは違って、己の身ですら犠牲にすることを厭わない。素敵ですね――命を捨ててでも守りたい方がいるなんて」

 

 そして何より、パラドックスの人間性を原作知識により知っていたことが大きかった。「我が身すら顧みない男」の奥の手など十分に予想がつく。

 

「ですが、此方としては貴方に死なれると困るんですよ」

 

「ゆえに接戦を演じた……訳か」

 

「そんなところです」

 

 だが、此方は嘘だ。鍛え上げたマッスルを削りとる弾丸には神崎は内心でビビりまくっている。頭に当っていれば危なかったであろう。本編のように冥界の王を捕食していない身では、即死しかねない。

 

 それに加え、3体のSinドラゴンたちがもたらす「周辺被害」という厄介な点と、「パラドックスを生かしたまま捕縛する」縛りにより、神崎としても結構いっぱいいっぱいである。

 

 なにせ「レインを狙いパラドックスに庇わせる」屑の所業にすら手を出したのだから。

 

「全て貴様の……掌か。だが生憎――――」

 

 だが、そうとは知らぬパラドックスは相手の戦闘能力を見誤っていた事実に歯噛みする。

 

 相手を一介の会社員と何処か舐めていたことは否めない。

 

 とはいえ、こんなとんでもマッスル人間を想定しろと言う方が無理からぬ話ではあるが。しかしパラドックスは、それでも――

 

 

 

 

 

「――諦めは悪い方でな!!」

 

 相手の思惑に乗る気はない、と《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》と《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》にパラドックス諸共、神崎を消し飛ばさんとブレスを放たせた。

 

 

 

 童実野町の一角で、一際大きな爆音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ――」

 

 イリアステルの本拠地、アーククレイドルに戻り、報告を済ませたレインは与えられた一室にて膝を抱え、うわごとのように同じ言葉を繰り返す。

 

 

 イリアステルの存在を相手が知らないものだと断定して作戦を立ててしまったこと。

 

 相手の戦闘能力を見誤ったこと。

 

 己の援護方法が逆に相手を助力してしまう結果に終わったこと。

 

 

 レインの頭を巡る情報は膨大であれど、辿る結論は同じ。

 

 

 それは、パラドックスの敗北が己の不手際のせい――最後は必ずそこに辿り着く。

 

 しかし、多くの情報がレインの頭を巡っていても、そこから先「どうするべきか」が出てこない。

 

 

 今のレインには己が何をしようとも失敗するビジョンしか浮かばない。

 

 

 次に犠牲になってしまうのは誰なのだろうか――そんなことばかり考えてしまう。

 

「レイ……ン」

 

「………………ミサキ」

 

 そんな自責の念に苛まれるレインの一室に来客が訪れる。

 

 その人物は、首元で切り揃えられた青い髪の頭頂部にゼンマイのような巻き毛が特徴の黄色のシャツに白いジャケットを着た何処かレインと似た雰囲気を見せる女性「ミサキ」――レインと同じくデュエルロイドである仲間の一人。

 

 

 そうして、おぼん片手に器用に扉を閉めたミサキの姿を見れば、心配して様子を見に来たことが見て取れた。

 

 だが、こうして自分を心配して様子を見に来たミサキにさえ、今のレインには己が責められているような感覚に陥る。

 

 いつもは飛びつくお盆に乗った料理を前にしても、今のレインは膝を抱えたまま動かない。

 

「ご飯……食べよ? お腹すくと……元気……出ない」

 

「不要。私たちデュエルロイドに食事でのエネルギー摂取は必要ない以上、活動に支障はない」

 

「懐か……しい。昔もそう……言ってた」

 

 やがてミサキがお盆を差し出すも、レインはそっぽを向いて拒絶の姿勢を見せるが、その姿にミサキは昔を思い出しクスリとほほ笑む。

 

 そんなミサキの優しさは、レインにとって針の筵同然だった。ゆえに、矢継ぎ早に言葉を並べたてる。

 

「ミサキ、貴方は優秀だった。デュエルも、Dホイールの操縦技術も、整備技術も、人間生活に溶け込む術も、任務遂行能力も、全て」

 

「え……えう……褒めても何も……出ない……」

 

 そんな優秀な姉貴分――と語るレインの言葉に、小さく照れながら狼狽えるミサキを余所に、レインは確信に触れる。

 

「私はみんなの何?」

 

 知りたい部分は此処だった。神崎が語った「パラドックスがその身を挺する程のなにか」――それがレインにある。ミサキならば知っているかもしれない。

 

 己と似た容姿に、口調、そして雰囲気。そして自身よりも優秀な姉のような存在。己が知らぬ領域の情報を保持している可能性は十二分にあった。

 

 やがてレインの隣に腰掛けたミサキは、レインの頭を自分の肩に倒し、背中をポンポンと軽く叩きながら、告げる。

 

「……仲間、家族、親友……そんな優しい言葉が……合っている……と思う」

 

 だが、それはレインが知りたかった言葉ではない。彼女もまた「知らない」のだ――所詮は「一端末」に過ぎないということか。

 

「でも、その繋がりは私のせいで欠け――」

 

「パラドックスの実力は……みんな知ってる……信頼してる……心配することない」

 

 そうして気落ちするレインの様子を感じ取ったゆえか、ミサキはレインの頭を優しくなでながら元気付けるような言葉を並べるが――

 

「今のままだと……戻ってきた時、心配させちゃう」

 

「……ない」

 

「……? どうしたの? ご飯……食べる気になった?」

 

 そんな中、ポツリと呟いたレインの声にミサキは期待するように反応するが――

 

 

「パラドックスの生存は絶望的。此処には帰って来ない。来れる筈がない」

 

 その発言は現実に絶望しきったもの。

 

 現実は誰の目にも明らかだ。どう考えてもパラドックスの生存に希望を持つことなど出来はしない。

 

 そして、それは他ならぬミサキとて理解している。

 

「…………かもしれない。でもイリアステルの……みんなは『絶望的だから』なんて理由で……諦めたりする人たちじゃない……勿論、パラドックスだって、そう」

 

 しかし滅亡の未来の救済の為に闘い続けてきたZ-ONEたちが、絶望と戦い続けてきた彼らが、「はい、そうですか」と闘志を折ることなどないのだ。

 

「ご飯、置いとく……食べてね」

 

 やがて最後にそう一声かけたミサキは、静かに退室していった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして再び訪れた一人の静寂の只中、レインは再び避けてきた己への問答へと意識を向ける。

 

「私は…………」

 

 だが、それはどれだけ考えようとも答えは出ない問題であった。

 

 パラドックス――イリアステルを取り仕切る中心人物の4人の内の1人。

 

 生前からZ-ONEと共に多くの時間を過ごしてきた盟友と呼ぶべき人物。

 

 

 そんなZ-ONEにとって無二の相手が、半身に等しき存在が、レインの過失によって失われたというのに、Z-ONEたちは一言たりともレインを責めなかった。

 

 処罰らしい処罰もなにもなかった。

 

 何故だ?

 

 親友の命を奪われたと言うのに、何故その原因であるレインを責めない。何故、労わる。

 

 何故だ?

 

「…………私はZ-ONEの…………みんなの…………『何』?」

 

 その問いかけに答えてくれる誰かは此処にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミサキ、どうだった?」

 

「立ち直るには……もう少しかかりそう」

 

 レインがいた一室から戻ったミサキから様子を問うたアンチノミーだが、結果は芳しくはない。

 

「そうなんだ……あの時、ボクが『様子を見よう』なんて言わなければ……」

 

「止せ、アンチノミー。お前まで自らを責めるな――当初の様子見は皆で決めたことだ。お前に責任がある訳でもない」

 

 ゆえに自責するようなアンチノミーへ、アポリアは話を遮って見せる。神崎の危険性を軽視したアンチノミーだが、その意見を最終的に通したのは他ならぬZ-ONEたちなのだ。

 

 今回の一件に対し、アンチノミーに全ての原因がある訳ではない。だが、アンチノミーの気はそれでは済まなかった。

 

「こうなったからには、ボクが……いや、()自身でケリをつける」

 

 普段の優しい青年の顔が鳴りを潜め、Dホイーラーとしての闘志がその身を包む。

 

「なりません、アンチノミー」

 

「Z-ONE! でも――」

 

 しかし、そのアンチノミーの決意は、いつの間にやら現れたZ-ONEによって諫められた。

 

「私も同意見だ。キミを一人で行かせはしない」

 

「その通りです、アポリア。此度の件は、我々でケリをつけねばならないこと――そうでしょう?」

 

 そう、これ以上の余計な犠牲を生まぬ為に、皆で全力を賭してことに当たるべきだ、とアポリアとZ-ONEは語る。

 

 

 

 

 かくして、神崎をデュエルで殺すには些以上に過剰戦力となった一団が、所謂「DM時代」への道を開く。

 

 

 

 

「……同行の……許可を……」

 

「レイン……」

 

 だが、そこに涙の痕が残るレインが慌てた様子で現れた。

 

 その姿に、心配気な声を漏らすミサキを余所に、Z-ONEは厳しい口調で述べる。

 

「最悪の可能性もある――それは理解していますね、レイン?」

 

 相手はパラドックスを殺した相手――平静さを失い、隙を晒すような真似は決して許されない。

 

 

 そんな意図をはらんだZ-ONEの強い視線の前に、レインは小さくとも力強く無言で首を振り、肯定の意を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして誘いに乗るようにKC本社ビルの屋上ヘリポートで待つ相手の元へ向かったZ-ONE、アポリア、アンチノミー、ミサキ、レインの前には、想定通りの面々が並ぶ。

 

 

「やはりあなた方もおられましたか」

 

 それはZ-ONEが語るように――

 

「デュエルキング――武藤 遊戯」

 

 デュエリストとして最高戦力、最強のデュエリストたる武藤 遊戯が王者の貫禄を見せて佇み、

 

「唯一無二のブルーアイズ使い――海馬 瀬人」

 

 さらに闇遊戯の隣には、KCの長であり、なおかつデュエルの発展に多大に貢献してきた武藤 遊戯の唯一無二のライバル海馬 瀬人が威風堂々な様子で立ち、

 

「そして、イレギュラー――」

 

 そして歴史改変の影響か生じた「存在しない筈の男」であり、友であったパラドックスの仇でもある人物。神崎 (うつほ)が――

 

 

「――神崎 (うつほ)

 

 ロープで「これでもか!」とグルグル巻きにされた状態で地面に転がっていた。

 

「――!?」

 

――簀巻きにされた神崎 (うつほ)!?

 

 下手人のまさかの有様に仮面越しに二度見するZ-ONE――闇遊戯と海馬があまりに堂に入った具合に並んでいた為、気付くのが遅れたとはいえ、ある意味2人に負けぬ程のインパクトがそこにある。

 

「す、簀巻きにされてるよ、Z-ONE!?」

 

「見れば分かります!!」

 

 遅れて驚愕の声を漏らすアンチノミーを諫めるZ-ONEだが、この会合の主導権を握るように海馬が言葉を割り込ませる。

 

「ふぅん、大まかな話はコイツから聞き出した」

 

「私の知りうる限りの全てをお話しし、命乞いさせて頂きました」

 

 そして神崎もキリッとした顔を作りつつ続くが、簀巻き状態でそんなことを言われても――いや、発言自体がそもそも恰好のつくものではない。

 

「俺はアンタたちと争う気はない」

 

 そんな具合に場が混沌とする中、闇遊戯が自分たちの本音の部分を最初に告げるが――

 

「キミたちになくともボクたちにはある! パラドックスを殺した彼を、私は許すことが出来ない!」

 

 アンチノミーにも「友の死」という譲れぬ部分ゆえか、常日頃の穏やかな部分は鳴りを潜め、Dホイーラーとしての闘志溢れた部分が顔を覗かせるが、その言葉を海馬は鼻で嗤ってみせる。

 

「随分と勝手な物言いだな。殺しに来ておいて返り討ちに遭った途端に喚くなどと、見苦しい真似がよく出来たものだ」

 

「海馬社長、私が言うのもあれですが、理屈と感情は別の話かと――」

 

「――誰が発言を許可した」

 

――すみません。

 

 しかし海馬の言うことも一理あれども、神崎が言う様に「親友の死」というのは理屈が通れば、流せるものでもない。

 

 海馬とて、パラドックスの立場にモクバがいれば、神崎を確実にぶっ殺していることであろう。

 

 

「止せ、海馬。そもそも仇討は必要ない」

 

「それはどういうことだ?」

 

 しかしぶつかる論争を腕で制した闇遊戯の言葉に、今まで沈黙を守ってきたアポリアが反応を見せた。

 

 やがて海馬は屋上に通じる扉へ向けて声を張る。

 

「ふぅん――磯野!」

 

「ハッ!」

 

 やがて開かれた扉から、磯野が押す車椅子が入場。そして、その車椅子に乗っているのは――

 

「――パラドックス!!」

 

「KCで可能な限り修復しておいた。バイタルも安定している――ただ『殺せ、殺せ』と煩い口は塞がせて貰ったがな」

 

 死んだと思われていたパラドックス。

 

 だが、此方も車椅子に拘束するようにベルトで身体の各部が固定され、口元は海馬の語る理由から布で縛られている。

 

「KCの名にかけてコイツに余計な真似はさせていないことを誓ってやる」

 

 そうして先程の闘志溢れた姿が露と消えたアンチノミーを余所に、海馬は足元に転がる神崎へ親指を落としながらZ-ONEを見やった。

 

「こんな男でも俺のKCの社員だ。そして殺しに来た相手を殺さぬ誠意をコイツは見せた――話くらいは聞いて貰うぞ」

 

 禍根の原因であった「パラドックスの死」が「存在しない」以上、残るのは「殺しを行おうとした罪人」だけだ。イリアステルとしても旗色はすこぶる悪い。

 

「……分かりました。ですが、まず仲間の状態を此方で確認させて頂きたい」

 

 ゆえにZ-ONEは海馬の要求を受け入れる方向に舵を切った。

 

「好きにしろ」

 

「わ、私……私が……」

 

「待ちなさい、レイン――アポリア、頼みます」

 

「皆まで言うな」

 

 やがて震える手を伸ばすレインを制したZ-ONEは、頼りになる友の1人であるアポリアにパラドックスの状態の確認を願う。

 

 

そうして磯野と一言二言やり取りした後、車椅子からパラドックスを解放しながら損傷具合を調べていくアポリア。

 

 やがて自分の足で立とうとするパラドックスを強引に車椅子に座らせたアポリアは再度拘束した後、車椅子を引きながらZ-ONEたちの元へと戻る。そして――

 

「損傷は残っているが、拠点で修復を行えば今後の活動に問題はない。あの男の言に嘘はないだろう」

 

「よ、良かった~」

 

 アポリアから告げられた朗報にしゃがみ込みながら大きく息を吐いたアンチノミーから、先程まで辛うじて残っていた闘志が完全に霧散した中、その隣でレインは腰を抜かしたようにペタンと座り込み――

 

「あっ、レイン泣かないで!? えーと、うーんと、こういう時は……ほら! 彼の無事を喜ぼう? ねっ?」

 

 無言でポロポロと涙を流し始めたレインの姿に、アンチノミーは慌てた様子でなだめ始めた。

 

「ミサキ――パラドックスとレインのことは任せます」

 

「分かった……レイン……沢山泣くと良い」

 

 そうして車椅子に縛り付けられたパラドックスと、拭いに拭えど涙が止まらぬレインをミサキに任せたZ-ONE。

 

 やがてZ-ONE、アポリア、アンチノミーは闇遊戯たちとの会合に戻る。

 

「其方の要望はなんでしょう?」

 

「ふぅん、簡単な話だ。俺たちとデュエルしろ」

 

「デュエル……ですか」

 

「そうだ。お仲間が無事であろうとも貴様らにとって神崎を殺す理由は未だ健在の筈だろうからな」

 

 しかし海馬の主張はシンプルだった。デュエリストらしく「デュエルでケリをつける」、つまり――

 

「成程、デュエルで勝利した側の要求を呑む――そう言ったお話ですね?」

 

 Z-ONEが頷いたように、勝った方の言うことを聞く――そんな話だ。

 

「話が早くて助かる。貴様らが先に2勝すればコイツの命は好きにして構わん。さらに俺たちも貴様らの計画に手を貸してやろう」

 

――!? 聞いていた話と違う!? 武藤くんと海馬社長にそんな取り決めは……

 

「好きに使って見せるが良い」

 

 やがて海馬は何か言おうとする神崎を黙らせつつ不敵に笑って見せるが、Z-ONEは暫し考えた後、先を促すように相手の要求を問う。

 

「貴方たちが勝てば?」

 

「貴様らが言う所の『未来救済』とやらの計画は俺たちが主導する。パラドックスとやらの行動を見るに、手詰まり感がいなめん――そんな奴らにウロチョロされるのは目障りだ」

 

「お前たちならば未来を救えるとでも騙る気か?」

 

 だが、此処でアポリアが海馬の発言に噛みついた。

 

 イリアステルが一体どれ程の年月をかけて動いて来たかも知らずに、「目障り」などと鼻で嗤われて黙ってなどいられない。

 

「ふぅん、俺が何の策も用意していないとでも? それにコイツ――神崎も考え無しで動くような男ではない。突飛ではあるが、打開策を幾つか用意していた」

 

 しかし、海馬はそんなアポリアの怒りを知った上で、簀巻き状態の神崎を軽く足で小突きながら更に煽って見せる。

 

「その為に俺のKCを利用した真似は腹立たしいがな」

 

「海馬が言う様に俺たちにはアンタたちと協力する用意がある。だが、互いに今日が初対面の間柄だ――だからデュエルでアンタたちの人となりを計らせて欲しい」

 

 やがて、闇遊戯が海馬のフォローをするように、「殺し合う必要性はない」ことを前面に押し出すが――

 

 

「デュエルキングとのデュエル……」

 

「アンチノミー」

 

 思わず自身の願望を呟いたアンチノミーの姿に、Z-ONEは頭痛を堪えるような声を落とした。

 

「あっ、いや、ボクもちゃんと考えてるよ!? 彼を殺そうとしたボクたちが言うのもあれだけど、デュエルで彼のことをキチンと知ることは悪くないと思うんだ」

 

 それに対し、大慌てで取り繕うように言葉を並べたてるアンチノミー。必死か。

 

だが、アンチノミーを責めるのは酷な話だろう。なにせ「デュエルキングとのデュエル」――これを前にして、燃えぬデュエリストはいないのだから。

 

「アポリア、貴方は?」

 

「私はキミの決定に従おう」

 

 やがてアポリアから信頼と言う名の丸投げを受けたZ-ONEは、神崎というイレギュラーの扱いをどうするべきか暫しの間、頭を悩ませた後――

 

「そうですか…………分かりました。此方の先鋒はアンチノミーに出て貰います」

 

「ふぅん、此方は――おい、神崎。さっさと行け」

 

 チキチキ! デュエル三本勝負~! のトップバッターにアンチノミーを指名し、海馬も相手の意を汲んで神崎で迎え撃つ。

 

 そうしてアンチノミーがデッキを準備する中、ロープでグルグル巻きの簀巻きになっている神崎が転がってくる姿に、思わず零す。

 

「……縄をほどいてあげないと――」

 

「では、僭越ながら私が先鋒を務めさせて頂きます」

 

――自力で縄を引きちぎった!?

 

 前に、アンチノミーの心配など無用とマッスルでロープを引きちぎった神崎は、デュエルディスクを構えた。

 

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 

 そして熾烈なバトルが始まり――

 

 

TG(テックジーナス)のドローパワーは(やっぱり)凄いですね」

 

アンチノミー〇 VS 神崎●

 

 0帝でエクストラ封じ頑張ったけど、《TG(テックジーナス)ハイパー・ライブラリアン》のドロー加速からの怒涛のアクセルシンクロで敗北。

 

 

 神崎、まさかの(って言う程でもない)敗北――に、海馬は怒声を上げる。もうちょっと粘れと。

 

「貴様、真面目にデュエルしろとあれ程言っただろう!!」

 

「いえ、悲しいことに私の全力はあんなものです」

 

「海馬、神崎もエクストラデッキを活用する『シンクロ召喚』を封じる為に、《轟雷帝ザボルグ》の効果でエクストラデッキを破壊したんだ――此処は上手だった相手を褒めるべきだと俺は思う」

 

 神崎の胸倉を掴む海馬の手を、闇遊戯は抑えながらアンチノミーのデュエリストとしての腕への賞賛を送る――神崎のデュエルに大きな不備がなかった以上、相手が悪かったのだと返す他あるまい。

 

 

「デュエルキングがボクのデュエルを褒めてる……!!」

 

 

 そしてデュエルキングからの賞賛に感極まった様子を見せるアンチノミーを余所に、忌々し気に神崎の胸倉を掴んでいた手を放した海馬は吐き捨てる。

 

「やはり貴様ではなく、アクターを引きずり出すべきだった……!」

 

「止せ、海馬。神崎の件とは無関係なアイツを巻き込むべきじゃない――そう決めただろう?」

 

 やがて話題はアクターの件へと向かう。

 

 だが、言葉の節々の情報から分かるように神崎はアクターの正体「神崎=アクター」であることを明かしたのだが――

 

 遊戯に「そんな嘘は止めてくれ、アクターに失礼だ」と、

 

 海馬に「ヤツの名を掠め盗ろうとは言語道断!」と双方に怒られた経緯がある。

 

 もはや神崎が知らないだけで、本当にアクターがいるんじゃないかと勘違ってしまいそうになる始末だ。

 

 

 やがて再度ロープでグルグル巻きにされ、簀巻きにされた神崎が地面を転がる中、Z-ONEが次のデュエルに出るべきか否かを逡巡するが――

 

「では次鋒は――」

 

 その手をアポリアが制し、前に出た。

 

「Z-ONE、キミの状態を鑑みれば、無理をするべきじゃない。次は私が行こう――こんなくだらぬ茶番も早々に終わらせてくる」

 

「早々に終わらせる――か。この俺を容易く倒せると思い上がった貴様の鼻っ柱! 圧し折ってくれる!!」

 

 やがて高齢のZ-ONEに無理はさせられないと次鋒として出たアポリアの巨体を、海馬は見上げながら獰猛に笑って見せる。

 

 

 

 そして熱いバトルが始まり――

 

 

 

アポリア● VS 海馬〇

 

 アポリアの《機皇神マシニクル(インフィニティ)》が《真青眼(ネオ・ブルーアイズ)の究極竜(アルティメットドラゴン)》に殴り飛ばされるも、

 

 《機皇神龍トリスケリア》で《真青眼(ネオ・ブルーアイズ)の究極竜(アルティメットドラゴン)》を装備カードとして強化し、反撃――

 

 した結果、愛するブルーアイズを奪ったことにブチ切れた海馬による怒りの《青眼の双爆裂龍(ブルーアイズ・ツイン・バースト・ドラゴン)》二連打ァ!!

 

 

 により敗北。

 

 

 (どちらかと言えば)融合使い相手に、シンクロキラーの本領は発揮できなかった。

 

「ふぅん、シンクロキラーだか何だか知らんが、そんなもので俺のブルーアイズは止められん!!」

 

「済まない、Z-ONE……キミにまでデュエルの順番が回ってしまった」

 

 高笑いする海馬を余所に、己の不甲斐なさを悔いるアポリアの肩へZ-ONEはそっと手を置き、優し気な声で語る。

 

「構いません、アポリア。デュエルキングのデュエルを通じれば何かが掴めるかもしれません――それに一人のデュエリストとして、挑みたい想いもあります」

 

「なら俺の全てを賭けて、このデュエルに挑む!!」

 

 そう、此処にデュエルキングとの勝負が幕を開けた。

 

 

 Z-ONEとて――いや、デュエリストなら誰しも一度は思い描く夢の舞台だ。

 

 

 やがてデュエルを始めたばかりの少年のような気持ちを思い出しながらZ-ONEは己が神を繰り出した。

 

 

 

 結果――

 

 

 

Z-ONE● VS 闇遊戯〇

 

 《ブラック・マジシャン》からの《拡散する波動》+《レインボー・ヴェール》による、「モンスター効果無効化しながら全体攻撃」により、強力な時械神の力を封じられた上で薙ぎ払われ、フィニッシュ。

 

 

「これがデュエルキング……!!」

 

「時械神……恐ろしい相手だった……!!」

 

 頬を伝った汗を拭う仕草を見せる闇遊戯が語るように厳しいデュエルだった。

 

 決して破壊されず、バトルダメージをも無効にし、それぞれが強力な効果を保持したカードたち――それが「時械神」である。

 

 闇遊戯のギリギリまで削られたライフが、苦戦を雄弁に物語っていた。

 

 

 だが、これで2勝1敗――KCチームの勝利だ。神崎、足引っ張っただけである。

 

 ゆえにデュエル中は「神……だと……!?」と闇遊戯のピンチの度に冷や汗を流していたことなどなかったように海馬は、闇遊戯の勝利に「当然だ」と満足気な笑みを浮かべつつ、Z-ONEの前に立つ。

 

「ふぅん、決まりだな。だが、神崎のプランは貴様らにも嫌悪感が強いだろう――当分は俺のプランに乗って貰う」

 

「これが、そうなんだが……どうだ、Z-ONE? 未来は救えそうか?」

 

 やがて闇遊戯から差し出された計画書に目を通し始めるZ-ONEたち。

 

 これにはパラドックスも腰にしがみ付くレインを引き連れ、ミサキに車椅子を押して貰いつつ参加。

 

 そうして、海馬プレゼンツ――「破滅の未来を救おう!」計画の概要を把握したイリアステルたちだが――

 

 

 

「ぇ? いやいやいやいや、待って。これは流石に無茶苦茶だよ」

 

 アンチノミーが、その狂った独裁者みたいな――もとい、ちょー壮大なスケールの計画に己の顔の前で手をブンブン振りながら難色を示す。

 

「確かに豪快と言わざるを得ないプランだが、我々にはなかった発想だ。試してみる価値はあるやもしれん」

 

「待て、アポリア。こんなものがこの時代の科学力で成せる訳がない。未来の技術を持ち込む必要がある以上、リスクが――」

 

「ふぅん」

 

 しかし賛同するアポリアに、計画の問題点を指摘したパラドックスの発言を海馬は鼻で嗤う。

 

「――何がおかしい、海馬 瀬人」

 

「笑いたくもなる――歴史の観測者を気取っておいて、KCがかつては何を扱っていたか忘れたのか?」

 

 そうしてパラドックスと海馬の間に2人の意思がバチバチと火花を巡らせる中――

 

「でも、歴史上にそんなものは――」

 

「秘匿された――そうですね?」

 

 顎に手を当て悩む仕草を見せるアンチノミーの疑問へ、Z-ONEが己の閃きを語った。

 

「はい、大田さんも太鼓判を押しておられたので、運用自体は問題ありません。そして貴方のお体の問題も、手立てがございます。ただ双方とも――」

 

「いえ、もう十分です――海馬 瀬人。貴方たちの計画、乗らせて頂きましょう」

 

 そんな中、ロープでグルグル巻きの簀巻きで転がる神崎の説明を打ち切ったZ-ONEは海馬へと手を差し出す。

 

 そう、友好の握手だ。今此処に二つの勢力が手を取り合う。

 

「本当か!」

 

「はい、武藤 遊戯――散った仲間に懸けて誓わせて頂きます」

 

 やがて握手を返さぬ海馬の代わりに手を取った闇遊戯に、Z-ONEは同盟を誓うと共に、地面にてロープでグルグル巻きにされ簀巻き状態で転がる神崎へ向き直る。

 

「そして神崎 (うつほ)。貴方の思惑はどうであれ、パラドックスを無事に引き渡して頂きありがとうございます」

 

「…………ありがとう」

 

「いえ、もし彼の命を奪っていれば、此度の会談は実現しなかったでしょうから、お気になさらずに」

 

 やがて地面を見たまま「そもそも潰し合うつもりはなかった」と、なんか良い感じに纏めようとしている神崎だが、その状態では様になどならぬ。

 

「ああ、それと武藤くん、どうか他の方ともデュエルして頂けませんか? 此度の話が纏まった記念と、彼らの人となりを知って頂く為にも」

 

「俺は構わないが……」

 

「いいの!?」

 

 しかし、そんな様にならぬ神崎から提案された「キミもデュエルキングとデュエル!」な交流にアンチノミーは速攻で喰いついた。

 

 デュエリストならば喰いつかねば嘘であろう。

 

「アンチノミー……」

 

「でもアポリア! キミだって、あのデュエルキングとデュエルしたいだろう!? ボクはしたい!」

 

「それは……そうだが」

 

「なら決まりだね! じゃあ、まずはボクから!」

 

「シンクロ召喚……だったな――俺もその技には興味があったんだ」

 

「 「デュエル!!」 」

 

 

 そうしてアンチノミーを一番手に、イリアステルの面々は久しく忘れていた「楽しいデュエル」を堪能することとなる。

 

 

 たとえ、破滅の未来が姿を変え、形を変え、立ち塞がろうとも、デュエルを以て分かり合った彼らの結束の力があれば、乗り越えていけるだろう確信が神崎の目には見えた。

 

 まぁ、ロープでグルグル巻きの状態では地面以外は見えないのだが。

 

 

 

 

「私……も……デュエル……したい」

 

「ええ、きっと得難い経験になることでしょう」

 

「Z-ONEの言う通りだ。この時代ではなく、本来のお前のデッキで挑むと良い」

 

「……頑張ると……いい」

 

 更にパラドックスに背を押され、ミサキに見送られたレインもまた一人のデュエリストとして、デュエルキングへと挑んでいく。

 

 

 そう、今此処に超優秀なレインは復活を遂げたのだ。

 

 

 

 その磨きのかかったレインの超優秀さがあれば、破滅の未来などよゆーであろう。

 

 

 






最初から遊戯と海馬に(原作知識の漏洩だけを完全に防いだ上で)全てを話せば
丸く収まるんだよォ!! 分かったか、神崎ィ!!



~「ミサキ」って誰よ――な人物紹介~

遊戯王ゲーム「WCS2011」に登場。

メ蟹ックこと遊星を唸らせる凄腕メカニックであり、Dホイーラーでもある。

凄腕メカニックよろしく、無口でクールな印象が強いが、仲間想いの内心が見え隠れする。遊星!

そして褒められたり頼られたりすると狼狽え、照れる――照れ屋な側面も。

劇中では、プレイヤー+プレイヤーのソウルブラザーと共にWRPGに参加するのだが――詳細はゲームをプレイだ!!


少々ネタバレだが、劇中では、赤バージョンのアンチノミーっぽい服装に変身する場面もあり、イリアステルとの関連性を伺わせる――ものの、劇中で詳細が語られることはなかった。

大人の事情があったのだろう。



今作では――
そのアンチノミースタイルの変身パンクでイリアステルと無関係は無理でしょ。

とのことから、イリアステルのメンバーに。

その立ち位置は、遊星を唸らせるメカニックであり、アンチノミーのデルタイーグルと同型のDホイールを乗りこなしていたことから――

アンチノミーたちの後輩くらい、かつ、レインの先輩くらいのポジション。

口調がレインと似ているのは、なにか秘密が――




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