マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ボクは理想の世界を創る。苦しみも痛みも貧しさも十代に与えない世界を

愛する十代と共に二人っきりで創るのさ! 二人の愛の理想郷たる世界を!!






第224話 デュエルカウンセリング

 

 

 十代と出会った日から早二日。神崎の仕事部屋で手伝いついでに精霊界の情報を学ぶアモンは、書類に目を走らせる神崎へと問いかける。

 

「何を考えているんですか」

 

「おや、どうかしましたか、アモン?」

 

「十代を閉じ込めて何のつもりかと聞いています」

 

 それは十代の件。海馬、斎王、ギース、そして神崎以外に知らない筈の情報を語って見せるアモンへ、神崎はいつもの貼り付けた笑顔であっけらかんと誤魔化してみせた。

 

「なんの話でしょう?」

 

「とぼけないでください。十代がKCから出た痕跡もなく、家に帰った訳でもない――そして牛尾に向かったと思われる十代の精霊ユベルの攻撃をあなたが撃ち落とした様子を見れば、どういった依頼を受けたかぐらいは想像がつきます」

 

「そうですか」

 

「何がおかしいんですか?」

 

 その笑みは披露されたアモンの推理を聞いても揺らぐことはなく、逆にアモンの不審感をくすぐって見せる始末。

 

「いえ、『随分と気にするんだな』と思ったもので」

 

「……ただ『楽しそうにデュエルするヤツだな』と思っただけです」

 

――相変わらずの秘密主義……か。

 

 やがて神崎が「煙に巻こうとしている」ことを把握したアモンは、追及の手を変えようとするが――

 

 

『大変だ、神崎!!』

 

「これはユベルさん、どうかなさいましたか?」

 

――二日か……意外と早かったな。

 

 急に虚空に向かって話し始めた神崎の姿に、アモンは口を閉ざす。彼とて十代の進退が気になろうとも、オカルト課での仕事を邪魔する気はなかった。

 

 

 

 

 

 

『ずっと俯いてばかりで……ボクは十代に元気でいて欲しいのに……』

 

 やがてオカルト課にて、ユベルが宙に浮かびながら悲痛な声を漏らす。プラナ次元での生活の一日目は幸せの絶頂だった。

 

 思う存分2人でデュエルしたり、砂漠を駆け回って思う存分探検し、宙に浮かぶ岩島に十代を背に乗せて飛び乗って広大な絶景を眺めながら食事したり――とユベルは愛する十代との日々が永遠に続くと信じていた。

 

 だが、二日目の朝一番に十代は「帰りたい」と駄々をこね始める。ユベルがどれだけ「まだ二日目だ」「もっと遊ぼう」「探検しきれていない場所だってある」等々、言葉を尽くしても十代は膝を抱えて蹲ったまま「帰りたい」と辛そうな顔で呟くばかり。

 

 そんな辛そうな十代の姿に、ユベルは初めて己を曲げた。

 

 そして今、神崎の眼の前で事情を話し終え――

 

「遊城くんは『ユベルさんの望みに反して』外に出たがっているんですね?」

 

 ユベルが認めたくない現実が、神崎に突き付けられていた。

 

――随分と棘のあるいい方だな……

 

『…………そうだよ。どうしてなんだ、十代。キミとボクの二人っきりの世界なのに……何がいけなかったんだ……』

 

 精霊が見えぬゆえに事情が分からぬアモンの内心の反応を余所に、ユベルは「そうだ」と言葉では現実を認めつつも、内心では認めきれぬゆえか、自問自答を繰り返す中――

 

――良かった……「十代が自分の傍にいれば状態は気にしない」とか言い出されなくて本当に良かった……

 

 神崎は心の中で大きなため息を吐く。「第一段階はクリアだ」と。

 

 そんな中、流石に蚊帳の外過ぎたのかアモンが何気なく問いかけるが――

 

「何をしたんですか?」

 

「ユベルさんの望みを叶え、お二人だけの世界にご招待しただけですよ」

 

「は?」

 

「まぁ、お試しということで1週間の期限付きではありますが」

 

「――ふざけるなッ!!」

 

 淡々と語られた神崎の発言にアモンは激昂しながらテーブルに跳び乗り神崎の胸倉を掴んだ。

 

 少年を1人幽閉しました――そんな不条理をあっけらかんと語って見せた神崎が、アモンには許せなかった。

 

 

 過去のアモンに降りかかった不条理から、苦しみも痛みも貧しさもない世界――そんな理想の世界を作ることを夢に掲げたアモンはそれを看過できない。

 

 

 KCに来て綺麗ごとだけでは世界は回らぬ現実を実感したとしても、こんな行為が許されていい筈がない。

 

 だが、そうして怒りの様相で胸倉を掴む己を、変わらぬ笑顔で見やる神崎の姿にアモンは叫ぶ。

 

「なに笑っているんですか!!」

 

「いえ、他者を遠ざけてきた貴方がきちんと『誰かの為に怒れる』ことが分かって嬉しかったもので」

 

 しかし神崎の態度は頑なに変わらない。というか、変えられない。なにせ、神崎にも段取りがある。

 

『早くしてくれ、神崎! 十代が辛そうなんだ! 精霊のボクは好きに行き来できるけど、人間の十代にはゲートがいる! 強引に開けて万が一は避けたいんだ!』

 

「直ぐに伺いますね。アモン、同行してください。理由は言わずとも分かりますね?」

 

「わかり……ました」

 

――互いを嗜虐する思想もない今のユベルなら、まだ何とかなりそうだ。

 

 ゆえに急かすユベルの声、助け船とばかりに乗り込んだ神崎はアモンを連れ、十代の両親に連絡を入れながら、プラナ次元へのゲートの元へ歩き始めた。

 

 

 

 

 やがて十代を回収し、一先ず応接室に案内した神崎は飲み物を出しつつ、事情を伺うべく手始めに十代にベッタリなユベルを引き剥がしにかかった。

 

『ゴメンよ、十代。ボクがこんなヤツの口車に乗せられたせいで――』

 

「おや? 私がしたことは『ユベルさんの提案』の後押しだった筈ですが?」

 

『お前……』

 

「貴方が願ったんですよ? 『二人きりの世界が欲しい』と」

 

 そうしてユベルの罪悪感を刺激しながら沈黙を選ばせ、ソファの上で縮こまる十代と視線を合わせながら神崎から――

 

「遊城くん、『ユベルさんと二人っきりの生活』――どうでしたか?」

 

 放たれた質問に十代の肩がビクンと跳ねた。

 

「嫌でしたか?」

 

「……………………うん」

 

 そして強引に答えを引きずり出そうとする神崎につられ、絞り出すように肯定を返す十代。

 

「なら、『そんな提案をしたユベルさん』を『嫌いになってしまいました』か?」

 

 だが、続いた神崎の質問に今度はユベルが肩をピクリと跳ねるが――

 

「――違う!! 俺がユベルのこと嫌いになったりするもんか!!」

 

『十代……』

 

 この発言はすぐさま十代が席から立ちあがる程の勢いを以て否定された。その力強い宣言に安堵するようなユベルの声が漏れ出る。

 

「でも『ユベルさんの幸せの形』は受け入れられない」

 

「……それは……そうかもしれないけど……」

 

 しかし、その隙に十代の口から望む答えを引き出した神崎は、小さく両手を挙げながら笑顔で話を切りにかかった。

 

「そうですか。色々あって疲れたでしょう。ご両親は直に到着しますので、それまではアモンと遊んで上げてください――後、念の為にカウンセラーの方も呼んでおきますね」

 

 そうして席を立った神崎はテーブルの上にデュエルマットを引きながら――

 

「――アモン」

 

「…………分かりました」

 

「では、失礼しますね」

 

 アモンに十代を任せた後、応接室から立ち去った。

 

「十代、デュエルでもしようか」

 

「……うん」

 

 やがてパタンと閉じたドアを僅かに眺めていた十代は、アモンの勧めもあってテーブルデュエルを始め、テーブルの上で頭身を小さくされたモンスターたちがぶつかり合う。

 

『本当にゴメンよ、十代……キミを悲しませるつもりはなかったんだ……』

 

「ううん、いいよ、ユベル。俺、なんだか急に怖くなっちゃってさ」

 

 かくして、若干上向いた十代へユベルが謝罪を送るが、これで「元通り」という訳にはいかない。

 

 

 そう、彼らの選択の時は近づいているのだ。

 

 

 自分たちの間の問題が、誰かを傷つける結果を生んでしまった以上、知らぬ存ぜぬは通じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな具合に、同年代のアモンとのデュエルを通じてかなり気持ちを持ち直した十代は逆転勝利に喜ぶ中、タイミング良く両親が来たとの連絡が入り、彼らが待つデュエル場に案内された十代は家族との再会に安堵する。

 

 

 

 そして再会を喜び合った後、彼の両親の立ち合いの元、神崎とユベルの件で今後の話し合いをすることになった。とはいえ、あくまで「最後の確認」だけであるが。

 

「遊城くん、これからの話なのですが――ユベルさんと一時お別れした方が良いかもしれません」

 

 それはユベルと別れるか否か。

 

『何言っているんだい、お前。そんなこと許される訳ないじゃないか!!』

 

「ユベルさんは酷く心配性な方のようなので、遊城くんが心配ないくらいに、もう少し大きくなってから、一緒にいる道を提案させて頂きます。それまでユベルさんは此方で保護致しますので」

 

 ユベルの苛立ちに満ちた声が落とされる中、気にせず概要を説明した神崎。

 

 つまり今の段階では、少年であり感情面が不安定な十代が僅かでも悲哀などの負の感情を持てば、ユベルはすぐさま原因を排除に動く。そこに「容赦」の二文字はない。

 

 ゆえに、ある程度「十代が精神的に強くなる」まで時を置くことで「ユベルが動かなくても良い」状況を作るプランだ。

 

 

『ボクを無視するとはいい度胸じゃないか。そんなに死にたいなら――』

 

「ユベルと離れ離れになるのは……イヤだ」

 

『――ほら、十代もこう言ってるんだ! もうお前の口車には乗らないよ!!』

 

 だが、十代はこれを拒否。神崎の「ユベルを保護する」との言葉に「プラナ次元に閉じ込める」との意が含まれていることは幼い彼でも何となく理解している。

 

 その為、己が感じた寂しさをユベルに味わって欲しくない十代は首を縦には振れなかった。

 

 そんな十代の姿を、ユベルが錦の旗とばかりに掲げるが――

 

「少しの間であってもですか?」

 

「……うん」

 

「では、ユベルさんの心配を晴らせることを遊城くんが証明しましょう」

 

 神崎は一瞬十代の両親に目配せしたと共に大仰に両の手を広げ、新たなプランを提案する。

 

「……何すれば良いんだ?」

 

 この場の空気の風向きが変わったことを何となく把握した十代が、首を傾げながら先を促せば、打って響くように神崎は語り出した。

 

「カウンセラーの方とデュエルして頂き、相手に『もう大丈夫』と認めて貰うんです。そうすれば、ユベルさんも、遊城くんのお父さんとお母さんも、安心して出来るでしょう?」

 

「……? つまりデュエルすれば良いってこと?」

 

「はい、デュエルで遊城くんが一人前であることを示してください」

 

『ふん、誰が相手だろうとボクと十代の敵じゃないよ』

 

 だが、いまいちピンと来なかった十代が自分なりにかみ砕いてユベルと納得した姿に、神崎は「是」を返す。そう、早い話がデュエルで実力を示す――その一点だけが重要なのだ。

 

「相手のカウンセラーって誰? アモン?」

 

「……ボクの訳がないだろう」

 

 やがて十代の意識が対戦相手に向いたことで、アモンの方を見るが生憎今回の相手は彼ではなく、神崎がデュエル場の一角の扉を開いた先にいる人物。

 

「ではお呼びしますね。精霊と人間のデュエルカウンセラーのデシューツ・ルーさんです」

 

「よぉ、坊主が噂のじゃじゃ馬か」

 

 黒のパーマの長髪の男――デシューツ・ルーが挨拶代わりに軽く手を挙げながら歩み出た。

 

 そう、DM編のバトルシティでおなじみカードプロフェッサーの1人、デシューツ・ルーである。とはいえ、大半の方々――もとい、十代からすれば「誰、このおっさん」な状態だろうが。

 

「彼とデュエルすれば、精霊と人間がとっても仲良くなると評判です」

 

「えっ!? こっちのおっさんも精霊が見えるのか!?」

 

「『おっさん』は止めろ――デシューツさんと呼んでくれ」

 

 やがて神崎からなされた注釈に十代が食いつく中――

 

「我々は席を外していますので。ご健闘を」

 

 神崎は、アモンと最後に十代の頭を撫でた両親を引き連れ、この場を後にする姿に十代は思わず縋るようにアモンの手を取った。

 

「アモンも行っちゃうのか?」

 

「……一人前だと証明する為のデュエルなんだ。友人知人の応援を介する訳にはいかないだろう?」

 

「それは……そうだけどさ」

 

『大丈夫さ、十代。キミにはボクがついているんだ』

 

 未だ不安の抜けきらない十代の手をそっと解いたアモンが立ち去る中、ユベルは十代を後ろから抱き留めながら励ましの言葉を送る。

 

 こうしてデュエル場に残るのは十代とユベル、そしてデシューツ・ルーのみ。

 

「なら、さっさと始めさせて貰うぜ」

 

「お、おう!」

 

 しかし、ユベルの声へ十代が応える前に、急かすようなデシューツ・ルーの声に促されデュエルの幕が上がった。

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 やがてデュエルディスクが先攻後攻を決めるのだが、デシューツ・ルー側がデュエルディスクを操作すると、十代のデュエルディスクにランプが灯り――

 

「ほら、先攻か後攻か好きな方を選ばせてやるよ」

 

『なんの真似だい? まさかハンデのつもりじゃないだろうね? ボクの十代を馬鹿にしないで欲しいな』

 

「そうだ、そうだ! そんなの良いから、本気でやろうぜ!!」

 

 そうして告げられる何気ないデシューツ・ルーの発言に、ユベルと十代は「侮られた」とやいのやいのと騒ぎ立てるが――

 

「…………? あー、あれだ。一応これは『カウンセリング』だからよ。色々質問しなきゃならねぇのさ」

 

「そうなのか?」

 

「そういうことだ」

 

 デシューツ・ルーからの追加の説明に、納得した様子の十代は悩むことなく「先攻」を選び、デッキからカードをドローした。

 

「ならもちろん、先攻だぜ! 俺の先攻! ドロー! よしっ! 魔法カード《予想GUY》を発動! デッキからレベル4以下のモンスター1体――《ルイーズ》を守備表示で特殊召喚だ!」

 

 やがて元気一杯な十代のフィールドに空から藍色の鎧を纏ったネズミの戦士が降り立ち、右手の剣を相手に向けて戦意を示した後、左手の盾を前面に出して十代を守るように膝をつく。

 

《ルイーズ》 守備表示

星4 地属性 獣戦士族

攻1200 守1500

 

「後は《オシロヒーロー》を通常召喚して、永続魔法《強欲な欠片》を2枚、発動! これでターンエンド!」

 

 そんな《ルイーズ》の隣に異次元の歪みが生じ、そこから――

 

 青いマントを羽織った丸い黄色の頭に球体上の青いボディを持ち、棒のような腕と脚の先に黄色の丸い手と靴を装着した赤いモノアイが光る――なんだかよく分からない戦士が頭上の二つのアンテナをピコピコ揺らしながら現れた。

 

《オシロヒーロー》 攻撃表示

星3 地属性 戦士族

攻1250 守 700

 

 

 

 

十代LP:4000 手札2

《ルイーズ》 《オシロヒーロー》

《強欲な欠片》×2

VS

デシューツ・ルーLP:4000 手札5

 

 

 そして壺の欠片が十代の足元に転がる中、デシューツ・ルーは小さく噴き出すように笑みを浮かべる。なにせ――

 

「フッ、さっきまで落ち込んでたってのに随分楽しそうじゃないか」

 

「あっ、いや――」

 

「良いんだよ、それで。デュエルには人の心を癒す力がある――と、オレは信じてる。楽しんだもん勝ちだ」

 

「おっさん……」

 

 なにせ、今回の十代の心を癒す「カウンセリング」という目的はたった1ターンで凡そ達成されている嬉しい誤算があるのだから。これが「デュエルの可能性」というものなのかもしれない。

 

「おっさんはやめろって――オレのターン、ドロー。まずは魔法カード《成金ゴブリン》を発動。坊主のライフを1000回復する代わりに俺は1枚ドローだ」

 

十代LP:4000 → 5000

 

 しかし十代の「おっさん」呼びに面倒そうに頭をかくデシューツ・ルーがカードを引けば、いつの間にか十代の隣にいたゴブリンのおっさんが撒いた光の粉が十代のライフを癒した。

 

「おっさん、手札が悪いのか?」

 

「そんなところだ――魔法カード《予見通帳》を発動。オレのデッキの上を3枚除外し、3回目のオレのスタンバイフェイズに除外したカードを手札に加える。まぁ、ノンビリ行こうぜ?」

 

 無為にライフを回復させた相手の行動に対する十代の怪訝そうな声に、軽く返したデシューツ・ルーの頭上にパラパラと手帳のようなものが浮かび上がり、すぐさま消えていく。

 

「カードを4枚セット。そして魔法カード《命削りの宝札》を発動し、手札が3枚になるよう、3枚ドローだ。まあまあか――もう1枚セットしてターンエンドだ」

 

「でも、そのエンド時に《命削りの宝札》のデメリットでおっさんは手札を全て捨てなきゃならないぜ!」

 

「良く知ってるな」

 

 だが、モンスターの1体すらも召喚せずにターンを終えたデシューツ・ルーは、十代の言葉に従うように空から飛来したギロチンがデシューツ・ルーの2枚の手札を叩き割った。

 

 

十代LP:5000 手札2

《ルイーズ》 《オシロヒーロー》

《強欲な欠片》×2

VS

デシューツ・ルーLP:4000 手札0

伏せ×5

 

 

「へへっ、だろ? おっさんのフィールドにモンスターがいない隙に一気に行くぜ! 俺のターン! ドロー! このドロー時に2枚の永続魔法《強欲な欠片》にカウンターが乗るぜ!」

 

 2枚の《強欲な欠片》のそれぞれの強欲カウンター:0 → 1

 

 

 そうして褒められた事実に気分を良くする十代がカードを引けば、その足元の壺の欠片の追加パーツが集い、徐々に顔が彫られた壺の形が組み上がって行き、全体の半分ほどその形を示す。

 

 そしてがら空きのデシューツ・ルーのフィールドに攻め込むべく――

 

「俺は《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》を召喚して、《ルイーズ》を攻撃表示に! バトルだ!!」

 

 龍の頭を持つ戦士の土色の石像が大地を砕き現れ、剣を構え、

 

竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》 攻撃表示

星3 地属性 戦士族

攻1100 守 900

 

 ネズミの剣士たる《ルイーズ》も、その戦線に加わるべく盾を引き、剣を前に出した。

 

《ルイーズ》 守備表示 → 攻撃表示

守1500 → 攻1200

 

「《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》でダイレクトアタック!! ソウル・ブレード!!」

 

「おっと、流石に3体纏めて受ければライフがスッカラカンになっちまう――罠カード《ゴブリンのやりくり上手》を2枚発動し、さらに速攻魔法《非常食》を発動だ」

 

 やがて十代の声に従い《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》は剣を上段に振り上げながらデシューツ・ルーに迫るが、その前に3枚のカードが壁のようにせり上がり――

 

「罠カード《ゴブリンのやりくり上手》の2枚を速攻魔法《非常食》で墓地に送ったことでライフは2000回復だ」

 

デシューツ・ルーLP:4000 → 6000

 

 その内2つが、ゴブリンの形をした光となってデシューツ・ルーを包むも、十代は「ライフを回復しただけだ」と意気揚々と返す。

 

「でも攻撃は止まらないぜ、おっさん!」

 

「焦んなよ。2枚の罠カード《ゴブリンのやりくり上手》の効果により墓地の同名カード+1枚ドローし、手札を1枚戻す。墓地には3枚。よって4枚ドローして1枚戻す――のを2回だ」

 

「えっ? 墓地の《ゴブリンのやりくり上手》は2枚の筈――」

 

「魔法カード《命削りの宝札》で捨てといたのさ。まぁ、坊主の言うように攻撃は止められないがな」

 

 やがて呆けた声を漏らす十代を余所に、合計6枚ものドローをしたデシューツ・ルーだが、結局は《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》の剣を受け、そのライフは着実に削られていく。

 

デシューツ・ルーLP: 6000 → 4900

 

「おっし! 先制パンチ成功だぜ! 続け、《ルイーズ》! 《オシロヒーロー》!!」

 

 そして残りの十代の2体のモンスターがデシューツ・ルーへと進軍するが、彼らの歩みは突如として地面からせり上がった巨大な赤い扉がある石作りの城門に遮られた。

 

 その城門を前に《ルイーズ》と《オシロヒーロー》の足も思わず止まる。

 

「なっ、なんだ、これ!?」

 

「オレがダメージを受けた時にこいつを発動させて貰ったぜ――罠カード《ダメージ・コンデンサー》をな。こいつは手札を1枚捨てることで受けたダメージ以下の攻撃力のモンスターをデッキより呼び出せる」

 

 やがて十代ともに彼のフィールドの3体のモンスターも、急に現れた城門を見上げれば――

 

「オレが呼んだのは相棒のこいつさ」

 

 その城門の登頂部の踊り場の部分にある頭が、十代とそのモンスターたちを見下ろしていた。

 

《キャッスル・ゲート》 攻撃表示

星6 地属性 岩石族

攻 0 守2400

 

「でも攻撃力0じゃ、俺のヒーローたちは止められないぜ!! 行けっ、《オシロヒーロー》!!」

 

 だが、その攻撃力は0――十代のどのモンスターよりも低い。ゆえに攻め気を見せた十代に応えるように《オシロヒーロー》が腕をクルクル回しながら突撃。

 

「流石に不用心が過ぎるな――罠カード《反転世界(リバーサル・ワールド)》発動。フィールドの全ての効果モンスターの攻・守を入れ替える」

 

「げっ!?」

 

 しかし、その突撃に、《キャッスル・ゲート》は城門と同化していた両腕を開き、その指先からつぶての弾丸をお見舞いした。

 

《キャッスル・ゲート》

攻 0 守2400

攻2400 守 0

 

「うぉっ!?」

 

 そうしてつぶて雨に押し負けた《オシロヒーロー》がバタンと志半ばに倒れる中、飛来したつぶての残りが十代を襲いライフを奪う。

 

十代LP:5000 → 3850

 

「くっそ~!? ならカードを1枚セットして、俺も魔法カード《命削りの宝札》を発動! 3枚ドローだ! んで、カードを2枚セットしてターンエンド! エンド時に残りの手札を捨て……る」

 

 そんな思わぬ反撃に歯嚙みする十代は手札を整え、相手の攻撃に備えようとするが、魔法カード《命削りの宝札》のデメリットを受ける最後の1枚の手札を、かなり口惜しそうな表情で墓地に送った。

 

「どうしたよ、その顔は? よっぽど良いカードを墓地に送る羽目になっちまったのか?」

 

「そ、それはどうかな?」

 

「なんだ? デュエルキングの物真似か? まぁ、そういうことにしといてやるさ」

 

 

十代LP:3850 手札0

《ルイーズ》 《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)

《強欲な欠片》×2 伏せ×3

VS

デシューツ・ルーLP:4900 手札5

《キャッスル・ゲート》

 

 

 やがてバレバレのハッタリで乗り切ろうとする十代を軽く流しつつ、ドローしたデシューツ・ルーは1枚のカードを発動させた。

 

「オレのターン、ドロー! 俺は装備魔法《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》を発動。墓地の『捕食植物』モンスター1体を復活させ、こいつを装備だ――オレが選ぶのは《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》」

 

 すると地面から1本の枝が伸び、そこに実った緑の果実が砕けたと思えば、腕に翼膜の生えたカエルのような食虫植物が大口を開け、不気味な鳴き声を漏らす。

 

捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》 守備表示

星3 闇属性 植物族

攻 300 守2100

 

「《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》の効果を使わせて貰うぜ。こいつよりレベルの低い相手モンスター1体のコントロールを得る」

 

「《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》が!?」

 

 そして《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》の大口からカエルの舌のような触手が飛び出し《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》に巻き付けば、《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》はデシューツ・ルーのフィールドに一本釣りされていった。

 

「安心しな、すぐに返してやるよ――《キャッスル・ゲート》の効果。オレのフィールドのレベル5以下のモンスターをリリースし、その元々の攻撃力分のダメージを与える」

 

 しかし身体にまとわりつく樹液のベタベタ加減にジタバタする《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》は《キャッスル・ゲート》の腹の城門が開いた先にあった大砲に押し込まれ、大砲に着火されると共に――

 

「食らいな! 人間大砲(モンスターカノン)!!」

 

「うわっ!?」

 

『十代ッ!?』

 

 砲弾として放たれた《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》がワタワタするも、結局は十代に激突し、そのライフを大きく削った。

 

十代LP:3850 → 2750

 

『お前、よくも十代を……』

 

「オレはカードを4枚セットしてターンエンドだ」

 

 そうして、ライフ差が広がったことで追い詰められる十代の顔が陰る度に、ユベルの怒りのボルテージが上がって行くが、デシューツ・ルーは気にした様子もなくターンを終える。

 

 しかし、此処で十代が待ったをかけるように首を傾げた。

 

「……攻撃しないのか?」

 

 そう、十代のフィールドに残るのは攻撃力1200の《ルイーズ》のみ、攻撃力2400となった《キャッスル・ゲート》であれば破壊が可能だ。

 

 十代のセットカードを警戒した可能性も考えるが、それにしてはデシューツ・ルーのデュエルが十代には、最初のターンからどうにも消極的に思えてならなかった。

 

「ハンデだよ。ガキ相手に本気でかかりゃぁ直ぐに終わっちまうだろ? これでもカウンセラーでね。癒す前に終わられちゃ困るのさ」

 

「そんなの良いから本気だせよ、おっさん!!」

 

「オレも仕事なんだ。許してくれよ」

 

 だが、デシューツ・ルーから呆れた様子で放たれた「手加減」との発言に十代は憤慨するも、相手には暖簾に腕押しとばかりにまともに取り合う様子はない。

 

 

十代LP:2750 手札0

《ルイーズ》

《強欲な欠片》×2 伏せ×3

VS

デシューツ・ルーLP:4900 手札1

《キャッスル・ゲート》 《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》

捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》 伏せ×4

 

 

「く~! もう良い! 俺のターン! ドロー! この瞬間、2枚の永続魔法《強欲な欠片》に2つ目のカウンターが乗る!!」

 

 2枚の《強欲な欠片》のそれぞれの強欲カウンター:1 → 2

 

 やがて拗ねたようにカードをドローした十代の足元に、前のターンと同様に壺の欠片が集まって行くが、今度はきちんと欲深い顔の壺の欠けていた部分も集まり、二つの壺が完成した。此処から当然――

 

「おっと、大量ドローか?」

 

「前のターンにセットした魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスター2体! 《オシロヒーロー》と《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》を手札に! んで、これだ! 魔法カード《手札抹殺》!!」

 

 壺を割りドローするかと思いきや、大地から伸びたベルトコンベヤーに運ばれた2つの影が十代の手札に舞い戻った後、すぐさま墓地に送られ新たな手札となって転生を果たす。

 

「互いの手札の入れ替え――成程な、使い道のない通常モンスターを他のカードに変えた訳か」

 

「馬鹿にすんな! 俺のデッキに使い道のないカードなんて入ってない!!」

 

「そう怒んなよ。言葉の綾だ」

 

 その流れの真意を誰かに聞かせるように語るデシューツ・ルーだが、「使い道のない」との発言に対し、十代に噛みつかれた為、形ばかりの謝罪を返した。

 

「……此処で2枚の永続魔法《強欲な欠片》の効果発動! カウンターの2つ乗ったこのカードを墓地に送り2枚ドローできる! 合計4枚ドローだ!!」

 

 そのやり取りのせいか、若干、不貞腐れながらなされた十代の宣言により、その足元の欲深き壺の2つはパリンと割れ、4枚ものカードを引いた十代は――

 

「よっしゃぁ!! セットした魔法カード《融合》を発動! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ》と《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン》を手札融合!!」

 

 引き込めたキーカードに一転して目を輝かせ、その頭上にうごめく渦に鳥の翼をもつ緑の獣染みたHEROと猛る炎が描かれたボディスーツを纏う女HEROに呑まれていけば、十代のフェイバリットカードが天より降り立つ。

 

「来い、マイフェイバリットヒーロー!! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》!!」

 

 そうして十代のフィールドに降り立った白い片翼と竜の尾が見える緑と黒の体躯のヒーロー、《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》は、右腕の赤い竜の頭から闘志を漲らせるように気炎を奔らせていた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》 攻撃表示

星6 風属性 戦士族

攻2100 守1200

 

 しかし、攻撃力2100ではデシューツ・ルーの2体のモンスターのどちらも突破は叶わない。

 

「ほー、そいつが坊主のエースか。だが、オレの相棒《キャッスル・ゲート》には届かねぇな」

 

「甘いぜ、おっさん! ヒーローにはヒーローの戦う舞台ってものがあるのさ! フィールド魔法《光の霊堂》を発動!」

 

 だが、HEROには相応しき舞台たる摩天楼が現れ――ることはなく、代わりに白い石造りの神殿が現れた。

 

「その効果で俺のデッキから通常モンスター1体を墓地に送り、そのレベル×100ポイント攻撃力をターンの終わりまでアップする! 俺は《E・HERO(エレメンタルヒーロー) クレイマン》を墓地に送り、フレイムウィングマンの攻撃力は400ポイントアップ!!」

 

 やがて白き神殿に佇む龍の銅像の光が《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》を包み、右手の龍の顎からほとばしる赤き炎が、青く変化し――

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》

攻2100 → 攻2500

 

「バトルだ!! 《キャッスル・ゲート》をぶっ壊せ、フレイムウィングマン!! フレイム・シュート!!」

 

 右腕の龍の顎を腰だめに構えて跳躍した《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》は、空から《キャッスル・ゲート》へ龍の顎より青き炎を解き放った。

 

 

「そしてモンスターを破壊したフレイムウィングマンの効果発動! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを受けて貰うぜ!!」

 

 轟々と炎の海に呑まれる《キャッスル・ゲート》を余所に十代は指を2本立てて突き出し、迎撃の効果ダメージを宣言するが、青き炎の海を《キャッスル・ゲート》が岩の腕を振ってかき消す姿が、それを遮る。

 

「なっ!? 《キャッスル・ゲート》が何で……!?」

 

「悪いがこいつは戦闘では破壊されない頑丈なヤツでな――まさにオレを守る城塞って寸法さ」

 

デシューツ・ルーLP:4900 → 4800

 

「くっそ~! カードを2枚セットしてターンエンド!!」

 

 やがて炎の余波で僅かにダメージを受けつつも、盤面は健在なデシューツ・ルーの姿に、十代は指を一つ鳴らしながら悔しがりつつターンを終えた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》

攻2500 → 攻2100

 

 

 

十代LP:2750 手札1

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》 《ルイーズ》

伏せ×3

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:4800 手札1

《キャッスル・ゲート》 《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》

捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》 伏せ×4

 

 

――まぁ、破壊されても元々の攻撃力は0な以上、フレイムウィングマンの効果は受けないが……やっぱり実力はガキ相応か。

 

「オレのターン、ドロー! そろそろエンジンかけて行くぜ。永続罠《捕食惑星(プレデター・プラネット)》 を発動し――罠カード《捕食計画(プレデター・プランニング)》 を発動! デッキから『捕食植物』モンスター1体を墓地に送り、フィールドの全てのモンスターに捕食カウンターを乗せる!!」

 

 やがて地団駄を踏みかねない十代を余所に、デシューツ・ルーが2枚のカードを発動させれば、フィールドから植物のツタが伸び、周囲に種子をばら撒き始める。

 

「《捕食植物(プレデター・プランツ)コーディセップス》をデッキから墓地へ! そして捕食カウンターの乗ったモンスターのレベルは全て1になる!!」

 

 そうして、ばら撒かれた種がフィールドのモンスターたちに触れると同時に芽を出し、毒々しい若葉が顔をのぞかせていった。

 

フィールドの全てのモンスターの捕食カウンター:0 → 1

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》

星6 → 星1

 

《ルイーズ》

星4 → 星1

 

《キャッスル・ゲート》

星6 → 星1

 

捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》

星3 → 星1

 

「《憑依するブラッド・ソウル》を通常召喚! そして効果発動! 自身をリリースし、相手フィールドのレベル3以下のモンスター『全て』のコントロールを得る!! 頂くぜ、坊主の相棒たちをよ!!」

 

 そんな異様な雰囲気の中、炎のように揺らめく赤い身体のヤギの角に翼、尾を持つ悪魔が現れる。そしてその身を弾けさせ、血の雨を降らせば――

 

《憑依するブラッド・ソウル》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守800

 

 

 その血の呪いは、十代たちの2体のモンスターを包み込み、その瞳を赤く輝かせた途端、主を鞍替えするようにデシューツ・ルーのフィールドに飛び立っていった。

 

「俺のHEROたちが!?」

 

「直ぐに帰してやるよ、《キャッスル・ゲート》の効果! お前のフェイバリットヒーローこと――フレイムウィングマンを射出!!」

 

「えっ!? 《キャッスル・ゲート》が射出できるのはレベル5以下じゃ――」

 

「忘れたのか? 捕食カウンターの乗ったモンスターのレベルは1だ!」

 

 そして《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》が門を開いた《キャッスル・ゲート》の先の大砲に詰められ――

 

「――人間大砲(モンスターカノン)!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 燃え盛る龍の砲弾と化し十代の身を貫いた。

 

 

十代LP:2750 → 650

 

 

「そして捕食カウンターの乗ったモンスターがフィールドから離れた時、永続罠《捕食惑星(プレデター・プラネット)》の効果により、デッキから『プレデター』カード1枚――《捕食生成(プレデター・ブラスト)》を手札に加える」

 

「このままじゃ……!」

 

 やがて《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン》の亡骸から綿毛のように飛んだ種子がデシューツ・ルーの手札に加わるが、今の十代はそれどころではない。

 

 伏せカードこそあるものの過信できる状況ではなく、相手のフィールドにはアタッカーとなる面々がいる以上、残りライフ650の十代がしのぎ切れる公算は低かった。

 

「安心しろよ。攻撃はしないでおいてやる――ガキ相手にマジで行くわけには、いかないからな」

 

 だが、両の手を広げて「ハンデ」どころか「手抜き」を宣言するデシューツ・ルーの姿に、むっとした十代の後ろでユベルが怒りに満ちた声を張り上げた。

 

『お前……! ――もう我慢の限界だ! 十代の為に堪えて上げていたけど、これ以上は許しておけない!』

 

 カウンセリングを自称しているが、明らかに「十代を馬鹿にしている」ような言動と行動が目立つデシューツ・ルーは、ユベルにとっては許せない存在である。

 

 プラナ次元での生活より、気落ちしていた十代の為に、今まで口出しは最低限にしていたが、それも此処までだ。

 

『ボクの十代を馬鹿にした罪、その身であがなって貰うよ!! 永続罠《リミットリバース》を発動!墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を復活させる! 復活させるのは――ボク自身!!』

 

 そうして十代の意思を無視してひとりでに発動したリバースカードにより、十代の背後にいたユベル――いや、《ユベル》自身が歩み出た。

 

《ユベル》 攻撃表示

星10 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

「ん? 勝手に…………随分と勝手してくるじゃねぇか。こいつが噂の疫病神か」

 

 そうしてソリッドビジョンの影響下に入ったユベルを見つつデシューツ・ルーは、事前に得ていた情報から相手の精神状態を「疫病神」と揶揄するように、呆れたように肩をすくめるが――

 

「と……せ……!」

 

「なんだよ、坊主。ハッキリ言わなきゃ伝わらないぜ?」

 

「取り消せよ、おっさん!! ユベルは疫病神なんかじゃない!! 俺の友達だ!!」

 

 相手の「疫病神」との言い様に十代は怒声をあげる。確かにユベルの行動に困ることはあるが、それでも十代にとってユベルは大切な存在なのだ。断じて厄介者ではない。

 

『十代……』

 

「友達……ねぇ」

 

 そんな十代の愛の籠った声に熱っぽい声を漏らすユベルを余所に、デシューツ・ルーは顎髭をさすりながら、試すように問う。

 

「『それ』――本音か?」

 

「当たり前だろ! 俺がユベルを大事にする気持ちは本当だ!!」

 

「『宇宙に飛ばしちまおう』って考えてた癖に?」

 

 だが、デシューツ・ルーの発言に、十代の瞳は揺れ動く。

 

『何を訳の分からないことを言って――』

 

「ち、違――」

 

『ぇ? ……どういうことだい、十代?』

 

 やがて不審げな声を漏らすユベルの姿に、咄嗟に否定を入れてしまう十代だが、それは白状しているも同然だ。

 

「お前だってずっと思ってたんだろ? コイツがいなけりゃ今頃ダチと普通にデュエルして笑い合えてたってよ。コイツのせいで俺の人生滅茶苦茶だってさぁ」

 

 ゆえにデシューツ・ルーは追い打ちをかけるように、「遊城一家」の話をユベルへ説明していく。

 

 そう、十代の両親たちは、ユベルの存在を危惧していた。他者をいたずらに傷つける存在が我が子に憑いていれば当然のことだろう。

 

「邪魔だったんだろ? 誤魔化すなよ。オレはお前みたいなヤツ、腐る程見てきた」

 

 ゆえに愛する我が子を守りたい彼らにとって必然だろう。十代とユベル――その二人の仲を裂こうとするのは。

 

「だから親のツテでKCの『宇宙へカード打ち上げるプロジェクト』を利用して、宇宙に捨てちまおうって考えたんだろ?」

 

『す、捨てる? じゅ、十代、ボクのこと、嫌いになっちゃったのかい?』

 

「違う! 宇宙の正しい波動を浴びて、ユベルに心を入れ替えた後で戻って来――」

 

 泣きそうな表情で振り返り十代を見やるユベルの姿に、胸を締め付けられた十代が説明し直そうとするが――

 

「プッ! 宇宙の! 正しい! 波動! アハハハハ! なんだ、それ! 随分とぶっ飛んだ話じゃねぇか! 親からそう言われたのか? クックック、マジで信じてんのかよ……笑えねぇー」

 

「父さんと母さんを馬鹿にするな!!」

 

 腹を抱えて嗤うデシューツ・ルーの姿に、十代は説明を放棄して怒りの声を飛ばす。彼の両親が、身を切る思いで計画した話だ。馬鹿にされて許容は出来まい。

 

「――なら、『宇宙の正しい波動』ってなんだ? そいつを浴びればお前のダチが考えを変える理屈は? そもそも宇宙の何処にある?」

 

「そ、それは……」

 

「知らねぇよなぁ。だが、安心しろよ――お前の親も知らねぇと思うぜ? 息子の周囲に危害ばら撒く疫病神を捨てちまう為の方便なんだからよ」

 

 だが、嗤うことを止め、詳細な説明を求めたデシューツ・ルーの言葉に十代は返す言葉を持たない。

 

 それはそうだろう。幼い彼が「宇宙の仕組み」どころか、「科学で解明できない不思議な波動」に関する知識を有している筈がない。根拠は「親が言っていた」程度だ。

 

 とはいえ、十代の両親が詳細を知っているかと問われれば「否」と返す他あるまい。

 

「お前のお友達は、お空のお星サマになり、坊主を見守っているのよ――ってな、ククク」

 

 そう、おとぎ話を聞かせるように語るデシューツ・ルーの言葉通り、十代の両親がユベルを引き離す為にそれらしく理由付けしたに過ぎない。

 

 

 ユベルが十代を大切に思うように、

 

 十代の両親もまた、十代を大切に思っているのだ。

 

 

 

 

 さぁ、今こそ十代とユベル――二人の愛が試される。

 

 

 

 






Q:えっ? ユベルを宇宙に射出して正しき波動を浴びせようと提案したのは、十代の両親なの?

A:原作の独自解釈こと今作の独自設定です。

幼い十代が急にこんなことを言い出すのは流石に電波過ぎると判断しました。実行するツテも持ってないでしょうし。

そして、こんな荒唐無稽な話に対し、十代が素直に言うことを聞く相手が「十代の両親」以外に作者は思いつきませんでした。



~今作の「幼少時」の十代のデッキ~
原作での幼少時の際の使用カードを纏めて強引にデッキに組み立てた言ってしまえば

「ヒーローっぽいカードを集めた寄せ集めデッキ」――この時期は十代もHEROカードをあまり持っていないと想定しました。

通常モンスターが多かったのでフィールド魔法《白き霊堂》でバンプするのが辛うじて特徴になる……かもしれない(サルベージして融合にも繋げられますし)


~今作のデシューツ・ルーのデッキ~
遊戯王Rでの彼の戦術――「相手モンスターのコントロールを奪い《キャッスル・ゲート》で射出」を追求したデッキ。

レベル5以下しか射出できない《キャッスル・ゲート》の為に、捕食カウンターで相手モンスターをレベル1にしてコントロールを奪い、射出していく。

彼の使用した――自軍モンスターと引き換えに、相手モンスター全てコントロールを得るぶっ壊れ未OCG罠カード「強引な取引き」も

《憑依するブラッド・ソウル》が疑似的に再現してくれる(捕食カウンターをばら撒く必要ありますけど)







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