マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
???「変な力があろうとも、碌にカードを持っていないお子様と戯れつつ試すだけの簡単な仕事だった筈……」









第226話 幸せの値段

 

 

 自分たちの周囲にいつの間にやらいたアモンに、斎王に、神崎に、ギースに、牛尾に拍手を送られる十代は混乱の極みにあった。

 

 それは駆け寄った母に抱きしめられ、父の手が頭に乗る中でも変わらない。

 

『…………芝居か』

 

「えっ? どういうことだ?」

 

「芝居だよ、芝居。そもそもオレはカウンセラーじゃねぇよ――依頼されただけだ。『お前らを適当に追い詰めろ』ってな」

 

 だが、ユベルがポツリと呟いた言葉に振り返る十代を余所に、デシューツ・ルーは服についた埃を払う仕草と共に立ち上がりつつタネを明かした。

 

 そう、デシューツ・ルーは「カウンセラー」などではない。彼は「カード・プロフェッサー」――デュエル界の裏側の住人。

 

 今回は「デュエル中にユベルのコントロールを奪うことで、十代の試練とする」為に、その戦術に秀でたデシューツ・ルーに白羽の矢が立ったに過ぎない。

 

「ぇっ? えっ?」

 

「少しは落ち着いたらどうだ、十代」

 

「おっ、アモン! これ、どういうことだよ!」

 

「今回のデュエルは、キミがユベルと向き合う為の場だったんだ」

 

 だが、未だ理解の浅い十代にアモンが助け船を出すも、反応はあまり芳しくない。そんな中、斎王も歩み寄り、その口を開く。

 

「十代、互いの意思は伝え合わなければ、容易く逸れてしまうものだ。相手を深く知ろうとすれば、ぶつかり合うことも時に必要になる」

 

『斎王……』

 

 そうして告げられた斎王の言葉にユベルは、納得せざるを得ない表情を見せた。

 

 今回のデュエルで引き出された十代の想いの力が、ユベルの最終形態である《ユベル-Das Extremer (ダス・エクストレーム)Traurig Drachen(・トラウリヒ・ドラッヘ)》に導いたことはユベルにも理解できる。

 

 それゆえに、今までの己の在り方に問題があった事実は認めねばならない。

 

「つまり、どういうことだよ?」

 

 認めねばならないのだが、十代は理解が周回遅れしていた。ゆえに、斎王は端的に告げる。

 

「…………キミは運命に打ち勝ったのだ」

 

「運命?」

 

「いや、説明投げんなよ」

 

 いや、それは牛尾が思わず零したように、説明を放棄したようにも見えるのは気のせいではあるまい。

 

 そうして段々と凡その成り行きを理解し始める十代を余所に、ユベルは語られた件の確認の為にとデシューツ・ルーに近づき、その瞳に触れるギリギリまで手を近づけるが――

 

『…………こいつ、ボクのことが見えてないね』

 

「えっ? おっさん、ユベルのこと見えないのか!?」

 

 デシューツ・ルーの反応は、明らかに精霊であるユベルを知覚していない。

 

「あぁ? あー、そういや坊主に幽霊(ゴースト)の類が憑いてるって話だったな。オレは金払いの良い依頼を受けただけだ――『霊感』はなくとも、デュエルの腕には覚えがあるんでね」

 

「……あれ? でも、デュエル中はユベルと話せてたよな?」

 

 そしてデシューツ・ルーから「己に特異な力がない」ことが明かされるも、十代は辻褄が合わないとばかりに首を傾げる。

 

 ユベルの発言や、行動に即した動きをデシューツ・ルーがとっていた以上、信じられはしないだろう。

 

 それはユベルも同意見なのか、相手の顔を叩く仕草で様子を見るが、当人は耳に装着していた小型インカムを神崎に返すばかりで、望む反応は返ってこない。

 

 そんな二人の疑問に対し、説明役を買って出た斎王が事情を明かす。

 

「十代、彼はモニターしていた此方の指示に沿って動いていたに過ぎない。下手に精霊が見える人間ならば、ユベルの持つ強大な力の前に逃げ出してしまう可能性もあるからね」

 

 そう、ユベルの力は精霊の中でもかなり大きく、精霊が見える人間からすれば、対峙する恐怖は計り知れない。この段階で相手取れるデュエリストはかなり限られる。

 

 それに加えて、条件の一つである「ユベルを相手に、コントロールを奪える実力を持つ」となれば、さらに範囲は狭くなろう。ゆえに「精霊の知覚」を条件から外さざるを得なかったのだ。

 

「あっ、そういや、おっさんの途中から《キャッスル・ゲート》の効果を使ってない……」

 

「彼の本当の職業は『カード・プロフェッサー』――時にプロデュエリストすら相手取ることもある仕事をしている人間だ。その実力は折り紙付きだよ」

 

 そうした斎王の説明から、別の筋道からデシューツ・ルーの芝居の件を理解する十代。

 

 先の一戦は、十代の残りライフが150まで追い込んでいた以上、《キャッスル・ゲート》の効果でフィニッシュを決められたデュエルだ。他にも――

 

 レベルを1にしたユベルを《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》で除外したり、

 

 相手ターンにも発動が可能な《捕食(プレデター)植物(プランツ)ドラゴスタぺリア》の「捕食カウンターを乗せる効果」+「捕食カウンターが乗ったモンスターの効果を無効化する」効果を活用したり、

 

 等々、十代の動きを潰す手がかなりあったが、これ以上の詳細に関しては割愛させて貰おう。

 

 

――あのおっさん、そんなに強い人だったのか……

 

 

「おい、神崎! 仕事で負った怪我治すのも契約の内だろ。さっさと治しちまってくれよ」

 

「では此方を」

 

 そうして認識が変わったデシューツ・ルーを見やる十代だが、当人は怪我の調子を見せつけつつ、神崎へ治療の催促していたが――

 

「……毒々しい色してるが、大丈夫なのか、それ?」

 

 神崎が持つ注射器の中に漂う液体は、デシューツ・ルーには正直なところ「毒」にしか見えない。

 

「牛尾くん、抑えて」

 

「うっす」

 

「おい、なんの真似――って、無言で向けるんじゃねぇよ。待て、待てって! 待――」

 

 だが、思わず一歩下がったデシューツ・ルーは背後にいつの間にかいた牛尾に羽交い絞めにされ、二人の圧倒的膂力に抑え込まれたデシューツ・ルーの首筋に毒々しい液体が注射された。

 

 そして白目を向きながら暫くビクンビクンしていたデシューツ・ルーが、結構アッサリ意識を取り戻した途端に牛尾の拘束から解放されれば――

 

「………………不気味な程に身体の調子が戻ってやがんな」

 

 元気百倍とばかりに身体の負傷は完治し、デシューツ・ルー当人の感覚では何だかデュエル前よりも体が軽い程である。

 

「依頼料の方も振り込ませて頂きました」

 

「相変わらず仕事が早いね――確認した。金払いが良くて助かるぜ。今後ともご贔屓に」

 

「そうならないことを願うばかりです」

 

 そうして携帯端末を片手に報酬を受け取ったデシューツ・ルーは、神崎に軽口を飛ばしつつ――

 

「じゃあな、坊主。もう、俺らみたいなのが呼ばれるようなことすんなよ」

 

 十代に向けて己の額に当てた二本指を軽く飛ばして別れの挨拶とし、踵を返して去っていく。

 

 報酬の受け取りが完了した以上、デシューツ・ルーも怪しげな噂の多いオカルト課に深くかかわる気はなかった。

 

「おっさん、もう行っちまうのか?」

 

「ああ、次の仕事もあるんでね。礼なら構うな――報酬目当てだからな」

 

「ありがとな!!」

 

 やがて、その背に届けられる十代から発せられる不要だと告げた感謝の声に、デシューツ・ルーは背中越しに無言で手を挙げ去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてデュエルにてユベルと共にいることを別室でモニターしていた「十代の両親」に認めて貰うことに成功した十代たちは、両親の立ち会いの元、今後の話の説明を神崎から受けていた。

 

「今回の件で、お二人の距離が縮まったことも加味して、ご提案させて頂きます」

 

 やがて一同が座する中、精霊であるユベルが知覚できない十代の両親へ、ギースが通訳を担当しつつ、神崎から明かされるのは――

 

「此処でダメ押しとばかりにお二人の絆をより深めておきましょう」

 

『ほう……』

 

「……? なんでだ?」

 

 ある程度の折り合いをつけた十代とユベルの更なる進展――ユベルの狂おしいまでの愛の深さを考えれば、この機を逃す訳にはいくまい。

 

 鉄は熱いうちに打てとはよく言ったものである。

 

「遊城くんにはまだ難しい話かもしれませんが、ユベルさんは心配されております――ひょっとしたら遊城くんが自分のことを遠ざけてしまうのではないか――と」

 

「そんなことしないぞ?」

 

 とはいえ、神崎の説明に十代が首を傾げている様子を見れば、必要性は理解されていないのは一目瞭然だが。

 

「残念ながら、これは意思表明だけで解決できることではありません。そうですね……」

 

 ゆえに、まず神崎がすべきは十代の意識改革だ。認識の補強と言い換えても良いかもしれない。

 

「ユベルさんの力で怪我をしてしまったクラスメイトと、遊城くんが再び仲良くなれると思いますか?」

 

「それは…………」

 

「そう、分からない。私が聞いた限りでは遊城くんへ怒りを向けている様子はありませんでしたが、心の奥までは分からない」

 

 そうして返答し難い一例を提示された十代が言葉を詰まらせる中、今度は逆に共感しやすい話題を投げかけた。

 

「不安とは常に心の何処かにあるものです。ユベルさんにも、遊城くんにも」

 

「それは……そうかも」

 

 ヤンデレは常に不安を抱えているのである。自分の愛に自信を持てないゆえに「より愛を注がねば相手が離れてしまうかもしれない」と。

 

 ゆえに束縛する。ゆえに相手の気が逸れかねない相手――ライバルに攻撃的になる。ゆえに心変わりを危惧し、相手の行動を制御したがる。

 

 それはひとえに「愛する人が己から離れてしまわない」為。

 

「ですので、その不安を少しでも和らげる為に、より絆を深めるんです。まず、手始めに――」

 

 ならば、神崎がすべきはその不安を払うこと。幸いと言うべきか、神崎にはユベルが用意できないものを、叶えられないものを、手が届かないものを、提供できる。

 

 人間の住まう世界を含めた十二次元を吹っ飛ばされるくらいならば、安い買い物だ。

 

 

 ゆえに、ひとまず――

 

 

「――お二人の結婚式を挙げましょう」

 

 

『け、結婚!?』

 

 なされた提案に対して、素っ頓狂な声がユベルから飛び出した。

 

「けっこんしき?」

 

『さ、流石に、は、早いんじゃないかな!』

 

「早いのか?」

 

 頭に疑問符を浮かべる十代に対し、ユベルはしきりに前髪を触り始めながら視線がせわしなく十代の方へ行ったり来たりする中、神崎は確かな手ごたえを感じながら押し通さんと続ける。

 

「お二人の絆――愛を誓い合う。そんな大事なことならば、早いに越したことはないじゃありませんか」

 

『ボ、ボ、ボクは精霊だし――』

 

「歴史を振り返れば、精霊と人間の婚姻はさして珍しいものではありませんよ」

 

『じゅ、十代の両親は良い顔をし――』

 

「其方に関しては既にご許可を頂いております」

 

『で、でも、こんなに急に――』

 

「なあなあ! 『けっこんしき』って何するんだ!!」

 

 ユベルの懸念を封殺する神崎だが、そんな中で疑問を投げかける十代の声に神崎は笑顔で返す。

 

「それは仲の良い二人が、互いを一番に尊重して愛し合うことを誓う儀式です」

 

「……つまり?」

 

「では、ユベルさんが別のデュエリストの方の元へ行くことになったら、遊城くんはどう思います?」

 

 とはいえ、今は幼い十代の年齢を考えれば「Love」と「Like」の違いはピンとは来ない。ゆえに神崎が一例を提示すれば――

 

『ボクが、そんなことする訳が――』

 

「それは…………ヤダな」

 

――十代が嫉妬してる!?

 

 己の内に芽を出したモヤモヤした気持ちに十代は眉をひそめ、そんな相手の姿にユベルは自身の口元を押さえながら驚いて見せた。

 

 嫉妬の感情――それはつまり十代が、ユベルへの執着を、愛を持つことを意味する。

 

 そうして芽が出たのなら、水をやるのは神崎の仕事。

 

「だからこそ、お二人の愛を誓いあうんです。『そんなことをしないよ』と『互いに約束』する為に」

 

「!! 分かった! ユベルが俺を大事にしてくれるくらい、俺もユベルを大事にする約束だな! さっきのデュエルみたいに!」

 

 やがて瞳に理解の色を浮かばせ楽し気に語る十代だが、神崎は小さく手を前に出して待ったをかけた。

 

「いえ、先程のデュエル以上です。ですので、ユベルさんを不安にさせないくらい、遊城くんは頑張らないといけませんね」

 

「そんなに……!? スゲェな、『けっこんしき』……」

 

「はい、遊城くんのご両親もそうして愛を誓い合ったからこそ、今があるんですよ」

 

「分かった! 俺、ユベルの為にけっこんしきするよ! ユベルが安心できるように一番大切にする!」

 

『――ふぁっ!?』

 

――じゅ、十代がボクにプロポーズしてる!?

 

 かくして、なんか知らぬ間に十代にプロポーズされたユベルの心には、乗るしかないビッグウェーブがフィーバーしていた。

 

 まさにユベルが夢見た世界が眼前に広がっている。そんな望んだ世界としか思えぬ程の都合の良さにめまいを覚えるユベルが、現実を確認するように十代に待ったをかけるべく手を伸ばすが――

 

『ちょ、ちょっと待ってくれよ、じゅ、十代。そんな急に――』

 

「ユベルは俺とけっこんしきするのがイヤなのか?」

 

『――嫌じゃないよ!!』

 

 伸ばしたユベルの手はガッツポーズするように握られたことで、制止の手は消えた。

 

「なら決まりですね――遊城くんのご両親にもご納得して頂けたようなので、早速、諸々の準備に取り掛かりましょう」

 

 さぁ、全ての条件はクリアされた。

 

 今より始まるのは、愛の儀式――の下準備。デッキから結婚式の発動に必要と記されたカードをサーチせねばなるまい。金ならある。

 

 

「遊城くんは、お二人の約束の証である指輪を選びに行きましょうか。アモン、案内はお願いします。牛尾くんは同行を」

 

「……了解です」

 

「うっす」

 

 まず十代に結婚の証たる指輪の手配を、同年代でありKCの中では話し易いアモンに手を引かれて十代が席を立ち、牛尾がその後に続く姿に斎王もソファより腰を上げる。

 

「なら、私は十代のご両親の方に回ろう――ユベル、キミはウェディングドレスの準備に向かうと良い」

 

『いや、ボクの姿は十代かキミたち以外は見えないんだから、意味な――』

 

「はい、此方――精霊の力を一時的に増幅することで、一般人にも視認可能にする錠剤です」

 

 そして十代の両親の準備を買って出た斎王に投げかけられた言葉にユベルが返答を言い切る前に、神崎からユベルの手に錠剤の入ったビンがテーブルの上にサッとおかれ――

 

『ず、随分と用意が良いね……』

 

「ギースとサクリファイスにはユベルさんの案内をお願いします」

 

「お任せを」

 

『お、おい、ちょっと待――』

 

 そしてサクリファイスに背を押されるユベルが、ドナドナされていく中、退室に前に一礼したギースに軽く手をあげながら見送った神崎はスマホ片手に連絡を取り始めた。

 

「私は人払いと手続きに参りますので――乃亜、私です。精霊案件より、KCで集まれる人間を可能な限り集めてください。それとドレスコードの周知も」

 

 神崎が担当するのは式場と、祝福の声。

 

 精霊という人間社会にて表立って動けぬ存在がいる以上、部外者は完全にシャットアウトせねばならない。そして、なにより――

 

 

 この一大イベントに対し、二人の愛を祝福する声が少なければ、幸福感の盛り上がりとて大いに欠けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして精霊との婚姻の場に出席しても問題なさそうな面々を集めに集め、此処に「結婚式が開始ィ!」される。

 

「お支度が整われたようでございます。お姿がご覧頂けましたら、盛大な拍手でお迎えください」

 

 司会を担当した磯野の発言の元、タキシードを決めた緊張で身体をカクカク動かす十代と、ウェディングドレスで着飾ったユベルが十代と腕を組みながらゆっくりと式場を進んでいく中、祝福の拍手が鳴り響いた。

 

 

 

 そして神父役を担当したセラが、神父服の裾を引き摺りながら十代とユベルの前に立ち、お決まりの定型文を問う。

 

「――健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「誓います!」

 

「勿論、誓うよ」

 

 

 

 そんな具合で愛の宣誓やら、十代の両親や、海馬、後はBIG5たちからの祝福の言葉やらが進行していき、カメラ担当となった牛尾がそれらの映像を収める中――

 

「新郎新婦の信頼のお気持ちを確かめ合って頂くべく、ウェディングケーキご入刀へとご案内申し上げます」

 

 磯野の言葉を合図に、十代とユベルが二人の手を取ってナイフを持ちながら、巨大なウェディングケーキへ進んでいく。

 

「ケーキご入刀、開始ィ!!」

 

 そして磯野の宣言を合図にウェディングケーキに差し込まれるナイフと、その瞬間を収めるべくカメラのフラッシュが一斉に光を放った。

 

 そうして切り分けたケーキを食べさせ合いっこする中、盛大な拍手が送られた後――

 

 

「では次に――新郎新婦とご両親によるマリッジデュエルを開始したいと思います。今回は遊城様のお父様とお母様のタッグ形式となっております」

 

 突如として磯野が、変な儀式を始め出した!? とお思いの方もいることだろう為、軽く説明しておこう。

 

 マリッジデュエル。それは凄く平たく言えば――

 

『お義父(とう)さん! 娘さんとのご結婚を許してください!』

 

『キミにお義父(とう)さんと呼ばれる筋合いはない!』

 

『貴方……』

 

『……どうしても娘と結婚したいと言うのなら、ワシを倒して(認めさせて)みろ!!』

 

 これらの流れをデュエルに変換したものである。とはいえ、勝ち負けは主題ではなく、さしずめ娘(or息子)に贈る親としての最後の手向けと言ったところか。「どういう……ことだ……?」と思われるかもしれないが、フィールで納得して欲しい。

 

 

 やがて使い慣れていないのか、十代の両親二人がデュエルディスク相手に四苦八苦する横で斎王が手解きする中、十代はユベルの隣で楽し気に言葉を零す。

 

「へへっ、こうして肩を並べてデュエルするのは初めてだよな、ユベル!」

 

「そうだね。こんな日が……こんな日が来るなんて考えたこともなかったよ」

 

「なに言ってんだよ、ユベル! これからも続いていくんだぜ!」

 

「十代……」

 

 ユベルの心は満たされていた。だが、十代は「これからもっと満たして行こう」と更なる「先」を示してくれている。ゆえにユベルは幸せ過ぎて心がどうにかなってしまいそうな感覚を味わっていたが――

 

「(マリッジ)デュエル開始の宣言をしろ、磯野!!」

 

「ハッ! (マリッジ)デュエル開始ィイイイイ!!」

 

 海馬の一喝の元、磯野が右腕を掲げながら宣言する姿に十代の両親へと視線を向け、最後にもう一度十代を見たユベルは意識を引き戻す。

 

「 「 「 「 デュエル!! 」 」 」 」

 

 そしてブーケ代わりのカードをデッキより引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、この後もディーヴァから歌が贈られたり、お色直しに加え、二人の思い出のムービーを流したりなどの様々なイベントが行われた後、無事に結婚式を終え、幼気な少年を人生の墓場に突き落とした神崎は、帰路に就く幸せ一杯な十代たちご一家を見送った。

 

 

 

 今後の十代とユベルの状況の経過を十代の両親に定期的に報告して貰うことを頼んだとはいえ、彼らの様子を見ればいらぬ心配だろう。

 

 やがて諸々の後片付けを終えた神崎は、KCにて相も変わらず仕事に戻っていたが堪え切れぬ様子で頭を抱えた。本当にこれで良かったのだろうか、と。

 

「幼少時に孤独を味わった状態ならば、常に己を求める相手の存在を邪険にすることはない筈……問題が起きた場合はご両親から連絡が来る程度の信頼感を用意できた以上、これ以上の介入は避けるべきだが――」

 

 そして「この屑野郎!」と言わざるを得ないことを一人ごちる神崎。幼気な少年を相手に何をぶっこみやがっているのか。

 

 とはいえ、原作でのユベルのヤンデレっぷりによる暴走を知る身としては、神崎としても容易く安心は出来まい。

 

「『恋愛相談』との名目でアモンに遊城くんとの交流ラインを繋げたのなら、斎王が問題視していた件も良い方向に動くだろう。今回の短い交流でも心境に良い変化は出ていた」

 

 ゆえに保険代わりに「同年代の言葉」の方が十代も受け入れやすいとの考えから、アモン経由で十代に「生涯の伴侶としての心得」の入れ知恵を頼んだりしている。

 

 とはいえ、原作の様子から恋愛事にかなり疎い十代へどこまで身に付くかは未知数だが、やらないよりマシの精神だ。

 

 そんな中、近づく気配に頭を抱えフェイズを一時中断した神崎がキリリとシリアス顔を作ったと同時に、その背後に炎の体を持つ悪魔――シモベが膝をつく。

 

『我が主、仰られていた少年の件、片付きました。詳細は――』

 

 そうしてシモベより語られる報告を見るに、また何やら神崎が企んでいることだけは明白だった。

 

 

 今度は何をやらかすのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなKCでのアレコレも後日となった頃、結婚指輪を紐に通して首からぶら下げる十代は自宅にて、画用紙にクレヨンを走らせ何やら描いていた。

 

「見てくれよ、ユベル! これが夢で見たヒーローなんだぜ!」

 

『へぇ、上手いじゃないか』

 

「へへっ、だろ!」

 

 やがて完成した絵を、此方も紐に通した指輪を首から下げるユベルに見せる十代は、貰った感想に顔を綻ばせる。

 

 今、十代が描いたものはKCの「宇宙に応募したカードデザインを打ち上げる」プロジェクトの為のイラストだ。

 

 そうして「三分間のリミットの中で戦う光の巨人」っぽいヒーローが描かれた画用紙を丁寧に折りたたみ、応募用の封筒に入れた十代は天に掲げるように持ち上げ――

 

「宇宙の波動を受けた優しいヒーローとして、色んな人を助けてくれよ!」

 

 願う。夢で会った名も知らぬヒーローに向けて。

 

 宇宙の波動のことは、やはり十代にはよく分からないが、「カードには心が宿っている」との話は有名であり、ユベルの存在もあって十二分に理解している。

 

「俺とユベルを仲直りさせてくれた人たちみたいに!」

 

 なれば、十代が願うのは、宇宙の波動を受けたヒーローが、己とユベルのわだかまりを解く為に奔走してくれた人たちのように「困っている誰か」の助けになってくれることだけ。

 

「俺もユベルと一緒に強くなるからさ!」

 

『十代……』

 

 己が目指す先に、共に肩を並べて進んで行けるようになりたい、と。

 

「行こうぜ、ユベル! 俺、また負けちまうかもしれないけど、お前と一緒なら何でも乗り越えられる気がするんだ!」

 

 そして封筒をポケットに仕舞い、デュエルディスク片手に家から飛び出した十代は、デュエルする約束をしたクラスメイトとの待ち合わせ場所に駆ける前に振り返りながらユベルへと手を差し出した。

 

 

『勿論だよ、ボクたちは――』

 

 

 そんな「共に進もう」との意思が見える十代の手を前にユベルは小さく頷いた後――

 

 

 

『――ずっと一緒さ』

 

 

 

 その未だ小さい手を優しく握り返した。

 

 

 

 

 

 

 






天上院 明日香「えっ?」

早乙女 レイ「えっ?」

ヘルヨハン「えっ?」



Q:ユベル、キャラ崩壊してない?

A:ユベルの望みを全て叶えている原作ではありえない状況なので、非常にイレギュラーなケース――と言うことでお願いしますm(_ _)m

ユベルと十代の結婚式まで走り切っている訳ですし(前例は……ないよね?)
(唯一叶えられていないのが、「他者を攻撃する」の一点だけですし)


Q:デシューツ・ルー、カウンセラーじゃないの!?

A:デュエリストが違います(おい)

原作の遊戯王Rでも特にそう言った背景は見られない為、完全にただの芝居です。





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