前回のあらすじ
異次元世界編「グァァアアァアアアーーーー!!!!」
破滅の光「い、異次元世界編がやられたようだな……」
セブンスターズ編「だが、ヤツはGX編四天王の中でも最弱……」
ダークネス編「原作開始前にやられるとは四天王の面汚しよ」
『新たな全米チャンプの誕生です!! 長きに渡って君臨し続けた王者!! 遂に陥落!! 時代のうねりが今――』
そんな具合で野坂ミホが会場のお祭り騒ぎを評する様子を
アメリカのとある酒場のカウンター席にて、酒瓶を片手に項垂れる青年はテレビから流れるニュースにピクリと反応を示す。
『こんばんは、野坂ミホです。本日は、デュエル問題に詳しいアーサー・ホプキンス教授にゲストとして来て頂きました。アーサー教授、今回ミズガルズ王国に対し、国際デュエル協会から発令された『デュエル規制』の決定はどういった意図なのでしょうか?』
『「重い腰を上げた」と言ったところだね。今回の件で各国に平等に流れていたデュエル関連の産業が、ミズガルズ王国だけ除外されるようなものだ。「人はパンのみにて生くるにあらず」――実質的にデュエルを取り上げられた状態に王家への不満は高ま――』
だが、望んだ内容ではなかったのか、青年はすぐに興味を失い酒を呷るが、そんな彼の元に近づいた一人の男が懐かしむように声をかける。
「此処にいたか、城之内」
「蛭谷……なんで、お前がこんなとこにいんだよ」
その男である蛭谷の声に、酒瓶片手の青年――城之内は、泥酔した様子で珍しい客である相手を面倒そうに見やるが――
「自分探しの旅ってヤツさ。世界ってモノも中々悪くない眺めだぜ――だが、今のお前は見れたもんじゃないな」
「うるせぇ、お前に何が分かんだ……」
「下位リーグで梃子摺ってる内に目標としていた男が引退しちまった――違うか?」
「――喧嘩売ってんのか?」
流れるように続けられる蛭谷の口撃に、城之内は先ほどまでの不貞腐れた様子も吹き飛び、酒瓶をテーブルに強く叩きつけながら蛭谷を睨むように立ち上がった。
そして、かつて学生だった頃の不良時代に戻ったような瞳の鋭さを見せる城之内と、共に不良だった時を感じさせぬ程の澄んだ瞳の蛭谷の視線が交錯する。
周囲の客も荒事の気配を感じ、ジリジリと距離を取り始めた。
「ふっ、今のお前にそんな価値ねぇよ」
「あァ?」
だが、そんな中、先に視線を逸らした蛭谷が城之内の隣の席に腰かけた。そして、そんな相手の姿を暫し見下ろす城之内だが――
「………………いや、俺も止めとくぜ」
「根っこまでは腐ってなかったようだな」
「うるせぇ、プロってのはな……えー、社会的に? アレが反して反しちゃダメなんだっつーの」
不機嫌そうに矛を収めて座り直した城之内へ、蛭谷の誇らしげな視線が向けられるも、当人はそっぽを向いて酒瓶をあおる。そこには見知った顔に情けない姿を見られた羞恥も見て取れた。
「『デュエリストの模範となるべき振る舞いを心掛けよ』」
「あー、それだ、それ――つか、知ってたのかよ」
「まぁな、おつむの弱いお前の為に知恵をつけたのさ」
「余計なお世話だ、ばっきゃろー」
やがて久しい旧友との団欒をジャブ代わりに募らせていた蛭谷は、神妙な表情でグラスの中の冷水を傾けつつ本題を切り出した。
「だが、らしくないな。昔のお前なら、新たなチャンプを倒すことで『バンデッド超えだ』と、息巻くくらいしただろうに随分と――」
「――それは違うだろ。アイツはアイツだ。キースじゃねぇ」
しかし、その懸念は即座に己へ視線を向けた城之内によって制された。
あくまで城之内の目標は「プロの世界でキースにリベンジすること」だ。全米チャンプの称号は関係ない。新たなチャンプへ、己の道理を向けるのはお門違いだと。
だというのに、そうして蛭谷に向けた力強い視線も、己の目標が思わぬ形で崩れたことを思い出したゆえか直ぐになりを潜め、再び先程のような不貞腐れた様相に戻り、酒瓶をあおるも――
「『代わり』みたいな気持ちでデュエルしたって、相手に失礼ってもんだぜ……店員さーん、もう一杯お願――」
「その辺にしとけ」
「あぁー? 飲まずにやってられるかってんだ」
空だった酒瓶を不満を示すように逆さにしながら追加注文しようとするが、今度は蛭谷に制されるも、不満足な心境ゆえに荒んだ様子で城之内はその腕を払った。
しかし、そんな城之内へ蛭谷は一つの提案を投げかける。
「どうせ飲むなら旨い酒にしないか?」
「あん?」
かくして蛭谷の運転する大型バイクに乗せられ、城之内は酔いを醒まし代わりに後部座席にて風を切ることとなった。
どこぞのお城のような建物内部のパーティー会場にて、豪勢な料理や酒がテーブルに並ぶ中、目と舌の肥えた者たちの意識は会場の一角に用意されたステージへと向けられていた。
「
そこで妻であり、助手でもあるカトリーヌを携え、ステージ上で開かれるパンドラのマジックショーに会場の注目が集まる中、会場中の色んな人にペコペコ挨拶回りをしていた神崎に二つの人影が声をかける。
「おお、神崎じゃないか!」
「これは
その二人――万丈目グループの中心人物、顎髭に肩まで伸ばした黒髪の男「
「よせよせ、堅苦しい前置きは抜きで構わんよ。それより前に相談した一番下の弟の
なにせ、今回は仕事の話ではなく、万丈目兄弟の三男である「万丈目
「お役に立てて光栄です」
「ああ、本当に助かった。我が弟ながら妙に頑固で困ったものだ――だが、デュエルなど門外漢な私たちが準にしてやれるのは、こんなことくらいだからな」
「カードなど俺たちに言えば、万丈目家に相応しいものを幾らでも用意するというのにアイツは駄々ばかりこねて……」
そうして長兄の気苦労を愚痴る長作を余所に、次男の正司は思うように行かぬ三男坊のデュエルキングへの道中に頭を悩ませていた。
そう、三男坊である万丈目 準こと、万丈目は――
政界・経済界・デュエルモンスターズ界の世の三つの柱を万丈目家が掌握する「万丈目帝国」計画の「デュエルモンスターズ界」の柱――デュエルキングを目指して未だヒヨコ同然の身ながら精進中である。
だが、圧倒的資金力を有する万丈目家の力を当人が使いたがらないのだ。
カード集めも、小遣いをやりくりしてパックを買ったり、友人や知人とトレードしたり、近場で開かれる大会の賞品もしくは参加賞でせっせと集めている次第。
万丈目家の財力があれば一瞬で済むだけに、長作や正司からすればもどかしかった。二人からすれば「誕生日プレゼント」と評して年に1枚1枚渡す苦肉の策など非効率の極みでしかない。
「デュエリストたるもの己のカードは、己で手にしたくなるものですから」
「そういうものかね?」
「名立たるデュエリストの方々によく見られる傾向ではあります」
そんな彼らの認識は、神崎からのそれっぽい説明を受けても懐疑的だ。とはいえ、「デュエリストではない」神崎の言葉にどれほどの説得力があるかも疑問だが。
そうして頭を悩ませる長作に同意するように正司も呆れた様相でため息交じりに愚痴るが――
「デュエリストというのは、どうにも非効率だな、兄者」
「まぁ、そう言うな、正司。どんな世界にも『美学』とやらは相応に存在するものだ――今ばかりは歩み始めたアイツの足跡を見守ろうじゃないか」
長作はその愚痴をいさめつつ、餅は餅屋とばかりに未だ幼い三男坊への期待を担保として静観の姿勢を固めることとした。
――万丈目兄弟って意外と……いや、意外でもないか。弟の為に億の金をかけてカードを集めてくる人たちだった。
そんな万丈目兄弟の関係を考察する神崎を余所に、会場の近くでバイクのブレーキ音が微かに響いた。
蛭谷が運転する大型バイクに乗せられ、いかにも「パーティやってます」と言わんばかりの城を思わせる外観の会場に到着した城之内は、蛭谷へヘルメットを投げ渡しながら詳細を問うが――
「なんだ、此処?」
「ちょいとツテがあってな。言っちまえばお偉方のパーティみたいなもんだ。食い放題、飲み放題――」
「おぉー、マジか! 助かるぜ、蛭谷!」
酒の抜けきっていない頭を回す気はないのか、要点だけの把握に留めた城之内は己の食欲の赴くままだった。
ただ、殆ど身一つで渡米した城之内の懐事情を鑑みれば、活動資金を憂うことなく腹を満たせる場はありがたいものだろう。
「俺は人に会って来るから、お前はあの辺にいとけ――トラブルでも起こせば叩き出されちまうだろうからな」
「へいへい、お邪魔にならねぇようにしときますよ」
やがて何処からか取り出した黒のスーツをワイシャツの上から着た蛭谷が、階段からバルコニーへの道筋を指し示して己への案内を手早く済ませて去る背中を、城之内は軽口と共に見送った。
パーティ会場が盛り上がりを見せる中、その会場から離れた廊下で神崎は「仕事は済ませた」とばかりに一度肩を回す仕草の後、今後の予定を考えながらひた進む。
――ハァ、オージーン王子……衛星兵器ソーラの打ち上げ、いい加減にやめてくれないかなぁ……コッソリ蹴り落とすのも大変なんだけど。
これは原作のGXにて、破滅の光に魅入られた斎王が、衛星兵器ソーラを所持する国の王子であるオージーン王子を洗脳し、その操作装置を奪うことで、地球を破壊しようとしていた件である。
ゆえに「衛星兵器ソーラ自体がなければ万が一の事態が起こっても安全だよね!」と神崎はこんなアホみたいなことをしているのだ。
原作GXでも、騒動終了後は衛星兵器ソーラが破壊されており、オージーン王子も「これは必要ないものだった」的なことを語っていた為、かなり好意的な解釈をすれば、ある意味で間違ってはいないのかもしれない。
――挨拶回りも終わって特筆すべき点もなかった以上、
そんな具合で物理的に原作の事件のフラグを潰して回る中、次なるターゲットに照準を合わせる神崎だが、大きな問題があった。
それが原作での事件現場である。
原作では、破滅の光という世界を滅ぼさんとする存在がカードデザイナーフェニックス氏の仕事場にて1枚のカードに宿るのだが――
――フェニックス氏の自宅に私が出向く理由がなぁ……
そう、KCの幹部の一人がI2社のデザイナーの自宅で陣取る――その状況の意味不明さである。「なんなのこの人……」となること請け合いだ。
――やはり此処は、現地を牛尾くんたちに任せて宇宙で迎撃する方針にしておこう。
ゆえに「オゾンより上でも問題ない」とばかりに宇宙で破滅の光をぶん殴りに行く方針を固めた神崎は、背後から荷車を押すスタッフに道を譲りつつ、事件発生時に確実に宇宙に跳ぶ為のフリーの時間を作る為に仕事を片付けておかねばと頭の中で詳細を詰め始める。
たが、その背中に突き付けられた重厚な感触にピタリと動きを止めた。
「動くな。そのまま振り返らず、私室まで歩け」
「穏やかではないですね」
突き付けられた大型口径の銃の感触を余所に、視界の端で捉えたスタッフの衣装の上からでも隠し切れないマッスルとリーゼントに下手人の正体を看破しつつ、相手の情報を探るべく軽口をたたいて見せる。
「何がお望みですか?」
「黙って歩け」
「二人並んで歩いている状況でダンマリな方が不審がられますよ」
だが相手は取り合う様子を見せず、さらに続いた神崎の言葉への返答代わりに突き付けた銃を背中に押し込むように強調して見せるが――
「脅しだと思っているのか?」
「まさか。貴方は躊躇わない方だ」
――何故、彼が此処に? 対象の命に別状はなかった以上、過激な行動を取る必要性は無い筈……
そんな中でも、相変わらずの不敵な笑みを浮かべる神崎だが、その内心はやはりと言うべきか混乱の極みにあった。
パーティー会場のバルコニーにて、皿に大量に盛った料理の山を頬張っていた城之内は何度目かも分からぬため息を吐いた。
「はー、なにやってんだろ、俺」
この機会に腹一杯食べておこうと酒の類を無視して食に走ったせいか、酔いが醒めてきた城之内の頭に過るのは不貞腐れていた己への自己嫌悪。
プロの世界でのキースとの再戦に燃え、精力的に活動していた矢先での全米チャンプの交代劇からの引退話。
唐突に目標を失った城之内が不満足状態に陥るのは当然の帰結であろう。
だが、城之内とて理解していた筈なのだ。キースとの対戦を、チャンプの称号を目指すのは何も己だけではないことを。
そう、今回の件で一番の問題は、相手が引退を覚悟するまでにプロの世界を駆け上がれなかった現実に尽きる。
言ってしまえば、城之内は何処か妄信していたのだ。キースは己が約束を果たす時まで、決して負けないのだと。城之内自身がプロの層の厚さや、厳しさを痛感していたにも拘わらず、相手に無根拠な願望を抱いてしまっていた。
「こんな姿、静香にゃ見せられねぇぜ」
だというのに、駄々をこねる子供のような真似をしてしまった城之内は、今の自身を恥じていたが、そんな己に駆け寄る小さな影にふと顔をあげる。
「じょ、城之内 克也さんですよね!!」
「あー? 誰だ、坊主?」
「俺――じゃなくて、僕! 『万丈目 準』って言います! あ、貴方のファンです! サインください!!」
その視線の先にはどこか黒い片翼を思わせる不思議な髪型の少年――万丈目兄弟の三男坊「万丈目 準」が色紙とサインペン片手に立っていた。
そうして憧れの存在へ向けられるキラキラと輝く瞳を前に城之内は少し気圧されつつも受け取った色紙にサインペンを走らせていくが――
「お、おう、サインくらい全然構わねぇけどよ……俺なんかより、上位リーグのヤツんとこ行った方が良いんじゃねぇか?」
「そんなことないです! 僕にとっては城之内さんのデュエルは憧れなんです!」
「憧れ? 俺がか? ほらよ」
「ありがとうございます!! 一生大事にします!!」
自虐と共に差し出した城之内のサインを大事そうに受け取った万丈目は、その評価を否定する。城之内のデュエルは、彼にとって希望だった。
「俺なんかに憧れたって、なんにもならねぇぞ? 黒星の方が多いから、下位リーグから上がれてねぇ訳だしよ」
「勝ち負けとかじゃないんです」
城之内が渡米してからの戦績は決して良くはない。しかし万丈目は、そんな部分で城之内に憧れた訳ではないのだと返す中、顔を伏せて曇らせながら先を続けた。
「……僕、兄が二人いるんですけど――二人とも凄い人なのに、俺だけなにもなくて……」
「お、おう」
――急に人生相談みてぇになったな……
やがて万丈目の自分語りに困惑しながらも城之内は耳を貸す。
そう、万丈目は、長作と正司へ劣等感を抱いていた。
兄である長作、正司は共にかなり早い段階で、それぞれの得意分野で高い適性と成果を上げ、万丈目グループの柱としての役目を果たしている。
そして、そんな兄二人に続くべく、万丈目も「デュエル」の分野で力になろうと頑張ってきた。
「デュエルの大会で優勝しても、結局は同年代の中でしか通用しないんじゃ、デュエルキングなんて夢のまた夢で……」
だというのに、三男坊の万丈目には何もない。精々デュエルの実力が「同年代より少し強い」程度だ。
だが、その程度では、今の万丈目と同じくらいの年でプロ入りを果たした存在を鑑みれば、とてもではないが手放しで喜べるようなものではない。当人が語ったように「デュエルキング」など夢のまた夢だ。
こんな有様では、万丈目家の人間として、早い段階で頭角を現した長作と正司に顔向け出来ないのだと万丈目は語る。
「でも貴方のデュエルを見て! 楽しそうにデュエルする貴方の姿を見て! 少しだけ楽になったんです! 勝ち負けが全てじゃないんだって!」
そうして力にばかり目が向いていた万丈目の視線を惹きつけたのが、城之内のデュエルだった。
強さという面では飛び抜けている訳でもなくとも、全力でぶつかり、全力で勝利を目指し、時に全力で砕ける姿は、何故か自然と目で追ってしまう。
その先にたとえ負けた姿があっても、また彼のデュエルを見てみたいと思わせる何かがそこにはあった。
「あっ!? す、すみません! 変なこと聞かせてしまって!」
やがて一人で盛り上がってしまった事実に気づいた万丈目が慌てて取り繕うように手を左右に振るが、城之内はそれどころではない。
俺がいる――城之内の瞳にはそう映った。
今を生きることに必死で、将来のことなんて考えられなかった己に、道を示してくれたデュエリストとの出会いが、彼にとって自身だったのだと。
そう――今の城之内は道を示す側に立っていた。
「なぁ、お前――色紙以外に、なんか紙持ってねぇか?」
なら、世界で一番カッコいい姿を見せてやるしかあるまい。
そう決意した城之内の瞳は、かつての輝きを取り戻していた。
パーティー会場の建物内に与えられていた私室にて、ソファに腰をかけた神崎は背後で己の頭に銃を突きつける男の目的を問うていた。
「さて――誰の治療を行えば良いのですか?」
「随分と察しが良いな」
「私の元に物騒な直談判される方の要件は大抵『コレ』ですから。ただ、商品は万能ではありませんので悪しからず」
そうしてあっけらかんとした神崎の態度と発言に対し、銃を突き付けていた男は関係スタッフに扮していた変装を解き、素顔を晒して交渉に移るべく名乗って見せる。
「なら、此方も名乗っておこう。私は『コブラ』――キミたちの仕事には随分と手を焼かされた身だ」
そして黒の服装に身体の各種にベルトで様々な装備を付けた所謂「スパイ映画でよく見るヤツ」な恰好に、天を貫かんばかりにそびえ立つリーゼントが特徴の筋骨隆々な大男「コブラ」は棘のある言葉を放った。
「軍人さんでしたか」
「『元』だがね」
神崎の言うように彼、コブラは遊戯王GXにて登場した軍人の経歴を持つ教員の一人であり、過去に特殊部隊にも所属していた凄腕だ。
そして過去の神崎による活動――「(幼少時の)アメルダ何処よ?」作戦により被害を被った人でもある。もけもけ(型パワードスーツ)の大群が原因で、彼の任務遂行が困難になったことは一度や二度ではない。
「おや、退役されていたとは――見事な手腕だと言うのに勿体ない」
「私の個人的な行いに古巣を巻き込む訳にはいかなくてな」
だが、この会場にて未だに騒ぎの一つも起きていない事実を鑑みれば、コブラの侵入は文字通り「誰にも気取られていない」ことの証明である。これだけで、コブラの優秀さが伺えるというもの。
「さて、世間話もこのあたりにして本題に入ろう。私の要求はただ一つ――私の義息子を助けて欲しい」
そうして自己紹介は済んだとばかりにコブラは目的を語る。
その根幹が、戦火の只中で出会い引き取った一人の義息子。コブラが一人身ゆえに寂しい思いをさせてしまっているが、彼の宝物といっても過言ではない存在だ。
「こんなことをすれば息子さんが悲しみますよ――なんて定型文では止まってくれそうにありませんね」
「なんとでも言ってくれて構わない。私は息子を、リックを救う為なら何だってする」
「症状は?」
――『無傷で済んだ』との話だった筈……此方がシモベの視覚情報を確認した時も、目に映る範囲で怪我はなかったと記憶しているが……
やがて「一応」とばかりの説得を速攻で投げた神崎は頑張って情報収集を継続していく。
原作の遊戯王GXでは「コブラの義息子のリックの死亡」によりコブラは失意の中にいたが、宇宙から帰還したユベルの口車に乗り「リックの蘇生」の目的の為に、GXの舞台デュエルアカデミアで非道な行いを始めるのだ。
だが、これは「リックが死亡する原因である交通事故」さえ防げば回避できる為、神崎は解決策としてシモベをリックのボディガードとして配置。
シモベからも「傷一つない」と報告がなされ、問題になりえない部分の筈だった。
何故、神崎本人がしないのか? という疑問に関しては、戦場を渡り歩いたコブラの勘が凄まじ過ぎて、実体を持った身では気取られる為である。
閑話休題。
「肉体的な問題はない。心の問題だ」
だが続いたコブラからの説明が全てを物語っていた。
「あの子は自動車事故に遭ったが、奇跡的に無傷で済んだ――しかし心の方が、そうはいかなかった……」
シモベの報告と視界情報通り、リックの身体は健康そのものだが――
「車を視界に入れるどころか、車のエンジン音や排ガスの匂いにさえ、その身を恐怖で震わせる……」
しかし原作にて「即死するレベルの事故」である以上、そんな出来事を前にした幼い心に恐怖が根付くのは当然のことであろう。神崎が今回の件を甘く見た弊害だった。
――そのパターンか。
「私とて、可能ならば、あの子の傷が癒えるまで傍にずっとついてやりたい……! だが――」
「普段の生活を維持するには金銭が必要になる」
「……そうだ。蓄えなら多少はあるが、それも永遠ではない。そして心の傷は容易くは癒えん――それは重々理解しているつもりだ」
やがて告げられる此度の問題の核の部分「時間とお金」がコブラを凶行に走らせた。
軍属だったコブラからすれば心的外傷を受けた仲間は良く知る者であり、容易い問題ではないことを理解している。
「だが、抜け道がある」
しかしコブラは職業柄知っていた。蛇の道を。
それがKCで医療分野に力を注ぎこんだオカルト課の存在。
その名称通りに「オカルト」の領域に足を踏み込んだ治療法などが噂され、既存医療では手が届かない領域にも介入が可能と評される程だ。
神崎の腰の低さも相まって、色んな人たちから贔屓にされている。
「しかし、オカルト課で治療を受けさせるだけの金も、立場も私にはない」
とはいえ、治療に必要なモノの入手難度から治療費は割高だ。富豪からすればはした金でも、コブラにはそうではない。
「順番待ちの列へ割り込ませることなど以ての外だ」
それに加え、飛びぬけて緊急性が高い話でもない以上、正攻法では叶わぬ願い。実際は、そうでもないが。
「ゆえに強硬手段に出るしかなかった――と」
「今の私たちには時間がないんだ! リックさえ治してくれれば何だってする! 金だって時間さえくれれば用意する! だから頼む! リックを助けてくれ!!」
やがて背後から銃を突きつけながらもコブラは可能な限り誠意を見せる。その言葉に嘘はない。
義息子のリックさえ治してくれれば、文字通り「なんだってする」狂気が彼の中にはある。
「申し訳ありませんが、後払いの類は採用しておりませんので代金は先に徴収させて頂きます」
――強硬手段に出た相手へ立場的に前例を作る訳にはいかないが……
「話を聞いていたのか!? 今の私にそれだけの大金は――」
だが、要求を飲むような発言と共に立ち上がった神崎を警戒し、僅かに距離を取って銃の照準を合わせなおしたコブラだが、神崎は気にすることなく振り返って距離を詰めていく。
「金銭そのものがなくとも、不要なものがあれば買い取らせて頂きますよ」
「いい加減に――」
やがて壁を背にしたコブラが威嚇の意味を込め、肩を狙って発砲するよりも早く神崎は右手を差し出し告げた。
「あるじゃないですか、お金になりそうなものが」
そう、コブラには値千金と言っても過言ではない力がある。
厳しい警備を掻い潜り、誰にも気づかれることなく潜入した腕前が、彼が長き時間を費やしその身に刻んだ技能の数々が。
さぁ、今こそ「あの」言葉を送ろうじゃないか。
「目の前に」
世界の脅威と共に戦おう。
パーティー会場のバルコニーへ向かうべく、夜空の屋根の下で二人の男が並んで歩いていた。
「手間かけさせたな、蛭谷」
「なに、こっちの都合さ。俺も元全米チャンプ様同様に、今のアイツが放っておけなかっただけだ」
その一人である蛭谷は肩をすくめて見せるが、王者の座から降りることとなったキースは己の不甲斐なさを懺悔するように零す。
「……本当は待っているつもりだったんだがな。だが、もう俺もいい年だ。プロの世界は何かと忙しいからよ――騙し騙しやってきたが、もう『落ちるだけ』のとこにまで来てる」
それは、己が再戦を約束したというのに、「引退」という形で約束を破る結果になった件。
それもその筈、プロの世界は華々しさの反面、中々に忙しい世界だ。
それは原作のプロデュエリストのエドが証明してくれている部分である。彼が斎王の目的の為に、アカデミアに入学した際は完全に仕事をオフにするくらいだ。
とはいえ、寄る年波が気になり始めるキースとて、数年程度ならば誤魔化せなくもないだろう。
だが、未だ下位リーグで手間取っている城之内を待つとなると、最悪の場合「再戦を果たせたは良いがベストコンディションとは程遠い」事態になりかねない。
その為、キースは蛭谷の提案に乗り、別の形で再戦の場を設けることにした。
やがて城之内に待っているように指示した場に辿り着いた二人は足を止めるが、彼らの視界に待ち人は見当たらない。
「城之内――城之内? ったく、ここら辺にいるように言ったってのに……」
ゆえに相変わらずの破天荒さに困ったような顔を見せつつ、「飯を取りにでも行ったのだろう」と城之内を捜しに向かおうとした蛭谷だが、とある少年が手紙を差し出す姿がそれを遮った。
「悪いな。少し待っていて――手紙? アンタに、だそうだ」
そして少年から「蛭谷に郵送するように」との言伝と共に、切手代が貼られたキース宛の手紙を受け取った蛭谷は「郵送するまでもない」とキースに直接手渡しつつ、手紙の主を探しに向かうが――
「俺は城之内を捜しに――」
「いや、必要ねぇ」
その歩みは、今度はキースに止められ、出鼻を挫くような出来事の連続に蛭谷は若干苛立ちを見せる。
「……まさか怖気づいたんじゃな――」
「ハハハハハハッハハハハハハ!! アッハッハッハッハ!!」
そして挑発するような言葉を投げかけるが、対するキースは手紙片手に天を仰ぐような姿勢のまま高笑いを上げるばかり。
手紙を渡した少年が戸惑う視線を蛭谷に向けるが、蛭谷も何がなんだか分からぬ状態であり、状況の理解は及んでいない。
いや、それで良いのだろう。
「――振られちまったなぁ、ククク……」
二人にだけ分かれば良いのだ。
今宵の夜空に愉快そうに笑うキースの声が天を貫かんばかりに響くこととなった。
作中では、城之内くんがお酒が嗜める年齢になっている時間軸になります(☆ゝω・)b⌒☆
Q:城之内くん!? 酒に!? 城之内くん!!(アテム感)
A:原作での城之内のデュエルの力量・才を鑑みた結果、今作にてラフェールや、ペガサスミニオンが蔓延る上位リーグに城之内が「短期間」で食い込める未来が見えなかった為です。
どう考えても「他の才ある面々がキースに追いつく方が早い」と判断させて頂きました。
酒に逃げたのは、
Q:城之内は、もう全米チャンプを目指さないの?
A:そもそも今作の城之内は「プロの世界でキースとリベンジがしたかった」だけなので、
「全米チャンプ」の「称号」にさして執着がある訳ではない感じです。
そしてキースがプロを辞したことで実現不可能になり、不完全燃焼ゆえの不満足状態から、
万丈目少年との会合を経て、「自分が道を示す立場になった」と感じ、
「目標を定め直す」ことで、心機一転の再スタートを切った状態になります。
Q:リックの心の傷って? 事故、防いだんだよね?
A:原作にて「即死レベル」の事故との話だったので、怪我がなかった場合でも幼い彼の心がノーリアクションだとは思えなかったゆえです。
また、事故タイミングが不明だった為、神崎が四六時中監視する訳にもいかなかったので、シモベたちが交代で担当しました。
Q:神崎のコブラへの対応、酷くない?
A:テロ紛いのことをした相手の要求を素直に聞くわけにはいかなかった感じです。
Q:いくらリックの為でも、コブラがテロるかな?
A:リックの蘇生の為に、アカデミア中の人間を犠牲にしようとした人だったので、このくらいはすると判断させて貰いました。