マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ロケット「えっ? このクレイジーヤンデレを宇宙まで飛ばすんですか?」







第225話 愛の化身

 

 

 デシューツ・ルーから語られた「ユベルを宇宙に飛ばす」十代の両親の計画を、十代が了承していた事実が裏打ちされていく光景に、ユベルは震える両手を十代の元に伸ばしながら、ありもしない希望に縋るように呟く。

 

『十代、ボクを捨てる気……なのかい? 嘘だよね。アイツがボクたちの仲を裂こうと嘘をついているだけだよね? そうだと言ってくれよ、十代!!』

 

「しょ……い……!」

 

『十代! 嘘だと言ってくれ!!』

 

「――しょうがないだろ!!」

 

 だが、そうして己に縋るユベルに、十代は声を張り上げる。その思わぬ覇気に肩をピクリと揺らすユベル。

 

『……十代?』

 

「俺だってユベルと別れるのは嫌だ!!」

 

 十代とてユベルは大切な存在である。しかし、それでも限度があるのだ。

 

「でも……でも、お前は俺が何を言っても、周りの人を傷つけるのを止めてくれない……俺の言葉じゃユベルを止められない! 俺は嫌なんだ! 俺のせいでユベルが誰かを傷つけるのは! 誰かが傷つくのは!!」

 

 大切な人が、誰かを傷つけ続ける姿を止められない現実を見れば、十代の両親が言うように、神崎が言ったように「距離を取るべき」との選択しかない。

 

 十代の精神・肉体が「傷つく現場」を知らなければ、ユベルは「十代の為に」と誰かを傷つけることはなくなるのだから。

 

 そうして事情はともかく明確な拒絶が十代から出てきた現実に、ユベルは縋るように妥協点を探り出す。

 

『な、なら、こうしよう! キミを傷つけたヤツへの罰は軽いものに――』

 

「無理、無理」

 

『――黙ってろ!! ボクは十代と話しているんだ!!』

 

 茶々を入れるようなデシューツ・ルーの言葉すら今のユベルには煩わしい。

 

「まぁ、安心しろよ、坊主。そのカードはKCが管理してくれるって話らしいからな」

 

「管……理……?」

 

 だが、今の十代にはユベルよりも、デシューツ・ルーの言葉の方が自分たちを取り巻く状況を解決してくれる期待が大きかった。

 

『十代、こんなヤツの言うことに耳を貸しちゃ駄目だ!』

 

「簡単な話さ。誰も使わないように。誰も関われないように。金庫に入れて仕舞っとく――安心だろ?」

 

「そ、そんなのかわいそうだろ!」

 

「なら、宇宙に放り出すのが優しいのか?」

 

 ユベルの忠言すら届かず、十代はデシューツ・ルーが語る「ユベルの隔離」に思わず同情的な声を上げるが、すぐさま、その口は閉じることとなった。

 

「そ、それはう、宇宙の……正しい……波動を――」

 

「まだ、んなホラ話を信じてんのか? 呆れるね。仮に『正しい波動』とやらがあるとして、広大な宇宙で『それ』に巡り合う可能性は何%だ?」

 

 苦し紛れに両親からの提案を繰り返す他ない十代だが、デシューツ・ルーの呆れた声が示すように、今の幼い十代にも「どちらがマシか」くらいは察しが付く。

 

「そんなクソみてぇな確率に縋って、相棒を宇宙に独りぼっちにするのが、お前の優しさなのか?」

 

「金庫に閉じ込めても独りぼっちになっちゃうだろ!!」

 

「ならお前がコイツを止められるくらいに強くなったら迎えに行ってやればいい」

 

 そして十代の気がかりだった「閉じ込めてしまうのは可哀そう」との心理的ハードルも、己の耳元を指先でコンと叩いたデシューツ・ルーによって外された。

 

「いや、気が向いた時でもいい。会いに来てやればいい。宇宙に行っちまえば、そんなことも出来ない――だろ?」

 

「だけど……だけど……」

 

 ハシゴが外されていく度に十代は何が正しいのか分からなくなっていく。

 

 デシューツ・ルーの提案は本当に正しいのか。

 

 己の両親がユベルを煙たがっていたとの話は本当なのか。

 

 宇宙に飛ばせばユベルが正しくなるとの話が嘘だったのは本当なのか。

 

 己を閉じ込めた神崎にユベルのことを任せていいのか。

 

 

 幼い十代の心の許容量を超えかねない情報の波に、何を選び取れば良いのか十代の内はグルグルと回る乗り物酔い染みた不快感に苛まれる。

 

――十代、ボクの為にこんなに悩んで、苦しんで……でも安心して、十代。キミを苦しめる全てはボクが払ってあげる!

 

 そして、そんな「十代が精神的に苦しむ姿」を見れば、ユベルが何をするかは明白だった。

 

『十代、簡単だよ。アイツらを叩きのめして、言うことを聞かせればいいんだ――これが一番手っ取り早い!!』

 

 そう、ユベルは「己が捨てられるかもしれない」という問題への思考を放棄した。何より十代を守ることが先決。さらに、その思い切りがユベルの中で新しい道を授ける。

 

『そうさ! 何を悩んでいたんだ、ボクは――ボクと十代の邪魔をする奴らをみんな片づければ良い! 十代を惑わせるものを全て! 十代の後ろ髪を引く全てを!! そしてボクと十代だけの世界を作るんだ!! あの次元世界じゃなく、この世界に!! 最初に戻るだけだ!!』

 

「待て、ユベル!!」

 

『リバースカード発動! 永続罠《竜星の極み》! これでお前のお仲間たちは必ず「攻撃しなければならない!!」――攻撃して貰うよ、このボクに!』

 

 そうして十代の声など届かず、凶行に奔ったユベルはデシューツ・ルーを指さす。

 

 《ユベル》は相手モンスターに攻撃された際、ダメージを無効化し、相手の攻撃力分のダメージを与える効果を持つ。その効果に己の力を乗せて、実際のダメージを叩きつけてやろうとするユベルだが――

 

「…………おー、怖――なら永続罠《ディメンション・ガーディアン》を《キャッスル・ゲート》を対象に発動して、オレのフィールドのモンスターを全て守備表示に変更だ」

 

 耳元をガリガリと退屈そうにかいたデシューツ・ルーは、オーバーに驚いた仕草をした後、デュエルに戻る。

 

 そして巨大な城門たる《キャッスル・ゲート》が岩の腕を交差させ、腹の門を強固に守り、

 

《キャッスル・ゲート》 攻撃表示 → 守備表示

攻2400 → 守 0

 

 ネズミの剣士《ルイーズ》もまた、己の体を盾に隠すように丸まらせた。

 

《ルイーズ》 攻撃表示 → 守備表示

攻1200 → 守1500

 

 

『守備表示で逃げる気かい? 一体いつまで保つかな?』

 

「ガキ相手にマジになる気もなかったが、ギア上げてやるよ――永続罠《大捕り物》を発動。お友達は頂くぜ?」

 

 だが、そんな場当たり的なデシューツ・ルーの対応を嗤っていたユベルは、飛来する十手から伸びる縄に絡めとられ、十代の元から引き離される。

 

「――ユベル!!」

 

「これで頼りの相棒もいなくなった訳だが……どうする、坊主? サレンダーするか?」

 

『お前……!!』

 

「っ……!」

 

 そうしてデシューツ・ルーのフィールドで地面に横たわる怒りに満ちたユベルを悔し気に十代は眺めるが、サレンダーの意思どころか返答すらままらない。

 

「お悩み中か。まぁ、好きなだけ考えな。オレはこれでターンエンド。エンド時に《ユベル》の維持コストとして、坊主から奪った《ルイーズ》をリリースだ」

 

 やがて地面から伸びたツタが《ルイーズ》を貫き、苦し気な声を上げて消えていく中、デシューツ・ルーは挑発するように大手を広げてターンを終えた。

 

十代LP:650 手札1

《竜星の極み》 《リミットリバース》 伏せ×1

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:4800 手札1

《キャッスル・ゲート》 《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》 《ユベル》

《ディメンション・ガーディアン》 《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》 《捕食惑星(プレデター・プラネット)》  《大捕り物》

 

 

 盤面差は明確。ライフ差も絶望的だ。

 

 辛うじて手札は拮抗しているが、次のデシューツ・ルーのターンで魔法カード《予見通帳》の3ターン目となれば除外された3枚が手札に加わり、一気に引き離される。

 

 ユベルを取り巻く問題と、デュエル――その双方から追いつめられる十代が動けぬ姿に、デシューツ・ルーはパンと手を叩く。

 

「まだ悩んでるんなら、こうしようぜ?」

 

 その音にハッと顔を上げた十代に提示されるのは――

 

「俺が勝てば、相棒は金庫行き」

 

 小細工のない単純明快な選択。

 

「坊主が勝てば、波動とやらを頼りに宇宙へ飛ばすなりなんなり好きにしな」

 

 そう、デュエリストらしく「デュエルの勝敗」でユベルの今後を決めると言うもの。

 

「これで、分かりやすくなっただろ?」

 

――でも、おっさんがその気ならこのターンで終わってた……

 

 だが、十代からすれば、選択の余地は殆どない。永続罠《大捕り物》でユベルのコントロールを奪えるのなら、攻撃力2400となった《キャッスル・ゲート》を守備表示にする必要はなく、そのまま攻撃していれば、十代に打つ手はなかった。

 

 最初から「遊ばれている」事実が十代に重くのしかかる。

 

――フレイムウィングマンも墓地、ユベルも奪われて……どうすれば。

 

「なぁ、坊主。軽く考えろよ」

 

 そして相棒のカードと、フェイバリットヒーローのない己がどこまで――そう考え込む十代に、デシューツ・ルーは己の耳元をコツンと叩きつつ饒舌に語る。

 

「別に坊主にとって悪い話でもないだろ? お前の手に余ることをKCに任せる――そんだけの話だ」

 

 そう、勝っても負けても十代に損はない。勝てば十代の望み通りに、負けても多少望んだ形から逸れる程度だ。

 

「それとも、このまま相棒が誰かを傷つけ続けてる前で、手をこまねくつもりか?」

 

「……おっさんの言ってることは正しいのかもしれない」

 

『じゅ、十代……』

 

 ユベルの問題がある以上、決断は避けられない――その覚悟を受け入れるように俯く十代をユベルが縋るような視線で見る中、ぽつりと呟く。

 

「俺のやってることは、ただの我儘なのかもしれない」

 

 今こうして十代がデシューツ・ルーの提案に頷けないのは、どちらを選んでも十代に都合が良い選択を踏み切れない理由は一つ。

 

 

 やがて十代は、その誤魔化し続けていた己の心をさらけ出す。

 

「でも、俺は! ユベルのことは、ちゃんと俺の手で解決したいんだ! 大切な友達だから! 他の人じゃなく! 俺の手で!!」

 

 両親に言われるままではなく、神崎に丸め込まれるままでもなく、デシューツ・ルーに提案されるままでもない。

 

 他ならぬ己自身でユベルへと向き合うのだと、十代はデッキのカードに手をかけた。

 

「ユベルと一緒にいられる道を作ってあげたいんだ!! 俺のターン、ドロー!!」

 

――っ! ダメだ、今の手札じゃ……

 

「メインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》発動! エクストラデッキを6枚除外して2枚ドロー!!」

 

 だとしても、容易く覆らぬデュエルの流れに歯嚙みする十代だが、その闘志は折れることなく二つの欲深き顔を持つ壺を砕き、希望を繋ぐべく2枚のカードを引いた。

 

『……だよ。そうだよ! そうさ! 十代はボクと一緒にいるんだ!! 十代もそう望んでる!! なら、その道を作るのはボクの役目!!』

 

 しかし、そんな十代の闘志に触発されるように囚われのユベルは己に強く言い聞かせるように呟き、そして叫ぶ。

 

「ユ、ユベル?」

 

『ボクは手札の――』

 

「待て、ユベル! そんなことしたら――」

 

『魔法カード《悪魔払い》を発動! フィールドの悪魔族を全て破壊! これでお前の手からボクは自由になる!!』

 

 やがて十代が引いたカードへユベルが指をさせば、その内の1枚がひとりでに浮かび上がって発動され、悪魔を祓う聖書の文言が空気を揺らせば、ユベルの体を覆う龍の鱗がピシリピシリとひび割れ始めた。

 

『十代はボクを求めてる!! 十代の愛が! 十代の想いが! ボクをさらなる高みへと誘う!! ハハハハハハハ!!』

 

 するとデシューツ・ルーから解放されたユベルの体は、自らの破壊をトリガーとして禍々しい闇に包まれ、巨大な双頭の黒き竜と化していく。

 

 そして身体の各所から鋭利な爪を伸ばし、心臓部の巨大な一つ目がギョロリと開いた力を解き放ったユベルが、獲物を求めるように、その瞳でデシューツ・ルーを射抜いた。

 

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》 攻撃表示

星11 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

「……随分とおっかない愛だな」

 

『ボクはカードを1枚セット!』

 

「お、俺もカードを1枚セット! これでターンエンドだ!」

 

 その見上げるほどに強大な姿と、禍々しい気配にデシューツ・ルーが乾いた声を漏らす中、膨れ上がったユベルの力は十代を振り回すように勝手にデュエルを進めていく。

 

 十代も何とか足掻いてはいるが、焼け石に水といったところ。

 

『まだだよ、十代! 見ておくれ、ボクの力を!! この瞬間、ボクの効果発動!! フィールドの全てのモンスターを破壊する!! 消えなよ、ボクと十代の邪魔をするお邪魔虫さん!!』

 

 それに加え、ユベルは己の力を思うが儘に振るい、二対の竜の頭からフィールド全域に繰り出された黒いイカズチのような衝撃が広がった。

 

「ぐぁっ!? なんだ、こいつは……」

 

『おっと永続罠《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》を発動していたよ。これで フィールドから墓地に送られる度にコントローラーに500ポイントのダメージだ』

 

 その衝撃により、《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》が消し飛ばされた衝撃が、デシューツ・ルーの体を文字通り打ち据え、ライフどころか、その肉体にまでダメージを与えた。

 

デシューツ・ルーLP:4800 → 4300

 

「たった500でこれ……かよ……だが永続罠《ディメンション・ガーディアン》のお陰でオレの《キャッスル・ゲート》は無事だぜ」

 

 そうした思わぬ事態に、苦し気に表情を歪ませるデシューツ・ルーだが、彼もデュエリストの矜持ゆえに倒れることはない。

 

「そして捕食カウンターの乗ったモンスター《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》がフィールドから離れたことで永続罠《捕食惑星(プレデター・プラネット)》 の効果でプレデターカード――装備魔法《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》を手札に」

 

 

十代LP:650 手札0

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)

《竜星の極み》 《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》 伏せ×2

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:4300 手札3

《キャッスル・ゲート》

《ディメンションガーディアン》 《捕食惑星(プレデター・プラネット)

 

 

 やがて消し飛ばされた《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》の残照たるカードを手札に加えながらデシューツ・ルーは不意にピクリと動きを止めた後、頭をかきながら一度大きくため息を吐き、デッキのカードへ手を伸ばした。

 

「…………はいはい、オレのターンだ。ドロー」

 

『スタンバイフェイズに罠カード《バトルマニア》を発動! これでキミの相棒を強制的に攻撃表示に! そして必ずバトルしなくちゃならない――このボクとね! ハハハハハハハ! これでキミはおしまいさ!!』

 

 だが、そんな相手の行動など意に介さず力を振るうユベルによって、《キャッスル・ゲート》は交差していた腕を構え、攻撃姿勢を取らされるが――

 

《キャッスル・ゲート》 守備表示 → 攻撃表示

守 0 → 攻2400

 

「――ったく、軽くホラーだな。この瞬間、魔法カード《予見通帳》を発動した3度目のスタンバイフェイズだ。除外した3枚のカードを手札に加えさせて貰うぜ」

 

 《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の威容を眺めるデシューツ・ルーの頭上に浮かんだ通帳から3枚のカードがひらひらと落ち、大きく増えた手札を以て戦略を組み立て直すデシューツ・ルーは、独り言のように零す。

 

「あー、はいよ……坊主――お前、本当に理解してるか? 今、お前の相棒が『坊主のクラスメイトを傷つけた時みたいに』無茶苦茶してる」

 

 それは十代への問いかけ。過去の傷をほじくるような所業。

 

 十代と楽しくデュエルしていただけのクラスメイトは、突如として意識不明の身となった。それを「ユベルのせい」と押し付けるのは簡単だ。

 

 幼い身の上で受け止めるには、あまりにも重い事態であったことは容易に想像がつく。

 

「坊主は『道を作ってあげたい』なんざどっか()()()みたいに言ってるが、あの事件の後、お前は相棒とちゃんと向き合ったのか? ……ガキ相手に酷な話かもしれねぇが、下手すりゃ周りが大怪我しかねなかった話がある以上――」

 

 だが、それでも間接的とはいえ、他者を傷つけ、そして同じことを繰り返した責任を負わねばなるまい。ユベルの「相棒」を自称するのなら避けては通れぬ道だ。

 

「――宇宙の波動なんて訳の分からねぇもんよりも先に、『お前』自身がぶつかるべきじゃねぇのか? 我儘通したいならやらなきゃならねぇことがあるだろ」

 

「おっさん……」

 

 そう、ユベルが「話を聞いてくれない」からと向き合うことを放棄した十代の言葉では、その程度の覚悟では足りない――そう言外に告げるようなデシューツ・ルーの言葉に、十代は沈痛な面持ちを見せる中、ユベルの怒声が響く。

 

『煩いよ! ボクの十代を惑わせるな! 早くデュエルを進めなよ!! ボクを攻撃して自滅する道をさぁ!!』

 

「オレはカードを3枚セットして――」

 

『お前のエースを守備表示にして逃げることは出来ないよ』

 

 ユベルからすれば、KCに来てから十代との関係が揺らぐことばかりが続いているゆえの苛立ちと焦りが募るが――

 

「《カードカー・D》を召喚。こいつをリリースすることでオレは2枚ドロー。代わりに強制的にエンドフェイズに移行だ――永続罠《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》のダメージを受けちまうがな」

 

 青いおもちゃの車がデシューツ・ルーにカードを届けた代金代わりにバトルフェイズ、メインフェイズ2をまとめて頂戴したことで、ユベルの力は空振りとなった。

 

《カードカー・D》 攻撃表示

星2 地属性 機械族

攻 800 守 400

 

デシューツ・ルーLP:4300 → 3800

 

『チッ、上手く躱したじゃないか』

 

 《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》から放たれた光がデシューツ・ルーを打ち抜くが、ユベルは己の張った罠の隙間を掻い潜られ、十代を惑わす障害を排除できなかった事実に舌を打つ。

 

 

十代LP:650 手札0

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)

《竜星の極み》 《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》 伏せ×1

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:3800 手札6

《キャッスル・ゲート》

《ディメンションガーディアン》 《捕食惑星(プレデター・プラネット)》  伏せ×3

 

 

 

「……俺の、俺のターン――ドロー! 魔法カード《命削りの宝札》を発動! 手札が3枚になるようにドローする!」

 

 そして様々な思惑が向けられる中、力強く引いたカードを発動させた十代の手に己の覚悟を問うようなカードが舞い込み――

 

『良いカードを引いたね、十代。これでアイツを――』

 

「俺はカードを2枚セットして――《ヒーローキッズ》を召喚!!」

 

 その1枚がフィールドにて、黒と赤のヒーロースーツに白と赤の手甲、足甲を纏った目元を覆うマスクをつけた藍髪のヒーローの少年として、十代の覚悟に応えるように拳を握った。

 

《ヒーローキッズ》 攻撃表示

星2 地属性 戦士族

攻 300 守 600

 

『十代!? 駄目だよ、そんなことしちゃ! このままじゃキミが――』

 

「――俺はターンエンド!! エンド時にユベルの効果が発動し、フィールドの全てのモンスターを破壊! ゴメンな、《ヒーローキッズ》……!」

 

 だが、その《ヒーローキッズ》は《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の力によって傷つき、薙ぎ払われたことで消えていく中、《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》がカタカタと音を立てて妖しく脈動すれば――

 

「永続罠《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》の効果で俺は500のダメージを受け……ぅわぁっ!?」

 

『十代!!』

 

 ユベルの力によって実体化した衝撃に十代は小さく吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

十代LP:650 → 150

 

 

 そうして傷つき倒れた十代の姿に心配気な声を漏らしながら《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の巨大な身体で膝をつき、怪我の様子を伺うユベル。

 

 だが、その手を借りずに十代は一人で立ち上がりながら、その瞳を真っすぐ見返し、問いかけた。

 

「ユベル……俺が傷ついて、悲しいか?」

 

『当然じゃないか!』

 

 そしてユベルは即座に当たり前だと宣言する。

 

 愛する相手が傷ついて何も思わない訳がない。それがユベル程に歪んで肥大化した愛を持つものならば、その心の揺れはより大きなものになるだろう。

 

 しかし、だからこそ十代はユベルに身体を張ってでも、伝えなければならない――いや、もっと早くに伝えておくべきだった。

 

「でも! みんなも……みんなも同じように悲しいんだ……大切な人が傷つくのは……」

 

 ユベルが十代を大切に思うように、十代がユベルを大切に思うように、「みんな」にも「大切な相手」がいるのだ。

 

 そんな相手が今の十代のように傷つけば、ユベル程の攻撃性を持たずとも、その心中は穏やかではいられない。悲哀がその心を包むだろう。

 

「こんな悲しいことをばら撒いちゃ駄目だ!!」

 

『でもアイツらはキミを悲しませた!! ボクはキミを守りたいんだ!!』

 

 だからこそ、十代は力の限り宣言するが、ユベルにも言い分があった。

 

 前世より十代を守る為に様々なものを失ってきたユベルには、もはや十代しかない――その執着が僅かな綻びすら許さぬ苛烈さを生んだ。

 

 十代の心が大人になるまで守り切る。その使命の為に。

 

「ありがとな……俺を守ってくれるお前の気持ちは嬉しいけど――俺だってユベルを守りたいんだ!!」

 

 そんなユベルの想いを十代は受け入れつつも、己が道を、己が意思を、己が力を示し、「守って貰う」ではなく、共に並んで歩く為にユベルに誓う。

 

「頼りないかもしれないけど、見ていてくれ、ユベル! 俺はこのデュエル勝って見せる!!」

 

 この絶望的な状況をひっくり返し、勝利を以てユベルへの愛を示すのだと。

 

 

 それがユベルに初めて十代から告げられた強い意志だった。

 

 

十代LP:150 手札0

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)

《竜星の極み》 《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》 伏せ×3

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:3800 手札5

《キャッスル・ゲート》

《ディメンションガーディアン》 《捕食惑星(プレデター・プラネット)》  伏せ×3

 

 

 

「ヒュー、お熱いこって――オレのターン、ドロー! へっ、ようやくか」

 

 そんな十代の姿にデシューツ・ルーは口笛を鳴らして見せるが、己の耳元をトンと叩いた後にその身を纏う雰囲気がガラリと変わる。

 

 そう、遊びは終わりだ。

 

「坊主、残念ながらサービスタイムは終了だ!! 魔法カード《捕食生成(プレデター・ブラスト)》を発動! 手札の『プレデター』カードを任意の数公開することで、その枚数分フィールドのモンスターに捕食カウンターを乗せる!」

 

 そのデシューツ・ルーの意思を示すように、大地から芽を出した食虫植物が異音染みた音と共に種子をばら撒ければ――

 

「オレは《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》を公開し、お前の相棒に捕食カウンターを乗せる!!」

 

 《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》にぶつかった矢先に肉に根を張り、その権威をエサに発芽してみせる。

 

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の捕食カウンター:0 → 1

星11 → 星1

 

 

「装備魔法《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》発動! 甦れ、《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》!」

 

 やがて先ほど種子を飛ばした食虫植物が一つの花を咲かせれば、墓地より翼膜のついたカエルのような植物《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》が舞い戻った。

 

捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》 守備表示

星3 闇属性 植物族

攻 300 守2100

 

「そいつは!?」

 

「此処でオレはセットした《融合準備(フュージョン・リザーブ)》を発動! エクストラデッキの《魔人 ダーク・バルター》を公開し、デッキから融合素材である《憑依するブラッド・ソウル》と、墓地の融合を回収!」

 

 レベル3以下のモンスターのコントロールを1ターン奪う《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》の効果を警戒する十代だが、その予想を裏切り、デシューツ・ルーの手札にてゲラゲラ嗤う《憑依するブラッド・ソウル》が空へ飛び立ち――

 

「そして魔法カード《融合》を発動! フィールドの《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》と闇属性《憑依するブラッド・ソウル》を手札融合!! デュエルに一花添えてやりな! 《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》!!」

 

 天に浮かぶ不可思議な渦にて《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》と混ざり合えば、急激に成長を遂げ侵略するように巨大な根を張る毒々しい桃色の花弁を開くラフレシアの化け物が毒煙を吐きながら現れた。

 

捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》 攻撃表示

星 闇属性 植物族

攻2500 守2000

 

「フィールドから《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》が墓地に送られたことで、永続罠《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》でオレはダメージを受けちまうが――」

 

デシューツ・ルーLP:3800 → 3300

 

 そんな中でもユベルの力によって、僅かに肉体に実際のダメージを受けるデシューツ・ルーだが、その動きは止まらない。

 

「闇属性融合モンスターの融合召喚成功時、墓地の罠カード《捕食計画(プレデター・プランニング)》を除外し効果発動! フィールドのカード1枚を破壊する! 消えな、《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》!!」

 

 デシューツ・ルーが獲物へ向けて、その指で指し示せば、《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》が巨大なツタを振り下ろし、十代のフィールドのカードを破壊。

 

 これで逐一ダメージを与えてくる《死の演算盤(デス・カリキュレーター)》が消えた事実に、軽く肩を回したデシューツ・ルーが次に狙うは――

 

「これで邪魔臭ぇカードは消えた! 魔法カード《融合派兵》を発動! エクストラデッキの《魔人 ダーク・バルター》を公開し、その融合素材である《憑依するブラッド・ソウル》をデッキから特殊召喚!!」

 

 再び現れる赤き炎の如き身体を持つ悪魔が、十代のフィールドのモンスターを獲物でも見るような笑みを浮かべて現れる。

 

《憑依するブラッド・ソウル》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

「此処で《融合呪印生物―闇》を通常召喚し、効果発動! 自身を含めたフィールドのモンスターをリリースし、それらを素材とする融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する!!」

 

 だが、その《憑依するブラッド・ソウル》は十代のモンスターではなく、何処か脳を思わせる不気味な甲殻類もどきの集合体から伸びる触手に身を任せ、混ざり合えば――

 

《融合呪印生物‐闇》 攻撃表示

星3 闇属性 岩石族

攻1000 守1600

 

「《憑依するブラッド・ソウル》と共に 生贄融合!! 《魔人 ダーク・バルター》!!」

 

 黄金の鎧を纏った白髪の悪魔が現れ、緑のマントがたなびく程に身体を揺らして狂気的な笑い声を響かせる。

 

《魔人 ダーク・バルター》 攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻2000 守1200

 

「また別のモンスター……!?」

 

 今までのデュエルを「手抜き」と当人が語ったように次々と現れる大型モンスターたちへ十代が気圧されんとする中、ユベルは十代を庇うように立ちつつ声を張る。

 

『無駄だよ! 何を何体呼ぼうが、ボクの力の餌食さ!!』

 

「なら、こうさせて貰うぜ! 魔法カード《死者蘇生》――甦れ、《憑依するブラッド・ソウル》! そして自身をリリースして効果発動!」

 

 そして三度呼び戻される《憑依するブラッド・ソウル》。その役目はもちろん――

 

《憑依するブラッド・ソウル》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

 

「さぁ、手の鳴る方へってな! レベル3以下になった坊主の相棒を頂きだ!」

 

『お前! また!!』

 

 《憑依するブラッド・ソウル》の力により、《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の巨大な身体が赤いオーラによって宙に捕らえられた事実にユベルが怒りの声を漏らすが、すぐさま十代が声を届けた。

 

「大丈夫だ、ユベル!! お前のことは、俺が必ず取り戻す!!」

 

「カッコいいねぇ」

 

『ふん、当然じゃないか。だけど、つまらないミスをしたね――ボクの効果を忘れたのかい? このままターンを終えれば――』

 

「勿論、覚えてるさ――速攻魔法《月の書》発動だ。これで裏側守備表示になってもらうぜ。そこでご主人様が無様に負けるところを特等席で見てな」

 

 月が描かれた青き書物の輝きが、宙に浮かぶ《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の巨躯を1枚のカードへと封じ込めた。

 

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》 攻撃表示 → 裏守備表示

攻 0 → 守 0

 

 これにてエンド時に《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の効果によるモンスター全破壊の効果にさらされる心配も消えた。

 

「さぁ、バトルだ!! 《キャッスル・ゲート》で攻撃!! 王城の鉄槌!!」

 

 とはいえ、この攻撃を十代が防げないのなら、意味のない心配となるが。

 

 

 やがて《キャッスル・ゲート》の指先からマシンガンの如きつぶての雨が十代の元に迫るも――

 

 

「俺は負けない!! ユベルを守れるデュエリストになるんだ!! 罠カード《和睦の使者》を発動! このターン、俺はバトルダメージを受けない!!」

 

 青いローブを纏った一団の祈りによって生成された光のバリアに弾かれ、十代には届かない。

 

「粘るねぇ――バトルを終了し、罠カード《融合準備(フュージョン・リザーブ)》を発動! デッキの《憑依するブラッド・ソウル》と墓地の魔法カード《融合》を回収し、再び《融合》を発動!」

 

 そうして1ターン限りの猶予を得た十代だが、デシューツ・ルーは手を緩めるつもりはないとばかりに、再び天に渦が巻き始めれば――

 

「融合モンスター《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》と手札の闇属性《憑依するブラッド・ソウル》で融合召喚!! さぁ、出てきな! 《捕食植物(プレデター・プランツ)ドラゴスタペリア》!!」

 

 《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》を飲み込むように数多に茎を伸ばし、成長を続けて集った植物が巨大なドラゴンを思わせる姿で大地を踏みしめた。

 

 昆虫を思わせる頭部から禍々しい毒煙を吐き出しながら紫の翼膜を広げて、異音染みた咆哮を響かせる。

 

捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》 攻撃表示

星8 闇属性 植物族

攻2700 守1900

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 

十代LP:150 手札0

《竜星の極み》 伏せ×2

フィールド魔法《白き霊堂》

VS

デシューツ・ルーLP:3300  手札1

《キャッスル・ゲート》 《魔人 ダーク・バルター》 《捕食植物(プレデター・プランツ)ドラゴスタペリア》 《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》(裏守備)

《ディメンションガーディアン》 《捕食惑星(プレデター・プラネット)》 伏せ×2

 

 

 そうして、より万全の布陣を敷いたデシューツ・ルーを倒すべく、突破口となるべきカードを願い十代がデッキに手をかけ――

 

「くっ……! 俺の……俺のターン! ドロー!! 来たッ!!  魔法カード《所有者の刻印》を発動! ユベルは返して貰うぜ!!」

 

『十代!!』

 

 ユベルを取り戻すカードを引いた十代のフィールドに六芒星の刻印が現れ、裏守備表示を示すカードの状態の《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の呪縛が今、解き放たれる。

 

 

「無駄だ! 《魔人 ダーク・バルター》の効果発動! ライフを1000払い、通常魔法の発動を無効にし、破壊する!! レジスト・ショット!!」

 

 かと思いきや、《魔人 ダーク・バルター》の腕から放たれた黄金の弾丸が十代のカードを貫き、その六芒星の刻印を消し飛ばす。

 

デシューツ・ルーLP:3300 → 2300

 

「そんなッ!?」

 

「さぁ、どうするよ――手詰まりか? 相棒を守れる程に強くなるんだろ? まさか、それで終わりか? なら、さっさとターンエンドを頼むぜ? 勇ましい言葉だけじゃ我は通せねぇと諦めな!!」

 

「……くっ!」

 

 相手の最後の希望を砕いたデシューツ・ルーは発破をかけるように十代を煽るが、残念ながら対する十代に、もはや打つ手はない。

 

 伏せカードが2枚ばかりあるものの、《命削りの宝札》のデメリットを避ける為に伏せただけのカードだ。今の状況では使えないただのブラフである。

 

 幾ら覚悟を決めたとしても、デュエルの才能があろうとも、所詮は年端もいかぬ幼い子供の力では現実は変えられない。

 

『…………十代 ボクを破壊するんだ』

 

 だが、そんな失意の中の十代へ宙に囚われていたユベルの声が届いた。

 

「駄目だ! 俺はちゃんとユベルを守れるってことを――」

 

『違うんだ。アイツの言葉に乗るのは癪だけど、ボクたちの想いは今一つの方向を向いている』

 

 その内容に咄嗟に否定を入れた十代だが、今のユベルには予感めいた確信があった。

 

 十代の前世より受け継がれ眠る「覇」を成す程の強大な力――世に危険を及ぼす相手と対峙する為の力が今、僅かばかり目覚めつつあると。

 

 元は普通の人間だったユベルが醜い竜の姿になってまで、病的なまでに十代への悪意や障害へ過剰なまでの対応を取っていたのも「十代の心が大人になる」つまり、「力の制御が行える時期」まで守り抜く目的があったゆえ。

 

 とはいえ、現代のユベルの精神の歪みは「竜の力」に呑まれつつあるサインなのかもしれないが。

 

 

『キミの愛が、カードを通じてボクに伝わってくるのを感じるんだ』

 

「ユベル……」

 

『今なら、アイツを倒せる力を、キミが引き出せるかもしれない――キミを困らせちゃったボクの……ボクのことを、信じてくれるかい、十代?』

 

「――当たり前だろ!!」

 

『十代……』

 

 ゆえに、少しばかり覚醒しつつある力の発露を不安混じりに提案するユベルだが、当の十代はいちにもなく頷く。

 

 ユベルに初めて「頼られた」事実は十代の背を押すには十分過ぎた。そして己を信じ、応えてくれた十代が、ユベルには溜まらなく嬉しく、頬を緩めさせる。

 

 

「行くぜ、ユベル!」

 

『ああ!!』

 

「俺はセットした魔法カード《太陽の書》を発動!! ユベルを攻撃表示にする!!」

 

 やがて初めて同じ方向を向いた二人を祝福するように、空より太陽が描かれた書物が現れ、ページが捲られると共に陽の光が輝いた。

 

 さすれば、カードに封じられていたユベルが、《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の巨躯がデシューツ・ルーのフィールドに躍り出る。

 

《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》 裏守備表示 → 攻撃表示

守 0 → 攻 0

 

「そして罠カード《ヒーロー・ブラスト》発動! 墓地の『HERO』通常モンスター1体を手札に戻し、その攻撃力以下の相手モンスター1体を破壊する!!」

 

 そうして散って行ったヒーローの力を借り、己と、ユベルの力を引き出すべく《E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン》の翼の羽ばたきが疾風を起こせば――

 

「頼んだぜ、ユベル!!」

 

『あぁ、ボクは今……キミの愛と力に包まれている……』

 

 《ユベル-Das Abscheulich ritter(ダス・アプシェリッヒ・リッター)》の巨体は風に煽られ空を舞い、太陽の元――いや、十代の元で、その力をさらに引き出し、眩い光を放った。

 

 

 そして光の先から十代のフィールドに降り立つのは、ユベルが十代を「守る為」ではなく、「共に戦う為」の姿。

 

『ボクの究極の形態……十代を守る――いや、共に戦う為の究極完全体となる!!』

 

 両肩から竜の頭を伸ばしたさらに巨大になった黄金の二本角を持つ悪魔が4枚の翼を広げ、大地に立つ。

 

 やがてその胸にユベルの顔が浮かび、十代の愛に満ちた己が身体を誇るように頬が裂けんばかりの笑みを浮かべた。

 

《ユベル-Das Extremer (ダス・エクストレーム)Traurig Drachen(・トラウリヒ・ドラッヘ)》 攻撃表示

星12 闇属性 悪魔族

攻 0 守 0

 

「結局、物騒な愛じゃねぇか……」

 

 とはいえ、その姿はデシューツ・ルーの呟きが示すように酷くおどろおどろしい威圧感溢れる姿だが。しかし、その程度――二人の愛の前では些細な問題である。

 

『行くよ、十代』

 

「ああ!」

 

「 『 バトル!! 」 』

 

「攻撃力0でか!?」

 

 やがて十代とユベルが声と気持ち、そして心を揃えて眼前の脅威を払わんとするが、《ユベル-Das Extremer (ダス・エクストレーム)Traurig Drachen(・トラウリヒ・ドラッヘ)》の攻撃力は0――なにかあるのは明白だが、デシューツ・ルーにはその正体は未知である。

 

『ボクの愛が十代を守り、十代へのバトルダメージは発生しない! そして十代のボクを守りたいという思いが! バトルした相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージをお前に与えるのさ!!』

 

「これで終わりだ!! 《捕食植物(プレデター・プランツ)ドラゴスタペリア》を攻撃!」

 

 だが、《ユベル-Das Extremer (ダス・エクストレーム)Traurig Drachen(・トラウリヒ・ドラッヘ)》が両肩の竜の顎を開き、胸のユベルの顔の額の宝玉が輝くと同時にユベルと十代によって、その力が明かされる。

 

 この攻撃が通れば《捕食植物(プレデター・プランツ)ドラゴスタペリア》の攻撃力分――2700のダメージが、残りライフ2300のデシューツ・ルーを襲うだろう。

 

「 『 ナイトメア・ペイン!! 」 』

 

 

 そうして二人の愛の一撃たる三つの破壊の本流が一つに収束しながら《捕食植物(プレデター・プランツ)ドラゴスタペリア》を貫き、その身を爆散させた衝撃がデシューツ・ルーを強かに打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

「させるかよ、オレはドラゴスタペリアの効果で――ぁ゛ァ?」

 

デシューツ・ルーLP:2300 → 0

 

 最後の方にデシューツ・ルーが耳元を抑えながら、なんか言っていた気がするが気のせいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして辛うじて勝利を掴めた此度のデュエル。だが、十代自身は未だ実感がないのか固まったまま動かなかったが、デュエルディスクが待機状態に移行したことで――

 

「勝った……勝てた。俺、ちゃんとユベルを守れた……やったぜ、ユベル!!」

 

『ありがとう、十代……キミの想い、ボクに届いたよ』

 

 勝利を実感し、元の姿に戻ったユベルとその喜びをハイタッチ混じりに分かち合う。

 

 しかし、そうして十代と共に喜んでいたユベルだが、カツンと足音を立てながら倒れるデシューツ・ルーの元へ進み、手をかざした。

 

『だけど、コイツには少し灸を据えてやらなきゃね――でも安心してよ、十代。ほんの軽くにしておいて上げるからさ』

 

「――駄目だ」

 

『……十代?』

 

 やがて力を行使しようとしたユベルの手を握った十代は、そのユベルの腕を己の元へ引き寄せて――

 

「そんなことしなくていい。俺がお前の手は汚させない」

 

 強い意志を感じさせる声でユベルの行いを()()()

 

 そうしてユベルがピタリと固まる中、己の両手で包むようにユベルの手を握り直した十代は、ユベルと目を合わせながら告げる。

 

「おっさんのことはキチンとKCの人たちに言ってくるよ! だから、ユベル! 誰かを傷つける為にお前の力を使っちゃダメだ! 約束してくれ!」

 

 明確に、明瞭に、一切の誤魔化しのない十代の主張がユベルに初めて届けられる。

 

 

「俺は……ユベルと離れ離れになるようなことは嫌なんだ」

 

『十代…………』

 

 そして瞳を僅かに潤ませる十代の瞳の前に、ユベルは迷いからか一瞬目線を逸らそうとするも、グッと堪えて瞳を逸らさずに十代の手を両手で握り返しながら誓いを立てた。

 

『…………分かったよ。でも、キミが本当に危なくなった時は、嫌われてでも止めるからね』

 

「ああ、俺もユベルを安心させてやれるくらいに強くなるからな!」

 

 かくして、此度のデュエルで本当の意味で分かり合い、深い仲になれた両者の間に暖かな空気が流れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、パチパチといつの間にか響く拍手の音に二人が音の発生源へと視線を向ければ――

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとさん」

 

「おめでとう」

 

「大健闘だったな、遊城少年」

 

「あー、クソッ、やっとかよ……」

 

 神崎が、牛尾が、斎王が、ギースが拍手を送り、デシューツ・ルーが文句を漏らしながら身体を起こす中――

 

「なんで、みんなが……」

 

 駆け寄った二人に――母に抱きしめられ、父に頭を撫でられるままの十代は戸惑うばかりだ。

 

「本当におめでとうございます、遊城くん」

 

 だが、そんな十代に送られるのは溢れんばかりの賞賛の拍手だけだった。

 

 

 






おめでとう



Q:幼少時の十代に負荷をかけ過ぎて厳しくない?

A:下手をすれば人死にの可能性もあったユベルの起こした事件に対する十代の認識が甘かったので、その点を突き付けることで十代の精神的成長を促す――感じです。

とはいえ、十代が幼少時の時に、ぶつけるような話ではないんですけどね(おい)



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