マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

230 / 289



前回のあらすじ
開発費1000億円、浮いたわ






第230話 上司の人そこまで考えてないと思うよ

 

 

 天より襲来し、フェニックス氏に憑りついた破滅の光を討ち払ったオカルト課の面々は、諸々の後始末に奔走していた。

 

 そんな中、KCのアメリカ支部にて他の面々からの報告を取りまとめていたアメルダは、己のデスクに近づく一つの影に顔を上げることなく声を投げかける。

 

「コブラか。首尾は?」

 

「問題ない。フェニックス親子をI2社までの移送を完了した――今は一人かねアメルダ? 乃亜へ報告を上げたいのだが」

 

 コブラの言うように、諸々の検査を終えたフェニックス親子はI2社で暫く缶詰にする手筈になっている。DDのような木端な盗人程度ならば、セキュリティのしっかりした仕事場の方が安全だと判断されたゆえだ。

 

 今回の一件により、不用心に出歩くこともないだろう。

 

 とはいえ、破滅の光のような相手の襲来も現段階では未知数な為、警護は引き続き「Dシリーズ」の完成までは続けられるとの注釈はつくが。

 

 だが、その前に乃亜への面通りを願うコブラへ、アメルダは小さく首を振った。

 

「アイツは日本のKC本社に戻って通常業務だ。そもそも頭が現場に出張るものじゃない。報告は僕が受ける」

 

 なにせ、アメルダの言うように神崎が不在の今、乃亜は代理とはいえ、オカルト課の代表である。このまま神崎が帰らなければ、そのまま代表の席に座ることになるレベルの立場だ。

 

 そんな人間を、いつまでも現場の後始末にウロウロさせておく訳にもいかない。

 

「それは失礼した――牛尾の容態は?」

 

「直に目が覚めるだろうとの話だ」

 

「警護の体制はどうなる?」

 

「『Dシリーズ』の完成までは変更なく継続。欠員も直ぐに埋める」

 

「ペガサス会長への説明は?」

 

「それは僕たちの仕事じゃない」

 

「そうか」

 

 そうして淡々と問答を続けていた二人だったが、口を閉ざしたコブラが動かぬ気配にアメルダは書類から顔を上げ――

 

「……なんだ。言いたいことがあるのなら言え」

 

「キミに話すことではない」

 

「神崎なら当分戻らないぞ」

 

 追求をいなしたコブラへ突き付けるようなアメルダの発言に、その表情がほんの僅かに強張った。

 

「……上官を呼び捨てとは感心しないな」

 

「相手の目がある場なら正す程度の分別はあるつもりだ」

 

「…………本当に戻らないのかね?」

 

 その表情の強張りを「無礼」ゆえと誤魔化したコブラが探るように問いかけるが、納得を示したのか書類に目線を戻したアメルダは経験則を述べる。

 

「何を問いただすつもりなのかは知らないが、エドが語っていた牛尾との通信の様子と、連絡が途絶え、未だにコンタクトもない状況を鑑みれば、こういったときは大抵戻らない」

 

「そうか。トップが頻繁にいなくなるとは、独特の職場だな」

 

「違いない――初陣の感想はどうだい?」

 

 そうして、フットワークが軽いどころではない上司の在り方に双方が苦笑を漏らす中のアメルダの問いに、コブラは軽い調子で返すが――

 

「フッ、現場にいなかった私が言うことではないかもしれないが、無事終えられて何よりだよ」

 

「奇遇だな。僕もだ」

 

「……どういう意味かね?」

 

「言葉通りの意味だ。僕も()()を無事遂げられて安心している」

 

 自身よりも先達であるアメルダも「初陣」だったとの発言に、コブラは聞き逃せぬと心を揺らす。それはアメルダの返答を聞いても変わらない。

 

「待て。この実働部隊は昨日今日出来たものではない筈だ。新入り同然の私と、キミが同じ――」

 

「お前の言いたいことは分かる。だが、事実だ。僕たちは今回初めて『化け物』と戦った」

 

 そう、アメルダの言う通り、オカルト課が所謂「科学の外にいる化け物と戦った」のはこれが初めてだった。

 

「……今まではどうしていたんだ。まさか都合良くその手の存在が出現しなかった訳ではあるまい」

 

「お前も想像がついているんじゃないか?」

 

 しかし「そんな筈がない」と追及しようとしたコブラへ、アメルダが先回りするように問い返せば、心当たりと言う名の確信をコブラは神妙な様子で呟く。

 

「…………Brute(ブルート)か」

 

「懐かしい呼び方だな――そう、大抵の問題はアイツが片をつけていた。オーパーツ(光のピラミッド)の所持者、邪念宿りし遺物(千年ロッド)を振るう青年、恐らく他も」

 

 Brute(ブルート)――それは今の「役者(アクター)」という凡そ統一され始めた名を持たぬ頃のとある人物の過去の呼び名の一つ。

 

 デュエルが今程の力を持つ前、武器の類を用いず、己が肉体のみで原始的に戦う姿を「まるで野蛮な獣(Brute)」と相対した人間が称したゆえのものだ。

 

 コブラ自身も前職にて苦い経験をしたことは1度や2度ではない。件のBrute(ブルート)さん(笑)は全く気付いていないだろうが。

 

 そう、オカルト課で基本「危ない相手」はアクターが率先して突貫していた為、アメルダたちにその機会が巡ろう筈がない。

 

「しかし彼は――」

 

「ああ、KCから去った。裏では生存も疑われている状態だ」

 

 だが、言い淀んだコブラの発言を引き継いだアメルダの返答通り、アクターは既にオカルト課にはおらず、死亡説が流れる程に全く音沙汰がないのだ。

 

 アメルダも「引退した」などと希望的観測を語れるような楽天家ではない。幼少時、紛争に見舞われたアメルダからすれば、命の軽さは身に染みて理解している。

 

 そうして、書類をまくる手を止め沈痛な表情を覗かせるアメルダの姿に、コブラは意を決した様子で打ち明けた。

 

「……やはりキミにも話しておこう」

 

 それは早急に解消すべきとコブラが判断した件。

 

「この職場にて先達であるキミには失礼やもしれないが、戦場という場においては軍属であった私の方が秀でているつもりだ」

 

「だろうな。そうでなければ、こうも早く現場に回される訳がない」

 

「なら、早速本題に移ろう――恐らく彼は今回の襲撃を予期していた。それもかなりの高精度で」

 

 やがて見透かしたようなアメルダの声色にコブラが明かしたのは、神崎から「意図的に情報が絞られている」件だった。そしてコブラは沈黙で先を促すアメルダに続ける。

 

「これは戦場へ送り出されたことに対する苦言ではない。純粋に情報を絞られていることに関する忠言だ」

 

 コブラとてリックを救って貰った対価として幾らでも戦う覚悟がある。命じられれば、どんな戦場とて渡り歩こう。

 

 だが、だとしても「リックとの生活」を捨てる気は、己が命を捨てる気はない。

 

「私には守りたい者がいる。生きねばならぬ理由がある。それはキミとて同じだろう?」

 

「元軍属とは思えない言葉だな。『知るべきではない』なんて話は腐る程あるだろうに。あの人の秘密主義についていけないのなら、響のように別の部署に移る旨を伝えれば――」

 

 ゆえに、作戦遂行の可能性を著しく下げかねないレベルの情報統制に苦言を漏らすコブラだが、対するアメルダの反応は冷淡だった。

 

 神崎の秘密主義はアメルダも理解している。しかし「死者の復活以外は大体できるんじゃないか?」と称される次元のオカルト課の技術の扱いに細心の注意を払う必要性も同時に理解している。

 

 それに加えて、神崎は「話せば分かる相手」だ。「嫌だ」と言えば代案を用意し、協議を重ね、無理そうなら諦める――表では理不尽な要求を押し通すことは決してない。

 

 響みどりも今回の一戦で思うところがあったのか、異動の願いを乃亜に提出している。

 

 ゆえに、()()()()()()()はコブラとて理解している筈だった。しかし、そこまで考えたアメルダは納得の表情と共に思わず零す。

 

「ああ、そうか――()()()()()()

 

 そう、そんな日和見な神崎にも例外がある。いや、この場合はむしろ「一般的」とすら言えよう。

 

 それが「罪人」の要求。

 

 当たり前の話だ。犯罪者が「牢から出して」と幾ら叫んだところで頷く阿呆な真似など出来まい。

 

「無言は肯定と取らせて貰う。何をしたかは聞かない」

 

 此処で何も語らぬようになったコブラへ、今度はアメルダが言葉を並べ始めた。

 

 流石にアメルダとて、コブラが牢屋にいるべき罪人だとは思っていない。精々、牛尾のように「過去に()のある人間」であろうとの予想だ。

 

「ただ、お前が『迷える子羊(牛尾と同じ)』なのか、『括られた狼(僕たちと同じ)』なのかは知らないが、現状に甘んじることをお勧めするよ」

 

 そしてアメルダから見た神崎は、そんな相手を重宝する節がある。

 

 罪の意識に苛まれ、贖罪の道を望む()()()()()彼らに神崎は笑顔で告げるのだ――進むべき道は此方だと。世界の為に戦うことこそが、贖罪なのだと。

 

 まるで天から救いを与える神の真似事でもするかのように。

 

「相談する相手を間違えたな――さっきの発言は忘れておくよ」

 

 やがて突き放すような発言と共にアメルダは纏めた書類片手に席を立ち、反応が遅れたゆえか動きを見せないコブラへ、すれ違いざまに言葉を零した。

 

「お前だって、今ある幸福を失いたくないだろう?」

 

「――ッ! 待ってくれ! そう言った話ではないんだ! ただ、任務を確実に遂行する為の土台を強固にしたい! ただ、それだけなんだ! 私は駒として有益さを示さねばならない!!」

 

 だが、「思わず」と言った具合で、通り過ぎていくアメルダの肩を掴んだコブラは縋るようにそう叫んだ。

 

 

 今のコブラも理解している。今回の任務は「自分が破滅の光と戦うこと」を望まれていたのだと。だが、任務の最中では盗人のDDの方が危険性が高いと判断してしまった。

 

 これは、肝心の時に現場にいなかった「大失態」と言えよう。

 

 しかし、これは神崎が情報をキチンと開示していれば簡単に防げた事態でもある。それゆえの上述した「情報の開示請求」なのだ。

 

「確かに、あの人は僕たちのことを駒としか思っていないだろうけど、同時に駒の価値を正しく理解している人だ。駒の損失を憂慮できる人だ――だから、その手のアピールに苦心する必要はないよ」

 

 だが、己の肩を掴んだコブラの手を軽く払いながら、アメルダは自身が知る範囲の情報を並べて見せる。

 

「お前は、()()()()()()()()上級の精霊の鍵を渡されたんだろう?」

 

 下級の精霊の鍵に期待できるのは、使用者の身の安全に大半のリソースを費やしているだけあって、精々オカルト現象に対するかなり丈夫な防弾チョッキ程度だ。

 

 だが、上級の精霊の鍵からは「願いを対価に戦う」段階に入る。

 

 つまり数が限られる貴重な上級の鍵を託される程にコブラは期待されているのだ。世界を滅ぼす相手と殺し合う戦士として。

 

「お前には僕たちと違って、これから幾らでもチャンスが与えられる筈だ」

 

 それはアメルダが幾ら望もうとも与えられないチャンスだ。「どうして?」と神崎へ問えば「ご両親に顔向けできない」と返ってくることだろう。

 

 だが、一線を踏み越えたコブラなら神崎も「気にしない」――自分と同じ側の人間なのだと、悪い意味で肩を並べることになる。

 

「だとすれば、なおのことだ!! そもそも今回の件は一企業の一部署が対処する範囲を大きく逸脱したもの!! なら、もっと組織力のある、それこそ国――」

 

「なら、そいつらは自分の肉体をいじってまで、世界の裏側の紛争を平定してくれるのか?」

 

 とはいえ、コブラの「国家規模で対処すべき問題」との論も一理ある。なにせ相手は世界を脅かす巨悪なのだから――しかし、それでは決して幼少時のアメルダは助からなかった。

 

 そう、アメルダの首に括られた首輪は「恩」。

 

「僕はあの人の在り方を好ましいと思わないし、考え方が正しいとも思わない。僕の家族も他の目的の『ついでに助けられた』だけなことも理解している」

 

 アメルダとて、人道から外れるレベルの肉体改造を施した会社員がもけもけの大群を引き連れて紛争地帯に突っ込む行為が「社会的に正しい行い」だとは考えていない。

 

「だけど、全てが終わった後からしゃしゃり出てきて『ああすれば良かった』『もっと良い方法があった』と口だけで騒ぐ奴らに此処の手綱を任せる気はない」

 

 しかし、あの海馬が神崎の行動を許容していることに、外ならぬ神崎自身が危険地帯に突っ込んで行っていることは無関係ではない。

 

 

 己だけ安全地帯にいることをよしとしない姿勢を知るゆえの黙認。

 

 

 そして、そんな馬鹿げている方法でも、あの時のアメルダたちを救ってくれたのは彼ら(もけもけ’s)だけだったのだ。

 

 その事実を否定すれば、助かった自分たちすら否定することになる。

 

「コブラ、お前は正しいよ。あの人は間違っている――でも間違っているあの人だからこそ、僕たちは救われたんだ」

 

 そう、あの時のアメルダたちはまともな方法では救われなかった。

 

 国家規模の権力も秘密結社ドーマの力に握りつぶされ、支援の手を伸ばそうにも広がる戦火の前には露と消える。

 

 そんな絶望的な中では、あの馬鹿げている集団(もけもけを率いるアホ)だけが唯一の希望だったのだ。

 

 

 その事実がある限り、その時の心を神崎が忘れていない限り、アメルダは彼の歩み(神崎の計画)を遮る真似など、どうして出来ようか。

 

 

 

 

 

 やがてアメルダが立ち去ると共に、一室には何も掴めぬ手を伸ばした傭兵が一人残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わってI2社の内部に急ごしらえな具合で新しく設置された仕事場にて、フェニックス氏は、シンディアに向けて申し訳なさげな様相で謝罪していた。

 

「すみません、シンディア様――I2社にこうも場所を取って頂いた上に、差し入れまで……」

 

 なにせ、自分が担当する「Dシリーズ」に関することで空から宇宙人よろしく襲撃を受け、一騒ぎを起こしたせいで、念の為とはいえ今後の襲撃に備える為に手間を取らせてしまったのだから。

 

 ちなみに、I2社のトップであるペガサスは今回の件の説明やらを受けている為、この場には不在である。

 

「気になさらないで。ペガサスも暫く留まるそうだし――それに、私がいればミニオンの誰かが自然と此処にいられるでしょう?」

 

「お心遣い感謝致します」

 

「父さんの為にありがとうございます」

 

「ふふっ、良いのよ。ペガサスもDシリーズの完成を楽しみにしていたから」

 

 そうしてシンディアの護衛代わりのペガサスミニオンの1人――月行の姿に頼もしさを覚えながら、親子で礼を告げた後、フェニックス氏は仕事に戻ろうとする前に息子のエドについ問うた。

 

「なら、会長のご期待に応えてなくては! あっ――しかしエド。本当に良かったのかい? あのカードを手放してしまって。父さんに気を使っているのなら――」

 

 何処からともなく現れた《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》のカード――エドの手元に収まった1枚だが、破滅の光の撃退後、KCで危険性の有無を調査しているが、エドは既にそのカードを手放すことを告げていた。

 

 その決定を、フェニックス氏が「究極のD」こと《D-(デステニー)HERO(ヒーロー)Bloo-D(ブルーディー)》を「世に放つ」ことをペガサス会長に提示したゆえに、遠慮させてしまったのかと考えるのも無理はない。

 

「ううん、あのカードは父さんを助けてくれた――ボクには、それだけで十分だよ」

 

 だが、エドの本意はそんなところにはなかった。

 

 エドにとって《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》はきっと父を助ける為に駆け付けてくれた文字通りのヒーローなのだ――そんな恩人の1人に、これ以上なにかを望むなど無礼にあたろう。

 

 それに加え――

 

「それにあのカードは融合モンスターでしょ? ならBloo-D(ブルーディー)と一緒にいさせて上げたいんだ」

 

「……そうか。そうだな。きっと、それが良い」

 

 《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》は《D-(デステニー)HERO(ヒーロー)Bloo-D(ブルーディー)》と共にいて最も真価を発揮できるカード。ならば、収まるべき場は一つしかない。

 

 そうして、いつか現れるであろう彼らの相棒たるデュエリストにカードたちを託したエドは、話題を変えるように小さく両手を叩いた後、力強く宣言する。

 

「それより――ボク! もっと強くなりたいんだ! 今度は1人でも父さんを守れるように! どうすれば良いかな!」

 

「ハハ、それは困るな――まだ私の父としての仕事を取らないでおくれ」

 

 それは自身の力不足の問題。あの時の闇のゲームでは破滅の光の言うように、エドは他の3人の足を引っ張っていただけだ。《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》にまで繋いでくれたのは、自分の力ではない。

 

 やがてフェニックス氏は我が子を守る立場()として、息子の心の急成長に複雑な心境を抱きつつ――

 

「とはいえ、暫くはI2社で泊まり込みの仕事漬けだろうから、父さんはエドとデュエルできないし、KCの人も社外警備だからなぁ……父さんの同僚に頼んでみるよ」

 

「なら、良ければ私がお教えしましょうか?」

 

「えっ、いや、お気持ちは嬉しいですが、そこまでお世話になる訳には――」

 

「ア゛ーッ!!」

 

 月行からなされた思わぬ提案を余所に、何処からか変な声が木霊した。

 

「 「 「 ――!? 」 」 」

 

 思わず声の方へと振り向いた一同の視界には、月行と瓜二つの青年――夜行の姿。

 

「大変だ、月行!! アッー! ちょ!? お二人とも髪を引っ張らないでください!?」

 

「――本当にどうした!?」

 

 だが、その夜行は、左右の手でペガサスとシンディアの間に生まれた未だ幼い双子を抱きかかえるも、その幼い2人は縋りつくように夜行の髪を、耳を、頭を引っ張り、何やら大変そうだ。

 

「夜泣きが酷く! ()()()()()()()様子で痛たたたたた――あぁ!! シンディア様! 丁度良かった! お二人の話を纏めるに()()()()()()()()()()()()()()とのことで――ア゛ッー!!」

 

 そして説明を求めた月行の声に、矢継ぎ早に夜行は現状を語るも、その途中で小さな指の目潰しが偶然炸裂したことで叫びを上げる夜行の元へと席を立ったシンディアが――

 

「騒がしくして、ごめんなさいね、フェニックスさん。この子たちは感受性が強いみたいで――さぁ、いらっしゃい」

 

 両手を広げて幼い双子を見やれば、二人は助けを求めるように母の腕の中に迎え入れられた。

 

 

 

 

 やがてシンディアの腕の中で、2人の幼子が眠りにつくまで、この騒がしさは続いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は日本の海馬が擁するKC本社の地下研究所に移る。

 

「《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》……ですか。実に興味深い!」

 

 所狭しと機材が立ち並ぶ中、ツバインシュタイン博士は一際大きなガラスケースの内部で浮かぶ1枚のカードの存在に感嘆の声を漏していた。

 

 それもその筈、このカードは文字通り「無から生まれた」に等しい代物。人類が追い求めるべき未知がそこにはある。

 

「《D-(デステニー)HERO(ヒーロー)Bloo-D(ブルーディー)》の方も含めて特に問題はないようですし、これならI2社に返却も早めに済むでしょうな」

 

 とはいえ、ツバインシュタイン博士も理解しているように、今回はあくまでオカルト的な影響を受けた2枚のカードに対する「危険度の有無の調査」が主題である。

 

 だが様子を見に来た乃亜へチラチラ視線を向けるツバインシュタイン博士が諦めきれない様子で、おずおず尋ねるも――

 

「ところでー、これらのカードはー……その、どうなる予定で? できれば此方で引き取り色々試したいところですが……」

 

「残念だけど、親子揃って『デュエルの舞台に上げて欲しい』とお願いされてしまってね。『カードがそう願っている気がする』って話さ。ロマンチックだろ?」

 

 依頼者であるI2社もといペガサスが「エドたちの要望に沿う」旨を示している以上、下手な真似は出来ない。いや、乃亜の矜持が許さない。

 

 なにせ、彼もデュエリスト――カードが選んだ者の願いに唾吐く真似など、どうして出来ようか。

 

「そこは乃亜様のお力で頑張って勝ち取って頂けませんかな?」

 

「難しいかな――I2社で大々的に使用者を募る話が出ているそうだからね」

 

「大々的に……と言うと?」

 

「さぁ? 詳細は今のところは不明らしい。まぁ、親子の望みを考えれば大会の一つや二つでも開くんじゃないかな」

 

 とはいえ、ツバインシュタイン博士も「デュエリストの矜持」は理解できるが、彼には「世の探究者」としての理念もあるゆえ、名残惜し気に詳細を問うも返答は芳しくない。

 

「そろそろ失礼するよ。神崎がいない今、ボクが此処を仕切らないといけないんだ。これでも忙しい身だから、問題は起こさないでくれよ?」

 

 やがて納得するように肩を落としたツバインシュタイン博士の背をポンと叩いた乃亜は釘を刺しつつ、I2社への連絡も含めた仕事に戻るべく立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして研究室に1人残されたツバインシュタイン博士は、1枚のカードを視界に収めつつポツリと呟く。

 

「我々人間でもなく、精霊でもない――まさに世界より産み落とされたカード」

 

 それは誰かに聞かせるような口調で、そして他ならぬ己に問いかけるように紡がれる。

 

「遊城 十代くんが手にした未知――『ユベル』シリーズ」

 

 それは、ツバインシュタイン博士が初めて観測に成功した無より生じた奇跡の産物のことであり、

 

「エド・フェニックスくんの手に舞い降りた運命――『D-END(ディーエンド)』」

 

 それは、ツバインシュタイン博士が初めて正式に調査した無より生じた運命の産物のことでもあろう。

 

「まさに世界に選ばれしデュエリストによって引き起こされる奇跡と言っても過言ではない」

 

 そして、ツバインシュタイン博士の脳裏には、そんな奇跡の担い手を求めるように優れた才を持つデュエリストを世界中から集める人物の姿が過る。

 

「ハァ、彼の探し人は一体どなたなんですかね……」

 

 やがてため息と共に零れたツバインシュタイン博士の言葉が空気に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間は少々巻き戻り、破滅の光がフェニックス氏に襲来する前、牛尾とエドがお遊びデュエルに興じている頃――

 

 

 最近出番が少なめだった気がする神崎はカードの実体化の力で用意した《光学迷彩アーマー》で姿を消しつつ、地球を背に宇宙に陣取っていた。

 

 オゾンより上で何を馬鹿なことをしているのだろう――と思われるやもしれないが、神崎にも事情がある。

 

 そう、究極のDの完成時期に襲来し、DDを乗っ取りエドの父親を殺害する破滅の光の迎撃を狙っているのだ。

 

 

 そうして、この宇宙に来るまでに発射されていたNEWタイプの衛星兵器ソーラを蹴り落としつつ、カードの実体化の力を利用した《千里眼》による広域サーチで強大な力の波動を探していれば――

 

 

――来たか。

 

 

 

 宇宙より地球に迫る大きな力の気配の接近を把握した神崎は相手の全容を測るべく、お得意のふざけた視力を以て見定めんとする。

 

 

 

「ぁぃ……だ…………じゅ……」

 

 

 

 その視界に映るのは――

 

 

 

 破滅の光らしい白き肉体に、人型でありながらも流線的なフォルム、身体のところどころに入る青と赤のライン。

 

 

 そして胸には心臓部のような球体上のコアが輝く、その姿はまさに――

 

 

 

 

「十代、十代、十代ッ! 十ぅ代ィ!! じゅうだぁぁぁぁあああああぃいいいいいい!!!!」

 

 

 

――破滅の……誰ッ!?

 

 

 

「私は来たよキミの願いを聞きつけ来たんだ私が来たんだ世界を救いに!!!!」

 

 

 

――ネオス!?

 

 

 

 原作の遊戯王GXの二期目に十代の新たなエースとなっていた《E・HERO(エレメンタルヒーロー)ネオス》が禍々しい光のオーラを纏いながら宇宙空間を切り裂くような速度で突き進んでいた。

 

 

 

「今会いに行くよ十ゥ代ィィイイイィ!!」

 

 

 

 その魂の叫びは、果たして彼の者に届くのか。

 

 

 






(ネオス)が来た!! 




Q:なぁにこれぇ

A:年末落下(間に合ってない)



Q:ペガサスJr!? いつの間に!?

A:誕生時期を明確にすると、時間軸のミスが起こりそうで怖かったんや……(おい)

なので、年齢も内緒です。確定した設定は「男女の双子」――今後の出番は難しい立ち位置です。

外見がペガサス似のオラオラ系の姉と、外見がシンディア似のオドオド系の弟――

とのテンプレを考えてみたものの、無理して原作陣営と絡む理由付けが弱かったので出番は……(´;ω;`)ブワッ





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。